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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A46D
審判 一部無効 特29条特許要件(新規)  A46D
管理番号 1290304
審判番号 無効2013-800193  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-10-01 
確定日 2014-07-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3981290号発明「回転歯ブラシの製造方法及び製造装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3981290号に係る出願(特願2002-99172号)は、平成14年4月1日に出願され、その特許権の設定登録は平成19年7月6日にされ、その後、請求人株式会社STBヒグチから、富山秀夫を被請求人とする本件無効審判が請求されたものである。
以下、請求以後の経緯を整理して示す。
平成25年10月 1日 審判請求書の提出
同年12月20日 答弁書の提出
同年12月24日 手続補正書の提出(被請求人より)
平成26年 4月 4日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
同年 4月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
同年 4月 9日 手続補正書の提出(請求人より)
同年 4月15日 口頭審理の実施
同年 4月30日 上申書の提出(請求人より)
同年 5月20日 上申書の提出(被請求人より)


第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項2及び3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」、「本件発明3」といい、また、両者を併せて「本件各発明」という。)は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項2及び3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項2】
多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工程と、
この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程と、
開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程と、
溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程とからなる回転ブラシのブラシ単体の製造方法。」
「【請求項3】
多数枚を重ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座と、
素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャックと、
素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズルと、
開かれた素線群を台座に固定する押え体と、
素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機と、
溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段とを備えている回転ブラシのブラシ単体の製造装置。」


第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「特許第3981290号の特許請求の範囲の請求項2及び3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第23号証(枝番号を含む。)を提出するとともに、無効とすべき理由として次の無効理由1A・1B、無効理由2A・2B、無効理由3A・3Bを主張している。
(無効理由1A)
本件発明2は、特許法第29条第1項柱書に規定する「発明」に該当しないから、特許を受けることができないものであり、本件発明2についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(無効理由1B)
本件発明3は、特許法第29条第1項柱書に規定する「発明」に該当しないから、特許を受けることができないものであり、本件発明3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(無効理由2A)
本件発明2は、甲第4号証に記載の発明及び甲第5?11、14?17、19?23号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(無効理由2B)
本件発明3は、甲第4号証に記載の発明及び甲第5?11、14?17、19?23号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(無効理由3A)
本件発明2は、甲第12号証に記載の発明、甲第13号証に記載の発明及び甲第5?11、14?17、19?23号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(無効理由3B)
本件発明3は、甲第12号証に記載の発明、甲第13号証に記載の発明及び甲第5?11、14?17、19?23号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。

[証拠方法]
・甲第1号証:「ナイロン糸束エアー広がりテスト」(請求人従業員作成)
・甲第1号証の2:溶着後の素線群「台座より40mm上からエアーを吹いて溶着したもの」の写真の写し(請求人従業員撮影)
・甲第1号証の3:溶着後の素線群「台座より5mm上からエアーを吹いて溶着したもの」の写真の写し(請求人従業員撮影)
・甲第2号証:「ナイロン糸束広がりテスト エアーなし・振動を加えた場合」(請求人従業員作成)
・甲第3号証:「ナイロン糸束広がりテスト エアーなし・振動なしの場合」(請求人従業員作成)
・甲第4号証:特表平3-503012号公報
・甲第5号証:特開2000-83736号公報
・甲第6号証:特開平3-23808号公報
・甲第7号証:平成13年8月10日付け日刊工業新聞「歯ブラシ ころがすだけで歯垢除去 歯周病の予防にも ナニワが本格販売」なる記事の掲載面の写し
・甲第8号証:特開2001-151418号公報
・甲第9号証:特開平11-116295号公報
・甲第10号証:特開昭59-39662号公報
・甲第11号証:特公平6-53967号公報
・甲第12号証:特開2001-61556号公報
・甲第13号証:特開2001-29137号公報
・甲第14号証:「健康美容EXPO」のウェブページの写し、インターネット<URL:http://news.e-expo.net/news/2006/06/tcdental.html>
・甲第15号証:「ビューティショップビーアライブ本店」のウェブページの写し、インターネット<URL:http://www.bealive21.com/colocolobrashi1.htm>
・甲第15号証の2:「Internet Archive WayBack Machine」のウェブページの写し、インターネット<URL:http://web.archive.org/web/20030201000000*/http://www.bealive21.com/colocolobrashi1.htm>
・甲第16号証:国際公開第99/66815号
・甲第17号証:意匠登録第1066543号公報
・甲第18号証:株式会社TC・Dental「履歴事項全部証明書」の写し
・甲第19号証:特開昭57-25113号公報
・甲第20号証:特開昭63-261686号公報
・甲第21号証:特開平7-29747号公報
・甲第22号証:特開昭59-72919号公報
・甲第23号証:特公平7-20324号公報
なお、上記の甲第6号証は、平成26年4月30日付け上申書において、差し替えて提出されたものである。

2.被請求人の主張
被請求人は、請求人主張の各無効理由はいずれも理由がなく、本件審判の請求は成り立たない旨主張し、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出している。

[証拠方法]
・乙第1号証:無効2011-800265号平成24年9月19付け審決
・乙第2号証:知的財産高等裁判所判決平成25年6月6日平成24年(行ケ)第10365号


第4 当審の判断1(無効理由1A・1Bについて)
1.請求人の主張
審判請求書、平成26年4月9日付け口頭審理陳述要領書及び平成26年4月30日付け上申書によると、請求人の主張する無効理由1A及び無効理由1Bは、より具体的にいえば次の無効理由1ABの1及び無効理由1ABの2のとおりであるので、無効理由1ABの1、無効理由1ABの2について検討することとする。
(1)無効理由1ABの1
本件発明2を特定するために必要な事項である「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」(以下、請求人の付した分説記号に倣い、「特定事項C」という。)及び本件発明3を特定するために必要な事項である「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル」(同じく「特定事項I」という。)という各技術内容が、当業者が反復実施して目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体的・客観的なものとして特定されていないため、本件各発明は発明として未完成であって、特許法第29条第1項柱書に規定する「発明」に該当せず、本件各発明についての特許は無効とされるべきである。
(2)無効理由1ABの2
特定事項C、Iに関し、本件各発明は、特許庁「特許・実用新案審査基準」における「発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの」に該当するので、特許法第29条第1項柱書に規定する「発明」に該当せず、本件各発明についての特許は無効とされるべきである。

2.無効理由1ABの1について
本件特許出願時における特許庁「特許・実用新案審査基準」には、「未完成発明」という区分はないが、最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決において発明未完成についての判示がされていることを踏まえ、請求人の主張に沿って、特定事項C及び特定事項Iの各技術内容が、当業者が反復実施して目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体的・客観的なものとして特定されているか否かについて、以下に検討する。

2-1 本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の記載がある。
記載A:「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、以上のように製作される回転ブラシは、そのブラシ単体の厚みを均一とするには熟練を要し、ブラシ単体の厚みが不均一の場合は回転ブラシの毛足密度が不均一となる。しかも、工程数が多く複雑な工程を要するので、一貫した連続製造が困難で回転歯ブラシの製造コストも高くなる。
【0004】
そこで、本発明は、回転歯ブラシを構成するブラシ単体を高度な熟練を要することなく、しかもできるだけ工程数少なく効率良く製造できるブラシ単体の製造方法とその装置を提供し、ひいては回転歯ブラシを量産化可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の回転歯ブラシの製造方法は、ブラシ単体を多数枚重ねて形成した回転ブラシを柄部材に回転可能に取り付けてなる回転歯ブラシの製造方法であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させ、この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開き、開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着し、溶着された中央部分の中心部を切除してブラシ単体を形成し、
該ブラシ単体を多数枚同一中心に重ね合わせて回転ブラシを形成した後、該回転ブラシを柄部材に取り付ける回転歯ブラシの製造方法である。
そして、本発明にかかる回転ブラシのブラシ単体の製造方法は、多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法であって、多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工程と、この素線群の突出側の中央部にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程と、開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程と、溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程とからなることを特徴とする。
【0006】
以上の方法では、各工程を画一的に処理することが可能となり、高度な熟練を要することなく均一な厚さのブラシ単体の製作を可能とする。素線群をノズルからのエアを用いて放射方向に開くことにより、ブラシ単体を構成する素線同士の重なりがほとんどなくなり、均一な厚さのブラシ単体の製作ができた。ブラシ単体の製作速度を早くした場合にも素線を傷付けるおそれが少なくなり、このため、素線群の開きを高速度で行うことが可能となって、ブラシ単体の高速度による効率良い製造を可能とする。放射方向に開いた素線群の中央部分を溶着後、溶着された中央部分の中心部を切除するので中心部の形状を均一に仕上げることが可能であり、均一なブラシ単体の製造ができる。また、素線群を放射方向に開く工程を、素線群の突出端の中央部にエアを吹き込んで行うことにより、素線群を開くのと中心部を切除するのとを同じ部材で行うことが可能となり、装置の簡素化及び操作系の簡素化を可能とした。そして、これにより回転歯ブラシの均質化及び量産化が可能となった。
【0007】
また、本発明にかかる回転ブラシのブラシ単体の製造装置は、多数枚を重ねて回転ブラシを形成するためのブラシ単体の製造装置であって、多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座と、素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャックと、素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズルと、開かれた素線群を台座に固定する押え体と、素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機と、溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段とを備えている。
【0008】
この装置を用いることにより、本発明の方法を容易に実施できて、所期の目的を達成できる。」

記載B:「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明にかかる回転歯ブラシに使用する回転ブラシのブラシ単体の製造装置を示す一部切り欠いた正面図である。この装置は、例えばナイロン等の熱可塑性樹脂製の素線1aを束状に集合させてなる素線群1を通す挿通孔2aを設けた台座2と、台座2の下部側に上下移動可能に設けられ、素線群1を掴んだり放したりするチャック3を備えている。
【0014】
また、台座2の上方には、前記チャック3により掴まれて、その上動により台座2の挿通孔2aから上方に一定量突出された素線群1の挿通上部端の中央部にエアを吹き込んで素線群1を放射方向に開くノズル4と、開かれた素線群1を台座2上に固定する押え体5と、この押え体5により素線群1を台座2に固定した状態で素線群1の中央部分を溶着する例えば超音波式の溶着機6と、素線群1の溶着部分を少なくとも一部残して中心部を切除する切除手段7とを備えている。
【0015】
前記チャック3は、コンプレッサ40に接続されるエア給排パイプ30が設けられたケーシング31と、その内部に配置され、上下に鍔が付いた筒状のゴムなどの弾性部材32とを備え、前記ケーシング31内にパイプ30からエアを給排して弾性部材32を伸縮させることにより、チャック3の内部に挿通された素線群1を掴んだり放したりする。そして、弾性部材32で素線群1を掴んだ状態でチャック3を上動させることにより、この素線群1を台座2の挿通孔2aから上方に一定量突出させ、また、一定量突出させてノズル4からのエアにより素線群1を放射方向に開き、この開かれた素線群1を前記押え体5で台座2上に固定した後には、素線群1を放してチャック3は元の下方位置に戻る。この構成により、前記チャック3は1台でよく構造を簡素化し、しかも素線群1を台座2の挿通孔2aから外方に突出させるときの作業操作が簡単かつ確実に行える。
【0016】
前記ノズル4は、その中心内部に前記コンプレッサ40に接続される空気通路41が形成され、この空気通路41から前記素線群1の突出端の中央部にエアを吹き込むことにより、素線群1を放射方向に開く。また、このノズル4の外周部を利用して前記切除手段7が一体状に形成される。つまり、ノズル4の先端側を円筒状の突部42に形成し、その先端外周部を焼き入れ処理するなどして、突部42の先端外周部を前記切除手段7とする。この構成により、装置全体の構成が簡素化され、また前記ノズル4と切除手段7の移動操作系も簡素化される。」

記載C:「【0023】
図3?図9は、本発明の製造方法により回転ブラシのブラシ単体を製造するときの各工程を示している。
【0024】
まず、図3のように、前記チャック3のケーシング31内にコンプレッサ40(図1)からエアが供給され、その内部の弾性部材32が内向きに膨脹されることによって素線群1が掴まれ、この後前記チャック3が上動して素線群1は、台座2の挿通孔2aから上方に一定量突出した状態で保持される(第1の工程)。
【0025】
次に、図1の第1フレーム71が第2フレーム72の溝72aに沿って横移動し、第1フレーム71に取り付けたノズル4が台座2の挿通孔2aの真上位置にまで至ったとき、第1フレーム71が第2フレーム72を伴いながら第3フレーム73の溝73aに沿って下動することにより、図4及び図5に示すように、前記ノズル4が押え体5の押え本体51の挿通孔51aの内部へと突入され、前記ノズル4の空気通路41からエアが、前記台座2の挿通孔2aから上方に突出された素線群1の上端中央に吹き込まれて、この素線群1が放射方向に開かれる(第2の工程)。」

記載D:「【0044】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、均一な厚さのブラシ単体の製造を可能とし、しかも高度な熟練を要することなく製造することができるので、量産化を可能とし、しかも素線の重なりを少なくすることができたブラシ単体を高速度で効率良く製造することができ、回転歯ブラシの均質化及び量産化が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる回転ブラシのブラシ単体の製造装置を示す一部切り欠いた正面図である。
【図2】同製造装置の要部を示し、台座の部分を分解して示す斜視図である。
【図3】本発明の製造方法により回転ブラシを製造するときの第1の工程を示す断面図である。
【図4】第2の工程の一部を示す断面図である。
【図5】第2の工程の一部を示す断面図である。
【図6】 ・・・」

2-2 判断
(1)特定事項C、Iの「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」ことの技術内容について
本件明細書には、特定事項C、Iに関し、「ノズル4は、その中心内部に前記コンプレッサ40に接続される空気通路41が形成され、この空気通路41から前記素線群1の突出端の中央部にエアを吹き込むことにより、素線群1を放射方向に開く。」(記載B)、「ノズル4が台座2の挿通孔2aの真上位置にまで至ったとき、第1フレーム71が第2フレーム72を伴いながら第3フレーム73の溝73aに沿って下動することにより、図4及び図5に示すように、前記ノズル4が押え体5の押え本体51の挿通孔51aの内部へと突入され、前記ノズル4の空気通路41からエアが、前記台座2の挿通孔2aから上方に突出された素線群1の上端中央に吹き込まれて、この素線群1が放射方向に開かれる(第2の工程)。」(記載C)等の記載があり、さらに、特定事項C、Iに関する技術効果については、「素線群をノズルからのエアを用いて放射方向に開くことにより、ブラシ単体を構成する素線同士の重なりがほとんどなくなり、均一な厚さのブラシ単体の製作ができた。ブラシ単体の製作速度を早くした場合にも素線を傷付けるおそれが少なくなり、このため、素線群の開きを高速度で行うことが可能となって、ブラシ単体の高速度による効率良い製造を可能とする。」(記載A)なる記載がある。
ここで、本件明細書の「図1は本発明にかかる回転歯ブラシに使用する回転ブラシのブラシ単体の製造装置を示す一部切り欠いた正面図である。この装置は、例えばナイロン等の熱可塑性樹脂製の素線1aを束状に集合させてなる素線群1」(記載B)の記載によれば、本件各発明の「素線」は、その用途ないし材質からみて、柔軟な素線といえるものであり、また、本件各発明の「素線群」は、「台座2の挿通孔2aから上方に一定量突出した状態で保持される」(記載C)のであるから、素線群の一定量突出した部分は、挿通孔2aで拘束され、突出端を自由端として、片持ち状に支持されているものである。
そうすると、特定事項C、Iにおける機序として、素線群の突出端の中央に吹き込まれたエアは、素線群突出端の中央から素線群の内部へと流入しつつ周辺部へと流れ、このようなエアの流れの作用を受けて、各素線も挿通孔2a部分を支点として自由端である突出端側が周辺部へ広がるように湾曲することが、本件明細書の記載及び自然法則から、普通に理解できるところである。また、エアの流入する中心部から周辺部へと広がるように湾曲した各素線は、結果として、素線同士の重なりがほとんどなくなるように分散して放射方向に開くことも物理的に明らかといえる。
以上によれば、「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」ことの技術内容は、「素線群の突出端の中央にエアを吹き込」むことで、素線群の中に流入し周辺部へと流れようとするエアが各素線に対し力学的に作用し、各素線が周辺方向に湾曲することにより、「素線群を放射方向に開く」ことができるものといえるので、本件各発明においては、このような技術内容が、「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」という具体的・客観的なものとして、または「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル」という具体的・客観的なものとして、それぞれ特定されているものといえる。

(2)特定事項C、Iの「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」ことの反復実施性について
上記(1)に示したとおり、また、請求人が「素線群の端部からエアーを吹き込んだ時に素線群が一瞬でも放射状に開くことは甲1?3号証の再現実験に示すように、開示の時期を問わず自明の技術である。」(審判請求書最終頁)と主張するように、「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」ことは物理的に可能な事項である
とはいえ、実際に「ブラシ単体を構成する素線同士の重なりがほとんどなくなり、均一な厚さのブラシ単体の製作する」ことを達成するに当たっては、種々の条件を整える必要があることも技術的に明らかといえるところ、本件明細書及び願書に添付した図面の記載に接した当業者であれば、技術常識を踏まえつつその条件として、エアの吹き込みの強さ、吹き込み時間、吹き込み箇所(突出端中央)の大きさ、エア流の均質性、突出する素線群の寸法、素線群の本数、素線群の材料、素線群の均質性等の諸条件を普通に想定し得るものといえる。
そして、素線同士の重なりを完全とはいわないまでもほとんどなくす程度であれば、エアの吹き込みの強さ、吹き込み時間、吹き込み箇所(突出端中央)の大きさ、エア流の均質性、突出する素線群の寸法、素線群の本数、素線群の材料、素線群の均質性等の諸条件は、当業者が過度の負担なく適宜に定め得るものといえ、そうして定めた諸条件のもと、「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」ことは、一定の反復実施性をもって再現することが可能であるといえる。

反復実施性に関し、審判請求書において請求人は、再現実験1(甲第1号証、甲第1号証の2、甲第1号証の3)に基づき、「エアーの吹付けは実際には、素線束を周囲に散りばめる程度、ないし一度ばらけさせて絡みあいを防ぐ程度の意義しかなく、エアーの吹き付けによって放射方向に開くことは再現性をもって実施することができない」との主張をしている。
しかしながら、この再現実験1は、「台座の下から台座上面より上へ糸束を10mm出す。 糸束材質:ナイロン610 糸束本数:約300本 ・・・ エアー強さ:0.1MPa」(甲第1号証「実験の条件等」欄)という一実験条件に基づく実験にすぎないのであるから、再現実験1において糸束を放射方向に開くことが再現できなかったからといって、本件各発明においても「エアーの吹き付けによって放射方向に開くことは再現性をもって実施することができない」とまではいえない。

2-3 まとめ
したがって、本件各発明の技術内容は、当業者が反復実施して目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体的・客観的なものとして特定されているといえる。

3.無効理由1ABの2について
本件各発明は、特定事項Cまたは特定事項Iを具備することにより、素線同士の重なりをほとんどなくすことが十分に可能なものといえることは、上記「2-2 判断」(1)、(2)において検討したとおりである。
そして、本件各発明は、特定事項C、Iに加え、各発明を特定するための他の事項を具備することにより、「製作される回転ブラシは、そのブラシ単体の厚みを均一とするには熟練を要し、ブラシ単体の厚みが不均一の場合は回転ブラシの毛足密度が不均一とな」(記載A)り、「しかも、工程数が多く複雑な工程を要するので、一貫した連続製造が困難で回転歯ブラシの製造コストも高くなる」(記載A)という従来の課題を解決することができるものである。
よって、本件各発明が、「発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの」に該当するとはいえない。

4.小括
以上のとおり、本件各発明が、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」に該当しないものということはできないので、請求人の主張する無効理由1A、無効理由1Bは、いずれも理由がない。


第5 当審の判断2(無効理由2A・2B、3A・3Bについて)
1.甲各号証の記載事項
(1)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲4ア:「16.流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法であって、
熱溶融性の合成材料製の複数の細長い繊維をあわせてそのタフトを作製し;
前記タフトのフィラメントの近位端を加熱して、タフトの近位端に頭部を形成する熱溶融壁を形成し;
前記タフトの内周部を加熱して、前記頭部からタフトの遠位端に向かってタフト内を実質的に軸方向に延びるかなり可撓性の膜を形成し、その結果、頭部からフィラメントの遠位端の近傍のフィラメントへ前記ブラシを通じて液を送り、流体を加工物に選択的に塗布するための、流体分配チャネルを形成する;
ことからなるブラシ製造方法。
17.さらに、分配チャネルの遠位端における分配チャネル膜に開口を形成することからなり、この開口を通じて流体が分配チャネルからフィラメントの遠位端の近傍のフィラメントに供給可能になり、加工物に選択的に塗布される請求の範囲16項記載のブラシの製造方法。
18.前記の膜形成加熱工程が、加熱されたダイを、タフトの内部にほぼ軸方向に前記頭部を通じて挿入して前記分配チャネルを形成することからなる請求の範囲16項記載のブラシ製造方法。
19.前記の膜形成加熱工程が、さらに、ダイを、タフト内へ前記のように挿入した後、少なくとも一部を冷却できるようにして、少なくとも一部を冷却したダイをタフトの内部から引出すことからなる請求の範囲18項記載のブラシの製造方法。
20.さらに、分配チャネルの遠位端における分配チャネル膜に開口を形成することからなり、その開口を通じて、流体が分配チャネルからフィラメントの遠位点の近傍のフィラメントに供給可能になり、加工物に選択的的に塗布される請求の範囲19項記載のブラシ製造方法。
21.前記の閉口形成工程が、パンチを実質的に軸方向に分配チャネルに挿入し、分配チャネルの遠位端に開口を作製することからなる請求の範囲20項記載のブラシ製造方法。」(第2頁左上欄第20行?左下欄第4行)

甲4イ:「好ましい態様の詳細な説明
この発明は、流動性流体を加工物に選択的に塗布するのに適した改良ブラシと、その製造法に関する。このブラシは、流動性流体の供給物の入ったディスペンサーなどに配設もしくは結合させて、流体を、目的とする表面などに容易に放出して選択的な塗布をすることができよう構成されている場合に、特別な有用性がある。したがってこの発明のブラシは、実施例としてのみ示されるが、ネールエナメルもしくはマスカラのような化粧液を使用者の身体の適切な領域に塗布するのに有利に用いられ、この目的のために、ブラシは、一般に手で把持し使用者が操作できる、流体の入ったディスペンサーの放出末端に取付けられる。それてもなおこのブラシの多数の他の用途が考えられ、特に開示されるかもしくは示唆された用途に限定されない。」(第4頁左下欄第20行?右下欄第8行)

甲4ウ:「この発明のブラシ10の製造法を第4?17図を特に参照して説明する。この第1に開示して説明した方法では、ブラシは、全体が、熱溶融性の合成材料製の細長い複数の繊維もしくはフィラメントで作製され、得られたブラシ全体が例えばナイロンもしくはポリエステルのようなポリマーのような同じ合成材料で一体に構成されている。繊維部は、最初、前記繊維のタフトに組み立てられ、次いで、ホルダー内に配置され、これらの繊維は、その後のブラシ製造工程の間、ホルダー内に保持される。当該技術分野で知られているように、一般に、かような多数の繊維が、パック(puck)などの供給容器内に平行に配列され、その容器から所望の量および/または密度の繊維を引出して所望の断面形状のタフトが形成される。したがって、この発明の方法によってピックアップチューブ40(第5図)が、多数の平行な合成繊維の入ったパック(図示せず)などの中に挿入され、次いでピックアップチューブがパックから引き出されると、パックには繊維のタフトずなわち束42を形成する複数の繊維が入っている。パック内に入っていて、チューブ40の挿入と引出しを繰返すことによって引き出される繊維は、引き出す前に一定長に切断することが好ましいが、または繊維の引出し工程の後で適当な長さに切断してもよい。いずれにしても、タフト42を形成する複数の繊維はすべて、少なくとも以下に述べる繊維の最初の溶融を行う前にはほぼ同じ長さにする。」(第6頁右上欄第7行?左下欄第4行)

甲4エ:「繊維のパックもしくはその外の供給部からチューブ40により引出された後、繊維タフト42が、キャビティの開口端58を通じて型のキャビティ46に挿入される。ピックアップチューブから、この発明の型44のような受容器へのタフトの移動は、例えば、往復運動が可能なピストンを作動させるか、または圧縮もしくは加圧した空気などのような気体を用いて、タフトをチューブから動かすような通常のもしくはその他の適切な方法で行うことができる。
いずれにしろ、ピックアップチューブ40を移動させて型ヘッド48と適切に当接もしくは隣接させ、次いで繊維のタフト42を、キャビティ46内に動かして、繊維部およびタフトの遠位端60をキャビティ底部62に実質的に当接させる。次いでピックアップチューブを型から後退させる(第6図)。第6図と7図に示すように、一定長に切断した細長い繊維部は、最初は、完成したブラシ10の好ましくは比較的厚い外周壁18を形成するのに充分な繊維部の合成材料の体積を与えるよう選択された量でキャビティの開口端58で、型の上面63より上に突出するような寸法が好ましい。」(第6頁右下欄第11行?第7頁左上欄第4行)

甲4オ「ブラシの別の形態およびこの発明の別の方法において、ブラシ10の自由端で底部作動末端は、図に示したもの以外の形態で、種々の形態のものまたは異なる長さの繊維末端16で形成することも考えられる。このために、型44のキャビティの底部62はブラシ末端の所望の最終形態に対応する形態(図示せず)であってもよく、その結果繊維タフト42はピックアップチューブ40から型キャビティ46に放出もしくは動かすと、それぞれの繊維末端6は移動して、形をつけたキャビティ底部62の対応する部分に当接する。」(第7頁右上欄第2?10行)

甲4カ:「第7図と8図に見られるように、ブロック64は、本願で第1に開示されたブラシ製造法で配置されかつ往復運動によって型44の表面63と当接する接触面66と、さらにキャビティ46の壁部52とほぼ一致する断面の大きさを有しこの壁部と一直線上に配設した凹部68とを備えている。したがって加熱されたブロック64が型44のヘッド48と、面と面とが当接して配置されたとき、加熱されたブロック64から比較的低温の型ヘッド48へ熱が移動して伝達され、ブロックの凹所68で囲まれて形成された空間内とヘッド48のキャビティ46の上部の温度はその中に入っている繊維部を溶融させるのに充分な温度まで上昇する。ブロック64と型ヘッド48とのこの熱伝達の当接は、例えば合成材料がナイロンでブロック64の温度が約550?600°Fに保持される場合、約5?10秒間のような選択された期間保持され、次いで加熱されたブロックを後退させると(第9図)、型ヘッド48中の合成材料は溶融されて内周壁52,54,56にそって、ブラシの比較的厚い壁18が形成される。
一方繊維部の下部は、ベース50で囲まれたキャビティ46の部分の中に入っているので、溶融しないで残り、その元の細長いフィラメントの形状を保っている。しかしこれらの溶融せずに相対的に動き易い繊維部は、型ヘッド48内に存在する溶融した合成材料に一体に接続されてそこから垂下し、溶融した合成材料は壁18を形成し、繊維のもとの近位端で形成されている。」(第7頁左下欄第1?最終行)

甲4キ:「ピン70を、まず、型キヤビテイ内に充分挿入された位置に移動させた時、ピン70の温度は、隣接する合成材料を実質的に即座に溶融させるのに充分な温度である。その結果、ブラシ頭部の内面28,30,26がそれぞれ、ベース74、ステップ76およびシャフト72の上部によって、溶融して最終の形態になり、ブラシリム20がピンプラットホームの面78に対して形成され、シャフト72の残りの部分によって、型の底部50内に配置された隣接繊維部でブラシ膜34が形成される。この時点では、膜34で構成される分配チャネル32の下部端すなわち自由端38は閉じられていることに留意しなければならない。」(第8頁右上欄第13?23行)

甲4ク:「膜34を形成しピン70を型から取出してから、パンチ80を型キャビティ内に往復させ、パンチの鋭利な先端82によって、分配チャネルの膜の自由端の放出出口すなわち開口36を切断する(第12図と13図)。開口36は、流体分配チャネル32の底部のほぼ中心にあるのが好ましく、このように中心の開口を設けることは、適切な形態のピンシャフト72によって容易に行われ、パンチによって切断される膜端38に内方ヘテーパーが与えられる。そのテーパーによって、膜34の好ましい可撓性とあいまって、パンチが接触し、膜を切断して開口36を形成するでき、パンチが自動的にセンタリングがなされる。
パンチ80は、とがった先端82で終わる貫通路84を備えたものが有利である。パンチをキャビティ46の中に入れたままで、通路84を通じて、パンチの先端を通じてピストンを動かすかまたは空気のような気体流体を導入して、分離した繊維とパンチ80で切断された膜の部分とをブラシ内から排除する。型44は対応して、例えばその底部50に通気孔86などを備え、その通孔を通じて、前記の破片類がピストンもしくは気体流で排除することができるか、または他の方法で型キヤビテイ内から除去することができる。次いでパンチ80が型から引出され(第14図)、ブラシ10の製造がほぼ完了する。」(第9頁左上欄第10行?右上欄第7行)

続いて、図面を参照しつつ上記の記載について、さらに検討する。
甲4a:摘記事項甲4ウの「パック内に入っていて、チューブ40の挿入と引出しを繰返すことによって引き出される繊維」、摘記事項甲4エの「繊維のパックもしくはその外の供給部からチューブ40により引出された後、繊維タフト42が、キャビティの開口端58を通じて型のキャビティ46に挿入される。ピックアップチューブから、この発明の型44のような受容器へのタフトの移動は、例えば、往復運動が可能なピストンを作動させるか、または圧縮もしくは加圧した空気などのような気体を用いて、タフトをチューブから動かすような通常のもしくはその他の適切な方法で行うことができる。」、摘記事項甲4オの「その結果繊維タフト42はピックアップチューブ40から型キャビティ46に放出もしくは動かす」の各記載並びに第5図及第6図を参照すれば、繊維タフト42はパックから引き出されてチューブ40に保持されること、型44にはキャビティ46が設けられていること、チューブ40に保持された繊維タフト42は型44へ放出されることにより、型44のキャビティ46に挿入されることが把握される。
さらに、摘記事項甲4エの「一定長に切断した細長い繊維部は、最初は、完成したブラシ10の好ましくは比較的厚い外周壁18を形成するのに充分な繊維部の合成材料の体積を与えるよう選択された量でキャビティの開口端58で、型の上面63より上に突出するような寸法が好ましい。」の記載を併せみれば、型44のキャビティ46に挿入された繊維タフト42は、キャビティ46から上に所定量突出していることも把握できる。
よって、摘記事項甲4アの「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法」は、繊維タフト42を型44に設けたキャビティ46から上に所定量突出させる工程を有するものといえる。また、当該工程においては、繊維タフト42を挿入するキャビティ46を設けた型44、及び保持した繊維タフト42を型44へ放出させて、型44のキャビティ46から所定量突出させるチューブ40が、それぞれ使用されるものといえる。

甲4b:摘記事項甲4キの記載及び図10におけるピン70の形状からみて、膜34は、型44に挿入された繊維タフト42の中央部が溶着されて形成されるものと把握できる。
よって、摘記事項甲4アの「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法」は、繊維タフト42の中央部を溶着する工程を有するものといえる。また、当該工程においては、繊維タフト42の中央部を溶着するピン70が使用されるものといえる。

甲4c:摘記事項甲4クの「膜34を形成しピン70を型から取出してから、パンチ80を型キャビティ内に往復させ、パンチの鋭利な先端82によって、分配チャネルの膜の自由端の放出出口すなわち開口36を切断する(第12図と13図)。開口36は、流体分配チャネル32の底部のほぼ中心にあるのが好ましく」の記載によれば、摘記事項甲4アの「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法」は、溶着された中央部のほぼ中心を切断する工程を有するものといえる。また、当該工程において、ピン70により溶着された膜34のほぼ中心を切断するパンチ80が使用されるものといえる。

甲4d:摘記事項甲4アの「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法」に使用される機器として上記甲4a?cで指摘した、型44、チューブ40、ピン70、パンチ80等は、全体として、「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」を製造するための製造装置を成していることは、明らかである。

以上によれば、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明1」という。)が記載されている。
「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法であって、
繊維タフト42を型44に設けたキャビティ46から上に所定量突出させる工程と、
繊維タフト42の中央部を溶着する工程と、
溶着された中央部のほぼ中心を切断する工程とを有する、流動性液体を加工物に選択的に塗布するためのブラシの製造方法。」

また、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明2」という。)が記載されている。
「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造装置であって、
繊維タフト42を挿入するキャビティ46を設けた型44と、
保持した繊維タフト42を型44へ放出させて、型44のキャビティ46から所定量突出させるチューブ40と、
繊維タフト42の中央部を溶着するピン70と
を備えている、流動性液体を加工物に選択的に塗布するためのブラシの製造装置。」

(2)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲5ア:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 中心に軸孔を設けた環状部の外周面から多数本の毛状ブラシ材を半径方向外側へ延出してローラ状としてなる回転ブラシと、この回転ブラシを回転自在に支持する支軸を一端側に突設してなる柄部材とからなる歯ブラシ。
【請求項2】 前記支軸を前記回転ブラシの配置される一側面の両側部から隆起し二股状に突出した左右の延出片間に支持したことを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】 前記柄部材は、前記回転ブラシの配置される一側面からその反対側面に向けて貫通小孔を穿設してなる請求項1項または2項に記載の歯ブラシ。
【請求項4】 ナイロン等の毛状ブラシ材を多数本集合して各一端を加熱溶着することによりこの溶着部分を形成した後、これを曲げて略弧状としたものを1個ないし複数個合せて中心に軸孔を有する環状部の外周面から多数本の毛状ブラシ材が半径方向外側へ延出したローラ状の回転ブラシを形成し、この回転ブラシを柄部材の一端側に突設した支軸に回転自在に支持してなる歯ブラシの製造方法。」

甲5イ:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯に付着したプラークの除去および歯茎のマッサージに好適な歯ブラシおよびその製造方法に関するものである。」

甲5ウ:「【0008】前記回転ブラシ5は、ナイロン等の合成樹脂製繊維からなる毛状ブラシ材6を多数本集合してローラ状に製作される。この製作に際しては、多数の回転ブラシ5を効率的に製造するため、例えば、切断用具、加熱用具、加圧用具および接合用具等を用いる。次に、回転ブラシの製作工程について、図7を参照しつつ説明する。 まず、毛状ブラシ材6を多数本束ね、図7(a)に示すように、エナメル線E等を数回巻いて結束し集合体7を形成する。そして、この集合体7の一端7aを加熱用具で加熱し、図7(b)に示す如く毛状ブラシ材6相互が離れないよう融着して一端7aを半球形にする。この後、集合体7の他端7bを適当な長さにカットし、揃えておく。つぎに、半球形の一端7aを加圧用具で加圧する。この加圧用具は、平行な加圧面を有しており、この加圧面間に挟んだ半球形部分に紙面に垂直方向の圧力を加えると、図7(c)に示すような扇形となり、さらに加圧力を増してゆくと、図7(d)に示すように、半円形となる。
【0009】この半円形状から軸孔となる部分7eを除去したのち、一端7aへの圧力をさらに加えると、円周方向に押し広げられる状態となり、集合体7が図7(e)に示すような略円形となる。この状態で環状となった一端7aの開いた両端7f,7fを溶着その他の手段によって固着して環状部7cを形成する。続いて、このような略円形の集合体7を、図7(f)に示すように、各環状部7cの中心孔7dに細棒Sを通して数個を連結し、環状部7c相互を接着剤により接着する。そして、集合体7を連結した回転ブラシ基材から細棒Sを抜いた後、ドリルの切り先を中心孔7dに通すなどして滑らかな貫通孔を形成しておく。また、この回転ブラシ基材の外周縁である他端7bは、毛状ブラシ材6の長さが不揃いなので、図7(h)に示す如く均等になるようカットして回転ブラシ5を形成する。」

(3)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲6ア:「(1)柄と、
前記柄の軸に対して交差するように配置されたスピンドルと、
前記スピンドルに回転可能に取りつけられた少なくとも一つのブラシホイールと、
ブラシ用の毛と、
歯茎上を回転移動する弾性材で形成されたホイール部材と、
を有し、前記ブラシホイールが離間して配置された一対の端部プレートを有するハブを含み、前記毛は前記一対の端部プレートの間に配置され、かつ前記毛は所定の長さにわたって前記端部プレート間に挟持され、これにより、前記毛が大きくずれることがなくなり毛の先端が歯とうまく接触する歯ブラシ。
(2)前記端部プレートの半径方向の幅が前記毛の長さの半分である特許請求の範囲第1項記載の歯ブラシ。
(3)前記柄が前記スピンドルを支持するための一対の側壁を含む特許請求の範囲第1項記載の歯ブラシ。
(4)前記柄がガードを含み、このガードが傾斜面を有するとともに前記ブラシホイールの円弧に沿って延びる湾曲部を有する特許請求の範囲第1項記載の歯ブラシ。
(5)前記ブラシホイールが2つ設けられ、前記ホイール部材が前記スピンドルに取りつけられるとともに前記2つのブラシホイール間に配置され、前記ホイール部材の面によりブラシホイールの毛が押圧され、歯との接触による前記毛の横方向への変移が抑制される特許請求の範囲第1項記載の歯ブラシ。」(「特許請求の範囲」欄)

甲6イ:「[産業上の利用分野]
この発明は回転可能なブラシを有するタイプの歯ブラシに関する。」(第1頁右下欄第18?20行)

甲6ウ:「図面において、参照番号1は従来の固定式ブラシヘッド2を含む歯ブラシの柄である。柄1の一方の端部1Aにはブラシホイール3が支持されている。側壁4が柄1と一体状に設けられており、これにスピンドルすなわち支持軸5が支持されている。側壁4は柄1の軸Aを含む面に対して直角で、端部1Aから外方に向かって傾斜状に延びるガード6に一体状に続く。湾曲した形状を有するガード7の形状はブラシホイールの外縁の円弧形状とほぼ一致するように設定されている。ガード6の内壁8は外壁9に対して平行ではなく傾斜されている。これにより、ガードの壁厚が薄くなるため、ガードが小型化され、歯ブラシの使用性が向上する。
各ブラシホイール3はスピンドル5に取りつけられたハブ10を含む。また、このブラシホイール3は毛11を含み、この毛11はハブに取りつけられた端部プレート12に挟持された状態で保持される。なお、歯との接触により毛が大きくずれないようにするために、端部プレート12の半径方向の幅は毛の全長の少なくとも半分とするのが望ましい。
ブラシホイール3の間にはホイール部材13が配置されている。このホイール部材13ブラシホイール3よりもやや小径である。ホイール部材13の側壁は、ブラシホイール3の毛11が歯との接触により大きく撓まないようにするための部材として機能する。このホイール部材3は歯を傷めることがなく歯茎に対してマッサージ効果のある弾性材で形成されている。」(第2頁左下欄第17行?第3頁左上欄第6行)

(4)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には写真と共に次の事項が記載されている。
甲7ア:「ナニワ(大阪市天王寺区大道4の10の4、角谷敏夫社長、06・6779・1413)は、ローラ状の回転ブラシを歯にあててころがすだけで歯垢(しこう)を除去する歯ブラシ『コロコロブラシ=写真』の本格販売を始めた。ブラシの先を丸く加工し、歯茎に当てても傷付かないので指圧・マッサージ効果があり、歯周病の予防・改善も期待できる、という。価格は1本3000円。
・・・
コロコロブラシは鉛筆を持つようにして歯や歯茎に当て、軽く横にころがす。従来の歯ブラシのブラシに当たる先端部がローラー状になっており、歯磨き剤を使わなくても回転することで歯垢を取り除く。また、歯茎をマッサージすることで新陳代謝を活発にする効果もある。ブラシ部はナイロン製で、交換時期の目安は6カ月。
日本小児歯科学会・・・」

(5)甲第8号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲8ア:「【要約】
【課題】 撚りのない長繊維からなる扁平な2本の繊維束を、その接合部においても形状の自由度が大きな状態でしかも取扱い性が低下しないように接合する。
【解決手段】 撚りのない長繊維からなる扁平な2本の繊維束Fを、各繊維束Fの端部を重ねた状態で、各繊維束のそれぞれを支承部4と把持部材8とにより、繊維配列方向に所定の間隔をおいて2箇所で押さえる。当該押さえた2箇所の間において各繊維束に対して繊維配列方向と交差する方向の複数箇所に、エア噴射孔24aから圧縮エアを順次噴射して隣接する繊維を交絡させる。両繊維束の端部を重ね合わせる際、前記圧縮エアの噴射側に位置する繊維束を弛ませた状態で圧縮エアを噴射する。」

甲8イ:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は扁平な繊維束及び繊維束の製造方法、繊維束の接合方法並びに繊維束接合装置に関するものである。」

甲8ウ:「【0043】次にエア噴射孔24aからの噴射エアが繊維束Fの重合部の繊維を交絡させる作用を図8(a)?(d)の模式図に従って説明する。なお、図において白丸及び黒丸はそれぞれ繊維束Fを構成する複数本の繊維の集合体を示す。前記のように2本の扁平な繊維束Fの重合部はその両端が把持された状態で、圧縮エアの噴射領域を繊維束Fの幅方向(図8の左右方向)の一端から順に通過する。図8(b),(c)に示すように、重合部の繊維はその間に、開繊作用と回転作用を受け、隣接する繊維同士が交絡する。繊維は1本ずつ交絡されるのではなく、ある程度まとまった単位として交絡される。繊維は噴射気流Aの作用によって両把持部を支点として回転されるため、一端が自由な状態で回転される場合と異なり、交絡された状態においても、繊維は基本的に繊維束Fの長手方向(繊維配列方向)に沿って配列される。」

(6)甲第9号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲9ア:「【要約】
【課題】セメント系無機質材中で繊維束の分散性を向上させ、かつ、セメント系無機質材との接着性に優れたセメント系無機質材補強用炭素繊維およびそれを使った炭素繊維補強セメント系無機質材成形物を提供し、さらに、吹き付け成形時、カットされた繊維束がより小さい繊維束に分離、分散でき、成形物の補強効果が上がり、曲げ強度が向上するセメント系無機質材補強用炭素繊維の製造方法を提供する。」

甲9イ:「【0014】
【発明の実施の形態】本発明の炭素繊維は、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用炭素繊維である。
【0015】本発明の炭素繊維は、モルタルと同時に吹き付け成形する際、繊維の分散性が良くなり、モルタルの補強効果を向上させる。」

甲9ウ:「【0061】該炭素繊維をボビンから引き出し、ダイレクトスプレーガンのローターでガン内に給糸し、カッターで連続的にカットしてポンプで移送されてきたモルタルとのトータル重量比で3%となるように圧縮空気で型枠に吹き付けた。吹き付ける際、繊維束の工程通過性が良好で大きな繊維束はさらに小さな繊維束に分離した。」

(7)甲第10号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲10ア:「2.特許請求の範囲
2本のマルチフイラメント糸条の終端と始端とを結合する糸条の結合装置であつて、互いに所定間隔離隔して設置され前記2本の糸条の重なり合つた端部をそれぞれ挟持可能な一対のクランプ手段と、前記クランプ手段間に設置されクランプ手段間の重なり合つた糸条の端部に圧縮空気を吹き付けることにより各糸条のフイラメント同士を交絡させる交絡手段と、を備えたことを特徴とする糸条の結合装置。
3.発明の詳細な説明
本発明は2本のマルチフイラメント糸条の終端と始端とを結合する糸条の結合装置に関する。」(第1頁左下欄第4?17行)

甲10イ:「次に、駆動機構を再び作動して可動ホルダ9を矢印A方向と逆方向に回動し、クランプ手段10,11を互いに接近させて糸条3,4を弛緩させる。次に、圧縮空気源から供給された圧縮空気を噴出孔27の一端開口から交絡孔26内に噴出し、互いに重なり合つた糸条3,4に吹き当てる。このとき、糸条3,4の張力が低くて弛緩していると、絡合された部分の糸条にループが多数発生するので、このループが発生しないようにプレート29を移動させて重なり合つた糸条3,4に適切な張力を与える。前述のように圧縮空気が糸条3,4に吹き当ると、各糸条3,4はフイラメントに分散するとともにフイラメント同士が互いに絡み合う。これにより、糸条3の始端部5と糸条4の終端部6とが5?15mmの範囲で絡合し、糸条3,4同士が結合される。」(第3頁右上欄第15行?左下欄第12行)

(8)甲第11号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲11ア:「【特許請求の範囲】
【請求項1】スクリュ式押出機で、熱可塑性樹脂、水及び熱可塑性樹脂中に水が分散して行くことを補助する助剤を溶融・混練し、この溶融・混練中に押出機内で形成された繊維状物を、少なくとも1枚のスクリーンメッシュを通過させて、直径200μ以下の極細繊維の多数が略平行状態に集束した形の繊維束を押出機先端のダイから押し出すことを特徴とする極細繊維束の製造方法。
【請求項2】極細繊維束に向かってダイの少なくとも一方向から気体を吹き付けて解繊する特許請求の範囲第1項記載の極細繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、極細繊維束の製造方法に係り、特に紡糸口金(ダイ)から紡糸された段階で既に極細繊維束が得られる極細繊維束の製造方法に関する。」(第1欄第1行?第2欄第1行)

甲11イ:「ダイ2のオリフィス3から押し出された繊維束はそのままで使用してもよいが、好ましくは解繊を行って使用し易くしてもよい。解繊するための装置としては、第3図(a)(b)に示すように、オリフィス3の上下にノズル口6をそれぞれ設け、これらのノズル口6から極細繊維束に向けて上下方向から気体を吹き付けたりするものが例示できる。この場合、ノズル口6の間隔は、0.1?4mm、好ましくは0.2?2mmとする。」(第11欄第1?8行)

甲11ウ:「<解 繊>
このような性状の極細繊維束の解繊を、前記した気体吹き付け装置により極細繊維束に向けて空気を吹き付けて行う場合について説明すると、オリフィス3から出てきた繊維束を空気と共に吹き飛ばすことにより、繊維束は解繊される。この解繊にあたり、絞りオリフィス10を用いると解繊前の後細繊維束は繊維束を構成する単繊維同志において点接着していたり、絡み合っている部分が極めて少なくなるので、解繊が極めて容易である。しかもスクリーンメッシュ5の作用により短繊維状のものを得ることができる。
このことは、粉砕機のような機械的手段によって行うこともできるし、水流吹き付け等の液体を用いる手段による解繊の場合も同様である。
繊維束を解繊することにより、単繊維の状態、或は単繊維相互が絡み合った集合体の形に解繊することができる。また、空気吹き付けによる解繊を行うと、紡糸直後に個々の単繊維の表面に付着していた水分子膜は、蒸発してしまうので、解繊された繊維の集合体は殆ど乾燥した状態となる。
<解繊後の繊維の用途>
解繊後の繊維は、紙おむつの吸水綿への混入用、不織布のバインダ、抄紙用パルプのパインダ等に用いる。
〔発明の効果〕
本発明によれば、略円形断面形状で実質的に不定長な直径200μ以下の熱可塑性樹脂極細繊維の多数が、略平行状態に集束した極細繊維束が、この集束している各極細繊維同志において、部分的に接着している所や、互いに絡み合っている部分が極めて少ない状態で紡糸できる。
従って、極細繊維束の解繊が極めて容易で、とりわけ、気体吹き付けによる解繊が容易に行える。
そして、繊維束は実質的に不定長といっても、スクリーンメッシュ5の選択により繊維束を構成する各繊維の最大繊維長を任意に限定できるため、これを、解繊すればその任意に設定した最大繊維長の短繊維の集合体を得ることができる。」(第13欄第24行?第14欄第10行)

(9)甲第12号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第12号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲12ア:【要約】
【課題】 塗布液の含み量が多いマニキュア等の化粧具用又は筆ペン等の筆記具用等のブラシの製造方法を提供すること。」

甲12イ:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)所定本数の繊維を所望径に収束し、少なくともその外周面に液化した樹脂又はワックス類を付着させたのち乾燥させて、全体が樹脂類で仮固着した長尺繊維束を形成する工程、(b)仮固着された長尺繊維束を所定の寸法に切断する工程、(c)切断した繊維束を固定した状態下で尾端部を熱融着手段により完全固着する工程、(d)尾端部が完全固着した繊維束を上記(a)工程で使用した樹脂類を溶解可能な溶剤中に浸漬し、付着した樹脂類を溶解除去して繊維束の尾端部以外の繊維をほぐす工程、の順次組み合わせからなることを特徴とする化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法。
【請求項2】 (a)工程における所望径に収束する繊維としてクリンプ繊維を使用する請求項1記載のブラシの製造方法。
【請求項3】 (c)工程で複数の繊維束を、型に設けた縦孔に挿入して固定した状態下、該縦孔から突出した尾端部を熱融着手段によって完全固着し鍔を形成させる請求項1記載のブラシの製造方法。」

甲12ウ:「【0010】次に(c)工程では、切断した繊維束を固定した状態下で尾端部を熱融着手段により完全固着する。図5はかかる(c)工程の一例を示すものであり、図5に示すように、型(11)に設けた複数の縦孔(12)に繊維束(1)をその尾端部を上にして挿入することで固定し、該縦孔(12)から突き出した尾端部を熱融着手段、例えば超音波ウエルダー(13)又はヒーター(14)又はバーナー(15)等により加熱して融着すると共に且つ圧力を加えて鍔(16)を形成しながら完全固着する。なお、型(11)には複数の縦孔(12)を設けて複数の繊維束(1)の尾端部を一つの熱融着手段で一度に融着すれば、複数体の尾端部を同時に完全固着できる点で能率的である。
【0011】なお、この(c)工程において、繊維束(1)の後端部の完全固着した鍔(16)から液導入管等を差し込むための穴を設ける必要がある場合には、図6に示すように中空ドリル(17)等によって、又は加熱したパイプ等を押し付けることによって穴明けする工程を増加しても良い。尚、上記の(c)工程におけるヒーター(14)に図7に示すように突起(18)を設けておけば尾端部の融着工程と同時に穴明けもできてより能率的である。」

甲12エ:「【0019】
【実施例】単繊維がPBT樹脂からなる径0.06mmφからなるクリンプ繊維2000本を略平行な所望径に収束し、その外周面に溶剤(エタノール)で溶解したヒドロキシエチルセルロース樹脂を付着させたのち乾燥させて、全体が樹脂で仮固着した長尺繊維束から3cmの寸法に切断し、端部を固定した状態下で尾端部を350℃に加熱したヒーターの熱融着手段により完全固着した鍔を形成させた後、中空ドリルにより液導入管用の穴を開け、これを溶剤エタノール中に浸漬して撹拌し、付着した樹脂と共に中空ドリルにより切り取られた部位を溶解し取り除いて溶剤中から取り出して乾燥した結果、全ての単繊維が抜け落ちることなく尾端部の鍔に完全に固着していることが確かめられた。このブラシをマニキュア化粧具用のブラシとして使用した結果、塗布液の塗布中にブラシ(穂首)から繊維が抜け落ちることもなく、特に繊維間に形成される間隙が大きく塗布液の含み量が多いクリンプ繊維等のブラシとして適していることが確かめられた。」

続いて、図面を参照しつつ上記の記載について、さらに検討する。
甲12a:摘記事項甲12イの「繊維束を、型に設けた縦孔に挿入して固定した状態下、該縦孔から突出した尾端部」、摘記事項12ウの「縦孔(12)に繊維束(1)をその尾端部を上にして挿入することで固定し」の各記載によれば、摘記事項甲12イの「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法」は、繊維束の尾端部を型に設けた縦孔から突出するように、繊維束を縦穴に挿入する工程を有するものといえるし、また、当該工程は、繊維束を挿入する縦孔を設けた型を使用するものといえる。

甲12b:摘記事項甲12イの「繊維束を、型に設けた縦孔に挿入して固定した状態下、該縦孔から突出した尾端部を熱融着手段によって完全固着し鍔を形成させる」、摘記事項甲12ウの「尾端部を熱融着手段、例えば超音波ウエルダー(13)又はヒーター(14)又はバーナー(15)等により加熱して融着する」の各記載によれば、摘記事項甲12イの「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法」は、繊維束を型に固定した状態で繊維束の尾端部を融着して鍔を形成する工程を有するものといえる。また、当該工程は、繊維束を型に固定した状態で繊維束の尾端部を融着する熱融着手段を使用するものである。

甲12c:摘記事項甲12エの「鍔を形成させた後、中空ドリルにより液導入管用の穴を開け、これを溶剤エタノール中に浸漬して撹拌し、付着した樹脂と共に中空ドリルにより切り取られた部位を溶解し取り除いて溶剤中から取り出して乾燥した」の記載及び図6の図示内容からみて、液導入管用の穴は鍔の略中心に開けられていることが、把握できる。
よって、摘記事項甲12イの「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法」は、融着された鍔の略中心に穴を開ける工程を有するものといえる。また、当該工程は、融着された鍔の略中心に穴を開ける中空ドリルを使用するものである。

甲12d:摘記事項甲12イの「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法」に使用される機器として上記甲12a?cで指摘した、型、熱融着手段、中空ドリル等は、全体として、「化粧具又は筆記具等のブラシ」を製造するための製造装置を成しているものといえる。

以上によれば、甲第12号証には、次の発明(以下「甲12発明1」という。)が記載されている。
「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法であって、
繊維束の尾端部を型に設けた縦孔から突出するように、繊維束を縦穴に挿入する工程と、
繊維束を型に固定した状態で繊維束の尾端部を融着して鍔を形成する工程と、
融着された鍔の略中心に穴を開ける工程とを有する化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法。」

また、甲第12号証には、次の発明(以下「甲12発明2」という。)が記載されている。
「化粧具又は筆記具等のブラシの製造装置であって、
繊維束を挿入する縦孔を設けた型と、
繊維束を型に固定した状態で繊維束の尾端部を融着する熱融着手段と、
融着された鍔の略中心に穴を開ける中空ドリルを備えている化粧具又は筆記具等のブラシの製造装置。」

(10)甲第13号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲13ア:「【発明の名称】ブラシおよびその植毛装置ならびに植毛方法」

甲13イ:「【0003】そして、上記構成になる従来の植毛装置は、次のようにして毛束81を歯ブラシハンドル1のヘッド部2の植毛面3に植毛するものであった。すなわち、まず、図13に示すように、毛束供給機構84によって長尺の毛束81をストッパー97に当たるまで毛受部91内へ送り出すと同時に、図14に示すように、平線供給機構96によって薄板状の平線95を補助案内体88の平線挿通孔87内に送り込む。
【0004】次いで、毛受部91内へ送り込まれた毛束81を補助案内体88先端の押圧部85によって挟圧保持し、この状態で毛束切断機構94の回転カッター93によって毛束81を定寸に切断した後、植毛機構82と補助案内体88の全体を歯ブラシハンドル1に向けて下降する。
【0005】さらに、前記植毛機構82と補助案内体88の下降と同時に、植毛針83を針孔86および針ガイド孔90に沿って下方に向けて打ち出す。これによって、植毛針83の先端で平線95を所定長さに切断し、この切断された小片の平線95をそのまま押し出していき、さらにこの平線95によって、定寸に切断された毛束81をその中央部でU字状に折り曲げて二つ折りにしながら、針ガイド孔90内に押し込んでいく。
【0006】そして、植毛機構82の先端が歯ブラシハンドル1のヘッド部2の植毛面3に最も近づいた時点で植毛針83の先端が針ガイド孔90から外部へ飛び出し、定寸に切断された毛束81を小片の平線95で二つ折りにした状態で植毛面3の植毛穴4に打ち込み、図15(a)(b)に示すように植毛するものである。
【0007】以上の動作を、各植毛穴4毎に繰り返すことにより、平線95によって二つ折りにされた毛束81を歯ブラシハンドル1のヘッド部2の植毛面3の各植毛穴4に順次植毛していくものである。」

甲13ウ:「【0010】さらに、前記図13および図14では図示を略したが、通常、平線を打ち込む植毛ガイド92の先端側部には、図17に示すように、植毛ガイド92の植毛動作と同期して毛分け板98を往復揺動する毛分け装置99が設置されており、次の植毛穴4への毛束の打ち込み時に、既に植毛された隣の毛束81を押さえ付けて植毛ガイド92の進退経路から逃がしてやることにより、植毛済みの隣の毛束81が巻き込まれて図18(a)に示すような連結毛81aや、図18(b)に示すようなリング毛81bの発生を防止している。」

以上の記載を総合すれば、甲第13号証には、次の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されている。
「毛束81を歯ブラシハンドル1のヘッド部2の植毛面3に植毛するものであって、
平線95によって二つ折りにされた毛束81を歯ブラシハンドル1のヘッド部2の植毛面3の各植毛穴4に順次植毛していくものであり、
植毛ガイド92の植毛動作と同期して毛分け板98を往復揺動する毛分け装置99が設置されており、次の植毛穴4への毛束の打ち込み時に、既に植毛された隣の毛束81を押さえ付けて植毛ガイド92の進退経路から逃がしてやることにより、植毛済みの隣の毛束81が巻き込まれて連結毛81aやリング毛81bの発生を防止している、
ブラシの植毛装置ならびに植毛方法。」

(11)甲第16号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第16号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲16ア:「技 術 分 野
本発明は、歯に付着したプラークの除去および歯茎のマッサージに好適な歯ブラシおよびその製造方法に関するものである。」(第1頁第5?7行)

甲16イ:「前記回転ブラシ5は、ナイロン等の合成樹脂製繊維からなる毛状ブラシ材6を多数本集合してローラ状に製作される。
この製作に際しては、多数の回転ブラシ5を効率的に製造するため、例えば、切断用具、加熱用具、加圧用具および接合用具等を用いる。
次に、回転ブラシの製作工程について、図7を参照しつつ説明する。 まず、毛状ブラシ材6を多数本束ね、図7(a)に示すように、エナメル線E等を数回巻いて結束し集合体7を形成する。そして、この集合体7の一端7aを加熱用具で加熱し、図7(b)に示す如く毛状ブラシ材6相互が離れないよう融着して一端7aを半球形にする。この後、集合体7の他端7bを適当な長さにカットし、揃えておく。
つぎに、半球形の一端7aを加圧用具で加圧する。この加圧用具は、平行な加圧面を有しており、この加圧面間に挟んだ半球形部分に紙面に垂直方向の圧力を加えると、図7(c)に示すような扇形となり、さらに加圧力を増してゆくと、図7(d)に示すように、半円形となる。
この半円形状から軸孔となる部分7eを除去したのち、一端7aへの圧力をさらに加えると、円周方向に押し広げられる状態となり、集合体7が図7(e)に示すような略円形となる。この状態で環状となった一端7aの開いた両端7f,7fを溶着その他の手段によって固着して環状部7cを形成する。
続いて、このような略円形の集合体7を、図7(f)に示すように、各環状部7cの中心孔7dに細棒Sを通して数個を連結し、環状部7c相互を接着剤により接着する。
そして、集合体7を連結した回転ブラシ基材から細棒Sを抜いた後、ドリルの切り先を中心孔7dに通すなどして滑らかな貫通孔を形成しておく。また、この回転ブラシ基材の外周縁である他端7bは、毛状ブラシ材6の長さが不揃いなので、図7(h)に示す如く均等になるようカットして回転ブラシ5を形成する。」(第3頁最終行?第4頁第24行)

甲16ウ:「1.中心に軸孔を設けた環状部の外周面から多数本の毛状ブラシ材を半径方向外側へ延出してローラ状としてなる回転ブラシと、この回転ブラシを回転自在に支持する支軸を一端側に突設してなる柄部材とからなる歯ブラシ。
2.前記支軸を前記回転ブラシの配置される一側面の両側部から隆起し二股状に突出した左右の延出片間に支持したことを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
3.前記柄部材は、前記回転ブラシの配置される一側面からその反対側面に向けて貫通小孔を穿設してなる請求項1項または2項に記載の歯ブラシ。
4.ナイロン等の毛状ブラシ材を多数本集合して各一端を加熱溶着することによりこの溶着部分を形成した後、これを曲げて略弧状としたものを1個ないし複数個合せて中心に軸孔を有する環状部の外周面から多数本の毛状ブラシ材が半径方向外側へ延出したローラ状の回転ブラシを形成し、この回転ブラシを柄部材の一端側に突設した支軸に回転自在に支持してなる歯ブラシの製造方法。」(第7頁「請求の範囲」欄)

(12)甲第17号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第17号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲17ア:「【意匠に係る物品】歯ブラシ」

甲17イ:「【意匠に係る物品の説明】この物品は把手の先端に、円筒形状のブラシが回転自在に設けられてなる歯ブラシである。」

(13)甲第19号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第19号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲19ア:「2.特許請求の範囲
(1)ジヤケツト部を剥離してシールド線を露出させた状態の同軸ケーブルにおいて、その露出させたシールド線を外方に放射状に拡開し、その放射状に拡開されたシールド線の所定箇所を切断することを特徴とする同軸ケーブルの端末処理方法。
(2)前記シールド線の拡開は、同時ケーブルの端末先端部へ軸方向から流体を噴射させることによつて行なわれる特許請求の範囲(1)項記載の方法。」(第1頁左下欄第4?14行)

甲19イ:「先ず、第3図の右側に示すように、端末処理すべき同軸ケーブル10の端末の所定長さlに亘つて、通常のストリツパー等を用いてジヤケツト部11を切断除去してシールド線12を露出させた状態とする。同軸ケーブル端末処理装置は、エアシリンダ6が不作動状態とされていて、カツタ3は、ノズル-内部誘電体案内-カツタ受け部材4から離れた後退位置にある状態とされている。このような状態の装置に対して、第4図に示すように、シールド線12を露出させた同軸ケーブル10の端末部を、ケーブル案内部2の案内開孔21、カツタ3の開口31へ通していき、ケーブル先端がノズル-内部誘電体案内-カツタ受け部材4の先端の所で止めるようにする。
次に、圧縮空気源の適当な制御弁を制御して、圧縮空気がノズル開口41から吹き出されるようにする。こうすると、第5図に示すように、矢印Aの方向に吹き込まれた圧縮空気がノズル開口41を通して噴射され、この空気噴射によつて、この実施例ではバラ平行線であるシールド線12が内部誘電体13に対して外方へ放射状に吹き分けられる。」(第3頁左下欄第5行?右下欄第6行)

甲19ウ:「本発明によれば、シールド線を露出させた状態の同軸ケーブルを装置へ挿入するだけで非常に簡単にシールド線の切断除去の端末処理を行なえ、しかも、シールド線の切断は、内部誘電体とは分離された状態でシールド線のみをはさみ込むようにしてなされるので、内部誘電体に傷が付けられるというような心配は全くない。」(第4頁右下欄第5?11行)

(14)甲第20号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第20号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲20ア:「2.特許請求の範囲
1)芯線が内側絶縁被覆で覆われた被覆ワイヤの被覆部外周を複数のシールド線で囲んでなるシールドワイヤと、複数の該シールドワイヤを所定間隔を置いて互いに平行に横方向に並んだ状態で一体に被覆保持する外側絶縁被覆とからなるシールドケーブルの端部処理装置であって、
上記外側絶縁被覆が一定長さだけ除去されて上記シールドワイヤが露出された上記シールドケーブルを、この露出されたシールドワイヤを有する部分を前方に突出させて把持するケーブルホールド手段と、
該ケーブルホールド手段により把持されて前方に突出する上記露出されたシールドワイヤを有する部分と対向し、該露出されたシールドワイヤにエアーを吹付けて該シールドワイヤのシールド線を上下に振分けるエアブロー手段と、
該エアブロー手段によって上下に振分けられた上記シールド線を長手方向に揃えるとともに上記ケーブルホールド手段上に折返すワイヤ折曲げ手段と、
該ワイヤ折曲げ手段により上記ケーブルホールド手段上に折返された上記シールド線を切断するワイヤカット手段とからなることを特徴とするシールドケーブルの端部処理装置。
3.発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明は、コンピュータの配線等に用いられるシールドケーブル(リボン同軸ケーブル)に関し、さらに詳しくはこのケーブルをコネクタと接続させるためのケーブル端部の処理装置に関するものである。」(第1頁左下欄第4行?第2頁左上欄第7行)

甲20イ:「(作用)
上記構成の端部処理装置を用いると、ケーブルの端部処理を自動化することが容易であり、また、露出されたシールドワイヤのシールド線はエアブローにより上下に振分けられた後、折返され、このようにして折返されたシールド線が切断除去されてケーブルの端部処理がなされるので、このときに被覆ワイヤおよびドレンワイヤが曲げられたりすることが少なく、シールド線のほぐし残りも少なくなる。」(第3頁右上欄第18行?左下欄第7行)

(15)甲第21号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第21号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲21ア:「【請求項1】 光コードを把持して所定の加工位置に位置決めするアクチュエータと、
前記アクチュエータで位置決めされる光コードに対設される第1および第2、第3、第4の各々4対の機械的切断刃を実装する一対の開閉機構と、
前記開閉機構とは別に位置して一対の熱切断刃を支持する開閉機構と、
前記光コードのケブラを揉みほぐす機構と、
前記光コードのケブラを気体流で放射状に位置決めした後に成形するケブラ整形機構と、
前記第1および第2、第3、第4の機械的切断刃に付着した切断材料を除去するブラシからなる光コードの前処理装置。
・・・
【請求項7】請求項1記載の光コード前処理装置を使用して所定の位置に位置決めされている光コードを、アクチュエータで把持し、次々と位置決めし順次加工を行う光コードの加工方法であって、
前記第1および第2の機械的切断刃に光コードを位置決めし、
前記光コードのビニール被覆を切断除去し、
前記熱切断刃で抗張力体の前記光コードのケブラを溶断し、
前記ケブラの溶断部の溶着部分を機械的に揉みほぐし、
前記ケブラを気体流で放射状に整形し、
前記第3の機械的切断刃でナイロン被覆とプライマリコートを除去し、
第4の機械的切断刃で光ファイバーを切断し、
前記光コードを初期位置に戻して、光コードを解放した後、前記アクチュエータで前記ブラシを把持して、前記第1および第2、第3、第4の機械的切断刃にブラシを挿抜し、該ブラシを所定の位置に戻してブラシを解放した後、前記アクチュエータがホームポジションに戻ることにより、全ての工程を完了することを特徴とする光コードの加工方法。」

甲21イ:「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビニール被覆(PVC)、高張力体のケブラ、ナイロン被覆、プライマリコート、光ファイバーより構成された光コードの端部に、光コード接続用の光コネクタ部品を装着する光コネクタ組立て作業工程において、光コードのビニール被覆・高張力体のケブラ・ナイロン被覆、光ファイバーを、組立状態の光コネクタ形状に対応する任意の長さに切断加工し、さらにケブラを整形するまでの前処理工程と呼ぶ作業を自動化する光コードの前処理装置と加工方法に関する。」

甲21ウ:「【0038】光コード2より所定の寸法に熔断されたケブラ19は、その切断部の一部が熔着状態になっている。ケブラは後工程でストップリングと呼ばれる部品の外周部にカシメられるために、溶着部分をほぐして、かつ、放射状に整形することが要求される。
【0039】このために熔着部に対抗するように左右方向に移動可能に配置する揉みほぐし材21と、前後方向に移動可能に配置する揉みほぐし材22を配置する。ケブラの熔着部は前記の二個の揉みほぐし材で挟み込まれている。
【0040】まず、前後揉みほぐし材22をケブラに位置決めし、その後左右揉みほぐし材21がフゲラを挟んで圧着するように位置決めされ、左右に移動しながらケブラを揉みほぐし分離させる。
【0041】図6はケブラ整形部の構成を示し、図6中、23はケブラ整形部品、24は気体ガイド用チューブである。前工程で揉みほぐしされて分離したケブラ19は、アクチュエータでケブラ整形部に位置決めされる。
【0042】ケブラ整形部はケブラ整形部品23と該ケブラ整形部品23に連結された気体ガイド用チューブ24で構成される。ケブラ19がケブラ整形部品23に位置決めされると、ケブラ整形部品23から連結して気体が流出する。
【0043】ケブラ19をもつ光コード2は、ロート状の吹き出し口を持つケブラ整形部品23のロート状の開口部にアクチュエータで挿入・退出を繰り返すと、ケブラは図6に示すような放射状に整形される。
【0044】このケブラの放射状の整形工程は、光コネクタ自動組立工程の後工程で必要とされる整形作業であり、本前処理モジュールで取り扱う工程とした。以上で述べたように光コード2はアクチュエータとハンド3でビニール被覆剥離、ケブラ切断、ケブラ揉みほぐし、ケブラ整形、ナイロン被覆剥離、光ファイバー切断の各機構部に位置決め加工後、光コードを最初の設置位置に戻す。」

(16)甲第22号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第22号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲22ア:「本発明は横巻きシールド電線の端末処理方法及び装置に関するものである。
シールド電線の端末処理は、電線の最外層の絶縁被覆を剥離し、シールド層を露出させた後、シールド層の巻きをほぐし、内層の信号線と分離し、シールド線のみをまとめ、よじる作業を行うものである。」(第2頁左下欄第4?10行)

甲22イ:「クランプされた電線32の端末のシールド層が露出した部分の元部の上方に、エアー噴出ノズル38が設置されている。・・・エアーホース39を通して噴出ノズル38から圧縮空気を噴出させながらモーター43を回転し、噴出ノズル38を電線32の円周方向左右に約30°揺動すると、電線32の端末は第7図に示すごとく、シールド線33が、信号線31と分離される。」(第3頁右下欄第6?19行)

(17)甲第23号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第23号証には図面と共に次の事項が記載されている。
甲23ア:「【特許請求の範囲】
【請求項1】円軌道に沿って周方向等分点に第1?第6ステーションを順に設置し、その各ステーションと対応する位置に同軸ケーブル1の水平保持手段12を設けてあるターンテーブル11を上記軌道に沿って各ステーションで停止させながら移動させる搬送装置10を設け、さらに、
第1ステーションに、ここでターンテーブル11の水平保持手段12に供給する同軸ケーブル1の位置決め装置30を、
第2ステーションに、同軸ケーブル端の外被及び内被を刃41、42で同時に剥ぎ取ってコアと内被上の撚合わせシールド線を所定長さに露出させる第1皮剥ぎ装置40を、
第3ステーションに、第2ステーション通過後のケーブルの露出コアをコアクランプ52で掴み、エアーノズル53からの噴出エアーで露出シールド線を垂直下向きに振り分け、振り分け後のシールド線を回転チャック54で掴んで一括に撚り合わせるシールド線振り分け装置50を、
第4ステーションに、露出コア余長部を切断刃62で切断すると同時にケーブル軸と直角に閉じる切刃61で露出内被の所定位置に切目を入れ、その切目より前方の内被余長部をケーブル長手方向に進退するチャック63で掴んで引きちぎる第2皮剥ぎ装置60を、
第5ステーションに、露出コアに半田を付着させ、これと平行して一括撚り合わせ後のシールド線をフラックス槽76に浸す第1半田付け装置70を、
第6ステーションに、フラックス付け後のシールド線先端を溶融半田槽81に浸してその線の先端に半田を付着させる第2半田付け装置80を各々設置して成る同軸ケーブルの端末加工装置。
【請求項2】第3ステーションのエアーノズル53を、エアー吹き出しながら露出シールド線上を1往復させるようにした請求項(1)記載の同軸ケーブルの端末加工装置。
【請求項3】第3ステーションの回転チャック54として、上昇点で振り分けシールド線の根元部を緩く掴み、この後、回転しながら、下降してシールド線を集束しつつ撚り合わせるものを用いる請求項(1)又は(2)記載の同軸ケーブルの端末加工装置。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は、同軸ケーブル、中でも曲がり易くて取扱い難い極細同軸ケーブルの皮剥ぎからコア及びシールド線に対する半田付着までの端末加工を一貫して効率良く行うための同軸ケーブル端末加工装置に関する。」(第1欄第1行?第3欄第15行)

2.無効理由2A・2Bについて
2-1 無効理由2Aについて
2-1-1 対比
本件発明2と甲4発明1とを対比する。
(ア)甲4発明1の「繊維タフト42」は、文言の意味、機能又は構造等からみて本件発明2の「多数の素線を束状に集合させてなる素線群」に相当し、以下同様に、「型44」は「台座」に、「キャビティ46」は「挿通孔」に、「上に所定量突出」は「外方に一定量突出」に、「中央部」は「中央部分」に、「ほぼ中心」は「中心部」に、「切断」は「切除」に相当する。
(イ)甲4発明1の「突出させる工程」と本件発明2の「突出させる第1の工程」とは、“突出させる工程”である点で共通する。
(ウ)甲4発明1の「繊維タフト42の中央部を溶着する工程」と本件発明2の「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程」とは、“素線群の中央部分を溶着する工程”である点で共通する。
(エ)甲4発明1の「切断する工程」と本件発明2の「切除する第4の工程」とは、“切除する工程”である点で共通する。
(オ)甲4発明1の「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法」と本件発明2の「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法」とは、“ブラシ状部材の製造方法”である点で共通する。

以上の(ア)?(オ)によれば、本件発明2と甲4発明1の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
ブラシ状部材の製造方法であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる工程と、
素線群の中央部分を溶着する工程と、
溶着された中央部分の中心部を切除する工程とを含むブラシ状部材の製造方法。

(相違点2A-1)
本件発明2では、ブラシ状部材が「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」であるのに対し、甲4発明1では、ブラシ状部材が「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」である点。

(相違点2A-2)
本件発明2が「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」を有しているのに対し、甲4発明1は、このような工程を有していない点。

(相違点2A-3)
溶着する工程に関し、本件発明2が、「エアを吹き込んで」「開かれた素線群を台座に固定した状態で」溶着を行うのに対し、甲4発明1は、「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」を有していないため、「エアを吹き込んで」「開かれた素線群を台座に固定した状態で」溶着を行うものではない点。

2-1-2 判断
(1)相違点2A-1について
請求人は、相違点2A-1に係る本件発明2の特定事項に関し、回転ブラシとその単体は本件特許出願前に周知であった旨主張し、証拠方法として甲第5?7、14?17号証を提出しているので、まず、これらの甲号証について検討する。
a)甲第14号証、甲第15号証及び甲第15号証の2に示される事項は、インターネット上の掲載日から、本件特許出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった事項ではない。
b)甲第7号証及び甲第17号証には、回転ブラシの記載はあるものの回転ブラシを形成するブラシ単体については記載も示唆もない。
c)上記摘記事項甲5ア?甲5ウ、摘記事項甲6ア?甲6ウ、摘記事項甲16ア?甲16ウにおける各記載によれば、“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”として、甲第5号証には「略円形状の集合体7」が、甲第6号証には「ブラシホイール3」が、また、甲第16号証には「略円形状の集合体7」が、それぞれ開示されているものといえる。

他方、甲4発明1の「ブラシ」は、「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」であって、「流動性流体の供給物の入ったディスペンサーなどに配設もしくは結合させて、流体を、目的とする表面などに容易に放出して選択的な塗布をすることができよう構成されている場合に、特別な有用性」(摘記事項甲4イ)を発揮することを目的とするブラシであるところ、甲第4号証には、甲4発明1である「ブラシの製造方法」を歯ブラシの製造に適用する点や回転ブラシのブラシ単体の製造に適用する点については、記載も示唆もない。
そうすると、“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”の製造方法が、本件特許出願前に周知であったとしても、甲4発明1の「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造方法」と当該周知の“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”の製造方法とには、製造されるブラシの形状においても製造されるブラシの使用目的においても何らの共通点がないのであるから、甲第5号証、甲第6号証、甲第16号証の記載に接した「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」に関する技術分野の当業者が、甲4発明1の「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」を“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”に変更しようとする動機付けはない。
また、甲4発明1の「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」を“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”に変更することを動機付ける点は、甲第5?7、14?17号証のいずれにも記載はなく、さらにこの変更が、本件特許出願前に技術常識であったする根拠も、設計的事項であったとする根拠も見当たらない。

よって、甲4発明1において、「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」に代えて、「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(2)相違点2A-2について
請求人は、相違点2A-2に係る本件発明2の特定事項に関し、素線群の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く事項は、本件特許出願前に周知であった旨主張し、証拠方法として甲第8?11、19?23号証を提出しているので、まず、これらの甲号証について検討する。
a)上記摘記事項甲8ア?甲8ウ、甲10ア?甲10イの記載によれば、甲第8号証、甲第10号証には、繊維束を交絡させるため、繊維束にノズルによりエアを吹き込む事項が開示されている。なお、甲第8号証、甲第10号証には、繊維束の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込むことは、記載されていない。
b)上記摘記事項甲9ア?甲9ウの記載によれば、大きな繊維束をさらに小さな繊維束に分離し、モルタルの補強効果を向上させるために、繊維束にノズルによりエアを吹き込む事項が開示されている。なお、甲第9号証には、繊維束の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込むこと、また、繊維束を放射方向に開くことは、いずれも記載されていない。
c)上記摘記事項甲11ア?甲11ウの記載によれば、繊維束を、単繊維の状態、或は単繊維相互が絡み合った集合体の形に解繊するために、繊維束にノズルによりエアを吹き込む事項が開示されている。なお、甲第11号証には、繊維束の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込むこと、また、繊維束を放射方向に開くことは、記載されていない。
d)上記摘記事項甲19ア?甲19ウ、甲20ア?甲20イの記載によれば、甲第19号証、甲第20号証には、同軸ケーブルのシールド線の切断除去を行うために、シールド線の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込んでシールド線を放射方向に開く事項が開示されている。また、このシールド線は、“素線群”といい得るものである。
e)上記摘記事項甲21ア?甲21ウの記載によれば、甲第21号証には、後工程でストップリングの外周部にケブラがカシメられるために、光コードのケブラの突出端の中央にノズルによりエアを吹き込んでケブラを放射方向に開く事項が開示されている。また、このケブラは、“素線群”といい得るものである。
f)上記摘記事項甲22ア?甲22ウ、甲23ア?甲23イの記載によれば、甲第22号証、甲第23号証には、シールド線を撚るために、シールド電線のシールド線にノズルによりエアを吹き込む事項が開示されている。なお、甲第22号証、甲第23号証には、繊維束の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込むこと、また、繊維束を放射方向に開くことは、いずれも記載されていない。
g)以上によれば、甲第8?11、22?23号証は、「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」事項を開示するものではないが、少なくとも、甲第19、20、21号証によると、“同軸ケーブルのシールド線の切断除去を行うために、又はストップリングの外周部にケブラがカシメられるために、シールド線又はケブラである素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで当該素線群を放射方向に開くこと”は、本件特許出願前において周知の技術であったものといえる。

他方、甲第4号証には、甲4発明1において「繊維タフト42の中央部を溶着する」に当たり、繊維タフト42の突出端の中央にエアを吹き込んで繊維タフト42を放射方向に開く点に関し、記載も示唆もない。
さらに、上記摘記事項甲4キの「ピン70を、まず、型キヤビテイ内に充分挿入された位置に移動させた時、ピン70の温度は、隣接する合成材料を実質的に即座に溶融させるのに充分な温度である。その結果、・・・シャフト72の残りの部分によって、型の底部50内に配置された隣接繊維部でブラシ膜34が形成される。」の記載からみて、ピン70のシャフト72の周囲にブラシ膜34を形成するためには、ピン70のシャフト72の周囲に、溶着されて膜となる繊維同士が隣接していることが必要であるから、甲4発明1において、「繊維タフト42の中央部を溶着する」前の段階で、繊維タフト42の突出端の中央にエアを吹き込んで繊維タフト42を放射方向に予め開いておくことには、むしろ阻害要因があるものといえる。
そうすると、甲4発明1には、繊維タフト42の中央部を溶着する際に、予め繊維タフト42を開いてから融着しようとする技術課題が存在しないだけでなく、繊維タフト42を放射方向に予め開いておくことには阻害要因があることから、仮に、“素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くこと”が、技術分野を問わない周知技術であったとしても、甲4発明1に対し斯かる周知技術を適用すべき動機付けはない。
なお、付言すれば、甲4発明1は「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造」に係る発明であって、甲4発明1においては、繊維束を交絡させること、モルタルの補強効果を向上させること、繊維束を単繊維の状態或は単繊維相互が絡み合った集合体の形に解繊すること、シールド線の切断除去を行うこと、ストップリングの外周部にケブラがカシメられること、シールド線を撚ること等の必要性もやはり生じ得ないのであるから、甲第8?11、19?23号証の記載に接した当業者が、甲4発明1に対してこれらの甲号証に記載された事項を適用すべき動機付けもない。

よって、甲4発明1において、「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシを製造」するに当たり、「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」事項を追加することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

2-1-3 まとめ
以上によれば、相違点2A-3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、無効理由2Aに関し、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、本件発明2に係る特許についての無効理由2Aは理由がない。

2-2 無効理由2Bについて
2-2-1 対比
上記「2-1-1 対比」における(ア)?(オ)の検討を踏まえつつ、本件発明3と甲4発明2とを対比する。
(カ)甲4発明2の「ピン70」は、本件発明3の「溶着機」に相当する。
(キ)甲4発明2の「保持した繊維タフト42を型44へ放出させて、型44のキャビティ46から所定量突出させるチューブ40」は、“素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させるチャック”である点で、本件発明3の「素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック」と共通する。
(ク)甲4発明2の「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシの製造装置」と本件発明3の「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造装置」とは、“ブラシ状部材の製造装置”である点で共通する。

以上の(ア)?(ク)によれば、本件発明3と甲4発明2の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
ブラシ状部材の製造装置であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座と、
素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させるチャックと、
素線群の中央部分を溶着する溶着機と、
溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段とを備えているブラシ状部材の製造装置。

(相違点2B-1)
本件発明3では、ブラシ状部材が「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」であるのに対し、甲4発明2では、ブラシ状部材が「流動性液体を加工物に塗布するのに適したブラシ」である点。

(相違点2B-2)
本件発明3が「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル」を備えているのに対し、甲4発明2は、このようなノズルを備えていない点。

(相違点2B-3)
本件発明3のチャックが、「素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック」であるのに対し、甲4発明2のチャックは、掴んだ素線群を放出して台座の挿通孔から一定量突出させるチャックであって、「素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック」ではない点。

(相違点2B-4)
本件発明3が、「開かれた素線群を台座に固定する押え体」を備え、「溶着機」が「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する」のに対し、甲4発明2は、「開かれた素線群を台座に固定する押え体」を備えておらず、そのため、溶着機が「素線群を台座に固定した状態で」溶着を行うものでもない点。

2-2-2 判断
相違点2B-1、2B-2について検討するに、相違点2B-1、2B-2は、それぞれ上記相違点2A-1、2A-2と実質的に差違のないものである。
そうすると、上記「2-1-2 判断」で示した理由と同様の理由により、相違点2B-1、2B-2における本件発明3に係る特定事項は、当業者が甲4発明2及び周知技術に基づいて容易に想到し得た事項とはいえない。

2-2-3 まとめ
以上によれば、相違点2B-3、2B-4について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、無効理由2Bに関し、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、本件発明3に係る特許についての無効理由2Bは理由がない。

3.無効理由3A・3Bについて
3-1 無効理由3Aについて
3-1-1 対比
本件発明2と甲12発明1とを対比する。
(サ)甲12発明1の「繊維束」は、文言の意味、機能又は構造等からみて本件発明2の「多数の素線を束状に集合させてなる素線群」に相当し、以下同様に、「型」は「台座」に、「縦孔」は「挿通孔」に、「融着」は「溶着」に、「略中心」は「中心部」に、「孔を開ける」は「切除する」に相当する。
(シ)甲12発明1において、「繊維束の尾端部」は「挿入する工程」の結果、「型に設けた縦孔から突出する」のであるから、この「挿入する工程」は、繊維束を、尾端部の長さに対応する一定量だけ縦孔から外へ突出させる工程といえる。
よって、甲12発明1の「繊維束の尾端部を型に設けた縦孔から突出するように、繊維束を縦穴に挿入する工程」と本件発明2の「多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる第1の工程」とは、“多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる工程”である点で共通する。
(ス)甲12発明1の「繊維束を型に固定した状態で繊維束の尾端部を融着して鍔を形成する工程」と本件発明2の「開かれた素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する第3の工程」とは、“素線群を台座に固定した状態で素線群の所定部分を溶着する工程”である点で共通する。
(セ)甲12発明1の「融着された鍔の略中心に穴を開ける工程」と本件発明2の「溶着された中央部分の中心部を切除する第4の工程」とは、“溶着された所定部分の中心部を切除する工程”である点で共通する。
(ソ)甲12発明1の「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法」と本件発明2の「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造方法」とは、“ブラシ状部材の製造方法”である点で共通する。

以上の(サ)?(ソ)によれば、本件発明2と甲12発明1の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
ブラシ状部材の製造方法であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を台座に設けた挿通孔から外方に一定量突出させる工程と、
素線群を台座に固定した状態で素線群の所定部分を溶着する工程と、
溶着された所定部分の中心部を切除する工程とを含むブラシ状部材の製造方法。

(相違点3A-1)
本件発明2では、ブラシ状部材が「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」であるのに対し、甲12発明1では、ブラシ状部材が「化粧具又は筆記具等のブラシ」である点。

(相違点3A-2)
本件発明2が「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」を有しているのに対し、甲12発明1は、このような工程を有していない点。

(相違点3A-3)
溶着する工程に関し、本件発明2が、「エアを吹き込んで」「開かれた素線群を台座に固定した状態で」溶着を「素線群の中央部分」に行うのに対し、甲12発明1は、「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く第2の工程」を有していないため、「エアを吹き込んで」「開かれた素線群を台座に固定した状態で」溶着を行うものではなく、また、甲12発明1は、繊維束の尾端部を融着して鍔を形成するのであるから、繊維束の尾端部の中央部分はなく尾端部の全体に対して溶着を行う点。

(相違点3A-4)
切除する工程に関し、本件発明2が「溶着された中央部分の中心部を切除する」のに対し、甲12発明1は、融着された鍔の中心部を切除する点。

3-1-2 判断
(1)相違点3A-1について
請求人は、相違点3A-1に係る本件発明2の特定事項に関し、回転ブラシとその単体は本件特許出願前に周知であった旨主張し、証拠方法として甲第5?7、14?17号証を提出している。これらの甲号証については、上記「2-1-2 判断」「(1)相違点2A-1について」において検討したとおりである。

他方、甲12発明1は、「塗布液の含み量が多いマニキュア等の化粧具用又は筆ペン等の筆記具用等のブラシの製造方法を提供すること」(摘記事項甲12ア)を解決すべき課題とするものであって、この「マニキュア等の化粧具用又は筆ペン等の筆記具用等のブラシ」は、「塗布液の塗布中にブラシ(穂首)から繊維が抜け落ちることもなく、特に繊維間に形成される間隙が大きく塗布液の含み量が多いクリンプ繊維等のブラシとして適している」(摘記事項甲12エ)ことを目的とするブラシであるところ、甲第12号証には、甲12発明1である「ブラシの製造方法」を歯ブラシの製造に適用する点や回転ブラシのブラシ単体の製造に適用する点については、記載も示唆もない。
そうすると、“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”の製造方法が、本件特許出願前に周知であったとしても、甲12発明1の「化粧具又は筆記具等のブラシの製造方法」と当該周知の“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”の製造方法とには、製造されるブラシの形状においても製造されるブラシの使用目的においても何らの共通点がないのであるから、甲第5号証、甲第6号証、甲第16号証の記載に接した「化粧具又は筆記具等のブラシ」に関する技術分野の当業者が、甲12発明1における「化粧具又は筆記具等のブラシ」を“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”に変更しようとする動機付けはない。
また、甲12発明1の「化粧具又は筆記具等のブラシ」を“歯ブラシの回転ブラシを形成するブラシ単体”に変更することを動機付ける点は、甲第5?7、14?17号証のいずれにも記載はなく、さらにこの変更が、本件特許出願前に技術常識であったする根拠も、設計的事項であったとする根拠も見当たらない。

よって、甲12発明1において、「化粧具又は筆記具等のブラシ」に代えて、「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(2)相違点3A-2について
請求人は、相違点3A-2に係る本件発明2の特定事項に関し、素線群の突出端の中央にノズルによりエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く事項は、本件特許出願前に周知であり、甲第13号証に記載の事項を参考にして当該周知技術を甲12発明2に適用することは容易である旨主張し、証拠方法として甲第8?11、13、19?23号証を提出している。
甲第13号証には、上記甲13発明が記載されているところ、甲13発明において、「次の植毛穴4への毛束の打ち込み時に、既に植毛された隣の毛束81を押さえ付け」ているのは、既に植毛された隣の毛束81を「植毛ガイド92の進退経路から逃がしてやることにより、植毛済みの隣の毛束81が巻き込まれて連結毛81aやリング毛81bの発生を防止」するためである。なお、甲第13号証は、毛束端の中央にノズルによりエアを吹き込んで毛束を放射方向に開く点に関する記載や示唆はない。
また、甲第8?11、19?23号証については、上記「2-1-2 判断」「(2)相違点2A-2について」において検討したとおりである。

他方、甲第12号証には、甲12発明1において「繊維束の尾端部を融着して鍔を形成する」に当たり、尾端部の端の中央にエアを吹き込んで尾端部を放射方向に開く点について、記載も示唆もない。
また、甲第12号証には、「繊維束の尾端部を融着して鍔を形成する」にあたり、連結毛やリング毛の発生に関する事項についても、また、連結毛やリング毛の発生を防止する点に関する事項についても、記載や示唆はない。
そうすると、甲第12号証には、繊維束の尾端部を融着する際に、予め繊維束を開いてから融着しようとする技術課題や隣の繊維束が巻き込まれないようにするという技術課題について示唆すら存在せず、しかも、このような課題が甲12発明1において当然に内在していたはずの課題であるともいえないのであるから、たとえ、“素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くこと”が、技術分野を問わない周知技術であると仮定した上で、さらに、隣の素線群を押さえ付けることに関する甲13発明を考慮したとしても、甲12発明1に対し斯かる周知技術を適用すべき動機付けはない。
さらに付言すれば、甲12発明1は「化粧具又は筆記具等のブラシの製造」に係る発明であって、甲12発明1においては、繊維束を交絡させること、モルタルの補強効果を向上させること、繊維束を単繊維の状態或は単繊維相互が絡み合った集合体の形に解繊すること、シールド線の切断除去を行うこと、ストップリングの外周部にケブラがカシメられること、シールド線を撚ること等の必要性もやはり生じ得ないのであるから、甲13発明を参考にするしないにかかわらず、甲第8?11、19?23号証の記載に接した当業者が、甲12発明1に対して、これらの甲号証に記載された事項を適用すべき動機付けもない。

よって、甲12発明1において、「化粧具又は筆記具等のブラシの製造」するに当たり、「この素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開く」事項を追加することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

3-1-3 まとめ
以上によれば、相違点3A-3、3A-4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、無効理由3Aに関し、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、本件発明2に係る特許についての無効理由3Aは理由がない。

3-2 無効理由3Bについて
3-2-1 対比
上記「3-1-1 対比」における(サ)?(ソ)の検討を踏まえつつ、本件発明3と甲12発明2とを対比する。
(タ)甲12発明2の「熱融着手段」、「融着された鍔の略中心」、「穴を開ける中空ドリル」は、それぞれ、本件発明3の「溶着機」、「溶着機による溶着部分の中心部」、「切除する切除手段」にそれぞれ相当する。
(チ)甲12発明2の「繊維束を型に固定した状態で繊維束の尾端部を融着する熱融着手段」と本件発明3の「素線群を台座に固定した状態で素線群の中央部分を溶着する溶着機」とは、“素線群を台座に固定した状態で素線群の所定部分を溶着する溶着機”である点で共通する。
(ツ)甲12発明2の「化粧具又は筆記具等のブラシの製造装置」と本件発明3の「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体の製造装置」とは、“ブラシ状部材の製造装置”である点で共通する。

以上の(サ)?(ツ)によれば、本件発明3と甲12発明2の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
ブラシ状部材の製造装置であって、
多数の素線を束状に集合させてなる素線群を通す挿通孔を設けた台座と、
素線群を台座に固定した状態で素線群の所定部分を溶着する溶着機と、
溶着機による溶着部分の中心部を切除する切除手段とを備えているブラシ状部材の製造装置。

(相違点3B-1)
本件発明3では、ブラシ状部材が「多数枚を重ねて回転ブラシを形成するブラシ単体」であるのに対し、甲12発明2では、ブラシ状部材が「化粧具又は筆記具等のブラシ」である点。

(相違点3B-2)
本件発明3が「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向に開くノズル」を備えているのに対し、甲12発明2は、このようなノズルを備えていない点。

(相違点3B-3)
本件発明3が、「素線群を掴んで台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック」を備えているのに対し、甲12発明2は、「素線群を掴」むと共に「台座の挿通孔から一定量突出させて保持するチャック」を備えていない点。

(相違点3B-4)
本件発明3が、「開かれた素線群を台座に固定する押え体」を備え、「溶着機」が「素線群を台座に固定した状態で」「溶着する」と共に「素線群の中央部分を溶着する」のに対し、甲12発明2は、「開かれた素線群を台座に固定する押え体」を備えておらず、そのため、溶着機が「素線群を台座に固定した状態で」溶着を行うものではなく、また、繊維束の尾端部の中央部分はなく尾端部の全体に対して溶着を行う点。

3-2-2 判断
相違点3B-1、3B-2について検討するに、相違点3B-1、3B-2は、それぞれ上記相違点3A-1、3A-2と実質的に差違のないものである。
そうすると、上記「3-1-2 判断」で示した理由と同様の理由により、相違点3B-1、3B-2における本件発明3に係る特定事項は、当業者が甲12発明2、甲13発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得た事項とはいえない。

3-2-3 まとめ
以上によれば、相違点3B-3、3B-4について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、無効理由3Bに関し、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、本件発明3に係る特許についての無効理由3Bは理由がない。


第6 むすび
以上のとおり、本件発明2及び3についての特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものではなく、また、同条第2項の規定に違反してなされたものでもなく、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明2及び3についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-28 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-17 
出願番号 特願2002-99172(P2002-99172)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A46D)
P 1 123・ 1- Y (A46D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨江 耕太郎  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 関谷 一夫
松下 聡
登録日 2007-07-06 
登録番号 特許第3981290号(P3981290)
発明の名称 回転歯ブラシの製造方法及び製造装置  
代理人 高橋 司  
代理人 中村 克宏  
代理人 禿 祥子  
代理人 福島 三雄  
代理人 森田 拓生  
代理人 高崎 真行  
代理人 中世古 裕之  
代理人 塩田 哲也  
代理人 犬飼 一博  

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