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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 C12N 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12N 審判 全部無効 2項進歩性 C12N 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12N |
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管理番号 | 1291567 |
審判番号 | 無効2011-800121 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-07-08 |
確定日 | 2014-02-10 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4095895号「RNA干渉を媒介する短鎖RNA分子」の特許無効審判事件についてされた平成24年 9月20日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1、2、8ないし10に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成25年(行ケ)第10020号、平成25年 5月29日)があったので、審決が取り消された部分の請求項1、2、8ないし10に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4095895号の請求項1、2、8ないし10に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第4095895号(以下、「本件特許」という。)は、平成13年11月29日(パリ条約による優先権主張 2000年12月1日 欧州特許庁、2001年3月30日 米国)に国際出願され、平成20年3月14日に特許権の設定の登録がされたものである。 これに対して、請求人は、平成23年7月8日に、請求項1?39に係る各発明についての特許を無効とする審決を求めて特許無効審判を請求し、被請求人は同年12月22日に答弁書を提出するとともに特許請求の範囲について訂正請求を行い、平成24年3月26日付けで訂正請求についての手続補正を行った。 同特許無効審判につき、平成24年9月20日付けで「訂正を認める。特許第4095895号の請求項1、2、8ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第4095895号の請求項3ないし7、11ないし39に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決(一次審決)がされたところ、被請求人である特許権者が、一次審決のうち「特許第4095895号の請求項1、2、8ないし10に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消を求めて審決取消訴訟を提起する(平成25年(行ケ)10020号)一方、「訂正を認める。特許第4095895号の請求項3ないし7、11ないし39に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との部分は確定した。 そして、平成25年5月29日、知的財産高等裁判所において、被請求人である特許権者が求めた審決の一部取消を認める判決がされ、同判決は確定した。 第2 本件発明 一次審決のうち確定していない部分に係る本件特許の発明は、以下のとおりである。 【請求項1】 単離された二本鎖RNA分子であって、各RNA鎖が19?23塩基長を有し、少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり、該RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものであり、3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が、予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなり、かつ、該mRNA標的分子が細胞または生物中に存在するものである、上記RNA分子。 【請求項2】 各鎖が、20?22塩基長を有する、請求項1に記載のRNA分子。 【請求項8】 下記のステップを含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の二本鎖RNA分子の作製方法: (a)各々が19?23塩基長を有する2本のRNA鎖を合成するステップであって、このRNA鎖は二本鎖RNA分子を形成することができるものである、上記ステップ、 (b)二本鎖RNA分子が形成される条件下で合成RNA鎖を結合させるステップであって、得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである、上記ステップ。 【請求項9】 RNA鎖が化学的に合成される、請求項8に記載の方法。 【請求項10】 RNA鎖が酵素により合成される、請求項8に記載の方法。 以下、請求項1、2、8ないし10に係る各発明を、それぞれの請求項の番号に対応させて、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明8」ないし「本件発明10」という。 第3 当事者の主張の概要 本件発明1、2、8ないし10について請求人が主張する無効理由の概要、及び請求人が提出した甲第1ないし第10号証は、以下のとおりである。 (1)本件発明1及び2は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものであって特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由1」という。) (2)本件発明1、2、8ないし10は、甲第3号証、甲第1号証ないし第3号証、または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由2」という。) (3)本件発明1、2、8ないし10について、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由3」という。) 甲第1号証:GENES & DEVELOPMENT 1999年 第13巻 第3191から3197頁 甲第2号証:Cell 2000年3月 第101巻 第25から33頁 甲第3号証:Cell 2000年4月 第101巻 第235から238頁 甲第4号証:Molecular Cell 2000年11月 第6巻 第1077から1087頁 甲第5号証:Nucleic Acids Research 1995年 第23巻 第1157から1164頁 甲第6号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1998年 第95巻 第14687から14692頁 甲第7号証:Journal of Virology 1987年 第61巻 第921から924頁 甲第8号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999年 第96巻 第5049から5054頁 甲第9号証:Development 1999年 第126巻 第4165から4173頁 甲第10号証:筑波大学 医学医療系研究員 大和建嗣氏による意見書 2.被請求人の主張 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており、被請求人が提出した乙第1ないし第6号証は、以下のとおりである。 乙第1号証:メイヤーズ博士の鑑定書(写し) 乙第2号証:今堀和友他監修,生化学辞典,第1版,第8刷,株式会社東京化学同人発行,1988年4月1日発行,第1295頁「薬理学」の項 乙第3号証:トゥシュル博士の鑑定書(写し) 乙第4号証:NATURE 2001年5月 第411巻 第428から429頁 乙第5号証:NATURE 2001年5月 第411巻 第494から498頁 乙第6号証:NATURE 1998年 第391巻 第806から811頁 第4 当審の判断 (1)無効理由1及び無効理由2について 一次審決が、本件発明1、2、8ないし10についての特許を無効とした理由は、以下のとおりである。 本件発明1及び2は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する(無効理由1)。 本件発明8ないし10は、甲第1ないし4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(無効理由2)。 これに対して、知的財産高等裁判所は、平成25年5月29日言渡の判決で、一次審決のうち、「特許第4095895号の請求項1、2、8ないし10に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消したから、同判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本特許無効審判事件について、当合議体を拘束する。 よって、本件発明1、2は、甲第3号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当するということはできず、本件発明8ないし10は、甲第1ないし4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定に違反するということもできない。 したがって、無効理由1及び本件発明8ないし10についての無効理由2は、理由がない。 また、一次審決で判断したとおり、本件発明1についての無効理由2には理由がなく、本件発明1を引用して記載された本件発明2についての無効理由2にも理由がない。 (2)無効理由3について 本件発明1、2、8ないし10についての無効理由3は、一次審決で判断したとおり、理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1、2、8ないし10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(参考)平成24年9月20日付け審決(一次審決) 審決 無効2011-800121 東京都文京区本郷4-1-4 コスモス本郷ビル10階 請求人 株式会社バイオシンクタンク 東京都港区新橋2丁目12番7号 代理人弁理士 一色国際特許業務法人 ドイツ連邦共和国 ディー-80539 ミュンヘン ホフガルテンシュトラーセ8 被請求人 マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー. 東京都千代田区丸の内1丁目9番2号 グラントウキョウサウスタワー 志賀国際特許事務所 代理人弁理士 堀江 健太郎 東京都千代田区丸の内1丁目9番2号 グラントウキョウサウスタワー 志賀国際特許事務所 代理人弁理士 実広 信哉 東京都港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウンRES1416 東京ACTi国際特許事務所 代理人弁理士 武井 紀英 ドイツ連邦共和国 ディー-69117 ハイデルベルク、メイヤーホフシュトラーセ 1 被請求人 ユーロペーイシェ ラボラトリウム フュール モレキュラーバイオロジー(イーエムビーエル) 東京都千代田区丸の内1丁目9番2号 グラントウキョウサウスタワー 志賀国際特許事務所 代理人弁理士 堀江 健太郎 東京都千代田区丸の内1丁目9番2号 グラントウキョウサウスタワー 志賀国際特許事務所 代理人弁理士 実広 信哉 東京都港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウンRES1416 東京ACTi国際特許事務所 代理人弁理士 武井 紀英 上記当事者間の特許第4095895号発明「RNA干渉を媒介する短鎖RNA分子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 結 論 訂正を認める。 特許第4095895号の請求項1、2、8ないし10に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4095895号の請求項3ないし7、11ないし39に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その39分の34を請求人の負担とし、39分の5を被請求人の負担とする。 理 由 第1 手続の経緯 1 本件特許第4095895号に係る発明(以下,「本件発明」という。)についての特許出願は,平成13年11月29日(パリ条約による優先権主張 2000年12月1日 欧州特許庁,2001年3月30日 米国)に国際出願され,平成20年3月14日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。 2 これに対して,請求人は,平成23年7月8日に, (1)請求項1,2,21,22,26に係る発明の特許について,特許法第29条第1項第3号に該当し(なお,審判請求書第2頁第13行及び請求人の平成24年6月14日付け口頭審理陳述要領書第12頁第15行の「特許法第29条第1項第1号」との記載は「特許法第29条第1項第3号」の誤記である(該口頭審理陳述要領書第12頁III(1)及び第1回口頭審理調書の「請求人」欄の4を参照。)審判請求書の他の同様の記載についても同様に誤記である。)特許を受けることができないものであること, (2)請求項1ないし39に係る発明の特許について,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであること, (3)請求項1ないし39に記載の発明について,特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項の規定により(なお,審判請求書第4頁第11行「特許法第36条第4項第1号」との記載は「特許法第36条第4項」の誤記である(同口頭審理陳述要領書第12頁III(2)参照。)審判請求書の他の同様の記載についても同様に誤記である。)特許を受けることができないものであること, (4)請求項3ないし5,16,17,19,20,24,26ないし39の記載が明確でないので,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものであること, を主張して特許無効審判を請求し,証拠方法として,甲第1ないし第5号証を提出した。 3 被請求人は,平成23年12月22日付けで答弁書及び訂正請求書を提出し,証拠方法として,乙第1及び第2号証を提出した。 4 合議体は,平成24年2月3日付けで訂正拒絶理由を通知した(発送日 平成24年2月7日)。 5 被請求人は,平成24年3月26日付けで手続補正書及び意見書を提出した。 6 請求人は,平成24年6月14日付けで口頭審理陳述要領書(以下,「請求人口頭審理陳述要領書」という。)を提出し,証拠方法として,甲第6ないし第9号証を提出した。 7 被請求人は,平成24年6月14日付けで口頭審理陳述要領書(以下,「被請求人口頭審理陳述要領書」という。)を提出した。 8 請求人は,平成24年6月28日付けで口頭審理陳述要領書(2)(以下,「請求人口頭審理陳述要領書(2)」という。)を提出し,証拠方法として,甲第10号証を提出した。 9 平成24年6月28日に口頭審理が行われた。 10 請求人は,平成24年7月26日付けで上申書(以下,「請求人上申書」という。)を提出した。 11 被請求人は,平成24年7月26日付けで上申書(以下,「被請求人上申書」という。)を提出し,証拠方法として,乙第3ないし第6号証を提出した。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 本件発明について,平成23年12月22日付けで訂正請求書が提出されたのに対し,平成24年2月7日に訂正拒絶理由通知書を発送したところ,平成24年3月26日付けで,同訂正請求書に対する手続補正書が提出された。補正の内容のうち,訂正の要旨に関するものは以下のとおりである。 (1)訂正請求書の第13頁第24から25行に記載の「また,特許査定時の特許請求の範囲の請求項33を削除した。請求項の削除は,特許請求の範囲の減縮として取り扱われる。」を削除する。 (1)の補正は訂正請求書に記載の訂正事項の一部を削除するものであり,訂正請求理由の要旨を変更する補正事項を含まないので,該補正を認める。 そして,補正後の訂正請求書の訂正事項は,以下のとおりである。 訂正事項 ア 特許査定時の特許請求の範囲の請求項21及び38における「二本鎖RNA分子」を「単離された二本鎖RNA分子」に訂正する。 訂正事項 イ 特許査定時の特許請求の範囲の請求項24,29及び39における「変異体もしくは突然変異形態」を「変異体」に訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項追加の有無,及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項アの特許査定時の特許請求の範囲の請求項21及び38の「二本鎖RNA分子」を「単離された二本鎖RNA分子」とする訂正は,「単離された」との限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮に相当する。また,該記載は,請求項1などの記載からみて,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されていた事項であるから新規事項を追加するものでもない。 訂正事項イの特許査定時の特許請求の範囲の請求項24,29及び39の「変異体もしくは突然変異形態」を「変異体」とする訂正は,択一的要素の削除であり,特許請求の範囲の減縮に相当し,新規事項を追加するものでもない。 また,上記訂正事項ア及びイは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 したがって,平成24年3月26日付け手続補正書において補正された平成23年12月22日付けの訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,いずれも,願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 3 訂正請求に対する結論 よって,本件訂正は,平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書き,及び,同条第5項において準用する平成23年改正前同法第126条第3項及び4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。 第3 本件発明 以上のように,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1ないし39に係る発明は,訂正請求書の手続補正書に添付された訂正明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし39に記載された事項を発明特定事項とする,以下のとおりのものである。(以下,「本件発明1」,「本件発明2」等という。) 「【請求項1】 単離された二本鎖RNA分子であって,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,該RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものであり,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなり,かつ,該mRNA標的分子が細胞または生物中に存在するものである,上記RNA分子。 【請求項2】 各鎖が,20?22塩基長を有する,請求項1に記載のRNA分子。 【請求項3】 3’突出部が分解に対して安定化されている,請求項1または2に記載のRNA分子。 【請求項4】 少なくとも1つの修飾されたリボヌクレオチドを含む,請求項1?3のいずれか1項に記載のRNA分子。 【請求項5】 修飾リボヌクレオチドが,糖,骨格鎖または核酸塩基修飾リボヌクレオチドから選択される,請求項4に記載のRNA分子。 【請求項6】 修飾リボヌクレオチドが,糖修飾リボヌクレオチドであり,2’-OH基は,H,OR,R,ハロ,SH,SR1,NH2,NHR,NR2またはCNから選択される基で置換され,Rは,C1-C6アルキル,アルケニルまたはアルキニルであり,ハロは,F,Cl,BrまたはIである,請求項4または5に記載のRNA分子。 【請求項7】 修飾リボヌクレオチドが,ホスホチオエート基を含む骨格鎖修飾リボヌクレオチドである,請求項4または5に記載のRNA分子。 【請求項8】 下記のステップを含む,請求項1?7のいずれか1項に記載の二本鎖RNA分子の作製方法: (a)各々が19?23塩基長を有する2本のRNA鎖を合成するステップであって,このRNA鎖は二本鎖RNA分子を形成することができるものである,上記ステップ, (b)二本鎖RNA分子が形成される条件下で合成RNA鎖を結合させるステップであって,得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである,上記ステップ。 【請求項9】 RNA鎖が化学的に合成される,請求項8に記載の方法。 【請求項10】 RNA鎖が酵素により合成される,請求項8に記載の方法。 【請求項11】 下記のステップを含む,動物細胞において標的特異的なRNA干渉を媒介する方法: (a)標的特異的なRNA干渉が起こりうる条件下で,上記細胞を請求項1?7のいずれか1項に記載の二本鎖RNA分子と接触させるステップ, (b)上記二本鎖RNAと一致する配列部分を有する標的核酸に対する,上記二本鎖RNAにより引き起こされる標的特異的なRNA干渉を媒介するステップ。 【請求項12】 接触ステップが,二本鎖RNA分子を標的細胞に導入し,そこで標的特異的なRNA干渉を起こさせうるステップを含む,請求項11に記載の方法。 【請求項13】 導入ステップが,キャリア媒介による送達または注射を含む,請求項12に記載の方法。 【請求項14】 動物細胞における遺伝子の機能を決定するための,請求項11?13のいずれか1項に記載の方法の使用。 【請求項15】 動物細胞における遺伝子の機能を抑制するための,請求項11?13のいずれか1項に記載の方法の使用。 【請求項16】 遺伝子が病理的状態と関連する,請求項14または15に記載の使用。 【請求項17】 遺伝子が病原体関連遺伝子である,請求項16に記載の使用。 【請求項18】 遺伝子がウイルス遺伝子である,請求項17に記載の使用。 【請求項19】 遺伝子が腫瘍関連遺伝子である,請求項16に記載の使用。 【請求項20】 遺伝子が自己免疫疾患関連遺伝子である,請求項16に記載の使用。 【請求項21】 標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞であって,この細胞が,内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子,または少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子をコードするDNAでトランスフェクトされているものであり,該二本鎖RNA分子は,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,かつ,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる,上記細胞。 【請求項22】 哺乳動物細胞である,請求項21に記載の細胞。 【請求項23】 ヒト細胞である,請求項22に記載の細胞。 【請求項24】 標的タンパク質,または該標的タンパク質の変異体をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸でさらにトランスフェクトされた,請求項21?23のいずれか1項に記載の細胞であって,この外因性標的核酸は,二本鎖RNA分子による該外因性標的核酸の発現の阻害が,内因性標的遺伝子の発現より低いという点で,該内因性標的遺伝子とは核酸レベルで異なるものである,上記細胞。 【請求項25】 外因性標的核酸が,検出可能なペプチドまたはポリペプチドをコードするさらに別の核酸配列と融合される,請求項24に記載の細胞。 【請求項26】 分析手法のための,請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞の使用。 【請求項27】 遺伝子発現プロフィールを分析するための,請求項26に記載の使用。 【請求項28】 プロテオーム分析のための,請求項26に記載の使用。 【請求項29】 外因性標的核酸によってコードされる標識タンパク質の変異体の分析が実施される,請求項26?28のいずれか1項に記載の使用。 【請求項30】 標的タンパク質の機能ドメインを同定するための,請求項29に記載の使用。 【請求項31】 下記のものから選択される少なくとも2つの動物細胞の比較を実施する,請求項26?30のいずれか1項に記載の使用: (i)標的遺伝子阻害を含まない対照細胞, (ii)標的遺伝子阻害を含む細胞,および (iii)標的遺伝子阻害と,外因性標的核酸による標的遺伝子の相補を含む細胞。 【請求項32】 分析が,機能および/または表現型の分析を含む,請求項26?31のいずれか1項に記載の使用。 【請求項33】 調製手法のための,請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞の使用。 【請求項34】 真核細胞からタンパク質またはタンパク質複合体を単離するための,請求項33に記載の使用。 【請求項35】 高分子量タンパク質複合体を単離するための,請求項34に記載の使用。 【請求項36】 高分子量タンパク質複合体が核酸を含む,請求項35に記載の使用。 【請求項37】 薬理学的物質を同定および/または特性決定する手法における,請求項26?36のいずれか1項に記載の使用。 【請求項38】 下記の(a)?(c)を含む,少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定システム: (a)少なくとも1つの標的タンパク質をコードする少なくとも1つの標的遺伝子を発現することができる,動物細胞, (b)上記少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる,少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子であって,該二本鎖RNA分子は,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖は1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,かつ,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる,上記RNA分子,および (c)薬理学的特性を同定および/または特性決定しようとする,試験物質または試験物質のコレクション。 【請求項39】 さらに下記の(d)を含む,請求項38に記載のシステム: (d)上記標的タンパク質または該標的タンパク質の変異体をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸であって,この外因性標的核酸は,二本鎖RNA分子による発現の阻害が,上記内因性標的遺伝子の発現より低いという点で,該内因性標的遺伝子とは核酸レベルで異なるものである,上記外因性標的核酸。 」 第4 請求人の主張の概要 請求人は,「特許第4095895号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており,その主張は,以下の(1)ないし(4)にあるものと認められる。 (1)本件特許の請求項1,2,21,22,26に係る発明は,甲第3号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものであって特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。(以下,「無効理由1」という。) (2)本件特許の請求項1ないし39に係る発明は,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証,または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。(以下,「無効理由2」という。) (3)本件特許の請求項1ないし39に係る発明について,発明の詳細な説明の記載が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしておらず,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。(以下,「無効理由3」という。) (4)請求項3ないし5,16,17,19,20,24,26,27,33,35,38及び39の記載が明確でないので,これらの請求項及びこれらを引用する請求項28ないし32,34,36及び37の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。(以下,「無効理由4」という。) また,請求人が提出した甲第1ないし第10号証は次のとおりである。 甲第1号証: GENES & DEVELOPMENT 1999年 第13巻 第3191から3197頁 甲第2号証: Cell 2000年3月 第101巻 第25から33頁 甲第3号証: Cell 2000年4月 第101巻 第235から238頁 甲第4号証: Molecular Cell 2000年11月 第6巻 第1077から1087頁 甲第5号証: Nucleic Acids Research 1995年 第23巻 第1157から1164頁 甲第6号証: Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1998年 第95巻 第14687から14692頁 甲第7号証: Journal of Virology 1987年 第61巻 第921から924頁 甲第8号証: Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999年 第96巻 第5049から5054頁 甲第9号証: Development 1999年 第126巻 第4165から4173頁 甲第10号証: 筑波大学 医学医療系研究員 大和建嗣氏による意見書 第5 被請求人の主張の概要 被請求人は,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており,請求人の主張する理由及び証拠によっては本件訂正発明を無効とすることはできないことを主張している。 被請求人の提出した乙第1ないし第6号証は次のとおりである。 乙第1号証: メイヤーズ博士の鑑定書(写し) 乙第2号証:今堀和友他監修,生化学辞典,第1版,第8刷,株式会社東京化学同人発行,1988年4月1日発行,第1295頁「薬理学」の項 乙第3号証: トゥシュル博士の鑑定書(写し) 乙第4号証: NATURE 2001年5月 第411巻 第428から429頁 乙第5号証: NATURE 2001年5月 第411巻 第494から498頁 乙第6号証: NATURE 1998年 第391巻 第806から811頁 第6 証拠(甲乙各号証)の記載 1 甲各号証の記載 証拠の記載事項(合議体注:和訳は,請求人が提出した部分和訳を参考とした。) (1)甲第1号証: GENES & DEVELOPMENT 1999年 第13巻 第3191から3197頁 (甲1-a) 「二本鎖RNA(dsRNA)は,脊椎動物を含む多くの生物で遺伝子特異的で翻訳後のサイレンシングを引き起こし,遺伝子の機能を研究する新たなツールを与えてきた。この二本鎖RNA干渉(RNAi)の生化学的メカニズムはまだ明らかでない。ここで,我々は,RNAiの特徴の多くを再現するショウジョウバエ胚のシンシチウム胚盤葉からの無細胞系の開発を報告する。この反応で観察される干渉は,配列特異的であり,dsRNAによって促進されるが,1本鎖RNAによっては促進されず,特異的mRNA分解によって作用し,最低限の長さのdsRNAを必要とする。さらに,dsRNAのプレインキュベーションは,その活性化を促進する。これらの結果は,RNAiが,溶液反応において,配列特異的工程によって介在され得ることを証明する。」(第3191頁 上段 Abstract) (甲1-b) 「二本鎖RNA(dsRNA)による転写後遺伝子サイレンシング,すなわちRNA干渉(RNAi)は,種々の生物における遺伝子機能を研究するための新しいツールとなってきており(概説としては,Montgomery and Fire et al.1998;Fire 1999;Hunter 1999;Sharp 1999を参照のこと),その生物種は,線虫(Fire et al.1998;Montgomery et al.1998),ショウジョウバエ(Kennerdell and Carthew 1998;Misquitta and Paterson 1999),トリパノソーマ(Ngo et al.1998),植物(Waterhouse et al.1998),プラナリア(Sa’nchez-Alvarado and Newmark 1999),ヒドラ(Lohmann et al.1999),及びゼブラフィッシュ(Wargelius et al.1999)を含め,増加しつつある。また,植物(コサプレッション;Vaucheret et al.1998;Waterhouse et al.1998;Baulcombe 1999),アカパンカビ属の真菌(quelling;Cogoni et al.1996;Cogoni and Macino 1999),ハエ(Pal-Bhadra et al.1997,1999),及びマウス(Bahramian and Zarbl 1999)へのトランスジーンの導入につづく,内在性遺伝子の転写後サイレンシングもRNAiと関連があるかもしれないが,これは,トランスジーンからアンチセンス転写物が生成され,dsRNAの形成がもたらされる可能性があるからである。 RNAiの際だった特徴は,その高い特異性である。dsRNAは,そのdsRNA配列が由来する遺伝子の発現を低減させるが,これは配列上の関連性のない遺伝子の発現に対して検出可能な作用を及ぼすことなく行われる(Fire et al.1998;Montgomery et al.1998)。RNAiの機能は知られていないが,ウイルス感染に対する細胞の防御機能を表しているかもしれないし,あるいは恐らく,核転写物から形成されるdsRNAに応答して,遺伝子発現を制御するための転写後機構を表しているのかもしれない。 RNAiによって誘導される遺伝子サイレンシングは,可逆的であり,従って,何らかの遺伝的変化を反映しているようには思えない(Fire et al.1998)。RNAiは転写後に機能するということを示す証拠として以下のものが挙げられる:イントロン配列に対応するdsRNAはRNAiを生じないこと(Montgomery et al.1998),及び,エキソン配列に対応するdsRNAはpre-mRNAのレベルに影響を与えないこと(Ngo et al.1998)。Caenorhabditis elegansにおいては,あるオペロン内の一つの遺伝子を標的とするdsRNAは,そのオペロン内の別の遺伝子の発現には影響を及ぼさないが,このことは,RNAiが起きるのは,核内ポリシストロニックRNAの転写の後であるということを示している(Montgomery et al.1998)。in situハイブリダイゼーション実験によって,dsRNAは標的mRNAのレベルの特異的な低下を引き起こすことが示されている(Fire et al.1998;Kennerdell and Carthew 1998;Misquitta and Paterson 1999;Sa’nchez-Alvarado and Newmark 1999)。dsRNAの標的となったmRNAのレベルの低下が,RNAiによってもたらされる特定の遺伝子機能の低下の根底をなすと考えられている。しかしながら,dsRNAが,in vivoでのmRNAの翻訳と安定性とに対しては別々の効果を発揮するという可能性も考えられる。定量的な解析から,dsRNAはあるmRNAの濃度を最大90%も低減させ得るということが示唆されている(Ngo et al.1998;Lohmann et al.1999)。ただし,いくつかの生物や特定の遺伝子に対してはもっと小さな効果しか認められていないが(Wargelius et al.1999))。C.elegansの場合では,RNAiは,SMG系(当初,翻訳時の異常mRNAを分解する役割によって同定された)とは独立して機能することが示されている(Montgomery et al.1998)。 RNAiを産生するのに必要とされるdsRNAは,細胞当たりわずか数分子である(Fire et al.1998;Kennerdell and Carthew 1998)。サイレンシングに必要なdsRNAの量が少ないこと,及び,サイレンシングが生体内の広範な部位へ拡散していくということは,dsRNAが触媒的に機能する,又は,dsRNAは増幅される,ということを示唆している(Fire 1999)。アカパンカビにおいては,dsRNAの増幅が起きている可能性があり,その抑制にはRNA依存性RNAポリメラーゼに類似した遺伝子が必要であることが示されている(Cogoni and Macino 1999)。しかしC.elegansの場合は,dsRNAの複製は検出されておらず,従って,dsRNAは触媒的に機能することが示唆される(Montgomery et al.1998)。dsRNAは,少なくともC.elegansにおいては,生体の全身へと効率的に輸送される。驚くべきことに,餌として虫に与えられたdsRNAも特異的な干渉を引き起こす(Timmons and Fire 1998)。 dsRNAがRNAi効果を生み出すための分子機構は解明されていない。この現象を生化学的に解析するためには,RNAiの本質的な特徴をインビトロで再現することが必要性となる。本稿において筆者らは,Drosophila胚のシンシチウム胚盤葉に由来する無細胞系における,遺伝子特異的でdsRNA介在性である干渉について記載する。このインビトロ系は,RNAiの分子的基礎を解析するための遺伝的アプローチを補完するに違いない。」(第3191頁 下段 左カラム第1行から第3192頁 左カラム第27行 Introduction) (2)甲第2号証: Cell 2000年3月 第101巻 第25から33頁 (甲2-a) 「予備的実験であるが,抽出物中で約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21-23塩基長のRNA種は,アクリルアミドゲルで単離され,新たなRNAi反応系に全長の二本鎖RNAの代わりに添加された時,in vitroで塩基配列特異的干渉を起こした。」(第30頁 右カラム 第44から49行) (甲2-b) 「dsRNA指向性mRNA切断のモデル 我々の生化学的データは,最近のC.elegansおよびNeurosporaにおける遺伝学的実験(Cogoni and Macino,1999a;Ketting et al.,1999;Tabara et al.,1999;Grishok et al.,2000)とともに,dsRNAがいかにしてmRNAを破壊するために標的とするかに関するモデルを示唆する(図7)。このモデルでは,dsRNAはまず,C.elegans遺伝子座rde-1,rde-4などの遺伝子が関与すると思われるプロセスにおいて,21?23ヌクレオチド長の断片にまで切断される。得られる断片は,恐らくRNAi特異的タンパク質と結合した短いasRNAの状態であろうが,次に,mRNAと対合して,mRNAを分解するヌクレアーゼを近寄せる。あるいは,21?23ヌクレオチドのdsRNA断片を一時的にmRNAと近接して保持するようなタンパク質-RNA複合体中で,鎖交換反応が起きる可能性もある。dsRNAの断片化に続く二本鎖の分離は,ATP依存性RNAヘリカーゼによって補助されるかもしれないが,そうであれば,21?23ヌクレオチドのRNA生成がATPによって増強されるという我々の観察がうまく説明できる。 我々は,各々の小RNA断片は,恐らくその21?23ヌクレオチド断片の5’末端か3’末端で,mRNA中の1箇所か,多くても2箇所の切断を生じるものと想定している。その小RNAは,C.elegansにおけるego-1遺伝子(Smardon et al.,2000)やアカパンカビにおけるqde-1遺伝子(Cogoni and Macino,1999a)などによってコードされる,RNA依存的RNAポリメラーゼによって増幅され,RNAi効果を誘発させたdsRNAの非存在下で長期間持続するような,転写後遺伝子サイレンシングが生じるかもしれない。C.elegansにおける遺伝性RNAiは,その誘発にはrde-1遺伝子やrde-4遺伝子が必要であるが,後代にまで維持するために,これらの遺伝子は必要ではない。C.elegansのrde-2遺伝子,rde-3遺伝子,mut-7遺伝子は,RNAiが起きる組織においては必要であるが,遺伝性RNAiの誘発には必要ではない(Grishok et al.,2000)。これらの「エフェクター」遺伝子(Grishok et al.,2000)は,mRNA標的の実際の選択や,続くそれらの切断において機能するタンパク質をコードしているようである。ATPは,RNAiにおける多数のステップのいずれかにおいて,必要であるかもしれないが,そのようなステップとして,dsRNA上の複合体形成,dsRNAの切断の最中又はその後の鎖解離,21?23ヌクレオチドRNAの標的mRNAとの対形成,mRNAの切断,及び標的複合体の再利用,が挙げられる。in vitroのRNAiシステムにおいて,これらのアイデアを試すことが将来の重要な試みである。」(第30頁 右カラム 第50行から第31頁 右カラム 第11行) (甲2-c)「 ![]() 」(第32頁 図7) (3)甲第3号証: Cell 2000年4月 第101巻 第235から238頁 (甲3-a) 「トリパノソーマからマウスに至るまでの種々の生物において,ある内在性mRNAのセンス及びアンチセンス配列に対応する二本鎖RNA(dsRNA)が細胞に導入されると,同族mRNAは分解され,遺伝子のサイレンシングが生じる(Fire,1999;Bosher and Labouesse,2000に概説されている)。この種の転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は,C.elegansにおいて最初に発見され(Fire et al.,1998),RNA干渉またはRNAiと呼ばれている。RNAiは,トランスジーンが細胞に導入された場合にときおり観察されるPTSGと,多くの類似性を示し,両プロセスはいくつかの同じ遺伝子産物を必要としているようである(Catalanotto et al.,2000;Ketting and Plasterk,2000)。もしトランスジーンによって誘導された内在性遺伝子のサイレンシング(すなわち,共抑制)にもまた,dsRNAが関与しているとすると,細胞は,何らかの方法で,トランスジーンの配列のセンス及びアンチセンスの両方の複製を作っているにちがいない。 PTSGは,これまで遺伝学者たちや分子生物学者たちの関心(と想像力)を同じ様に掴んできたが,今や,その機構についての最初の手がかりが得られれば,生化学者たちをも仲間に引き込むことは確実だろう。生物学的プロセスの場合にしばしばそうであるように,機構についての最初のヒントは,反応中間体であると思われる分子の同定からくる。特に,最近のいくつかの論文が,長さが21?25ヌクレオチド(21?25塩基長)で,細胞に導入されたdsRNA又はトランスジーンのセンス及びアンチセンス断片に対応する小型のRNA分子が同定されたことを報告している。」(第235頁左カラム第1から27行Introduction) (甲3-b) 「RNAiによるmRNA分解についてのモデル 図1は,RNAiの際にmRNAがいかに分解されるか,に対するモデルである。このモデルは上述した最近の観察結果に基づくものであり,dsRNAの小断片がいかにして配列特異的で触媒反応的なやり方でmRNAの切断を制御できるのかを示している。示されているように,dsRNAが細胞に導入されると,dsRNAエンドヌクレアーゼの標的となり,約23ヌクレオチド長の短いdsRNA断片を生じる(図1A:センス鎖は青色;アンチセンス鎖は赤色)。これら短RNAについては,S2細胞のヌクレアーゼと同時精製される(Hammond et al.,2000)ことと,鋳型としての役割を果たすということが提唱されていることから,本モデルにおいては,酵素のdsRNA結合ドメイン(灰色)に結合したままの断片が描かれている。このタンパク質-RNA複合体は,フリーのRNA及びタンパク質との間で平衡状態にあると考えられるが,本モデルによれば,複合体が最も安定であって大勢を占めている。 ZamoreとTuschlのインビトロ系では,標的にされたmRNAもやはり約23ヌクレオチド間隔の部位で切断されるので,本モデルでは,dsRNAとmRNAは同じ酵素によって切断されると仮定している。図1Bに示すように,次のステップでは,mRNA(青色のジグザグ)は,短いdsRNAの23ヌクレオチドの「センス」鎖(青色の直線)と交換されなくてはならない。鎖交換反応の間に,23ヌクレオチドのセンス鎖は,酵素から解離して,mRNAによって置換される。このmRNAは,元のdsRNAのセンス鎖と同様に配置され,リボヌクレアーゼ活性部位(黄色)によって同じ部位で切断される。重要なのは,ヌクレアーゼは,mRNAを切断すると,センス及びアンチセンス断片と結合した,サイクルの開始時と同様の状態に戻るということである。このように,図1のモデルにおいては,ヌクレアーゼは鎖交換と切断という終わりの無い繰り返しを実行することが可能であり,このことは,なぜRNAiが触媒的に作用するように見えるのかを説明する(下記参照)。 dsRNAと,その二本鎖のうちの一方との間の鎖交換反応は,触媒がなくてもゆっくり起こるが,生物学的な時間スケールで起きるためには,恐らく触媒作用が必要であろう。Zamoreら(2000)は,mRNAの切断にはATPが必要であることを見いだしているので,図1に示すモデルにおいては,RNA依存性ATPase,すなわちRNAヘリカーゼを登場させている(de la Cruz et al.,1999に概説されている)。以下に述べる理由から,図1Bでは,切断を触媒するのと同じタンパク質のヘリカーゼドメインによって鎖交換が触媒されることを示しているが,これら2つの活性は,別々の分子に存在し得る。 理論的には,鎖交換反応が起こりうる2通りのやり方がある。まず,鎖交換は解離型の機構によって起こり得るが,この場合,dsRNAの二本鎖はまず完全に解離し,その結果,アンチセンス鎖が,続くmRNAとのハイブリダイゼーションを起こしやすくなる(例えば,Zamore et al.,2000の図7を参照のこと)。あるいは,鎖交換は結合型の機構によっても起こり得るが,この場合,mRNAは塩基対形成したdsRNAと何らかのやり方で密接に結合し,その二本鎖に侵入してアニーリングを可能にする。図1Bでは,結合型の鎖交換を示しているが,その理由は,この型の方が,センス鎖とアンチセンス鎖の両方ともがショウジョウバエS2細胞のヌクレアーゼと共に精製されるという観察結果,並びに,この型の鎖交換がインビトロで作動しているようにみえる(Homann et al.,1996)という事実と非常に整合性が高いからである。」(第235頁右カラム第50行から第236頁右カラム第18行) (甲3-c)「 ![]() 」(第236頁 図1) (甲3-d) 「図1 RNAiによるmRNA分解のメカニズムに対するモデル 反応は,dsRNA結合ドメイン(灰色の楕円部分),一つ又は複数のリボヌクレアーゼドメイン(黄色),及びRNAヘリカーゼドメイン(赤色の楕円部分)を含む仮想的な酵素(RNAiヌクレアーゼ)によって触媒される。第1の工程(A)では,RNAiヌクレアーゼがRNAiを誘発するdsRNAに結合し,dsRNAは,RNAiヌクレアーゼに安定して結合し続ける小さなdsRNA(青色はセンス鎖,赤色はアンチセンス鎖)へと分解される。第2の工程(B)では,これらの小断片が,mRNAの配列特異的分解の鋳型となる。そのタンパク質のヘリカーゼドメインは,mRNAと小dsRNA鋳型のセンス鎖を置換するATP依存性鎖交換を触媒する。次に,mRNAは,切断され,小さなdsRNAと共にRNAiヌクレアーゼを再生する。(A)では,酵素は,正確な見当でdsRNAを覆い,特定の場所でmRNAを分解するであろう特異的な断片を生じることが提案される。」(第236頁 図1のレジェンド) (甲3-e) 「dsRNAによるPTGSにはRNaseIII様酵素は関与しているか? RNAiヌクレアーゼの実体は未だ同定されていないが,この21?25ヌクレオチド長の短RNA断片は,その特性から,RNaseIIIまたはそれと極めて関連した酵素によって作り出されたものであることが示唆される(Rotondo et al.,1997;Abou Elela and Ares,1998,並びにこれらに引用されている文献を参照のこと)。RNaseIIIは,dsRNAを特定の部位において切断し,不連続なサイズの複数のdsRNA断片を作り出すことが確かめられた唯一のヌクレアーゼである。RNaseIIIがdsRNAと安定的に結合できるためには,そのdsRNAは,ヘリックス2巻き分以上の長さを有していなくてはならないが,このことは,RNAiとトランスジーン誘導型サイレンシングが約22塩基対の安定的な断片を作り出すという観察結果と整合する。RNaseIIIは,22塩基対未満の断片を,それより長い断片から作り出すことが可能ではあるが,このような短い断片そのものはRNaseIIIとはうまく結合することができない。図1のモデルの流れにおいては,21?23塩基対より短い断片は,酵素と安定的に結合したままではなく,他の細胞のヌクレアーゼによってより分解されやすいだろうから,最近の実験で観察されていなかったであろう。 RNaseIIIの分解産物とRNAiヌクレアーゼの分解産物との類似性を考慮して,図1のモデルにはRNaseIII酵素の特性を組み込んだ。例えば,図1の23塩基について示しているように,RNaseIIIは,3’末端に2塩基のオーバーハングを有する切断端をつくる。もしもRNAiにRNaseIII様の酵素が関与しているならば,Zamore及びTuschlによって観察された小RNAがなぜ21?23ヌクレオチドの範囲の長さであるのかを説明できるだろう。最初の切断で,センス鎖及びアンチセンス鎖を有する23塩基長のdsRNAが生成するだろうが,3’末端のオーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21および22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られるであろう。Zamore及びTuschlは,dsRNAの切断は,mRNAの切断とは異なりATPを必ずしも必要としないことを観察している。しかし,dsRNAの切断はATPが存在すればより早くなり,ATPなしではより長い23塩基長の断片が優位になる。このことは明らかに,このインビトロ反応におけるATPの役割の手がかりであるが,その意味は現在のところ不明である。」(第236頁右カラム第19行から第237頁左カラム第26行) (甲3-f) 「図1のモデルは,21から25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言するが,従来,全てのRNAi系において遺伝子発現の効率的な抑制のためには約100塩基対よりも大きなdsRNAが必要である。(ただし,インビトロでは21から23塩基長のRNAも機能する可能性がある[Zamore et al.,2000]。)モル量が一定なら,より短いdsRNAは,より少ない量の21から25塩基長しか生じない,ということが,それらの有効性が低いことの説明になるかもしれない。しかしながら,この長さの必要性は,たとえば,想定されているRdPRのような,RNAiに関与する他の因子に由来する可能性もある。」(第238頁左カラム第47から57行) (4)甲第4号証: Molecular Cell 2000年11月 第6巻 第1077から1087頁 (甲4-a) 「RNA干渉(RNAi)においては,外部から供給されたセンス及びアンチセンスRNAの混合物が,相同な細胞内RNAの協奏的分解を誘発する。我々は,RNAiには二本のトリガー鎖の間の二本鎖形成が必要であること,この二本鎖はトリガーRNA及び標的RNAの間で同一性を有する領域を含まなければならないこと,そして,26bpという短い二本鎖もRNAiを誘発することができる,ということを示す。インビトロでの観察と整合するように,取り込まれたdsRNAの一部はインビボで約25ヌクレオチドの短いセグメントにまで変換される。修飾されたdsRNAを用いた干渉試験から,正確に,RNAiトリガーの塩基と骨格の両方に対する化学的要求性が示される。驚くべきことに,特定の修飾は,センス鎖上では十分に許容されるが,アンチセンス鎖上では許容されない。このことは,二本のトリガー鎖が干渉のプロセスにおいて異なった役割を有していることを示す。」(第1077頁左カラム第1から16行 Summary) (甲4-b) 「RNAiトリガーの長さと配列組成についての要求性 RNA干渉のためには干渉RNA又は標的RNAにおける特定の配列が必要であるということは,大原則から予想されたことであった。そのような配列は,C.elegansにおいて,非常に多数の異なる遺伝子を干渉の標的とし得ることから,いずれもゲノム中にありふれているはずだということが示唆される。共通して干渉に使用される配列は十分に長い(400?1000bp)ので,干渉セグメントの中の短いモチーフについての要求性は見落とされてきたのかもしれない。RNAiの普遍性のより厳密なテストとして,717塩基のgfpコーディング領域(並びに5’及び3’非翻訳領域)に含まれる,62?242bpの重複しない8つのdsRNAセグメントについて,GFP発現への干渉の能力を調べた。これらのセグメントはいずれも(わずかに強度の違いはあったが)干渉効果を生じたので,干渉には強度の配列特異性はないことが示唆される(図1A)。 unc-22遺伝子は,gfpよりいくらか感度の高い,遺伝子機能についてのアッセイを提供する(実験手順の項を参照のこと)。化学合成を使用して,unc-22からの,26,27,32,37,及び81ヌクレオチドの重複しない5つのセグメントに対応する,センス及びアンチセンスオリゴリボヌクレオチド(図1B)を調製した。短い方の4つのセグメントは,ヌクレオチド組成の点で区別できた:これらはunc-22のmRNAのセグメントのうちで,A,G,U,及びCを含まない最長のものにそれぞれ対応する。これらのセグメントをdsRNAとして注射したところ,そのうちの4つ(Gを含まない27塩基長を除く全て)が,子孫の一部にUnc-22表現型をもたらした。短いdsRNAは干渉活性の点では同等ではなかった(図1B)。特に,81bpと26bpのdsRNAを滴定したところ,26bpRNAについては250倍以上高い濃度が必要であった(図1C)。干渉のためには高濃度のこの短いdsRNAが必要であったということから,この配列は別のメカニズムで遺伝子発現に干渉している可能性が挙げられた。特に,高い用量の26塩基長のものがあれば,干渉における増幅又は触媒作用の要素がおそらく不要となる可能性がある。26塩基長のものによって誘導される干渉と,より長いdsRNAによって誘導される干渉との関係を明らかにするため,二本鎖に対する要求性と,RNAiへの完全な感受性に必要な4つの遺伝子(rde-1,rde-2,rde-3,及びrde-4;Tabara et al.,1999)の産物に対する要求性を調べた。26塩基長のものによる干渉には,4つのrde遺伝子の産物が必要であり,且つ2本鎖の両方が必要であった(データ未提示)。このことは,このdsRNAの作用には,既に特徴が解析されている,より長いdsRNAによる作用との間に,少なくとも共通する(もし同一ではないとしても)要素があることを示している。 Gを有さない27塩基長dsRNAについては,干渉活性は認められなかったものの,より高い用量又はより低い生育温度であれば効果が現れていた可能性もある。あるいは,この配列は,標的転写産物のうちの(二次構造やタンパク質被覆のせいで)利用できない部位に対応するのかもしれない。 gfpのデータと合わせて考えると,劇的に異なった配列組成を有する4つの短い二本鎖オリゴリボヌクレオチドが特異的なUnc-22表現型を生じ得ることは,RNAiには配列要求性があるという説に対する強い反証となる。」(第1077頁右カラム第51行から第1079頁左カラム第11行) (甲4-c) 「RNAトリガーにおける化学的要求性:リン酸-糖骨格 dsRNAが干渉を誘発する能力に対する効果について,リン酸-糖骨格におけるいくつかの修飾を調べた(図5)。リン酸残基のチオリン酸への修飾は,T7及びT3RNAポリメラーゼを用いてチオリン酸ヌクレオチド類縁体を取り込ませることで効果的に実現できた。α-チオリン酸修飾はRNAにおいていくらか化学的不安定性を生じたものの,修飾残基のどの一つを取り込ませた場合も干渉活性を立証することができた。A,C,又はG残基の修飾は完全な干渉活性と整合したが,修飾されたUは干渉活性の低減をいくらか引き起こした(図5B)。興味深いことに,Zamoreら(2000)はインビトロでのRNA関連切断にはU残基がより好ましいと述べている。2種類の修飾された塩基を有するRNAは,RNAiトリガーとしての有効性が実質的に低下していた(データ未提示)。3種類以上の残基を修飾すると,インビトロでRNAが大きく不安定になり,干渉活性を調べることはできなかった。 修飾について調べた第2の位置は,ヌクレオチド糖の2’位である。トリガーのセンス鎖上かアンチセンス鎖上のいずれか一方で,シチジンをデオキシシチジンに置換(又はウラシルのチミジンへの置換)しさえすれば,干渉活性の実質的な低減を十分に引き起こすことができた(図5B)。シチジンのデオキシシチジンへの置換の場合は,その効果は2’位における変化の結果であるに違いないが,他方,ウラシルのチミジンへの置換の効果は,チミジン塩基上の追加のメチル基の効果を反映しているのかもしれない。ウラシルの2’‐フルオロウラシルによる置換はRNAi活性と整合したが,2’‐アミノウラシル又は2’‐アミノシチジンによる修飾は,デオキシヌクレオチドによる置換で認められたものに匹敵する活性の低下を生じた。 2’位での要求性について調べるための第2の手段には,RNA:DNAハイブリッドがRNAiを誘発することが可能かどうかという問題が関わっている。そのようなハイブリッドは,合成及び酵素により調製されたが,干渉活性を有さないことが分かった(図5B,および未提示データ)。 興味深いことに,いくつかの置換(ウラシル→2’-アミノウラシル,シチジン→2’-アミノシチジン,ウラシル→チミジン,及びシチジン→2’-デオキシシチジン)については,干渉活性に対して,センス鎖とアンチセンス鎖のいずれが修飾されているかに応じて,より好ましい効果を観察した。各々の場合において,トリガー活性は,センス鎖の修飾よりもアンチセンス鎖の修飾に対して不安定だった。 RNAiトリガーへの化学的要求性:RNAの塩基 RNA干渉反応の効力に対する効果について,小さな数のRNA塩基の修飾を調べた。そのような修飾は,T3又はT7RNAポリメラーゼを用いて取り込ませることが可能なヌクレオシド3リン酸が市販されて入手可能かどうかに基づいて選択した。5種類の塩基類縁体(図6A)を調べたところ,ウラシル類縁体である4-チオノウラシル,5-ブロモウラシル,5-ヨードウラシル,及び5-(3-アミノアリル)-ウラシルは,いずれもウラシルの代わりに容易に取り込まれ,イノシンは,グアノシンの代わりに取り込まれた。 骨格の修飾の場合と同様に,RNAiトリガーの二本鎖が互いに異なる塩基要求性を有しているかどうかを解明することがとりわけ興味深いと考えられた。図6に示されているように,4-チオウラシル及び5-ブロモウラシル(これらは干渉可能であった)並びにイノシン(干渉可能であったが,干渉活性の実質的な低減を引き起こした)は,二本鎖の間で,効果の違いは検出可能ではなかった。対照的に,5-ヨードウラシル及び5-(3-アミノアリル)-ウラシルは,顕著に鎖特異的な効果を示し,この効果は,アンチセンス鎖の方に対して有意に大きかった。 修飾に対する不安定さがアンチセンス鎖の方が大きかったことが,一般的な現象なのか,それともトリガーとして使用したunc-22Aセグメントに固有の特性なのかを確かめることは重要であった。unc-22のセンス鎖及びアンチセンス鎖は,同等な塩基組成であったものの,配列の何らかの特徴によって,二本鎖の間で安定性が異なることの理由が説明できるかもしれないことも予想できた。そこで,5-(3-アミノアリル)-ウラシルによる修飾に対する安定性について,別の3つのRNAiトリガーセグメントを調べた(図6C)。各トリガーについて,(a)修飾センス鎖での,完全な又はほぼ完全な活性,及び(b)修飾アンチセンス鎖での,大きく低下した活性,が観察された。活性のあるセンス鎖が修飾されたRNAの滴定を実施することによって,その効果についての大まかな定量を行なった。これらの実験から,5-(3-アミノアリル)-ウラシル修飾についてのトリガー活性の安定性において,アンチセンス鎖とセンス鎖との間で,最低限でも10?25倍という差異が示された(図6C,及び未提示データ)。 ある塩基修飾がトリガーの活性をブロックする可能性のある二つの状況がある。第1の状況には,トリガーRNAの機能における,未修飾塩基の特異的な必要性に関係し,一方,第2の状況には,dsRNAの正常な機能をブロックする,修飾塩基の能力が関係するであろう。アンチセンス鎖にウラシルを有さない26塩基長dsRNA(図1B)が干渉トリガーとして機能し得ることは,ウラシル上の化学基が特異的に要求されることに対する反証となる。むしろ,ウラシルの5位における大きな置換基が,RNAiの重要な段階において,認識又は触媒作用に対する立体障害となっているようである。」(第1081頁左カラム第1行から第1082頁右カラム第14行) (甲4-d) 「酵素を用いたRNA調製」(第1085頁左カラム第21行) (甲4-e) 「化学合成されたRNA」(第1085頁右カラム第6行) (5)甲第5号証: Nucleic Acids Research 1995年 第23巻 第1157から1164頁 (甲5-a) 「2’ヒドロキシル基にメチル基を付加すると,ヌクレアーゼの核酸鎖分解活性を阻害する。」(第1157頁右カラム第7から9行) (6)甲第10号証: 筑波大学 医学医療系研究員 大和建嗣氏による意見書 (甲10-a) 「細胞内で分解されてできた3’突出を有する23bpのdsRNAが機能するのであれば,細胞外から3’突出を有する23bpのdsRNAを導入しても機能するであろうと考えることが当然である。逆に,機能しないだろうと考える方に無理がある。しかも,これまでは,平滑末端を有するdsRNAが用いられてきたのであって,in vivoのメカニズムで3’突出を有する23bpのdsRNAが機能するのであれば,それは平滑末端を有するdsRNAよりも効率よく機能するだろうと考えるのも,下記の理由から至極当然のことである。 この甲3号証の重要性は,RNA干渉に関わる酵素がRNaseIIIと似た酵素であるということを指摘した点にあり,それによって,なぜ21-23bpという短いdsRNAが機能するのかが論理的に説明された。従ってこれ以降のRNA干渉技術は,RNaseIIIのメカニズムを念頭に発展して行くものと思われた。一方,従来,RNaseIIIで切断された2本鎖RNAが3’突出端を形成することは,甲3号証に示されているように,よく知られているのであるから,RNaseIII様酵素とともに23bpの短2本鎖RNAが細胞内でのRNA干渉を遂行すると考えるのは当然のことである。これを読んだ科学者であれば,それ以降,RNA干渉技術を使う際,まず3’突出端を有する短2本鎖RNAで実験を行なうのが自然であり,あえてこれと異なる長さや形態,例えば5’突出端を有するものや平滑端の2本鎖RNAを用いて実験を行うことに合理的な理由がまったくなく,科学者はそのような実験は行なわない。」(第13から28行) 2 乙各号証の記載 証拠の記載事項(合議体注:和訳は,請求人が提出した部分和訳を参考とした。) (1)乙第1号証: メイヤーズ博士の鑑定書(写し) (乙1-a) 「30.14992についての用量反応データを下のグラフに示す。このグラフは,単離された合成siRNA 14992について,0.022nMのIC_(50)を規定する。オープンな溶解物アッセイは,ショウジョウバエ溶解物から回収された17nM 21?23mer Pp‐505p93断片によるPp‐ルシフェラーゼ阻害と同程度の阻害を示す。したがって,単離された合成14992化合物は,ショウジョウバエ溶解物から回収された断片よりおよそ773倍(17nM/0.022nM)効果が高い。」(段落30) (乙1-b) 「31.15047についての用量反応データを下のグラフに示す。このグラフは,単離された合成siRNA 15047について,0.024nMのIC_(50)を規定する。オープンな溶解物アッセイは,ショウジョウバエ溶解物から回収された17nM 21?23mer Pp‐505p93断片によるPp‐ルシフェラーゼ阻害と同程度の阻害を示す。したがって,単離された合成15047化合物は,ショウジョウバエ溶解物から回収された断片よりおよそ708倍(17nM/0.024nM)効果が高い。」(段落31) (2)乙第3号証: トゥシュル博士の鑑定書(写し) (乙3-a) 「本願クレーム記載の発明を開発する際に,我々は,ショウジョウバエin vitro系(すなわち,ショウジョウバエ溶解物)において長い二本鎖RNAをインキュベートした結果として生産される小さなRNA断片をクローニングするプロトコルを探求することを開始した。我々はこれらの小さなRNA断片からcDNAライブラリーを作る必要があった。しかし,その当時,小さなRNA(すなわち,19?23mer)のクローニングのための公開されたプロトコルはなかった。・・・いくつかの失敗した試み(略)の後,我々はコンカテマーのクローニングに成功した(略)。我々が開発したクローニング技術によって,我々は,ショウジョウバエ溶解物中,長いdsRNAを処理することにより産生した,小さなRNA断片のためのcDNAライブラリーを生成できるようになった。」(段落27から31) 第7 当審の判断 1 請求人が主張する無効理由1(特許法第29条第1項第3号)について 1-1 本件無効審判において,請求人は,本件特許の請求項1,2,21,22,26に係る発明は,甲第3号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものであって特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきであると主張する。 1-2 甲第3号証に記載された発明の認定 記載事項(甲3-c)及び(甲3-d)から,甲第3号証には,RNA干渉によるmRNA分解のメカニズムに対するモデルについて,反応は仮想的な酵素であるRNAiヌクレアーゼにより触媒されることが記載され,記載事項(甲3-e)に「RNAiヌクレアーゼの実体は同定されていないが・・・・RNaseIIIまたはそれと極めて関連した酵素によって作り出されたものであることが示唆される」こと,「図1の23塩基について示しているように,RNaseIIIは,3’末端に2塩基のオーバーハングを有する切断端をつくる」ことが記載されているように,図1のモデルにおいては,RNA干渉を起こす長い二本鎖RNA分子が細胞に導入されると(以下,甲第3号証において導入されたような切断前の二本鎖RNA分子を「長鎖二本鎖RNA分子」ということもある。),RNaseIII類似酵素であるRNAiヌクレアーゼにより切断されて3’末端に2塩基の突出部を有する約23塩基長の短い二本鎖RNA分子(以下,切断後の二本鎖RNA分子を「短鎖二本鎖RNA分子」ということもある。)を生じることが記載されているものと認める。 1-3 本件発明1について (1)本件発明1と甲第3号証に記載された発明との対比・新規性の判断 記載事項(甲3-b)に記載されたように,甲第3号証の図1は長鎖二本鎖RNA分子が細胞に導入された場合のmRNAの分解メカニズムを示しており,甲第3号証に記載されたモデルによれば,細胞内には,長鎖二本鎖RNA分子がRNaseIII類似酵素であるRNAiヌクレアーゼにより分解された様々な配列からなる短鎖二本鎖RNA分子が混在していることが理解できるが,その中には特定の配列からなる単一種の短鎖二本鎖RNA分子も存在していることは当業者であれば理解できるところである。そして,甲第3号証の図1には,RNAiヌクレアーゼによる分解により生じた,各RNA鎖が23塩基長を有し,2塩基からなる3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子と,仮想的な酵素であるRNAiヌクレアーゼとの複合体が記載されている。 ここで,該複合体はRNAiヌクレアーゼと短鎖二本鎖RNA分子が単に可逆的に結合したものであって,複合体を構成する要素としてではあるものの,甲第3号証の図1には,各RNA鎖が23塩基長を有し,2塩基からなる3’突出部を有する二本鎖RNA分子が単一の分子として図示されているから,複合体の一方の要素である短鎖二本鎖RNA分子を独立した化学物質として当業者が認識できる。 そして,短鎖二本鎖RNA分子の,各RNA鎖が23塩基長を有し,2塩基からなる3’突出部を有するという構造も記載されているので,当業者であれば甲第3号証に記載された該RNA分子を,周知技術により困難なく化学物質として製造することができる。 よって,甲第3号証には「単離された二本鎖RNA分子」が実質的に記載されていると認める。 さらに,甲第3号証には二本鎖RNA分子が標的とミスマッチを含むものであることは記載されておらず,図1Bの記載から判断しても,記載された二本鎖RNA分子は,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなるものであると理解するのが自然である。 ここで,本件発明1と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,甲第3号証の図1に記載の,各RNA鎖が23塩基長を有し,2塩基からなる3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子は,本件発明1の「単離された二本鎖RNA分子であって,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からな」るものに相当する。 そして,記載事項(甲3-a)からも読み取れるように,RNA干渉が細胞内で起きることは周知の技術的事項である上,記載事項(甲3-b)に記載されたように,図1は長鎖二本鎖RNA分子が細胞に導入された場合のmRNAの分解メカニズムを示しているから,甲第3号証の図1に記載のmRNAは,本件発明1の「細胞または生物中に存在するものである」「mRNA標的分子」に相当する。 よって,両者は,「単離された二本鎖RNA分子であって,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなり,かつ,該mRNA標的分子が細胞または生物中に存在するものである,上記RNA分子」である点で一致し,以下の点で一応相違する。 ア 上記二本鎖RNA分子が,本件発明1においては,「標的特異的なRNA干渉が可能なもの」であるのに対し,甲第3号証には,RNA干渉が可能なものであることは明記されていない点。 上記相違点について検討する。 相違点アについて,二本鎖RNA分子が「標的特異的なRNA干渉が可能なものであ」ることは,上記構造を有するRNA分子が本来有する性質を特定したに過ぎず,物の発明である「二本鎖RNA分子」に新たな構成を付加するものではないので本件発明1に係る発明が甲第3号証に記載のRNA分子と比較してこの点で相違しているということはできず実質的な相違点ではない。 よって,本件発明1は甲第3号証に記載されたものである。 (2)被請求人の無効理由1に関わる主張 被請求人は,本件発明1の無効理由1について,概略以下のように主張している。 (2)-1 答弁書における無効理由1に関わる主張の概要 ア 甲第3号証には「単離された二本鎖RNA分子」が記載されていない ア-1 甲第3号証の図1は,長鎖二本鎖RNA分子が細胞中でどのように分解されるかを示す仮説のモデルであり,RNAiヌクレアーゼが細胞内に導入された長鎖二本鎖RNA分子を切断し,得られたRNAの小断片は,「RNAiを開始するdsRNAは,RNAiヌクレアーゼによって結合され,RNAiヌクレアーゼに安定して結合し続ける小分子のdsRNAへと分解される」(合議体注:記載事項(甲3-d)参照)と記載されているように,切断された瞬間から,「RNAiヌクレアーゼ」との複合体の形態で常に存在している。そして,この複合体の形態で,配列特異的な方法で相補的なmRNAの切断を誘導すると仮定している。よって,甲第3号証の図1には,RNA-酵素-複合体が記載されているにすぎず,単離された形態としてのRNA分子に該当しないことは明らかである。また,図1は仮説モデルであり,このことも単離された形態としてのRNA分子が記載されていないことを裏付ける。 ア-2 甲第3号証の図1のモデルによれば,長鎖二本鎖RNAの分解によって,異なる配列を有する複数の異なるRNA断片の混合物を産生しており,複数のdsRNAからなる混合物が遺伝子サイレンシングを誘発することが示唆されているだけである。一般的に「単離された」を使用する場合は,元々は天然の環境下において混合物として存在しており,単独のものとして存在することが認められていなかった物を対象とすることは明らかであって,本件発明1は,単一の分子種の使用を意図することは明らかで,タンパク質との複合体や複数のdsRNAからなる混合物は,発明の対象ではないことは明らかである。 イ 甲第3号証は「3’突出部」の使用を示唆していない 甲第3号証の3’突出部は,仮説に基づくRNaseIII様の酵素の作用によって生じるものにすぎない。 例え二本鎖RNA分子が3’突出部を有していたとしても,3’突出部は抽出物中の一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21及び22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られると記載されているから(合議体注:記載事項(甲3-e)参照),3’突出部がRNAiにとっては重要ではないことを甲第3号証が示唆していることに他ならない。 ウ 甲第3号証は仮説を提供するに過ぎない 甲第3号証は,何ら実験データによって裏付けられていない仮説に基づく記載しか示されておらず,様々なオプションが併記されており,更には,科学的に誤った記載も散在する(現在では,導入した長鎖dsRNAの切断は,酵素「Dicer」によって触媒され,一方で,mRNAの切断は,酵素「Argonaute」(「RISC」複合体の一部を構成するタンパク質)によって触媒されることが証明されており,前記記載は,正しくないことが判明している。)ことから,新規性を否定する根拠にはなりえない。 (2)-2 被請求人口頭審理陳述要領書における無効理由1に関わる主張の概要 エ 甲第3号証の記載内容について 甲第3号証は,「Zamore et al.,2000」なる論文(甲第2号証に対応するので,以下,「甲第2号証」とする。)を引用しており,甲第2号証に報告されたショウジョウバエ細胞溶解物における観察に基づいて,どのようにしてRNAiが細胞内の環境下で進行するかの推定モデルを仮説として提供している。甲第2号証は,クルードな混合物を記載しているに過ぎず,混合物中にどのような分子が存在しているかを解明できない。甲第3号証の図1に記載のモデルは,長鎖二重鎖RNA(dsRNA)のショウジョウバエ細胞への導入で始まる経路を提案しており(合議体注:記載事項(甲3-b)参照),細胞に導入されたdsRNAは,本件特許発明1に記載の単離されたRNA分子よりもはるかに大きいものである。甲第3号証が引用する甲第2号証に記載されたのも,細胞に導入する約500塩基長のdsRNAの切断により得られる「短い」RNA断片の集団(すなわち,「短い」RNA断片の混合物)を含むショウジョウバエ細胞溶解物であって,変性ゲル上のバンドとして存在している。 オ 甲第3号証に記載されたタンパク質が結合した短いdsRNAは本件発明1の範囲には含まれないこと 甲第3号証の図1においては,結合状態でmRNA分解に直接参加すると明確に記載されている。結合状態の各タンパク質及び異なる配列を有する様々なsiRNA分子は,RNA干渉の機能の発揮に重要であるからタンパク質及びsiRNA分子は単なる「混入物質」ではない(第1回口頭審理調書参照)。図1の「短いdsRNA」は,細胞に導入されるdsRNAの長さに沿った複数の切断によって生じるものであるものとして表されており,同じ又は似たようなモル量で存在しているから,図1は,本件特許発明1を記載しているものではない。 また,「21-23塩基対より短い断片は,酵素と安定的に結合したままではなく,それ故,他の細胞のヌクレアーゼによって分解されやすいであろうから,最近の実験では観察されなかったのであろう。」(合議体注:記載事項(甲3-e)参照)と記載されているように,酵素からいったん離れてしまうと,仮定の短いdsRNAは分解されることが予測されているから,甲第3号証が,タンパク質と結合していない遊離のdsRNAを,RNAiを誘導する手段として使用することを記載しているとは考えないことは明らかである。 カ 甲第3号証は単に仮説や可能性のある代替手法を提供するだけであること 甲第3号証に記球のモデルは,図1に記載されたモデルだけに限らず,様々なオプションも併記されているから,甲第3号証には,短いRNAについての明確な記載は存在しないというのが合理的な解釈である。長鎖dsRNAの添加後に生じた,ショウジョウバエ抽出物中での「短い」RNAの集団の存在は,RNAiと完全に関係していないかもしれないことも示唆している。図1に記載された仮説の反応中間体と,導入されるdsRNAとは明確に区別すべきである。21から25塩基長のdsRNAが図1の中間体と同一であろうことを示す旨の記載は存在せず,むしろ,21から25残基のdsRNA(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)は,図1の細胞に導入される3’突出部を含まない長鎖dsRNAの代わりに用いることが明確に意図されている。 キ 甲第3号証によれば,少なくとも約100塩基の長さがRNAiに必要であること 甲第3号証に示された仮定のモデルは,当時考えられていた事実とは矛盾するものであり,「図1のモデルは,21から25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言するが,従来,全てのRNA干渉系において約100塩基長よりも大きなdsRNAが必要である。(ただし,in vitroでは21?23塩基対のRNAも機能する可能性がある[Zamore et al.2000]。)モル量が一定ならば,より短いdsRNAは,より少ない量の21?25塩基長しか生じないかもしれず,このことが,より低い有効性を説明するかもしれない。」(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)とあるように,21?23塩基対については可能性があると記載されているのみであり,より多くの異なる短いRNAが長いdsRNAの分解によって産生することができた方がより好ましく,dsRNAがRNAiを誘導するには長さが必要であると明記されている。短いdsRNAを細胞へと導入できるという概念のもとになる甲第2号証は21?23塩基長のRNA種が,二本鎖であるか,或いは一本鎖であるかは明確には記載しておらず,更には,これらRNA種の末端の構造も記載していない。その上,甲第2号証に記載された仮説のモデル(図7)は,平滑末端の短いdsRNAが記載されており,甲第3号証の図1に記載された,細胞に導入されるdsRNAと,甲第2号証の21?23塩基長のRNAとの両方が,3’突出部を有さないから,甲第3号証が,3’突出部の存在に何ら機能的な関連性を認めていないことと一致する。 ク RNA分子を単独で使用することは記載されていないこと 甲第3号証においては,一つの短いdsRNAのみが関与しているRNAiのメカニズムは記載されていない。 ケ 短いdsRNAのRNAiのトリガーとしての推定上の役割は甲第3号証においてすら疑問視されていること 単独のdsRNAが実際には十分であると考えられていたのは,長いdsRNAに限られる(図1Aの上図参照)。短いdsRNAがRNA干渉の外来性のトリガーとして作用するかもしれないという甲第3号証の推測は,「図1のモデルは,21から25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言するが,今までのところは,全てのRNAi系において遺伝子発現の効率的な抑制のためには約100塩基対よりも大きなdsRNAが必要である。」(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)とあるように甲第3号証において疑問視されている。甲第3号証においては,一つの短いdsRNA種がRNAiを誘導することができることを実施可能に記載している箇所は存在せず,「There are still many mysteries about the mechanism of PTGS,but we know enough to consider the tantalizing possibility that dsRNA is an important signaling molecule in this process.」(日本語訳:PTGSのメカニズムについては未だ多くのなぞが存在するが,我々は,dsRNAがこの工程における重要なシグナル伝達分子であるという興味深い可能性を考慮するにはことについて十分な知識がある」(第238頁左カラム第58行から61行)と記載されており,RNAi工程において短いRNAが原因因子として関与していることは不確かであると述べている。 コ 甲第3号証の図1に記載されたRNA分子が「刊行物に記載された発明」に該当しないこと 甲第3号証の図1に記載されたRNAiヌクレアーゼは,仮想的な酵素であり,いかなる酵素であるかは具体的には記載されておらず,更には,仮定された機能も誤っている。甲第3号証の記載からでは,図1に記載された酵素は極めて不明確なものとしてしか理解できず,このような酵素によって生じるRNA分子は,当業者が甲第3号証に記載されている事項から導き出せる事項とは見なすことはできない。 (2)-3 被請求人上申書における無効理由1に関わる主張の概要 サ 本件特許明細書に添付の図4Aに基づく新規性について 図4Aに示されたように,細胞に導入したdsRNAの長さが増すほどセンス鎖及びアンチセンス鎖のパターンの複雑性は増す。センス鎖及びアンチセンス鎖からなる短いdsRNAについては,様々な末端構造をとり得る。図4Aを考慮すれば,甲第3号証の図1は実際の細胞内のメカニズムを記載したものでなく,該記載から当業者が本件発明1のdsRNAの構造を明確に把握できないことは明らかである。 ゲル精製から得られた混合物は非常に複雑なので,ゲルからの溶出後のセンス鎖及びアンチセンス鎖のアニーリング又は再ハイブリダイゼーションにより元の鎖のペアがもたらされないのは明らかで,異なる小分子RNA断片の完全にランダム化された混合物が得られる。細胞内又はショウジョウバエ抽出物内のようなin vivo状況下ではさらに複雑なものになる。 よって,長鎖dsRNAを細胞内に導入すると,非常に多様な一本鎖RNA断片の混合物が得られると理解し,甲第3号証の図1において3’突出部を有する23塩基対のdsRNAを独立した物質として認識できないことは明らかである。 口頭審理において,請求人は,細胞内では一本鎖RNA分子は相補的な一本鎖RNA分子と二本鎖を形成し,二本鎖RNA分子となっていると主張したが,図4Aにあるように,センス鎖及びアンチセンス鎖由来のRNA断片の数は異なり,極めて多数のRNA断片が存在していることから,二本鎖RNA分子が3’突出部を有する形態で二本鎖を形成していると理解するのは不可能である。 シ その他 シ-1 RNA干渉をもたらす構造(特には3’突出部の存在)を解明するには,乙第3号証に記載されたような,発明者によって考案された新規で独創的なクローニング方法が必要であった。 シ-2 甲第3号証の著者であるバス博士による乙第4号証の論文,本件特許発明に対応する乙第5号証の論文が,最高位の学術雑誌Natureに掲載され,乙第4号証には乙第5号証を引用して「(日本語訳:哺乳動物の細胞におけるRNAiの達成への道筋をつける研究)」と称していることから,バス博士自身が本件特許発明によって哺乳動物細胞におけるRNA干渉が初めて実施可能となったと認めていたことは明らかである。 シ-3 乙第5号証を引用する論文の数をより早い時期の論文(甲第2号証,甲第1号証,乙第6号証)と比較すると,乙第5号証の顕著な引用数は明らかである。発行日から一年で乙第5号証を引用する論文の数は,後にノーベル賞を受賞することとなる乙第6号証,ならびに甲第1号証及び甲第2号証を引用する論文の数を越えている。よって,本件特許発明の発明者の成果がRNA干渉の分野における最も重要な貢献として科学界で認識されていたことは明らかである。 (3)被請求人の無効理由1に関わる主張についての判断 ア-1について 甲第3号証には,二本鎖RNA分子がRNAiヌクレアーゼと安定な複合体の形態をとることが記載されているものの,二本鎖RNA分子はそれ自体RNAiヌクレアーゼとは異なる化学物質であり,両化学物質は単に可逆的に結合しているだけのものであるから,二本鎖RNA分子は独立した化学物質として明確に認識できるものと認められる。そして,仮説モデルではあるが,二本鎖RNA分子の長さ及び3’突出部が特定され構造が明確に記載されているから,二本鎖RNA分子の構造が想起できず物として認識できないというものではない。そして,当業者であれば甲第3号証に記載されたRNA分子を周知技術を適用することで困難なく製造することができる。 さらに,記載事項(甲3-b)には「このタンパク質-RNA複合体は,フリーのRNA及びタンパク質との間で平衡状態にあると考えられるが,本モデルによれば,複合体が最も安定であって大勢を占めている。」との記載があり,フリーRNAは分解された後の二本鎖RNA分子であると認められることからも,複合体の方が安定ではあるものの,タンパク質-RNA複合体だけでなく,短鎖二本鎖RNA分子が複合体を形成しない状態でも存在し得ることが理解できる。 ア-2について 甲第3号証において,複数の異なるRNA断片の混合物しか記載されていないという主張について,甲第3号証には複数の異なるRNA断片の混合物がRNA干渉を誘導することが記載されているのであって,甲第3号証の図1には,複合体や混合物を構成する個々の分子の構造が明記されているから,複合体や混合物の構成要素である二本鎖RNA分子について単一の独立した分子種として理解できることは上記(1)の欄において述べたとおりである。 「複数のdsRNAからなる混合物が遺伝子サイレンシングを誘発することが示唆されているだけである」,「本件発明1は単一の分子種の使用を意図することは明らかである」との主張は,本件発明1がRNA分子という化学物質自体の発明であって,その新規性を判断する上で,該分子の作用及び使用が引用例に記載されている必要はないので,採用できない(平成11年3月2日 東京高裁平成9年(行ケ)330号判決,平成14年4月25日 知財高裁平成11年(行ケ)285号判決参照)。 イについて 仮説であっても,上記(1)の欄で述べたように,記載事項(甲3-b)には,RNaseIII様の酵素の作用によって生じる3’突出部を有する二本鎖RNA分子が物として明確に記載されている。また,物として記載されている以上,3’突出部を重要視しているかどうかは新規性の判断において参酌できない。 ウについて 仮説であっても,甲第3号証の図1には単離された二本鎖RNA分子が物としてその構造が理解できる程度に明確に記載されている。また,他のオプションしか選択できないことは記載されておらず,図1に記載された仮説を採用することが誤りであるというわけではないので,二本鎖RNA分子が一つの技術思想として記載されているという事実にかわりはない。 そして,図1に記載された仮説が誤りであるということは,本件の優先日における技術常識ではなく,また,誤りであったことが事後に解明されたのは,反応に関与する酵素についてであり,二本鎖RNA分子についてではないし,甲第3号証に記載された事項は,本件優先日前に公開され当業者がその当時認識できた技術であるから,新規性を否定する根拠となり得るものである。 エについて 甲第3号証が引用する甲第2号証は別の文献であって,そのような別の文献において,単離された二本鎖RNA分子が記載されていないからといって,甲第3号証に記載がないことにはならない。 本件発明1は,用途発明ではなく,化学物質発明なのであるから,短鎖二本鎖RNA分子をRNA干渉の出発物質として使用することが記載されているか否かと甲第3号証に本件発明1の二本鎖RNA分子が記載されているか否かは別の問題である。 オについて 甲第3号証において二本鎖RNA分子は常にタンパク質と結合状態であり,それぞれが機能の発揮に重要である点,短い二本鎖RNA分子は,細胞に導入される二本鎖RNA分子の複数の切断によって生じる混合物である点については,上記「ア-1について」及び「ア-2について」の欄で述べたのと同様の理由により,単離された二本鎖RNA分子が記載されていないことの根拠にはならない。 酵素から離れた仮定の短いdsRNAは分解されることが予測されているから,タンパク質と結合していない遊離のdsRNAを,RNA干渉を誘導する手段として使用することを記載しているとは考えないことは明らかであるとの主張について,短鎖二本鎖RNA分子をRNA干渉の誘導に用いようとするかどうかと短鎖二本鎖RNA分子という化学物質自体の発明が記載されているかどうかとは関連がない。 さらに,記載事項(甲3-e)の摘記された記載は,酵素と結合しない21-23塩基対より短い断片が分解されると予測しているのであって,本件発明1の21-23塩基対の二本鎖RNA分子が分解されると予測しているのではない。 カについて 甲第3号証には様々なオプションも併記されている点については,上記「ウについて」の欄で述べたとおりである。 ショウジョウバエ抽出物中での「短い」RNAの集団の存在は,RNA干渉と完全に関係していないかもしれないことを示唆するとの主張について,RNA干渉に関与するかどうかと物の発明である短鎖二本鎖RNA分子が記載されているかどうかとは関連がない。 なお,念のため検討すると,長鎖二本鎖RNA分子の添加後に生じた,ショウジョウバエ抽出物中での「短い」RNAの集団の存在は,RNA干渉と完全に関係していないかもしれないことも示唆していることの根拠は,甲第3号証の「In this light,it could be argued that the reactions occurring in the extract are unrelated to RNAi and merely reflect that Drosophila embryos contain RNase III and helicases.」(日本語訳:この観点から,抽出物中で生じた反応は,RNAiに関係なく,単に,ショウジョウバエの胚がRNaseIII及びヘリカーゼを含むことを反映しているにすぎないと主張できるかもしれない。)(甲第3号証第238頁左カラム第14から17行)との記載であるが,その後に「However,since similar 21?25 nucleotide RNA pieces have now been observed in multiple systems and shown to strongly correlate with PTGS in plants,these worries seem unjustified.」(日本語訳:しかしながら,・・・これらの心配は不当と思われる。)(甲第3号証第238頁左カラム第17から21行)と記載されており,「短い」RNAの集団の存在は,RNA干渉と完全に関係していないかもしれないとだけ記載されているわけではない。 反応中間体と導入される二本鎖RNA分子とを区別すべきであるとの主張について,使用する目的と二本鎖RNA分子が記載されているかどうかとは関連がない。 キについて RNA干渉を誘導するには二本鎖RNA分子の長さが必要であると記載されている点について,長い二本鎖RNA分子は単に多くの量の短い二本鎖RNA分子を生じるから,長い二本鎖RNA分子に対して短い二本鎖RNA分子の有効性が低いといっているだけであって,短い二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導できないという記載ではない。しかも,短鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導するか否かは二本鎖RNA分子という化学物質自体の発明が記載されているかどうかと関連がない。 クについて 単独の短鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉に関与するかどうかは,二本鎖RNA分子という化学物質自体の発明が記載されているかどうかと関連がない。 ケについて 単独の二本鎖RNA分子で十分であると考えられていたのは長い二本鎖RNA分子に限られるとの主張,及び,甲第3号証においては,単独の短い二本鎖RNA分子種がRNA干渉を誘導することができることを実施可能に記載している箇所は存在しないとの主張について,実際に単独の短鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導するかどうかと該分子が記載されているかどうかとは別の問題である。 なお,念のため検討すると,短い二本鎖RNA分子がRNA干渉の外来性のトリガーとして作用するかもしれないという甲第3号証の推測は,甲第3号証において疑問視されているとの主張について,記載事項(甲3-f)の中には「しかし,21から23塩基長のRNAも機能する可能性がある」との記載もあり,疑問視しているというよりは,様々な機構が予想されることが記載されているにすぎない。 RNA干渉工程において短いRNAが原因因子として関与していることは不確かであるとの主張の根拠は「多くのなぞが存在する」との記載を根拠としているが(第1回口頭審理調書参照),「なぞが存在する」との記載は短鎖二本鎖RNA分子の寄与を否定するわけではない。 コについて 上記「ウについて」の欄で述べたとおりである。 サについて 本件特許明細書の図4Aの結果から理解できることと,甲第3号証の図1において,3’突出部を有する23塩基対のdsRNAを独立した物質として認識できるか否かとは関連がなく,甲第3号証の図1をみれば,当業者が本件発明1の二本鎖RNA分子の構造を明確に把握することができる。 シ-1について 乙第3号証に記載されたクローニング方法がなくても,上記「ア-1について」及び「ア-2について」の欄で述べたように,甲第3号証の図1をみれば,本件発明1の二本鎖RNA分子が単独の物質として認定できる。 シ-2及びシ-3について 本件発明1が甲第3号証に記載されているか否かと,本件発明1の対応論文に対する科学界における評価とは関連がなく,参酌できない。 以上のとおりであるから,被請求人の主張アからシはいずれも採用することができない。 なお,被請求人は,その他,本件発明1の顕著な効果,動機付けの欠如などについて縷々主張するが,これらは,本件発明1の進歩性についての主張であり,本件発明1の新規性の判断についての主張とはいえない。 (4)小括 したがって,本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当する。 1-4 本件発明2について (1)本件発明2と甲第3号証に記載された発明との対比・新規性の判断 甲第3号証において,図1にはRNaseIII様酵素に切断された短鎖二本鎖RNA分子として各RNA鎖が23塩基長のものが記載されている。 一方,甲第3号証には,「最近のいくつかの論文が,長さが21?25ヌクレオチド(21?25塩基長)で,細胞に導入されたdsRNA又はトランスジーンのセンス及びアンチセンス断片に対応する小型のRNA分子が同定されたことを報告している。」(記載事項(甲3-a)参照),「dsRNAが細胞に導入されると,dsRNAエンドヌクレアーゼの標的となり,約23ヌクレオチド長の短いdsRNA断片を生じる」(記載事項(甲3-b)参照),「RNAiヌクレアーゼの実体は未だ同定されていないが,この21?25ヌクレオチド長の短RNA断片は,その特性から,RNaseIIIまたはそれと極めて関連した酵素によって作り出されたものであることが示唆される」(記載事項(甲3-e)参照),「最初の切断で,センス鎖及びアンチセンス鎖を有する23塩基長のdsRNAが生成するだろうが,3’末端のオーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21および22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られるであろう」(記載事項(甲3-e)参照),「図1のモデルは,21から25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言する」(記載事項(甲3-f)参照)との記載がある。これらの記載から,甲第3号証には,RNaseIII様酵素で最初に切断された,23塩基長の各鎖が3’方向に2塩基ずつ突出した全体が25塩基長の二本鎖RNA分子だけでなく,その3’突出部が一本鎖特異的ヌクレアーゼにより1または2塩基欠失した,各鎖が23,22あるいは21塩基長のRNA分子からなる全体が21から24塩基長の二本鎖RNA分子なども記載されているものと認められるので,短鎖二本鎖RNA分子として21から25塩基長の二本鎖RNA分子のそれぞれの長さのものも当業者が認識できるように記載されていると認められる。 よって,各鎖が20から22塩基長の二本鎖RNA分子も甲第3号証に実質的に記載されていると認められるので,本件発明2は甲第3号証に記載されたものである。 (2)被請求人の無効理由1に関わる主張 被請求人は,無効理由1について,答弁書及び被請求人口頭審理陳述要領書において,請求項2は請求項1に従属しており,請求項1に係る特許発明が,甲第3号証に対して新規性を有している以上,当然ながら,請求項2に係る特許発明も新規性を有していることは明らかである旨の主張をしているにとどまる。 (3)被請求人の無効理由1に関わる主張についての判断 前記1-3の欄で述べたとおり,本件発明1は甲第3号証に記載された発明であって,上記(1)の欄で述べたように,各鎖が20から22塩基長の二本鎖RNA分子も甲第3号証に実質的に記載されていると認められるので,請求人の主張は採用することができない。 (4)小括 したがって,本件発明2は甲第3号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当する。 1-5 本件発明21について (1)本件発明21と甲第3号証に記載された発明との対比・新規性の判断 前記1-3の欄で述べたように,本件発明1の単離された二本鎖RNA分子は甲第3号証に記載されているので,本件発明21と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,両者は「二本鎖RNA分子は,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,かつ,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる」点で一致し,以下の点で両者は相違する。 ア 二本鎖RNA分子が存在するのが,本件発明21においては,動物細胞であって該細胞が標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示すのに対し,甲第3号証においては,細胞内のメカニズムのモデルが記載されているだけで上記表現型を示す細胞は記載されていない点。 イ 細胞にトランスフェクトするのが,本件発明21においては,内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子,または少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子をコードするDNAであるのに対し,甲第3号証においては,長鎖二本鎖RNA分子をトランスフェクトすることが記載されているのみであって,上記特定の構造を有する短鎖二本鎖RNA分子をトランスフェクトすることは記載されていない点。 上記相違点について検討する。 相違点アについて 「標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す」との記載は,特定された二本鎖RNA分子または該二本鎖RNA分子をコードするDNAをトランスフェクトした細胞が有する性質を特定したに過ぎず,実質的な相違点ではない。 また,RNA干渉が動物細胞で誘導されることも周知技術であるから(記載事項(甲3-a)参照),記載されたモデルが動物細胞である場合も甲第3号証に実質的に記載されていると認める。 さらに,甲第3号証に記載されたモデルはノックアウト(RNA干渉)のメカニズムのモデルであり,RNA干渉が動物細胞で誘導されることも上記のように周知技術であるから,標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞は甲第3号証に実質的に記載されているともいえる。 相違点イについて 甲第3号証の図1には,単に,導入した長鎖二本鎖RNA分子が分解されて生成した,各鎖の長さが23塩基長で3’突出部として2塩基を有する各種の配列の短鎖二本鎖RNA分子,あるいは,それに一本鎖特異的ヌクレアーゼが作用して生成した突出部が1から2塩基欠失した平滑末端のものも含む各種の短鎖二本鎖RNA分子の混合物がRNA干渉を起こすというモデルが記載されているのみであり,そのうちの特定の配列の3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子またはそれをコードするDNAをトランスフェクトすることは記載されていない。 よって,上記相違点イが存在するので,本件発明21は甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 (2)請求人の無効理由1に関わる主張について 請求人は,無効理由1について,概略以下のように主張している。 (2)-1 審判請求書における無効理由1に関わる主張の概要 ア 請求項21について,二本鎖RNA分子または二本鎖RNA分子をコードするDNAを動物細胞に導入し,内因性標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞を得ることは周知技術である(要すれば,甲第1号証Introductionまたは甲第3号証参照)。そして,甲第3号証には,細胞に21から23塩基長の二本鎖RNAを導入することにより,遺伝子サイレンシングが生じるであろうこと,そして,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できること,すなわち,導入する二本鎖RNAは3’末端に2ベースのオーバーハングを有することが好ましいことが記載されている。したがって,請求項21に係る特許発明は,甲第3号証に記載されている発明である。 (2)-2 請求人口頭審理陳述要領書における無効理由1に関わる主張の概要 イ 甲第3号証の図1には,「3’突出部」を有するオリゴヌクレオチドが,そのまま機能する様子が描かれていて,「図1のモデルは,21から25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言する」(甲3-f)と記載されており,ここで記載の21から25塩基長の二本鎖RNA分子は,形態としては図1のモデルと同様のdsRNAである。しかも,当業者にとって,遺伝子サイレンシングを誘発するために細胞に導入するのは,dsRNAをコードするDNAであってもよいことは明らかである。二本鎖RNA分子をコードするDNAを導入した動物細胞を得ることは,周知技術であるからである(要すれば,甲第6号証など)。したがって,甲3号証に記載の細胞は,請求項21に記載の細胞であるといえる。 (3)請求人の無効理由1に関わる主張についての判断 アについて 請求人が周知技術の根拠としている甲第1号証Introductionまたは甲第3号証に記載された事項を検討すると,二本鎖RNA分子が動物細胞に導入された場合に,内因性標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す現象が知られていたことは記載されているものの,その際に用いる二本鎖RNA分子の長さについては明記されていない。一方,甲第1号証において,ショウジョウバエ胚抽出物の系でRNA干渉がみられたのは,501塩基長,505塩基長,997塩基長の二本鎖RNA分子であり49塩基長,149塩基長の二本鎖RNA分子はRNA干渉の効果が芳しくなかったことが記載されていること(甲第1号証第3194頁右カラム第52から60行),甲第3号証において,導入するのは短鎖に切断される前の長鎖二本鎖RNA分子であることをふまえると,細胞に3’末端に2ベースのオーバーハングを有する19から23塩基長の短鎖二本鎖RNA分子を導入して内因性標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞を得ることは記載されておらず,そのことが周知技術であったとはいえない。甲第3号証には,中間体としての各種の配列からなる短鎖二本鎖RNA分子及びその3’突出部が一本鎖特異的ヌクレアーゼにより1または2塩基欠失した各種の混合物は記載されているものの,特定の配列及び長さの3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子自体を細胞に導入することは記載されていない。 そして,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する19から23塩基長の短鎖二本鎖RNA分子がmRNAの分解に寄与できるかについて,記載事項(甲3-e)には,3’末端のオーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21および22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られることが記載されており,これらの各種二本鎖RNA分子が作用してRNA干渉を誘導することは理解できるものの,2ベースのオーバーハングが有利なことが記載されているとはいえない。 イについて 甲第3号証の図1には,「3’突出部」を有するオリゴヌクレオチドが,そのまま機能する様子が描かれてはいるものの,上記「アについて」の欄において述べたように,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子自体を細胞に導入することは記載されていない。そして,そもそも短鎖二本鎖RNA分子自体を細胞に導入することが記載されていない以上,甲第6号証にあるように,長鎖二本鎖RNA分子をコードするDNAを導入した動物細胞を得ることが周知技術であったとしても,本件発明21の動物細胞が甲第3号証に記載されているに等しいとはいえない。 以上のとおりであるから,請求人の主張はいずれも採用することができない。 (4)小括 したがって,本件発明21は甲第3号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当しない。 1-6 本件発明22について (1)本件発明22と甲第3号証に記載された発明との対比・判断 本件発明22と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,1-5(1)の相違点に加え,動物細胞が,本件発明22では哺乳動物細胞であるのに対し,甲第3号証には哺乳動物細胞であることは明記されていない点で相違する。 しかし,本件発明21が甲第3号証に記載されていないのであるから,本件発明21をさらに限定した本件発明22も同様に記載されていないことは明らかである。 (2)請求人の無効理由1に関わる主張について 請求人は,無効理由1について,概略以下のように主張している。 (2)-1 審判請求書における無効理由1に関わる主張の概要 ア 請求項21に係る特許発明において,動物細胞を哺乳動物細胞とすることに,何ら困難性は見出せない。実際,甲第3号証Introductionにも,マウス細胞を用いた文献が記載されている。 (3)請求人の無効理由1に関わる主張についての判断 アについて 「動物細胞を哺乳動物細胞とすることに,何ら困難性は見出せない。」という主張は進歩性についての主張であり,採用することができない。 よって,請求人の主張は採用することができない。 (4)小括 したがって,本件発明22は甲第3号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当しない。 1-7 本件発明26について (1)本件発明26と甲第3号証に記載された発明との対比・判断 本件発明26は,「分析手法のための,請求項21,22のいずれか1項に記載の細胞の使用」という発明を包含しており,前記1-5の欄及び1-6の欄で述べたように,請求項21及び22に記載の細胞が甲第3号証に記載されているとは認められないので,該細胞の使用に係る発明である本件発明26についても甲第3号証に記載されているとは認められない。 なお,請求人は,審判請求書において,請求項26が引用する請求項21及び22に係る発明が新規性を有さないと主張するにとどまり,請求項23乃至25を引用する部分については新規性を有さないとの主張を行っていないので,この部分については判断する必要がない。 (2)請求人の無効理由1に関わる主張について 請求人は,無効理由1について,概略以下のように主張している。 (2)-1 審判請求書における無効理由1に関わる主張の概要 ア 請求項26について,二本鎖RNA分子によって標的核酸の発現を阻害した細胞を何らかの分析に用いることができることは技術常識である(例えば,甲第3号証Introductionにおいても,メカニズムの分析に用いられている)。そして,請求項21から22に係る特許発明は甲第3号証から新規性を有さない。 (3)請求人の無効理由1に関わる主張についての判断 アについて 二本鎖RNA分子によって標的核酸の発現を阻害した細胞を何らかの分析に用いることができることが技術常識であったとしても,そもそも,請求項21及び22の細胞が甲第3号証に記載されていないので,該細胞を分析に用いることが甲第3号証に記載されているとはいえない。 よって,請求人の主張は採用することができない。 (4)小括 したがって,本件発明26は甲第3号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当しない。 1-8 小括(無効理由1について) 以上のとおりであるから,本件発明1及び2は,甲第3号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するので,第123条第1項第2号に該当し,その特許は無効にすべきものである。 また,本件発明21,22及び26は,甲第3号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当しないので,その特許は第123条第1項第2号に該当し無効にすべきものである,とすることはできない。 2 請求人が主張する無効理由2(特許法第29条第2項)について 2-1 本件無効審判において,請求人は,本件特許の請求項1ないし39は,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証,または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきであると主張する。 なお,請求項1及び2に係る発明について,前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたように,甲第3号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し,無効とすべきものであるので,特許法第29条第2項の規定について判断する必要はないが,請求人は,審判請求書において,請求項1に係る発明と甲第2号証又は甲第4号証と対比し,請求項1に係る発明は,甲第1ないし第3号証又は甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとも主張しているので,念のためこの点について検討し,引き続き請求項3ないし39の進歩性について以下に検討する。 2-2 甲第1ないし第4号証の記載 甲第1ないし第4号証には,前記第6の欄に記載されたとおりの発明が記載されている。 2-3 本件発明1について 2-3-ア (1)本件発明1と甲第2号証に記載された発明との対比 甲第2号証には,細胞に導入された二本鎖RNAが,21から23ヌクレオチド断片に分解され,その断片がRNAi特異的タンパク質によって結合され,ターゲットmRNAに対合し,mRNAを分解するヌクレアーゼを近寄せること,in vitroのRNAiシステムにおいて,これらのアイデアを試すことが将来の重要な試みであることが記載されている(記載事項(甲2-b)参照)。また,甲第2号証には「予備的実験であるが,抽出物中で約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21?23塩基長のRNA種は,アクリルアミドゲルで単離され,新たなRNAi反応系に全長の二本鎖RNAの代わりに添加された時,in vitroで塩基配列特異的干渉を起こした。」(記載事項(甲2-a)参照)と記載されている。 ここで,本件発明1と甲第2号証に記載された発明とを比較すると,両者は,二本鎖RNA分子であって,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,該RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである点で一致し,以下の点で相違する。 ア mRNA標的分子が,本件発明1においては,細胞または生物中に存在するものであるのに対し,甲第2号証においては,抽出物中に存在するものである点。 イ 二本鎖RNA分子が,本件発明1においては,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる単離された二本鎖RNA分子であるのに対し,甲第2号証には上記構造を有する単離された二本鎖RNA分子は記載されておらず,長鎖二本鎖RNA分子から生じた21?23塩基長のRNA種の混合物が記載されているにすぎない点。 (2)本件発明1と甲第2号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 甲第2号証に記載の抽出物の反応系は,生体内でのRNA干渉の特徴の多くを再現することが明らかにされており,元来,生体内でのRNA干渉のモデル系となりうる系であるので,甲第2号証に記載の無細胞系の抽出物の反応系の結果から,生体内でのRNA干渉の結果を推測することは当業者が通常想到することであるから,細胞または生物中に存在するmRNA標的分子に対し,RNA干渉を誘導することは容易に想到できる。 相違点イについて 甲第2号証には,長鎖二本鎖RNA分子から生じた21?23塩基長のRNA種の混合物がRNA干渉を誘導することが記載され,単一種の単離された二本鎖RNA分子は明記されていないものの,該混合物の中には各RNA鎖が19?23塩基長を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子も存在していることは当業者であれば理解できるところであるから,甲第2号証に上記混合物の成分としての単一種の短鎖二本鎖RNA分子が記載されているということもできる。 しかし,この場合でも,単一種の短鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導できることは記載も示唆もなく,さらに,甲第2号証及び甲第1号証には,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有する二本鎖RNA分子は記載されておらず,甲第3号証にも二本鎖RNA分子のRNA干渉の誘導における,1から3塩基からなる3’突出部の重要性は記載も示唆もないので,甲第2号証に記載された二本鎖RNA分子において,3’突出部を設けることは当業者が容易に想到し得ない。 そして,本件特許明細書の段落【0106】及び図5に記載されたように,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が,平滑末端を有する二本鎖RNA分子より標的mRNA分子を分解する能力が顕著に高く,3’突出部が,RNA干渉の誘導に重要であることを実験によって明らかにしており,該結果は当業者が予測できない顕著な効果といえる。 よって,本件発明1は,甲第1ないし第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 請求項1について,甲第2号証の記載では,21?23ヌクレオチド断片がRNAi特異的タンパク質によって結合され,ターゲットmRNAに対合し,mRNAを分解するヌクレアーゼを近寄せると記載されており,甲第3号証には,3’末端のオーバーハングによって,1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなることも記載されているので,当業者であれば,導入する21?23塩基長の二本鎖RNAに3’末端のオーバーハングを付加することは容易に想到できる。 一方,甲第3号証には,オーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できることも記載されており,発明の詳細な記載を参酌しても,請求項1に係る特許発明は,当業者がこの記載から予測する以上の効果を有さない。従って,請求項1に係る特許発明は,甲第1号証ないし第3号証の記載から容易に想到でき,それらの記載から予測できる以上の効果を有さないので,請求項1に係る特許発明は進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 甲第2号証の記載から導けるのは,長鎖二本鎖RNA分子から生じた21?23塩基長のRNA種の混合物がRNA干渉を誘導することだけであり,3’突出部を有する単一種の二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導できることは記載も示唆もされていない。 また,請求人が,甲第3号証の図1に記載された3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAが,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できることを主張する根拠は,図1が自然のメカニズムを模したものであるということである(第1回口頭審理調書参照)が,図1の記載及びその説明によると,そのモデルは長鎖二本鎖RNA分子がRNaseIII様酵素により切断された様々な配列からなる数多くの種類の短鎖二本鎖RNA分子が生成し,さらにその3’突出部が一本鎖特異的ヌクレアーゼにより1塩基又は2塩基切り取られたものも生成し,その全てを含む短鎖二本鎖RNA分子が細胞内に存在するというものであることが理解できる。そして,短鎖二本鎖RNA分子の混合物が作用してRNA干渉を誘導することは理解できるものの,3’突出部を有する特定の配列からなる短鎖二本鎖RNA分子のみによる作用は自然のメカニズムとは異なるのであるから,2ベースのオーバーハングが有利なことが記載されているとはいえないので,短鎖二本鎖RNA分子に3’突出部を付加することは当業者が容易に想到することではない。 そして,甲第2号証の21から23ヌクレオチド断片がターゲットmRNAに対合し,mRNAを分解するヌクレアーゼを近寄せるとの記載,及び甲第3号証の3’末端のオーバーハングによって1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなるとの記載から,21から23塩基長の二本鎖RNAに3’末端のオーバーハングを付加することを容易に想到できるとの主張はその根拠が不明である。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-3-イ (1)本件発明1と甲第4号証に記載された発明との対比 甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNAが,動物細胞内でRNA干渉を誘導できることが記載されている(記載事項(甲4-b)参照)。 ここで,本件発明1と甲第4号証に記載された発明とを比較すると,両者は,単離された二本鎖RNA分子であって,該RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものであり,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなり,かつ,該mRNA標的分子が細胞または生物中に存在するものであるRNA分子である点で一致し,以下の点で相違する。 ア 各RNA鎖が,本件発明1においては,19?23塩基長を有するのに対し,甲第4号証では,26塩基長を有する点。 イ 二本鎖RNA分子について,本件発明1においては,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであるのに対し,甲第4号証には該記載はない点。 (2)本件発明1と甲第4号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 甲第4号証において,26,27,32,37,81という塩基長の二本鎖RNAを試しており,26塩基長は甲第4号証において用いた二本鎖RNA分子のうち,一番短いものである。そして,甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNA分子のRNA干渉効果は81塩基長のRNA干渉効果と比較して250倍程度低かったことが記載されている上(記載事項(甲4-b)参照),本件優先日前,長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することが周知技術であったことをふまえると,甲第4号証に接した当業者ならば,短い二本鎖RNA分子はRNA干渉にとって好ましくないと考えるものであり,26塩基長より短くしようと動機付けられるとはいえない。 相違点イについて 甲第4号証の図1の実験において実際に用いられている二本鎖RNA分子は,81塩基長の二本鎖RNA分子以外は平滑末端を有し,唯一突出部を有する81塩基長の二本鎖RNA分子も,アンチセンス鎖のみが4塩基の5’突出部を有するだけであるから,甲第4号証には,1から3塩基からなる3’突出部に関する記載及び示唆は存在しない。 そして,甲第3号証にも二本鎖RNA分子のRNA干渉の誘導における,1から3塩基からなる3’突出部の重要性は記載も示唆もないので,甲第4号証に記載された二本鎖RNA分子において,あえて3’突出部を設けることは当業者が容易に想到し得ない。 そして,本件特許明細書の段落【0106】及び図5に記載されたように,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が,平滑末端を有する二本鎖RNA分子より標的mRNA分子を分解する能力が顕著に高く,3’突出部が,RNA干渉の誘導に重要であることを実験によって明らかにしており,該結果は当業者が予測できない顕著な効果といえる。 よって,本件発明1は,甲第3ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 請求項1について,甲第4号証では,26,27,32,37,81という様々な塩基長の二本鎖RNAを試しており,しかも,26塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果があったことから,当業者にとって,適切な塩基長を決定するのは設計事項であって,19?23塩基長を選択することには容易であると考えられる。26塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果があるのに,23塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果が無いだろうと考える理由も無い。そして,明細書を参酌しても,19?23塩基長についての閾値的効果は見られない。また,甲第3号証には,RNaseIIIは二本鎖RNAを3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長に分解すること,3’末端のオーバーハングによって,1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなること,RNaseIII及びRNA干渉を行う酵素が類似していることが記載されており,RNA干渉において,3’末端のオーバーハング,特に2ベースのオーバーハングを有する二本鎖RNAを用いることは,当業者にとって容易に想到できる事柄である。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNA分子のRNA干渉効果は81塩基長のRNA干渉効果と比較して250倍程度低かったこと,及び,干渉のために高濃度が必要であったということから,この配列は別のメカニズムで遺伝子発現に干渉している可能性が記載されている(記載事項(甲4-b)参照)。そして,前記1-5(3)の「アについて」の欄で述べたように,本件優先日前に長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは広く知られていたものの,短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を誘導することは周知技術とはいえなかったことを考慮すると,RNA干渉効果がきわめて低い26塩基長の二本鎖RNA分子をもとに,さらに短い二本鎖RNA分子を設計することは当業者が容易に想到し得ないことである。 また,記載事項(甲4-b)にあるように,27塩基長の二本鎖RNA分子はRNA干渉を誘導しなかったことが示されているので,二本鎖RNA分子の塩基長はRNA干渉の誘導活性に重要であることが示唆されるから,塩基長を決定することが単なる設計事項であるとはいえない。そして,本件特許明細書の図12及び図13をみると,特に図13には,24,25塩基長ではRNA干渉がほとんど見られないのに対し,20から23塩基長においてRNA干渉が見られたことが示されているから,特定の塩基長に閾値的効果が見られないとはいえない。 そして,上記2-3-ア(4)の欄において述べたように,甲第3号証には,3’突出部のRNA干渉における重要性は示唆されていないので,甲第4号証に記載の二本鎖RNA分子に2ベースのオーバーハングを設ける動機付けはない。 1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなることから,21から23塩基長の二本鎖RNAに3’末端のオーバーハングを付加することを容易に想到できるとの主張はその根拠が不明である。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-3-ウ 小括 したがって,本件発明1は,甲第1ないし第3号証又は甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-4 本件発明3について (1)本件発明3と甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明3が引用する請求項1及び2に係る発明については,前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたように,甲第3号証に記載されているので,本件発明3と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,両者は,二本鎖RNA分子の3’突出部が,本件発明3においては,分解に対して安定化されているのに対し,甲第3号証には該記載はない点でのみ相違する。 (2)本件発明3と甲第3号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 上記相違点である,3’突出部が分解に対して安定化されることが,甲第1ないし第4号証から導き出せるかについて検討する。 3’突出部を分解に対して安定化する動機付けとしては,短鎖二本鎖RNA分子をRNA干渉の誘導に用いようとすること,及び3’突出部がRNA干渉において重要であると認識することの両方が必要である。 前者について,甲第3号証の記載から,従来,RNA干渉を誘導するためには,導入する二本鎖RNA分子が約100塩基長以上の長さが必要であることが技術常識であったことが伺える(記載事項(甲3-f)参照)。 甲第1号証においても,RNA干渉に用いられたのは約500塩基長の二本鎖RNA分子であって,細胞に19から23塩基長の短鎖二本鎖RNA分子を導入したことは記載されていない。甲第2号証の記載事項(甲2-a)には,抽出物中で約500塩基の二本鎖RNA分子をインキュベートすることで生じた21から23塩基長のRNAをアクリルアミドゲルで単離し,新たなRNA干渉反応系に添加した時,in vitroで塩基配列特異的RNA干渉をおこしたことが記載されているが,具体的な実験条件やデータは示されておらず,用いられたのは,長鎖二本鎖RNA分子から切断された各種の配列からなる短鎖二本鎖RNA分子の混合物であるから,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することは記載も示唆もない。 また,甲第3号証の記載事項(甲3-f)には「図1のモデルは,21から25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言する」と記載されているが,甲第3号証には,前記1-4(1)の欄に記載したような21から25塩基長のdsRNAの複数種の混合物が記載されているものと考えられ,21から25塩基長の各種配列のうちの特定の配列からなる単一種,すなわち単離された二本鎖RNA分子を細胞に導入しRNA干渉が誘導できることの具体的根拠はない。 さらに,甲第4号証には,外部から細胞に導入された26塩基長の二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘発したことが記載されているものの,81塩基長のRNA干渉効果と比較して250倍程度低かったことが記載され,干渉のために高濃度が必要であったということから,この配列は別のメカニズムで遺伝子発現に干渉している可能性も記載されている(記載事項(甲4-b)参照)。 よって,甲第1ないし第4号証のこれらの記載を考慮しても,従来,導入する二本鎖RNA分子の長さが100塩基長以上必要であったものを,短鎖として単独で導入する動機付けはないから,19から23塩基長の単一種の二本鎖RNA分子を細胞に導入することの動機付けが記載されているとはいえない。 後者について,前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたように,甲第3号証には,3’突出部を有する二本鎖RNA分子については記載されていると認められる。 記載事項(甲3-b),(甲3-e)には,二本鎖RNA分子が細胞に導入されると二本鎖RNA分子エンドヌクレアーゼの標的となり,約23ヌクレオチド長の短い二本鎖RNA分子断片を生じること,RNaseIIIが二本鎖RNA分子と安定的に結合できるためには,その二本鎖RNA分子は,ヘリックス2巻き分以上の長さを有していなくてはならないが,このことは,RNA干渉とトランスジーン誘導型サイレンシングが約22塩基対の安定的な断片を作り出すという観察結果と整合すること,RNaseIIIの分解産物とRNAiヌクレアーゼの分解産物との類似性を考慮して,図1のモデルにはRNaseIII酵素の特性を組み込んだことが記載され,導入された二本鎖RNA分子をRNaseIII様酵素が切断すると仮定したことにより,図1には,切断により得られた短鎖二本鎖RNA分子として3’突出部を有するものが記載されている。 しかし,甲第3号証においては,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入すると生じる短鎖二本鎖RNA分子とRNaseIIIの分解産物の類似性から,RNaseIIIが二本鎖RNA分子の切断に寄与すると仮定したから3’突出部を有するものが記載されているだけであり,しかも,この3’突出部は,一本鎖特異的ヌクレアーゼの存在により切り取られることが記載され,3’突出部がどのような技術的意味をもつのか,例えばRNA干渉に重要であるなどの記載はない。そして,実際に3’突出部を有する二本鎖RNA分子を導入したことや,それまでRNA干渉に関与すると考えられていた平滑末端の二本鎖RNA分子と比較してRNA干渉がより効率よく誘導できることは推定もされていないし,確かめられてもいない。よって,甲第3号証において,3’突出部がRNA干渉に重要であることは認識されていないから,その部分を分解に対し安定化しようという動機付けがない。 逆に,自然のメカニズムによれば,3’突出部は一本鎖特異的ヌクレアーゼにより切り取られることが予想されており,このような自然のメカニズムをわざわざ妨げることに容易に想到するとはいえない。 また,記載事項(甲2-c)にあるように,甲第2号証には二本鎖RNA分子として平滑末端のものしか記載されておらず,3’突出部についての記載はない。甲第1号証においても無細胞系のことが記載されているのみであって3’突出部を有する二本鎖RNA分子の記載はない。 甲第4号証には,19から23塩基長で3’突出部を有する二本鎖RNA分子を使用することは記載されていない。 よって,甲第1ないし第4号証には,短鎖二本鎖RNA分子の3’突出部を安定化することの動機付けは記載されていない。 したがって,単一種の短鎖二本鎖RNA分子をRNA干渉の誘導に用いようとすることも,3’突出部がRNA干渉において重要であることも甲第1ないし第4号証から導き出せないから,短鎖二本鎖RNA分子の3’突出部を分解に対して安定化することは当業者が容易に想到し得たことではない。 さらに,本件特許明細書の段落【0106】及び図5に記載されたように,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が,平滑末端を有する二本鎖RNA分子より標的mRNA分子を分解する能力が顕著に高く,3’突出部が,RNA干渉の誘導に重要であることを実験によって明らかにしており,該結果は当業者が予測できない顕著な効果といえる。 なお,本件発明3は,請求項1を引用してさらに限定しているので,本件発明3と甲第2号証又は甲第4号証と対比した場合にも,その相違点について当業者が容易に想到するものではないから,本件発明1と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって,本件発明3は,甲第3号証,甲第1号ないし第3号証または甲第3ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張(請求項3が引用する請求項1についての進歩性の主張)の概要 ア 請求項1について,甲第3号証の図1のモデルは,21?25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言すると記載されている(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)。そして,図1には,二本鎖RNAが3’末端にオーバーハングを有している様子が記載されている。二本鎖RNAの21?23ヌクレオチドの長さへの分解も記載されていることから,甲第3号証には,細胞に21?23塩基長の二本鎖RNAを導入することにより,遺伝子サイレンシングが生じるであろうこと,そして,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できること,すなわち,導入する二本鎖RNAは3’末端に2ベースのオーバーハングを有することが好ましいことを明らかに示唆している。さらに細胞内に導入するためにその二本鎖RNA分子を単離することは技術常識から当然のことである。また,本件発明の詳細な説明の記載を参酌しても請求項1に係る発明は,予測以上の効果を示さない。 イ 請求項1について,甲第3号証の「細胞に21?25塩基長の二本鎖RNAを導入することにより,遺伝子サイレンシングが誘発されるだろう(introducing 21 to 25-mer dsRNAs into a cell should trigger gene silencing.)」(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)という記載において,dsRNAが複数形になっており,複数の二本鎖RNAまたは複数種の二本鎖RNAを導入する記載になっているが,複数種の二本鎖RNAの導入が記載されているとしても,その中からどれが効果があるかを確認するために,単数種の二本鎖RNAにして細胞に導入することは,当業者であれば容易に行なうことであり,従って,細胞に21?25塩基長の単数種の二本鎖RNAを導入することは,当業者であれば容易に想到する事である。 (3)-2 審判請求書における無効理由2に関わる主張(請求項3についての進歩性の主張)の概要 ウ 請求項3について,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証または甲第3ないし第4号証には,二本鎖RNAの3’突出部を安定化させることの記載は無いが,核酸を細胞に導入するとき,その核酸を安定させることは公知の課題であって,二本鎖RNAの3’突出部を安定化させることは技術常識(例えば,甲第5号証Introduction第1157頁右カラム第1段落7から9行目)であり,当業者の設計事項であって,当業者が予測できる以上の効果を奏さない。 (3)-3 請求人口頭審理陳述要領書における無効理由2に関わる主張の概要 エ 被請求人によると,「図1のモデルは,21?25塩基長のdsRNA(複数)を細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言するが,従来,全てのRNAi系において遺伝子発現の効率的な抑制のためには約100塩基対よりも大きなdsRNA(複数)が必要である。(ただし,インビトロでは21?23塩基長のRNAも機能する可能性がある[Zamore et al.,2000]。)」(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)において,dsRNAsは,「複数のdsRNAsからなる混合物」と解釈している。しかしながら,2文目におけるdsRNAsも複数形を取っており,「従来,全てのRNAi系において遺伝子発現の効率的な抑制のためには約100塩基対よりも大きなdsRNA(複数)が必要である。」との記載において,従来技術として,遺伝子発現の効率的な抑制のためには,単数種のdsRNAでもかまわないことを考えると,ここでの複数形は,複数種を表すのではなく,複数個の分子を表すと考えられる。従って,甲第3号証は,RNA断片の混合物の使用を示唆しているとの被請求人の主張は失当である。 万が一,複数種を表すとしても,従来,単数種でも遺伝子発現の効率的な抑制が可能だったのであるから,単数種でも効果があるかどうかを試すのは当業者には想到容易であると考えられる。 オ 甲3号証は,「3’突出部」の使用を示唆している 甲3号証の図1Bに記載のメカニズムは,オリゴヌクレオチドが内在性であろうと外来性であろうと生じるメカニズムである。図1Bでは,23塩基長の二本鎖RNA分子は,常にoverhangを有するものとして記載されており,当業者は,in vivoのメカニズムを模して,overhangを有する23塩基長の二本鎖RNA分子を用いる方がmRNA分解の効率が良いと考えるのは明らかである。しかも,細胞内に導入された場合のことが記載されている。具体的には,長いdsRNAが細胞に導入されているが,「タンパク質-RNA複合体は,遊離のRNA(overhangを有する23塩基長の二本鎖RNA分子)及びタンパク質との間で平衡状態にあると考えられる」と記載があり,このことから,overhangを有する23塩基長の二本鎖RNA分子を細胞内に導入しても,すぐにタンパク質と複合体を作り,平衡状態になると考えられる。従って,この記載を読んだ当業者にとっては,細胞内で遺伝子発現抑制にoverhangを有する23塩基長の二本鎖RNA分子を用いる強い動機があるといえる。そして,in vivoのメカニズムを模すことで,効果が増大することは容易に予測できることであり,被請求人が指摘するoverhangを有する23塩基長の二本鎖RNA分子の効果は,この強い動機付け及び効果増強の予測が存在する下では,予想以上の効果とはいえない。 カ 甲3号証の「3’オーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21及び22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られるであろう」(合議体注:記載事項(甲3-e)参照)との記載から,3’突出部が切り取られ,RNAiにとっては重要でないとの被請求人の主張について,上記記載は,「抽出物」中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼについてであり,二本鎖RNAの遺伝子発現抑制についての問題ではない。そもそも,切り取られることによって遺伝子発現抑制が機能できるようになるとの記載もなく,従って,切り取られるから,付加してはいけないということにはならない。被請求人が主張するのとは異なり,RNAiに際して3’突出部が重要でないことは,全く示唆されていない。また,「抽出物中に存在する」という記載からわかるように,これは,in vitroでの反応についてのことである。in vivo(細胞内)では,in vitroとは異なり,一本鎖特異的ヌクレアーゼの活性は,厳密に制御されている。in vitroで,一本鎖からなるオーバーハングが一本鎖特異的ヌクレアーゼの活性にさらされやすいからと言って,一本鎖のオーバーハングを有する23ヌクレオチドをin vivoに導入することに対する阻害要因にはなりえない。 キ 甲第3号証の図1には,常に3’オーバーハングを有した形で反応することが記載されており,3’オーバーハングは遺伝子発現抑制に必要で無いという記載は無いのだから,仮説であっても,当業者がin vivoのメカニズムを模して,3’オーバーハングを有したヌクレオチドを試してみるのは当然といえる。通常の研究者(当業者)は,作業仮説を立て,それをルーチンワーク,即ち,当業者に広く知られている手法で証明することによって研究を進めて行くのであって,その作業仮説が記載されているのであるから,それを確認する実験を行うのは,極めて当然のことである。また,被請求人は,図1に部分的な誤りを含んでいると指摘しているが,そうであるからと言って,本特許の出願当時,3’オーバーハングを有したヌクレオチドを使うのは,甲3号証に接した当業者には極めて容易に想到できることであって,後に部分的な誤りが判明したからといって,甲3号証に接した当業者の予測を否定する根拠にはならない。 ク 甲第3号証には,「3’オーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21及び22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られるであろう」と記載されている。従って,抽出物中で反応させる際には,請求項1及び2に記載の二本鎖RNA分子は,3’オーバーハングが切り取られやすいという課題が記載されていることになる。また,甲第3号証には,図1には,in vivo(細胞内)では,常に3’オーバーハングを有した形で反応することが記載されているのだから,in vivo(細胞内)での使用に向けて,3’突出部を安定化するという動機付けは存在する。 (3)-4 請求人口頭審理陳述要領書(2)における無効理由2に関わる主張の概要 ケ 進歩性の根拠として発明の効果を主張するためには,動機付けとのバランスが考慮されなければならない。強い動機付けがある場合,極めて異質な効果がなければならず,通常より効果がある程度では進歩性の根拠にならない。一方,動機付けが弱い場合は,効果が少しであっても,進歩性は認められるべきである。本件の場合,甲第3号証が,RNA干渉における「3’突出部を有するdsRNA」の使用を開示していることは当業者にとって自明であり,これを読めばほぼ確実に「3’突出部を有するdsRNA」を使用するであろうと考えられる。この主張を支持するものとして,甲第10号証を提出する。 (3)-5 請求人上申書における無効理由2に関わる主張の概要 コ 本件特許明細書の図4に記載の結果から導かれることは,すでに甲第3号証に記載されており,図4の結果は甲第3号証のモデルを検証したに過ぎない。本件特許の発明者も本件明細書の段落【0105】にあるように,RNaseIIIが3’突出部を形成するという事実に基づき,3’突出部を有する約21塩基のRNAを合成して,標的RNA分解を媒介する能力について試験しており,該試験をするのは,当業者にとって自然の行為である。甲第3号証はCell誌というこの分野で最もレベルが高い雑誌の1つであるから,描かれているモデルは信用性が高いと判断して研究活動に活用することはいうまでもない。 サ 甲第3号証には,酵素に関してRNaseIII以外の酵素名は全く挙げられていない。「もしもRNAiにRNaseIII様の酵素が関与しているならば,Zamore及びTuschlによって観察された小RNAがなぜ21?23ヌクレオチドの範囲の長さであるのかを説明できるだろう。」(合議体注:記載事項(甲3-e)参照)と記載されていることからも,甲第3号証にはRNaseIII様酵素の重要性が示唆されている。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 請求人が,甲第3号証の図1に記載された3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAが,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できることを主張する根拠は,図1が自然のメカニズムを模したものであるということである(第1回口頭審理調書参照)が,図1の記載及びその説明によると,そのモデルは長鎖二本鎖RNA分子がRNaseIII様酵素により切断された様々な配列からなる数多くの種類の短鎖二本鎖RNA分子が生成し,さらにその3’突出部が一本鎖特異的ヌクレアーゼにより1塩基又は2塩基切り取られたものも生成し,その全てを含む短鎖二本鎖RNA分子が細胞内に存在するというものであることが理解できる。したがって,自然のメカニズムを模すのであれば,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入するか,あるいは,長鎖二本鎖RNA分子の切断により生じた短鎖二本鎖RNA分子断片の混合物を細胞に導入するのが自然であり,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することは想到しない。そして,短鎖二本鎖RNA分子の混合物が作用してRNA干渉を誘導することは理解できるものの,3’突出部を有する特定の配列からなる短鎖二本鎖RNA分子のみによる作用は自然のメカニズムとは異なるのであるから,2ベースのオーバーハングが有利なことが記載されているとはいえない。 なお,導入した長鎖二本鎖RNA分子の切断により,種々の長さあるいは構造の短鎖RNA分子が生成することは本件特許明細書の図4Aにおいて確かめられており,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入すると,様々な短鎖二本鎖RNA分子の混合物が生成することが確認できる。 上記(2)の欄で述べたとおり,甲第3号証の図1に示されたメカニズムでは,切断により得られた短鎖二本鎖RNA分子が3’突出部を有することが記載されているものの,甲第3号証の図1において細胞に導入されるのは長鎖二本鎖RNA分子であって,3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入した場合に,実際にRNA干渉が誘導されることは示されておらず,仮に,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することが想定できたとしても,3’突出部のRNA干渉誘導に対する効果は記載も示唆もされていない。さらに,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が平滑末端を有する二本鎖RNA分子と比較してRNA干渉を誘導する活性が高いことは記載も示唆もない。それに対し,本件発明の詳細な説明には,平滑末端の二本鎖RNA分子と比較して,3’突出部を有する二本鎖RNA分子はRNA干渉をより高度に誘導することが示されており,このような効果は甲第3号証の記載からは予測できない。 イについて 上記(2)の欄において述べたとおり,細胞に単一種の短鎖二本鎖RNA分子を導入することは記載されておらず,その動機付けもない。また,自然のメカニズムを模すことが当業者にとり自然なことであれば,それは,細胞に単一種の短鎖二本鎖RNA分子を導入することの阻害事由になり得る。 ウについて 細胞に導入する核酸を安定させることが公知の課題であったとしても,RNA干渉の誘導における二本鎖RNAの3’突出部の重要性が明らかでなかったから,あえて3’突出部を安定化することには動機付けがなく,その効果も予想できない。 請求人が提示した甲第5号証は三重らせんの安定性に関する論文であり,二本鎖RNA分子の3’突出部を使用することは記載されておらず,RNA干渉の誘導とは関連がないので短鎖二本鎖RNA分子の3’突出部を安定化する動機付けにはならない。 エについて 請求人は,従来単数種の二本鎖RNA分子でも遺伝子発現の効率的な抑制が可能だったと主張しているが,それは長鎖二本鎖RNA分子においてであり,短鎖二本鎖RNA分子についてそのような従来技術は示されていない。また,甲第2号証の「抽出物中で約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21-23塩基長のRNA種は,アクリルアミドゲルで単離され,新たなRNAi反応系に全長の二本鎖RNAの代わりに添加された時,in vitroで塩基配列特異的干渉を起こした。」(記載事項(甲2-a))との記載もあわせて考えると,「21 to 25-mer dsRNAs」の複数形は,21から25塩基長(RNaseIII様酵素で最初に切断された,23塩基長の各鎖が3’方向に2塩基ずつ突出した全体が25塩基長の二本鎖RNA分子,及びその3’突出部が一本鎖特異的ヌクレアーゼにより1または2塩基欠失した,各鎖が23,22あるいは21塩基長のRNA分子からなる全体が21から24塩基長の二本鎖RNA分子など)の複数種の混合物を意味していると考えられる。そして,甲第3号証の記載をみた当業者であれば,短鎖二本鎖RNA分子の複数種の混合物を導入しようと考えるものであり,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することは当業者が容易に想到し得ない。 上記記載が複数種を表すとしても単数種で効果があるかどうかを試すのは当業者には想到容易であるとの主張について,上記「アについて」及び「イについて」の欄で述べたように,自然のメカニズムを模すのであれば,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入するか,あるいは,長鎖二本鎖RNA分子の切断により生じた短鎖二本鎖RNA分子断片の混合物を細胞に導入するのが自然であり,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することは当業者が容易に想到するとはいえない。しかも,被請求人が乙第1号証において示したように,混合物と比較して単一種の二本鎖RNA分子がRNA干渉の誘導活性が顕著に高いから,例え単数種を試す動機付けがあったとしても,顕著な効果を奏することは予想できない。 オについて 甲第3号証の図1に記載されたin vivoの仮説のメカニズムには,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入した場合に,切断された短鎖二本鎖RNA分子が複数種生成し,その混合物がRNA干渉を誘導することが記載されているのであって,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を導入した場合にRNA干渉を効率よく誘導できることは記載されていない。 請求人は,口頭審理においても,自然を模すのが最も効率のよい方法であり,最終的に作用する短鎖二本鎖RNA分子を導入するのが通常であると主張した。 しかし,上記「アについて」の欄でも述べたように,甲第3号証の図1に記載のメカニズムを模すのであれば,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入するか,あるいは,長鎖二本鎖RNA分子の切断,あるいは,それに対する一本鎖特異的ヌクレアーゼの切断により生じた短鎖二本鎖RNA分子の混合物を導入するのが自然であって,甲第3号証に該分子を単独で導入した場合に,RNA干渉を誘導することは示されておらず,その誘導の効果は予想できない。平滑末端を有する二本鎖RNA分子と比較してRNA干渉を誘導する活性が高いことはなおさら記載も示唆もなく,予想できない効果である。 カについて 甲3号証の「3’オーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21及び22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られるであろう」との記載は,21及び22ヌクレオチドの断片がin vitroで生成することの説明に過ぎず,RNA干渉における3’突出部の重要性を示唆するものではない。 キについて 図1には,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子自体は記載されているものの,上記「アについて」及び「オについて」の欄で述べたように,当業者がin vivoのメカニズムを模すのであれば,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入するか,あるいは,切断された短鎖二本鎖RNA分子の混合物を導入するのが自然である。そして,甲第3号証には,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を効率よく誘導できることは記載も示唆もされていない。 なお,甲第3号証に記載された予測について,事後に部分的な誤りが証明されたということは,本件優先日当時の技術水準ではRNA干渉のメカニズムを解明することは困難であり,予測は確実なものではなかったことの裏付けでもある。 クについて 甲第3号証の「3’オーバーハングによって,抽出物中に存在する一本鎖特異的ヌクレアーゼに,より利用されやすくなり,21及び22ヌクレオチドの断片になるまで切り取られるであろう」との記載については,上記「アについて」及び「カについて」の欄で述べたとおりであり,3’突出部を安定化するという動機付けにはならない。 ケについて 甲第3号証には,長鎖二本鎖RNA分子の分解物として「3’突出部を有するdsRNA」は,物として記載されているものの,分解されて得られた様々な短鎖二本鎖RNA分子の混合物がRNA干渉を誘導する仮説が記載されており,3’突出部を有する単一種の二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは示されておらず,強い動機付けがあるとはいえない。 例え,甲第10号証において示されたように3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子をRNA干渉に用いる動機付けがあったとしても,甲第3号証に記載の3’突出部は切断にRNaseIIIが関与するとの仮説に基づいて記載されたものであり,数々存在する仮説の一つに過ぎず,また,それまで考えられていた平滑末端の二本鎖RNA分子と比較して顕著な効果があることは甲第3号証には記載も示唆もなく,その効果は予想できたものではない。 それに対し,本件発明において,平滑末端を有する二本鎖RNA分子と比較した3’突出部を有する二本鎖RNA分子の効果が,上記(2)の欄において述べたように本件特許明細書に示されている。 コについて 甲第3号証には,RNaseIIIが3’突出部を形成するという事実に基づき,3’突出部を有するRNA分子が記載されているが,甲第3号証を信用して試験するとしたら,長鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入するか,あるいは,切断された短鎖二本鎖RNA分子の混合物を導入するのが自然である。そして,仮に3’突出部を有する単一種種の短鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導するかどうかを試験することが想到できたとしても,その効果までは予測できないことは,上記「アについて」の欄で述べたとおりである。 サについて 甲第3号証に,RNaseIII様酵素の重要性が記載されているとしても,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を実際に誘導することは示されておらず,上記「アについて」の欄で述べたように,その効果までは予想できない。 以上のとおりであるから,請求人の主張アからサはいずれも採用することができない。 (5)小括 したがって,本件発明3は,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-5 本件発明4ないし7について 2-5-ア 本件発明4ないし7のうち請求項3を直接的又は間接的に引用する部分についての判断 本件発明4が引用する請求項3に係る発明については,前記2-4の欄において述べたとおり当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,本件発明4のうち,請求項3を引用する部分については当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また,本件発明5ないし7も,引用する請求項4を介して請求項3を引用する部分については同様である。 2-5-イ 本件発明4ないし7のうち上記2-5-ア以外の部分であって,請求項1及び2を直接的又は間接的に引用する部分について (1)甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明4と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,請求項1及び2に係る発明は前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたように甲第3号証に記載されたものであるから,両者は,二本鎖RNA分子が,本件発明4においては「少なくとも1つの修飾されたリボヌクレオチドを含む」のに対し,甲第3号証には,該記載はない点でのみ相違する。 本件発明4をさらに限定した本件発明5ないし7のそれぞれについても,甲第3号証に記載された発明とを比較すると,本件発明5ないし7には,上記の相違点に加えて,さらに修飾されたリボヌクレオチドの種類が記載されているのに対し,甲第3号証には,該記載はない点でのみ相違する。 (2)本件発明4ないし7と甲第3号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 リボヌクレオチドの修飾は,本件特許明細書の段落【0014】及び【0015】に記載されたように,安定化の目的で行うことであると認められる。 前記2-4(2)の欄で述べたように,短鎖二本鎖RNA分子をRNA干渉の誘導に用いようとすることは当業者が容易に想到し得たとはいえないので,甲第3号証に記載された短鎖二本鎖RNA分子に対し,RNA干渉の誘導に用いるために安定化などの目的で行うリボヌクレオチドの修飾を行うことは当業者が容易に想到することができたとはいえない。 本件発明4を引用する本件発明5ないし7についても同様である。 なお,本件発明4は,請求項1を引用してさらに限定しているので,本件発明1と甲第2号証又は甲第4号証と対比した場合にも,その相違点について当業者が容易に想到するものではないから,本件発明1と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件発明4を引用する本件発明5ないし7についても同様である。 よって,本件発明4ないし7は,甲第3号ないし第4号証または甲第1ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 請求項4について,甲第3号証または甲第1号証ないし第3号証には,上記二本鎖RNAが,少なくとも1つの修飾されたリボヌクレオチドを含むことの記載は無いが,修飾による効果を観察するのは公知の課題であって,核酸を細胞に導入するとき,その核酸を修飾することは当業者の設計事項である(例えば,甲第4号証)。しかも,本件発明では,その修飾から当業者が予測できる以上の効果を奏さない。そして,どのように修飾するかは当業者の設計事項であり,修飾による効果を観察するのも公知の課題である。従って,本件請求項4に係る特許発明は,甲第3号証ないし第4号証または甲第1号証ないし第4号証に記載されている発明から容易に想到でき,これらの記載から予測できる以上の効果を有さないので,請求項4に係る発明は進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (3)-2 請求人口頭審理陳述要領書における無効理由2に関わる主張の概要 イ 請求項4について,甲第3号証には,「図1のモデルは,21?25塩基長のdsRNAを細胞に導入することが遺伝子サイレンシングを誘発することを予言する」(合議体注:記載事項(甲3-f)参照)と記載されており,図1に記載のdsRNAを細胞に導入することが記載されている。細胞に導入する試みが記載されているのだから,その際,安定化させた分子を導入しようとするのは,当業者にとっては,極めて容易に想到することと言える。従って,甲第3号証の記載から,当業者には,図1に記載の二本鎖RNA分子を,安定化させる目的で修飾する動機付けがあるといえる。請求項4の下位概念である請求項5ないし7についても同様である。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 ア及びイについて 前記2-4(2)の欄で述べたように,そもそも,単一種の3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入しRNA干渉を誘導することは当業者が容易に想到し得ないことである。甲第4号証に示されたように核酸を修飾することが設計事項であったとしても,核酸の修飾は,細胞内に導入してその形態のまま機能することが確認された核酸について,その機能を維持するために行うものであるのに対し,甲第3号証に記載の単離された短鎖二本鎖RNA分子はその機能が確認されておらず,細胞内に導入して,その機能を維持しようという動機付けがないから,短鎖二本鎖RNA分子を修飾することは容易とはいえない。修飾基の選択についても同様である。 以上のとおりであるから,請求人の主張はいずれも採用することができない。 2-5-ウ 小括 したがって,本件発明4ないし7は,甲第1号証ないし第4号証または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-6 本件発明8ないし10について 2-6-ア 本件発明8ないし10のうち,請求項3ないし7を直接的又は間接的に引用する部分について 前記2-4の欄及び2-5の欄において述べたとおり,請求項3ないし7については,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明8のうち,請求項3ないし7を引用する部分については当業者が容易に発明をすることができたものでないことが明らかである。 2-6-イ 本件発明8ないし10のうち,上記2-6-ア以外の部分であって,請求項1及び2を直接的又は間接的に引用する部分について (1)甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明8と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,本件発明8が引用する請求項1及び2については,前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたように甲第3号証に記載されているので,両者は,本件発明8においては,各々が19?23塩基長を有する2本のRNA鎖を合成するステップであって,このRNA鎖は二本鎖RNA分子を形成することができるものである,上記ステップ,二本鎖RNA分子が形成される条件下で合成RNA鎖を結合させるステップであって,得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである,上記ステップを含む二本鎖RNA分子の作製方法であるのに対し,甲第3号証には,該ステップを含む作製方法は記載されていない点で相違する。 本件発明8をさらに限定した本件発明9及び10のそれぞれについても,甲第3号証に記載された発明とを比較すると,上記の相違点に加えて,RNA鎖が,本件発明9においては化学的に合成されるのに対し,甲第3号証には該記載はない点,本件発明10においては酵素により合成されるのに対し,甲第3号証には該記載はない点,でさらに相違する。 (2)本件発明8ないし10と甲第3号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 一般に,二本鎖RNA分子を化学的あるいは酵素により合成することで作製する方法は文献を提示するまでもなく周知の技術的事項であるから,甲第3号証に記載された短鎖二本鎖RNA分子についても,周知技術を適用して作製することは当業者が容易に想到し得たことである。 (3)被請求人の無効理由2に関わる主張 被請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 答弁書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 請求項8は請求項1ないし7に記載された二本鎖RNA分子の作製方法であり,前記したように,請求項1ないし7に係る特許発明が,甲第1号証ないし甲第4号証に対して進歩性を有している以上,当然ながら,請求項8に係る特許発明も進歩性を有していることは明らかである。請求項9及び10についても同様である。 (4)被請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 請求項8ないし10が引用する請求項1及び2に係る発明は,前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたとおり甲第3号証に記載されたものであり,甲第3号証に記載の二本鎖RNA分子を合成することが当業者において容易であることは上記(2)の欄において述べたとおりである。 以上のとおりであるから,被請求人の主張は採用することができない。 2-6-ウ 小括 したがって,本件発明8ないし10は,甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2-7 本件発明11について 2-7-ア 本件発明11のうち,請求項3ないし7を直接的又は間接的に引用する部分について 前記2-4の欄及び2-5の欄において述べたとおり,請求項3ないし7については,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明11のうち,請求項3ないし7を引用する部分については当業者が容易に発明をすることができたものでないことが明らかである。 2-7-イ 本件発明11のうち,上記2-7-ア以外の部分であって,請求項1及び2を直接的又は間接的に引用する部分について (1)本件発明11と甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明11と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,本件発明11が引用する請求項1及び2に記載の二本鎖RNA分子については,前記1-3の欄及び1-4の欄で述べたように,甲第3号証に記載されているので,両者は,本件発明11においては,標的特異的なRNA干渉が起こりうる条件下で,細胞を二本鎖RNA分子と接触させるステップ,上記二本鎖RNAと一致する配列部分を有する標的核酸に対する,上記二本鎖RNAにより引き起こされる標的特異的なRNA干渉を媒介するステップを含む,動物細胞において標的特異的なRNA干渉を媒介する方法であるのに対し,甲第3号証には,該方法は記載されていない点で相違する。 (2)本件発明11と甲第3号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 前記1-3の欄及び1-4の欄において述べたように,請求項1及び2の単離された二本鎖RNA分子自体は甲第3号証に記載されているものであるが,3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子を動物細胞と接触させることが記載されていないのは前記1-5の欄で述べたとおりであり,単一種の短鎖二本鎖RNA分子であって3’突出部を有するものをRNA干渉の誘導に用いること及び誘導が効率よく行われることは容易に想到し得たことでないのは,前記2-4(2)の欄で述べたとおりである。 なお,本件発明11は,請求項1を引用してさらに限定しているので,本件発明11と甲第2号証又は甲第4号証と対比した場合にも,その相違点について当業者が容易に想到するものではないから,本件発明1と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって,本件発明11は,甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,本件発明11の無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア これらのステップを含む,動物細胞において標的特異的なRNA干渉を媒介する方法は,当業者にとっては周知技術である(要すれば,甲第1号証Introductionまたは甲第3号証参照)。したがって,請求項11に係る特許発明は,甲第1号証ないし第4号証の記載から容易に想到でき,それらの記載から予測できる以上の効果を有さないので進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 請求人が周知技術として挙げている甲第1号証のIntroductionまたは甲第3号証に記載された動物細胞において標的特異的なRNA干渉を媒介する方法は,長鎖二本鎖RNA分子を導入する方法であり,短鎖二本鎖RNA分子を動物細胞に導入する方法は記載されておらず,その方法が当業者が容易に発明をすることができたものでないことは,前記2-4(2)の欄において述べたとおりである。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-7-ウ 小括 したがって,本件発明11については,甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-8 本件発明12ないし20について 本件発明12が引用する請求項11については,前記2-7の欄において述べたとおり,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,請求項11を引用してさらに限定する本件発明12は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本件発明13ないし20についても,請求項11を直接的又は間接的に引用してさらに限定する発明であるから同様である。 したがって,本件発明12ないし20については,甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-9 本件発明21について 2-9-ア (1)本件発明21と甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明21と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,前記1-5の欄で述べたように,両者は「二本鎖RNA分子は,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,かつ,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる」点で一致し,以下の点で両者は相違する。 ア 二本鎖RNA分子が存在するのが,本件発明21においては,動物細胞であって該細胞が標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示すのに対し,甲第3号証においては,細胞内のメカニズムのモデルが記載されているだけで上記表現型を示す細胞は記載されていない点。 イ 細胞にトランスフェクトするのが,本件発明21においては,内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子,または少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子をコードするDNAであるのに対し,甲第3号証においては,長鎖二本鎖RNA分子をトランスフェクトすることが記載されているのみであって,上記特定の構造を有する短鎖二本鎖RNA分子をトランスフェクトすることは記載されていない点。 (2)本件発明21と甲第3号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 「標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す」との記載は,特定された二本鎖RNA分子または該二本鎖RNA分子をコードするDNAをトランスフェクトした細胞が有する性質を特定したに過ぎず,実質的な相違点ではない。 また,RNA干渉が動物細胞で誘導されることも周知技術であるから(記載事項(甲3-a)参照),記載されたモデルが動物細胞である場合も甲第3号証に実質的に記載されていると認める。 さらに,甲第3号証に記載されたモデルはノックアウト(RNA干渉)のメカニズムのモデルであり,RNA干渉が動物細胞で誘導されることも上記のように周知技術であるから,標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞は甲第3号証に実質的に記載されているともいえる。 相違点イについて 甲第3号証の図1には,単に,導入した長鎖二本鎖RNA分子が分解されて生成した,各鎖の長さが23塩基長で3’突出部として2塩基を有する各種の配列の短鎖二本鎖RNA分子,あるいは,それに一本鎖特異的ヌクレアーゼが作用して生成した突出部が1から2塩基欠失した平滑末端のものも含む各種の短鎖二本鎖RNA分子の混合物がRNA干渉を起こすというモデルが記載されているのみであり,そのうちの特定の配列の3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子またはそれをコードするDNAをトランスフェクトすることは開示されていない。そして,前記2-4(2)の欄において述べたとおり,甲第3号証の図1を見た当業者であれば,RNA干渉を誘導しようとする際に,長鎖二本鎖RNA分子をトランスフェクトするかわりに,長鎖二本鎖RNA分子の切断により生じた短鎖二本鎖RNA分子の混合物をトランスフェクトすることまでは想到するかもしれないが,単一種の短鎖二本鎖RNA分子をトランスフェクトすることは容易に想到するとはいえない。 よって,本件発明21は,甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 甲第3号証との対比 請求項21について,二本鎖RNA分子または二本鎖RNA分子をコードするDNAを動物細胞に導入し,内因性標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞を得ることは周知技術である(要すれば,甲第1号証Introductionまたは甲第3号証参照)。そして,請求項1に対して詳細に記載したように,甲第3号証には,細胞に21?23塩基長の二本鎖RNAを導入することにより,遺伝子サイレンシングが生じるであろうこと,そして,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できること,すなわち,導入する二本鎖RNAは3’末端に2ベースのオーバーハングを有することが好ましいことが記載されているから,請求項21に係る特許発明は,甲第3号証から容易に想到できる発明であるので進歩性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 二本鎖RNA分子が動物細胞に導入された場合に,内因性標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示すことが周知技術であったのは,前記1-5(3)の「アについて」の欄で述べたように,短鎖二本鎖RNA分子に切断される前の長鎖二本鎖RNA分子を導入する技術であって,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することは当業者が容易に想到し得たことではないことは前記2-4(2)の欄で述べたとおりである。 また,甲第3号証の上記記載については,前記2-4(4)の「アについて」の欄で述べたように,甲第3号証の図1に示されたメカニズムでは,切断により得られた短鎖二本鎖RNA分子が3’突出部を有することが記載されているものの,甲第3号証の図1において細胞に導入されるのは長鎖二本鎖RNA分子であって,3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入した場合に,実際にRNA干渉が誘導されることは示されておらず,仮に,単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入することが想定できたとしても,3’突出部のRNA干渉誘導に対する効果は記載も示唆もされていない。さらに,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が平滑末端を有する二本鎖RNA分子と比較してRNA干渉を誘導する活性が高いことは記載も示唆もない。それに対し,本件発明の詳細な説明には,平滑末端の二本鎖RNA分子と比較して,3’突出部を有する二本鎖RNA分子はRNA干渉をより高度に誘導することが示されており,このような効果は甲第3号証の記載からは予測できない。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-9-イ (1)本件発明21と甲第2号証に記載された発明との対比 甲第2号証には,細胞に導入された二本鎖RNAが,21から23ヌクレオチド断片に分解され,その断片がRNAi特異的タンパク質によって結合され,ターゲットmRNAに対合し,mRNAを分解するヌクレアーゼを近寄せること,in vitroのRNAiシステムにおいて,これらのアイデアを試すことが将来の重要な試みであることが記載されている(記載事項(甲2-b)参照)。また,甲第2号証には「予備的実験であるが,抽出物中で約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21?23塩基長のRNA種は,アクリルアミドゲルで単離され,新たなRNAi反応系に全長の二本鎖RNAの代わりに添加された時,in vitroで塩基配列特異的干渉を起こした。」(記載事項(甲2-a)参照)と記載されている。 ここで,本件発明21と甲第2号証に記載された発明とを比較すると,両者は,各RNA鎖が19?23塩基長を有する二本鎖RNA分子をトランスフェクトすることを含み,標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す点で一致し,以下の点で相違する。 ア 標的遺伝子が存在するのが,本件発明21においては,動物細胞であるのに対し,甲第2号証においては,抽出物中である点。 イ トランスフェクトされる分子が,本件発明21においては,内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子,または少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子をコードするDNAであって,該二本鎖RNA分子が,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,かつ,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる分子であるのに対し,甲第2号証においては,約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21?23塩基長のRNA種,つまり混合物である点。 (2)本件発明21と甲第2号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 甲第2号証に記載の抽出物の反応系は,生体内でのRNA干渉の特徴の多くを再現することが明らかにされており,元来,生体内でのRNA干渉のモデル系となりうる系であるので,甲第2号証に記載の無細胞系の結果から生体内でのRNA干渉の結果を推測することは当業者が通常想到することであるから,細胞または生物中に存在するmRNA標的分子に対し,RNA干渉を誘導することは容易に想到できる。 相違点イについて 甲第2号証には,長鎖二本鎖RNA分子から生じた21?23塩基長のRNA種の混合物がRNA干渉を誘導することは記載されているが,単一種の二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは記載も示唆もされていないので,少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子,または該二本鎖RNA分子をコードするDNAをトランスフェクトすることは当業者が容易に想到し得ない。 さらに,甲第2号証及び甲第1号証には,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有する二本鎖RNA分子は記載されておらず,甲第3号証にも二本鎖RNA分子のRNA干渉の誘導における,1から3塩基からなる3’突出部の重要性は記載も示唆もないので,甲第2号証に記載された二本鎖RNA分子において,3’突出部を設けることは当業者が容易に想到し得ない。 そして,本件特許明細書の段落【0106】及び図5に記載されたように,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が,平滑末端を有する二本鎖RNA分子より標的mRNA分子を分解する能力が顕著に高く,3’突出部が,RNA干渉の誘導に重要であることを実験によって明らかにしており,該結果は当業者が予測できない顕著な効果といえる。 よって,本件発明21は,甲第1ないし第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 甲第1号証?第3号証との対比 請求項21について,甲第2号証には21から23塩基長のRNA種が抽出物中のmRNA標的分子に対してRNA干渉が可能であることが記載されており,当業者にとって,甲第2号証に記載の無細胞系の結果から,生体内,すなわち動物細胞内でのRNAiの結果を推測するのは容易であるから,21?23塩基長のRNA種は,動物細胞中に存在中の内因性標的遺伝子に対し,特異的なRNA干渉が可能であることは容易に想到できる。また,甲第3号証には,導入する二本鎖RNAは3’末端に2ベースのオーバーハングを有することが好ましいことが記載されている。従って,当業者であれば,甲第2号証の記載に,甲第1号証及び甲第3号証の記載を組み合わせることによって,請求項21に係る特許発明は,容易に想到可能である。一方,甲第3号証には,オーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できることも記載されており,発明の詳細な記載を参酌しても,請求項21に係る特許発明は,当業者がこの記載から予測する以上の効果を有さない。従って,請求項21に係る特許発明は,甲第1号証ないし第3号証の記載から容易に想到でき,それらの記載から予測できる以上の効果を有さないので,進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 甲第2号証に記載されているのは,約500塩基長の二本鎖RNA分子が切断されて得られた21から23塩基長のRNAの混合物がmRNA標的分子に対してRNA干渉を誘導することであり,単一種の短鎖二本鎖RNA分子で3’突出部を有する二本鎖RNA分子を用いることは当業者が容易に想到し得ないこと,該二本鎖RNA分子が平滑末端を有する二本鎖RNA分子よりRNA干渉を強く誘導することは予想できない効果であることは上記(2)の欄で述べたとおりである。また,甲第3号証には3’突出部の重要性が示唆されていないことは前記2-4(2)の欄で述べたとおりである。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-9-ウ (1)本件発明21と甲第4号証に記載された発明との対比 甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNAが,動物細胞内でRNA干渉を生じることができることが記載されている(記載事項(甲4-b)参照)。 ここで,本件発明21と甲第4号証に記載された発明とを比較すると,両者は,標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞であって,細胞が,内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子でトランスフェクトされたものである点で一致し,以下の点で相違する。 ア 二本鎖RNA分子鎖が,本件発明21においては,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであるのに対し,甲第4号証においては,26塩基長であって,3’突出部を有さない二本鎖RNA分子である点。 イ トランスフェクトされる分子が,本件発明21においては,少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子をコードするDNAである場合も含むのに対し,甲第4号証には該記載はない点。 (2)本件発明21と甲第4号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 甲第4号証の図1の実験において実際に用いられている二本鎖RNA分子は,81塩基長の二本鎖RNA分子以外は平滑末端を有し,唯一突出部を有する81塩基長の二本鎖RNA分子も,アンチセンス鎖のみが4塩基の5’突出部を有するだけであるから,甲第4号証には,1から3塩基からなる3’突出部に関する記載及び示唆は存在しない。 そして,甲第3号証にも二本鎖RNA分子のRNA干渉の誘導における,1から3塩基からなる3’突出部の重要性は記載も示唆もないことは前記2-4(2)の欄で述べたとおりであるので,甲第4号証に記載された二本鎖RNA分子において,あえて3’突出部を設けることは当業者が容易に想到し得ない。 そして,本件特許明細書の段落【0106】及び図5に記載されたように,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が,平滑末端を有する二本鎖RNA分子より標的mRNA分子を分解する能力が顕著に高く,3’突出部が,RNA干渉の誘導に重要であることを実験によって明らかにしており,該結果は当業者が予測できない顕著な効果といえる。 よって,本件発明21は,甲第3ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求言における無効理由2に関わる主張の概要 ア 甲第3?4号証との対比 請求項21について,甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNAが,動物細胞内でRNAiを生じることができることが記載されている(合議体注:記載事項(甲4-b)参照)。甲第4号証において,26,27,32,37,81という様々な塩基長の二本鎖RNAを試しており,しかも,26塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果があったことから,当業者にとって,適切な塩基長を決定するのは設計事項であって,19?23塩基長を選択することには容易であると考えられる。26塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果があるのに,23塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果が無いだろうと考える理由も無い。そして,発明の詳細な説明を参酌しても,19?23塩基長についての閾値的効果は見られない。また,甲第3号証には,RNaseIIIは二本鎖RNAを3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長に分解すること,3’末端のオーバーハングによって,1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなること,RNaseIII及びRNA干渉を行う酵素が類似していることが記載されており,RNA干渉において,3’末端のオーバーハング,特に2ベースのオーバーハングを有する二本鎖RNAを用いることは,当業者にとって容易に想到できる事柄である。従って,請求項21に係る特許発明は,甲第3号証及び甲第4号証の記載から容易に想到でき,それらの記載から予測できる以上の効果を有さないので,請求項21に係る特許発明は進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 前記1-5(3)の「アについて」の欄で述べたとおり,本件優先日前に長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは広く知られていたものの,短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を誘導することは周知技術とまでいえなかったことを考慮すると,甲第4号証に記載のRNA干渉効果がきわめて低い26塩基長の二本鎖RNA分子をもとに,さらに短い二本鎖RNA分子を設計することは当業者が容易に想到し得ないことであり,記載事項(甲4-b)にあるように,27塩基長の二本鎖RNA分子はRNA干渉を誘導しなかったことが示されているので,二本鎖RNA分子の塩基長はRNA干渉の誘導活性に重要であることが示唆されるから,塩基長を決定することが単なる設計事項であるとはいえない。そして,本件特許明細書の図12及び図13をみると,特に図13には,24,25塩基長ではRNA干渉がほとんど見られないのに対し,20から23塩基長においてRNA干渉が見られたことが示されているから,特定の塩基長に閾値的効果が見られないとはいえない。 甲第3号証の3’末端のオーバーハングによって1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなるとの記載から,21から23塩基長の二本鎖RNAに3’末端のオーバーハングを付加することを容易に想到できるとの主張はその根拠が不明である。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-9-エ 小括 したがって,本件発明21については,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-10 本件発明22ないし37について (1)本件発明22ないし37についての判断 本件発明22ないし37が引用する請求項21については,前記2-9の欄において述べたとおり,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,請求項21を直接的又は間接的に引用してさらに限定する本件発明22ないし37についても同様に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお,本件発明22は,請求項21を引用してさらに限定しているので,本件発明22と甲第2号証又は甲第4号証と対比した場合にも,その相違点について当業者が容易に想到するものではないから,本件発明21と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件発明23ないし37についても同様である。 よって,本件発明22ないし37は,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証,甲第3ないし第4号証または甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)請求人の無効理由2に関わる主張 本件発明22ないし37について,審判請求書,請求人口頭審理陳述要領書及び請求人口頭審理陳述要領書(2)において,請求人は,請求項21に付加される構成について周知技術を適用することで当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張をしているが,そもそも本件発明21が当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,採用できない。 (3)小括 したがって,本件発明22ないし37については,甲第3号証,甲第1号証ないし第3号証,甲第3ないし第4号証または甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-11 本件発明38及び39について 2-11-ア (1)本件発明38と甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明38の「システム」とは物のカテゴリーを意味するものと解され(審査基準第I部第1章2.2.2.3(3)なお書き),本件発明38は結局のところ(a)から(c)を含む物であって,少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定するために用いる物の発明であると解される。 前記1-5の欄で述べたように,甲第3号証には,長鎖二本鎖RNA分子を導入することによってRNA干渉が誘導される動物細胞が記載されており,そのためには,動物細胞と長鎖二本鎖RNA分子とが必要であることは明らかであるから,「少なくとも1つの標的タンパク質をコードする少なくとも1つの標的遺伝子を発現することができる動物細胞」及び「二本鎖RNA分子」を含むシステムは,甲第3号証に記載されていると認められる。 ここで,本件発明38と甲第3号証に記載された発明とを比較すると,両者は,少なくとも1つの標的タンパク質をコードする少なくとも1つの標的遺伝子を発現することができる動物細胞,及び,少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる,該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる二本鎖RNA分子を含むシステムである点で共通し,両者は以下の点で相違する。 ア 該システムに含まれる二本鎖RNA分子が,本件発明38においては,少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子であって,該二本鎖RNA分子は,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖は1?3塩基からなる3’突出部を有するものであるのに対し,甲第3号証においては,長鎖二本鎖RNA分子である点。 イ 該システムが,本件発明38においては,薬理学的特性を同定および/または特性決定しようとする,試験物質または試験物質のコレクションを含む少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定システムであるのに対し,甲第3号証には該記載はない点。 (2)本件発明38及び39と甲第3号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 前記1-3の欄及び1-4の欄において述べたように,単離された二本鎖RNA分子自体は甲第3号証に記載されているものであるが,3’突出部を有する単一種の上記二本鎖RNA分子を動物細胞と接触させることが記載されていないのは前記1-5の欄で述べたとおりであり,単一種の短鎖二本鎖RNA分子であって3’突出部を有するものをRNA干渉の誘導に用いることは容易に想到し得たことでないのは,前記2-4(2)の欄で述べたとおりであるから,少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害するために,単離された二本鎖RNA分子であって,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖は1?3塩基からなる3’突出部を有するものを用いることは当業者が容易に想到するとはいえない。 よって,相違点イについて判断するまでもなく,本件発明38は甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本件発明38を引用し,さらに限定する本件発明39についても同様である。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 甲第3号証との対比 請求項38について,請求項1に対して詳細に記載したように,甲第3号証には,細胞に21?23塩基長の二本鎖RNAを導入することにより,遺伝子サイレンシングが生じるであろうこと,そして,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できること,すなわち,導入する二本鎖RNAは3’末端に2ベースのオーバーハングを有することが好ましいことが記載されている。一方,試験物質を用いて,細胞でアッセイすることは,当業者には技術常識であるから,その細胞を甲第3号証に記載された,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長のsiRNAが導入された細胞で行なうことは,当業者には容易に想到できる。従って,請求項38に係る特許発明は進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 イ 甲第2?4号証との対比 請求項39について,二本鎖RNA分子によって動物細胞内で標的核酸の発現を阻害できることは,当業者にとって周知の事項である(要すれば,甲第1号証Introduction参照)。従って,この標的核酸を「標的タンパク質,または該標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸」とすることに何ら困難性を見出せない。そして,どの程度発現を阻害するかは,当業者の設計事項であって,「内因性標的遺伝子の発現より低い」レベルにするかどうかについての困難性も無く,予想される以上の効果も生じない。一方,上述したように,請求項38に係る特許発明は甲第3号証,甲第2ないし3号証または甲第3ないし4号証の記載から進歩性を有さないのであるから,請求項39に係る特許発明も進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 前記2-4(2)の欄で述べたように,甲第3号証の図1に示されたメカニズムでは,切断により得られた短鎖二本鎖RNA分子が3’突出部を有することが記載されているものの,甲第3号証の図1において細胞に導入されるのは長鎖二本鎖RNA分子であって,3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入した場合に,実際にRNA干渉が誘導されることは示されておらず,3’突出部のRNA干渉誘導に対する効果は記載も示唆もされていない。さらに,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が平滑末端を有する二本鎖RNA分子と比較してRNA干渉を誘導する活性が高いことは記載も示唆もないので,そもそも,細胞に3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子を導入することは当業者が容易に想到し得ない。 よって,試験物質を用いて細胞でアッセイすること自体は当業者において周知技術であるとしても,試験物質を用いるアッセイに,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子を導入した細胞を適用することは当業者が容易になし得ることではない。 イについて 前記1-5(3)の「アについて」の欄で述べたとおり,本件優先日前に長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは広く知られていたものの,短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を誘導することは周知技術とまでいえない。 そして,上記(2)の欄において述べたように,本件発明38は進歩性を有するので,本件発明38を引用し,さらに限定する本件発明39も進歩性を有する。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-11-イ (1)本件発明38と甲第2号証に記載された発明との対比 甲第2号証には,「予備的実験であるが,抽出物中で約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21?23塩基長のRNA種は,アクリルアミドゲルで単離され,新たなRNAi反応系に全長の二本鎖RNAの代わりに添加された時,in vitroで塩基配列特異的干渉を起こした。」(記載事項(甲2-a)参照)と記載されている。 ここで,甲第2号証には,約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21?23塩基長のRNAの混合物を含むRNA干渉を誘導するシステムが記載されていると認められるから,本件発明38と甲第2号証に記載された発明とを比較すると,両者は,少なくとも1つの標的タンパク質をコードする少なくとも1つの標的遺伝子,及び,少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる,各RNA鎖が19?23塩基長を有する二本鎖RNA分子を含むシステムである点で一致し,以下の点で相違する。 ア 二本鎖RNA分子が,本件発明38においては,少なくとも1つの鎖は1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり,かつ,3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる,単離されたRNA分子であるのに対し,甲第2号証においては,約500塩基の二本鎖RNAをインキュベートすることで生じた21?23塩基長のRNA種,つまり混合物である点。 イ 標的遺伝子を発現するのが,本件発明38においては動物細胞であるのに対し,甲第2号証においては抽出物中である点。 ウ 該システムが,本件発明38においては,薬理学的特性を同定および/または特性決定しようとする,試験物質または試験物質のコレクションを含む少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定システムであるのに対し,甲第2号証には該記載はない点。 (2)本件発明38及び39と甲第2号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 前記2-4(2)の欄で述べたとおり,単離された単一種の短鎖二本鎖RNA分子であって3’突出部を有するものをRNA干渉の誘導に用いることは容易に想到し得たことでないので,少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害するために,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有する単離された二本鎖RNA分子を用いることは当業者が容易に想到するとはいえない。 よって,相違点イ及びウについて判断するまでもなく,本件発明38は甲第2号証ないし第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本件発明38を引用し,さらに限定する本件発明39についても同様である。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 甲第2?3号証との対比 請求項38について,請求項1に対して詳細に記載したように,当業者にとって,甲第2号証に記載の無細胞系の結果から,生体内,すなわち動物細胞内でのRNAiの結果を推測するのは容易であるから,21?23塩基長のRNA種は,動物細胞中に存在中の内因性標的遺伝子に対し,特異的なRNA干渉が可能であることは容易に想到できる。そして,上述したように,甲第3号証には,導入する二本鎖RNAは3’末端に2ベースのオーバーハングを有することが好ましいことが記載されている。一方,試験物質を用いて,細胞でアッセイすることは,当業者には技術常識であるから,その細胞を甲第2ないし第3号証に記載された,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長のsiRNAが導入された細胞で行なうことは,当業者には容易に想到できる。従って,当業者にとって,請求項38に係る特許発明は,容易に想到可能である。一方,甲第3号証には,オーバーハングを有する23塩基長の二本鎖RNAは,より効率的にその後のmRNAの分解に寄与できることも記載されており,発明の詳細な記載を参酌しても,本件請求項38に係る特許発明は,当業者がこの記載から予測する以上の効果を有さない。従って,本件請求項38に係る特許発明は進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 イ 甲第2?4号証との対比 請求項39について,二本鎖RNA分子によって動物細胞内で標的核酸の発現を阻害できることは,当業者にとって周知の事項である(要すれば,甲第1号証Introduction参照)。従って,この標的核酸を「標的タンパク質,または該標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸」とすることに何ら困難性を見出せない。そして,どの程度発現を阻害するかは,当業者の設計事項であって,「内因性標的遺伝子の発現より低い」レベルにするかどうかについての困難性も無く,予想される以上の効果も生じない。一方,上述したように,請求項38に係る特許発明は甲第3号証,甲第2ないし第3号証または甲第3ないし第4号証の記載から進歩性を有さないのであるから,請求項39に係る特許発明も進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 前記2-4(2)の欄で述べたように,甲第3号証の図1に示されたメカニズムでは,切断により得られた短鎖二本鎖RNA分子が3’突出部を有することが記載されているものの,甲第3号証の図1において細胞に導入されるのは長鎖二本鎖RNA分子であって,3’突出部を有する単一種の短鎖二本鎖RNA分子を細胞に導入した場合に,実際にRNA干渉が誘導されることは示されておらず,3’突出部のRNA干渉誘導に対する効果は記載も示唆もされていない。さらに,3’突出部を有する二本鎖RNA分子が平滑末端を有する二本鎖RNA分子と比較してRNA干渉を誘導する活性が高いことは記載も示唆もないので,そもそも,細胞に3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子を導入することは当業者が容易に想到し得ない。それに対し,本件発明の詳細な説明には,平滑末端の二本鎖RNA分子と比較して,3’突出部を有する二本鎖RNA分子はRNA干渉をより高度に誘導することが示されており,このような効果は甲第3号証の記載からは予測できない。 よって,試験物質を用いて細胞でアッセイすること自体は当業者において周知技術であるとしても,試験物質を用いるアッセイに,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子を導入した細胞を適用することは当業者が容易になし得ることではない。 イについて 前記1-5(3)の「アについて」の欄で述べたとおり,本件優先日前に長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは広く知られていたものの,短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を誘導することは周知技術とまでいえない。 そして,上記(2)の欄において述べたように,本件発明38は進歩性を有するので,本件発明38を引用し,さらに限定する本件発明39も進歩性を有する。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-11-ウ (1)本件発明38と甲第4号証に記載された発明との対比 甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNAが,動物細胞内でRNA干渉を生じることができることが記載されている(記載事項(甲4-b)参照)。 ここで,本件発明38と甲第4号証に記載された発明とを比較すると,両者は,少なくとも1つの標的タンパク質をコードする少なくとも1つの標的遺伝子を発現することができる動物細胞,及び,上記少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる,該RNA分子の1つの鎖が,予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子を含むシステムである点で一致し,以下の点で相違する。 ア 二本鎖RNA分子が,本件発明38においては,各RNA鎖が19?23塩基長を有し,少なくとも1つの鎖は1?3塩基からなる3’突出部を有するものであるのに対し,甲第4号証においては,各RNA鎖が26塩基長であって3’突出部を有さないものである点。 イ 該システムが,本件発明38においては,薬理学的特性を同定および/または特性決定しようとする,試験物質または試験物質のコレクションを含む少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定システムであるのに対し,甲第4号証には該記載はない点。 (2)本件発明38及び39と甲第4号証に記載された発明との相違点に係る進歩性の判断 相違点アについて 前記2-4(2)の欄で述べたとおり,単離された単一種の短鎖二本鎖RNA分子であって3’突出部を有するものをRNA干渉の誘導に用いることは容易に想到し得たことでないので,少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害するために,少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有する単離された二本鎖RNA分子を用いることは当業者が容易に想到するとはいえない。 よって,相違点イについて判断するまでもなく,本件発明38は甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本件発明38を引用し,さらに限定する本件発明39についても同様である。 (3)請求人の無効理由2に関わる主張 請求人は,無効理由2について,概略以下のように主張している。 (3)-1 審判請求書における無効理由2に関わる主張の概要 ア 甲第3?4号証との対比 請求項38について,請求項1に対して詳細に記載したように,甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNAが,動物細胞内でRNAiを生じることができることが記載されている(合議体注:記載事項(甲4-b)参照)。そして,26,27,32,37,81という様々な塩基長の二本鎖RNAを試しており,しかも,26塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果があったことから,当業者にとって,適切な塩基長を決定するのは設計事項であって,19?23塩基長を選択することには容易であると考えられる。26塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果があるのに,23塩基長の二本鎖RNAにRNAi効果が無いだろうと考える理由も無い。そして,明細書を参酌しても,19?23塩基長についての閾値的効果は見られない。また,上述したように,甲第3号証には,RNaseIIIは二本鎖RNAを3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長に分解すること,3’末端のオーバーハングによって,1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなること,RNaseIII及びRNA干渉を行う酵素が類似していることが記載されており,RNA干渉において,3’末端のオーバーハング,特に2ベースのオーバーハングを有する二本鎖RNAを用いることは,当業者にとって容易に想到できる事柄である。一方,試験物質を用いて,細胞でアッセイすることは,当業者には技術常識であるから,その細胞を,3’末端に2ベースのオーバーハングを有する23塩基長のsiRNAが導入された細胞で行なうことは,当業者には容易に想到できる。従って,請求項38に係る特許発明は,甲第3号証ないし甲第4号証の記載から容易に想到でき,それらの記載から予測できる以上の効果を有さないので,請求項38に係る特許発明は進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 イ 甲第2?4号証との対比 請求項39について,二本鎖RNA分子によって動物細胞内で標的核酸の発現を阻害できることは,当業者にとって周知の事項である(要すれば,甲第1号証Introduction参照)。従って,この標的核酸を「標的タンパク質,または該標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸」とすることに何ら困難性を見出せない。そして,どの程度発現を阻害するかは,当業者の設計事項であって,「内因性標的遺伝子の発現より低い」レベルにするかどうかについての困難性も無く,予想される以上の効果も生じない。一方,上述したように,請求項38に係る特許発明は甲第3号証,甲第2ないし第3号証または甲第3ないし第4号証の記載から進歩性を有さないのであるから,請求項39に係る特許発明も進歩性を有さず,特許法第29条第2項の規定により特許性を有さない。 (4)請求人の無効理由2に関わる主張についての判断 アについて 甲第4号証には,26塩基長の二本鎖RNA分子のRNA干渉効果は81塩基長のRNA干渉効果と比較して250倍程度低かったこと,及び,干渉のために高濃度が必要であったということから,この配列は別のメカニズムで遺伝子発現に干渉している可能性が記載されている(記載事項(甲4-b)参照)。そして,1-5(3)の「アについて」の欄で述べたように,本件優先日前に長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは広く知られていたものの,短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を誘導することは周知技術とはいえなかったことを考慮すると,RNA干渉効果がきわめて低い26塩基長の二本鎖RNA分子をもとに,さらに短い二本鎖RNA分子を設計することは当業者が容易に想到し得ないことである。 また,記載事項(甲4-b)にあるように,27塩基長の二本鎖RNA分子はRNA干渉を誘導しなかったことが示されているので,二本鎖RNA分子の塩基長はRNA干渉の誘導活性に重要であることが示唆されるから,塩基長を決定することが単なる設計事項であるとはいえない。そして,本件特許明細書の図12及び図13をみると,特に図13には,24,25塩基長ではRNA干渉がほとんど見られないのに対し,20から23塩基長においてRNA干渉が見られたことが示されているから,特定の塩基長に閾値的効果が見られないとはいえない。 そして,前記2-4(2)の欄において述べたように,甲第3号証には,3’突出部のRNA干渉における重要性は示唆されていないので,甲第4号証に記載の二本鎖RNA分子に2ベースのオーバーハングを設ける動機付けはない。 1本鎖特異的RNA分解酵素に,より利用されやすくなることから,21から23塩基長の二本鎖RNAに3’末端のオーバーハングを付加することを容易に想到できるとの主張はその根拠が不明である。 よって,試験物質を用いて細胞でアッセイすること自体は当業者において周知技術であるとしても,試験物質を用いるアッセイに,3’突出部を有する短鎖二本鎖RNA分子を導入した細胞を適用することは当業者が容易になし得ることではない。 イについて 前記1-5(3)の「アについて」の欄で述べたとおり,本件優先日前に長鎖二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することは広く知られていたものの,短鎖二本鎖RNA分子が単独でRNA干渉を誘導することは周知技術とまでいえない。 そして,上記(2)の欄において述べたように,本件発明38は進歩性を有するので,本件発明38を引用し,さらに限定する本件発明39も進歩性を有する。 以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。 2-11-エ 小括 したがって,本件発明38及び39については,甲第3号証,甲第2号証ないし第3号証,甲第2号証ないし第4号証または甲第3号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 2-12 小括(無効理由2について) 以上のとおりであるから,本件発明8ないし10は,甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,その特許は同法123条第1項第2号に該当する。 本件発明3ないし7,11ないし39は,甲第3号証,甲第1号証ないし第4号証,甲第3号証ないし第4号証,甲第1号証ないし第3号証,甲第2号証ないし第3号証または甲第2号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえず,その特許は同法第123条第1項第2号に該当しない。 3 請求人が主張する無効理由3(特許法第36条第6項第1号及び第4項)について 3-1 請求人は,本件特許の請求項1ないし39は,発明の詳細な説明の記載が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしておらず,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものであると主張している。 3-2 請求項1ないし3について (1)請求人の審判請求書における主張 請求項1について,甲第4号証では,26,27,32,37,81という様々な塩基長の二本鎖RNAを試しているが,27塩基長の二本鎖RNAでは,遺伝子発現抑制効果が観察されなかった。そしてそれは,RNAの量を増やしたり,培養温度を下げたりすることによって,効果が見られるようになるかもしれないが,配列自身に問題があるかもしれず,その原因は明らかではないと書かれている。このように,19?23塩基長と言っても,全ての場合に効果があるとは限らず,出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細は説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また,効果があるものを選択するには,当業者にとっても,過度の試行錯誤が必要となる。よって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていないため,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たさないので,請求項1は特許性を有さない。請求項1を引用する請求項2及び3についても同様である。 (2)請求人の審判請求書における主張に対する判断 甲第4号証においてRNA干渉が観察されなかった27塩基長の二本鎖RNA分子は,3’突出部を有しておらず,塩基長も19から23の範囲に含まれないから,甲第4号証に示された二本鎖RNA分子は本件請求項1に記載された二本鎖RNA分子に包含されないので,このような二本鎖RNA分子が効果を奏さないから本件請求項1の発明が効果があるか不明であるとはいえない。 それに対し,本件特許明細書において,図12は,アンチセンス鎖が21塩基長でセンス鎖が18から25塩基長のそれぞれの長さを有し,3’突出部が1から3塩基長である二本鎖RNA分子のRNA干渉の誘導を示し,図13は,3’突出部が2塩基長であって,アンチセンス鎖とセンス鎖が20から25塩基長の二本鎖RNA分子のRNA干渉の誘導を示す。 ここで,本件特許明細書において,各RNA鎖が19?23塩基長であり,少なくとも1つの鎖が1から3塩基からなる3’突出部を有する全ての組み合わせの二本鎖RNA分子についてRNA干渉を誘導することが示されたわけではないが,3’突出部については1から3塩基の場合にRNA干渉を誘導することが示され,センス鎖が18から25塩基長の長さの二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導することが示されているから,各RNA鎖が19?23塩基長であり,少なくとも1つの鎖が1から3塩基からなる3’突出部を有する二本鎖RNA分子がRNA干渉を誘導する蓋然性は高い。 請求項2の塩基長が20から22塩基長の場合,及び,請求項1及び2を引用する請求項3についても同様である。 さらに,本件特許明細書の図12及び図13の結果は,20から22塩基長においてRNA干渉の誘導活性が高く,24塩基長や25塩基長においてはRNA干渉の誘導が低下する傾向を示しており,本件特許明細書の段落【0006】の,30塩基長の短い二本鎖RNA分子は,もはや21及び22塩基のRNAにプロセシングされることはないために,RNA干渉を誘導することはできないとの記載からも,甲第4号証に記載された27塩基長のdsRNAがRNA干渉を誘導できなかったことは,予想の範囲であることが伺えるから,該甲第4号証の記載が本件請求項1の実施可能要件及びサポート要件を否定する根拠にはなりえない。 請求項2,3についても同様のことがいえる。 よって,発明の詳細な説明の記載が,請求項1ないし3に記載の発明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。また,請求項1ないし3の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 (3)小括 したがって,請求項1ないし3について,本件特許は特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとはいえない。 3-3 請求項4ないし7について (1)請求人の審判請求書における主張 請求項4について,どのような種類の修飾であっても,また,いかなる部分の修飾であっても修飾リボヌクレオチドを含む二本鎖RNAが機能する,とは考えにくい(例えば,甲第4号証)から,請求項4は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていない。 請求項5について,糖,骨格鎖または核酸塩基がどのように修飾されていても修飾リボヌクレオチドを含む二本鎖RNAが機能する,とは考えにくい(例えば,甲第4号証)から,請求項5は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていない。請求項6及び7についても同様である。 (2)請求人の審判請求書における主張に対する判断 請求項4について,一般に細胞内に導入する核酸分子を修飾する修飾基及び修飾の仕方は当業者において周知であり,本件のRNA分子においても目的の活性を損ねない修飾部位や,適切な修飾基を選択することは当業者が通常行う設計事項の範囲である。 また,請求項4を引用する請求項5ないし7について,本件特許明細書の段落【0015】や【0016】には修飾の仕方が記載され,「ヌクレオチド類似体は,標的特異的活性,例えば,RNAi媒介活性が実質的に影響を受けない位置,例えば,二本鎖RNA分子の5’末端および/または3’末端の領域内に配置することができる」と記載されており(段落【0015】),これらの記載及び周知技術に照らせば,当業者であれば,RNA干渉誘導活性を維持したまま,リボヌクレオチドを適切に修飾できるものを選択することは,過度の実験を要するものではない。 よって,発明の詳細な説明の記載が,請求項4ないし7に記載の発明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。また,請求項4ないし7の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 (3)小括 したがって,請求項4ないし7について,本件特許は特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとはいえない。 3-4 請求項8ないし10について (1)-1 請求人の審判請求書における主張 ア 請求項8について,請求項の記載には,「得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである」とあるが,発明の詳細な説明においても,どのようにすればRNA干渉が可能になるかどうかについて,記載も示唆も一切無い。従って,請求項8は,特許法第36条第6項第1号及第4項に規定する要件を満たさないので,特許性を有さない。請求項9及び10についても同様である。 (1)-2 請求人の請求人口頭審理陳述要領書における主張 イ 被請求人は,請求項に記載の「単離された二本鎖RNA分子」は,元々は天然の環境下において混合物として存在しており,単独のものとして存在することが認められていなかった物であって,異なる化学構造を有する分子種から分離され,単離された形態となっていると主張する。しかし,本請求項9には,RNA鎖が化学的に合成される,と記載されており,天然のものとして存在すると認められないので,当業者であっても,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2)請求人の主張に対する判断 アについて 請求項8の「得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである」との記載は,請求項8に記載された構造を有するRNA分子が有する性質を特定したに過ぎず,前記3-2の欄で述べたとおり,請求項8に記載された構造を有する二本鎖RNA分子であれば,RNA干渉を誘導できる蓋然性が高い。また,上記の「得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである」との特定は,例外的にRNA干渉が誘導できない場合を除外するための特定であると認められる。よって,RNA干渉を誘導できる二本鎖RNA分子を作成するために過度の実験を要するものではないし,発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。さらに合成手法について特定した請求項9及び10についても同様である。 よって,発明の詳細な説明の記載が,請求項8ないし10に記載の発明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。また,請求項8ないし10の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 イについて 請求項9が引用する請求項8は,請求項1から7のいずれか1項に記載の二本鎖RNA分子の作製方法であり,もともと天然に存在する核酸を化学的に合成することは,当業者における周知技術であるから,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないといえない。また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 (3)小括 したがって,請求項8ないし10について,本件特許は特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとはいえない。 3-5 請求項11ないし20について (1)請求人の審判請求書における主張 請求項11について,請求項の記載には,「標的特異的なRNA干渉が起こりうる条件下で,」とあるが,発明の詳細な説明においても,どのような条件が,標的特異的なRNA干渉が起こりうる条件かについて,記載も示唆も一切無い。実際,甲第4号証に記載のように,本件出願当時は,27塩基長の二本鎖RNAさえ,遺伝子発現抑制効果が観察されなかった理由が不明であり,そうすると,標的特異的なRNA干渉が起こりうる条件さえ明らかではなかった。従って,請求項11は,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たさないので,特許性を有さない。請求項11を直接的又は間接的に引用する請求項12ないし20についても同様である。 (2)請求人の審判請求書における主張に対する判断 請求項11について,記載事項(甲1-a),(甲3-a)にもあるように,本件出願前,RNA干渉については種々の生物種で観察され,実験も行われていたから,RNA干渉が起こりうる条件を設定することは,当業者であれば過度の実験を要することなく適宜なし得たことである。 そして,甲第4号証の記載については,前記3-2の欄において述べたとおり,甲第4号証においてRNA干渉が観察されなかった27塩基長の二本鎖RNA分子は,3’突出部を有しておらず,塩基長も19から23の範囲に含まれないから,甲第4号証に示された二本鎖RNA分子は本件請求項11に記載された二本鎖RNA分子に包含されないので,請求人の主張は参酌できない。請求項11を引用する請求項12ないし20についても同様である。 よって,発明の詳細な説明の記載が,請求項11ないし20に記載の発明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。また,請求項11ないし20の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 (3)小括 したがって,請求項11ないし20について,本件特許は特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとはいえない。 3-6 請求項21ないし37について (1)請求人の審判請求書における主張 請求項21について,甲第4号証では,26,27,32,37,81という様々な塩基長の二本鎖RNAを試しているが,27塩基長の二本鎖RNAでは,遺伝子発現抑制効果が観察されなかった。そしてそれは,RNAの量を増やしたり,培養温度を下げたりすることによって,効果が見られるようになるかもしれないが,配列自身に問題があるかもしれないと書かれており,その原因は明らかではない。このように,「内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの二本鎖RNA分子,または少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの二本鎖RNA分子をコードするDNA」と言っても,記載されている条件の全ての二本鎖RNA分子に効果があるわけではなく,出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細は説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また,これらの核酸分子をどのように作製するか不明であって,効果があるものを選択するには,当業者にとっても,過度の試行錯誤が必要となる。よって,特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たさないので,特許性を有さない。 請求項26について,請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞を,あらゆる科学的な分析に用いることができるとは技術常識的に考えられないし,本件の発明の詳細な説明にも,あらゆる科学的な分析に用いることができるとの証明が無い。従って,請求項26は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていない。 請求項30について,請求項29に記載された発明の構成において,どのようにすれば標的タンパク質の機能ドメインが同定できるかについて,請求項には記載が無く,発明の詳細な説明にも記載がないし,当業者の技術常識を以ってしても,理解できない。従って,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていない。 請求項33について,請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞を,あらゆる科学的な調製に用いることができるとは技術常識的に考えられないし,本件の発明の詳細な説明にも,あらゆる科学的な調製に用いることができるとの証明が無い。従って,請求項33は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていない。 請求項34について,何らかの真核細胞からタンパク質またはタンパク質複合体を単離するために,請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞を,どのように使用するかについて,請求項には記載が無く,発明の詳細な説明にも記載がないし,当業者の技術常識を以ってしても理解できない。従って,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。また,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載されていない。 これらの請求項を引用する各請求項についても同様である。 (2)請求人の審判請求書における主張に対する判断 請求項21について,甲第4号証の記載については,前記3-2の欄において述べたとおり,甲第4号証においてRNA干渉が観察されなかった27塩基長の二本鎖RNA分子は,3’突出部を有しておらず,塩基長も19から23の範囲に含まれないから,甲第4号証に示された二本鎖RNA分子は本件請求項21に記載された二本鎖RNA分子に包含されないので,請求人の主張は参酌できず,請求項21に記載された構造を有する二本鎖RNA分子であれば,RNA干渉を誘導できる蓋然性が高い。 したがって,請求項21に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができ,また,請求項21に係る発明を実施するにあたり当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を要さない。 請求項26について,「分析手法」は請求項21ないし25のいずれか1項に記載の細胞を用いて行うのであるから,当業者であれば,そのような標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す細胞を用いてどのような分析に用いることができるかを容易に理解することができる。また,本件特許明細書の段落【0031】には,「分析方法,例えば遺伝子発現プロフィールおよび/またはプロテオームの分析などの,複雑な生理学的過程の機能および/または表現型分析に用いることができる」との記載があるから,当業者であれば,本件特許発明の二本鎖RNA分子によって標的遺伝子特異的ノックアウトを誘導した細胞を用いて,分析方法をどのように実施するかを明確に理解することができる。 したがって,請求項26に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないとはいえず,また,請求項26に係る発明を実施するにあたり当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を要するとまではいえない。 請求項30について,標的タンパク質の機能ドメインを同定するために,例えば,内因性標的遺伝子の発現を抑制した細胞に前記標的遺伝子中の特定の部位に変異を導入する(例えば,部分的に欠失させる)ことでmRNAが分解されないようにした遺伝子を前記細胞に導入し,前記細胞が,野生型の表現型を回復するかどうかを確認するなどすれば標的タンパク質の機能ドメインを同定できることを,当業者であれば理解できる。 請求項33について,「調製」との用語は,当業者においてタンパク質などを産生することを意味する一般的な技術用語であり,どのような細胞であっても,それを用いて各種の物質生産をすることができることは明らかである。また,本件特許明細書の段落【0038】にも「調製目的,例えば真核細胞,特に哺乳動物細胞,さらに具体的にはヒト細胞由来のタンパク質またはタンパク質複合体のアフィニティー精製に用いることもできる。」と記載されているから,請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞を用いてタンパク質を調製できることは当業者であれば理解できる。 請求項34についても,請求項33と同様の理由により,本件特許発明の細胞を用いてタンパク質またはタンパク質複合体を単離することが当業者であれば理解できる。 これらの請求項を引用する各請求項についても同様である。 よって,発明の詳細な説明の記載が,請求項21ないし37に記載の発明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。また,請求項21ないし37の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとまではいえない。 (3)小括 したがって,請求項21ないし37について,本件特許は特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとはいえない。 3-7 請求項38及び39について (1)請求人の審判請求書における主張 請求項38について,甲第4号証では,26,27,32,37,81という様々な塩基長の二本鎖RNAを試しているが,27塩基長の二本鎖RNAでは,遺伝子発現抑制効果が観察されなかった。そしてそれは,RNAの量を増やしたり,培養温度を下げたりすることによって,効果が見られるようになるかもしれないが,配列自身に問題があるかもしれないと書かれており,その原因は明らかではない。請求項の記載には,「上記少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる,少なくとも1つの二本鎖RNA分子」とあるが,発明の詳細な説明においても,どのようにすればこのような二本鎖RNA分子の製造が可能になるかどうかについて,記載も示唆も一切無い。また,請求項38における実施可能要件及びサポート要件の不備も請求項39においても解消されていない。 (2)請求人の審判請求書における主張に対する判断 甲第4号証の記載については,前記3-2の欄において述べたとおり,甲第4号証においてRNA干渉が観察されなかった27塩基長の二本鎖RNA分子は,3’突出部を有しておらず,塩基長も19から23の範囲に含まれないから,甲第4号証に示された二本鎖RNA分子は本件請求項38に記載された二本鎖RNA分子に包含されないので,請求人の主張は参酌できず,請求項38に記載された構造を有する二本鎖RNA分子であれば,RNA干渉を誘導できる蓋然性が高い。請求項38を引用する請求項39についても同様である。 よって,発明の詳細な説明の記載が,請求項38及び39に記載の発明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。また,請求項38及び39の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 (3)小括 したがって,請求項38及び39について,本件特許は特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとはいえない。 3-8 小括(無効理由3について) 以上のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし39は,発明の詳細な説明の記載が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから,請求人が主張する無効理由は,いずれも理由がない。 4 請求人が主張する無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について 4-1 請求人は,請求項3ないし5,16,17,19,20,24,26,27,33,35,38及び39に記載の発明特定事項の記載が明確でないので,これらの請求項及びこれらを引用する請求項28ないし32,34,36及び37は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものであると主張している。 4-2 請求人の審判請求書における主張 請求人は,審判請求書において以下のように主張している。 (1)請求項3について,当業者であっても,「安定化」というのが,どのような安定化か理解できないので,請求項3は特許を受けようとする発明が明確でない。 (2)請求項4について,当業者であっても,「修飾されたリボヌクレオチド」というのが,どのような修飾であるか理解できないので,請求項4は特許を受けようとする発明が明確でない。 (3)請求項5について,当業者であっても,「糖,骨格鎖または核酸塩基修飾リボヌクレオチド」というのが,糖,骨格鎖または核酸塩基が修飾されていることは理解できるものの,どのような修飾であるか理解できないので,請求項5は特許を受けようとする発明が明確でない。 (4)請求項16について,遺伝子が「病理的状態と関連する」とは,当業者であっても,どのように関連するのか理解できないので,請求項16は特許を受けようとする発明が明確でない。 (5)請求項17について,「病原体関連遺伝子」とは,当業者であっても,どのような遺伝子であるのか理解できないので,請求項17は特許を受けようとする発明が明確でない。 (6)請求項19について,「腫瘍関連遺伝子」とは,当業者であっても,どのような遺伝子であるのか理解できないので,請求項19は特許を受けようとする発明が明確でない。 (7)請求項20について,「自己免疫疾患関連遺伝子」とは,当業者であっても,どのような遺伝子であるのか理解できないので,請求項20は特許を受けようとする発明が明確でない。 (8)請求項24について,「突然変異形態」とはどういう意味か当業者にとって理解できない。また,「この外因性標的核酸は,二本鎖RNA分子による該外因性標的核酸の発現の阻害が,内因性標的遺伝子の発現より低い」とあるが,「Aの発現の阻害がBの発現より低い」とは,発現の阻害がAの方が高いのかBの方が高いのか,あるいは発現レベルがAの方が高いのかBの方が高いのか,理解できない。従って,請求項24は特許を受けようとする発明が明確でない。 (9)請求項26について,「分析」とは,何をどのように分析するのか,当業者にとっても不明確であるから請求項26は特許を受けようとする発明が明確でない。また,請求項29について,外因性標的核酸によってコードされる標識タンパク質の変異体または突然変異形態の分析をどのように行うのかが不明であるため,請求項26における,請求項の記載の不明確性は請求項29においても解消されておらず,明確でない。 (10)請求項27について,「遺伝子発現プロフィールを分析する」とは,どのような遺伝子について発現プロフィールをどのように分析するのか,当業者にとっても不明確であるから,請求項27は特許を受けようとする発明が明確でない。 (11)請求項33について,「調製」とは,何をどのように調製するのか,当業者にとっても不明確であるから,請求項33は特許を受けようとする発明が明確でない。 (12)請求項35について,「高分子量タンパク質複合体」における「高分子量」とは,どの程度の分子量を意味するのか明確ではない。 (13)請求項38について,「薬理学的特性」とは,どのような特性であるのか理解できず,本発明によって,どのようなものまで決定できるのか明らかでないから,請求項38は特許を受けようとする発明が明確でない。 (14)請求項39について,「突然変異形態」とはどういう意味か当業者にとって理解できない。また,「この外因性標的核酸は,二本鎖RNA分子による発現の阻害が,上記内因性標的遺伝子の発現より低い」とあるが,「Aの発現の阻害がBの発現より低い」とは,発現の阻害がAの方が高いのかBの方が高いのか,あるいは発現レベルがAの方が高いのかBの方が高いのか,理解できないから,請求項39は特許を受けようとする発明が明確でない。 これらの請求項を引用する請求項28ないし32,34,36及び37についても同様に明確でない。 4-3 請求人の主張に対する判断 (1)について,請求項3には「安定化」は分解に対する安定化であることが記載されており,二本鎖RNA分子は細胞内で機能するものであるから,当業者であれば「安定化」とは細胞内での核酸の分解に対する安定化であることを理解でき,そのような手法は本件特許出願前当業者において既に周知の技術であった。 また,本件特許明細書の段落【0014】には,3’突出部の安定化に関する詳細な説明があり,当業者であれば,請求項3において意図する「安定化」がどのようなものかを理解できるから,不明確とはいえない。 (2)及び(3)について,細胞内で機能する二本鎖RNA分子の修飾とは,細胞内で機能させるために安定化するための修飾であることが理解でき,そのような修飾の方法は本件特許出願前当業者において既に周知の技術であった。 また,本件特許明細書の段落【0015】や【0016】には修飾の仕方が記載されており,これらの記載及び本件特許出願前の周知技術に照らせば,当業者であれば,どのような修飾であるか理解できるから,不明確とはいえない。 (4)ないし(7)について,「病原体関連遺伝子」,「腫瘍関連遺伝子」及び「自己免疫疾患関連遺伝子」は本件特許出願前の一般的な技術用語であり,当業者であれば,どのような遺伝子がその範囲に含まれるかが理解できるから,不明確とはいえない。 また,本件特許明細書の段落【0025】には,「標的遺伝子は,病理的状態と関連するものでもよい。例えば,遺伝子は,病原体関連遺伝子,例えば,ウイルス遺伝子,腫瘍関連遺伝子または自己免疫疾患関連遺伝子としうる。」と記載されており,これらの例示された遺伝子は当業者において周知であり,該記載及び周知技術に照らせば,当業者であれば,各遺伝子に応じてそれぞれがどのように病理的状態と関連する遺伝子であるかが理解できるから,不明確とはいえない。 (8)及び(14)について,「突然変異形態」との記載は平成23年12月22日付け訂正請求により削除されたので,該記載についての理由は解消している。 また,請求項24の「この外因性標的核酸は,二本鎖RNA分子による該外因性標的核酸の発現の阻害が,内因性標的遺伝子の発現より低い」という記載については,当業者であるならば,「この外因性標的核酸は,二本鎖RNA分子による該外因性標的核酸の発現の阻害が,内因性標的遺伝子の発現の阻害より低い」と正しく理解できるから,不明確とまではいえない。請求項39の記載についても同様である。 (9)について,RNA干渉を用いて遺伝子の機能を研究することは,本件特許出願前既に周知技術であったから,当業者であれば請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞を,どのような科学的分析に用いることができるか容易に理解できるので,不明確とはいえない。 (10)について,「遺伝子発現プロフィール」とは細胞や組織における遺伝子発現の全体の様子であり,標的遺伝子の発現が阻害されれば遺伝子発現プロフィールに影響が生じ得ることは明らかであるから,当業者であれば,標的遺伝子の発現プロフィールの分析をどのように行うか理解できる。 また,本件特許明細書の段落【0031】及び段落【0034】には,遺伝子発現プロフィールを分析することについて,複雑な生理学的過程の機能および/または表現型分析に用いることが記載されており,該記載及び本件特許出願前の技術常識に照らせば,当業者であれば,目的の遺伝子をどのように分析するかが理解できるので,不明確とはいえない。 (11)及び(12)について,「調製」とはタンパク質の産生などを意味する当業者において一般的な技術用語であり,請求項21ないし25のいずれか1項に記載の細胞を用いて調製できるものであれば何でも含まれることは当業者であれば理解できる。 「高分子量」との記載は,バイオや化学の分野で通常用いられる用語であり,その範囲もある程度理解できるから,特に不明確とまではいえない。 また,本件特許明細書の段落【0038】及び段落【0039】には,「調製目的,例えば真核細胞,特に哺乳動物細胞,さらに具体的にはヒト細胞由来のタンパク質またはタンパク質複合体のアフィニティー精製に用いることもできる。・・・上記調製方法を用いて,高分子量のタンパク質複合体を精製することができ,これらの複合体は,質量が,好ましくは150kD以上,さらに好ましくは500kD以上であり,これらは,場合に応じて,RNAのような核酸を含んでいてもよい。」と記載されているので,調製とは細胞からタンパク質を精製することなどであること,高分子量とは,150kD以上であることが示されているから,当業者であれば「調製」及び「高分子量」がどのようなものか理解できるので,不明確とまではいえない。 (13)について,「薬理学的特性」とは一般的な技術用語であり,当業者であれば調べようとする物質に応じた薬理学的特性を理解できるので,不明確とはいえない。 これらの請求項を引用する請求項28ないし32,34,36及び37についても同様に,本件特許明細書の記載及び技術常識に照らせば,当業者であれば理解することができるので,不明確とまではいえない。 4-4 小括(無効理由4について) 以上のとおりであるから, 請求項3ないし5,16,17,19,20,24,26,27,33,35,38及び39に記載の発明特定事項の記載は明確であり,これらを引用する請求項28ないし32,34,36及び37についても明確であるから,請求人が主張する無効理由は,いずれも理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるから,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,甲第3号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,同請求項に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり,請求項8ないし10に係る発明は,甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同請求項に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,これらの請求項に係る発明の特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 また,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項3ないし7,11ないし39に係る発明の特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第64条の規定により,その34/39を請求人が,5/39を被請求人が負担するものとする。 よって,結論のとおり審決する。 平成24年 9月20日 審判長 特許庁審判官 鵜飼 健 特許庁審判官 六笠 紀子 特許庁審判官 冨永 みどり |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 RNA干渉を媒介する短鎖RNA分子 【技術分野】 【0001】 本発明は、RNA干渉および/またはDNAメチル化などの標的特異的な核酸改変を媒介するのに必要な二本鎖(ds)RNAの配列および構造的特徴に関する。 【背景技術】 【0002】 「RNA干渉(RNAインターフェアランス)」(RNAi)は、線虫(C.elegans)にdsRNAを注入すると、送達したdsRNAと配列が高度に相同的な遺伝子の特異的サイレンシングが起こるという発見後、造り出された用語である(Fireら、1998)。その後、RNAiは、昆虫、カエル(Oelgeschlagerら、2000)、ならびに、マウスを含むその他の動物(Svobodaら、2000;WiannyおよびZernicka-Goetz,2000)でも観察されており、ヒトにも存在すると考えられる。RNAiは、植物における共抑制および真菌における抑制の転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)機構と密接に関連しており(Catalanottoら、2000;CogoniおよびMacino,1999;Dalmayら、2000;KettingおよびPlasterk,2000;Mourrainら、2000;Smardonら、2000)、また、RNAi機構の構成要素には、共抑制による転写後サイレンシングに必要なものもある(Catalanottoら、2000;Dernburgら、2000;KettingおよびPlasterk,2000)。これについては、近年再考されている(Bass,2000;BosherおよびLabouesse,2000;Fire,1999;PlasterkおよびKetting,2000;Sharp,1999;SijenおよびKooter,2000)。また、Plant Molecular Biology、第43巻、2/3号(2000)全体も参照されたい。 【0003】 植物では、PTGSに加えて、導入されたトランスジーンも、シトシンのRNA指令DNAメチル化を介した転写遺伝子サイレンシングを誘導することができる(Wassenegger,2000の文献を参照)。植物では、30bpという短いゲノム標的がRNA指令方式でメチル化される(Pelissier,2000)。DNAメチル化は哺乳動物にも存在する。 【0004】 RNAiおよび共抑制の天然の機能は、活性となったとき、宿主細胞に異常RNAまたはdsRNAを産生するレトロトランスポゾンやウイルスなどの可動性遺伝的エレメントによる侵入に対してゲノムを保護することであると考えられる(Jensenら、1999;Kettingら、1999;Ratcliffら、1999;Tabaraら、1999)。特異的mRNA分解により、トランスポゾンおよびウイルスの複製が阻止されるが、PTGSを抑制するタンパク質を発現させることにより、この過程を克服または阻止することができる(Lucyら、2000;Voinnetら、2000)。 【0005】 dsRNAは、dsRNAとの同一性の領域内でしか相同性RNAの特異的分解を誘発しない(Zamoreら、2000)。dsRNAは21?23塩基のRNA断片にプロセシングされ、標的RNA切断部位は、通常、21?23塩基の間隔である。従って、21?23塩基の断片が、標的認識のためのガイド(guide)RNAであると考えられてきた(Zamoreら、2000)。これらの短いRNAは、細胞溶解の前にdsRNAでトランスフェクトしたキイロショウジョウバエシュナイダー2細胞から調製した抽出物でも検出されている(Hammondら、2000)が、配列特異的ヌクレアーゼ活性を呈示する画分も、残留dsRNAの大きな画分を含んでいた。mRNA切断の指示における21?23塩基断片の役割は、プロセシングされたdsRNAから単離された21?23塩基断片が、特異的mRNA分解をある程度まで媒介することができるという研究結果によってさらに支持される(Zamoreら、2000)。類似サイズのRNA分子は、PTGSを示す植物組織にも蓄積する(HamiltonおよびBaulcombe,1999)。 【0006】 ここで、本発明者は、確立されたショウジョウバエin vitro系(Tuschlら、1999;Zamoreら、2000)を用いて、RNAiの機構をさらに探究した。本発明者は、21および22塩基の短いRNAが、3’突出末端と塩基対合すると、配列特異的mRNA分解のガイドRNAとして作用することを証明する。30bpの短いdsRNAは、もはや21および22塩基のRNAにプロセシングされることはないため、この系でRNAiを媒介することはできない。さらに、本発明者は、21および22塩基という短鎖の干渉作用を有するRNA(siRNA)に対する標的RNA切断部位を特定し、dsRNAプロセシングの方向が、生成されるsiRNPエンドヌクレアーゼ複合体により、センスまたはアンチセンス標的RNAが切断されうるか否かを決定する証拠を提供する。siRNAはまた、転写調節、例えば、DNAメチル化を指示することによって哺乳動物遺伝子のサイレンシングのための重要なツールにもなりうる。 【0007】 ヒトin vivo細胞培養系(HeLa細胞)でさらに実験したところ、好ましくは19?25塩基長の二本鎖RNA分子がRNAi活性を有することがわかった。従って、ショウジョウバエからの結果とは対照的に、24および25塩基長の二本鎖RNA分子もRNAiに有効である。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明の目的は、標的特異的RNA干渉またはDNAメチル化のような他の標的特異的な核酸改変を媒介することができる新規の物質を提供することであり、この物質は、従来の技術による物質と比べて、効力および安全性が改善されている。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記課題は、各RNA鎖が19?25、特に19?23塩基長を有し、かつ、該RNA分子が、標的特異的な核酸改変、特にRNA干渉および/またはDNAメチル化を媒介することが可能な、単離された二本鎖RNA分子により解決される。少なくとも1本の鎖が、好ましくは1?5塩基、さらに好ましくは1?3塩基、最も好ましくは2塩基からなる3’突出部を有する。他方の鎖は、平滑末端であるか、あるいは、6塩基以下の3’突出部を有する。また、dsRNAの両鎖が厳密に21または22塩基の場合には、両末端が平滑である(0塩基の突出部)とき、ある程度のRNA干渉を観察することができる。RNA分子は、細胞抽出物中に存在する不純物、例えば、ショウジョウバエ胚を実質的に含まない合成RNA分子であることが好ましい。さらに、RNA分子は、好ましくは、非標的特異的不純物、特に非標的特異的RNA分子、例えば、細胞抽出物中に存在する不純物を実質的に含まない。 【0010】 さらには、本発明は、哺乳動物細胞、特にヒト細胞における標的特異的な核酸改変、特にRNAiを媒介することを目的とした、各RNA鎖が19?25塩基長を有する単離された二本鎖RNA分子の使用に関する。 【0011】 驚くべきことに、特に、3’突出末端を有する短い合成二本鎖RNA分子が、RNAiの配列特異的媒介物質であり、有効な標的RNA切断を媒介し、その際、この切断部位は、短鎖RNAが指示(ガイド;guide)する範囲の領域の中心近くに位置することがわかった。 【0012】 RNA分子の各鎖は、20?22塩基長(または哺乳動物細胞では20?25塩基長)を有するのが好ましく、各鎖の長さは同じでも異なっていてもよい。好ましくは、3’突出部は、1?3塩基の範囲にあり、この突出部の長さは、鎖によって同じでも異なっていてもよい。RNA鎖は、3’ヒドロキシル基を有するのが好ましい。5’末端は、好ましくは、リン酸、二リン酸、三リン酸またはヒドロキシル基を含む。最も有効なdsRNAは、1?3塩基、特に2塩基の3’突出部がdsRNAの両端に存在するように、対合した2本の21塩基の鎖から構成される。 【0013】 siRNAにより指示される標的RNA切断反応は、高度に配列特異的である。しかし、siRNAの全ての位置が等しく標的認識に寄与するわけではない。siRNA二本鎖の中心におけるミスマッチが最も重要で、標的RNA切断をほとんど破壊する。これに対し、一本鎖標的RNAと相補的なsiRNA鎖の3’ヌクレオチド(例えば、位置21)は、標的認識の特異性に寄与しない。さらに、アンチセンスsiRNA鎖だけが標的認識を指示するため、標的RNAと同じ極性を有するsiRNAの非対合2塩基3’突出部の配列は、標的RNA切断に重要ではない。従って、一本鎖突出塩基(ヌクレオチド)から、アンチセンスsiRNAの最後から2番目の位置(例えば、位置20)だけが標的センスmRNAと一致する必要がある。 【0014】 驚くべきことに、本発明の二本鎖RNA分子は、血清または細胞培養用の増殖培地において高いin vivo安定性を呈示する。安定性をさらに高めるため、3’突出部を分解に対して安定化させる、例えば、これらが、プリンヌクレオチド、特にアデノシンまたはグアノシンヌクレオチドからなるように、選択することができる。あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば、2’-デオキシチミジンによるウリジン2塩基の3’突出部の置換は許容されるものであり、RNA緩衝の効率に影響しない。また、2’ヒドロキシルの欠如により、組織培地中の突出部のヌクレアーゼ耐性が有意に増強される。 【0015】 本発明の特に好ましい実施形態では、RNA分子は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド類似体を含むことができる。ヌクレオチド類似体は、標的特異的活性、例えば、RNAi媒介活性が実質的に影響を受けない位置、例えば、二本鎖RNA分子の5’末端および/または3’末端の領域内に配置することができる。特に、修飾ヌクレオチド類似体を組み込むことにより、突出部を安定化させることができる。 【0016】 好ましいヌクレオチド類似体は、糖または骨格鎖修飾リボヌクレオチドから選択する。しかし、核酸塩基が修飾されたリボヌクレオチド、すなわち、天然に存在する核酸塩基ではなく、下記のように天然に存在しない核酸塩基を含むリボヌクレオチドも好適であることに留意すべきである:すなわち、天然に存在しない核酸塩基としては、5位置で修飾されたウリジンまたはシチジン、例えば、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン;8位で修飾されたアデノシンおよびグアノシン、例えば、8-ブロモグアノシン;デアザヌクレオチド、例えば、7-デアザ-アデノシン;O-およびN-アルキル化ヌクレオチド、例えば、N6-メチルアデノシンなどである。好ましい糖修飾リボヌクレオチドでは、H、OR、ハロ、SH、SR、NH_(2)、NHR、NR_(2)またはCNからなる群より選択される基で2’OH基を置換するが、ここで、Rは、C_(1)?C_(6)アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、ハロは、F、Cl、BrまたはIである。好ましい骨格鎖修飾リボヌクレオチドでは、隣接するリボヌクレオチドを結合するホスホエステル基を、例えば、ホスホチオエート基の修飾基で置換する。前述した修飾を組み合わせてもよいことに留意されたい。 【0017】 標的特異的RNAiおよび/またはDNAメチル化を媒介するためには、本発明の二本鎖RNA分子の配列は、核酸標的分子に対し十分な同一性を有していなければならない。好ましくは、この配列は、RNA分子の二本鎖部分における所望の標的分子に対して、少なくとも50%、特に少なくとも70%の同一性を有する。さらに好ましくは、同一性は、RNA分子の二本鎖部分において少なくとも85%、最も好ましくは100%である。予め決定した核酸標的分子、例えば、mRNA標的分子に対する二本鎖RNA分子の同一性は、下記のように決定することができる: 【数1】 ![]() (式中、Iは、同一性のパーセンテージであり、nは、dsRNA分子の二本鎖部分における同一塩基数であり、Lは、dsRNAの二本鎖部分と標的との配列重複部分の長さである)。 【0018】 これ以外に、3’突出部、特に、1?3塩基長を有する突出部を含む二本鎖RNA分子の標的配列に対する同一性も決定することができる。この場合、配列同一性は、標的配列に対して、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも85%である。例えば、二本鎖の3’突出部からの塩基、5’および/または3’末端からの2以下の塩基は、活性を有意に失うことなく修飾することができる。 【0019】 本発明の二本鎖RNA分子は、下記のステップを含む方法によって作製することができる: (a)各々が19?25塩基長、例えば19?23塩基長を有する2本のRNA鎖を合成するステップであって、このRNA鎖は二本鎖RNA分子を形成することができるものであり、好ましくは少なくとも1本が1?5塩基の3’突出部を有する、上記ステップ、 (b)二本鎖RNA分子が形成される条件下で合成RNA鎖を結合させるステップであって、得られる二本鎖RNA分子は標的特異的な核酸改変、特にRNA干渉および/またはDNAメチル化を媒介することが可能なものである、上記ステップ。 【0020】 RNA分子を合成する方法は、当業者には公知である。本発明では、特に、VermaおよびEckstein(1998)に記載されている化学的合成方法を例示する。 【0021】 一本鎖RNAは、合成DNA鋳型、または組換え細菌から単離したDNAプラスミドからの酵素の転写により作製することができる。典型的には、T7、T3またはSP6RNAポリメラーゼのようなファージRNAポリメラーゼを用いる(MilliganおよびUhlenbeck(1989))。 【0022】 本発明の別の態様は、以下のステップを含む、細胞または生物における標的特異的な核酸改変、特にRNA干渉および/またはDNAメチル化を媒介する方法に関する: (a)標的特異的な核酸改変が起こりうる条件下で、上記細胞または生物を本発明の二本鎖RNA分子と接触させるステップ、 (b)上記二本鎖RNAと実質的に対応する配列部分を有する標的核酸に対する、上記二本鎖RNAにより引き起こされる標的特異的な核酸改変を媒介するステップ。 【0023】 好ましくは、接触ステップ(a)は、標的細胞(例えば細胞培養物中の、例えば単離した標的細胞)、単細胞微生物、または多細胞生物内の標的細胞もしくは複数の標的細胞に、二本鎖RNA分子を導入することを含む。さらに好ましくは、導入ステップは、例えば、リポソームキャリアまたは注射によるキャリア媒介の送達を含む。 【0024】 本発明の方法を用いて、RNA干渉を媒介することが可能な細胞または生物における遺伝子の機能を決定する、あるいは、細胞または生物における遺伝子の機能を調節することさえできる。上記細胞は、好ましくは真核細胞または細胞系、例えば植物細胞または動物細胞(哺乳動物細胞など)、例えば胚細胞、多能性幹細胞、腫瘍細胞、例えば奇形癌細胞またはウイルス感染細胞である。上記生物は、好ましくは真核生物、例えば、植物または動物、例えば哺乳動物、特にヒトなどである。 【0025】 本発明のRNA分子が指令する対象となる標的遺伝子は、病理的状態と関連するものでもよい。例えば、遺伝子は、病原体関連遺伝子、例えば、ウイルス遺伝子、腫瘍関連遺伝子または自己免疫疾患関連遺伝子としうる。標的遺伝子はまた、組換え細胞または遺伝的に改変された生物において発現された異種遺伝子であってもよい。このような遺伝子の機能を決定または調節する、特に阻害することにより、農業または医学もしくは獣医学の分野で有用な情報および治療利益が得られると考えられる。 【0026】 dsRNAは、通常、医薬組成物として投与される。この投与は、核酸を所望の標的細胞にin vitroまたはin vivoで導入する公知の方法により実施される。通常用いられる遺伝子伝達法として、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーションおよびマイクロインジェクション、ならびに、ウイルス法が挙げられる(Graham,F.L.およびvan der Eb,A.J.(1973)Virol.52,456;McCutchan,J.H.およびPagano,J.S.(1968)J.Natl.Cancer Inst.41,351;Chu,G.ら(1987)Nucl.Acids Res.15,1311;Fraley,Rら(1980)J.Biol.Chem.255,10431;Capechi,M.R.(1980)Cell 22,479)。細胞へのDNAの導入方法の技術群に、近年、カチオンリポソームの使用が加わった(Felgner,P.L.ら(1987),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413)。市販されているカチオン脂質製剤として、例えば、Tfx50(Promega)またはリポフェクトアミン2000(Life Technologies)がある。 【0027】 従って、本発明はまた、有効物質として前述した少なくとも1つの二本鎖RNA分子と、薬学的キャリアを含む医薬組成物に関する。この組成物は、ヒト医学または獣医学における診断および治療用途に用いることができる。 【0028】 診断または治療用途の場合、組成物は、溶剤(例えば注射液)、クリーム剤、軟膏、錠剤、懸濁剤などの形態とすることができる。組成物は、好適な方法、例えば注射、経口、局所、鼻内、直腸投与などにより、投与することができる。キャリアは、好適な薬学的キャリアであればいずれでもよい。好ましくは、RNA分子が標的細胞に侵入する効率を高めることができるキャリアを用いる。このようなキャリアの好適な例として、リポソーム、特にカチオンリポソームが挙げられる。さらに好ましい投与方法は注射である。 【0029】 RNAi法のさらに好ましい用途は、真核細胞、またはヒト以外の真核生物、好ましくは哺乳動物細胞もしくは生物、最も好ましくはヒト細胞、例えばHeLaもしくは293などの細胞系、またはげっ歯類、例えばラットおよびマウスの機能分析である。予め決定した標的遺伝子と相同的である好適な二本鎖RNA分子、または好適な二本鎖RNA分子をコードするDNA分子を用いたトランスフェクションにより、標的細胞(例えば、細胞培養物)または標的生物において、特異的ノックアウト表現型を獲得することができる。驚くべきことに、短い二本鎖RNA分子が存在しても、宿主細胞または宿主生物からのインターフェロン応答は起こらない。 【0030】 従って、本発明のさらに別の目的は、少なくとも1つの内因性標的遺伝子の少なくとも部分的に欠失した発現を含む標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す真核細胞またはヒト以外の真核生物であり、この細胞または生物は、少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することが可能な少なくとも1つの二本鎖RNA分子、あるいは、少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することが可能な少なくとも1つの二本鎖RNA分子をコードするDNAを用いてトランスフェクトされている。本発明により、RNAiの特異性のために、複数の異なる内因性遺伝子の標的特異的ノックアウトが可能となることに留意すべきである。 【0031】 細胞またはヒト以外の生物、特にヒト細胞または非ヒト哺乳動物の遺伝子特異的ノックアウト表現型は、分析方法、例えば遺伝子発現プロフィールおよび/またはプロテオームの分析などの、複雑な生理学的過程の機能および/または表現型分析に用いることができる。例えば、培養細胞中で、選択的スプライシング過程の調節因子と推定されるヒト遺伝子のノックアウト表現型を作製することができる。このような遺伝子として、特に、SRスプライシング因子ファミリーのメンバー、例えば、ASF/SF2,SC35、SRp20、SRp40またはSRp55が挙げられる。さらに、CD44のように、予め決定した、選択的にスプライシングされる遺伝子のmRNAプロフィールに対するSRタンパク質の作用を分析することができる。好ましくは、オリゴヌクレオチドを含むチップを用いたハイスループット方法により、分析を実施する。 【0032】 RNAiによるノックアウト技法を用いて、標的細胞または標的生物における内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる。内因性標的遺伝子は、標的タンパク質、または標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態をコードする内因性標的核酸、例えば、遺伝子またはcDNAによって相補することができ、このような核酸は、場合によっては、検出可能なペプチドまたはポリペプチドをコードする別の核酸配列、例えばアフィニティータグ、特に多重アフィニティータグと融合させてもよい。標的遺伝子の変異体または突然変異形態は、これらが、1または複数のアミノ酸の置換、挿入および/または欠失により、アミノ酸レベルで内因性遺伝子産物とは異なる遺伝子産物をコードする点で、内因性標的遺伝子とは異なる。変異体または突然変異形態は、内因性標的遺伝子と同じ生物活性を有しうる。これに対し、変異体または突然変異形態は、内因性標的遺伝子の生物活性とは異なる生物活性、例えば、部分的に欠失した活性、完全に欠失した活性、増強された活性などを有していてもよい。 【0033】 相補は、外因性核酸によりコードされるポリペプチド、例えば、標的タンパク質とアフィニティータグを含む融合タンパク質と、標的細胞において内因性遺伝子をノックアウトする二本鎖RNA分子を共発現させることにより、達成することができる。この共発現は、外因性核酸によりコードされるポリペプチド、例えば、タグで修飾した標的タンパク質と、二本鎖RNA分子の両方を発現する好適な発現ベクターを用いて、あるいは、発現ベクターの組合せを用いて、達成することができる。標的細胞において新たに合成されたタンパク質およびタンパク質複合体は、外因性遺伝子産物、例えば、修飾された融合タンパク質を含むことになる。RNAi二本鎖分子による外因性遺伝子産物発現の抑制を防止するため、外因性核酸をコードする塩基配列において、DNAレベルで(アミノ酸レベルでの突然変異誘発を含むまたは含まない)、二本鎖RNA分子と相同的な配列の部分を改変することができる。あるいは、内因性標的遺伝子を、他の種、例えばマウス由来の対応する塩基配列により相補してもよい。 【0034】 本発明の細胞または生物の好ましい用途は、遺伝子発現プロフィールおよび/またはプロテオームの分析である。特に好ましい実施形態では、1または複数の標的タンパク質の変異体または突然変異体形態の分析を実施するが、その際、前述したような外因性標的核酸により、この変異体または突然変異体形態を上記細胞または生物に再導入する。内因性遺伝子のノックアウトと、突然変異した、例えば部分的に欠失した外因性標的を用いることによる救済の組合せには、ノックアウト細胞の使用と比べて利点がある。さらに、この方法は、標的タンパク質の機能ドメインを同定するのに特に適している。さらに好ましい実施形態では、少なくとも2つの細胞または生物の、例えば遺伝子発現プロフィールおよび/またはプロテオームおよび/または表現型の特徴を比較する。これらの生物は、下記のものから選択する: (i)標的遺伝子阻害を含まない対照細胞または対照生物、 (ii)標的遺伝子阻害を含む細胞または生物、および (iii)標的遺伝子阻害と、外因性標的核酸による標的遺伝子の相補を含む細胞または生物。 【0035】 本発明の方法および細胞は、薬理学的物質の同定および/または特定決定、例えば、試験物質のコレクションからの新規な薬理学的物質の同定ならびに/または既知薬理学的物質の作用および/もしくは副作用の機構の特性決定を行なう手法にも適している。 【0036】 従って、本発明はまた、下記の(a)?(c)を含む、少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定システムに関する: (a)上記標的タンパク質をコードする少なくとも1つの内因性標的遺伝子を発現することができる、真核細胞またはヒト以外の真核生物、 (b)上記少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる、少なくとも1つの二本鎖RNA分子、および (c)薬理学的特性を同定および/または特性決定しようとする、試験物質または試験物質のコレクション。 【0037】 さらに、前記システムは、好ましくは、下記の(d)を含む: (d)上記標的タンパク質または該標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸であって、この外因性標的核酸は、二本鎖RNA分子による発現の阻害が、上記内因性標的遺伝子の発現より実質的に低いという点で、該内因性標的遺伝子とは核酸レベルで異なるものである、上記外因性標的核酸。 【0038】 さらに、RNAノックアウト相補方法は、調製目的、例えば真核細胞、特に哺乳動物細胞、さらに具体的にはヒト細胞由来のタンパク質またはタンパク質複合体のアフィニティー精製に用いることもできる。本発明のこの実施形態では、外因性標的核酸は、アフィニティータグと融合した標的タンパク質をコードするのが好ましい。 【0039】 上記調製方法を用いて、高分子量のタンパク質複合体を精製することができ、これらの複合体は、質量が、好ましくは150kD以上、さらに好ましくは500kD以上であり、これらは、場合に応じて、RNAのような核酸を含んでいてもよい。具体的例として、U4/U6 snRNP粒子の20kD、60kDおよび90kDタンパク質からなるヘテロ三量体タンパク質複合体、分子量が14、49、120、145および155kDの5つのタンパク質からなる17S U2 snRNP由来のスプライシング因子SF3b、ならびに、U4、U5およびU6 snRNA分子と約30のタンパク質を含む25S U4/U6/U5 tri-snRNP粒子(分子量は約1.7MD)が挙げられる。 【0040】 この方法は、哺乳動物細胞、特にヒト細胞における機能的プロテオーム分析に適している。 【0041】 以下の図面および実施例を参照にしながら、本発明をさらに詳しく説明する。 【0042】 図面の説明 図1:38bpという短い二本鎖RNAは、RNAiを媒介することができる。 【0043】 (A)Pp-luc mRNAをターゲッティングするのに用いたdsRNAのグラフ。29?504bpの範囲にある3系統の平滑末端dsRNAを調製した。dsRNAのセンス鎖の第1ヌクレオチドの位置は、Pp-luc mRNA(p1)の開始コドンを基準として示した。 【0044】 (B)RNA干渉アッセイ(Tuschlら、1999)。標的Pp-lucと対照Rr-luc活性の比は、バッファー対照(黒棒)に対して正規化した。dsRNA(5nM)をショウジョウバエ溶解物において25℃で15分プレインキュベートした後、7-メチル-グアノシン-キャップを有するPp-lucおよびRr-luc mRNA(約50pM)を添加した。インキュベーションをさらに1時間継続した後、二重ルシフェラーゼアッセイ(Promega)により分析した。データは、少なくとも4回の独立した実験からの平均値±標準偏差である。 【0045】 図2:29bpのdsRNAは、もはや21?23塩基の断片にプロセシングされない。ショウジョウバエ溶解物における内部^(32)P標識dsRNA(5nM)のプロセシングからの21?23mer形成の時間経過。dsRNAの長さおよび供給源を示す。RNAサイズマーカー(M)が左レーンにロードされており、断片のサイズを示す。時間0で認められる2つのバンドは、不完全に変性したdsRNAによるものである。 【0046】 図3:短いdsRNAは、mRNA標的を1回しか切断しない。 【0047】 (A)ショウジョウバエ溶解物におけるp133系統の10nM dsRNAと一緒に、キャップを^(32)Pで標識した10nMセンスまたはアンチセンスRNAを1時間インキュベートすることにより生成された安定な5’切断産物の変性ゲル電気泳動。長さマーカーは、キャップ標識した標的RNAの部分的ヌクレアーゼT1消化および部分的アルカリ加水分解(OH)により作製した。dsRNAによりターゲッティングされる領域は、両側が黒棒として示される。長さが111bpのdsRNAでは、優勢切断部位同士の間隔は、20?23塩基であることがわかる。水平方向の矢印は、RNAiによるものではない非特異的切断を示す。 【0048】 (B)センスおよびアンチセンス標的RNA上の切断部位の位置。キャップを有する177塩基のセンスおよび180塩基のアンチセンス標的RNAの配列は、逆平行配向をしており、相補配列が互いに向き合っている。様々なdsRNAによりターゲッティングされる領域は、センスおよびアンチセンス標的配列の間に位置する様々な色の棒によって示す。切断部位は丸で示す:大きな丸は強い切断を、小さな丸は弱い切断をそれぞれ示す。^(32)P放射性標識リン酸基は、星印で示す。 【0049】 図4:RNaseIII様機構により21および22塩基のRNA断片を作製する。 【0050】 (A)dsRNAプロセシング後の約21塩基RNAの配列。dsRNAプロセシングにより作製した約21塩基のRNA断片を定方向にクローニングした後、配列決定した。dsRNAのセンス鎖に由来するオリゴリボヌクレオチドを青色の線で示し、アンチセンス鎖に由来するものを赤色の線で示す。同じ配列が複数のクローンに存在する場合には太い棒を用い、右側の数字は頻度を示す。dsRNAが媒介する標的RNA切断部位はオレンジ色の丸で示し、大きな丸は強い切断を、また小さな丸は弱い切断をそれぞれ表す(図3B参照)。センス鎖の上部にある丸はセンス標的内の切断部位を、dsRNAの下にある丸はアンチセンス標的内の切断部位をそれぞれ示す。5以下の更なるヌクレオチドが、dsRNAの3’末端由来の約21塩基断片に確認された。これらのヌクレオチドは、主としてC、GまたはA残基のランダムな組合せであり、dsRNA構成鎖のT7転写中に、非鋳型様式で付加されたと考えられる。 【0051】 (B)約21塩基のRNAのヌクレオチド組成の二次元TLC分析。ショウジョウバエ溶解物における内部放射性標識504bp Pp-luc dsRNAのインキュベーションにより、約21塩基のRNAを作製し、ゲル精製した後、ヌクレアーゼP1(上列)またはリボヌクレアーゼT2(下列)でモノヌクレオチドに消化した。表示したα^(32)Pヌクレオシド三リン酸の1つの存在下での転写により、dsRNAを内部標識した。リン光イメージング(phosphorimaging)により放射活性を検出した。ヌクレオシド5’一リン酸、ヌクレオシド3’一リン酸、ヌクレオシド5’,3’二リン酸、および無機リン酸をそれぞれpN、Np、pNp、およびp_(i)で表す。黒丸は、非放射能キャリアヌクレオチドからのUV吸収斑を示す。3’,5’ビス-リン酸(赤丸)は、T4ポリヌクレオチドキナーゼとγ^(32)P-ATPによるヌクレオシド3’一リン酸の5’リン酸化により調製された放射性標識標準との同時泳動により確認した。 【0052】 図5:合成21および22塩基のRNAは、標的RNA切断を媒介する。 【0053】 (A)対照52bp dsRNA並びに合成21および22塩基dsRNAをグラフで表示した図。21および22塩基の短鎖干渉RNA(siRNA)のセンス鎖を青色で、アンチセンス鎖を赤色で示す。siRNAの配列は、二本鎖5の22塩基アンチセンス鎖を除いて、52および111bp dsRNAのクローン化断片(図4A)に由来する。二本鎖6および7のsiRNAは、111bp dsRNAプロセシング反応に特有のものであった。緑色で示す2つの3’突出塩基は、二本鎖1および3の合成アンチセンス鎖の配列に存在する。対照52bp dsRNAの両鎖は、in vitro転写により作製したため、転写物の画分には、非鋳型3’ヌクレオチド付加が含まれることもある。siRNA二本鎖により指令される標的RNA切断部位は、オレンジ色の丸で示し(図4Aの説明を参照)、図5Bに示したように決定した。 【0054】 (B)センスおよびアンチセンス標的RNA上の切断部位の位置。標的RNA配列は、図3Bに説明した通りである。ショウジョウバエ溶解物において、対照52bp dsRNA(10nM)または21および22塩基のRNA二本鎖1?7(100nM)を標的RNAと一緒に25℃で2.5時間インキュベートした。安定した5’切断産物がゲル上で分離された。切断部位を図5Aに示す。52bp dsRNAまたはセンス(s)もしくはアンチセンス(as)鎖は、ゲルの横に黒棒で示す。切断部位はすべてdsRNAの同一性領域内に位置する。アンチセンス鎖の切断部位の正確な決定のために、低いパーセンテージのゲルを用いた。 【0055】 図6:短いdsRNA上の長い3’突出部がRNAiを阻害する。 【0056】 (A)52bp dsRNA構築物をグラフで示した図。センスおよびアンチセンス鎖の3’延長部分をそれぞれ青色および赤色で示す。標的RNA上で観察された切断部位を図4Aと同様のオレンジ色の丸で表し、これらを図6Bで示したように決定した。 【0057】 (B)センスおよびアンチセンス標的RNA上の切断部位の位置。標的RNA配列は図3Bに説明した通りである。ショウジョウバエ溶解物において、dsRNA(10nM)を標的RNAと一緒に25℃で2.5時間インキュベートした。安定した5’切断産物をゲル上で分離させた。主要な切断部位は水平方向の矢印で示し、図6Aでも表示する。52bp dsRNAによりターゲッティングされる領域は、ゲル両側の黒棒で表示する。 【0058】 図7:RNAiのモデル案 RNAiは、主として21および22塩基の短鎖干渉RNA(siRNA)を生成するdsRNA(センス鎖は黒、アンチセンス鎖は赤)のプロセシングで開始すると推定される。短い3’突出塩基が、dsRNA上に存在すれば、これは、短鎖dsRNAのプロセシングに有益であると考えられる。これから特性決定しようとするdsRNAプロセシングタンパク質は、緑色および青色の長円形として表し、非対称にdsRNA上に集合させる。本発明のモデルでは、これは、推定上の青色タンパク質またはタンパク質ドメインと、3’から5’方向のsiRNA鎖との結合により説明されるのに対し、推定上の緑色タンパク質またはタンパク質ドメインは、向き合うsiRNA鎖と必ず結合する。これらのタンパク質またはサブセットは、siRNA二本鎖と会合したままであり、dsRNAプロセシング反応の方向により決定される配向を保存している。青色タンパク質と会合したsiRNA配列だけが標的RNA切断を指示することができる。エンドヌクレアーゼ複合体は、短い干渉リボ核タンパク質複合体またはsiRNPと呼ばれる。本発明では、dsRNAを切断するエンドヌクレアーゼは、恐らく、標的認識に使用されない受動siRNAを一時的に置換することにより、標的RNAも切断することができると推定する。次に、この標的RNAは、配列相補的ガイドsiRNAにより認識される領域の中心部で切断される。 【0059】 図8:リポーター構築物とsiRNA二本鎖。 【0060】 (a)プラスミドpGL2-Control、pGL-3-ControlおよびpRL-TK(Promega)からのホタル(Pp-luc)およびウミシイタケ(Rr-luc)ルシフェラーゼリポーター遺伝子領域を示す。SV40調節エレメント、HSVチミジンキナーゼプロモーターと、2つのイントロン(斜線)を示す。GL3ルシフェラーゼの配列はGL2と95%同一であるが、RLは、両者とまったく関連性がない。pGL2からのルシフェラーゼ発現は、トランスフェクトした哺乳動物細胞におけるpGL3からの発現に対して約10分の1低い。siRNA二本鎖によりターゲッティングされる領域は、ルシフェラーゼ遺伝子のコード領域下方の黒棒で表す。 【0061】 (b)GL2、GL3およびRLルシフェラーゼをターゲッティングするsiRNA二本鎖のセンス(上)およびアンチセンス(下)配列を示す。GL2およびGL3siRNA二本鎖は、3つの一塩基置換が異なるにすぎない(灰色で囲んだ箇所)。非特異的対照として、逆転GL2配列、すなわち、invGL2を有する二本鎖を合成した。2’-デオキシチミジンの2塩基3’突出部をTTとして表す。uGL2は、GL2siRNAと類似しているが、リボ-ウリジン3’突出部を含んでいる。 【0062】 図9:siRNA二本鎖によるRNA干渉。 【0063】 標的対照ルシフェラーゼの比をバッファー対照(bu、黒棒)に対して正規化した;灰色の棒は、フォティナス・ピラリス(Photinus pyralis)(Pp-luc)GL2またはGL3ルシフェラーゼと、レニラ・レニフォルミス(Renilla reniformis)(Rr-luc)RLルシフェラーゼの比を示し(左軸)、白色の棒は、RLとGL2またはGL3比を示す(右軸)。a、c、e、gおよびiの各表は、pGL2-ControlとpRL-TKリポータープラスミドの組合せを用いて実施した実験を示し、表b、d、f、hおよびjは、pGL3-ControlとpRL-TKリポータープラスミドを用いたものを示す。干渉実験に用いた細胞系は、各表の上部に示す。バッファー対照(bu)に対するPp-luc/Rr-lucの比は、正規化の前に各種被検細胞系間で、pGL2/pRLでは0.5?10、また、pGL3/pRLについては0.03?1の範囲をそれぞれ変動した。プロットしたデータは、3つの独立した実験の平均値±S.D.である。 【0064】 図10:HeLa細胞におけるルシフェラーゼ発現に対する21塩基のsiRNA、50bpおよび500bpのdsRNAの影響。 【0065】 長いdsRNAの正確な長さを棒の下に示す。表a、cおよびeは、pGL2-ControlとpRL-TKリポータープラスミドを用いて実施した実験を示し、表b、dおよびfは、pGL3-ControlとpRL-TKリポータープラスミドを用いたものを示す。データは、2つの独立した実験の平均値±S.D.である。 【0066】 (a)および(b)任意のルミネセンス単位でプロットした絶対Pp-luc発現。 【0067】 (c)および(d)任意のルミネセンス単位でプロットしたRr-luc発現。 【0068】 (e)および(f)正規化した標的と対照ルシフェラーゼの比。siRNA二本鎖についてのルシフェラーゼ活性の比は、バッファー対照(bu、黒棒)に対して正規化した;50または500bp dsRNAについてのルミネセンス比は、ヒト化GFP(hG、黒棒)由来の50および500bp dsRNAについて認められたそれぞれの比に対して正規化した。GL2およびGL3をターゲッティングする49および484bpのdsRNA間の配列の全相違は、GL2およびGL3標的間に特異性を賦与するのに十分ではなかった(49bp断片では43塩基の連続した同一性、484bp断片では239塩基の最長連続同一性)。 【0069】 図11:21塩基siRNA二本鎖の3’突出部の変動 (A)実験戦略の概要。キャップを有し、かつポリアデニル化されたセンス標的mRNAを描くと共に、センスおよびアンチセンスsiRNAの相対位置を示す。8つの異なるアンチセンス鎖に従って8系統の二本鎖を用意した。siRNA配列と、突出ヌクレオチドの数を1塩基ずつ変化させた。 【0070】 (B)5nM平滑末端dsRNAの存在下で、キイロショウジョウバエ胚溶解物において、対照ルシフェラーゼ(Renilla reniformis、Rr-luc)に対する、標的ルシフェラーゼ(Photinus pyralis、Pp-luc)の正規化相対ルミネセンス。dsRNAの存在下で決定したルミネセンス比は、バッファー対照で得られた比(bu、黒棒)に対して正規化した。1より小さい正規化比は、特異的干渉を意味する。 【0071】 (C?J)8系統の21塩基siRNA二本鎖について正規化した干渉比。siRNA二本鎖の配列を棒グラフの上方に表示する。各表は、所与のアンチセンスガイド(guide)siRNAと、5つの異なるセンスsiRNAにより形成された二本鎖のセットについての干渉比を示す。突出塩基の数(3’突出部は正の数;5’突出部は負の数)をX軸に示す。データ点は、少なくとも3回の独立した実験から平均したものであり、エラーバー(error bar)は標準偏差を表す。 【0072】 図12:siRNA二本鎖のセンス鎖の長さ変動。 【0073】 (A)実験をグラフで示す図。3つの21塩基アンチセンス鎖を8つのセンスsiRNAと対合させた。siRNAは、その3’末端で長さを変化させた。アンチセンスsiRNAの3’突出部は、1塩基(B)、2塩基(C)、または3塩基(D)であるのに対し、センスsiRNAの突出部は、各系統で変動させた。siRNA二本鎖の配列および対応する干渉比を表示する。 【0074】 図13:保存された2塩基3’突出部を有するsiRNA二本鎖の長さの変動。 【0075】 (A)実験をグラフで示す図。21塩基のsiRNA二本鎖は、図11Hまたは12Cに示したものと配列が同じである。siRNA二本鎖は、センスsiRNAの3’側(B)、またはセンスsiRNAの5’側(C)まで延長させた。siRNA二本鎖の配列およびそれぞれの干渉比を表示する。 【0076】 図14:siRNAリボース残基の2’-ヒドロキシル基の置換。 【0077】 siRNA二本鎖の鎖における2’-ヒドロキシル基(OH)は、2’-デオキシ(d)または2’-O-メチル(Me)によって置換した。3’末端での2塩基および4塩基2’-デオキシ置換をそれぞれ2塩基dおよび4塩基dとして表示する。ウリジン残基は2’-デオキシチミジンで置換した。 【0078】 図15:2塩基3’突出部を有する21塩基のsiRNA二本鎖によるセンスおよびアンチセンス標的RNA切断のマッピング (A)32P(星印)キャップ標識センスおよびアンチセンス標的RNAと、siRNA二本鎖をグラフで示した図。センスおよびアンチセンス標的RNA切断の位置は、siRNA二本鎖の上方および下方に、それぞれ三角形で示す。 【0079】 (B)標的RNA切断部位のマッピング。キイロショウジョウバエ胚溶解物において、100nM siRNA二本鎖と一緒に10nM標的を2時間インキュベートした後、5’キャップ標識基質と5’切断産物を配列決定用ゲル上で分離させた。標的RNAの部分的RNaseT1消化(T1)と部分的アルカリ加水分解(OH-)により、長さマーカーを作製した。画像左側の太線は、標的と同じ配向のsiRNA鎖1および5が占める領域を示す。 【0080】 図16:ガイドsiRNAの5’末端が、標的RNA切断の位置を画定する。 【0081】 (A、B)実験戦略をグラフで示した図。アンチセンスsiRNAは、すべてのsiRNA二本鎖で同じであるが、センス鎖は、3’末端を改変することにより18?25塩基までの間を(A)、または5’末端を改変することにより18?23塩基までの間(B)を変動させた。センスおよびアンチセンス標的RNA切断の位置は、siRNA二本鎖の上方および下方に、それぞれ三角形で示す。 【0082】 (C、D)キャップ標識センス(上の表)またはアンチセンス(下の表)標的RNAを用いた標的RNA切断の分析。キャップ標識の5’切断産物だけを示す。siRNA二本鎖の配列を表示すると共に、センスsiRNA鎖の長さを表の上部に示す。パネル(C)においてダッシュで示した対照レーンは、siRNAの不在下でインキュベートした標的RNAを示す。マーカーは、図15に記載した通りである。(D)の下部パネルの矢印は、1塩基だけ異なる標的RNA切断部位を示す。 【0083】 図17:siRNA二本鎖の3’突出部の配列変動 2塩基3’突出部(灰色のNN)は、表示したように配列および組成を改変した(T、2’-デオキシチミジン、dG、2’-デオキシグアノシン;星印、野生型siRNA二本鎖)。正規化した干渉比は、図11で記載したように決定した。野生型配列は図14に示したものと同じである。 【0084】 図18:標的認識の配列特異性。 【0085】 ミスマッチsiRNA二本鎖の配列を示し、修飾した配列部分または単一塩基を灰色で示す。基準二本鎖(ref)とsiRNA二本鎖1?7は、2’-デオキシチミジン2塩基突出部を含む。チミジンを修飾した基準二本鎖のサイレンシング効率は、野生型配列と同等であった(図17)。正規化した干渉比は、図11に記載したのと同様に決定した。 【0086】 図19:保存された2塩基3’突出部を有するsiRNA二本鎖の長さ変動。 【0087】 siRNA二本鎖は、センスsiRNAの3’側(A)、またはセンスsiRNAの5’側(B)まで延長した。siRNA二本鎖配列と、それぞれの干渉比を示す。HeLa SS6細胞については、GL2ルシフェラーゼをターゲッティングするsiRNA二本鎖(0.84μg)を、pGL2-ControlおよびpRL-TKプラスミドで一緒にトランスフェクトした。比較のため、キイロショウジョウバエ胚溶解物で試験したsiRNA二本鎖のin vitro RNAi活性を示す。 【実施例】 【0088】 実施例1 短い合成RNAにより媒介されるRNA干渉 1.1.実験手順 1.1.1 in vitro RNAi 以前記載されている(Tuschlら、1999;Zamoreら、2000)ように、in vitro RNAiおよび溶解物調製を実施した。最適なATP再生のためには、新しく溶解したクレアチンキナーゼ(Roche)を用いる必要がある。RNAi翻訳アッセイ(図1)は、5nMのdsRNA濃度と、25℃で15分の長いプレインキュベーション時間で実施した後、in vitro転写、キャッピングおよびポリアデニル化したPp-lucおよびRr-lucリポーターmRNAを添加した。インキュベーションを1時間継続した後、二重ルシフェラーゼアッセイ(Promega)およびモノライト3010Cルミノメーター(PharMingen)を用いて、Pp-lucおよびRr-lucタンパク質の相対量を分析した。 【0089】 1.1.2 RNA合成 標準的手順を用いて、T7またはSP6プロモーター配列を有するPCR鋳型からのRNAのin vitro転写を実施した(例えば、Tuschlら、1998を参照)。Expedite RNAホスホルアミダイト(Proligo)を用いて、合成RNAを調製した。ジメトキシトリチル-1,4-ベンゼンジメタノール-スクシニル-アミノプロピル-CPGを用いて、3’アダプターオリゴヌクレオチドを合成した。オリゴリボヌクレオチドを、3mlの32%アンモニア/エタノール(3/1)において、55℃で4時間(Expedite RNA)または55℃で16時間かけて脱保護した(3’および5’アダプターDNA/RNAキメラオリゴヌクレオチド)後、以前記載されている(Tuschlら、1993)ように、脱シリル化してからゲル精製した。長い3’突出部を含むdsRNAを調製するためのRNA転写物は、センス方向にT7プロモーターを、アンチセンス方向にSP6プロモーターを含むPCR鋳型から作製した。5’プライマーとしてGCGTAATACGACTCACTATAGAACAATTGCTTTTACAG(下線部、T7プロモーター)と、3’プライマーとしてATTTAGGTGACACTATAGGCATAAAGAATTGAAGA(下線部、SP6プロモーター)、ならびに、鋳型として線状化Pp-lucプラスミド(pGEM-luc配列)(Tuschlら、1999)を用いて、センスおよびアンチセンス標的RNA用の転写鋳型をPCR増幅した。T7転写センスRNAは、177塩基長であり、開始コドンに対して位置113?273のPp-luc配列と、これに続いて、3’末端にSP6プロモーター配列の17塩基の相補配列(complement)を含む。平滑末端dsRNA形成用の転写物は、単一のプロモーター配列だけを含む2つの異なるPCR産物からの転写によって調製した。 【0090】 フェノール/クロロホルム抽出により、dsDNAのアニーリングを実施した。0.3M NaOAc(pH6)における等モル濃度のセンスおよびアンチセンスRNA(利用可能な長さおよび量に応じて、50nM?10μM)を90℃で30秒インキュベートしてから、等量のフェノール/クロロホルムを用いて、室温で抽出した後、クロロホルム抽出により、残留フェノールを除去した。得られたdsRNAは、2.5?3容量のエタノールの添加により沈降させた。このペレットを溶解バッファー(100mM KCl、30mM HEPES-KOH、pH7.4、2mM Mg(OAc)_(2))中で溶解させ、1×TAEバッファー中の標準アガロースゲル電気泳動によりdsRNAの品質を確認した。17塩基および20塩基の3’突出部を有する52bpのdsRNA(図6)を95℃で1分インキュベートすることによりアニールしてから、70℃まで急冷した後、3時間かけてゆっくりと室温まで冷却した(50μlアニーリング反応、1μM鎖濃度、300mM NaCl、10mM Tris-HCl、pH7.5)。次に、このdsRNAをフェノール/クロロホルム抽出し、エタノール沈降させた後、溶解バッファー中に溶解させた。 【0091】 dsRNA調製に用いる内部^(32)P放射性標識RNAの転写(図2および4)は、1mM ATP、CTP、GTP、0.1または0.2mM UTP、および0.2?0.3μM-^(32)P-UTP(3000Ci/mmol)、あるいは、UTP以外の放射性標識ヌクレオシド三リン酸についてのそれぞれの比を用いて実施した。標的RNAのキャップの標識は、既述されている通りに実施した。キャップ標識後、標的RNAをゲル精製した。 【0092】 1.1.3 切断部位マッピング 10nM dsRNAを15分プレインキュベートした後、10nMキャップ標識標的RNAをを添加することにより、標準RNAi反応を実施した。プロテイナーゼK処理(Tuschlら、1999)により、さらに2時間(図2A)または2.5時間(図5Bおよび6B)インキュベートした後、反応を停止した。次に、8または10%配列決定用ゲル上でサンプルを分析した。21および22塩基の合成RNA二本鎖を100nM最終濃度で用いた(図5B)。 【0093】 1.1.4 約21塩基のRNAのクローニング 標的RNAの不在下で、ショウジョウバエ溶解物における放射性標識dsRNAのインキュベーションにより(200μl反応物、1時間インキュベーション、50nM dsP111、または100nM dsP52もしくはdsP39)、21塩基のRNAを生成した。次に、反応混合物をプロテイナーゼKで処理した(Tuschlら、1999)後、dsRNAプロセシング産物を変性15%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。少なくとも18?24塩基のサイズ範囲を含むバンドを除去し、0.3M NaClに4℃で一晩かけて溶離した後、シリコン処理管に導入した。エタノール沈降によりRNAを回収した後、脱リン酸化した(30μl反応物、30分、50℃、10Uアルカリホスファターゼ、Roche)。フェノール/クロロホルム抽出により反応を停止し、RNAをエタノール沈降させた。次に、3’アダプターオリゴヌクレオチド(pUUUaaccgcatccttctcx:大文字はRNA;小文字はDNA;pはリン酸;xは4-ヒドロキシメチルベンジル)を脱リン酸化した約21塩基のRNAと連結させた(20μl反応物、30分、37℃、5μM3’アダプター、50mM Tris-HCl、pH7.6、10mM MgCl_(2)、0.2mM ATP、0.1mg/mlアセチル化BSA、15%DMSO、25U T4 RNAリガーゼ、Amersham-Pharmacia)(PanおよびUhlenbeck,1992)。等量の8M尿素/50mM EDTA停止混合物(stopmix)の添加により連結反応を停止した後、15%ゲルに直接ロードした。連結収率は50%を超えた。連結産物をゲルから回収した後、5’-リン酸化した(20μl反応物、30分、37℃、2mM ATP、5U T4ポリヌクレオチドキナーゼ、NEB)。フェノール/クロロホルム抽出によりリン酸化反応を停止した後、エタノール沈降によりRNAを回収した。次に、前記と同様に、5’アダプター(tactaatacgactcactAAA:大文字はRNA;小文字はDNA)をリン酸化連結産物と連結させた。新しい連結産物をゲル精製し、キャリアとして用いる逆転写プライマー(GACTAGCTGGAATTCAAGGATGCGGTTAAA:太字はEcoRI部位)の存在下で、ゲル切片から溶離させた。逆転写(15μl反応物、30分、42℃、150U SuperscriptII逆転写酵素、Life Technologies)の後、5’プライマーCAGCCAACGGAATTCATACGACTCACTAAA(太字はEcoRI部位)と、3’RTプライマーを用いたPCRを実施した。PCR産物をフェノール/クロロホルム抽出により精製した後、エタノール沈降させた。次に、PCR産物をEcoRI(NEB)で消化してから、T4 DNAリガーゼ(高濃度、NEB)を用いてコンカテマー化する。サイズが200?800bpの範囲にあるコンカテマーを低融点アガロースゲル上で分離し、標準的な融解およびフェノール抽出手順によりゲルから回収した後、エタノール沈降させた。非対合末端を標準的条件下でTaqポリメラーゼと一緒に72℃で15分インキュベートすることにより充填した後、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を用いて、DNA産物をpCR2.1-TOPOベクターに直接連結した。PCRと、M13-20およびM13逆方向配列決定用プライマーを用いて、コロニーをスクリーニングした。カスタム(custom)配列決定(Sequence Laboratories Gottingen GmbH,ドイツ)のためにPCR産物を直接提出した。平均して、1クローン当たり4?5個の21mer配列が得られた。 【0094】 1.1.5 2D-TLC分析 放射性標識し、ゲル精製したsiRNAおよび2D-TLCのヌクレアーゼP1消化を記載されている通りに実施した(Zamoreら、2000)。2μg/μlキャリアtRNAと30UリボヌクレアーゼT2(Life Technologies)を用いて、10mM酢酸アンモニウム(pH4.5)中、10μl反応物において、ヌクレアーゼT2消化を50℃で3時間実施した。非放射性標準の泳動をUVシャドウイング(shadowing)により測定した。ヌクレオシド-3’,5’-二リン酸の同一性は、γ-32P-ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた市販のヌクレオシド3’-一リン酸の5’-^(32)Pリン酸化により調製した標準によるT2消化産物の同時泳動によって確認した(データは示していない)。 【0095】 1.2 結果および考察 1.2.1 21および22塩基のRNA断片のプロセシングに必要な長さ キイロショウジョウバエ合胞体胚から調製した溶解物は、in vitroにおいてRNAiを再現することから、RNAi機構の生化学的分析の新たなツールを提供するものである(Tuschlら、1999;Zamoreら、2000)。RNAiのためのdsRNAに必要な長さについてのin vitroおよびin vivo分析から、標的mRNAを分解する上で、短いdsRNA(<150bp)は、長いdsRNAより効果が低いことが明らかにされている(Caplenら、2000;Hammondら、2000;Ngoら、1998);Tuschlら、1999)。このmRNA分解効率が低い理由はわかっていない。従って、本発明者は、ショウジョウバエ溶解物における最適化条件下で(Zomoreら、2000)、標的RNA分解のためのdsRNAに必要な正確な長さを調べた。数系統のdsRNAを合成し、ホタルルシフェラーゼ(Pp-luc)リポーターRNAに対して指令させた。標的RNA発現の特異的抑制を二重ルシフェラーゼアッセイ(Tuschlら、1999)によりモニタリングした(図1Aおよび1B)。本発明者は、38bpという短いdsRNAの標的RNA発現の特異的阻害を検出したが、29?36bpのdsRNAはこの過程において有効ではなかった。効果は、Pp-luc mRNAの標的位置および阻害度とは無関係で、dsRNAの長さと相関していた。すなわち、長鎖dsRNAの方が、短鎖dsRNAより有効であった。 【0096】 dsRNAのプロセシングにより作製された21?23塩基のRNAは、RNA干渉および共抑制の媒介物質であることが示唆されている(HamiltonおよびBaulcombe,1999;Hammondら、2000;Zamoreら、2000)。従って、本発明者は、サイズが501?29bpの範囲にあるdsRNAのサブセットについて、21?23塩基断片の形成の速度を分析した。ショウジョウバエ溶解物における21?23塩基断片の形成(図2)は、長さが39?501bpのdsRNAでは容易に検出することができたが、29bpのdsRNAでは有意な遅延が認められた。この観察結果は、mRNA切断を指示する上での21?23塩基断片の役割と一致し、30bpのdsRNAによる不十分なRNAiを解明する助けとなった。21?23mer形成が長さに依存するのは、通常の細胞RNAの短い分子内塩基対合構造によるRNAiの不要な活性化を防止するための、生物学的に関連する制御機構を表すものと考えられる。 【0097】 1.2.2 39bpのdsRNAは、単一部位で標的RNA切断を媒介する ショウジョウバエ溶解物にdsRNAおよび5’-キャップ標識RNAを添加すると、標的RNAの配列特異的分解が起こる(Tuschlら、1999)。標的mRNAは、dsRNAと同一性のある領域内でしか切断されず、標的切断部位の多くは、21?23塩基ずつ分離された(Zamoreら、2000)。従って、所与のdsRNAの切断部位の数は、dsRNAの長さを21で割った数とおおまかに対応することが予想された。本発明者は、キャップにおいて5’放射性標識されたセンスおよびアンチセンス標的RNA上の標的切断部位をマッピングした(Zamoreら、2000)(図3Aおよび3B)。配列決定用ゲル上で安定した5’切断産物を分離し、標的RNAからの部分的RNaseT1およびアルカリ性加水分解標準(ladder)との比較により、切断位置を決定した。 【0098】 以前の観察結果(Zamoreら、2000)と一致して、すべての標的RNA切断部位は、dsRNAとの同一性領域内に位置した。センスまたはアンチセンス標的は、39bpのdsRNAによって一回しか切断されなかった。各切断部位は、dsRNAが占める領域の5’末端から10塩基の位置にあった(図3B)。39bpのRNAと同じ5’末端を有する52bpのdsRNAは、第1部位から23および24塩基下流の2つの弱い切断部位に加えて、dsRNAと同一性のある領域の5’末端から10塩基の位置に、センス標的上の同じ切断部位を生成する。アンチセンス標的も、やはり各dsRNAが占める領域の5’末端から10塩基の位置で、1回だけ切断された。図1に示した38?49bpのdsRNAについての切断部位のマッピングから、第1および優勢切断部位は、常に、dsRNAが占める領域から7?10塩基下流の位置にあることが明らかにされた(データは示していない)。これは、標的RNA切断点が、dsRNAの末端により決定されることを示唆しており、このことは、21?23merへのプロセシングが二本鎖の末端から開始することを意味すると考えられる。 【0099】 より長い111bpのdsRNAのセンスおよびアンチセンス標的上の切断部位は、予想よりはるかに頻度が高く、それらのほとんどは、20?23塩基ずつ分離したクラスターとして現れる(図Aおよび3B)。より短いdsRNAに関しては、センス標的上の第1切断部位は、dsRNAが占める領域の5’末端から10塩基の位置であり、アンチセンス標的上の第1切断位置は、dsRNAが占める領域の5’末端から9塩基の位置である。この不規則な切断の原因は不明であるが、1つには、より長いdsRNAが末端からだけではなく、内部でもプロセシングされるためか、あるいは、まだ理解されていないdsRNAプロセシングの何らかの特異性決定因子があると考えられる。21?23塩基間隔についてのある程度の不規則性も以前指摘されていた(Zamoreら、2000)。dsRNAプロセシングおよび標的RNA認識の分子レベルでの根本原理をより明瞭に理解するために、本発明者は、ショウジョウバエ溶解物における39、52、および111bpのdsRNAのプロセシングにより生成される21?23塩基断片の配列を分析することにした。 【0100】 1.2.3 dsRNAをRNaseIII様機構による21および23塩基RNAにプロセシングする 21?23塩基のRNA断片を特性決定するために、RNA断片の5’および3’末端を調べた。ゲル精製した21?23塩基のRNAを過ヨウ素酸化した後、β脱離すると、末端2’および3’ヒドロキシル基の存在が示された。21?23merはまた、アルカリ性ホスファターゼ処理に応答性であり、これは5’末端リン酸基の存在を意味する。5’リン酸および3’ヒドロキシル末端の存在は、dsRNAが大腸菌RNaseIIIと類似した酵素活性によりプロセシングされ得ることを示唆している(確認のため、(Dunn,1982;Nicholson,1999;Robertson,1990:Robertson,1982)を参照)。 【0101】 T4RNAリガーゼを用いて、3’および5’アダプターオリゴヌクレオチドと精製21?23merとを連結することにより、21?23塩基のRNA断片の定方向クローニングを実施した。連結産物を逆転写、PCR増幅、コンカテマー化、クローニングした後、配列決定した。39、52および111bp dsRNA(図4A)のdsRNAプロセシング反応から、220個を超える短いRNAを配列決定した。本発明者は、次のような長さ分布をみいだした:1%18塩基、5%19塩基、12%20塩基、45%21塩基、28%22塩基、6%23塩基、および2%24塩基。プロセシングされた断片の5’末端ヌクレオチドの配列分析から、5’グアノシンを有するオリゴヌクレオチドは過小提示されることがわかった。この偏りは、5’リン酸化グアノシンを供与オリゴヌクレオチドとして区別するT4RNAリガーゼにより引き起こされると考えられる。尚、3’末端の配列には有意な偏りは認められなかった。二本鎖のセンスまたはアンチセンス鎖の3’末端から得られた約21塩基断片の多くは、T7 RNAポリメラーゼを用いたRNA合成中にヌクレオチドの非鋳型付加により得られる3’ヌクレオチドを含んでいる。興味深いことに、有意な数の内因性ショウジョウバエの約21塩基のRNAもクローニングされ、その中には、LTRおよび非LTRレトロトランスポゾン由来のものもあった(データは示していない)。これは、トランスポゾンサイレンシングにおいてRNAiが果たす可能性のある役割と一致している。 【0102】 約21塩基のRNAは、dsRNA配列全体を含むクラスター形成群として現われる(図4A)。明らかに、プロセシング反応は、付着3’末端を残してdsRNAを切断しており、これはRNaseIII切断のもう一つの特徴である。39bpのdsRNAでは、約21塩基のRNAの2つのクラスターが突出3’末端を含む各dsRNA構成鎖から見出されたが、センスおよびアンチセンス標的には1つの切断部位しか検出されなかった(図3Aおよび3B)。約21塩基の断片が、mRNA分解を媒介する複合体において一本鎖ガイドRNAとして存在するのであれば、少なくとも2つの標的切断部位が存在すると想定できたが、そうではなかった。これは、約21塩基のRNAがエンドヌクレアーゼ複合体において二本鎖形態で存在する可能性があるが、標的RNAの認識および切断には、そのうち一方の鎖しか使用できないことを示唆している。標的切断に約21塩基鎖の一方だけを使用することは、約21塩基の二本鎖が、ヌクレアーゼ複合体と結合している配向によって簡単に決定することができる。この配向は、本来のdsRNAがプロセシングされた方向によって決定される。 【0103】 52bpおよび111bpのdsRNAの場合の約21merクラスターは、39bpのdsRNAと比較して、あまりよく明確にされていない。これらのクラスターは、約21塩基二本鎖の複数の個別小集団を提示する、従って、複数の近傍部位における標的切断を指示すると考えられられる25?30塩基の領域に分布している。これらの切断領域は、やはり20?23塩基の間隔で主に分離されている。標準的dsRNAがいかにして約21塩基の断片にプロセッシングされ得るかを決定する法則はいまだに解明されていないが、切断部位同士の約21?23塩基の間隔は、一連のウリジンによって改変できることがすでに認められている(Zamoreら、2000)。大腸菌RNaseIIIによるdsRNA切断の特異性は、主に、非決定因子(antideterminant)、すなわち、切断部位に対する所与の位置で特異的塩基対を排除することにより、制御されているようである。 【0104】 糖-、塩基-またはキャップ修飾が、プロセシングされた約21塩基のRNA断片に存在するか否かを試験するため、本発明者は、溶解物において放射性標識した505bpのPp-luc dsRNAをインキュベートし、約21塩基産物を単離した後、それをP1またはT2ヌクレアーゼでモノヌクレオチドに消化した。このヌクレオチド混合物を2D薄層クロマトグラフィーにより分析した(図4B)。P1またはT2消化により示されるように、4つの天然リボヌクレオチドのうち、修飾されたものは1つもなかった。本発明者は既に、約21塩基断片におけるアデノシンからイノシンへの変換を分析し(2時間のインキュベーション後)、わずかな程度(<0.7%)の脱アミノ化を検出している(Zamoreら、2000)。溶解物中での短いインキュベーション(1時間)により、このイノシン画分をかろうじて検出可能なレベルまで縮小した。ホスホジエステル結合の3’を切断するRNaseT2は、ヌクレオシド3’-リン酸とヌクレオシド3’,5’-二リン酸を生成したが、これは、5’-末端一リン酸の存在を意味する。4つのヌクレオシド3’,5’-二リン酸の全てが検出されたが、これは、配列特異性がほとんどまたは全くなしに、ヌクレオチド間の結合が切断されたことを示唆している。要約すると、約21塩基断片は、非修飾であり、dsRNAから生成され、その際、5’-末端に5’-一リン酸および3’-ヒドロキシルが存在する。 【0105】 1.2.4 合成21および22塩基RNAは、標的RNA切断を媒介する dsRNAプロセシングの産物の分析から、RNaseIII切断反応のあらゆる特徴を有する反応によって約21断片が生成されることがわかった(Dunn,1982;Nicholson,1999;Robertson,1990;Robertson,1982)。RNaseIIIは、dsRNAの両鎖に2つの付着切断を形成し、約2塩基の3’突出部を残す。本発明者は、クローン化した約21塩基断片のいくつかと配列が同じである21および22塩基のRNAを化学的に合成し、標的RNA分解を媒介する能力についてそれらを試験した(図5Aおよび5B)。21および22塩基のRNA二本鎖を、溶解物中100nMの濃度(52bpの対照dsRNAの10倍の濃度)でインキュベートした。これらの条件下で、標的RNA切断は容易に検出可能である。21および22塩基二本鎖の濃度を100から10nMまで下げても、やはり標的RNA切断が起こる。しかし、二本鎖の濃度を100から1,000nMに高めても、標的切断は増加しない。これは恐らく、溶解物内の制限タンパク質因子によるものであろう。 【0106】 RNAiを媒介しなかった29または30bpのdsRNAとは対照的に、2?4塩基の突出3’末端を有する21および22塩基dsRNAは、標的RNAの有効な分解を媒介した(二本鎖1、3、4、6:図5Aおよび5B)。平滑末端21または22塩基dsRNA(二本鎖2、5および7:図5Aおよび5B)は、標的を分解する能力が低かったが、これは、突出3’末端がRNA-タンパク質ヌクレアーゼ複合体の再構成に重要であることを意味している。約21塩基の二本鎖とタンパク質成分の高親和結合には、一本鎖突出部が必要であると考えられる。5’末端リン酸は、dsRNAプロセシング後も存在するが、標的RNA切断を媒介するのに必要ではなく、短い合成RNAからは欠如していた。 【0107】 合成21および22塩基二本鎖は、短い二本鎖が占める領域内で、センスおよびアンチセンス標的の切断を指示した。これは、約21塩基断片の2対のクラスターを形成する39bpのdsRNA(図2)が、センスまたはアンチセンス標的を2回ではなく1回しか切断しなかったことを考慮すると、重要な結果である。本発明者は、この結果から、約21塩基二本鎖に存在する二本鎖の一方だけが標的RNA切断を指示できること、また、ヌクレアーゼ複合体における約21塩基二本鎖の配向がdsRNAプロセシングの最初の方向によって決定されることを示唆していると解釈した。しかし、すでに完全にプロセシングされた約21塩基の二本鎖をin vitro系に提示すれば、対称的なRNA二本鎖の可能性ある2つの配向で活性配列-特異的ヌクレアーゼ複合体を形成することできる。この結果、21塩基のRNA二本鎖と同一性領域内でセンスおよびアンチセンス標的の切断が達成される。 【0108】 標的切断部位は、21または22塩基のガイド(指示)配列と相補的な第1ヌクレオチドから11または12塩基下流に位置する。すなわち、切断部位は、21または22塩基のRNAが占める領域の中心付近にある(図4Aおよび4B)。22塩基二本鎖のセンス鎖を2塩基ずつ移動すると(図5Aの二本鎖1および3を比較)、アンチセンス標的のみの切断部位が2塩基ずつ移動した。センスおよびアンチセンス鎖を2塩基ずつ移動すると、両方の切断部が2塩基ずつシフトした(二本鎖1および4を比較)。本発明者は、ほぼすべての位置で標的RNAを切断する1対の21または22塩基のRNAを設計することが可能であると推定した。 【0109】 異常な切断部位が検出されないことから、21および22塩基のRNAにより指示される標的RNA切断の特異性は、正確であると考えられる(図5B)。しかし、注意すべきは、21および22塩基のRNA二本鎖の3’突出部に存在するヌクレオチドは、切断部位付近のヌクレオチドと比べて、基質認識に寄与しない可能性があることである。これは、活性二本鎖1または3(図5A)の3’突出部における3’末端(most)ヌクレオチドが標的と相補的ではないという観察結果に基づいている。RNAiの特異性についての詳しい分析は、合成21および22塩基RNAを用いて、容易に実施することができる。 【0110】 突出3’末端を有する合成21および22塩基RNAがRNA干渉を媒介するという証拠に基づいて、本発明者は、約21塩基のRNAを「短鎖の干渉RNA」またはsiRNAと、また、それぞれのRNA-タンパク質複合体を「短い干渉リボ核タンパク質粒子」またはsiRNPと呼称することを提案する。 【0111】 1.2.5 短鎖dsRNA上の20塩基の3’突出部がRNAiを阻害する 本発明者は、短い平滑末端dsRNAが、dsRNAの末端からプロセシングされることを明らかにした。RNAiにおけるdsRNAの長さ依存の研究中に、本発明者が、17?20塩基の突出3’末端を有するdsRNAも分析したところ、驚くべきことに、これらが、平滑末端dsRNAより効力が弱いことがわかった。長い3’末端の阻害効果は、100bpまでのdsRNAに特に顕著であったが、これより長いdsRNAについてはそれほど強くなかった。未改変ゲル分析(データは示していない)によれば、この効果は、不完全なdsRNA形成によるものではなかった。本発明者は、長い突出3’末端の阻害効果を、短いRNA二本鎖の2つの末端の一方だけに対するdsRNAプロセシングを指令するツールとして使用できるかどうかを試験した。 【0112】 52bpのモデルdsRNAを、平滑末端のもの、センス鎖だけに3’延長部分を有するもの、アンチセンス鎖だけに3’延長部分を有するもの、ならびに、両鎖に二重3’延長部分を有するもの、の4つの組合せで合成し、溶解物中でのインキュベーション後、標的RNA切断部位をマッピングした(図6Aおよび6B)。二本鎖のアンチセンス鎖の3’末端が延長されている場合には、センス標的の第1および優勢切断部位が失われ、その逆もまた同じで、二本鎖のセンス鎖の3’末端が延長された場合には、アンチセンス標的の強力な切断部位が失われた。両鎖の3’延長部分によって、52bpのdsRNAが実質的に不活性になった。約20塩基の3’延長部分によるdsRNA不活性化を説明するものとして、この末端におけるdsRNAプロセシング因子の1つの会合を妨害する一本鎖RNA結合タンパク質の会合が考えられる。この結果は、集合siRNPにおけるsiRNA二本鎖の鎖の一方だけが、標的RNA切断を指示することができる、本発明者のモデルとも一致する。RNA切断を指示する鎖の配向は、dsRNAプロセシング反応の方向によって定められる。3’付着末端の存在が、プロセシング複合体の集合を促進していると考えられる。センス鎖の3’末端のブロッキングによってのみ、アンチセンス鎖の向き合う3’末端からのdsRNAプロセシングが可能となる。これが、今度は、siRNA二本鎖のアンチセンス鎖だけが、センス標的RNA切断を指示することができるsiRNP複合体を生成する。同じことが相互の状況で言える。 【0113】 長鎖のdsRNA(500bp以上、データは示していない)の場合に、長い3’延長部分の阻害効果がそれほど高くないのは、長鎖dsRNAも内部dsRNAプロセシングシグナルを含む、あるいは、複数の切断因子の会合により、協働してプロセシングされる可能性があることを示唆している。 【0114】 1.2.6 dsRNA指令によるmRNA切断のモデル 新しい生化学データを用いて、どのようにしてdsRNAがmRNAをターゲッティングし、破壊するかについてのモデルを更新する(図7)。二本鎖RNAはまず、主に21および22塩基長で、かつ、RNaseIII様反応と類似した付着3’末端を有する短いRNA二本鎖にプロセシングされる(Dunn,1982;Nicholson,1999;Robertson,1982)。プロセシングされたRNA断片の21?23塩基長に基づき、RNaseIII様活性がRNAiに関与し得ることがすでに想定されていた(Bass,2000)。この仮定は、RNaseIII反応産物に観察されるように、siRNAの末端に5’リン酸および3’ヒドロキシルが存在することにより支持される(Dunn,1982;Nicholson,1999)。細菌RNaseIII、S.セレビシエにおける真核生物相同体Rnt1p、およびS.ポンベにおけるPac1pは、リボソームRNA、ならびに、snRNAおよびsnoRNAのプロセシングにおいて機能することがわかっている(例えば、Chanfreauら、2000参照)。 【0115】 植物、動物またはヒト由来のRNaseIII相同体の生化学についてはほとんどわかっていない。2つのファミリーのRNaseIII酵素が、主にデータベースを利用した配列分析またはcDNAのクローニングにより同定されている。第1のRNaseIIIファミリーの代表は、1327アミノ酸長のキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)タンパク質droshaである(アクセッション番号AF116572)。C末端は、2つのRNaseIIIと1つのdsRNA結合ドメインから構成され、N末端の機能は未知である。酷似した相同体が、線虫(C.elegans)(アクセッション番号AF160248)およびヒト(アクセッション番号AF189011)でもみいだされている(Filippovら、2000;Wuら、2000)。drosha様ヒトRNaseIIIは、近年クローン化され、特性決定された(Wuら、2000)。遺伝子はヒト組織および細胞系において偏在的に発現し、タンパク質は細胞の核および核小体に局在化する。アンチセンス阻害に関する研究から推定される結果により、rRNAプロセシングにおけるこのタンパク質の役割が示唆された。第2のクラスの代表は、1822アミノ酸長のタンパク質をコードする線虫遺伝子K12H4.8(アクセッション番号S44849)である。このタンパク質は、N末端RNAヘリカーゼモチーフ、続いて、drosha RNaseIIIファミリーと類似した2つのRNaseIII触媒ドメインおよびdsRNA結合モチーフを有する。S.ポンベ(アクセッション番号Q09884)、シロイヌナズナ(アクセッション番号AF187317)、キイロショウジョウバエ(アクセッション番号AE003740)、およびヒト(アクセッション番号AB028449)にも酷似した相同体がある(Filippovら、2000;Jacobsenら、1999;Matsudaら、2000)。恐らく、K12H4.8 RNaseIII/ヘリカーゼは、RNAiに関与すると考えられる候補であろう。 【0116】 線虫における遺伝子スクリーニングにより、トランスポソン可動化または共抑制に影響を及ぼすことなくRNAiを活性化するのにrde-1およびrde-4が不可欠であると確認された(Dernburgら、2000;Grishokら、2000;KettingおよびPlasterk,2000;Tabaraら、1999)。このことから、これらの遺伝子が、dsRNAプロセシングに重要であるが、mRNA標的分解には関与しないという仮定が導かれる。両遺伝子の機能はいまだに未知であり、rde-1遺伝子産物は、ウサギタンパク質elF2Cと類似したタンパク質ファミリーメンバーであり(Tabaraら、1999)、rde-4の配列はまだ記載されていない。これらタンパク質の将来の生化学的特性決定によって、これらの分子的機能が明らかにされるに相違ない。 【0117】 siRNA二本鎖へのプロセシングは、平滑末端のdsRNAまたは短い(1?5塩基)3’突出部を有するdsRNAの末端から開始するようであり、約21?23塩基ずつ進行する。短鎖dsRNA上の長い(約20塩基)3’付着末端は、恐らく一本鎖RNA結合タンパク質との相互作用によって、RNAiを抑制する。短鎖dsRNAと隣接する一本鎖領域によるRNAiの抑制と、30bpの短いdsRNAからのsiRNA形成の欠如が、mRNAで頻繁に出会う構築領域(structured regions)がRNAiの活性化を起こさない理由を説明しうる。 【0118】 特定の理論に拘束されるわけではないが、本発明者は、dsRNAプロセシングタンパク質またはこれらのサブセットが、プロセシング反応後もsiRNA二本鎖と会合したままであると推定する。これらタンパク質に対するsiRNA二本鎖の配向が、2つの相補鎖のどちらが、標的RNA分解を指示する上で機能するかを決定する。化学的に合成されたsiRNA二本鎖は、考えられる2つの配向のいずれかでタンパク質成分と会合することができるため、センスおよびアンチセンス標的RNAの切断を指示する。 【0119】 21および22塩基の合成siRNA二本鎖が効率的なmRNA分解に使用可能であるという注目すべき知見は、機能遺伝学および生物医学的研究における遺伝子発現の配列特異的調節に新しいツールを提供するものである。siRNAは、PKR応答の活性化のために、長いdsRNAを使用することができない哺乳動物系で有効となり得る(Clemens,1997)。このように、siRNA二本鎖は、アンチセンスまたはリボザイム治療法に代わる新しい治療法を提供する。 【0120】 実施例2 ヒト組織培養物におけるRNA干渉 2.1 方法 2.1.1 RNA調製 Expedite RNAホスホルアミダイトとチミジンホスホルアミダイト(Proligo,Germany)を用いて、21塩基のRNAを化学的に合成した。合成オリゴヌクレオチドを脱保護してからゲル精製した(実施例1)後、Sep-Pak C18カートリッジ(Waters,Milford,MA,USA)により精製を実施した(Tuschl,1993)。siRNA配列がターゲッティングするGL2(アクセッション番号X65324)とGL3ルシフェラーゼ(アクセッション番号U47296)は、開始コドンの第1ヌクレオチドに対してコード領域153?173と対応し、siRNAがターゲッティングするRL(アクセッション番号AF025846)は、開始コドン後の領域119?129と対応した。より長いRNAは、PCR産物からT7RNAポリメラーゼで転写した後、ゲルおよびSep-Pak精製に付した。49および484bpのGL2またはGL3dsRNAは、翻訳の開始に対して、位置113?161および113?596にそれぞれ対応した。50および501bpのRL dsRNAは、位置118?167および118?618にそれぞれ対応した。ヒト化GFP(hG)をターゲッティングするdsRNA合成のためのPCR鋳型をpAD3から増幅した(Kehlenbach,1998)ところ、50および501bpのhGdsRNAは、翻訳の開始に対して、位置118?167および118?618にそれぞれ対応した。 【0121】 siRNAのアニーリングのために、20μMの一本鎖をアニーリングバッファー(100mM酢酸カリウム、30mM HEPES-KOH(pH7.4)、2mM酢酸マグネシウム)において90℃で1分インキュベートした後、37℃で1時間続けた。37℃のインキュベーションステップを50および500bpのdsRNAについて一晩延長し、これらのアニーリング反応を8.4μMおよび0.84μM鎖濃度でそれぞれ実施した。 【0122】 2.1.2 細胞培養 10%FBS、100単位/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを補充したシュナイダーのショウジョウバエ培地(Life Technologies)において25℃で、S2細胞を増殖させた。10%FBS、100単位/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを補充したダルベッコの改変イーグル培地において37℃で、293、NIH/3T3、HeLaS3、COS-7細胞を増殖させた。細胞を定期的に継代させて、対数増殖を維持した。約80%密集度でのトランスフェクションの24時間前に、哺乳動物細胞をトリプシン処理してから、抗生物質を含まない新鮮な培地で5倍に希釈した(1?3×10^(5)細胞/ml)後、24ウェルプレート(500μl/ウェル)に移した。S2細胞はトリプシン処理せずに開裂反応に付した。付着細胞系について製造者が記載しているように、リポフェクトアミン2000試薬(Life Technologies)を用いて、トランスフェクションを実施した。1ウェルにつき、リポソームに組み込まれた1.0μgのpGL2-Control(Promega)またはpGL3-Control(Promega)、0.1μgのpRL-TK(Promega)および0.28μgのsiRNA二本鎖またはdsRNAを導入した;最終量は、1ウェル当たり600μlであった。トランスフェクションの後、細胞を20時間インキュベートしたが、その後の細胞は健常のようであった。次に、二重ルシフェラーゼアッセイ(Promega)で、ルシフェラーゼ発現をモニタリングした。1.1μgのhGFPコード化pAD3と0.28μgのinvGL2 inGL2 siRNAの共トランスフェクション後、哺乳動物細胞系の蛍光顕微鏡検査により、トランスフェクション効率を測定したところ、70?90%であった。リポータープラスミドをXL-1 Blue(Stratagene)において増幅した後、Qiagenエンドフリー・マキシ・プラスミドキット(Qiagen EndoFree Maxi Plasmid Kit)を用いて精製した。 【0123】 2.2 結果と考察 siRNAが、組織培養物においてもRNAiを媒介することができるか否かを試験するために、本発明者は、ウミシイタケ(Renilla reniformis)および、ホタルルシフェラーゼ(Photinus pyralis、GL2およびGL3)の2つの配列種をコードするリポーター遺伝子に対して指令される対称2塩基3’突出部を有する21塩基siRNA二本鎖を合成した(図8a、b)。カチオンリポソームを用いて、siRNA二本鎖をリポータープラスミドの組合せpGL2/pRLまたはpGL3/pRLと一緒に、キイロショウジョウバエ・シュナイダーS2細胞または哺乳動物細胞に共トランスフェクトした。トランスフェクションから20時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。試験したすべての細胞系において、本発明者は、相同siRNA二本鎖(cognate siRNA duplex)の存在下でリポーター遺伝子の発現の特異的減弱を観察した(図9a?j)。驚くことに、絶対ルシフェラーゼ発現レベルは、非相同siRNAによる影響を受けなかった。これは、21塩基のRNA二本鎖(例えば、HeLa細胞については図10a?d)による有害な副作用がないことを意味している。キイロショウジョウバエS2細胞(図9a、b)において、ルシフェラーゼの特異的阻害は完全であった。リポーター遺伝子が50?100倍強く発現した哺乳動物細胞では、特異的抑制は完全ではなかった(図9c?j)。相同siRNAに応答して、GL2発現は、3?12倍、GL3発現は9?25倍、またRL発現は1?3倍減弱した。293細胞については、RL siRNAによるRLルシフェラーゼのターゲッティングは無効であったが、GL2およびGL3標的は、特異的に応答した(図9i、j)。293細胞でRL発現の減弱がないのは、この発現が、試験した他の哺乳動物細胞系と比べて5?20倍高いこと、および/またはRNA二次構造もしくは会合タンパク質のために標的配列の受容能力が制限されたことによるものであろう。それでも、相同siRNA二本鎖によるGL2およびGL3ルシフェラーゼの特異的ターゲッティングは、RNAiが293細胞においても機能していることを示している。 【0124】 uGL2を除くすべてのsiRNA二本鎖における2塩基3’突出部は、(2’-デオキシ)チミジンから構成されていた。3’突出部における、チミジンによるウリジンの置換は、キイロショウジョウバエin vitro系で十分に許容されたため、突出部の配列は標的認識に重要ではなかった。組織培地中およびトランスフェクトした細胞内でsiRNAのヌクレアーゼ耐性を増強することが推定されるため、チミジン突出部を選択した。実際に、試験したすべての細胞系で、チミジン修飾GL2 siRNAは、非修飾uGL2 siRNAよりやや強力であった(図9a、c、e、g、i)。3’突出塩基をさらに修飾することにより、siRNA二本鎖の送達および安定性が改善されると考えられる。 【0125】 共トランスフェクション実験では、組織培地の最終量に対して25nMのsiRNA二本鎖を用いた(図9、10)。siRNAの濃度を100nMまで増加しても、特異的サイレンシング効果は増強されなかったが、プラスミドDNAとsiRNA間のリポソームのカプセル化(被包)競合により、トランスフェクション効率に影響を与え始めた(データは示していない)。siRNAの濃度を1.5nMまで低下しても、特異的サイレンシング効果は低下せず(データは示していない)、siRNA濃度がDNAプラスミドより2?20倍高いだけでもそうであった。これは、siRNAが、遺伝子サイレンシングを媒介する極めて強力な試薬であること、また、siRNAが、通常のアンチセンスまたはリボザイム遺伝子ターゲッティング実験で使用される濃度より数桁低い濃度で有効であることを意味している。 【0126】 より長いdsRNAの哺乳動物細胞に対する効果をモニタリングするため、リポーター遺伝子に対して相同な50?500bpのdsRNAを調製した。非特異的対照として、ヒト化GFP(hG)由来のdsRNA(Kehlenbach,1998)を用いた。siRNA二本鎖と同じ量(濃度ではない)のdsRNAを共トランスフェクトすると、リポーター遺伝子発現は強力かつ非特異的に減弱した。この効果は、代表的例としてHeLa細胞について示する(図10a?d)。絶対ルシフェラーゼ活性は、50bp dsRNAにより、10?20倍、500bp dsRNA共トランスフェクションにより20?200倍非特異的にそれぞれ低下した。同様の非特異的効果が、COS-7およびNIH/3T3細胞について観察された。293細胞では、10?20倍の非特異的減弱は、500bp dsRNAによってしか観察されなかった。dsRNA>30bpによるリポーター遺伝子発現の非特異的減弱は、インターフェロン応答の一部として予想されたものだった。 【0127】 驚くことに、リポーター遺伝子発現の強い非特異的減弱にもかかわらず、本発明者は、別の配列特異的dsRNA媒介サイレンシングを再現的に検出した。しかし、特異的サイレンシング効果は、相対リポーター遺伝子活性をhG dsRNA対照に対して正規化したときしか明らかではなかった(図10e、f)。他の3つの被検哺乳動物細胞系においても、相同dsRNAに応答する2?10倍の特異的減弱が観察された(データは示していない)。dsRNA(356?1662bp)による特異的サイレンシング作用はCHO-K1細胞においてすでに報告されているが、2?4倍の特異的減弱を検出するのに必要なdsRNAの量は、本発明者の実験(Ui-Tei、2000)より約20倍高かった。また、CHO-K1細胞は、インターフェロン応答が欠失しているようである。別の報告では、ルシフェラーゼ/lacZリポーターの組合せ、および829bp特異的lacZまたは717bp非特異的GFPdsRNAを用いて、293、NIH/3T3およびBHK-21細胞をRNAiについて試験した(Caplen、2000)。この例でRNAiを検出できなかったのは、ルシフェラーゼ/lacZリポーターアッセイの感受性が低かったことと、標的および対照dsRNAの長さが異なるためであろう。以上のことを考え合わせると、本発明者の結果から、RNAiが哺乳動物細胞において活性であるが、インターフェロン系がdsRNA>30bpにより活性化されると、サイレンシング効果の検出が難しくなることがわかる。 【0128】 要約すると、本発明者は、哺乳動物細胞におけるsiRNA媒介の遺伝子サイレンシングを最初に証明した。短鎖siRNAの使用により、ヒト組織培養物における遺伝子機能の不活性化、ならびに、遺伝子特異的治療法の開発の可能性が高まる。 【0129】 実施例3 RNA干渉による遺伝子発現の特異的阻害 3.1 材料と方法 3.1.1 RNA調製とRNAiアッセイ 実施例1または2、あるいは、これまでの文献(Tuschlら、1999;Zamoreら、2000)に記載されているように、化学的RNA合成、アニーリング、およびルシフェラーゼに基づくRNAiアッセイを実施した。すべてのsiRNA二本鎖はホタルルシフェラーゼに対して指令され、ルシフェラーゼmRNA配列は、記載されている(Tuschlら、1999)ように、pGEM-luc(GenBankアクセッション番号X65316)由来のものであった。キイロショウジョウバエRNAi/翻訳反応において、siRNA二本鎖を15分インキュベートしてから、mRNAを添加した。翻訳に基づくRNAiアッセイを少なくとも3回繰り返して実施した。 【0130】 センス標的RNA切断のマッピングのため、開始コドンに対して位置113から273までのホタルルシフェラーゼ配列と対応する177塩基転写物を作製した後、SP6プロモーター配列の17塩基相補体を作製した。アンチセンス標的RNA切断のマッピングのため、鋳型から166塩基転写物を作製し、5’プライマーTAATACGACTCACTATAGAGCCCATATCGTTTCATA(下線部はT7プロモーター)および3’プライマーAGAGGATGGAACCGCTGGを用いて、上記転写物をPCRによりプラスミド配列から増幅した。標的配列は、開始コドンに対して位置50から215までのホタルルシフェラーゼ配列の相補体と対応する。グアニリルトランスフェラーゼ標識を、すでに記載されている(Zamoreら、2000)ように実施した。標的RNA切断のマッピングのために、キイロショウジョウバエ胚溶解物において、100nMのsiRNA二本鎖を5?10nM標的RNAと一緒に標準的条件(Zamoreら、2000)下で、25℃で2時間インキュベートした。8容量のプロテイナーゼKバッファー(200mM Tris-HCl(pH7.5)、25mM EDTA、300mM NaCl、2%w/vドデシル硫酸ナトリウム)を添加することにより反応を停止させた。プロテイナーゼK(E.M.Merck、水に溶解)を0.6mg/mlの最終濃度まで添加した。次に、反応を65℃で15分インキュベートしてから、フェノルール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)で抽出した後、3容量のエタノールで沈降させた。サンプルを6%配列決定用ゲルに載せた。長さ基準は、キャップ標識センスまたはアンチセンス標的RNAの部分的RNaseT1消化および部分的塩基加水分解反応によって作製した。 【0131】 3.2 結果 3.2.1 21塩基のsiRNAの二本鎖における3’突出部の変動 前述のように、siRNA二本鎖の3’末端で2または3非対合ヌクレオチドは、それぞれの平滑末端二本鎖と比べて、標的RNA分解が効率的である。末端ヌクレオチドの機能のさらに総合的分析を実施するために、本発明者は、5つの21塩基センスsiRNA(各々、標的RNAに対する1塩基で表される)と、8つの21塩基アンチセンスsiRNA(各々、標的に対する1塩基で表される)を合成した(図11A)。センスおよびアンチセンスsiRNAを組み合わせることにより、7塩基3’突出部?4塩基5’突出部の範囲にある合成突出末端を有する8系統のsiRNA二本鎖を作製した。二重ルシフェラーゼアッセイ系(Tuschlら、1999;Zamoreら、2000)を用いて、siRNA二本鎖の干渉を測定した。siRNA二本鎖は、ホタルルシフェラーゼmRNAに対して指令され、ウミシイタケルシフェラーゼmRNAを内部対照として用いた。siRNA二本鎖の存在下で、標的と対照ルシフェラーゼ活性のルミネセンス比を測定した後、dsRNAの不在下で得られた比に対して正規化した。比較のため、長いdsRNA(39?504bp)の干渉比を図11Bに示す。長鎖dsRNA(図11A)については5nM、また、siRNA二本鎖(図11C?J)については100nMの濃度で、干渉比を測定した。5nMの504bp dsRNAの完全なプロセシングにより、120nMの全siRNA二本鎖が得られたことから、siRNAについては100nM濃度を選択した。 【0132】 21塩基のsiRNA二本鎖がRNAiを媒介する能力は、形成された突出ヌクレオチドまたは塩基対の数に応じて異なる。4?6個の3’突出塩基を有する二本鎖では、RNAiを媒介することができなかった(図11C?F)が、2個以上の5’突出塩基を有する二本鎖は媒介することができた(図11G?J)。2塩基の3’突出部を有する二本鎖が、RNA干渉を媒介するのに最も効率的であったが、サイレンシングの効率はやはり配列依存的であり、2塩基の3’突出部を有する様々なsiRNA二本鎖について12倍の差が認められた(図11D?Hを比較)。平滑末端、1塩基5’突出部または1?3塩基3’突出部を有する二本鎖は、場合により機能的であった。7塩基の3’突出部を有するsiRNA二本鎖について観察されたわずかなサイレンシング効果(図11C)は、RNAiよりもむしろ長い3’突出部のアンチセンス効果によるものであろう。長鎖dsRNA(図11B)と、最も有効な21塩基のsiRNA二本鎖(図11E、G、H)をRNAiの効率について比較すると、100nM濃度の一本鎖siRNA二本鎖が、5nMの504bp dsRNAと同じくらい有効となり得ることがわかる。 【0133】 3.2.2 21塩基のアンチセンスsiRNAと対合するセンスsiRNAの長さ変動 RNAiに対するsiRNAの長さの影響を調べるために、本発明者は、3つの21塩基アンチセンス鎖と8つの18?25塩基センス鎖とを組み合わせて、3系統のsiRNA二本鎖を作製した。アンチセンスsiRNAの3’突出部は、各siRNA二本鎖系統における1、2または3塩基に固定したのに対し、センスsiRNAは、その3’末端で変動させた(図12A)。センスsiRNAの長さとは無関係に、アンチセンスsiRNAの2塩基の3’突出部を有する二本鎖(図12C)は、1または3塩基の3’突出部を有するもの(図12B、D)より活性が高いことがわかった。アンチセンスsiRNAの1塩基の3’突出部を有する第1の系統では、センスsiRNAの1および2塩基の3’突出部をそれぞれ有する、21および22塩基センスsiRNAの二本鎖の活性が最も高かった。19?25塩基のセンスsiRNAを有する二本鎖もRNAを媒介することができたが、程度は低かった。同様に、アンチセンスsiRNAの2塩基突出部を有する第2系統では、2塩基の3’突出部を有する21塩基のsiRNA二本鎖の活性が最も高く、18?25塩基のセンスsiRNAとのその他すべての組合せは、有意な程度まで活性であった。3塩基のアンチセンスsiRNA3’突出部を有する最後の系統では、20塩基のセンスsiRNAおよび2塩基のセンス3’突出部を有する二本鎖だけが標的RNA発現を減弱することができた。以上、これらの結果から、siRNAの長さと共に、3’突出部の長さが重要であることと、2塩基3’突出部を有する21塩基のsiRNAの二本鎖がRNAiには最適であることがわかる。 【0134】 3.2.3 一定の2塩基3’突出部を有するsiRNA二本鎖の長さ変動 次に、本発明者は、対称の2塩基3’突出部を維持しながら、両siRNA鎖の長さを同時に変化させて生じる影響を調べた(図13A)。図11Hの21塩基のsiRNA二本鎖を基準として含む2系統のsiRNA二本鎖を作製した。センスsiRNA(図13B)の3’末端またはアンチセンスsiRNA(図13C)の3’末端で塩基対合部分を延長することにより、二本鎖の長さを20?25bpで変動させた。20?23bpの二本鎖は、標的ルシフェラーゼ活性の特異的抑制を起こしたが、21塩基のsiRNA二本鎖は、他の二本鎖のどちらと比較しても少なくとも8倍有効であった。24および25塩基のsiRNA二本鎖は、検出可能な干渉を全く起こさなかった。配列特異的効果は、二本鎖の両末端における変動が同様の効果を生じたため、わずかであった。 【0135】 3.2.4 2’-デオキシおよび2’-O-メチル修飾siRNA二本鎖 RNAiにおけるsiRNAリボース残基の重要性を評価するため、2’-デオキシまたは2’-O-メチル修飾鎖を含む21塩基のsiRNAおよび2塩基3’突出部を有する二本鎖を試験した(図14)。2’-デオキシヌクレオチドによる2塩基3’突出部の置換では影響がなく、対合領域における突出部と隣接した2つの別のリボヌクレオチドの置換でも、有意に活性のsiRNAが生じた。従って、siRNA二本鎖の42塩基のうち8つをDNA残基で置換しても、活性は失われなかった。2’-デオキシ残基による一方または両方のsiRNA鎖の完全な置換では、2’-O-メチル残基による置換と同様に、RNAiを破壊した。 【0136】 3.2.5 標的RNA切断部位の画定 22塩基のsiRNA二本鎖および21塩基/22塩基の二本鎖について、標的RNA切断位置を事前に決定した。標的RNA切断の位置は、siRNA二本鎖が占める領域の中心部、すなわち、21または22塩基のsiRNAガイド配列と相補的な第1塩基から11または12塩基下流に位置することがわかった。2塩基3’突出部を有する5つの別個の21塩基siRNA二本鎖(図15A)を5’キャップ標識センスまたはアンチセンス標的RNAと一緒にキイロショウジョウバエ溶解物中でインキュベートした(Tuschlら、1999;Zamoreら、2000)。5’切断産物を配列決定用ゲル上で分離した(図15B)。切断されたセンス標的RNAの量は、翻訳に基づくアッセイで決定されるsiRNA二本鎖の効率と相関しており、siRNA二本鎖1、2および4(図15Bおよび11H、G、E)は、二本鎖3および5(図15Bおよび11F、D)より速く標的RNAを切断する。注目すべきことに、5’切断産物および投入標的RNAの放射活性の合計は、時間に関して一定ではなく、5’切断産物は蓄積しなかった。恐らく、5’-キャップのポリ(A)テイルのいずれかが欠如しているために、siRNA-エンドヌクレアーゼ複合体から放出した切断産物は急速に分解されるのであろう。 【0137】 センスおよびアンチセンス標的RNAの両方で、切断部位は、siRNA二本鎖が占める領域の中央部に位置した。5つの異なる二本鎖により生成された各標的の切断部位は、標的配列に沿って、二本鎖の1塩基置換により1塩基ずつ変動した。標的は、配列相補的ガイドsiRNAの3’末端(most)ヌクレオチドと相補的な標的位置から正確に11塩基下流で切断された。 【0138】 ガイドsiRNAの5’または3’末端が、標的RNA切断のルーラー(ruler)を設定するか否かを決定するために、本発明者は、図16AおよびBに概要を示す実験戦略を考案した。21塩基アンチセンスsiRNAは、この実験では不変に維持し、5’または3’末端のいずれかにおいて修飾されたセンスsiRNAと対合させた。センスおよびアンチセンス標的RNA切断の位置は前記のように決定した。センスsiRNAの3’末端の変化を、1塩基5’突出部?6塩基3’突出部でモニタリングしたが、これらはいずれも、センスまたはアンチセンス標的RNA切断の位置に影響を及ぼさなかった(図16C)。センスsiRNAの5’末端における変化は、センス標的RNA切断に影響を及ぼさなかった(図16D、上パネル)が、これは、アンチセンスsiRNAが変化しなかったため、予想されたことであった。しかし、アンチセンス標的RNA切断は影響を受け、センスsiRNAの5’末端に強く依存した(図16D、下パネル)。センスsiRNAサイズが20または21塩基であるとき、アンチセンス標的だけが切断され、切断の位置は1塩基ずつ異なった。このことは、標的を認識する5’末端が標的RNA切断のルーラー(ruler)を設定することを示唆している。この位置は、ガイドsiRNAの5’末端(most)塩基と対合した標的の塩基から上流方向に数えると、塩基10と11の間に位置する(図15Aも参照)。 【0139】 3.2.6 3’突出部における配列の影響および2’-デオキシ置換 2塩基の3’突出部が、siRNA機能には好ましい。本発明者は、突出塩基の配列が、標的認識に寄与するのか、またはこの配列が、エンドヌクレアーゼ複合体(RISCまたはsiRNP)の認識に必要な特徴であるだけなのかを知ろうとした。本発明者は、AA、CC、GG、UUおよびUG3’突出部を有するセンスおよびアンチセンスsiRNAを合成し、2’-デオキシ修飾TdGおよびTTを含有させた。野生型siRNAは、センス3’突出部にAAを、また、アンチセンス3’突出部にUGを含んでいた(AA/UG)。siRNA二本鎖はすべて、干渉アッセイにおいて機能的であり、標的発現を少なくとも5倍減弱した(図17)。10倍以上標的発現を減弱した最も効率的なsiRNA二本鎖は、配列型:NN/UG、NN/UU、NN/TdG、およびNN/TT(Nは任意のヌクレオチドである)のものであった。AA、CCまたはGGのアンチセンスsiRNA3’突出部を有するsiRNA二本鎖は、野生型配列UGまたは突然変異配列UUと比較して、2?4倍活性が低かった。RNAi効率が低いのは、恐らく、末端から2番目の3’塩基が配列特異的標識認識に寄与するためと考えられる。というのは、3’末端塩基は、GからUに改変しても、影響がないからである。 【0140】 センスsiRNAの3’突出部の配列を改変しても、配列に依存する影響は一切明らかにされなかったが、これは、センスsiRNAはセンス標的mRNA認識に寄与してはならないため、予想されたことだった。 【0141】 3.2.7 標的認識の配列特異性 標的認識の配列特異性を調べるため、本発明者は、siRNA二本鎖の対合部分に配列改変を導入し、サイレンシングの効率を調べた。配列改変は、3または4塩基長の短い部分を逆転させるか、あるいは、点突然変異として導入した(図18)。一方のsiRNA鎖の配列改変は、相補的siRNA鎖において補償され、これによって、塩基対合したsiRNA二本鎖構造の不安定化(pertubing)を回避した。合成にかかるコストを下げるため、2塩基の3’突出部の配列は、すべてTT(T、2’-デオキシチミジン)とした。TT/TT基準siRNA二本鎖は、RNAiについて、野生型siRNA二本鎖AA/UGと同等であった(図17)。リポーターmRNA破壊を媒介する能力は、翻訳に基づくルミネセンスアッセイを用いて定量化した。逆転配列部分有するsiRNAの二本鎖は、ホタルルシフェラーゼリポーターをターゲッティングする能力が著しく低いことがわかった(図18)。アンチセンスsiRNAの3’末端と中央部との間に位置する配列改変は、標的RNA認識を完全に破壊したが、アンチセンスsiRNAの5’末端付近の突然変異は、わずかな程度のサイレンシングを呈示する。推定標的RNA切断部位の反対側に直接、または推定部位から1塩基離れて位置するA/U塩基対のトランスバージョンによって、標的RNA切断が阻止されるが、これは、siRNA二本鎖の中心部内の単一突然変異が、ミスマッチ標的を識別することを示している。 【0142】 3.3 論考 siRNAは、昆虫細胞だけではなく、哺乳動物細胞においても、遺伝子発現を不活性化するための有用な試薬であり、治療用途に極めて有望である。本発明者は、キイロショウジョウバエ胚溶解物において効率的な標的RNA分解を促進するのに必要なsiRNA二本鎖の構造上の決定因子を系統的に分析することにより、最も効力のあるsiRNA二本鎖の設計についての法則を提供した。完全なsiRNA二本鎖は、全RNAの同等量を用いれば、500bpのdsRNAと同等の効率で、遺伝子発現をサイレンシングすることができる。 【0143】 3.4 siRNAユーザーガイド 効率的なサイレンシングsiRNA二本鎖は、21塩基のアンチセンスsiRNAから構成されるため、2塩基3’突出末端を有する19bp二重らせんを形成するように選択しなければならない。2塩基3’突出リボヌクレオチドの2’-デオキシ置換は、RNAiに影響を及ぼさないが、RNA合成にかかるコスト削減に役立ち、siRNA二本鎖のRNase抵抗を増強することができる。ところが、これより広範囲な2’-デオキシまたは2’-O-メチル修飾は、恐らく、siRNAP集合のためのタンパク質会合を妨害するために、siRNAがRNAiを媒介する能力を低下させる。 【0144】 標的認識は、標的に相補的なsiRNAにより媒介される、高度に配列特異的過程である。ガイドsiRNAの3’末端(most)塩基は、標的認識の特異性に寄与しないのに対し、3’突出部から2番目の塩基は、標的RNA切断に影響を与え、また、ミスマッチはRNAiを1/2?1/4倍に低下させる。ガイドsiRNAの5’末端もまた、3’末端と比べて、ミスマッチ標的RNA認識を広く許容するようである。標的RNA切断部位と向き合って位置する、siRNAの中心のヌクレオチドは、重要な特異性決定因子であり、ただ1つの塩基改変でも、RNAiは検出不可能なレベルまで低下する。これは、siRNA二本鎖が、遺伝子ターゲッティング実験において突然変異体または多型対立遺伝子を区別することができることを示唆しており、このことは、将来の治療法開発にとって重要な特徴となるであろう。 【0145】 センスおよびアンチセンスsiRNAは、エンドヌクレアーゼ複合体またはその拘束(commitment)複合体のタンパク質成分と会合すると、個別の役割を果たすことが示唆されている。この複合体におけるsiRNA二本鎖の相対配向が、どの鎖を標的認識に用いることができるかを決定する。合成siRNA二本鎖は、二重らせん構造に対して二回転対称を有するが、配列に対してはそうではない。キイロショウジョウバエ溶解物におけるRNAiタンパク質とsiRNA二本鎖との会合により、2つの非対称複合体が形成される。このような推定上の複合体では、センスおよびアンチセンスsiRNA、従って、それらの機能について、キラル環境がそれぞれ異なる。この推定は、明らかにパリンドロームのsiRNA配列、またはホモ二量体として会合できるRNAiタンパク質には適用されない。センスおよびアンチセンスターゲッティングsiRNPの比に及ぼす可能性のある配列の影響を最小限にするため、本発明者は、同一の3’突出部配列を有するsiRNA配列を用いることを提案する。本発明者は、センスsiRNAの突出部の配列を、アンチセンス3’突出部の配列に対して調節するよう勧める。なぜなら、センスsiRNAは、典型的ノックダウン実験には標的をもたないからである。センスおよびアンチセンス切断siRNPの再構成における非対称性は、この実験(図14)で用いた2塩基3’突出部を有する様々な21塩基のsiRNA二本鎖について観察したRNAi効率の変動に(部分的に)起因すると考えられる。あるいは、標的部位の塩基配列および/または標的RNA構造の受容能力は、これらsiRNA二本鎖の効率の変動によるものと考えられる。 【0146】 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 【図面の簡単な説明】 【0147】 【図1A】Pp-luc mRNAをターゲッティングするのに用いたdsRNAのグラフである。 【図1B】RNA干渉アッセイを示す図である。 【図2】ショウジョウバエ溶解物における内部^(32)P標識dsRNA(5nM)のプロセシングからの21?23mer形成の時間経過と、dsRNAの長さおよび供給源を示す図。 【図3A】5’切断産物の変性ゲル泳動を示す図である。 【図3B】センスおよびアンチセンス標的RNA上の切断部位の位置を示す図である。 【図4A】dsRNAプロセシング後の約21塩基RNAの配列を示す図である。 【図4B】約21塩基RNAのヌクレオチド組成の二次元TLCの分析を示す図である。 【図5A】対称52bpのdsRNAならびに合成21および22塩基のdsRNAをグラフで示す図である。 【図5B】センスおよびアンチセンス標的RNA上の切断部位の位置を示す図である。 【図6A】52bpのdsRNA構築物をグラフで示す図である。 【図6B】センスおよびアンチセンス標的RNA上の切断部位の位置を示す図である。 【図7】RNAiのモデル案を示す図である。 【図8a】プラスミドpGL2-Control、pGL-3-ControlおよびpRL-TK(Promega)からのホタル(Pp-luc)およびウミシイタケ(Rr-luc)ルシフェラーゼリポーター遺伝子領域を示す図である。 【図8b】GL2、GL3およびRLルシフェラーゼをターゲッティングするsiRNA二本鎖のセンス(上)およびアンチセンス(下)配列を示す図である。 【図9】siRNA二本鎖によるRNA干渉を示す図である。 【図10】pGL2-ControlとpRL-TKリポータープラスミドを用いて実施した実験を示す。 【図11】(A)実験戦略の概要を示す図である。(B)対照ルシフェラーゼに対する、標的ルシフェラーゼの正規化相対ルミネセンスを示す図である。(C?J)8系統の21塩基のsiRNA二本鎖について正規化した干渉比を示す図である。 【図12】siRNA二本鎖のセンス鎖の長さ変動を示す図である。 【図13】保存された2塩基3’突出部を有するsiRNA二本鎖の長さ変動を示す図である。 【図14】siRNAリボース残基の2’-ヒドロキシ基の置換を示す図である。 【図15A】32P(星印)キャップ標識センスおよびアンチセンス標的RNAと、siRNA二本鎖をグラフで示す図である。 【図15B】標的RNA切断部位のマッピングを示す図である。 【図16】(AおよびB)実験戦略をグラフで示す図である。(CおよびD)キャップ標識センスまたはアンチセンス標的RNAを用いた標識RNA切断の分析を示す図である。 【図17】siRNA二本鎖の3’突出部の配列変動を示す図である。 【図18】標的認識の配列特異性を示す図である。 【図19】保存された2塩基3’突出部を有するsiRNA二本鎖の長さ変動を示す図である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 単離された二本鎖RNA分子であって、各RNA鎖が19?23塩基長を有し、少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり、該RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものであり、3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が、予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなり、かつ、該mRNA標的分子が細胞または生物中に存在するものである、上記RNA分子。 【請求項2】 各鎖が、20?22塩基長を有する、請求項1に記載のRNA分子。 【請求項3】 3’突出部が分解に対して安定化されている、請求項1または2に記載のRNA分子。 【請求項4】 少なくとも1つの修飾されたリボヌクレオチドを含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のRNA分子。 【請求項5】 修飾リボヌクレオチドが、糖、骨格鎖または核酸塩基修飾リボヌクレオチドから選択される、請求項4に記載のRNA分子。 【請求項6】 修飾リボヌクレオチドが、糖修飾リボヌクレオチドであり、2’-OH基は、H、OR、R、ハロ、SH、SR^(1)、NH_(2)、NHR、NR_(2)またはCNから選択される基で置換され、Rは、C_(1)-C_(6)アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、ハロは、F、Cl、BrまたはIである、請求項4または5に記載のRNA分子。 【請求項7】 修飾リボヌクレオチドが、ホスホチオエート基を含む骨格鎖修飾リボヌクレオチドである、請求項4または5に記載のRNA分子。 【請求項8】 下記のステップを含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の二本鎖RNA分子の作製方法: (a)各々が19?23塩基長を有する2本のRNA鎖を合成するステップであって、このRNA鎖は二本鎖RNA分子を形成することができるものである、上記ステップ、 (b)二本鎖RNA分子が形成される条件下で合成RNA鎖を結合させるステップであって、得られる二本鎖RNA分子は標的特異的なRNA干渉が可能なものである、上記ステップ。 【請求項9】 RNA鎖が化学的に合成される、請求項8に記載の方法。 【請求項10】 RNA鎖が酵素により合成される、請求項8に記載の方法。 【請求項11】 下記のステップを含む、動物細胞において標的特異的なRNA干渉を媒介する方法: (a)標的特異的なRNA干渉が起こりうる条件下で、上記細胞を請求項1?7のいずれか1項に記載の二本鎖RNA分子と接触させるステップ、 (b)上記二本鎖RNAと一致する配列部分を有する標的核酸に対する、上記二本鎖RNAにより引き起こされる標的特異的なRNA干渉を媒介するステップ。 【請求項12】 接触ステップが、二本鎖RNA分子を標的細胞に導入し、そこで標的特異的なRNA干渉を起こさせうるステップを含む、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 導入ステップが、キャリア媒介による送達または注射を含む、請求項12に記載の方法。 【請求項14】 動物細胞における遺伝子の機能を決定するための、請求項11?13のいずれか1項に記載の方法の使用。 【請求項15】 動物細胞における遺伝子の機能を抑制するための、請求項11?13のいずれか1項に記載の方法の使用。 【請求項16】 遺伝子が病理的状態と関連する、請求項14または15に記載の使用。 【請求項17】 遺伝子が病原体関連遺伝子である、請求項16に記載の使用。 【請求項18】 遺伝子がウイルス遺伝子である、請求項17に記載の使用。 【請求項19】 遺伝子が腫瘍関連遺伝子である、請求項16に記載の使用。 【請求項20】 遺伝子が自己免疫疾患関連遺伝子である、請求項16に記載の使用。 【請求項21】 標的遺伝子特異的ノックアウト表現型を示す動物細胞であって、この細胞が、内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子、または少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害しうる少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子をコードするDNAでトランスフェクトされているものであり、該二本鎖RNA分子は、各RNA鎖が19?23塩基長を有し、少なくとも1つの鎖が1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり、かつ、3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が、予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる、上記細胞。 【請求項22】 哺乳動物細胞である、請求項21に記載の細胞。 【請求項23】 ヒト細胞である、請求項22に記載の細胞。 【請求項24】 標的タンパク質、または該標的タンパク質の変異体をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸でさらにトランスフェクトされた、請求項21?23のいずれか1項に記載の細胞であって、この外因性標的核酸は、二本鎖RNA分子による該外因性標的核酸の発現の阻害が、内因性標的遺伝子の発現より低いという点で、該内因性標的遺伝子とは核酸レベルで異なるものである、上記細胞。 【請求項25】 外因性標的核酸が、検出可能なペプチドまたはポリペプチドをコードするさらに別の核酸配列と融合される、請求項24に記載の細胞。 【請求項26】 分析手法のための、請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞の使用。 【請求項27】 遺伝子発現プロフィールを分析するための、請求項26に記載の使用。 【請求項28】 プロテオーム分析のための、請求項26に記載の使用。 【請求項29】 外因性標的核酸によってコードされる標識タンパク質の変異体の分析が実施される、請求項26?28のいずれか1項に記載の使用。 【請求項30】 標的タンパク質の機能ドメインを同定するための、請求項29に記載の使用。 【請求項31】 下記のものから選択される少なくとも2つの動物細胞の比較を実施する、請求項26?30のいずれか1項に記載の使用: (i)標的遺伝子阻害を含まない対照細胞、 (ii)標的遺伝子阻害を含む細胞、および (iii)標的遺伝子阻害と、外因性標的核酸による標的遺伝子の相補を含む細胞。 【請求項32】 分析が、機能および/または表現型の分析を含む、請求項26?31のいずれか1項に記載の使用。 【請求項33】 調製手法のための、請求項21?25のいずれか1項に記載の細胞の使用。 【請求項34】 真核細胞からタンパク質またはタンパク質複合体を単離するための、請求項33に記載の使用。 【請求項35】 高分子量タンパク質複合体を単離するための、請求項34に記載の使用。 【請求項36】 高分子量タンパク質複合体が核酸を含む、請求項35に記載の使用。 【請求項37】 薬理学的物質を同定および/または特性決定する手法における、請求項26?36のいずれか1項に記載の使用。 【請求項38】 下記の(a)?(c)を含む、少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質の同定および/または特性決定システム: (a)少なくとも1つの標的タンパク質をコードする少なくとも1つの標的遺伝子を発現することができる、動物細胞、 (b)上記少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を阻害することができる、少なくとも1つの単離された二本鎖RNA分子であって、該二本鎖RNA分子は、各RNA鎖が19?23塩基長を有し、少なくとも1つの鎖は1?3塩基からなる3’突出部を有するものであり、かつ、3’突出部を除く該RNA分子の1つの鎖が、予め決定したmRNA標的分子に対して100%の同一性を有する配列からなる、上記RNA分子、および (c)薬理学的特性を同定および/または特性決定しようとする、試験物質または試験物質のコレクション。 【請求項39】 さらに下記の(d)を含む、請求項38に記載のシステム: (d)上記標的タンパク質または該標的タンパク質の変異体をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸であって、この外因性標的核酸は、二本鎖RNA分子による発現の阻害が、上記内因性標的遺伝子の発現より低いという点で、該内因性標的遺伝子とは核酸レベルで異なるものである、上記外因性標的核酸。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2013-12-04 |
結審通知日 | 2013-12-06 |
審決日 | 2013-12-24 |
出願番号 | 特願2002-546670(P2002-546670) |
審決分類 |
P
1
113・
536-
Y
(C12N)
P 1 113・ 113- Y (C12N) P 1 113・ 121- Y (C12N) P 1 113・ 537- Y (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松田 芳子、小暮 道明 |
特許庁審判長 |
今村 玲英子 |
特許庁審判官 |
高堀 栄二 鈴木 恵理子 |
登録日 | 2008-03-14 |
登録番号 | 特許第4095895号(P4095895) |
発明の名称 | RNA干渉を媒介する短鎖RNA分子 |
代理人 | 堀江 健太郎 |
代理人 | 武井 紀英 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 堀江 健太郎 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 武井 紀英 |
代理人 | 実広 信哉 |