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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1290974
審判番号 不服2013-18291  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-24 
確定日 2014-08-14 
事件の表示 特願2006-197530号「フォトマスクブランクス」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月 7日出願公開、特開2008- 26500号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年7月20日の出願であって、平成23年7月8日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成24年7月3日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年8月31日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成25年6月28日付けで平成24年8月31日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、請求と同時に同時に手続補正がなされ、その後、平成26年1月8日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年3月13日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成25年9月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年9月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ハーフピッチ65nm以降の半導体デバイスの高集積化、超微細化を実現するためのフォトマスクを製造するための、透明基板の一主面上に少なくとも遮光膜が形成された、フォトマスクブランクスであって、前記遮光膜は、ハーフトーン材料膜上に積層して形成され、且つ、前記遮光膜上に非感光性のシリコン系ポリマー層がスピン塗布形成されており、前記遮光膜は、クロムを主成分とし、前記シリコン系ポリマー層は、有機基を有し、塩素系ガスによるドライエッチング耐性が大きいもので、前記ハーフトーン材料膜は、フッ素系ガスによりドライエッチングできる化合物を主成分とするものであることを特徴とするフォトマスクブランクス。」
と補正された。

本件補正は、平成23年9月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「透明基板の一主面上に少なくとも遮光膜が形成された、フォトマスクブランクス」について、「ハーフピッチ65nm以降の半導体デバイスの高集積化、超微細化を実現するためのフォトマスクを製造するための」ものであることを限定し、また、「シリコン系ポリマー層」は「塗布形成」するものであったものを「スピン塗布形成」するものに限定し、また、「遮光膜」について「クロムを主成分と」するものに限定し、さらに、「ハーフトーン材料膜」について、「フッ素系ガスによりドライエッチングできる化合物を主成分とするもの」に限定する補正を含むものであるから、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例
(a)引用例1
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である再公表特許第2004/090635号(以下「引用例1」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

記載事項ア
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、半導体集積回路や液晶表示装置等の製造において使用されるフォトマスクの製造方法、及びこれに用いられるフォトマスクブランクに関する。」(第5頁第22?25行)

記載事項イ
「ところで、近年においては、半導体装置のさらなる高集積化が進んており、その線幅も、130nmまでの線幅から、90nm、65nm、さらには45nmの線幅が検討され、パターンの高密度化も進んでいる。そのため、フォトマスクのパターンも、さらに微細化され、そのCD精度についてもますます厳しい要求値が求められている傾向にある。」(第7頁第12?15行)

記載事項ウ
「さらに、位相シフトマスクを製造する場合においては、エッチングマスクとなる遮光膜のパターン形状が、位相シフト材料層のパターン形状にそのまま反映されてしまうため、遮光膜パターンの寸法制御が非常に重要な役割を果たす。特に、位相シフトマスクは、バイナリマスクに比べ、半導体装置におけるパターンの微細化に効果的なマスクである。そして、近年において、さらにパターンの微細化が進んでいることから、位相シフト材料層のさらに厳しい寸法精度が要求されている。」(第7頁第28?33行)

記載事項エ
「前記無機系材料からなるエッチングマスク用膜は、モリブデン、シリコン、タンタル、タングステンのうち何れか一つを少なくとも含む材料からなることが望ましい。」(第9頁第17?19行)

記載事項オ
「〔第1実施例〕
図1を参照して、本発明の第1実施例によるフォトマスクの製造方法について説明する。
まず、石英からなる基板を鏡面研磨し所定の洗浄を施すことにより、6インチ×6インチ×0.25インチの透光性基板1を得た。
次いで、同一のチャンバ内に複数のクロム(Cr)ターゲットが配置されたインラインスパッタ装置を用いて、透光性基板1の上に遮光性クロム膜2を成膜した(図1(a)参照)。
具体的には、まず、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=72:28[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚20[nm]のCrN膜を成膜した。
続けて、アルゴン(Ar)とメタン(CH_(4))の混合ガス雰囲気(Ar:CH_(4)=96.5:3.5[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、CrN膜の上に、膜厚37[nm]のCrC膜を成膜した。
続けて、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)の混合ガス雰囲気(Ar:NO=87.5:12.5[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、CrN膜の上に、膜厚が15[nm]のCrON膜を成膜した。
以上のCrN膜、CrC膜、及びCrON膜は、インラインスパッタ装置を用いて連続的に成膜されたものであり、これらCrN、CrC、及びCrONを含んでなる遮光性クロム膜2は、その厚み方向に向かって当該成分が連続的に変化して構成されている。
次いで、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=20:80[mol%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚が92[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜した(図1(b)参照)。
次いで、無機系エッチングマスク用膜3の上に、ポジ型電子線レジスト4(ZEP7000:日本ゼオン社製)をスピンコート法により膜厚が400[nm]となるように塗布した(図1(c)参照)。
以上により、透光性基板1上に、遮光性クロム膜2と、MoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3と、レジスト4が順次形成されたフォトマスクブランク11を準備した。
次いで、レジスト4に対し、日本電子社製のJBX9000によって電子線描画し、現像して、図2に示すようなレジストパターン41(0.4μmのライン&スペース)を形成した(図1(d)参照)。
作成したレジストパターン41は、面内に同一パターンからなるA部とB部を有し、A部を含む所定面積の領域は周囲のレジストが除去されずに表面に残っており、B部を含む同じ所定面積の領域(図上白色の部分)は周囲のレジストが除去されて表面に無機系エッチングマスク用膜3が現れている。つまり、A部とB部のパターンを比較することで、マスク面内において大域的な開口率差を有するパターン領域が混在する場合のCD特性を評価することができる。
そして、得られたレジストパターン41の寸法を、ホロン社製CD-SEM(EMU-220)を用いてA部およびB部においてそれぞれ測定した。
次いで、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3を、SF6とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成した(図1(e)参照)。
次いで、レジストパターン41及び無機系エッチングマスクパターン31をマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用い、圧力:3mmTorrの条件にて、イオン性を限りなく高めた(=イオンとラジカルがほぼ同等となる程度までイオン性を高めた)ラジカル主体のドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成した(図1(f)参照)。
次いで、レジストパターン41及び無機系エッチングマスクパターン31を剥離し、しかる後、所定の洗浄を施してフォトマスク10を得た(図1(g)参照)。
そして、得られた遮光性クロムパターン21の寸法を、レジストパターン41と同様にCD-SEMを用いてA部およびB部においてそれぞれ測定した。その結果、A部とB部における寸法変換差(レジストパターン41と遮光性クロムパターン21の寸法差)の差は、驚くべきことに5nmであり、極めて良好なCD特性でフォトマスク10を製造することができた。」(第14頁第14行?第15頁第20行)

記載事項カ
「〔第3実施例〕
図3を参照して、本発明の第3実施例によるフォトマスクの製造方法について説明する。
まず、石英からなる基板を鏡面研磨し所定の洗浄を施すことにより、6インチ×6インチ×0.25インチの透光性基板1を得た。
次いで、透光性基板1の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=20:80[mol%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚100[nm]のMoSiN系の半透光性の位相シフト膜5を成膜した(図3(a))。
次いで、第1実施例と同様の方法で、同一のチャンバ内に複数のクロム(Cr)ターゲットが配置されたインラインスパッタ装置を用いて、位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる遮光性クロム膜2を成膜した(図3(b))。
次いで、遮光性クロム膜2の上に、第1実施例と同様の方法で、膜厚92[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜した(図3(c))。
次いで、無機系エッチングマスク用膜3の上に、第1実施例と同様に、レジスト4をスピンコート法により膜厚が400[nm]となるように塗布した(図3(d))。
以上により、透光性基板1上に、MoSiN系材料からなる半透光性の位相シフト膜5と、Cr系材料からなる遮光性クロム膜2と、MoSiN系材料からなる無機系エッチングマスク用膜3と、レジスト4が順次形成されたハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11(ハーフトーン位相シフトマスクブランク)を準備した(図3(d))。
次いで、レジスト4に対し、第1実施例と同様に電子線描画し、現像して、図2に示すようなレジストパターン41(0.4μmのライン&スペース)を形成し、得られたレジストパターン41の寸法を、CD-SEMを用いてA部およびB部においてそれぞれ測定した(図3(e))。
次いで、第1実施例と同様の方法で、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成した(図3(f))。
次いで、第1実施例と同様の方法で、レジストパターン41及び無機系エッチングマスクパターン31をマスクにして、遮光性クロム膜2のドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成した(図3(g))。
次いで、レジストパターン41、無機系エッチングマスクパターン31、及び遮光性クロムパターン21をマスクにして、位相シフト膜5を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5mmTorrの条件にてドライエッチングを行い、位相シフトパターン51を形成した(図3(h))。このとき、MoSiN系の無機系エッチングマスクパターン31は、位相シフト膜5のドライエッチングによりレジストが後退した部分においてエッチングされるが、完全にエッチングされるまでは、位相シフト膜5のドライエッチングから遮光性クロムパターンを保護するため、位相シフト膜5のドライエッチングによる遮光性クロムパターンのダメージから発生する発塵を、影響のないレベルまで低減することができる。
次いで、レジストパターン41及び無機系エッチングマスクパターン31を剥離し、続いて転写パターン領域付近の遮光性クロムパターン21を剥離し(転写パターン領域上であってフォトマスクを使用した露光工程を考慮した際、残した方が良い部分の遮光性クロムパターンは残しても良い)、しかる後、所定の洗浄を施して、ハーフトーン位相シフト型のフォトマスク10(ハーフトーン位相シフトマスク)を得た(図3(i))。
そして、得られた位相シフトパターン51の寸法を、レジストパターン41と同様にCD-SEMを用いてA部およびB部においてそれぞれ測定した。その結果、A部とB部における寸法変換差(レジストパターン41と位相シフトパターン51の寸法差)の差は、驚くべきことに4nmであり、極めて良好なCD特性のハーフトーン位相シフトマスクを製造することができた。」(第17頁第7行?第18頁第6行)

上記記載事項アないしカの記載内容及び図示内容からして、引用例1には、
「透光性基板1の上に、MoSiN系の半透光性の位相シフト膜5を成膜し、次いで、位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる遮光性クロム膜2を成膜し、次いで、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲットを用いて、反応性スパッタリングを行うことにより、MoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜し、次いで、無機系エッチングマスク用膜3の上に、レジスト4を塗布した、フォトマスクを製造するためのハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11であって、ハーフトーン位相シフト型のフォトマスク10を得る際に、レジスト4に対し電子線描画し、現像してレジストパターン41を形成し、次いで、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成し、次いで、レジストパターン41及び無機系エッチングマスクパターン31をマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用いてドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成し、次いで、レジストパターン41、無機系エッチングマスクパターン31、及び遮光性クロムパターン21をマスクにして、位相シフト膜5を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、ドライエッチングを行い、位相シフトパターン51を形成する、ハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(b)引用例2
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭61-138256号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

記載事項キ
「[発明の概要]
上記目的を達成するため、本発明によれば、マスク基板としてマスク母材上に形成された遮光層上に、更に、該遮光層のパターニング工程におけるエッチング条件に対して耐性を有する薄膜層を積層せしめたものを使用し、該薄膜層上にレジストパターンを形成し、次いでこのレジストパターンをマスクとして該薄膜層をエッチングし、更に、該薄膜層のパターンをマスクとして前記遮光層をエッチングし、遮光層パターンを形成するようにしている。
[発明の効果]
本発明のマスクパターンの形成方法によれば、従来法では限界とみられていたレジストパターンと遮光パターンとのパターン変換差を飛躍的に低減することが可能となった。
また、比較的ドライエッチング耐性の小さいレジストを用いても薄膜層(被覆層)が耐性を有しているため、レジストパターンに忠実で、寸法精度および断面プロファイルの良好な遮光層のパターン形成が可能となる。」(第3頁右下欄第6行?第4頁左上欄第6行)

記載事項ク
「[発明の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
第1図は、本発明実施例のマスク基板の断面図を示すもので、このマスク基板は、低膨張ガラスからなるマスク母材11上に、遮光層としての膜厚800Åのクロム膜12および微細パターン形成用薄膜としての膜厚約100Åのタンタル薄膜13を順次積層せしめたものである。なお、該タンタル薄膜13は、クロム膜12のパターニングのためのドライエッチング工程で用いられる四塩化炭素等の塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスに対して著しい耐性を有する。
また、このマスク基板の形成は、マスク母材11上に、スパッタ蒸着法を用いてクロム膜、タンタル薄膜を順次積層せしめることによってなされる。
次にこのマスク基板を用いた高精度マスクの形成方法について説明する。
まず、該マスク基板上に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)膜14を形成した後、加速電圧50KV、照射量50μC/cm^(2)の電子ビーム照射を行ない所望のパターンを描画し、酢酸イソアミル(IAA)を用いて現像処理を行ない、レジストパターン14を形成する。(第2図(a))
次いで、該レジストパターン14をマスクとし、反応性イオンエッチング(RIE)により、第2図(b)に示す如くタンタル薄膜13を選択的に除去する。このときのエッチング条件は、反応ガスとして六弗化イオウ(SF_(6))を用い、200W、0.06Torr、30秒間とする。このようにして形成された開口W_(1)はレジストパターンの開口W_(2)に忠実に形成されており、レジストパターンの膜減りによる寸法変化は0.03μm以内に抑えることができた。
続いて、四塩化炭素(CCl_(4))と酸素の混合ガスを用い、700W、0.07Torr、15分間の反応性イオンエッチングにより、クロム膜12を選択的に除去する。この工程で、レジストパターン14は、徐々に除去されていくが、タンタル薄膜は著しい耐性を有するため、ほとんど膜減りもなく、下層のクロム膜12に対するマスクとして有効に作用する。従って、第2図(c)に示す如く、形成されるクロム膜のパターンは元のレジストパターン14の寸法に対して、0.05μm以内の寸法変化に抑えることができた。また、このとき、レジストパターン14は、エッチングによる膜減りによって徐々に除去されていき、特別なレジスト剥離工程は不要であった。」(第4頁左上欄第18行?右下欄第5行)

記載事項ケ
「更にまた、微細パターン形成用薄膜13としては、タンタル薄膜に限定されるものではなく、クロム膜等の遮光層が容易にエッチングされる条件で、比較的強い耐エッチ性を示し、逆に遮光層が比較的強い耐エッチ性を示すエッチング条件で容易にエッチングされる物質であればよい。ドライエッチングを用いる場合には例えば、遮光層として、クロム膜を用いる場合には、シリコン(Si)、窒化シリコン(Si_(2)N_(4))、多結晶シリコン、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、酸化シリコン、ポリシロサキン(当審注:ポリシロキサンの誤記と認める)等、塩素系ガスに対しては比較的耐エッチ性があり、弗素系ガスに対しては比較的容易にドライエッチングされる物質が有効である。」(第5頁左上欄第16行?右上欄第9行)

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「透光性基板1」、「遮光性クロム膜2」、「ハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11」は、それぞれ本願補正発明の「透明基板」、「遮光膜」、「フォトマスクブランクス」に相当する。そうすると、引用発明の「透光性基板1の上に、」「遮光性クロム膜2を成膜し」た「フォトマスクを製造するためのハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11」と、本願補正発明の「ハーフピッチ65nm以降の半導体デバイスの高集積化、超微細化を実現するためのフォトマスクを製造するための、透明基板の一主面上に少なくとも遮光膜が形成された、フォトマスクブランクス」は、「フォトマスクを製造するための、透明基板の一主面上に少なくとも遮光膜が形成された、フォトマスクブランクス」である点で共通している。

(b)引用発明の「半透光性の位相シフト膜5」は、本願補正発明の「ハーフトーン材料膜」に相当する。そうすると、引用発明の「位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる遮光性クロム膜2を成膜」することは、本願補正発明の「前記遮光膜は、ハーフトーン材料膜上に積層して形成され、」「前記遮光膜は、クロムを主成分とし」ていることに相当する。

(c)引用発明の「次いで、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲットを用いて、反応性スパッタリングを行うことにより、MoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜」することと、本願補正発明の「前記遮光膜上に非感光性のシリコン系ポリマー層がスピン塗布形成されて」いることは、「前記遮光膜上に非感光性の層が形成されて」いる点で共通している。

(d)引用発明は「ハーフトーン位相シフト型のフォトマスク10を得る際に、」「レジストパターン41及び無機系エッチングマスクパターン31をマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用いてドライエッチングを行」うのであるから、引用発明の「無機系エッチングマスクパターン31」が形成される「無機系エッチングマスク用膜3」は、「Cl_(2)とO_(2)の混合ガス」を用いたドライエッチングに対する耐性が大きいものであることは明らかである。このことと本願補正発明の「前記シリコン系ポリマー層は、有機基を有し、塩素系ガスによるドライエッチング耐性が大きいもので」あることは、「前記非感光性の層は、塩素系ガスによるドライエッチング耐性が大きいもので」ある点で共通している。

(e)引用発明は「ハーフトーン位相シフト型のフォトマスク10を得る際に、」「レジストパターン41、無機系エッチングマスクパターン31、及び遮光性クロムパターン21をマスクにして、位相シフト膜5を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、ドライエッチングを行い、位相シフトパターン51を形成する」のであるから、引用発明の「位相シフト膜5」は、フッ素系ガスによりドライエッチングできる化合物を主成分とするものといえる。そうすると、引用発明は、本願補正発明の「前記ハーフトーン材料膜は、フッ素系ガスによりドライエッチングできる化合物を主成分とするものである」ことに相当する構成を備えているといえる。

上記(a)ないし(e)に記載したことからして、本願補正発明と引用発明は、
「フォトマスクを製造するための、透明基板の一主面上に少なくとも遮光膜が形成された、フォトマスクブランクスであって、前記遮光膜は、ハーフトーン材料膜上に積層して形成され、且つ、前記遮光膜上に非感光性の層が形成されており、前記遮光膜は、クロムを主成分とし、前記非感光性の層は、塩素系ガスによるドライエッチング耐性が大きいもので、前記ハーフトーン材料膜は、フッ素系ガスによりドライエッチングできる化合物を主成分とするものであるフォトマスクブランクス。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点1
フォトマスクブランクスが、本願補正発明では、ハーフピッチ65nm以降の半導体デバイスの高集積化、超微細化を実現するためのフォトマスクを製造するためのものであるのに対し、引用発明では、そのようなフォトマスクを製造するためのものであるか否かが不明である点。

相違点2
非感光性の層が、本願補正発明では、スピン塗布形成された有機基を有するシリコン系ポリマー層であるのに対し、引用発明では、反応性スパッタリングにより成膜したMoSiN系の膜である点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
相違点1について
引用例1には、「近年においては、半導体装置のさらなる高集積化が進んており、その線幅も、130nmまでの線幅から、90nm、65nm、さらには45nmの線幅が検討され、パターンの高密度化も進んでいる。そのため、フォトマスクのパターンも、さらに微細化され、そのCD精度についてもますます厳しい要求値が求められている傾向にある。」(上記記載事項イ参照)と、半導体装置の高集積化が進んで、65nm以下の45nmの線幅が検討されていることが記載されており、また、引用例1の第3実施例では、「得られた位相シフトパターン51の寸法を、レジストパターン41と同様にCD-SEMを用いてA部およびB部においてそれぞれ測定した。その結果、A部とB部における寸法変換差(レジストパターン41と位相シフトパターン51の寸法差)の差は、驚くべきことに4nmであり、極めて良好なCD特性のハーフトーン位相シフトマスクを製造することができた。」(上記記載事項カ参照)と、レジストパターン41と位相シフトパターン51の寸法差(本願の発明の詳細な説明の【0077】に記載された「レジストパターンのCDからマスクパターンのCDまでのCD誤差(シフト量)」に相当するものと認められる)が4nmと、極めて良好なCD特性が得られているのであるから、引用発明のハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11は、ハーフピッチ65nm以降の半導体デバイスの高集積化、超微細化を実現するためのフォトマスクを製造するために用いられている蓋然性が高く、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。また、仮に上記相違点1が実質的な相違点であったとしても、引用発明のハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11をハーフピッチ65nm以降の半導体デバイスの高集積化、超微細化を実現するためのフォトマスクを製造するために用いるようにする程度は当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではないか、仮に実質的な相違点であったとしても上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。

相違点2について
引用例1には、無機材料からなるエッチングマスク用膜の材料として、モリブデン、シリコン、タンタル、タングステンのうち何れか一つを少なくとも含む材料からなることが望ましいことが記載(上記記載事項エ参照)されている。一方、引用例2には、クロム膜からなる遮光層上に積層される薄膜層のパターンをマスクとして遮光層をエッチングし、遮光層パターンを形成すること、薄膜層の材料として、シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、モリブデン、タングステン、酸化シリコン、ポリシロキサン等、塩素ガスに対しては比較的耐エッチ性があり、弗素系ガスに対しては比較的容易にドライエッチングされる物質が有効であることが記載(上記記載事項ケ参照)されている。また、引用発明の無機系エッチングマスク用膜3の材料であるMoSiN系材料は、上記「(3)」「(d)」で検討したように塩素系ガスによるドライエッチング耐性が大きい材料であるといえ、引用例1の上記記載事項オに記載されているように、弗素系ガスに対しては比較的容易にドライエッチングされる物質であるといえる。
そうすると、引用例2には、引用発明の無機系エッチングマスク用膜3と同様の機能を有する層の材料として、引用例1に例示されたモリブデン、シリコン、タングステンとともに、ポリシロキサンが記載されており、しかもポリシロキサンは、塩素系ガスに対して比較的耐エッチング性があり、弗素系ガスに対して比較的容易にドライエッチングされる物質であることが記載されているのであるから、引用発明の無機系エッチングマスク用膜3の材料であるMoSiN系材料に代えて、ポリシロキサンを採用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。そして、フォトマスクと同様の半導体デバイスの製造に用いられるフォトリソグラフィの技術分野において、エッチングされる層とレジスト層の間に設けられ、エッチングされる層のマスクとして機能するハードマスクの材料として、有機基を有するポリシロキサンを用いることや、ハードマスクの層をスピン塗布により形成することは、周知技術(例えば特開2001-53068号公報の【0015】?【0017】や特表2005-509913号公報の特許請求の範囲、【0108】?【0110】等参照)であるから、引用発明のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3に代えて引用例2に記載されたポリシロキサンを採用する際に、有機基を有するポリシロキサンを採用するとともに、層の形成にスピン塗布を用いるようにすることは当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願補正発明の効果は、引用発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術から予測し得る範囲内のものであり、格別のものとは認め難い。

よって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年9月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
透明基板と、この透明基板の一主面上に少なくとも遮光膜が形成されたフォトマスクブランクスであって、
前記遮光膜上に非感光性の有機基を有するシリコン系ポリマー層が塗布形成されており、前記シリコン系ポリマー層は塩素系ガスによるドライエッチング耐性が大きいことを特徴とするフォトマスクブランクス。
【請求項2】
前記遮光膜が、ハーフトーン材料膜上に積層して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランクス。」

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記「2.」「(2)」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明の限定事項を全て省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.」「(4)」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-12 
結審通知日 2014-06-17 
審決日 2014-06-27 
出願番号 特願2006-197530(P2006-197530)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03F)
P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡戸 正義  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 北川 清伸
土屋 知久
発明の名称 フォトマスクブランクス  
代理人 藤枡 裕実  

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