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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
管理番号 1292367
審判番号 不服2010-26880  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-29 
確定日 2014-09-30 
事件の表示 特願2000-221321「エポキシシランの製法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月21日出願公開、特開2001- 72689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年7月21日〔パリ条約による優先権主張 1999年7月23日(DE)ドイツ〕の出願であって、
平成21年12月15日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年6月18日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
同年7月20日付けの拒絶査定に対して、同年11月29日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、
平成24年2月17日付けの審尋に対して、同年8月17日付けで回答書の提出がなされ、
同年9月14日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対して、平成25年3月21日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
同年7月24日付けの審判合議体による拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)に対して、平成26年1月29日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

第2 平成26年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成26年1月29日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成26年1月29日付けの手続補正(以下「第4回目の手続補正」という。)は、
補正前の請求項1に記載された
「触媒の存在下にヒドロゲンシランとアリルグリシドエーテルとを反応させ、かつその際得られる粗製生成物を後処理することによるエポキシシランの製法において、触媒の含有率が3?12ppmである粗製生成物から触媒を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により可能な限り除去し、引き続き粗製生成物を蒸留することを特徴とする、エポキシシランの製法。」を、
補正後の請求項1に記載された
「Pt触媒の存在下にヒドロゲンシランとアリルグリシドエーテルとを反応させ、かつその際得られる粗製生成物を後処理することによるエポキシシランの製法において、白金の含有率が3?12ppmである粗製生成物から白金を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により、溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去し、引き続き粗製生成物を蒸留することを特徴とする、エポキシシランの製法。」に改める補正を含むものである。

そして、上記請求項1についての補正は、
第一の補正として、補正前の「触媒の存在下」との記載部分を、補正後の「Pt触媒の存在下」との記載に改める補正と、
第二の補正として、補正前の「触媒の含有率が3?12ppmである粗製生成物」との記載部分を、補正後の「白金の含有率が3?12ppmである粗製生成物」との記載に改める補正と、
第三の補正として、補正前の「触媒を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により可能な限り除去」との記載部分を、補正後の「白金を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により、溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去」との記載に改める補正からなるものである。

2.補正の適否
(1)目的要件について
ア.第一の補正について
補正前の「触媒の存在下」という発明特定事項を、補正後の「Pt触媒の存在下」という発明特定事項に改める上記「第一の補正」については、その「触媒」の種類を「Pt触媒」に限定的に減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。

イ.第二の補正について
補正前の「触媒の含有率」という発明特定事項を、補正後の「白金の含有率」という発明特定事項に改める上記「第二の補正」については、「白金」が「触媒」の下位概念に当たるものではないことから、発明特定事項の限定的減縮に当たらないことは明らかである。
すなわち、本願明細書の実施例においては実際に使用した触媒の種類・内容が明らかにされていないが、例えば、先の拒絶理由通知において提示した刊行物2の「実施例1」で示されたように通常白金触媒は白金としてではなく塩化白金酸のような化合物で使用される。そうすると、塩化白金酸の6水和物を白金触媒とした場合で換算すると、補正前の「触媒の含有率が3?12ppm」という数値範囲は『白金の含有率が約1.1?4.5ppm』に換算される。このため、補正後の『3?12ppm』という数値範囲は、補正前の数値範囲から逸脱した範囲にあり、補正前の発明特定事項を限定的に減縮するものではない。
したがって、当該補正は、平成18年改正前特許法より請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しない。
また、当該補正は、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものにも該当しない。

ウ.第三の補正について
補正前の『触媒を…可能な限り除去』という発明特定事項に対して、補正後の『白金を…溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去』という発明特定事項に改める上記「第三の補正」について検討する。
まず、補正前の「触媒」を補正後の「白金」に改める補正については、その『物質の機能的な観点』から類別される「触媒」という概念と、その『金属の種類という観点』から類別される「白金」という概念に、上位下位の関係が成り立たないことから、発明特定事項の下位概念化に当たらない。
次に、補正前の『可能な限り除去』を補正後の『2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去』に改める補正について、これが発明特定事項の下位概念化に相当するものではないことが明らかであって、例えば、先の拒絶理由通知において提示した刊行物1の「実施例1」においては反応溶液中に含まれる白金を「0.1ppm以下」にまで除去することが可能になっているところ、本願優先日前の技術水準において、補正後の『2ppmになるまで』の除去が補正前の『可能な限り』の除去の範囲に含まれるとは認められない。
したがって、当該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しない。
また、当該補正は、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものにも該当しない。

エ.目的要件のまとめ
上記『イ.?ウ.』に示したように、第4回目の手続補正は、目的要件違反の補正を含んでいるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)独立特許要件について
ア.はじめに
上記請求項1についての補正は、上記『(1)』に示したように、平成18年改正前特許法第17条の2第2号に掲げる事項を目的とするものに該当しないが、仮に上記第二、第三の補正も目的要件を満たすものとすると、第一の補正は限定的減縮を目的とするものであるから、
補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について一応検討する。

イ.引用文献及びその記載事項
(ア)刊行物A:特開昭63-264591号公報
先の拒絶理由通知において「刊行物2」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Aには、次の記載がある。

摘記A1:特許請求の範囲の欄
「エポキシ基および末端アルケニル基を有する不飽和エポキシ化合物と、ヒドロシラン類とを、白金系触媒を用いて反応させて、エポキシ基含有シラン化合物を製造するに際して、アルコール類の存在下に上記反応を行うことを特徴とする、エポキシ基含有シラン化合物の製造方法。」

摘記A2:第3頁右下欄第5行?第4頁左上欄第3行
「実施例1…アリルグリシジルエーテル13.7g(0.12モル)と、0.1M-H_(2)PtCl_(6)・6H_(2)O/i-PrOH溶液12μl(1.2×10^(-6)モル)と、を加え50℃に加熱攪拌し、ここにトリメトキシシラン12.2g(0.1モル)とメタノール6.4g(0.2モル)の混合溶液を2時間で滴下した。…この反応溶液を単蒸留したところ、純度99.7%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを得ることができた。」

摘記A3:第2頁左上欄第19行?左下欄第1行
「エポキシ基および末端アルケニル基を有する不飽和エポキシ化合物としてのアリルグリシジルエーテルとトリメトキシシランとを反応させた場合には、…γ-体(目的化合物)とβ-体(異性体)とが生成する。…目的化合物はこのような異性体と沸点差が小さいため、通常の蒸留では除去が困難である。」

(イ)刊行物B:特開昭50-65596号公報
先の拒絶理由通知において「刊行物5」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Bには、次の記載がある。

摘記B1:第1頁右下欄第4行?第2頁右上欄第11行
「この発明は、エポキシ基を含有するオルガノポリシロキサンの有利な製造方法に関するものであり、さらに詳しくは白金触媒の存在下で、脂肪族二重結合を有するエポキシ化合物と比較的低分子量のオルガノハイドロジエンポリシロキサンとを付加反応させて目的のエポキシ基を含有するオルガノポリシロキサンを安定に収率よく製造する方法を提供するものである。…
この白金系触媒は活性であるため、温和な条件で上記付加反応を進行させる作用を示す反面、該付加反応の反応終了後生成混合物を蒸留する工程(溶媒や未反応物のストリツプなど)において生成物が増粘するとかさらに極端な場合にゲル化が起るなど、また反応生成物の保存中にも増粘するなどの現象をもたらした。本発明者らはかかる問題点は白金系触媒を反応終了後において失活させれば解決できるであろうと考え鋭意研究を重ねた結果本発明を完成したものである。すなわち、本発明は、イ)…のSi-H結合を有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンと、ロ)分子中にC=C不飽和結合を有するエポキシ化合物とを、…白金系触媒の存在下に反応させ、ついでこの反応系に該白金系触媒の等モル以上に相当する量のベンゾチアゾールもしくはその誘導体を添加した後蒸留することを特徴とする方法であり、事実、これによれば反応生成物は保存中あるいは蒸留時に増粘あるいはゲル化などを起すことがなく、安定に収得保存されるという効果が与えられる。」

摘記B2:第4頁左下欄第8行?右下欄第2行
「実施例3…アリルグリシジルエーテル171g、…塩化白金酸のブタノール変性触媒…10gを仕込み…1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロテトラシロキサン60gを滴下し、…反応物にベンゾチアゾール0.4gを添加し、実施例1と同様に溶剤および未反応物を留去したところ、反応生成物176gを得た。このものは不揮発分98.2%粘度172CS(25℃)、エポキシ当量235であつた。」

(ウ)刊行物C:特開平7-118251号公報
本願優先日前の技術水準を明らかにするために提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Cには、次の記載がある。

摘記C1:段落0007?0008
「エピクロルヒドリンと(メタ)アクリル酸とから(メタ)アクリル酸グリシジルを製造する方法において、触媒に用いた第4アンモニウム塩が十分除去できないままに蒸留すると、反応中に副生するクロルヒドリン体と未反応のエピクロルヒドリンより生成する1,3-ジクロロ-2-プロパノールと、製品の(メタ)アクリル酸グリシジルとのエポキシ交換反応が促進されてエピクロルヒドリンが生成することを見出すとともに、さらに残存する第4アンモニウム塩が、シリカ-アルミナ系吸着剤で除去できることを見出し、本発明を完成させた。…すなわち本発明は…(1)反応終了後に…シリカ-アルミナ系吸着剤処理を行う工程 と(2)蒸留工程 とを行なうことを特徴とするアクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸グリシジルの製造法である。」

(エ)刊行物D:特開平8-127584号公報
先の拒絶理由通知において「刊行物1」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Dには、次の記載がある。

摘記D1:段落0002?0003
「Si-H含有シランあるいはポリシロキサン類とオレフィンあるいはアセチレン性不飽和結合含有化合物類との付加反応はハイドロシリレーション法と呼ばれ、シリコーン化合物の合成方法として広く使用されている。…このような白金化合物触媒は均一系であるので、当然反応液中に溶解しており、反応終了後は蒸留あるいは活性炭処理などの手段によって系内から除去する必要がある。しかし、合成されるシリコーン化合物の中には蒸留できないものや高粘度で活性炭処理できないものがあり、このような場合には製品中に白金が残存し、製品の外観が悪くなったり、残存H-Siがその白金により脱水素を起こして危険であるなどの問題を生じる。また、蒸留や活性炭処理によって除去された白金残渣は現在産業廃棄物となっているが、環境及び経済的な理由から、このような白金も回収して再使用できれば非常に有益である。」

摘記D2:段落0037
「上記白金触媒0.17g(白金量:6.7×10^(-5)モル)とアリルグリシジルエーテル93.5g(0.82モル)を攪拌機、温度計及び冷却器を備えた0.5リットル反応器に入れ、80℃に加熱した。その後、トリメトキシシラン100g(0.82モル)を1時間かけて滴下し、その後80℃に保って2時間攪拌反応を行った。得られた。生成物のガスクロマトグラフ分析により、生成物であるγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを96%の収率で得た。反応後、濾過により白金触媒を除去した反応溶液中の白金量を測定したところ、0.1ppm以下であった。触媒をリサイクルし、さらに同スケールで10回再使用したが、触媒活性の低下は見られなかった。」

(オ)刊行物E:特開平9-124942号公報
先の拒絶理由通知において「刊行物6」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Eには、次の記載がある。

摘記E1:段落0035?0037
「本発明のヒドロシリル化反応は、白金系触媒、或いは有機過酸化物等を触媒として用いて行うことができる。…有機アルコキシシランに水分が混入するとアルコキシ基は容易に加水分解し水酸基(ヒドロキシル基)となる。これは白金により容易に縮合し、高分子量化する。これらのことを考慮すると、生成したケイ素含有正孔輸送材中の残存白金はその量を低下させることが必須となる。ケイ素含有正孔輸送材中に含まれる白金量は10ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。…ケイ素含有正孔輸送材中に残存する白金は、活性炭、シリカゲル、多孔質アルミナなど白金を吸着し且つケイ素含有正孔輸送物質に対して不活性であるものを、吸着材としてケイ素化正孔輸送材を溶解した溶液中に添加して吸着させ、濾別などにより、吸着材と共に除くことができる。又、これら吸着材をカラム充填材としてカラム分離操作を施してもよい。」

摘記E2:段落0040及び0042
「(実施例1)(4-〔2-(トリエトキシシリル)エチル〕トリフェニルアミンの合成)…(4-ビニルトリフェニルアミンのヒドロシリル化)トルエン40mL、シリエトキシシラン9.9g(60mモル)及びトリス(テトラメチルジビニルジシロキサン)二白金(0)のトルエン溶液0.018mモルを三つ口フラスコに取り、室温で撹拌しながら4-ビニルトリフェニルアミン8.2gのトルエン溶液20mLを滴下した。滴下終了後70℃で3時間撹拌を行った後、更に、トルエン120mLで稀釈した。得られた稀釈溶液は、真空下140℃で7時間乾燥した活性炭200gを充填したカラムを用いて処理した後、減圧下トルエンを除去し、高粘度の淡黄色液状物(精製品)を得た。この精製品の白金濃度は、フレームレス原子吸光法(…)で測定することにより評価した。その結果、精製品の白金濃度は0.8ppmであることがわかった。」

(カ)刊行物F:特開平5-43587号公報
本願優先日前の技術水準を明らかにするために提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Fには、次の記載がある。

摘記F1:段落0021及び0027?0028
「本発明のシロキサン化合物は、例えばオルガノハイドロジェンシロキサンのSiH結合と脂肪族二重結合含有エポキシ化合物の脂肪族二重結合とを白金系触媒の存在下に付加反応させることにより合成することができる。…この付加反応は溶媒を使用しないで行うこともできるが、反応温度の制御の点から溶媒を用いることが好ましい。…上記付加反応終了後は活性炭等で触媒を吸着除去し、溶媒を留去することにより生成物を精製することができる。」

摘記F2:段落0030?0033
「[実施例1]冷却管、温度計を備えた200mlのフラスコに下記式(12)で示される水素シロキサン30g(0.025モル)、トルエン15gを仕込み、75?80℃に加熱して十分撹拌しながら白金濃度2%の2-エチルヘキサノール変性触媒0.024g(Pt:2.5×10^(-6)モル)のトルエン溶液1.0gを滴下し、更に下記式(9)で示されるエポキシ化合物2.9g(0.025モル)のトルエン溶液7.9gを1時間30分かけて滴下した。…

…放冷後、活性炭を加えて1時間振とうし、瀘過し、80℃/10mmHgに2時間保ってトルエンを除去し、35gの生成物を得た。この生成物をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、1付加物が19g(収率57%)であり、更にゲル浸透クロマトグラフィーにより1付加物のみを分取して諸分析を行い、次に示す分析結果から下記式(13)で示す構造であることが確認された。…



(キ)刊行物G:特開平9-253626号公報
先の拒絶理由通知において「刊行物7」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物Gには、次の記載がある。

摘記G1:段落0008
「活性炭は粉末であるか粒状であるかを問わないが、…カラムないし濾過床を用いるのが経済的である事から主に粒状炭が用いられる。…粒度は平均粒径にて0.9?4.0mmのものが一般的に用いられる。活性炭は一般に広範囲の水中有機物その他を吸着する」

ウ.刊行物Aに記載された発明
摘記A1の「エポキシ基および末端アルケニル基を有する不飽和エポキシ化合物と、ヒドロシラン類とを、白金系触媒を用いて反応させて、エポキシ基含有シラン化合物を製造する…方法。」との記載、及び
摘記A2の「実施例1…アリルグリシジルエーテル13.7g(0.12モル)と、0.1M-H_(2)PtCl_(6)・6H_(2)O/i-PrOH溶液12μl(1.2×10^(-6)モル)と、を加え50℃に加熱攪拌し、ここにトリメトキシシラン12.2g(0.1モル)とメタノール6.4g(0.2モル)の混合溶液を2時間で滴下した。…この反応溶液を単蒸留したところ、純度99.7%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを得ることができた。」との記載、並びに
白金(Pt)の原子量が195であって、刊行物Aの「実施例1」における「反応溶液」中に含まれる白金の量が約7.2ppmと計算される(=195*1.2*10^-6/(13.7+12.2+6.4)*10^6で計算した。)ことから、刊行物Aには、
『アリルグリシジルエーテルと、トリメトキシシランとを、白金系触媒を用いて反応させて、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを製造する方法において、白金の含有量が約7.2ppmである反応溶液を、単蒸留して純度99.7%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを得る方法。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

エ.対比
補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「アリルグリシジルエーテル」、「トリメトキシシラン」、「白金系触媒を用いて反応」及び「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを製造する方法」は、補正発明の「アリルグリシドエーテル」、「ヒドロゲンシラン」、「Pt触媒の存在下に…反応」及び「エポキシシランの製法」に相当し、
引用発明の「白金の含有量が約7.2ppmである反応溶液」は、補正発明の「白金の含有率が3?12ppmである粗製生成物」に相当し、
引用発明の「反応溶液を、単蒸留」は、補正発明の「その際得られる粗製生成物を後処理」及び「粗製生成物を蒸留すること」に相当する。
してみると、補正発明と引用発明は『Pt触媒の存在下にヒドロゲンシランとアリルグリシドエーテルとを反応させ、かつその際得られる粗製生成物を後処理することによるエポキシシランの製法において、白金の含有率が3?12ppmである粗製生成物を蒸留する、エポキシシランの製法。』に関するものである点において一致し、
(α)後処理が、補正発明においては、蒸留の前に粗製生成物から「白金を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により、溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去」する工程を有するのに対して、引用発明においては蒸留の前に「白金を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により、溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去」する工程を有していない点においてのみ相違する。

オ.判断
上記(α)の相違点について検討する。

(ア)残存触媒と蒸留の問題点について
摘記B1の「この発明は、エポキシ基を含有するオルガノポリシロキサンの有利な製造方法に関する…この白金系触媒は活性であるため、…該付加反応の反応終了後生成混合物を蒸留する工程(溶媒や未反応物のストリツプなど)において生成物が増粘するとかさらに極端な場合にゲル化が起るなど、また反応生成物の保存中にも増粘するなどの現象をもたらした。…かかる問題点は白金系触媒を反応終了後において失活させれば解決できる」及び摘記B2の「アリルグリシジルエーテル…反応生成物…エポキシ当量235であつた。」との記載や、
摘記C1の「触媒に用いた第4アンモニウム塩が十分除去できないままに蒸留すると、エポキシ交換反応が促進されてエピクロルヒドリンが生成する…すなわち本発明は…(1)反応終了後に…シリカ-アルミナ系吸着剤処理を行う工程 と(2)蒸留工程 とを行なう…メタクリル酸グリシジルの製造法である。」との記載にあるように、
本願優先日前の技術水準において、エポキシ基含有化合物の化学反応に使用した触媒が残存したまま蒸留工程を行うと望ましくないという問題点は当業者に普通に認識されていたものと認められ、その解決手段として触媒を失活や吸着などの方法で除去するのが有効であることも当業者に普通に知られていたものと認められる。

(イ)ヒドロシリル化反応後の活性炭処理について
刊行物Fには、その「実施例1」として『Pt触媒の存在下にヒドロゲンシラン(式12で示される水素シロキサン)とアリルグリシドエーテル(式9で示されるエポキシ化合物)とを反応させ、かつその際得られる粗製生成物を後処理することによるエポキシシラン(式13で示す構造の1付加物)の製法において、白金の含有率が8.9ppmである粗製生成物から触媒を、活性炭での吸着により除去し、引き続き粗製生成物を蒸留するエポキシシランの製法。』についての発明が記載されている(摘記F1及びF2)。
また、刊行物Dには、残存する白金によって生じる問題を解決するための従来技術として『白金化合物触媒を用いてSi-H含有シラン類とオレフィン性不飽和結合含有化合物類とを反応させ、反応終了後に活性炭処理あるいは蒸留などの手段によって白金を除去するシリコーン化合物の合成方法。』についての発明が記載されている(摘記D1)。
さらに、刊行物Eには、白金系触媒を用いたヒドロシリル化反応において、残存する白金によって生じる高分子量化などの問題点を解決するための方法として『残存する白金を、活性炭、シリカゲル、多孔質アルミナなどの吸着材を添加して吸着させ、濾別などにより、吸着材と共に除くか、これら吸着材をカラム充填材としてカラム分離操作を施す』という方法についての発明が記載されている(摘記E1)。
これらの記載からみて、本願優先日前の技術水準において、ヒドロシリル化反応に用いたPt触媒を反応終了後に『活性炭をカラム充填材とした分離操作』などの「活性炭処理」の手段によって吸着して除去することは、周知慣用の常套手段になっていたものと認められる。
そして、摘記E2の「活性炭200gを充填したカラムを用いて処理した後、減圧下トルエンを除去し」との記載や、
摘記F1の「付加反応終了後は活性炭等で触媒を吸着除去し、溶媒を留去することにより生成物を精製する」との記載にあるように、
本願優先日前の技術水準において、ヒドロシリル化反応後の後処理として「蒸留」の前に「活性炭処理」することは、周知慣用の常套手段になっていたものと認められる。

(ウ)活性炭の粒度及び吸着処理後の白金濃度の数値範囲について
一般に使用する活性炭の粒度は必要に応じて当業者が適宜設定し得ることである。そして、吸着用の活性炭を濾過床に使用する場合の粒度の大きさとして、補正発明の活性炭の粒度の数値範囲(平均粒度1?30mm)は、例えば、摘記G1の「活性炭は…カラムないし濾過床を用いるのが経済的で…粒度は平均粒径にて0.9?4.0mmのものが一般的に用いられる」との記載からみて、本願優先日前の技術水準において吸着用の活性炭における通常の粒度範囲を示したにすぎないものと認められる。
また、摘記E2の「実施例1…4-ビニルトリフェニルアミンのヒドロシリル化…得られた稀釈溶液は、真空下140℃で7時間乾燥した活性炭200gを充填したカラムを用いて処理した後、減圧下トルエンを除去し…精製品の白金濃度は0.8ppmであることがわかった」との記載からみて、当該「実施例1」におけるトルエン(密度0.867g/mL)を除去する前の稀釈溶液の白金濃度は約0.08ppm(=0.8*(9.9+8.2)/((40+20+120)*0.867+9.9+8.2)で計算した。)と計算される。してみると、補正発明のPt含有率の数値範囲(2ppm?1ppm未満の検出限界未満)は、本願優先日前の技術水準においてヒドロシリル化反応後の溶出液を活性炭で吸着処理した場合における通常の濃度範囲を示したにすぎないものと認められる。

(エ)総合的な判断
まず、補正発明の課題に関して、反応に使用した触媒が残存したまま蒸留工程を行うと生成物の増粘やゲル化が起こるなどの望ましくないという問題点が生じるという課題は、上記(ア)で述べたように、本願優先日前の技術水準において当業者に普通に認識されていたものである。したがって、刊行物Aに記載された「引用発明」においても、このような課題は当業者によって普通に配慮されるものと認められる。
次に、そのような課題の解決手段として、上記(ア)で述べたように、触媒の失活や触媒の吸着除去が知られていたところ、上記(イ)で述べたように、白金系触媒を用いたヒドロシリル化反応において、蒸留の前に粗製生成物から白金を活性炭での吸着により除去することは、刊行物D?Fの記載からみて周知慣用の手段であるから、この手段を上記課題の解決手段として採用することは当業者が容易に想起し得たことと認められる。そして、そのような活性炭によるPt触媒の除去を行うに際しては、上記(ウ)で述べたように、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床を採用することは、当業者が適宜行う設計事項であって、そのような吸着処理で溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去できることも、刊行物D?Fの記載からみて、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明の「単蒸留」の前に『白金を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により、溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで除去』する工程を付加することは、当業者にとって容易に想到し得たものと認められる。

(オ)補正発明の効果について
本願明細書の段落0036等に記載される補正発明の効果について検討する。
まず、その『蒸留の間の「環化エポキシシラン」の後形成が十分に止むので、蒸留による後処理の際に、特に高いエポキシシラン純度、殊に≧99%が達成される』及び『蒸留の間に生じる高沸点物質のより低い割合及びそれに伴う蒸留されるエポキシシランの収量』という効果についてみると、引用発明は『純度99.7%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを得る方法』に関するものであって、当該「純度99.7%」は、本願明細書の段落0039の「99.4%のエポキシシラン純度をもたらす」よりも優れた結果を示しており、摘記B1及びC1の記載からみて、蒸留前に白金触媒を除去すれば、蒸留時の望まれない副生成物の後形成の問題が回避できることも、当業者が容易に予測可能な効果でしかない。
次に、その『蒸留による後処理の際の中間経過の短縮及びそれに伴う蒸留能の上昇』及び『エポキシシラン組成混合物の後処理の際に薄層蒸発器を用いると生じるような、エポキシシラン損失はない』という効果についてみると、引用発明は、通常の蒸留では除去が困難な異性体の生成量を抑制した製造方法に関するものであって、補正発明の具体例よりも高い純度の結果を示しているので、本願の「蒸留能の上昇」という点が優れているとはいえず、引用発明においては「薄層蒸発器」が用いられていないので、本願の『エポキシシラン損失がない』という点が優れているとはいえない。
そして、その『吸着された貴金属触媒は、貴金属回収を伴う後処理に供給することができる』という効果についてみると、摘記D1の「白金も回収して再使用」との記載、及び摘記D2の「触媒をリサイクル」との記載からみて、本願の『貴金属回収』という点が優れているとはいえない。
さらに、その『触媒を失活化するために、助剤添加は必要ない』及び『吸着触媒除去の場合、より低いエネルギー使用及びより低い技術的経費』という効果についてみると、引用発明や活性炭処理において、触媒失活化のための助剤添加が必要ないことは明らかであって、補正発明のコストが格別予想外に優れているとはいえない。
また、平成25年3月21日付けの意見書の『反応後に得られた粗製生成物中の、3?12ppmの濃度で存在する触媒成分を、活性炭により吸着除去してから蒸留による後処理を行うことによって、環化生成物の形成が顕著に抑制され、ひいては生成物の純度が向上される』という効果についてみると、引用発明は、反応後に得られた粗製生成物中の約7.2ppmの濃度で存在する白金成分を、蒸留による後処理を行うことによって、純度99.7%(即ち、環化生成物などの副生成物が殆ど存在せず、生成物の純度が補正発明の具体例よりも向上している)の結果を達成しているものであるから、補正発明に格別予想外の顕著な効果はない。

カ.進歩性のまとめ
したがって、補正発明は、刊行物Aに記載された発明、並びに刊行物B?Gに記載された発明又は技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

キ.独立特許要件のまとめ
上記『ア.?カ.』に示したように、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、第4回目の手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項にに規定する要件を満たしていない。

(3)まとめ
以上のとおり、第4回目の手続補正は、上記(1)に述べたように、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に同法第17条の2第4項に規定する要件を満たしているとしても、上記(2)に述べたように、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許を受けようとする発明は、平成25年3月21日付けの手続補正(以下、「第3回目の手続補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものである。

2.通知された拒絶の理由の概要
先の拒絶理由通知書には、その「理由1」として「平成25年3月21日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」との理由が示され、その「記」には、
『1.理由1について
(1)平成25年3月21日付けの手続補正(以下、「第3回目の手続補正」という。)は、本願請求項1の記載に「触媒の含有率が3?12ppmである(粗製生成物)」という事項、及び「可能な限り(除去)」という事項を導入する補正を含むものであるところ、当該補正が「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの」であるか否かについて〔参考判決:平18(行ケ)10563号〕、以下に検討する。
(2)先ず、本願当初明細書の段落0015には「欠点を可能な限り回避する」との記載があるものの、本願当初明細書には「可能な限り除去」という事項に対応する事項が記載されていないので、当該「可能な限り」という事項については「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの」であるとは認められない。
(3)次に、本願当初明細書の段落0038には「例1 12ppmのPt含有率」との記載があり、同段落0040には「例2 Pt含有率12ppm」との記載があり、同段落0042には「例3 3ppmのPt含有率」との記載があるが、これらは「Pt」という「貴金属」それ自体の含有率に関する記載であって、「触媒」それ自体の含有率についての記載ではなく、本願明細書の段落0024の「Pt、Pd、Rh又はIrをベースとする貴金属触媒」との記載に照らして、当該「例1」?「例3」の「Pt含有率」との記載から、PdやRhなどの他の貴金属の触媒にまで、その「3?12ppm」という特定の数値範囲を導き出し得るとは認められない。
(4)そして、『特許・実用新案 審査基準』の『第III部 第I節 新規事項』の『4.2(3)数値限定』の項の『例えば、発明の詳細な説明中に「望ましくは24?25℃」との数値限定が明示的に記載されている場合には、その数値限定を請求項に導入することができる。また、24℃と25℃の実施例が記載されている場合は、そのことをもって直ちに「24?25℃」の数値限定の補正が許されることにならないが、当初明細書等の記載全体からみて24?25℃の特定の範囲についての言及があったものと認められる場合(例えば、24℃と25℃が、課題・効果等の記載からみて、ある連続的な数値範囲の上限・下限等の境界値として記載されていると認められるとき)もある。このような場合は、実施例のない場合と異なり、数値限定の記載が当初からなされていたものと評価でき、新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許される。』との基準に照らして、上記「触媒の含有率が3?12ppm」という数値限定が、本願当初明細書に記載された「課題・効果等の記載」からみて、本願の出願当初からなされていたものと評価できる合理的な理由は見当たらない。
(5)したがって、第3回目の手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。』との指摘がなされている。

3.審判請求人の釈明
平成26年1月29日付けの意見書において、審判請求人は『請求項1において、「触媒」を「Pt触媒」および「白金」に減縮する補正を行いました。また、「可能な限り」を、「溶出液中のPt含有率が、2ppm?1ppm未満の検出限界未満になるまで」なる範囲に減縮する補正を行いました。これらの補正は、当初明細書、特に実施例に記載した事項の範囲内において、補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項を限定するために行ったものにすぎず、新たな技術的事項を導入する補正ではなく、また補正前と補正後の発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題に変更はありません。従いまして上記の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正です。』と釈明している。

4.判断
第4回目の手続補正は、上記『第2 平成26年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定』のとおり却下された。
そして、第3回目の手続補正は、本願請求項1の記載に「触媒の含有率が3?12ppmである(粗製生成物)」という事項、及び「可能な限り(除去)」という事項を導入する補正を含むものであるところ、当該補正が「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの」であるか否かについて〔参考判決:平18(行ケ)10563号〕、以下に検討する。
まず、本願当初明細書の段落0015には「欠点を可能な限り回避する」との記載があるものの、本願当初明細書には「可能な限り除去」という事項に対応する事項が記載されていないので、当該「可能な限り」という事項については「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの」であるとは認められない。
次に、本願当初明細書の段落0038には「例1 12ppmのPt含有率」との記載があり、同段落0040には「例2 Pt含有率12ppm」との記載があり、同段落0042には「例3 3ppmのPt含有率」との記載があるが、これらは「Pt」という「貴金属」それ自体の含有率に関する記載であって、「触媒」それ自体の含有率についての記載ではなく、本願明細書の段落0024の「Pt、Pd、Rh又はIrをベースとする貴金属触媒」との記載に照らして、当該「例1」?「例3」の「Pt含有率」との記載から、PdやRhなどの他の貴金属の触媒にまで、その「3?12ppm」という特定の数値範囲を導き出し得るとは認められない。また、上記「触媒の含有率が3?12ppm」という数値限定が、本願当初明細書に記載された「課題・効果等の記載」からみて、本願の出願当初からなされていたものと評価できる合理的な理由も見当たらない。
したがって、第3回目の手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

5.進歩性について
(1)はじめに
本願請求項1に記載された発明(以下「本1発明」という。)は、上記『4.』で述べたように新規事項が追加されている発明であることから、公知の刊行物に記載された発明に対する新規性進歩性等の特許要件についての審理をなし得ないものである。
しかしながら、先の拒絶理由通知書には、その「理由2」として「この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?9に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示されていることから、本1発明の進歩性の特許要件についても一応検討する。

(2)引用する刊行物及び刊行物に記載された発明
先の拒絶理由通知書の「記」において引用した刊行物2、5及び6の各々は、上記『第2 2.(2)イ.』において引用した刊行物A、B及びEに対応し、その各々の記載事項は、その『イ.(ア)、(イ)及び(オ)』に示したとおりである。
そして、摘記A1及びA2並びに塩化白金酸の6水和物の分子量が518であることからみて、刊行物2には、
『アリルグリシジルエーテルと、トリメトキシシランとを、白金系触媒を用いて反応させて、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを製造する方法において、白金の含有量が約7.2ppm(触媒の含有量が約19ppm)である反応溶液を、単蒸留して純度99.7%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを得る方法。』についての発明(以下「刊2発明」という。)が記載されている。

(3)本1発明と刊2発明との対比
上記『第2 2.(1)イ.?ウ.』において検討したように、第4回目の手続補正は、限定的減縮を目的とするものではない。
このため、本1発明と刊2発明とを対比すると、両者は『触媒の存在下にヒドロゲンシランとアリルグリシドエーテルとを反応させ、かつその際得られる粗製生成物を後処理することによるエポキシシランの製法において、触媒の含有率がppmオーダーである粗製生成物を蒸留する、エポキシシランの製法。』に関するものである点において一致し、
(α’)後処理が、本1発明においては、蒸留の前に粗製生成物から「触媒を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により可能な限り除去」する工程を有するのに対して、引用発明においては蒸留の前に「触媒を、平均粒度1?30mmを有する活性炭からなる固体吸着床中での吸着により可能な限り除去」する工程を有していない点、及び
(β)粗製生成物の触媒の含有率が、本1発明においては「3?12ppm」であるのに対して、刊2発明においては「約19ppm」である点、
の2つの点において相違する。

(4)判断
まず、上記(β)の相違点について、本願明細書の「例1」及び「例2」の具体例においては、その粗製生成物が「12ppmのPt含有率」であるとされており、刊2発明の「白金の含有量が約7.2ppm(触媒の含有量が約19ppm)」に比べて白金(及び触媒)の含有率が高いものである。しかしながら、触媒の含有率が3?12ppmである場合と約19ppmである場合とで、飛躍的な効果の改善が得られるとも認められない。してみると、本1発明の「触媒の含有率」の数値範囲について、その上限に技術的な意味は認められないので、この点について実質的な差異は認められない。
次に、上記(α’)の相違点について、反応に使用した触媒が残存したまま蒸留工程を行うと生成物の増粘やゲル化が起こるなどの望ましくないという問題点が生じるという課題は、刊行物5(摘記B1)に記載されるように、本願優先日前の技術水準において当業者に普通に認識されていたものである。したがって、刊行物2に記載された「刊2発明」においても、このような課題は当業者によって普通に配慮されるものと認められる。
そして、そのような課題の解決手段(本願明細書の段落0017の『触媒の吸着又は還元による除去』に相当する手段)として、刊行物5の摘記B1の記載や、特開平7-118251号公報(刊行物C)の要約の「(1)反応終了後…吸着剤処理を行う工程と(2)蒸留工程とを行う…製造法。…高純度のものが収率よく得られる。」との記載や、特開平9-59268号公報の段落0004の「蒸留中に濾過…で取り除ききれない触媒の影響により…副反応がおこり…製品の純度および収量を低下させる。この問題を解決するために…粉末状水酸化アルカリを加えてから蒸留する」との記載などにあるように、触媒を除去する方法(吸着剤処理や濾過や触媒の還元処理による失活などの方法)が普通に知られていたところ、刊行物6(摘記E1)に記載されるように、白金系触媒を用いたヒドロシリル化反応において、蒸留の前に粗製生成物から白金を活性炭からなる固体吸着床での吸着により除去することは、本願優先日前の技術水準における周知慣用の手段であるから、この周知慣用の手段を上記課題の解決手段として採用することは当業者が容易に想起し得たことと認められる。また、そのような活性炭による触媒の除去を行うに際しては、使用する活性炭の平均粒度の数値範囲の最適化を図り、触媒を可能な限り除去するようにすることは、当業者が適宜行う設計事項であって、格別の創意工夫を要することではない。
さらに、本1発明の効果について検討するに、上記『第2 2.(2)オ.』で述べたのと同様の理由により、本1発明に格別予想外の顕著な効果はない。
したがって、本1発明は、刊行物2及び5?6に記載された発明並びに本願優先日前の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願は、その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、本1発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-15 
結審通知日 2014-04-21 
審決日 2014-05-15 
出願番号 特願2000-221321(P2000-221321)
審決分類 P 1 8・ 572- WZ (C07F)
P 1 8・ 121- WZ (C07F)
P 1 8・ 575- WZ (C07F)
P 1 8・ 55- WZ (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 美祝  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 唐木 以知良
木村 敏康
発明の名称 エポキシシランの製法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 篠 良一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 星 公弘  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 高橋 佳大  
代理人 久野 琢也  
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