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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16F
管理番号 1290545
審判番号 不服2012-12897  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-06 
確定日 2014-08-05 
事件の表示 特願2009-68720号「複合エネルギ吸収体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月5日出願公開、特開2009-257584号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年6月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年6月19日、アメリカ合衆国)を国際出願とする特願2003-505043号の一部を平成21年3月19日に新たな特許出願としたものであって、平成24年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年7月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。
そして、当審において、平成24年8月17日付けで審尋がなされ、平成24年11月28日に審尋に対する回答書が提出され、その後、平成25年3月19日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して平成25年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年9月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
各々が熱可塑性シートから熱成形プロセスにより形成される一対のγ構造体であって、
該一対のγ構造体の少なくとも一つが、
基部(12)と、
前記基部内に画成され該基部と一体化した複数の円錐台形凹部であって、該複数の円錐台形凹部の各々が、無孔平坦床部(18)と、基部(12)と、該基部から、該基部と該無効平坦床部との間に介在する中間セグメント(22)を介して該無孔平坦床部まで延在する壁部を有し、該中間セグメントは、平均半径(R)を有し、該壁部においては形状が急激に変化する箇所を除去することで該壁部の形状における急激な変化に起因する応力集中が回避されることを特徴とし、
前記一対のγ構造体が、(a)一方のγ構造体の無孔平坦床部が、反転されて隣接する他方のγ構造体の無孔平坦床部と近接して並列するように積み重ねられた構成;(b)一方のγ構造体の基部が、反転されて隣接する他方のγ構造体の基部と互いに作用し合うように係合して配置され、かつ関連する無孔平坦床部が離間するように積み重ねられた構成のうち、いずれか一方の構成であることを特徴とし、
前記複数の円錐台形凹部のうちの少なくとも一部は、その壁部が衝撃力の主要入射成分に対して角度αの傾斜を有するように配向され、該αが0から20度の間であることを特徴とし、
これらのことにより、FMVSS201の式に従って計算されたHIC(d)の値が1000を超えないことを特徴とする複合モジュール式エネルギ吸収アセンブリ。」
なお、上記記載の内一箇所の「無効平坦床部」は「無孔平坦床部」の誤記と認められるので、以下では「無孔平坦床部」として記載する。

第3 刊行物
1.刊行物1
当審で通知した拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平9-150692号公報(以下「刊行物1」という。)には、「自動車における衝撃吸収装置」に関し、図面(特に、図3?4)とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下、同様。)

ア 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、自動車における衝撃吸収装置に関し、特に側面衝突時、ドアのトリムなどの内装部品が人体に衝突したときの衝撃を緩和する装置に関するものである。」

イ 段落【0007】?【0008】
「【0007】第2の実施形態を図3、図4、図7、図8及び図9に示し、これらの図に基づき本実施の形態を説明する。図7は自動車用ドア本体9を示し、図7のCC断面を図8に示す。図8のドア本体9のドアトリム11とインサイドパネル10の間の空間に緩衝体2bが配置されている。図3、図4に示す緩衝体はポリプロピレン等の樹脂のカップ状体7bがその中空部1bの軸芯が平行になるように一定間隔で配置し、ブリッジ8bで結合されている。この緩衝体がそのカップ状体7bの軸芯方向が車体の内外方向に向くようにして固着されている。
【0008】このようにすることにより、カップ状体7bをその軸芯方向を衝撃負荷方向に向けて配置しているので、図9に示すように、衝突衝撃によって衝撃エネルギの所定限界値γを越えるとカップ状体7bが座屈し、さらに変位が大きくなってもある一定の衝撃エネルギを持続し、決められた衝撃エネルギαを超えないという、効果的な衝撃吸収作用を発揮するものである。」

ウ 段落【0013】?【0014】
「【0013】また、本発明の筒状体の径の小さい上部に底面を取り付けたカップ状体の緩衝体にした場合には、衝突時の衝撃エネルギを剛性アップした底面全体で受けることになるため、第1実施例より強い衝撃に対して、効果的な衝撃吸収作用を発揮する。
【0014】衝撃吸収装置の緩衝体は、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂発泡体または硬質ウレタンゴムの弾性体からなる。」

上記記載事項及び図示内容を総合して、第2の実施形態の緩衝体について、整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ポリプロピレン等の樹脂からなる筒状体の径の小さい上部に底面を取り付けたカップ状体7bがその中空部1bの軸芯が平行になるように一定間隔で配置され、ブリッジ8bで結合された、効果的な衝撃吸収作用を発揮する緩衝体2b。」

2.刊行物2
同じく、引用された刊行物である、特開平11-348699号公報(以下「刊行物2」という。)には、「車両用内装部品の衝撃吸収構造」に関し、図面(特に、図1、2、6)とともに次の事項が記載されている。

カ 段落【0001】
「【技術分野】本発明は、車両用内装部品の衝撃吸収構造に係り、特に、車両用内装部品と車体との間に、衝撃吸収手段を配置して、かかる衝撃吸収手段の変形により、外部からの衝撃を吸収せしめ得るようにした車両用内装部品の衝撃吸収構造に関するものである。」

キ 段落【0021】?【0025】
「【0021】先ず、図1及び図2には、本発明に従う衝撃吸収構造を備えた車両用内装部品と車体との間に配設される衝撃吸収構造体、特に、自動車のピラーガーニッシュとセンターピラーとの間に配設される衝撃吸収構造体の一例が、概略的に示されている。それらの図からも明らかなように、衝撃吸収構造体10は、連結体12と、複数の筒状体14とを有して、構成されている。
【0022】より具体的には、この衝撃吸収構造体10を構成する連結体12は、全体として、矩形の薄肉平板形状をもって成っている。また、複数(ここでは、15個)の筒状体14は、それぞれ、同一の大きさを有し、連結体12の一方の面上に、縦5列、横3列の配置形態で、互いに所定間隔をおいて、縦横に配置されるようにして、一体的に突出形成されて、構成されている。換言すれば、連結体12の他方の面における、互いに一定の間隔をあけて縦横に位置する複数箇所が、同一の深さをもって凹陥せしめられており、この複数の凹陥部分が、該連結体12の一方の面側において、それぞれ、筒形状をもって同一方向に向かって延び出す筒状体14とされているのである。
【0023】これによって、複数の筒状体14が、互いに間隔をおいて同一方向に延びるように独立して配置され、且つ相互の間隔が保持された状態下で、基部側において、連結体12により一体的に連結されているのであり、以て衝撃吸収構造体10が、それら複数の筒状体14とそれらを一体的に連結する連結体12とからなる一体品として、構成されているのである。
【0024】そして、このような構造を有する衝撃吸収構造体10にあっては、特に、複数の筒状体14が、それぞれ、四角錐の先端部分のみを除去してなる如き形状を呈している。即ち、各筒状体14が、それぞれ、軸直方向に広がる断面が矩形状とされ、且つ先端に向かうに従って、該断面の面積が徐々に小さくなる、中空の角筒形状を呈する全体形状をもって、構成されているのである。また、ここでは、かくの如き形状を有する筒状体14が、連結体12側たる基部側において、外方に開口せしめられている一方、その先端側に、平らな底部16が一体形成されて、該先端側の開口部が閉塞せしめられている。
【0025】なお、本具体例では、衝撃吸収構造体10が、座屈変形し易いオレフィン系樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等の合成樹脂材料を用いた射出成形により、或いはそれらのオレフィン系樹脂からなる押出シートを用いた真空成形等によって、全体が同一厚さとなるように成形されている。また、かかる衝撃吸収構造体10は、各筒状体14の高さが全べて同一の高さとされており、更に、隣り合う筒状体14同士の配置間隔も、全べて同一の間隔とされている。」

ク 段落【0043】
「【0043】また、前記具体例では、連結体12が一枚の平板形状を有し、この連結体12の一方の面上に、複数の筒状体14が互いに間隔をおいて一体的に形成されることによって、それら複数の筒状体14が、連結体12にて一体的に連結されるようになっていたが、この連結体12は、互いに間隔をおいて、独立して配置された複数の筒状体14を、相互の間隔を保持しつつ、一体的に連結するものであれば、その形状や複数の筒状体14の連結構造が、何等限定されるものではない。それ故、例えば、図6に示されるように、連結体12を細いリブ形状をもって構成し、かかるリブ状の連結体12の複数のものにて、複数の筒状体14を一体的に連結するようにしても良いのである。」

ケ 段落【0046】
「【0046】さらに、各筒状体14の筒壁面の中心軸22に対する傾斜角度(図2において、θにて示される角度)も、特に限定されるものではないものの、有効ストローク指数の増大をより確実に図る上で、5?45°程度とされていることが望ましい。」

3.刊行物3
同じく、引用された刊行物である、国際公開第00/31434号(以下「刊行物3」という。)には、「ENERGY-ABSORBING STRUCTURE(エネルギー吸収構造)」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

サ 明細書4ページ19?26行
「The predetermind plateau level may be a level of stress that does not cause serious injury or that avoids death when a human body part such as a head impacts the energy-absorbing sheet.・・・The level may be arrived at by determining the material of the sheet, the thickness of sheet, the pitch density of projections over the area of the sheet, and the shape of the projection.(所定の水平域の強度は、頭のような人体の一部がエネルギー吸収シートに衝突したときに、重傷を負わないか、死亡を回避する程度のストレスであってもよい。この強度は、0.2?0.3MPaの範囲内である。この強度は、シートの材料、厚さ、シートの領域にわたる突起のピッチ密度、及び突起の形状による。(仮訳はパテントファミリー文献である特表2002-530606号公報による。以下、同様。))」

シ 明細書6ページ21?23行
「The material of the sheet may be aluminium, which is very lightweight. Alternatively thermoplastics may be moulded into a suitable shape.(シートの材料は、非常に軽量であるアルミニウムであってもよい。代替手段として、熱可塑性物が適切な形状に成型されてもよい。)」

ス 明細書第9ページ13?24行
「The deformation process is illustrated in Figure 3.・・・Further, where the pitch angle is outside the commended limits of 25° to 60° the plateau is reduced or even removed.(図3は変形のプロセスを示す。シートが変形されると、シートは、ピッチ領域、即ち、シートの突起のトップ間の部分を湾曲させることにより、変形を吸収する。ストレス-変形グラフ中において均質な水平域を得るために、この領域が完全に固定されることは回避される。これは、ピッチ角度および幾何学的な制御により行うことができる。試験により、図3の構造で、わずかに角が丸い形状が良好な結果を与えることが示された。特に、このような形状は押すことが容易である。さらに、ピッチ角度が、25°?60°の推奨された範囲外であるときは、水平域は縮小されるか、あるいは、さらには消滅した。)」

セ 明細書第11ページ12?16行
「Further, two or more formed sheet structures give good results when stacked together. One sheet may be inverted and then fixed in place on another sheet projection against projection. If one of the sheets were not inverted it would just nest in the other.(さらに、積み重ねられたときに、2層以上に形成されたシート構造が良好な結果を与える。1枚のシートは、反転されて、他のシートに突起が突起にあたるように所定の位置に固定されてもよい。シートのうちの一方が反転されなければ、もう一方に入れ子に組み合うことになる。)」

ソ 明細書第12ページ12?17行
「Apart from the aluminium used in the specific examples described, it is slso possible to make the vehicle component out of other metals or thermoplastic, such as polycarbonate or polyamide. It may be easier to use a smaller pitch between peaks using thermoplastic rather than aluminium, using injection moulding.(上記特定の例において使用されたアルミニウムのほかに、車両部品を他の材料、又はポリカーボネート又はポリアミドにような熱可塑性材料から形成することも可能である。熱可塑性材料を使用するときは、アルミニウムよりもピークの間隔により小さなピッチを射出成型を使用して、採用することが、容易である。)」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「筒状体の径の小さい上部に底面を取り付けたカップ状体7b」は、その形状及び機能からみて、本願発明の「円錐台形凹部」に相当し、同様に、「緩衝体2b」は「γ構造体」に相当する。また、本願発明の「複合モジュール式エネルギ吸収アセンブリ」は一対のγ構造体から構成されるものであるから、引用発明の「緩衝体2b」は「モジュール式エネルギ吸収アセンブリ」ということができる。
そして、引用発明の「筒状体の径の小さい上部に底面を取り付けたカップ状体7b」は、本願発明の「無孔平坦床部(18)」と「該無孔平坦床部まで延在する壁部」とに相当する部分を有しているものと認められる。
さらに、引用発明のカップ状体7bの壁部は、本願発明と同様に「その壁部が衝撃力の主要入射成分に対して角度αの傾斜を有するように配向され」ているものと認められる。

よって、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と引用発明とは、
[一致点]
「γ構造体であって、
γ構造体が、
複数の円錐台形凹部であって、該複数の円錐台形凹部の各々が、無孔平坦床部と、該無孔平坦床部まで延在する壁部を有し、
前記複数の円錐台形凹部のうちの少なくとも一部は、その壁部が衝撃力の主要入射成分に対して角度αの傾斜を有するように配向されているモジュール式エネルギ吸収アセンブリ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
γ構造体に関し、本願発明は、「熱可塑性シートから熱成形プロセスにより形成され」、「基部(12)と、前記基部内に画成され該基部と一体化した複数の円錐台形凹部であって」、「該基部と該無孔平坦床部との間に介在する中間セグメント(22)」を有し、「該中間セグメントは、平均半径(R)を有し」、「該壁部においては形状が急激に変化する箇所を除去することで該壁部の形状における急激な変化に起因する応力集中が回避される」のに対して、引用発明は、ポリプロピレン等の樹脂の筒状体の径の小さい上部に底面を取り付けたカップ状体7bがブリッジ8bで結合されている緩衝体2bであり、中間セグメント(22)を有しておらず、カップ状体7bの壁部が応力集中を回避するものか明らかでない点。

[相違点2]
モジュール式エネルギ吸収アセンブリの構成に関し、本願発明は、「一対のγ構造体であって」、「前記一対のγ構造体が、(a)一方のγ構造体の無孔平坦床部が、反転されて隣接する他方のγ構造体の無孔平坦床部と近接して並列するように積み重ねられた構成;(b)一方のγ構造体の基部が、反転されて隣接する他方のγ構造体の基部と互いに作用し合うように係合して配置され、かつ関連する無孔平坦床部が離間するように積み重ねられた構成のうち、いずれか一方の構成である」複合モジュール式エネルギ吸収アセンブリであるのに対して、引用発明は、緩衝体2bであるγ構造体の単体であって、一対とされていない点。

[相違点3]
壁部の傾斜角度αに関し、本願発明は、「該αが0から20度の間である」のに対して、引用発明は、カップ状体7bの壁部の傾斜角度αが明らかでない点。

[相違点4]
HIC(d)の値に関し、本願発明は、「これらのことにより、FMVSS201の式に従って計算されたHIC(d)の値が1000を超えない」のに対して、引用発明は、「効果的な衝撃吸収作用を発揮する」ものであるもののHIC(d)の値が明らかでない点。

第5 当審の判断
(1)相違点1について
γ構造体に関し、本願明細書の段落【0013】には、「該γ構造体は、基部と、該基部内に画成された凹部とを有する。該凹部は、基部から伸びる壁部を有する。」と記載されているところ、基部と、該基部内に画成された凹部とを有し、該凹部は、基部から伸びる壁部を有するγ構造体、及び、上記γ構造体を熱可塑性シートから熱形成プロセスで形成することは、いずれも従来周知の技術である(例えば、基部を有するγ構造体は刊行物2の記載事項キ、図1及び図2、刊行物3の記載事項シ及びソ、Fig.1及びFig.2、他にも、特開平2-80824号公報(4ページ左上欄12?右上欄2行、図3)、特開平2-266136号公報(2ページ左上欄7?9行)、γ構造体を熱形成プロセスにより形成することは前記特開平2-80824号公報(4ページ右下欄14?18行、図8)、前記特開平2-266136号公報(2ページ右上欄13?18行、図1及び図2)、実願平1-49420号(実開平2-140047号)のマイクロフィルム(明細書7ページ20行?8ページ4行、図3)を参照。)。
そして、刊行物2の記載事項クには、複数の筒状体14が、平板形状を有する連結体12にて一体的に連結されるものに限定されず、図6に示されるように、連結体12を細いリブ形状をもって構成し、かかるリブ状の連結体12の複数のものにて、複数の筒状体14を一体的に連結するようにしても良い旨(記載事項ク参照。)記載されている。
刊行物2の上記記載によれば、引用発明のように、ポリプロピレン等の樹脂のカップ状体7bをブリッジ8bで結合される構成とするか、上記周知の技術のように、基部を有し、壁部が該基部にて一体的に連結されるものとするかは、当業者が適宜選択し得る事項であるといえる。したがって、熱可塑性シートから熱成形プロセスにより形成し、基部を有するγ構造体とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願明細書には、平均半径(R)を有する中間セグメント(22)を設ける目的についての特段の記載はないが、意見書において、「平均半径(R)を有する中間セグメントを介在させた場合に、本願発明の目的の一つ(得られる荷重-変位曲線に好ましくない出っ張り部を出現させないこと)を達成する上で有利となることの理由については、本願発明の権利範囲に影響を与えないと言う前提で推察すると、中間セグメントが最初に曲げ破壊を起し、このことにより、無孔平坦床部の側の壁部の端が、曲げ応力に対して擬似的な自由端となり、その後に続く壁部の破壊が、曲げ応力の伴う座屈破壊モードとなり、それ故に、壁部の座屈破壊開始箇所が、その壁部の中央近傍に集中させることが可能となり、その結果、このような中間セグメントを有しない円錐台形凹部における壁部の純然たる座屈破壊モードの場合と比べて、座屈荷重に安定した再現性が得られると言う顕著な作用効果が奏されることとなり、最終的に、自動車に乗っている人間の頭部を保護するための衝撃エネルギー吸収体に必須の特徴であるところの、衝撃エネルギー吸収体の荷重-変位曲線が、どの製造品についても、常に、規定の衝撃エネルギーレベルを超えないと言う顕著な作用効果に繋がるのであります。」(24ページ7?18行)と主張している。しかしながら、引用発明と同一の技術分野に属する刊行物3に、カップ形状の角部を丸くすることが変形プロセスにおいて良好な結果を与えることが記載(記載事項ス参照。)されている以上、刊行物3に接した当業者であれば、角部にアールを設けることは容易に想到し得たことといわざるを得ない。
さらに、本願明細書には、上記「該壁部においては形状が急激に変化する箇所を除去することで該壁部の形状における急激な変化に起因する応力集中が回避される」との直接的な記載はないが、審判請求書の請求の理由によれば、壁部の表面は基部から無孔床部に向かう方向においては平坦又は直線的であることをいうものと認められる。一方、刊行物1の図3及び4の記載を参酌すると、引用発明のカップ状体7bの壁部は、平坦又は直線的であると認められ、本願発明と同様に、「該壁部においては形状が急激に変化する箇所を除去することで該壁部の形状における急激な変化に起因する応力集中が回避される」ものと解される。そうすると、壁部に関する相違点は、本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえない。

したがって、引用発明に刊行物2及び刊行物3に記載された技術的事項、及び周知の技術を適用して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
2つのγ構造体を組み合わせて用いることは、従来周知の技術であり(例えば、刊行物3の記載事項セ((a)の構成)、前記特開平2-80824号公報(4ページ右上欄14?19行((a)の構成)、図4)を参照。)、当該周知の技術は、吸収すべきエネルギに応じて当業者が適宜採用し得るものである。
したがって、引用発明に周知の技術を適用して、引用発明の緩衝体2bを、2つのγ構造体を組み合わせて一対のものとすることによって、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
刊行物2の記載事項ケ及び図2には、筒状体14の筒壁面の中心軸22に対する傾斜角度(図2において、θにて示される角度)は、有効ストローク指数の増大をより確実に図る上で、5?45°程度とされていることが望ましい旨が記載されている。
刊行物2記載の上記傾斜角度(θ)は、上記相違点3に係る本願発明の衝撃力の主要入射成分に対する壁部の傾斜角度αに相当し、両者の傾斜角度は、5から20度の範囲で重複する。
そして、刊行物2記載の上記傾斜角度5?45°は、断面が矩形状の筒状体14についての傾斜角度であるが、引用発明のカップ状体7bにおいても、有効ストローク指数の増大をより確実に図る上で、その壁部の傾斜角度を5?45°程度とすることが望ましいものと解される。
また、本願発明において、傾斜角度αは元々「0から45度」と特定されていたものを刊行物3に示された角度(記載事項ス参照。)と区別するために「0から20度」という数値範囲に特定したものであって、その数値自体に臨界的意義があるともいえない。
そうすると、刊行物2記載の上記傾斜角度5?45°を参酌して、引用発明のカップ状体7bの壁部の傾斜角度として、上記相違点3に係る本願発明の壁部の傾斜角度αの数値範囲のものを選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について
本願明細書の段落【0007】の記載によれば、自動車環境において用いられるエネルギ吸収部材のHIC(d)の値は、1000を越えてはならないものであって、また、刊行物3の記載事項サのとおり、熱可塑性シートの材料、厚さ、突起の形状等により強度は設定できるものであるから、上記相違点1ないし3で検討した事項に加えて、引用発明の緩衝体2bを形成する熱可塑性シートの材料、厚さ等を適宜選択することによって、エネルギの吸収FMVSS201の式に従って計算されたHIC(d)の値が1000を超えないようにすることは、当業者が容易に想到し得たことと言わざるをえない。

(5)作用効果について
また、本願発明が奏する作用効果は、引用発明、刊行物2、3に記載された技術事項及び周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(6)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2、3に記載された技術事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、刊行物2、3に記載された技術事項及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-18 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-10 
出願番号 特願2009-68720(P2009-68720)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 覚間中 耕治  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 島田 信一
山岸 利治
発明の名称 複合エネルギ吸収体  
代理人 名越 秀夫  

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