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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B67D
管理番号 1292547
審判番号 不服2013-14736  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-01 
確定日 2014-10-07 
事件の表示 特願2008-189844「樽内への流体の流動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月 4日出願公開、特開2010- 23904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年7月23日の出願であって、平成25年6月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年8月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、さらに、平成26年2月12日付けで当審において拒絶理由が通知され、これに対し、平成26年4月20日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年4月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「流体包装用樽を載置する受け台と、この受け台の下方に備えられた受け台を下降させる昇降シリンダと、受け台の下方に備えられ、周辺がシールパッキンで取り囲まれた、樽内部に流体を流すための樽接続プローブとを備えた流体包装用樽のクランプ装置を用いた樽内への流体の流動方法において、受け台の下方には樽を下降させる樽クランプシリンダを備え、前記樽は口金首部のフランジがシールパッキン上に位置するように受け台上に位置決めして載置され、その後、樽クランプシリンダによってフランジをクランプして樽を下降させてシールパッキンとフランジを密着させ、樽のクランプ前に口金首部で位置決めできて樽のセンタリングが安定化し、樽接続プローブを通じて樽中に流体を填充することを特徴とする樽内への流体の流動方法。」


3.引用刊行物
当審で通知した拒絶理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である登録実用新案第3079184号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【請求項1】 樽の口金開口に充填ヘッドの噴射口を嵌合、クランプし、充填ヘッドを通して樽内に流体を充填するクランプ装置において、噴射口が樽の口金開口に対向する位置に固定され、口金と接触する個所にパッキンを配置した流体の充填ヘッドと、この充填ヘッドを包囲するように、かつ、上下に移動自在に配置されたシリンダと、このシリンダの上部であって、充填ヘッドに沿って、かつ、充填ヘッドを挟む位置に対象に、そして上方で互いに開く方向に曲がって刻設された一対のカム溝と、充填ヘッドに回転自在に連結され、先端にクランプつめ、および下端にローラをそれぞれ備え、ローラ部分をカム溝に移動自在に嵌合した一対のカムとを備え、シリンダを下方に移動させると、ローラがカム溝に沿って上方に移動し、樽の口金が充填ヘッドのパッキンと接触して充填ヘッドの噴射口が口金開口に嵌合するとともに、クランプつめが口金側壁に達し、やがてローラがカム溝の曲がった個所を通り、溝先端に達すると、クランプつめが口金側壁をクランプするとともに、口金をパッキンに押圧することを特徴とする樽口金への充填ヘッドのクランプ装置。」(【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】)

・「 【0001】
【考案の属する技術分野】
この考案は樽の口金開口に充填ヘッドの噴射口を嵌合、クランプし、充填ヘッドを通して樽内に流体を充填するクランプ装置に係り、特に装置が小型化され、かつ口金寸法が変化してもその寸法に容易に対応でき、さらに口金と充填ヘッド間のシール性も優れた樽口金への充填ヘッドのクランプ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ビール樽等において、ビール樽内にビールを充填したり、あるいはビール樽内の洗浄のためにビール樽内に洗浄水を送り込んだり等、ビール樽内に流体を充填する際に、通常、樽の口金開口に充填ヘッドの噴射口を嵌合し、クランプして樽内に流体が充填される。
【0003】
この種のクランプ装置として、従来、図7に示される装置が用いられている。図7において、樽100の口金101を充填ヘッド102にシールパッキン103を介して当てがい、上方から樽クランプシリンダ104で押圧して樽100の口金101の開口105に充填ヘッド102の噴射口106を嵌合、クランプする。
【0004】
【考案が解決すべき課題】
しかし、上述の公知装置では、樽クランプシリンダ104を上方から用いるため、装置が大型化されてしまい、さらに樽100の口金101と、充填ヘッド102のシールパッキン103との寸法が合致しなければならず、しかも、シールが充分ではないという欠点を有していた。
【0005】
そこで、本考案の目的は装置自体が小型化され、かつ樽の口金寸法が変化してもその寸法に容易に対応できて樽口金の寸法誤差を吸収でき、さらに口金と充填ヘッド間のシール性も向上し、上述の公知技術に存する欠点を改良した樽口金への充填ヘッドのグランプ装置を提供することにある。」(段落【0001】ないし【0005】)

・「 【0008】
図1は本考案にかかるクランプ装置の一具体例の断面図であって、ビール樽等、樽1の口金2の開口3に充填ヘッド4の噴射口5を嵌合、クランプし、樽1内に流体を供給口6から充填ヘッド4を通して充填する。
【0009】
樽1に充填される流体としては、例えば樽1にビールを充填する場合にはビールであり、また、樽1内を洗浄する場合には洗浄水であり、これら流体を供給口6から充填ヘッド4を通り、噴射口5から口金2の開口3を経て樽1内に充填される。
【0010】
上述の本考案クランプ装置は図1に示されるように、充填ヘッド4と、シリンダ7と、一対のカム溝8、8と、一対のカム9、9とから主として構成される。
【0011】
充填ヘッド4は供給口6を介して、図示しないビール、洗浄水等の流体貯蔵槽と連結され、噴射口5が樽1の口金2の開口3に対向する位置に固定されるとともに、口金2と接触する個所にパッキン10を配置して構成され、流体を樽1中に導入する。
【0012】
シリンダ7は充填ヘッド4を包囲するように、かつ油圧等により上下に移動自在に配置される。この上端は樽1を載置する台板11と連結され、このシリンダ7の上下移動により台板11、およびこの上に載置された樽1をも上下移動する。
【0013】
一対のカム溝8、8はシリンダ7の上部7aであって、充填ヘッド4に沿って、かつ充填ヘッド4を挟む位置に対象に、そして上方で互いに開く方向に曲がって刻設される。したがって、これらカム溝8、8はくの字形状、なしいは逆くの字形状となる。
【0014】
一対のカム9、9は充填ヘッド4に固定された軸受アーム12の回転軸13に回転自在に連結され、先端にクランプつめ14、下端にローラ15をそれぞれ備える。そしてローラ15はカム溝8に移動自在に嵌合される。
【0015】
上述の構成からなる本考案クランプ装置は図2乃至図6に示されるように操作して樽1の口金2に充填ヘッド4をクランプする。
【0016】
まず、図2(a)に示されるように、樽1を台板11上に載置する。このとき、シリンダ7は最下端に降ろされており(審決注:「最上端に上げられており」の誤記と認められる。)、したがって、充填ヘッド4の噴射口5は台板11よりも下方に位置し、また、カム9、9もローラ15、15がカム溝8、8の最下端に位置するため、カム9、9の先端のクランクつめ14、14も台板11よりも下方に位置する。このときのカム9、9は図2(b)に示されるように、ローラ15、15がカム溝8、8の下端に位置し、回転を受けずに垂直、かつ平行である。
【0017】
図3(a)はカム9のローラ15がカム溝8の直線部分の最高位置に上昇するまでシリンダ7を下方に移動させた状態を示す。シリンダ7の下降により、台板11も樽1とともに下降する。しかし、充填ヘッド4は固定されており、シリンダ7とは別体であるため移動せず、このため、ローラ15はカム溝8に沿って上方に移動することになり、この移動分だけ、充填ヘッド4の先端部分およびカム9の先端部分が台板11よりも上方に突出する。この結果、樽1の口金2が充填ヘッド4のパッキン10と接触して充填ヘッド4の噴射口5が口金2の開口3に嵌合するとともに、クランプつめ14が口金側壁2aに達する。このときのカム9、9は図3(b)に示されるように、ローラ15、15がカム溝8、8の直線部分の最高位置に位置するが、回転を受けず、垂直かつ、平行である。
【0018】
図4(a)はカム9のローラ15がカム溝8の傾斜して曲がった個所の入口に達するまでシリンダ7を下方に移動させた状態を示す。この場合、カム9は軸受アーム12の回転軸13を中心にして内側に回転し、傾斜し始める。このときのカム9、9は図4(b)に示されるように、やや回転して内側に傾斜する。
【0019】
図5(a)はカム9のローラ15がカム溝8の傾斜して曲がった個所の最上端に達するまでシリンダ7を下方に移動させた状態を示す。この場合、カム9は軸受アーム12の回転軸13を中心にして内側に回転し、カム9、9のクランプつめ14、14は樽1の口金2を完全にクランプする。このときのカム9、9は図5(b)に示されるように、充分に回転して内側に傾斜する。
【0020】
図6(a)は図5(a)の状態からさらにシリンダ7を下方に移動させた状態を示す。この場合、カム9のクランプつめ14、14は口金2と接触しているパッキン10を強く押圧する。さらに軸受アーム12の下方にもゴムバネ16を配設することもでき、このゴムバネ16もクランプつめ14、14により強く押圧され、この結果、口金2はシール性が一層向上する。このときのカム9、9のクランプつめ14、14は図5(b)と同様、充分に回転して内側に傾斜する。」(段落【0008】ないし【0020】)

・「 【0021】
【考案の効果】
本考案にかかるクランプ装置は次の効果を奏する。
【0022】
(1)クランプ用のシリンダ7を充填ヘッド4の周囲に組み込むことによって、装置が小型化される。
【0023】
(2)クランプつめ14、14により口金2の側壁2aを両側から挟んで樽1をクランプするので、口金寸法が変化しても対応できる。すなわち、樽1の口金寸法誤差を許容できる。
【0024】
(3)口金2をクランプつめ14、14によって充填ヘッド4のパッキン10に強く押圧するので、口金2のシール性が良好である。」(段落【0021】ないし【0024】)

そして、これらの記載及び図面の記載から以下のことが理解できる。
・段落【0008】及び段落【0009】の記載によれば、樽1が、ビール等の流体が充填される樽であることが理解できる。
また、段落【0001】、段落【0012】、段落【0016】及び図1ないし図6の記載によれば、樽口金への充填ヘッドのクランプ装置が、ビール等の流体が充填される樽1を載置する台板11と、この台板11の下方に備えられた台板11を下降させるシリンダ7とを備えることが理解できる。

・段落【0010】、段落【0011】及び図1ないし図6の記載によれば、樽口金への充填ヘッドのクランプ装置が、周辺がパッキン10で取り囲まれた、樽1内に流体を導入するための充填ヘッド4を備えることが理解できる。

・段落【0017】の記載によれば、充填ヘッド4は移動しないことが理解でき、図5及び図6の記載によれば、図5の状態において、軸受アーム12の上側が充填ヘッド4の上部に設けられたフランジ状の部分に当接していたものが、図6の状態において、軸受アーム12の上側が充填ヘッド4の上部に設けられたフランジ状の部分から離れて隙間が生じていることから、軸受アーム12は、移動しない充填ヘッド4に下方へ移動可能に固定されることが理解できる。
また、段落【0014】の記載によれば、一対のカム9は、軸受アーム12の回転軸13に回転自在に連結され、先端にクランプつめ14、下端にローラ15をそれぞれ備えることが理解できる。
また、段落【0014】ないし段落【0019】及び図2ないし図5の記載によれば、シリンダ7は、ローラ15が移動自在に嵌合される一対のカム溝8により一対のカム9を回転させて、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2をクランプするようにさせることが理解できる。
また、段落【0019】、段落【0020】、図5及び図6の記載によれば、シリンダ7は、一対のカム9を下方に移動させて、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2と接触しているパッキン10を強く押圧するようにさせることが理解できる。
ここで、図1ないし図6によれば、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2と接触しているパッキン10を強く押圧することを可能とするために、樽1は口金2の開口3付近にフランジを有することが理解できると共に、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2のフランジをクランプするようにされていることが理解できる。
そうすると、段落【0014】ないし段落【0020】及び図2ないし図6の記載によれば、樽口金への充填ヘッドのクランプ装置が、台板11の下方には、シリンダ7を備え、シリンダ7は、移動しない充填ヘッド4に下方へ移動可能に固定された軸受アーム12の回転軸13に回転自在に連結され、かつ先端にクランプつめ14、下端にローラ15をそれぞれ備える一対のカム9を、ローラ15が移動自在に嵌合される一対のカム溝8により回転させて、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2のフランジをクランプするようにさせ、更に一対のカム9を下方に移動させて、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2と接触しているパッキン10を強く押圧するようにさせることが理解できる。
そして、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2と接触しているパッキン10を強く押圧するようにさせることは、樽1の口金2をパッキン10に押圧させることによりパッキン10と口金2のフランジを密着させることになることは明らかである。

・段落【0014】ないし段落【0020】及び図2ないし図6の記載によれば、図2(a)において、樽1は、口金2のフランジがパッキン10上に位置するように載置されており、続いて、図3ないし図6に示されるように、一対のカム9が台板11から突出して、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2のフランジをクランプすることを考慮すると、樽1は口金2のフランジがパッキン10上に位置するように台板11上に位置決めして載置され、その後クランプされることが理解できる。

よって、これらの事項及び図示内容を本願発明の表現にならって整理すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「ビール等の流体が充填される樽1を載置する台板11と、この台板11の下方に備えられた前記台板11を下降させるシリンダ7と、前記台板11の下方に備えられ、周辺がパッキン10で取り囲まれた、前記樽1内に流体を導入するための充填ヘッド4とを備えた樽口金への充填ヘッドのクランプ装置を用いた樽内への流体の充填方法において、前記台板11の下方には、移動しない前記充填ヘッド4に下方へ移動可能に固定された軸受アーム12の回転軸13に回転自在に連結され、先端にクランプつめ14、下端にローラ15をそれぞれ備える一対のカム9を、前記ローラ15が移動自在に嵌合される一対のカム溝8により回転させて、前記カム9の前記クランプつめ14が前記樽1の口金2のフランジをクランプするようにさせ、一対の前記カム9を下方に移動させて、前記カム9の前記クランプつめ14が前記樽1の前記口金2と接触している前記パッキン10を強く押圧するようにさせる前記シリンダ7を備え、前記樽1は前記口金2のフランジが前記パッキン10上に位置するように前記台板11上に位置決めして載置され、その後、前記シリンダ7によって一対の前記カム9の前記クランプつめ14が前記口金2のフランジをクランプして、一対の前記カム9を下方に移動させて、前記樽1の前記口金2を前記パッキン10に押圧させることにより前記パッキン10と前記口金2のフランジを密着させ、前記充填ヘッド4を通じて前記樽1内に前記流体を充填する樽内への流体の充填方法。」


4.対比
そこで、本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能・作用を考慮して対比する。

・後者の「ビール等の流体が充填される樽1」は前者の「流体包装用樽」に相当し、以下同様に、「台板11」は「受け台」に、「パッキン10」は「シールパッキン」に、「樽1内」は「樽内部」及び「樽中」に、「導入する」は「流す」に、「充填ヘッド4」は「樽接続プローブ」に、「樽口金への充填ヘッドのクランプ装置」は「流体包装用樽のクランプ装置」に、「樽内への流体の充填方法」は「樽内への流体の流動方法」に、「口金2のフランジ」は「口金首部のフランジ」及び「フランジ」に、「充填する」は「填充する」に、それぞれ相当する。

・後者の「台板11を下降させるシリンダ7」は、前者の「受け台を下降させる昇降シリンダ」に、「受け台を下降させる昇降用のシリンダ」という限りにおいて相当する。

・後者の「移動しない前記充填ヘッド4に下方へ移動可能に固定された軸受アーム12の回転軸13に回転自在に連結され、先端にクランプつめ14、下端にローラ15をそれぞれ備える一対のカム9を、前記ローラ15が移動自在に嵌合される一対のカム溝8により回転させて、前記カム9の前記クランプつめ14が前記樽1の口金2のフランジをクランプするようにさせ、一対の前記カム9を下方に移動させて、前記カム9の前記クランプつめ14が前記樽1の前記口金2と接触している前記パッキン10を強く押圧するようにさせる」という態様は、一対のカム9を下方に移動させて、カム9のクランプつめ14が樽1の口金2と接触しているパッキン10を強く押圧するようにさせることにより、引用刊行物の図5及び図6の記載からも看て取れるように、樽1の口金2のフランジがシールパッキン10を圧縮して移動しない充填ヘッド4に対して下方に移動しており、樽が下降しているものといえるから、前者の「樽を下降させる」態様に相当する。
そして、後者の「移動しない前記充填ヘッド4に下方へ移動可能に固定された軸受アーム12の回転軸13に回転自在に連結され、先端にクランプつめ14、下端にローラ15をそれぞれ備える一対のカム9を、前記ローラ15が移動自在に嵌合される一対のカム溝8により回転させて、前記カム9の前記クランプつめ14が前記樽1の口金2のフランジをクランプするようにさせ、一対の前記カム9を下方に移動させて、前記カム9の前記クランプつめ14が前記樽1の前記口金2と接触している前記パッキン10を強く押圧するようにさせる前記シリンダ7」は、前者の「樽を下降させる樽クランプシリンダ」に、「樽を下降させる樽クランプ用のシリンダ」という限りにおいて相当する。

・後者の「前記シリンダ7によって一対の前記カム9の前記クランプつめ14が前記口金2のフランジをクランプして、一対の前記カム9を下方に移動させて、前記樽1の前記口金2を前記パッキン10に押圧させることにより前記パッキン10と前記口金2のフランジを密着させ」という態様は、前者の「樽クランプシリンダによってフランジをクランプして樽を下降させてシールパッキンとフランジを密着させ」という態様に、「樽クランプ用のシリンダによってフランジをクランプして樽を下降させてシールパッキンとフランジを密着させ」という限りにおいて相当する。

したがって、両者は、
「流体包装用樽を載置する受け台と、この受け台の下方に備えられた受け台を下降させる昇降用のシリンダと、受け台の下方に備えられ、周辺がシールパッキンで取り囲まれた、樽内部に流体を流すための樽接続プローブとを備えた流体包装用樽のクランプ装置を用いた樽内への流体の流動方法において、受け台の下方には樽を下降させる樽クランプ用のシリンダを備え、前記樽は口金首部のフランジがシールパッキン上に位置するように受け台上に位置決めして載置され、その後、樽クランプ用のシリンダによってフランジをクランプして樽を下降させてシールパッキンとフランジを密着させ、樽接続プローブを通じて樽中に流体を填充する樽内への流体の流動方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
受け台を下降させる昇降用のシリンダ及び樽を下降させる樽クランプ用のシリンダを備えることに関し、本願発明では、受け台を下降させる昇降シリンダ及び樽を下降させる樽クランプシリンダを個別に備えるのに対して、引用発明では、受け台を下降させる昇降用のシリンダ及び樽を下降させる樽クランプ用のシリンダを兼ねるシリンダ7を備える点(以下、「相違点1」という。)。
[相違点2]
本願発明では、樽のクランプ前に口金首部で位置決めできて樽のセンタリングが安定化するのに対して、引用発明では、そのような特定はされていない点(以下、「相違点2」という。)。


5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
一般に、装置が複数の動作を行う場合に、シリンダ等のアクチュエーターを動作ごとに備えることは、本願の出願前に周知の事項(以下、「周知事項」という。例えば、本願の明細書の段落【0002】ないし【0005】、図3及び図4にも、樽押え部材9を押し付けて樽を押さえるのに、樽押し付けシリンダ8を専用に備えたものが従来例として記載されている。他に必要であれば、特開2008-81156号公報(特に、段落【0031】及び図2)、特開2008-62992号公報(特に、段落【0029】及び図2)及び特開2005-145480号公報(特に、段落【0014】及び図3)を参照。)であり、それにより複数の動作について個別の制御が可能となることは明らかである。
そして、引用発明は、シリンダ7が、受け台を下降させる昇降用のシリンダ及び樽を下降させる樽クランプ用のシリンダを兼ねるものであり、そのままでは限られた仕様の樽1にしか使用できないところ、それ以外の仕様の樽にも適応できるようにすることは内在する課題(例えば、引用刊行物の段落【0023】には、口金寸法が変化しても対応する旨が記載されているところ、台板11に載置した際に、台板11と口金2のフランジとの距離が大幅に異なる樽に対応することも想定できる。)であって、そのために、受け台を下降させる動作と樽を下降させる動作を個別に制御すればよいことも、当業者が技術常識として理解できることである。
そうすると、引用発明に周知事項を適用し、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
本件を審理した審判合議体から、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項である「樽のクランプ前に口金首部で位置決めできて樽のセンタリングが安定化し」における、「口金首部で位置決めできて」、「樽のクランプ前」及び「樽のセンタリングが安定化」について請求人(代理人)に確認したところ、以下の回答が得られた(応対記録参照。)。
・「口金首部で位置決めできて」とは単に
「口金首部をシールパッキン上に位置決めすることができて」
の意味です。
「口金首部を用いて位置決めすることができる」の意味ではありません。(平成26年7月7日付けファクシミリによる回答)
・「樽のクランプ前」とは「樽をクランプする動作の前」であって、
「樽が完全にクランプされる前」では有りません。(平成26年7月7日付けファクシミリによる回答)
・「安定化」とは。
樽の口金首部のフランジがシールパッキン上に位置するように樽を受け台上に位置決めして載置し、その後樽クランプシリンダによってフランジをクランプし、樽を下降させてシールパッキンとフランジを密着させる。樽のクランプ前に口金首部で位置決めできて樽のセンタリングが安定化する、という意味です。(平成26年7月14日付けファクシミリによる回答)
・「何によって樽のセンタリングが安定化するか」について
樽クランプシリンダ10を備えたことにより安定化する。
従来では図3,4に示されるように、樽押し付けシリンダ8により樽押さえ材9を押し付けて樽を押さえ、フランジ5とシールパッキン7を密着させてシールしていたので、フランジ5を口金ガイド6に摺動しながら、センタリングするため樽1の位置決めが不安定になる。また、樽押え付けシリンダ8を樽上部に設置するため、設備が大きくなる。(平成26年7月14日付けファクシミリによる回答)

これら回答と本願の請求項1の記載及び本願明細書の段落【0009】における「本発明にかかる流体包装用樽のクランプ装置は樽上部に構造物がないため、樽のクランプ前に口金首部で位置決め出来て樽のセンタリングが安定し、かつ樽上部に構造物が不用となって、装置が小型化されるのみならず、設備設置スペースが小さくなって作業性が向上し、かつ口金首部と樽接続プローブ間のシール性にも優れる。」という記載を考慮すると、樽クランプシリンダを受け台の下方に備えたことにより、樽上部に構造物がなくなるため、樽をクランプする動作の前に、受け台に載置する樽の口金首部をシールパッキン上に位置決めすることができて、樽のセンタリングが安定化すると解するのが自然である。
一方、引用発明においても、引用刊行物の図1から看て取れるように、シリンダ7は台板11(受け台)の下方に備えられ、樽1の上部に構造物はないのであるから、樽1をクランプする動作の前に、樽1の口金2(口金首部)をパッキン10(シールパッキン)上に位置決めすることができて、樽1のセンタリングが安定化することは明らかである。
そうすると、上記相違点2は実質的なものではない。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果は、引用発明及び周知事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。
よって、本願発明は、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-18 
結審通知日 2014-07-29 
審決日 2014-08-15 
出願番号 特願2008-189844(P2008-189844)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B67D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 一  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 藤井 昇
槙原 進
発明の名称 樽内への流体の流動方法  
代理人 染谷 仁  

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