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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1290157
審判番号 不服2012-20206  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-15 
確定日 2014-07-22 
事件の表示 特願2002-518226「水性環境中での検体検出」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月14日国際公開、WO2002/12251、平成16年 2月26日国内公表、特表2004-506069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、国際出願日である平成13年8月3日(パリ条約による優先権主張 2000年8月4日 米国)を出願日とする特許出願であって、平成23年7月21日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月23日に手続補正書および意見書が提出されたが、同年6月18日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成24年10月15日に拒絶査定に対する不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月27日付けで前置報告がなされた後、平成25年5月17日付けで当審において審尋がなされ、同年11月20日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明

平成24年10月15日提出の手続補正書による手続補正は、特許請求の範囲についてする補正であって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第4号に掲げる、明りようでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

したがって、本願の請求項1乃至63に係る発明は、平成24年10月15日提出の手続補正書により補正された、特許請求の範囲、並びに、明細書、及び、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?63に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「水性環境中で検体の存在又は濃度を検出できるよう、
a) 該検体の存在又は濃度を検出するため水性環境中において使用するには単独では水への溶解性が充分でない1以上の指示成分モノマー残基;及び
b) 1以上の親水性モノマー残基;
からなるコポリマーを含み、親水性モノマー:指示成分モノマーのモル比が2:1から1000:1である、水性環境中で検体の存在又は濃度を検出するための指示高分子。」

第3.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由1および2は、以下のとおりのものである。

1.
この出願の請求項1,2,6?12,41?44,46に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特表平09-500411号公報に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.
この出願の請求項1,2,6?12,14,15,18?25,27,28,31?38,41?44,46,48?51,53,55,56,58に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特表平09-500411号公報に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.当審の判断

1.
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平9-500411号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載がされている。(下線は、当審による。以下、同様。)

「 実施例2
最適ポリアクリルアミド ヒドラジド ポリフルオレセン重合体の合成
ポリアクリルアミド ヒドラジド重合体(分子量18万、160ヒドラジド/ポリマー)をシグマ・ケミカル社から入手した。このポリマー(50.0mg、2.8×10^(-4)ミリモルのポリマー、4.4×10^(-2)ミリモルのヒドラジド)を、磁気誘導攪拌しながら10.0mLのPBS(pH7.0)に約7時間かけて溶解させた。500μLのDMFに溶解させた

15.2mg(3.3×10^(-2)ミリモル)の5′,6′-カルボキシフルオレセンN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル(モレキュラ・プローブス社から入手)をポリマーの攪拌溶液に添加した。得られた反応溶液を暗所内で室温にて約12時間にわたり攪拌した。
・・・
どの程度多量のフルオレセンが実際にポリマー上に負荷されたかを推定するため、カルボキシフルオレセン重合体およびカルボキシフルオレセン標準(いずれもpH8.0のPBS中に

調製した)につき標準曲線を作成した。これら曲線は、標準およびポリマーの数種の異なる濃度における吸光度(λ=490nm)を測定して作成した。これら曲線の勾配(ε)は単一分子種(例えば遊離クマリンもしくは単一の蛍光性ポリマー)のモル吸光度を示すので、これら勾配の比を用いてポリマーに結合したクマリンの個数を決定した。同一の条件下で、1,459,000モル^(-1)のeをポリマーにつき決定すると共に、36,500モル^(-1)のeを遊離カルボキシフルオレセンにつき決定した。かくして、ポリマーに対するカルボキシフルオレセンの置換は40/ポリマーであると決定された。
蛍光当量もポリマーにつき測定し、これにはポリマーの蛍光発生を遊離フルオレセンの蛍光発生と比較した。ポリマーの蛍光当量は、490nmの励起λおよび520nmの発光λに基づき14カルボキシ フルオレセン/ポリマーであると決定された。」(32頁11行-34頁7行)

(2)刊行物に記載された発明
上記実施例2について、原料であるポリアクリルアミドヒドラジド重合体は、アクリルヒドラジド残基(式量86、160ヒドラジド/ポリマー)、および、アクリルアミド残基(式量71)を繰り返し単位とする分子量18万の重合体であることから、繰り返し単位の総数は概ね2500であり、そのうちアクリルアミド残基は、2340/ポリマー(=2500-160)であり、上記実施例2で得られたポリマーの「ポリマーに対するカルボキシフルオレセンの置換は40/ポリマーである」から、上記実施例2で得られたポリマーは、カルボキシフルオレセンで置換されたアクリルヒドラジド残基(40/ポリマー)、アクリルヒドラジド残基(120ヒドラジド/ポリマー)、および、アクリルアミド残基(2340/ポリマー)を繰り返し単位とする重合体である。

したがって、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「繰り返し単位が、カルボキシフルオレセンで置換されたアクリルヒドラジド残基(40/ポリマー)、アクリルヒドラジド残基(120ヒドラジド/ポリマー)、および、アクリルアミド残基(2340/ポリマー)である分子量18万の重合体。」

(3)対比・判断
引用発明1の「アクリルアミド残基」および「アクリルヒドラジド残基」は、本願発明の「親水性モノマー残基」に相当する。
カルボキシフルオレセンは、蛍光を発することを利用して様々な物質の検出に汎用されている物質であるから、引用発明1の「カルボキシフルオレセンで置換されたアクリルヒドラジド残基」は、本願発明の「1以上の指示成分モノマー残基」に相当する。
引用発明1の「親水性モノマー残基」(「アクリルアミド残基」および「アクリルヒドラジド残基」)は、合計で2460/ポリマーであり、指示成分モノマー残基は、40/ポリマーであるから、引用発明1の重合体は、本願発明の「親水性モノマー:指示成分モノマーのモル比が2:1から1000:1である」を満足する。

したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致している。

「a) 1以上の指示成分モノマー残基;及び
b) 1以上の親水性モノマー残基;
からなるコポリマーを含み、親水性モノマー:指示成分モノマーのモル比が2:1から1000:1である、高分子。」

また、以下の点で相違している。

相違点1
高分子について、本願発明は、「水性環境中で検体の存在又は濃度を検出するための指示高分子」との限定を有するのに対し、引用発明1では、このような限定を有していない点。

相違点2
指示成分モノマー残基について、本願発明は、「該検体の存在又は濃度を検出するため水性環境中において使用するには単独では水への溶解性が充分でない」との限定を有するのに対し、引用発明1では、このような限定を有していない点。

相違点1について
引用発明1の重合体は、繰り返し単位について、全繰り返し単位数が2500/ポリマーであるのに対し、親水性モノマー残基数が2460/ポリマーであるから、明らかに水溶性である。
したがって、水性環境中で検体の存在又は濃度を検出することができるので、本願発明の「水性環境中で検体の存在又は濃度を検出するための指示高分子」を満足する。

相違点2について
カルボキシフルオレセンは、水に溶解しない物質であるから、引用発明1の「カルボキシフルオレセンで置換されたアクリルヒドラジド残基」は、水への溶解性が低いことは明らかであり、本願発明の「該検体の存在又は濃度を検出するため水性環境中において使用するには単独では水への溶解性が充分でない」を満足すると認められる。


したがって、相違点1、2は、いずれも実質的な相違点ではないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

2.
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には以下の事項も記載されている。

(あ)
「1.少なくとも1種の最適化された高蛍光性ポリマーに共有結合した特異性結合肢を含み、前記高蛍光性ポリマーが骨格ポリマーと、この骨格ポリマーに共有結合した蛍光性化合物とからなることを特徴とする高蛍光性接合体。
・・・
3.前記骨格ポリマーがアミン官能性ポリマーの残基を含む請求の範囲第1項に記載の接合体。
4.前記アミン官能性ポリマーが:
(a) -CO-NH-NH_(2)、
(b) -NH_(2)、
(c) -NH-R
[式中、RはC_(1)-C_(3)アルキル、イソプロピル、
-(CH_(2))_(2)CO_(2)^(-)、-(CH_(2))_(2)SO_(3)^(-)、
-(CH_(2))_(2)NH_(3)^(+)、
-(CH_(2))_(2)NH_(2)^(+)(CH2)_(2)SO_(3)^(-)、
-(CH_(2))_(2)O(CH_(2))_(2)O(CH_(2))_(2)OHおよび
-(CHOH)_(4)CH_(2)OHよりなる群から選択される] および
(d)その組合せ
よりなる群から選択されるアミン官能基の残基を有する請求の範囲第3項に記載の接合体。
5.前記アミン官能性ポリマーがポリアクリルアミドヒドラジド、ポリヒドラジド、ポリリシンおよびその組合せよりなる群から選択されるポリマーの残基である請求の範囲第3項に記載の接合体。
6.前記蛍光性化合物がフルオレセン、カスケードブルー、クマリン、テキサスレッド(登録商標)およびフィコエリスリンよりなる群から選択される請求の範囲第1項に記載の接合体。」(2頁2行-3頁1行)
(い)
「技術分野
本発明は、特異性結合分析に有用である蛍光性接合体に関する。より詳細には本発明は、高蛍光性ポリマーに連結した特異性結合肢を含む高蛍光性の水溶性接合体のための組成物および中間体に関するものである。」(9頁3?6行)
(う)
「本発明の接合体は、蛍光を利用して特異性結合現象を検出する各種の用途に使用することができる。この種の用途は限定はしないが画像分析、流れ血球測定、免疫分析、蛍光性細胞染色、
蛍光性顕微鏡観察などを包含する。」(19頁13?16行)

(2)刊行物1に記載された発明
摘示(あ)から、刊行物1には下記の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも1種の最適化された高蛍光性ポリマーに共有結合した特異性結合肢を含み、
前記高蛍光性ポリマーが骨格ポリマーと、この骨格ポリマーに共有結合したフルオレセンとからなり、
前記骨格ポリマーがアミン官能性ポリマーの残基である-CO-NH-NH_(2)を含み、
前記アミン官能性ポリマーがポリアクリルアミドヒドラジドである高蛍光性接合体。」

(3)対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比する。

引用発明2の「骨格ポリマー」は、「アミン官能性ポリマーの残基である-CO-NH-NH_(2)を含み、前記アミン官能性ポリマーがポリアクリルアミドヒドラジドである」から、アクリルアミド残基、および、アクリルヒドラジド残基を含むといえるところ、これらは、本願発明の「親水性モノマー残基」に相当する。
引用発明2の「骨格ポリマー」は、「フルオレセン」が共有結合している残基(以下、「フルオレセンが共有結合している残基」という。)を有することが明らかであるところ、フルオレセンは、蛍光を発することを利用して様々な物質の検出に汎用されている物質であるから、フルオレセンが共有結合している残基は、本願発明の「1以上の指示成分モノマー残基」に相当する。
引用発明2の「高蛍光性接合体」は、骨格ポリマーと、この骨格ポリマーに共有結合したフルオレセンとからなり、前記骨格ポリマーがアミン官能性ポリマーの残基である-CO-NH-NH_(2)を含み、前記アミン官能性ポリマーがポリアクリルアミドヒドラジドであるから、本願発明の「指示高分子」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明2は、以下の点で一致している。

「1以上の指示成分モノマー残基;及び1以上の親水性モノマー残基;からなるコポリマーを含む指示高分子。」

また、下記の点で相違している。

相違点3
指示高分子について、本願発明は、「水性環境中で検体の存在又は濃度を検出するための」との限定を有するのに対し、引用発明2は、このような限定を有していない点。

相違点4
指示成分モノマー残基について、本願発明は、「該検体の存在又は濃度を検出するため水性環境中において使用するには単独では水への溶解性が充分でない」との限定を有するのに対し、引用発明2は、このような限定を有していない点。

相違点5
親水性モノマー:指示成分モノマーのモル比について、本願発明は、「2:1から1000:1である」との限定を有するのに対し、引用発明2は、このような限定を有していない点。

相違点3について
引用発明2の高蛍光性接合体について刊行物1(摘示(い)、(う))には、異性結合分析に有用である蛍光性接合体に関するものであり、より詳細には水溶性接合体のための組成物および中間体に関するものであって、その用途として、流れ血球測定、蛍光性細胞染色、などの、水性環境中で検体の存在又は濃度を検出する用途も記載されていることから、本願発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、「水性環境中で検体の存在又は濃度を検出するための」と限定する程度のことは容易に着想しうると認められる。

相違点4について
フルオレセンは、水に溶解しない物質であるから、引用発明2の骨格ポリマーに含まれているフルオレセンが共有結合している残基は、水への溶解性が低いことは明らかである。
また、該検体の存在又は濃度を検出するため水性環境中において使用することができる程度に単独で水への溶解性が充分にある残基を使用した場合と比較して、当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されているわけでもない。
したがって、「該検体の存在又は濃度を検出するため水性環境中において使用するには単独では水への溶解性が充分でない」との限定する程度のことは当業者であれば容易に着想しうると認められる。

相違点5について
刊行物1(摘示(い)、(う))には、引用発明2について水溶性であることや、流れ血球測定、蛍光性細胞染色、などの明らかに水溶性であることが必要とされる用途が記載されている。
親水性モノマー:指示成分モノマーのモル比に応じて引用発明2の高蛍光性接合体の水溶性が変化することは自明であるから、当業者であれば当該モル比を適宜調整する程度のことは容易に着想しうると認められる。
また、該モル比を2:1から1000:1に限定したことにより格別顕著な効果が奏されているわけでもない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願は、この理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-26 
結審通知日 2014-02-27 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2002-518226(P2002-518226)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米村 耕一  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
発明の名称 水性環境中での検体検出  
代理人 松本 謙  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 星野 修  

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