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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1293020
審判番号 不服2013-10783  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-10 
確定日 2014-10-14 
事件の表示 特願2008-508832「無アルミニウムIII族窒化物ベースの高電子移動度トランジスタおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 9日国際公開、WO2006/118632、平成20年11月13日国内公表、特表2008-539586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2006年2月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年4月29日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月19日付けの最初の拒絶理由通知に対して、平成24年4月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月15日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年12月21日に意見書が提出されたが、平成25年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月10日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに同日に手続補正書が提出され、同年8月27日付けの審尋に対して、平成26年2月28日に回答書が提出されたものである。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年6月10日に提出された手続補正書によりなされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、その内容は以下のとおりである。

〈補正事項1〉
本件補正前の請求項1の「前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む第1のドープされたGaN層」との記載を、本件補正後の請求項1にあっては、「前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む、0.2nmから10nmの厚さを有する第1のドープされたGaN層」と補正する。

〈補正事項2〉
本件補正前の請求項10を削除する。

〈補正事項3〉
本件補正前の請求項11ないし請求項22を、それぞれ、本件補正後の請求項10ないし請求項21に繰り上げるとともに、各請求項が引用する請求項の項番を補正する。

〈補正事項4〉
本件補正前の請求項23の「前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む第1のドープされたGaN層を形成すること」との記載を、本件補正後の請求項22にあっては、「前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む、0.2nmから10nmの厚さを有する第1のドープされたGaN層を形成すること」と補正する。

〈補正事項5〉
本件補正前の請求項32を削除する。

〈補正事項6〉
本件補正前の請求項24ないし請求項31を、それぞれ、本件補正後の請求項23ないし請求項30に繰り上げ、また、本件補正前の請求項33ないし請求項54を、それぞれ、本件補正後の請求項31ないし請求項52に繰り上げるとともに、各請求項が引用する請求項の項番を補正する。

2.新規事項の有無
(1)補正事項1及び補正事項4について
補正事項1及び補正事項4は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0042】における、「本発明のいくつかの実施形態では、ドープされたGaN層230がSi、Ge、Snおよび/またはOでドープされていてもよく…(中略)…さらに、ドープされたGaN層230は約0.2nmから約10nmの厚さを有することができる。」の記載、及び、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項13及び同請求項43の記載に基づいていると認められるから、補正事項1及び補正事項4は本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
したがって、補正事項1及び補正事項4は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

(2)補正事項2、補正事項3、補正事項5、及び、補正事項6について
補正事項2、補正事項3、補正事項5、及び、補正事項6が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないことは明らかである。

(3)新規事項の有無のまとめ
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たす。

3.補正目的の適否
(1)補正事項1及び補正事項4について
補正事項1及び補正事項4は、本件補正前の請求項1及び請求項23に係る発明における「第1のドープされたGaN層」に対して、「0.2nmから10nmの厚さを有する」という事項を付加することで、技術的に限定するものである。
したがって、補正事項1及び補正事項4は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2、補正事項3、補正事項5、及び、補正事項6について
補正事項2及び補正事項5は、請求項の削除を目的としている。
また、補正事項3、及び、補正事項6のうち本件補正前の請求項24ないし請求項31をそれぞれ本件補正後の請求項23ないし請求項30に繰り上げるとともに、本件補正後の請求項23ないし請求項30が引用する請求項の項番を補正する補正は、補正事項2の請求項の削除を目的とする補正に伴い、特許請求の範囲の記載を形式的に補正するものであるから、請求項の削除を目的としていると認められる。
そして、補正事項6のうち本件補正前の請求項33ないし請求項54をそれぞれ本件補正後の請求項31ないし請求項52に繰り上げるとともに、本件補正後の請求項33ないし請求項52が引用する請求項の項番を補正する補正は、補正事項2及び補正事項5の請求項の削除を目的とする補正に伴い、特許請求の範囲の記載を形式的に補正するものであるから、請求項の削除を目的としていると認められる。
したがって、補正事項2、補正事項3、補正事項5、及び、補正事項6は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

(3)補正目的の適否のまとめ
以上から、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

4.独立特許要件
以上のとおり、本件補正は、前記改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいる。
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを、前記特許請求の範囲の減縮を目的とする補正がなされた請求項1について検討する。

(1)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、次のとおりである。

「無アルミニウムIII族窒化物障壁層と、
前記障壁層上の無アルミニウムIII族窒化物チャネル層と、
前記チャネル層上の無アルミニウムIII族窒化物キャップ層と、
前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む、0.2nmから10nmの厚さを有する第1のドープされたGaN層と
を含むことを特徴とする高電子移動度トランジスタ。」

(2)各引用例の記載事項と引用発明
(2-1)引用例1の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知に引用され、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2003-535481号公報(以下「引用例1」という。)には、「後面にドナーをドープしたヘテロ構造」(発明の名称)に関して、図1?図14とともに、次の記載がある(下線は、参考のため、当審において付したもの。以下、他の引用例及び周知例についても同様である。)。

a.「【0001】
この発明は、たとえばパワーエレクトロニクスおよび高温エレクトロニクスにおいて、電界効果トランジスタなどに利用可能なヘテロ構造に関する。これには、とくに、In(Ga)Nチャネル、(Al)GaNキャップ層、およびGaNバッファ層を有するヘテロ構造が用いられる。GaN、およびその化合物であるAlGaN、InGaNなどの物質特性のため、これらのヘテロ構造は、パワーエレクトロニクスおよび高温エレクトロニクスへの応用を目的として、集中的に研究されてきた。」

b.「【0004】
文献によれば、AlGaN/GaN系の電界効果トランジスタとして、変調ドープ(MODFET)、チャネルドープ、およびアンドープ(ピエゾFET)の電解効果トランジスタがある。AlGaN/GaN系においても、応力により、境界面に分極電荷を生じさせる圧電電界が発生する。GaN/InGaN/GaN系とは対照的に、両境界面電荷はチャネルに存在するのではなく、負電荷は2DEG(2次元電子ガス)としてAlGaN/GaN境界面に存在し、正電荷はAlGaN表面に存在する。
【0005】
このような構造の欠点は、AlGaN/GaN境界面において束縛された境界面電荷が、分極電場によって生じた反対の極性を有する表面電荷と相互作用することである。GaNベースのトランジスタのDC動作において、表面電荷は出力特性にほとんど影響を及ぼさない。RF動作においては、表面の電荷は、その相互作用により、チャネルの電子に追随しなければならない。表面電荷よりもチャネルの電荷の方が速く移動すると仮定すると、RF動作における特性周波数において、表面電荷はもはやチャネルの電荷に追随できない。このとき、反対の極性を有する準静止電荷は、中性条件が破れ、チャネルの自由電子をトラップする結果、出力電流が減少し、最大RF出力はDC出力に比べて低くなる。
【0006】
AlGaN/GaN系に比べ、GaN/InGaN/GaN系では、試料表面に圧電分極による境界面電荷が生じない。圧電分極電荷と表面電荷との相互作用が回避される。これにより、AlGaN/GaN系のトランジスタにおいて観察される、高周波の入力に対する電流補償の効果、およびその結果生じる出力の減少は軽減される。
【0007】
GaN/InGaN/GaNにおいて、InGaN/GaN境界面の後面の正の境界面電荷およびGaN/InGaN境界面の前面に誘起された負の境界面電荷は、電流の輸送に寄与する。GaNまたはAlGaNに比べ、InGaNにおける電子移動度はかなり高く、理論計算によれば4500cm^(2)/Vsecである。しかし、InGaNにおける正孔の移動度は、電子の移動度に比べてかなり小さい。正の境界面電荷と負の境界面電荷による正味の電流は、電荷の中性条件により決定される。すなわち、より遅い正孔による電流が、構成要素のカットオフ周波数を決定する。さらに、チャネルはpn転移によりブロックされる。
【0008】
本発明の目的は、圧電分極物質のチャネルを有するヘテロ構造における上述の欠点を回避することにある。」

c.「【0010】
本発明によれば、たとえば、チャネル、バッファ、または基板における少量のn-ドープにより、バッファとチャネルの間の境界面における正の分極電荷が補償され、電子のみのチャネルとなる。これは、図1Bおよび図1Cに示される。図1Bには、静止ドナー12をドープすることにより、チャネルに移動可能な電子13がもたらされるが、それは圧電電荷10と再結合し、チャネルにおける移動可能な電荷担体として電子11のみが残る様子が示される。
【0011】
図1Bは、InGaNにドナーをドープしたGaN/InGaN/GaNの逆HEMT構造における電荷の分布を示す。図1Cは、さらなる可能性として、GaNバッファにドナーをドープしたGaN/InGaN/GaNの逆HEMT構造における電荷の分布を示す。図1Bの例と同様に、チャネル内の正の圧電電荷10が、バッファ1のドープ領域であるドナー層4から変調ドープされた電子により補償される様子が明確に分かる。電荷10および13の再結合の後、チャネルの電子の電荷に対する正の逆電荷として、バッファ1のドープされたドナー層4の静止ドナー電荷12のみが残る。図2Aおよび図2Bは、シミュレーションにより得られた、20nm GaN/20nm InGaN/GaNバッファ系におけるバンドと電荷担体分布を示す。このシミュレーションでは、全ての層はアンドープであり、インジウムの含有率は20%である。それに対して、図3Aおよび図3Bは、シミュレーションにより得られた、InGaNチャネルに図1Bに示したようなN-補償電荷を添加したGaN/InGaN/GaN系におけるバンドと電荷担体分布を示す。このシミュレーションでは、InGaNチャネルに厚さ10nmのN-補償ドープ(1.5×10^(19)cm^(-3))を仮定している。
【0012】
図4Aおよび図4Bは、図1Cに示した系、すなわち、チャネルの下にあるGaNバッファにドナー層として厚さ10nmのN-補償ドープ(1×10^(19)cm^(-3))をした場合に対応するシミュレーションを示す。図3および図4のいずれの場合においても、ドープ量は正孔チャネルが補償されるように正確に選択されている。
【0013】
図3Bおよび図4Bを図2Bと対比すると、バッファとチャネルの間の境界面における正の圧電電荷が完全に補償され、その結果、正孔の伝導はもはやチャネルに存在しないことが分かる。」

d.「【0014】
図5は、本発明による後面にドナーをドープした逆GaN/InGaN/GaN電界効果トランジスタの層構造を示す。ここでは、バッファ1とチャネル2の間の境界面に存在する厚さ10nmのInGaN層に静止ドナー(2×10^(18)cm^(-3))としてケイ素が導入される。電界効果トランジスタは、サファイアの基板上に形成され、さらに、コンタクト電極7、8およびゲート電極9が設けられる。
【0015】
チャネル2の10nm厚のアンドープInGaN層と、厚さ10nmのドープされたInGaN:Si層4、2のインジウム含有率は約7%である。厚さ3μmのバッファ1および厚さ20nmのキャップ層3は、それぞれドープされていない。」

e.「【0018】
図8は、同様に実現された、後面にドナーをドープされたInGaNベースの逆HEMTの層構造を示す。
【0019】
1×10^(19)cm^(-3)のドナーが、InGaNチャネル2の下の10nm厚のGaN層4にドープされる。チャネル2をドープ残渣から分離するために、厚さ5nmのアンドープInGaNのスペーサー層21が設けられる。厚さ20nmのアンドープInGaN層2のインジウム含有率は10%である。厚さ3μmのGaNバッファ1および厚さ20nmのGaNキャップ層3はアンドープである。図9および図10は、この構造の出力特性を示す。ゲート長が0.5μm(図9)とゲート長が0.25μm(図10)のトランジスタにより、それぞれ600nA/mmおよび900mA/mmの最大飽和電流が達成される。
【0020】
図1Bおよび図1Cに本質的に対応する上記の例により、InGaNベースの逆HEMT構造において、自由な正孔を補償するドナードーピングにより自由な電子のチャネルが生じることが示された。しかしながら、自由な電子を補償するアクセプターをドープすることにより自由な正孔のチャネルを生成することも可能である。これにより、相補型論理回路(CMOS回路に相似する)を構成することができる。図11は、InGaNベースのn-チャネルおよびp-チャネルのHFETの構成を示す。同様の層には同じ参照符号を用い、p-チャネル系において対応する参照符号は、アポストロフィを付した参照符号として示される(たとえば、キャップ層には3の代わりに3’を付す)。n-チャネルトランジスタの層構造は図8と同様である。p-チャネルトランジスタは、厚さ3μmのアンドープGaNバッファ1、厚さ20nmのインジウムを10%含むアンドープInGaN層のチャネル2’、誘起された電子チャネルを補償するためにアクセプター濃度2×10^(19)cm^(-3)のマグネシウムをドープした厚さ5nmのGaN層、および厚さ20nmのアンドープGaNのキャップ層3’からなる。n-型およびp-型トランジスタの双方には、チャネルとドープされた層との間に、それぞれスペーサー層21および21’が設けられる。」

f.「【図面の簡単な説明】
【図1】 ヘテロ構造における電荷分布を説明するための図である。
……(中略)……
【図5】 後面にドナーをドープした逆GaN/InGaN/GaN電界効果トランジスタの層構造を示す図である。
……(中略)……
【図8】 後面にドナーをドープされたInGaNベースの逆HEMTの層構造を示す図である。
……(中略)……
【図11】 InGaNベースのn-チャネルおよびp-チャネルのHFETの構成を示す図である。」

g.図1Cには、下から、「GaN」と記載された層1、「GaN:Si」と記載されたドナー層4、「InGaN」と記載された層2、「GaN」と記載された層3が形成されることが記載されている。

h.「後面にドナーをドープされたInGaNベースの逆HEMTの層構造を示す図である」(図面の簡単な説明)図8には、「サファイヤ」基板20上に、下から、「0.5μm GaN 低速成長」と「2.5μm GaN 高速成長」とからなる層1、「10nm GaN Si-ドープ」と記載された層4、「GaN スペーサ」と記載された層21、「20nm InGaN アンドープ」と記載された層2、「20nm GaN アンドープ」と記載された層3が形成されることが記載されている。

(2-2)引用発明
第2.4.(2)(2-1)のa?hの記載、特に、図1Cに関する記載を総合すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「GaNバッファにドナーをドープしたGaN/InGaN/GaNの逆HEMTであって、
GaNバッファ層1と、
前記GaNバッファ層1にSiをドナーとして1×10^(19)cm^(-3)だけドープした、厚さ10nmのN-GaNドナー層4と、
前記N-GaNドナー層4上のInGaNチャネル2と、
前記InGaNチャネル2上のGaNキャップ層3と、
を含むことを特徴とするGaN/InGaN/GaNの逆HEMT。」

(2-3)引用例2の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知に引用され、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2004-260140号公報(以下「引用例2」という。)には、「III族窒化物半導体を有する半導体素子」(発明の名称)に関して、図1?図4とともに、次の記載がある。

a.「【0022】
(第1実施例)
図1は、第1実施例の電界効果トランジスタの断面図を示す。このトランジスタでは、基板20上に、下側n^(-)型層(第4層)22が形成されている。基板20は、Al_(2)O_(3)(サファイア)で構成されている。下側n^(-)型層22は、n型不純物であるSi(シリコン)がドーピングされたGaN(窒化ガリウム)で構成されている。下側n^(-)型層22のキャリア濃度は、約1×10^(16)cm^(-3)である。下側n^(-)型層22の最も厚い部分の厚さは、約5μmである。下側n^(-)型層22の一部の領域上には、p^(+)型層(第2層)42が形成されている。p^(+)型層42は、p型不純物であるMg(マグネシウム)がドーピングされたGaNで構成されている。p^(+)型層42のキャリア濃度は、約1×10^(18)cm^(-3)である。p^(+)型層42の最も厚い部分の厚さは、約0.5μmである。n型不純物としてGe(ゲルマニウム)等をドーピングしてもよい。p型不純物としてBe(ベリリウム)等をドーピングしてもよい。」

b.「【0033】
また、図4に示すようにノッチ部46は、その上方に位置する3次元的に広がった領域に比べて、2次元的に狭まった領域となっている。電子は、この2次元的に狭まったノッチ部46に形成されるチャネルを流れる。よって、いわゆる2次元電子ガスが形成される。このため、電子の集積度と移動度を高くすることができる。この結果、チャネル抵抗を低くすることができる。従って、オン抵抗を低くすることができる。」

(2-4)引用例3の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知に引用され、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2004-186558号公報(以下「引用例3」という。)には、「電流遮断器付きGaN系半導体装置」(発明の名称)に関して、図1?図2とともに、次の記載がある。

a.「【0016】
【発明の実施の形態】
(回復可能な電流遮断器付きHFET装置の場合)
図1に、本発明の電流遮断器付きHFET装置の一実施例を示す。
図1(a)に示すように、本発明の装置10は、HFET10A及び回復機能を持つポリマスイッチ(Positive Temperature Coefficient device)10Bとで構成されている。具体的には、HFET10Aはノーマリオンタイプで、ソース電極S側を接地し、ドレイン電極D側に入力された電圧Vinによる電流がゲート電極G側のゲート駆動バイアスに合わせてソース電極S側に流れる。また、ポリマスイッチ10Bは、HFET10Aのドレイン側の前段に直列に接続されている。」

b.「【0018】
HFET10Aは、半絶縁性のサファイア基板11の上に、GaNバッファ層12を介して、III-V族窒化物半導体層であるアンドープの高抵抗のGaN層13が形成され、このGaN層13の上に、GaN層13よりバンドギャップエネルギーの大きいIII-V族窒化物半導体層であるアンドープの高抵抗のAlGaN層14が形成されている。また、GaN層13とAlGaN層14とのヘテロ接合部に接続して、低抵抗のn型GaN層15がGaN層13の上に二個形成されている。したがって、GaN層13とAlGaN層14とのヘテロ接合界面近傍には、2次元電子ガス層(図中の破線で示す)19が発生する。また、n型GaN層15上にオーミック接合して、ソース電極16及びドレイン電極17がそれぞれ形成されている。また、AlGaN層14の上にショットキー接合して、ゲート電極18が形成されている。」

c.「【0025】
エッチング後、Siを2×10^(19)cm^(-3)ドープした厚さ40nmのn型GaN層15をソース及びドレイン電極用にエッチング除去した箇所に選択的に成長させる(図2(c)参照)。
このようにすると、n型GaN層の上に形成させたソース及びドレイン電極のオーミックコンタクト性を高めることができる。また、GaN層13とAl0.2Ga0.8N層14のヘテロ接合界面に発生する2次元電子ガス層19の端部をn型GaN層15の側部に接して配置できるため、2次元電子ガス層19とn型GaN層15との電気的な導通が良好になる。
【0026】
なお、n型ドーパントとしては、TeやSn等も好適に用いることができる。また、上記のコンタクト層はn型GaN材料に限定されるものではなく、例えばSiなどをドープしたInGaN、InGaAlN、InGaNAs、InGaNPなどを用いることができる。また、GaNよりバンドギャップが小さいGaAs,InGaAsなどもソース、ドレイン電極のコンタクト材料として使用することができる。」

(3)対比
(3-1)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
ア.「HEMT」は、High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)の略語であり、さらに、引用例1には、第2.4.(2)(2-1)b.で摘記したように、段落【0007】に「GaNまたはAlGaNに比べ、InGaNにおける電子移動度はかなり高く、理論計算によれば4500cm^(2)/Vsecである。」と記載されている。
したがって、「InGaNチャネル2」を有する引用発明の「GaNバッファにドナーをドープしたGaN/InGaN/GaNの逆HEMT」は、補正発明の「高電子移動度トランジスタ」に相当する。

イ.引用発明の「GaNバッファ層1」において、「GaN」は「III族窒化物」である。
したがって、引用発明の「GaNバッファ層1」と、補正発明の「無アルミニウムIII族窒化物障壁層」とは、少なくとも、「III族窒化物障壁層」である点で共通する。

ウ.引用発明の「N-GaNドナー層4」上にある「InGaNチャネル2」は、「III族窒化物」である「InGaN」からなる「チャネル」の層である。
これに対して、補正発明の「無アルミニウムIII族窒化物チャネル層」は、「前記障壁層上」にあるものの、「前記障壁層と前記チャネル層との間」には「第1のドープされたGaN層」が存在する。
したがって、引用発明の「前記N-GaNドナー層4上のInGaNチャネル2」と、補正発明の「前記障壁層上の無アルミニウムIII族窒化物チャネル層」とは、少なくとも、「前記障壁層上」の「III族窒化物チャネル層」である点で共通する。

エ.引用発明の「前記InGaNチャネル2上のGaNキャップ層3」において、「GaNキャップ層3」を形成する「GaN」は「III族窒化物」である。
したがって、引用発明の「前記InGaNチャネル2上のGaNキャップ層3」と、補正発明の「前記チャネル層上の無アルミニウムIII族窒化物キャップ層」とは、少なくとも、「前記チャネル層上」の「III族窒化物キャップ層」である点で共通する。

オ.引用発明の「N-GaNドナー層4」にとって「Si」はn型ドーパントである。
これに対して、補正発明の「Sn、Oおよび/またはGe」も、本願明細書の段落【0042】に「ドープされたGaN層230がSi、Ge、Snおよび/またはOでドープされていてもよく…(中略)…ドープされたGaN層230は約0.2nmから約10nmの厚さを有することができる。2DEGチャネルに十分な電子を供給する」と記載されるように、「第1のドープされたGaN層」におけるn型ドーパントである。
また、補正発明の「0.2nmから10nmの厚さを有する」とは、「厚さ」が「0.2nm」から「10nm」までの範囲にあるという条件を示したものであるが、引用発明の「厚さ10nm」は、この条件に適合する。
したがって、引用発明の「前記GaNバッファ層1にSiをドナーとして1×10^(19)cm^(-3)だけドープした、厚さ10nmのN-GaNドナー層4」と、補正発明の「前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む、0.2nmから10nmの厚さを有する第1のドープされたGaN層」とは、「前記障壁層と前記チャネル層との間の」、n型ドーパントが「ドープされたGaN層を含む、0.2nmから10nmの厚さを有する第1のドープされたGaN層」である点で共通する。

(3-2)一致点及び相違点
以上から、補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「III族窒化物障壁層と、
前記障壁層上のIII族窒化物チャネル層と、
前記チャネル層上のIII族窒化物キャップ層と、
前記障壁層と前記チャネル層との間の、n型ドーパントがドープされたGaN層を含む、0.2nmから10nmの厚さを有する第1のドープされたGaN層と
を含むことを特徴とする高電子移動度トランジスタ。」

《相違点1》
補正発明の「III族窒化物障壁層」と「III族窒化物チャネル層」と「III族窒化物キャップ層」は、いずれも「無アルミニウム」の「層」であるのに対して、引用発明の「GaNバッファ層1」と「InGaNチャネル2」と「GaNキャップ層3」は、「無アルミニウム」の「層」であるかどうか不明である点。

《相違点2》
補正発明の「第1のドープされたGaN層」は「Sn、Oおよび/またはGeがドープされた」のに対して、引用発明の「N-GaNドナー層4」は「Si」を「ドナー」とする点。

(4)相違点についての判断
(4-1)相違点1について
ア.引用発明の「バッファ層1」は「GaN」で形成され、「チャネル2」は「InGaN」で形成され、「キャップ層3」は「GaN」で形成され、それぞれ、アルミニウムを含むものではない。
そして、図1Cに記載の「GaNバッファにドナーをドープしたGaN/InGaN/GaNの逆HEMT構造」(段落【0011】)、及び、図8の「後面にドナーをドープされたInGaNベースの逆HEMTの層構造」(段落【0018】)、それぞれの「構造」における各層がアルミニウムを含むことは、引用例1には記載も示唆もされていない。

イ.したがって、引用発明の前記「バッファ層1」、「チャネル2」、及び、「キャップ層3」は、いずれも、アルミニウムを含まない「無アルミニウム」の「層」であると認められる。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

ウ.本願明細書には、段落【0025】に「本明細書で使用されるとき、無アルミニウムは、III族窒化物ベースのデバイスの活性層中に意図的に組み込まれたAlが存在しないことを指す。」と記載されるとともに、「約1%未満のAlを有する領域または層を、無アルミニウムとみなす」と記載されている。
そこで、仮に、相違点1が実質的なものであったとして、引用発明の「GaN/InGaN/GaNの逆HEMT」における活性層が「層中に意図的に組み込まれたAlが存在しない」層であるかどうかについて、検討する。

エ.引用例1には、第2.4.(2)(2-1)b.において摘記したように、「AlGaN/GaN系」のトランジスタにおいては「GaN/InGaN/GaN系とは対照的に、両境界面電荷はチャネルに存在するのではなく、負電荷は2DEG(2次元電子ガス)としてAlGaN/GaN境界面に存在し、正電荷はAlGaN表面に存在する。」(段落【0004】)こと、「このような構造の欠点」は「AlGaN/GaN境界面において束縛された境界面電荷が、分極電場によって生じた反対の極性を有する表面電荷と相互作用すること」により「反対の極性を有する準静止電荷は、中性条件が破れ、チャネルの自由電子をトラップする結果、出力電流が減少し、最大RF出力はDC出力に比べて低くなる。」こと(段落【0005】)、これに対して、「AlGaN/GaN系に比べ、GaN/InGaN/GaN系では、試料表面に圧電分極による境界面電荷が生じない。圧電分極電荷と表面電荷との相互作用が回避される。これにより、AlGaN/GaN系のトランジスタにおいて観察される、高周波の入力に対する電流補償の効果、およびその結果生じる出力の減少は軽減される。」と記載されている。

オ.前記記載から、引用発明が「GaN/InGaN/GaNの逆HEMT」構造を採用したのは、「AlGaN/GaN境界面」を有する「構造の欠点」が生じないように、前記「逆HEMT」の各層に意図的に「Al」を組み込まなかったからであると認められる。
すなわち、引用発明の「GaN/InGaN/GaNの逆HEMT」における「GaNバッファ層1」、「InGaNチャネル2」及び「GaNキャップ層3」は、いずれも、「層中に意図的に組み込まれたAlが存在しない」層であると認められる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても、III族窒化物ベースのデバイスの活性層のAlの含有量を「約1%未満」にすることに臨界的な意義があるとは認められない。
そして、前記「意図的に組み込まれたAlが存在しない」層である、引用発明の「GaNバッファ層1」、「InGaNチャネル2」及び「GaNキャップ層3」が、仮に不可避な不純物として前記「Al」を含有するとしても、その含有量が「約1%未満」程度のものとなるように、引用発明の「逆HEMT」の製造工程を管理することは、当業者であれば当然になし得たものと認められる。

カ.以上から、相違点1は、実質的な相違点でないか、あるいは、引用発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-2)相違点2について
ア.GaNのn型ドーパントとして、Siの代わりにGeないしSnを使用できることは、第2.4.(2)の(2-3)及び(2-4)で摘記したように、引用例2ないし引用例3に記載されているように、周知技術である。
さらに、以下に示す周知例1?3には、GaN等のIII族窒化物層のn型ドーパントとして、Si、Sn、OないしGe等が、置換可能なものとして列記されている。

イ.してみれば、引用発明における「N-GaNドナー層4」の「ドナー」として、「Si」に代えて「Sn、O」及び「Ge」のいずれか一つを用いることは、当業者であれば、適宜なし得たものと認められる。

ウ.ところで、審判請求人は、平成26年2月28日に提出された回答書において、
a.「請求項1および22の中核をなす点は、審判請求書の請求の理由に記載したとおり、「無アルミニウムIII族窒化物障壁層と、その上の無アルミニウムIII族窒化物チャネル層と、その上の無アルミニウムIII族窒化物キャップ層と、を含む高電子移動度トランジスタ」の構成のうち、上記障壁層と上記チャネル層との間に、0.2nmから10nmの厚さを有する、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含むようにしたことを特徴とするものであって、このような構成を採用したことにより、チャネル層内の高いピーク電子濃度を、非常に薄いドープされたGaN層で実現できるという顕著な作用効果を奏するものです。」
b.「GeやSnが、Siと同様にGaNに対してn型ドーパントとして用いることができるということが公知技術であったとしても、本願発明における「チャネル層内の高いピーク電子濃度を、非常に薄いドープされたGaN層で実現できる」という目的で同様に使用できるということは引用文献には開示されておらず、本願明細書[0042]においてのみ記載されています。すなわち、引用文献2、3に記載された事項を引用文献1に記載された発明に適用するにあたり、本願の明細書の記載を参酌していることとなり、その論理構成は認められないものと思料いたします。」
と主張している。

エ.しかしながら、本願明細書の段落【0042】には、「本発明のいくつかの実施形態では、ドープされたGaN層230がSi、Ge、Snおよび/またはOでドープされていてもよく、ドープされたGaN層230が、約1×10^(16)cm^(-3)から約1×10^(21)cm^(-3)のドーパント濃度を有することができる。特定の実施形態では、このドーパント濃度を約1×10^(20)cm^(-3)とすることができる。さらに、ドープされたGaN層230は約0.2nmから約10nmの厚さを有することができる。2DEGチャネルに十分な電子を供給するため、このドーピング濃度は十分に高くなければならず、この層は十分に厚くなければならないが、チャネル領域の外側に意図しない追加のn型領域を形成するほど、ドーピング濃度は高くなく、またはこの層は厚くない。特定の実施形態では、ドーパントをSnおよび/またはGeとすることができる。他の実施形態では、ドーパントをSiとすることができる。」と記載されている。
すなわち、「ドープされたGaN層230」のドーパントとして「Si、Ge、Snおよび/またはO」が列記されているだけであり、前記「ドープされたGaN層230」が「2DEGチャネルに十分な電子を供給するため」に、前記「ドープされたGaN層230」の「ドーパント」として、「Si」に代えて、積極的に「Sn、Oおよび/またはGe」を用いることは、本願明細書には記載されていない。
そして、前記段落【0042】には「特定の実施形態では、ドーパントをSnおよび/またはGeとすることができる。」と記載されているものの、本願明細書には、それを具体的に説明する「実施形態」の記載はなく、段落【0012】、【0013】、【0042】及び【0045】に、「第1のドープされたGaN層」、「第2のドープされたGaN層」、「ドープされたGaN層230」ないし「ドープされたGaN層250」が、「Si、Sn、Oおよび/またはGeがドープされ」てよいことが、記載されているだけである。
本願明細書の段落【0051】?【0062】と図4C?図4Nには、「ドープされたGaN層」を有する「トランジスタ」の「シミュレーション」で計算した「ピーク電子濃度」が示されている。しかし、これらの「シミュレーション」における「ドープされたGaN層」のドーパントは、図4C?図4Nに記載されるとおり、いずれも「Si」であり、「Sn、Oおよび/またはGe」をドーパントとする「シミュレーション」結果は開示されていない。

オ.したがって、「高電子移動度トランジスタ」が、特に、「Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含むようにした」という「構成を採用したことにより、チャネル層内の高いピーク電子濃度を、非常に薄いドープされたGaN層で実現できるという顕著な作用効果を奏する」との前記ウ.a.の主張は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づくものではない。
本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、「0.2nmから10nmの厚さ」を有する「ドープされたGaN層」において、「チャネル層内の高いピーク電子濃度」を実現するための前記「GaN層」のドーパントとして、「Sn、Oおよび/またはGe」を用いる場合は、「Si」を用いた場合と同程度の効果が期待できることが、把握できるだけである。

カ.これに対して、引用例1には、段落【0005】に「このような構造の欠点は、AlGaN/GaN境界面において束縛された境界面電荷が、分極電場によって生じた反対の極性を有する表面電荷と相互作用することである。…(中略)…このとき、反対の極性を有する準静止電荷は、中性条件が破れ、チャネルの自由電子をトラップする結果、出力電流が減少し、最大RF出力はDC出力に比べて低くなる。」と、段落【0010】に「本発明によれば、たとえば、チャネル、バッファ、または基板における少量のn-ドープにより、バッファとチャネルの間の境界面における正の分極電荷が補償され、電子のみのチャネルとなる。」と、段落【0013】に「図3Bおよび図4Bを図2Bと対比すると、バッファとチャネルの間の境界面における正の圧電電荷が完全に補償され、その結果、正孔の伝導はもはやチャネルに存在しないことが分かる。」と、図8の逆HEMTを説明する段落【0019】には「それぞれ600nA/mmおよび900mA/mmの最大飽和電流が達成される。」ことが、それぞれ、記載されている。
したがって、引用発明の「GaN/InGaN/GaNの逆HEMT」は、「Siをドナーとして1×10^(19)cm^(-3)だけドープした、厚さ10nmのN-GaNドナー層4」を有することで、「バッファとチャネルの間の境界面における正の分極電荷が補償」されて、「境界面電荷」が「チャネルの自由電子をトラップする」ことがなくなるから、「トラップ」される「チャネルの自由電子」がなくなる分だけ、「出力電流」に寄与する「チャネル」における「自由電子」を増大させていると認められる。

キ.ここで、前記ウ.b.の「GeやSnが、Siと同様にGaNに対してn型ドーパントとして用いることができるということが公知技術であったとしても、本願発明における「チャネル層内の高いピーク電子濃度を、非常に薄いドープされたGaN層で実現できる」という目的で同様に使用できるということは引用文献には開示されておらず」という主張における『本願発明における「チャネル層内の高いピーク電子濃度を、非常に薄いドープされたGaN層で実現できる」という目的で同様に使用できる』とは、「チャネル層内の高いピーク電子濃度を、非常に薄いドープされたGaN層で実現できる」という目的で「Siと同様」に「GeやSn」を使用できる、ということである。
そして、GaNのn型ドーパントとして、Siと、Si、Sn、OないしGeのいずれかとが置換可能であるという前記ア.で指摘した周知技術を参酌すれば、引用発明の「GaN/InGaN/GaNの逆HEMT」において、「Sn、OないしGeのいずれか」を「ドナー」としても、「1×10^(19)cm^(-3)だけドープした、厚さ10nmのN-GaNドナー層4」を形成することで、「Siをドナー」とした場合と同程度に、「トラップ」される「チャネルの自由電子」をなくして、「出力電流」に寄与する「自由電子」を増大させることは、当業者であれば予期し得たものと認められる。
したがって、引用発明において、「出力電流」に寄与する増大した「自由電子」濃度を得るために、前記「N-GaNドナー層4」の「ドナー」として、「Si」に代えて「Sn、O」及び「Ge」のいずれか一つを用いることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

ク.以上から、相違点2は、周知技術を参酌すれば、引用発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。

ケ.周知例1:特開平08-130327号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である周知例1には、「III-V族窒化物半導体発光素子」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
a.「【0013】n型コンタクト層2はSi、Ge、Sn等のn型ドーパントを含むIn_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)で形成することができ、結晶性のよいコンタクト層を得るには、好ましくGaN、GaAlNを形成する。」

コ.周知例2:特開2002-100838号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である周知例2には、「窒化物半導体発光素子とそれを含む光学装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
a.「【0019】その後、基板温度が800℃に下げられ、厚さ8nmのGaN_(0.99)P_(0.01)障壁層の複数と厚さ4nmのIn_(0.18)Ga_(0.82)N井戸層の複数とが交互に積層された多重量子井戸構造を有する発光層106を形成する。この実施例では、発光層106は障壁層で開始して障壁層で終了する多重量子井戸構造を有し、3層(3周期)の量子井戸層を含んでいる。これらの障壁層と井戸層の成長の際には、それらの両方が1×10^(18)/cm^(3)のSi不純物濃度を有するように、SiH_(4)が添加された。なお、障壁層と井戸層の成長の間または井戸層と障壁層の成長の間に、1秒以上で180秒以下の成長中断期間を挿入してもよい。こうすることによって、障壁層と井戸層の平坦性が向上し、発光半値幅を小さくすることができる。」

b.「【0037】ところで、本発明において、少なくともInを含む窒化物半導体井戸層の具体例としては、前述のように、たとえばInGaN、InAlGaNなどの井戸層が用いられ得る。これらの井戸層では、InとAlの含有率を最適化することによって、目的とする発光波長を得ることができる。他方、本発明において、少なくともAs、P、またはSbを含有する窒化物半導体障壁層としては、具体的には、たとえばGaNAs、InGaNAs、AlGaNAs、InAlGaNAsなどの障壁層が用いられ得る。これらの障壁層において、Asの少なくとも一部の代わりにPまたは/およびSbを含有してもよい。また、本発明の発光層では、井戸層のエネルギバンドギャップより障壁層のエネルギバンドギャップの方が大きくなるように設定される。
【0038】障壁層の厚さは、1nm以上で20nm以下であることが好ましい。なぜならば、障壁層の厚さが1nmよりも薄ければ井戸層からのN抜けを防止することが難しくなるからである。また、障壁層の厚さが20nmよりも厚くなればその結晶性が低下し始めるので好ましくない。他方、障壁層と接する井戸層の厚さは、0.4nm以上で20nm以下であることが好ましい。なぜならば、井戸層の厚さが0.4nm以下になればその井戸層が発光作用を生じなくなるからである。また、井戸層の厚さが20nmよりも厚くなればその結晶性が低下し始めるからである。多重量子井戸構造によるエネルギサブバンドを構成するためには障壁層の厚さは井戸層の厚さと等しいかそれより薄い方が好ましいが、井戸層の濃度分離を防止するためには井戸層の厚さと同じかそれより厚い方が好ましい。」

c.「【0040】発光層の不純物の添加に関しては、本実施例のレーザダイオードでは井戸層と障壁層の両方に不純物としてSiH_(4)(Si)を添加したが、片方の層のみに添加してもよいし、…(中略)…本実施例ではSi(SiH_(4))を1×10^(18)/cm^(3)の濃度で添加したが、Si以外にO、S、C、Ge、Zn、Cd、Mgなどを添加しても同様の効果が得られる。また、これらの添加原子の濃度は約1×10^(16)?1×10^(20)/cm^(3)程度が好ましい。特に、窒化物半導体基板と異なるサファイア基板から出発して結晶成長を進める場合には、結晶欠陥が多く(貫通転位密度が約1×10^(10)/cm^(2))なる傾向にあるので、発光層中に不純物を添加して結晶性を向上させる方が好ましい。」

サ.周知例3:特開2004-235473号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である周知例3には、「化合物半導体素子及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
a.「【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の半導体素子をHEMTとして構成した例を示す。該HEMT200は、SiCからなる単結晶基板101上に、バッファ層102を介して、半導体素子層103を、MOVPE法を用いたヘテロエピタキシャル成長法により形成したものである。なお
、単結晶基板101は、SiC基板に代えてサファイア基板あるいはシリコン基板を用いてもよい。
【0017】
半導体素子層103は、バッファ層102に近い側から、ノンドープのGaNチャネル層119、ノンドープのGaAlNスペーサ層105、Si等によりn型にドープされたGaAlN電子供給層110、電極とのコンタクト層として機能するn型GaN層111がこの順序にて積層されたものである。そして、n型GaN層111上には、ドレイン電極106、ソース電極107が形成され、n型GaN層111の非形成領域に露出するn型GaAlN層110にゲート電極108が形成されている。ドレイン電極106とソース電極107とはn型GaN層111との間でオーミック接合を形成する金属(例えばTi/Al)により、ゲート電極108はn型GaAlN電子供給層110との間でショットキー(Schottky)接合を形成する金属(例えばPd/Au)により、それぞれ構成されている。GaAlNスペーサ層105は、n型GaAlN電子供給層110を成長する際に、すでに形成されているGaNチャネル層119にn型ドーパントであるSi等の不純物が拡散することを防止するためのものである。」

b.「【0020】
以下、上記のHEMT200の製造方法について説明する。バッファ層102及び半導体素子層103の形成は、公知のMOVPE法あるいはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いた気相成長法により行なうことができる。MOVPE法を採用する場合、原料ガスとしては次のようなものを用いることができる。・Ga源:トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など
・In源:トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など。
・Al源;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など;
・N源:アンモニア(NH_(3))など。
また、p型ドーパント源及びn型ドーパント源となるドーパントガスは、以下のものが使用可能である。
・Mg源:ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp_(2)Mg)など。
・Si源:シランなどのシリコン水素化物など;
なお、本実施例においては、ドーパント元素としてSiおよびMgを採用しているが、n型ドーパントとしてC、Ge、SnなどのIV族元素を、p型ドーパントとしてCa、Sr、ZnなどのII族元素を用いることができる。
上記の各原料ガスは、キャリアガス(例えば窒素ガス)により適度に希釈した形で、基板101を配置した反応容器内に供給される。」

(5)独立特許要件の検討のまとめ
以上のとおり、引用発明において、上記相違点1?2に係る構成とすることは、周知技術を勘案すれば、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.小括
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、本件補正(平成25年6月10日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されたので、本願の請求項1?54に係る発明は、平成24年4月20日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その請求項1?54に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「無アルミニウムIII族窒化物障壁層と、
前記障壁層上の無アルミニウムIII族窒化物チャネル層と、
前記チャネル層上の無アルミニウムIII族窒化物キャップ層と、
前記障壁層と前記チャネル層との間の、Sn、Oおよび/またはGeがドープされたGaN層を含む第1のドープされたGaN層と
を含むことを特徴とする高電子移動度トランジスタ。」

2.各引用例の記載事項と引用発明
引用例1?引用例3の記載事項については、第2.4.(2)の(2-1)、(2-3)及び(2-4)において摘記したとおりである。
そして、引用発明については、第2.4.(2)(2-2)において認定したとおりである。

3.対比・判断
第2.3.(1)で検討したように、本件補正後の請求項1に係る発明(すなわち、補正発明)は、本件補正前の請求項1に係る発明(すなわち、本願発明)の「第1のドープされたGaN層」が、「0.2nmから10nmの厚さを有する」ことを技術的に限定したものである。
逆に言えば、本願発明は、補正発明から、上記の限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである補正発明が、第2.4.において検討したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.結言
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-16 
結審通知日 2014-05-20 
審決日 2014-06-03 
出願番号 特願2008-508832(P2008-508832)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 小野田 誠
特許庁審判官 西脇 博志
鈴木 匡明
発明の名称 無アルミニウムIII族窒化物ベースの高電子移動度トランジスタおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
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