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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1290468
審判番号 不服2013-16060  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-20 
確定日 2014-08-07 
事件の表示 特願2009-285627「燃料噴射弁」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月30日出願公開、特開2011-127486〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年12月16日の出願であって、平成25年2月20日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月20日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年4月18日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
燃料下流側へ向かって縮径するテーパ面状の弁座面により燃料通路を形成する弁座部と、
燃料上流側の前記燃料通路へ向かって開口する凹部によりサック室を形成し、前記サック室と連通する噴孔が前記凹部に開口し、前記弁座面に沿った仮想テーパ面の中心軸線側において前記噴孔の内周面が当該仮想テーパ面と交差するサック部と、
前記弁座面に対して離着座することにより、前記噴孔から内燃機関への燃料噴射を断続する弁部材と、
を備える燃料噴射弁であって、
前記サック室を形成する前記凹部は、
前記弁座面に着座した前記弁部材との間に前記サック室を確保する底面と、
燃料下流側の前記底面へ向かって縮径するテーパ面状に形成され、前記噴孔が開口する噴孔開口面と、
前記仮想テーパ面よりも燃料下流側へ向かって凹む凹形曲面状に形成され、前記弁座面と前記噴孔開口面との間を接続する接続面と、
を有し、
前記接続面は、燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状に、形成され、
前記噴孔開口面のテーパ角度は、前記弁座面のテーパ角度よりも大きく、
前記仮想テーパ面は、前記噴孔のうちテーパ面状の前記噴孔開口面に開口した燃料入口に対し、前記底面側よりも前記接続面側に偏る箇所にて交差することを特徴とする燃料噴射弁。」

3 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-207439号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体(18)と,この弁体(18)が開閉可能に着座する環状で円錐状の弁座(8)を有する弁座部材(3)と,弁座(8)の下流側に位置するように弁座部材(3)の前端部に連設され,弁座(8)の中心線(Y)周りに配置される複数の燃料噴孔(11)を有するノズル(10)とを備えた燃料噴射弁において,
弁座部材(3)及びノズル(10)を同一素材で一体に形成すると共に,そのノズル(10)の内端面(10a)と,この内端面(10a)に対向する弁体(18)の先端面(16b)とを,それぞれ燃料噴射弁(I)の前方に向かって縮径する円錐面又は球面で構成し,弁座(8)の母線の延長線(L)が各燃料噴孔(11)の内面と交差するように各燃料噴孔(11)を配置し,弁座部材(3)の前端面には,ノズル(10)を受容する凹部(13)を設けたことを特徴とする燃料噴射弁。
(中略)
【請求項5】
請求項1?4の何れかに記載の燃料噴射弁において,
ノズル(10)の内端面(10a)と弁座(8)との間に,弁体(18)及びノズル(10)の相互接触を回避する環状段部(15)を形成したことを特徴とする燃料噴射弁。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)

(b)「【0001】
本発明は,主として内燃機関の燃料供給系に使用される燃料噴射弁に関し,特に,弁体と,この弁体が開閉可能に着座する環状で円錐状の弁座を有する弁座部材と,弁座の下流側に位置するように弁座部材の前端部に連設され,弁座の中心線周りに配置される複数の燃料噴孔を有するノズルとを備えた燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる電磁式燃料噴射弁は,下記特許文献1及び2に開示されるように既に知られている。
【0003】
ところで,近年の内燃機関では,出力向上と排ガスの低公害化に対する要求が益々増してきている。そこで燃料噴射弁には,出力向上のために,大量の燃料を応答性良く噴射し得る大流量特性が,また排ガスの清浄化のために,噴射燃料を微粒化させながら,その燃料の吸気路内壁への付着を抑制する微粒化・ペネトレーション性が重要となる。
【特許文献1】特開2000-97129号公報
【特許文献1】特許第3027919号公報」(段落【0001】ないし【0003】)

(c)「【0004】
しかしながら,特許文献1及び2の何れに記載されているものも,弁座部及び燃料噴孔間を繋ぐ燃料流路の曲がりが多いため,弁体の開弁時,弁座部を通過した燃料がノズルの燃料噴孔に到達するまでに,その燃料の圧力損失が大きくなり,前述のような大流量特性及び微粒化・ペネトレーション性を満足させることは困難である。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,前述のような大流量特性及び微粒化・ペネトレーション性を同時に満足させ得るようにした前記燃料噴射弁を提供することを目的とする。」(段落【0004】及び【0005】)

(d)「【0011】
本発明の第1の特徴によれば,弁体の開弁時,弁座を通過した燃料の主流が殆ど圧力損失なく燃料噴孔の内面に直接衝突することになり,これにより燃料噴孔からの噴射燃料を効果的に微粒化することができると共に,高速の噴霧フォームを形成することができる。したがって,この噴霧フォームは流速が極めて速く,ペネトレーション性が高いから,エンジンの吸気ポート内壁に付着するものが少なく,また燃料の圧力損失が少ないことから燃料の大流量を確保でき,エンジンの出力向上と排ガスの低公害化に貢献することができる。
(中略)
【0018】
さらにまた本発明の第5の特徴によれば,弁座とノズルの内端面との間に形成された環状段部は,弁体及びノズルの相互干渉を回避して弁密性を高めることができるのみならず,弁座を通過した燃料の主流の燃料噴孔への直接導入を容易にするので,燃料の大流量特性及びペネトレーション性の向上に大いに寄与する。
【0019】
また上記環状段部の存在により,弁体及びノズル間にできたスペースの,燃料噴孔群内側の部分は,燃料流路機能を持つ必要がないデッドスペースであるから,これを弁体及びノズルの相互干渉を回避する範囲で極力狭めて,デッドスペースを小さくし,温度変化に対する燃料噴射特性の安定化を図ることができる。
【0020】
さらに環状の弁座の加工時には,上記環状段部が,刃具とノズルとの干渉を防ぐことになり,弁座の加工を容易,正確に行うことができる。」(段落【0011】ないし【0020】)

(e)「【0025】
図2において,上記燃料噴射弁Iの弁ハウジング2は,前端に弁座8を有する円筒状の弁座部材3と,この弁座部材3の後端部に同軸状に液密に結合される磁性円筒体4と,この磁性円筒体4の後端に同軸状に液密に結合される非磁性円筒体6と,この非磁性円筒体6の後端に同軸状に液密に結合される固定コア5と,この固定コア5の後端に同軸状に連設される燃料入口筒26とで構成される。
【0026】
弁座部材3は,円筒状のガイド孔9と,このガイド孔9の前端に連なる環状の弁座8とを有しており,この弁座部材3には,弁座8の内周側,即ち下流側に位置するノズル10が一体に形成される。具体的には,同一素材に切削加工を施すことにより,弁座部材3及びノズル10は一体に構成される。また弁座部材3の前端面には,ノズル10を受容する凹部13が形成される。
【0027】
上記ノズル10には複数の燃料噴孔11,11…が穿設され,それらは弁座8及びノズル10の中心線Y周りに環状に配列される(図3及び図4参照)。
(中略)
【0035】
図3に示すように,前記環状の弁座8は,燃料噴射弁Iの前方に向かって小径となる円錐面で構成され,これに対向する弁部16の環状封止面16aは凸状球面の一部で構成され,この弁部16の先端面16bは,封止面16aの接線を母線とする円錐面に形成される。
【0036】
一方,ノズル10は,その内端面10a及び外端面も燃料噴射弁Iの前方に向かって小径となる円錐面で構成され,したがって全体的に燃料噴射弁Iの前方に向かう凸状をなしている。また弁座8及びノズル10の内端面10aとの間には,ノズル10の内端面10aと弁部16との間に円錐状のスペース25を確保する環状段部15が設けられる。上記スペース25は,弁部16及びノズル10の相互接触を回避して,弁部16の弁座8への着座を確実にし,弁密性の確保に寄与する。
【0037】
このノズル10に穿設されて前記中心線Y周りに環状配列される複数の燃料噴孔11,11…は,それぞれ前方に向かって前記中心線Yから離れるように傾斜し,且つ各燃料噴孔11の内面が円錐状の弁座8の母線の延長線Lと交差するように配置される。
【0038】
こゝで,ノズル10の内端面10aの円錐角をα,弁座8の円錐角をβ,弁部16の先端面の円錐角をγとしたとき,これらは次式(1)?(3)が成立するように設定される。
【0039】
α>γ・・・・・・・・・・・(1)
α>β・・・・・・・・・・・(2)
10°≦θ≦30°・・・・・(3)
但し,θ=α-β
また弁座8の有効直径をD1,環状配列の複数の燃料噴孔11,11…のピッチ円直径をD2としたとき,次式が成立するように,弁座8及び燃料噴孔11,11…は相互に近接配置される。
【0040】
D1/D2≦1.5・・・・・(4)
弁座部材3の前端に形成されてノズル10を受容する前記凹部13は,その内周面が弁座部材3の前端面に向かって拡径する円錐状に形成される。その際,この凹部13の内周面小径部の直径D3は,弁座8の有効直径D1より小さく設定される。即ち,
D3<D1・・・・・・・・・(5)
また弁座部材3の前端面から弁座8までの高さHは1mm以上に設定される。」(段落【0025】ないし【0040】)

(f)「【0041】
次に,この第1実施例の作用について説明する。
【0042】
コイル30を消磁した状態では,弁ばね22の付勢力で弁組立体Vは前方に押圧され,弁体18を弁座8に着座させている。この状態では,図示しない燃料ポンプから燃料入口筒26に圧送された燃料は,パイプ状のリテーナ23内部,弁組立体Vの縦孔19及び第1及び第2横孔20a,20bを通して弁座部材3内に待機させられ,弁組立体Vのジャーナル部17a,17b周りの潤滑に供される。
【0043】
コイル30を通電により励磁すると,それにより生ずる磁束が固定コア5,コイルハウジング31,磁性円筒体4及び可動コア12を順次走り,その磁力により弁組立体Vの可動コア12が弁ばね22のセット荷重に抗して固定コア5に吸引され,弁体18の弁部16が図5に示すように弁座部材3の弁座8から離座するので,弁座部材3内の高圧燃料の主流Sは,弁座8の円錐面に沿ってノズル10側に進む。
【0044】
ところで,ノズル10の環状配列の複数の燃料噴孔11,11…は,各燃料噴孔11の内面が円錐状の弁座8の母線の延長線Lと交差するように配置されているから,弁座8から各燃料噴孔11に直接向かう燃料の主流Sは圧力損失することなく各燃料噴孔11の内面に勢いよく衝突し,また他の燃料は,弁部16及びノズル10間の狭小な円錐状のスペース25で素早く合流して最寄りの燃料噴孔11に向かうので,比較的多量の燃料が各燃料噴孔11で絞られることで流れを加速してノズル10の前方に噴射される。
【0045】
このように,弁座8を通過した燃料の主流Sが殆ど圧力損失なく燃料噴孔11,11…の内面に直接衝突すること,円錐状のスペース25が狭小で主流S以外の燃料が素早く合流して燃料噴孔11,11…に達し,このときも圧力損失が極めて少ないこと,その結果,燃料噴孔11,11…での燃料の流れが効果的に加速させること等により,環状配列の燃料噴孔11,11…からの噴射燃料を効果的に微粒化することができると共に,高速の噴霧フォームFを形成することができる。したがって,この噴霧フォームFは流速が極めて速く,ペネトレーション性が高いから,エンジンEの吸気ポート50b内壁に付着する燃料のロスが極めて少なく,燃費の低減を図ることができる。また燃料の圧力損失が少ないことは,燃料の大流量を確保できることを意味する。このようにして本発明の電磁式燃料噴射弁Iは,燃料の大流量特性及び微粒化・ペネトレーション性を同時に満足させ得るから,エンジンEの出力向上と排ガスの低公害化に大いに貢献することができる。
【0046】
特に,弁座8とノズル10の内端面10aとの間に形成された環状段部15は,弁部16及びノズル10の相互干渉を回避するのみならず,弁座8を通過した燃料の主流Sの各燃料噴孔11への直接導入を容易にし,燃料の大流量特性及びペネトレーション性の向上に大いに寄与する。
【0047】
また上記環状段部15の存在により,弁部16及びノズル10間にできたスペース25の,燃料噴孔11,11…群内側の部分は,燃料流路機能を持つ必要がないデッドスペースであるから,これを弁部16及びノズル10の相互干渉を回避する範囲で極力狭めて,デッドスペースを小さくし,温度変化に対する燃料噴射特性の安定化を図ることができる。
(中略)
【0050】
また前記(2)及び(3)式に示すように,ノズル10の内端面10aの円錐角αが,弁座8の円錐角βよりも10?30°大きく設定されることにより,燃料の主流Sの各燃料噴孔11内面への衝突入射角度が90°に近づいて激しい衝撃が生じ,噴射燃料の良好な微粒化と高いペネトレーション性を効果的に得ることができる。
【0051】
尚,ノズル10の内端面10aの円錐角αと,それより小さい弁座8の円錐角βとの差θが30°以上であれば,燃料の主流の燃料噴孔内面への衝突入射角度の減少により,該主流の燃料噴孔11軸方向成分が増加して衝突エネルギが低減し,燃料の良好な微粒化を得ることが困難となり,その差θが10°以下であれば,弁座8を通過した燃料の主流Sの各燃料噴孔11の内面に対する効果的な衝突が発生しない。」(段落【0041】ないし【0051】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、以下の事項が分かる。

(ア)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献には、燃料下流側へ向かって縮径する円錐面状の弁座8により燃料通路を形成する弁座部材3と、燃料上流側の燃料通路へ向かって開口するノズル10の内端面10aによりスペース25を形成し、前記スペース25と連通する燃料噴孔11がノズル10の内端面10aに開口し、円錐状の弁座8の母線の延長線Lの中心線Y側において燃料噴孔11の内面が弁座8の母線の延長線Lと交差するノズル10と、弁座8に対して離着座することにより、燃料噴孔11から内燃機関への燃料噴射を断続する弁体18と、を備える燃料噴射弁Iが記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献に記載された燃料噴射弁Iにおいて、スペース25を形成するノズル10の内端面10aは、弁座8に着座した弁体18との間にスペース25を確保するノズル10の内端面10aの底と、燃料下流側のノズル10の内端面10aの底へ向かって縮径する円錐面状に形成され、燃料噴孔11が開口するノズル10の内端面10aと、円錐状の弁座8の母線の延長線Lよりも燃料下流側へ向かって凹む凹形面状に形成され、弁座8とノズル10の内端面10aとの間を接続する環状段部15と、を有していることが分かる。

(ウ)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献に記載された燃料噴射弁Iにおいて、環状段部15は、燃料下流側へ向かって縮径する凹形面状に、形成され、ノズル10の内端面10aの円錐角の2倍は、弁座8の円錐角の2倍よりも大きく、円錐状の弁座8の母線の延長線Lは、燃料噴孔11のうち円錐面状のノズル10の内端面10aに開口した燃料入口に対し、燃料噴孔11の内面の範囲内で交差することが分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「燃料下流側へ向かって縮径する円錐面状の弁座8により燃料通路を形成する弁座部材3と、
燃料上流側の燃料通路へ向かって開口するノズル10の内端面10aによりスペース25を形成し、前記スペース25と連通する燃料噴孔11がノズル10の内端面10aに開口し、円錐状の弁座8の母線の延長線Lの中心線Y側において燃料噴孔11の内面が円錐状の弁座8の母線の延長線Lと交差するノズル10と、
弁座8に対して離着座することにより、燃料噴孔11から内燃機関への燃料噴射を断続する弁体18と、
を備える燃料噴射弁Iであって、
スペース25を形成するノズル10の内端面10aは、
弁座8に着座した弁体18との間にスペース25を確保するノズル10の内端面10aの底と、
燃料下流側のノズル10の内端面10aの底へ向かって縮径する円錐面状に形成され、燃料噴孔11が開口するノズル10の内端面10aと、
円錐状の弁座8の母線の延長線Lよりも燃料下流側へ向かって凹む凹形面状に形成され、弁座8とノズル10の内端面10aとの間を接続する環状段部15と、
を有し、
環状段部15は、燃料下流側へ向かって縮径する凹形面状に、形成され、
ノズル10の内端面10aの円錐角の2倍は、弁座8の円錐角の2倍よりも大きく、
円錐状の弁座8の母線の延長線Lは、燃料噴孔11のうち円錐面状のノズル10の内端面10aに開口した燃料入口に対し、燃料噴孔11の内面の範囲内で交差する、燃料噴射弁I。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「円錐面」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「テーパ面」に相当し、以下同様に、「弁座8」は「弁座面」に、「弁座部材3」は「弁座部」に、「ノズル10の内端面10a」は「凹部」及び「噴孔開口面」に、「スペース25」は「サック室」に、「燃料噴孔11」は「噴孔」に、「燃料噴孔11の内面」は「噴孔の内周面」に、「中心軸Y側」は「中心軸線側」に、「燃料噴孔11」は「噴孔」に、「ノズル10」は「サック部」に、「弁体18」は「弁部材」に、「燃料噴射弁I」は「燃料噴射弁」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「円錐状の弁座8の母線の延長線L」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「弁座面に沿った仮想テーパ面」及び「仮想テーパ面」に相当する。
また、引用発明における「ノズル10の内端面10aの底」は、本願発明における「底面」に、「底」という限りにおいて相当する。
また、引用発明における「凹形面状」は、本願発明における「凹形曲面状」に、「凹形面状」という限りにおいて相当する。
また、引用発明における「環状段部」は、弁座8とノズル10の内端面10aとの間を接続する部分であるから、本願発明における「接続面」に相当する。
また、引用発明における「燃料下流側へ向かって縮径する凹形面状」は、本願発明における「燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状]に、「燃料下流側へ向かって縮径する凹形面状」という限りにおいて相当する。
また、引用発明における「ノズル10の内端面10aの円錐角の2倍」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「噴孔開口面のテーパ角度」に相当し、同様に、「弁座8の円錐角の2倍」は「弁座面のテーパ角度」に、「ノズル10の内端面10aの円錐角の2倍は、弁座8の円錐角の2倍よりも大きく」は「噴孔開口面のテーパ角度は、弁座面のテーパ角度よりも大きく」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「燃料噴孔11の内面の範囲内で交差する」は、本願発明における「底面側よりも接続面側に偏る箇所にて交差する」に、「噴孔の内面の範囲内で交差する」という限りにおいて相当する。

したがって、両者は、
〈一致点〉
「燃料下流側へ向かって縮径するテーパ面状の弁座面により燃料通路を形成する弁座部と、
燃料上流側の燃料通路へ向かって開口する凹部によりサック室を形成し、前記サック室と連通する噴孔が凹部に開口し、弁座面に沿った仮想テーパ面の中心軸線側において噴孔の内周面が仮想テーパ面と交差するサック部と、
弁座面に対して離着座することにより、噴孔から内燃機関への燃料噴射を断続する弁部材と、
を備える燃料噴射弁であって、
サック室を形成する凹部は、
弁座面に着座した弁部材との間にサック室を確保する底と、
燃料下流側の底へ向かって縮径するテーパ面状に形成され、噴孔が開口する噴孔開口面と、
仮想テーパ面よりも燃料下流側へ向かって凹む凹形面状に形成され、弁座面と噴孔開口面との間を接続する接続面と、
を有し、
接続面は、燃料下流側へ向かって縮径する凹形面状に、形成され、
噴孔開口面のテーパ角度は、弁座面のテーパ角度よりも大きく、
前記仮想テーパ面は、噴孔のうちテーパ面状の噴孔開口面に開口した燃料入口に対し、噴孔の内面の範囲内で交差する、燃料噴射弁。」
において一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
(1)サック部の凹部の「底」に関して、本願発明においては、「底面」であるのに対し、引用発明においては「底面」であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)接続面の形状に関して、本願発明においては、「燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状」であるのに対し、引用発明においては、「燃料下流側へ向かって縮径する凹形面状」ではあるが、「燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状」であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)仮想テーパ面が燃料入口に交差する位置に関して、本願発明においては、「底面側よりも前記接続面側に偏る箇所にて交差する」のに対し、引用発明においては、「底面側よりも前記接続面側に偏る箇所にて交差する」のかどうか明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
一般的に、「底」を、面積を有する「底面」とすることは、格別なことではなく一般的なことであり、当業者が適宜なし得る設計事項である。
また、燃料噴射弁において、サック部の凹部の形状は、弁体の先端形状に合った形状とすることが技術常識であり(例えば、引用文献の図3及び図6、特開平11-70347号公報の図10ないし図12を参照。)、燃料噴射弁の弁体の先端の形状を面(平面又は曲面)とすることは周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。したがって、引用発明において、燃料噴射弁の弁体の先端の形状を面とするとともに、サック部の凹部の底を底面とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項であるか、又は周知技術1を参照して当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

してみれば、引用発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が適宜なし得る設計事項であるか、又は周知技術1を参照して当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

(2)相違点2について
本願発明において、接続面を「燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状」とすることの技術的意義について、本願明細書を参照すると、「燃料下流側への縮径率が当該下流側ほど大きい接続面158は、仮想テーパ面159に可及的に近付けたとしても、当該面159が沿う弁座面151と、開口する各噴孔155が当該面159と交差する噴孔開口面157との間を接続可能である。」(段落【0034】)と記載されており、相違点2に係る本願発明の発明特定事項の技術的意義は、「弁座面151と噴孔開口面157との間を接続可能である」ということであると認められる。
一方、引用発明においては、弁座8と、ノズル10の内端面とが、滑らかな形状で短い距離で接続されており、本願発明と同様の作用効果を奏していると認められる。
そして、引用発明における環状段部15の形状を「燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状」とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項であると認められる。
また、弁座面と噴孔開口面との間を接続する接続面を「燃料下流側へ向かって縮径し且つその縮径率が燃料下流側ほど大きい凹形曲面状」とすることは、燃料噴射弁の技術分野における周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2008-248844号公報(例えば、図2を参照。)、特開2009-257314号公報(平成21年11月15日出願公開。例えば、図2及び15を参照。)等の記載を参照。)でもある。
してみれば、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用文献に記載されたものであるか、当業者が適宜なし得る設計事項であるか、又は周知技術2を参照して当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

(3)相違点3について
引用文献においては、その請求項1に「・・・弁座(8)の母線の延長線(L)が各燃料噴孔(11)の内面と交差するように各燃料噴孔(11)を配置し」と記載されているように、燃料噴孔の内面の範囲内で、弁座(8)の母線の延長線(L)が各燃料噴孔(11)の内面と交差するものである。そうすると、引用発明は、本願発明のように「底面側よりも接続面側に偏る箇所にて交差する」ものも含んでいる。
また、燃料噴射弁の技術分野において、本願発明のように「底面側よりも接続面側に偏る箇所にて交差する」技術は、周知技術(以下、「周知技術3」という。例えば、特開2008-248844号公報(例えば、図2を参照。)、再公表特許第2008/117459号(例えば、段落【0020】、【0027】及び図5を参照。)、特開2009-103035号公報(平成21年5月14日出願公開。例えば、図2、5、6及び7を参照。)等の記載を参照。)でもある。
一方、本願発明において「底面側よりも接続面側に偏る箇所にて交差する」ことにより、引用発明及び周知技術3から予想できる以上の格別有利な効果があるとも認められない。
してみれば、引用発明において、相違点3に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、周知技術3を参照して、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術1ないし3から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-27 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-25 
出願番号 特願2009-285627(P2009-285627)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 茂樹  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 金澤 俊郎
藤原 直欣
発明の名称 燃料噴射弁  
代理人 矢作 和行  
代理人 野々部 泰平  
代理人 久保 貴則  

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