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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1292563 |
審判番号 | 不服2012-22293 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-11-12 |
確定日 | 2014-10-08 |
事件の表示 | 特願2008-511765号「ガラスセラミック製プレートとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年1月4日国際公開、WO2007/000532、平成20年11月20日国内公表、特表2008-541392号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2006年5月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年5月20日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成24年7月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年11月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 その後、当審において、平成25年10月4日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成26年4月7日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1ないし15に係る発明は、平成26年4月7日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「少なくとも1つの加熱要素を覆う、あるいは、収容するための、ガラスセラミック製プレートであって、 ガラスセラミック基板と、 該ガラスセラミック基板の表面上に形成されるコーティング、とを備え、 上記コーティングは無光沢コーティングと反射コーティングとを有し、 上記無光沢コーティングと反射コーティングとは共に上記ガラスセラミック基板の表面の全体を覆い、 上記コーティング領域は背景領域と表示領域とを有し、 上記背景領域はガラスセラミック基板の表面の中、無光沢コーティングが存在する領域に相当し、かつコーティングの表面積の50?99%を占め、 上記背景領域はガラスセラミック基板の表面上に形成される無光沢コーティング層、または、反射コーティング層で被覆したガラスセラミック基板の表面上に形成される無光沢コーティング層を有し、 上記表示領域はガラスセラミック基板の表面の中、無光沢コーティングが存在しない領域に相当し、かつコーティング領域の表面積の1?50%を占め、 上記表示領域はガラスセラミック基板の表面上に形成される反射コーティング層を有し、 上記背景領域はガラスセラミック製プレートを見た時、無光沢の外観を呈し、それによりガラスセラミック製プレートが調理プレートとして用いられるとき、調理プレートの加熱構造の主要部はマスクされ、 上記表示領域はガラスセラミック製プレートを見た時、背景領域に対し反射する外観を呈し、それにより、ガラスセラミック製プレートが調理プレートとして用いられるとき、装飾、情報、または機能要素が現われ、かかる要素が作動していることを外観から認識できる、ことを特徴とするガラスセラミック製プレート。」 3.引用例 これに対して、当審で通知した拒絶理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である特開2004-225950号公報(以下「引用例1」という。)及び特開2003-86337号公報(以下「引用例2」という。)には、それぞれ以下の各事項が記載されている。 [引用例1について] (1a)「【請求項1】 低膨張ガラス板の非使用面に、遮光性能を有する蒸着膜が形成されてなり、蒸着膜が文字及び/又は図形の部分を抜いて形成されてなる調理器用トッププレート。 ・・・ 【請求項3】 蒸着膜の抜けた文字及び/又は図形の部分に、蒸着膜と色もしくは光沢の異なる異種膜が形成されてなる請求項1又は2に記載の調理器用トッププレート。 【請求項4】 低膨張ガラス板の非使用面に、低膨張ガラス板側から順に、文字及び/又は図形の部分を抜いた蒸着膜と、蒸着膜と色もしくは光沢の異なる異種膜が形成されてなる請求項1?3のいずれかに記載の調理器用トッププレート。 【請求項5】 蒸着膜と色もしくは光沢の異なる異種膜が、蒸着法によって形成された異種蒸着膜からなる請求項3又は4に記載の調理器用トッププレート。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、調理器用トッププレート及びその製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 家庭用や業務用の調理器として、従来のガスコンロだけでなく、ラジエントヒーターやハロゲンヒーターを用いた赤外線加熱調理器、電磁加熱(IH)調理器が用いられるようになってきた。」 (1c)「【0015】 また、蒸着層と色もしくは光沢の異なる異種膜は、蒸着法や印刷法のいずれの方法を用いて形成された膜であっても構わないが、スクリーン印刷法を用いて形成された印刷膜であると、インクを変えるだけで、多色の文字及び/又は図形を容易に形成できるため好ましい。また、蒸着法を用いて形成された異種蒸着膜であると、光沢を有する文字及び/又は図形を形成できるため好ましい。」 (1d)「【0018】 また、本発明の調理器用トッププレートは、波長0.4?0.8μmにおける平均透過率が10%以下、好ましくは7%以下、さらに好ましくは6%以下であると、遮光の能力に優れ、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することができる。」 (1e)「【0029】 異種蒸着膜は、蒸着膜と色もしくは光沢が異なる膜であれば、特に制限は無い。」 (1f)「【0030】 低膨張ガラスとしては、600℃からの急冷に耐える、いわゆる耐熱衝撃性の高い材料が使用でき、具体的には50×10^(-7)/℃以下の熱膨張係数を有する材料が好適であり、低膨張の硼珪酸ガラス、石英ガラスあるいはβ-石英固溶体を主結晶とする低膨張結晶化ガラスが使用可能である。・・・」 (1g)「【0054】 【効果】 以上説明したように、本発明の調理器用トッププレートは、透光性低膨張ガラス板の裏面に蒸着膜が形成されてなるため、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することができる。また低膨張ガラス板の非使用面に文字及び/又は図形が形成されてなるため、トッププレートの使用面から見ても、使用の際の注意文や警告文、温度や火力を表示するインジケータの説明文、図形などの印刷層が二重写りすることがなく、しかも陶器のような硬い材料の調理器具を使用しても、文字及び/又は図形が削られることがない。よって、ラジエントヒーターやハロゲンヒーターを用いた赤外線加熱調理器、電磁加熱(IH)調理器、ガス調理器のトッププレートとして好適である。」 以上の記載において、「蒸着膜と色もしくは光沢の異なる異種膜」のうち、「蒸着膜と光沢の異なる異種膜」に着目すると、引用例1には、 「低膨張ガラス板の非使用面に、遮光性能を有する蒸着膜が形成されてなり、蒸着膜が文字及び/又は図形の部分を抜いて形成され、 蒸着膜の抜けた文字及び/又は図形の部分に、蒸着膜と光沢の異なる異種膜が形成され、 蒸着膜と光沢の異なる異種膜が、蒸着法によって形成された異種蒸着膜からなり、光沢を有する文字及び/又は図形を形成し、 低膨張ガラスとしては、低膨張結晶化ガラスが使用され、 低膨張ガラス板の裏面に蒸着膜が形成されてなるため、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することができる調理器用トッププレート。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用例2について] (2a)「【請求項1】 調理器の上部に配置する調理器用のトッププレートであって,該トッププレートは,透明なガラス層と,該ガラス層の下面に配設したパール調層と,該パール調層の下面に配設した遮光層とからなり,また,上記トッププレートは,上記調理器に設けられた光源の上方に,上記遮光層を設けていない視認窓を有することを特徴とする調理器用のトッププレート。」 (2b)「【0003】更に,調理器が電磁調理器の場合には,光を通す必要がないため,透光性のないトッププレートを用いる場合もある。ところが,近年,上記調理器においては,その通電状態などの作動状態を示す光源を,トッププレートの下方に配設する場合がある。この場合,上記トッププレートを介して光源の光を視認できるよう構成すべく,透光性のあるトッププレートを用いる必要がある。即ち,例えば,透明なガラス板の下面に上記装飾層を設けたトッププレートを用いる。」 (2c)「【0037】このように,上記光源2の発光時においては,上記光源2の発光を上記視認窓15から確実に視認することができ,かつ,上記光源2の未発光時においては,上記光源2を隠し,外観意匠性を向上させることができる。特に,黒色系でない明るいパール調の色あいのトッププレート1とする場合にも,上述の効果を充分に発揮することができる。・・・」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「調理器用トッププレート」は、低膨張結晶化ガラスが使用される「低膨張ガラス板」からなることから、本願発明の「ガラスセラミック製プレート」に相当し、また、上記「低膨張ガラス板」は、本願発明の「ガラスセラミック基板」に相当し、 引用発明の「調理器用トッププレート」は、「加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することができる」ものであり、ここで「加熱装置」には本願発明でいう「加熱要素」が含まれることは明らかであることから、「少なくとも1つの加熱要素を覆う、あるいは、収容するための」ものといえ、 引用発明の文字及び/又は図形の部分を抜いて蒸着膜が形成されている部分は、本願発明の「背景領域」に相当し、 引用発明の文字及び/又は図形の部分は、本願発明の「表示領域」に相当し、 引用発明の「蒸着膜」及び「異種蒸着膜」は、本願発明の「コーティング」に相当し、本願発明でいう「背景領域と表示領域とを有」する「コーティング領域」を構成し、また、それらは共に低膨張ガラス板の表面の全体を覆っていることは明らかであり、 引用発明の遮光性能を有する蒸着膜が形成された部分は、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することができるものであるので、調理器用トッププレートを見た時、調理器用トッププレートが調理プレートとして用いられるとき、本願発明の「調理プレートの加熱構造の主要部はマスクされ」るものといえ、 引用発明の文字及び/又は図形の部分は、調理器用トッププレートを見た時、調理器用トッププレートが調理プレートとして用いられるとき、本願発明の「装飾、情報、または機能要素が現われ」るものといえる。 よって、両者は、 「少なくとも1つの加熱要素を覆う、あるいは、収容するための、ガラスセラミック製プレートであって、 ガラスセラミック基板と、 該ガラスセラミック基板の表面上に形成されるコーティング、とを備え、 上記コーティングは上記ガラスセラミック基板の表面の全体を覆い、 上記コーティング領域は背景領域と表示領域とを有し、 上記背景領域はガラスセラミック製プレートを見た時、ガラスセラミック製プレートが調理プレートとして用いられるとき、調理プレートの加熱構造の主要部はマスクされ、 上記表示領域はガラスセラミック製プレートを見た時、ガラスセラミック製プレートが調理プレートとして用いられるとき、装飾、情報、または機能要素が現われる、ガラスセラミック製プレート。」 である点で一致し、以下の各点で相違する。 相違点1;本願発明では、コーティングは無光沢コーティングと反射コーティングとを有し、背景領域はガラスセラミック基板の表面の中、無光沢コーティングが存在する領域に相当し、上記背景領域はガラスセラミック基板の表面上に形成される無光沢コーティング層、または、反射コーティング層で被覆したガラスセラミック基板の表面上に形成される無光沢コーティング層を有し、背景領域はガラスセラミック製プレートを見た時、無光沢の外観を呈し、また、表示領域はガラスセラミック基板の表面の中、無光沢コーティングが存在しない領域に相当し、上記表示領域はガラスセラミック基板の表面上に形成される反射コーティング層を有し、上記表示領域はガラスセラミック製プレートを見た時、背景領域に対し反射する外観を呈するのに対し、引用発明では、低膨張ガラス板の非使用面に、遮光性能を有する蒸着膜及びそれと光沢の異なる異種蒸着膜が形成されているものの、それら各膜について反射、無光沢等の特定がない点。 相違点2;本願発明では、背景領域はコーティングの表面積の50?99%を占め、表示領域はコーティング領域の表面積の1?50%を占めるのに対し、引用発明では、そのような表面積の占める割合は特定されていない点。 相違点3;本願発明では、表示領域はガラスセラミック製プレートを見た時、ガラスセラミック製プレートが調理プレートとして用いられるとき、装飾、情報、または機能要素が作動していることを外観から認識できるのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。 5.判断 上記各相違点について検討すると、 ・相違点1について 引用発明において、遮光性能を有する蒸着膜とそれと光沢の異なる異種蒸着膜とは、どちらがより光沢があるのかは特定されていないものの、上記異種蒸着膜、すなわち、文字及び/又は図形の部分に形成される異種蒸着膜を遮光性能を有する蒸着膜より光沢のあるものとすることは、意匠性等を考慮して、当業者が適宜になす程度のことである。 また、光沢があることは光を反射することと解される(光沢「光の反射による、物の表面の輝き。」デジタル大辞泉)ので、引用発明において、上記のようになすと、文字及び/又は図形の部分に形成される異種蒸着膜は、本願発明の「反射コーティング(層)」といえ、そして、文字及び/又は図形の部分は調理器用トッププレートを見た時、遮光性能を有する蒸着膜が形成された部分に対し「反射する外観を呈する」ものといえる。 ここで、本願発明の「無光沢」について検討すると、本願明細書の段落【0012】に「本発明では、対照的な2つの領域は、光沢効果、または反射効果、または鏡面効果を有する少なくとも1つの領域(今後は反射領域と呼ぶ)と、(相対的に)無光沢効果を有する(特に、不透明化効果、または少なくとも一部を隠す効果を有する)少なくとも1つの領域(今後は無光沢領域と呼ぶ)であることが好ましい。」と記載されているように、本願発明の「無光沢領域」とは、「反射領域」に対して相対的に無光沢効果を有する領域のこと、すなわち、「無光沢」とは、「反射」と比較して光沢効果、反射効果、または鏡面効果が低いことを意味するものと解される。 そうすると、上記のように文字及び/又は図形の部分に形成される異種蒸着膜を遮光性能を有する蒸着膜より光沢のあるものとすると、遮光性能を有する蒸着膜は、相対的に光沢効果が低い本願発明の「無光沢コーティング(層)」といえ、そして、遮光性能を有する蒸着膜が形成された部分は調理器用トッププレートを見た時、「無光沢の外観を呈」するものといえる。 よって、引用発明において、文字及び/又は図形の部分に形成される異種蒸着膜を遮光性能を有する蒸着膜より光沢のあるものとするこにより、上記相違点1の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 なお、仮に、本願発明の「無光沢コーティング」が、請求人が平成26年4月7日付け意見書で主張するような「光を乱反射させて光沢をなくしたコーティング」を意味するものでであるとしても、調理器用トッププレートの背景領域の外観は、意匠性等を考慮して当業者が設計上適宜に決めうる事項であるので、それを「無光沢」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 ・相違点2について 調理器用トッププレートにおいて、文字及び/又は図形の部分を全体の表面積の「50%」以下に形成することは、ごく普通のことであり、また、「1%」以上に形成することも、単なる設計的事項に過ぎないものと認められる。 よって、引用発明において、上記相違点2の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 ・相違点3について 引用例2には、調理器用のトッププレートにおいて、調理器の通電状態などの作動状態を示す光源を、トッププレートの下方に配設し、光源の発光時においては、遮光層を設けていない視認窓から確実に視認できるようする技術が記載されている。 一方、電磁加熱(IH)等の調理器において、当該調理器の作動状態を使用者が視認し得るようになすことは、一般的な技術課題と認められ、また、引用発明において、遮光性能を有する蒸着膜が抜いて形成されている部分は、格別な遮光性がないことより、上記視認窓として活用できることは、当業者が容易に想到し得る事項である。 よって、引用発明において、遮光性能を有する蒸着膜を上記視認窓に相当する部分を抜いて形成することにより、上記相違点3の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-04-24 |
結審通知日 | 2014-05-13 |
審決日 | 2014-05-26 |
出願番号 | 特願2008-511765(P2008-511765) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 結城 健太郎、土屋 正志 |
特許庁審判長 |
竹之内 秀明 |
特許庁審判官 |
鳥居 稔 山崎 勝司 |
発明の名称 | ガラスセラミック製プレートとその製造方法 |
代理人 | 大橋 康史 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 伊藤 健太郎 |
代理人 | 谷光 正晴 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 三橋 真二 |