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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 B25J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B25J
管理番号 1291433
審判番号 不服2013-17460  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-10 
確定日 2014-09-24 
事件の表示 特願2009-220833「吸着用シート」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日出願公開、特開2010- 99826、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年9月25日を出願日(優先日:平成20年9月29日)とする出願であって,平成25年1月9日付けで拒絶理由が通知され,同年3月18日付けで手続補正がなされたが,同年6月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。
さらに,同年12月13日付けで審尋がなされ,回答書が平成26年2月14日付けで請求人より提出されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は,この出願の請求項1?7に係る発明は,その出願前に日本国内において頒布された以下の刊行物1?5に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
1 特開昭56-15994号公報
2 特開2004-95831号公報
3 特開2001-353788号公報
4 特開2002-144270号公報
5 特開2003-86667号公報
(以下「刊行物1」?「刊行物5」という)

第3 本件補正について
本件補正は,平成25年3月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲を,
「 【請求項1】
シートまたはフィルムである対象物を真空吸着する吸着装置の吸着面に取り付けられる吸着用シートであって、
前記吸着面に接触させられる一方面を有し、複数の貫通孔が設けられた基板と、
前記基板の他方面に前記複数の貫通孔を塞ぐように貼着された、厚さ1.4mm以下の多孔質体と、を備え、
前記多孔質体は、超高分子量ポリエチレン粉体が焼結させられることにより多孔質化されたものであり、
前記複数の貫通孔は、個々の貫通孔とこれに最も近接する貫通孔の中心間距離が65mm以下となるように配置され、
前記複数の貫通孔のそれぞれは、開口面積が64mm^(2)以下のものであり、
前記貫通孔を軸方向から見たときにその輪郭に外接する最小の矩形枠における辺の長さのうち最大のものをAmm、前記多孔質体の厚さをBmmとしたときに、B/A^(2)≧0.015を満たす吸着用シート。
【請求項2】
前記基板は、プラスチック板または金属板である、請求項1に記載の吸着用シート。
【請求項3】
前記吸着面には、吸引用の窪みが設けられており、前記複数の貫通孔は、前記窪みに対応する位置に、当該窪みよりも小さな大きさで設けられている、請求項1または2に記載の吸着用シート。
【請求項4】
前記窪みは、複数の溝で構成されている、請求項3に記載の吸着用シート。」(下線は補正箇所を示す)と補正するものである。

そうすると,本件補正は,請求項1において,補正前の特定事項である「対象物」について「シートまたはフィルムである」と限定し,同特定事項である「複数の貫通孔」について「前記複数の貫通孔は、個々の貫通孔とこれに最も近接する貫通孔の中心間距離が65mm以下となるように配置され、前記複数の貫通孔のそれぞれは、開口面積が64mm^(2)以下のものであり」と限定し,また,同特定事項である「多孔質体」について「前記貫通孔を軸方向から見たときにその輪郭に外接する最小の矩形枠における辺の長さのうち最大のものをAmm、前記多孔質体の厚さをBmmとしたときに、B/A^(2)≧0.015を満たす」と限定するとともに,補正前の請求項2?4を削除し,補正前の請求項5?7を繰り上げるものである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除および同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして,本願の願書に最初に添付された明細書の段落【0004】に「ところで、対象物が薄く軽量なシートやフィルムである場合は、真空吸着した時に多孔質シートの表面形状が対象物に転写されてしまい、その転写跡が最終的な製品の性能や外観に悪影響を及ぼすことがある。転写跡を防止するには、吸引量を小さくして、真空引きによりできる圧力差を小さくすることが考えられる。しかしながら、このようにすると、従来の多孔質シートは比較的に厚いために(例えば、特許文献1の実施例では2mm)、多孔質シートの側面からも空気が吸い込まれてしまい、その横方向のリークの影響で十分な吸着力が得られなくなる。」(下線は当審にて付与する)と記載されていること,そして,上記「複数の貫通孔」についての限定に係る事項は,本件補正前の請求項2及び3で特定されている事項であり、上記「多孔質体」にについての限定に係る事項は,本件補正前の請求項4で特定されている事項であるから,本件補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内おいてしたものであり,同法第17条の2第3項の要件を満たしているといえる。
そこで,本件補正後の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明4」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

第4 独立特許要件(進歩性)について

1 刊行物の記載内容
(1)刊行物1には,「吸着装置」について,図1?4とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)
「2 特許請求の範囲
下部を開放した箱体の上部に負圧源と連通する吸引孔を設け、該箱体の下部に多数の通気孔を有する吸着板を取付けるとともに、該吸着板と一定間隔を置いてほぼ平行に対応し、かつ周縁部に通気間隙を有する吸気調整板を前記箱体内に設置したことを特徴とする吸着装置。」(1頁左下欄4?10行)

(1-イ)
「3 発明の詳細な説明
本発明は、移送等のために物品を負圧により吸着する吸着装置に関し、特に、モザイクタイル等の小物品を多数個同時に吸着するのに適した装置に関する。」(1頁左下欄11?15行)

(1-ウ)
「第1、2図において、1は下面が開放され、上面板2と四枚の側面板3からなる平面正方形の箱体であって、上面板2の中央に平面円形の筒体4が突設され、その筒体4の内空に箱体1の内部と連通する吸引孔5が構成されている。6は多数の通気孔7が全面に透設された吸着板であつて、箱体1の下面に固着されており、その下面にポリウレタンフオーム等の連続気孔を有する多孔質軟質合成樹脂からなる緩衝板8が貼着されている。この緩衝板8は通気抵抗の小さいことが必要であり、ポリウレタンフオームを網状化したブリジストン社製の『ニユーエバーライトスコツト』(商標)が好適である。・・・・・」(2頁左下欄9行?同頁右下欄6行)

(1-エ)
「前記において、緩衝板8を介して吸着板6に吸着される素材c同志の間隙に対応する通気孔7は全く閉塞されず、その通気孔7には空気が自由に流通するとともに、素材cと対応する通気孔7においても、素材cとの間に緩衝板8が介設されているため、その緩衝板8を通つて素材cの周りから空気が吸引されるのであるが、吸引孔5を風量の大きい負圧源に連通しておけば、箱体1内の負圧を素材cの吸着に十分な値に保持することができる。」(3頁右下欄9行?4頁左上欄3行)

(1-オ)
「また、本実施例においては、吸着板6の下面に緩衝板8を設けたから、吸着される物品が吸着板6と接触により疵を生ずるのが防止される利点がある。」(4頁右上欄3?6行)

(1-カ)
「以上の説明によつて明らかにしたように、本発明の吸着装置は、下部を開放した箱体の上部に負圧源と連通する吸引孔を設け、該箱体の下部に多数の通気孔を有する吸着板を取付けるとともに、該吸着板と一定間隔を置いてほぼ平行に対応し、かつ周縁部に通気間隙を有する吸気調整板を前記箱体内に設置したから、吸着板の全面にわたつて通気孔内の流速をほぼ均一にすることができて、多数の小物品を吸着板の全面に均一に吸着することができる効果を奏する。また、本発明装置は通気孔に流れる空気流によつて物品を吸引するものであるから、物品の表面が平滑である必要はなく、物品の表面に多少の凹凸があつても、また、形状、大きさ及び配列が異なつても同一の吸着板により確実に吸着することができ、特に自動製造ラインのトラブルを減少させ、生産能率を著しく向上し得るとともに、従来装置のように吸着される物品の表面に吸盤の跡を残すおそれがないなどの優れた効果を伴なう。」(4頁左下欄13行?5頁左上欄1行)




(1-キ)
上記記載事項(1-ア)と,と同(1-イ)の「負圧により吸着する吸着装置に関し、特に、モザイクタイル等の小物品を多数個同時に吸着するのに適した装置」,および同(1-ウ)の「6は多数の通気孔7が全面に透設された吸着板であって、箱体1の下面に固着されており、その下面にポリウレタンフオーム等の連続気孔を有する多孔質軟質合成樹脂からなる緩衝板8が貼着されている。」からみて,「箱体1の開放下面に固着された吸着板」の下面は,「モザイクタイル等の小物品」を吸着するための「吸着面」ということができるから,刊行物1には,「モザイクタイル等の小物品を真空吸着する吸着装置の吸着面に取り付けられる緩衝板」が記載されているといえる。

(1-ク)
上記記載事項(1-ア)の「下部を開放した箱体の上部に負圧源と連通する吸引孔を設け、該箱体の下部に多数の通気孔を有する吸着板を取付ける・・・・・吸着装置」および同(1-ウ)の「6は多数の通気孔7が全面に透設された吸着板であつて、箱体1の下面に固着されており」からみて,刊行物1には,「吸着装置の箱体の開放下面に固着された吸着板の多数の通気孔」が記載されているといえる。

(1-ケ)
上記記載事項(1-エ)の「素材cと対応する通気孔7においても、素材cとの間に緩衝板8が介設されているため、その緩衝板8を通つて素材cの周りから空気が吸引される」からみて,「多数の通気孔を塞ぐように貼着されたポリウレタンフオーム等の連続気孔を有する多孔質軟質合成樹脂からなる緩衝板」が記載されているといえる。

上記記載事項(1-ア)?(1-カ)および図1,2ならびに認定事項(1-キ)?(1-ケ)を総合すると,刊行物1には,以下の発明(以下「引用発明1」という)が記載されていると認められる。

「モザイクタイル等の小物品を真空吸着する吸着装置の吸着面に取り付けられる緩衝板であって,
前記吸着装置の箱体の開放下面に固着された吸着板の多数の通気孔を塞ぐように貼着された,ポリウレタンフオーム等の連続気孔を有する多孔質軟質合成樹脂からなる緩衝板。」

(2)刊行物2には,「吸着パッド、吸引治具、及び吸着パッドの製造方法」について,図1?3とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)
「【請求項1】
吸引によって部品等を搬送あるいは固定する吸引治具の吸着面に用いられる吸着パッドであって、
パッド本体は、微細粒子が焼結されてなる多孔質焼結体とされ、
該パッド本体は、前記吸着面側に設けられて前記微細粒子間に互いに連通する三次元網目構造の空隙が形成された緻密層と、
前記吸引冶具側に設けられて前記微細粒子が焼結されてなる中実の骨格間に、互いに連通する空隙が形成された三次元網目構造をなす高空隙率層とを有していることを特徴とする吸着パッド。
【請求項2】
前記緻密層の空隙率は32%から50%の範囲内とされ、
前記高空隙率層の空隙率は40%から90%の範囲内とされていることを特徴とする請求項1記載の吸着パッド。
【請求項3】
前記高空隙率層の空隙の平均寸法が30μmから500μmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の吸着パッド。
【請求項4】
前記緻密層の厚みD1は500μm以下とされ、
前記高空隙率層の厚みD2は1000μm以下とされていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の吸着パッド。
【請求項5】
少なくとも前記緻密層をなす前記微細粒子が超硬合金あるいはサーメットからなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の吸着パッド。
【請求項6】
吸引によって部品等を搬送あるいは固定する吸引治具であって、その吸着面に、請求項1から5のいずれかに記載の吸着パッドが用いられていることを特徴とする吸引治具。」

(2-イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、電子部品や粉末成形体のグリーンシートを吸引して搬送したり、シリコンウエハーを吸引で固定して研磨加工するための吸引治具の吸着面に用いられる吸着パッド、これを用いる吸引冶具、及び吸着パッドの製造方法に関するものである。」

(2-ウ)
「【0013】
(3)緻密層、高空隙率層の厚み
緻密層の厚みD1は、強い吸引力を要する場合には薄く設定し、強度及び耐久性を要する場合には厚くするなど、用途に応じて適宜設定されるのであるが、この厚みD1が500μmよりも大きいと、吸着時に緻密層において空気の通過する距離が長くなって緻密層を通じた吸気の圧力損失が大きくなるので、緻密層においても十分な通気性を確保するためには、その厚みD1は500μm以下に設定されることが好ましく、200μm以下に設定されることがより好ましい。
なお、緻密層は、その強度を確保するため、その厚みD1は、50μm以上確保することが好ましい。
【0014】
高空隙率層の厚みD2も、強い吸引力を要する場合には薄く設定し、強度及び耐久性を要する場合には厚くするなど、用途に応じて適宜設定されるのであるが、この厚みD2が1000μmよりも大きいと、吸着時に高空隙率層において空気の通過する距離が長くなって高空隙率層を通じた吸気の圧力損失が大きくなるので、高空隙率層において十分な通気性を確保するためには、その厚みD2は1000μm以下に設定されることが好ましく、800μm以下に設定されることがより好ましい。
なお、高空隙率層は、その強度を確保するため、その厚みD2は、300μm以上確保することが好ましい。
【0015】
(4)多孔質焼結体の材質
超硬合金やサーメットは、硬質材料の中でも耐摩耗性が高く、また、原料粉末(微細粒子)として粒径の細かいものが得られるので、発泡による成形時に空隙率、空隙の寸法を制御しやすいなどの理由から、これらの硬質材料が選択されている。
本発明の吸着パッド用の超硬合金の一例としては、炭化タングステン(WC)を主体とした硬質相をコバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの金属で結合したものや、必要に応じて炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化クロム(Cr_(3)C_(2))、クロム(Cr)などを添加した従来より知られているものが挙げられ、本発明の吸着パッド用のサーメットの一例としては、TiCやTiCNを主体とし、必要に応じてWC、TaC、NbC、Mo_(2)Cなどを含む硬質相をNi、Coなどの金属で結合した従来より知られているものが挙げられる。
なお、吸引時に衝撃を受ける場合には、金属結合相量を多めにして靭性を高めたり、耐食性が問題になる場合には、NiやNi-Cr系結合相とするとよい。」

(2-エ)
「【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について、図を用いて説明する。ここで、図1は本実施形態にかかる吸引冶具の概略構成を示す縦断面図、図2は本実施形態にかかる吸着パッドの構成を概略的に示す拡大図、図3は本実施形態にかかる吸着パッドの製造方法を示す図である。
【0020】
吸引冶具1は、一面に開口部2aが形成される冶具本体2と、冶具本体2に対して開口部2a全体を覆うようにして設けられる通気性を有するシート状の吸着パッド3とを有している。
冶具本体2において開口部2a内の空間は、真空ポンプ等の図示せぬ排気装置と接続されており、排気装置を作動させることで、吸着パッド3を通じて外気が冶具本体2内に吸引されて、吸着パッド3の吸着面Fに被吸着部品が吸着されるようになっている。
【0021】
吸着パッド3は、一面が吸着面Fをなすシート状のパッド本体6を有するものであって、本実施の形態では、吸着パッド3は、パッド本体6と、パッド本体6の吸着面Fとは反対側を向く面を受ける板状の基盤7と、基盤7においてパッド本体6を受ける一面側にパッド本体6の周囲を囲むようにして設けられる樹脂層8とを有する構成としている。
【0022】
パッド本体6は、微細粒子が焼結されてなる多孔質焼結体によって構成されるものであって、吸着面Fをなす面から基盤7に受けられる面まで通じる空隙を有している。ここで、パッド本体6は、基盤7に対しては、接着剤による接着やろう付け等によって装着されている。例えば、パッド本体6と基盤7とは、互いの接触面にそれぞれニッケルリンめっきを施し、これらを互いのめっき面同士を接触させた状態で加熱させることで、これらが拡散接合される。」

(2-オ)
「【0025】
基盤7は、少なくともパッド本体6を受ける領域は、厚み方向に通気性を有する構成とされている。本実施の形態では、基盤7を、厚み方向に貫通する複数の通気孔7aを有するアルミニウム製の板材によって構成している。
ここで、通気孔7aは、例えば内径100μmから1000μmの貫通孔とされており、本実施の形態では、通気孔7aとして、内径500μmの丸穴を9本/cm^(2)形成している。」

(2-カ)
「【0043】
本実施の形態にかかる吸引冶具1は、従来の吸引冶具と同じく、排気装置によって吸着パッド3を介して外気を吸引することで、吸着パッド3の吸着面Fに被吸着部品を吸着するものである。
【0044】
この吸着パッド3において、高空隙率層12は、中実の骨格を有するがゆえに高い強度を呈するので、空隙率を高く設定して十分な通気性を確保することができる。
また、緻密層11は高空隙率層12によって支持されているので、十分な強度を確保しつつその厚みD1を薄くすることができる。そして、緻密層11の厚みD1を十分に薄くすることで、緻密層11において空気の通過する距離を低減して緻密層11を通じた吸気の圧力損失を低減することができるので、緻密層11においても十分な通気性を確保することができる。
また、高空隙率層12は、厚み方向に交差する方向の通気性も良好であるので、高空隙率層12において基盤7の通気孔7aに対向していない領域に進入した外気も、高空隙率層12において通気孔7aに対向する位置まで速やかに移動することが可能である。このため、この吸着パッド3では、緻密層11のうち、吸着面Fをなす領域を通過した気体を全て速やかに基盤7の通気孔7aに流れ込ませることができるので、排気効率が高い。
【0045】
このように、この吸着パッド3は通気性が十分に確保されており、排気効率も高いので、この吸着パッド3を用いる吸引冶具1は、高い吸引力を得ることができる。
【0046】
さらに、この吸着パッド3では、吸着面Fが緻密層11によって構成されているので、強度及び耐磨耗性が高く耐久性に優れており、寿命が長い。
また、吸着面Fをなす緻密層11は、微細粒子が密に配置されているために、セラミックスのグリーンシートのような軟物質を吸着するときであっても、その表面に凹凸を生じさせることがない。
また、緻密層11は、前記のようにその厚みD1を十分に薄くすることができるので、吸着面Fから緻密層11内にほこりが吸い込まれても、このほこりは速やかに緻密層11を通過して、より空隙率の高い高空隙率層12を通じて冶具本体2内に吸い出されるので、吸着パッド3にほこりによる目詰まりが生じにくい。」

(3)刊行物3には,「吸引用シート及びそれを用いた装置」について,次の事項が記載されている。

(3-ア)
「【請求項1】 物品を吸引により固定乃至は移動する手段として使用する、多孔質体からなり、少なくとも片面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で1μm以下であり、通気抵抗が300?1500mmAq、かつ曲げ弾性率が500?7000kg/cm^(2)であることを特徴とする吸引用シート。
【請求項2】 吸引する物品の対象は、易塑性変形物であることを特徴とする請求項1記載の吸引用シート。
【請求項3】 多孔質体はポリオレフィン系樹脂から成ることを特徴とする請求項1または請求項2記載の吸引用シート。
【請求項4】 ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンまたは/及びポリプロピレンであることを特徴とする請求項3記載の吸引用シート。
【請求項5】 ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが30g/10分以下、密度が0.85?0.97g/ccであり、最大粒径が400μm以下のポリエチレン粉末からなることを特徴とする請求項1、2、3、または4記載の吸引用シート。
【請求項6】 多孔質体は、親水化されていることを特徴とする請求項1?5記載の吸引用シート。
【請求項7】 物品を吸引により固定乃至は移動する手段として使用する、少なくとも片面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で1μm以下であり、通気抵抗が300?1500mmAq、曲げ弾性率が500?7000kg/cm^(2)のポリエチレン製多孔質体を用いることを特徴とする吸引装置。」

(3-イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、吸引用シート及びそれを用いた吸引装置に関する。更に詳しくは、易塑性変形物などの物品を吸引して固定して加工を施したり、或いは搬送したりする時に用いられる吸引用シート、及びそれを用いた吸引装置に関する。」

(3-ウ)
「【0021】
【実施例1】JIS K7210(条件;荷重2.16kg、温度190℃)によって測定したメルトフローレイトが0.00g/分、密度が0.942g/ccの超高分子量ポリエチレン粉末(商品名;サンファインUH、旭化成工業株式会社製)を目開き355μmの篩を通過させ、アルミニウム製の金型に充填し、金型の表面温度175℃になるまで加熱した後、室温まで冷却し、厚み約2mmの多孔質焼結シートを得た。得られたシートの表面粗度は、算術平均粗さ(Ra)で0.8μm、通気抵抗は750mmAq、曲げ弾性率は1,220kg/cm^(2)であった。」

(3-エ)
「【0023】
【実施例2】JIS K7210(条件;荷重2.16kg、温度190℃)によって測定したメルトフローレイトが0.00g/分、密度が0.945g/ccの超高分子量ポリエチレン粉末(商品名;サンファインUH、旭化成工業株式会社製)を目開き355μmの篩を通過させ、アルミニウム製の金型に充填し、金型の表面温度204℃になるまで加熱した後、室温まで冷却し、厚み約2mmの多孔質焼結シートを得た。得られたシートの表面粗度は、算術平均粗さ(Ra)で0.6μm、通気抵抗は918mmAq、曲げ弾性率は970kg/cm^(2)であった。該シートを実施例1と同様の操作を行って、石膏の該シートに接していた面の表面粗度を測定したところ、算術平均粗さ(Ra)で3.6μmであった。」

(3-オ)
「【0026】
【実施例3】JIS K7210(条件;荷重2.16kg、温度190℃)によって測定したメルトフローレイトが0.06g/分、密度が0.958g/ccの高密度ポリエチレン粉末(商品名;サンファインSH、旭化成工業株式会社製)100重量部にポリオキシソルビタンモノラウレート0.3重量部を高速ミキサーで混合し、親水性粉末を得た。該粉末ををアルミニウム製の金型に充填し、金型の表面温度158℃になるまで加熱した後、室温まで冷却し、厚み約2mmの多孔質焼結シートを得た。得られたシートの表面粗度は、算術平均粗さ(Ra)で0.5μm、通気抵抗は1200mmAq、曲げ弾性率は6,070kg/cm^(2)であった。該シートを実施例1と同様に石膏を乗せて硬化させ、石膏の該シートに接していた面の表面粗度を測定したところ、算術平均粗さ(Ra)で3.9μmであった。」

(3-カ)
「【0027】
【発明の効果】本発明の多孔質体は、表面粗度を小さく、通気抵抗を及び剛性を適切な範囲に設計しているので、被吸引物が吸引し易く、且つ被吸引物が塑性変形し易い物質であってもそれを損なうことなく吸引できる。」

(4)刊行物4には,「吸着ジグ及び被搬送物の搬送方法」について,図1?8とともに次の事項が記載されている。

(4-ア)
「【請求項1】 空気吸引により被搬送物を吸着する吸着ジグであって、
前記被搬送物と平面で接触して該被搬送物を吸着する吸着部材を備えたことを特徴とする吸着ジグ。
【請求項2】 空気吸引孔を有し、前記吸着部材を保持する保持部材を備え、
前記吸着部材は、前記空気吸引孔と連通する開孔が形成された平板と、前記平板を覆うとともに前記被搬送物と平面で接触する多孔質部材と、前記多孔質部材の外周部に設けられ、前記被搬送物に密着する密着部材と、
で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の吸着ジグ。
【請求項3】 前記保持部材には前記平板との間に空間を形成する凹部が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の吸着ジグ。
【請求項4】 前記保持部材の凹部には、前記平板を支持し前記被搬送物の吸着時における該平板の撓みを防止する支持部材が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の吸着ジグ。
【請求項5】 前記空気吸引孔は、ネジ孔であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の吸着ジグ。」

(4-イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、吸着痕を残さずに被搬送物を搬送できる吸着ジグ及び被搬送物の搬送方法に関する。」

(4-ウ)
「【0030】図1及び図2に示すように、吸着ジグ10は正方形状の吸着ジグ本体12を備えている。
【0031】吸着ジグ本体12の一方の面には正方形状の凹部14が形成されている。凹部14の外周には、後述するパンチングメタルプレート18が取り付けられる取付溝16が形成されている。なお、図3乃至図5に示すように、この取付溝16の深さはパンチングメタルプレート18の厚さと略同じ寸法に設定されている。
【0032】取付溝16の外周にはシール部材22が取り付けられている。図3乃至図5に示すように、このシール部材22の厚さは多孔質プレート20の厚さと略同じ寸法に設定されている。このため、シール部材22は、吸着ジグ本体12の一方の面を面一にするとともに、ワーク24(図6参照)の吸着時にワーク24に密着し空気漏れを防止する機能を有している。
【0033】なお、このシール部材22は、ポリテトラフロロエチレン製のパウダーを押し固めてなる部材を延伸することにより得られる部材で構成されている(ジャパンゴアテックス株式会社から市販されている商品名「ゴアテックス」がこれに相当する)。
【0034】一方、凹部14の一部を構成する吸着ジグ本体12の底部26の略中央には、四角形状の支持枠28が形成されている。この支持枠28の先端部は取付溝16の底面まで到達しており、支持枠28がパンチングメタルプレート18と接触し支持している。このため、支持枠28は、空気吸引時においてパンチングメタルプレート18及び多孔質プレート20が凹部14側に撓むのを防止する機能を有している。
【0035】なお、支持枠28は凹部14の略中央に形成されているため、比較的撓みの大きなパンチングメタルプレート18の中央部を支持でき、効果的にパンチングメタルプレート18の撓みを防止できる。」

(4-エ)
「【0045】真空吸引ポンプを作動させ、吸着ジグ10を比較的薄いシート状のワーク24(例えばセラミック板、フィルム等)に近づける。吸着ジグ10をワーク24に近づけると、多孔質プレート20の孔、パンチングメタルプレート18の開孔42及び吸着ジグ本体12の空気吸引孔30がそれぞれ連通しているため、空気吸引力によりワーク24が多孔質プレート20に吸着される。
【0046】このとき、多孔質プレート20は平板状に形成されており、かつ孔の径が比較的小さく形成されているため、ワーク24は多孔質プレート20と平面で接触し、吸着時においてワーク24の一部分が孔に吸い込まれない。すなわち、吸着時においてワーク24の平面性が確保される。このため、ワーク24に吸着痕が残ることを防止できる。」

(5)刊行物5には,「薄厚ウェーハ用カセット及び吸着ハンド」について,図1?15とともに次の事項が記載されている。

(5-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、半導体装置を製造するためのウェーハ処理装置等で使用され、特に極薄化された薄厚ウェーハ用のカセット及び、このカセットに対して薄厚ウェーハを出し入れするために用いる吸着ハンドに関する。」

(5-イ)
「【0050】先ず、図5と図6に示す第1の実施の形態は、フォーク状吸着ハンドの例であり、この吸着ハンド41は、幅の狭い根元部分42の先端に広幅部43を連成した、板厚が1.5mm程度の基板44と、この基板44の広幅部43の上面に重ねた板厚が0.5mm程度の上板45と、上記基板44の下面で根元部分42から広幅部43の途中の位置にわたって重ねた板厚が1.5mm程度の底板46との三層構造からなり、基板44と上板45は、先端部から略中間にわたる深さの平面U字状の切り欠き47で二又のフォーク状に形成され、この吸着ハンド41は、基板44と底板46の根元部分42の下部に固定した支持体48を介して、図13で示したウェーハ受渡しロボットの第2アームの先端に水平状態で回転可能に取り付けられる。
【0051】上記上板45は、その上面で薄厚ウェーハaを吸着するためのものであり、この上板45には、切り欠き47の周囲を囲むように弧状に配置された複数の第1吸気孔49と、この第1吸気孔49群の外側に配置された複数の第2吸気孔50とがそれぞれ上下に貫通するように設けられ、基板44の上面に、第1吸気孔49群とそれぞれ連通する弧状の第1吸気溝51と、吸着ハンド41の前後中心線を挟んで両側に対称状に配置され、両側の第2吸気孔50群とそれぞれ連通する二本の第2吸気溝52とが凹設されている。
【0052】また、底板46の上面には、第1吸気通路53と第2吸気通路54が分離独立して形成され、第1吸気通路53は、先端が基板44に設けた連通孔55で第1吸気溝51と連通し、後端は支持体48の下部に設けた第1吸気口56と連通孔57を介して連通する直線状に凹設され、第2吸気通路54は、支持体48の下部に設けた第2吸気口58と後端が連通孔59を介して連通し、この後端から二又状となって前方に伸び、その両側先端が第2吸気溝52とそれぞれ基板44に設けた連通孔60を介して連通している。」

(5-ウ)
「【0058】図9と図10に示す第3の実施の形態は、丸形状吸着ハンドの例であり、上記した第1の実施の形態と同一部分については、同一符号を付して説明する。
【0059】この第3の実施の形態の吸着ハンド41は、幅の狭い根元部分42の先端に広幅部43を連成した基板44と、この基板44の広幅部43の上面に重ねた上板45と、上記基板44の下面で根元部分42から広幅部43の途中の位置にわたって重ねた底板46との三層構造からなり、基板44と上板45、先端部が円弧に形成され、基板44と底板46の根元部分42の下部に支持体48が固定されている。
【0060】上記上板45には、中央部の位置に十字状に配置された複数の第1吸気孔81と、この第1吸気孔81群の外側に円状に配置された複数の第2吸気孔82とがそれぞれ上下に貫通するように設けられ、基板44の上面に、第1吸気孔81群とそれぞれ連通する円形の第1吸気溝83と、その外側に一部切り離しの環状に配置され、第2吸気孔82とそれぞれ連通する第2吸気溝84とが凹設されている。
【0061】また、底板46の上面には、第1吸気通路53と第2吸気通路54が分離独立して形成され、第1吸気通路53は、先端が基板44に設けた連通孔55で第1吸気溝83と連通し、後端は支持体48の下部に設けた第1吸気口56と連通孔57を介して連通する直線状に凹設され、第2吸気通路54は、支持体48の下部に設けた第2吸気口58と後端が連通孔59を介して連通し、先端が第2吸気溝84と基板44に設けた連通孔60を介して連通している。」

2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1を比較する。
ア 引用発明1の「モザイクタイル等の小物品」と本願発明1の「シートまたはフィルムである対象物」とは,「対象物」である点で共通するといえる。

イ 上記記載事項(1-イ)の「小物品を多数個同時に吸着する」および同(1-ウ)の「通気抵抗の小さいことが必要」からみて,引用発明1の「緩衝板」は,比較的面積が大きく薄いものであり,「吸着用シート」といえる。

ウ 引用発明1の「前記吸着装置の箱体の開放下面に固着された吸着板の多数の通気孔を塞ぐように貼着された」「多孔質軟質合成樹脂からなる緩衝板」と,本願発明1の「前記基板の他方面に前記複数の貫通孔を塞ぐように貼着された、厚さ1.4mm以下の多孔質体」とは,「複数の貫通孔を塞ぐように貼着された多孔質体」である点で共通するといえる。

エ 引用発明1の「ポリウレタンフォーム等の連続気孔を有する多孔質軟質合成樹脂からなる緩衝板」と,本願発明1の「超高分子量ポリエチレン粉体が焼結させられることにより多孔質化されたもの」とは,「多孔質化されたもの」である点で共通するといえる。

そうすると,両者は,
(一致点)
「対象物を真空吸着する吸着装置の吸着面に取り付けられる吸着用シートであって,
複数の貫通孔を塞ぐように貼着された多孔質体を備え,
前記多孔質体は、多孔質化されたものである吸着用シート。」
の点で一致し,以下の点にて相違する。

(相違点1)
「対象物」が,本願発明1では「シートまたはフィルム」であるのに対して,引用発明1では「モザイクタイル等の小物品」である点。

(相違点2)
「複数の貫通孔」が,本願発明1では「前記吸着面に接触させられる一方面を有し」「吸着用シート」に備えられた「基板」に設けられるのに対して,引用発明1では「吸着装置の箱体の開放下面に」固着された「吸着板」に設けられている点。

(相違点3)
「多孔質体」が,本願発明1では「厚さ1.4mm以下」であり,「超高分子量ポリエチレン粉体が焼結させられることにより多孔質化されたもの」であるのに対し,引用発明1では「厚さ」は不明であり,「ポリウレタンフォーム等の連続気孔を有する多孔質軟質合成樹脂からなる」点。

(相違点4)
「複数の貫通孔」が,本願発明1では「個々の貫通孔とこれに最も近接する貫通孔の中心間距離が65mm以下となるように配置され、前記複数の貫通孔のそれぞれは、開口面積が64mm^(2)以下のもの」であるのに対し,引用発明1では不明である点。

(相違点5)
本願発明1では「前記貫通孔を軸方向から見たときにその輪郭に外接する最小の矩形枠における辺の長さのうち最大のものをAmm、前記多孔質体の厚さをBmmとしたときに、B/A^(2)≧0.015を満たす」のに対し,引用発明1では不明である点。

(2)相違点1について
記載事項(1-エ)の,「緩衝板8を介して吸着板6に吸着される素材c同志の間隙に対応する通気孔7は全く閉塞されず、その通気孔7には空気が自由に流通するとともに、素材cと対応する通気孔7においても、素材cとの間に緩衝板8が介設されているため、その緩衝板8を通つて素材cの周りから空気が吸引されるのであるが、吸引孔5を風量の大きい負圧源に連通しておけば、箱体1内の負圧を素材cの吸着に十分な値に保持することができる。」との記載から,引用発明1の「緩衝板」(吸着シート)は,「モザイクタイル等の小物品」のような,被吸着物同士に間隙が生じ,かつ,当該間隙に対応する通気孔(7)に空気が自由に流通できるようなものを吸着させるために用いるものであって,そのために十分な通気性を備えたものである。
そして,そのような十分な通気性を備えた引用発明1の「緩衝板」を、「シートまたはフィルム」の吸着に用いるならば、吸着のための大きな負圧により「真空吸着した時に多孔質シートの表面形状が対象物に転写されてしま」(本願明細書,段落【0004】)う不具合が生じ,一方,それを避けるために負圧を低くするならば,引用文献1の「緩衝板」は上記のとおり十分な通気性を備えたものであるから,「側面からも空気が吸い込まれてしまい、その横方向のリークの影響で十分な十分な吸着力が得られなくなる」(本願明細書,段落【0004】)ことは,当業者にとって自明である。
してみると,記載事項(2-イ)からみて,真空吸着する吸着装置により「グリーンシート」等の「シートまたはフィルム」を搬送することが,本願出願前周知・慣用であるとしても,引用発明1において,「対象物」を「モザイクタイル等の小物品」から「シートまたはフィルム」に変更することは,刊行物1にそのように変更する記載あるいは示唆が無い以上,動機付けが存在しないというべきであり,相違点1は,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。

(3)相違点2について
上記記載事項(2-エ)の「【0021】吸着パッド3は、一面が吸着面Fをなすシート状のパッド本体6を有するものであって、本実施の形態では、吸着パッド3は、パッド本体6と、パッド本体6の吸着面Fとは反対側を向く面を受ける板状の基盤7と、基盤7においてパッド本体6を受ける一面側にパッド本体6の周囲を囲むようにして設けられる樹脂層8とを有する構成としている。【0022】パッド本体6は、微細粒子が焼結されてなる多孔質焼結体によって構成されるものであって、吸着面Fをなす面から基盤7に受けられる面まで通じる空隙を有している。ここで、パッド本体6は、基盤7に対しては、接着剤による接着やろう付け等によって装着されている。例えば、パッド本体6と基盤7とは、互いの接触面にそれぞれニッケルリンめっきを施し、これらを互いのめっき面同士を接触させた状態で加熱させることで、これらが拡散接合される。」および同(2-オ)の「【0025】基盤7は、少なくともパッド本体6を受ける領域は、厚み方向に通気性を有する構成とされている。本実施の形態では、基盤7を、厚み方向に貫通する複数の通気孔7aを有するアルミニウム製の板材によって構成している。」からみて,刊行物2には,「複数の通気孔が設けられた基盤と,前記基盤の他方面に前記複数の通気孔を塞ぐように貼着されたシート状のパッド本体と、を備え、前記パッド本体は、粉体が焼結させられることにより多孔質化されたものである吸着パッド」が記載されているといえる。そして,刊行物2記載の「基盤」と本願発明1の「基板」とは,機能を異にし,また,刊行物2記載の「パッド本体」と本願発明1の「多孔質体」とは,材質を異にするものの,刊行物2記載の「基盤」,「パッド本体」および「吸着パッド」が,それぞれ,本願発明1の「基板」,「多孔質体」および「吸着用シート」に対応するといえる。
しかしながら,引用発明1において,その「緩衝板」を,刊行物2記載の「吸着パッド」に置き換えるためには,引用発明1が「グリーンシート」等の「シートまたはフィルム」を対象物としていることが前提となるといえるところ,上記「(2)相違点1について」にて述べたとおり,引用発明1において,その「対象物」を変更する動機付けが存在しないのであるから,相違点2も,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。

(4)相違点3について
原査定の拒絶理由にて周知例として示された刊行物である特開2002-173250号公報の段落【0001】に「【発明の属する技術分野】本発明は、吸着搬送や吸着加工に使用する吸着プレートの吸着面を超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の燒結多孔質体からなる多孔質シートで形成してある吸着搬送方法および吸着加工方法に関し、特に、電子機器に使用されるフレキシブル回路基板(FPC)、薄層シート、その他回路基板の搬送、加工時の固定用途に有用な技術である。」と記載され,同段落【0050】に「実施例1 図1に示す吸着プレートに、超高分子量ポリエチレンの燒結多孔質体からなる厚さ0.5mm、気孔率35%、孔径50μmの多孔質シートを装着し、吸引力が一定に保たれるよう調節できる吸引ブロアにより吸引を行った。」と記載されていることからみて,「吸着プレートに,超高分子量ポリエチレンの燒結多孔質体からなる厚さ0.5mm,気孔率35%,孔径50μmの多孔質シートを装着して,薄層シートを吸着搬送する」ことは,従来周知の技術であるといえる。
しかしながら,引用発明1において,その「緩衝板」を,上記周知の「多孔質シート」に置き換えるためには,引用発明1が「薄層シート」等の「シートまたはフィルム」を対象物としていることが前提となるといえる。そして,上記「(2)相違点1について」にて述べたとおり,引用発明1において,その「対象物」を変更する動機付けが存在しないのであるから,相違点3も,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。

(5)相違点4について
上記記載事項(2-オ)の「本実施の形態では、通気孔7aとして、内径500μmの丸穴を9本/cm^(2)形成している。」からみて,刊行物2には「個々の通気孔とこれに最も近接する通気孔の中心間距離が65mm以下となるように配置され、前記複数の貫通孔のそれぞれは、開口面積が64mm^(2)以下の複数の通気孔」が記載されているといえる。そして,上記「(3)相違点2について」にて述べたように,刊行物2記載の「基盤」が,本願発明1の「基板」に対応するといえるから,刊行物2記載の「通気孔」が,本願発明1の「貫通孔」に対応するといえる。
しかしながら,引用発明1において,その「吸着板の多数の通気孔」を,刊行物2記載の「基盤の多数の通気孔」に置き換える,すなわち,その「緩衝板」を,刊行物2記載の「吸着パッド」に置き換えるためには,引用発明1が「グリーンシート」等の「シートまたはフィルム」を対象物としていることが前提となるといえる。そして,上記「(2)相違点1について」にて検討したとおり,引用発明1において,その「対象物」を変更する動機付けが存在しない。
また,仮に上記動機付けが存在するとしても,引用発明1において,その「緩衝板」を刊行物2記載の「吸着パッド」を置換すると,引用発明1の「多数の通気孔を有する吸着板」の下面に刊行物2記載の「数の通気孔が設けられた基盤」が積層されることとなり,適切な吸着力が得られなくなる恐れがあるから,該置換には阻害要因が存在するといえる。
そして,該阻害要因を回避するためには,引用発明1の「多数の通気孔を有する吸着板」を取り除く必要があるが,引用発明1の「多数の通気孔を有する吸着板」と刊行物2記載の「数の通気孔が設けられた基盤」とは,そもそも,技術的意義が全く相違するのであるから,そのような動機付けは存在しないというべきである。
したがって,引用発明1において,相違点4における本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。

(6)相違点5について
上記記載事項(2-ア)の「【請求項4】前記緻密層の厚みD1は500μm以下とされ、前記高空隙率層の厚みD2は1000μm以下とされている」からみて,刊行物2には「厚さ1.5mm以下のパッド本体」が記載されているといえる。また,上記記載事項(2-オ)の「通気孔7aは、例えば内径100μmから1000μmの貫通孔とされており」からみて,刊行物2には「内径0.1mmから1mmの通気孔」が記載されているといえる。そして,上記「(3)相違点2について」にて述べたように,刊行物2記載の「パッド本体」が,本願発明1の「多孔質体」に対応するといえ,また,前述のとおり,刊行物2記載の「通気孔」が,本願発明1の「貫通孔」に対応するといえる。
そうすると,本願発明1のB/A^(2)に対応する刊行物2記載の値は,計算上,0<B/A^(2)<150となるから,刊行物2には「通気孔を軸方向から見たときにその輪郭に外接する最小の矩形枠における辺の長さのうち最大のものをAmm、前記パッド本体の厚さをBmmとしたときに、B/A^(2)≧0.015を満たす」ことが記載されているといえる。
しかしながら,引用発明1において,その「吸着板の多数の通気孔」を,刊行物2記載の「基盤の多数の通気孔」に置き換える,すなわち,その「緩衝板」を,刊行物2記載の「吸着パッド」に置き換えるためには,引用発明1が「グリーンシート」等の「シートまたはフィルム」を対象物としていることが前提となるといえる。そして,上記「(2)相違点1について」にて検討したとおり,引用発明1において,その「対象物」を変更する動機付けが存在しないのであるから,相違点5も,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。

(7)刊行物3?5について
刊行物3?5には,刊行物2および上記周知例以上に,相違点1?5に関連する事項が記載されていないことは,明らかである。

(8)効果について
そして,相違点1?5により,本願発明1は,刊行物1?5の記載および周知の技術から当業者といえども予測し得えない,本願明細書に記載された格別顕著な効果を奏するといえる。

(9)まとめ
したがって,本願発明1は,引用発明1,刊行物2?5の記載および従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。

3 本願発明2?5について
本願発明2?5は,「基板」あるいは「吸着面」について本願発明1をさらに具体的に限定したものである。
そして,上記「3 本願発明1について」において検討したように,本願発明1が引用発明1,刊行物2?5の記載および従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから,同様に,さらに限定した本願発明2?5も引用発明1,刊行物2?5の記載および周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。

第4 独立特許要件についてのむすび
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第5 本願発明について
本件補正は,上記のとおり,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願の請求項1ないし5に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして,本願の請求項1ないし5に係る発明は,原査定の拒絶理由によって拒絶をすべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-09-08 
出願番号 特願2009-220833(P2009-220833)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (B25J)
P 1 8・ 121- WY (B25J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 落合 弘之金丸 治之  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 刈間 宏信
久保 克彦
発明の名称 吸着用シート  
代理人 鎌田 耕一  

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