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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H |
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管理番号 | 1292696 |
審判番号 | 不服2014-1856 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-31 |
確定日 | 2014-11-04 |
事件の表示 | 特願2012-257839「無段変速装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月28日出願公開、特開2013- 40688、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成20年10月16日に出願した特願2008-267790号(以下、原出願という。)の一部を平成24年11月26日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月29日付け(発送日:同年11月5日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年1月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正がなされたものである。 そして、平成26年3月26日付けで審査官により前置報告がなされた。 第2.平成26年1月31日付けの手続補正(以下、本件補正という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、 「【請求項1】 第1のプーリ軸、第1のプーリ軸に固定された第1の固定シーブ、第1のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された第1の可動シーブを具備し、第1の固定シーブと第1の可動シーブとの間に第1のプーリ溝が形成される第1のプーリと、 第2のプーリ軸、第2のプーリ軸に固定された第2の固定シーブ、第2のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された第2の可動シーブを具備し、第2の固定シーブと第2の可動シーブとの間に第2のプーリ溝が形成される第2のプーリと、 一端側が前記第1のプーリ溝に巻掛けられると共に、他端側が前記第2のプーリ溝に巻掛けられる無端状のVベルトと、 前記第1の可動シーブを軸線方向に沿って進退させて、前記第1のプーリ溝における前記Vべルトが圧接する第1の巻掛領域の外径を可変する変速アクチュエータと、 前記第2の可動シーブを、前記Vベルトの張力に対応する推力で軸線方向に沿って前記第2の固定シーブ側へ付勢し、前記第2のプーリ溝における前記Vベルトが圧接する第2の巻掛領域の外径を、前記第1の巻掛領域の外径変化に追従するように可変する推力スプリングと、 前記第1の可動シーブを、前記推力スプリングの推力に対応するカウンタ力で軸線方向に沿って前記第1の固定シーブ側へ付勢するカウンタスプリングと、 を有し、 前記変速アクチュエータは、電動モータと、前記電動モータの回転力を直線的な駆動力に変換する変換機構と、前記変換機構から出力された駆動力により揺動すると共に、該駆動力を前記第1の可動シーブに伝達して該第1の可動シーブを軸線方向に進退させる揺動部材とを有し、 前記カウンタスプリングは、前記揺動部材を支持する支持体と揺動部材との間に介装され、前記揺動部材を介して前記第1の可動シーブに前記カウンタ力を伝達し、 前記カウンタ力を、前記推力よりも小さく設定したことを特徴とする無段変速装置。」 とあったものを 「【請求項1】 第1のプーリ軸、第1のプーリ軸に固定された第1の固定シーブ、第1のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された第1の可動シーブを具備し、第1の固定シーブと第1の可動シーブとの間に第1のプーリ溝が形成される第1のプーリと、 第2のプーリ軸、第2のプーリ軸に固定された第2の固定シーブ、第2のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された第2の可動シーブを具備し、第2の固定シーブと第2の可動シーブとの間に第2のプーリ溝が形成される第2のプーリと、 一端側が前記第1のプーリ溝に巻掛けられると共に、他端側が前記第2のプーリ溝に巻掛けられる無端状のVベルトと、 前記第1の可動シーブを軸線方向に沿って進退させて、前記第1のプーリ溝における前記Vべルトが圧接する第1の巻掛領域の外径を可変する変速アクチュエータと、 前記第2の可動シーブを、前記Vベルトの張力に対応する推力で軸線方向に沿って前記第2の固定シーブ側へ付勢し、前記第2のプーリ溝における前記Vベルトが圧接する第2の巻掛領域の外径を、前記第1の巻掛領域の外径変化に追従するように可変する推力スプリングと、 前記第1の可動シーブを、前記推力スプリングの推力に対応するカウンタ力で軸線方向に沿って前記第1の固定シーブ側へ付勢するカウンタスプリングと、 を有し、 前記変速アクチュエータは、電動モータと、前記電動モータの回転力を直線的な駆動力に変換する変換機構と、前記変換機構から出力された駆動力により揺動すると共に、該駆動力を前記第1の可動シーブに伝達して該第1の可動シーブを軸線方向に進退させる揺動部材とを有し、 前記カウンタスプリングは、その一端部が前記揺動部材を支持する支持体に連結固定されると共に、その他端部が前記揺動部材に連結固定され、常に前記揺動部材のシャフトを中心に前記第1の可動シーブを拡げる回転方向へ変形した状態とされ、これにより、前記揺動部材は前記シャフトを中心に常に前記第1の可動シーブを狭める回転方向へ付勢されて前記カウンタスプリングの前記カウンタ力で前記第1の可動シーブを前記第1の固定シーブ側へ押圧し、 前記カウンタ力を、前記推力よりも小さく設定したことを特徴とする無段変速装置。」 とする補正を含むものである。(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。) 2.補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「カウンタスプリング」について、「その一端部が前記揺動部材を支持する支持体に連結固定されると共に、その他端部が前記揺動部材に連結固定され、常に前記揺動部材のシャフトを中心に前記第1の可動シーブを拡げる回転方向へ変形した状態とされ、これにより、前記揺動部材は前記シャフトを中心に常に前記第1の可動シーブを狭める回転方向へ付勢されて前記カウンタスプリングの前記カウンタ力で前記第1の可動シーブを前記第1の固定シーブ側へ押圧し」との限定を付加すものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願前に頒布された刊行物である特開2006-29397号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「小型車両用のVベルト式無段変速機」に関し、図面(特に、【図1】及び【図2】を参照。)と共に、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付与した。) ア.「【技術分野】 【0001】 本発明は、プライマリシーブとセカンダリシーブとの間にVベルトを掛け渡した小型車両用のVベルト式無段変速機に関する。」 イ.「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 上述したように、特許文献1等に記載の従来のVベルト式無段変速機では、電動モータ等のアクチュエータの力を補助するためのスプリング120と、可動フランジ103Bに推力を伝えるための送りネジ機構112とが、プライマリ軸101の軸方向に直列に並ぶ位置関係にあるので、プライマリ軸101の軸方向の寸法が大きくなりがちである。 プライマリ軸101の軸方向寸法が長大となると、例えば自動二輪車に搭載する場合には車体幅方向の寸法が大きくなり、コンパクト性に欠けるという問題が生じる。 【0009】 また、軸方向寸法が長いプライマリ軸101は撓み易くなるので、送りネジ機構112の摺動抵抗が増大し、アクチュエータに対する負荷が大きくなる可能性がある。そこで、プライマリ軸101の剛性を確保して撓みを防止する為には、プライマリ軸101の径を太くしなければならず、重量も嵩むという問題がある。」 ウ.「【0018】 図1に示すように、本実施形態に係る自動二輪車用(小型車両用)のVベルト式無段変速機(以下、無段変速機とも云う)100は、動力源であるエンジン(図示せず)の出力が入力されるプライマリ軸1と、該プライマリ軸1に平行に配されて駆動輪(図示せず)への出力を取り出すセカンダリ軸2と、前記プライマリ軸1及びセカンダリ軸2上にそれぞれ配され、相互間にベルト巻回用のV溝を形成する固定フランジ3A,4A及び可動フランジ3B,4Bを有し、且つ前記可動フランジ3B,4Bを軸方向(図中、左右方向)に移動することで前記V溝の溝幅を可変とされたプライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4と、これらプライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4のV溝に巻回され、両シーブ3,4間で回転動力を伝達するVベルト5と、前記可動フランジ3Bを移動することで前記プライマリシーブ3の溝幅を調節する溝幅調節機構7とを備えており、この溝幅調節機構7によりプライマリシーブ3の溝幅を変えることで、Vベルト5の各シーブ3,4に対する巻回径を調節し、前記プライマリシーブ3と前記セカンダリシーブ4との間での変速比を無段階に調節するものである。 【0019】 そして、本実施形態の無段変速機100は、前記溝幅調節機構7として、電動モータ8の回転をプライマリ軸1と同軸の送りネジ機構12により軸方向力に変換してプライマリシーブ3の可動フランジ3Bに対する移動推力として付与する可動フランジ調整機構10と、プライマリシーブ3の可動フランジ3Bの背面に位置して可動フランジ3Bをプライマリシーブ3の溝幅が狭まる方向に付勢する圧縮コイルスプリング(スプリング)20と、を備えている。 そして、可動フランジ調整機構10の送りネジ機構12が、圧縮コイルスプリング20の外周側で且つ前記プライマリ軸1の軸方向に重なる位置に配置されている。」 エ.【図1】には、可動フランジ4Bを、軸方向に沿って固定フランジ4A側へ付勢し、Vベルト5のセカンダリシーブ4のV溝に対する巻回径を可変するスプリングが示されている。 これら記載事項、図示内容及び認定事項を総合し、補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「プライマリ軸1、プライマリ軸1に配された固定フランジ3A、プライマリ軸1の軸方向に移動する可動フランジ3Bを有し、固定フランジ3Aと可動フランジ3BとでV溝を形成するプライマリシーブ3と、 セカンダリ軸2、セカンダリ軸2に配された固定フランジ4A、セカンダリ軸2の軸方向に移動する可動フランジ4Bを有し、固定フランジ4Aと可動フランジ4BとでV溝を形成するセカンダリシーブ4と、 プライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4のV溝に巻回されて回転動力を伝達するVベルト5と、 前記可動フランジ3Bを軸方向に移動させて、前記プライマリシーブ3の溝幅を変えることで、前記Vベルト5の前記プライマリシーブ3のV溝に対する巻回径を調節する溝幅調節機構7と、 前記可動フランジ4Bを、軸方向に沿って前記固定フランジ4A側へ付勢し、前記Vベルト5の前記セカンダリシーブ4のV溝に対する巻回径を可変するスプリングと、 前記可動フランジ3Bを、軸線方向に沿って前記固定フランジ3A側へ付勢する圧縮コイルスプリング20と を有し、 前記溝幅調節機構7は、電動モータ8と、前記電動モータ8の回転を軸方向力に変換する可動フランジ調整機構10とを有し、 前記圧縮コイルスプリング20は、スプリング受部材40とボス部材30の座面30aとの間に前記プライマリ軸1の軸線に対して同軸に介装されて前記可動フランジ3Bを前記固定フランジ3A側へ付勢するVベルト式無段変速機。」 (2)対比 補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、後者の「プライマリ軸1」は前者の「第1のプーリ軸」に相当する。 以下、同様に、「プライマリ軸1に配された」「固定フランジ3A」は「第1のプーリ軸に固定された」「第1の固定シーブ」に、 「プライマリ軸1の軸方向に移動する」「可動フランジ3B」は「第1のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された」「第1の可動シーブ」に、 「固定フランジ3Aと可動フランジ3BとでV溝を形成するプライマリシーブ3」は「第1の固定シーブと第1の可動シーブとの間に第1のプーリ溝が形成される」「第1のプーリ」に、 「セカンダリ軸2」は「第2のプーリ軸」に、 「セカンダリ軸2に配された」「固定フランジ4A」は「第2のプーリ軸に固定された」「第2の固定シーブ」に、 「セカンダリ軸2の軸方向に移動する」「可動フランジ4B」は「第2のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された」「第2の可動シーブ」に、 「固定フランジ4Aと可動フランジ4BとでV溝を形成する」「セカンダリシーブ4」は「第2の固定シーブと第2の可動シーブとの間に第2のプーリ溝が形成される」「第2のプーリ」に、 「プライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4のV溝に巻回されて回転動力を伝達する」「Vベルト5」は「一端側が前記第1のプーリ溝に巻掛けられると共に、他端側が前記第2のプーリ溝に巻掛けられる」「無端状のVベルト」に、 「前記可動フランジ3Bを軸方向に移動させて、前記プライマリシーブ3の溝幅を変えることで、前記Vベルト5の前記プライマリシーブ3のV溝に対する巻回径を調節する」「溝幅調節機構7」は「前記第1の可動シーブを軸線方向に沿って進退させて、前記第1のプーリ溝における前記Vべルトが圧接する第1の巻掛領域の外径を可変する」「変速アクチュエータ」に、 「電動モータ8」は「電動モータ」に、 「前記電動モータ8の回転を軸方向力に変換する」「可動フランジ調整機構10」は「前記電動モータの回転力を直線的な駆動力に変換する」「変換機構」に、 「Vベルト式無段変速機」は「無段変速装置」に、それぞれ、相当する。 無段変速機における従動側の可動フランジを移動させるスプリングの付勢力は、伝達トルクの大きさに応じて変化するVベルトの張力に対応させて設定するものであるから、引用発明のスプリングは、可動フランジ4Bを、Vベルト5の張力に対応する付勢力で軸方向に付勢しているといえる。 また、駆動側または被駆動側の巻掛領域の外径変化にともないVベルトの張力が変化し、この変化に対応して被駆動側または駆動側の可変側のプーリが移動し、駆動側または被駆動側の巻掛領域の外径変化が生じることは技術常識であるから、引用発明のスプリングは、セカンダリシーブ4のV溝に対する巻回径を、プライマリシーブ3のV溝に対する巻回径の変化に追従するように可変するものであり、かつ、圧縮コイルスプリング20は、セカンダリシーブ4のスプリングの付勢力に対応する付勢力で可動フランジ3Bを軸方向に付勢しているといえるので、 後者の「前記可動フランジ4Bを、軸方向に沿って前記固定フランジ4A側へ付勢し、前記Vベルト5の前記セカンダリシーブ4のV溝に対する巻回径を可変とする」「スプリング」は前者の「前記第2の可動シーブを、前記Vベルトの張力に対応する推力で軸線方向に沿って前記第2の固定シーブ側へ付勢し、前記第2のプーリ溝における前記Vベルトが圧接する第2の巻掛領域の外径を、前記第1の巻掛領域の外径変化に追従するように可変する」「推力スプリング」に相当し、後者の「前記可動フランジ3Bを、軸線方向に沿って前記固定フランジ3A側へ付勢する」「圧縮コイルスプリング20」は前者の「前記第1の可動シーブを、前記推力スプリングの推力に対応するカウンタ力で軸線方向に沿って前記第1の固定シーブ側へ付勢する」「カウンタスプリング」に相当する。 そうすると、両者は、補正発明の用語で表現すると、次の点で一致する。 [一致点] 「第1のプーリ軸、第1のプーリ軸に固定された第1の固定シーブ、第1のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された第1の可動シーブを具備し、第1の固定シーブと第1の可動シーブとの間に第1のプーリ溝が形成される第1のプーリと、 第2のプーリ軸、第2のプーリ軸に固定された第2の固定シーブ、第2のプーリ軸により軸線方向に沿って移動可能に支持された第2の可動シーブを具備し、第2の固定シーブと第2の可動シーブとの間に第2のプーリ溝が形成される第2のプーリと、 一端側が前記第1のプーリ溝に巻掛けられると共に、他端側が前記第2のプーリ溝に巻掛けられる無端状のVベルトと、 前記第1の可動シーブを軸線方向に沿って進退させて、前記第1のプーリ溝における前記Vべルトが圧接する第1の巻掛領域の外径を可変する変速アクチュエータと、 前記第2の可動シーブを、前記Vベルトの張力に対応する推力で軸線方向に沿って前記第2の固定シーブ側へ付勢し、前記第2のプーリ溝における前記Vベルトが圧接する第2の巻掛領域の外径を、前記第1の巻掛領域の外径変化に追従するように可変する推力スプリングと、 前記第1の可動シーブを、前記推力スプリングの推力に対応するカウンタ力で軸線方向に沿って前記第1の固定シーブ側へ付勢するカウンタスプリングと、 を有し、 前記変速アクチュエータは、電動モータと、前記電動モータの回転力を直線的な駆動力に変換する変換機構とを有する無段変速装置。」 そして、両者は次の点で相違する。 [相違点1] 補正発明は、「変速アクチュエータ」が、「変換機構から出力された駆動力により揺動すると共に、該駆動力を第1の可動シーブに伝達して該第1の可動シーブを軸線方向に進退させる揺動部材」を有し、「カウンタスプリング」は、「その一端部が揺動部材を支持する支持体に連結固定されると共に、その他端部が揺動部材に連結固定され、常に揺動部材のシャフトを中心に第1の可動シーブを拡げる回転方向へ変形した状態とされ、これにより、揺動部材は前記シャフトを中心に常に第1の可動シーブを狭める回転方向へ付勢されてカウンタスプリングのカウンタ力で第1の可動シーブを第1の固定シーブ側へ押圧し」ているのに対して、 引用発明は、「溝幅調節機構7」が、揺動部材を有しておらず、「圧縮コイルスプリング20」は、「スプリング受部材40とボス部材30の座面30aとの間にプライマリ軸1の軸線に対して同軸に介装されれて可動フランジ3Bを固定フランジ3A側へ付勢」している点。 [相違点2] カウンタスプリングの「カウンタ力」と推力スプリングの「推力」の関係に関し、 補正発明は、「カウンタ力を、推力よりも小さく設定」するのに対し、 引用発明は、かかる関係を有するかが不明である点。 (3)判断 [相違点1]について検討する。 引用文献2(米国特許第5,048,302号)のFig.1-Fig.3には、無段変速機における可動プーリを軸線方向に進退させる構造において、DCモータ100およびボール螺子機構を有するリニアアクチュエータ100からの直線運動を、揺動するレバーアーム82を用いて伝達することが記載されている。 また、可動プーリを狭める方向に付勢するスプリング(補正発明の「カウンタスプリング」に相当。)を、揺動部材と支持体の間に配置することは慣用技術といえる。(例えば、特開2000-130528号公報,図8(B)のレバー41,弾性装置3、及び、特開昭49-135075号公報,第5図の駆動レバー26,バネ25を参照。) しかしながら、引用発明の技術的課題は、引用文献1の上記記載事項イ(段落【0008】及び段落【0009】)に記載されているように、従来の無段変速機が有する「コンパクト性に欠ける」及び「重量も嵩む」という問題を解決することである。 そして、引用発明の溝幅調節機構7に、引用文献2に記載されているレバーアーム82(揺動部材)を介在させると、スペースの増大、及び重量の増加を招くことは明らかであり、さらに、圧縮コイルスプリング20の配置を、上記慣用技術に倣い揺動部材と支持体の間に配置すると、さらなるスペース増大につながる。 そうすると、可動プーリを軸線方向に進退させる構造において揺動部材を用いることが公知であり、揺動部材と支持体の間にスプリングを配置することが慣用技術であるとしても、引用発明に引用文献2に記載されている事項及び上記慣用技術を適用する動機付けがない。 よって、引用発明において、上記相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 [相違点2]について検討する。 補正発明において、「カウンタ力を、推力よりも小さく設定」することは、本願明細書の段落【0063】及び段落【0068】に記載されているように、変速アクチュエータ100の電動モータ102により消費される電力が増大することを効果的に抑制するとともに、電動モータ102への電力供給が遮断されて無段変速装置10が作動状態から停止状態になった場合に、外部から動力及びエネルギを供給することなく、任意の減速比に制御されていた無段変速装置10を最大減速比の状態に変化させるためである。 このように、「カウンタ力を、推力よりも小さく設定」することは、技術的意義があるので、当業者が適宜決定し得る設計的事項ということはできない。 よって、引用発明において、上記相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 したがって、補正発明は、引用発明、引用文献2に記載されている事項、及び上記慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3.本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1及び2に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-10-20 |
出願番号 | 特願2012-257839(P2012-257839) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16H)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高吉 統久 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
島田 信一 稲葉 大紀 |
発明の名称 | 無段変速装置 |
代理人 | 内藤 嘉昭 |