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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1291387
審判番号 不服2012-14919  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-02 
確定日 2014-08-27 
事件の表示 特願2006- 96128「アレルギー性皮膚炎の予防ないし治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-269671〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯

本願は、平成18年(2006年)3月30日の出願であって、平成23年8月3日付けの拒絶理由通知に対して同年11月9日付けで意見書が提出されたが、平成24年4月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その後平成26年5月16日付けで回答書および手続補足書が提出されたものである。

2. 本願に係る発明について

本願に係る発明は、出願時の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1および請求項4に係る発明は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
チオレドキシンスーパーファミリーのポリペプチドを有効成分とするアレルギー性皮膚炎の予防ないし治療剤。」
「【請求項4】
チオレドキシンスーパーファミリーのポリペプチドがヒトチオレドキシンである請求項1乃至3いずれか記載の予防ないし治療剤。」

そして、請求項4に記載の発明のうち、請求項1を引用するものについて、請求項4を請求項1を引用しない形式で書き直すと以下のように記載できる。

「チオレドキシンスーパーファミリーのポリペプチドを有効成分とするアレルギー性皮膚炎の予防ないし治療剤であって、チオレドキシンスーパーファミリーのポリペプチドがヒトチオレドキシンである予防ないし治療剤。」(以下、「本願発明」という。)

3. 引用例および周知例の記載並びに引用例に記載された発明

平成23年8月3日付け拒絶理由通知書で引用された本願出願日前に頒布された刊行物である「国際公開第2005/121329号」(以下、「引用例」という。)、及び平成24年4月27日付け拒絶査定で示された本願出願日前に頒布された刊行物(以下、それぞれ、「周知例1」?「周知例3」という。)には、次のことが記載されている(以下において、下線は当審で付した。また、引用例は英文で記載されているため、以下に引用例の対応する日本語ファミリー文献である特表2008-501772号公報(以下、「対応公報」という。)の記載に基づく訳文を記載する。)。

1)国際公開第2005/121329号(引用例)(当審注:以下において「hTRX」は「ヒトチオレドキシン」を意味している(下記摘記事項(1-7)【0052】を参照)。)

(1-1)CLAIMS(対応公報の【特許請求の範囲】)
「【請求項1】
炎症性皮膚状態を寛解するための皮膚表面に対する適用に適当な医薬の製造におけるチオレドキシン使用。

【請求項9】
炎症性皮膚状態が、乾癬、扁平苔癬、アトピー性湿疹、刺激性若しくはアレルギー性接触皮膚炎、接触蕁麻疹、乳児湿疹、及び尋常性ざ瘡から成る群から選択される、請求項1?8のいずれか一項に記載の使用。」

(1-2)1頁6行?2頁9行(対応公報の【0002】?【0005】)
「【0002】
炎症性皮膚状態は、ケモカイン及びサイトカイン、並びに特に炎症促進性サイトカイン、例えば、IL-1α、IL-1β、並びに腫瘍壊死因子α(TNF-α)の活性に関係することが知られている。またこれらの同様のサイトカインは、皮膚免疫応答の開始において中心的な役割を果たすことが知られており、そして実際に皮膚からの表皮ランゲルハンス細胞(LC)の遊走に必須のシグナルを供する。皮膚からのLCの移動、及び続く皮膚排出リンパ節におけるこれらの蓄積は、免疫応答が誘発される部位(局所リンパ節)に対する抗原の輸送のための機構を供する。

【0003】
表皮からのLCの遊走がIL-1α、IL-1β、及びTNF-αによるシグナルの供給に依存するという我々の理解は、皮膚組織内のこれらのサイトカインの利用能及び機能活性を研究するための実験系を供する。実験は、IL-1α、IL-1β、又はTNF-αの利用能又は機能を阻害することが知られている因子が誘発されたLC遊走の有意な阻害に関することを示している。

【0004】
LC動員の刺激に必要とされることに加え、IL-1βは皮膚炎症の原因となることが知られており、そして直接的又は間接的に、いくつかの皮膚炎症性障害の病因に関係する。IL-1βは、生理活性である成熟したカルボキシ末端フラグメントを生産するために切断及び分泌され、そしてほとんど全ての細胞種に見られる特定の細胞表面受容体に結合し、そして一連の応答の引き金を引くことによりこれらの効果を発揮する、不活性な細胞内の前駆体タンパク質として合成される。

【0005】
本発明は、皮膚に局所的に適用された場合、特定の分子が生理活性のIL-1α及び/又はIL-1βの生産及び/又は利用能を阻害することができるという驚くべき発見に基づく。とりわけ、IL-1α及び/又はIL-1βが病因に関係する場合、このようなこれらの分子は炎症性皮膚状態の治療に適当である。適当な分子は、チオレドキシン(TRX)、Cys-Gly-Pro-Cys活性部位を伴う12kDaのタンパク質、及び更に「レドックス(redox)-不活性」TRX分子を含む(ここで活性部位におけるシステインはシステイン以外のアミノ酸により置換されてよい)。一方これらの分子は、IL-1α又はIL-1βの生産又は活性を阻害することによりこれらの治療効果を発揮するようであることが示されている?また、これらは抗炎症性サイトカイン、例えば、インターロイキン-10(IL-10)の生産を刺激することにより、関連する又は追加的な有利な効果を発揮することが可能である。」

(1-3)4頁31行?5頁2行(対応公報の【0014】)
「【0014】
「炎症性皮膚状態」の語は、例えば、ヒト炎症性皮膚状態、及び動物炎症性皮膚状態を含む。好ましい態様において、当該炎症性皮膚状態は、乾癬、扁平苔癬、アトピー性湿疹、刺激性若しくはアレルギー性接触皮膚炎、接触蕁麻疹、乳児湿疹、及び尋常性ざ瘡から成る群から選択される。…」

(1-4)5頁21行?6頁24行(対応公報の【0016】)
「【0016】
TRXは、細胞のレドックス制御系の重要な成分である、小さな(10?14kDa)、偏在性のタンパク質である。本発明の方法における使用に適当なTRXは、(1)原核生物(例えば、大腸菌(E. coli)-配列番号7)、(2)植物(例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis)-配列番号8)、及び(3)動物(例えば、ヒト-配列番号1)由来のTRXを含む。TRXは、還元状態(この場合、活性部位(Cys_(1)-Gly-Pro-Cys_(2))における2つのシステインはジチオールを供する)、及び酸化状態(この場合、活性部位における2つのシステイン間において形成されるジスルフィド架橋が存在する)において存在することができる。…
…また当該活性分子は、95℃で30分間、又は56℃で30分間の加熱処理により不活性となり得ることが判明し、観察された活性の原因であるこれらの分子に関する構造特性が存在することを示している。…」

(1-5)8頁26行?9頁6行(対応公報の【0023】)
「【0023】
本発明は更に、…炎症性皮膚状態を寛解させるために皮膚表面に対する適用に適当な医薬の製造における配列番号1に示されるヒトチオレドキシンの使用、に関する。」

(1-6)17頁26行?18頁24行、19頁9行?23行、20頁18行?27行、21頁7行?17行(対応公報の【0035】、【0036】、【0038】、【0041】、【0043】)
「【0035】
実験1
当該実験の目的は、未変性hTRXのマウスの皮膚に対する局所適用が、その後の強力な接触アレルゲンであるオキサゾロンへの同じ部位における暴露により誘発されるLC遊走のインテグリティ(integrity)に影響できるか否かを決定することである。代表的な実験の結果を図1に示す。当該結果は、hTRXの事前暴露がアレルゲン誘発LC遊走の完全な阻害を生じることを明らかとする。記載された結果は、当該接触アレルゲンの場合において、局所適用されたhTRXが、刺激に対する有効なLC動員及び遊走に必要な1又は複数の生物学的過程を阻害するために十分な濃度において、マウス皮膚の生存表皮に達することができることを意味する。

【0036】
実験2
以前の実験は、マウス及び人の両方において、表皮LCの遊走が一定のサイトカイン及びケモカイン(特に重要であることが知られているもののうち2つはインターロイキン-1β(IL-1β)及び腫瘍壊死因子α(TNF-α)である)の利用能に依存するという明確な証拠を供している。損なわれたLC遊走をもたらすサイトカイン機能の摂動の前例が存在する。従って、次の実験において、我々は、hTRXがIL-1β又はTNF-αのいずれかにより誘発されるLC遊走に影響し得るか否かを調査した。代表的な実験の結果を図2に表す。これらのデータは、マウスのhTRXに対する事前局所暴露が相同的TNF-αの皮内(id)注射により誘発されたLC遊走のほぼ完全な阻害を起こすことができることを明らかにした。一方、同じように適用されたhTRXは、相同的IL-1βの皮内投与により誘発されたLC遊走のインテグリティにおいて影響がなかった。これは、hTRXの局所適用がLC-1β機能の摂動に関係すること意味する。このようにhTRXは、生理活性のIL-1βの利用能に必要とされる環境において、アレルゲン(オキサゾロン)(図1)、又はTNF-α(図2)のいずれかの応答におけるLC動員を極めて有効に阻害した。しかしながら、hTRXの阻害効果は、遊走の有効性が損なわれていない場合、IL-1βの外来源の追加により克服することができる。

【0038】
実験4
TRXのほとんどの生物学的特性は、当該タンパク質のレドックス活性の機能であることが考慮される。タンパク質レドックス-不活性を与える別のアミノ置換基を有する利用できるタンパク質のレドックス-不活性突然変異体が存在する。これらの突然変異体の1つは配列番号3に示されるC32A/C35Aである。実験の他の系列において、C32A/C35AのLC遊走を阻害する能力を調査し、そして未変性hTRX(配列番号1)の活性と比較した。代表的な実験を図4に示す。これらの実験において、LC動員は化学的なアレルゲンのオキサゾロンで刺激され、そして当該応答を阻害するためのhTRX又はC32A/C35Aの能力を測定した。図4に概要される結果は、未変性hTRX及びレドックス-不活性突然変異体C32A/C35Aは共にLC遊走のインテグリティを実質的にきわめて阻害することができることを明確に示す。LC遊走におけるTRXの効果(及びIL-1βシグナリングのインテグリティ)は活性レドックス機能と独立していることが結論付けられる。

【0041】
実験7
次の一連の実験において、健康な成人のボランティアによりヒトにおけるLC遊走のインテグリティにおけるhTRXの影響を調査した。これらの2人のボランティアにより得られた結果を図7に示す。マウスにおいて行った以前の実験(上述の図2を参照のこと)と共通して、hTRXに対する事前局所暴露が相同組換えTNF-α(当審注:対応公報においては「TBF-α」と誤訳されている。)の皮下投与により実質的に刺激されたLC遊走の有意な阻害を生じたことが各2人のボランティアにおいて観察された。これらのデータは、hTRXの効果がマウスの皮膚において最初に観察されたものと比較してヒトの皮膚において変化することを確認する。

【0043】
実験9
別の一連の実験において、IL-10の皮膚細胞による同化作用におけるTRXでの局所処理のマウスにおける影響を測定した。代表的な実験を図9に示す。コントロール動物から単離した皮膚組織(媒体(AOO)単独に暴露し、接触アレルゲンのオキサゾロンでは感作していない)は、極めて低レベルのIL-10を生産し、そしてhTRXはIL-10における影響がなかった。しかしながら反対に、オキサゾロンでの感作に応答してhTRXはIL-10の生産を増強することができた。これは、TRXの更なる特性が、IL-10(皮膚及び他の組織において抗炎症性効果を有することが知られているサイトカイン)の皮膚細胞による生産を増大することであることを意味する。」

(1-7)10頁8行?23行、11頁26行?12頁2行、12頁7行?13行(対応公報の【0044】、【0045】、【0050】、【0052】)
「【0044】
【図1】マウス群(n=3)は、両耳の背側において30μlの水性クリーム(cr)又は30μlの未変性ヒトTRX(0.5μg;TRX-配列番号1)を受けた。2時間後、両耳の背側においてマウスを0.5%オキサゾロン(Ox)又は媒体単独(アセトン:オリーブ油;AOO)に暴露した。コントロールマウスは処理しなかった(未処理;-)。4時間後、主要組織適合複合体(MHC)クラスII(Ia)^(+)LC頻度の分析のために表皮シートを調製した。LC数(平均値±標準偏差)は、n=6の表皮シート/処理群の分析に由来する。

【0045】
【図2】マウス群(n=3)は、両耳の背側において30μlの水性クリーム(cr)又は30μlの未変性ヒトTRX(0.5μg;チオ)を受けた。2時間後、耳介における皮下注射によりマウスは50ngのマウスTNFα又はIL-1βを受けた。コントロールマウスは処理しなかった(未処理;-)。4時間(IL-1β)又は30分(TNFα)後、主要組織適合複合体(MHC)クラスII(Ia)^(+)LC頻度の分析のために表皮シートを調製した。LC数(平均値±標準偏差)は、n=6の表皮シート/処理群の分析に由来する。

【0050】
【図7】健康なボランティアを2箇所の部位において未変性ヒトTRX(Trx;50μl中0.5μg)に局所的に暴露させ、そして更に2箇所の部位において等量の水性クリーム単独に暴露させた。2時間後、ヒト組換えTNF-α(500U)又は等量の生理食塩水を対の部位(1つはTrxで前処理し、そして他方はクリームで前処理)に皮内注射し、2時間後バイオプシーを採取した。表皮シートの間接的な免疫蛍光染色後、CDla^(+)LC密度を評価した。結果は、50フィールド/試料の検査に由来する細胞数/mm^(2)の平均値±標準偏差として表す。

【0052】
【図9】マウス群(n=5)は、両耳の背側において30μlの水性クリーム、又は未変性ヒトチオレドキシン(0.5μg;hTRX)を受けた。2時間後、両耳の背側においてマウスを0.5%オキサゾロン(Ox)に局所的に暴露した。コントロールマウスは等量の媒体(AOO)のみを受けた。2時間後、耳を切除し、そして外植片を調製し、そして37℃で16時間培養した。BioplexサイトカインアレイによりIL-10含量を分析し、そして結果をマウスあたり生産されたIL-10のpg/mlとして表す。」

(1-8)13頁14行?14頁2行(対応公報の【0056】、【0057】)
「【0056】
【図13】マウスにおけるオリゴマーhTRXによるオキサゾロン誘発LC遊走の阻害における加熱処理(95℃で30分間)の影響。マウス群(n=3)を両耳の背側において、0.5μgのオリゴマーhTRX、0.5μgの加熱処理(95℃で30分間)オリゴマーhTRX(hTRX-HT)若しくはクリームのみを含有する30μlの水性クリームBPに暴露し、同じ部位における適用の2時間前に、0.5%オキサゾロン(Ox)を媒体(4:1 アセトン:オリーブ油)中に懸濁した。コントロールマウスは処理しなかった(未処理)。4時間後、耳を除去し、そしてMHCクラスII(Ia)発現のための間接的な免疫蛍光染色用に背側の耳の半分から表皮シートを調製した。結果は、各6つの耳の10フィールド/耳の検査後に、表皮のIa^(+)LC/mm^(2)平均数(±標準偏差)として表す。
【0057】
【図14】マウスにおけるオリゴマーhTRXによるオキサゾロン誘発LC遊走の阻害における加熱処理(56℃で30分間)の影響。マウス群(n=3)を両耳の背側において、0.5μgのオリゴマーhTRX、0.5μgの加熱処理(56℃で30分間)オリゴマーhTRX(hTRX-HT)若しくはクリームのみを含有する30μlの水性クリームBPに暴露し、同じ部位における適用の2時間前に、0.5%オキサゾロン(Ox)を媒体(4:1 アセトン:オリーブ油)中に懸濁した。コントロールマウスは処理しなかった(未処理)。4時間後、耳を除去し、そしてMHCクラスII(Ia)発現のための間接的な免疫蛍光染色用に背側の耳の半分から表皮シートを調製した。結果は、各6つの耳の10フィールド/耳の検査後に、表皮のIa^(+)LC/mm^(2)平均数(±標準偏差)として表す。」

2)国際公開第99/43330号(周知例1)

(2-1)(1頁10行?18行)
「ランゲルハンス細胞は、皮膚への外来抗原を取り込んで、リンパ管に移動し、ベール細胞となってその抗原を細胞内で部分分解し、次いで近くのリンパ系器官に移動してT細胞にこの抗原を提示することにより、そのT細胞を接触皮膚炎を引き起こす細胞へと分化させる。また、ランゲルハンス細胞は、角膜において、角膜輪部から中央部へ侵入して種々のサイトカインを産生し、免疫反応性の炎症を引き起こすことが知られている。
このように、ランゲルハンス細胞は、皮膚及び角膜における免疫反応による炎症の発生段階に深く関与する細胞であるから、外来抗原の侵入部位においてその細胞数を少なく維持すれば、周辺における炎症の予防が可能になると考えられる。」

(2-2)(4頁25行?28行)
「本発明の組成物を、炎症を予防すべき部位に適用すると、免疫反応による炎症の発生を媒介すると考えられるランゲルハンス細胞の遊走が阻害される結果、その部位における炎症の発生を有意に防止することができる。また、炎症が既に発生している場合であっても、それを治療することができる。」

3)特開2001-64192号公報(周知例2)

(3-1)(【0004】?【0007】)
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、まず、皮膚や粘膜組織に存在する抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞が、アレルギー性接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚アレルギー性疾患の発生にいかなるメカニズムで関与しているかを検討した。
【0005】ランゲルハンス細胞は、骨髄の幹細胞から分化し、その前駆細胞が血液の流れにのって全身の皮膚や粘膜組織に到達した後に、皮膚や粘膜組織の表皮部分に定着する。そして、抗原物質、例えばニッケルのような金属、ある種の低分子化合物(いわゆる“ハプテン”)、ダニ抗原のようなタンパク質,ペプチド等が、皮膚あるいは粘膜を介して侵入してきた場合には、ランゲルハンス細胞はこれらの抗原を捕捉し、その後所属リンパ節まで遊走し、リンパ節内でTリンパ球にその抗原を提示する。その結果、Tリンパ球はランゲルハンス細胞によって局所より運ばれてきた抗原を認識し、またその抗原を記憶するとともに、モノクローナルに増殖し、やがて血液やリンパの流れにのって全身にいきわたる(感作の成立)。この感作のメカニズムは、I型及びIV型のアレルギーに共通したものである。
【0006】アレルギー反応が惹起するメカニズムはそれぞれのアレルギーのタイプによって異なるが、IV型のアレルギーの場合、感作後、再度抗原が侵入した際に、再びランゲルハンス細胞が抗原を捕捉し、循環するTリンパ球(その抗原に特異的な抗原情報を記憶しているTリンパ球)に再度その抗原情報を提示する(アレルギー反応の惹起)。その結果、Tリンパ球は活性化され、種々の炎症のメディエーターを放出したり、マクロファージをはじめとする他の炎症細胞の局所への浸潤をもたらし、結果として多くの炎症メディエーターや細胞が関与する炎症が惹起され、アレルギー性接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎等の皮膚アレルギー性疾患の発症となる。
【0007】上記したように、ランゲルハンス細胞はアレルギー性の炎症の発生の以下の2つの段階でTリンパ球と接触して抗原情報をTリンパ球に提示する。
(1) 侵入した抗原を捕捉してリンパ節に運び、その抗原に特異的なTリンパ球を刺激する(=感作の成立,I型及びIV型アレルギーの場合);
(2) 2回目以降の抗原の侵入に際しては、循環するTリンパ球にその抗原を提示する事で再度Tリンパ球を刺激する(=アレルギー反応の惹起,IV型アレルギーの場合のみ)。」

(3-2)(【0012】?【0013】)
「【0012】第一に、マウスにアレルギーを引き起こす物質を塗布する前(感作前)に、MMP-9の活性を阻害する物質でマウスを処理しておくと、ランゲルハンス細胞がリンパ節に遊走するのを阻害できる事を見出した。
【0013】即ち、前述のように、皮膚あるいは粘膜を介して侵入した抗原をランゲルハンス細胞が捕捉して所属リンパ節に運び、その抗原に特異的なTリンパ球を刺激する事がアレルギーの発生に不可欠な第一段階であるが、MMP-9の活性を阻害する物質はランゲルハンス細胞がリンパ節に移動(遊走)する事を阻害しており、ランゲルハンス細胞とTリンパ球との接触の機会を減少させ、結果としてアレルギーの成立(感作の成立)を阻害することを見出した。」

(3-3)(【0039】)
「【0039】上記製剤は、MMP-9阻害剤を含有しているため、ランゲルハンス細胞の遊走抑制剤として用いることができる。かかる細胞遊走抑制剤を有効成分とすれば、ランゲルハンス細胞の遊走を阻害することで、アレルギーの発生を抑制し、それにより、例えばアレルギー性接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎等のIV型アレルギー性疾患、或いは花粉症、蕁麻疹等のI型アレルギー性疾患等のアレルギーの予防のために用いることができる。従って、本発明には、MMP-9阻害剤を含有するランゲルハンス細胞の遊走抑制剤を有効成分とする、アレルギー予防医薬組成物が含まれる。該医薬組成物は、上記のように製剤化されたランゲルハンス細胞の遊走抑制剤そのものであってもよいし、投与の目的に応じて該遊走抑制剤にさらに他の成分を配合したものであってもよい。」

4)特表2005-518390号公報(周知例3)

(4-1)(【0004】?【0009】)
「【0004】
背景技術
皮膚の主な機能は外部環境からの攻撃に対して器官を保護することにある。この保護作用の多くが、有害物質の存在下で、有害物質に対し炎症および/または免疫応答の生成が可能な、皮膚に存在する細胞の協力によってもたらされる。これらの細胞とは、樹状細胞、表皮のランゲルハンス細胞(LC)、および皮膚の樹状細胞、単球、リンパ球、ケラチノサイト、マスト細胞および血管内皮細胞である。
【0005】
LCは骨髄に由来する樹状細胞であり、皮膚および粘膜(口、肺、膀胱、直腸、膣)などの非リンパ系組織に留まっている。…
【0006】
LCは、細胞が抗原を提示するように、免疫性に決定的な役割を果たす。マウスにおいて実施された実験は、LCが表皮に存在する抗原を捕捉し、皮膚中を流れてT細胞に対する抗原を提示するリンパ系組織へと遊走することを証明している。皮膚の免疫応答の開始は、LCが表皮を離れてどれだけ遠くの基部神経節へ遊走することができるかによって決まる。…
【0007】
LCの成熟、ならびに遊走の開始および調節はIL-1β(インターロイキン-1-β)およびTNF-α(腫瘍壊死因子α)などの炎症性サイトカインによる。それゆえ 、皮膚の攻撃ならびに特にこれらのサイトカインの一方あるいは双方の十分な量を誘発可能な炎症性および/または刺激性反応がLCの遊走を刺激し、その結果、これらのLCが抗原と関連する場合にアレルギー反応を助長する。
【0008】
皮膚の種類による症状は、表面の抗原を捕捉した後のLCの遊走の結果として観察され得る。アトピー性湿疹では、LCは表面上でIgEを固定し、病的な免疫応答を誘発し得る。LCは抗原を捕捉し、Tリンパ球に提示する前に処理するため、接触性湿疹において中心的役割を果たす。この抗原は記憶され、免疫反応は2度目の接触によって誘発される。
【0009】
上記のことを考慮すれば、耐性の許容限度を高めるか、またはアレルギー性および/または炎症性および/または刺激性の皮膚ならびにアトピー性および/または敏感性、および/または反応性、および/または不快性の皮膚の反応性を制限しようとするためには、皮膚の樹状細胞、単球、リンパ球、ランゲルハンス細胞の遊走能力を変更することができれば非常に望ましい。これが本発明の解決しようとする課題である。本発明者らは、全く驚くことに、また予想しなかったことに、アルカノールアミド類などの化合物が、特にアレルゲン物質の存在によって誘発されるランゲルハンス細胞などの細胞の遊走を見事に阻害する能力があることを示した。しかしながら、これまでアルカノールアミド類は特にアレルゲン物質の存在によって誘発されるランゲルハンス細胞の遊走を阻害する能力があるとは記載されてこなかった。」

上記摘示事項(1-1)?(1-7)を含む記載によれば、引用例には、ヒトチオレドキシンが、接触アレルゲンであるオキサゾロン、又はTNF-αのいずれかの応答における皮膚からのランゲルハンス細胞(LC)遊走を阻害し、また、オキサゾロンでの感作に応答して、抗炎症性サイトカインであるIL-10の生産を増強することが記載されていると言うことができる。
したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

引用発明:
「ヒトチオレドキシンを含み、接触アレルゲンであるオキサゾロン、又はTNF-αのいずれかの応答における皮膚からのランゲルハンス細胞(LC)遊走を阻害し、また、オキサゾロンでの感作に応答して、抗炎症性サイトカインであるIL-10の生産を増強するもの。」

4. 対比・判断

本願発明と引用発明を対比する。引用発明における「ヒトチオレドキシン」は、本願発明における「ヒトチオレドキシン」に相当する。また、引用発明における「ヒトチオレドキシン」が「有効成分」であることは当業者に明らかである。

したがって、本願発明は、「ヒトチオレドキシンを有効成分とするもの」である点において引用発明と一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明は、その用途に関し、「アレルギー性皮膚炎の予防ないし治療剤」と特定されるのに対し、引用発明は、そのようには特定されていない点

そこで、上記相違点について検討する。
引用例には、皮膚からのランゲルハンス細胞の遊走(以下、「LC遊走」という。)が、皮膚の免疫応答に関係していることが記載されている(上記摘示事項(1-2)を参照)。また、引用例には、ヒトチオレドキシンを炎症性皮膚状態を寛解させるために用いることが記載され、炎症性皮膚状態の具体的な態様として、アレルギー性接触皮膚炎が記載されている(上記摘示事項(1-3)、(1-5)を参照)。

引用例におけるこれらの記載を考慮すると、LC遊走を阻害し、また、抗炎症性サイトカインであるIL-10の生産を増強するところの引用発明をアレルギー性接触皮膚炎を寛解させるために用いることに当業者が困難を要するものではない。そして、本願明細書に、「接触皮膚炎」が「アレルギー性皮膚炎」に含まれると記載されていること(【0014】を参照)を考慮すると、引用発明を「アレルギー性皮膚炎の予防ないし治療剤」として用いることは当業者が容易になし得るものと言える。

仮に、このように言うことができないとしても、周知例1?周知例3の記載(上記摘示事項(2-1)、(2-2)、(3-1)?(3-3)、(4-1)を参照)に鑑みれば、LC遊走を阻害することで、アレルギー性接触皮膚炎等のアレルギーを予防しうることは、本願出願日以前に知られていたものと解するのが相当であり、このような事情を考慮すると、LC遊走を阻害するところの引用発明をアレルギー性接触皮膚炎の予防に用いることに当業者が困難を要するものではなく、本願発明とすることで進歩性が生じるとはいえない。

そして、本願発明は、本願明細書の記載を検討しても、上記の相違点に係る構成(発明特定事項)を採用することによって当業者の予測を超えるような格別に顕著な効果を奏するものではない。

なお、請求人は、平成23年11月9日付け意見書において、(1)引用例においてレドックス不活性突然変異体でもLC遊走が阻害されている点に着目して、引用例の実験結果は信憑性がないと主張し、平成24年8月2日付け審判請求書において、(2)引用例の実験ではオキサゾロンを1回しか塗布していないので、接触皮膚炎は発症しておらず、また、(3)評価試験(審判請求書「(3)レドックス活性型TRXおよびレドックス不活性型TRXの接触性皮膚炎抑制効果確認試験」)により、レドックス不活性型チオレドキシンでは接触皮膚炎を抑制できないことが示されたとした上で、LC遊走が抑制されるからといって、アレルギー性皮膚炎を抑制できるとは言えず、チオレドキシンによるLC遊走の抑制が示されるのみである引用例には、チオレドキシンにより、アレルギー性皮膚炎を処置し得ることが示されているとは言えないと主張している。また、請求人は、平成23年11月9日付け意見書において、(4)「そして、現在では、LCの遊走は、TRXのアレルギー性の皮膚炎症に対する影響とは無関係であることが、本出願人らによって実験的に知得されております。」と主張し、この主張に関し、平成26年5月16日付け手続補足書において「Antioxidants & Redox Signaling, 2009, Vol.11, No.6, pages 1227-1235」(以下、「資料第1号」という。)を提出している。

しかしながら、主張(1)に関し、引用例に記載されているように(上記摘示事項(1-6)【0038】を参照)、LC遊走抑制作用がレドックス活性とは独立して生じていると解釈することが可能であり、引用例の実験結果は信憑性がないとまではいえない。
主張(2)に関し、引用例には、その実施例において、ヒトチオレドキシンを含有しない比較対照の水性クリームの適用によっては、接触アレルゲンであるオキサゾロンへの暴露によるLC遊走は抑制されなかったが、他方、ヒトチオレドキシンの適用によって、接触アレルゲンであるオキサゾロンへの暴露によるLC遊走が抑制されたことが記載されており(上記摘示事項(1-6)、(1-7)を参照)、引用例から上述したとおりの引用発明を認定することができるので、主張(2)により、上述の理由の妥当性が左右されるものではない。
主張(3)に関し、評価試験(審判請求書「(3)レドックス活性型TRXおよびレドックス不活性型TRXの接触性皮膚炎抑制効果確認試験」)においては、チオレドキシンの不活性化を、加熱処理あるいは抗チオレドキシン抗体の投与の2通りの方法で行っているが、これらの不活性化の態様は、引用例とは異なっており(引用例では、レドックス不活性突然変異体C32A/C35A(32位と35位のシステインがアラニンに置換されたもの)を用いている)、該評価試験は、引用例を再現したものではなく、引用例のレドックス不活性突然変異体が接触皮膚炎を抑制できないことを示したわけではないので、LC遊走の抑制作用とアレルギー性皮膚炎の抑制作用との関連性を否定するものとはならない。この点、引用例においては、加熱処理したチオレドキシンはLC遊走抑制作用を示さないことが記載されており(上記摘示事項(1-4)、(1-8)を参照)、このことと、該評価試験の加熱処理したチオレドキシンは接触皮膚炎を抑制できないとの試験結果を併せみると、該評価試験の試験結果は、むしろ、LC遊走の抑制作用とアレルギー性皮膚炎の抑制作用との関連性を示すものといえる。
仮に、LC遊走の抑制作用とアレルギー性皮膚炎の抑制作用とが関連しないものであるとしても、引用発明は、抗炎症性サイトカインであるIL-10の生産を増強する作用をも有することから、この作用に着目して、引用発明をアレルギー性接触皮膚炎を寛解させるために用いることに当業者が困難を要するものではなく、いずれにしても、本願発明とすることで進歩性が生じると言うことはできない。
主張(4)に関し、そもそも進歩性の判断は出願時の技術水準に基づいて行われるところ、資料第1号は、本願出願日に公知でなかった文献であり、進歩性の判断において、資料第1号に記載の実験結果を参酌することはできない。
そして、仮に、資料第1号に記載の実験結果を参酌したとしても以下に示す理由により請求人の主張を採用することはできない。資料第1号には、チオレドキシントランスジェニックマウスにおいて、上皮からのLC遊走は抑制されないことを表す実験結果が記載されているものの(1230頁左欄12行?最終行、図2)、該実験と引用例の実験は、実験条件が大きく異なっているので、両者の実験結果に差異があるとしても、それは、実験条件の差異に基づくものと解釈することができ、必ずしもいずれかの実験結果に誤りがあるということにはならない。例えば、引用例の明細書の実験1(特に、【0035】、【0044】を参照)は、チオレドキシン(0.5μg)をマウス皮膚に対し局所的に適用した2時間後に、接触アレルゲンであるオキサゾロンを同じ部位に塗布し、その4時間後にLC遊走についての評価を行っているが、他方、資料第1号の実験では、チオレドキシントランスジェニックマウスの皮膚にジニトロフルオロベンゼンを塗布し、その24時間後にLC遊走についての評価を行っており、両者の実験条件は大きく異なっている。そして、両者において、マウス皮膚に存在するチオレドキシンの濃度に差異がある可能性も否定できない。そうすると、資料第1号に記載の実験結果を考慮したとしても、LCの遊走がチオレドキシンの作用と無関係であるということはできないと判断するのが相当である。

以上の検討結果から、本願発明は、その出願日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明に基づいて、あるいは、引用例および周知例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5. むすび
以上のとおりであるから、本件請求項4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-01 
結審通知日 2014-07-02 
審決日 2014-07-16 
出願番号 特願2006-96128(P2006-96128)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒巻 真介  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大宅 郁治
岩下 直人
発明の名称 アレルギー性皮膚炎の予防ないし治療剤  
代理人 清原 義博  
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