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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C |
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管理番号 | 1292414 |
審判番号 | 不服2013-20080 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-16 |
確定日 | 2014-10-02 |
事件の表示 | 特願2009-113987号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日出願公開、特開2010-260489号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年5月8日の出願であって、平成25年7月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年10月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。 2.平成25年10月16日付け手続補正についての補正却下の決定 【補正却下の決定の結論】 平成25年10月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 【理由】 2-1.本件補正 本件補正は、補正前の請求項1に、 「トレッド部に埋設したベルト層の外周側に繊維コードをタイヤ周方向に巻回してなるベルトカバー層を配置した空気入りタイヤにおいて、 前記トレッド部を、ジエン系ゴム100重量部に対し、重量平均分子量が2000?20000のスチレン-ブタジエン共重合体を10?150重量部配合したゴム組成物で構成し、前記繊維コードを有機繊維により構成すると共に、前記空気入りタイヤから取り出した前記繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?5.0%であり、競技用に用いる空気入りタイヤ。」 とあるのを、 「トレッド部に埋設したベルト層の外周側に繊維コードをタイヤ周方向に巻回してなるベルトカバー層を配置した空気入りタイヤにおいて、 前記トレッド部を、ジエン系ゴム100重量部に対し、重量平均分子量が2000?20000のスチレン-ブタジエン共重合体を10?150重量部配合したゴム組成物で構成し、前記繊維コードをアラミド繊維とナイロン繊維との複合繊維により構成すると共に、前記空気入りタイヤから取り出した前記繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?5.0%であり、競技用に用いる空気入りタイヤ。」 とする補正を含むものである。 本件補正後の請求項1は、補正前の請求項1の記載において、繊維コードを構成する有機繊維が「アラミド繊維とナイロン繊維との複合繊維」であることの限定を付加するものである。また、この補正により、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2-2.本願補正発明 本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「2-1.本件補正」の補正後の請求項1参照。)により特定されたとおりのものと認める。 2-3.引用例 本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-154696号公報(以下「引用例1」という。)及び特開2009-57001号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の各事項が記載されている。 [引用例1について] (1a)「【請求項1】 (a)スチレン含有量が20?60重量%であるスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを60重量%以上含有するゴム成分100重量部に対して、 (b)スチレン含有量が10?70重量%、および重量平均分子量が2000?50000である低分子量スチレン-ブタジエン共重合体5?200重量部、 (c)軟化点が50?150℃である樹脂2?50重量部、ならびに (d)軟化剤および/または可塑剤1?10重量部からなるタイヤトレッド用ゴム組成物。」 (1b)「【背景技術】 【0002】 レース用タイヤをはじめとした競技用タイヤのトレッドゴムには、一般に、耐摩耗性とグリップ性能との両立が要求される。従来、高いグリップ性能を得るために、たとえばガラス転移温度(Tg)の高いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を使用する方法が知られているが、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなるという問題があった。」 (1c)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、耐摩耗性およびグリップ性能を高次に両立させたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを目的とする。」 (1d)「【0010】 本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は(a)ゴム成分、(b)低分子量スチレン-ブタジエン共重合体、(c)樹脂、ならびに(d)軟化剤および/または可塑剤からなる。 【0011】 ゴム成分(a)は、スチレン含有量が20?60重量%であるスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)からなる。該スチレン含有量の上限については、50重量%であることが好ましい。スチレン含有量が20重量%未満では、充分なグリップ性能が得られない。また、60重量%をこえると、耐摩耗性が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまう。」 (1e)「【0014】 低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)のスチレン含有量は、10?70重量%である。該スチレン含有量の下限については、20重量%であることが好ましい。また、上限については、60重量%であることが好ましい。スチレン含有量が10重量%未満では、充分な耐摩耗性が得られない。また、70重量%をこえると、グリップ性能が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまう。 【0015】 前記低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)の重量平均分子量は、2000?50000である。該重量平均分子量の下限については、2500であることが好ましく、3000であることがより好ましい。また、上限については、40000であることが好ましく、30000であることがより好ましい。重量平均分子量が2000未満では、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、50000をこえると、特に低温時のグリップ性能が低下する傾向がある。 【0016】 前記低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)の配合量は、ゴム成分(a)100重量部に対して5?200重量部である。該配合量の下限については、10重量部であることが好ましく、20重量部であることがより好ましい。また、上限については、180重量部であることが好ましく、150重量部であることがより好ましい。5重量部未満では、グリップ性能が低下し、200重量部をこえると、耐摩耗性が低下してしまう。」 以上の記載において、記載事項(1b)に背景技術として「競技用タイヤのトレッドゴム」についての問題が記載されていることからすると、記載事項(1a)及び(1d)の「タイヤトレッド用ゴム組成物」は「競技用タイヤのトレッドゴム」に適用されるものと認識し得ることから、引用例1には、 「タイヤトレッド用ゴム組成物が、(a)ゴム成分、(b)低分子量スチレン-ブタジエン共重合体、(c)樹脂、ならびに(d)軟化剤および/または可塑剤からなり、 前記ゴム成分(a)は、スチレン含有量が20?60重量%であるスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)からなり、 前記低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)の重量平均分子量は、2000?50000であり、該重量平均分子量の下限については、2500であることが好ましく、3000であることがより好ましく、また、上限については、40000であることが好ましく、30000であることがより好ましく、 前記低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)の配合量は、ゴム成分(a)100重量部に対して5?200重量部であり、該配合量の下限については、10重量部であることが好ましく、20重量部であることがより好ましい、 競技用タイヤ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用例2について] (2a)「【請求項1】 トレッド部におけるカーカス層の外周にコード方向を交差させた複数のベルト層を配置すると共に、該ベルト層の少なくとも両端部における外周にタイヤ周方向に延びる有機繊維コードからなるベルトカバー層を配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、 前記有機繊維コードの25℃における2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?3.0%であり、150℃における熱収縮応力が0.25?0.45cN/dtexであると共に、前記ベルトカバー層における前記有機繊維コードの被覆ゴムが該有機繊維コードの周囲を覆うゴム組成物Aと該ゴム組成物Aを被覆するゴム組成物Bとからなり、前記ゴム組成物Aのtanδを前記ゴム組成物Bのtanδよりも大きくした空気入りラジアルタイヤ。 【請求項2】 前記有機繊維コードがポリオレフィンケトンからなる請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。」 (2b)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明の目的は、上述する問題点を解消するもので、ベルトカバー層に高弾性かつ高熱収縮性の有機繊維コードを使用したタイヤにおける高速走行時の操縦安定性と高速耐久性とをバランス良く向上させるようにした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」 (2c)「【0011】 図1において、空気入りラジアルタイヤ1は、左右一対のビード部2、2に少なくとも1層(図では1層)のカーカス層3を装架し、このカーカス層3の両端部3a、3aをそれぞれビード部2、2に埋設されたビードコア4、4の周りにタイヤ内側から外側に向かって巻き上げると共に、トレッド部5におけるカーカス層3の外周にコード方向を交差させた複数(図では2層)のベルト層6を配置すると共に、ベルト層6の少なくとも両端部における外周(図ではベルト層6の全幅及び両端部)にタイヤ周方向に延びる有機繊維コード7cからなるベルトカバー層7を配置している。 【0012】 本発明の空気入りラジアルタイヤ1は、ベルトカバー層7を構成する有機繊維コード7cとして、25℃における2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?3.0%であり、150℃における熱収縮応力が0.25?0.45cN/dtexである繊維コードを使用している。そして、図2に示すように、ベルトカバー層7における有機繊維コード7cの被覆ゴム7gを、有機繊維コード7cの周囲を覆うゴム組成物Aとこのゴム組成物Aを被覆するゴム組成物Bとの複合ゴム層で構成し、ゴム組成物Aのtanδをゴム組成物Bのtanδよりも大きくしている。 【0013】 これにより、高速走行時にはゴム組成物Aの発熱により有機繊維コード7cの有する熱収縮特性により、ベルト層6のタガ効果が高められて操縦安定性及び高速耐久性が向上すると共に、ゴム組成物Aの周囲における低発熱性のゴム組成物Bにより、ベルトカバー層7全体の発熱が抑えられて高速耐久性の低下を抑制することができる。」 以上の記載より、引用例2には、 「ベルト層の少なくとも両端部における外周にタイヤ周方向に延びる有機繊維コードからなるベルトカバー層を配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記有機繊維コードの25℃における2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?3.0%である」事項が記載されている。 2-4.対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「競技用タイヤ」は、「空気入りタイヤ」であることは明らかなことより、本願補正発明の「競技用に用いる空気入りタイヤ」に相当し、 引用発明の「スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)」は、本願補正発明の「ジエン系ゴム」に相当し、 引用発明の「低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)の重量平均分子量」の下限の好ましい、より好ましいとされる2500及び3000は、本願補正発明において特定されている「2000?20000」の範囲内であり、 引用発明のゴム成分(a)100重量部に対する「低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(b)の配合量」の下限の好ましい、より好ましいとされる10重量部及び20重量部は、本願補正発明において特定されている「10?150重量部」の範囲内である。 よって、両者は、 「空気入りタイヤにおいて、 トレッド部を、ジエン系ゴム100重量部に対し、重量平均分子量が2000?20000のスチレン-ブタジエン共重合体を10?150重量部配合したゴム組成物で構成した、競技用に用いる空気入りタイヤ。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点;本願補正発明では、トレッド部に埋設したベルト層の外周側に繊維コードをタイヤ周方向に巻回してなるベルトカバー層を配置し、前記繊維コードをアラミド繊維とナイロン繊維との複合繊維により構成すると共に、空気入りタイヤから取り出した前記繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?5.0%であるのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。 2-5.判断 そこで、上記相違点を検討すると、 競技用タイヤにおいて、トレッド部に埋設したベルト層の外周側に繊維コードをタイヤ周方向に巻回してなるベルトカバー層を配置することは、通常よく行われている本願出願前周知の技術である(例えば、特開平3-70602号公報の「バンド部8A」、特開平10-203113号公報の「補強層13」、特開2007-153209号公報の「ベルトカバー層8」、国際公開97/42266号の「ベルト6」参照)ことから、引用発明において、上記のようなベルトカバー層を配置することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、上記ベルトカバー層に関して、引用例2には、「ベルト層の少なくとも両端部における外周にタイヤ周方向に延びる有機繊維コードからなるベルトカバー層を配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記有機繊維コードの25℃における2.0cN/dtex負荷時の伸張率が1.5?3.0%である」事項が記載され、ここで、伸張率「1.5?3.0%」は、本願補正発明において特定されている「1.5?5.0%」の範囲内である。また、引用例2の「空気入りラジアルタイヤ」は、高速走行時の操縦安定性と高速耐久性とをバランス良く向上させることを課題とするものである(記載事項(2b)参照)。一方、引用発明の競技用タイヤも、高速走行での使用が想定され、上記と同様な課題を有することは明らかであることから、引用発明において、当該課題を解決するために、引用例2に記載された事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 さらに、空気入りタイヤの繊維コードに、アラミド繊維とナイロン繊維との複合繊維を用いることは、本願出願前周知の技術であり(例えば、特開2008-260348号公報の段落【0031】、特開平7-232511号公報の各実施例、特開2005-263137号公報の段落【0043】参照)、また、当該複合繊維において、アラミド繊維とナイロン繊維との比率を適宜に選択する等により、引用例2に記載された上記伸張率の範囲内となすことに、格別な困難性があるものとは認められない。 よって、引用発明において、上記各周知の技術を参酌し、引用例2に記載された事項を採用し、上記相違点の本願補正発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 また、本願補正発明が奏する効果は、引用例1及び引用例2のそれぞれに記載された効果または自明な効果から容易に想到し得る範囲内のものである。さらに、引用例2には、有機繊維コードがポリオレフィンケトンからなることが記載され(記載事項(2a)参照)、このポリオレフィンケトンは、本願出願時の明細書においては実施例とされていたものであって、これと比較して本願補正発明のアラミド繊維とナイロン繊維との複合繊維は、本願明細書における評価(表2)にあるように、効果において格別な差があるものでもない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2-6.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するもので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 平成25年10月16日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年6月25日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「2-1.本件補正」の補正前の請求項1参照。)により特定されるとおりのものと認める。 4.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(引用例1)及び引用文献2(引用例2)、それら記載事項及び引用発明は、前記「2-3.引用例」に記載したとおりである。 5.対比・判断 本願発明は、前記「2-2.本願補正発明」で検討した本願補正発明から、繊維コードを構成する有機繊維が「アラミド繊維とナイロン繊維との複合繊維」であることの限定を省いたものである。 そうすると、本願発明を特定するための事項をすべて含み、さらに他の事 項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2-4.対比」及び「2-5.判断」に記載したとおり引用発明及び引用例2に記載された発明に 基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-07-28 |
結審通知日 | 2014-07-29 |
審決日 | 2014-08-18 |
出願番号 | 特願2009-113987(P2009-113987) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B60C)
P 1 8・ 121- Z (B60C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 莊司 英史 |
特許庁審判長 |
丸山 英行 |
特許庁審判官 |
鳥居 稔 平田 信勝 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 小川 信一 |
代理人 | 野口 賢照 |
代理人 | 昼間 孝良 |
代理人 | 平井 功 |
代理人 | 清流国際特許業務法人 |
代理人 | 佐藤 謙二 |
代理人 | 境澤 正夫 |