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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1290309
審判番号 不服2012-23830  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-01 
確定日 2014-07-31 
事件の表示 特願2008- 1568「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月23日出願公開、特開2009-164423〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成20年1月8日に特許出願したものであって、その請求項に係る発明は、平成24年12月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「発光層と第1導電型層と第2導電型層とを有する窒化物系の半導体構造と、
前記半導体構造の一方の主面側に設けられた光取り出し面と、
前記光取り出し面と対向する他方の主面側に備えられ、前記半導体構造の前記第1導電型層と前記第2導電型層に電気的に接続される第1の電極と第2の電極とを備える電極と、
を有する発光素子であって、
前記半導体構造と前記電極との間から前記半導体構造の側面にかけて、前記電極と重なるように反射構造が形成されており、
前記反射構造は、前記半導体構造上に形成される反射層と、該反射層上であって複数の誘電体より構成される誘電体多層膜と、を有しており、
前記反射層の屈折率は前記半導体構造の屈折率よりも小さく、
かつ、前記反射構造の反射スペクトルの中心波長が、前記発光層からの発光ピーク波長よりも長波長であることを特徴とする発光素子。」

2 刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-197289号公報には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。)。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の主面を有する基板と、
前記基板の一方の主面上に積層される第1の伝導型窒化物半導体層と、
前記第1の伝導型窒化物半導体層上に積層される第2の伝導型窒化物半導体層と、
前記第1の伝導型窒化物半導体層と第2の伝導型窒化物半導体層との間に形成される活性層と、
前記第2の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層と、
前記第2の伝導型窒化物半導体層と金属電極層との間に形成される透光性導電層と、
を備える窒化物半導体発光素子であって、
前記透光性導電層と金属電極層との間で、少なくとも一部に反射層が形成されてなることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射層が、少なくとも絶縁膜を有する多層構造であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射層が、少なくともAl、Zn、Ni、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Si、In、Snよりなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む金属または合金またはそれらの酸化物またはそれらの窒化物を含む層を有する多層構造であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
請求項2または3に記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射層が、多層構造中に反射膜と該反射膜に接する透光性膜を有しており、かつ前記透光性膜は前記透光性導電層と接していることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
請求項4に記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射膜は、AlまたはAgを含む金属膜よりなること、もしくはSi、Ti、Zr、Nb、Ta、Alよりなる群から選択された少なくとも一種の酸化物または窒化物から選択された少なくとも2つを繰り返し積層した誘電体多層膜よりなることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
請求項4または5に記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記透光性膜は絶縁性を備えた透光性絶縁膜であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
請求項4から6のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射層の透光性膜が、Si、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、Znよりなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む酸化物よりなることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射膜は前記金属電極層と接していることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記反射層および透光性導電層と接して、パッド電極が形成されてなることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記透光性導電層はp型コンタクト層に接して形成されてなることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
・・・
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子であって、
前記第2の伝導型窒化物半導体層の屈折率は前記透光性導電層の屈折率よりも大きく、かつ前記透光性導電層の屈折率は、前記反射層の屈折率よりも大きいことを特徴とする窒化物半導体発光素子。」

(2)「【0029】
図2に、窒化物半導体発光素子を実装したLEDの概略断面図を示す。この図では、窒化物半導体発光素子であるLEDチップ9を配線基板の一であるサブマウント10上にフリップチップ実装している。フリップチップは、窒化物半導体層の電極形成面を主光取出し面とするフェイスアップ実装と異なり、電極形成面と対向する基板11側を主光取出し面とする実装方式であり、フェイスダウン実装等とも呼ばれる。
【0030】
図2のLEDチップ9は、基板11上にバッファ層12、n型窒化物半導体層13、活性層14、p型窒化物半導体層15を順にエピタキシャル成長し、さらに透光性導電層17と金属電極層40を積層している。結晶成長方法としては、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:metal-organic chemical vapor deposition)、ハイドライド気相成長法(HVPE)、ハイドライドCVD法、MBE(molecularbeam epitaxy)などの方法が利用できる。また、半導体層の積層構造としては、MIS接合、PIN接合やPN接合を有したホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルへテロ構成のものが挙げられる。また、各層を超格子構造としたり、活性層14を量子効果が生ずる薄膜に形成させた単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることもできる。なお、図2においては透光性導電層17上に設けられる反射層31の図示を省略している。
【0031】
また図2においては詳細に図示しないが、活性層14およびp型窒化物半導体層15の一部を選択的にエッチング除去して、n型窒化物半導体層15の一部を露出させて、n側パッド電極を形成している。またn側電極と同一面側で、p型窒化物半導体層15にはp側パッド電極が形成される。パッド電極の上には、外部電極等と接続させるためのメタライズ層(バンプ20)を形成する。メタライズ層は、Ag、Au、Sn、In、Bi、Cu、Zn等の材料から成る。これらLEDチップ9の電極形成面側をサブマウント10上に設けられた正負一対の外部電極と対向させ、バンプ20にて各々の電極を接合する。さらにサブマウント10に対してワイヤー21などが配線される。一方、フェイスダウンで実装されたLEDチップ9の基板11の主面側を、主光取出し面としている。」
ここで、図2及び図3は、次のものである。


(3)「【0052】
[反射層31]
透光性導電層17の表面に、反射層31を部分的に形成する。好ましくは所定のパターンで部分的に形成する。反射層31は多層構造とし、透光性導電層17であるITOに接する層を透光性膜311とする。
【0053】
[透光性膜311]
透光性膜311は絶縁性を備える層であり、これによって透光性膜311の上面に形成される反射膜322と透光性導電層17とを絶縁する。また、反射層31を設けない領域を導通経路32として、ITOに効率的に通電して電流拡散と低抵抗化とを図る。透光性膜311は単独で、あるいは層全体でITOと好ましいオーミック接続をし、ITOに投入された電流を半導体層側に拡散させる。また透光性膜311は、半導体発光素子からの光を効率よく取り出せるように高い透光性を有する。そのため透光性膜311は、好ましくは酸素を含み、より好ましくは酸化物とし、さらに好ましくはシリコン(Si)、Alよりなる群から選択された少なくとも一種の元素の酸化物とする。具体的には、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)等とし、好ましくはSiO_(2)を使用する。
・・・
【0056】
[誘電体多層膜]
また透光性膜311の上面には、反射膜312として金属膜に代えて、誘電体多層膜を形成してもよい。誘電体多層膜は、Si、Ti、Zr、Nb、Ta、Alよりなる群から選択された少なくとも一種の酸化物または窒化物から選択された少なくとも2つを繰り返し積層した誘電体多層膜である。この場合、反射層31は、例えば(SiO_(2)/TiO_(2))n(ただしnは自然数)の積層構造等で構成される。
【0057】
[パッド電極]
透光性導電層上に反射層31が形成された後、その上に金属電極層40としてパッド電極を形成する。パッド電極は、表面に表面に導電性ワイヤがワイヤーボンディングされ、発光素子と外部電極との電気的接続を図ることができる。あるいは、パッド電極表面にAuバンプのような導電部材を配置し、導電部材を介して対向された発光素子の電極と外部電極との電気的接続を図ることができる。またパッド電極は透光性導電層と一部が直接接しており、透光性導電膜に均一に電流を流すことができる。パッド電極には既存の構成が適宜採用できる。例えばAu、Pt、Pd、Rh、Ni、W、Mo、Crのいずれかの金属またはこれらの合金やそれらの組み合わせから成る。図3の例では、パッド電極は下面からW/Pt/Au、Rh/Pt/Au、W/Pt/Au/Ni、もしくはPt/Auの積層構造としている。
【0058】
本実施の形態において、パッド電極は、p型窒化物半導体層15側およびn型窒化物半導体層13側のうち、一方の窒化物半導体層側に設けられた透光性導電層17および他方の窒化物半導体層に対して形成される。また本発明に係る他の実施の形態におけるパッド電極の一部は、透光性導電層17に設けた貫通孔内に延在させて窒化物半導体層に直接設けたり、あるいは透光性導電層17の外縁にて窒化物半導体層に直接設けてもよい。このように、パッド電極の一部が窒化物半導体層に直接設けられることによってパッド電極の剥離を防止することができる。
・・・
【0061】
[反射層31の形成パターン]
反射層31を形成するパターンは、任意のパターンを使用できる。これらのパターンは、レジストパターンの上からRlE(reactiveion etching)やイオンミリング(ion milling)、リフトオフ等の方法により形成する。好ましいパターンとしては、図4の平面図に示すようにドット状、または図5に示すようにブロック状とする。図4に示す透光性導電層は、反射層31がドット状にパターニングされている。一方図5に示す例では、反射層31をブロック状にパターニングしている。またこれら図において破線で示す領域は、図3に示す絶縁性保護膜50の開口部51、52を示している。51はn型電極部分の開口部、52はp型電極部分の開口部をそれぞれ示す。このように、反射層31をITOの全面に設けず、部分的にITOが表出してパッド電極と接触するような構造とすることで、図6に示すようにこの領域が導通経路32となって、電気的障壁の高い領域を回避して電流が流れることで、接触抵抗を実質的に低減して順方向電圧を低下させることができる。なお、反射層31の形成パターンは上記図4、図5の例に限られず、例えばドットの形状を円形、楕円形、矩形状、多角形状などとしたり、またブロック状のパターンの縦横幅を適宜変更したり、矩形状のみならずさらに対角線を通した三角形状や円形、半円形、多角形状としたり、これらの配置を千鳥状としてもよい。また全体に均一に配置する例に限られず、領域ごとに大きさや密度を適宜変更したり、上記のパターンを組み合わせることもできる。
【0062】
また、反射層を透光性導電層上に設けることにより、界面における臨界角を小さくして全反射する領域を増やし、光の取り出し効率を改善できるという効果も得られる。この様子を図7に基づいて説明する。図7はITO層と半導体層、およびITO層と絶縁層との界面における全反射領域を説明している。図7(a)に示すように、GaN層とITO層との界面では、GaN層の屈折率n=2.5、ITO層の屈折率n=2.0とすると、スネルの法則より臨界角θ=53°となるが、これに対して図7(b)に示すように、ITO層とSiO_(2)層との界面では、ITO層の屈折率n=2.0、SiO_(2)層の屈折率n=1.48とすると、臨界角θ=48°となり、臨界角を小さくできる。このように、反射層を透光性導電層上に形成すると、界面における全反射領域が広くなり、光をより多く取り出すことができる。
・・・
【0064】
[反射膜312]
フリップチップ実装用の窒化物半導体発光素子を作成する場合は、以上のようにして形成された透光性導電層17上に、図3に示すように反射層31を部分的に形成する。反射層31は、透光性膜311と反射膜312の積層により構成される。透光性膜311は上述の通り絶縁性を備える層である。反射膜312は、例えば金属膜で形成できる。金属膜は、酸素を含有する透光性導電層17との接続を良好に行うため、一部が酸化されていることが好ましい。このように金属膜の反射膜312を透光性導電層17を介して窒化物半導体層と接続することにより、透光性導電層17は半導体層と良好なオーミック接続を行うことができる。
【0065】
また金属膜と窒化物半導体と直接接合をさせると、金属膜から不純物が窒化物半導体層に拡散して汚染される問題や、界面での接合性が悪く剥離などの問題が生じて歩留まりが低下することがある。間に酸化膜を介在させると、酸化膜が保護膜となって拡散が阻止される。
【0066】
金属膜は、p型窒化物半導体の電極となり、かつ反射率の高い薄膜を形成できる材料を使用する。特にアルミニウム(Al)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、ランタン(La)、銅(Cu)、イットリウム(Y)よりなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む金属または合金が好ましい。特にAlやAgが反射率やライフ特性の面から好ましい。Alは反射率を90%以上とできる。これによって窒化物半導体よりなる発光素子の360nm?650nm付近、望ましくは380nm?560nmの波長の吸収が少ない。また、金属膜の層を上記で列挙した金属の積層構造としてもよい。積層構造の場合、後に電極を熱的アニールで処理して、電極材料が金属膜の中で渾然一体となって合金化した状態としてもよい。
【0067】
これら透光性導電層17や反射膜312は、多層構造としても良い。例えば、多層構造で半導体層側に位置する第二の層の屈折率を、第一の層の屈折率より段階的に小さくすることにより、発光素子からの光の取り出しを向上させることができる。また反射膜312を誘電体で構成することもできる。誘電体は、好ましくは酸化物の積層構造とする。酸化物は金属よりも化学的に安定しているので、金属膜の反射膜に比べてより信頼性高く使用することができる。また反射率を100%に近い値とでき、反射膜での光の吸収による損失を極減できる。
【0068】
なお、本実施の形態における窒化物半導体発光素子は、p型層に対して透光性導電層17および反射層31を設けているが、他の形態においてn型層に対して透光性導電層17等を設けてもよいことはいうまでもない。例えば、n型層の側から主に光を取り出す構成とし、n層のパッド電極に凹凸面を形成し、反射膜を設けてもよい。
【0069】
発光素子としてLEDやレーザを作成する場合、一般的には特定の基板上に各半導体層を成長させて形成されるが、その際、基板としてサファイア等の絶縁性基板を用いその絶縁性基板を最終的に取り除かない場合、通常、p電極およびn電極はいずれも半導体層上の同一面側に形成される。これによって、絶縁性基板側を視認側に配置し発光された光を基板側から取り出すフリップチップ実装が実現される。もちろん、最終的に基板を除去した上で、フリップチップ実装することもできる。このように、光の取り出し効率を良くし、外部量子効率を改善してより大きな発光パワーを得ることができる。」
ここで、図6は、次のものである。


3 引用発明
(1)上記2(1)(特に、請求項1)によれば、引用文献には、
「対向する一対の主面を有する基板と、
前記基板の一方の主面上に積層される第1の伝導型窒化物半導体層と、
前記第1の伝導型窒化物半導体層上に積層される第2の伝導型窒化物半導体層と、
前記第1の伝導型窒化物半導体層と第2の伝導型窒化物半導体層との間に形成される活性層と、
前記第2の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層と、
前記第2の伝導型窒化物半導体層と金属電極層との間に形成される透光性導電層と、
を備える窒化物半導体発光素子であって、
前記透光性導電層と金属電極層との間で、少なくとも一部に反射層が形成されてなる窒化物半導体発光素子。」
が記載されているものと認められる。

(2)また、上記2(1)(特に請求項4ないし8)によれば、上記(1)の素子における反射層は、金属電極層と接している誘電体多層膜よりなる反射膜と、該反射膜に接するとともに透光性導電層と接している透光性絶縁膜を有しているものであってよいことが認められる。

(3)上記2(2)、(3)(特に【0029】、【0031】、【0057】及び【0058】)によれば、上記(1)の素子は、「第2の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層」として、一方の窒化物半導体層側に設けられた透光性導電層、すなわち、「第2の伝導型窒化物半導体層と金属電極層との間に形成される透光性導電層」に対してパッド電極が形成されるとともに、他方の窒化物半導体層、すなわち、「第1の伝導型窒化物半導体層」に対してもパッド電極が形成され電気的に接続されるものであり、これらのパッド電極が基板の同一面側で形成され、該素子は、電極形成面と対向する基板側を主光取出し面とするものと認められる。

(4)以上によれば、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「対向する一対の主面を有する基板と、
前記基板の一方の主面上に積層される第1の伝導型窒化物半導体層と、
前記第1の伝導型窒化物半導体層上に積層される第2の伝導型窒化物半導体層と、
前記第1の伝導型窒化物半導体層と第2の伝導型窒化物半導体層との間に形成される活性層と、
前記第2の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層と、
前記第2の伝導型窒化物半導体層と金属電極層との間に形成される透光性導電層と、
を備える窒化物半導体発光素子であって、
前記透光性導電層と金属電極層との間で、少なくとも一部に反射層が形成されてなる窒化物半導体発光素子において、
前記金属電極層は、前記透光性導電層に対して形成されるパッド電極であり、
前記反射層は、前記金属電極層と接している誘電体多層膜よりなる反射膜と、該反射膜に接するとともに前記透光性導電層と接している透光性絶縁膜を有しており、
また、該素子は、前記第1の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層であるパッド電極を備え、
前記各パッド電極が前記基板の同一面側で形成され、電極形成面と対向する基板側を主光取出し面とする窒化物半導体発光素子。」

4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「活性層」、「第1の伝導型窒化物半導体層」及び「第2の伝導型窒化物半導体層」は、それぞれ、本願発明の「発光層」、「第1導電型層」及び「第2導電型層」に相当し、引用発明は、本願発明の「発光層と第1導電型層と第2導電型層とを有する窒化物系の半導体構造」との構成を備える。

(2)引用発明の「前記第2の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層」である「パッド電極」及び「前記第1の伝導型窒化物半導体層と電気的に接続される金属電極層であるパッド電極」は、本願発明の「前記半導体構造の前記第1導電型層と前記第2導電型層に電気的に接続される第1の電極と第2の電極」に相当し、引用発明は、「窒化物半導体発光素子」であって、「前記各パッド電極が前記基板の同一面側で形成され、電極形成面と対向する基板側を主光取出し面とする」ものであるから、本願発明の「前記半導体構造の一方の主面側に設けられた光取り出し面と、前記光取り出し面と対向する他方の主面側に備えられ、前記半導体構造の前記第1導電型層と前記第2導電型層に電気的に接続される第1の電極と第2の電極とを備える電極と、を有する発光素子」との構成を備える。

(3)引用発明の反射層は、「前記金属電極層と接している誘電体多層膜よりなる反射膜と、該反射膜に接するとともに(前記第2の伝導型窒化物半導体層と金属電極層との間に形成される)前記透光性導電層と接している透光性絶縁膜を有して」いるから、引用発明と本願発明は、いずれも「半導体構造と電極との間に電極と重なるように反射構造が形成」されているものといえる。そして、引用発明は、本願発明の「前記反射構造は、前記半導体構造上に形成される反射層と、該反射層上であって複数の誘電体より構成される誘電体多層膜と、有して」いるとの構成を備える。

(4)以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「発光層と第1導電型層と第2導電型層とを有する窒化物系の半導体構造と、
前記半導体構造の一方の主面側に設けられた光取り出し面と、
前記光取り出し面と対向する他方の主面側に備えられ、前記半導体構造の前記第1導電型層と前記第2導電型層に電気的に接続される第1の電極と第2の電極とを備える電極と、
を有する発光素子であって、
前記半導体構造と前記電極との間に電極と重なるように反射構造が形成されており、
前記反射構造は、前記半導体構造上に形成される反射層と、該反射層上であって複数の誘電体より構成される誘電体多層膜と、を有している発光素子。」
である点で一致し、以下のアないしウの点で相違するものと認められる。

ア 反射構造が、本願発明では、「前記半導体構造と前記電極との間から前記半導体構造の側面にかけて、前記電極と重なるように反射構造が形成」されているのに対し、引用発明では、「(前記第2の伝導型窒化物半導体層と金属電極層との間に形成される)前記透光性導電層と金属電極層との間」で形成される点(以下「相違点1」という。)。

イ 本願発明は、「前記反射層の屈折率は前記半導体構造の屈折率よりも小さ(い)」ものであるのに対し、引用発明は、そのように特定されない点(以下「相違点2」という。)。

ウ 本願発明は、「前記反射構造の反射スペクトルの中心波長が、前記発光層からの発光ピーク波長よりも長波長である」のに対して、引用発明は、そのように特定されない点(以下「相違点3」という。)。

5 判断
(1)相違点1について
ア 半導体発光素子において、反射構造を半導体構造の側面にまで形成したものは、本願出願時において周知である(原査定において引用された、特開平5-190897号公報、特開2007-165726号公報、特開2007-324235号公報の各要約欄に示されるほか、本願明細書に特許文献2として挙げられた特開2005-183911号公報の例が図12aに示されるとおりである。)から、引用発明において、反射構造を半導体構造の側面にまで形成するものとし、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
そして、本願発明において相違点1に係る構成により奏される効果が、格別顕著なものとも認められない。

イ 請求人は、審判請求の理由において、原査定において引用された周知文献につき、半導体構造の相違や、反射構造の相違などを挙げ、各周知文献は「窒化物系の半導体構造と電極との間から、半導体構造の側面にかけて、電極と重なるように」形成する構成が本願出願時に周知であった事実を裏付ける証拠としては不十分である旨主張するが、上記アの判断を左右するものではない。

(2)相違点2について
引用文献の請求項16には、「前記第2の伝導型窒化物半導体層の屈折率は前記透光性導電層の屈折率よりも大きく、かつ前記透光性導電層の屈折率は、前記反射層の屈折率よりも大きい」と記載され、【0067】にも、「例えば、多層構造で半導体層側に位置する第二の層の屈折率を、第一の層の屈折率より段階的に小さくすることにより、発光素子からの光の取り出しを向上させることができる」と記載されることに照らせば、引用発明において、反射層の屈折率を半導体構造の屈折率よりも小さいものとし、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
ちなみに、本願明細書において、反射層はSiO_(2)から構成されると説明される(【0049】等)ところ、引用文献においても、好ましくはSiO_(2)を使用すると説明される(【0053】)ところである。

(3)相違点3について
半導体発光素子において、反射構造の反射スペクトルの中心波長が、光源からの発光ピーク波長よりも長波長となるようにすることは、本願出願時において周知の技術である(原査定の拒絶の理由に引用された、特開平6-5916号公報の要約欄、特開平6-45649号公報の【0021】を参照。)から、引用発明において、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(4)本願発明の効果について
本願発明が全体として奏する効果についてみても、引用発明ないし周知技術から当業者が予測困難なほどの格別顕著なものとは認められない。

6 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-02 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-16 
出願番号 特願2008-1568(P2008-1568)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下村 一石  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 松川 直樹
服部 秀男
発明の名称 発光素子  
代理人 豊栖 康司  
代理人 豊栖 康弘  

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