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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K |
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管理番号 | 1292363 |
審判番号 | 不服2013-9094 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-05-17 |
確定日 | 2014-10-01 |
事件の表示 | 特願2009-187642「無線ICタグ、該無線ICタグを用いたコンクリート構造物品質管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月 3日出願公開、特開2011- 22982〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年8月13日(優先権主張 平成21年6月18日)の出願であって、平成24年8月8日付けで明細書及び特許請求の範囲についての補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成25年2月8日付け(送達:同年同月19日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年5月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 その後、当審より平成26年1月29日付け審尋書により審尋をしたところ、平成26年4月4日付けで回答書が提出された。 第2 補正却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を次のとおり補正するものである。 (本件補正前) 「 【請求項1】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する充電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記Phセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする無線ICタグ。 【請求項2】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する発電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記Phセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする無線ICタグ。 【請求項3】 無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、UHF帯域の電波を受信するUHF帯通信アンテナチップとを連結させて基板に実装し、UHF帯を超える長い周波数帯の通信を前記強誘電体メモリのアンテナ部で行いデータを前記強誘電体メモリに記憶させるとともに、UHF帯の通信を前記UHF帯通信用アンテナチップで行い、前記データを前記強誘電体メモリに記憶させることを特徴とする請求項1または2に記載の無線ICタグ。 【請求項4】 温度センサーは、測温抵抗体、熱電対、サーミスタのいずれかとし、前記温度センサーが検出した電気信号を前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項5】 Phセンサーは、コンクリート構造物の測定部位をセンサーに配設されるフィルム上に接触させることで、測定部位での反応性、酸・アルカリの付着量、測定部位内部から放出される酸・アルカリ量などを検出する半導体イメージングセンサー、または、ガラス電極と比較電極を有してなり該電極間の電位差を検出するガラス電極センサーとし、前記Phセンサーが検出した電気信号を前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする請求項2または請求項1乃至4のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項6】 歪みセンサーはコンクリート構造物の少なくとも二点の相対位置の変化量を検出する変位センサーとし、前記歪みセンサーが検出した電気信号を前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項7】 無線ICタグの充電機構は、充電装置から非接触で充電される電池であり、前記電池から温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーは電力供給されることを特徴とする請求項1、3乃至6のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項8】 電池に充電する充電装置は、書き込み・読み取り装置に備えられてなることを特徴とする請求項1、3乃至7のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項9】 無線ICタグの発電機構は、振動、熱または電波により自己発電する装置であり、前記装置から温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーは電力供給されることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項10】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する充電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記強誘電体メモリに搭載されてなる制御部が各センサーを制御する手段と、各センサーが前記コンクリート構造物のデータを計測する手段と、計測した前記コンクリート構造物のデータを前記強誘電体メモリに記憶する手段を有することを特徴とする無線ICタグを用いたコンクリート構造物品質管理システム。 【請求項11】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する発電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記強誘電体メモリに搭載されてなる制御部が各センサーを制御する手段と、各センサーが前記コンクリート構造物のデータを計測する手段と、計測した前記コンクリート構造物のデータを前記強誘電体メモリに記憶する手段を有することを特徴とする無線ICタグを用いたコンクリート構造物品質管理システム。」 (本件補正後) 「 【請求項1】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する充電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記Phセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記強誘電体メモリに記憶するとともに、前記強誘電体メモリにセメント製品の製造情報が書込まれることを特徴とする無線ICタグ。 【請求項2】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する発電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記Phセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記強誘電体メモリに記憶するとともに、前記強誘電体メモリにセメント製品の製造情報が書込まれることを特徴とする無線ICタグ。 【請求項3】 無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、UHF帯域の電波を受信するUHF帯通信アンテナチップとを連結させて基板に実装し、UHF帯を超える長い周波数帯の通信を前記強誘電体メモリのアンテナ部で行いデータを前記強誘電体メモリに記憶させるとともに、UHF帯の通信を前記UHF帯通信用アンテナチップで行い、前記データを前記強誘電体メモリに記憶させることを特徴とする請求項1または2に記載の無線ICタグ。 【請求項4】 温度センサーは、測温抵抗体、熱電対、サーミスタのいずれかとし、前記温度センサーが検出した電気信号を前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項5】 Phセンサーは、コンクリート構造物の測定部位をセンサーに配設されるフィルム上に接触させることで、測定部位での反応性、酸・アルカリの付着量、測定部位内部から放出される酸・アルカリ量などを検出する半導体イメージングセンサー、または、ガラス電極と比較電極を有してなり該電極間の電位差を検出するガラス電極センサーとし、前記Phセンサーが検出した電気信号を前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする請求項2または請求項1乃至4のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項6】 歪みセンサーはコンクリート構造物の少なくとも二点の相対位置の変化量を検出する変位センサーとし、前記歪みセンサーが検出した電気信号を前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項7】 無線ICタグの充電機構は、充電装置から非接触で充電される電池であり、前記電池から温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーは電力供給されることを特徴とする請求項1、3乃至6のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項8】 電池に充電する充電装置は、書き込み・読み取り装置に備えられてなることを特徴とする請求項1、3乃至7のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項9】 無線ICタグの発電機構は、振動、熱または電波により自己発電する装置であり、前記装置から温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーは電力供給されることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の無線ICタグ。 【請求項10】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する充電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記強誘電体メモリに搭載されてなる制御部が各センサーを制御する手段と、各センサーが前記コンクリート構造物のデータを計測する手段と、計測した前記コンクリート構造物のデータを前記強誘電体メモリに記憶する手段を有することを特徴とするとともに、前記強誘電体メモリにセメント製品の製造情報が書込まれることを特徴とする無線ICタグを用いたコンクリート構造物品質管理システム。 【請求項11】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する発電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記強誘電体メモリに搭載されてなる制御部が各センサーを制御する手段と、各センサーが前記コンクリート構造物のデータを計測する手段と、計測した前記コンクリート構造物のデータを前記強誘電体メモリに記憶する手段を有することを特徴とするとともに、前記強誘電体メモリにセメント製品の製造情報が書込まれることを特徴とする無線ICタグを用いたコンクリート構造物品質管理システム。」 (下線は補正箇所。) 本件補正は、請求項1、2、10、及び11に記載した発明を特定するために必要な事項である「強誘電体メモリ」を「セメント製品の製造情報が書込まれる」と限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2 引用例記載の事項・引用発明 (1)記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-349535号公報(発明の名称:「複合センサモジュールおよびセンサデバイス」、出願人:太平洋セメント株式会社、沖電気工業株式会社、株式会社沖電気コミュニケーションシステムズ、公開日:平成18年12月28日、以下「引用例1」という。)には、次の事項(a)ないし(f)が図面とともに記載されている。 (a) 「【0030】 図1は、本発明の実施形態に係る複合センサモジュールの概略構成を示すブロック図である。この複合センサモジュール100は、タグ本体100aと、第1のセンサ10および第2のセンサ20と、データ処理部101と、無線通信部102と、を備えており、読取装置との間でデータを無線で送受信することができる。」 (b) 「【0031】 第1のセンサ10は、例えば、ひび割れ、ひずみ、コンクリート構造物の鉄筋や型枠などへのコンクリート充填やシース管へのグラウト充填状態、鋼材腐食、中性化、疲労などの状態量の少なくとも一つ以上を測定するセンサである。ここで、第1のセンサ10は、複数種類の状態量を検出するセンサが複数個ずつ設けられているものであっても良いし、単一種類の状態量のみを検出するセンサが複数設けられることにより構成されても良い。 … 【0035】 また、中性化を測定するセンサとしては、例えば、水素イオンを測定するpHセンサ、イオン選択性電極と電界効果型トランジスタ(FET)を一体化した半導体センサや一対の電極からなり電極間の電気抵抗、インピーダンス、電極間電位差、静電容量、インダクタンスなどの数値変化からをコンクリートの中性化を検出するセンサなどが利用できる。」 (c) 「【0036】 次に、図1において、第2のセンサ20は、温度、湿度、圧力、酸素濃度、炭酸ガス濃度、塩分濃度、水分、含水率、pHなどの物理量の少なくとも一つ以上を測定するセンサである。第2のセンサ20は、複数種類の状態量を検出するセンサが複数個ずつ設けられているものであっても良いし、単一種類の状態量のみを検出するセンサが複数設けられることにより構成されても良い。」 (d) 「【0044】 また、無線通信部102は、無線通信回路を構成する復調部202、変調部203、および電流清流部204と、アンテナ205とから構成される。無線通信部102は、そのほかに、図示しない充電/電源部、メモリなどが含まれ、電源部は外部から供給される電磁波からの誘電電圧を一時的に蓄える蓄電機能を備えたものであってもよい。メモリは、全体の制御を行うオペレーティングシステムが格納されているROM、データの書き換えや構造物の状態を検知するプログラムが格納されている不揮発性メモリであるEEPROM、検知した情報を記録するRAMなどで構成される。メモリにはセンサ部のID番号を搭載してもよく、また、読取装置から構造物の埋め込み位置に関する情報をRAMに書き込み、これら情報をセンサで検知した情報と共に読み取り装置で読み取ってもよい。」 (e) 「【0046】 有線方式によると、内部に埋設されたセンサから導電コードをコンクリートの外部まで伸ばすため、導電コードまたは導電コードとコンクリートの接触面が酸素、水または塩化物イオンのような鋼材の腐食因子の通り道になる可能性がある。特に長期間にわたりコンクリート構造物が使用されるとコンクリートの耐久性に大きな差が生じうる。100年を越えるような長期間におけるコンクリートの耐久性を考えた場合、積極的に採用されるべきものではない。また、内部状態を検知する検知部をコンクリート内部に置き、アンテナのみをコンクリート表面に設置した場合、検知部とアンテナは導電コードを使用する必要があるが、鋼材の腐食因子が導電コードを伝ってコンクリート内部へと侵入する可能性があり、コンクリートの耐久性を損ねるといった問題があった。本実施形態では、複合センサモジュールをコンクリート構造物に埋め込んで、読取装置と無線通信を行なうことによって、これらの問題を解決させた。コンクリート構造物に埋め込む複合センサモジュールの数や埋め込み方は特に限定されない。」 (f) 「【0047】 図2は、本実施形態に係る複合センサモジュールの第1のセンサ10、第2のセンサ20、および制御部30の概略構成を示すブロック図である。ここでは、第1のセンサ10として、センサ0とセンサ1の2種類の状態量を検出するセンサが設けられているものとする。また、第2のセンサ20として、センサ2とセンサ3の2種類の物理量を検出するセンサが設けられているものとする。セレクタ部31には、各センサが接続されている。セレクタ部31は、カウンタ部32から入力されるカウント値で指定されたセレクタ番号のみをONとし、そのセレクタ番号に対応するセンサのみを稼動させる。カウンタ部32は、同期信号(CLK)の入力に基づいて、カウントアップまたはカウントダウンを行ない、カウント値をセレクタ部31へ出力する。コンパレータ33は、検出電圧と閾値電圧とを比較する。スイッチ34は、電力供給部36からの電力をADC INへの供給する、またはしないを決定する。スイッチ35は、電力が必要なセンサに対して使用されるスイッチである。 … 【0053】 実施例1は、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する第1のセンサとして、ひずみゲージを採用すると共に、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する第2のセンサとして温度センサを採用し、ひずみゲージによる検出結果を温度センサによる検出結果に基づいて補正する場合について説明する。 … 【実施例3】 【0071】 実施例3では、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する第1のセンサとして中性化をみるpHセンサを採用すると共に、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する第2のセンサとして炭酸ガス濃度検知センサ、温度センサを採用し、pHセンサによって検出された中性化の腐食の度合い(経時変化)を炭酸ガス濃度検知センサによる検出結果に基づいて予測する場合について説明する。」 ・上記記載(a)、(d)、及び(e)より、 ア 「読取装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物に埋め込まれる複合センサモジュール」との技術的事項が読み取れる。 ・上記記載(a)より、 イ 「複合センサモジュールは、タグ本体100aと、第1のセンサ10および第2のセンサ20と、データ処理部101と、無線通信部102と、を備え」との技術的事項が読み取れる。 ・上記記載(d)より、 ウ 「無線通信部102は、アンテナ205と、外部から供給される電磁波からの誘電電圧を一時的に蓄える蓄電機能を備えた電源部と、検知した情報を記録するメモリを含み」との技術的事項が読み取れる。 ・上記記載(b)より、 エ 「前記第1のセンサ10は、ひび割れ、ひずみ、コンクリート構造物の鉄筋や型枠などへのコンクリート充填やシース管へのグラウト充填状態、鋼材腐食、中性化、疲労などの状態量の少なくとも一つ以上を測定するセンサであり」との技術的事項が読み取れる。 ・上記記載(c)より、 オ 「前記第2のセンサ20は、温度、湿度、圧力、酸素濃度、炭酸ガス濃度、塩分濃度、水分、含水率、pHなどの物理量の少なくとも一つ以上を測定するセンサであり」との技術的事項が読み取れる。 ・上記記載(f)及び【図2】より、 カ 「前記データ処理部101の制御部30は、センサに電力供給する電力供給部36を備える」との技術的事項が読み取れる。 (2)引用発明 以上の技術的事項アないしカを総合勘案すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。 「読取装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物に埋め込まれる複合センサモジュールは、タグ本体100aと、第1のセンサ10及び第2のセンサ20と、データ処理部101と、無線通信部102と、を備え、無線通信部102は、アンテナ205と、外部から供給される電磁波からの誘電電圧を一時的に蓄える蓄電機能を備えた電源部と、検知した情報を記録するメモリを含み、前記第1のセンサ10は、ひび割れ、ひずみ、コンクリート構造物の鉄筋や型枠などへのコンクリート充填やシース管へのグラウト充填状態、鋼材腐食、中性化、疲労などの状態量の少なくとも一つ以上を測定するセンサであり、前記第2のセンサ20は、温度、湿度、圧力、酸素濃度、炭酸ガス濃度、塩分濃度、水分、含水率、pHなどの物理量の少なくとも一つ以上を測定するセンサであり、前記データ処理部101の制御部30は、センサに電力供給する電力供給部36を備える、複合センサモジュール」(以下、「引用発明」という。) 3 対比 本願補正発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に順次対比する。 (1)引用発明における「アンテナ205」は、本願補正発明における「アンテナ部」に相当する。 (2)引用発明の「読取装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物に埋め込まれる複合センサモジュールは、タグ本体100aと、第1のセンサ10及び第2のセンサ20と、データ処理部101と、無線通信部102と、を備え」は、本願補正発明の「書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグ」に相当する。 (3)引用発明では、「読取装置」と「無線通信部102」との間で無線通信を行っており、無線通信は所定の周波数帯域で無線交信しているものと認められ、上記相当関係を踏まえると、引用発明の「無線通信部102は、アンテナ205と、外部から供給される電磁波からの誘電電圧を一時的に蓄える蓄電機能を備えた電源部と、検知した情報を記録するメモリを含み」と、本願補正発明の「外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリ」とは、「外部からの電波を受信する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有するメモリ」という点で共通する。 (4)引用例1の段落0042には、「第1のセンサ10における複数種類のセンサの組み合わとしては、…ひずみと中性化などが挙げられる。」と記載され、段落0035には、「中性化を測定するセンサとしては、例えば、水素イオンを測定するpHセンサ・・・が利用できる。」と記載されているから、引用発明における第1のセンサ10として、ひずみセンサとpHセンサが選択され得るものである。 また、第1のセンサ10としてひずみゲージを採用した場合に第2のセンサとして温度センサを採用すること(段落0053に記載された「実施例1」参照。)、第1のセンサ10として中性化をみるpHセンサを採用した場合に、第2のセンサとして温度センサを採用すること(段落0071に記載された「実施例3」参照。)も記載されていることから、引用発明において、第1のセンサ10としてひずみセンサやpHセンサが採用された場合の第2のセンサ10に、温度センサが選択され得るものである。 よって、引用発明における第1のセンサ10及び第2のセンサ20として、ひずみセンサ、pHセンサ及び温度センサの組合せは選択され得るものである。 また、引用発明において、「検知した情報を記録するメモリ」の検知した情報とは、第1のセンサ及び第2のセンサで検知した情報であり、各センサで検知した情報をメモリに記録するために各センサとメモリとが電気的に接続されていることは明らかである。 してみると、引用発明における「第1のセンサ10及び第2のセンサ20」と、本願補正発明における「前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサー」とは、「メモリと電気的に接続された温度センサー、pHセンサー、及び歪みセンサー」という点で共通する。 (なお、一般に、水素イオン指数の表記は「pH」であるので、以下、本願補正発明における「Ph」は「pH」と表記する。) (5)引用発明において、上記センサについての相当関係を踏まえると、引用発明の「前記データ処理部101の制御部30は、センサに電力供給する電力供給部36を備える」と本願発明の「前記温度センサー、前記pHセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する充電機構」とは、「前記温度センサー、前記pHセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する電力機構」という点で共通する。 (6)引用発明において、「検知した情報を記録するメモリ」の検知した情報とは、第1のセンサ及び第2のセンサで検知した情報であり、上記センサについての相当関係を踏まえると、引用発明において「検知した情報を記録するメモリ」を有することと、本願補正発明の「前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記pHセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記強誘電体メモリに記憶する」こととは、「前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記pHセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記メモリに記憶する」という点で共通する。 (7)以上の関係を整理すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有するメモリと、前記メモリと電気的に接続された温度センサー、pHセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記pHセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する電力機構とを設けるとともに、前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記pHセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記メモリに記憶することを特徴とする無線ICタグ」 (相違点1) 本願補正発明では、「外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部」であるのに対し、引用発明では、「共振して電流を発生」するか否か明記されていない点。 (相違点2) 本願補正発明では、「強誘電体を利用した強誘電体メモリ」であるのに対し、引用発明では、単なる「メモリ」である点。 (相違点3) 本願補正発明では、各センサーに電力供給する機構を「充電機構」としているのに対し、引用発明では、単に電力を供給する機構としている点。 (相違点4) 本願補正発明では、強誘電体メモリや各センサーなどの構成を基板に配設しているのに対し、引用発明では、基板に配設しているか否か明記されていない点。 (相違点5) 本願補正発明では、無線ICタグを絶縁材料で被覆しているのに対し、引用発明では、そのような構成を有していない点。 (相違点6) 本願補正発明では、強誘電体メモリにセメント製品の製造情報が書込まれるのに対し、引用発明では、そのような構成を有していない点。 4 判断 上記相違点について検討する。 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-63900号公報(発明の名称:無線ICタグを用いたコンクリート品質管理システム及びセメント製品、出願人:三智商事株式会社、公開日:平成20年3月21日、以下、「引用例2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 「【発明を実施するための最良の形態】 【0023】 図1及び図2は、本発明の無線ICタグを用いたコンクリート品質管理システムに用いる無線ICタグ1の概念図を示し、この無線ICタグ1は球体、楕円体、多面体(例えば32面体等)等の立体形状でガラスやセラミック等でその外周を被覆され、一緒に混入される砂利等の骨材と同程度の大きさで同程度の比重とすることで、セメント製品の混練時に偏在することなくばらついて混じり合うことができるとともに、混練時に加わる力、そして打設されて加わる応力、コンクリート自身の圧縮力に十分に耐えることができる。この無線ICタグ1の形態は、およそ数ミリメートルから数十ミリメートルまでの大きさのガラス玉のようなものである。 【0024】 無線ICタグ1は、強誘電体を利用した不揮発メモリであるFeRAM2と、駆動用に電池を内蔵する代わりに外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部3と、キロヘルツ帯域の低周波(従来のICタグはメガヘルツ帯域の高周波を用いる)で無線交信するためのアンテナ部4と、これらを制御する制御部5を、立体形状からなる無線ICタグの曲面上(折曲面上でも可)にその曲面に倣って3次元的に形成していて、そして、図2に示すごとく、これらを保護すべくガラス等の被覆体6が全体を覆っている。 … 【0026】 このような構成からなる無線ICタグ1を用いたコンクリート品質管理システムについて、図3に基づいて説明する。始めに、生コン会社において、初期状態の無線ICタグ1を多数用意し、これをセメント、砂利等の骨材、水等を混練するセメント製品の製造工程において、例えばセメント製品1立方メールにつき1個程度の割合で混入する。そして、セメント製品の測定工程に配置された自動測定装置がセメント製品の水/セメント比、セメント混和剤、温度等の製品特性値を測定するとともに、自動測定装置と連結したICタグ書き込み装置7が、混入している無線ICタグ1に、自動測定装置により測定した製品特性値および製造年月日等からなる製造情報を自動的に書き込む。さらに、この無線ICタグ1に書き込まれた製造情報は、同時にコンクリート品質管理システムを集中管理する集中管理サーバー8にも記録され、データの連携を図っている。」 (1)相違点1について 引用発明における電源部も、外部から供給される電磁波から誘電電圧を得ているから、これは、実質的に外部からの電波を受信し、これと共振して電流を発生しているといえるし、仮に異なるものだとしても、外部からの電波を受信し、これと共振して電流を発生する電源部は、引用例2に記載のとおり周知であり、引用発明における「電源部」を、外部からの電波を受信し、これと共振して電流を発生する電源部とすることに格別の困難性はない。 (2)相違点2について メモリ装置としてFeRAMは、引用例2に記載のとおり周知であり、引用発明におけるメモリとして周知のFeRAMを適用することに格別の困難性はない。 (3)相違点3について 前記「第2 補正却下の決定 2 引用例記載の事項・引用発明 (1)記載事項 (d)」に記載のように、外部から供給される電磁波からの誘電電圧を蓄える機能を備える電源部は周知であり、引用発明において、センサに電力供給する電源部として充電機能を備える充電機構とすることに格別の困難性はない。 (4)相違点4について 無線ICタグにおいて、無線ICタグを構成する各回路構成を基板に配設することは、例を挙げるまでもなく周知であり、引用発明において、無線ICタグを構成するメモリやセンサなどを基板に配設するようにすることに格別の困難性はない。 (5)相違点5について 引用例2には、絶縁材料で無線ICタグを被覆し保護する技術が記載されており、当該記載の技術を引用発明に適用し、絶縁材料で被覆し保護することに格別の困難性はない。また、引用発明はセメント製品ではなく、コンクリート構造物内に歪みセンサ及びpHセンサと共に埋設するものであるから、引用発明を前提に引用例2記載の技術を適用するに際して、被覆の素材等を、回路を保護しかつ歪み等を検出可能な程度のものとすることは当然のことである。 (6)相違点6について 引用例2には、無線ICタグにセメント製品の製造情報を書き込むことが記載されており、当該記載の事項を引用発明に適用し、メモリに製造情報を書き込むようにすることに格別の困難性はない。 そうしてみると、引用発明に対して引用例2に記載の技術及び周知技術を適用し、本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用例2に記載の技術及び前記周知技術から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし11に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。 「 【請求項1】 書き込み・読み取り装置との間で無線通信によりデータの書き込み・読み取りが可能なコンクリート構造物中に埋設される無線ICタグは、外部からの電波を受信しこれと共振して電流を発生する電源部と所定の周波数帯域で無線交信するためのアンテナ部を有する強誘電体を利用した強誘電体メモリと、前記強誘電体メモリと電気的に接続された温度センサー、Phセンサー、及び歪みセンサーと、前記温度センサー、前記Phセンサー、及び前記歪みセンサーに電力供給する充電機構とを基板に配設するとともに、前記無線ICタグを絶縁材料で被覆してなり、前記温度センサーで計測した前記構造物の温度データ、前記Phセンサーで計測した前記構造物の水素イオン指数データ、前記歪みセンサーで計測した前記構造物の歪みデータの少なくともいずれかのデータを前記強誘電体メモリに記憶することを特徴とする無線ICタグ。」(以下、「本願発明」という。) 1 引用例記載の事項・引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された発明・事項は、前記「第2 補正却下の決定 2 引用例記載の事項・引用発明」に記載したとおりである。 2 対比・判断 本願発明は、前記「第2 補正却下の決定 1 補正の内容」で検討した本願補正発明から「強誘電体メモリ」の限定事項である「セメント製品の製造情報が書込まれる」との発明特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、前記「第2 補正却下の決定 3 対比」、「第2 補正却下の決定 4 判断」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用例2に記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-07-14 |
結審通知日 | 2014-07-22 |
審決日 | 2014-08-11 |
出願番号 | 特願2009-187642(P2009-187642) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06K)
P 1 8・ 572- Z (G06K) P 1 8・ 575- Z (G06K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 榮永 雅夫 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 武田 知晋 |
発明の名称 | 無線ICタグ、該無線ICタグを用いたコンクリート構造物品質管理システム |
代理人 | 田辺 敏郎 |