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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C08B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C08B
管理番号 1292265
審判番号 無効2014-800001  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-27 
確定日 2014-09-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3190206号発明「光学異性体用分離剤およびその製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3190206号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3190206号(以下「本件特許」という。)は、平成6年6月20日(優先権主張 平成5年6月22日及び平成6年6月16日)に特許出願されたものであって、平成13年5月18日にその設定登録がなされた。
その後、平成25年12月27日に無効審判が請求され、平成26年1月28日付けで被請求人に対して答弁指令がなされたが、答弁書が提出されることなく指定期間が経過した。
さらに、その後、平成26年4月30日付けで審決の予告をし、期間を指定して被請求人に訂正を請求する機会を与えたが、被請求人から訂正の請求がなされることなく上記期間が経過した。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は、それぞれ、その本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなることを特徴とする光学異性体用分離剤。
【請求項2】 担体が、表面を反応不活性化した粒径1μm?10mm、孔径10Å? 100μmのシリカゲルである請求項1記載の光学異性体用分離剤。
【請求項3】 架橋させる前の多糖誘導体が、未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である請求項1記載の光学異性体用分離剤。
【請求項4】 架橋させる前の多糖誘導体が、グルコースユニット当たり0.1 個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である請求項1記載の光学異性体用分離剤。
【請求項5】 担体上で多糖誘導体同士のみを、多官能の架橋剤を用いて架橋させることを特徴とする請求項1記載の光学異性体用分離剤の製造法。
【請求項6】 架橋させる前の多糖誘導体が、未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である請求項5記載の光学異性体用分離剤の製造法。
【請求項7】 架橋させる前の多糖誘導体が、グルコースユニット当たり0.1 個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である請求項5記載の光学異性体用分離剤の製造法。
【請求項8】 多官能の架橋剤が、ジイソシアナート誘導体、ジカルボン酸の酸塩化物誘導体、ジエポキシ誘導体またはジビニル誘導体である請求項5記載の光学異性体用分離剤の製造法。
【請求項9】 クロマトグラフィーに用いられる請求項1記載の光学異性体用分離剤。
【請求項10】 セルロースまたはアミロースの6位の位置の水酸基同士を選択的に架橋させたことを特徴とする請求項5記載の光学異性体用分離剤の製造法。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張及び証拠
請求人は、本件発明1?10についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1及び2号証を提出し、以下のとおりの無効理由1及び2を主張している。
(1)無効理由1及び2
ア 無効理由1
本件発明1,4,5及び7?9は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
イ 無効理由2
本件発明1?10は、甲第1号証及び甲第2号証に基づき、本件出願前(優先日前)に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)証拠(甲第1及び2号証)並びにその記載事項
ア 甲第1及び2号証
甲第1号証:特開平4-202141号証
甲第2号証:特開昭60-108751号公報

イ 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には次の事項が記載されている(下線は当審で付したものである)。
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体が、多孔性担体の表面上において重合せしめられてなる光学分割剤。
(2)多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体が、ビニル基を導入した多孔性担体に対して共重合せしめられてなる光学分割剤。
(3)多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体を、多孔性担体の表面に付着乃至は吸着せしめた後、かかる多糖類誘導体を重合せしめることを特徴とする光学分割剤の製造法。
(4)多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体を、ビニル基を導入した多孔性担体の表面に付着乃至は吸着せしめた後、かかる多糖類誘導体を重合せしめ、その少なくとも一部を多孔性担体のビニル基と共重合させることを特徴とする光学分割剤の製造法。
3.発明の詳細な説明
(技術分野)
本発明は、光学分割剤及びその製造法に係り、特にセルロース等の多糖類のビニル誘導体を多孔性担体(粒子)上で重合することによって得られる、高速液体クロマトグラフィー用充填剤として好適な光学分割剤及びそれを製造する方法に関するものである。
(背景技術)
従来から、多糖類、例えばデンプン、デキストラン、セルロースや、セルロース誘導体等が特異的な光学分割能を有していることはよく知られているところであり、なかでも、セルロースそのものよりも、セルロースの水酸基をエステル化等した誘導体、例えばセルローストリアセテート等の化学修飾型セルロースの方が、一般的に光学分割性能か高いことが認められている。
ところて、液体クロマトグラフィーによる光学異性体の直接分割に際し、上記のような光学分割能を有する物質をそのまま液体クロマトグラフィーの充填剤として使用した場合においては、耐圧性面や使用溶媒による膨潤・収縮の面から、使用条件幅が狭く、そのため、そのような問題の発生しない担体に上記物質を担持させて用いる方法か一般的には考えられる。」(第1ページ左下欄第4行?第2ページ左上欄第9行)

(イ)「(具体的構成・作用)
ところで、かかる本発明において、ビニル基が導入される多糖類としては、セルロースが代表的なものであるが、その他に、デキストラン、アミロース、カードラン、プルラン等のような多糖類も適宜に用いられ得る。また、多糖類としてのセルロースを化学修飾してなる化学修飾型セルロースは、分子量が高くなると、その溶液の粘度が増加し、多孔性担体表面へ均一に付着・吸着せしめることか困難となるところから、均一なセルロース誘導体を均一に多孔性担体表面へ塗布せしめる上において、本発明においては、分子量の低いセルロース、例えば数平均重合度か100程度以下のものを用いることか望ましい。
そして、このような多糖類を化学修飾してビニル基を導入するには、その優れた光学分割能を損なわないように、その水酸基に対して、エステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基(具体的には、ビニル基含有有機基)を導入せしめる必要があるのである。
なお、このような多糖類の化学修飾を行なうには、多糖類の水酸基と反応してエステル結合若しくはウレタン結合を生じる、公知のビニル化合物が適宜に選択され、例えば塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、塩化ビニルベンゾイル等の不飽和酸ハロゲン化物類やビニルフェニルイソシアナート等の不飽和イソシアナート類を挙げることが出来、またこのような分子中に一つのビニル基を有する化合物ばかりでなく、複数のビニル基を有する化合物をも必要に応じて用いることが出来、更にビニル基かベンゼン環に結合した構造のビニル化合物を用いる場合にあっても、そのビニル基の結合位置について、重合可能であれば、オルソ,メタ,パラのどの位置にビニル基が結合されていても、重大な不都合は発現されない。
また、ビニル基を有する化合物で多糖類を化学修飾する場合の多糖類構成単位への導入数については、ビニル基を有する化合物で、多糖類の構成単位に存在する全ての水酸基、例えばセルロースの場合においては、三つの水酸基を完全に化学修飾する必要はなく、その化学修飾の後、塩化メチレン等の良溶媒に溶解し得る程度に化学修飾することで、目的とする担体表面での重合は達成可能である。」(第2ページ右下欄第15行?第3ページ右上欄第18行)

(ウ)「一方、本発明において、かかるビニル基導入多糖類が適用される多孔性担体としては、シリカ,アルミナ,マグネシア,酸化チタン,ガラス,珪酸塩,カオリン等の多孔質無機担体や、ポリスチレン,ポリアミド,ポリアクリレート等の多孔質有機担体の如き公知のものがあるが、一般に、シリカ(シリカゲル)やガラス(多孔性ガラス)の如き多孔性粒子が好ましく用いられる。
本発明では、このような多孔性担体がそのままで用いられる他、ビニル基導入多糖類をより一層効果的に担持すべく、かかる多孔性担体にもビニル基が導入せしめられて、ビニル基導入多糖類とビニル基導入多孔性担体との間での共重合が図られ、より一層有効な有機溶媒不溶化光学分割剤が提供される。」(第3ページ右上欄第19行?左下欄第13行)

(エ)「なお、未修飾の多孔性担体を用いる場合には、塩化メチレンのような良溶媒に溶解しない程度まて重合度を高めれば、そのような良溶媒に溶解しないという目的は達成されるが、反面、重合度が低い場合には、多糖類誘導体が溶出するという可能性を内在している。また、ビニル基を導入した担体を使用する場合には、重合が良溶媒に溶解しない重合度に達しない場合でも、多糖類誘導体が担体と結合することとなるところから、その溶出を避けることが出来る。
さらに、1回の重合によって多糖類誘導体並びに担体表面に結合されたビニル基の全てが重合され、消滅することはないと考えられるところから、重合処理した分割剤に、更にビニル基を結合した多糖類を吸着せしめて、多糖類誘導体の導入量を増加させ、そしてそれを重合せしめることによって、更にその重合度を向上する方法も、採用することが可能である。このような重合を複数回実施する手法では、ビニル基を結合した多糖類の他に、複数のビニル基を有する化合物、例えばジビニルベンゼン、エチレンジアミンジメタクリレートエチレングリコールジアクリレート等の架橋剤を用いて架橋反応を促進して、良溶媒に対する溶解性を減少せしめる手段も採用可能である。」(第4ページ右下欄第14行?第5ページ左上欄第17行)

(オ)「実施例 l
アセチルセルロースを加水分解して、低分子量化した後、そのアセチル基を除去して得られた低分子量化セルロース(重合度約36)を用い、その16.8gをピリジン250ml中に分散し、塩化4-ビニルベンゾイル89.0gを加え、80℃に加熱、撹拌しながら、10時間反応せしめた。反応後、反応溶液をメタノール1000ml中に注ぎ、4-ビニルベンゾイル化セルロースを析出させ、吸引・濾過しながら、メタノールで洗浄し、50℃で乾燥した。この乾燥の後、塩化メチレン500mlに溶解し、不溶物を濾去した後、塩化メチレンを留去し、そしてメタノールを加えて、固体を析出させた。こうして得られたセルロース誘導体は、FT-IRスペクトルの測定からカルボニル基の吸収が観測され、セルロースの構成単位であるグルコースの水酸基が誘導体化されていることが確認されている。
次いで、この得られた4-メチルベンゾイル化セルロースを用い、その1gを塩化メチレン50mlに溶解して得られた溶液に、多孔性担体としてのシリカゲル4gを加えて、分散せしめた後、30℃で塩化メチレンを減圧、留去して、シリカゲル表面にセルロース誘導体を付着、吸着せしめた。
その後、この4-ビニル化セルロースを吸着したシリカゲルの3gをn-へプタン50mlに分散せしめ、更に過酸化ベンゾイルの30mgを加えて、撹拌しながら、80℃で4時間重合させることにより、シリカゲル担体表面上に4-ビニルベンゾイル化セルロースの重合生成物からなる層を形成せしめた。なお、かかる重合反応の後、重合生成物層の形成されたシリカゲルは、塩化メチレンで洗浄され、減圧乾燥せしめられた。
かくして得られた4-ビニルベンゾイル化セルロースの重合生成物の相が形成されたシリカゲルは、その溶解テストの結果、単にアセチルセルロース、低分子量化セルロース或いは4-ビニルベンゾイル化セルロースが表面に吸着されただけのシリカゲルに比して、優れた有機溶媒不溶性を示し、また吸着せしめたセルロース誘導体を重合させても、その光学分割能は充分に維持され得ることが認められた。」(第6ページ左上欄第2行?左下欄第4行)

(カ)「実施例 2
ビニル基導入多孔性担体として、N-アクリロイルアミノプロピル化シリカゲルを次のようにして合成した。
すなわち、先ず、減圧乾燥したシリカゲルの2gをトルエンの100mlに分散し、シリル化剤としてのアミノプロピルトリエトキシシランの2gを加えた後、かかるシリル化剤とシラノールの反応で生成するエタノールを、トルエンと共に、留去しなから5時間反応せしめることにより、先ず、アミノプロピル化シリカゲルを合成した。なお、反応後、メタノール、80%メタノール、メタノール、クロロホルムの順に洗浄し、減圧乾燥した。
次いで、かかるアミノプロピルシリル化シリカゲルの2gをクロロホルム50mlに分散し、これにアクリロイルクロライド2mlを加え、80℃で2時間反応させて、N-アクリロイルアミノプロピルシリカゲルを得た。反応後、メタノール、クロロホルムの順に洗浄し、減圧乾燥した。
そして、このようにして得られたN-アクリロイルアミノプロピル化シリカゲルを用い、その表面に、実施例1において合成した4-ビニルベンゾイル化セルロースを吸着せしめるために、そのようなセルロース誘導体の1gを塩化メチレンの50mlに溶解し、更にそれに上記のN-アクリロイルアミノプロピル化シリカゲルを加えて分散せしめた後、30℃で塩化メチレンを減圧、留去することにより、シリカゲル表面にセルロース誘導体を吸着した。
さらに、その後、この4-ビニルベンゾイル化セルロースを吸着せしめたN-アクリロイルアミノプロピルシリカゲルの3gをn-へプタンの50mlに分散せしめ、これに過酸化ベンゾイルを30mg加えて、撹拌しながら、80℃で4時間重合することにより、シリカゲルに導入したアクリロイル基(ビニル基)と4-ビニルベンゾイル化セルロースとの間の共重合を行ない、シリカゲル表面にセルロース誘導体が化学的に結合された重合型の光学分割剤を得た。」(第6ページ左下上欄第5行?第7ページ左上欄第4行)

ウ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には次の事項が記載されている。
(キ)「クロマト法による光学異性体の分離の研究は以前より行なわれている。例えば、セルロースまたは1部のセルロース誘導体はカラムクロマトグラフイー用分離剤として光学分割に用いられている。セルロース誘導体としては結晶系I型に属する微結晶三酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース等である。しかしながら、これらのセルロースまたは1部のセルロース誘導体分離対象物の範囲が狭く、分離能力も十分ではない。
本発明者らは鋭意研究の結果、驚くべきことにセルロースフエニルカルバメートに優れた化合物分離能と異性体分離能、特に光学異性体分離能があることを見いだした。
セルロースフエニルカルバメートが優れた光学異性体分離能を示す明確な理由は明らかではないが、セルロースの持つ規則的な不斉性とカルバメート基の水素結合形成能とフエニル基の芳香族性と剛直性が光学異性体の分離に大きな影響を与えているものと考えられる。
本発明のセルロースフエニルカルバメートは数平均重合度5?5000であり、好ましくは10?1000であり、さらに好ましくは10?500である。セルロースフエニルカルバメートの平均置換度は、下式で定義する。
平均置換度=1分子当りのフエニルカルバメート基の数/数平均重合度
本発明のセルロースフエニルカルバメートの平均置換度は1?3.4、好ましくは1.8?3.2である。セルロースフエニルカルバメートの未反応の水酸基は、本発明のセルロースフエニルカルバメートの異性体分離能を損なわない範囲でさらにエステル化、カルバメート化、エーテル化を行うことができる。」(第1ページ右下欄第4行?第2ページ左上欄第16行)

(ク)「さらに分離剤の耐圧能力の向上、溶媒置換による膨潤、収縮の防止、理論段数の向上のために、セルロースフエニルカルバメートは担体に保持させることが好ましい。適当な担体の大きさは使用するカラムやプレートの大きさにより変わるが、一般に1μm?10mmであり、好ましくは1μm?300μmである。担体は多孔質であることが好ましく、平均孔径は10Å?100μmであり、好ましくは、50Å?50000Åである。セルロースフエニルカルバメートを保持させる量は担体に対して1?100重量%、好ましくは5?50重量%である。」(第2ページ右上欄第14行?左下欄第6行)

(ケ)「担体としては多孔質有機担体又は多孔質無機担体があり、好ましくは多孔質無機担体えある。多孔質有機担体として適当なものは、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等から成る高分子物質があげられる。多孔質無機担体として適当なものはシリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、ガラス、ケイ酸塩、カオリンの如き合成若しくは天然の物質があげられ、セルロースフエニルカルバメートとの親和性を良くするために表面処理を行つても良い。表面処理の方法としては有機シラン化合物を用いたシラン化処理やプラズマ重合による表面処理等がある。」(第2ページ右下欄第3?15行)

(コ)「本発明のセルロースフエニルカルバメートを主たる構成要素とする分離剤を化合物分離の目的に使用するには、クロマト法が好適である。クロマト法に使用する際の展開溶媒としては、セルロースフエニルカルバメートを溶かす溶媒は使用できないが、セルロースフエニルカルバメートを化学的方法で担体に結合させた場合や、セルロースフエニルカルバメートを架橋した場合に特に制約はない。」(第2ページ右下欄第16行?第3ページ左上欄第4行)

(サ)「合成例-2
シリカゲル(Lichrospher SI4000、メルク社)102gを180℃で2時間乾燥後、乾燥ベンゼン600ml、ピリジン6ml及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン20mlの混合物中に分散させ、加熱還流下で16時間反応させた。反応終了後反応混合物を2lのメタノール中に注ぎ、修飾シリカゲルを濾(当審注;原文では簡易字体)別した。
合成例1で得たセルローストリスフエニルカルバメート0.76gをジオキサン10mlとエタノール5mlの混合溶媒に溶解させた。微量の不溶物を除いたのち、溶液5mlに修飾シリカゲル3.0gを混合し、減圧下で溶媒を留去した。この担持操作をさらに2度繰り返し、セルローストリスフエニルカルバメート担持シリカゲルを調整した。」(第3ページ左下欄第1?16行)

2 被請求人の応答
被請求人は、平成26年1月28日付けの答弁指令に対して答弁書の提出や訂正請求によって応答することなく、指定期間が経過した。

第4 当審の判断
1 本件発明1について
(1)上記「第3 当事者の主張」の「1 請求人の主張及び証拠」に記載した無効理由1及び2のうち、はじめに、無効理由1について判断する。
無効理由1は、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとするものであるから、甲第1号証刊行物に記載された発明を認定した後、本件発明1と、甲第1号証に記載された発明とを対比することにより、判断する。

(2)甲第1号証に記載された発明の認定
上記「第3 当事者の主張」の「1 請求人の主張及び証拠」の「(2)証拠(甲第1及び2号証)並びにその記載事項」の「イ 甲第1号証の記載事項」の摘記事項(以下「甲第1号証摘記事項」という。)における「(ウ)」及び「(エ)」の記載から、甲第1号証には、「ビニル基を導入した担体」が用いられる場合に加えて、「多孔性担体が未修飾のままで用いられる」場合についても記載されているところ、後者の「多孔性担体が未修飾のままで用いられる」ものを甲第1号証に記載された発明として認定する。
また、甲第1号証摘記事項の「(イ)」には、「多糖類を化学修飾してビニル基を導入する場合」「例えばセルロースの場合においては、三つの水酸基を完全に化学修飾する必要はな」いのであって「塩化メチレン等の良溶媒に溶解し得る程度に化学修飾することで、目的とする担体表面での重合は達成可能である。」と記載されている。すなわち、セルロースの3つの水酸基のうちの少なくとも1つは架橋用に修飾されず、反応性官能基として残っていることから、架橋させる前の多糖誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースであるといえる。
すると、甲第1号証には、
「多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体が、多孔性担体の表面上において重合せしめられてなる光学分割剤であって、
上記の多孔性担体はシリカゲルからなり、未修飾のままで用いられ、
光学分割剤は、液体クロマトグラフィーにより光学異性体を直接分割する用途で用いられ、
多糖類誘導体は、多糖類を水酸基に対して、エステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入したものであり、
架橋させる前の多糖類誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースである光学分離剤。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本件発明1と引用発明の対比及び当審の判断
ア 対比
ここで、本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体」及び「多孔性担体」が、それぞれ、本件発明1の「多糖誘導体」及び「担体」に相当し、引用発明の「(多糖類誘導体が)重合せしめられてなる」ことが、本件発明1の「(多糖誘導体同士を)架橋させ」ることに相当する。
そして、引用発明においては「多孔性担体」は「未修飾のままで用いられ」て「多糖類誘導体が、多孔性担体の表面上において重合せしめられ」ることから、「多糖類誘導体」と「多孔性担体」との間での重合はなく「多糖類誘導体」のみの重合が生じ、「重合せしめられた」「多糖類誘導体」が「担体」に重合されていない状態で表面上に固定されていることは明らかであるから、引用発明の「多孔性担体は未修飾のままで用いられ」て「多糖類誘導体が、多孔性担体の表面上において重合せしめられ」ることが、本件発明1の「担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなる」ことに相当する。
また、引用発明の「光学異性体を直接分割する用途で用いられ」る「光学分割剤」が、本件発明1の「光学異性体用分離剤」に相当する。

イ 一致点・相違点・当審の判断
よって、本件発明1と引用発明とは、
「担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。
したがって、本件発明1は引用発明であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当するから、特許を受けることができない。

(4)まとめ
本件発明1は、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明1は、無効理由2について検討するまでもなく、無効理由1により無効とすべきものである。

2 本件発明2について
(1)本件発明2と引用発明の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明2と引用発明を対比すると、上記「1 本件発明1について」の「(3)本件発明1と引用発明の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明の「の多孔性担体はシリカゲルからな」ることと、本件発明2の「担体が、表面を反応不活性化した粒径1μm?10mm、孔径10Å? 100μmのシリカゲルである」こととは、「担体がシリカゲルである」点で共通する。

イ 一致点
よって、本件発明2と引用発明は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤であって、担体がシリカゲルである光学異性体用分離剤。」
の発明である点で一致し、次の相違点1で相違する。

ウ 相違点1
「シリカゲル」である「担体」が、本件発明2においては「表面を反応不活性化した粒径1μm?10mm、孔径10Å? 100μm」のものであるに対して、引用発明においては、その点の特定がない点。

(2)判断
ア 相違点1についての検討
(ア)上記相違点1のうち「表面を反応不活性化した」については、本件特許の特許明細書に、担体の表面の反応不活性化について、
「【0018】実施例1
(1)(当審注;原文においては丸囲みの数字「1」) シリカゲルの表面不活性化処理
多孔質シリカゲル(ダイソーSP-1000) を従来公知の方法でアミノプロピルシラン処理(APS処理)した。このAPS-シリカゲル 200gを塩化メチレン1000ml中、室温で3,5-ジメチルフェニルイソシアナート15mlと 1.5時間反応させた。グラスフィルターで濾別し、塩化メチレン/メタノール=2/1、塩化メチレン、エタノール、アセトン、n-ヘキサンで洗浄した後乾燥して、表面不活性化処理したシリカゲルを得た。」
と記載され、表面の反応不活性化の1つに「従来公知」の「アミノプロピルシラン処理(APS処理)」による「表面不活性化処理」があることがわかる。
これについては、上記「第3 当事者の主張」の「1 請求人の主張及び証拠」の「(2)証拠(甲第1及び2号証)並びにその記載事項」の「ウ 甲第2号証の記載事項」における摘記事項(ケ)に
「セルロースフエニルカルバメートとの親和性を良くするために表面処理を行つても良い。表面処理の方法としては有機シラン化合物を用いたシラン化処理・・・がある」(下線は当審で付した。)
と記載され、そのシラン化処理の具体的処理として摘記事項(サ)に
「シリカゲル(Lichrospher SI4000、メルク社)102gを180℃で2時間乾燥後、乾燥ベンゼン600ml、ピリジン6ml及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン20mlの混合物中に分散させ、加熱還流下で16時間反応させた。反応終了後反応混合物を2lのメタノール中に注ぎ、修飾シリカゲルを濾別した。」
と記載されており、両者を併せて読むことにより、上記相違点1のうち「表面を反応不活性化」する(ための「アミノプロピルシラン処理(APS処理)」をする)点は甲第2号証に記載されている事項であるといえる。
(イ)次に上記相違点1のうち「粒径1μm?10mm、孔径10Å? 100μm」については、上記の甲第2号証の摘記事項(ケ)に「適当な担体の大きさは使用するカラムやプレートの大きさにより変わるが、一般に1μm?10mmであり、好ましくは1μm?300μmである。担体は多孔質であることが好ましく、平均孔径は10Å?100μmであり、好ましくは、50Å?50000Åである。」(下線は当審で付した。)
と記載されており、上記相違点1のうち「粒径1μm?10mm、孔径10Å? 100μm」の点は甲第2号証に記載されている事項である。
(ウ)したがって、上記相違点1に係る本件発明2の特定事項は、甲第2号証に記載されている事項である。そして、引用発明において、甲第2号証の記載を参酌して、(重合しない)担体と多糖類誘導体の親和性を向上させて結合力を高めるように表面をシラン処理(反応不活性化)をすることは当業者が容易に想到し得ることであり、また、多孔性担体の粒径及び孔径をどの程度とするかは当業者が適宜設定し得る設計的事項であるところ、甲第2号証の記載を参酌して「粒径1μm?10mm、孔径10Å? 100μm」とすることについても困難性は認められない。すなわち、引用発明に甲第2号証の上記の摘記事項(ケ)及び(サ)に記載されたを採用して、上記相違点1に係る本件発明の2の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本件発明2が奏する作用効果について
そして、本件発明2によってもたらされる効果は、甲第1号証及び甲第2号証の摘記事項(ケ)及び(サ)の記載事項から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ よって、本件発明2は、引用発明及び甲第2号証の摘記事項(ケ)及び(サ)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)まとめ
以上のとおりであり、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明2は、無効理由2により無効とすべきものである。

3 本件発明3について
(1)本件発明3と引用発明の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明3と引用発明を対比すると、上記「1 本件発明1について」の「(3)本件発明1と引用発明の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明の「多糖類誘導体は、多糖類を水酸基に対して、エステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入したものであり」、「架橋させる前の多糖類誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースである」ことと、本件発明3の「架橋させる前の多糖誘導体が、未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である」こととは、本件発明3の上記特定が選択的特定である(を含む)ことをも勘案して、「架橋させる前の多糖誘導体が、セルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である」点で共通する。

イ 一致点
よって、本件発明3と引用発明は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤であって、架橋させる前の多糖誘導体が、セルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である光学異性体用分離剤。」
の発明である点で一致し、次の相違点2で相違する。

ウ 相違点2
「架橋させる前の多糖誘導体」が、本件発明3においては「未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつ」のものであるに対して、引用発明においては、その点の特定がない点。

(2)判断
ア 相違点2についての検討
これについては、次のように甲第2号証に記載されているといえる。なお、この点は、請求人の主張を採用したものである(審判請求書第23ページ第22行?第24ページ第17行)。
すなわち、まず、上記「第3 当事者の主張」の「1 請求人の主張及び証拠」の「(2)証拠(甲第1及び2号証)並びにその記載事項」の「ウ 甲第2号証の記載事項」における摘記事項(キ)に
「セルロースフエニルカルバメートの未反応の水酸基は、本発明のセルロースフエニルカルバメートの異性体分離能を損なわない範囲でさらにエステル化、カルバメート化、エーテル化を行うことができる。」
と記載され、未反応の水酸基を含むものが想定されている。
そして、その数について、上記摘記事項(キ)に記載の「数平均重合度」及び「平均置換度」から、数平均重合度として「5」及び平均置換度「1」のものを選択して、未反応の水酸基の割合を算出すると、5個のグルコースが重合した場合の水酸基の合計は17個になる(両末端の1及び4位の水酸基を含む)。
平気置換度が「1」の場合の5個のグルコースポリマーにおける
分子当たりのフェニルカルバメート基の数は「5」となり、「17-5」で5個のグルコースポリマーの水酸基の数は「12」となる。そして、12をグルコース残基の数「5」で割ると(12÷5)、グルコース1残基当たりの平均水酸基の数は「2.4」となる。
上記相違点2の「未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつ」という特定事項は、甲第2号証の摘記事項(キ)に記載されているといえる。
そして、引用発明において、「架橋させる前の多糖誘導体(セルロース)」が「未反応の水酸基」をどの程度有するとするかは当業者が適宜設定し得る設計的事項であるところ、甲第2号証の摘記事項(キ)の記載を参酌して「未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつ」とすることについても困難性は認められない。すなわち、引用発明に甲第2号証の摘記事項(キ)に記載された事項を採用して、上記相違点2に係る本件発明の2の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本件発明3が奏する作用効果について
そして、本件発明2によってもたらされる効果は、甲第1号証及び甲第2号証の摘記事項(キ)に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ よって、本件発明3は、引用発明及び甲第2号証の摘記事項(キ)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)まとめ
以上のとおりであり、本件発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明3は、無効理由2により無効とすべきものである。

4 本件発明4について
(1)本件発明4と引用発明の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明4と引用発明を対比すると、上記「1 本件発明1について」の「(3)本件発明1と引用発明の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明の「架橋させる前の多糖類誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースである」ことが、本件発明4の「架橋させる前の多糖誘導体が、グルコースユニット当たり0.1 個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である」ことに相当する。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明4と引用発明は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤であって、架橋させる前の多糖誘導体が、グルコースユニット当たり0.1 個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である光学異性体用分離剤。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

(2)判断
したがって、本件発明4は引用発明であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当するから、特許を受けることができない。

(3)まとめ
本件発明4は、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明4は、無効理由2について検討するまでもなく、無効理由1により無効とすべきものである。

5 本件発明5について
(1)甲第1号証に記載された製造法の発明の認定
甲第1号証摘記事項における「(ア)」の
「(3)多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体を、多孔性担体の表面に付着乃至は吸着せしめた後、かかる多糖類誘導体を重合せしめることを特徴とする光学分割剤の製造法。」
の記載から、甲第1号証には、引用発明に加え「製造法」の発明も記載されている。
甲第1号証摘記事項における「(エ)」の
「ビニル基を結合した多糖類の他に、複数のビニル基を有する化合物、例えばジビニルベンゼン、エチレンジアミンジメタクリレートエチレングリコールジアクリレート等の架橋剤を用いて架橋反応を促進して」
の記載も含めて、甲第1号証には、光学分割剤の製造法に関し、
「多糖類の水酸基部位にエステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体が、多孔性担体の表面上において重合せしめられてなる光学分割剤の製造法であって、
上記の多孔性担体はシリカゲルからなり、未修飾のままで用いられ、
光学分割剤は、液体クロマトグラフィーにより光学異性体を直接分割する用途で用いられ、
多糖類誘導体は、多糖類を水酸基に対して、エステル結合若しくはウレタン結合を介してビニル基を導入したものであり、
架橋させる前の多糖類誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースであり、
ジビニルベンゼン、エチレンジアミンジメタクリレートエチレングリコールジアクリレート等の複数のビニル基を有する化合物からなる架橋剤を用いて架橋反応を促進する光学分離剤の製造法。」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

(2)本件発明5と引用発明2の対比及び当審の判断
ア 対比
ここで、本件発明5と引用発明2とを対比すると、上記「1 本件発明1について」の「(3)本件発明1と引用発明の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明2の「液体クロマトグラフィーにより光学異性体を直接分割する用途で用いられ」る「光学分割剤」の製造法であって、「複数のビニル基を有する化合物からなる架橋剤を用いて架橋反応を促進する光学分離剤の製造法」が、本件発明5の「多官能の架橋剤を用いて架橋させる」「光学異性体用分離剤の製造法」に相当する。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明5と引用発明2は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを、多官能の架橋剤を用いて架橋させて多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤の製造法。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

(3)判断
したがって、本件発明5は引用発明2であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当するから、特許を受けることができない。

(4)まとめ
本件発明5は、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明5は、無効理由2について検討するまでもなく、無効理由1により無効とすべきものである。

6 本件発明6について
(1)本件発明6と引用発明2の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明6と引用発明2を対比すると、上記「5 本件発明5について」の「(2)本件発明5と引用発明2の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明の「架橋させる前の多糖類誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースである」ことと、本件発明3の「架橋させる前の多糖誘導体が、未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である」こととは、本件発明3の上記特定が選択的特定である(を含む)ことをも勘案して、「架橋させる前の多糖誘導体が、セルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である」点で共通する。

イ 一致点
よって、本件発明6と引用発明2は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを、多官能の架橋剤を用いて架橋させて多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤の製造法において
架橋させる前の多糖誘導体が、セルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である光学異性体用分離剤の製造法。」
の発明である点で一致し、次の相違点2’で相違する。

ウ 相違点2’
「架橋させる前の多糖誘導体」が、本件発明6においては「未反応の水酸基をグルコースユニット当たり 0.1個以上もつ」のものであるに対して、引用発明2においては、その点の特定がない点。

(2)判断
ア 相違点2’についての検討
上記相違点2’は、実質的に、上記「3 本件発明3について」の「(1)本件発明3と引用発明の対比・一致点・相違点」の「ウ」の相違点2と同じ相違点であるといえるから、上記「3 本件発明3について」の「(2)判断」の「ア 相違点2についての検討」で検討したのと同様の理由で引用発明に甲第2号証の摘記事項(キ)に記載された事項を採用して、上記相違点2に係る本件発明の2の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本件発明6が奏する作用効果について
そして、本件発明6によってもたらされる効果は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ よって、本件発明6は、引用発明2及び甲第2号証の摘記事項(キ)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)まとめ
以上のとおりであり、本件発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明6は、無効理由2により無効とすべきものである。

7 本件発明7について
(1)本件発明7と引用発明2の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明7と引用発明2を対比すると、上記「5 本件発明5について」の「(2)本件発明5と引用発明2の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明2の「架橋させる前の多糖類誘導体がグルコースユニット当たり1/3(=0.33・・・)個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースである」ことが、本件発明7の「架橋させる前の多糖誘導体が、グルコースユニット当たり0.1 個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である」ことに相当する。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明7と引用発明2は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを、多官能の架橋剤を用いて架橋させることを特徴とする請求項1記載の光学異性体用分離剤の製造法であって、架橋させる前の多糖誘導体が、グルコースユニット当たり0.1 個以上の反応性官能基を導入基内にもつセルロースまたはアミロースのエステルあるいはカルバメート誘導体である光学異性体用分離剤の製造法。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

(2)判断
したがって、本件発明7は引用発明2であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当するから、特許を受けることができない。

(3)まとめ
本件発明7は、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明7は、無効理由2について検討するまでもなく、無効理由1により無効とすべきものである。

8 本件発明8について
(1)本件発明8と引用発明2の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明8と引用発明2を対比すると、上記「5 本件発明5について」の「(2)本件発明5と引用発明2の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明2の「ジビニルベンゼン」が本件発明8の「ジビニル誘導体」に相当するから、引用発明2の「ジビニルベンゼン、エチレンジアミンジメタクリレートエチレングリコールジアクリレート等の複数のビニル基を有する化合物からなる架橋剤を用い」ることが、本件発明8の特定が選択的特定であることをも勘案して、本件発明8の「多官能の架橋剤が、ジイソシアナート誘導体、ジカルボン酸の酸塩化物誘導体、ジエポキシ誘導体またはジビニル誘導体である」ことに相当する。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明8と引用発明2は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを、多官能の架橋剤を用いて架橋させる光学異性体用分離剤の製造法であって、多官能の架橋剤が、ジイソシアナート誘導体、ジカルボン酸の酸塩化物誘導体、ジエポキシ誘導体またはジビニル誘導体である光学異性体用分離剤の製造法。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

(2)判断
したがって、本件発明8は引用発明2であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当するから、特許を受けることができない。

(3)まとめ
本件発明8は、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明8は、無効理由2について検討するまでもなく、無効理由1により無効とすべきものである。


9 本件発明9について
(1)本件発明9と引用発明の対比・一致点・相違点
ア 対比
本件発明9と引用発明を対比すると、上記「1 本件発明1について」の「(3)本件発明1と引用発明の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果に加え、
引用発明の「光学分割剤は、液体クロマトグラフィーにより光学異性体を直接分割する用途で用いられ」ることが、本件発明9の「クロマトグラフィーに用いられる」ことに相当する。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明9と引用発明は、
「担体上で多糖誘導体同士のみを架橋させて、多糖誘導体を担体に固定化してなる光学異性体用分離剤であって、クロマトグラフィーに用いられる光学異性体用分離剤。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

(2)判断
したがって、本件発明9は引用発明であり、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当するから、特許を受けることができない。

(3)まとめ
本件発明9は、特許法第29条第1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明9は、無効理由2について検討するまでもなく、無効理由1により無効とすべきものである。


10 本件発明10について
(1)本件発明10と引用発明2の対比・一致点・相違点
ア 対比・一致点
本件発明10と引用発明2を対比すると、上記「5 本件発明5について」の「(2)本件発明5と引用発明2の対比及び当審の判断」の「ア 対比」で述べた対比の結果により「イ 一致点・相違点」で述べた本件発明5と引用発明2の一致点で一致し、次の相違点3で相違する。

イ 相違点3
本件発明10が「セルロースまたはアミロースの6位の位置の水酸基同士を選択的に架橋させた」ものであるに対して、引用発明2においては、その点の特定がない点。

(2)判断
ア 相違点3についての検討
多糖誘導体の重合において、どの位置のどの官能基によって重合するかは、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
引用発明2の多糖類誘導体であるセルロース誘導体の重合において、上記相違点3の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本件発明10が奏する作用効果について
そして、本件発明10によってもたらされる効果は、甲第1号証の記載事項から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ よって、本件発明10は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)まとめ
以上のとおりであり、本件発明10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、本件発明10は、無効理由2により無効とすべきものである。

第5 結論
以上のとおりであるから、本件特許第3190206号の請求項1,4,5,7?9に係る発明は甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、無効理由1により無効とすべきものである。
また、請求項2,3,6に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に基づき、本件出願前(優先日前)に当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項10に係る発明は、甲第1号証に基づき、本件出願前(優先日前)に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2,3,6,10に係る発明特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。すなわち、無効理由2により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-23 
結審通知日 2014-07-28 
審決日 2014-08-11 
出願番号 特願平6-137214
審決分類 P 1 113・ 121- Z (C08B)
P 1 113・ 113- Z (C08B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 森林 克郎
三崎 仁
登録日 2001-05-18 
登録番号 特許第3190206号(P3190206)
発明の名称 光学異性体用分離剤およびその製造法  
代理人 伊佐治 創  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 中山 ゆみ  
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