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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1292358
審判番号 不服2012-25147  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-19 
確定日 2014-10-01 
事件の表示 特願2008-265078「免震エキスパンションジョイント床」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月30日出願公開、特開2010- 95850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年10月14日の出願であって、平成24年9月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月19日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされた。
その後、平成25年6月27日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年8月5日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成24年12月19日付け手続補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成24年12月19日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成24年12月19日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、
「免震建造物と非免震建造物との躯体間に設けられたクリアランスを塞ぐための床用エキスパンションジョイントにおいて、
該免震構造物と非免震構造物との躯体上面を凹設してクリアランス上に架設される床部材は金属性の固定枠材、先端枠材、並びに側面枠材を外周部に有する工場生産のプレキャストコンクリート板からなり、
該プレキャストコンクリート板の外周部に位置する固定枠材には複数のウイング用丁番が取付けられ、
該それぞれのウイング用丁番は床仕上げ用板材を上部に保持すると共に目地用ゴムパッキンを介して前記固定材枠と床仕上げ用板材間の隙間を小さくなしてハイヒール等靴のカカトが嵌ったり小石やごみが目地に入り込む余地をなくして免震建物側の躯体面に設けられた固定アングル枠に固着可能であり、
また、前記プレキャストコンクリート板の外周部に位置する先端枠材の先端部には安全プレートが複数の丁番で回動可能に固着され、
該安全プレートにてエキスパンションジョイントの通常時における相互移動溝をカバー可能となし、
前記構成の工場生産のプレキャストコンクリート板からなる床部材を免震建物と非免震建物との躯体間に設けられたクリアランス間に架設してエキスパンションジョイントの床を構成したこと、
を特徴とする免震エキスパンションジョイント床」とあったものを、
「免震建造物と非免震建造物との躯体間に設けられたクリアランスを防ぐための床用エキスパンションジョイントにおいて、
該免震構造物と非免震構造物との躯体上面を凹設してクリアランス上に架設される床部材は金属製の固定枠材、先端枠材、並びに側面枠材を外周部に有する工場生産のプレキャストコンクリート板からなり、
該プレキャストコンクリート板の外周部に位置する固定枠材には複数のウイング用丁番が取付けられ前記固定枠材をウイング用丁番の軸を中心に回動可能であり、
該それぞれのウイング用丁番は床仕上げ用板材を上部に保持すると共に、
該床仕上げ用板材と目地用ゴムパッキンを介して前記回動可能な固定枠材と床仕上げ用板材間の隙間を小さくなしてハイヒール等靴のカカトが嵌ったり小石やごみが目地に入り込む余地をなくし免震建物側の躯体面に設けられた固定アングル枠に固着可能であり、
また、前記プレキャストコンクリート板の外周部に位置する先端枠材の先端部には安全プレートが複数の丁番で回動可能に固定され、
該安全プレートにてエキスパンションジョイントの通常時における相互移動溝をカバー可能となし、
前記構成の工場生産のプレキャストコンクリート板からなる床部材を免震建物と非免震建物との躯体間に設けられたクリアランス間に架設してエキスパンションジョイントの床を構成したこと、
を特徴とする免震エキスパンションジョイント床。」と補正するものである。
(なお、下線は当審で付与した。以下、同様。)

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に「金属性の固定枠」とあった誤記を「金属製の補正枠」とする補正、さらに「目地に入り込む余地をなくして」を「目地に入り込む余地をなくし」とし、「上部に保持すると共に」を「上部に保持すると共に、」として、明りょうでない記載を釈明する補正を含むものである。

(3)また上記(1)の補正は、「回動可能に固着され」を「回動可能に固定され」として、明りょうでない記載を釈明する補正を含むものである。

(4)さらに上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「固定枠材」に関し、「前記固定枠材をウイング用丁番の軸を中心に回動可能であり」と限定し、さらに「固定枠材と床仕上げ用板材間の隙間を小さくな」すに際し、「床仕上げ用板材と目地用ゴムパッキンを介して」に限定する補正を含むものである。

2 補正の目的
本件補正後の請求項1に係る本件補正は、まず、上記1(2)及び(3)のとおり、特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正もしくは第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また上記1(4)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

なお、本件補正後の「クリアランスを防ぐ」は、明細書等の記載を勘案すると、「クリアランスを塞ぐ」の誤記であることは明白であるので、「クリアランスを防ぐ」との補正が成されていないものとして進める。

3.引用例
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2007-132157号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。
(1a)「【0004】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、地震等で上下方向に大きく揺れ動いても、目地プレートが取付け部より外れるのを確実に防止することができるとともに、目地部が狭くなり目地プレートの先端部が上方へ回動するのをスムーズに行なうことができる床用目地装置を提供することを目的としている。」

(1b)「【0015】
図1ないし図8に示す本発明を実施するための最良の第1の形態において、1は目地部2を介して設けられた、車両の走行が可能な床躯体3、3間を覆う本発明の床用目地装置で、この床用目地装置1は一方の床躯体3の目地部側に形成された目地プレート支持凹部4と、この目地プレート支持凹部4と対応する部位の他方の床躯体3の目地部側に形成された反目地部側が傾斜面5に形成された目地プレートスライド支持凹部6と、前記目地プレート支持凹部4に後端部が支持され、前記目地プレートスライド支持凹部6に先端部がスライド移動可能に支持された目地プレート7と、この目地プレート7の後端部の両側部寄りの部位に後端部が開口8、8するように形成された一対のコ字状の支持部9、9と、この一対の支持部9、9の両側壁9a、9aに枢支ピン10、10で回動可能に枢支された、上部にアイボルトが螺合できるねじ部11を有するボルト挿入孔12が形成された一対の支持部材13、13と、前記目地プレート支持凹部4に複数本のビス14等で固定されたクランク状の支持金具15と、この支持金具15の前記一対の支持部材13、13のボルト挿入孔12、12と対応する部位に固定された一対のナット16、16と、この一対のナット16、16と前記一対の支持部材13、13のボルト挿入孔12、12を通過して螺合する一対のボルト17、17とで構成されている。
【0016】
前記目地プレート7は図3に示すように、長方形状の浅皿状で、後端部の両側部にコ字状の一対の支持部9、9が形成された金属材製の目地プレート本体18と、この目地プレート本体18内に充填されたコンクリートやモルタル19と、このコンクリートやモルタル19の上部に配置されたタイルやレンガ等の化粧床材20と、前記目地プレート本体18の先端部にヒンジ部材21を介して取付けられたカバープレート22とで構成されている。
【0017】
前記一対の支持部材13、13は図4に示すように、上面が前記支持部9の内径寸法よりもわずかに小さい形状に形成され、先端部側の側面が傾斜面23となる支持部材本体24と、この支持部材本体24の両側面より外方へ突出するように螺合固定されるボルト状の枢支ピン10、10と、前記支持部材本体24のほぼ中央部に上下方向に形成されたボルト挿入孔12と、このボルト挿入孔12の上部に該ボルト挿入孔12よりも大径の皿状の凹部25形状に形成し、その内壁面にアイボルトが螺合されるように形成されたねじ部11とで構成されている。
【0018】
上記構成の床用目地装置1は、地震等によって目地部2が広くなるように揺れ動くと、図6に示すように目地プレート7の先端部が目地プレートスライド支持凹部6内をスライド移動して、その揺れ動きを吸収する。
目地部2が狭くなるように揺れ動くと、図7に示すように目地プレート7の先端部が目地プレートスライド支持凹部6の傾斜面5に沿って上方へ移動するが、目地プレート7の後端部は回動可能な一対の支持部材13、13を介して、ボルト17、17で目地プレート支持凹部4に固定されたナット16、16に螺合されているため、一対の支持部材13、13が回動して、目地プレート7の回動動作をスムーズにさせることができる。
【0019】
また、目地プレート7が上下方向に大きく揺れ動いても、一対の支持部材13、13を介してボルト17、17で目地プレート支持凹部4に固定された支持金具15に固定されたナット16、16に螺合されているため、目地プレート支持凹部4から目地プレート7の後端部が外れたりすることなく、安全に使用することができる。
目地プレート7を移動させる場合には、図8に示すように、一対の支持部材13、13のねじ部11、11にアイボルト26、26を螺合し、該アイボルト26、26に吊り上げワイヤー27を取付けてクレーン28等で吊り上げ、トラックや使用場所へ移動させることができる。」

(1c)目地部が広くなった動作説明図である【図6】、及び目地部が狭くなった動作説明図である【図7】と比較すると、【図2】は、目地部が広くも狭くもなっていないので、通常時の説明図と言え、そして【図2】をみると、安全プレート22は、目地プレート支持凹部6の傾斜面5上に位置し、その一端は床躯体3上に載っていることが明らかである。
また、同じく【図2】をみると、ヒンジ部材21は丁番であることが明らかである。

(1d)これら記載事項(1a)ないし(1c)から、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「目地部2を介して設けられた、床躯体3、3間を覆う床用目地装置であって、
この床用目地装置1は一方の床躯体3の目地部側に形成された目地プレート支持凹部4と、この目地プレート支持凹部4と対応する部位の他方の床躯体3の目地部側に形成された反目地部側が傾斜面5に形成された目地プレートスライド支持凹部6と、前記目地プレート支持凹部4に後端部が支持され、前記目地プレートスライド支持凹部6に先端部がスライド移動可能に支持された目地プレート7と、この目地プレート7の後端部の両側部寄りの部位に後端部が開口8、8するように形成された一対のコ字状の支持部9、9と、この一対の支持部9、9の両側壁9a、9aに枢支ピン10、10で回動可能に枢支された、上部にアイボルトが螺合できるねじ部11を有するボルト挿入孔12が形成された一対の支持部材13、13と、前記目地プレート支持凹部4に複数本のビス14等で固定されたクランク状の支持金具15と、この支持金具15の前記一対の支持部材13、13のボルト挿入孔12、12と対応する部位に固定された一対のナット16、16と、この一対のナット16、16と前記一対の支持部材13、13のボルト挿入孔12、12を通過して螺合する一対のボルト17、17とで構成されており、
前記目地プレート7は、長方形状の浅皿状で、後端部の両側部にコ字状の一対の支持部9、9が形成された金属材製の目地プレート本体18と、この目地プレート本体18内に充填されたコンクリートやモルタル19と、このコンクリートやモルタル19の上部に配置されたタイルやレンガ等の化粧床材20と、前記目地プレート本体18の先端部に丁番であるヒンジ部材21を介して取付けられたカバープレート22とで構成されており、
床用目地装置1は、地震等によって目地部2が広くなるように揺れ動くと、目地プレート7の先端部が目地プレートスライド支持凹部6内をスライド移動して、その揺れ動きを吸収し、目地部2が狭くなるように揺れ動くと、目地プレート7の先端部が目地プレートスライド支持凹部6の傾斜面5に沿って上方へ移動するが、目地プレート7の後端部は回動可能な一対の支持部材13、13を介して、ボルト17、17で目地プレート支持凹部4に固定されたナット16、16に螺合されているため、一対の支持部材13、13が回動して、目地プレート7の回動動作をスムーズにさせることができるものであって、通常時において、安全プレート22は、目地プレート支持凹部6の傾斜面5上に位置し、その一端は床躯体3上に載っており、
目地プレート7を移動させる場合には、一対の支持部材13、13のねじ部11、11にアイボルト26、26を螺合し、該アイボルト26、26に吊り上げワイヤー27を取付けてクレーン28等で吊り上げ、トラックや使用場所へ移動させることができるものであって、
地震等で上下方向に大きく揺れ動いても、目地プレートが取付け部より外れるのを確実に防止することができるとともに、目地部が狭くなり目地プレートの先端部が上方へ回動するのをスムーズに行なうことができる床用目地装置1。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2005-48491号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に、次の記載がある。
(2a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構成を有するクリアランスの大きいエキスパンション・ジョイントに関するもので、該エキスパンション・ジョイントは地震等の大きな一時変形に追従可動でき、また、本発明のエキスパンション・ジョイントは、化粧縁材と化粧カバープレートの召し合わせ部分に地震の後や経年変化による少量のクリアランスの変動に対応できる可動調整機構を有するものである。
【背景技術】
【0002】
建築用エキスパンション・ジョイントは、建物にかかる外力等の変動要因から発生する応力の伝達を分断するために設けられた分割ラインのことであり、隣接して建てられた左右の建物同士の激突を防ぐために設けられたクリアランスC(間隙)を建物の揺れ動きに追従可動する化粧カバーで塞ぎ、左右の建物を接続、一体化して使用出来るようにするジョイント部材のことである。」

(2b)「【0006】
而して、近年は建物の大型化や高層化、そして免震構造の建物が多く建てられるようになってきたことにより、建物間のクリアランスCが、従来の50mmから300mm程度であったものが、800mmから1600mmと大きくなり、地震等の一時変形では、その可動量も±800mmにも追従出来る免震建物用エキスパンション・ジョイントが多く用いられる様になってきた。」

(2c)「【0015】
斯くして、本発明は、簡単な構成でクリアランスCの大きい免震用等のエキスパンション・ジョイントにも使用できる、エキスパンション・ジョイントの召し合わせ部可動調整機構を提供することができた。」

(2d)「【0018】
図1に於いて、互いに対向する建物A、B間の床面1、2は、クリアランスCを有しており、該クリアランスCを挟んで化粧縁材3と4が対向して設けられており、該化粧縁材3と4の上部には化粧カバープレート5が、装架され、エキスパンション・ジョイント6を構成している。前記化粧縁材3の断面形状部は斜め形状部7を有しており、該斜め形状部7には、化粧カバープレート5の斜め形状部8が、若干の間隙を有して対向しているか(図1の状態)、当接された状態で担持されている。
【0019】
化粧カバープレート5はスチール、ステンレス等で型枠9を形成し、モルタルを介して石材やタイル等からなる床材10を床化粧材として敷き詰めている。
【0020】
而して、化粧カバープレート5の他端は、本実施例において、前記化粧縁材4に固着されたスプリング丁番11を介して回動可能に保持されており、該スプリング丁番11により、前記化粧カバープレート5の先端部側は、化粧縁材3の平坦縁部12に常に押圧された状態で、床用エキスパンション・ジョイント6が形成されている。
【0021】
尚、前記スプリング丁番11は、化粧カバープレート5の長手方向に適宜にピッチを設定して複数個設けられているもので、この構成を採用することにより、本発明のエキスパンション・ジョイント6は、床用のみならず外壁や天井等にも利用することが可能である。 また、13は、塩ビシートからなる止水補助シートを示しており、該止水補助シート13の下部には必要に応じ耐火帯を設けることも可能である。
【0022】
斯くして、図1は、予め設定されたクリアランスCが地震等の一時的な変動で、クリアランスC1に収縮した場合、化粧カバープレート5の斜め形状部8が、化粧縁部3の斜め形状部7に当接した後、該斜め形状部7に沿って摺動して押し上げられ、化粧カバープレート5自体が想像線5’にて示す如く可動するので、化粧カバープレート5は片側が自由になり、大きな変動に対して追従可動でき、化粧カバープレート5自体や建物に損傷を与えない。」

(2e)図1,2をみると、スプリング丁番11は、その一方が化粧縁材4を上部に保持して建物Bの躯体面に設けられたチャンネル材に固着され、他方が化粧カバープレート5の型枠9に取り付けられていることが明らかである。

(2f)上記(2a)ないし(2e)からみて、刊行物2には以下の技術事項が記載されているものと認められる。
(技術事項1)「近年は建物の大型化や高層化、そして免震構造の建物が多く建てられるようになってきたことにより、建物間のクリアランスCが、従来の50mmから300mm程度であったものが、800mmから1600mmと大きくなり、地震等の一時変形では、その可動量も±800mmにも追従出来る免震建物用エキスパンション・ジョイントが多く用いられる様になってきたこと。」

(技術事項2)「互いに対向する建物A、B間の床面1、2のクリアランスCを挟んで対向して設けられた化粧縁材3と4の上部に装架された、エキスパンション・ジョイント6を構成している化粧カバープレート5であって、 化粧カバープレート5はスプリング丁番11を介して回動可能に保持され、スプリング丁番11は、その一方が化粧縁材4を上部に保持して建物Bの躯体面に設けられたチャンネル材に固着され、他方が化粧カバープレート5の型枠9に取り付けられている、免震用床用エキスパンション・ジョイント6」

4.対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
(1)刊行物1記載の発明の「床躯体3」,「目地部2」,「目地部2を介して設けられた、床躯体3間を覆う」,「目地プレート7」,「長方形の浅皿状で、後端部の両側部にコ字状の一対の支持部9、9が形成された金属製の目地プレート本体18」,「カバープレート22」は、それぞれ本願補正発明の「躯体」,「クリアランス」,「クリアランスを塞ぐ」,「床部材」,「金属製の固定枠材、先端枠材、並びに側面枠材」,「安全プレート」に相当する。
刊行物1記載の発明の「支持部材13」と「枢支ピン10」を合わせたものと、本願補正発明の「ウイング用丁番」とは、「回動手段」で共通し、刊行物1記載の発明の「枢支ピン10」と、本願補正発明の「ウイング用丁番の軸」とは、「回動手段の軸」で共通している。

(2)刊行物1記載の発明の「床用エキスパンションジョイント1」は、「目地部2を介して設けられた、床躯体3、3間を覆う」ものであって、「地震等で上下方向に大きく揺れ動いても、目地プレートが取付け部より外れるのを確実に防止することができるとともに、目地部が狭くなり目地プレートの先端部が上方へ回動するのをスムーズに行なうことができる」ものでもあるので、本願補正発明の「躯体間に設けられたクリアランスを塞ぐための床用エキスパンションジョイント」に相当する。

(3)刊行物1記載の発明の「一方の床躯体3の目地部側に」「目地プレート支持凹部4」が形成されたこと、及び「目地プレート支持凹部4と対応する部位の他方の床躯体3の目地部側に」「目地プレートスライド支持凹部6」を形成することは、本願補正発明の「躯体上面を凹設して」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の目地プレート7に関し、「長方形状の浅皿状で、後端部の両側部にコ字状の一対の支持部9、9が形成された金属材製の」「目地プレート本体18内に」「コンクリートやモルタル19」を「充填」して構成されていることから、「目地プレート本体18」と「コンクリートやモルタル19」との位置関係を逆にして換言すれば、「充填」された「コンクリートやモルタル19」の外周部には、「目地プレート本体18」を有しているといえる。
さらに「目地プレート7を移動させる場合には、一対の支持部材13、13のねじ部11、11にアイボルト26、26を螺合し、該アイボルト26、26に吊り上げワイヤー27を取付けてクレーン28等で吊り上げ、トラックや使用場所へ移動させることができる」ものであるので、刊行物1発明の「目地プレート7」は、現場で作成されたものではなく、事前に工場で生産されたプレキャストコンクリート板であることは自明である。
とすれば、刊行物1記載の発明の「目地プレート7」と、本願補正発明の「床部材」とは、「躯体上面を凹設してクリアランス上に架設される床部材は金属製の固定枠材、先端枠材、並びに側面枠材を外周部に有する工場生産のプレキャストコンクリート板」で共通している。

(4)刊行物1記載の発明の「金属材製の目地プレート本体18」の「後端部の両側部に」形成された「コ字状の一対の支持部9、9」の「両側壁9a、9aに枢支ピン10、10で回動可能に枢支された、上部にアイボルトが螺合できるねじ部11を有するボルト挿入孔12が形成された一対の支持部材13、13」があることと、本願補正発明の「プレキャストコンクリート板の外周部に位置する固定枠材には複数のウイング用丁番が取付けられ固定枠材をウイング用丁番の軸を中心に回動可能であ」ることとは、「プレキャストコンクリート板の外周部に位置する固定枠材には複数の回動手段が取付けられ固定枠材を回動手段の軸を中心に回動可能である」点で共通している。

(5)刊行物1記載の発明の「床躯体3の目地部側に形成された」「目地プレート支持凹部4に複数本のビス14等で固定されたクランク状の支持金具15」と、本願補正発明の「躯体面に設けられた固定アングル材」とは、「躯体面に設けられた固定材」で共通している。

(6)刊行物1記載の発明の「目地プレート本体18の先端部に」「カバープレート22」を「丁番であるヒンジ部材21を介して取付け」たことと、本願補正発明の「プレキャストコンクリート板の外周部に位置する先端枠材の先端部には安全プレートが複数の丁番で回動可能に固定され」ることとは、「プレキャストコンクリート板の外周部に位置する先端枠材の先端部には安全プレートが丁番で回動可能に固定され」る点で共通している。
刊行物1記載の発明の「通常時において、安全プレート22は、目地プレート支持凹部4の傾斜面5上に位置し、その一端は床躯体3上に載って」いることは、本願補正発明の「安全プレートにてエキスパンションジョイントの通常時における相互移動溝をカバー可能となし」たことに相当する。

(7)上記(2),(3)からみて、刊行物1記載の発明の「床用目地装置1」と、本願補正発明の「工場生産のプレキャストコンクリート板からなる床部材を免震建造物と非免震建造物との躯体間に設けられたクリアランス間に架設してエキスパンションジョイントの床を構成した、免震エキスパンションジョイント床」とは、「前記構成の工場生産のプレキャストコンクリート板からなる床部材を躯体間に設けられたクリアランス間に架設してエキスパンションジョイントの床を構成した、エキスパンションジョイント床」で共通している。


(8)上記(1)ないし(7)からみて、本願補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致している。
「躯体間に設けられたクリアランスを塞ぐための床用エキスパンションジョイントにおいて、
躯体上面を凹設してクリアランス上に架設される床部材は金属製の固定枠材、先端枠材、並びに側面枠材を外周部に有する工場生産のプレキャストコンクリート板からなり、
該プレキャストコンクリート板の外周部に位置する固定枠材には複数の回動手段が取り付けられ固定枠材を回動手段の軸を中心に回動可能で有り、
また、前記プレキャストコンクリート板の外周部に位置する先端枠材の先端部には安全プレートが丁番で回動可能に固定され、
該安全プレートにてエキスパンションジョイントの通常時における相互移動溝をカバー可能となし、
前記構成の工場生産のプレキャストコンクリート板からなる床部材を躯体間に設けられたクリアランス間に架設してエキスパンションジョイントの床を構成した、
エキスパンションジョイント床。」

そして、以下の点で相違している。
(相違点1)躯体が、本願補正発明では、免震建造物の躯体及び非免震建造物の躯体であるのに対し、刊行物1記載の発明では、どの様な躯体であるのか不明である点。
(相違点2)本願補正発明は、回動手段がウイング用丁番であって、ウイング用丁番は床仕上げ用板材を上部に保持すると共に、該床仕上げ用板材と目地用ゴムパッキンを介して回動可能な固定枠材と床仕上げ用板材間の隙間を小さくなしてハイヒール等靴のカカトが嵌ったり小石やごみが目地に入り込む余地をなくして免震建物側の躯体面に設けられた固定アングル枠に固着可能であるのに対し、刊行物1記載の発明は、回動手段が支持部材13と水死ピンであって、本願補正発明のウイング丁番の様なものか不明な点。
(相違点3)丁番が、本願補正発明は複数あるのに対し、刊行物1記載の発明では、複数かどうか不明な点。

5.判断
上記、相違点について検討する。
(1)相違点1
上記3.(2)(2f)に記載したとおり、刊行物2には、上記技術事項1が記載されている。
技術事項1の様に、エキスパンション・ジョイントとして、近年、免震構造の建物に用いられる免震建物用エキスパンション・ジョイントが多く用いられていることからすると、刊行物1記載の発明の床用目地装置を免震建造物に用いることは、当業者ならば容易に気付くことであり、その際に一方を免震建造物に、他方を非免震建造物とすることも、必要に応じて適宜選択することである。
したがって、刊行物1記載の発明の床躯体の一方を免震建造物とし、同床躯体のうち他方を非免震建造物の躯体とすることは、当業者ならば容易に成し得た程度のことである。

(2)相違点2
上記3.(2)(2f)に記載したとおり、刊行物2には、上記技術事項2が記載されている。
ここで、技術事項2をみると、まず技術事項2の「スプリング丁番11」,「化粧縁材4」は、本願補正発明の「ウイング用丁番」,「床仕上げ用板材」に相当する。
技術事項2の「スプリング丁番11は、その一方が化粧縁材4を上部に保持して」は、本願補正発明の「ウイング用丁番は床仕上げ用板材を上部に保持する」ことに相当する。
技術事項2の「建物Bの躯体面に設けられたチャンネル材」は、「免震用床用エキスパンションジョイント」の構成の一部であるから、本願補正発明の「免震建物側の躯体面に設けられた固定アングル枠」とは、「免震建物側の躯体面に設けられた固定枠材」で共通している。
そうすると、技術事項2は、本願補正発明の用語で言えば、「ウイング用丁番は床仕上げ用板材を上部に保持すると共に、免震建物側の躯体面に設けられた固定枠材に固着可能であること」といえる。
また、エキスパンションジョイントと躯体との間に、シール材やパッキン等を設けることは、例えば特開2003-129576号公報(【図3】(a)のフレーム材14の右側の部材参照。),実願平4-42652号(実開平6-35411号)のCD-ROM(【図4】及び段落【0017】のシール剤31参照。),特開平10-205009号公報(【図2】の床fの右側の部材参照。)等に記載されているように周知な技術であって、シール材やパッキン等に隙間を塞ぐ機能があることは当業者にとって自明な事項である。そして、床材周辺の隙間を塞ぐことにより、ハイヒール等靴のカカトが嵌ったり小石やごみが入り込むことを防ぐことも、当業者にとって同様に自明なことである。
そうすると、刊行物1記載の発明のウイング丁番付近の構成を技術事項2のウイング丁番や仕上げ用板材に替え、その際に、仕上げ用板材と固定枠材との隙間に、従来周知のシール材やパッキンを介在させて、ハイヒール等靴のカカトが嵌ったり小石やごみが入り込むことを防ぐものとすることは、当業者が容易に成し得たことと認められる。
なお、枠材の形状として、アングル材やチャンネル材は一般的に用いられており、どのどちらを用いるかは当業者が適宜選択し得ることであるから、技術事項2のチャンネル材を固定アングル枠とすることは、設計上の微差に過ぎない。

(3)相違点3
開閉体に対して丁番を複数設けることは、ごく当たり前のことであるので、刊行物1記載の発明の丁番を複数設けることは、単なる設計上の微差に過ぎない。

(4)小括
本願補正発明全体の効果は、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載された技術事項1及び2、及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載された技術事項1及び2、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、当業者が刊行物1記載の発明、刊行物2に記載された技術事項1及び2、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成23年7月5日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正において、まず、上記第2〔理由〕1(1)の補正事項のうち、同(2)で挙げた補正事項は、補正前後でその意味は同じである。
次に、同(3)で挙げた補正事項は、「固着」を「固定」と補正するものであって、補正前後で意味は変わるものであるが、上記第2〔理由〕4(6)に記載した相当関係において、何らか相違するものではない。
そして同(4)で挙げた補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定する補正であるので、本願補正発明は、実質的に本願発明の発明特定事項を限定したものである。
そうすると、実質的に本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載された技術事項1及び2、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載された技術事項1及び2、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載された技術事項1及び2、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本出願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-05 
結審通知日 2014-08-06 
審決日 2014-08-20 
出願番号 特願2008-265078(P2008-265078)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04B)
P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
竹村 真一郎
発明の名称 免震エキスパンションジョイント床  
代理人 畠山 隆  

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