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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1292175
審判番号 不服2013-8354  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-08 
確定日 2014-09-17 
事件の表示 特願2010- 33611「文書に注釈を付ける装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月24日出願公開、特開2010-140506〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、2002年3月7日に国際出願された特願2002-572544号(優先日:2001年3月9日、アメリカ合衆国)の一部を、平成22年2月18日に新たな出願として分割したものであって、原審において平成24年12月26日付けで拒絶査定され、これに対し平成25年5月8日に審判請求がなされたものであるところ、
本件出願の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成24年7月10日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

(本願発明)
「【請求項1】
文書に注釈をつける装置であって、
プロセッサと、
前記プロセッサに結合されたメモリであって、前記メモリが、複数のユーザによって校閲される少なくとも1つのテキスト文書を含む、メモリと、
前記メモリから前記少なくとも1つのテキスト文書を得、クライアント装置からの前記テキスト文書に対する要求に応答して、前記少なくとも1つのテキスト文書の少なくとも一部を少なくとも1つの音声ファイルに変換するように構成された文書処理エンジンと、
前記少なくとも1つの音声ファイルを再生するように構成された音声出力デバイスと、
前記少なくとも1つの音声ファイルに関する少なくとも1つの言葉によるコメントを得るように構成された音声入力デバイスと、
第1ユーザの識別子を識別する識別手段と、
前記第1ユーザが前記少なくとも1つのコメントを提供した時に再生中の前記音声ファイルに対応する前記テキスト文書内の位置に関連づけて、前記第1ユーザの識別子と該第1ユーザの提供した前記コメントとを含む第1の音声コメント・ファイルを記憶するように構成された、コメント記憶手段と、
再生ファイル内で前記第1の音声コメント・ファイルと少なくとも一つの音声ファイルとを関係づける再生ファイル準備手段と、
前記再生ファイルの受信を行う受信手段と
を備え、
前記プロセッサ、前記メモリ、前記文書処理エンジン、前記コメント記憶手段及び前記再生ファイル準備手段はサーバ装置に設けられ、
前記受信手段、前記音声出力デバイス、前記音声入力デバイスは、ネットワークを介して前記サーバ装置に接続する複数のクライアント装置の各々に設けられており、
前記コメント記憶手段は複数の音声コメント・ファイル内に複数のクライアント装置から受信された複数のユーザに関する、各ユーザ識別子と、各ユーザによる音声コメントとが記憶されるよう構成されているとともに、
前記再生ファイル準備手段は、前記再生ファイルに、前記複数のクライアント装置の一つによって要求された複数のユーザの内の特定のユーザからの音声コメントファイルのみを含ませることを特徴とする装置。」


2.引用例に記載された発明
2.1 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平5-313554号公報(以下、「引用例1」という。)には、「文章処理装置」として図面と共に次の記載がある。

イ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 文章を表す文字のコード列をアドレス付けして記憶した文章記憶手段と、前記文章記憶手段に記憶された文章のアドレスを指示するアドレス指示手段と、前記アドレス指示手段がアドレス指示した文章のコード列に基づいて、この文章を出力する出力手段と、前記文章記憶手段に記憶された特定の文章を指定する指定手段と、音声を入力するための入力手段と、前記入力手段から入力される音声を符号化する符号化手段と、前記符号化手段で符号化された音声符号化データを前記指定手段で指定した文章と対応付けて記憶するコメント記憶手段と、前記文章記憶手段に記憶された文章と対応づけて、前記コメント記憶手段から読み出した音声符号化データを再生するコメント再生手段とを備えた文章処理装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、コード化された文章データを取り扱うワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等の文章処理装置に関するものである。
【0002】
(・・・中略・・・)
【0010】
【作用】本発明による文章処理装置は、あらかじめ文字コード列に変換された文章に対して、コメントを入力したい文章の位置を指定し、この指定された文章位置に関連づけられたコメントを音声で入力し、これを記憶できるものであり、さらに必要に応じてこのコメントを音声で聞くことを可能としたものである。」(2頁1?2欄)

ロ.「【0038】本発明の文章処理装置の第二の実施例を説明する。
【0039】図5は本発明装置の第2の実施例の概略図である。図6及び図7は図5の本発明装置の構成を示しており、図6は音声コメント記録モードにおける動作を機能的に図示したブロック図、図7は音声コメント再生モードにおける動作を機能的に図示したブロック図である。
【0040】図5に基づいて、本発明の文章処理装置の構成を動作順に説明する。
【0041】同図に示すように、あらかじめ文章データを記憶済みのフロッピーディスクDを持ち運び可能な携帯型処理装置(本体)Yに差し込み、このフロッピーディスクDから文字データ列を読み出すことによって、ヘッドフォンの内蔵スピーカHから文章が読み上げられる。このヘッドフォンをつけて、文章を添削しようとする添削者は読み上げられる文章を聞きながら、例えば文章の表現が適切でない場合、あるいは誤字脱字がある場合、あるいは文章の内容がおかしい場合に、コメントスイッチSを押して、マイクNに向かって音声でコメントを発声する。こうして、前述の第1の実施例の場合と同様にしてコメントを本体Yに記憶し、コメントを文章データとともにフロッピーディスクDに記憶する。
【0042】また記憶されたコメントを再生するときは、読み上げられる文章を聞きながら、コメント入力を行った文章のところまで読み上げられると、コメントを音声で再生し、再生し終わると続きの文章の読み上げを継続する。
【0043】図6および図7において、21は文章メモリ、22は文章アドレスカウンタ、23は文章バッファ、24は音声合成部、25はスピーカ(図5のH)、26はコメントスイッチ(図5のS)、27は音声メモリ、28はマイク(図5のN)、29は音声符号化部、30は音声アドレスカウンタ、31は文章アドレスバッファ、32は比較器、33は警告音発生器、34は音声復号部である。
(1)まず、音声コメント記憶モードについて説明する。」(4頁6欄)

ハ.「【0044】図6において、文章メモリ21には、例えばワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、文字認識装置等により、あらかじめ電子化された文章データ、すなわち文章を表す文字のコード列がアドレス付けして入力されている。
【0045】文章アドレスカウンタ22には、文章メモリ21のうち、読み上げを行なうべき文章の先頭アドレスが格納される。この文章アドレスカウンタ22を用いて、文章読み上げ処理をする文章を指示する。また、読み上げを行うべき文字のアドレスが格納されていてもよい。
【0046】文章アドレスカウンタ22によって指し示されている一文章は、文章バッファ23に読み込まれ、音声合成部24により音声に変換され、スピーカ25より出力される。
【0047】こうして文章が読み上げられている状態において、コメント入力したい文章が読み上げられたときに、コメントスイッチ26を閉じてコメント入力したい文章を指定する。すなわち文章アドレスカウンタ22を固定する。そして、これと同時に音声メモリ27を記憶可能の状態にする。コメントスイッチ26を閉じると、音声合成中断制御信号aを音声合成部24に対して出力し、音声合成処理を中断する。そしてコメントスイッチ26を開くと、音声合成中断制御信号aを解除し、音声合成処理を再開する。
【0048】マイク28は、コメントスイッチ26を閉じている期間に、音声でコメントを入力する入力装置である。
【0049】音声符号化部29は、マイク28から入力された音声を、例えば、PCM符号に変換し音声符号化データを出力する。また、音声符号化データを少なくする必要がある場合には、パーコ-ル係数を用いて、音声データ圧縮してもよい。但し、この場合、音声を再生するには、音声データを伸張する必要がある。
【0050】音声メモリ27には、音声符号化部29で符号化された音声符号化データが記憶されている。この音声符号化データを音声メモリ27に記憶させる際に、コメントスイッチ26を閉じたときの文章アドレスカウンタ22の値を音声符号化データとともに音声メモリ27に記憶する。このとき、図4に示すように、音声符号化データ即ちコメントと、コメントを必要とする文章が対応付けられている。なお、音声符号化データを音声メモリ27に記憶し、この音声符号化データのアドレスを、文章メモリ21内のコメントを必要とする文章が記憶された領域に記憶する構成にしてもよい。あるいは、別途メモリを用意し、これに音声符号化データのアドレスと、対応するコメントを必要とする文章のアドレスを記憶する構成にしてもよい。
【0051】コメントスイッチ26を開いてコメント入力を終了すると、文章アドレスカウンタ22は1文章分増加され、次の文章の先頭アドレスを指し示され、次の文章の読み上げが行なわれる。こうして文章の読み上げ処理を継続する。
(2)次に、音声コメント再生モードについて説明する。」
(4頁6欄?5頁7欄)

ニ.「【0052】図7において、文章メモリ21に記憶された文章が、文章アドレスカウンタ22によって指し示されながら、文章バッファ23に読み出され、音声合成部24で音声合成されて、スピーカ25から音声で読み上げられている。
【0053】これと同時に、音声アドレスカウンタ30には、音声メモリ27に記憶されている音声符号化データの先頭アドレスが格納されている。この音声アドレスカウンタ30を用いて、最初のコメント即ち第1の音声符号化データを指示する。
【0054】文章アドレスバッファ31には、第1の音声符号化データに対応したコメントを必要とする文章(音声メモリ27に第1の音声符号化データとともに記憶されている)のアドレス値が読み出される。
【0055】文章アドレスカウンタ22が一文章ごとに増加されながら、文章メモリ21に記憶された文章が読み上げられているときに、比較器32は、文章アドレスバッファ31の内容と、文章アドレスカウンタ22の内容を比較し、一致した時、アドレス一致信号bを警告音発生器33に対して出力する。
【0056】警告音発生器33は、使用者に対しコメントがある旨の注意を促す警告音を発生する。また、音声合成部34に対してもアドレス一致信号bを出力し、音声合成部34での文章読み上げを一時停止する。警告音の発生が終了すると、警告音発生器33は、警告音発生終了信号cを音声復号部34に出力する。
【0057】音声復号部34は、警告音発生終了信号cにより起動し、音声メモリ27から、音声アドレスカウンタ30が指し示す第1の音声符号化データを読み出し、音声を復号してスピーカ25より音声出力する。このようにして第1の音声符号化データの復元が終了すると、音声アドレスカウンタ30は、音声符号化データ分増加し、次の第2の音声符号化データの先頭を指し示す。すると、第2の音声符号化データに対応したコメントを必要とする文章のアドレス値が、音声メモリ27から読み出され文章アドレスバッファ31に格納される。そうすると比較器32の2個の入力が不一致となり、アドレス一致信号bが解除される。
【0058】こうして、文章アドレスカウンタ22が指し示している文章即ちコメントを必要とする文章の読み上げが行われる。文章アドレスカウンタ22が一文章分増加され、文章の読み上げが継続される。
【0059】上述の本発明装置の第2の実施例によれば、記憶したコメントを音声で再生するだけでなく、作成済みの文章データの文章読み上げ処理を行えば、キーボード及びディスプレイが不要となるため、大幅な小型化が可能となり、携帯性が高く、通勤や出張時の移動中でも簡単に利用することが可能となる。」(5頁7?8欄)


上記引用例1の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、上記引用例1記載の「文章処理装置」は、上記イ.【請求項1】、ハ.【0044】などにあるように、「文章を表す文字のコード列」として「電子化された文章データ」を処理する装置であって、このような「電子化された文章データ」は、引用例1図6,7の「文章メモリ21」のような「文章記憶手段」に記憶されてなるものである。

また、上記文章に対する処理の内容としては、上記イ.【0010】にある「指定された文章位置に関連づけられたコメントを音声で入力し、これを記憶できるものであり、さらに必要に応じてこのコメントを音声で聞くことを可能とした」なる記載や、上記ハ.【0041】中段の「ヘッドフォンの内蔵スピーカHから文章が読み上げられる。このヘッドフォンをつけて、文章を添削しようとする添削者は読み上げられる文章を聞きながら、例えば文章の表現が適切でない場合、あるいは誤字脱字がある場合、あるいは文章の内容がおかしい場合に、コメントスイッチSを押して、マイクNに向かって音声でコメントを発声する。」との記載、および引用例1図5を参照すれば、装置の使用者(ユーザ)である「文章を添削しようとする添削者」による文章の添削のための「音声によるコメントの入力」処理であり、前記「文章メモリ21」(文章記憶手段)は、『文章を添削しようとする添削者によって添削される電子化された文章データを記憶する文章メモリ』であるということができる。

また、上記イ.【請求項1】の「文章を出力する手段」に関して、上記ハ.【0045】【0046】にある引用例1の第2実施例の「音声コメント記憶モード」における動作、または上記ニ.【0052】の「音声コメント再生モード」における動作をみると、引用例1図6,7の「文章バッファ23」および「音声合成部24」は、「文章メモリ21」から「電子化された文章データ」を読み出し、「音声に変換」して「スピーカ25より出力」するものということができる。

同様に、上記イ.【請求項1】の「音声を入力するための入力手段」に関して、上記ハ.【0047】【0048】にある「音声コメント記憶モード」における動作をみると、引用例1図6の「マイク28」は、「コメント入力したい文章が読み上げられたときに、音声でコメントを入力する入力装置」である。

同様に、上記イ.【請求項1】の「コメント記憶手段」に関して、上記ハ.【0049】【0050】にある「音声コメント記憶モード」における動作および引用例1図4をみると、引用例1図6の「音声メモリ27」は、『前記添削者が音声でコメントを入力したときに、音声符号化データ即ちコメントを、コメントを必要とする文章と対応付けて記憶する音声メモリ』ということができる。

そして、上記イ.【請求項1】の「コメント再生手段」に関して、上記ニ.【0057】の「音声コメント再生モード」における「音声復号部34」の動作をみると、引用例1図7の「音声復号部34」は、『前記音声メモリから、コメントの音声符号化データを読み出し、音声を復号してスピーカより音声コメントを再生出力する音声復号部』ということができる。
したがって、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「 文章を表す文字のコード列として電子化された文章データを処理する文章処理装置であって、
文章を添削しようとする添削者によって添削される電子化された文章データを記憶する文章メモリと、
前記文章メモリから電子化された文章データを読み出し、音声に変換してスピーカより出力する音声合成部と、
コメント入力したい文章が読み上げられたときに、音声でコメントを入力する入力装置であるマイクと、
前記添削者が音声でコメントを入力したときに、音声符号化データ即ちコメントを、コメントを必要とする文章と対応付けて記憶する音声メモリと、
前記音声メモリから、コメントの音声符号化データを読み出し、音声を復号してスピーカより音声コメントを再生出力する音声復号部
を備える文章処理装置」


2.2 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、「Microsoft Word 2000 オフィシャルマニュアル」(ルービン チャールズ著、1999年8月2日、日経BPソフトプレス発行、827-829頁)(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。

ホ.「36.3 文書にコメントを付ける
ほかの人と共同で文書を作成しているときには、意見や、自分が加えた変更に関するメモを付けると便利です。Wordでは、文書の任意の場所にコメントを挿入することができます。コメントには、校閲者の名前と頭文字が自動的に付けられます。コメントは、ポップヒントとして表示することも、文書ウインドウの下の方に専用のウインドウ枠を開いて、その中に表示することもできます。

注意 コメントを文章に挿入するときに、変更履歴をオンにする必要はありません。

36.3.1 コメントの挿入
文書には、文字のコメントまたは音声のコメントを付けることができます。コメントを入力するには、次のようにします。
1 コメントを表示する場所にカーソルを移動する。
2 [挿入]-[コメント]をクリックするか、[チェック/コメント]ツールバーの[コメントの挿入]ボタンをクリックする。カーソルの左側に、黄色の蛍光色で表示された文字が表示され、コメント作成者の頭文字が挿入される。図36-6のように、ウインドウの下にはコメント枠が開き、カーソルがコメント枠に移動してコメントを入力できるようになる。



3 コメントを入力する。
4 コメント枠の[閉じる]をクリックするか、文書内をクリックして、文書の編集に戻る。

ヒント コメントを挿入すると、文書の先頭から順に番号が付けられます。既存のコメントの前にコメントを追加すると、以降のコメント番号が振り直されます。ほかの校閲者がコメントを追加したことでコメントの番号が変わることがあるので、文書内のコメントを参照するときは、なるべく番号を使用しないようにしてください。

音声のコメントを付けるには、コンピュータにサウンドカードをインストールし、マイクを接続する必要があります。ハードウェアの準備が整ったら、次のようにして音声のコメントを付けることができます。

(・・・中略・・・)




(・・・中略・・・)



音声のコメントを聞くには、サウンドオブジェクトのアイコンを右クリックし、ショートカットメニューから[WAVEサウンドオブジェクト]-[再生]をクリックします。
ある校閲者のコメントだけを表示するには、コメント枠内の[コメントの作成者]ボックスの一覧から、対象の校閲者の名前を選択します。
(当審注:829頁中段)」


なお、原査定の拒絶理由通知においては参照の範囲外ではあるが、上記引用例2の目次28頁には、上記ホ.摘記部分の前の第35章に関して以下のような記載がある。
ヘ.「 第7部 コラボレーション機能
第35章 ネットワークでの文書共有 809
35.1 ネットワークを利用した作業 809
35.1.1 アクセス権、ユーザー名、パスワード 810
35.1.2 ファイルの保護 811
35.2 ネットワークファイルでのファイル動作 812
35.2.1 サーバーへのファイルの保存 812
35.2.2 ネットワーク上のファイルの保護 813
35.2.3 ネットワークサーバーからファイルを開く 814
35.2.4 保護したファイルを開く 815
35.2.5 サーバーに保存されているファイルの編集 816
35.3 ほかのコンピュータからWordを実行する 816
35.3.1 プロファイル設定ファイルの作成 816
35.3.2 プロファイル設定ファイルの使い方 817」


2.3 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、「Microsoft^((R)) Word 98 for Windows^((R)) 活用ガイド」(マイクロソフト株式会社、1998年5月30日発行、初版、247-250頁)(以下、「引用例3」という。)には、次の記載がある。

ト.「文書をグループで校閲する
オンラインで文書の変更履歴を記録したりコメントを追加する

新製品の企画書を作成し、それをグループのメンバーにオンラインで校閲してくれるように依頼するとします。

Microsoft^((R)) Word 98 for Windows^((R))(以下Word)を使うと、校閲者が文書を直接変更できるようにしたり、またはコメントしか追加できないようにすることができます。校閲者からのコメントや変更内容は簡単にまとめることができます。



(・・・中略・・・)

文書の配布方法 それぞれの校閲者に個別に文書を送信したり、文書を回覧して校閲者が前の校閲者の変更を参照できるようにすることができます。また、文書をネットワークサーバーやパブリックフォルダに置くこともできます。詳細については、238ページの「オンラインでドキュメントを配付する」を参照してください。(当審注:249頁第3段落)

(・・・中略・・・)

音声によるコメントを追加する 使用しているコンピュータにサウンドボードとマイクが組み込まれていると、音声によるコメントを挿入できます。[チェック/コメント]ツールバーの[コメントの挿入]をクリックし、コメントウィンドウの[サウンドオブジェクトの挿入]をクリックします。(当審注:250頁第3段落)」


上記引用例2,3の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識、およびこれらの引用例が本願優先権主張日前、全世界において極めて多数頒布されたアプリケーションソフトウェアの機能説明であることを考慮すると、以下の周知技術1?4を認めることができる。

周知技術1:文書を校閲する校閲者が複数存在すること
(引用例2:「ほかの人と共同で文書を作成しているときには、意見や、自分が加えた変更に関するメモを付けると便利です。」(上記ホ.827頁2?3行)、「ほかの校閲者がコメントを追加したことでコメントの番号が変わることがあるので、」(上記ホ.828頁5?6行)、「ある校閲者のコメントだけを表示するには、」(上記ホ.829頁下から11行)、
引用例3:「文書をグループで校閲する」(上記ト.247頁1行)
などの記載箇所による。)

周知技術2:文書を校閲する校閲者が複数存在する場合に、各校閲者のコメントを識別するために、コメントにコメント作成者の頭文字、名前などの識別子を付与すること
(引用例2:「コメントには、校閲者の名前と頭文字が自動的に付けられます。」(上記ホ.827頁4?5行)、「コメント作成者の頭文字が挿入される。」(上記ホ.827頁15?16行)、「校閲者の頭文字が付けられる。」(上記ホ.827頁、図36-6)、
引用例3:「伊藤晃子:具体的な例を挙げてはどうだろうか。」(上記ト.247頁のウインドウ画面中段左端のポップアップウインドウ内)、「[I.A1]具体的な例を挙げてはどうだろうか。[Y.Y2]「カーソルが右から左に動く」だけではイメージが湧かないので、・・・」(上記ト.247頁のウインドウ画面下段)などの記載箇所による。)

周知技術3:文書を校閲する校閲者が複数存在する場合に、特定の校閲者からのコメントのみを表示すること
(引用例2:「ある校閲者のコメントだけを表示するには、コメント枠内の[コメントの作成者]ボックスの一覧から、対象の校閲者の名前を選択します。」(上記ホ.829頁下から11?10行および図36-8)、
引用例3:「コメントの作成者 全ての校閲者」(上記ト.247頁のウインドウ画面下段のコメント枠内の[コメントの作成者]ボックス)
などの記載箇所による。)

周知技術4:文書をネットワーク上のファイルサーバーに保存し、ネットワークを介して該文書をグループで校閲すること
(引用例2:「第35章 ネットワークでの文書共有 809」、「35.2.1 サーバーへのファイルの保存 812」、「35.2.3 ネットワークサーバーからファイルを開く 814」、「35.2.5 サーバーに保存されているファイルの編集 816」(上記ヘ.目次28頁下から4,6,8,13行)、
引用例3:「文書をネットワークサーバーやパブリックフォルダに置くこともできます。」(上記ト.249頁12?13行)
などの記載箇所による。)


3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

まず、引用発明の「文章処理装置」が処理する「文章を表す文字のコード列として電子化された文章データ」において、
「文章を表す文字のコード列」とは、いわゆる「テキスト」であり、引用例1図4にもあるように一連の複数の文章を含んで全体として1つの「文書」とみることができるから、本願発明の「(テキスト)文書」に相当し、
引用発明の該「文章処理装置」の処理の内容は概略、「コメント入力したい文章が読み上げられたときに、音声でコメントを入力」し、「コメントを必要とする文章と対応付けて記憶、再生する」というものであるから、「(音声)コメント」、「注釈」をつけるということができ、結局、引用発明の「文章処理装置」は、本願発明の『文書に注釈をつける装置』にあたる。

また、引用発明の「文章を添削しようとする添削者によって添削される電子化された文章データを記憶する文章メモリ」において、
「文章を添削しようとする添削者」は、引用発明の「文章処理装置」の使用者、すなわち「ユーザ」であり、
該「ユーザ」(添削者)が前記「文書」に行う処理の内容は、文書に音声でコメント(注釈)を付与することであるから、これを「校閲」ということもでき、
引用発明の「文章メモリ」は、「メモリ」であって、「文章データを記憶する」から「テキスト文書を含む」ということができ、
結局、引用発明の「文章を添削しようとする添削者によって添削される電子化された文章データを記憶する文章メモリ」は、本願発明の『ユーザによって校閲される少なくとも1つのテキスト文書を含む、メモリ』にあたる。

また、引用発明の「前記文章メモリから電子化された文章データを読み出し、音声に変換してスピーカより出力する音声合成部」において、
「前記文章メモリから電子化された文章データを読み出し、」とは、前述までの対比結果を参酌すれば、本願発明の『前記メモリから前記少なくとも1つのテキスト文書を得、』にあたり、
引用発明の「スピーカ」が、音声の電気信号を音響信号の音声として再生出力する音声出力装置(デバイス)であるという技術常識、および本願発明の「音声ファイル」も、データの集まりとしての「音声情報」である点において、前記音声の電気信号と一致することを勘案すれば、
引用発明の「音声合成部」は、文書データの一部である文章を読み上げる音声としての電気信号に変換する処理を実行する機械(エンジン)という意味に於いて、本願発明と『前記少なくとも1つのテキスト文書の少なくとも一部を少なくとも1つの音声情報に変換するように構成された文書処理エンジン』の点において一致する。

また、引用発明の「スピーカ」は、前記技術常識および対比結果を参酌すれば、本願発明と『前記少なくとも1つの音声情報を再生するように構成された音声出力デバイス』の点で一致する。

同様に、引用発明の「コメント入力したい文章が読み上げられたときに、音声でコメントを入力する入力装置であるマイク」において、
「マイク」が「音声入力デバイス」であることもまた技術常識であり、「音声でコメントを入力する」とは「言葉によるコメントを得る」ということであり、
該コメント入力は「コメント入力したい文章が読み上げられたときに」なされるのであるから、「前記少なくとも1つの音声情報に関する」コメントであって、
結局両者は、『前記少なくとも1つの音声情報に関する少なくとも1つの言葉によるコメントを得るように構成された音声入力デバイス』の点で一致する。

そして、引用発明の「前記添削者が音声でコメントを入力したときに、音声符号化データ即ちコメントを、コメントを必要とする文章と対応付けて記憶する音声メモリ」において、今までの対比結果を参酌すれば、
引用発明の「前記添削者が音声でコメントを入力したときに、」とは、本願発明の『前記ユーザが前記少なくとも1つのコメントを提供した時に』にあたり、
引用発明の「音声符号化データ即ちコメント」は、本願発明の「音声コメント・ファイル」と『音声コメント・情報』の点で一致し、
引用発明は「音声符号化データ即ちコメントを、コメントを必要とする文章と対応付けて記憶する」のであるから、文書内のコメントされる文章の位置に関連づけてコメント情報は記憶されており、本願発明と『再生中の前記音声情報に対応する前記テキスト文書内の位置に関連づけて、前記ユーザの提供した前記コメントを含む音声コメント・情報を記憶する』点で一致し、
結局、引用発明の「音声メモリ」は、本願発明の『コメント記憶手段』に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「 文書に注釈をつける装置であって、
ユーザによって校閲される少なくとも1つのテキスト文書を含む、メモリと、
前記メモリから前記少なくとも1つのテキスト文書を得、前記少なくとも1つのテキスト文書の少なくとも一部を少なくとも1つの音声情報に変換するように構成された文書処理エンジンと、
前記少なくとも1つの音声情報を再生するように構成された音声出力デバイスと、
前記少なくとも1つの音声情報に関する少なくとも1つの言葉によるコメントを得るように構成された音声入力デバイスと、
前記ユーザが前記少なくとも1つのコメントを提供した時に再生中の前記音声情報に対応する前記テキスト文書内の位置に関連づけて、前記ユーザの提供した前記コメントを含む音声コメント・情報を記憶するコメント記憶手段を備える装置」

(相違点)
(1)本願発明は「プロセッサ」を有し、「メモリ」が「前記プロセッサに結合されたメモリ」であるのに対し、引用発明には「プロセッサ」の言及はなく、「メモリ」が「前記プロセッサに結合されたメモリ」であるとの記載もない点。

(2)テキスト文書を校閲する「ユーザ」に関し、
本願発明は「複数のユーザ」であるのに対し、引用発明の装置の使用者である「添削者」には「複数の」との限定はない点。

(3)「文書処理エンジン」の音声変換動作に関し、
本願発明は「クライアント装置からの前記テキスト文書に対する要求に応答して」音声変換動作が行われるのに対し、引用発明にはそのような要件はない点。

(4)「音声情報」、「音声コメント・情報」の点に関し、
本願発明は「音声ファイル」、「音声コメント・ファイル」であるのに対し、引用発明は「音声」、「音声符号化データ即ちコメント」である点。

(5)コメントを提供する「ユーザ」に関し、
本願発明は「第1ユーザ」であって、「第1ユーザの識別子を識別する識別手段」を有してなり、コメント記憶手段に記憶される「第1の音声コメント・ファイル」には「前記第1ユーザの識別子」も含むのに対し、
引用発明は単に「添削者」であって、「第1ユーザの識別子を識別する識別手段」はなく、コメント記憶手段に記憶される「音声符号化データ即ちコメント」(音声コメント・情報)には「前記第1ユーザの識別子」は含まれない点。

(6)本願発明は「 再生ファイル内で前記第1の音声コメント・ファイルと少なくとも一つの音声ファイルとを関係づける再生ファイル準備手段と、 前記再生ファイルの受信を行う受信手段」を備えるのに対し、引用発明にはこれらはない点。

(7)本願発明は「前記プロセッサ、前記メモリ、前記文書処理エンジン、前記コメント記憶手段及び前記再生ファイル準備手段はサーバ装置に設けられ、
前記受信手段、前記音声出力デバイス、前記音声入力デバイスは、ネットワークを介して前記サーバ装置に接続する複数のクライアント装置の各々に設けられて」いるのに対し、引用発明にはそのような要件はない点。

(8)本願発明は「前記コメント記憶手段は複数の音声コメント・ファイル内に複数のクライアント装置から受信された複数のユーザに関する、各ユーザ識別子と、各ユーザによる音声コメントとが記憶されるよう構成されている」のに対し、引用発明にはそのような要件はない点。

(9)本願発明は「前記再生ファイル準備手段は、前記再生ファイルに、前記複数のクライアント装置の一つによって要求された複数のユーザの内の特定のユーザからの音声コメントファイルのみを含ませる」のに対し、引用発明にはそのような要件はない点。


まず、上記相違点(1)の「プロセッサ」、およびその「メモリ」との結合について検討する。
すると、引用例1の上記イ.【0001】には「ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等の文章処理装置」とあり、このような装置が情報処理装置(コンピュータ)の基本構成として「メモリ」(記憶装置)に結合された「プロセッサ」(処理装置)を有することは、特に例示するまでもなく技術常識であるから、相違点(1)は何ら格別のことではない。

ついで、上記相違点(2)の「複数のユーザ」について検討する。
すると、そもそも対外的な文書を作成するような組織、環境であれば、1つの文書案(原稿)に対して、例えば添削者、校閲者、編集者、上司などのコメントする者が複数存在し得ることは当然のことであって、また、引用発明のような「文章処理装置」であっても、これを複数のユーザが(1つの文書に対して)順に使用するようなことも容易に想定し得ることであるが、
上記周知技術1にもあるように、「文書を校閲する校閲者が複数存在すること」は周知技術であって、これらの校閲者は装置の使用者(ユーザ)であるから、「ユーザ」を「複数のユーザ」とした相違点(2)も何ら格別のことではない。

ついで、上記相違点(4)の「音声情報」、「音声コメント・情報」(音声ファイル、音声コメント・ファイル)について検討する。
すると、コンピュータのような情報処理装置の内部に於いて、処理対象の情報を中間的、一時的にせよ保持するかしないか、保持するとしてどの様な形態で保持するかは当業者であれば必要に応じて定め得る設計的事項に過ぎず、例えば引用例1の図6,7にある「文章バッファ23」や、図4の「VRAM4」なども、そのための記憶手段、メモリであることは明らかなことである。
そして、これらの情報を「ファイル」の形式で保持する点についても、その技術的意義について本願明細書に特段の記載は無く、一般的な解釈によれば「ファイル」とは、「(2)コンピューターで、意味的なまとまりをもったデータの集まり。また、それを格納する記憶装置。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)という程度のことであって、引用発明の「音声情報」、「音声コメント・情報」もそれなりの意味的なまとまりをもって取り扱われるデータであるのは当然のことであるから、これを「音声ファイル」、「音声コメント・ファイル」とした相違点(4)も格別のことではない。

ついで、上記相違点(5)の本願発明においてコメントを提供する「ユーザ」が「第1ユーザ」であって、「第1ユーザの識別子を識別する識別手段」を有してなり、コメント記憶手段に記憶される「第1の音声コメント・ファイル」には「前記第1ユーザの識別子」も含む点について検討する。
すると、まず、複数のユーザ(校閲者)が存在する場合に、あるコメントを提供する特定のユーザ(校閲者)を「第1ユーザ」と称するのは任意のことに過ぎないが、
上記周知技術2に認定したように、「文書を校閲する校閲者が複数存在する場合に、各校閲者のコメントを識別するために、コメントにコメント作成者の頭文字、名前などの識別子を付与すること」は周知技術であるから、
引用発明にこの様な周知技術を適用し、前記「第1ユーザ」の識別のため当然に必要となる「第1ユーザの識別子を識別する識別手段」を設け、コメント記憶手段に記憶される当該「第1ユーザ」の「第1の音声コメント・ファイル」には、「前記第1ユーザの識別子」も含めるようにする程度のことは当業者であれば容易想到なことに過ぎず、相違点(5)も格別のことではない。

ついで、上記相違点(6)の、本願発明は「 再生ファイル内で前記第1の音声コメント・ファイルと少なくとも一つの音声ファイルとを関係づける再生ファイル準備手段と、 前記再生ファイルの受信を行う受信手段」を備える点、および
上記相違点(7)の、本願発明は「前記プロセッサ、前記メモリ、前記文書処理エンジン、前記コメント記憶手段及び前記再生ファイル準備手段はサーバ装置に設けられ、 前記受信手段、前記音声出力デバイス、前記音声入力デバイスは、ネットワークを介して前記サーバ装置に接続する複数のクライアント装置の各々に設けられて」いる点、
上記相違点(3)の、本願発明は「クライアント装置からの前記テキスト文書に対する要求に応答して」音声変換動作が行われる点についてまとめて検討する。

すると、そもそも記憶媒体による情報の交換から、通信網、ネットワークを介した情報の交換への流れは時代の趨勢であって、コンピュータや情報端末などの複数の装置をネットワークに接続して利用することは、本願優先権主張日前既に広く行われていたことに過ぎないが、
ネットワークによって接続されたサーバ装置(Server:サービス提供装置)と複数のクライアント装置(Cleint:顧客側装置)からなる、いわゆる「クライアントサーバシステム」の構成も、本願優先権主張日前既に広く知られた、当業者には技術常識の構成である。
(必要とあれば例えば、特開平9-34825号公報(【0012】、図2)、登録実用新案第3040448号公報(【0007】、図1)、特開平11-331147号公報(【0015】、図1)を参照。)
この様なシステムに於いて、サーバ、クライアント両装置の間でどのようにユーザに提供すべきサービス、機能を分担するかは適宜の設計的事項であって、それに伴って両装置に設けられる手段、構成が異なることも自明なことである。
更に両装置はネットワークを介して接続されているのであるから、ネットワークを介して通信を行うための送信手段、受信手段が双方それぞれに必要となるのも当然のことであって、ユーザの発したクライアント装置側からの要求に対して、サーバ装置が応答を返すことによってサービス機能がユーザに提供される動作も技術常識である。

ここで、周知技術4にあるように「文書をネットワーク上のファイルサーバーに保存し、ネットワークを介して該文書をグループで校閲すること」は周知技術であり、この周知技術4において「ファイルサーバー」は「サーバ装置」であって、校閲する「グループ」をなす各ユーザ側には、ネットワークに接続された複数の「クライアント装置」が存在することも当然であるから、これは前述のような「クライアントサーバシステム」を前提とした周知技術であって、引用発明にこの様な周知技術を適用して「クライアントサーバ」構成とすることにより、
ネットワークを介して通信を行うための送信手段、受信手段(特にサーバ装置からクライアント装置に再生時の「応答」等を返す方向の通信ための手段)として、「 再生ファイル内で前記第1の音声コメント・ファイルと少なくとも一つの音声ファイルとを関係づける再生ファイル準備手段と、 前記再生ファイルの受信を行う受信手段」(相違点(6))を設け、
「前記プロセッサ、前記メモリ、前記文書処理エンジン、前記コメント記憶手段及び前記再生ファイル準備手段はサーバ装置に設けられ、 前記受信手段、前記音声出力デバイス、前記音声入力デバイスは、ネットワークを介して前記サーバ装置に接続する複数のクライアント装置の各々に設けられて」いる(相違点(7))ように機能分担をなすことは、当業者であれば容易に想到可能なことにすぎない。
そして、そのようなシステムに於いて、例えばコメントされるべき文書の読み上げ動作として、「クライアント装置からの前記テキスト文書に対する要求に応答して」音声変換動作が行われる(相違点(3))こととなるのも、ユーザの要求に応じて動作する「クライアントサーバシステム」としての当然の動作に過ぎない。
したがって、相違点(3)、相違点(6)、相違点(7)も格別のことではない。

ついで、上記相違点(8)の、本願発明は「前記コメント記憶手段は複数の音声コメント・ファイル内に複数のクライアント装置から受信された複数のユーザに関する、各ユーザ識別子と、各ユーザによる音声コメントとが記憶されるよう構成されている」点について検討する。
すると、上記相違点(5)の検討で述べたように、「コメント記憶手段」に記憶される「第1ユーザ」の「第1の音声コメント・ファイル」には、「前記第1ユーザの識別子」が含まれるものであるが、
上記相違点(2)で検討したように「複数のユーザ」がいれば、これら各ユーザのコメントが相互に区別されるべきなのも当然のことに過ぎないから、適宜「複数の音声コメント・ファイル」を設け、「前記コメント記憶手段は複数の音声コメント・ファイル内に複数のユーザに関する、各ユーザ識別子と、各ユーザによる音声コメントとが記憶されるよう構成されている」こととするのも当業者であれば容易になし得る程度のことにすぎない。
また、上記相違点(3)、相違点(6)、相違点(7)の検討で述べたように「クライアントサーバ」構成を採用すれば、「サーバ装置」側に設けられる「コメント記憶手段」に記憶される「ユーザ識別子」、「音声コメント」が、コメント入力時に「複数のクライアント装置から受信された」ものとなるのも当然のことに過ぎない。
したがって、相違点(8)も格別のことではない。

最後に、上記相違点(9)の、本願発明は「前記再生ファイル準備手段は、前記再生ファイルに、前記複数のクライアント装置の一つによって要求された複数のユーザの内の特定のユーザからの音声コメントファイルのみを含ませる」点について検討する。
すると、音声によるコメントであろうと、文字、テキストによるコメントであろうと、複数の校閲者(ユーザ)によって既に多数のコメントが付与された文書を参照するユーザにしてみれば、例えば状況の整理などのために複数のユーザの内の特定のユーザからのコメントのみを参照したいという要求はごく自然なものであって、
実際、上記周知技術3にあるように、「文書を校閲する校閲者が複数存在する場合に、特定の校閲者からのコメントのみを表示すること」は周知技術でもあるから、これを引用発明の音声コメントの再生に適用して、「再生ファイルに、複数のユーザの内の特定のユーザからの音声コメントファイルのみを含ませる」構成とすることは当業者であれば容易に想到可能なことに過ぎない。
また、前述のように「クライアントサーバ」構成を採用すれば、このような再生の要求が、特定のユーザからの音声コメントのみを再生しようとするユーザの使用する「前記複数のクライアント装置の一つによって要求された」ものとなることも当然のことに過ぎない。
したがって、相違点(9)も格別のことではない。

そして、本願発明の効果も引用発明及び周知技術、技術常識から当業者が容易に予測し得る範囲のものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-20 
結審通知日 2014-04-01 
審決日 2014-05-08 
出願番号 特願2010-33611(P2010-33611)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 成瀬 博之  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 井上 信一
酒井 伸芳
発明の名称 文書に注釈を付ける装置  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  

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