ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16B |
---|---|
管理番号 | 1292612 |
審判番号 | 不服2014-1497 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-28 |
確定日 | 2014-10-28 |
事件の表示 | 特願2011-513806「焼付き防止ボルト」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 8日国際公開、WO2010/038446、平成24年 2月23日国内公表、特表2012-504731、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2009年9月30日(優先権主張 2008年10月2日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月25日付け(発送日:同年10月29日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年1月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正がなされたものである。 そして、平成26年3月31日付けで審査官により作成された前置報告書がなされ、平成26年4月21日に上申書が提出されたものである。 第2.平成26年1月28日付けの手続補正(以下、本件補正という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、 「【請求項1】 呼び径D、内径D_(1)のめねじに螺合されるボルトであって、 ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D_(1)よりも大きく、かつ(D+D_(1))/2よりも小さく、ねじ山形状が三角ねじまたは台形ねじである小径ねじ部を、1ピッチ以上にわたり形成したことを特徴とする焼付き防止ボルト。」 とあったものを 「【請求項1】 呼び径D、内径D_(1)のめねじに螺合されるボルトであって、 ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D_(1)よりも大きく、かつ(D+D_(1))/2よりも小さく、しかも谷径が正規ねじ部の谷径よりも小さく、ねじ山形状が三角ねじまたは台形ねじである小径ねじ部を、1ピッチ以上にわたり形成したことを特徴とする焼付き防止ボルト。」 とする補正を含むものである。(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。) 2.補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「小径ねじ部」について、「谷径が正規ねじ部の谷径よりも小さく」との限定を付加すものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-82430号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「ボルト」に関し、図面(特に、【図4】を参照。)と共に、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付与した。) ア.「【0006】 【発明が解決しようとする課題】ボルトが相手ナットの軸線に対し傾斜した状態のままで締付け具をボルトの頭部に押し付け、ネジ装着を開始することがある。この場合、ボルトの姿勢が修正されないまま、ネジ装着されてしまい、ネジ山の噛りや焼き付きが発生し、円滑にネジ装着が行われず、締付け作業効率が低下するという問題があった。」 イ.「【0015】上述の発明において、ボルトの頭部に締付け具を押し付け、相手となるナットのネジ孔の軸線に対しボルトの軸線が傾斜した状態で押し付け回転した場合に、ナットの内径より小さい径の円筒形状に形成された先端部にある円筒状案内部が相手ナットのネジ孔のネジ溝に食い込むことがなく初期の段階で傾斜姿勢が修正され、さらに、ネジ状案内部が相手ナットのネジ孔に挿入されると、ネジ状案内部のネジ山頂部が断面円弧形状に形成されているので、相手ナットのネジ孔の入口端部もネジ溝に食い込むことがなく、押し付け推力を受けてさらに姿勢変更し、このように、ボルトが相手ナットの孔壁に引っ掛かかることなく、初期に傾斜した姿勢をネジ孔に挿入される毎に次第に姿勢変更し、最終的に正規ネジ部が正規に相手ナットと螺合できる姿勢に姿勢変更される。」 ウ.「【0022】 【発明の実施の形態】以下に図面を参照して、本発明のボルトの実施の形態について説明する。 【0023】図1乃至図3に本発明に係るボルトの一実施形態を示す。ボルト1は、頭部7と反対側の先端部に相手ナットの内径より小さい直径6.5mmの円筒形状に形成された円筒状案内部2と、相手ナットと正規に螺合する正規ネジ部6と、円筒状案内部2の上端から正規ネジ部6の下端までネジ状に形成されたネジ状案内部3とを有する。 【0024】正規ネジ部6はM8mm×1.25mmであり、外径が約7.9mmピッチが1.25mmである。 【0025】ネジ状案内部3は、ネジ山頂部が断面円弧形状に形成され、円筒状案内部2の直径6.5mmより大きく正規ネジ部6の外径7.9mmより小さい外径を有する。ネジ状に形成されたネジ状案内部3は、好ましくは製造上の都合で正規ネジ部6のピッチとリード角と同じピッチとリード角を有するが、必ずしも同じでなくともよい。また、ネジ状案内部3の谷径は正規ネジ部6の谷径と同じに形成されている。 【0026】ネジ状案内部3は、円筒状案内部2に近い側の2条の第1のネジ状案内部4と正規ネジ部6側に近い側の1条の第2のネジ状案内部5とから連続的に接続されて形成されており、第1のネジ状案内部4は外径7mmを有し、第2のネジ状案内部5は第1のネジ状案内部4の外径より大きい外径7.5mmを有する。第1のネジ状案内部4のネジ山頂部の断面円弧形状は、ピッチの寸法1.25mmの20%乃至60%の大きさの曲率半径、例えば0.5mmの曲率半径を有し、第2のネジ状案内部5のネジ山頂部の断面円弧形状は、ピッチの寸法1.25mmの20%乃至60%の大きさの曲率半径、例えば0.3mmの曲率半径を有する。」 エ.「【0039】図4は、図1または図2に示す実施例の変形例を示す図である。図4において、ネジ状案内部3は、一つの外径からなるネジ山を有し、3条の第1のネジ状案内部4のみから構成されている。このように、ネジ状案内部3を一種類の外径のネジ山で構成することによって簡易に製造することができる。 【0040】以上のように、本実施の形態によれば、ボルト1が相手ナットの軸線に対し傾斜した状態のままで締付け具をボルト1の頭部に押し付けネジ装着を開始したとしても、ボルト1の姿勢が修正されながらネジ装着されるので、ネジ山の噛りや焼き付きが発生することがなくなり、円滑にネジ装着が行われ、締付け作業効率が高くでき、組立て費用の低減を図ることができる。」 オ.ボルト1は、記載事項エ.段落【0040】の「ネジ山の噛りや焼き付きが発生することがなくなり」との記載から焼付き防止ボルトといえる。 カ.記載事項ウ.段落【0025】の記載によれば、正規ネジ部6の外径が7.9mmであるから、これに噛み合う相手ナットのネジ孔の谷径は7.9mmである。 キ.記載事項ウ.段落【0024】の記載によれば、正規ネジ部6はM8であるところ、JISによればM8ボルトの谷径は約6.65mmであるから、これに噛み合う相手ナットの内径は約6.65mmとなる。 これら記載事項、図示内容及び認定事項を総合し、補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「谷径7.9mm、約内径6.65mmの相手ナットに螺合されるボルト1であって、 ボルト軸部に形成された正規ねじ部6の下端に、外径7.0mmであり、谷径が正規ねじ部6の谷径と同じであり、ネジ山頂部が断面円弧形状に形成された第1のネジ状案内部4を、3条にわたり形成した焼付き防止ボルト。」 (2)対比 補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、後者の「谷径7.9mm」は前者の「呼び径D」に相当する。以下、同様に、「内径約6.65mm」は「内径D_(1)」に、「相手ナット」は「めねじ」に、「ボルト1」は「ボルト」に、「正規ねじ部6の下端」は「正規ねじ部の先端」に、「外径7.0mm」は「外形寸法d」に、「ネジ状案内部4」は「小径ねじ部」に相当する。また、「3条にわたり形成した」は「1ピッチ以上にわたり形成した」に含まれる。 以上の相当関係により、D_(1)=約6.65mm、d=7.0mmであるから、第1のネジ状案内部4の外径7.0mm(d)は、相手ナットの内径約6.65mm(D_(1))より大きく、さらに、D=7.9mmとして(D+D_(1))/2を計算すると、約7.275mmとなるから(D+D_(1))/2よりも小さいといえる。 そうすると、両者は、補正発明の用語で表現すると、次の点で一致する。 [一致点] 「呼び径D、内径D_(1)のめねじに螺合されるボルトであって、 ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D_(1)よりも大きく、かつ(D+D_(1))/2よりも小さい小径ねじ部を、1ピッチ以上にわたり形成した焼付き防止ボルト。」 そして、両者は次の点で相違する。 [相違点] 「小径ねじ部」に関し、 補正発明は、「谷径が正規ねじ部の谷径よりも小さく、ねじ山形状が三角ねじまたは台形ねじである」のに対して、 引用発明は、「谷径が正規ねじ部6の谷径と同じであり、ネジ山頂部が断面円弧形状に形成された」点。 (3)判断 [相違点]について検討する。 補正発明は、明細書段落【0013】に「図2は本発明のボルト10がめねじ20に挿入された状態を示す図である。このときボルト10の小径ねじ部12のねじ山が、めねじ20のねじ山とA点において噛み合っている。この状態においてA点から180°反対側のボルト上のB点(ねじ山頂部)までの距離は、本発明の設定によって(D+D_(1))/2未満である。一方、A点から180°反対側のめねじ20上のC点までの距離ACは、図4に示すようにめねじ20の呼び径Dから寸法Xを差し引いた値であり、X=(D-D_(1))/2であるから、AC=D-X=(D+D_(1))/2である。すなわち、ボルト10上のAB間の距離はめねじ20上のAC間の距離である(D+D1)/2よりも必ず小さくなるので、ボルト上のB点はC点と干渉することなくA点を中心として回転することができる。」と記載されているように、小径ねじ部12のねじ山が、めねじ20のねじ山と噛み合った点(A)を中心として回転し、姿勢変更するものである。 そして、小径ねじ部の「谷径が正規ねじ部の谷径よりも小さく」かつ「ねじ山形状が三角ねじまたは台形ねじ」と設定することは、噛み合う点における、めねじのねじ山と小径ねじ部のねじ山との干渉を緩和し、噛み合いの深さを促進することになるので、小径ねじ部の噛み合った点(A)から180°反対側の点(B)とめねじ20上の点(C)までの距離を拡げることを可能とし、姿勢変更する際の小径ねじ部とめねじとの干渉を避けることに寄与する。 他方、引用文献1の段落【0015】に「ネジ状案内部が相手ナットのネジ孔に挿入されると、ネジ状案内部のネジ山頂部が断面円弧形状に形成されているので、相手ナットのネジ孔の入口端部もネジ溝に食い込むことがなく、押し付け推力を受けてさらに姿勢変更し、このように、ボルトが相手ナットの孔壁に引っ掛かかることなく、初期に傾斜した姿勢をネジ孔に挿入される毎に次第に姿勢変更し、最終的に正規ネジ部が正規に相手ナットと螺合できる姿勢に姿勢変更される。」と記載されているように、引用発明は、姿勢変更する際に、ネジ状案内部のネジ山頂部が相手ナットのネジ溝に食い込むことがないものである。 このように、引用発明は、ネジ状案内部のネジ山頂部が相手ナットのネジ溝に食い込むことがないのであるから、引用発明においてはネジ状案内部の谷径を正規ねじ部6の谷径よりも小さくして、相手ナットのめネジの頂部と小ネジ状案内部4のネジ山頂部との干渉を緩和する必要性が見出されない。 よって、引用発明のネジ状案内部を「谷径が正規ねじ部6の谷径と同じであり、ネジ山頂部が断面円弧形状に形成された」構造から「谷径が正規ねじ部の谷径よりも小さく、ねじ山形状が三角ねじまたは台形ねじである」構造へ変更することが当業者が容易に想到することができたとはいえない。 また、小径ねじ部の谷径が正規ねじ部の谷径よりも小さく、ねじ山形状が三角ねじまたは台形ねじであるボルトが周知(例えば、実願昭63-116839号(実開平2-38509号)のマイクロフィルム)であるとしても、引用発明に該周知のボルトの形状を組み合わせる動機付けがない。 したがって、補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。 3.むすび 以上より、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3.本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-10-16 |
出願番号 | 特願2011-513806(P2011-513806) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 莊司 英史 |
特許庁審判長 |
冨岡 和人 |
特許庁審判官 |
島田 信一 小関 峰夫 |
発明の名称 | 焼付き防止ボルト |
代理人 | 関根 由布 |
代理人 | 綿貫 達雄 |
代理人 | 山本 文夫 |