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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B |
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管理番号 | 1292294 |
審判番号 | 不服2013-13804 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-18 |
確定日 | 2014-09-24 |
事件の表示 | 特願2007-543675「建物内で人を輸送するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日国際公開、WO2006/058445、平成20年 6月26日国内公表、特表2008-521731〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2005年11月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年12月1日、ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成19年5月31日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成19年7月24日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年12月8日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成24年6月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年3月13日付けで拒絶査定がされ、平成25年7月18日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成25年8月29日に審判請求書の請求の理由を変更する手続補正書(方式)が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成24年6月13日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに平成19年7月24日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項11に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「 【請求項11】 第1のエレベータ昇降路内の第1のエレベータのかご(11)および第2のエレベータ昇降路内の第2のエレベータのかごを備え、少なくとも2つのアクセス階床(S1、S2)が設けられているエレベータ装置(10)をもつ、第1のアクセス階床(S1)、第2のアクセス階床(S2)、および複数の行き先階床(S4、S5、S6、S7)を備える建物内で人を輸送するための構成であって、複数の行き先階床(S4、S5、S6、S7)の少なくとも1つは、第1のアクセス階床(S1)に固定的に割り当てられて、第1のエレベータのかご(11)によってサービスされ、複数の行き先階床(S4、S5、S6、S7)の他の少なくとも1つは、第2のアクセス階床(S2)に固定的に割り当てられて、第2のエレベータのかごによってサービスされ、 乗客が建物に入館するときに乗客から受けとった行き先呼びに基づき、乗客が第1のアクセス階床(S1)または第2のアクセス階床(S2)に誘導されることを特徴とする、構成。」 3.引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平3-166177号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。 (ア)「 エレベータのサービス階を複数の帯域に分割し、かつ複数台のエレベータを上記帯域の数に対応して分割して各々運転する分割運転を行なうための指令信号を出力する分割運転指令回路と、 この分割運転指令回路の出力信号に従って分割運転を行なわせる群管理運転装置と、 基準階のエレベータホールの混雑度を検出する混雑度検出回路と、 上記群管理運転装置による分割運転中に上記混雑度検出回路によって混雑度信号が出力されたとき、各々分割されたエレベータ群の基準階を夫々異ならせて運転する指令信号を上記群管理運転装置へ出力する基準階切換回路とを備えたエレベータの運転制御装置。」(第1ページ左下欄「2.特許請求の範囲」の項) (イ)「[産業上の利用分野] この発明はエレベータの運転制御装置に関し、特にビル内居住人口が多く、例えば出勤時間帯のように基準階が混雑したときの混雑緩和に関するものである。」(第1ページ左下欄第20行ないし右下欄第4行) (ウ)「[従来の技術] 従来、事務所ビル等においては朝の出勤時間帯になると、エレベータの基準階であるビルの玄関階より上方の階へ向う乗客が玄関階に集中し、エレベータの交通は非常に混雑し、玄関階では乗客はかごが満員となって積み残されたり、待時間が長くなることが多い。 従来、このように交通が極端に混雑したときには輸送効率を向上させるために分割運転が行われている。分割運転は、例えば特公昭62-12148号公報に開示されているものがあり、この分割運転は第5図に示すように、基準階である玄関階より上方の階床をその中間で低層帯域と高層帯域に2分割し、エレベータのかごも2分割して、かごA,Bは低層帯域である1?4階をサービスさせ、かごC,Dは高層帯域である1,5,6階をサービスさせるものである。」(第1ページ右下欄第5行ないし第2ページ左上欄第1行) (エ)「[作 用] この発明においては、分割運転中に基準階が混雑したら、複数の帯域に対応して各々分割されたエレベータ群の基準階を夫々異ならせるから、夫々の帯域へ行く乗客が分散される。」(第2ページ右上欄第6行ないし第10行) (オ)「 第1図に示す各装置(3),(5),(6)及び(7)の各装置の夫々の動作はメモリ(15B)に記憶されたプログラムに従って、CPU(15A)の制御のもとに行われる。 次に、予めメモリ(10B)に記憶させた基準階切換プログラムを示すフローチャートである第3図に従って動作を説明する。 ステップ(S1)で、出勤時間帯か否かを、タイマ(1)からの出力によって判断する。出勤時間帯であるとするとステップ(S1)はYESとなり、ステップ(S3)へ進む。または、出勤時間帯でなくても基準階からの交通が増加したとき、係員の判断で分割運転スイッチ(2)が投入されると、ステップ(S2)がYESとなり、ステップ(S3)へ進み、第5図に示す従来と同じ分割運転が行なわれる。ここでは、分割運転指令回路(3)の指令信号は基準階切換回路(7)を介してそのまま群管理運転装置(10)へ出力される。 次に、ステップ(S4)で、1階エレベータホールが混雑したか否かを、混雑度検出回路(6)の出力によって判断し、YESの場合、即ち混雑度信号が出力された場合ステップ(S5)及び(S6)へ進み、基準階切換回路(7)から案内灯点灯及びアナウンスの指令信号が出力される。これによりビル入口やエレベータホール入口において案内灯による表示を行ない、また音声により乗客をスムーズに誘導する。所定時間後(例えば3分後)ステップ(S7)で、基準階切換回路(7)は高層かごC,Dの基準階を2階に切換え、高層かごC,Dは2階を基準階として運転し、低層かごA,Bは1階を基準階として運転する指令信号を出力する。即ち、低層かご群と高層かご群の基準階をそれぞれ異ならせて運転する指令信号が出力される。また、低層かごA,Bの2階、高層かごC,Dの1階をサービスカットしてより効果を高める。なお、この場合、帯域設定信号も修正されて群管理運転装置(10)へ出力される。また、この場合、高層行の乗客は2階迄は階段を利用することになる。(第3ページ左上欄第10行ないし左下欄第7行) (カ)「[発明の効果] 以上説明したようにこの発明は、分割運転中の基準階を、基準階の混雑度によって切換えるようにしたので、同じホールに各帯域へ行く乗客、例えば低層行と高層行の乗客が混じることはなくなり、乗降がスムーズとなって、輸送効率が向上するという効果がある。」(第3ページ左下欄第19行ないし右下欄第5行) (2)引用文献1記載の事項 上記(1)(ア)ないし(カ)及び図面の記載から、以下の事項が分かる。 (キ)上記(1)(ア)ないし(カ)及び図面の記載から、引用文献1には、一の昇降路内に設けられた低層かごAおよび他の昇降路内に設けられた高層かごCと昇降装置とを備えるビル内で人を輸送するための機構が記載されていることが分かる。 (ク)上記(1)(ア)、(ウ)及び(オ)並びに第4図から、引用文献1に記載されたビル内で人を輸送するための機構において、低層かごAは、1階を基準階とし、分割運転中に1階ないし4階をサービスするものであるところ、混雑度信号が出力されたときには、1階を基準階とし、1階、3階及び4階をサービスするものであることが分かる。 (ケ)上記(1)(ア)、(ウ)及び(オ)並びに第4図から、引用文献1に記載されたビル内で人を輸送するための機構において、高層かごCは、1階を基準階とし、分割運転中に5階及び6階をサービスするものであるところ、混雑度信号が出力されたときには、2階を基準階とし、2階、5階及び6階をサービスするものであることが分かる。 (コ)上記(キ)ないし(ケ)をまとめると、引用文献1に記載されたビル内で人を輸送するための機構は、一の昇降路内の低層かごAおよび他の昇降路内の高層かごCと昇降装置とを備え、分割運転中に混雑度信号が出力されたときには、それぞれ、1階および2階を基準階とし、低層かごAは、1階、3階及び4階をサービスし、高層かごCは、2階、5階及び6階をサービスするビル内で人を輸送するための機構であるということができる。 (3)引用文献1記載の発明 上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。 「一の昇降路内の低層かごAおよび他の昇降路内の高層かごCと昇降装置とを備え、分割運転中に混雑度信号が出力されたときには、低層かごAは、1階を基準階とし、1階、3階及び4階をサービスし、高層かごCは、2階を基準階とし、2階、5階及び6階をサービスするビル内で人を輸送するための機構。」 4.対比 本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「低層かごA」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「第1のエレベータのかご」に相当し、以下同様に、「一の昇降路」は「第1のエレベータ昇降路」に、「高層かごB」は「第2のエレベータ」に、「他の昇降路」は「第2のエレベータ昇降路」に、「基準階」は「アクセス階床」に、「昇降装置」は「エレベータ装置」に、「ビル内で人を輸送するための機構」は「建物内で人を輸送するための構成」に、「機構」は「構成」に、それぞれ相当する。 また、引用文献1記載の発明において「低層かごAは、1階を基準階とし、1階、3階及び4階をサービス」することは、「3階及び4階」を「行き先階床」とするものであるということができるとともに、引用文献1記載の発明における低層かごAの基準階である「1階」は、本願発明における「第1のアクセス階床」に相当する。 さらに、引用文献1記載の発明において「高層かごCは、2階を基準階とし、2階、5階及び6階をサービス」することは、「5階及び6階」を「行き先階床」とするものであるということができるとともに、引用文献1記載の発明における高層かごCの基準階である「2階」は、本願発明における「第2のアクセス階床」に相当する。 そして、引用文献1記載の発明における「ビル内で人を輸送するための機構」が、「1階」及び「2階」を「基準階」とし、「3階及び4階」並びに「5階及び6階」を行き先階床とするということは、本願発明における「建物内で人を輸送するための構成」が「少なくとも2つのアクセス階床が設けられているエレベータ装置をもつ、第1のアクセス階床、第2のアクセス階床、および複数の行き先階床を備え」ることに相当する。 また、引用文献1記載の発明において、「低層かごAは、1階を基準階とし、1階、3階及び4階をサービス」することは、「行き先階床」である「3階及び4階」が、「基準階」である「1階」に固定的に割り当てられて、「低層かごA」によってサービスされるということができ、「高層かごCは、2階を基準階とし、2階、5階及び6階をサービス」することは、「行き先階床」である「5階及び6階」が、「基準階」である「2階」に固定的に割り当てられて、「高層かごC」によってサービスされるということができる。 したがって、「複数の行き先階床の少なくとも1つは、第1のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第1のエレベータのかごによってサービスされ、複数の行き先階床の他の少なくとも1つは、第2のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第2のエレベータのかごによってサービスされ」るという限りにおいて、引用文献1記載の発明において「分割運転中に混雑度信号が出力されたときには、低層かごAは、1階を基準階とし、1階、3階及び4階をサービスし、高層かごCは、2階を基準階とし、2階、5階及び6階をサービスする」ことは、本願発明において「複数の行き先階床の少なくとも1つは、第1のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第1のエレベータのかごによってサービスされ、複数の行き先階床の他の少なくとも1つは、第2のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第2のエレベータのかごによってサービスされ」ることに相当する。 以上から、両者は、 「 第1のエレベータ昇降路内の第1のエレベータのかごおよび第2のエレベータ昇降路内の第2のエレベータのかごを備え、少なくとも2つのアクセス階床が設けられているエレベータ装置をもつ、第1のアクセス階床、第2のアクセス階床、および複数の行き先階床を備える建物内で人を輸送するための構成であって、複数の行き先階床の少なくとも1つは、第1のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第1のエレベータのかごによってサービスされ、複数の行き先階床の他の少なくとも1つは、第2のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第2のエレベータのかごによってサービスされる構成。」 である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。 <相違点> (a)本願発明においては、「複数の行き先階床の少なくとも1つは、第1のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第1のエレベータのかごによってサービスされ、複数の行き先階床の他の少なくとも1つは、第2のアクセス階床に固定的に割り当てられて、第2のエレベータのかごによってサービスされ」るタイミングについて特に特定がないのに対し、引用文献1記載の発明においては、「分割運転中に混雑度信号が出力されたときに」、「行き先階床」である「3階及び4階」は、「基準階」である「1階」に固定的に割り当てられて、「低層かごA」によってサービスされ、他の「行き先階床」である「5階及び6階」は、「基準階」である「2階」に固定的に割り当てられて、「高層かごC」によってサービスされるものである点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願発明においては、「乗客が建物に入館するときに乗客から受けとった行き先呼びに基づき、乗客が第1のアクセス階床または第2のアクセス階床に誘導される」のに対し、引用文献1記載の発明には、そのような構成を有しない点(以下、「相違点2」という。)。 5.判断 まず、上記相違点1について検討する。 本願の明細書には、「簡単な実施形態では本発明は、特に適切な時間に第1のアクセス階床から第1の固定して割り当てられた行き先階床に移動し、第2のアクセス階床から第2の固定して割り当てられた行き先階床に移動するエレベータのかごで実施することができ、その第1と第2の行き先階床は互いに異なっている。したがって同じ行き先階床をもつ人は、同じアクセス階床に案内され、それによってエレベータのかごの移動時間が著しく削減される。」(段落【0009】)、「したがって特にラッシュアワーで、効率的な人の搬送を可能にすることができる。」(段落【0010】)と記載されている。これらの記載からみて、本願発明は、特に混雑時を想定したものであるということができる。 したがって、本願発明は、引用文献1記載の発明と同様に、混雑時において第1及び第2のエレベータのかごのそれぞれについて、行き先階床をアクセス階床に固定的に割り当てるものであるといえるから、上記相違点1は、何ら実質的なものではない。 一方、本願発明において、第1及び第2のエレベータのかごのそれぞれについて、行き先階床をアクセス階床に固定的に割り当てるのが混雑時に限らないとしても、例えば高層ビルなどにおいて、展望階行きのエレベータのアクセス階床と通常のエレベータのアクセス階床とを別個に設けることは、例を挙げるまでもなく、従来より慣用的に行われている事項(以下、「慣用事項」という。)である。 したがって、引用発明において、低層かごA及び高層かごCのそれぞれの行き先階床とアクセス階床との固定的な割り当てが、分割運転中で混雑度信号が出力されたときに限定されていたものを、上記慣用事項を考慮しつつ混雑時以外にも行うようにすることで、上記相違点1に係る本願発明のように特定することは、当業者が容易に想到することができたことである。 次に、上記相違点2について検討する。 一般に、「建物の受付などで、乗客の行き先階を受け、該乗客が乗るべきかごを案内すること」は、周知事項(以下、「周知事項」という。例えば、原査定に示された刊行物である特開2004-250193号公報(以下、「引用文献2」という。)の段落【0053】等参照。)であって、引用文献1記載の発明において、上記周知事項を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明のように特定することは、当業者が容易に想到することができたことである。 なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、上記引用文献2は、乗客が行先階を登録した階床とは異なる階床で乗客がエレベータに乗り込むことを開示も示唆もしておらず、引用文献1記載の発明に引用文献2に開示された事項を組み合わせたとしても、本願発明に容易に想到することはできない旨を主張している。 しかし、引用文献1記載の発明において上記周知技術を適用したときには、当然、乗客が乗るべきかごとして異なる階床を基準階とするかごを案内することになるところ、行先階を登録した階床とは異なる階床を案内することに何ら技術的困難性はないから、審判請求人の上記主張は失当である。 そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用文献1記載の発明並びに慣用事項及び周知事項から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明並びに慣用事項及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-04-25 |
結審通知日 | 2014-04-28 |
審決日 | 2014-05-09 |
出願番号 | 特願2007-543675(P2007-543675) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B66B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤村 聖子 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
中村 達之 藤原 直欣 |
発明の名称 | 建物内で人を輸送するための方法 |
代理人 | 特許業務法人川口國際特許事務所 |