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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1290466
審判番号 不服2013-15270  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-07 
確定日 2014-08-07 
事件の表示 特願2011- 8676「有機電界発光素子、表示装置および照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日出願公開、特開2012-151271〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年1月19日の出願であって、平成25年3月8日に手続補正書が提出され、同年4月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月7日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年3月8日に提出された手続補正書をもってした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年3月8日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認める。

「互いに離間して配置された陽極および陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置され、ホスト材料および発光ドーパントを含む発光層と
を具備する有機電界発光素子であって、
前記発光ドーパントとして、下記一般式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

」(以下、「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である、Liming Zhang et al.'Realization of High-Energy Emission from [Cu(N-N)(P-P)]^(+) Complexes for Organic Light-Emitting Diode Applications', J.Phys.Chem.C, 2009, Vol.113, pages 13968-13973.(以下『引用例1』という。)」には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「Considering their promising PL quantum efficiencies and short excited-state lifetimes, blue-emitting [Cu(Bimda)(POP)]BF_(4) and green-emitting [Cu(Et-Tbzimda)(POP)]BF_(4) are selected for OLED fabrication. The OLEDs utilizing [Cu(Bimda)(POP)]BF_(4) and [Cu(Et-Tbzimda)(POP)]BF_(4 ) as dopants in a CBP emissive layer were fabricated with a general structure of ITO/m-MTDATA (30nm)/NPB (20nm)/CBP:Cu(I) complex (wt%, 30nm)/Bphen (20nm)/AlQ (20nm)/LiF/Al, where m-MTDATA is used as the hole injection layer and NPB is the hole-transporting layer. Meanwhile, Bphen and AlQ are employed as the exciton-blocking layer and the electron-transporting layer, respectively. The optimal dopant concentrations were found to be 23% for [Cu(Bimda)(POP)]BF_(4) and 18% for [Cu(Et-Tbzimda)(POP)]BF_(4).」(13971頁右欄下から14行?末行)
(日本語訳:それらの将来有望なPL量子効率と短い励起状態の寿命に鑑み、有機LEDの製造のために、青色発光する [Cu(Bimda)(POP)]BF_(4)と緑色発光する[Cu(Et-Tbzimda)(POP)]BF_(4)とが選択されている。CBP発光層のドーパントとして[Cu(Bimda)(POP)]BF_(4)と[Cu(Et-Tbzimda)(POP)]BF_(4)を用いた有機LEDが、一般的なITO/30nm厚のm-MTDATA/20nm厚のNPB/wt%、30nm厚のCBP:銅(I)錯体/20nm厚のBphen/20nm厚のAlQ/LiF/Alの構造にて製造された。その際、m-MTDATAが正孔注入層として用いられ、NPBが正孔輸送層である。一方、BphenとAlQがそれぞれ励起子ブロッキング層及び電子輸送層として採用される。最適なドーパントの濃度は、[Cu(Bimda)(POP)]BF_(4)を23%、[Cu(Et-Tbzimda)(POP)]BF_(4)を18%とすべきことが見出された。)

イ 13969頁左欄のスキーム1は次のとおりである。




(2)上記ア及びイの記載からみて、引用例1には、
「ITO/30nm厚のm-MTDATA/20nm厚のNPB/30nm厚のCBP:銅(I)錯体/20nm厚のBphen/20nm厚のAlQ/LiF/Alの構造にて製造された有機LEDであって、
CBP発光層のドーパントである前記銅(I)錯体が、下記式で表される青色発光する[Cu(Bimda)(POP)]BF_(4)を含む、
有機LED。

」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)上記アのITO/30nm厚のm-MTDATA/20nm厚のNPB/30nm厚のCBP:銅(I)錯体/20nm厚のBphen/20nm厚のAlQ/LiF/Alの構造において、ITOが陽極、Alが陰極であることは当業者には明らかであるから、引用発明の「ITO」、「CBP発光層」、「Al」、「ドーパント」及び「有機LED」は、それぞれ、本願発明の「陽極」、「発光層」、「陰極」、「発光ドーパント」及び「有機電界発光素子」に相当する。

(2)引用発明のITO/30nm厚のm-MTDATA/20nm厚のNPB/30nm厚のCBP:銅(I)錯体/20nm厚のBphen/20nm厚のAlQ/LiF/Alの構造は、「陽極(ITO)」と「陰極(Al)」とが、間に30nm厚のm-MTDATA/20nm厚のNPB/30nm厚のCBP:銅(I)錯体/20nm厚のBphen/20nm厚のAlQ/LiFを挟んで、離間して配置されており、また、「陽極(ITO)」と「陰極(Al)」との間に、「発光ドーパント(ドーパント)」である[Cu(Bimda)(POP)]BF_(4)を含む「発光層(CBP発光層)」が配置されており、「発光層(CBP発光層)」がホスト材料も含むことは明らかであるから、引用発明の「有機電界発光素子(有機LED)」と本願発明の「有機電界発光素子」とは、「互いに離間して配置された陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置され、ホスト材料および発光ドーパントを含む発光層とを具備する有機電界発光素子であって、前記発光ドーパントとして、ビイミダゾール配位子とトリフェニルホスフィン配位子を有し、BF_(4)を対イオンとする銅(I)錯体を含む有機電界発光素子」である点で一致する。

(3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明とは、
「互いに離間して配置された陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置され、ホスト材料および発光ドーパントを含む発光層とを具備する有機電界発光素子であって、前記発光ドーパントとして、ビイミダゾール配位子とトリフェニルホスフィン配位子を有し、BF_(4)を対イオンとするイオン型銅(I)錯体を含む有機電界発光素子」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
「ビイミダゾール配位子とトリフェニルホスフィン配位子を有し、BF_(4)を対イオンとするイオン型銅(I)錯体」が、
本願発明では、[Cu(biimida)(PPh_(3))_(2)]BF_(4)、すなわち、

であるのに対し、
引用発明では、[Cu(biimida)(POP)]BF_(4)、すなわち、

である点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である中国特許出願公開第100999528号明細書(以下『引用例2』という。)」には、次の事項が記載されている。


」(6頁?23頁)
(日本語抄訳:
ア 「イミダゾール誘導体を配位子とする銅(I)錯体
【技術分野】
本発明は、イミダゾール誘導体を配位子とする銅(I)錯体に関する。発光材料技術領域に属する。」(6頁1?4行)

イ 「発明の概要
本発明は、イミダゾール誘導体を配位子とする銅(I)錯体を提供することを目的とする。
本発明は、一連のイミダゾール誘導体を設計・合成し、それを第1の配位子とし、フェニルホスフィン誘導体を第2の配位子として、銅(I)と配体し、中性又はイオン型銅(I)錯体を調製でき、このような錯体が光或は電作用ので、燐光放射を達成できる。他の配位子に比べて、イミダゾール誘導体配位子は合成及び純化が容易で、一価の銅イオンと中性錯体を形成できる等の特点を有する。
本発明で調製された銅(I)錯体は、イミダゾール誘導体配位子及び有機ホスフィン配位子を同時に含み、イミダゾール誘導体配位子はイミダゾール環の2位が窒素含有芳香族複素環式置換基を指し、有機ホスフィン配位子がアリールホスフィン配位子を指す
本発明におけるイミダゾール誘導体を配位子とする銅(I)錯体が具体的には以下のような4種類の構造タイプを有し、
・・・(略)・・・
Iはイミダゾール誘導体を配位子とする中性銅(I)錯体を表し、IIはイミダゾール誘導体を配位子とするイオン型銅(I)錯体を表す。IIIはイミダゾール誘導体を配位子とする中性双核銅(I)錯体を表し、IVはイミダゾール誘導体を配位子とするイオン型双核銅(I)錯体を表す。
構造一般式において、

は、窒素-窒素を配位原子とするイミダゾール誘導体二座配位子を表し、下記のような配位子から選ばれる1種であり、
・・・(略)・・・
だだし、R_(1)、R_(2)及びR_(3)が独立に水素、フッ素、トリフルオロメチル基、シアノ基、C_(1)-C_(30)アルキル基、C_(1)-C_(20)アルコキシ基、C_(6)-C_(30)アリール基、C_(6)-C_(30)縮合芳香環基あるいはC_(5)-C_(30)のヘテロアリール基から選ばれる。
構造一般式において、

は、窒素-窒素を配位原子とするイミダゾール誘導体二座配位子を表し、下記のような配位子から選ばれ、
・・・(略)・・・
だだし、R_(2)が水素、フッ素、トリフルオロメチル基、シアノ基、C_(1)-C_(30)のアルキル基、C_(1)-C_(20)のアルコキシ基、C_(6)-C_(30)のアリール基、C_(6)-C_(30)縮合芳香環基あるいはC_(5)-C_(30)のヘテロアリール基から選ばれる。
構造一般式において、

は、二つの単独のトリフェニルホスフィン配位子あるいは橋かけフェニルホスフィン二座配位子を表し、下記のような配位子から選ばれる1群であり、
・・・(略)・・・
だだし、R_(4)、R_(5)及びR_(6)が独立にC_(1)-C_(30)のアルキル基又はC_(1)-C_(20)のアルコキシ基から選ばれ、nは1-5から選ばれるいずれかの整数である。
Ac^(-)は対イオンを表し、ClO_(4)^(-)、BF_(4)^(-)或はPF_(6)^(-)から選ばれる。
銅(I)錯体におけるイミダゾール誘導体配位子はピリジルベンズイミダゾール、キノリルベンズイミダゾール或は2,2’-ビベンゾイミダゾールから選ばれることが好ましい。
銅(I)錯体は強い室温燐光放射特性があり、発光材料として用いられる。
本発明により提供されたイミダゾール誘導体を配位子とする銅(I)錯体の調製方法は実施例より提供される。得られた銅(I)錯体がNMR、紫外、蛍光及び結晶構造解析により特徴を示す(図面及び表を参照する。)。」(7頁14行?10頁下から7行)

ウ 「附表2は実施例における化合物の光物理データを示す。その中には、錯体のPMMAフィルム(質量百分率20wt%)及びジクロロメタン(DCM)中での光物理データがある。」(11頁14?15行)

エ 「【発明を実施するための形態】
実施例における化合物構造を以下に示す。
・・・(以下略)・・・」(11頁16行?14頁1行)

オ 「実施例4[Cu(Hpbm)(PPh_(3))_(2)][BF_(4)]とCu(pbm)(PPh_(3))_(2)の合成
2-(2’-ピリジル)ベンズイミダゾール(Hpbm)(195mg,1.0mmol)とトリフェニルホスフィン(PPh_(3))(524mg, 2.0mmol)と銅(I)テトラフルオロボレイトテトラ アセトニトリル[Cu(CH_(3)CN_(4))][BF_(4)](314mg,1.0mmol)をジクロロメタン10mLに溶解し、草緑色の透明な溶液が得られた。5時間撹拌した後、少量のメタノールを加えて再結晶し、黄緑色の結晶[Cu(Hpbm)(PPh_(3))_(2)][BF_(4)]が得られ、収率は84%である。」(15頁下から2行?16頁3行)

カ 「実施例6[Cu(Hqbm)(PPh_(3))_(2)][BF_(4)]及びCu(qbm)(PPh_(3))_(2)の合成
2-(2’-キノリル)ベンズイミダゾール(Hqbm)(245mg,1.0mmol)とトリフェニルホスフィン(PPh_(3))(524mg,2.0mmol)と[Cu(CH_(3)CN_(4))][BF_(4)](314mg,1.0mmol)を共にジクロロメタン10mLに溶解し、室温で5時間撹拌した後、メタノール10mLを加えて再結晶し、橙色の固体[Cu(Hqbm)(PPh_(3))_(2)][BF_(4)]770mgが得られ、収率は84%である。
・・・(以下略)・・・」(17頁6?13行)

キ 「附表2
錯体のPMMAフィルム(質量百分率20wt%)及びジクロロメタン(DCM)中での光物理データ
・・・(略)・・・」(21頁)

(2)上記(1)からみて、本願出願前に、イミダゾール誘導体を配位子とするイオン型銅(I)錯体であって、下記IIの構造タイプのもの

(ただし、

は、二つの単独のトリフェニルホスフィン配位子((PPh_(3))_(2))あるいは橋かけフェニルホスフィン二座配位子(例えばPOP)を表し、Ac^(-)はBF_(4)^(-)である)は、いずれも、強い室温燐光放射特性があり、発光材料として用いることができ、例えば、配位子が(PPh_(3))_(2)の具体例である[Cu(Hpbm)(PPh_(3))_(2)][BF_(4)]、[Cu(Hqbm)(PPh_(3))_(2)][BF_(4)]を合成し、PMMAフィルム(質量百分率20wt%)中での光物理データを測定すると、それぞれ323nm、359nmの波長で発光し、ジクロロメタン(DCM)中での光物理データを測定すると、それぞれ320nm、359.5nmの波長で発光し、配位子が(POP)の具体例である[Cu(Hpbm)(POP)][BF_(4)]、[Cu(Hqbm)(POP)][BF_(4)]を合成し、PMMAフィルム(質量百分率20wt%)中での光物理データを測定すると、それぞれ317.4nm、359nmの波長で発光し、ジクロロメタン(DCM)中での光物理データを測定すると、それぞれ319.4nm、354.5nm、の波長で発光すること(以下「引用例2の技術事項」という。)が公知であったものと認められる。

(3)上記(2)からみて、引用発明において、[Cu(biimida)(POP)]BF_(4)の(POP)配位子に換えて(PPh_(3))_(2) 配位子を採用することが、当業者にとって、格別の創作力を要することであるとは考えられないから、引用発明において相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例2の技術事項に基づいて容易になし得たことである。

(4)請求人は、審判請求書6頁下から12行?7頁5行において、「発光に寄与するユニットを構成するCu原子にどのような配位子を配位させるかについて当業者が検討すると、POPなどの環構造が連結された配位子を選択するものと考えられます。理由は、例えばPOPは2つのベンゼン環がO原子を介して連結されているために平面性が高いので、このような配位子を有する銅錯体は全体として安定性が高くなることが予想され、また、容易に合成できると予想されるためです。 一方、PPh_(3)はそれぞれのフェニル基がねじれる可能性があることから、これを配位子として有する銅錯体は安定性が低くなると予想されるものと考えられます。さらに、PPh_(3)を配位子に用いた銅錯体が理論的に合成できるとしても、この化合物を実験的に合成できない可能性があります。すなわち、PPh_(3)は立体的に大きな配位子であることから、立体障害により銅原子に2つ配位せずに1つしか配位しない可能性があります。従って、実際には配位子としてPPh_(3)を2つ有する銅錯体を合成できない可能性があり、実験してみないと合成に成功するかどうか分かりません。本願発明者らは、この銅錯体を合成できることを実験により確認し、さらに、この銅錯体が発光波長469nmの青色発光を生じるものであることを実験により確認致しました。」と主張する。
しかし、引用例2の技術事項は、PPh_(3)を配位子に用いた銅錯体が実際に合成できること、及び、PPh_(3)を配位子に用いた銅錯体がPOPを配位子に用いた銅錯体と同様に青色発光を生じるものであることを示しているから、上記請求人の主張は採用することができない。

(5)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2の技術事項の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(6)したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び引用例2の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-03 
結審通知日 2014-06-10 
審決日 2014-06-23 
出願番号 特願2011-8676(P2011-8676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西村 仁志
鉄 豊郎
発明の名称 有機電界発光素子、表示装置および照明装置  
代理人 峰 隆司  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  
代理人 佐藤 立志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 岡田 貴志  

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