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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L |
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管理番号 | 1291375 |
審判番号 | 不服2013-13721 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-17 |
確定日 | 2014-08-29 |
事件の表示 | 特願2009-132567「ガスハイドレートの貯蔵方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 8日出願公開、特開2009-228008〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年3月26日に出願した特願2003-84719号(原々出願:優先権主張平成14年3月26日)の一部を平成21年4月30日に新たな特許出願とした特願2009-111151号(原出願)のさらなる分割出願であって、平成21年6月1日に出願され、平成24年4月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年4月11日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、当審において、同年11月8日付けで、同年9月27日付けの前置報告書を引用した審尋がなされ、平成26年1月14日に回答書が提出されたものである。 2.本願発明 本願請求項1及び2に係る発明は、平成25年7月17日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「 【請求項1】 原料水とガスハイドレート形成物質とを反応させて生成されたガスハイドレートを貯蔵するガスハイドレートの貯蔵方法であって、 前記貯蔵されるガスハイドレートは、ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ電解質が溶液中で解離したイオンを含有し、且つ氷を含むものであり、 前記イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を構成要素として含むものであり、 前記ガスハイドレートを、温度が-20℃以上0℃以下、圧力が大気圧である貯蔵環境下で貯蔵することを特徴とするガスハイドレートの貯蔵方法。」 3.原査定の理由の概要 原査定の理由は、平成24年4月24日付けの拒絶理由通知書に記載された理由1、2、4であるところ、その理由2は、概略、以下のとおりである。 <理由2> 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 2.特表2001-519470号公報 12.日本造船学会誌, Vol.842,P.38-46(平成11年8月) (刊行物2、12以外の刊行物は省略) 4.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶理由において、刊行物2及び12として引用された上記刊行物はともに、本願の原々出願(特願2003-84719号)の優先権主張日(平成14年3月26日)前に頒布されたものであって、以下の事項がそれぞれ記載されている。 <刊行物2> 2a: 「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項8】 ガス・ハイドレートを製造する方法であって: ハイドレート形成ガスを反応器の下側部分に導入すること; 反応器に水を導入すること; ハイドレート形成ガスと水とを互いに接触させ、ガス・ハイドレート粒子を形成すること; 少なくとも一部のハイドレート形成ガスと少なくとも一部のガス・ハイドレート粒子を含む流動または膨張反応床を形成し、流動または膨張反応床の少なくとも一部が反応器の下側部分の少なくとも一部に形成されるようにすること;ならびに ガスハイドレート粒子の少なくとも一部を反応器から取り除くこと を含む方法。」 2b: 「 【0014】 ガス・ハイドレートが反応容器から取り除かれた後、それらは所望の場所、例えば貯蔵所、トラック、船、鉄道車両、またはその他の輸送手段、あるいは直ちに脱気して使用する場所に移動させることができる。ガス・ハイドレートの粒子を反応容器から移動させる輸送手段は、いずれの適当な固体移動装置、例えばスクリュー・コンベアー、ベルト・コンベアー、輸送手段等であり得る。」 2c: 「 【0021】 本発明はハイドレート形成ガスおよび水からガス・ハイドレートを製造する方法および装置に関する。本発明の方法および装置においては、適当なハイドレート形成ガスをいずれも使用することができ、例えば天然ガス、付随天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、二酸化炭素、窒素および硫化水素、ならびにそれらのガスの組み合わせを使用できるが、天然ガスは本発明で使用するのに特に適している。更に、本発明のプロセスにおいては、適当な水供給源をいずれも使用することができ、該供給源には真水、塩水、海水、プロセス用水等が含まれる。」 2d: 下記図2とともに、以下のように記載されている。 「 【0026】 本発明の1つの態様は、図2に模式的に示すガス連続装置10(gas continuous apparatus)である。流動または膨張床反応容器12には上側部分14および下側部分16が設けられている。流動または膨張床反応容器12は十分に断熱されて周囲環境からの熱伝達を減らし、反応容器12内の温度をコントロールするのに役立つ。 ・・・ 【0030】 水はウォーター・ライン20を介して反応器12に導入される。この水は、適当な水供給源S(例えば、湖、海、工業プロセス、または他の真水もしくは塩水源)から取り出し得る。必要な場合には、反応器12に存する高圧下でガス・ハイドレートを形成するのに適した温度にて水が反応器12に注入されるよう、水を冷却すべきである。 ・・・ 【0032】 注入された水は反応器12の長手方向に沿って下向きに移動する。それが反応器12を下向きに移動すると、それはハイドレート形成ガスと接触する。新しい補給ガスを適当な供給源Gから圧力下で反応器12の下側部分16にガス・ライン24を介して注入する。 ・・・ 【0033】 ガスが反応容器12内を上向きに流れて下向きの水の流れと接するように、ガスは圧力下で注入される。ガスおよび水が適当な温度および圧力条件下で接触すると、ガス・ハイドレート粒子26が形成される(図2において小さな菱形で図示する)。ガス・ハイドレートを製造するのに適した温度および圧力条件は十分に詳細に記されており、当業者において公知である。例えば、反応器12は700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度に維持することができる。 ・・・ 【0040】 反応器12で製造されるガス・ハイドレート粒子は、適当な生成物取出し装置40を用いてそこから取り出される。この生成物取出し装置40は反応器12とは別個のものであり得、或いは反応器12と一体であり得、それはまた過剰の水、過剰のガス、ならびに/またはハイドレートの一部が再びガスとなることによって得られる水およびガスからハイドレート生成物を分離するように作用し得る。生成物取出しデバイス40は連続的又は周期的に作動し得る。生成物取出し装置40から、ハイドレート生成物はライン42を経由して出ていき、存在するガスはいずれもリサイクルまたはパージのためにライン44を経由して出ていき、過剰の水または塩水(もしくはブライン)はライン46を経由して出ていく。所望の場合には、水または塩水もまたリサイクルし得る。 2e: 「 【0049】 本発明に従って製造されるガス・ハイドレート物質は当該分野において知られているいずれの方法によっても、貯蔵し、輸送し、または使用することができる。」 <刊行物12> 12a: 下記図3とともに、以下のように記載されている。 「2.2 ガスハイドレートの圧力-温度の相図 まず実用上最も重要で、良く研究されているメタンハイドレートについて説明する。1930年代からその後50年間以上にも渡り2元系の相平衡研究を行ってきた米国のKobayashiとKatzらは、今日でも利用されている著名なメタンハイドレートの相図を1959年に発表した(図3)。メタンハイドレートの結晶生成に関する圧力-温度条件は水/氷と比較すると、圧力変化に非常に敏感である。水/氷の相境界は圧力によらず、ほとんど一定温度と言える。メタンハイドレートは圧力依存性があるので、深海底ではかなり高い温度でも固体として安定しており、水深1万mでは1千気圧となり30℃以上まで耐えられる。 大量のメタンハイドレート輸送上の問題は、メタンハイドレートの保存温度と圧力である。北海道工業研究所の海老沼らによるとメタンハイドレートの生成圧力が大気圧となるのは、温度が約-80℃である。この温度では冷媒R22を用いる一般的な冷凍機の適応限界(0?-50℃)を超えるので、技術的・経済的に簡単ではなくなる。 なお、固体メタンハイドレートと気体メタン/水の境界は、添加物によって相転移点の温度/圧力位置がシフトすることが知られている。図3に書き込まれた矢印(→)はシフトの方向を示している。二酸化炭素、エタン、プロパン、硫化水素を加えると同じ圧力下で相転移温度はより高温側にシフトする。逆に塩化ナトリウム、窒素ではより低温側に相転移温度をシフトする。」(39頁右欄?40頁左欄の「2.2 ガスハイドレートの圧力-温度の相図」の項参照) 12b: 下記図4とともに、以下のように記載されている。 「2.3 自己保存効果 加圧しながら輸送するのでは圧力容器が必要となり、それほど大量の輸送はできない。しかし常圧ならかなり極端な温度でも大量の物質輸送が可能である。LNGがその典型例である。 ガスハイドレートの常圧保存が可能であるとする自己保存効果(Self-Preservation)は1991年9月に札幌で開催されたIPC-91シンポジウムにおいてロシアのYakushevとIstominにより英文で発表された(出版は1992)。 ・・・ 自己保存効果の原理は次のとおりである。低温高圧で生成したメタンハイドレートを常圧に晒すと、表面から分解が始まりメタンは気体として去り、水が表面を覆う。分解により熱が奪われ表面の水は氷の膜を作り、メタンハイドレートを覆う。氷の膜が適当な厚さになると内側のメタンハイドレートへの熱流入が遮断され、常圧でも内部のメタンハイドレートは安定する(図4)。 海老沼らによれば、常圧下の氷点下温度、例えば-15℃でガスハイドレートが氷の中に分散した状態では、熱力学的には不安定でもガスハイドレートの分解・解離が抑制される。 さて常圧での自己保存効果についてはまだ多くのナゾが残っている。例えば自己保存効果の時間的安定性、わかりやすく言い換えると長時間常温に晒した場合に自己保存効果はどの位維持できるかと言う問題についてはまだまとまった報告が無い。さらにI型、II型、H型など結晶構造ごとの自己保存効果も実用上大きな問題である。」(40頁左欄?右欄の「2.3 自己保存効果」の項参照) 12c: 下記図5及び表1とともに、以下のように記載されている。 「3.4 製造・輸送・再ガス化 (1)Gudmundssonらの製造工程 Gudmundssonらの製造工程の基本構想は次のとおりである。海水を冷熱源とするアンモニア冷却装置で2℃の冷水を毎時9.0トン作る。この水と、10℃で65気圧の高圧天然ガスから高速大量に天然ガスハイドレートを生産する。反応装置から出たNGHは重量で約12%の水を含むので、回転乾燥機と乾燥天然ガスでNGHを乾燥される。できたNGHは常圧、15℃で保存される(図5)。 ・・・ (2)GudmundssonらのNGH船 NGH船の概念仕様書はノルウェーのShipping Research Services社がまとめた。積載ガスハイドレート重量は322,000トン、容積にして460,000m^(3)である。ガスハイドレートによるメタンの包蔵量が150m^(3)/m^(3)の時にLNG換算11万5キロリットル、100m^(3)/m^(3)の時にLNG換算7万7キロリットルそれぞれ積載可能となるので、できるだけ高密度にメタンを包蔵するNGHを製造することが不可欠である。概念設計のNGH船は12の箱形貨物タンクと12のバラストタンクを持ち、二重底である。エンジン燃料はNGH分解により生じた天然ガスを用いる(表1)。」(41頁左欄?右欄の「3.4 製造・輸送・再ガス化」の項参照) 5.当審の判断 (1)引用発明 引用刊行物2には、ハイドレート形成ガスおよび水からガスハイドレートを製造することが記載され(摘記事項2a)、当該ハイドレート形成ガスとしては天然ガス、メタンなどが例示されるとともに(摘記事項2c)、適当な水供給源としては、真水、塩水、海水などが挙げられている(摘記事項2c、2d【0030】)。 そして、摘記事項2dに示された具体的態様から、ガスハイドレートの製造は、700?2000psigの範囲の圧力および30°?56°Fの範囲の温度というガスハイドレートを製造するのに適した温度および圧力条件に維持された反応器12内において、ハイドレート形成ガスおよび水が接触して生成されることが理解でき(摘記事項2d【0033】)、生成されたガスハイドレートは、反応器12と別個あるいは一体の生成物取出し装置40から取り出されるとともに、過剰の水または塩水は、ライン46を経由して排出されることが把握できる(摘記事項2d【0040】)。 これらの記載事項を勘案すると、引用刊行物2には、ガスハイドレートを生成するための原料水として、塩水を用いることが記載されているといえる。 さらに、摘記事項2b、2eより、上記のように反応器から取り出された生成されたガスハイドレートは、貯蔵所や船などの輸送手段で貯蔵ないし輸送されることが理解できるとともに、ガスハイドレートを船などの輸送手段により輸送する場合であっても、輸送中、ガスハイドレートは当該輸送手段内において貯蔵されているということができる。 そうすると、引用刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「反応器内において、原料水としての塩水と、天然ガスやメタンガスといったハイドレート形成ガスとを反応させてガスハイドレートを生成し、該反応器において生成されたガスハイドレートを、貯蔵所や船内で貯蔵する方法。」 (2)本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明を対比すると、両者は、 「原料水とガスハイドレート形成物質とを反応させて生成されたガスハイドレートを貯蔵するガスハイドレートの貯蔵方法」 である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。 <相違点1> 本願発明は、「ガスハイドレートを、温度が-20℃以上0℃以下、圧力が大気圧である貯蔵環境下で貯蔵する」とともに、貯蔵されるガスハイドレートは、「氷を含む」ものであると特定しているのに対して、引用発明は、このような特定を有しない点。 <相違点2> 本願発明において貯蔵されるガスハイドレートは、「ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ電解質が溶液中で解離したイオンを含有し」、このイオンが、「リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、リン(P)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を構成要素として含むもの」であるのに対して、引用発明はこの点の明示がない点。 (3)相違点の検討 <相違点1(貯蔵環境及び貯蔵状態の相違)について> 当該相違点1に係る技術的事項は、ガスハイドレートの貯蔵環境及び貯蔵状態に関連するものであるところ、引用刊行物12の摘記事項12cには、天然ガスハイドレート(NGH)の保存条件等について記載され、具体的には、「できたNGHは常圧、-15℃で保存される」こと(41頁右欄2、3行)及び船に積載されること(図5)、並びにNGH船では保持温度が「氷点下(-5℃から-15℃程度)」であること(表1)が示されている。そして、当該表1には、圧力に関する記載は見当たらないが、NGH船のような大量輸送手段の場合は、常圧保存が通例と解される(摘記事項12bの冒頭の記載を参照)。 そうすると、本願発明において規定される「温度が-20℃以上0℃以下、圧力が大気圧」というガスハイドレートの貯蔵環境は、既に当業者間でよく知られた事項というべきである。 また、当該引用刊行物12の摘記事項12aに記載された図3(メタンハイドレートの相図)を参酌すると、上記「温度が-20℃以上0℃以下、圧力が大気圧」という温度及び圧力は、メタンハイドレートの分解条件となる温度及び圧力条件(相図からみてメタンハイドレートが分解して「メタン気体+水」となる領域)であることが理解できるものの、引用刊行物12の摘記事項12bに記載されたガスハイドレートの自己保存効果により、このような分解条件下においても、ガスハイドレートは分解・解離が抑制された状態で維持されるものと推察される。 すなわち、上記摘記事項12bには、ガスハイドレートが有する自己保存効果について記載されており、その原理について、ガスハイドレートが常圧(分解条件下)に晒されると、表面からハイドレート形成ガスと水への分解が始まるものの、分解により熱が奪われることにより表面の水は氷の膜を作るため、氷の膜が適当な厚さになると内側のガスハイドレートへの熱流入が遮断され、常圧でも内部のガスハイドレートは安定した状態となる旨説明され(図4)、この自己保存効果により、常圧下の氷点下温度、例えば-15℃でガスハイドレートが氷の中に分散した状態では、熱力学的には不安定でもガスハイドレートの分解・解離が抑制されることを理解することができる。 以上の点を考え合わせると、引用発明における貯蔵環境を、「温度が-20℃以上0℃以下、圧力が大気圧」というガスハイドレートの分解条件となる温度及び圧力とすることは、上記引用刊行物12の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められ、かつ、このような貯蔵環境下(分解条件下)に晒されたガスハイドレートの状態は、上述のとおり、自己保存効果を発揮して、その表層には氷を有しているものと推認されることから、本願発明と同様、「氷を含む」状態にあるといえる。 <相違点2(貯蔵されるガスハイドレートの成分の相違)について> 当該相違点2に係る技術的事項は、ガスハイドレートの成分及びその作用効果に関連するものであるところ、引用発明において生成されるガスハイドレートは、原料水として、塩水、すなわち、塩化ナトリウムが溶液中で解離したナトリウムイオン及び塩素イオンを含む水溶液を使用するものの、ガスハイドレート自体がこれらのイオンを含むこと、及びその分解抑制作用について明示するものではない。 しかしながら、当該ガスハイドレートは、ナトリウムイオン及び塩素イオンを含む水溶液を原料水とする以上、その生成過程においては、不可避的に取り込まれるものを含め、これらのイオンが少なからず取り込まれていると考えるのが自然である。 また、本願明細書の段落【0057】に記載された実施例2をみても、塩化ナトリウム水溶液を用いる以外、上記イオンをガスハイドレートに取り込むための特別な製造手法は見当たらないから、この実施例2の製造過程に照らしても、引用発明において、塩水を原料水として使用すれば、生成されるガスハイドレートは、少なからず、ナトリウムイオンや塩素イオンを含むものとなると解するのが妥当である。 このように、引用発明においても、貯蔵されるガスハイドレートは既にナトリウムイオンや塩素イオンを含むものであって、本願発明において貯蔵されるガスハイドレートと、その成分において何ら相違しないのであるから、本願発明がこれらのイオンを、「ガスハイドレートの分解抑制作用を持つ電解質が溶液中で解離したイオン」と呼称しても、これにより、両者のイオン、さらには両者のガスハイドレートが区別されるものではないし、この「分解抑制作用」についても、上記成分(イオン)の同一性からみて、引用発明において当然に奏される作用というほかない。 よって、当該相違点に係る技術的事項は、引用発明が既に具備するものといわざるを得ず、該相違点2は、実質的な相違点とはいえない。 (4)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、 『刊行物12には、同じ圧力下で相転移温度は塩化ナトリウムを加えると低温側にシフトすると記載されています。この記載は当業者にとっては以下のことが示唆されていることになります。 即ち、ガスハイドレートを「大気圧、-20℃から0℃」のガスハイドレート分解条件下で貯蔵する際の分解抑制という観点からは、それらのイオンが含まれている原料水を用いることは、前記「低温側へのシフト」によって分解しやすくなり、好ましくない、ということが示唆されていることになります。この示唆は本発明の特徴構成と逆行する関係です。』(11頁) と主張する。 しかしながら、上記「(3)<相違点1(貯蔵環境及び貯蔵状態の相違)について>」にて説示したとおり、引用発明において、「温度が-20℃以上0℃以下、圧力が大気圧」というガスハイドレートの分解条件となる温度及び圧力を、貯蔵環境として採用し得る要因は、ガスハイドレートが有する自己保存効果にあるのであって、審判請求人が指摘する刊行物12の図3に示される相図をその拠り所としているわけではない。そして、この自己保存効果は、平衡状態(熱力学的に安定な状態)から外れた準平衡状態(熱力学的には不安定な状態)における現象であり、上記相図(平衡状態図)とは別次元の現象であるから、塩化ナトリウムを添加することにより、当該相図が低温側(ガスハイドレートの安定領域が狭くなる方向)にシフトするとしても、これが直ちに上記自己保存効果の原理そのものを阻害するとまではいいがたく、上述した進歩性の判断に影響を及ぼすとは認められない。 よって、当該審判請求人の主張を採用することはできない。 (5)小括 上記のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用刊行物12の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められる。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-04-28 |
結審通知日 | 2014-04-30 |
審決日 | 2014-07-14 |
出願番号 | 特願2009-132567(P2009-132567) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安藤 達也 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 豊永 茂弘 |
発明の名称 | ガスハイドレートの貯蔵方法 |
代理人 | 石井 博樹 |