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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1291863
審判番号 不服2012-24423  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-10 
確定日 2014-09-10 
事件の表示 特願2008-139084「誘電体材料を含む個別要素又は半導体デバイスを含む集積回路デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日出願公開,特開2008-252118〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成11年3月12日(パリ条約に基づく優先権主張 1998年3月12日,アメリカ合衆国)に出願した特願平11-65742号の一部を平成20年5月28日に新たな特許出願としたものであって,平成23年11月30日に手続補正がされ,平成24年8月6日付けで拒絶査定がされ,それに対して同年12月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされ,その後平成25年8月7日付けで当審より拒絶の理由が通知され,平成26年1月31日に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成26年1月31日の手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「誘電体材料を含む個別要素又は半導体デバイスを含む集積回路デバイスであって,
前記誘電体材料は,ジルコニウム,シリコン,チタン及びハフニウムから選択された少なくとも一つのIV族元素でドープされた,アルミニウム酸化物,イットリウム酸化物,五酸化タンタル,バナジウム酸化物から選択された金属酸化物であり,
前記誘電体材料は,酸素の存在下,スパッタリング,化学気相堆積及び原子層堆積から選択される堆積法により生成され,0.1重量パーセントないし30重量パーセントのドーパント量を有し,
前記IV族元素は,ドーピングにより取り込まれた後にその状態で酸化されて前記IV族元素の酸化物を形成し,
前記金属酸化物は第1の酸化物形成エネルギーをもち,前記IV族元素の酸化物は第2の酸化物形成エネルギーをもち,前記第1の酸化物形成エネルギーは,前記第2の酸化物形成エネルギーより大きく,前記ドーパントの存在は金属酸化物のバルク中の欠陥及び前記金属酸化物と隣接する半導体又は金属層の界面に形成する欠陥を安定化する,
集積回路デバイス。」

3 引用例に記載された発明
これに対して,当審における,平成25年8月7日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開昭64-50428号公報(以下「引用例」という。)には,「高誘電率酸化物薄膜およびその形成方法」に関して,図1?4とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。)。

(1)「2.特許請求の範囲
1)添加物としてシリコンを含んでいることを特徴とする高誘電率酸化物薄膜。
2)前記高誘電率酸化物薄膜がタンタル,ハフニウムおよびジルコニウムのうちの一種の酸化物を主成分とすることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の高誘電率酸化物薄膜。
3)前記シリコンの含有量か0.01ないし20原子%であることを特徴とする特許請求の範囲第1項または第2項に記載の高誘電率酸化物薄膜。
4)高誘電率酸化物層とシリコン酸化物層とが交互に積層されてなることを特徴とする高誘電率酸化物薄膜。
5)前記高誘電率酸化物層がタンタル,ハフニウムおよびジルコニウムのうちの一種の酸化物からなることを特徴とする特許請求の範囲第4項記載の高誘電率酸化物薄膜。
6)前記シリコン酸化物層の厚さが前記高誘電率酸化物薄膜の全厚さの1/100?1/10であることを特徴とする特許請求の範囲第4項または第5項に記載の高誘電率酸化物薄膜。
7)酸化物薄膜をCVD法によって基板上に形成する際に,前記酸化物薄膜中にシリコンを混合させることを特徴とする高誘電率酸化物薄膜の形成方法。
8)前記酸化物薄膜がタンタル,ハフニウムおよびジルコニウムのうちの一種の酸化物からなることを特徴とする特許請求の範囲第7項記載の高誘電率酸化物薄膜の形成方法。
9)前記シリコンの混合を,前記酸化物薄膜の原料蒸気と共にシリコン原料蒸気を供給することによって行うことを特徴とする特許請求の範囲第7項または第8項に記載の高誘電率酸化物薄膜の形成方法。
10)前記CVD法が光CVD法であることを特徴とする特許請求の範囲第7項ないし第9項のいずれかの項に記載の高誘電率酸化物薄膜の形成方法。
11)前記シリコンが混合された酸化物薄膜を紫外線照射下,かつ酸化雰囲気中で熱処理すること特徴とする特許請求の範囲第7項ないし第10項のいずれかの項に記載の高誘電率酸化物薄膜の形成方法。」(公報第1ページ左下欄5行?第2ページ左上欄7行)

(2)「[産業上の利用分野]
本発明は,大規模集積デバイスにおける容量部や,薄膜トランジスタのゲート部等に使用する高誘電率酸化物薄膜およびその形成方法に関する。」(公報第2ページ右上欄2行?6行)

(3)「さらに本発明は酸化物薄膜をCVD法によって基板上に形成する際に,前記酸化物薄膜中にシリコンを混合させることを特徴とする。
また本発明は高誘電率酸化物薄膜層と,シリコン酸化物薄膜層とを,それぞれCVD法によって基板上に交互に積層させることを特徴とする。
本発明者らは,酸素不足がもたらす絶縁性の低下を,紫外線照射下,酸化雰囲気中で一定の温度で熱処理する方法(以後この処理を「光酸素アニール」と称する)によって解消し得るという知見を得た。この光酸素アニールによって基板のシリコンが酸化物薄膜中に移動することが確かめられており,このシリコンが酸化タンタル等における欠陥を減少させ,その結果絶縁性が向上すると考えられている。この方法では使用できる基板に,シリコンを含んだものという制約があったが,この制約は本発明によって解消した。
本発明において,酸化物薄膜中にシリコンを混合させる方法には特に制限はないが,例えば形成すべき酸化物薄膜の原料蒸気と共にSi_(2)Cl_(6),Si(OCH_(3))_(4)等のシリコンの原料蒸気を混合して反応器内に供給する方法がある。また形成すべき酸化物薄膜の間に少なくとも1層のシリコン酸化物層を形成し,形成すべき酸化物とシリコン酸化物の間の反応や,シリコン酸化物層からのシリコンの拡散を利用する方法もある。
本発明において,膜中に混合させるシリコンの量については,0.01?20原子%程度が好ましい。これより少ないと,シリコンの混合による欠陥の減少の効果が少ないし,一方この範囲を越えると酸化物薄膜の比誘電率の低下が著しい。またシリコン酸化物層の厚さは全厚さのl/100?1/10が好ましい。
また,木発明において,形成された酸化物薄膜に光酸素アニールを行なうと,膜中に含まれるシリコンがさらに拡散し,適切な位置に配置できることでより一層のリーク電流の低減化ができる。」(公報第2ページ右下欄11行?第3ページ右上欄8行)

(4)「[作 用]
本発明において,高誘電率酸化物薄膜形成時に膜中に混合されたシリコンは,形成された酸化物薄膜か化学量論組成によりも酸素不足の場合に生成する酸素空孔等の欠陥の量を減らし,それによって比誘電率の著しい減少を伴なうことなく,しかも基板の制限もなく,低いリーク電流で高い絶縁耐圧を有する高誘電率酸化物薄膜をCVD法で形成することが可能である。高誘電率薄膜と二酸化ケイ素薄膜とを積層しても同様の効果が得られる。
[実施例]
実施例1
以下に,高誘電率材料として近年特に注目され,かつ酸素空孔等の欠陥を生じやすいとされている酸化タンタル薄膜を光CVD法で形成する場合を例にとり,実施例により本発明の詳細な説明する。」(公報第3ページ右上欄15行?同ページ左下欄12行)

(5)「酸化タンタル膜を形成する時は,基板を一定温度に保持し,TaCl_(5),Si_(2)Cl_(6),O_(2)の混合ガスを導入する。光源の低圧水銀ランプは有効な波長を透過する合成石英製の照射窓を通して基板に対向させてあり,光化学反応によってO_(2)から活性な酸素ラジカルが,TaCl_(5),Si_(2)Cl_(6)から低級な塩化物がそれぞれ生じ,低温においてもシリコンを混合させた酸化タンタル膜が形成される。この時の光源は特に低圧水銀ランプに限らないが,O_(2),Si_(2)Cl_(6)の光化学反応を生じる193nm以下の波長を有する必要がある。
酸化タンタル膜形成時の光CVDの標準的条件は以下の通りである。
基板温度150?400℃,
圧力0.8?7Torr
TaCl_(5)発生源温度120℃, キャリアN_(2)流量10sccm
O_(2)流量 50sccm.
窓曇り防止用N_(2)流量100 sccm
光強度 40mW/cm^(2)(254nm)
Si_(2)Cl_(5)発生源温度 -10℃, キャリアN_(2)流量1sccm
このようにして酸化タンタル膜を形成した後に,光酸素アニールを行なう場合には,まずガスを止め,-旦反応器内の残留ガスを完全に排気した後,酸素を流入し,反応器内を1気圧にする。一定流量の酸素を流した状態で基板温度を一定に保持し,紫外光照射を継続する。この時流すガスは,必ずしも酸素である必要はなく,光源の波長で活性化できるN_(2)Oなどの酸化剤でもよい。
この光酸素アニールの典型的条件は以下の通りである。
基板の保持温度 400℃
反応器内圧力 1気圧
O_(2)ガス流量 200 sccm
保持時間 1時間」(公報第3ページ右下欄14行?第4ページ右上欄9行)

(6)「 第2図は,原料中にSi_(2)Cl_(6)を混合した場合に得られる酸化タンタル薄膜の堆積のまま(as depo,試料a)および形成後光酸素アニールを行なった試料(P-O_(2),試料b)のリーク電流特性をSi_(2)Cl_(6)を混合しない場合のas depoと光酸素アニール後の酸化タンタル薄膜(各々試料c,d)のリーク電流特性と比較して示したものである。
膜厚は全て800Åであり,酸化膜の形成条件およびアニール条件は次のとおりである。
形成条件
基板温度 300℃
圧力 7 Torr
0_2流量 50sccm
キャリアTa系10 sccm
Si系1 sccm
Vent 100sccm
アニール条件
基板温度400℃
圧力 760 Torr
雰囲気 O_(2) 時間 60min
なお,基板には石英ガラス上に金属タングステン膜をスパッタにより形成したものを用い,上部電極としてはアルミニウムを蒸着により形成した。
原料ガス中にSi_(2)Cl_(6)を混合しない場合,形成された酸化タンタル薄膜はリーク電流が大きく,しかも光酸素アニールを行なってもリーク電流の低減化も少ない。
絶縁耐圧(リーク電流密度が10^(-3)A/cm^(2)に達する時の限界強度とする)は,as depo.,光酸素アニール後で各々0.85,1.6MV/cmであった。一方,原料ガス中にSi_(2)Cl_(6)を混合した場合には,混合しない場合に比べて,as depo.でもリーク電流が数桁減少し,光酸素アニールを行なうことにより,さらに1桁近くのリーク電流の低減化がなされた。この場合の絶縁耐圧は,as depo.,光酸素アニール後で各々 4.6.5.5MV/cmであり,原料ガス中にSi_2Cl_6を混合しない場合の光酸素アニール後に比べても3倍前後の絶縁耐圧を有する。
試料aをXPSにて分析した結果,基板との界面から表面に至るまで,シリコンが2原子%前後の割合でほぼ均一に,しかもSiO_(2)の状態で存在していることが確認された。
また,試料a?dの比誘電率は各23.0,22.9,24.1,24.0であり,膜中にシリコンを混合させたことによる比誘電率の著しい低下は見られなかった。
酸化タンタル中のシリコンの量を変化させた場合の絶縁耐圧および比誘電率を第1表に示す。シリコンの添加によって絶縁耐圧が上昇する。一方シリコン量と共に比誘電率は減少する。また光酸化アニールによって絶縁耐圧が上昇する。好ましいシリコン量は0.01?20原子%の範囲である。
」(公報第4ページ右上欄10行?第5ページ左上欄5行)

引用発明の認定
以上を総合すると,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「高誘電率酸化物薄膜を使用した容量部や,薄膜トランジスタを含む大規模集積デバイスであって,
前記高誘電率酸化物薄膜は,シリコンを混合された,酸化タンタル膜であり,
前記酸化タンタル膜を形成する時は,基板を一定温度に保持し,TaCl_(5),Si_(2)Cl_(6),O_(2)の混合ガスを導入して,光CVD法で形成され,膜中に混合させSiO_(2)の状態で存在しており,そのシリコンの量については,0.01?20原子%程度であり,
前記酸化タンタル膜を形成した後に,光酸素アニールを行うことにより,前記シリコンが移動して,酸化タンタル等における欠陥を減少させ,その結果絶縁性が向上した
大規模集積デバイス。」

4 対比
以下に,本願発明と引用発明とを対比する。

(1) 「容量」すなわち,キャパシターが電気回路のエレメントである「電気要素」であること,「薄膜トランジスタ」は,「半導体デバイス」の一つであることは,当業者にとって明らかである。
よって,引用発明の「高誘電率酸化物薄膜」,「容量部」,「薄膜トランジスタ」及び「大規模集積デバイス」は,それぞれ本願発明の「誘電体材料薄膜」,「個別要素」,「半導体デバイス」及び「集積回路デバイス」に相当する。
したがって,引用発明の「高誘電率酸化物薄膜を使用した容量部や,薄膜トランジスタを含む大規模集積デバイス」は,本願発明の「誘電体材料を含む個別要素又は半導体デバイスを含む集積回路デバイス」に相当する。

(2) 「酸化タンタル」は,「酸化タンタル…安定に存在するとして確認されたものは酸化数4,5の化合物である。[1]酸化タンタル(IV).TaO_(2).…導電性で,不定比性があると考えられる.[2]酸化タンタル(V).Ta_(2)O_(5)…高抵抗ではあるが空気中ではp型半導体的性質を示す.薄膜はコンデンサー電極に使用される.」(岩波 理化学事典 第5版 岩波書店,1998年2月20日発行,258ページ)にもあるように,誘電体として使われるものは,酸化タンタル(V),すなわち五酸化タンタルであることは,当業者にとって明らかである。

(3) 「高誘電率酸化物薄膜」が「シリコンを混合された,酸化タンタル膜」である引用発明と,「誘電体材料」が「ジルコニウム,シリコン,チタン及びハフニウムから選択された少なくとも一つのIV族元素でドープされた,アルミニウム酸化物,イットリウム酸化物,五酸化タンタル,バナジウム酸化物から選択された金属酸化物」である本願発明とは,「誘電体材料」は「シリコンがドープされた,五酸化タンタル」からなる「金属酸化物」である点で一致する。

(4) 引用発明の「光CVD法」は,本願発明の「化学気相堆積」に相当し,また引用発明では,「TaCl_(5),Si_(2)Cl_(6),O_(2)の混合ガスを導入して,光CVD法で形成」していることから,堆積時には,「酸素の存在」していることは明らかである。
そうすると,本願発明の誘電体材料に相当する「酸化タンタル膜を」,「基板を一定温度に保持し,TaCl_(5),Si_(2)Cl_(6),O_(2)の混合ガスを導入して,光CVD法で形成」する引用発明と,「誘電体材料」を「酸素の存在下,スパッタリング,化学気相堆積及び原子層堆積から選択される堆積法により生成」する本願発明とは,「誘電体材料は,酸素の存在下,」「化学気相堆積」「法により生成」する点で一致する。

(5) 引用発明は,「酸化タンタル膜」中に含有させる「シリコンの量」が,「0.01?20原子%程度」である。そして,上記3(6)から,引用例に記載の試料aは,シリコンを2原子%含むものである。
そこで,試料aのシリコン含有量である「2原子%」を重量パーセントに換算する。
まず,上記3(6)から,試料aは,シリコンが2原子%前後の割合ではほぼ均一に,SiO_(2)の状態で存在していることが分かる。これは,五酸化タンタルTa_(2)O_(5)のみでは,欠陥(酸素の欠損)が有りTa_(2)O_(5ーx)のように4価,5価のTaが混在しているものが,IV族のSiをドープすることにより,5価のTaのTa_(2)O_(5)と4価のSiのSiO_(2)となり,誘電体として安定していると考えられる。そこで,Ta_(2)O_(5)とSiO_(2)からなると仮定して,以下では計算する。

[2原子%の重量パーセントへの換算]
Siが2原子%の場合は,SiO_(2)が0.02で,Ta_(2)O_(5)は,0.134の比率で混在していることになり,Si:O:Ta=0.02:0.711:0.269の原子比率となる。
この場合のSiの重量パーセントを計算する。
Si,O,Taの原子量はそれぞれ,Si:28.0855,O:15.9994,Ta:180.9であるから,
(金属酸化物中のSiの重量パーセント)=28.0855×0.02/(28.08855×0.02+15.9994×0.711+180.9×0.269)×100≒0.93[重量パーセント]
となる。

シリコンの含有量は2原子%を換算した0.93重量パーセントであり,これは,本願発明の0.1重量パーセントと30重量パーセントの範囲に含まれている。
したがって,引用発明と本願発明とは,シリコンが「0.93重量パーセントのドーパント量」を有している点で一致する。

(6) まず,本願発明の「前記シリコンは,ドーピングにより取り込まれた後にその状態で酸化されて前記シリコンの酸化物を形成」することの解釈について検討する。
本願発明は,「酸素の存在下,スパッタリング,化学気相堆積及び原子層堆積から選択される堆積法により生成され,」IV元素が「0.1重量パーセントないし30重量パーセント」ドープされることから,IV元素は,誘電体材料の成長時に既に酸素の存在下で酸化されているものと認められる。
そして,本願明細書中の段落【0032】【0033】を参酌すると,「窒素雰囲気中」若しくは,「酸素雰囲気中」でアニールすることが記載されており,酸化されたIV族元素が「ドーピングにより取り込まれた後に,」さらに「酸化される」ことと解するのが妥当である。
一方,上記3(6)によれば,引用発明は,TaCl_(5),Si_(2)Cl_(6),O_(2)の混合ガスを用いてCVD法により酸化物薄膜を成長していることから,既にドープされたシリコンは酸化されており,試料aにおいても,シリコンがSiO_(2)の状態で存在しており,その後さらに「光酸素アニール」をすることにより,絶縁耐圧が向上することから,シリコンがドープ後にも酸化されていると認められる。
したがって引用発明の「前記酸化タンタル膜を形成した後に,光酸素アニールを行うこと」は,本願発明の「前記シリコンは,ドーピングにより取り込まれた後にその状態で酸化されて前記シリコンの酸化物を形成」することに相当する。

(7) 本願発明の「金属酸化物のバルク中の欠陥及び前記金属酸化物と隣接する半導体又は金属層の界面に形成する欠陥」は,金属酸化物全体における欠陥を指しているので,引用発明の「酸化タンタル等における欠陥」は,本願発明の「金属酸化物のバルク中の欠陥及び前記金属酸化物と隣接する半導体又は金属層の界面に形成する欠陥」に相当する。

(8) 本願発明の「欠陥を安定化」することは,本願明細書中の段落【0015】?【0016】の「そのような欠陥には,未結合手又は歪み結合又は粒界が含まれる」,「未結合手及び歪結合の数を減らし,…粒界を安定させることは有利である。なぜなら,そのような減少により,誘電体材料の電気特性が改善されるからである。…実際にこれらの好ましくない欠陥が減少するというのが,出願人の確信するところである。」なる記載を参酌すると,「欠陥」を減少させているものであることが分かる。
そうすると,引用発明の「欠陥を減少させ」ることは,本願発明の「欠陥を安定化」することに相当する。
したがって,引用発明の「前記シリコンが酸化タンタル等における欠陥を減少させ」ることは,本願発明の「前記ドーパントの存在は金属酸化物のバルク中の欠陥及び前記金属酸化物と隣接する半導体又は金属層の界面に形成する欠陥を安定化する」ことに相当する。

(一致点)
したがって,本願発明と引用発明とは,

「誘電体材料を含む個別要素又は半導体デバイスを含む集積回路デバイスであって,
前記誘電体材料は,シリコンでドープされた,五酸化タンタルであり,
前記誘電体材料は,酸素の存在下,スパッタリング,化学気相堆積により生成され,0.93重量パーセントのドーパント量を有し,
前記シリコンは,ドーピングにより取り込まれた後にその状態で酸化されて前記シリコンの酸化物を形成し,
前記ドーパントの存在は金属酸化物のバルク中の欠陥及び前記金属酸化物と隣接する半導体又は金属層の界面に形成する欠陥を安定化する,
集積回路デバイス。」
である点で一致し,以下の点で一応相違する。

(相違点)
本願発明は,「金属酸化物は第1の酸化物形成エネルギーをもち,前記IV族元素の酸化物は第2の酸化物形成エネルギーをもち,前記第1の酸化物形成エネルギーは,前記第2の酸化物形成エネルギーより大き」いものであるが,引用発明は「酸化タンタル」と「酸化シリコン」の形成エネルギーの大小関係については特定されていない。

5 判断

(1) 相違点について
ア 上記4(2)のとおり引用発明の「酸化タンタル」は,誘電体材料であるから,五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))であり,そのTa_(2)O_(5)の形成エネルギー(標準生成エンタルピー)及び「酸化シリコン」(SiO_(2))の形成エネルギー(標準生成エンタルピー)は,それぞれ
Ta_(2)O_(5):-2046.0kJmol^(-1)(-488.99kcalmol^(-1))
SiO_(2):-910.94kJmol^(-1)(-217.71kcalmol^(-1))
[化学便覧 基礎編 改訂4版 丸善株式会社,平成5年9月30日発行,II-292?293,表9・122]である。

イ これらのデータから,金属酸化物である酸化タンタルの形成エネルギー,すなわち第1の酸化物形成エネルギーの方がIV族元素の酸化物である酸化シリコンの形成エネルギー,すなわち第2の酸化物形成エネルギーよりも大きいことが分かる。
したがって,相違点は,金属酸化物を酸化タンタルとし,IV族元素をシリコンとした場合は,形成エネルギーに関しては,成り立っている関係であり,相違点は実質的なものではない。

6 むすび
以上検討したとおり,本願発明は,引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-15 
結審通知日 2014-04-17 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2008-139084(P2008-139084)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松嶋 秀忠  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 小野田 誠
西脇 博志
発明の名称 誘電体材料を含む個別要素又は半導体デバイスを含む集積回路デバイス  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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