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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 E04B
管理番号 1292287
審判番号 不服2013-2005  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-04 
確定日 2014-09-22 
事件の表示 特願2006-182834「ブレース付き露出型柱脚構造」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日出願公開、特開2008- 13912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年6月30日の出願であって、平成23年7月12日付けで拒絶理由が通知され、同年9月9日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成24年2月14日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年4月23日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、同年10月25日付けで同年4月23日付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年2月4日に拒絶査定に対する不服審判請求がなされたものである。

第2 原審における補正の却下の決定の適否

1 審判請求の趣旨について
平成25年2月4日付けの審判請求書の【請求の理由】の「3.本願発明が特許されるべき理由 (a)本願発明の説明」に、
「 上記補正却下の決定について
平成24年10月25日付けの上記補正却下の決定は、以下に述べる理由で、平成24年4月23日付け手続補正書で補正した、補正後の請求項1、2に係る本願発明に対する特許法第29条第2項の発明容易性に関する認定判断に誤りがあるので、不適法のものといわざるを得ず、承服することはできない。
本願発明の要旨
したがって、本願発明の要旨は、平成24年4月23日付け手続補正書で補正した特許請求の範囲の請求項1、2に記載したとおりの、次の『ブレース付き露出型柱脚構造』にある。 」
と記載されていることからして、請求人は、審判請求において、平成24年4月23日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)に対する補正の却下の決定について争っているものと認められる。
よって、以下において補正の却下の決定の適否について検討する。

2 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年9月9日付けの手続補正により補正された請求項1の
「コンクリート中に埋設して定着させたアンカーボルトを用いて鉄骨柱の下部に固着したベースプレートを締付け固定する露出型柱脚構造において、前記アンカーボルトとベースプレートに形成したボルト挿通孔との間に間隙を設けて、その間隙部に無収縮性固化材を充填するように構成するとともに、前記無収縮性固化材の全ての面を拘束して圧縮強度を強化し、その無収縮性固化材の圧縮耐力を前記アンカーボルトの剪断耐力以上に構成するとともに、前記ベースプレートの厚さを前記アンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍に抑えた状態において、鉄骨柱の下部又はベースプレートの少なくともいずれか一方にブレースの一端部を連結するようにしたことを特徴とするブレース付き露出型柱脚構造。」が
「コンクリート中に埋設して定着させたアンカーボルトを用いて鉄骨柱の下部に固着したベースプレートを締付け固定する露出型柱脚構造において、前記アンカーボルトとベースプレートに形成したボルト挿通孔との間に間隙を設けて、その間隙部に無収縮性固化材を充填するように構成するとともに、前記無収縮性固化材の全ての面をアンカーボルトの外周面、ボルト挿通孔の内周面、座金の下面、及びベースグラウト材の上面によって完全に拘束して圧縮強度を強化し、その無収縮性固化材の圧縮耐力を前記アンカーボルトの剪断耐力以上に構成するとともに、前記ベースプレートの厚さを前記アンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍に抑えた状態において、鉄骨柱の下部又はベースプレートの少なくともいずれか一方にブレースの一端部を連結するようにしたことを特徴とするブレース付き露出型柱脚構造。」に補正された。
この特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に対して、「無収縮性固化材の全ての面を拘束して圧縮強度を強化」するという発明特定事項を、無収縮性固化材の全ての面を「アンカーボルトの外周面、ボルト挿通孔の内周面、座金の下面、及びベースグラウト材の上面によって完全に」拘束して圧縮強度を強化するものであると限定するものであり、かつ補正の前後において請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、以下において、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて更に検討する。

3 独立特許要件について
(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「2 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由及び補正の却下の決定に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平11-280162号公報(以下、「引用例1」という。)には、柱脚金物に関して図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア) 「【0002】 【従来の技術】 鉄骨柱をコンクリート基盤上に建てるのに使用する柱脚金物としては、図4、5に示したような鋳造若しくは鍛造によって製作したものが使用されている。図4は柱脚金物の平面図で図5はその柱脚金物を使用して鉄骨柱をコンクリート基盤上に建設する状態を示すB- B断面図である。同図において、鉄骨柱50の下端部に柱脚金物40を、その上面に設けた突出部41を介して溶接接合する。次に予め打設したコンクリート基盤51上に部分モルタルを介して載置する。コンクリート基盤51には予めアンカーボルト52を突設してあるので、柱脚金物40を構成する底板42に設けたボルト穴43により位置決めを行う。この位置決め後、例えば木枠53を配設して柱脚金物40の底板42とコンクリート基盤51との間にモルタル54を充填する。モルタル54が固化した後、木枠53を除去し、ナット55を締結することにより、柱脚金物40をコンクリート基盤51に固定する。
【0003】 鉄骨柱の間に筋かいを入れることがよくある。その場合、図6に正面図で示している鋼鉄性のガセットプレート60を用いて、これを柱脚金物40の底板にあるリブ46と突出部41および鉄骨柱50の側面に溶接で図5に示すように固定する。ガセットプレートには筋かいに開けられているボルト穴に対応する位置に予めボルト穴を開けておいて、筋かいをボルトで締結する。」

(イ) 「【0008】【課題を解決するための手段】本発明の柱脚金物は、底板上に柱の横断面形状に適合する第一の突出部と、底板の上面に設けられたボルト台座部と、ボルト台座部間を接続する底板にリブ部を有していて、底板を貫通するアンカーボルトによりコンクリート基盤と締結するように構成したものにおいて、前記リブ部と前記第一の突出部に連接された第二の突出部を有しており、この第二の突出部は筋かいを固定するためのものであることを特徴とする。
・・・
【0010】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の柱脚金物を図面を参照しながら詳細に説明する。・・・
【0011】 12はこの柱脚金物10の底板であり、コンクリート基盤51上に載る。底板12から上方に第一の突出部11が設けられていて、この第一の突出部11は鉄骨柱50の端部を溶接固定するように、例えば角形、丸形等の鉄骨柱50の横断面形状に適合するようになっている。この第一の突出部11から底板12の隅部に向かって延出しているボルト台座部14が設けられていて、ボルト台座部14の底板12の隅部に当たるところにボルト穴13が形成されていて、アンカーボルト52を貫通させ得るようになっている。また、底板12のボルト台座部14、14の間は第一の突出部11の近くから周縁に向かって傾斜する斜面状にリブ16が形成されている。このリブ16上のボルト台座部14、14のほぼ中央部に、第一の突出部11から底板12の端部に向かって延出している第二の突出部17が設けられている。
・・・
【0013】 本発明の柱脚金物10を使用して、土木建築構造物を建てるには、従来と同じ様に鉄骨柱50を柱脚金物10の第一突出部11の上面111に溶接接合する。これを予め打設したコンクリート基盤上に載置してアンカーボルトによって固定して、筋かいのために図3に示すようなガセットプレート30を取り付ける。あるいは、鉄骨柱50を溶接固定した柱脚金物10をコンクリート基盤上に載置する前に、ガセットプレート30を取り付ける。ガセットプレート30を、柱脚金物10の第二の突出部17の上面171に載せて、ガセットプレート30の側部が鉄骨柱50の側面に接触させた状態で、ガセットプレート30を第二の突出部17の上面171および鉄骨柱50の側面に溶接する。このように、ガセットプレート30を取り付けた柱脚金物10をコンクリート基盤上にアンカーボルトおよびモルタルで固定した後で、筋かい31をガセットプレート30にボルトで接合すればよい。」

(ウ) 図1は上記「(イ)」に摘記した「【発明の実施の形態】」の記載に対応する平面図で、図2は図1のA- A断面図である。また図4は上記「(ア)」に摘記した「【従来技術】」の記載に対応する平面図で、図5は図4のB- B断面図である。図1及び図2、図4及び図5には以下のことが示されている。
・図1及び図2並びに図4及び図5のいずれにおいても露出型の柱脚構造である。
・図2及び図5のいずれにおいても柱脚金物は鉄骨柱の下部に溶接されている。
・図2及び図5のいずれにおいても筋かいはその一端部でガセットプレートにボルトで接合されている。

柱脚金物を貫通するアンカーボルトによってコンクリート基盤に柱脚金物を固定する構造においては、上記「(ア)」に摘記した「【従来技術】」に記載されているように、コンクリート基盤に予めアンカーボルトが突設され、そのアンカーボルトにナットを締結して柱脚金物がコンクリート基盤に固定されることが周知慣用技術である。この点において「(ア)」の「【従来技術】」を参照して上記「(イ)」に摘記した「【発明の実施の形態】」の記載事項を見ると、引用例1には
「コンクリート基盤に予め突設してあるアンカーボルトを鉄骨柱の下部に溶接固定した柱脚金物のボルト穴に貫通させてナットを締結することにより固定する露出型柱脚構造において、鉄骨柱及び柱脚金物に溶接したガセットプレートに筋かいの一端部をボルトで接合する、筋かい付き露出型の柱脚の構造。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 原査定の拒絶の理由及び補正の却下の決定に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-220712号公報(以下、「引用例2」という。)には、鉄骨露出型柱脚構造について、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア) 「【0010】 そして、ベースプレートにおける挿通孔のクリアランスを5mm以下とすると、現場での施工が困難であるという問題点があった。・・・」

(イ) 「【0016】 第5の発明の鉄骨露出型柱脚構造は、前記ねじ節鉄筋と前記ベースプレートの挿通孔との隙間に無収縮性グラウト材を充填してなることを特徴とする。」

(ウ) 「【0024】 本発明において、ベースプレートと基礎コンクリートとの間からベースプレートの挿通孔とねじ節鉄筋との間まで無収縮性グラウト材を充填するために、ベースプレートの挿通孔とねじ節鉄筋との間にクリアランスがあっても、ベースプレートにかかるせん断応力を確実にアンカーボルトに伝達することが可能である。」

(エ) 「【0035】・・・ 柱材6の建入れ後、ベースプレート7と基礎コンクリート1の間に無収縮性グラウト材11を充填する。さらに、ねじ節鉄筋5とベースプレート7の挿通孔8との隙間、ベースプレート7とナット10との隙間に無収縮性グラウト材11を充填する。
【0036】 そして、ナット9、10によりベースプレート7を締め付け、ベースプレート7とナット10との隙間から充填材が溢れ出てくることにより、ベースプレート7と基礎コンクリート1の隙間、ねじ節鉄筋5とベースプレート7の挿通孔8との隙間、ベースプレート7とナット10との隙間の充填が十分にできたことを確認し、ねじ節鉄筋5に初期張力を導入してベースプレート7を基礎コンクリート1に固定する。」

これらの記載事項によると、引用例2には、施工性向上のためにベースプレートにおける挿通孔のクリアランスを設けて可とするために、ねじ節鉄筋5とベースプレート7の挿通孔8との隙間に無収縮性グラウト材11を充填した鉄骨露出型柱脚構造の発明(以下、「引用例2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ 原査定の拒絶の理由及び補正の却下の決定に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2000-282571号公報(以下、「引用例3」という。)には、露出型柱脚の固定構造について、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア) 「【0012】【発明の実施の形態】 図1は本発明の露出型柱脚の固定構造の側面図、図2はその平面図、図3、図4は要部の拡大図である。図において、従来例と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分のみ説明する。図において、8a、8bはそれぞれベースプレート7を挟んで設置された上ナット、下ナット、15は上ナット8aとベースプレート7との間に設置された座金である。座金15は、従来例とは違い、通常のサイズのものを用い、かつベースプレート7との間を溶接していない。17はアンカーボルト5とベースプレート7のアンカーボルト孔との間に注入されたグラウト材である(図3参照)。
・・・
【0014】 その後、基礎コンクリート6を打設し、基礎コンクリート6の硬化後に、添プレートを取り外し、モルタル(通称饅頭)で水平レベルを出す。その後、ベースプレート7が溶接された鉄骨柱10を搬入し、ベースプレート7のボルト孔をアンカーボルトに挿入して立設する。そして、鉄骨柱10の建入れ直し後、上ナット8aを締める前に、アンカーボルト5とベースプレート7のアンカーボルト孔の隙間にグラウト材17を充填し、充填確認の後、上ナット8aを締める。最後に、ベースプレート7と基礎コンクリート6との間にグラウト材11を充填する。
【0015】 以上のように構成された本実施の形態の露出型柱脚の固定構造において、ベースプレート7とグラウト材11との間の摩擦力で処理できない程大きなせん断力が作用した場合には、せん断力は、ベースプレート7→グラウト材17→アンカーボルト5→基礎コンクリートと流れることになる。このとき、グラウト材17は、下ナット8b、上ナット8a及びベースプレート7に囲まれた狭く四方が拘束された空間に充填されているので、せん断力が作用した場合には3次元応力状態となり、大きな強度を発揮することになる。そのため、グラウト材17とアンカーボルト5とはアンカーボルト5のネジ部全体で力のやりとりができる。このため、過大なせん断力が作用した場合であっても、通常サイズの座金15を用い、また座金15とベースプレート7との隅肉溶接なしで、アンカーボルト5にせん断力を負担させることができる。」

(イ)図1は上記「(イ)」に摘記した「【発明の実施の形態】」の記載に対応する側面図で、図3はその要部の拡大図である。図1及び図3には以下のことが示されている。
・アンカーボルト5は基礎コンクリート6中に予め突設される。
・ベースプレート7は鉄骨柱10の下部に溶接固定される。

これらの記載事項によると、引用例3には、「基礎コンクリート6中に予め突設されるアンカーボルト5を鉄骨柱10の下部に溶接固定したベースプレート7のアンカーボルト孔に挿入してナットで締付け固定する露出型柱脚の固定構造において、アンカーボルト5とベースプレート7のアンカーボルト孔との隙間にグラウト材17を充填するにあたり、グラウト材17の四方を拘束して大きな強度を発揮させ、グラウト材17とアンカーボルト5とがアンカーボルト5のネジ部全体で力のやりとりをし、過大なせん断力が作用した場合であってもアンカーボルト5にせん断力を負担させることができる露出型柱脚の固定構造」の発明(以下、「引用例3記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
・引用発明の「コンクリート基盤」は、本件補正発明の「コンクリート」に相当し、引用発明の「コンクリート基盤に予め突設してあるアンカーボルト」は、本件補正発明の「コンクリート中に埋設して定着させたアンカーボルト」に相当する。また引用発明の「鉄骨柱の下部に溶接固定した柱脚金物」は、本件補正発明の「鉄骨柱の下部に固着したベースプレート」に相当する。そして、引用発明の「コンクリート基盤に予め突設してあるアンカーボルトを鉄骨柱の下部に溶接固定した柱脚金物のボルト穴に貫通させてナットを締結することにより固定する」ことは、本件補正発明の「コンクリート中に埋設して定着させたアンカーボルトを用いて鉄骨柱の下部に固着したベースプレートを締付け固定する」ことに相当する。
・引用発明の「筋かい付き露出型柱脚構造」は、本件補正発明の「ブレース付き露出型柱脚構造」に相当し、引用発明の「鉄骨柱の側面及び柱脚金物の上面に溶接したガセットプレートに筋かいの一端部をボルトで接合する」ことは、本件補正発明の「鉄骨柱の下部又はベースプレートの少なくともいずれか一方にブレースの一端部を連結する」ことに相当する。
ここで、引用発明においては「筋かいの一端部」は「鉄骨柱の側面」や「柱脚金物の上面」に直接ボルトで連結されてはおらず、それらに溶接したガセットプレートにボルトで接合されるものであることについて補足しておくと、この点について本件補正発明にかかる明細書及び図面でも、「【実施例】【0014】 図1及び図2は本発明に係るブレース付き露出型柱脚構造に関する一実施例を示したもので、図1はアンカーボルトの中心位置で断面にして示した要部断面図、図2はその要部拡大断面図である。・・・本実施例は、H形鋼からなる鉄骨柱12を使用した場合を例示したものであり、図1に示したように、そのH形鋼のフランジ部相互間に設置した連結板15を介してブレース10の一端部を連結している。」と、直接ではなく「連結板15を介してブレース10の一端部を連結」する旨が説明されている。

したがって、両者は
「コンクリート中に埋設して定着させたアンカーボルトを用いて鉄骨柱の下部に固着したベースプレートを締付け固定する露出型柱脚構造において、鉄骨柱の下部又はベースプレートの少なくともいずれか一方にブレースの一端部を連結するようにしたブレース付き露出型柱脚構造。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本件補正発明においては、「アンカーボルトとベースプレートに形成したボルト挿通孔との間に間隙を設けて、その間隙部に無収縮性固化材を充填するように構成するとともに、前記無収縮性固化材の全ての面をアンカーボルトの外周面、ボルト挿通孔の内周面、座金の下面、及びベースグラウト材の上面によって完全に拘束して圧縮強度を強化し、その無収縮性固化材の圧縮耐力を前記アンカーボルトの剪断耐力以上に構成」しているのに対し、引用発明では間隙を設けるかどうか及び無収縮性固化材を充填するかどうか不明であり、よって無収縮性固化材の圧縮強度強化についても不明な点。

[相違点2]
本件補正発明においては「ベースプレートの厚さをアンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍に抑えた状態」とするのに対し、引用発明ではそうでない点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。

[相違点1について]
(a)露出型柱脚構造の分野において施工性向上の目的でアンカーボルトと挿通孔との間の間隙を可とするためにアンカーボルトと挿通孔との間に無収縮性固化材を充てんすることは、引用例2に引用例2記載の発明が記載され、またさらに実願昭55-79189号(実開昭57-4503号)のマイクロフィルムにもアンカーボルトとベースプレートのアンカーホールとの間隙を大きくして施工を容易とするにあたりその間隙部に無収縮のグラウト材を充填する構成が記載されているように(これについては本件補正発明にかかる本願明細書でも「【0006】 ところで、アンカーボルト1とベースプレート2に形成されるボルト挿通孔3との間の間隙を更に大きく設定し、例えば直径で15?30mm程度の間隙を設けて、その間隙部に無収縮性グラウト材を充填するように構成することにより、アンカーボルト1の設置精度を更に緩和して施工性を図った施工技術も知られている(特許文献1)。・・・【特許文献1】実開昭57-4503号公報」と記載。)、本願出願時には周知の技術である。
(b)一方、引用例3には引用例3記載の発明が記載されている。
(c)そして、引用発明においても施工性が良いことが望ましいのは当業者であれば当然に認識されることであるので、引用発明のアンカーボルトを柱脚金物のボルト穴に貫通させる構成を引用例2記載の発明のような周知技術で具現化することは、当業者が格別の発明力を要さず成し得る事項である。
また、引用発明のアンカーボルトを柱脚金物のボルト穴にナットを締結することにより固定する箇所において強度が大きいことが望ましいことも当業者であれば普通に認識することであり、上記引用発明のアンカーボルトを柱脚金物のボルト穴に貫通させる構成を引用例2記載の発明のような周知技術で具現化するにあたり、引用発明と、コンクリート基盤に予め突設してあるアンカーボルトを鉄骨柱の下部に溶接固定した柱脚金物のボルト穴に貫通させてナットを締結することにより固定する露出型柱脚構造という前提構成において共通し、かつ、引用発明にも望まれる特性を備えた、引用例3記載の発明のグラウト材17の四方を拘束して大きな強度を発揮させる構成を採用して、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、引用例3記載の発明には、拘束されたグラウト材の強度について、圧縮耐力がアンカーボルトの剪断耐力以上とは明示的限定されていない。しかし引用例3記載の発明においても、グラウト材の強度を大きくして「グラウト材17とアンカーボルト5とがアンカーボルト5のネジ部全体で力のやりとりをし、過大なせん断力が作用した場合であってもアンカーボルト5にせん断力を負担させる」ようにする以上、そのためにはグラウト材の圧縮耐力をアンカーボルトの剪断耐力以上とすることは当業者ならば格別の発明力を要さず理解できる事項である。

[相違点2について]
(a)建築設計において、要求される強度やコスト等を考慮して、各構成部材の寸法を決定することは基本的な設計事項である。そして、上記[相違点1について]の議論で述べたように引用例3がアンカーボルトと孔の隙間にグラウト材を充填するについて四方が拘束された空間にグラウト材が充填されれば大きな強度を発揮すると開示しているところ、当業者が、その得られた強度に対応して、グラウト材と直接接して力のやりとりをする部材であるベースプレートについてどのくらいの数値範囲のものが採用し得るか実験的に検証し好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であってここに進歩性は見出せない。
(b)続いて、「ベースプレートの厚さをアンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍」という数値範囲の奏する効果及び数値範囲の臨界的意義について検討するが、ここで、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)におけ上記発明特定事項に関連する記載は、
「【0017】
図5は実験結果を示したグラフである。本実験では、呼び径Dが41mmのアンカーボルト20を用い、ベースプレートに相当する負荷部材26の厚さtを変化させながら、それぞれの厚さtにおいてアンカーボルト20が剪断破断に至るまで負荷を増やす実験を行い、それらの剪断破断時の負荷から求めた厚さtに対応したアンカーボルト20の最大耐力Puに基づいて、グラウト材28の拘束効果による圧縮強度に関する上昇率αを求めた。すなわち、非拘束状態における無収縮性のグラウト材28の圧縮強度gFを40N/mm^(2)として、Pu/(D・t・gF)に基づいて圧縮強度に関する上昇率αを求めた。図5に示したグラフは、そのグラウト材28の拘束効果による圧縮強度に関する上昇率αを縦軸とし、横軸にベースプレートに相当する負荷部材26の厚さtをとって実験結果を表したものである。
【0018】
しかして、図5の実験結果によって、ベースプレートの厚さtが例えば40?52mm程度の範囲においては、無収縮性のグラウト材の拘束効果による圧縮強度の上昇率αは10倍以上にもなることが確認できた。これに基づき、図1に示した前記実施例において、アンカーボルト1とベースプレート2に形成されたボルト挿通孔3との間の間隙部に充填したグラウト材13の全ての面を、アンカーボルト1の外周面、ボルト挿通孔3の内周面、座金5の下面、及びレベル調整用のベースグラウト材14の上面によって完全に包囲して、拘束効果を確保するように構成すれば、ブレース10を採用しても、ベースプレート2の厚さtを一般的に使用されている範囲に抑えながら強度的にも充分対応できることが判明したのである。因みに、本実験ではベースプレートに相当する厚さtとほぼ同じである呼び径Dが41mmのアンカーボルトを用いたことから、ベースプレートに相当する厚さtがアンカーボルトの呼び径Dより小さくなる40mm未満の領域に関しては、アンカーボルトの破断とベースプレートの変形との関係が混在する可能性があるため実験から割愛したが、前記実験結果を敷衍することは可能である。また、ベースプレートに相当する厚さtが52mmより大きい領域に関しては、実験を行っても、呼び径Dが41mmのアンカーボルトが剪断破断する結果になることが推測されるため、本実験から割愛したところである。なお、前記実験では呼び径Dが41mmのアンカーボルトを用いて実験を行った場合を示したが、同様の手法で呼び径Dの異なるアンカーボルトを用いた実験を順次行うことにより、それぞれの呼び径Dに対応した実験結果を得ることが可能なことはいうまでもない。」
というものであり、「ベースプレートの厚さをアンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍に抑えた」という記載はない。当該発明特定事項は平成23年9月9日付けの手続補正による補正で付加されたものであり、同日付けの意見書ではその補正の根拠を「3.補正の根拠 ・・・(2)請求項1における、「前記ベースプレートの厚さを前記アンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍に抑えた」との補正は、出願当初の明細書の段落0017の「本実験では、呼び径Dが41mmのアンカーボルト20を用い、・・・グラウト材28の拘束効果による圧縮強度に関する上昇率αを求めた。」との記載、及び段落0018の「しかして、図5の実験結果によって、ベースプレートの厚さtが例えば40?52mm程度の範囲においては、無収縮性のグラウト材の拘束効果による圧縮強度の上昇率αは10倍以上にもなることが確認できた。これに基づき、・・・ブレース10を採用しても、ベースプレート2の厚さtを一般的に使用されている範囲に抑えながら強度的にも充分対応できることが判明したのである。」との記載に基づくものであり、ベースプレートの厚さt/アンカーボルトの呼び径D(小数点以下2桁目を四捨五入)により求めたものである。」としているところである。
そこで、その「呼び径Dが41mmのアンカーボルトを用いて実験を行った場合」における「ベースプレートの厚さt」の「例えば40?52mm程度の範囲」という数値範囲について、まずその臨界的意義から先に検討すると、上記摘記した当初明細書等の記載事項には「【0018】・・・因みに、本実験ではベースプレートに相当する厚さtとほぼ同じである呼び径Dが41mmのアンカーボルトを用いたことから、ベースプレートに相当する厚さtがアンカーボルトの呼び径Dより小さくなる40mm未満の領域に関しては、アンカーボルトの破断とベースプレートの変形との関係が混在する可能性があるため実験から割愛したが、前記実験結果を敷衍することは可能である。また、ベースプレートに相当する厚さtが52mmより大きい領域に関しては、実験を行っても、呼び径Dが41mmのアンカーボルトが剪断破断する結果になることが推測されるため、本実験から割愛したところである。・・・」と記載されている。つまり「40mm未満の領域に関して」は、「実験から割愛したが、前記実験結果を敷衍することは可能である。」とされ、また「52mmより大きい領域に関して」も「実験を行っても、呼び径Dが41mmのアンカーボルトが剪断破断する結果になることが推測されるため、本実験から割愛したところである。」とされており、すなわち40?52mmの内と外で効果に顕著な差異があるものではない。
次に、その数値範囲はいかなる効果を有するかについて検討する。上記摘記した当初明細書等の記載事項に「【0018】 しかして、図5の実験結果によって、ベースプレートの厚さtが例えば40?52mm程度の範囲においては、無収縮性のグラウト材の拘束効果による圧縮強度の上昇率αは10倍以上にもなることが確認できた。これに基づき、図1に示した前記実施例において、アンカーボルト1とベースプレート2に形成されたボルト挿通孔3との間の間隙部に充填したグラウト材13の全ての面を、アンカーボルト1の外周面、ボルト挿通孔3の内周面、座金5の下面、及びレベル調整用のベースグラウト材14の上面によって完全に包囲して、拘束効果を確保するように構成すれば、ブレース10を採用しても、ベースプレート2の厚さtを一般的に使用されている範囲に抑えながら強度的にも充分対応できることが判明したのである。」とあるように、「無収縮性のグラウト材の拘束効果」が効果をもたらす原因でありそれにより「圧縮強度の上昇率αは10倍以上にも」なり、「ベースプレート2の厚さtを一般的に使用されている範囲に抑えながら強度的にも充分対応できる」ことはそれによりもたらされた効果である。よって、「ベースプレートの厚さt」を「40?52mm程度の範囲」とした数値範囲には格別な効果は見出せない。
(c)なお以上では、本件補正発明の「ベースプレートの厚さをアンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍」という数値範囲そのものではなく、当初明細書等の「呼び径Dが41mmのアンカーボルトを用いて実験を行った場合」における「ベースプレートの厚さt」の「例えば40?52mm程度の範囲」という記載をもとに議論したが、上述のようにベースプレートの厚さをアンカーボルトの呼び径との比で表現する記載は当初明細書等にはなく平成23年9月9日付けの手続補正による補正で付加された事項であるところ、その「ベースプレートの厚さをアンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍」という記載にもとづいて議論したとしても、新たな効果等が付加されるものではないことは明らかである。

[総合判断]
また、本願補正発明の作用効果も、引用例1及び3に記載された発明、並びに引用例2に例示される周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願補正発明は、引用例1及び3に記載された発明、並びに引用例2に例示される周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
したがって,平成24年4月23日付けの手続補正書による補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法53条1項の規定により却下されるべきものであるとした原審における補正却下の決定は妥当なものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年4月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されており、また当該補正の却下の決定は妥当なものであったと認められるので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成23年9月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるところ、その請求項1にかかる発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「コンクリート中に埋設して定着させたアンカーボルトを用いて鉄骨柱の下部に固着したベースプレートを締付け固定する露出型柱脚構造において、前記アンカーボルトとベースプレートに形成したボルト挿通孔との間に間隙を設けて、その間隙部に無収縮性固化材を充填するように構成するとともに、前記無収縮性固化材の全ての面を拘束して圧縮強度を強化し、その無収縮性固化材の圧縮耐力を前記アンカーボルトの剪断耐力以上に構成するとともに、前記ベースプレートの厚さを前記アンカーボルトの呼び径の約1?1.3倍に抑えた状態において、鉄骨柱の下部又はベースプレートの少なくともいずれか一方にブレースの一端部を連結するようにしたことを特徴とするブレース付き露出型柱脚構造。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は,前記「第2 3 (2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記「第2 3」で検討した本件補正発明から「無収縮性固化材の全ての面を拘束して圧縮強度を強化」するという発明特定事項の限定事項であるを「アンカーボルトの外周面、ボルト挿通孔の内周面、座金の下面、及びベースグラウト材の上面によって完全に」拘束するとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 3 (4)」に記載したとおり、引用例1及び3に記載された発明、並びに引用例2に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1及び3、並びに引用例2に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び3に記載された発明、並びに引用例2に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-17 
結審通知日 2014-06-23 
審決日 2014-08-11 
出願番号 特願2006-182834(P2006-182834)
審決分類 P 1 8・ 121- ZB (E04B)
P 1 8・ 575- ZB (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 湊 和也  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
竹村 真一郎
発明の名称 ブレース付き露出型柱脚構造  
代理人 福島 英一  
代理人 福島 英一  
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