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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23F
管理番号 1290471
審判番号 不服2013-16666  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-29 
確定日 2014-08-07 
事件の表示 特願2008-257576「ホブカッタ及び歯車の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日出願公開、特開2010- 82786〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本件発明
本件出願の手続の経緯は以下のとおりである。
平成20年10月 2日 :出願
平成25年 2月13日付け:拒絶理由の通知
平成25年 4月10日 :意見書、手続補正書の提出
平成25年 4月26日付け:最後の拒絶理由の通知
平成25年 6月28日 :意見書の提出
平成25年 7月17日付け:拒絶査定
平成25年 8月29日 :審判請求書の提出
平成26年 1月 9日付け:拒絶理由の通知(当審)
平成26年 2月14日 :意見書、手続補正書の提出

そして、本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年2月14日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「ワークの表面に歯を形成して歯車を製造するホブカッタであって、前記歯車の歯底に対応するホブ歯の逃げ面に、ホブ歯の螺旋方向に沿う溝を設け、
前記溝は、断面形状が凹曲面となる円弧形状であって、前記溝の幅寸法をW、深さ寸法をHとすると、W>Hであり、
軸方向に互いに隣接する螺旋状のホブ歯の先端相互の軸方向間隔を、前記ホブ歯による歯の形成時に発生する切り屑の前記軸方向に対応する長さよりも長く形成することで、前記切り屑を前記ホブ歯の先端相互間へ入り込ませることを特徴とするホブカッタ。」

2 当審での拒絶理由
一方、当審において平成26年1月9日付けで通知した拒絶の理由のうち理由2の概要は、以下のとおりである。
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された実願昭51-161626号(実開昭53-78694号)のマイクロフィルム(以下「刊行物」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 刊行物
上記刊行物には、次の事項が記載されている。
(1)明細書第3ページ第2-8行
「第1図においてホブ本体(1)は円筒状をなしていて、外周につる巻き線にそつて切刃を形成した多数の歯(2)が配設されている。また、歯底(3)にも切刃が形成されていて、通常のホブと同様に被削歯車(図示せず)のフランク面の加工はもちろんのこと、被削歯車の外径の切削も行うことができるようになつている。」
(2)明細書第3ページ第20行-第4ページ第3行
「ニツク(4)の断面形状は例えば第4図(イ)のように半円形(i)、(中略)を選択し実施することができる。」
(3)明細書第4ページ第6-15行
「第7図のように歯先に切除部(8)に加えて、更にニツク(9)を削成して、この考案を一層効果的に実施することもできる。(中略)その他、第9図乃至第14図に示すように歯数や歯底のニツク位置を適宜選択して種々の配列で実施することが可能である。」
(4)明細書第5ページ第1-4行
「更に、歯底切刃のニツクにより切粉の分断や切粉の排出が容易にできるとともに、切粉の喰い込みや、歯底切刃アール部(10)で塑性変形され、排出されるU形切粉がなくなり切削抵抗が小さくなる。」

(5)また、刊行物の第12図と、上記(3)及び(4)の記載からみて、刊行物に記載されたホブが、歯(2)の歯先及び歯底に設けられたニツク(9)で切粉を分断することにより、歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔よりも、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さが小さくなるようにすることが示されていると認められる。刊行物の第12図に示されるホブの歯形において、歯先切刃にニツク(9)が削成されていることにより、歯の歯先切刃で形成される切粉が、切削に関与しないニツク(9)の両側に2つ又は3つに分断されて小さくなることは、当業者には自明の事項である。
なお、分断ホブ歯に設けた溝により切り屑の長さが小さくなることについては、本件出願の明細書にも、「図6(a)は、溝21を2個備えた分断ホブ歯11aで加工している状態を示しており、この際発生する切り屑27は、2個の溝21によってホブカッタ1の軸方向(図6中で左右方向)に沿って3つの分断切り屑27a,27b,27cに分断される。」(【0020】を参照)、「図6(b)は、(中略)溝21を1個備えた分断ホブ歯11aでの加工状態を示している。すなわち、この溝21を1個備えた分断ホブ歯11aでは、切り屑27を2つの分断切り屑27d,27eに分断する。」(【0021】を参照)及び「このように切り屑27を分断切り屑27a,27b,27cあるいは分断切り屑27d,27eとして小さくする」(【0023】を参照)と記載され、刊行物発明と同様の機構であることが示されている。

(6)刊行物に記載された発明
刊行物の上記摘記事項(1)ないし(4)及び認定事項(5)を、技術常識を踏まえ本件発明に照らして整理すると、刊行物には下記の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されていると認められる。
「被削歯車の表面に歯を形成して歯車を製造するホブであって、歯先(5)に、歯(2)のつる巻き線方向に沿うニツク(9)を設け、
前記ニツク(9)は、断面形状が半円形(i)であって、
歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔よりも、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さが小さくなるようにしたホブ。」

4 対比
本件発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「被削歯車」は本件発明の「ワーク」に相当し、同様に「ホブ」は「ホブカッタ」に、「歯(2)」は「ホブ歯」に、「つる巻き線」は「螺旋」に、「ニツク(9)」は「溝」に、「切粉」は「切り屑」に、それぞれ相当するものである。
次に、刊行物発明において、ニツク(9)が設けられている歯先(5)が、被削歯車の歯底に対応する歯(2)の逃げ面であることも、当業者には自明の事項である。よって、刊行物発明の「歯先(5)」は、本件発明の「歯車の歯底に対応するホブ歯の逃げ面」に相当する。
また、刊行物発明のニツクが「断面形状が半円形(i)」である点が、本件発明の溝が「断面形状が凹曲面となる円弧形状」である点に相当することは当業者には自明である。そして、当該「断面形状が半円形(i)」のニックにおいて、本件発明の溝に対応させて、幅寸法をW、深さ寸法をHとすると、溝の幅寸法Wが直径の長さに等しく、溝の深さ寸法Hが半径に等しくなり、その結果W>Hの関係を満たしていることも、当業者には当然理解し得る事項である。
さらに、刊行物発明において、「歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔よりも、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さが小さくなるようにする」ことが、逆に「歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔を、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さよりも長く形成する」ことを意味することは、当業者には自明である。そして、刊行物発明の「歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔」が、本件発明の「軸方向に互いに隣接する螺旋状のホブ歯の先端相互の軸方向間隔」に相当し、また、刊行物発明の「被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さ」が、本件発明の「ホブ歯による歯の形成時に発生する切り屑の軸方向に対応する長さ」に相当することも明らかである。よって、刊行物発明の「歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔よりも、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さが小さくなる」は、本件発明の「軸方向に互いに隣接する螺旋状のホブ歯の先端相互の軸方向間隔を、ホブ歯による歯の形成時に発生する切り屑の軸方向に対応する長さよりも長く形成する」に相当するものである。
そうすると、刊行物発明は、
「ワークの表面に歯を形成して歯車を製造するホブカッタであって、前記歯車の歯底に対応するホブ歯の逃げ面に、ホブ歯の螺旋方向に沿う溝を設け、
前記溝は、断面形状が凹曲面となる円弧形状であって、前記溝の幅寸法をW、深さ寸法をHとすると、W>Hであり、
軸方向に互いに隣接する螺旋状のホブ歯の先端相互の軸方向間隔を、前記ホブ歯による歯の形成時に発生する切り屑の前記軸方向に対応する長さよりも長く形成するホブカッタ。」
である点で本件発明と一致し、下記の点で本件発明と相違するものである。
<相違点>
本件発明では、前記ホブ歯の先端相互の軸方向間隔を前記切り屑の軸方向に対応する長さよりも長く形成することで、「前記切り屑を前記ホブ歯の先端相互間へ入り込ませる」構成としたのに対し、刊行物発明では上記構成については不明である点。

5 当審の判断
上記<相違点>について検討する。
刊行物には、切り屑(切粉)をホブ歯の先端相互間(歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間)へ入り込ませる点については、特に明示されてはいない。しかし、刊行物発明については、上記4で説示したように「歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔を、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さよりも長く形成する」点までは、当業者が理解できるものである。
そして、機械設計技術において、切粉等の紛体、流体、短繊維状の物体が、その物体の寸法よりも大きな寸法の溝や孔の中に入り込み易いことは、特に文献を示すまでもなく、当業者には周知の事項に過ぎないものである。また、審判請求人も審判請求書において、「ここで、上記段落0026における補正前の『ホブ歯11の先端相互の軸方向間隔Bが、ホブ歯11によるインターナルギア3の歯9の形成時に発生する分断切り屑27a,27b,27c,27d,27eの軸方向に対応する長さよりも短く(狭く)なるように』との記載は、補正後の『・・・長く(広く)なるように』の誤記である。本願発明は、明細書の段落0027を参酌すれば、『分断切り屑27a?27eが、分断ホブ歯11相互間に入り込みやすくなり、切り屑27をより効率よく排出することができる』という作用効果を奏する。このような作用効果は、『ホブ歯の先端相互の軸方向間隔B(図1)が、分断切り屑27a?27e(図6)の軸方向に対応する長さより長い(広い)』構成とすることで達成できる。すなわち、『ホブ歯の先端相互の軸方向間隔B(図1)が、分断切り屑27a?27e(図6)の軸方向に対応する長さより長い(広い)』構成とすることで、分断切り屑27a?27eが、分断ホブ歯11相互間に入り込みやすくなって、切り屑27をより効率よく排出することができる。これとは逆に、当初記載のように『ホブ歯の先端相互の軸方向間隔B(図1)が、分断切り屑27a?27e(図6)の軸方向に対応する長さより短い(狭い)』構成では、分断切り屑27a?27eの軸方向に対応する長さが、ホブ歯の先端相互の軸方向間隔Bより大きくなってしまい、分断切り屑27a?27eが分断ホブ歯11相互間に入り込みにくくなるのは明白である。」(審判請求書第3ページ第4-22行)と記載しており、「ホブ歯の先端相互の軸方向間隔が、分断切り屑の軸方向に対応する長さより長い(広い)」構成とすることで「分断切り屑が、分断ホブ歯相互間に入り込みやすく」なることが達成できることが明白であることを主張している。
したがって、刊行物発明において、「歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間隔を、被削歯車の歯の形成時に発生する切粉の長さよりも長く形成する」点を理解した当業者が、前記切粉を前記歯底(3)の両側のフランク部(6)及び(7)の間に入り込ませることが可能であることを着想し、本件発明における上記<相違点>に係る発明特定事項に想到するのは容易であるといえる。
また、本件発明によってもたらされる効果も、刊行物発明から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものではない。

6 むすび
したがって、本件発明は、刊行物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2014-06-05 
結審通知日 2014-06-10 
審決日 2014-06-23 
出願番号 特願2008-257576(P2008-257576)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十嵐 康弘  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 栗田 雅弘
長屋 陽二郎
発明の名称 ホブカッタ及び歯車の製造方法  
代理人 三好 秀和  

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