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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1290857
審判番号 不服2011-16345  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-29 
確定日 2014-08-13 
事件の表示 特願2006-539540「疾患の予防および制御のための寄生虫性生物剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日国際公開、WO2005/052115、平成19年11月22日国内公表、特表2007-533302〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年(2004年)10月22日を国際出願日(パリ条約による優先権主張2003年11月17日 米国)とする出願であって、その請求項1及び8に係る発明は、平成22年12月21日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び8に記載される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
制御性T細胞活性を変化させる蠕虫性寄生虫調製物をスクリーニングする方法であって、前記方法が、
(a)蠕虫性寄生虫調製物を得るステップ、
(b)前記蠕虫性寄生虫調製物を標的と接触させるステップ、および
(c)前記接触後の前記標的における制御性T細胞活性のための内部マーカーのレベルを測定するステップを含み、ここで前記接触後の前記内部マーカーの前記レベルの変化が、制御性T細胞活性を変化させる前記蠕虫性寄生虫調製物の指標となる、方法。」(以下、「本願発明1」という。)

「【請求項8】
Th1またはTh2関連疾患を有する動物の治療用の薬剤を製造するための、制御性T細胞活性を変化させる蠕虫性寄生虫調製物の使用。」(以下、「本願発明8」という。)

第2 引用例の記載事項
1.原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるDigestive Disease Week Abstracts and Itinerary Planner, 2003年5月17日,Vol.2003,p.A-61,467(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は、当審で付与した。)。

(ア)「腸管蠕虫は、制御性細胞の誘導を介して大腸炎を阻害する。」(表題)
(イ)「IBDは糞便ストリームの正常な成分に応答した異常に活発な粘膜免疫により生じる。IBDは先進工業国において関心が高まっているが、発展途上国でほとんどないままである。発展途上国ではよくある蠕虫は、免疫調節回路の誘導を介してIBDを阻害することができる。
本研究では、 NSAID同期性大腸炎を有するIL10-/-マウスにおいて、Heligmosomoides polygyrusを使用して腸内蠕虫はどのようにして確立された炎症を抑制するのか決定した。H.polygyrusはマウスの十二指腸だけに生息する腸内寄生虫である。一時的にピロキシカムを与えられたIL10-/-マウスは、一様に重篤かつ持続性の大腸炎を発症した。蠕虫に暴露されていないマウスは、4点組織スケールでの測定で重度の大腸炎(3.6±0.4,p=0.001,N=11)を持っていた一方で、大腸炎の誘導後、H.polygyrusを2週間感染させたIL10-/-マウスは、ほぼ正常な組織学的大腸炎スコア(0.55±0.5(SE))を示した(0=炎症なし、1=低レベル、2=中間レベル、3=壁肥厚を伴う高レベルの炎症、4=貫壁性炎症、杯細胞の損失、壁肥厚、潰瘍)。H.polygyrus感染のない大腸炎のIL10-/-マウス由来の粘膜固有層単核細胞(LPMC)は、インビトロで培養されたときに、多量のIFNγ及びIL12を放出した。このTh1サイトカイン産生はH.polygyrusを有するマウスでは損なわれていた。
H.polygyrusは、粘膜におけるIL4又はIL5産生を促進しなかったが、T細胞刺激に応答して、粘膜でIL13分泌を増加させた。H.polygyrusを有する IL10-/-動物由来の腸間膜リンパ節(MLN)細胞を大腸炎のIL10-/-マウスへ移入すると、3.4±0.2(SE)から0.45±0.23(p<0.001, N=10)へと腸の炎症を回復させるのに十分であった。虫を有さないIL10-/-マウス由来のMLN細胞の移入は大腸炎に影響を与えなかった。
結論:H.polygyrusは、粘膜IL4産生を刺激することなく、制御性T細胞の誘導を介して、確立された大腸炎及び、IL10-/- NSAID同期大腸炎における粘膜Th1サイトカイン産生を阻害する。これらの制御性MLN細胞は、IL10なしで炎症を制御できるから、ユニークであるかもしれない。」(全文)

2.原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるScience,2003年2月14日,299(5609),p.1057-61(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は、当審で付与した。)。

(ア)「ヒト及びマウスにおける自己免疫及び炎症性疾患において遺伝的に欠損している転写因子をコードするものであるFoxp3は、自然に発生したCD4+制御性T細胞において、特異的に発現した。」(要約)

(イ)「本研究では、Foxp3は、胸腺及び末梢において自然発生したCD25+CD4+ T_(R)細胞集団において主に発現すること、及び、ナイーブT細胞におけるFoxp3発現は、これらの細胞を自然発生したCD25+CD4+ T_(R)細胞と機能的に同様の制御性T細胞表現型へ変換することができることを示す。この結果は、Foxp3は、細胞系統コミットメントや胸腺及び末梢における制御性T細胞の発生分化のためのマスター制御遺伝子であることを示唆する。我々の結果はまた、自己免疫疾患や免疫病理の防止に携わる、自然発生したCD4+制御性T細胞を定義する際に、Foxp3は、制御性T細胞と、活性化、エフェクター、又はメモリーT細胞とを完全に区別することができない、現在使用される細胞表面分子(例えば、CD25、CD45RB、CTLA-4及びGITR)よりも特異的なマーカーであることを示す。」(1060頁右欄26行?45行)

第3 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
上記「第2 1.」の記載事項からみて、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「大腸炎マウスに蠕虫H.polygyrusを接触させて感染させることにより、制御性T細胞を誘導し、大腸炎を回復する方法。」(以下、「引用発明」という。)

本願発明1と引用発明を対比する。
本願明細書の段落【0023】によれば、本願発明1の「蠕虫性寄生虫調製物」は、寄生虫全体を含むものであるから、腸管寄生虫である引用発明の蠕虫H.polygyrusは、本願発明1の「蠕虫性寄生虫調製物」に相当する。また、引用発明の大腸炎マウスは、本願発明1の「標的」に相当する。
そうすると、両者は、制御性T細胞を変化させる蠕虫性寄生虫調製物を標的と接触させることに関する発明である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願発明1は、「制御性T細胞活性を変化させる蠕虫性寄生虫調製物をスクリーニングする方法」であって、前記方法が、上記一致点に係る「蠕虫性寄生虫調製物を標的と接触させる」ステップの前後にそれぞれ、「(a)蠕虫性寄生虫調製物を得るステップ」及び「(c)前記接触後の前記標的における制御性T細胞活性のための内部マーカーのレベルを測定するステップ」を含み、さらに、「前記接触後の前記内部マーカーの前記レベルの変化が、制御性T細胞活性を変化させる前記蠕虫性寄生虫調製物の指標となる」ことが特定されているのに対し、引用発明には、そのような特定はない点。

(2)判断
ここで、本願発明1の「蠕虫性寄生虫調製物」という記載について、本願明細書の段落【0023】には、「本明細書において用いられる場合、『蠕虫性寄生虫調製物』という用語は、寄生虫全体、寄生虫抽出物、寄生虫卵子、寄生虫卵子抽出物、寄生虫卵、寄生虫卵抽出物、寄生虫幼虫、寄生虫幼虫抽出物、寄生虫セルカリアおよび寄生虫セルカリア抽出物の任意の1つを含むが、それらに限定されない。『蠕虫性寄生虫調製物』はまた、寄生虫およびその抽出物に由来する単離されたタンパク質、ポリヌクレオチド、糖質または脂質でありうる。」と記載されている。そうすると、本願発明1は、新たな寄生虫全体、寄生虫卵、寄生虫幼虫等をスクリーニングする方法及び、蠕虫性寄生虫に由来するタンパク質、ポリヌクレオチド等の成分をスクリーングする方法を含むものと解することができるので、それぞれの場合について、以下、検討する。

ア.寄生虫、寄生虫卵、寄生虫幼虫等をスクリーニングする方法の場合
引用例1に記載されるように、蠕虫であるH.polygyrusが制御性T細胞を誘導することが知られていたときに、制御性T細胞を誘導する性質を有する別の蠕虫性寄生虫、その卵、幼虫を探索することは、自明の技術的課題であるといえるから、引用例1に記載されたH.polygyrus以外の制御性T細胞を誘導できる蠕虫性寄生虫やその卵、幼虫を新たにスクリーニングすることは、当業者が容易に想起することである。その際、引用例2に記載された、自然発生した制御性T細胞を定義するのに特異的なマーカーであるFoxp3を「制御性T細胞活性のための内部マーカー」として使用して、「(a)蠕虫性寄生虫調製物を得るステップ、
(b)前記蠕虫性寄生虫調製物を標的と接触させるステップ、および
(c)前記接触後の前記標的における制御性T細胞活性のための内部マーカーのレベルを測定するステップを含」む方法により、「前記接触後の前記内部マーカーの前記レベルの変化」を「制御性T細胞活性を変化させる前記蠕虫性寄生虫調製物の指標」としてスクリーニングすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ.蠕虫性寄生虫に由来するタンパク質、ポリヌクレオチド等の成分をスクリーニングする方法の場合
引用例1の、蠕虫H.polygyrusは制御性T細胞を誘導する旨の記載に接した当業者であれば、蠕虫に含まれるどのような成分が制御性T細胞の誘導に寄与しているのか解明しようとすることは、自明の技術的課題であるといえるから、蠕虫H.polygyrusから制御性T細胞を誘導できる成分をスクリーニングすることは、当業者が容易に想起することである。その際、引用例2に記載された、自然発生した制御性T細胞を定義するのに特異的なマーカーであるFoxp3を「制御性T細胞活性のための内部マーカー」として使用して、「(a)蠕虫性寄生虫調製物を得るステップ、
(b)前記蠕虫性寄生虫調製物を標的と接触させるステップ、および
(c)前記接触後の前記標的における制御性T細胞活性のための内部マーカーのレベルを測定するステップを含」む方法により、「前記接触後の前記内部マーカーの前記レベルの変化」を「制御性T細胞活性を変化させる前記蠕虫性寄生虫調製物の指標」としてスクリーニングすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願明細書をみても、本願発明1が当業者の予想を超える顕著な効果を奏するとは認められない。

したがって、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求の理由において、引用例1には、蠕虫H.polygyrusの投与に関連する制御性T細胞の活性化が、NSAID起因性大腸炎を有するIL-10ノックアウトマウス以外の任意のマウスにおいても生じることが予測されるかどうかということについては記載されていないから、IL-10ノックアウトマウスについて得られた結果に依拠して、正常マウスに適用することはできない旨主張する。
しかしながら、本願発明1において、蠕虫性寄生虫調製物を接触させる「標的」は特定されておらず、IL-10ノックアウトマウスを排除するものではないから、引用例1に記載されたIL-10ノックアウトマウスである「大腸炎マウス」は、本願発明1の「標的」に相当するものであって、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって採用することができないが、念のため、以下に検討しておく。

引用例1では、IL-10ノックアウトマウスの結果に基づいて、「確立された大腸炎」のメカニズムを結論付けしているし、制御性サイトカインをコードするIL-10遺伝子を有する正常マウスであれば、なおさら炎症を制御できるといえるから、引用例1に記載された、IL-10ノックアウトマウスにおける蠕虫による制御性T細胞の活性化は、正常マウスにおいても生じることを当業者であれば予測できるものである。
また、原審の拒絶査定時に周知事項を示すために引用された、本願と出願人及び発明者が同一である特表2001-527048号公報には、IL-10遺伝子の破壊は、宿主/寄生虫の相互作用を有意に変化させないこと(段落【0133】)、IL-10遺伝子の破壊は、寄生虫コロニー形成に対する宿主の感受性を変化させないこと(段落【0134】)、IL-10ノックアウトマウスは、IL-10不在であっても、寄生虫に対するTh2応答を開始することができること(段落【0135】)が記載されていることから、IL-10ノックアウトマウスにおける蠕虫の作用は、IL-10を有する正常マウスにおいても存在することを当業者であれば予測できるといえる。

2.本願発明8について
(1)対比
上記「第2 1.」の引用例1の記載事項(イ)には、大腸炎マウスにおいて大腸炎が回復したことが記載されているが、これは、マウスの大腸炎を「治療」したことといえる。また、引用例1の大腸炎マウスは、Th1サイトカインであるIFNγ及びIL-12を放出していることから(記載事項(イ)参照)、「Th1サイトカイン関連疾患を有する動物」である。
そうすると、引用例1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「Th1関連疾患を有する動物の治療をすることができる、制御性T細胞活性を誘導する蠕虫性寄生虫。」(以下、「引用発明’」という。)

本願発明8と引用発明’を対比すると、引用発明’の蠕虫性寄生虫は、本願発明8の「蠕虫性寄生虫調製物」に相当するから、両者は、Th1関連疾患を有する動物の治療をすることができる、制御性T細胞活性を変化させる蠕虫性寄生虫調製物に関する発明である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:蠕虫性寄生虫調製物を、本願発明8では、Th1関連疾患を有する動物の治療用の薬剤を製造するために使用するのに対し、引用発明’では、そのような特定はない点。

(2)判断
蠕虫性寄生虫調製物はTh1関連疾患である大腸炎を回復することができる旨の引用例1の記載に接した当業者であれば、それをTh1関連疾患を有する動物の治療用の薬剤を製造するために使用することは、当然に行うことであり、格別の創意を要することとはいえない。
そして、本願明細書をみても、本願発明8が当業者の予想を超える顕著な効果を奏するとは認められない。
したがって、本願発明8は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1及び8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-12 
結審通知日 2014-03-18 
審決日 2014-04-02 
出願番号 特願2006-539540(P2006-539540)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名和 大輔  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 ▲高▼ 美葉子
冨永 みどり
発明の名称 疾患の予防および制御のための寄生虫性生物剤の使用  
代理人 三好 秀和  
代理人 原 裕子  
代理人 伊藤 正和  

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