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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 D04B 審判 全部無効 2項進歩性 D04B |
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管理番号 | 1293047 |
審判番号 | 無効2012-800113 |
総通号数 | 180 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-12-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-07-12 |
確定日 | 2014-10-31 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4825233号発明「ジャカード経編地とその用途」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4825233号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第4825233号は、平成20年4月16日に出願され、平成23年9月16日に設定登録が行われたものである。 そして、本件無効審判における手続の経緯は、以下のとおりである。 平成24年 7月12日 無効審判請求 平成24年10月 5日 答弁書提出 平成24年10月31日 上申書提出(請求人) 平成24年11月16日 上申書提出(被請求人) 平成25年 2月 5日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成25年 2月 7日 口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成25年 2月21日 口頭審理 平成25年 3月 8日 審決の予告 2.本件発明 本件特許第4825233号の請求項1ないし5に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである(符号「A.」?「I.」は、請求人が分説のために付与したもの)。 「【請求項1】 A.一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組織から変化させてなる変化組織を含むジャカード編成組織を備えるが、支持組織が不要な経編地であって、 B.前記ジャカード編成組織は、2つのハーフセット編みからなり、 C.一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を、他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように、前記2つのハーフセット編みが対になって編成されていることにより、 D.前記変化組織を含むジャカード編成組織の全てが編目位置においてループが配置されてなる、 E.ことを特徴とする、ジャカード経編地。 【請求項2】 F.前記ジャカード編成組織に加えて、弾性糸が挿入または編み込まれてなる弾性糸編成組織をも備える、請求項1に記載のジャカード経編地。 【請求項3】 G.前記ジャカード編成組織が、同一ウェール上に編成された抜き糸部と、前記抜き糸部の左右に配置される耳部を有し、前記抜き糸部の両側において分割可能である、請求項1または2に記載のジャカード経編地。 【請求項4】 H.前記ジャカード編成組織が、部分的な組織変化により緊迫力の異なる複数の領域を有する、請求項1から3までのいずれかに記載のジャカード経編地。 【請求項5】 I.請求項1から4までのいずれかに記載のジャカード経編地からなる、衣類。」(以下、それぞれ「本件特許発明1ないし5」ともいう。) 3.請求人の主張及び証拠方法 これに対して、請求人は、「特許第4825233号の特許請求の範囲の請求項1?5に係る各発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由の概要は以下のとおりであり、本件特許は無効とすべきであると主張している。 本件特許第4825233号の請求項1乃至5に係る各特許発明は、それぞれ甲第1号証もしくは甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、又は、甲第1号証もしくは甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証乃至甲第6号証の少なくとも一つに記載された発明もしくは周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 請求人は、証拠方法として甲第1?6、9?11号証を提出している。 [証拠方法] 甲第1号証:Kettenwirk Praxis 04/2003 号、第51頁 甲第2号証:Kettenwirk Praxis 04/2002 号、第50頁 甲第3号証:特開平10-96147号公報 甲第4号証:実用新案登録第3136451号公報 甲第5号証:特開2002-317361号公報 甲第6号証:特開2007-297748号公報 甲第9号証:特許第4825233号公報(本件特許公報) 甲第10号証:特開平11-200207号公報 甲第11号証:特許第3023354号公報 また、請求人は、参考資料甲7及び参考資料甲8も提出している。 なお、当事者間に甲第1?6、9?11号証の成立に争いはない。 4.被請求人の主張 一方、被請求人は、「本件請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、以下のとおり、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。 (1)甲第1号証又は甲第2号証には、本件特許発明1のC構成及びD構成が記載も示唆もされておらず、かつ、甲第3号証?甲第6号証のいずれにも本件特許発明1のC構成及びD構成についての記載や示唆がなく、他に本件特許発明1のC構成及びD構成が周知技術であることを示す証拠も見当たらないから、本件特許発明1が、甲第1号証又は甲第2号証と、甲第3号証?甲第6号証もしくはそれらの少なくとも一つとから当業者が容易に発明をすることができたものではない。 従って、本件特許発明1の新規性欠如及び進歩性欠如についての請求人の主張は理由がない。 (2)本件特許発明2?5は、それぞれ本件特許発明1の構成をすべて備えたものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではないし、甲第1号証又は甲第2号証と、甲第3号証?甲第6号証もしくはそれらの少なくとも一つとから、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 従って、本件特許発明2?5の新規性欠如及び進歩性欠如についての請求人の主張は理由がない。 また、被請求人は、本件特許の発明に係る「ジャカード経編地」の見本として、見本1及び見本2を提出している。 5.甲第1?6号証の記載事項 甲第1?6号証には、以下の各事項が記載されている(括弧内は日本語訳)。 [甲第1号証] (1a)「 」 (純粋主義的(伝統にこだわる)ハ二カム構造 力-ルマイヤーパターンNo.62/2003 (ラッピング配置No.S-2004108,デザインNo.J8286) 4本のグランドガイドバー及び1本のジャカードバーを用いたRASCHELTRONIC(商標)より。) (1b)「 」 (この透明で、極端に軽くて純粋主義的なハニカム構造は、肌、シルエット、女性的な魅力という最も重要な様相を強調します。斜めに走る高密度の交差部は、この洗練されたランジェリーのシンプルさに、刺激をもたらします。この製品の特別なラッピングは、複数の分割ジャカードバーが逆方向にラッピングするだけで、グランドガイドバーを追加することなく生成します。そのため、材料の大幅な節約を確実に実現します。) (1c)「 」 (マシンタイプ:RSJ 5/1 Rascheltronic(商標) (略) ) (1d)「 」 (ラッピング スレッディング JTB1.1 1-0/1-2// フルセット JTB1.2 1-2/1-0// フルセット) (1e)「 」 ここで、記載事項(1c)において、マシンタイプがRSJ 5/1 Rascheltronic(商標)は、カールマイヤー製の2本の分割ジャカードバーを備えたジャカード経編機であること、記載事項(1d)において、「JTB1.1」及び「JTB1.2」は、それぞれジャカード経編機における2本の分割ジャカードバーのそれぞれを示していること、及び「ラッピング」は、各ジャカードバーにより編成される基本組織を表していることは自明な事項である。 そして、ハニカム構造を有する製品は、ジャカード経編機で編成されるものであるから、ジャカード経編地ということができることから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」ともいう。)が記載されていると認められる。 「極端に軽いハニカム構造を有するジャカード経編地は、ランジェリー用であり、この経編地の特別なラッピングは、2本の分割ジャカードバーが逆方向にラッピングするだけで、グランドガイドバーを追加することなく生成されたものであり、 2本の分割ジャカードバーによる基本組織が、 JTB1.1 1-0/1-2// JTB1.2 1-2/1-0// であるジャカード経編地。」 [甲第2号証] (2a)「 」 (消灯、スポットオン-「スポットネット」 カールマイヤーパターンNo.314/02 (ラッピング配置No.S-4003241,デザインNo.J8279) 4本のグランドガイドバー及び1本のジャカードバーを用いたRASCHELTRONIC (商標)より。) (2b)「 」 (従来の機械を用いた新規なラッピングにより製造されるこの編地は、「スポットネット」と呼ばれ、全くもって新規です。2本のジャカードバーのみが、編地の外観を得るのに必要とされます。「パターンをあてがうのでなくパターニングを行う」というモットーのもとで、これら2本のジャカードバーが、パワーネットの地組織を作ると同時に、パターンを作り込みます。グランドガイドバーは、エラスタンを用いて、編地に機能性を付与します。このようにして、必要とされるグランドガイドバーの数を減らし、編他の重量を減らし、機械操作全体をシンプルなものにします。結果的に、軽量で、透明であり、長さ方向の弾性に優れ、関心を引くパターン効果を有する編地が得られます。 4つの辺により結ばれる点からなる標準パターンに、点を長方形で置き換える割り込みが、偶然の配置に見えるように行われます。これにより、伝統的なデザインに対して、非常にダイナミックで、スポーティな感覚を付与する。 ですので、ランジェリー及び衣類の分野で、消灯して、「スポットネット」のすばらしい外観に、スポットオンしてください。) (2c)「 」 (マシンタイプ:RSJ 5/1 Rascheltronic(商標) (略) ) (2d)「 」 (素材 ・・・ GB4 156dtex エラスタン GB5 156dtex エラスタン ラッピング スレッディング JTB1.1 1-0/1-2// フルセット JTB1.2 1-2/1-0// フルセット GB4 1-1/0-0// 1イン,1アウト GB5 0-0/1-1// 1イン,1アウト) (2e)「 」 ここで、記載事項(2c)において、マシンタイプがRSJ 5/1 Rascheltronic(商標)は、カールマイヤー製の2本の分割ジャカードバーを備えたジャカード経編機であること、記載事項(2d)において、「JTB1.1」及び「JTB1.2」は、それぞれジャカード経編機における2本の分割ジャカードバーのそれぞれを示していること、及び「ラッピング」は、各ジャカードバーまたはグランドバーにより編成される基本組織を表していることは自明な事項である。 そして、スポットネットの編地は、ジャカード経編機で編成されるものであるから、ジャカード経編地ということができることから、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」ともいう。)が記載されていると認められる。 「スポットネットのジャカード経編地は、ランジェリー及び衣類用であり、2本のジャカードバーのみが、編地の外観を得るのに必要とされ、これら2本のジャカードバーが、パワーネットの地組織を作ると同時に、パターンを作り込み、グランドガイドバーは、エラスタンを用いて、編地に機能性を付与した、軽量で、透明であり、長さ方向の弾性に優れたジャカード経編地であって、 2本の分割ジャカードバーによる基本組織が、 JTB1.1 1-0/1-2// JTB1.2 1-2/1-0// であるジャカード経編地。」 [甲第3号証] (3a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、シャープで鮮明な柄を有するストレッチジャカ-ド編地に関するものである。」 (3b)「【0009】カールマイヤー社により最近開発されたRSJ4/1ラッシェル機は、分割タイプのピエゾジャカード筬を装備している。このピエゾジャカードガイド筬は、分割タイプの柄糸ガイド筬で2枚の独立制御セクショナル筬(L1-1,L1-2)からなり、それぞれハーフゲージでセットされ、この2つのセクショナル筬が一枚の完全な機械ゲージを構成するよう設計されている。そして、個々のジャカード筬には、ピエゾエレメントが取りつけられており、それぞれが電気信号によって、1針間緯方向に右ないし左に制御移動させれれ柄糸の編成が行われる。」 (3c)図3 [甲第4号証] (4a)「【0001】 本考案は、模様が表現される経編地に関する。」 (4b)「【0065】 前述の経編地11,21は、たとえばラッシェル編機によって編成される。ラッシェル編機としては、たとえば、分割式ジャカード筬が2枚、地筬が3枚のコンピュータジャカードラッセル機(RSJ4/1、カールマイヤー社製)、および、分割式ジャカード筬が2枚、地筬が4枚のコンピュータジャカードラッセル機(RSJ5/1、カールマイヤー社製)などが挙げられる。」 (4c)「【0069】 各分割式ジャカード筬J-1,J-2は、1針おきの交互配列、すなわち1針ずらした1イン1アウトの配列をなすように分割構成され、前後に隣接して配置される。各分割式ジャカード筬J-1,J-2は、筬の運動とは別に、各ガイドがさらに編み針33ピッチの1針分、緯方向Xに変位できるように設けられる。このような各ガイドが変位プログラムに従って制御されることによって、所望の柄が編成される。」 (4d)図10 [甲第5号証] (5a)「【請求項1】両側の編地部が中央の抜き糸部を介して分離可能に連設された伸縮性経編地であって、 非弾性糸で同一ウェール上に編成された抜き糸部と、 前記抜き糸部の両側に隣接して配置され、非弾性糸で編成されループを形成している編目組織と弾性糸で編成されループを形成していない挿入組織とを含む編地部と、 弾性糸で編成され、前記抜き糸部とその両側の編地部とを連結し、少なくとも編地部との連結個所でループを形成している編目連結組織とを備える伸縮性経編地。」 (5b)「【0002】 【従来の技術】伸縮性経編地を衣料品などに使用するとき、編地の縁辺をほつれ難い構造にする技術として、編成後に分離できる構造を備えた伸縮性経編地がある。 【0003】伸縮性経編地を編成する際に、一部に抜き糸構造を編み込んでおく。抜き糸構造は、同じウェールを直線状に延びる鎖編からなる抜き糸組織や、抜き糸と両側の編地とを連結する弾性糸からなる連結組織で構成される。編成後に抜き糸を解くことで、抜き糸の両側の編地部分が分離する。前記連結組織の弾性糸は、弾性復元力によって両側の編地部分に引き寄せられる。分離された両側の編地部分の縁部は、編地を構成する糸が切断されず編目組織を維持しているので、ほつれが生じ難い構造になる。 【0004】このような分離構造の伸縮性経編地に関する技術を開示する文献として、特開平11-200207号公報が挙げられる。この文献には、左右の編地片とその中央に配置された抜き糸とを結合する耳弾性糸を、編地片に挿入される弾性糸と同じ編組織で挿入することで、編成に用いる筬の枚数を増やすことなく、分離可能な伸縮性経編地を製造する技術が示されている。」 (5c)「【0054】〔ジャガード編機〕本発明の伸縮性経編地は、ジャガード編機を用いることで、機能性に優れた編地を効率的に製造できる。 【0055】ジャガード編機として、オーバーラッピング可能な一対のジャガード筬(1j)と、オーバーラッピング可能な地筬(1b)と、アンダーラッピング可能な地筬(2b)とを備えたものが使用できる。この場合、抜き糸部を前記ジャガード筬(1j)で編成し、編地部の編目組織をジャガード筬(1j)および地筬(1b)で編成し、編地部の挿入組織を前記地筬(2b)で編成し、編目連結組織を編地部の編目組織と同じジャガード筬(1j)または地筬(1b)で編成することができる。」 (5d)「【0058】ジャガード筬(1j)は、編地部の編目組織とともに編目連結組織を編成するのに使用できる。さらに、ジャガード筬(1j)は、抜き糸部の編成に兼用することもできる。この場合、抜き糸部の編成組織は同一ウェール上で編成されるように、ジャガード筬の変位を設定する。」 (5e)「【0082】〔ジャガード柄編地〕図4?7に示す実施形態は、ジャガード編機を使用して、ジャガード柄模様を形成した伸縮性経編地である。 【0083】抜き糸部20および左右の編地部10とからなる基本構造は前記同様である。各編成組織を構成する糸も基本的には共通している。但し、具体的な編成組織は、図5に示される編成組織を組み合わせる。」 (5f)「【0098】 【実施例】〔実施例1〕 <経編機> カールマイヤー社製、ジャガードラッセル機、タイプRSJ5/1 130インチ幅、56GG <糸使い>編成する組織毎に、使用する筬および糸を示す。」 (5g)「【0106】 <編成組織> (1)編目組織(柄模様を含む) PJB1(変位後):42/24/20/24/42/46/ PJB2(変位後):24/42/46/42/24/20/ (2)縁部組織 PJB1(変位後):20/02/20/02/20/02/ PJB2(変位後):02/20/02/20/02/20/ (3)抜き糸 PJB1(変位後):20/02/20/02/20/02/ (4)支持組織 L2:42/24/20/24/42/46/ L3:24/42/46/42/24/20/ (5)編目連結組織 L2:42/24/20/24/42/46/ (6)挿入組織 L4:22/00/22/00/22/00/ L5:00/22/00/22/00/22/」 (5h)図4 [甲第6号証] (6a)「【請求項1】 伸縮特性の異なる複数の領域を備えた伸縮性経編地であって、 非弾性糸で編成され、全ての編み目でループを形成する支持組織と、 非弾性糸で編成され、規則的な基本組織を部分的に変位させることで、前記伸縮特性の異なる複数の領域を構成するジャカード編組織と、 弾性糸で編成され、コース毎に1針の振り幅で挿入されてなる第1の挿入組織と、 弾性糸で編成され、1繰り返し単位中に2針以上の振り幅で挿入されてなるコースを含む第2の挿入組織と、 を備える、伸縮性経編地。 【請求項2】 前記伸縮特性の異なる複数の領域として、前記ジャカード編組織が前記部分的変位により相対的に大きい振り幅で編成されてなる高緊迫力領域と、前記ジャカード編組織を前記高緊迫力領域よりも相対的に小さい振り幅で編成されてなる低緊迫力領域とを含む、請求項1に記載の伸縮性経編地。」 (6b)「【0001】 本発明は、伸縮性経編地に関し、詳しくは、インナーウェアやスポーツウェアに利用され、編成組織を部分的に変えることで部分的に伸縮特性の異なる領域を設ける伸縮性経編地を対象にしている。 【背景技術】 【0002】 伸縮性経編地として、場所によって伸び易さや緊迫力などの伸縮特性を違える技術が提案されている。このような場所によって伸縮特性を違えることができると、例えば、インナーウェアにおいて、身体の適切な部位に適切な補整機能を持たせることが可能になる。スポーツウェアにおいて、運動制御機能にとって必要な個所毎に適切な伸縮機能を持たせることが可能になる。 特許文献1には、非弾性糸によるジャカード編組織と、弾性糸の挿入あるいは編み込み組織とを組み合わせた伸縮性経編地において、緊迫力の強弱の要求に応じてジャカード編の編組織を切り替えて、組織の変化により、所定部分に所定の比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に設ける技術が示されている。挿入あるいは編み込む弾性糸の本数や太さを変化させることで緊迫力を変える技術も示されている。 【特許文献1】特開2000-8203号公報」 (6c)「【0007】 非弾性糸と弾性糸とは、伸び率によって区別することができる。通常、非弾性糸は伸び率100%未満であり、弾性糸は伸び率150%以上、好ましくは200%以上である。 〔支持組織〕 非弾性糸で編成され、全ての編み目でループを形成する。 伸縮性経編地の地編組織であり、ジャカード編組織における変位あるいは組織変化によって、一部の編み目位置に、透孔あるいは目抜けと呼ばれる状態が生じても、全ての編み目でループを形成する支持組織が存在していれば、編地としては透孔や目抜けは生じない。」 (6d)「【0019】 〔伸縮性経編地の製造〕 伸縮性経編地の編成は、基本的には、通常のジャカード編組織を含む伸縮性経編地の編成技術が適用される。 編成装置として、ジャカード機構を有するジャカード筬を備えるジャカード編機が使用される。ジャカード筬に加えて、支持組織および2種類の挿入組織が編成できる複数の筬を備えている必要がある。 ジャカード筬におけるジャカード機構の作動制御によって、伸縮性経編地の所定の領域に所定の変化組織を編成させることができる。ジャカード機構の作動制御には、コンピュータによるプログラム制御を採用することで、所望のパターン形状を有する領域が容易に設定できるようになる。 【0020】 ジャカード筬は、ジャカード機構で別々に作動制御できる一対のジャカード筬を備えているものがある。この場合、それぞれのジャカード筬に、1イン1アウトのハーフセットで糸通しを行い、両方のジャカード筬における変位を適切に組み合わせることで、目的とする変化組織を編成することができる。 〔伸縮性経編地の用途〕 基本的に通常の伸縮性経編地が利用されている用途に使用できる。特に、伸縮特性の異なる複数の領域を必要とされ、伸縮特性の大きな違いが求められる用途が好ましい。 具体的には、体形補整機能を必要とされるインナーウェアがある。運動の拘束あるいは許容を部位によって違えることが要求されるスポーツウェアがある。各種の作業着もある。」 (6e)「【0033】 具体的な伸縮性経編地を製造し、その性能を評価した。 〔実施例の編成条件〕 <編成装置> ジャカード経編機〔型番RSJ4/1、カールマイヤー社製〕 <糸使い> ジャカード筬Jb:ナイロン33dtブライト糸(東レ社製) 筬GB2 :ナイロン33dtブライト糸(東レ社製) 筬GB3 :ライクラ310dtクリアー糸(オペロンテックス社製) 筬GB4 :ライクラ78dtクリアー糸(オペロンテックス社製) <編成組織> 図1および図2(b)に示す編成組織を採用した。図4に示す配置パターンで、高緊迫力領域Hと低緊迫力領域Lとを配置した。ジャカード筬Jbにおける編成組織を、図1〔A〕(高緊迫力領域H)と図2(b)(低緊迫力領域L)とに変化させた。」 6.当審の判断 6-1.本件特許発明1について <甲第1号証発明との対比> 本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比すると、 甲第1号証発明のジャカード経編地は、2本の分割ジャカードバーから生成されるものであるから、本件特許発明1でいう「ジャカード編成組織」を備え、「ジャカード編成組織は、2つのハーフセット編み」からなるものといえ、 甲第1号証発明において、ハニカム構造を編成するためには、「基本組織」以外に、本件特許発明1でいう「変化組織」が必要なことは自明な事項であり、 また、甲第1号証発明では、ジャカードバーのみにより編成するものであるから、本件特許発明1でいう「支持組織が不要な経編地」ということができる。 よって、両者は、 「一定の繰り返し単位を有する基本組織と前記基本組織から変化させてなる変化組織を含むジャカード編成組織を備えるが、支持組織が不要な経編地であって、 前記ジャカード編成組織は、2つのハーフセット編みからなる、 ジャカード経編地。」で一致し、以下の点で一応相違している。 相違点a:本件特許発明1では、一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を、他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように、前記2つのハーフセット編みが対になって編成されていることにより、変化組織を含むジャカード編成組織の全てが編目位置においてループが配置されてなるのに対し、甲第1号証発明では、ジャカード経編地の編成組織がそのようになっているかは明確でない点。 そこで、上記相違点aについて検討する。 甲第1号証発明の2本の分割ジャカードバーによる基本組織である JTB1.1 1-0/1-2// JTB1.2 1-2/1-0// は、本件特許明細書の段落【0027】及び【0039】において説明されているジャカード編成組織の基本組織(基本動作)と一致していること、甲第1号証発明のジャカード経編地は2本の分割ジャカードバーが逆方向にラッピングするだけでグランドガイドバーを追加することなく生成されたものであること、さらには、安定した経編地を編成するには、全ての編目位置においてループを形成する必要があることは、甲第6号証の記載事項(6c)や本件特許明細書の段落【0003】にも記載されているように技術常識であることから、 甲第1号証発明のジャカード経編地の編成組織は、上記相違点aの「一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を、他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように、前記2つのハーフセット編みが対になって編成されていることにより、前記変化組織を含むジャカード編成組織の全てが編目位置においてループが配置されてなる」ものと認められる。 よって、上記相違点aは、実質的な相違とは認められない。 したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とには、実質的な相違はない。 <甲第2号証発明との対比> 本件特許発明1と甲第2号証発明とを対比すると、 甲第2号証発明のジャカード経編地は、2本の分割ジャカードバーによりパワーネットの地組織を作ると同時にパターンを作り込まれるものであるから、本件特許発明1でいう「ジャカード編成組織」を備え、「ジャカード編成組織は、2つのハーフセット編み」からなるものといえ、 甲第2号証発明において、スポットネットのジャカード経編地を編成するためには、「基本組織」以外に、本件特許発明1でいう「変化組織」が必要なことは自明な事項であり、 また、甲第2号証発明では、2本のジャカードバーのみが、編地の外観を得るのに必要とされることから、本件特許発明1でいう「支持組織が不要な経編地」ということができる。 よって、両者の一致点及び相違点は、上記「<甲第1号証発明との対比>」で示した一致点及び相違点と同様なものとなる。 そして、甲第2号証発明の2本の分割ジャカードバーによる基本組織であるJTB1.1 1-0/1-2// JTB1.2 1-2/1-0// は、本件特許明細書の段落【0027】及び【0039】において説明されているジャカード編成組織の基本組織(基本動作)と一致していること、甲第2号証発明のジャカード経編地は2本のジャカードバーのみが編地の外観を得るのに必要とされること等から、上記「<甲第1号証発明との対比>」において検討したのと同様に、本件特許発明1と甲第2号証発明とには、実質的な相違はない。 6-2.本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1において「ジャカード編成組織に加えて、弾性糸が挿入または編み込まれてなる弾性糸編成組織をも備える」ことの限定を加えるものではあるが、甲第2号証発明のジャカード経編地は、グランドガイドバーによりエラスタンを用いて編地に機能性を付与するものであり、ここで「エラスタン」は、本件特許発明2の「弾性糸」に相当することから、甲第2号証発明は、本件特許発明2の「弾性糸が挿入または編み込まれてなる弾性糸編成組織」をも備えているといえる。 したがって、本件特許発明1と甲第2号証発明とには実質的な相違はないことから、本件特許発明2と甲第2号証発明とにも実質的な相違はない。 6-3.本件特許発明3について 本件特許発明3は、請求項1のみを引用する発明を含み、本件特許発明3と甲第1号証発明または甲第2号証発明とを対比すると、本件特許発明1と甲第1号証発明または甲第2号証発明とには実質的な相違はないことより、以下の点で相違する。 相違点b:本件特許発明3では、ジャカード編成組織が、同一ウェール上に編成された抜き糸部と、前記抜き糸部の左右に配置される耳部を有し、前記抜き糸部の両側において分割可能であるのに対して、甲第1号証発明または甲第2号証発明では、そのようなジャカード編成組織を備えていない点。 そこで、上記相違点bについて検討する。 甲第5号証の上記各記載事項からみて、上記相違点bに係る分割可能なジャカード編成組織をジャガード筬により編成することが記載され、また、このような分割可能なジャカード編成組織は、甲第10号証にも記載されているように、裁断する必要のない抜き糸を用いた分割構造として従来より一般に採用されているジャカード編成組織であるものと認められる。 そして、甲第1号証発明または甲第2号証発明においても、分割して用いることも当然に想定されることから、甲第1号証発明または甲第2号証発明において、甲第5号証に記載された分割可能なジャカード編成組織を採用し、上記相違点bの本件特許発明3のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。 したがって、本件特許発明3は、甲第1号証発明または甲第2号証発明、及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6-4.本件特許発明4について 本件特許発明4は、請求項1のみを引用する発明を含み、本件特許発明4と甲第1号証発明または甲第2号証発明とを対比すると、本件特許発明1と甲第1号証発明または甲第2号証発明とには実質的な相違はないことより、以下の点で相違する。 相違点c:本件特許発明4では、ジャカード編成組織が、部分的な組織変化により緊迫力の異なる複数の領域を有するのに対して、甲第1号証発明または甲第2号証発明では、そのようなジャカード編成組織を備えていない点。 そこで、上記相違点cについて検討する。 甲第6号証の上記各記載事項からみて、上記相違点cに係る部分的な組織変化により緊迫力の異なる複数の領域を有するジャカード編成組織をジャガード筬により編成することが記載され、また、このような緊迫力の異なる複数の領域を有するジャカード編成組織は、甲第11号証にも記載されているように、インナーウェア等において体型補正機能等を付加するための従来より周知のジャカード編成組織であるものと認められる。 そして、甲第1号証発明または甲第2号証発明においても、体型補正機能等が求められるインナーウェア等への使用も当然に想定されることから、甲第1号証発明または甲第2号証発明において、甲第6号証に記載された緊迫力の異なる複数の領域を有するジャカード編成組織を採用し、上記相違点cの本件特許発明4のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。 したがって、本件特許発明4は、甲第1号証発明または甲第2号証発明、及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6-5.本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項1のみを引用する発明を含むことから、本件特許発明5は、本件特許発明1のジャカード経編地の用途を「衣類」と限定するものではあるが、甲第1号証発明はランジェリー用であり、甲第2号証発明はランジェリー及び衣類用であることから、いずれも本件特許発明5でいう「衣類」に用いるものといえる。 したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明または甲第2号証発明とには実質的な相違はないことから、本件特許発明5と甲第1号証発明または甲第2号証発明とにも実質的な相違点はない。 6-6.被請求人の主張について 被請求人は、答弁書に及び口頭審理陳述要領書において、『甲第1号証及び甲第2号証には、「ジャカード編成組織のみで支持組織としての地組織を編成する」という記載や「ジャカード編成組織が地組織(支持組織)を兼ねる」などという記載はない。』等と、甲第1号証及び甲第2号証において、単に本件特許発明に係る構成の直接的な記載がないことのみをもって、請求人の主張に理由がない旨の主張をするが、上記検討したように、甲第1号証及び甲第2号証の記載内容並びに技術常識等を鑑みれば、被請求人が記載されていないと主張する構成は、甲第1号証及び甲第2号証においても当業者にとって明らかな構成であるので、被請求人の主張は採用できない。 6-7.無効理由のまとめ 本件特許発明1及び本件特許発明5は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であり、本件特許発明2は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。 また、本件特許発明3は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明、及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明4は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 7.むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担するものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-27 |
結審通知日 | 2013-05-29 |
審決日 | 2013-06-12 |
出願番号 | 特願2008-107101(P2008-107101) |
審決分類 |
P
1
113・
113-
Z
(D04B)
P 1 113・ 121- Z (D04B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 井上 政志 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
熊倉 強 紀本 孝 |
登録日 | 2011-09-16 |
登録番号 | 特許第4825233号(P4825233) |
発明の名称 | ジャカード経編地とその用途 |
復代理人 | 阿野 清孝 |
復代理人 | 内山 邦彦 |
代理人 | 岡田 充浩 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 杉本 勝徳 |