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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M |
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管理番号 | 1292353 |
審判番号 | 不服2013-18439 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-25 |
確定日 | 2014-10-03 |
事件の表示 | 特願2008- 43147「携帯通信端末」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日出願公開,特開2009-201039〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成20年2月25日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成23年 1月13日 審査請求 平成24年 6月19日 拒絶理由通知 平成24年 8月23日 意見書 平成24年10月 9日 拒絶理由通知 平成24年12月 3日 意見書・手続補正書 平成25年 2月12日 拒絶理由通知(最後) 平成25年 4月16日 意見書・手続補正書 平成25年 7月 4日 補正却下の決定・拒絶査定 (平成25年 4月16日付け手続補正書でした手続補正を却下する。この出願については平成25年2月12日付け拒絶理由通知に記載した理由により,拒絶すべきものである。) 平成25年 9月25日 審判請求・手続補正書 平成25年11月22日 審尋 平成26年 1月20日 回答書 平成26年 5月21日 拒絶理由通知 平成26年 7月 3日 意見書・手続補正書 第2 本願発明の容易想到性について 1 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成26年7月3日付け手続補正書により補正された,特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式による通信手段と,適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件が検出されたときに起動される無線LANによる通信方式である第2の通信方式による通信手段と,前記特定の条件が検出されたとき前記第2の通信方式による通信手段を起動して該第2の通信方式への接続サーチを行い,前記接続サーチの結果,接続が可能なとき前記第2の通信方式による通信に切り替えるとともに前記第1の通信方式による通信を停止して前記第1の通信方式による通信手段を非起動状態とし,前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を継続する制御を行う通信方式切り替え手段を備え, 前記特定の条件が検出されても,必ずしも前記第1の通信方式から前記第2の通信方式に切り替わらないことを特徴とする携帯通信端末。」 2 引用例及び周知例の記載と引用発明 (1)引用例1の記載と引用発明 ア 審判合議体が平成26年5月21日付けで通知した拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)で引用文献2として引用された,本願出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2006-211572号公報(以下「引用例1」という。)には,図2ないし4とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は,複数種類の無線通信回線網と接続可能な携帯通信端末装置及びプログラムに関する。 【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0006】 本発明の課題は,複数種類の通信手段からユーザの所在に応じて通信手段を選択し,人為的な操作無しに通信手段の切替え動作を実現させ,利便性と安全性の向上を図り得る携帯通信端末装置及びプログラムを実現させることである。」 (イ)「【0026】 [実施の形態1] 以下,本発明の実施の形態1を詳細に説明する。 ・・・ 【0027】 図2に,本実施の形態1における携帯電話機1の内部構成を示す。 図2に示すように,携帯電話機1は,CPU(Central Processing Unit)10,記憶部11,表示部13,操作部14,公衆回線用モジュール15,構内回線用モジュール16,非接触IC部17,マイク18a,スピーカ18b等により構成され,各部はバス19等により電気的に接続されている。 【0028】 CPU10は,記憶部11に記憶されている各種制御プログラムを読み出し,記憶部1 1内に形成されたワークエリアに展開し,携帯電話機1の各部を統括的に制御する。 【0029】 CPU10は,記憶部11との協働によって,本実施の形態1を実現させるために,記憶部11から回線モジュール選択プログラムや必要なデータを読出して記憶部11に展開し,後述する非接触IC部17が保持している入場情報又は退場情報に応じて,公衆回線用モジュール15又は構内回線用モジュール16のいずれか一方を選択する回線モジュール選択処理を行う制御手段であり回線選択手段である。 ・・・ 【0034】 公衆回線用モジュール15は,公衆回線用アンテナ151等を備え,CPU10から入力される指示に基づき,公衆回線用アンテナ151を介して公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行う公衆回線用送受信手段であり,CPU10との協働により通話処理とメール送受信処理が実現される。 【0035】 構内回線用モジュール16は,構内回線用アンテナ161等を備え,CPU10から入力される指示に基づき,構内回線用アンテナ161を介して構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行う構内回線用送受信手段であり,CPU10との協働により通話処理とメール送受信処理が実現される。 【0036】 以下,公衆回線用モジュール15及び構内回線用モジュールを総称して回線モジュールという。 ・・・ 【0039】 非接触IC部17は,入退場ゲート装置30と入場情報,退場情報,各種データ等の送受信を行うための非接触IC用アンテナ171,非接触IC部17内部を制御する専用のCPU172,データやプログラム等を保持する不揮発性の記憶媒体としての記憶部173,リーダ/ライタ(R/W)モジュール174,その他図示しないインターフェース等を備え,入退場ゲート装置30との無線通信を行う。入退場ゲート装置30との無線通信により,入場情報又は退場情報を受信し,記憶部173内に入場情報又は退場情報を保持する非接触IC手段である。」 (ウ)「【0044】 次に,本実施の形態1の動作を説明する。 図3及び4に,本実施の形態1における回線モジュール選択処理を示す。当該処理及びその処理において実行される各処理は,CPU10と記憶部11に記憶されたプログラム及びデータとの協働によるソフトウェア処理により実現される。 ・・・ 【0046】 まず,非接触IC部17から,入退場情報が読み出され(ステップS1),退場状態を示す退場情報であるか否かが判別される(ステップS2)。退場情報でないと判別された場合(即ち,入場状態である場合)(ステップS2;No),ステップS12に進む。 【0047】 退場情報であると判別された場合(即ち,退場状態である場合)(ステップS2;Yes),公衆回線用モジュール15が用いられて接続可能な公衆基地局の検出が実行され(ステップS3),公衆基地局の有無が判別される(ステップS4)。公衆基地局が無いと判別された場合(ステップS4;No),公衆無線通信回線網の範囲外(圏外)となり通信が不可能であるため,ステップS9に進む。 【0048】 公衆基地局が有ると判別された場合(ステップS4;Yes),無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する公衆回線用モジュール15が選択され(ステップS5),公衆回線用モジュール15が選択された旨が表示部13に指示され,メイン表示部131又はサブ表示部132に公衆回線用モジュール15が選択されたことが文字又は記号等による標識又は二次元画像として表示される(ステップS6)。 ・・・ 【0053】 このように,ユーザが退場状態には,公衆回線用モジュールのみ選択可能であり公衆無線通信回線網のみによって発着信処理が行われるため,ユーザが入場状態となる前に構内無線通信回線網による発着信が可能となってしまうという問題を解消することができ,安全性を向上させることができる。」 (エ)「【0054】 次に,ステップS2において,退場情報でないと判別された場合(即ち,入場状態である場合)(ステップS2;No),構内回線用モジュール16が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され(ステップS12),アクセスポイントの有無が判別される(ステップS13)。 【0055】 アクセスポイントが有ると判別された場合(ステップS13;Yes),無線通信回線として構内無線通信回線を使用する構内回線用モジュール16が選択され(ステップS14),構内回線用モジュール16が選択された旨が表示部13に指示され,メイン表示部131又はサブ表示部132に構内回線用モジュール16が選択されたことが文字又は記号等による標識又は二次元画像として表示され(ステップS15),ステップS20に進む。 ・・・ 【0057】 ところで,ユーザが入場状態には,構内無線通信回線網を用いて発着信処理が行われるものとするが,アクセスポイントの設置位置等により入場状態であってもアクセスポイントとの接続可能な範囲外である場合が想定されるため,入場状態であってアクセスポイントとの接続が不可である場合に限り,公衆無線通信回線を通信回線として選択な構成とする。このことにより,接続状態を安定して確保することができ,利便性を向上させることができる。 【0058】 アクセスポイントが無いと判別された場合,即ち,入場状態であるが,構内アクセスポイントとの通信可能な範囲外に携帯電話機1が位置すると判別された場合(ステップS13;No),公衆回線用モジュール15が用いられて公衆基地局の検出が実行され(ステップS16),公衆基地局の有無が判別される(ステップS17)。公衆基地局が無いと判別された場合(ステップS17;No),構内無線通信回線網の範囲外かつ公衆無線通信回線網の範囲外(圏外)となり通信が不可能であるため,ステップS22に進む。 【0059】 公衆基地局が有ると判別された場合(ステップS17;Yes),無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する公衆回線用モジュール15が選択され(ステップS18),公衆回線用モジュール15が選択された旨が表示部13に指示され,メイン表示部131又はサブ表示部132に公衆回線用モジュール15が選択されたことが文字又は記号等による標識又は二次元画像として表示され(ステップS19),ステップS20に進む。」 イ 引用発明 上記アから,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行う公衆回線用送受信手段である公衆回線用モジュール15と, 構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行う構内回線用送受信手段であって,非接触IC部17から読み出される入退場情報で入場状態と判別された場合に選択される構内回線用モジュール16と, 入場状態と判別された場合に,上記構内回線用モジュール16が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無が判別され, アクセスポイントが有ると判別された場合,無線通信回線として構内無線通信回線を使用する構内回線用モジュール16が選択され, アクセスポイントが無いと判別された場合,すなわち,入場状態であってアクセスポイントとの接続が不可である場合,公衆回線用モジュール15が用いられて公衆基地局の検出が実行され,公衆基地局の有無が判別され,公衆基地局が有ると判別されると,無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する公衆回線用モジュール15が選択される処理を実現する,CPU10と記憶部11に記憶されたプログラム及びデータとによる手段を備える携帯通信端末装置。」 (2)引用例2 ア 当審拒絶理由通知で引用文献4として引用された,本願出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2006-14317号公報(以下「引用例2」という。)には,図7及び図8とともに,次の記載がある。 ・「【0100】 図7は,本発明の一実施の形態による多重モード移動端末機の構成を示すブロックダイアグラムである。 【0101】 本発明の多重モード移動端末機は,各種の通信方式を支援する複数の通信モードにおいて動作し,したがって,図7に示すように,各通信モードによって動作する通信方式別送受信回路41?43を備える。 ・・・ 【0106】 ホストプロセッサー20は,位置情報受信回路30から送られてきた位置情報を用いて通信方式データベース10を検索する。すなわち,ホストプロセッサー20は,入力された位置情報に該当する通信方式を,通信方式データベース100から探す。 ・・・ 【0109】 一方,ホストプロセッサー20は,通信方式データベースから検索された通信方式の送受信回路が駆動中でないと,該当の通信方式の送受信回路を駆動させる。その後,以前に駆動していた送受信回路は駆動を停止させる。 【0110】 例えば,現在第1通信方式送受信回路41が駆動中であり,通信方式データベースから検索された通信方式が第2通信方式であれば,ホストプロセッサー20は,いったん第2通信方式送受信回路42を駆動させ,その後,第1通信方式送受信回路41の駆動を停止させる。」 ・「【0117】 図8は,本発明の他の実施形態による多重モード移動端末機の構成を示すブロックダイアグラムである。 【0118】 本発明の多重モード移動端末機は,複数の通信方式を支援する各種の通信モードにおいて動作し,したがって,図8に示すように,各通信モードに基づいて動作する通信方式別送受信回路410?430を備える。 ・・・ 【0125】 ホストプロセッサー200は,位置情報受信回路500から送られてきた位置情報を用いて通信方式データベース100を検索する。すなわち,ホストプロセッサー200は,入力された位置情報に該当する通信方式を,通信方式データベース100から探す。 ・・・ 【0129】 一方,通信方式データベースから検索された通信方式の送受信経路がインアクティブ(inactive)状態であると,ホストプロセッサー200は,該当送受信経路のクライアントプロセッサーに制御信号を提供し,アクティブ状態への切換を命令する。その後,以前にアクティブ状態だった送受信経路のクライアントプロセッサーには,インアクティブ状態への切換を命令する制御信号を送る。 【0130】 例えば,現在第1通信方式送受信経路がアクティブ状態であり,通信方式データベースから検索された通信方式が,第2通信方式であると,ホストプロセッサー200は,第2送受信経路をアクティブ状態に切り換えるための制御信号を,第2クライアントプロセッサー310に送る。こうすると,第2クライアントプロセッサー310は,第2通信方式送受信回路420を駆動させる。同時にホストプロセッサー200は,第1送受信経路をインアクティブ状態に切り換えるための制御信号を,第1クライアントプロセッサー300に送る。こうすると,第1クライアントプロセッサー300は,第1通信方式送受信回路410の駆動を停止させる。」 イ 上記アから,引用例2には,次の技術事項が記載されていると認められる。 「通信方式を切り替える際に,一方の通信方式を起動し,他方の通信方式の起動を停止すること。」 (3)周知例 ア 周知例1 本願出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2007-157045号公報(以下「周知例1」という。)には,次の記載がある。 「【0143】 図26に示す方式Aの携帯電話は,社内では,社内に設置された無線LAN基地局(AP)につながるVoIP電話として利用でき,社外では携帯電話会社の基地局につながる携帯電話として利用できる。社内において,内線で通話する場合には,近くのAPに接続し,IP-PBXを介して,又は直接相手端末に接続されているAPを通して,相手端末と通話を行う。また,IP?PBXを介して,又はインターネットを介して外線で通話することもできる。また,通話中でもインターネットやサーバを利用してデータ通信を行うこともできる。電話網から到来する外線通話の場合には,IP?PBXにダイレクトインダイヤル機能を備えることにより,各携帯電話を呼び出すことができる。また,方式Aは一般の家庭にも適用できる。」 イ 周知例2 本願出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2007-312053号公報(以下「周知例2」という。)には,次の記載がある。 「【0013】 携帯電話装置1には,公衆携帯通信機能のほかに,無線LAN通信機能が備えられており,構内(会社内)に構築されているWLAN(無線LAN)を構成する構内基地局(アクセスポイント)7との間で高速無線通信を行うことによって構内交換機(PBX)8に接続された際には,内線電話として使用可能なVoIP(Voice over IP)対応のインターネット電話として機能するようになっている。なお,携帯電話装置1は,会社においては各社員に1台ずつ貸与されている。」 3 本願発明と引用発明との対比 (1)検討 ア 引用発明における「公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行う」ことは,本願発明における「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式」に相当する。 そうすると,引用発明の「公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行う公衆回線用送受信手段である公衆回線用モジュール15」は,本願発明の「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式による通信手段」に相当する。 イ 引用発明の「構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行う構内回線用送受信手段であって,非接触IC部17から読み出される入退場情報で入場状態と判別された場合に選択される構内回線用モジュール16」と,本願発明の「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件が検出されたときに起動される無線LANによる通信方式である第2の通信方式による通信手段」とは,無線による通信方式による通信手段である点で共通する。 そして,上記「無線による通信方式」を,上記アで検討した,引用発明の「公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行う」こと,及び本願発明の「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式」に対して,「第2の通信方式」と呼ぶことは任意である。 以上から,本願発明と引用発明とは,後述する相違点に係る構成を除き,「無線による通信方式である第2の通信方式による通信手段」を備える点で共通する。 ウ 引用発明における「入場状態と判別された場合に,上記構内回線用モジュール16が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無が判別され」るとは,「入場状態と判別された場合に」,「構内回線用モジュール16」を起動して,「接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無が判別され」ることにより,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うための接続サーチを行うものということができる。 そうすると,引用発明の「入場状態と判別された場合に,上記構内回線用モジュール16が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無が判別され」ることと,本願発明の「前記特定の条件が検出されたとき前記第2の通信方式による通信手段を起動して該第2の通信方式への接続サーチを行」うこととは,後述する相違点に係る構成を除き,「前記第2の通信方式による通信手段を起動して該第2の通信方式への接続サーチを行」うものである点で共通する。 エ 引用発明において,「入場状態と判別された場合に,上記構内回線用モジュール16が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無が判別され」,その結果,「アクセスポイントが有ると判別された場合,無線通信回線として構内無線通信回線を使用する構内回線用モジュール16が選択され」ることは明らかである。 そして,引用発明における「アクセスポイントが有ると判別された場合」が,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うための接続が可能な場合であることは明らかである。 また,引用発明において,「無線通信回線として構内無線通信回線を使用する構内回線用モジュール16が選択され」ることで,「構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行う」ことに切り替えられることも明らかである。 そうすると,引用発明の「アクセスポイントが有ると判別された場合,無線通信回線として構内無線通信回線を使用する構内回線用モジュール16が選択され」ることと,本願発明の「前記接続サーチの結果,接続が可能なとき前記第2の通信方式による通信に切り替えるとともに前記第1の通信方式による通信を停止して前記第1の通信方式による通信手段を非起動状態と」することとは,後述する相違点に係る構成を除き,「前記接続サーチの結果,接続が可能なとき前記第2の通信方式による通信に切り替える」ものである点で共通する。 オ 引用発明における「アクセスポイントが無いと判別された場合,すなわち,入場状態であってアクセスポイントとの接続が不可である場合」が,「入場状態と判別された場合に,上記構内回線用モジュール16が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無が判別され」,その結果,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うための接続が不可能な場合であることは明らかである。 そして,引用発明において上記の場合に,「公衆回線用モジュール15が用いられて公衆基地局の検出が実行され,公衆基地局の有無が判別され,公衆基地局が有ると判別されると,無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する公衆回線用モジュール15が選択される」ことで,引用発明の「公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信」が行われること(本願発明の「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式」に相当。)も明らかである。 そうすると,引用発明の「アクセスポイントが無いと判別された場合,すなわち,入場状態であってアクセスポイントとの接続が不可である場合,公衆回線用モジュール15が用いられて公衆基地局の検出が実行され,公衆基地局の有無が判別され,公衆基地局が有ると判別されると,無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する公衆回線用モジュール15が選択される」ことと,「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を継続する」こととは,後述する相違点に係る構成を除き,「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を」行うものである点で共通する。 カ 引用発明における「CPU10と記憶部11に記憶されたプログラム及びデータとによる手段」により実現される処理が,「公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行う」ことと,「構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行う」ことを切り替える制御を行うものであることは明らかである。 そうすると,引用発明の「処理を実現する,CPU10と記憶部11に記憶されたプログラム及びデータとによる手段」は,後述する相違点に係る構成を除き,本願発明の「制御を行う通信方式切り替え手段」に相当する。 キ 引用発明の「携帯通信端末装置」は,後述する相違点に係る構成を除き,本願発明の「携帯通信端末」に相当する。 (2)一致点及び相違点 上記(1)から,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,それぞれ以下のとおりであると認められる。 ア 一致点 「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式による通信手段と, 無線による通信方式である第2の通信方式による通信手段と, 前記第2の通信方式による通信手段を起動して該第2の通信方式への接続サーチを行い, 前記接続サーチの結果,接続が可能なとき前記第2の通信方式による通信に切り替え, 前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を行う制御を行う通信方式切り替え手段 を備えた携帯通信端末。」 イ 相違点 ・相違点1 「無線による通信方式である第2の通信方式による通信手段」について,本願発明は,「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件が検出されたときに起動される無線LANによる通信方式」である「第2の通信方式による通信手段」と特定されているのに対し,引用発明では上記の特定はされていない点。 ・相違点2 「前記第2の通信方式による通信手段を起動して該第2の通信方式への接続サーチ」について,本願発明は,「前記特定の条件が検出されたとき」に行うものと特定されているのに対し,引用発明では当該特定はされていない点。 ・相違点3 「前記接続サーチの結果,接続が可能なとき前記第2の通信方式による通信に切り替え」るとの処理について,本願発明は,上記の処理とともに「前記第1の通信方式による通信を停止して前記第1の通信方式による通信手段を非起動状態と」することが特定されているのに対し,引用発明では上記の特定はされていない点。 ・相違点4 「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を行う」との処理について,本願発明は,「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を継続する」のに対し,引用発明では通信を「継続する」との特定はされていない点。 ・相違点5 本願発明では,「前記特定の条件が検出されても,必ずしも前記第1の通信方式から前記第2の通信方式に切り替わらない」と特定されているのに対し,引用発明では上記の特定はされていない点。 4 相違点についての検討 (1)相違点1について 上記2(1)のとおり,引用発明の「構内回線用モジュール16」は,「非接触IC部17」から読み出される入退場情報で入場状態と判別された場合に選択されるものであるところ,上記2(1)ア(イ)(段落【0027】及び【0039】)によれば,引用発明において,「非接触IC部17」は携帯通信端末装置に設けられているから,上記「非接触IC部17」から読み出される「入退場情報」は,携帯通信端末装置内の情報と認められ,また,上記「入退場情報」から判別される「入場状態」は,携帯通信端末装置内の情報から判断された特定の条件と認められる。 そして,上記2(1)ア(ウ)及び(エ)(段落【0053】及び【0057】)によれば,引用発明では,ユーザが「退場状態」の時には公衆回線用モジュールのみ選択可能で,「入場状態」の時には構内無線通信回線網を用いて発着信処理が行われるものとするから,引用発明において,上記「入退場情報」から判別される「入場状態」が,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うのに適した環境が得られることを予測した条件であることは,引用例1の記載から明らかである。 そうすると,引用例1に特定はされていなくても,引用発明における「入場状態」が,「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件」であることは,引用例1の記載から,当業者には自明な事項である。 さらに,引用発明において,上記「入退場情報」で「入場状態」と判別された場合に「構内回線用モジュール16」を選択する際に,「構内回線用モジュール16」が起動されるようにすることは,当業者が普通に行い得るものであり,また,上記「構内回線用モジュール16」により,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行う際に,無線LANによる通信方式を採用することも,周知例1及び2にみられるように,本願出願前,当該技術分野では普通に行い得るものである。 以上から,引用発明において,本願発明のように「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件が検出されたときに起動される無線LANによる通信方式である第2の通信方式による通信手段」を備えることは,当業者が適宜なし得たものであり,相違点1は格別のものとはいえない。 (2)相違点2について 上記(1)で検討したとおり,引用発明における「入場状態」が,「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件」であることは,引用例1の記載から自明な事項である。 そうすると,引用発明において,「入場状態」と判別された場合,すなわち,「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件」が検出されたとき,「構内回線用モジュール16」が用いられて接続可能なアクセスポイントの検出が実行され,アクセスポイントの有無を判別していることも,引用例1の記載から自明な事項である。 以上から,相違点2は格別のものとはいえない。 (3)相違点3について 引用発明において,「入場状態」と判別され,アクセスポイントが有ると判別された場合,無線通信回線として構内無線通信回線を使用する「構内回線用モジュール16」が選択されることで,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うことに切り替えられることは明らかである。 また,上記2(1)ア(ウ)(段落【0053】)によれば,引用発明では,ユーザが「退場状態」の時には公衆回線用モジュールのみ選択可能であるから,引用発明において,「退場状態」で,公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行うことのみ可能なユーザが入場し,入退場情報から「入場状態」と判別され,上記の切り替えが行われる場合があることも明らかである。 そして,上記2(2)より,通信方式を切り替える際に,一方の通信方式を起動し,他方の通信方式の起動を停止することは,引用例2にみられるように,当業者が普通に行い得るものである。 そうすると,引用発明において,アクセスポイントが有ると判別された場合,無線通信回線として構内無線通信回線を使用する「構内回線用モジュール16」が選択され,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うことに切り替えるとともに,公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行うこと(本願発明における「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式」に相当。)による通信を停止して,公衆回線用送受信手段である「公衆回線用モジュール15」(本願発明の「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式による通信手段」に相当。)を非起動状態とすること(相違点3に係る構成とすること)は,当業者が普通に行い得るものというべきである。 以上から,相違点3は格別のものとはいえない。 (4)相違点4について 引用発明は,「入場状態」であってアクセスポイントとの接続が不可である場合,「公衆回線用モジュール15」が用いられて公衆基地局の検出が実行され,公衆基地局の有無が判別され,公衆基地局が有ると判別されると,無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する「公衆回線用モジュール15」が選択される。 そして,上記(3)で検討したとおり,引用発明において,「退場状態」で,公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行うことのみ可能なユーザが入場し,入退場情報から「入場状態」と判別される場合があることは明らかである。 そうすると,引用発明において,「入場状態」で,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うことが不可能である場合,公衆基地局が有ると判別されると,無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する「公衆回線用モジュール15」が選択されるから,上記の場合でも,ユーザは,公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行うこと(本願発明における「携帯電話網を用いる移動体通信方式である第1の通信方式」に相当。)による通信を継続できると認められる。 以上から,引用発明も「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を継続する」との構成を備えていると認められるので,相違点4は実質的な相違点とはいえない。 また,仮にそうでないとしても,引用発明において,相違点4に係る構成とすることは,当業者が当然に行い得るものというべきである。 (5)相違点5について 上記(1)で検討したとおり,引用発明における「入場状態」が,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うのに適した環境が得られることを予測した条件であり,「適する通信環境が得られることを予測して設定され自端末内の情報から判断される特定の条件」であることは,引用例1の記載から自明な事項である。 そして,引用発明は,「入場状態」であってアクセスポイントとの接続が不可である場合,「公衆回線用モジュール15」が用いられて公衆基地局の検出が実行され,公衆基地局の有無が判別され,公衆基地局が有ると判別されると,無線通信回線として公衆無線通信回線を使用する「公衆回線用モジュール15」が選択される。 そうすると,引用発明において,「特定の条件」である「入場状態」が検出されても,必ずしも,構内無線通信回線網上の基地局(アクセスポイント)との間で無線通信を行うことに切り替わらず,公衆無線通信回線網上の基地局(公衆基地局)との間で無線通信を行うことを継続する場合があることは明らかである。 以上から,引用発明も「前記特定の条件が検出されても,必ずしも前記第1の通信方式から前記第2の通信方式に切り替わらない」との構成を備えていると認められるので,相違点5は実質的な相違点とはいえない。 また,仮にそうでないとしても,引用発明において,相違点5に係る構成とすることは,当業者が当然に行い得るものというべきである。 5 本願発明の作用効果について 本願明細書の記載によれば,携帯電話網を使った通信と無線LANを使った通信等の,複数の通信モードによる通信が可能な携帯通信端末において,これら複数の通信モードから所定の通信モードを自動的に選択可能にする従来の技術では,選択された所定の無線通信システムへの接続に失敗した場合における処理動作については規定されておらず,その場合にはユーザによる最適通信モードへの再設定操作が必要になるとの問題点があった(段落【0002】ないし【0007】)ので,本願発明は,上記の課題を解決することが可能な,無線LAN機能付き携帯通信端末を提供することを目的とした(段落【0008】)。 そして,本願明細書の記載によれば,本願発明は,「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を継続する」制御を行う「通信方式切り替え手段」を備え,通信モードの切り替えができなかった場合には,切り替え前の通信モードを継続して使用するように制御しているので,切り替え前の通信モードで通信が可能であるにも拘らず通信が不可能になる状況を防止することができる(段落【0011】)との作用効果を奏する。 しかし,上記4(4)で検討したとおり,本願発明における「前記第2の通信方式への接続が不可能なとき前記第1の通信方式による通信を継続する」との構成は,引用発明も備えていると認められ,仮にそうでないとしても,引用発明において,当業者が当然に行い得るものである。 そうすると,本願発明における上記の作用効果は,引用発明も奏するものと認められ,格別のものとはいえない。 6 小括 したがって,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用例1記載の発明(引用発明),及び引用例2に記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。 第3 結言 以上検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-07-30 |
結審通知日 | 2014-08-06 |
審決日 | 2014-08-20 |
出願番号 | 特願2008-43147(P2008-43147) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 角張 亜希子 |
特許庁審判長 |
田中 庸介 |
特許庁審判官 |
河口 雅英 山澤 宏 |
発明の名称 | 携帯通信端末 |
代理人 | 佐々木 敬 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 福田 修一 |