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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1290455
審判番号 不服2013-1688  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-30 
確定日 2014-08-07 
事件の表示 特願2007-227337「建物および建物の設計方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月19日出願公開、特開2009- 57778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成19年9月3日の出願であって、平成24年10月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年1月30日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成25年1月30日付け手続補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成25年1月30日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成25年1月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲については、
「【請求項1】
建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線が、個別具体的な間取りのプランニング前にあらかじめ設定され、外壁線よりも内側においては、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁が、第1基本線上にのみ設置されていることを特徴とする建物。
【請求項2】
建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行でかつ第1基本線と直交する少なくとも1の第2基本線が、個別具体的な間取りのプランニング前にあらかじめ設定され、第1基本線および第2基本線を総称して基本線とし、外壁線よりも内側においては、構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁が、基本線上にのみ設置されていることを特徴とする請求項1記載の建物。
【請求項3】
第1基本線と第2基本線との交点に、構造柱が設置されていることを特徴とする請求項2記載の建物。
【請求項4】
第1基本線および第2基本線を総称して基本線とし、外壁線と基本線との間に、設備空間または吹抜け空間が配置されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の建物。
【請求項5】
第1基本線および第2基本線を総称して基本線とし、基本線上に設置されている耐力壁が、基本線上に設置されている非耐力壁とは区別可能に形成されていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の建物。
【請求項6】
建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線を、個別具体的な間取りのプランニング前にあらかじめ設定し、外壁線よりも内側においては、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁を、第1基本線上にのみ配置するようにしたことを特徴とする建物の設計方法。」とあったものを、
「【請求項1】
建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線を、個別具体的な間取りのプランニング前にあらかじめ設定し、外壁線よりも内側においては、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁を、第1基本線上にのみ設置するようにし、かつ、第1基本線に沿って基礎を設けるようにしたことを特徴とする建物の設計方法。
【請求項2】
建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行でかつ第1基本線と直交する少なくとも1の第2基本線を、個別具体的な間取りのプランニング前にあらかじめ設定し、第1基本線および第2基本線を総称して基本線とし、外壁線よりも内側においては、構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁を、基本線上にのみ設置するようにしたことを特徴とする請求項1記載の建物の設計方法。
【請求項3】
第1基本線と第2基本線との交点に、構造柱を設置するようにしたことを特徴とする請求項2記載の建物の設計方法。
【請求項4】
第1基本線および第2基本線を総称して基本線とし、外壁線と基本線との間に、設備空間または吹抜け空間を配置するようにしたことを特徴とする請求項1、2または3記載の建物の設計方法。
【請求項5】
第1基本線および第2基本線を総称して基本線とし、基本線上に設置されている耐力壁を、基本線上に設置されている非耐力壁とは区別可能に形成するようにしたことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の建物の設計方法。」と補正するものである。(下線は審決で付した。)

2 本件補正の目的
(1)特許請求の範囲に係る本件補正の根拠及び適法性について、請求人は審判請求書において以下のとおり主張している。
「(1-1)請求項1
請求項1は、補正前の請求項6(以下、『旧請求項6』のように表す。)に、「第1基本線に沿って基礎を設けるようにした」を加えたものである。この部分は、出願当初明細書の段落番号[0031]の『第1基本線10に沿って基礎が設けられ』との記載を根拠としているので、特許法第17条の2第3項の規定に該当する。また、旧請求項6の発明特定事項である『第1基本線』が、補正前には『建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁』がその上に設置されるものであったのに加え、補正後ではそれに沿って『基礎を設けるようにした』という意味で、この補正ではこの『第1基本線』が限定的に減縮されたものであり、また、この補正によっても補正前後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、同条第5項第2号の規定に該当する。また、後述するように請求項1に係る発明は同法第29条第2項の規定には該当しないから同法第17条の2第6項の規定にも該当する。
(1-2)請求項2
請求項2は、旧請求項6を旧請求項2の発明特定事項で限定したものである。したがって、実質的に、旧請求項2に上記請求項1の補正事項が加入されたものであり、上述のとおり請求項1の補正は適法なのであるから、請求項2の補正も適法である。
(1-3)請求項3
請求項3は、旧請求項6を旧請求項3の発明特定事項で限定したものである。したがって、実質的に、旧請求項3に上記請求項1の補正事項が加入されたものであり、上述のとおり請求項1の補正は適法なのであるから、請求項3の補正も適法である。
(1-4)請求項4
請求項4は、旧請求項6を旧請求項4の発明特定事項で限定したものである。したがって、実質的に、旧請求項4に上記請求項1の補正事項が加入されたものであり、上述のとおり請求項1の補正は適法なのであるから、請求項4の補正も適法である。
(1-5)請求項5
請求項5は、旧請求項6を旧請求項5の発明特定事項で限定したものである。したがって、実質的に、旧請求項5に上記請求項1の補正事項が加入されたものであり、上述のとおり請求項1の補正は適法なのであるから、請求項5の補正も適法である。
(1-6)その他
旧請求項6は削除した。また、特許請求の範囲の記載と平仄を合わせるべく、手続補正2以降で明細書の補正も行っており、その根拠は上述のとおりである。」(2?3頁)

(2)そこで特許請求の範囲に係る本件補正の目的について検討する。
ア 本件補正後の請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項6を新たに請求項1とし、さらに発明を特定するために必要な事項である「第1基本線」に関し、「第1基本線に沿って基礎を設けるようにした」との限定を加えるものである。
本件補正後の請求項1に係る本件補正は、上記の通り、本件補正前の請求項6に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項6に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正後の請求項1に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 次に本件補正後の請求項2ないし5に係る本件補正は、上記(1)の(1-2)?(1-5)によると、旧請求項6を旧請求項2ないし5の発明特定事項で限定したものである、と主張しているが、元々「建物」という物の発明であった本件補正前の請求項2ないし5に係る発明を、「建物の設計方法」という方法の発明に補正することによって、発明のカテゴリーを変更し、それに伴っていくつかの語尾を補正するものである。
そうすると、発明のカテゴリーを変更した本件補正後の請求項2ないし5に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものではない。

イ したがって、本件補正後の請求項2ないし5に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、他の補正事項を検討するまでもなく、本件補正は同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件
上記「2(2)」で述べたとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない補正事項を含むものであるが、本件補正後の請求項2ないし5に係る補正が発明のカテゴリーを替えるものか否かに拘わらず、本件補正後の請求項1ないし5に係る本件補正が、請求人が主張するとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2001-180152号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅の間取りを設計するに際し、顧客が要求している現在の間取りと、将来の変化への対応としての空間の自由度とを顧客に対し判りやすい形式で提案するためのプレゼンテーション用図面セットと、自由度の高い空間を持った住宅の設計を支援するための方法とに関するものである。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記の如く、寿命の長い建物を要求する顧客は、経時的な居住人数の変化や生活様式の変化に対し如何様にも対応し得る間取りを求めている。しかし、前記変化を予測することは困難であり、顧客の要求に対し的確な提案を行うことは困難であるという問題がある。
【0006】特に、設計者が顧客の現在の家族構成等の条件から予測して将来の間取りの変化例を全て提案することは不可能であり、多数の変化例を提案する場合であっても、設計の作業量が多くなって負担が大きくなり過ぎるという問題がある。
【0007】また住宅の構造設計を行う場合、目的の建物の最終的な間取りが決定することが前提となり、間取りを決定する初期の段階で構造の検討を行うには手間が掛かり且つ設計変更が大変であるという問題がある。更に、コンピュータを利用して耐震壁を自動的に配置した場合、将来の間取りの変化に対応させることが困難であるという問題がある。
【0008】本発明の目的は、将来の変化に対応させ得る間取りを判り易く顧客に提案し得るようにした住宅用のプレゼンテーション用図面セットと、前記住宅の設計支援方法を提供することにある。」

(ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明に係る住宅のプレゼンテーション用図面セットは、住宅の新築時の間取りを記載した第1の平面図と、前記第1の平面図から耐震壁を含むことなく且つ撤去可能な壁を消去して構成した空間を記載した第2の平面図とからなるものである。
【0010】・・・(略)・・・
【0015】また本発明に係る住宅の設計支援方法は、住宅の外形及び耐震壁配置不可領域と耐震壁配置不可線分並びに耐震壁配置候補線分とからなる情報を入力する工程と、別途算出された必要耐震壁量を満足する耐震壁を耐震壁配置可能線分に配置する工程とを有することを特徴とするものである。
【0016】上記住宅の設計支援方法では、住宅の外形と、耐震壁配置不可領域と、耐震壁配置不可線分と、耐震壁配置候補線分と、からなる情報を入力し、別途、目的の平面に必要な耐震壁の量を算出して算出された必要耐震壁量を耐震壁配置可能線分に配置することで構造設計を行うことが出来る。
【0017】即ち、最終的な間取りが決定されていなくとも、住宅の外形を決定し、且つユニバーサル空間に相当する耐震壁配置不可領域と、外壁や間仕切り壁に形成する開口部に相当する耐震壁配置不可線分、及び外壁や撤去することのない間仕切り壁に於ける耐震壁配置候補線分を設定することで、この耐震壁配置候補線分から耐震壁配置不可領域及び耐震壁配置不可線分を削除することで耐震壁配置可能線分を得ることが出来る。従って、別途算出した耐震壁数を耐震壁配置可能線分に配置することで、構造計算を行うことが出来る。このため、自由度の高い平面(ユニバーサル空間)を持った住宅に対する構造設計を容易に実現することが出来る。」

(エ)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、上記図面セットの好ましい例と、住宅の設計支援方法の好ましい例について図を用いて説明する。図1は図面セットの構成を説明する図である。図2は新築時の各階の間取り及び屋根の平面を示す図である。図3はユニバーサル空間を記載した平面図を示す図である。図4は間仕切り壁と居室空間との関係と居室空間の使い方の例を説明する図である。図5は間仕切り壁と居室空間との関係と居室空間の使い方の例を説明する図である。図6は住宅の設計支援方法の手順を示すフローチャートである。図7は住宅の設計支援方法の手順を説明する図である。
【0019】・・・(略)・・・
【0023】図2(a)に示すように、1階には玄関11,風呂場,洗面所12,便所13,階段14,キッチン15,ダイニング16が配置され、必要に応じて和室17が配置される。前記各部11?17は外壁5及び間仕切壁6,7によって区画されている。前記間仕切壁6は撤去不能の間仕切壁であり、間仕切壁7は撤去可能な間仕切壁である。また同図(b)に示すように、2階には便所13,階段14,3つの寝室18,納戸19が設定されている。尚、同図(c)は屋根の平面形状を示す図である。
【0024】上記第1平面図1a,1bは一般的な間取り図と同様であるが、後述するユニバーサル空間の思想と、この思想を実現するための撤去可能な間仕切壁7が構成されている点で特徴を有する。
【0025】ここで、本発明に係るユニバーサル空間の思想は、1階,2階或いはより上層階がある場合には、個々の階に制限されることなく各階の間取り構成に生かされる。しかし、各階の平面図1a,1b夫々についてユニバーサル空間の構成を説明することは煩雑になる虞があるため、各階を代表して1階の構成について説明する。
【0026】玄関11は住宅の外形形状や道路の方角との関係で位置が決定されるため、将来位置を変化させる可能性は少ない。風呂場,洗面所12は壁や床の構造が居室部分と比較して特殊であり、位置を変化させるには高いコストが要求されるため、将来位置を変化させる可能性は少ない。同様に便所13も敷地に於ける下水道の取込み位置との関係で位置が決定されることが多く、且つ床の構造が居室部分と比較して特殊であり、将来位置を変化させる可能性は少ない。更に、階段14は上階との関係があり、且つ構造が特殊であるため、将来位置を変化させる可能性は少ない。
【0027】キッチン15は水道配管,排水管及びガス配管等の配管が必要であるが、これらは、風呂場,洗面所12や便所13に於ける水道配管や排水管等の敷設構造と比較して簡易であり、比較的容易に位置の変化に対応することが可能である。またダイニング16及び和室17は住宅に於ける最も標準的な構造であり、位置の変化に充分に対応することが可能である。
【0028】上記の如く住宅を構成する要素には、比較的容易に位置を変化させ得るものと、殆ど位置を変化させ得ないものとがある。従って、位置の変化の自由度のないものを集中して配置すると共に、残りの部分に位置の変化の自由度の高い居室を配置することが可能である。
【0029】即ち、第1平面図1に示す1階の平面図1aに於いて、玄関11?階段14の配置部分は将来生じる家族構成の変化や生活様式の変化に関わらず変化することのない領域であり、キッチン15?和室17の配置部分は家族構成の変化や生活様式の変化に対応して変化する領域として設定される。前記家族構成の変化や生活様式の変化に対応して変化する領域に設置された間仕切壁7には耐震壁が配置されることがなく、該間仕切壁7を撤去ても建物の構造に影響を与えることがない。
【0030】このように、位置の変化に対する自由度の高い要素を集めると共に間仕切壁7を撤去可能な構造とした空間を、将来、子供が独立することによる居住人数の減少、或いは二世代が同居することによる居住人数の増加等の家族構成の変化や、自宅の一部を店舗や事務所にするような生活様式の変化に対応させたユニバーサル空間として設定する。
【0031】従って、建物の構造上必要な耐震壁は、外壁5と玄関11?階段14を区画する撤去不能な間仕切壁6に配置されることとなる。これらの外壁5及び撤去不能な間仕切壁6に対する耐震壁の配置は、後述する住宅の設計支援方法で解決するものである。
【0032】第2平面図2は、図3(a)に示すユニバーサル空間平面図2aと、同図(b)に示すコーナー平面図2bとを有している。ユニバーサル空間平面図2aは新築時の間取りである図2(a)に記載された内容から、将来生じる家族構成の変化や生活様式の変化に対応させて変化させる領域に属する部分を消去すると共に該領域に属する撤去可能な間仕切壁7を消去して構成したユニバーサル空間20が記載されている。」

(オ)「【0046】次に、上記住宅の設計を支援する方法について図6,図7により説明する。前述したように、有効なユニバーサル空間20を設定するには、ユニバーサル空間20以外の部位に於ける外壁5と間仕切壁6とに耐震壁を配置することで、建物の強度を満足させることが必須である。
【0047】本実施例に係る設計支援方法は、ユニバーサル空間20を有する間取りを設計する段階で容易に構造計算を実施することが可能であり、且つ設計変更にも容易に対応し得るものである。特に、建物の外形が設定されたとき、目的の階に於ける耐震壁を配置してはいけない領域と、耐震壁を配置してはいけない線分と、耐震壁を配置しても良い線分を指定することで、間取り及び間仕切壁の決定を必要条件とせずに目的の建物の構造計算を実行して設計の支援を行なうことが可能である。
【0048】尚、以下の手順は住宅を構成する各階毎に行なわれるものであるが、説明が煩雑になるため、代表して1階に対する設計支援方法の手順を説明する。
【0049】本実施例に係る支援方法では、図6に示すように、支援手順をスタートし、ステップS1では、建物の形状を入力する。この建物の形状は、図2(a)に示す1階平面図1aに於ける外壁5の線、及び外壁5に形成される開口部8、図示しない躯体の輪郭線、間仕切壁6,7であり、同様に同図(b)に示す2階平面図1bに於ける外壁5の線、及び外壁5に形成される開口部8、図示しない躯体の輪郭線、及びベランダ含む床面外周線、間仕切壁である。従って、前記各情報を建物の形状として入力する。特に、建物の重量を算出する場合には、前記情報に加えて、同図(c)に示す屋根の形状も入力され、同時に屋根の材料や床の材料等の重量を算出するのに必要な情報も入力される。
【0050】ステップS1に於いて、建物の外壁5の線を入力することは必須であるが、開口部8や間仕切壁6,7を入力することは必ずしも必須ではない。即ち、最低限建物の外壁5の線を入力することで、以下のステップに進行することが可能であり、且つ各ステップを経ることで、設計を支援することが可能である。
【0051】次にステップS2では、耐震壁配置候補線分を入力する。この耐震壁配置候補線分は耐震壁を配置する候補となる外壁5、及び間仕切壁6或いは該間仕切壁6を想定した部位に相当する線分であって、建物の形状に合わせて任意に選択された線分である。従って、前記選択された線分を指定して耐震壁配置候補線分として入力する。
【0052】本実施例では図7に示すように、左右方向(X方向)では、建物の最も左側に位置する外壁5を基準線X0とし、玄関11のポーチに対応する外壁5を候補線X1とし、更に便所13と階段14との境界を構成する間仕切壁6を候補線X2とし、階段14の右側を構成する間仕切壁6を候補線X3とし、建物の最も右側の外壁5を候補線X4として設定して入力する。更に、上下方向(Y方向)では、最も下方の外壁5を基準線Y0とし、玄関11の下側に対応する部位を候補線Y1とし、玄関11のホールと風呂場,洗面所12との境界に対応する間仕切壁6を候補線Y2とし、最も上方の外壁5を候補線Y3として設定して入力する。
【0053】次にステップS3では、耐震壁配置不可領域を入力する。この耐震壁配置不可領域は、外壁5の線で囲まれた内部に於ける耐震壁を配置してはいけない領域、即ち、ユニバーサル空間20に対応する領域であり、この情報を耐震壁配置不可領域として入力する。
【0054】ユニバーサル空間20は、必ずしも図2(a)に示す1階平面図1aに於ける間取りから玄関11?階段14を除いた部分として設定すべきものではなく、建物の形状を決定した後、該形状に対し第1順位で設定しても良い。この場合、予め1階に配置すべき要素(玄関11?階段14)を決定しておくと共に各要素に必要な面積、及び概略配置位置を想定しておくことは必要である。
【0055】本実施例では図3(a)のユニバーサル空間平面図2aに示すように、玄関11、風呂場,洗面所12、便所13、階段14を除く部分をユニバーサル空間20として設定しており、図7に於けるユニバーサル空間20に対応する斜線部分の領域を耐震壁配置不可領域41として入力する。この耐震壁配置不可領域41の情報を入力することによって、ステップS2で入力した各方向の候補線X2,X3,Y1,Y2に於ける耐震壁配置不可領域41の内部に入り込んでいる部分は耐震壁を配置し得ない部分として認識される。
【0056】次にステップS4では、耐震壁配置不可線分を入力する。この耐震壁配置不可線分は、ステップS2で入力した耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁を配置してはいけない部分、即ち、出入口や窓、或いは換気扇等を設置する可能性の高い部分に対応する線分であり、この線分の情報を耐震壁配置不可線分として入力する。
【0057】本実施例では、図7に於けるY方向の基準線であるY0(外壁5の線に相当する)の3か所を耐震壁配置不可線分42として入力し、候補線Y1の1か所を耐震壁配置不可線分42として入力している。しかし、入力された耐震壁配置不可線分42に対応する部分を必ずしも出入口や窓として構成する必要はなく、外壁5や間仕切壁として構成しても良い。
【0058】即ち、外壁5や撤去不能の間仕切壁6であって建物の外形を入力したときに開口部8として入力された部分は、前記外壁5や間仕切壁6が耐震要素配置候補線分として選択された場合であっても耐震壁配置不能部として認識され、耐震壁が配置されることがない。従って、建物の外形が入力されたとき、開口部を構成すべき部位でありながら、該開口部を構成するか否かが決定されず、或いは開口部のサイズが決定されていない部位を耐震壁配置不可線分42として入力することで、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁配置不可線分42は耐震壁を配置い得ない線分として認識される。
【0059】上記ステップS2?ステップS4は必ずしも順序を限定するものではなく、必要に応じて適宜順序を変更しても良い。
【0060】上記各ステップS1?ステップS4を経ることによって、建物の外壁5、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3、耐震壁配置不可領域41、耐震壁配置不可線分42が夫々記載された検討用の図面を得ることが可能である。また場合によっては、予め別の工程で、外壁5,玄関11?階段14,間仕切壁6を考慮した図面が作成されることもある。
【0061】従って、ステップS5では、得られた図面が検討用である場合にはステップS7に進行するように、また別の工程で作成された壁を考慮した図面が提示された場合にはステップS6に進行するように選択する。
【0062】ステップS6では、作成された図面を編集する。この編集は、図面に於ける外壁及び間仕切壁と耐震壁配置候補線分を一致させると共に該耐震壁配置候補線分を構成する外壁及び間仕切壁から開口部に対応する部分を耐震壁配置不可線分として削除し、更に、ユニバーサル空間20に対応する領域を耐震壁配置不可領域として排除することで行なわれる。そして別の工程で作成された図面に対し、前記の如き編集を加えることで、検討用の図面としての体裁が整えられてステップS7に進行する。
【0063】次に、ステップS7では別途算出した必要耐力壁数Nを入力する。必要耐力壁数Nは、建物に作用する水平力に応じて設定されるものであり、該建物のX方向及びY方向に作用する水平力を算出し、この水平力と耐力壁の許容荷重とによって各方向に配置すべき耐力壁の数を算出することが可能である。そして算出された各方向に対応する耐力壁の数Nを夫々入力する。前記演算は必ずしもコンピュータを用いる必要はなく、手計算でも充分である。
【0064】次に、ステップS8では耐震壁配置可能線分を作成する。この耐震壁配置可能線分は、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁を配置しても差し支えのない線分であり、該耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3から耐震壁配置不可線分42を削除したものである。
【0065】上記ステップS1?ステップS8を経ることで、図7に示すように、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁配置可能線分43を設定することが可能である。
【0066】次に、ステップS9では耐震壁配置可能線分43に対し耐震壁44を配置する。例えばステップS7で得られた各方向の耐震壁数Nが夫々4である場合、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁配置可能線分43に対し選択的に4つの耐震壁44を配置する。
【0067】耐震壁配置可能線分43に対して耐震壁44を配置する場合、各耐震壁44をバランス良く配置することが好ましい。そしてこの配置作業は、設計者が手作業で行なっても良く、コンピュータを利用して行なうことも可能である。
【0068】特に、耐震壁44の配置をコンピュータを利用して行なう場合、設定された耐震壁配置可能線分43に対して4つの耐震壁44を配置し得る全ての組み合わせからなるパターン候補を抽出し、このパターン候補毎に、耐震壁44の柱に対する接触の度合いを評価する柱隣接度、同一の平面に配置された複数の耐震壁44の離れ度合いを評価する平面的分散度、上階と下階に配置された複数の耐震壁44の離れ度合いを評価する立面的分散度等を判定して点数付けを行って評価し、最も良い評価を得たパターン候補を耐震壁44の配置パターンとすることが可能である。この方法では、コンピュータを利用して可能性のある全ての配置パターンの中から最も適した配置を選択することが可能である。
【0069】次に、ステップS10では、ステップS9で耐震壁44を配置した建物について構造計算を行う。この構造計算の結果、必要な強度を満足すれば一連の作業を終了し、強度を満足し得ない場合、例えばステップS1に戻って外形形状から設計を変更し、再度ステップS10まで一連の作業を実施する。
【0070】上記の如くして建物の設計を支援することが可能である。特に、この方法では、必ずしも玄関11や水回り或いは階段14等の要素の位置や構成、或いは間仕切壁5の位置や構成を具体的に設定することなく、構造計算を進行することが可能である。
【0071】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明に係る住宅のプレゼンテーション用図面セットでは、新築時の間取りを記載した第1の平面図と、第1の平面図から耐震壁を含むことがなく且つ撤去可能な壁を消去して構成した空間を記載した第2の平面図とを有するので、顧客に対し自由度の高い空間が充分に確保されていることを訴えることが出来、且つ該空間の多様な変化に対する対応性を判り易く提案することが可能となり、的確なプレゼンテーションを行うことが出来る。
【0072】特に、第2の平面図に於ける空間を915mmに対応させた複数の線により形成した多数のグリッドとして記載した場合、該グリッドを面積の基準として認識することが容易となり、この空間の規模、形状の把握が容易になり、設計者と顧客が将来の変化に対応し得る間取りの検討、即ち、設計プロセスを共有することが出来る。
【0073】また顧客に対し、自由度の高い空間を提示することによって、将来の変化に対応させた多数の計画を提案する必要がなくなり、設計作業を軽減することが出来る。
【0074】また本発明に係る住宅の設計支援方法では、住宅の外形と、耐震壁を配置したくない領域及び線分を指定することが出来るため、間取りの計画が確定していなくとも、構造の検討を進めることが出来る。特に、耐震壁の配置不可領域及び配置不可線分以外の部位では、何度でも耐震壁を配置して構造の検討を行なうことが出来るため、間取りの変更が生じた場合であっても、極めて容易に再検討を行なうことが出来る。また予め構造の検討を行なった後、間取りの計画を行なうことが出来るため、手戻りが少なく、作業を容易に進めることが出来る。更に、計画の進行に合わせて耐震壁の再配置が出来るため、構造検討と同時進行で設計を行なうことが出来る。このため、設計計画検討を省力化することが出来る。
【0075】耐震壁配置不可領域内の間取りは自由に設定することが出来るため、将来生じる家族構成の変化や生活様式の変化に対応した間取りを容易に計画することが出来る。」

(カ)上記(ア)ないし(オ)からみて、引用例には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「住宅の外形及び耐震壁配置不可領域と耐震壁配置不可線分並びに耐震壁配置候補線分とからなる情報を入力する工程と、別途算出された必要耐震壁量を満足する耐震壁を耐震壁配置可能線分に配置する工程とを有する住宅の設計支援方法において、
設計支援方法の手順は、
支援手順をスタートし、
ステップS1では、建物の形状を入力するものであって、この建物の形状とは、必須である建物の外壁の線、及び必須ではない開口部や間仕切壁であり、
ステップS2では、耐震壁配置候補線分を入力するものであって、この耐震壁配置候補線分は、耐震壁を配置する候補となる外壁、及び間仕切壁或いは該間仕切壁を想定した部位に相当する線分であり、左右方向(X方向)では、建物の最も左側に位置する外壁を基準線X0とし、玄関のポーチに対応する外壁を候補線X1とし、更に便所と階段との境界を構成する間仕切壁を候補線X2とし、階段の右側を構成する間仕切壁を候補線X3とし、建物の最も右側の外壁を候補線X4として設定し、更に、上下方向(Y方向)では、最も下方の外壁を基準線Y0とし、玄関の下側に対応する部位を候補線Y1とし、玄関のホールと風呂場,洗面所との境界に対応する間仕切壁を候補線Y2とし、最も上方の外壁を候補線Y3として設定したものであり、
ステップS3では、耐震壁配置不可領域を入力するものであって、この耐震壁配置不可領域は、外壁の線で囲まれた内部に於ける耐震壁を配置してはいけない領域、即ち、ユニバーサル空間に対応する領域であるが、ユニバーサル空間は、必ずしも間取りから玄関?階段を除いた部分として設定すべきものではなく、建物の形状を決定した後、該形状に対し第1順位で設定しても良いものであって、この場合、予め1階に配置すべき要素(玄関11?階段14)を決定しておくと共に各要素に必要な面積、及び概略配置位置を想定しておくものであり、
ステップS4では、耐震壁配置不可線分を入力するものであって、この耐震壁配置不可線分は、ステップS2で入力した耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁を配置してはいけない部分に対応する線分であり、
ステップS5では、上記各ステップS1?ステップS4を経ることによって得られた図面が検討用である場合にはステップS7へ進行し、また別の行程で作成された壁を考慮した図面が提示された場合にはステップS6へ進行するように選択するものであって、
ステップS6では、作成された図面を編集してステップS7へ進行するものであって、
ステップS7では、別途算出した必要耐力壁数Nを入力するものであって、必要耐力壁数Nは、建物のX方向及びY方向に作用する水平力を算出し、この水平力と耐力壁の許容荷重とによって各方向に配置すべき耐力壁の数を算出するものであり、
ステップS8では、耐震壁配置可能線分を作成するものであって、この耐震壁配置可能線分は、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3から耐震壁配置不可線分を削除したものであり、
上記ステップS1?ステップS8を経ることで、耐震壁配置候補線分X0?X4,Y0?Y3に於ける耐震壁配置可能線分を設定することが可能であり、
ステップS9では、耐震壁配置可能線分に対し耐震壁を配置するものであって、特に、耐震壁の配置をコンピュータを利用して行なう場合、設定された耐震壁配置可能線分に対して耐震壁を配置し得る全ての組み合わせからなるパターン候補を抽出し、このパターン候補毎に、耐震壁の柱に対する接触の度合いを評価する柱隣接度、同一の平面に配置された複数の耐震壁の離れ度合いを評価する平面的分散度、上階と下階に配置された複数の耐震壁の離れ度合いを評価する立面的分散度等を判定して点数付けを行って評価し、最も良い評価を得たパターン候補を耐震壁の配置パターンとすることが可能であり、
ステップS10では、ステップS9で耐震壁を配置した建物について構造計算を行うものであって、この構造計算の結果、必要な強度を満足すれば一連の作業を終了し、強度を満足し得ない場合、ステップS1に戻って外形形状から設計を変更し、再度ステップS10まで一連の作業を実施するものであることから、
必ずしも玄関や水回り或いは階段等の要素の位置や構成、或いは間仕切壁5の位置や構成を具体的に設定することなく、構造計算を進行することが可能であり、
耐震壁配置不可領域内の間取りは自由に設定することが出来るため、将来生じる家族構成の変化や生活様式の変化に対応した間取りを容易に計画することが出来る、住宅の設計支援方法。」

(2)対比
そこで、本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「住宅の設計支援方法」は、本件補正発明の「建物の設計方法」に相当する。

イ 引用発明の「左右方向(X方向)では、建物の最も左側に位置する外壁5」である「基準線X0」と、「玄関のポーチに対応する外壁5」である「候補線X1」と、「建物の最も右側の外壁」である「候補線X4」と、「上下方向(Y方向)では、最も下方の外壁」である「基準線Y0」と、「最も上方の外壁」である「候補線Y3」は、いずれも本件補正発明の「外壁線」に相当する。

ウ 引用発明の「左右方向(X方向)では、」「便所と階段との境界を構成する間仕切壁」である「候補線X2」と、「階段の右側を構成する間仕切壁」である「候補線X3」と、「上下方向(Y方向)では、」「玄関の下側に対応する部位」である「候補線Y1」と、「玄関のホールと風呂場,洗面所との境界に対応する間仕切壁」である「候補線Y2」は、候補線X0,X1,X4,Y0,Y3の内側にあり、かつ左右方向(X方向)または上下方向(Y方向)の線分であるので、いずれも本件補正発明の「建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線」に相当する。

エ 引用発明は、「ステップS9では、耐震壁配置可能線分に対し耐震壁を配置するものであって、特に、耐震壁の配置をコンピュータを利用して行なう場合、設定された耐震壁配置可能線分に対して耐震壁を配置し得る全ての組み合わせからなるパターン候補を抽出し、このパターン候補毎に、耐震壁の柱に対する接触の度合いを評価する柱隣接度、同一の平面に配置された複数の耐震壁の離れ度合いを評価する平面的分散度、上階と下階に配置された複数の耐震壁の離れ度合いを評価する立面的分散度等を判定して点数付けを行って評価し、最も良い評価を得たパターン候補を耐震壁の配置パターンとすることが可能であ」ることからすると、引用発明において、「耐震壁」には、接触または隣接して「柱」があり、そして当該「柱」は耐震壁配置可能線分上にあるので、「建物の構造上必要な構造柱」であることは、当業者にとって自明なことである。そして「耐震壁」が「耐力壁」の一種であることも当業者にとって自明なことであるので、引用発明の「柱」及び「耐震壁」は、本件補正発明の「建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁」に相当する。

オ 引用発明は、外壁に沿う候補線X0,X1,X4,Y0,Y3よりも内側では、耐震壁を配置する候補となるのは候補線X2,X3,Y1,Y2であるので、耐震壁や柱は候補線X2,X3,Y1,Y2のみに設置していると言える。とすれば、引用発明の「耐震壁配置候補線分は、耐震壁を配置する候補となる外壁、及び間仕切壁或いは該間仕切壁を想定した部位に相当する線分であり、左右方向(X方向)では、建物の最も左側に位置する外壁を基準線X0とし、玄関のポーチに対応する外壁を候補線X1とし、更に便所と階段との境界を構成する間仕切壁を候補線X2とし、階段の右側を構成する間仕切壁を候補線X3とし、建物の最も右側の外壁を候補線X4として設定し、更に、上下方向(Y方向)では、最も下方の外壁を基準線Y0とし、玄関の下側に対応する部位を候補線Y1とし、玄関のホールと風呂場,洗面所との境界に対応する間仕切壁を候補線Y2とし、最も上方の外壁を候補線Y3として設定したものであ」ることとは、本件補正発明の「外壁線よりも内側において、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁は、第1基本線上にのみ設置」していることに相当する。

カ 上記アないしオからみて、本件補正発明と引用発明とは、
「建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線を設定し、外壁線よりも内側においては、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁を、第1基本線上にのみ設置するようにした、建物の設計方法。」で一致し、以下の2点で相違している。
相違点1:第1の基本線を設定するときが、本件補正発明では、個別具体的な間取りのプランニング前であるのに対し、引用発明では、個別具体的な間取りのプランニング前かどうか不明な点。
相違点2:本件補正発明は、第1基本線に沿って基礎を設けるのに対し、引用発明は第1基本線に沿って基礎を設けるかどうか不明な点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1
(ア)引用発明において、「ステップS3では、」「ユニバーサル空間は、」「建物の形状を決定した後、該形状に対して第1順位で設定しても良いものであって、この場合、予め1階に配置すべき要素(玄関?階段)を決定しておくと共に各要素に必要な面積、及び概略配置位置を想定しておくもの」であることからすると、ユニバーサル空間の設定は、玄関?階段等の各要素は概略配置の状態のときに設定しても良い、つまりは玄関?階段等の各要素の個別具体的に配置する前の段階の状態で設定しても良いと言える。
そして、該「ステップS3」の前の手順である「ステップS2」で、耐震壁を配置する候補となる候補線X2,X3,Y1,Y2を入力しているのであるから、候補線X2,X3,Y1,Y2を入力する時期は、前記各要素が個別具体的に配置する前の段階の状態で設定しても良いものである。
これらの点からみて、候補線X2,X3,Y1,Y2を入力する時期として、個別具体的な間取りのプランニング前を選択して、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者ならば容易に成し得たことである。

(イ)仮に上記(ア)で述べた「各要素は概略配置の状態のとき」が「個別具体的な間取りのプランニング前」ではないとしても、引用発明が、「必ずしも玄関や水回り或いは階段等の要素の位置や構成、或いは間仕切壁の位置や構成を具体的に設定することなく、構造計算を進行することが可能であ」るものであるから、より早い段階、つまりは「各要素は概略配置の状態のとき」よりも早い段階で、候補線X2,X3,Y1,Y2を入力して、構造計算に進行しようとすることは、当業者であれば容易に気付くことである。
したがって、「各要素は概略配置の状態のとき」よりも早い段階として、「個別具体的な間取りのプランニング前」に候補線X2,X3,Y1,Y2を入力して、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者ならば容易に成し得たことである。

イ 相違点2
本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2004-245040号公報の段落【0066】に「建物内部にブレースパネル(本件補正発明の「耐力壁」に相当。)がある場合には、基礎梁、外壁線下の布基礎を含んで閉じるように、パネル直下に布基礎を発生させる。」ことが記載されているように、建物内部の耐力壁の直下に基礎を設けることは、従来より周知な技術であるので、引用発明の耐力壁が配置されるであろう基本線に沿って、基礎を設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年1月27日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3(1)」に記載したとおりである。

3 対比
そこで、本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「設計支援方法」によって設計された「住宅」は、本願発明の「建物」に相当するといえる。

イ 引用発明の「左右方向(X方向)では、建物の最も左側に位置する外壁」である「基準線X0」と、「玄関のポーチに対応する外壁」である「候補線X1」と、「建物の最も右側の外壁」である「候補線X4」と、「上下方向(Y方向)では、最も下方の外壁」である「基準線Y0」と、「最も上方の外壁」である「候補線Y3」は、いずれも本願発明の「外壁線」に相当する。

ウ 引用発明の「左右方向(X方向)では、」「便所と階段との境界を構成する間仕切壁」である「候補線X2」と、「階段の右側を構成する間仕切壁」である「候補線X3」と、「上下方向(Y方向)では、」「玄関の下側に対応する部位」である「候補線Y1」と、「玄関のホールと風呂場,洗面所との境界に対応する間仕切壁」である「候補線Y2」は、候補線X0,X1,X4,Y0,Y3の内側にあり、かつ左右方向(X方向)または上下方向(Y方向)の線分であるので、いずれも本願発明の「建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線」に相当する。

エ 引用発明は、「ステップS9では、耐震壁配置可能線分に対し耐震壁を配置するものであって、特に、耐震壁の配置をコンピュータを利用して行なう場合、設定された耐震壁配置可能線分に対して耐震壁を配置し得る全ての組み合わせからなるパターン候補を抽出し、このパターン候補毎に、耐震壁の柱に対する接触の度合いを評価する柱隣接度、同一の平面に配置された複数の耐震壁の離れ度合いを評価する平面的分散度、上階と下階に配置された複数の耐震壁の離れ度合いを評価する立面的分散度等を判定して点数付けを行って評価し、最も良い評価を得たパターン候補を耐震壁の配置パターンとすることが可能であ」ることからすると、引用発明において、「耐震壁」には、接触または隣接して「柱」があり、そして当該「柱」は耐震壁配置可能線分上にあるので、「建物の構造上必要な構造柱」であることは、当業者にとって自明なことである。そして「耐震壁」が「耐力壁」の一種であることも当業者にとって自明なことであるので、引用発明の「柱」及び「耐震壁」は、本願発明の「建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁」に相当する。

オ 引用発明は、外壁に沿う候補線X0,X1,X4,Y0,Y3よりも内側では、耐震壁を配置する候補となるのは候補線X2,X3,Y1,Y2であるので、耐震壁や柱は候補線X2,X3,Y1,Y2のみに設置していると言える。とすれば、引用発明の「耐震壁配置候補線分は、耐震壁を配置する候補となる外壁、及び間仕切壁或いは該間仕切壁を想定した部位に相当する線分であり、左右方向(X方向)では、建物の最も左側に位置する外壁を基準線X0とし、玄関のポーチに対応する外壁を候補線X1とし、更に便所と階段との境界を構成する間仕切壁を候補線X2とし、階段の右側を構成する間仕切壁を候補線X3とし、建物の最も右側の外壁を候補線X4として設定し、更に、上下方向(Y方向)では、最も下方の外壁を基準線Y0とし、玄関の下側に対応する部位を候補線Y1とし、玄関のホールと風呂場,洗面所との境界に対応する間仕切壁を候補線Y2とし、最も上方の外壁を候補線Y3として設定したものであ」ることとは、本願発明の「外壁線よりも内側において、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁は、第1基本線上にのみ設置」されていることに相当する。

カ 上記アないしオからみて、本願発明と引用発明とは、
「建物の外壁線よりも内側に、外壁線と平行な少なくとも1の第1基本線が設定され、外壁線よりも内側においては、建物の構造上必要な柱である構造柱、耐力壁、または構造柱および耐力壁が、第1基本線上にのみ設置されている、建物。」で一致し、以下の点で相違している。
相違点3:第1の基本線を設定するときが、本願発明では、個別具体的な間取りのプランニング前であるのに対し、引用発明では、個別具体的な間取りのプランニング前かどうか不明な点。

4 判断
上記相違点3について検討すると、当該相違点3は上記「第2 〔理由〕 3 (2) カ」に記載した相違点1と実質的に同じであるので、上記「第2 〔理由〕 3 (3) ア」に記載した理由と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、本願発明は、「建物」という物の発明であるので、そもそも第1基本線が設定されたときが、個別具体的な間取りのプランニング前か後かで、その建物の構造が特に変わるものではない。
そして、第1の基本線の設定をどの段階で行ったかは、当業者が適宜選択し得る設計上の事項に過ぎないことであって、どの段階で行ったかで作用・効果に顕著な違いもみられず、よって個別具体的な間取りのプランニング前に第1基本線を設定した点は、当業者が容易に想到し得たことである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-06 
結審通知日 2014-06-10 
審決日 2014-06-24 
出願番号 特願2007-227337(P2007-227337)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04H)
P 1 8・ 575- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 竹村 真一郎
住田 秀弘
発明の名称 建物および建物の設計方法  
代理人 黒田 博道  
代理人 北口 智英  

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