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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1290265
審判番号 不服2011-1995  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-27 
確定日 2014-07-30 
事件の表示 特願2004-564947「組み合わせ免疫賦活薬」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日国際公開、WO2004/060319、平成18年 4月13日国内公表、特表2006-512391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年12月30日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年9月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月27日に拒絶査定不服審判が請求され、平成25年5月21日付けで拒絶理由が通知され、これに応答し、平成25年11月28日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年11月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
免疫治療が必要な対象に投与するために適当な相乗性免疫賦活医薬組成物であって:(i)TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8及びTLR9の作動薬から成る群から選択される少なくとも1つのToll様受容体(TLR)作動薬、(ii)少なくとも1つのCD40作動薬、及び(iii)薬学上許容可能なキャリアを含み、ここで(i)及び(ii)は、それぞれ、他方との組み合わせにおいて、免疫治療を必要とするヒト対象への投与における対象の抗原に対する免疫応答を相乗的に増大させるために有効な量で含まれることを特徴とする、相乗性免疫賦活医薬組成物。」

3.引用例
(1)当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、European Journal of Immunology, 2001年,Vol.31,No.10,p.3026-3037(以下「引用例」という)には、以下の事項が記載されている(なお、引用例は、英語で記載されているので、訳文で示す。)。

(ア)「CD40リガンド(CD40L)とCpG ODNは、相乗的にPDCを活性化し、IFNαと活性なIL12p70を含むIL12の生産を刺激する」(第3026要約9?11行)

(イ)「PDCへの特有の微生物刺激としてのCpG ODNの利用可能性により、我々は、CpG ODNとCD40リガンド(CD40L)の組み合わせのような適切な刺激により、PDCはTh1サイトカインを大量に作り、IL12依存性Th1応答を導けることを示すことができた。」(3027頁右欄3?8行)

(ウ)「図5(上のパネル)に示されるように、PDCはCpG ODN、IL3、LPS、またはCD40Lのみの存在下では少量のIFNαと全IL12を生産した。CpG ODNとCD40L両方によって、PDCによるIFNαと全IL12の生産に、強い相乗性を示した。(IFN-α: 26,091±8,065pg/ml,p=0.03,n=5;IL-12:6,518±952pg/ml,p=0.0004,n=6」(3029頁左欄下から3行?右欄4行)

(エ)「MDCには発現していなかったが、PDCにはCpG ODNに反応するTLR9が発現していた。」(3032頁右欄2?3行)

(オ)「IFNαとIL12はヒトの免疫システムにおいてTh1応答を促進するために使われる2つの代替的なサイトカインである。」(3033頁左欄下から13?12行)

(カ)「略語:PDC:形質細胞様樹状細胞 MDC:骨髄系樹状細胞、CpGモチーフ:メチル化されていないCGジヌクレオチド: ODN:CpGモチーフを有する合成オリゴヌクレオチド」(3026頁左欄下から4行?末行)

4.引用発明
引用例には、上記「3.」の「引用例」の摘示の記載、特に
CD40リガンドとCpG ODN(メチル化されていないCGジヌクレオチドを有する合成オリゴヌクレオチド)により、相乗的にPDC(形質細胞様樹状細胞)が活性化され、相乗的にIFNαとIL12の生産が刺激されること(摘示(ア)、(ウ)、(カ))、
IFNαとIL12はTh1応答を導くサイトカインであること(摘示(オ))、および、
CD40リガンドとCpG ODNにによりTh1サイトカインであるIL12が作られ、Th1応答を導くこと(摘示(イ))
が記載されている。
そうすると、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「CD40リガンドとCpG ODNを含み、相乗的にPDCを活性化し、IFNαと、IL12の生産を刺激し、Th1応答を導くもの」


5.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(a)CD40リガンドとCpG ODNを含むものは「組成物」であるといえる。
(b)摘示(エ)によれば、引用発明の「CpG ODN」は本願発明の「TLR9の作動薬」に相当する(本願明細書中にも「上記TLR作動薬が、IRM化合物、MALP-2、LPS、ポリIC、CpG、または前述の任意のものの任意の組み合わせを含む」(出願当初の特許請求の範囲の請求項4)、「TLR9は特定のCpGオリゴヌクレオチドに結合する」(【0030】)、「100μgのCpG(+TLR9)」(【0107】)との記載があり、その解釈が裏付けられる。)。そして、TLR9の作動薬が「Toll様受容体(TLR)作動薬」であることも自明である。
(c)引用発明の「CD40リガンド」は、本願発明の「CD40作動薬」に相当することは明らかである。
(d)Th1応答とは、免疫に関与するTh1細胞の活性化を意味し、それが免疫賦活化に相当することは明らかである。そうすると、相乗的にPDCを活性化し、相乗的にTh1応答を導くサイトカインであるIFNαとIL12の生産を刺激して増加させTh1応答を導くことは、相乗性免疫賦活化をしていることに他ならず、そのような相乗性免疫賦活化を導くCpG ODNとCD40リガンド、即ちTLR9の作動薬とCD40作動薬は「相乗性免疫賦活組成物」であるといえる。

そうすると、両発明は、
「(i)TLR9のToll様受容体(TLR)作動薬、(ii)CD40作動薬を含む、相乗性免疫賦活組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
1.本願発明では、「免疫治療が必要な対象に投与するために適当な」、「医薬組成物」であることが特定されているが、引用発明にはそのような特定はない点(以下、「相違点1」という)
2.本願発明では、「薬学上許容可能なキャリアを含」むことが特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定はない点(以下、「相違点2」という)
3.本願発明では、(i)TLR9のToll様受容体(TLR)作動薬及び(ii)CD40作動薬が、組成物中に、「それぞれ、他方との組み合わせにおいて、免疫治療を必要とするヒト対象への投与における対象の抗原に対する免疫応答を相乗的に増大させるために有効な量で含まれている」ことが特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定はない点(以下、「相違点3」という)


6.判断
上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
免疫賦活作用のあるものを、治療が必要な対象に投与するための医薬組成物とすることは、一般的に行われていることである(必要であれば、特表2000-500503号公報の請求項1、2、米国特許出願公開2002/94337号の請求項1、20、国際公開第02/32454号の2頁19行?25行、欧州特許出願公開第1201250号公報請求項1、13参照)。
そうすると、引用発明の免疫賦活作用のある組成物を、治療が必要な対象に投与する医薬組成物とすることに格別の困難性は認められないし、そのことにより予想外の格別の効果が得られているとも認められない。

(相違点2について)
医薬組成物において、有効成分以外に、薬学的に許容可能なキャリアを用いることは、通常行われていることに過ぎず、適宜採り得る態様といえる。そして、そのような態様を採用することにより、予想外の格別な効果が得られているとは認められない。

(相違点3について)
引用発明も、本願発明同様、CD40作動薬とTLR9作動薬が相乗性免疫賦活を行うものであるところ、それらを含有する組成物を医薬組成物として使用する際に、有効成分の量を適宜設定することは当業者が当然に行うことであるし、その量を「それぞれ、他方との組み合わせにおいて、免疫治療を必要とするヒト対象への投与における対象の抗原に対する免疫応答を相乗的に増大させるために有効な量」とすることは適宜行い得たことに過ぎない。
ここで、本願明細書に記載されているデータ(実施例)について検討する。
実施例1は、(A)抗原(卵白アルブミンペプチド)、(B)抗原(卵白アルブミンペプチド)+CD40作動薬(IC10)、(C)抗原(卵白アルブミンペプチド)+TLR作動薬(IRM1)、(D)抗原(卵白アルブミンペプチド)+TLR作動薬(IRM1)+CD40作動薬(IC10)投与による、抗原特異的CD8^(+)T細胞産生を検討したものである。(なお、図1中の4つの図が全て(A)と記載されているのは、(A)?(D)の誤記と認められる。)請求人は、平成25年11月28日付け意見書において、「(D)の右上を見ると、分布の輪郭(及びその内側の影)が見られるのに対し、(A)?(C)においては、そのような輪郭については見られません・・・。すなわち、(D)の右上の輪郭内には無数のプロットが存在する一方、(A)?(C)にはそのようなプロットは存在しないことを意味します。したがいまして、図1に示される分布の状態により、当業者は(D)の場合が相乗的に増加し優れた状態を示していることを十分に認識できるものと思料いたします。」と主張し、他の図面において、輪郭が存在する分布図は輪郭が存在しないものと比べて有意に大きな数値を有している旨も述べている。
しかしながら、(A)?(C)のデータと比較して、(D)の場合が右上区画により多くのプロットが存在することは視覚的に認められるが、それが相加性を超えた「相乗性」を表しているとする十分な根拠は認められない。仮に(D)の結果が相乗性効果を示すものだとしても、引用発明も相乗性免疫賦活を行うものであるところ、その相乗性効果が、引用発明の相乗性効果と比較したときに、本願発明の構成の容易想到性を覆すほどに格別顕著な効果であるとまで言えるとは認められない。

実施例5(図5)は、「抗原+CD40作動薬+TLR3作動薬(ポリIC),TLR4作動薬(LPS),TLR7作動薬(IRM1),TLR9作動薬(CpG)のいずれか」、「抗原+TLR3作動薬(ポリIC),TLR4作動薬(LPS),TLR7作動薬(IRM1),TLR9作動薬(CpG)のいずれか」、「抗原+CD40作動薬」、「抗原」、投与後の抗原特異的CD8^(+)T細胞について検討したものである。そして、図5のデータは相乗性効果を示すものとはなっていない。
これに対し、請求人は、平成25年11月28日付け意見書において、図5について、単純な誤りにより、上半分と下半分を反転させてしまったものであり、そのことは、本願出願後の参考文献1の図4からも明らかである旨述べ、そのことを前提に、本願発明は相乗性を有する主張している。
しかし、図5の上半分と下半分が入れ替わっていたと解したとしても、引用発明ではTLR9作動薬とCD40作動薬によって「相乗性」の免疫賦活を行っているところ、実施例5は、TLR9作動薬を含むTLR作動薬とCD40作動薬による相乗性の免疫賦活効果を確認したに過ぎず、その相乗性効果が、引用発明の相乗性効果と比較したときに、本願発明の構成の容易想到性を覆すほどに格別顕著な効果であると言えるとは認められない。

実施例2(図2)は、「抗原(卵白アルブミン)+CD40作動薬(抗CD40抗体)+TLR7作動薬(IRM1)」投与による、抗原特異的CD8^(+)T細胞、CD44^(+)T細胞数について検討したものである。しかし、対比に必要な「CD40作動薬+抗原」、「TLR7作動薬+抗原」、「抗原のみ」投与のデータはなく、相乗性を検討しうる実施例とはなっていない。
実施例3(図3)は、「CD40作動薬(抗CD40抗体)+TLR7作動薬(IRM1)+抗原(ペプチド)」投与による、抗原特異的CD8^(+)T細胞産生を検討したものである。しかし、対比に必要な「CD40作動薬+抗原」、「TLR7作動薬+抗原」、「抗原のみ」投与のデータがなく、相乗性を検討しうる実施例となっていない。
実施例4(図4)は、0日目に「抗原(卵白アルブミンペプチド)+TLR7作動薬(IRM1)+CD40作動薬(抗CD40抗体)」を投与し、その28日後に「抗原(卵白アルブミンペプチド)」、「抗原(卵白アルブミンペプチド)+TLR7作動薬(IRM1)」を投与し、または、何も投与しない場合におけるデータであるが、対比に必要な、0日目に「抗原のみ」、「抗原+TLR7作動薬」、「抗原+CD40作動薬」を投与した例はなく、相乗性を検討しうる実施例となっていない。
実施例6(図6)は、腫瘍細胞と共に「抗原(卵白アルブミンペプチド)」、「抗原(卵白アルブミンペプチド)+TLR7作動薬(IRM1)」、「抗原(卵白アルブミンペプチド)+TLR7作動薬(IRM1)+CD40作動薬(IC10)」を投与した場合の腫瘍のサイズについてのデータである。しかし、対比に必要な「抗原+CD40作動薬」を投与した例はなく、相乗性を検討しうる実施例となっていないし、そもそも、腫瘍サイズは、免疫応答の程度のみによって決まるものではないため、相乗性を示す根拠データとも考えがたい。
実施例7(図7)は、腫瘍溶解産物(TL)を投与後、「TL」、「TL+CD40作動薬(IC10)」,「TL+TLR7作動薬(IRM1)」、「TL+CD40作動薬(IC10)+TLR7作動薬(IRM1)」を投与した場合の腫瘍サイズのデータであるが、そもそも、腫瘍サイズは免疫応答の程度のみによって決まるものではないため、腫瘍サイズのデータのみでは、「免疫応答」の相乗性は認定できない。
実施例8(図8)は、「抗原(卵白アルブミン)+CD40作動薬(IC10)」または「抗原(卵白アルブミン)+CD40作動薬(IC10)+TLR作動薬(IRM2-5のいずれか)」による、「CD8^(+)T細胞」の%が記載されているが、対比に必要な「抗原+TLR作動薬」、「抗原のみ」のデータは示されておらず、相乗性を検討しうる実施例となっていない。
実施例9(図9)は「抗原(卵白アルブミン)+TLR7作動薬(IRM1)」または「抗原(卵白アルブミン)+TLR7作動薬(IRM1)+CD40作動薬(抗CD40)」を投与したものであるが、対比に必要な「抗原のみ」、「抗原+CD40作動薬」のデータは示されておらず、相乗性を検討しうる実施例となっていない。
実施例10(図10A,図10B),実施例11(図11)は、IFNαβRのノックアウトマウスと野生型のマウスについて、「抗原+CD40作動薬+IFNαβを誘導するタイプのTLR作動薬」または「抗原+CD40作動薬+IFNαβを誘導しないタイプのTLR作動薬」を投与したデータであるが、対比に必要な「抗原+CD40作動薬」、「抗原+TLR作動薬」、「抗原のみ」、を投与したデータはなく、相乗性を検討しうる実施例となっていない。

また、審判請求人は参考資料1?3を提示し、これらの資料には本願発明と同様のデータが示されており、TLR作動薬とCD40作動薬が相乗的に作用することが裏付けられている旨主張している。
しかし、これら文献はいずれも本願優先日後の文献である上に、それら文献に記載されている相乗性効果が、引用発明の相乗性効果と比較したときに、本願発明の構成の容易想到性を覆すほどに格別顕著な効果であると認められるような記載はない。そうすると、「TLR作動薬とCD40作動薬との組み合わせは、免疫応答において相乗的な亢進を示すものであり、そして、かかる驚くべき知見は、引用文献1?4の記載からは全く予測できないことから、補正後の本発明は進歩性を有するものと確信いたしします」という主張は失当で有り、採用出来ない。

よって、本願発明が予想外の相乗効果を奏していると認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-26 
結審通知日 2014-03-04 
審決日 2014-03-18 
出願番号 特願2004-564947(P2004-564947)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 前田 佳与子
増山 淳子
発明の名称 組み合わせ免疫賦活薬  
代理人 福本 積  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 池田 達則  
代理人 青木 篤  
代理人 中島 勝  

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