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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66C |
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管理番号 | 1292553 |
審判番号 | 不服2013-19957 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-15 |
確定日 | 2014-10-10 |
事件の表示 | 特願2007-314120「吊り枠装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日出願公開、特開2009-137682〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年12月5日の出願であって、平成24年10月4日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月20日付けで拒絶査定がされ、同年10月15日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において、平成26年1月20日付けで書面による審尋がされ、同年4月17日に回答書が提出されたものである。 第2 平成25年10月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成25年10月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成25年10月15日付けの手続補正の内容 平成25年10月15日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年12月27日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。 (1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 厚さ方向の中間部に内部補強部材を配置して、その上下にアスファルト層を設け、前記内部補強部材と一体に設けた荷役用のワイヤの端部をマットの周囲に突出させて設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって、 前記吊り枠装置は、パイプまたは形鋼を組み合わせて四周部の枠を構成して、取り扱い作業の対象とする前記マットのサイズに合わせて、枠体の巾と広さを有するものとして構成し、 前記吊り枠装置の四周部には、前記マット部材の周囲に突出させて設けているワイヤの端部を係止する手段を設け、 前記吊り枠装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置にヒンジ部を設けて、クレーンにより吊り下げて使用するもので、前記枠体の上部にはクレーンの吊り具に対応させた被吊具を設け、 前記枠体の下部には、マットに設けている被吊具を係止する保持部材を、所定の間隔で多数設け、前記保持部材には、前記マットの被吊具を保持・開放する動作を容易に行い得る手段を設け、 前記マット部材を吊り下げて支持し、クレーンにより持ち上げた状態では、前記枠体は1つの平面状の枠形状を維持し、 枠体の一方の下面を海底の構造物の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分が前記ヒンジ部を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成したことを特徴とする吊り枠装置。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 厚さ方向の中間部に内部補強部材を配置して、その上下にアスファルト層を設け、前記内部補強部材と一体に設けた荷役用のワイヤの端部をマットの周囲に突出させて設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって、 前記吊り枠装置は、パイプまたは形鋼を組み合わせて四周部の枠を構成して、取り扱い作業の対象とする前記マットのサイズに合わせて、枠体の巾と広さを有するものとして構成し、 前記吊り枠装置の四周部には、前記マット部材の周囲に突出させて設けているワイヤの端部を係止する手段を設け、 前記吊り枠装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部を設けて、クレーンにより1枚のマットを枠体に吊り下げて支持しながら、海底の水平面と斜面との2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので、 前記枠体の上部にはクレーンの吊り具に対応させた被吊具を設け、 前記枠体の下部には、マットに設けている被吊具を係止する保持部材を、所定の間隔で多数設け、前記保持部材には、前記マットの被吊具を保持・開放する動作を容易に行い得る手段を設け、 前記マット部材を吊り下げて支持し、クレーンにより持ち上げた状態では、前記枠体は1つの平面状の枠形状を維持し、 枠体の一方の下面を海底の構造物の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分が前記ヒンジ部を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成したことを特徴とする吊り枠装置。」 (なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。) 2 本件補正の適否 2-1 本件補正の目的 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記吊り枠装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置にヒンジ部を設けて、クレーンにより吊り下げて使用するもので、」という記載を「前記吊り枠装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部を設けて、クレーンにより1枚のマットを枠体に吊り下げて支持しながら、海底の水平面と斜面との2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので、」という記載にするものであり、ヒンジ部を設ける位置を「所定位置」から「所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置」と限定し、「クレーンにより吊り下げて使用する」を「クレーンにより1枚のマットを枠体に吊り下げて支持しながら、海底の水平面と斜面との2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とする」と使用の仕方をより具体的にしたものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2-2 独立特許要件の検討 そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。 (1)引用文献1の記載、引用文献1の記載事項及び引用発明 ア 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭59-198455号(実開昭61-116690号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、「アスフアルトマツト吊下装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、順に「記載1a」ないし「記載1e」という。)。 1a 「<産業上の利用分野> 本考案はアスフアルトマツトの吊下装置に関する。」(明細書第1ページ第16ないし18行) 1b 「<従来の技術> アスフアルトマツトは、埋立護岸等の土砂流出防止、その土砂吸出防止及びその捨石基礎の洗堀防止等を図るために埋立護岸表面の被覆に用いられている。 前記アスフアルトマツトは芯材としてガラス繊維、布、サイザル麻ロープ等を用いたアスフアルト合材を主成分とする大形でかつ大重量の薄板状のものであり、そのアスフアルトマツトを吊下げるためにアスフアルトマツトの両側部には複数の吊下げ用のワイヤロープが設けられている。」(明細書第1ページ第19行ないし第2ページ第9行) 1c 「<実施例> 以下に、本考案の一実施例を第1図?第6図に基づいて説明する。 第1図において、一対の板状の構成部材1a,1bは独立してそれぞれパイプ等の線状部材2により骨組みされて略長方形状に形成されている。第1平板の構成部材1aの縁部には第1ブラケツト3が複数取付けられ、第2平板の構成部材1bの縁部にも第2ブラケツト4が前記ブラケツト3に対向させて複数取付けられている。対向する第1ブラケツト3と第2ブラケツト4とが第2図に示すようにピン5により回動自由に連結され、第1及び第2ブラケツト3,4とピン5によりヒンジ部材6が構成される。これにより、第1平板の構成部材1aと第2平板の構成部材1bとがピン5を中心として相互に回動自由に連結される。 第1平板及び第2平板の構成部材1a,1bの縁部には円板状のストツパ部材7a,7bが対向させてそれぞれ設けられている。そして、ストツパ部材7a,7bは前記構成部材1a,1bにより一枚の略平板状態が形成されたときに相互に当接し該状態から前記構成部材1a,1bが第1図中上方に回動されるのを規制する一方両構成部材1a,1bを下側で最大時180°を許容範囲として拡開自由になるように構成される。 また、第1平板及び第2平板の構成部材1a,1bの上縁部には可撓性部材としてのクレーン用ワイヤロープ係止部材8がそれぞれ所定間隔毎に取付けられ、またそれらの下縁部には第3図に示すように係止部材としてのアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9が所定間隔毎に取付けられている。また、第1平板及び第2平板の構成部材1a,1bの下部には支脚10がそれぞれ立設されている。」(明細書第5ページ第7行ないし第6ページ末行) 1d 「次に作用を第3図?第6図に基づいて説明する。 第3図に示すように前記クレーン用ワイヤロープ係止部材8にそれぞれワイヤロープ11の端部を係止させそのワイヤロープ11を運搬装置としてのクレーンのフツク12に係止させ一対の構成部材1a,1bをクレーンにより略水平に懸架支持する。また、前記アスフアルトマツト用係止部材9にアスフアルトマツト13の周縁部に設けられたワイヤロープ13aの端部をそれぞれ係止させる。 そして、クレーンにより一対の構成部材1a,1b等と共にアスフアルトマツト13を吊下げつつ移動させ例えば埋立護岸14の天端14aから斜面14bに変化する位置の上方に前記ピン5を配設する。この吊下時にはアスフアルトマツト13と平板自身の重量によりピン5を中心として回動しようとするが各構成部材1a,1bのストツプ部材7a,7bが当接するためそれら構成部材1a,1bが略一枚の平板状でかつ水平に維持されるので、構成部材1a,1bに吊下げられたアスフアルトマツト13も略水平に保たれる。 また、第4図に示すようにクレーンにより一対の構成部材1a,1bとアスフアルトマツト13とを下動させてアスフアルトマツト13を埋立護岸14の天端に当接させる。さらに、クレーンにより構成部材1a,1bを下動させるとワイヤロープ11が緩み第5図に示すように第2平板の構成部材1bがアスフアルトマツト13とそれ自身の重量によりピン5を中心として時計方向に回動されてアスフアルトマツト13を斜面14bに当接させる。そして、アスフアルトマツト10上壁に支脚10を当接させてアスフアルトマツト13に設けられたワイヤロープ13aを前記ワイヤロープ係止部材9から外した後クレーンにより構成部材1a,1bを上動させ、これによりアスフアルトマツトの敷設作業を終了する。 以上説明したように、アスフアルトマツト13を略水平に吊下げる装置を一対の構成部材1a,1bを相互に回動自由にヒンジ部材6により取付けると共にそれらが略平板状態になつたときに構成部材1a,1b上方に回動するのを規制するストツパ部材7a,7bを設けたので、天端14aから斜面10bに変化する埋立護岸14にアスフアルトマツト13を敷設するときにアスフアルトマツト13を構成部材1a,1bにより吊下げつつ第2平板の構成部材1bを回動させてアスフアルトマツト13を斜度が異なる天端14aと斜面14bとに当接させることができる。これにより、アスフアルトマツトを空中において開放して落下させることなくアスフアルトマツトの敷設作業を行なえるからその作業の安全を図れると共にアスフアルトマツトの破損を防止でき、またその作業も容易となる。」(明細書第7ページ第1行ないし第9ページ第13行) 1e 「また、構成部材1a,1bの分割位置をアスフアルトマツトの敷設位置により適宜選択すれば、アスフアルトマツトをその敷設位置に極めて容易に配設できる。・・・(略)・・・ 尚、上記実施例においては、構成部材を二分割したが、三分割以上に形成してもよい。」(明細書第9ページ第13ないし18行) イ 引用文献1の記載事項 記載1aないし1e及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項1f」ないし「記載事項1n」という。)。 1f 記載1a、1b及び1dの「第3図に示すように前記クレーン用ワイヤロープ係止部材8にそれぞれワイヤロープ11の端部を係止させそのワイヤロープ11を運搬装置としてのクレーンのフツク12に係止させ一対の構成部材1a,1bをクレーンにより略水平に懸架支持する。また、前記アスフアルトマツト用係止部材9にアスフアルトマツト13の周縁部に設けられたワイヤロープ13aの端部をそれぞれ係止させる。」並びに図面によると、引用文献1には、芯材を用いたアスフアルト合材を主成分とする吊下げ用のワイヤロープ13aをアスフアルトマツト13の両側部に設けたアスフアルトマツト13を吊下げるために用いる吊下装置が記載されている。 1g 記載事項1f、記載1cの「第1図において、一対の板状の構成部材1a,1bは独立してそれぞれパイプ等の線状部材2により骨組みされて略長方形状に形成されている。」並びに図面によると、引用文献1には、吊下装置は、パイプ等の線状部材2を組み合わせて四周部の枠を構成して、吊下げ作業の対象とするアスフアルトマツト13のサイズに合わせて、枠体の幅と広さを有するものとして構成されていることが記載されている。 1h 記載事項1f及び1g、記載1cの「また、第1平板及び第2平板の構成部材1a,1bの上縁部には可撓性部材としてのクレーン用ワイヤロープ係止部材8がそれぞれ所定間隔毎に取付けられ、またそれらの下縁部には第3図に示すように係止部材としてのアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9が所定間隔毎に取付けられている。」、記載1dの「第3図に示すように前記クレーン用ワイヤロープ係止部材8にそれぞれワイヤロープ11の端部を係止させそのワイヤロープ11を運搬装置としてのクレーンのフツク12に係止させ一対の構成部材1a,1bをクレーンにより略水平に懸架支持する。また、前記アスフアルトマツト用係止部材9にアスフアルトマツト13の周縁部に設けられたワイヤロープ13aの端部をそれぞれ係止させる。」並びに図面によると、引用文献1には、吊下装置の四周部には、アスフアルトマツト13の周囲に突出させて設けているワイヤロープ13aの端部を係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9を設けていることが記載されている。 1i 記載事項1fないし1h、記載1cの「第1図において、一対の板状の構成部材1a,1bは独立してそれぞれパイプ等の線状部材2により骨組みされて略長方形状に形成されている。第1平板の構成部材1aの縁部には第1ブラケツト3が複数取付けられ、第2平板の構成部材1bの縁部にも第2ブラケツト4が前記ブラケツト3に対向させて複数取付けられている。対向する第1ブラケツト3と第2ブラケツト4とが第2図に示すようにピン5により回動自由に連結され、第1及び第2ブラケツト3,4とピン5によりヒンジ部材6が構成される。これにより、第1平板の構成部材1aと第2平板の構成部材1bとがピン5を中心として相互に回動自由に連結される。」、記載1eの「また、構成部材1a,1bの分割位置をアスフアルトマツトの敷設位置により適宜選択すれば、アスフアルトマツトをその敷設位置に極めて容易に配設できる。」及び図面によると、引用文献1には、吊下装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部材6を設けていること及びその長さ方向の所定の位置で枠体の中心の位置にヒンジ部材6を設けていることの何れの態様も記載されているといえるので、引用文献1には、吊下装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部材6を設けていることが記載されている。 1j 記載事項1fないし1i、記載1d及び図面によると、引用文献1には、クレーンにより1枚のアスフアルトマツト13を枠体に吊下げて支持しながら、埋立護岸14の天端14aと斜面14bとの2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とすることが記載されている。 1k 記載事項1fないし1j、記載1cの「また、第1平板及び第2平板の構成部材1a,1bの上縁部には可撓性部材としてのクレーン用ワイヤロープ係止部材8がそれぞれ所定間隔毎に取付けられ」、記載1dの「第3図に示すように前記クレーン用ワイヤロープ係止部材8にそれぞれワイヤロープ11の端部を係止させそのワイヤロープ11を運搬装置としてのクレーンのフツク12に係止させ一対の構成部材1a,1bをクレーンにより略水平に懸架支持する。」及び図面によると、引用文献1には、枠体の上部にはワイヤーロープ11に対応させたクレーン用ワイヤロープ係止部材8を設けることが記載されている。 1l 記載事項1fないし1k、記載1cの「またそれらの下縁部には第3図に示すように係止部材としてのアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9が所定間隔毎に取付けられている。」、記載1dの「また、前記アスフアルトマツト用係止部材9にアスフアルトマツト13の周縁部に設けられたワイヤロープ13aの端部をそれぞれ係止させる。」及び図面によると、引用文献1には、枠体の下部には、アスフアルトマツト13に設けているワイヤロープ13aを係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9を、所定の間隔で多数設けることが記載されている。 1m 記載事項1fないし1l、記載1dの「そして、クレーンにより一対の構成部材1a,1b等と共にアスフアルトマツト13を吊下げつつ移動させ例えば埋立護岸14の天端14aから斜面14bに変化する位置の上方に前記ピン5を配設する。この吊下時にはアスフアルトマツト13と平板自身の重量によりピン5を中心として回動しようとするが各構成部材1a,1bのストツプ部材7a,7bが当接するためそれら構成部材1a,1bが略一枚の平板状でかつ水平に維持されるので、構成部材1a,1bに吊下げられたアスフアルトマツト13も略水平に保たれる。」及び図面によると、引用文献1には、アスフアルトマツト13を吊下げて支持し、クレーンにより持ち上げられた状態では、枠体は1つの平面状の枠形状を維持することが記載されている。 1n 記載事項1fないし1m、記載1d及び図面によると、引用文献1には、枠体の一方の下面を埋立護岸14の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分がヒンジ部材6を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成したことが記載されている。 ウ 引用発明 記載1aないし1e、記載事項1fないし1n及び図面の記載を整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「芯材を用いたアスフアルト合材を主成分とする吊下げ用のワイヤロープ13aをアスフアルトマツト13の両側部に設けたアスフアルトマツト13を、吊下げるために用いる吊下装置であって、 前記吊下装置は、パイプ等の線状部材2を組み合わせて四周部の枠を構成して、吊下げ作業の対象とするアスフアルトマツト13のサイズに合わせて、枠体の幅と広さを有するものとして構成し、 前記吊下装置の四周部には、アスフアルトマツト13の周囲に突出させて設けているワイヤロープ13aの端部を係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9を設け、 前記吊下装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部材6を設けて、クレーンにより1枚のアスフアルトマツト13を枠体に吊下げて支持しながら、埋立護岸14の天端14aと斜面14bとの2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので、 前記枠体の上部にはワイヤーロープ11に対応させたクレーン用ワイヤロープ係止部材8を設け、 前記枠体の下部には、アスフアルトマツト13に設けているワイヤロープ13aを係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9を、所定の間隔で多数設け、 前記アスフアルトマツト13を吊下げて支持し、クレーンにより持ち上げられた状態では、前記枠体は1つの平面状の枠形状を維持し、 枠体の一方の下面を埋立護岸14の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分がヒンジ部材6を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成した吊下装置。」 (2)引用文献2の記載 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭56-52382号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「アスフアルトマツト吊上げ、吊降し方法とその装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。 ・「本発明は、このようにして構成されたアスフアルトマツト吊下げ用枠体3の両側主梁4、4の上方に軸受台8、8…を介して取付けた主梁部に上下巻軸9を取付け、この軸の前記アスフアルトマツトに固定した吊りワイヤーYの取付間隔にあわせた位置に同ワイヤーYを鉛直に巻揚げ、巻戻し得るように上下巻輪10、10…を回転自在に嵌合取付け、この主梁部4、4の下方で、且つ、上部主梁部上下巻輪10、10…に対応する位置に、アスフアルトマツト吊りワイヤーの支持部11として、実施例の第4、第5図にみるような円形又は矩形の筺体11の、適宜位置(図面では下部側方)にアスフアルトマツトに固着した吊りワイヤーYの挿入孔12をあけ、且つ、その上方より、前記主梁軸に上下巻輪10、10…に巻回した巻上げ、巻下しワイヤー13の先端に嵌合部材止具14を介して、アスフアルトマツト吊りワイヤの嵌合部材15がアスフアルトマツト吊り支持部11の筺体11の孔部11’に嵌合し、これによつてアスフアルトマツト吊りワイヤーYを支持するようにしてある。しかして、その両側主梁部4、4の上方の上下巻軸9の適所(図面では、両側端部)に、これを操作するハンドルH,Hが、取付けられている。・・・(略)・・・目的地に本吊り具枠体が到達しアスフアルトマツトがその目的位置に安置されたときは、上記ハンドルHをストツパー軸24のストツパー孔24’より孔しストツパー軸24に固定されたハンドルH’を前と逆に回転すれば、これに固定された上下軸9が回転し、従つて上下輪10を時計方向に回転せしめ、これによってアスフアルトマツト巻上下ワイヤーを巻上げて第5図(A)の位置にアスフアルト吊り支持部11より嵌合部材15を引上げアスフアルト吊りワイヤYを本吊枠3より開放してアスフアルトマツト1を目的地に安置することができるものである。」(第2ページ右下欄第4行ないし第3ページ左下欄第7行) (3)対比 本願補正発明と引用発明を対比する。 ア 引用発明における「芯材」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「内部補強部材」に相当し、以下、同様に、「用いた」は「配置して」に、「吊下げ用のワイヤロープ13a」は「荷役用のワイヤ」に、「アスフアルトマツト13」は「アスファルトマット」に、「吊下げる」は「取り扱いをする」に、「吊下装置」は「吊り枠装置」に、それぞれ、相当する。 したがって、引用発明における「芯材を用いたアスフアルト合材を主成分とする吊下げ用のワイヤロープ13aをアスフアルトマツト13の両側部に設けたアスフアルトマツト13を、吊下げるために用いる吊下げ装置であって」は、本願補正発明における「厚さ方向の中間部に内部補強部材を配置して、その上下にアスファルト層を設け、前記内部補強部材と一体に設けた荷役用のワイヤの端部をマットの周囲に突出させて設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって」と、「内部補強部材を配置して、荷役用のワイヤの端部をアスファルトマットの周囲に設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって」という限りにおいて、一致する。 イ 引用発明における「パイプ等の線状部材2」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「パイプまたは形鋼」に相当し、以下、同様に、「吊下げ作業」は「取り扱い作業」に、相当する。 する。 したがって、引用発明における「前記吊下装置は、パイプ等の線状部材2を組み合わせて四周部の枠を構成して、吊下げ作業の対象とするアスファルトマツト13のサイズに合わせて、枠体の幅と広さを有するものとして構成し」は、本願補正発明における「前記吊り枠装置は、パイプまたは形鋼を組み合わせて四周部の枠を構成して、取り扱い作業の対象とする前記マットのサイズに合わせて、枠体の巾と広さを有するものとして構成し」に相当する。 ウ 引用発明における「ワイヤロープ13aの端部を係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「ワイヤの端部を係止する手段」に相当し、以下、同様に、「アスフアルトマツト13」は「マット部材」に相当する。 したがって、引用発明における「前記吊下装置の四周部には、アスフアルトマツト13の周囲に突出させて設けているワイヤロープ13aの端部を係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9を設け」は、本願補正発明における「前記吊り枠装置の四周部には、前記マット部材の周囲に突出させて設けているワイヤの端部を係止する手段を設け」に相当する。 エ 引用発明における「ヒンジ部材6」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「ヒンジ部」に相当する。 したがって、引用発明における「前記吊下装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部材6を設けて」は、本願補正発明における「前記吊り枠装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部を設けて」に相当する。 オ 引用発明における「吊下げて」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「吊り下げて」に相当する。 また、引用発明における「埋立護岸14の天端14aと斜面14bとの2つの連続する面」は、本願補正発明における「海底の水平面と斜面との2つの連続する面」と、「水平面と斜面との2つの連続する面」という限りにおいて、一致する。 したがって、引用発明における「クレーンにより1枚のアスフアルトマツト13を枠体に吊下げて支持しながら、埋立護岸14の天端14aと斜面14bとの2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので」は、本願補正発明における「クレーンにより1枚のマットを枠体に吊り下げて支持しながら、海底の水平面と斜面との2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので」と、「クレーンにより1枚のマットを枠体に吊り下げて支持しながら、水平面と斜面との2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので」という限りにおいて、一致する。 カ 引用発明における「ワイヤロープ11」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「クレーンの吊り具」に相当し、以下、同様に、「クレーン用ワイヤロープ係止部材8」は「被吊具」に相当する。 したがって、引用発明における「前記枠体の上部にはワイヤーロープ11に対応させたクレーン用ワイヤロープ係止部材8を設け」は、本願補正発明における「前記枠体の上部にはクレーンの吊り具に対応させた被吊具を設け」に相当する。 キ 引用発明における「アスフアルトマツト13に設けているワイヤロープ13a」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「マットに設けている被吊具」に相当し、以下、同様に、「アスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9」は「保持部材」に相当する。 したがって、引用発明における「前記枠体の下部には、アスフアルトマツト13に設けているワイヤロープ13aを係止するアスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9を、所定の間隔で多数設け」は、本願補正発明における「前記枠体の下部には、マットに設けている被吊具を係止する保持部材を、所定の間隔で多数設け」に相当する。 ク 引用発明における「前記アスフアルトマツト13と吊下げて支持し、クレーンにより持ち上げられた状態では、前記枠体は1つの平面状の枠形状を維持し」は、本願補正発明における「前記マット部材を吊り下げて支持し、クレーンにより持ち上げた状態では、前記枠体は1つの平面状の枠形状を維持し」に相当する。 ケ 引用発明における「埋立護岸14」は、本願補正発明における「海底の構造物」と、「構造物」という限りにおいて一致する。 したがって、引用発明における「枠体の一方の下面を埋立護岸14の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分がヒンジ部材6を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成した」は、本願補正発明における「枠体の一方の下面を海底の構造物の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分が前記ヒンジ部を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成した」と、「枠体の一方の下面を構造物の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分が前記ヒンジ部を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成した」という限りにおいて、一致する。 コ よって、両者は、 「内部補強部材を配置して、荷役用のワイヤの端部をアスファルトマットの周囲に設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって、 前記吊り枠装置は、パイプまたは形鋼を組み合わせて四周部の枠を構成して、取り扱い作業の対象とする前記マットのサイズに合わせて、枠体の巾と広さを有するものとして構成し、 前記吊り枠装置の四周部には、前記マット部材の周囲に突出させて設けているワイヤの端部を係止する手段を設け、 前記吊り枠装置の枠体は、その長さ方向の所定の位置で枠体の中心よりも一方の側に偏った位置にヒンジ部を設けて、クレーンにより1枚のマットを枠体に吊り下げて支持しながら、水平面と斜面との2つの連続する面に対して、1度の動作で敷設可能とするもので、 前記枠体の上部にはクレーンの吊り具に対応させた被吊具を設け、 前記枠体の下部には、マットに設けている被吊具を係止する保持部材を、所定の間隔で多数設け、 前記マット部材を吊り下げて支持し、クレーンにより持ち上げた状態では、前記枠体は1つの平面状の枠形状を維持し、 枠体の一方の下面を構造物の上に載置・固定した状態で、枠体の他方の部分が前記ヒンジ部を介して、その端部を下方に折れ曲げさせるように構成した吊り枠装置。」 である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。 サ 相違点1 「内部補強部材を配置して、荷役用のワイヤの端部をアスファルトマットの周囲に設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって」に関して、本願補正発明においては、「厚さ方向の中間部に内部補強部材を配置して、その上下にアスファルト層を設け、前記内部補強部材と一体に設けた荷役用のワイヤの端部をマットの周囲に突出させて設けたアスファルトマットを、取り扱いするために用いる吊り枠装置であって」であるのに対し、引用発明においては、「芯材を用いたアスフアルト合材を主成分とする吊下げ用のワイヤロープ13aをアスフアルトマツト13の両側部に設けたアスフアルトマツト13を、吊下げるために用いる吊下装置であって」である点(以下、「相違点1」という。)。 シ 相違点2 本願補正発明においては、「保持部材」には、「前記マットの被吊具を保持・開放する動作を容易に行い得る手段」を設けているに対し、引用発明においては、「保持部材」に相当する「アスフアルトマツト用ワイヤロープ係止部材9」には、そのような手段を設けているか不明な点(以下、「相違点2」という。)。 ス 相違点3 「水平面と斜面との2つの連続する面」及び「構造物」が、本願補正発明においては、「海底の」ものであるのに対し、引用発明においては、そのようなものではない点(以下、「相違点3」という。)。 (4)相違点についての判断 そこで、上記相違点1ないし3について、以下に検討する。 ア 相違点1について 引用発明における「芯材を用いたアスフアルト合材を主成分とする吊下げ用のワイヤロープ13aをアスフアルトマツト13の両側部に設けたアスフアルトマツト13」において、「芯材」が厚さ方向の中間部にあること、「芯材」の上下にアスファルト層があること及び「荷役用のワイヤ」が「芯材」と一体に設けられていることは、記載1b及び技術常識から明らかであるから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。 仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、「厚さ方向の中間部に内部補強部材を配置して、その上下にアスファルト層を設け、前記内部補強部材と一体に設けた荷役用のワイヤの端部をマットの周囲に突出させて設けたアスファルトマット」は周知である(必要であれば、下記(ア)特開昭61-178393号公報の記載、(イ)特開2002-61148号公報の記載及び(ウ)特開平10-110438号公報の記載を参照。以下、「周知技術1」という。)から、引用発明において、周知技術1を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 (ア)特開昭61-178393号公報の記載 特開昭61-178393号公報には、「板状体の水平吊具」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)。 ・「通常用いられているアスファルトマット20としては、第5図に示されるように、所定の厚さのアスファルトマスチック21の間に、ガラス繊維等のネットにより形成される補強部材22と、吊り上げ用のアイ24を両端部に形成したワイヤーロープ23、そのロープ23の中間部に固定される滑り止め金具25等が一体に埋設されているもので、そのように形成したアスファルトマット20を防波提や、河川の護岸の基礎部分の保護部材や、海中構造物等の基礎の保護部材として用いているものである。」(第2ページ左上欄第6ないし16行) (イ)特開2002-61148号公報の記載 特開2002-61148号公報には、「アスファルトマットおよび水中遮水工法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。 ・「【0013】 【発明の実施の形態】図示される例にしたがって、本発明の水中遮水工法を説明する。一般的な廃棄物処分場の仕切護岸は、図1に示すように構築されるもので、海底地盤2の上に石積基礎3を構築し、その石積基礎3の上にケーソン等の構造物を載置して構築する。前記石積基礎3を構築する海底地盤が軟弱地盤の場合には、構造物の重量に耐え得る強度を持たせるような、地盤を補強する工事を施工する。前記石積基礎3と構造物4の内海面側には、必要に応じて捨て石層5、5aを構築し、前記捨て石層の表面と、海底地盤2の上の所定の範囲に亘って、遮水工6、7を構築する。前記構造物4としては、一般に港湾の構造物としてのコンクリート製のケーソンや、鋼製・ハイブリッドケーソン等を用いることができ、ケーソンの内部空間に建築廃材や石、砂等を充填して自重を重くし、波浪の圧力で前記構造物が動いたりしないように設置する。 ・・・(略)・・・ 【0015】前記遮水工6、7を構築する際に用いるアスファルトマットは、図2ないし4に示すような構造を有するものとして構成することができる。前記アスファルトマット10は、従来のアスファルトマットの場合と同様に、アスファルト混合物の層11、11aの間に、ガラスクロスのような内部補強部材12を挟んで構成し、厚さDを8?15cm、巾Wを5m程度、長さLを20?30mに構成するが、前記マットのサイズ等は任意に構成することができる。また、前記内部補強部材12としては、ガラスクロスと金網等を重ねた内部補強部材12を用いることも可能である。 【0016】さらに、前記内部補強部材12と重ねて、両端部にアイ部13aを設けたワイヤ13……を所定の間隔で配置し、前記ワイヤ13……の端部には、マットとの一体化を図るために、帯鉄15をアスファルト混合物層の間に埋設して設け、前記ワイヤ13の所定の位置には、滑動防止金具15a……を配置して、マット本体からワイヤ13が抜け出さないように固定している。前記帯鉄15や滑動防止金具15aは、内部補強部材12と一体化するような接続手段を用いて配置すると、ワイヤを保持する性能を良好に発揮できるが、その他に、内部補強部材の下面に巾の広いものを配置して、ワイヤとの間での滑りが生じにくいようにしても良い。 ・・・(略)・・・ 【0019】前述したように構成したアスファルトマット10は、製作後にワイヤ13のアイ部13aに吊り枠のフックを係止させて、クレーンのような荷役装置を用いて吊り上げて荷役を行うことができる。また、前記アスファルトマット10を施工海域に敷設する場合にも、多数枚のアスファルトマットを台船に重ねて積載したものから、アスファルトマット専用の吊り枠を装備したクレーン船により、1枚ずつ吊り上げて敷設作業を行うことができる。なお、前記アスファルトマットの施工は、従来のアスファルトマットの施工と同様にして行うもので、海底の施工海域に吊り下ろしたアスファルトマットを、所定の敷設位置に位置決めした状態で、潜水作業員が吊り枠のフックから外して敷設することができる。」(段落【0013】ないし【0019】) ・図1から、捨て石層5、5aが水平面と斜面との少なくとも2つの連続する面からなる海底の構造物であることが看取される。 (ウ)特開平10-110438号公報の記載 特開平10-110438号公報には、「アスファルトマットの吊り枠装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。 ・「【0003】前記マット部材は図7に示されるように上下の2層に分けて施工するアスファルト層2、3の間に金網やガラスクロス等のような内部補強部材4を配置して、一体化して構成しているもので、前記内部補強部材に対応させた位置にマットワイヤ部材5を所定の間隔で平行に配置して設けている。 【0004】前記マットワイヤ部材5は、両端部に荷役に使用するアイ部材6をそれぞれ配置しており、前記アイ部材6を吊り枠のフック等に係止させ、吊り枠による荷役を行い得るようにしている。また、前記マットワイヤ部材5の両端部には端部固定板部材7をマット部材中に埋めるようにして配置し、中間部には所定の間隔で固定板8……を配置して、マット内部からマットワイヤ部材5が抜け出さないように保持させる。」(段落【0003】及び【0004】) ・「【0030】前述したように、本発明のアスファルトマットの吊り枠装置によりマット部材を吊り上げる際には、吊り枠の吊り上げ作用を行う初期の段階で、マットワイヤ部材に対して大きな張力が作用して、マット部材が吊り上げられる際には、吊り枠と略平行な状態を維持できるようになる。したがって、アスファルトマットが硬化するような気温の低い時期でも、マット部材を吊り上げたりする際に、クレーンの作動速度を低速に維持する必要はなく、高温時と同様な作業性を維持することができる。また、吊り枠により吊り上げたマット部材を施工現場に敷設する際にも、マット部材が略水平を維持しているのであるから、マット部材全体がほぼ同時に着床する状態となる。 【0031】これに対して、従来の吊り枠を使用した場合には、マット部材の中央部が大きく撓む状態で支持されていたことから、施工現場で敷設する際には中央部が先に着床させ、その後にマット部材の撓みを直しながらゆっくり吊り枠を下降させるような作業を行うことが求められていた。そして、海底地盤上等にマット部材を施工する際には、マット部材を着床させる直前に、マット部材の中央部を水中作業員が目測で決めて、クレーンの操作員に伝達して吊り枠の位置決めを行っていた。 【0032】しかしながら、前記マット端部が着床した状態で、予定位置から外れることが多くあり、その際には、マット部材を再び吊り上げて水中で横に移動させ、再び着床させるような繁雑な作業を強いられていたものである。 【0033】本発明においては、吊り枠に対してマット部材を略水平状態で吊り下げていることから、前述したように、敷設現場で着床させる際にも、マット部材の全体をほぼ同時に海底地盤等の敷設面に当接させることができる。そして、マット部材の撓みの修正を考慮する必要がなく、吊り枠を高速で降下させて、敷設現場にマット部材を位置決めすることが可能になる。」(段落【0030】ないし【0033】) イ 相違点2について 引用文献2に記載された「アスフアルトマツト吊上げ、吊降し方法とその装置」における「上下巻軸9」、「上下巻輪10、10」、「筺体11」、「巻上げ、巻降しワイヤー13」、「嵌合部材止具14」、「嵌合部材15」及び「ハンドルH」から構成される機構は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「マットの被吊具を保持・開放する動作を容易に行い得る手段」を設けた「保持手段」に相当することから、引用文献2には、「保持部材にマットの被吊具を保持・開放する動作を容易に行い得る手段を設けること」(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されていると認める。 そして、引用発明は、アスファルトマット13に設けられたワイヤーロープ13aを保持・開放するものであるから、保持・開放を容易に行うようにするという課題を内在するものである。 したがって、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用し、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 ウ 相違点3について アスファルトマットの敷設を、水平面と斜面との2つの連続する面からなる海底の構造物に対して行うことは、周知である(必要であれば、上記(イ)特開2002-61148号公報の記載及び(ウ)特開平10-110438号公報の記載並びに下記(エ)特開平11-107236号公報の記載を参照。以下、「周知技術2」という。)。 したがって、引用発明において、周知技術2を適用し、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 (エ)特開平11-107236号公報の記載 特開平11-107236号公報には、「海洋構造物の基礎構築方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。 ・「【0003】前述したようにして構築する海洋構造物は、図12に示すようにして構築されるもので、海底地盤3を均した上に、捨石を投入して所定の高さの基礎マウンド5を構築し、その基礎マウンド5の上面を平らに均した上にアスファルトマット4を配置し、その上にケーソン2を設置して海洋構造物1を構成するような工法を用いている。前記基礎マウンドとケーソンとの間に配置するアスファルトマット4は、陸上で製造したものをクレーン船等により施工現場に敷設する方法を用いることが多く、その他に、ケーソンの下面にアスファルトマットを一体に取り付けて、ケーソンの施工によりアスファルトマットを一体に布設する方法も用いられる。」(段落【0003】) ・図12から、基礎マウンド5が水平面と斜面との少なくとも2つの連続する面からなる海底の構造物であることが看取される。 エ 効果について そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明は、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。 (5)むすび したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 2-3 むすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、平成24年12月27日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」のとおりである。 2 引用文献1の記載、引用文献1の記載事項、引用発明及び引用文献2の記載 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭59-198455号(実開昭61-116690号)のマイクロフィルム(以下、上記「第2[理由]2 2-2(1)と同様に、「引用文献1」という。)には、上記「第2[理由]2 2-2(1)ア」のとおりの記載があり、該記載及び図面の記載から、上記「第2[理由]2 2-2(1)イ」のとおりの記載事項が記載されていると認める。 そして、引用文献1には、上記「第2[理由]2 2-2(1)ウ」のとおりの発明(以下、上記「第2[理由]2 2-2(1)ウ」と同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。 また、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭56-52382号公報(以下、上記「第2[理由]2 2-2(2)と同様に、「引用文献2」という。)には、上記「第2[理由]2 2-2(2)」のとおりの記載がある。 3 対比・判断 上記「第2[理由]2 2-1」で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が上記「第2[理由]2 2-2(3)ないし(5)」のとおり、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2(引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2については、上記「第2[理由]2 2-2(4)」のとおりである。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願発明を全体としてみても、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-06-30 |
結審通知日 | 2014-07-22 |
審決日 | 2014-08-04 |
出願番号 | 特願2007-314120(P2007-314120) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B66C)
P 1 8・ 575- Z (B66C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 加藤 昌人 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
藤原 直欣 加藤 友也 |
発明の名称 | 吊り枠装置 |
代理人 | 久保 司 |