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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1292548
審判番号 不服2013-22175  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-12 
確定日 2014-10-06 
事件の表示 特願2010-143456「耐フレッチング性及び耐ウィスカー性の被覆装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日出願公開、特開2010-232681〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年10月13日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 平成15年10月14日 米国(US))を国際出願日として出願した特願2006-535451号の一部を平成22年6月24日に新たな特許出願としたものであって、同日付けで手続補正がなされ、平成24年12月26日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成25年6月26日付けで手続補正がなされたが、同年7月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年6月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の層(32、34、40、36)で被覆された電気伝導性材料において、
電気伝導性基体(26);
前記基体(26)上に堆積され、前記複数の層(32、34、40、36)へ前記基体(26)の成分が拡散するのを防ぐのに有効な障壁層(32);
前記障壁層(32)上に堆積された、錫との金属間化合物を形成するのに有効な犠牲層(34);
前記犠牲層(34)上に堆積された低抵抗率酸化物金属層(40);及び
前記低抵抗率酸化物金属層(40)上に直接堆積された錫又は錫基合金(36)の最外層;
を含む、上記電気伝導性材料。」

3.引用列
(1)引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-171790号公報(公開日:平成15年6月20日。以下、「引用例1」という。)には、「めっき材料」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「【請求項1】 導電性基体の表面に、周期律表4族、5族、6族、7族、8族、9族、もしくは10族に含まれるいずれか1種の金属またはそれを主成分とする合金から成る下地めっき層と、CuまたはCu合金から成る中間めっき層と、SnまたはSn合金から成る表面めっき層とがこの順序で形成されていることを特徴とするめっき材料。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項3】 前記下地めっき層が、Ni,Co,もしくはFeのいずれか1種の金属、または前記金属を主成分とする合金から成る請求項1または2のめっき材料。」

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はめっき材料とその製造方法、そのめっき材料を用いた電気・電子部品に関する。更に詳しくは、耐熱性が良好で、例えば自動車のエンジンルームのような高温環境下で使用するコネクタの材料として好適なめっき材料に関する。また、良好な耐熱性と挿抜性を兼ね備えているので、高温環境下で使用する嵌合型コネクタや接触子の材料として好適なめっき材料に関する。」

ウ.「【0020】
【発明の実施の形態】本発明のめっき材料は、後述するような4層構造になっている。そして、各層の構成材料や厚みは、前記した耐熱性の向上や、耐熱性と挿抜性を同時に向上させることとの関係で後述するように設計される。まず、本発明のめっき材料は、図1で示したように、全体として、導電性基材1の上に、後述する下地めっき層2、中間めっき層3、および表面めっき層4がこの順序で形成されている。このめっき材料は、下地めっき層2と表面めっき層4の間に、中間めっき層3が介在し、この中間めっき3が後述する機能を発揮することにより、高温環境下における表面めっき層4の消失が抑制されるところに最大の特徴を有している。
【0021】まず、導電性基材1の材料は格別限定されるものではなく、例えば接続コネクタとしての用途を考慮し、要求される機械的強度、耐熱性、導電性に応じて、例えば、純銅;リン青銅、黄銅、洋白、ベリリウム銅、コルソン合金のような銅合金;純鉄、ステンレス鋼のような鉄合金;各種のニッケル合金;Cu被覆Fe材やNi被覆Fe材のような複合材料などから適宜に選定すればよい。
【0022】これらの材料のうち、CuまたはCu合金が好適である。なお、導電性基材1がCu系材料でない場合は、その表面にCuまたはCu合金のめっきを施してから実使用に供すると、めっき膜の密着性や耐食性が更に向上する。この導電性基材1の上に形成されている下地めっき層2は、基材1と表面めっき層との密着強度を確保するために設けられるとともに、基材の成分が表層側に熱拡散することを防止するバリア層としても機能する。具体的には、周期律表4族元素(Ti,Zr,Hf)、5族元素(V,Nb,Ta)、6族元素(Cr,Mo,W)、7族元素(Mn,Tc,Re)、8族元素(Fe,Ru,Os)、9族元素(Co,Rh,Ir)、10族元素(Ni,Pd,Pt)のいずれか、またはそれを主成分とする合金で形成されている。
【0023】これらの金属はいずれも融点が1000℃以上の高融点金属である。そして、例えば接続コネクタの使用環境温度は一般に200℃以下であるため、このような使用環境下では、この下地めっき層2は熱拡散を起こしにくいことはもち論のこと、基材成分の表層側への熱拡散を有効に防止する。上記した金属のうち、価格の点、めっき処理が行いやすい点などから、Ni,Co,Feが好適である。そして、それらを主成分とする合金としては、例えば、Ni-P,Ni-Sn,Co-P,Ni-Co,Ni-Co-P,Ni-Cu,Ni-Cr,Ni-Zn,Ni-Feなどをあげることができる。」

エ.「【0026】次に、この下地めっき層2の上に形成される中間めっき層3は、CuまたはCu合金から成る。そして、この中間めっき層3は、後述する態様で下地めっき層2の成分と表面めっき層4のSn成分とが相互拡散することを防止する層として機能する。中間めっき層3のCu成分と下地めっき層2の成分(前記した金属またはその合金)との反応速度よりも、上記Cu成分と表面めっき層4のSn成分との反応速度の方が大きい。したがって、このめっき材料が高温環境下に曝されると、表面めっき層4のSn成分の中間めっき層3への熱拡散が進行し、結果として、中間めっき層3は、図2で示したように、Sn-Cu金属間化合物から成る層3’に転化していく。同時に、めっき材料の表面めっき層4のSn成分は、中間めっき層3との界面を起点として中間めっき層3の方へ拡散移動して上記金属間化合物に転化していく。その結果、Sn(またはSn合金)が残存している層であるめっき層4’の厚みは薄くなる。そして、中間めっき層3のCu成分が上層側から拡散してくるSnやSn合金を受容し終わった時点で、SnやSn合金とCuやCu合金間の相互拡散は停止する。
【0027】その結果、図2で示したように、図1の中間めっき層3と表面めっき層4の一部は、金属間化合物から成る層3’になる。また図1の表面めっき層4は、その厚みが薄くなっているが、SnやSn合金から成る層4’として残ることになる。このように、下地めっき層2とSnやSn合金から成る層4’の間に金属間化合物の層3’が介在していることにより、層4’と下地めっき層2の間の反応は抑制されることになる。
【0028】したがって、このめっき材料の場合、高温環境下にあっては図2で示した層構造の状態、すなわち、SnやSn合金とCuやCu合金の相互拡散は抑制された状態で使用されることになる。そのため、SnやSn合金から成る表面めっき層が使用過程で消失してしまうことはなくなる。Sn-Cu金属間化合物としては、Cu_(6)Sn_(5)やCu_(3)Snがよく知られている。そして、Cu_(6)Sn_(5)の場合、Cuの1体積に対しSnの1.9体積が反応して生成した化合物である。またCu_(3)Snの場合は、Cuの1体積に対しSnの0.8体積が反応して生成した化合物である。」

オ.「【0037】なお、本発明のめっき材料においては、基材と下地めっき層の間、下地めっき層と中間めっき層の間、または中間めっき層と表面めっき層の間に、各めっき層の厚みよりも薄い異種材料のめっき層を介在させてもよい。また、素材形状としては、条材、丸線材、角線材などの形状のいずれであってもよい。」

・上記引用例1に記載の「めっき材料」は、上記「イ.」の記載事項によれば、嵌合型コネクタや接触子の材料として好適なめっき材料に関するものである。
・上記「ア.」の【請求項1】、「ウ.」の段落【0020】の記載事項によれば、めっき材料は、導電性基材1と、その表面に所定の金属またはその金属を主成分とする合金からなる下地めっき層2、CuまたはCu合金からなる中間めっき層3、SnまたはSn合金からなる表面めっき層4の3つのめっき層がこの順序で積層形成されてなるものである。
・上記「ア.」の【請求項3】、「ウ.」の段落【0022】?【0023】の記載事項によれば、下地めっき層2は、Ni,Co,もしくはFeのいずれか1種の金属、またはそれら金属を主成分とする合金からなり、導電性基材1の成分が表層側に熱拡散することを防止するバリア層として機能するものである。
・上記「ウ.」の段落【0020】、「エ.」の記載事項によれば、CuまたはCu合金からなる中間めっき層3は、そのCu成分が表面めっき層のSn成分との間でSn-Cu金属間化合物(Cu_(6)Sn_(5)やCu_(3)Sn)となることにより、Sn-Cu金属間化合物からなる層に転化していくものである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「嵌合型コネクタや接触子の材料として好適なめっき材料であって、
3つのめっき層がその表面に積層される導電性基材と、
前記導電性基材上に形成され、Ni,Co,もしくはFeのいずれか1種の金属、またはそれら金属を主成分とする合金からなり、前記導電性基材の成分が表層側に熱拡散することを防止するバリア層として機能する下地めっき層と、
前記下地めっき層上に形成され、CuまたはCu合金からなり、そのCu成分が表面めっき層のSn成分との間でSn-Cu金属間化合物(Cu_(6)Sn_(5)やCu_(3)Sn)となることにより、Sn-Cu金属間化合物からなる層に転化していく中間めっき層と、
前記中間めっき層上に形成されたSnまたはSn合金からなる表面めっき層と、
を含む、めっき材料。」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-20949号公報(以下、「引用例2」という。)には、「電気接点材料」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「【0002】
【従来の技術】一般に各種の導電性基材の表面を銀,銀合金又は内部酸化された銀合金で被覆した材料は、基材が具備する特性に加えて銀,銀合金又は内部酸化された銀合金特有の耐食性,半田付け性や電気接続性等を発現するため、従来から各種の用途に用いられている。」

イ.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記内部酸化された銀合金は、上記の他の銀や銀合金に比べて耐摩耗性及び耐アーク性に優れている反面、加工性に劣り、被覆厚の下限が厚く、さらにメッキ法での製造が極めて困難であるため製造コストが高いという大きな欠点を持っている。」

ウ.「【0006】即ち本発明接点材料は、導電性基材上にNi及び/又はCoの金属層を設け、その上に濃度勾配があり、且つ内部酸化された銀合金層を設けたことを特徴とするものであり、この際濃度勾配がある内部酸化された銀合金としてはAg-Sn_(2) O_(3) 合金,Ag-InO_(3) 合金,Ag-ZnO合金,Ag-CuO合金,Ag-CdO合金が良好である。」

エ.「【0009】本発明で用いる導電性基材としては、表面にメッキし得る程度の導電性を有しておればよく、例えば銅,各種銅合金,さらには銅被覆鋼材や銅被覆アルミニウム材のような銅又は銅合金で異種材料を被覆してなる複合金属、またはNi,Feもしくはこれらの合金からなる基材等をあげることができる。
【0010】またNi又はCoの1種又は2種のメッキを行う理由は、銀とSn,In,Zn,Cu,Cdから選ばれる1種の金属の拡散のための熱処理において、基材が銀合金中及び表面に拡散するのを防止するためで、その厚さは0.1 μm以上あればよく、さらに好ましくは0.5 μm以上でその目的を達成できる。
【0011】銀メッキは0.2 μm以上の厚さでメッキを行い、その表面にSn,In,Zn,Cu,Cdから選ばれる1種の金属を銀メッキ層の1/1000?5倍の厚さでメッキする。・・・・(以下、略)」

オ.「【0013】
【実施例】以下本発明の実施例について説明する。本発明に係るメッキ条材として表1に示すものを作製した。即ち板厚0.3mm のCu合金条の片面に表1に示すように厚さ0.1 又は0.5 μmのNi又はCoの下地メッキを行い、その上にAgを1.0 又は3.0 μmの厚さにメッキし、さらにその上にSn,In,Zn,Cu又はCdの何れか1種を0.05?0.5 μmの厚さにメッキした。・・・・(以下、略)」

・上記引用例2に記載の「電気接点材料」は、上記「ウ.」?「オ.」の記載事項、及び表1のうちの特に「本発明例No.1」や「本発明例No.2」によれば、導電性基材上にNiの下地メッキ、銀メッキ、Snの上層メッキの3つの層をこの順序で積層形成してなるものに関し、Snの上層メッキは、最も外側に形成されるメッキ層であり、かかるメッキ層の下に銀のメッキ層が直接接するように形成されてなるものである。
・上記「エ.」の段落【0010】の記載事項によれば、下地メッキは、基材の成分が表面側へ拡散するのを防止するためのもの、すなわち、バリア層(障壁層)として機能するものである。
・上記「ウ.」の記載事項によれば、銀メッキにおける銀は、内部酸化された銀合金(Ag-Sn_(2) O_(3) 合金)を形成することができる金属であると理解でき、上記「ア.」、「イ.」の記載事項によれば、内部酸化された銀合金は、半田付け性や電気的接続性に加えて、耐摩耗性等に優れるものである。

したがって、本願発明と同様に、基材(基体)上に形成した複数の層を、その後の熱処理や使用中の加熱によって金属成分の拡散が生じて金属間化合物などが形成される前の状態として捉え、上記記載事項を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「導電性基材上に複数のメッキ層を積層形成してなる電気接点材料において、Snからなる最外層の下に直接接するように〔バリア層(障壁層)とSnからなる最外層との間に〕、半田付け性や電気的接続性に加えて、耐摩耗性等に優れる内部酸化された銀合金を形成することができる金属である銀のメッキ層を設けること。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「導電性基材」は、本願発明における「電気伝導性基体」に相当し、
引用発明における「嵌合型コネクタや接触子の材料として好適なめっき材料であって、3つのめっき層がその表面に積層された導電性基材と、」によれば、
「めっき材料」は、嵌合型コネクタや接触子の材料として好適に用いられるものであり、電気伝導性のものであることは自明であるから、本願発明における「電気伝導性材料」に相当し、さらに、複数の層(3つのめっき層)で被覆されるものであるといえるから、
本願発明と引用発明とは、「複数の層で被覆された電気伝導性材料において、電気伝導性基体」を含むものである点で一致する。

(2)引用発明における「前記導電性基材上に形成され、Ni,Co,もしくはFeのいずれか1種の金属、またはそれら金属を主成分とする合金からなり、前記導電性基材の成分が表層側に熱拡散することを防止するバリア層として機能する下地めっき層と」によれば、
「下地めっき層」は、導電性基材の成分が表層側へ、すなわち中間めっき層や表面めっき層といった複数の層の側へ拡散するのを防ぐのに有効なバリア層として機能するものであることから、本願発明における「障壁層」に相当するといえ、
本願発明と引用発明とは、「前記基体上に堆積され、前記複数の層へ前記基体の成分が拡散するのを防ぐのに有効な障壁層」を含むものである点で一致する。

(3)引用発明における「前記下地めっき層上に形成され、CuまたはCu合金からなり、そのCu成分が表面めっき層のSn成分との間でSn-Cu金属間化合物(Cu_(6)Sn_(5)やCu_(3)Sn)となることにより、Sn-Cu金属間化合物からなる層に転化していく中間めっき層と」によれば、
「中間めっき層」は、表面めっき層のSn成分との間で金属間化合物を形成するのに有効な層であり、当該金属間化合物からなる層に転化していくものであることから、本願発明における「犠牲層」に相当するといえ、
本願発明と引用発明とは、「前記障壁層上に堆積された、錫との金属間化合物を形成するのに有効な犠牲層」を含むものである点で一致する。

(4)引用発明における「SnまたはSn合金からなる表面めっき層」は、表面すなわち最も外側に形成されるものであることから、本願発明における「錫又は錫基合金の最外層」に相当し、
引用発明における「前記中間めっき層上に形成されたSnまたはSn合金からなる表面めっき層と」によれば、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「錫又は錫基合金の最外層」を含むものである点で共通する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「複数の層で被覆された電気伝導性材料において、
電気伝導性基体;
前記基体上に堆積され、前記複数の層へ前記基体の成分が拡散するのを防ぐのに有効な障壁層;
前記障壁層上に堆積された、錫との金属間化合物を形成するのに有効な犠牲層;
錫又は錫基合金の最外層;
を含む、上記電気伝導性材料。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明では、犠牲層上に堆積された「低抵抗率酸化物金属層」を含み、錫又は錫基合金の最外層が「前記低抵抗率酸化物金属層上に直接堆積され」ている旨特定するのに対し、引用発明では、そのような低抵抗率酸化物金属層を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
引用例2(上記「3.(2)」を参照)には、Snからなる最外層の下に直接接するように〔バリア層(障壁層)とSnからなる最外層との間に〕、、半田付け性や電気的接続性に加えて、耐摩耗性等に優れる内部酸化された銀合金を形成することができる金属である銀のメッキ層を設けるようにした技術事項が記載されており、このようにSnからなる最外層の下に直接接するように銀のメッキ層を設けるという技術事項は、さらに例えば特開平11-350188号公報(特に段落【0053】?【0054】、【0058】?【0060】、【0071】、図5を参照)、特開平6-81189号公報(特に段落【0006】?【0008】を参照)にも記載されているように周知ともいえるものである。
なお、上記「銀のメッキ層」は、上記特開平11-350188号公報の段落【0054】の「・・Ag層2Cが介装されている材料A3は、材料が高温環境下に長期間曝されていても表面層の酸化に基づく不都合も起こらず、接触抵抗の上昇という問題も起こらない。むしろ逆に、Agが表面層3へ拡散することにより、接触抵抗が安定化するだけでなく、低下する場合が多くなる・・」なる記載や、本願の請求項1に従属する請求項8や請求項9の記載事項から明らかなように、本願発明でいう「低抵抗率酸化物金属層」に相当するということができるものである。
そして、引用発明においても、各めっき層の間に異種材料のめっき層を介在させてもよい(上記「3.(1)オ.」を参照)ものであることから、嵌合型コネクタや接触子の材料として一般的に望まれる耐摩耗性や高温環境下における接触抵抗の上昇の抑制等を図るために、上記技術事項を採用し、本願発明のように犠牲層上に堆積された「低抵抗率酸化物金属層」を含み、錫又は錫基合金の最外層が「前記低抵抗率酸化物金属層上に直接堆積され」たものとすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。

そして、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

<<予備的見解>>
本願発明と引用例2に記載された発明とを対比した場合についても検討しておく。
引用例2(上記「3.(2)」を参照)には、以下の発明が記載されている。
「3つのメッキの層が積層形成される導電性基材と、
前記導電性基材上に形成され、当該導電性基材の成分が表面側へ拡散するのを防止するためのNiの下地メッキ層と、
前記下地メッキ層上に形成され、半田付け性や電気的接続性に加えて、耐摩耗性等に優れる内部酸化された銀合金を形成することができる金属である銀のメッキ層と、
前記銀のメッキ層上に形成されたSnの上層メッキ層と、
を含む電気接点材料。」

そこで、本願発明と上記引用例2に記載された発明とを対比すると、引用例2に記載された発明における「銀のメッキ層」は、上述したとおり本願発明における「低抵抗率酸化物金属層」に相当するといえるものであることを踏まえると、両者は以下の点においてのみ相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
本願発明では、障壁層と低抵抗率酸化物金属層との間に「錫との金属間化合物を形成するのに有効な犠牲層」を含む旨特定するのに対し、引用例2に記載された発明では、そのような犠牲層を有していない点。

上記相違点について検討すると、
いわゆる障壁層(Niめっき層)と錫の最外層との間に、錫との金属間化合物を形成するのに有効な犠牲層(Cuめっき層)を設けることは、例えば引用例1(上記「3.(1)」を参照)、さらには特開平11-135226号公報(特に【要約】、段落【0029】、【0032】、図3(a)、図3(b)を参照)に記載のように周知の技術事項であり、引用例2に記載された発明においても、かかる周知の技術事項を採用し、本願発明のように障壁層と低抵抗率酸化物金属層との間に「錫との金属間化合物を形成するのに有効な犠牲層」を含むものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。

よって、本願発明と引用例2に記載された発明とを対比した場合であっても、本願発明は、引用例2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえ、いわゆる進歩性を有しない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-14 
結審通知日 2014-05-16 
審決日 2014-05-27 
出願番号 特願2010-143456(P2010-143456)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 英夫  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 耐フレッチング性及び耐ウィスカー性の被覆装置及び方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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