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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1291162
審判番号 不服2013-2067  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-04 
確定日 2014-08-20 
事件の表示 特願2008-519264号「半導体デバイス構造、及び第III属窒化物半導体デバイス構造を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年1月11日国際公開、WO2007/005074、平成20年12月11日国内公表、特表2008-545270号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年3月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2005年6月29日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年2月4日付けの拒絶理由の通知に対して、同年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年1月26日付けの拒絶理由<最後>の通知に対して、同年8月3日付けで意見書が提出され、同年9月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年2月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した同年5月10日付けの審尋を通知したところ、同年9月17日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成25年2月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の記載を補正するものであり、補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
炭化ケイ素(SiC)基板と、
4×10^(8)cm^(-2)未満の転位密度と少なくとも50Vの分離電圧とを有する、前記SiC基板の上方の第III族窒化物エピタキシャル層と、
を含む半導体デバイス構造。
・・中略・・
【請求項23】
4×10^(8)cm^(-2)未満の転位密度と少なくとも50Vの分離電圧とを有する第III族窒化物エピタキシャル層を炭化ケイ素(SiC)基板上に形成するステップを含むことを特徴とする第III族窒化物半導体デバイス構造を製造する方法。
・・中略・・
【請求項37】
前記形成するステップは、第III族窒化物エピタキシャル層を非パターン化SiC基板上に形成するステップを含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。」

(補正後)
「【請求項1】
炭化ケイ素(SiC)基板と、
4×10^(8)cm^(-2)未満の転位密度と少なくとも50Vの分離電圧とを有する、前記SiC基板の上方の第III族窒化物エピタキシャル層と、
を含む半導体デバイス構造。
・・中略・・
【請求項23】
4×10^(8)cm^(-2)未満の転位密度と少なくとも50Vの分離電圧とを有する第III族窒化物エピタキシャル層を炭化ケイ素(SiC)基板上に形成するステップを含むことを特徴とする第III族窒化物半導体デバイス構造を製造する方法。
・・中略・・
【請求項37】
前記形成するステップは、第III族窒化物エピタキシャル層を非パターン化SiC基板上に形成するステップを含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項38】
前記第III族窒化物エピタキシャル層は、GaNを含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス構造。
【請求項39】 前記第III族窒化物エピタキシャル層は、GaNを含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。」

(2-2)補正の適否
本件補正は、請求項38、39を付加するものであって、特許請求の範囲の記載の請求項の数を増やすものであるところ、請求項1を引用する請求項38および請求項23を引用する請求項39は、n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更するものではない(当審注:特許庁編「特許・実用新案 審査基準」第III部 第III節 4.3.1を参酌されたい。)ことから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号、第2号、第3号および第4号の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年6月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.(2-1)の(補正前)で示したものである。

4.引用例の記載事項
(4-1)原査定の拒絶の理由の引用文献1として引用された特開2005-19872号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
(a)「【請求項1】
基板上に少なくとも第1?第3の窒化物半導体層を成長させる窒化物半導体の製造方法であって、前記第1の窒化物半導体層を400?600℃で成長させ、前記第1の窒化物半導体層を700?1,300℃で熱処理した後、前記第1の窒化物半導体層の上に700?1,300℃で前記第2及び第3の窒化物半導体層を成長させ、原料ガスとともに前記基板近傍へ供給するキャリアガスとして、前記第2の窒化物半導体層の成長時には水素を63体積%以上含有する水素/窒素混合ガスを使用し、前記第3の窒化物半導体層の成長時には窒素を50体積%以上含有する水素/窒素混合ガスを使用し、かつ前記第2の窒化物半導体層を1μmより厚く形成することを特徴とする方法。」

(b)「【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の窒化物半導体の製造方法において、前記第1の窒化物半導体層の厚さが5?42nmであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の窒化物半導体の製造方法において、前記第3の窒化物半導体層の厚さが500?10,000nmであることを特徴とする方法。」

(c)「【請求項13】
請求項1?12のいずれかに記載の窒化物半導体の製造方法において、前記基板がサファイア、炭化珪素、珪素、ZrB_(2)、ZnO、LiGaO_(2)又はLiAlO_(2)の単結晶からなることを特徴とする方法。」

(d)「【請求項15】
請求項1?14のいずれかに記載の窒化物半導体の製造方法において、前記第1?第3の窒化物半導体層の少なくとも一つが、アンドープ層、シリコンドープ層、酸素ドープ層、鉄ドープ層、亜鉛ドープ層又はマグネシウムドープ層であり、そのドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下であることを特徴とする方法。

(e)「【請求項17】
請求項1?16のいずれかに記載の窒化物半導体の製造方法により作製した窒化物半導体を有する窒化物半導体デバイスであって、前記第3の窒化物半導体層上にデバイス構造を有することを特徴とする窒化物半導体デバイス。」

(f)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の目的は、高濃度のSiを添加せずに窒化物半導体の転位密度を1×10^(8)個/cm^(2)以下とすることができる窒化物半導体の製造方法を提供することである。」

(g)「【0028】
窒化物半導体の結晶成長は気相成長装置内で行うのが好ましく、例えば有機金属気相成長(MOVPE)装置又はハイドライド気相成長(HVPE)装置内で行うのが好ましい。MOVPE法は高結晶性の窒化物半導体結晶を成長させることができ、HVPE法は結晶成長速度が速いので効率良く窒化物半導体結晶を成長させることができる。MOVPE法及びHVPE法の実施条件は適宜設定してよい。またMOVPE法とHVPE法とを組合せてもよい。例えば、まず基板上にMOVPE法により窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させて微結晶粒を形成し[工程(a)]、次いでその上にHVPE法により工程(b)及び(c)の結晶成長を行うこともできる。」

(h)「【0046】
実施例1
直径50.8 mm及び厚さ330μmのC面サファイア基板上に、MOVPE法によりそれぞれ第1?第3の窒化物半導体層としてGaN半導体層を表1に示す条件で成長させた。各工程の手順は以下の通りである。
【0047】
(1) 熱清浄化工程
基板をMOVPE装置内に導入し、760 Torrの水素/窒素混合ガスからなるキャリアガス雰囲気(総流量=150 slm、水素濃度=33体積%)中で、1135℃で10分間加熱することにより基板表面の酸化物等を除去した。
【0048】
(2) 工程(a)
基板温度を515℃に下げるとともに、キャリアガス流量を140 slm、キャリアガス中の水素濃度を29体積%とし、窒素原料としてアンモニア(NH_(3))ガスを10 slmの流量で成長装置に導入した。さらにGa原料としてトリメチルガリウム(TMG)を成長装置に導入し、基板上に厚さ20 nmのGaN半導体層(低温バッファ層)を1.9μm/時の速度で成長させた。次に、キャリアガス流量を80 slm、キャリアガス中の水素濃度を29体積%、アンモニア流量を20 slmとし、基板温度を1075℃に上昇させて、GaN半導体層に熱処理を施し、基板上にGaN半導体層の微結晶粒を形成した。
【0049】
(3) 工程(b)
GaN半導体層の熱処理が終了した時点で、キャリアガス中の水素濃度を82体積%に上げ、島状構造のGaN半導体層を2.2μm/時の速度で成長させた。表1に示すように、工程(b)により厚さ2250 nm(2.25μm)のGaN半導体層が得られた。
【0050】
(4) 工程(c)
GaN半導体層を成長させながら装置内の圧力を300 Torrまで低下させ、キャリアガスの流量を130 slm、キャリアガス中の水素濃度を23体積%、基板温度を1005℃にし、GaN半導体層を3.1μm/時の速度で3000 nmの厚さに成長させ、GaN半導体表面を平坦化した。成長の終了後に基板温度を200℃以下に下げ、成長装置内を760 Torrの窒素ガスで満たした後、基板を成長装置より取り出した。
【0051】
得られたGaNエピタキシャルウエハの表面は鏡面であった。また透過型電子顕微鏡(TEM)による観察から求めたGaN半導体層表面の転位密度は5×10^(7)個/cm^(2)であった。この転位密度は、従来の2段階成長法によるGaNエピタキシャルウエハの転位密度(1×10^(9)個/cm^(2))の1/20であり、先発明での転位密度の最小値(基板表面を部分的にSi層で被覆した後、被覆したSi層上に微結晶粒を形成する方法により得られた値)と同じである。」

(i)「【0079】
実施例15
工程(a)?(c)で形成する各GaN半導体層にシリコンを5×10^(17)?1×10^(20)原子/cm^(3)の範囲でドーピングした以外実施例1(全ての層がアンドープ)と同じ条件で、基板上にGaN半導体を作製した。ドーピング材料としては水素希釈した5 ppmの濃度のシラン(SiH_(4))を用いた。その結果、ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下であれば、転位密度及び表面平坦性を損なわないことが明らかとなった。ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)より大きい場合、工程(c)の終了後のGaN半導体の表面粗さはrms値で20 nmを超えてしまった。
【0080】
酸素、鉄、亜鉛及びマグネシウムをそれぞれドープした場合について同じ実験を行った結果、全ての場合においてドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下であれば転位密度及び表面平坦性が損なわれないことを確認した。」

(j)「【0089】
実施例18及び比較例3のHEMTの直流伝達特性を調べたところ、実施例18のHEMTの相互コンダクタンスは250 mS/mmであり、比較例3のHEMTの相互コンダクタンスは75 mS/mmであった。実施例18のHEMTは比較例3のHEMTに比べてアンドープGaN半導体表面における転位密度が小さいため、ゲートリーク電流が減少しており、ゲート電圧による2次元電子密度の制御性が向上していると考えられる。」

(4-2)原査定の拒絶の理由の引用文献4として引用された国際公開第2005/008783号(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
(k)「[0088] Example 2: Semi-insulating HVPE GaN using low-level iron doping

[0089] In this example, the growth and properties of semi-insulating HVPE GaN crystals were demonstrated by incorporating low concentration iron impurity. 2.8 grams of 99.995% pure iron and 250 grams of 99.99999% gallium were loaded into the gallium boat (reservoir) at room temperature. The reactor was sealed and the reactor temperature was raised to the growth temperature.

[0090] GaN crystals were grown on a sapphire template using the baseline growth conditions. The growth conditions were: growth temperature = 1030℃, growth pressure = 50 Torr, and growth rate = about 100 μm/hour. After four-hour growth, the GaN crystals were removed from the reactor and characterized.

[0091] Table II below shows the impurity concentration in a GaN crystal grown in this example. The impurity concentration was measured with secondary ion mass spectrometry (SIMS) by commercial vendor. The iron concentration was about 4x10^(16)Fe atoms cm-3, which was slightly higher than the total donor impurity (silicon, oxygen, and carbon) concentration. 」
[【0088】実施例2:低レベル鉄ドーピングを用いる半絶縁性HVPE-GaN
【0089】この実施例において、半絶縁性HVPE-GaN結晶の成長および特性が、低濃度鉄不純物を取り込むことによって実証された。99.995%の純鉄2.8グラムおよび99.99999%のガリウム250グラムが、室温でガリウムボート(貯蔵器)に入れられた。リアクタは密閉され、リアクタ温度は成長温度に上げられた。
【0090】GaN結晶が、ベースライン成長条件を用いてサファイアテンプレート上で成長された。成長条件は、成長温度=1030℃、成長圧力=50torrおよび成長速度=約100μm/時だった。4時間の成長の後、GaN結晶はリアクタから取り出され、特徴付けられた。
【0091】以下の表IIは、この実施例で成長されたGaN結晶における不純物濃度を示す。不純物濃度は、商用ベンダによって二次イオン質量分析法(SIMS)で測定された。鉄濃度は、約4×10^(16)Fe原子cm^(-3)で、これは、全ドナー不純物(シリコン、酸素および炭素)濃度よりわずかに高かった。](当審注:[]内は、当審の仮訳である。以下同じ。)

(l)「[0092] The resistivity of the GaN crystal grown in Example 2 was measured as a function of temperature by the four-point probe method using InSn contacts. The contacts were ohmic once the InSn had melted and the temperature of the GaN was above?60℃. Figure 1 shows resistivity data, as a function of inverse sample temperature, for the iron-doped GaN crystal sample grown by the method described above. The resistivity at 250℃ was 3x10^(5)ohm-cm and the resistivity at room temperature (determined by extrapolation) was 2x10^(9)ohm-cm. The activation energy for Fe-doped GaN was 0.51 eV, as shown in Figure 1. 」
[【0092】実施例2において成長されたGaN結晶の抵抗率は、InSn接点を用いて、四探針法によって温度の関数として測定された。ひとたびInSnが融解すると接点はオーム性であり、GaNの温度は?60℃を超えていた。図1は、上記の方法によって成長された鉄ドープGaN結晶サンプルのための、逆サンプル温度の関数としての抵抗率データを示す。250℃の抵抗率は3×10^(5)ohm-cmであり、室温の抵抗率(外挿によって決定)は2×10^(9)ohm-cmだった。図1に示すように、FeドープGaNの活性化エネルギは、0.51eVだった。]

5.引用例記載の発明
(5-1)引用例1記載の発明
(A)上記(a)ないし(e)の記載事項より、引用例1には、「厚さ5?42nmの第1の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、1μmより厚い第2の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ500?10,000nmの第3の鉄ドープGaNエピタキシャル層とからなり、鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaN層をサファイア基板または炭化珪素基板の上方に設ける」ことが記載されているということができる。

(B)上記(h)(i)の記載事項より、引用例1(実施例15)には、「厚さ20nmの第1の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ2250nmの第2の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ3000nmの第3の鉄ドープGaNエピタキシャル層とからなり、厚さが合計5270nmであるとともに鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaN層をサファイア基板の上方に設ける」ことが記載されているということができる。

上記4.(a)ないし(i)の記載事項および上記(A)の検討事項より、引用例1には、「サファイア基板または炭化珪素基板と、1×10^(8)個/cm^(2)以下の転位密度を有する、前記基板の上方の『厚さ5?42nmの第1の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、1μmより厚い第2の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ500?10,000nmの第3の鉄ドープGaNエピタキシャル層とからなり、鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaN層』と、を含むGaNエピタキシャルウエハ。」の発明が記載されている。(当審注:「」内の「」を当審において『』に書き換えた。)

(5-2)引用例2記載の発明
(C)上記(k)の記載事項からして、引用例2には、「成長速度=約100μm/時で4時間の成長の後にGaN結晶を取り出す」こと、つまり「約400ミクロンの厚さのGaN結晶を生成する」ことが記載されているということができる。

(D)上記(l)の記載事項からして、引用例2には、「GaN結晶の室温抵抗率が2×10^(9)ohm-cmである」こと、つまり「GaN結晶の室温抵抗率が2×10^(8)ohm-mmである」ことが記載されているということができる。

上記4.(j)(k)の記載事項および上記(C)(D)の検討事項より、引用例2には、「厚さが約400ミクロン、鉄濃度が約4×10^(16)Fe原子cm^(-3)、室温抵抗率が2×10^(8)ohm-mmである半絶縁性HVPE-GaN結晶。」の発明が記載されている。

6.対比・判断
(6-1)対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例1記載の発明の「個/cm^(2)」、「厚さ5?42nmの第1の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、1μmより厚い第2の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ500?10,000nmの第3の鉄ドープGaNエピタキシャル層とからなり、鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaN層」、「GaNエピタキシャルウエハ」は、本願発明の「cm^(-2)」、「第III族窒化物エピタキシャル層」、「半導体デバイス構造」のそれぞれに相当する。

○引用例1記載の発明の「サファイア基板または炭化珪素基板」と、本願発明の「炭化ケイ素(SiC)基板」とは、「炭化ケイ素(SiC)基板」という点で重複する。

○引用例1記載の発明の「1×10^(8)個/cm^(2)以下」と、本願発明の「4×10^(8)cm^(-2)未満」とは、「1×10^(8)cm^(-2)以下」という点で重複する。

上記より、本願発明と引用例1記載の発明とは、「炭化ケイ素(SiC)基板と、1×10^(8)cm^(-2)以下の転位密度を有する、前記基板の上方の第III族窒化物エピタキシャル層と、を含む半導体デバイス構造。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願発明では、「少なくとも50Vの分離電圧を有する」のに対して、引用例1記載の発明では、上記「」内の事項の特定がない点。

<相違点>について検討する。
引用例1(実施例15)には、上記5.(5-1)の検討事項(B)で示したように、「厚さ20nmの第1の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ2250nmの第2の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ3000nmの第3の鉄ドープGaNエピタキシャル層とからなり、厚さが合計5270nmであるとともに鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaN層をサファイア基板の上方に設ける」(当審注:下線部は、当審において付与した。以下同じ。)ことが記載されているということができ、これと、引用例1記載の発明の「サファイア基板または炭化珪素基板と、1×10^(8)個/cm^(2)以下の転位密度を有する、前記基板の上方の『厚さ5?42nmの第1の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、1μmより厚い第2の鉄ドープGaNエピタキシャル層と、厚さ500?10,000nmの第3の鉄ドープGaNエピタキシャル層とからなり、鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaN層』と、を含むGaNエピタキシャルウエハ。」とは、両者の下線部が対応していることから、引用例1記載の発明の「厚さ5?42nmの・・・と、1μmより厚い・・・と、厚さ500?10,000nmの・・・とからな」る「鉄ドープGaN層」は、実施例15と同様の「5ミクロンを超える厚さ」である場合を包含するものであるとみるのが妥当である。
また、引用例1には、上記4.(4-1)の(e)で示した「【請求項17】
請求項1?16のいずれかに記載の窒化物半導体の製造方法により作製した窒化物半導体を有する窒化物半導体デバイスであって、前記第3の窒化物半導体層上にデバイス構造を有することを特徴とする窒化物半導体デバイス。」および同(j)で示した「【0089】・・・実施例18のHEMTは比較例3のHEMTに比べてアンドープGaN半導体表面における転位密度が小さいため、ゲートリーク電流が減少しており、ゲート電圧による2次元電子密度の制御性が向上していると考えられる。」との記載があり、これらからして、引用例1記載の発明は、「厚さが5ミクロンを超え、鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaNエピタキシャル層」に、ゲート電極を有するデバイス、つまり「ソース電極とドレイン電極を接続する領域」を有するデバイスを形成することを想定するものである。
さらに、一般に、ソース電極とドレイン電極を接続する領域を半絶縁性にすることは、従来より周知(例えば、特開2002-299622号公報の特に【0022】ないし【0026】参照)の技術であることから、引用例1記載の発明の上記「ソース電極とドレイン電極を接続する領域」は、「ソース電極とドレイン電極を接続する半絶縁性の領域」というべきである。
ここで、引用例2記載の発明は、上記5.(5-2)で示したように、「厚さが約400ミクロン、鉄濃度が約4×10^(16)Fe原子cm^(-3)、室温抵抗率が2×10^(8)ohm-mmである半絶縁性HVPE-GaN結晶。」であり、これを言い換えると、「厚さが約400ミクロン、鉄ドーピング濃度が約4×10^(16)Fe原子/cm^(3)、室温抵抗率が2×10^(8)ohm-mmである半絶縁性の鉄ドープGaNエピタキシャル層。」になるということができ、これと引用例1記載の発明の「厚さが5ミクロンを超え、鉄ドーピング濃度が5×10^(19)原子/cm^(3)以下である鉄ドープGaNエピタキシャル層」に形成された「ソース電極とドレイン電極を接続する半絶縁性の領域」とは、半絶縁性の鉄ドープGaNエピタキシャル層であるという点で軌を一にしており、また、導電性、半絶縁性、絶縁性の区別は、主に抵抗率により規定されるものであるということができることから、引用例1記載の発明の「ソース電極とドレイン電極を接続する半絶縁性の領域」の「半絶縁性(抵抗率)」は、引用例2記載の発明の「2×10^(8)ohm-mm(半絶縁性)」と同程度もしくはこれに近い値になっているとみるのが妥当である。
そして、本願明細書には、「【0028】
分離電圧とは、エピタキシャル層14上の非ゲート・トランジスタ構造に対して1mA/mmの電流を提供する電圧を指す。したがって、例えば、ソースとのドレイン間の間隔が5μmのHEMT構造をエピタキシャル層14上に形成し、ゲートをデバイス構造から除去することによって、デバイス構造の分離電圧を計測することもできる。・・・」との記載があり、これからして、分離電圧の定義は、非ゲートのトランジスタ構造(ソース電極とドレイン電極を接続する領域)に1mA/mmの電流を(オフ時に)提供したときの電圧であるということができる。
そうすると、引用例1記載の発明について、「ソース電極とドレイン電極を接続する半絶縁性の領域」の「半絶縁性(抵抗率)」を、引用例2記載の発明の「2×10^(8)ohm-mm(半絶縁性)」に近い「10^(8)ohm-mm」と仮定し、1mA/mmの電流を提供したときの分離電圧を算出すると、10^(5)Vとなり、また、分離電圧が10^(5)Vでないとしても、半絶縁性であるならば、10^(5)Vから大きく離れた50V未満の分離電圧になるとは想定し難いことから、引用例1には、「少なくとも50Vの分離電圧を有する」ことが記載されているということができ、そうでないとしても、10^(5)Vに近い分離電圧にする、つまり「少なくとも50Vの分離電圧を有する」ようにすることに格別の困難性があるとはいえない。
したがって、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用例1に記載されたものであって、相違点は実質的な相違点ではなく、また、引用例1、2記載の発明および周知技術に基いて当業者であれば容易に想起し得るものである。

また、本願発明の「低い転位密度と、有用な電気特性(例えば、少なくとも50Vの分離電圧)を得る」等の作用効果は、引用例1、2記載の発明および周知技術に基いて当業者であれば十分に予測し得るものである。
よって、本願発明は、引用例1に記載されたものであり、また、引用例1、2記載の発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
したがって、本願発明は、引用例1に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、また、引用例1、2記載の発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし37に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-24 
結審通知日 2014-03-25 
審決日 2014-04-07 
出願番号 特願2008-519264(P2008-519264)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷部 智寿  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 鈴木 正紀
井上 茂夫
発明の名称 半導体デバイス構造、及び第III属窒化物半導体デバイス構造を製造する方法  
代理人 竹内 三喜夫  
代理人 山田 卓二  
代理人 中野 晴夫  
代理人 田中 光雄  

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