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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1292194
審判番号 不服2012-17435  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-07 
確定日 2014-09-19 
事件の表示 特願2009-264667「簡易メンブレンアッセイ法及びキット」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 44094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年6月27日を出願日とする特願2002-187781号の一部を新たな特許出願とした特願2006-099040号の一部をさらに新たな特許出願としたものであって、その出願日は、特許法第44条第2項の規定により平成14年6月27日とみなされるものである。
当該出願に対して、平成23年12月1日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年2月6日に意見書の提出及び手続補正がなされたが、同年6月5日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同月7日に請求人に送達された。
平成24年9月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、平成26年4月25日付けで当審により拒絶の理由が通知され、同年6月30日に意見書の提出及び手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
本願発明は、平成26年6月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりのものである。(以下、特許請求の範囲の請求項1ないし16に係る発明について本願発明1ないし本願発明16などという。)

第3 当審の判断
当審拒絶理由の概要は、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということにあるところ、以下、当該拒絶理由通知において示した理由に沿って当審の判断を示す。

1 本願発明1及び9に関して
(1)本願発明1及び9は、ラテラルフロー式メンブレンの孔径または保留粒子径が、濾過フィルターの孔径または保留粒子径以上であって0.5μm?7μmであることを特定しているものである。
なお、これらにおいては、濾過フィルターの孔径または保留粒子径については何ら特定していない。

(2)本願の明細書の発明の詳細な説明の記載事項
これに対して、発明の詳細な説明の記載には、つぎの事項が記載されている。
ア 「【0002】
・・・
現在、簡易検査方法として、メンブレンアッセイ法、特にニトロセルロース等の膜やフィルター等のメンブレンを用いたアッセイ方法が一般に知られており、フロースルー式とラテラルフロー式メンブレンアッセイ法に大別される。前者は被測定物を含む溶液を被測定物に対する検出用物質が塗布された膜を垂直方向に通過させるものであり、後者は水平方向に展開させるものである。いずれの場合も被測定物に特異的に結合する膜固相物質、被測定物、被測定物に特異的に結合する標識物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被測定物の検出あるいは定量を行うという点で共通している。
しかし、このような膜やフィルターを用いるメンブレンアッセイ法による簡易検査方法では、患者から実際に採取された検体の分析において、被測定物が検体中に存在しないにも係わらず陽性と判定してしまう、いわゆる偽陽性が生じることがある。病原体の感染を測定する際に偽陽性反応が発生すると、疾患に関して誤った情報を与えるため、原因特定を遅らせるばかりでなく、不適切な措置を講じることになり病状がより重篤になる等の重大な結果をもたらすこともあり得る。したがって偽陽性を抑えることは簡易検査方法の主要な使用目的から見て、極めて重要な課題である。従来、この問題を解決するため、検体を浮遊あるいは希釈させる緩衝液として界面活性剤を含有する緩衝液を用いたり、試料を添加する際に濾過フィルターを通すなどの工夫がなされてきたが、必ずしも満足のゆくものではなかった。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、メンブレンアッセイ法を用いた検体の簡易な検査方法において、偽陽性の発生を防止し、被測定物の精度の高い検出あるいは定量を可能にする方法及びそのような方法において使用されるキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
メンブレンアッセイ法を用いた被測定物の検出、定量を行うにあたり、被測定物を含有する可能性がある検体試料を、濾過フィルターを通して濾過することにより、偽陽性の発生が大きく抑制されることが見出された。
すなわち本発明の課題は、被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる、検体試料中の被測定物の簡易メンブレンアッセイ法であって、検体試料を濾過フィルターを用いて濾過した後にメンブレン上に滴下し、前記検体試料中の被測定物の存在を検出することを特徴とする方法、により解決される。
また、本発明の課題は、以下を含む、検体試料中の被測定物の存在を検査するための簡易メンブレンアッセイキット;
(1)濾過フィルターを備えた検体試料用濾過チューブ、及び
(2)被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置、により解決される。
【0005】
・・・
本発明の好ましい実施態様は、上記濾過フィルターの孔径または保留粒子径が0.2?2.0μm、特に0.2?0.6μmである、上記方法またはキットである。
・・・前記メンブレンの孔径または保留粒子径が該濾過フィルターの孔径または保留粒子径以上でありかつ0.3?10μmである、上記方法またはキットである。
本発明のさらに好ましい実施態様は、上記メンブレンの材質がニトロセルロースであり、かつその孔径が0.5?7μmである、上記方法またはキットである。
・・・」

ウ 「【発明の効果】
【0006】
本発明の方法により、被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる簡易メンブレンアッセイ法において偽陽性の発生を大きく減らすことができた。これは以下のような理由によると考えられる。被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる簡易メンブレンアッセイ法では、被測定物が存在すると予測される部位、例えば患者の咽頭や鼻腔等から拭い液を採取して緩衝液に浮遊したり、被測定物を含む鼻汁や尿等の分泌物や排泄物から一部を採取し、緩衝液で希釈して、メンブレンアッセイ用の試料を作製するが、この場合、前記試料中に被測定物の他、検体採取部位から剥落した細胞や分泌物、排泄物の成分等が混入することがある。このような混入物にはプロテオグルカン、糖脂質等の粘性物質をはじめ、様々な生体成分が含まれているため、前記試料をそのまま膜等のメンブレン上に添加すると、上記成分の一部がメンブレン上あるいはメンブレン中に付着すると考えられる。特にメンブレンとして孔径または保留粒子径が0.1?10μmのものが使用されることが多いが、この孔径または保留粒子径に匹敵する大きさの成分が添加されると、メンブレン中の細孔を塞ぎ溶液中の成分の移動を阻害することが考えられる。このような現象により非特異的な反応が起こり、被測定物が検体中に存在しないにも係わらず陽性と判定してしまう、いわゆる偽陽性が起こると考えられる。本発明の方法によりこのような偽陽性を効率よく抑制することができ、信頼性の高い簡易検査方法を確立することができた。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳しく説明する。
(簡易メンブレンアッセイ方法)
本発明の方法は、被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる、検体試料中の被測定物の簡易メンブレンアッセイ法であって、検体試料を濾過フィルターを用いて濾過した後に前記メンブレン上に滴下し、前記検体試料中の被測定物の存在を検出あるいは定量することを特徴とする方法である。
・・・
【0009】
本発明のメンブレンアッセイ法は、2種類のメンブレンアッセイ法、すなわちフロースルー式メンブレンアッセイ法またはラテラルフロー式メンブレンアッセイ法を利用するものであることが、簡便かつ迅速であるため好ましい。フロースルー式メンブレンアッセイ法は被測定物を含む溶液を、被測定物と特異的に結合する捕捉試薬や検出用物質が塗布されたメンブレンに対して垂直方向に通過させるものであり、被測定物に特異的に結合する捕捉物質、被測定物、被測定物に特異的に結合する標識物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被測定物の検出あるいは定量を行う。ラテラルフロー式メンブレンアッセイ法は、同様なメンブレンを用いて、メンブレンに対して被測定物を含む溶液を水平方向に展開させる点でフロースルー式メンブレンアッセイ法と異なるが、被測定物の検出原理は同様である。」

オ 「【0011】
(濾過フィルター)
本発明の方法において、患者から採取した検体試料は検体浮遊液に浮遊させた後、濾過フィルターを用いて濾過される。濾過フィルターの孔径(直径)または保留粒子径は0.2?2.0μm、好ましくは0.2?0.6μmである。濾過フィルターの孔径あるいは保留粒子径は、本発明の効果において重要である。孔径あるいは保留粒子径が大きすぎると、メンブレン上で非特異的結合が起こって偽陽性を示す場合がある。逆に小さすぎると試料中に存在する粘性物や凝集物のためにフィルター自身が詰まってしまい濾過が不可能であるか、あるいはフィルター面積をかなり広くしなければならず、簡易検査方法に用いるという目的から見て不適切である。従って、本発明の濾過フィルターの孔径あるいは保留粒子径の範囲は0.2?2.0μmであり、0.2?0.6μmの範囲のものがより好ましい。
濾過フィルターは1種類だけではなく、材質の異なるもの、孔径あるいは保留粒子径の異なるものをいくつか組み合わせても良い。その場合、フィルターを構成するもののうち、最も小さな孔径あるいは保留粒子径のものが、そのフィルターの孔径あるいは保留粒子径となる。したがって組み合わせのうち、一つでも孔径あるいは保留粒子径が0.2?2.0μmの範囲にあれば、他のものがその範囲を越えていたとしても問題はない。
また、同じフィルターを2枚以上組み合わせることにより孔径または保留粒子径にばらつきのあるフィルターを使用しても一定の効果を得ることができるという利点が得られる。さらに強度的に不十分なフィルターを用いる場合に、2枚以上重ねてフィルターの強度を上げることも出来る。」

カ 「【0014】
(アッセイ装置)
本明細書にいうメンブレンを備えたアッセイ装置(メンブレンアッセイ装置ともいう)とは、被測定物に特異的に結合する捕捉物質が固相化されたメンブレンを含む装置である。このようなアッセイ装置としては、フロースルー式メンブレンアッセイ法またはラテラルフロー式メンブレンアッセイ法を利用する装置であることが好ましい。フロースルー式メンブレンアッセイ法を利用するアッセイ装置の具体例は、例えば図1及び2に示されるような装置である。
図1は装置の平面図であり、図2は、図1のI-I’切断端面図である。図1及び2において、aは、調製した検体試料を滴下する開口部を有し、底面部に試料が通過するための穴(Aホール及びBホール)を備えたアダプターである。bは被測定物に特異的に結合する捕捉物質が結合したメンブレンであり、cは液体を吸収する部材である。」

キ 「【0015】
(メンブレン)
メンブレンアッセイ装置中のメンブレンの材質としては、不織布、紙、ニトロセルロース、ガラス繊維、シリカ繊維、セルロースエステル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、四フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ナイロン6,6及びセルロースエステルとニトロセルロースの混合物からなる群が挙げられ、特に好ましくはニトロセルロースから作られた微多孔質物質が挙げられる。また、前記セルロースエステルとニトロセルロースの混合物も好適に用いることができる。上記メンブレンの孔径あるいは保留粒子径は濾過フィルターの孔径または保留粒子径以上でありかつ0.3?10μmであることが好ましく、0.5?7μmが特に好ましい。また、メンブレンの厚さは特に限定されないが、通常、100?200μm程度である。」

ク 「【0030】
3.インフルエンザウイルス検出用メンブレンアッセイ装置の作製
インフルエンザウイルス検出用メンブレンアッセイ装置は、図1及び図2に示すものと同様の構成のものを用いた。メンブレンは、孔径3μmを有するニトロセルロースメンブレン(サイズ2×3cm、厚さ125μm)を用いた。
メンブレンへの固相は、2種の抗体溶液をニトロセルロースメンブランヘスポットして行った。装置のAホールには精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかったもの0.2mg/mLが含まれる溶液を12μL、Bホールには精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかったもの1mg/mLが含まれる溶液12μLを0.22μm孔径の濾過フィルターで濾過し、それぞれスポットした。抗体を希釈する緩衝液は10mMクエン酸緩衝液(pH4.0)を用いた。スポット後、45℃の乾燥室で40分間乾燥を行い、インフルエンザウイルス検出用メンブレンアッセイ装置を作製した。」

ケ 「【0031】
4.インフルエンザウイルスの検出
(1)メンブレンアッセイ法による検出
臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者115人の鼻腔より滅菌綿棒を用いて拭い液を採取し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、1.5M塩化ナトリウム、1(W/V)%TritonX-100、0.5(W/V)%ウシ血清アルブミンの組成を有する溶液1.5mL中に浮遊し、試験用試料を作製した。試験用試料をよく懸濁させた後、3つの検体試料用濾過チューブに400μLずつ三等分し、それぞれのチューブの先端に下記の3種類のノズルを装着した。ノズル(I)には2枚の孔径(保留粒子径)0.67μmのガラス繊維の間に孔径0.45μmのニトロセルロースメンブレンを挟んだフィルターを装填し、ノズル(II)には孔径(保留粒子径)0.67μmのガラス繊維を3枚重ねにしたフィルターを装填し、ノズル(III)にはフィルターを装填しなかった。
【0032】
検体試料を各ノズルを通過して濾過した後、3.で作成したメンブレンアッセイ装置のAホールとBホールにそれぞれ150μLずつ滴加し、ニトロセルロースメンブレンの下部に備えられた液体吸収部材に試料が完全に吸収されるまで放置した。次にAホールには標識抗A型インフルエンザ抗体液を、Bホールには標識抗B型インフルエンザ抗体液を、それぞれ180μLずつ滴加後、前記抗体液が液体吸収部材に完全に吸収されるまで放置した。次にアダプターを除去し、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)、0.5M塩化ナトリウム、5(W/V)%アルギニン塩酸塩、1(W/V)%TritonX-100の組成を有する洗浄液をAホールとBホールにそれぞれ150μLずつ滴加後、前記洗浄液が液体吸収部材に完全に吸収されるまで放置した。続いて、BCIP/NBT基質液(Sigma社製)をAホールとBホールにそれぞれ250μL滴加し、発色反応を開始させた。10分後、100mMクエン酸緩衝液(pH3.0)をAホールとBホールにそれぞれ150μLずつ滴加し反応を停止させた。反応停止直後にAホールとBホールを鉛直上方から観察し、Aホールにのみ発色が認められた場合にはA型インフルエンザウイルス陽性、Bホールにのみ発色が認められた場合にはB型インフルエンザウイルス陽性、AB両ホールに発色が認められた場合はA型及びB型インフルエンザウイルス陽性、AB両ホールとも発色が認められない場合は陰性と判定した。
【0033】
(2)RT-PCR法による検出
5-(1)で作製した試験用試料の残りを用いてRT-PCR法により検体中にインフルエンザウイルス遺伝子が存在するかを確認した。RT-PCR法は、清水の方法(感染症学雑誌、第71巻、第6号、p522-526)で実施した。
(3)簡易メンブレンアッセイ法とRT-PCR法の比較 本発明の簡易メンブレンアッセイ法と上述したRT-PCR法の判定結果の比較を表1から表3に示す。RT-PCR法は感度及び特異性が極めて高い測定法であることが知られており、RT-PCR法の結果と異なる判定となった場合に偽陽性または偽陰性とみなした。
・・・
【0037】
ノズル(I)を用いた場合にはRT-PCR法による判定と完全に一致し、偽陽性は見られなかった。ノズル(II)を用いた場合は偽陽性発生率が7%(115検体中8検体(表2中、□で囲まれた偽陽性検体の合計))であり、それ以外はRT-PCR法による判定と一致した。一方、ノズル(III)を用いた場合には偽陽性発生率は83%(115検体中96検体(表3中、□で囲まれた偽陽性検体の合計))であった。
本発明の方法及びキットにより、偽陽性の発生を防止することができ、信頼性の高い簡易メンブレンアッセイ法を確立することができた。 」
(下線は当審により付加した。)

(3)検討
上記(2)の記載事項から、
ア 本願発明が、メンブレンアッセイ法を用いた検体の簡易な検査方法において、偽陽性の発生を防止し、被測定物の精度の高い検出あるいは定量を可能にする方法及びそのような方法において使用されるキットを提供することをその目的として、 検体試料を濾過フィルターを用いて濾過した後にメンブレン上に滴下し、前記検体試料中の被測定物の存在を検出することを特徴とする方法によりその目的を達成するものであること、
及び
イ 上記(2)ウにおいて、検体試料を濾過フィルターを用いて濾過して用いることで偽陽性の発生が防止できることの作用機序については、濾過フィルターを用いて検体試料を濾過することで、「メンブレン」の「孔径または保留粒子径に匹敵する大きさの成分」が「添加される」ことを防止することにあるとされる。

なお、審判請求人は、平成26年6月30日提出の意見書において、当審の上記認定のイについて、上記2(ウ)の記載は、「偽陽性が発生する作用機序」について記載しているものであって、「偽陽性の発生が防止できることの作用機序について記載したものではないと主張しているが、請求人が主張するように、段落【0006】においては、本願発明の検体試料を濾過フィルターを用いて濾過することにより、「メンブレン」の「孔径または保留粒子径に匹敵する大きさの成分」が「添加される」という作用機序により発生する「偽陽性の発生」を効率よく減らすことができることが説明されているのであるから、そのような作用機序すなわち、「メンブレンの孔径または保留粒子径に匹敵する大きさの成分」が添加されることを防止することが、偽陽性の発生を大きく減らすことができる理由であることは明らかであるので、請求人の主張を勘案しても、上記認定が誤りであるということはできない。

ウ 上記(2)オにおいて、濾過フィルターの孔径あるいは保留粒子径に関して、「孔径あるいは保留粒子径が大きすぎると、メンブレン上で非特異的結合が起こって偽陽性を示す場合がある」こと、逆に小さすぎると試料中に存在する粘性物や凝集物のためにフィルター自身が詰まってしまい濾過が不可能であるか、あるいはフィルター面積をかなり広くしなければならず、簡易検査方法に用いるという目的から見て不適切である」ことを理由として、「濾過フィルターの孔径または保留粒子径が0.2?2.0μm、特に0.2?0.6μm」が好適であると記載されているが、これらの記載からは「濾過フィルターの孔径あるいは、保留粒子径」と「メンブレンの孔径あるいは保留粒子径」との関係については特段言及されていないことから、これらの記載は、「メンブレンの孔径または保留粒子径」とは関係なく、ある特定の大きさ以上の粒子径の物質を排除すること及びフィルター自身の目詰まりを防止することを目的として適切な濾過フィルターの孔径が規定されていると解すべきである。

エ また、上記(2)キにおいて、「メンブレンの孔径あるいは保留粒子径」は「濾過フィルターの孔径または保留粒子径以上でありかつ0.3?10μmであることが好ましく、0.5?7μmが特に好ましい」と記載されているが、メンブレンの孔径または保留粒子径が、濾過フィルターの孔径または保留粒子径の好適範囲の最上限として記載されている2.0μm以上である場合、たとえば、本願明細書の実施例のようにメンブレンの孔径または保留粒子径が3μmである場合に、濾過フィルターの孔径または保留粒子径が2.9μmであったとしても本願発明の効果が奏されるかについては、何らの記載もされていないし、本願明細書の実施例の結果からは、むしろ効果を奏さないと解されるべきであることは、下記オのとおりである。

オ 本願明細書においては、本願発明の効果を実証するための実験例としては、上記(2)ケに記載した実施例が記載されているだけである。
当該実施例においては、メンブレンの孔径が3μmで、フィルターの孔径が0.67μm、0.45μmのものを用いた場合とフィルターを用いない場合を比較しており、フィルターの孔径が0.67μmのものは偽陽性の発生を低下させたこと、フィルターの孔径が0.45μmのものは偽陽性の発生を防止することができたことが示されている。
しかしながら、このような実施例の結果によれば、メンブレンの孔径が3μmである場合に、その孔径よりもはるかに小さな0.45μmの孔径のフィルターを用いた場合は偽陽性の発生を完全に防止できたとはいえ、フィルターの孔径がもっとも好ましいフィルターの孔径サイズとされている0.6μmよりもわずかに大きな0.67μmである場合においてさえ、偽陽性の発生を低下できたとはいえ少なからず偽陽性が発生しているというのであるから、これらの記載に接した当業者は、メンブレンの孔径が3μm以上の場合に濾過フィルターの孔径が0.67μmよりも大きければ偽陽性の発生を防止することができない可能性が高いと理解すると解するのが相当である。 以上のことからすると、本願の明細書に記載された実施例からは、メンブレンの孔径が3μmである場合において、フィルターの孔径または保留粒子径がメンブレンの孔径よりも小さいという条件を満たしさえすれば偽陽性の発生を防止することができることを当業者が理解できる程度に記載しているということはできない。

この点に関して、請求人は、同意見書において、「実施例の孔径0.67μmの実験においては、ともにメンブレンの孔径が同じAホールとBホールに同じ条件で濾過した検体液を滴下しているにもかかわらず、RT-PCRで陰性である検体のうち3検体がBホールのみに偽陽性として反応しています(表2参照)。濾過フィルターの孔径が大きくなることで偽陽性の発生が増えるのであれば、当然同じ孔径であるAホールにも発生するはずですが、実際にBホールのみで発生したということは、孔径0.67μmが臨界的な数値ではないことを意味しています。濾過フィルターの孔径が0.67μmより大きくなることで偽陽性の発生が増えるのであれば、当然同じ孔径であるAホールにも発生するはずですが、実際にはBホールのみで発生しています。実施例の表2からは、濾過フィルターの孔径が大きくなれば偽陽性を防止することができないが発生したとは断定することはできませんので、当業者が濾過フィルターの孔径が0.67μmよりも大きければ偽陽性の発生を防止することができない可能性が高いと理解する根拠はありません。」と主張する。
当該主張について検討すると、そもそも、「偽陽性」というのは、真の検出結果と異なる結果、すなわち誤検出を意味するものであるから、その性質上、AホールとBホールの両方で必ず発生するものとは限らない。そして、発明の詳細な説明において示されている表1(フィルターの最小孔径が0.45μm)の結果では偽陽性が見られなかったが、表2(フィルターの最小孔径が0.67μm)の結果では偽陽性発生率が7%であるのであるから、フィルターの孔径が大きくなっていくにつれて偽陽性の発生率が大きくなっていく傾向があると解される。
さらに、請求人は、意見書において、意見書で提示した実験結果を根拠として、フィルターの孔径が1.0μmのものにおいては、0.67μmのものに比較して偽陽性の発生が大きくなっていないことを理由に、フィルターの孔径が大きくなって行くにつれて偽陽性の発生率が大きくなる傾向があるとはいえないとも主張している。
しかしながら、意見書にて提示されているフィルターの孔径が1.0μmの実験結果は、ラテラルフロー方式におけるものであること、実験時期が異なるものであること、当該実験で使用した検体は、発明の詳細な説明の実施例におけるものと相違するものであること、検体数が異なるものであることが、それぞれ認められるから、発明の詳細な説明に記載の実験結果の傾向と同列に意見書にて提示されている実験結果を並べて評価することはできないから、これを根拠にフィルターの孔径が大きくなっても、偽陽性の発生率が大きくならないという傾向であるとはいえないとの審判請求人の主張を採用することはできない。
また、仮にフィルターの孔径が1.0μm程度において偽陽性の発生を減少させる効果を奏するものであることが認められるとしても、本願発明1及び9においては、「濾過フィルターの孔径又は保留粒子径」は、「メンブレンの孔径または保留粒子径」以下であることが特定されており、当該「メンブレンの孔径または保留粒子径が0.5μm?7μm」と特定されているのであるから、1.0μmのほぼ3倍の孔径または保留粒子径においても同様の作用を奏するか否かは不明であるし、ましてや、本願発明1及び9においては、「メンブレンの孔径または保留粒子径」は最大「7μm」とされているのであるから、「濾過フィルターの孔径または保留粒子径」が、3μmを大きく越えて7μmである場合でも、同様の効果を奏するものであるかは不明であるというほかない。

カ 以上の検討によれば、本願の発明の詳細な説明には、フィルターの孔径または保留粒子径が、0.6μm程度のものにおいても偽陽性の発生を完全に防止はできないものの、その発生を減少させることができることについて記載されているものといえること、そして、請求人が意見書に添付して提出した実験結果において、ラテラルフロー式のものでフィルターの孔径または保留粒子径が1.0μm程度のものにより、偽陽性の発生を完全に防止はできないものの、その発生を減少させているであろうことが示されているといえるものの、それを大きく越える、例えばフィルターの孔径または保留粒子径が3μm程度より大きい場合についてまで、同様の効果を奏することができることを当業者が理解できる程度に記載されているということはできないし、そのような範囲について発明の詳細な説明においてサポートされているということはできない。
また、本願の明細書に記載された実施例からは、メンブレンの孔径が0.5μm?7μmである場合において、フィルターの孔径または保留粒子径がメンブレンの孔径よりも小さいという条件を満たしさえすれば偽陽性の発生を防止することができることを当業者が理解できる程度に記載しているということはできない。

キ なお、本願明細書の記載からは、「メンブレンの孔径が3μm以外」である場合においても、フィルター孔径が「0.45μm」であれば、上記の実施例と同様の効果が生じるのかさえも不明であるから、本願明細書においては、メンブレンの孔径が3μm程度でフィルター孔径が0.45μm及び0.67μmにおいて、どのような効果を奏するのかについては、実証されているものの、それ以外の条件において、偽陽性を防止することができることについては、何らの証明もされていないことからすれば、発明の詳細な説明の記載により、そのような範囲についてサポートされているということはできない。

請求人は、この点につき、同意見書において「本願明細書には以下のとおり記載されており、当業者は本願明細書の記載から、濾過フィルターを通して濾過することにより偽陽性の発生が大きく抑制されることを理解いたします。「メンブレンアッセイ法を用いた被測定物の検出、定量を行うにあたり、被測定物を含有する可能性がある検体試料を、濾過フィルターを通して濾過することにより、偽陽性の発生が大きく抑制されることが見出された。」(段落0004)また、前述のとおり、請求人はメンブレンの孔径が3μm程度でフィルター孔径が0.45μm及び0.67μm以外のものについても実際に本願発明の効果が得られることを確認しております(添付資料1)。カのご指摘の点はあたらないものと考えます。」と主張している。
しかしながら、本願明細書には、「メンブレンの孔径」が3μmより大きい場合、例えば7μmである場合においても、フィルター孔径が0.45μmのもので同様の結果が生じるか否かが不明であることには変わりはないから、出願人の主張により、上記の点が明らかになるものではない。

(4)小活
以上のとおりであるから、請求人が提出した意見書の主張を参酌しても、本願発明1及び9が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているということはできない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1及び9について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載がされているということはできない。

2 本願発明2及び4ないし8並びに10,11及び13ないし16に関して
本願発明2及び4ないし8並びに10,11及び13ないし16についても上記1に記載した理由で本願発明1及び9と同様の拒絶の理由を有する。

第5 まとめ
上記のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-16 
結審通知日 2014-07-23 
審決日 2014-08-06 
出願番号 特願2009-264667(P2009-264667)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G01N)
P 1 8・ 537- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 草川 貴史  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 尾崎 淳史
渡戸 正義
発明の名称 簡易メンブレンアッセイ法及びキット  
代理人 西島 孝喜  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 中村 稔  
代理人 大塚 文昭  

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