• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1292410
審判番号 不服2013-15518  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-09 
確定日 2014-10-02 
事件の表示 特願2009- 82572「ヘモグロビン類分離用カラム充填剤,ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法,並びに,ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日出願公開,特開2010-236909〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年3月30日を出願日とする出願であって,平成24年10月31日付けで拒絶理由が通知され,同年12月3日付けで意見書が提出され,平成25年5月8日付で拒絶査定されたのに対し,同年8月9日に拒絶査定不服の審判請求がなされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
架橋性アクリル系単量体を含有し、かつ、アクリル系単量体のみからなる単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子と、前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系架橋重合体被覆層とからなる
ことを特徴とするヘモグロビン類分離用カラム充填剤。」(下線は補正箇所を示す)と補正された。

2 補正事項について
補正前の請求項1における「アクリル系架橋重合体層」を「アクリル系架橋重合体被覆層」に限定する補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平11-302304号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記において,引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項3】水性分散媒に分散された疎水性高分子微粒子(A)に、疎水性架橋性単量体(B)または疎水性架橋性単量体(B)及び疎水性非架橋性単量体(C)を含む単量体混合物(D)、並びに有機溶媒(E)を吸収させて、重合開始剤(F)の存在下に重合し、さらに重合の途中で親水性単量体(G1)を添加して重合を継続することにより、架橋されておりかつ平均細孔半径が100?1000Åの細孔を有する親水性高分子微粒子(H1)よりなる液体クロマトグラフィー用充填剤を製造する方法。」

(1-イ)「【0028】上記疎水性高分子微粒子(A)を得るのに用いられる単量体(K)の例としては、・・・、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート・・・などを例示することができる。」

(1-ウ)「【0044】請求項1及び3の発明においては、上記疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合途中において、親水性単量体(G1)を反応系に添加する。この重合途中とは、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合が完全に終了する前を意味し、好ましくは、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合率が20?98%、より好ましくは30?95%の範囲とされ、かつ最初に添加した重合開始剤(F)が残存している状態で上記親水性単量体(G1)を添加する。
【0045】また、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合を開始してから、すなわち所定温度に達してから、親水性単量体(G1)の添加までの重合時間は、好ましくは0.3?20時間、より好ましくは0.5?10時間とされる。0.3時間未満の場合には、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合が十分に進んでいない段階で親水性単量体(G1)を添加するため、親水性単量体を最終的に得られる高分子微粒子表面付近に偏在させ難くなり、20時間を超えると、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合が完了に近くなり、親水性単量体(G1)の重合がし難くなる。」

(1-エ)「【0051】上記親水性単量体(G1)としては、親水性基を有する単量体であれば、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、アリルスルホン酸、マレイン酸、フマル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリレート、3-スルホプロピルメタクリレート、2-(メタ)(アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートなどのカチオン交換基を有する単量体;・・・および上記の単量体の誘導体類などを挙げることができる。」

(1-オ)「【0091】他方、上記疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)を吸収させて重合する途中で、親水性単量体(G1)を添加して重合を継続するため、高分子微粒子骨格の周囲に形成される層は、上記親水性単量体重合物を含むことになるため、得られた高分子微粒子(H1)が親水性単量体(G1)由来の親水性基により親水性を有し、かつ親水性基が親水性高分子微粒子(H1)の表面付近に偏在される。従って、親水性を有しつつ、上記のように耐圧性に優れた高分子微粒子(H1)を得ることができると共に、外部環境の変化による親水性基の応答速度が高められ、すなわち平衡時間の短縮効果が得られる。」

(1-カ)「【0101】(実施例1)疎水性高分子微粒子(A-1)1gを分散させた0.5重量%ラウリル硫酸ナトリウム(和光純薬社製)水溶液400mLに、3重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液200mLを添加し、1時間室温で攪拌した(A-1分散液)。一方で、疎水性架橋性単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレート(キシダ化学社製)50gおよびイソアミルアルコール20mLを混合し、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(和光純薬社製)1.0gを溶解させた。これに0.5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液900mLを添加して、ホモジナイザー(IKA Labotechnik 社製)にて、24000rpmで15分ホモジナイズした。得られた乳化液を、上記A-1分散液に添加して24時間室温で攪拌し、単量体、重合開始剤及び有機溶媒を高分子微粒子A-1に吸収させた。その後、反応系を70℃に昇温し2時間重合を行った。2時間後、親水性単量体としてメタクリル酸(和光純薬社製)20gを添加し、さらに70℃で2時間重合を行った。イオン交換水およびメタノールで洗浄して乾燥し、親水性高分子微粒子(H-1)を得た。」

(1-キ)「【0121】(4)測定例
(a)イオン交換によるヘモグロビン類の測定例
カルボキシル基を有する高分子微粒子H-1(実施例1)、H-3(比較例1)、H-4(比較例2)及びH-7(比較例5)について、ヒト血液中のヘモグロビン類の分離を行った。まずそれぞれの高分子微粒子を上記と同様の手法で、4.6mm径×35mmのステンレス製カラムに充填し、以下の測定条件で試料の測定を行った。」(ここでワープロの制限上,原文の「丸囲み数字4測定例」を「(4)測定例」と記載する。)

(1-ク)「【0124】測定結果
上記測定条件により、試料を測定して得られたクロマトグラムを図1?4に示した。図1は充填剤がH-1、図2は充填剤がH-3、図3は充填剤がH-4、図4は充填剤がH-7のカラムを用いて得られたものである。ピーク1はヘモグロビンA1a(HbA1a)及びヘモグロビンA1b(HbA1b)、ピーク2はヘモグロビンF(HbF)、ピーク3は不安定型ヘモグロビンA1c(不安定型HbA1c)、ピーク4は安定型ヘモグロビンA1c(安定型HbA1c)、ピーク5はヘモグロビンA0(HbA0)を示す。
【0125】図1(H-1使用)では短時間に分離でき、各ピークもシャープであった。」

(1-ケ)「【発明の効果】
・・・
【0157】また上記親水性高分子微粒子(H1)を、請求項3に記載のように液体クロマトグラフィー充填剤として用いた場合、親水性高分子微粒子(H1)が、耐圧性に優れているため、高圧充填が可能であり、各種クロマトグラフィーにおける測定の速度を高めることができると共に、様々な試料を正確かつ繰り返し測定することができる。よって、高圧充填可能であるだけでなく、測定精度の向上、並びに充填剤の寿命の長寿化を図ることが可能となる。」


これらの記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「イオン交換によるヘモグロビンの分離を行うためのカラムに充填する親水性高分子微粒子の充填剤であって,
該親水性高分子微粒子は,疎水性架橋性単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレートおよびイソアミルアルコールを混合し,重合開始剤として過酸化ベンゾイルを溶解させて得られた乳化液を,疎水性高分子微粒子を分散させた分散液に添加して,それらの単量体,重合開始剤及び有機溶媒を高分子微粒子に吸収させた後,2時間重合を行い,2時間後,親水性単量体としてメタクリル酸を添加し,さらに2時間重合を行って,親水性高分子微粒子を得たものであり,
該親水性高分子微粒子は,疎水性架橋性単量体を吸収させて重合する途中で、親水性単量体を添加して重合を継続するため,高分子微粒子骨格の周囲に形成される層は,上記親水性単量体重合物を含むものである,
充填剤。」(以下「引用発明1」という。)


4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「イオン交換によるヘモグロビンの分離を行うためのカラムに充填する親水性高分子微粒子の充填剤」は,本願補正発明の「ヘモグロビン類分離用カラム充填剤」に相当する。

イ 引用発明における「疎水性架橋性単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレートおよびイソアミルアルコールを混合し,重合開始剤として過酸化ベンゾイルを溶解させて得られた乳化液を,疎水性高分子微粒子を分散させた分散液に添加して,それらの単量体,重合開始剤及び有機溶媒を高分子微粒子に吸収させた後,2時間重合を行」う重合方法は,「疎水性高分子微粒子」をシードとして「疎水性架橋性単量体」を重合させていくという,いわゆるシード重合法といわれるものである。ここで,引用発明の「疎水性架橋性単量体として」の「トリエチレングリコールジメタクリレート」は,本願明細書で「上記架橋性アクリル系単量体は特に限定されず、例えば、・・・、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート」と記載されているように,本願補正発明の「架橋性アクリル系単量体」に相当する。
また,引用発明の「疎水性高分子微粒子」について,引用例1の摘記(1-イ)に「上記疎水性高分子微粒子(A)を得るのに用いられる単量体(K)の例としては、・・・、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート」と記載されており,これらは,本願明細書の「上記架橋性アクリル系単量体は特に限定されず、例えば、・・・、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、・・・、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、・・・1,6-ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、・・・、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、・・・、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート」と共通するものであるから,引用発明の「疎水性高分子微粒子」も「架橋性アクリル系単量体」から得られたシードといえる。
してみれば,引用発明の「疎水性架橋性単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレートおよびイソアミルアルコールを混合し,重合開始剤として過酸化ベンゾイルを溶解させて得られた乳化液を、疎水性高分子微粒子を分散させた分散液に添加して,それらの単量体、重合開始剤及び有機溶媒を高分子微粒子に吸収させた後、2時間重合を行」って得られる高分子微粒子の原料となる単量体は,架橋性アクリル系単量体を含有し,アクリル系単量体以外の種類のものを含まないものといえる。
一方,本願補正発明の「架橋性アクリル系単量体を含有し、かつ、アクリル系単量体のみからなる単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子」における「重合」について,本願明細書では「本発明の製造方法においては、まず、架橋重合体粒子を調製する。この架橋重合体粒子は、上記架橋性アクリル系単量体、及び、必要に応じて非架橋性アクリル系単量体を含有し、かつ、アクリル系単量体のみからなる単量体混合物を用いて、重合開始剤の存在下で重合反応を行うことにより調製される。上記重合反応の方法は特に限定されず、例えば、乳化重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等の公知の重合反応を適用することができる。なかでも、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等を用いることが好適である。」(【0033】)(下線は当審が付与した)と記載されているように,本願補正発明の「架橋重合体粒子」は引用発明と同じようにシード重合法を用いて得られるものを含む。
してみれば,引用発明の「疎水性架橋性単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレートおよびイソアミルアルコールを混合し,重合開始剤として過酸化ベンゾイルを溶解させて得られた乳化液を、疎水性高分子微粒子を分散させた分散液に添加して,それらの単量体、重合開始剤及び有機溶媒を高分子微粒子に吸収させた後、2時間重合を行」った段階の「高分子微粒子」は,本願補正発明の「架橋性アクリル系単量体を含有し、かつ、アクリル系単量体のみからなる単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子」に相当するといえる。

ウ 引用発明の「親水性単量体として」の「メタクリル酸」は,引用例1の摘記(1-エ)に「上記親水性単量体(G1)としては、親水性基を有する単量体であれば、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸、・・・などのカチオン交換基を有する単量体」(【0051】)と記載されているように,本願補正発明の「カチオン交換基を有するアクリル系」の単量体に相当するものである。また,引用発明の「親水性単量体としてメタクリル酸を添加し、さらに2時間重合を行」う処理は,「疎水性架橋性単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレートおよびイソアミルアルコールを混合し,重合開始剤として過酸化ベンゾイルを溶解させて得られた乳化液を、疎水性高分子微粒子を分散させた分散液に添加して,それらの単量体、重合開始剤及び有機溶媒を高分子微粒子に吸収させた後、2時間重合を行」った後に行うものであるから,上記アで検討したように,本願補正発明の「架橋重合体粒子」に相当する高分子微粒子に対して行うものである。そして,引用発明において,「親水性単量体としてメタクリル酸を添加し、さらに2時間重合を行って」得た「親水性高分子微粒子」は,「疎水性架橋性単量体を吸収させて重合する途中で、親水性単量体を添加して重合を継続するため、高分子微粒子骨格の周囲に形成される層は、上記親水性単量体重合物を含む」というものである。
してみれば,引用発明の「親水性単量体としてメタクリル酸を添加し、さらに2時間重合を行って」得た「親水性単量体重合物を含む」「高分子微粒子骨格の周囲に形成される層」と,本願補正発明の「前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系架橋重合体被覆層」とは,「前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系重合体層」の点で共通するものである。


してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「架橋性アクリル系単量体を含有し,かつ,アクリル系単量体のみからなる単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子と,前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる,カチオン交換基を有するアクリル系重合体層とからなるヘモグロビン類分離用カラム充填剤。」
の点で一致し,以下の点で一応相違する。

(相違点)
アクリル系重合体層について,本願補正発明では,それが「架橋」している「被覆」層であるのに対し,引用発明では,それが「架橋」している「被覆」層かどうか不明である点。

(2)相違点に対する判断
本願補正発明の「アクリル系架橋重合体被覆層」の形成について,本願明細書の実施例には,以下のように記載されている。
「(実施例1)
架橋性アクリル系単量体としてトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)400g及びテトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学工業社製)100gの混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(ナカライテスク社製)1.0gを溶解した。得られた単量体混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学社製、「ゴーセノールGH-20」)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、カチオン交換基を有するアクリル系単量体として3-スルホプロピル(メタ)アクリル酸(和光純薬工業社製)195g、及び、架橋性アクリル系単量体としてグリセロールジアクリレート(日油社製)5g(2.5重量%)を反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた架橋重合体粒子をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、スルホン酸基が導入された架橋重合体粒子(ヘモグロビン類分離用カラム充填剤)を得た。」(【0049】)
「(実施例2)
架橋性アクリル系単量体としてテトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)400g、及び、非架橋性アクリル系単量体として2-ヒドロキシエチルメタクリレート(新中村化学工業社製)100gの混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(ナカライテスク社製)1.0gを溶解した。得られた単量体混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学社製、「ゴーセノールGH-20」)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、カチオン交換基を有するアクリル系単量体として2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(東亞合成社製)170g、及び、架橋性アクリル系単量体としてノナエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)30g(15重量%)を反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた架橋重合体粒子をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、スルホン酸基が導入された架橋重合体粒子(ヘモグロビン類分離用カラム充填剤)を得た。」(【0051】)(下線は当審が付与した)
上記実施例1及び2によれば,最初の「1時間重合反応」で,本願補正発明の「架橋重合体粒子」が得られ,次の「1時間重合反応」により本願補正発明の「前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系架橋重合体被覆層」が得られているといえる。そして,その「架橋重合体粒子」と「被覆層」との界面はどのような形態となっているのか明記されていないものの,本願補正発明が「多数の試料を測定する場合には被覆層が剥離し、測定精度が低下する可能性が大きい。」(【0005】)という技術課題を解決したものであることを考慮すると,「被覆層」は単に「架橋重合体粒子」の表面を覆うコーティングのようなものではなく,「被覆層」と「架橋重合体粒子」との間で被覆層が剥離しないようにする反応が起きているものと判断されるものである。
なお,この点,請求人は,平成25年8月9日に提出された審判請求書の請求の理由において,「本願明細書の実施例1では、架橋性単量体を重合し、その途中で、カチオン性単量体と架橋性単量体を添加してさらに重合を継続します。架橋重合体粒子内には単量体及び重合開始剤が残存することから、カチオン性単量体と架橋性単量体は、架橋重合体内に残存する重合開始剤や残存単量体由来の活性ラジカルを開始点」として重合していくと説明している。
一方,引用発明は,重合を行った後,カチオン交換基を有する単量体を添加して,さらに重合を行うものであり,その結果,カチオン交換基を有する単量体の重合物を含む層が高分子微粒子の骨格の周囲に形成されるものである。引用発明において,単量体、重合開始剤及び有機溶媒が高分子微粒子に吸収されたものが重合する際に,単量体は架橋性のものであるから架橋重合することになり,その架橋重合の途中でカチオン交換基を有する単量体が添加され,さらに重合を行うものであるが,引用例1の摘記(1-ア)に「さらに重合の途中で親水性単量体(G1)を添加して重合を継続することにより、架橋され」ると記載されていることから,架橋重合の途中で添加される親水性単量体(G1)であるカチオン交換基を有する単量体は,高分子微粒子に既に吸収されている架橋性の重合体と一緒に架橋,重合していくものと判断される。この点,引用例1の摘記(1-ウ)に「0.3時間未満の場合には、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合が十分に進んでいない段階で親水性単量体(G1)を添加するため、親水性単量体を最終的に得られる高分子微粒子表面付近に偏在させ難くなり、20時間を超えると、疎水性架橋性単量体(B)または単量体混合物(D)の重合が完了に近くなり、親水性単量体(G1)の重合がし難くなる。」と記載されているように,重合が進んでいない段階で親水性単量体(G1)を添加すると高分子微粒子表面付近に偏在し難く,重合が完了に近くに親水性単量体(G1)を添加すると親水性単量体(G1)は重合し難いとうことからも,架橋重合の途中で添加される親水性単量体(G1)であるカチオン交換基を有する単量体は,高分子微粒子に既に吸収されている架橋性の重合体と共に架橋,重合していくことを示している。
してみれば,引用発明における「カチオン交換基を有する単量体重合物を含む層」は,その架橋の程度は不明であるものの,架橋重合物を含むものといえる。また,引用発明においては,高分子微粒子の骨格の周囲に形成される「カチオン交換基を有する単量体重合物を含む層」が「被覆」であることは特定されていないものの,本願発明における「被覆」は,上記の検討のとおり,単に粒子の表面を覆うコーティングのようなものではなく,架橋重合体粒子内に残存する単量体及び重合開始剤が使われることを考慮するに,引用発明の高分子微粒子の骨格の周囲に形成される「カチオン交換基を有する単量体重合物を含む層」は,本願発明における「被覆層」に相当するものと判断される。
したがって,引用発明の高分子微粒子の骨格の周囲に形成される「カチオン交換基を有する単量体重合物を含む層」は,本願補正発明の「前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系架橋重合体被覆層」と実質的に相違しないものといえる。
加えて,本願補正発明の「カチオン交換基を有するアクリル系架橋重合体被覆層」における「架橋」が,主に上記実施例1及び2に記載されている最初の「1時間重合反応」の後に添加される架橋性アクリル系単量体によるものであるにしても,高分子材料の機械的強度を上げ耐久性を増すために重合の際に架橋性の単量体を入れることは技術分野を問わず慣用手段であり,本願明細書で「このような使用中の被覆層の剥離を抑制する手段としては、例えば、特許文献4に記載されている、被覆層を架橋する方法がある。」【0007】と記載されている特開2002-30121号公報(特許文献4)にも記載されているように,それを被覆層の剥離を抑制する手段に使うことも本出願前既に公知のことである。引用発明においても,「耐圧性に優れているため、高圧充填が可能」「充填剤の寿命の長寿化を図ることが可能」(【0157】)となるようにするためのものであるから,親水性単量体すなわちカチオン交換基を有する単量体を添加する時に,さらに機械的強度を上げ耐久性を増すために,架橋性の単量体も同時に添加することは当業者が容易に想到することであり,その際,カチオン交換基を有する単量体がアクリル系であれば,アクリル系の架橋性の単量体となることは自明のことである。
そして,本願明細書で記載している本願補正発明の効果も,引用例1の摘記(1-ク)及び(1-ケ)に記載されていることと同様であり,格別顕著なものとはいえない。

(3)請求人の主張について
なお,請求人は,審判請求書の請求の理由において,引用例1について,シード粒子内の全ての架橋重合が前半部分の重合で形成され,後半部分の重合は親水性単量体G1の重合のみで架橋を伴うものではないことを示した模式図を記載し,「引用文献1に記載された発明では、このようにして、シード重合による架橋重合体(単量体(B)(C)(D)による)とその表面に形成された親水性単量体G1の単独重合体による被覆層からなる2層構造の粒子が形成します。ここで親水性単量体G1の単独重合体による被覆層は、当然に非架橋性となります。(即ち、引用文献1に記載された重合反応は、前半部分(シード重合部分)を除くと、本願明細書の比較例1に記載された反応と同じものと言えます。)」と主張しているが,引用例1の摘記(1-ウ)に記載されているとおり,前半部分の重合率が下限として20%でもあり,その時には,シード粒子内の架橋重合の80%は親水性単量体G1の重合と共に重合することになるから,その模式図は適当とはいえず,親水性単量体G1の重合による被覆層の全てが非架橋性であるとはいえない。また,請求人は,単量体G1は親水性であるから,疎水性シード粒子外に存在することも主張しているが,疎水性単量体と親水性単量体とは共重合を生じ得るものであり,引用発明のようなジメタクリレート(疎水性単量体)とメタクリル酸(親水性単量体)との間で共重合は生じるものである(仮に,両者の間で共重合が生じないとするなら,上記本願明細書の実施例においても,カチオン交換基を有するアクリル系単量体と架橋性アクリル系単量体は別々に重合することになり,本願補正発明の目的は達成しえない。)ことを考慮すると,引用発明のメタクリル酸(親水性単量体)はシード粒子内のトリエチレングリコールジジメタクリレート(疎水性単量体)の架橋重合と共に共重合するといえ,親水性単量体G1の重合による被覆層の全てが非架橋性であるとはいえない。

(4)小括
したがって,本願補正発明は,引用発明と実質的に相違がないものといえることから,引用例1に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するか,あるいは,引用発明並びに周知及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1?6に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
架橋性アクリル系単量体を含有し、かつ、アクリル系単量体のみからなる単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子と、前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系架橋重合体層とからなることを特徴とするヘモグロビン類分離用カラム充填剤。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1の記載事項は,上記第2の「3 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の「2 補正事項について」に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,本願補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本願補正発明が,前記第2の「4 対比・判断」に記載したとおり,引用用例1に記載された発明であるか,あるいは,引用発明並びに周知及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当するか,あるいは,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-07-29 
結審通知日 2014-08-05 
審決日 2014-08-19 
出願番号 特願2009-82572(P2009-82572)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 ヘモグロビン類分離用カラム充填剤、ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法、並びに、ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ