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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1293099
審判番号 不服2012-24260  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-07 
確定日 2014-10-24 
事件の表示 特願2006-353425「水中油型乳化日焼け止め化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日出願公開、特開2008-162930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成18年12月27日の特許出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成23年10月18日付け 拒絶理由通知書
平成23年12月20日 意見書・手続補正書
平成24年9月6日付け 拒絶査定
平成24年12月7日 審判請求書・手続補正書
平成25年2月8日付け 前置報告書
平成26年5月29日付け 審尋
平成26年7月29日 回答書

第2 補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成24年12月7日付け手続補正書による補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成24年12月7日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲について、本件補正前の
「【請求項1】
(a)油溶性紫外線吸収剤を1?25質量%、(b)アクリル系水溶性高分子である水溶性増粘剤を0.05?5質量%、(c)水溶性紫外線吸収剤を0.1?5質量%、(d)脂肪酸PEGグリセリル、水添ヒマシ油、PEG・PPGアルキルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤を0.1?1質量%、および(e)HLB8以下の、POEアルキルエーテルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤を0.05?0.5質量%含有する、水中油型乳化日焼け止め化粧料。」

「【請求項1】
(a)油溶性紫外線吸収剤を1?25質量%、(b)ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上である水溶性増粘剤を0.05?5質量%、(c)水溶性紫外線吸収剤を0.1?5質量%、(d)脂肪酸PEGグリセリル、水添ヒマシ油、PEG・PPGアルキルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤を0.1?1質量%、および(e)HLB8以下の、POEアルキルエーテルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤を0.05?0.5質量%含有し、乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない、水中油型乳化日焼け止め化粧料。」
と補正するものであるところ、本件補正は、実質的に、
(1)「(b)アクリル系水溶性高分子である水溶性増粘剤」を「(b)ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上である水溶性増粘剤」とする補正(以下、「補正事項A」という。)、及び、
(2)「乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない」との発明特定事項を追加する補正(以下、「補正事項B」という。)
を含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無
補正事項Aは、(b)成分の水溶性増粘剤について「アクリル系水溶性高分子」から「ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上」に補正するものであるところ、この出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」ということがある。)の発明の詳細な説明には、「(b)成分としての水溶性増粘剤は、天然の水溶性高分子、半合成水溶性高分子、合成水溶性高分子、無機の水溶性高分子に大別される。」(段落0020)及び「合成水溶性高分子としては、……;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系水溶性高分子……などが例示される。」(段落0023)と記載されており、さらに実施例2には、(b)成分として「アルキル変性ポリアクリル酸」及び「ポリアクリル酸」を配合した試料17?27が記載されている(段落0056?0064、特に段落0062の表2)ことからみて、補正事項Aは願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において補正したものであり、いわゆる新規事項を追加するものではない。
補正事項Bは、「水中油型乳化日焼け止め化粧料」について、「乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない」との事項を追加するものであるところ、この出願の当初明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の水中油型乳化日焼け止め化粧料には、さらに、通常、乳化化粧料に配合され得る成分を、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜配合することができる。このような成分としては、例えば……、界面活性剤((d)成分および(e)成分以外)、……が挙げられる。」(段落0045?0046)と記載されているところ、「乳化剤としての高級脂肪酸石鹸」は「界面活性剤((d)成分および(e)成分以外)」に該当するものの、そのような界面活性剤を適宜配合することができる(すなわち、配合しなくてもよい)としているのであるから、「水中油型乳化日焼け止め化粧料」について「乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない」と特定することで、当初明細書に記載された技術的事項との関係において、補正が新たな技術的事項を導入しないことは明らかである。
よって、補正事項Bは願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において補正したものということができ、いわゆる新規事項の追加にはあたらない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件に適合するものである。

(2)補正の目的
補正事項Aは、本件補正前の請求項1に記載した発明の発明特定事項である「アクリル系水溶性高分子」を、より下位の概念である「ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上」に限定するものである。
補正事項Bは、「水中油型乳化日焼け止め化粧料」について「乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない」と特定するものであるところ、「水中油型乳化日焼け止め化粧料」には当然配合される成分として当業者に自明の「乳化剤」(すなわち、「乳化剤」は実質的に発明特定事項と解される。)として高級脂肪酸石鹸を含まないことを特定したものであるから、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「乳化剤」を限定したものと解することが妥当であるといえる。
そして、本件補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、本件補正は、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3)独立特許要件について
本件補正は、上記したとおり、改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、さらに同条第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するか否かを検討する。

ア 本件補正後の発明について
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、平成24年12月7日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「(a)油溶性紫外線吸収剤を1?25質量%、(b)ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上である水溶性増粘剤を0.05?5質量%、(c)水溶性紫外線吸収剤を0.1?5質量%、(d)脂肪酸PEGグリセリル、水添ヒマシ油、PEG・PPGアルキルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤を0.1?1質量%、および(e)HLB8以下の、POEアルキルエーテルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤を0.05?0.5質量%含有し、乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない、水中油型乳化日焼け止め化粧料。」

なお、請求項1には、「(d)……、水添ヒマシ油、……の中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤」と記載されているが、単なる「水添ヒマシ油」は「親水性非イオン性界面活性剤」に該当するものではないところ、この出願の当初明細書には、「水添ヒマシ油系界面活性剤としては、水添ヒマシ油(EO100モル)〔=POE硬化ヒマシ油(EO100モル)〕等が例示的に挙げられる。」(段落0033)との記載があることや、請求人が原審で提出した意見書の3-6(i)において、「「水添ヒマシ油系界面活性剤」、……を、……、「水添ヒマシ油」、……に補正した。これにより、(d)成分の範囲が……、「水添ヒマシ油」、……に該当する親水性非イオン性界面活性剤であることを明確にした。」及び「「水添ヒマシ油」(=ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)」と記載していることからみて、「水添ヒマシ油」は、親水性非イオン性界面活性剤である「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」を意味するものと解して、以下検討する。

イ 引用する刊行物及びその記載事項
特開2002-284638号公報(原査定における引用文献2である。以下、「引用刊行物」という。)

上記引用刊行物には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】次の成分(A)?(D);
(A)アルキルメチルタウリン塩0.001?5質量%
(B)水溶性紫外線吸収剤0.01?10質量%
(C)油剤0.01?79質量%
(D)水
を必須成分として含有することを特徴とする水中油型乳化化粧料。
【請求項2】成分(C)の油剤として油溶性紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項1記載の水中油型乳化化粧料。」(特許請求の範囲)

(イ)「【課題を解決するための手段】このような事情に鑑み、本発明者は上記欠点を克服すべく鋭意研究を行った結果、アルキルメチルタウリン塩、水溶性紫外線吸収剤、油剤、水を必須成分として特定量含有することにより、優れた紫外線防御効果、みずみずしく、べたつきのない良好な使用感、経時安定性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落0004)

(ウ)「本発明に用いられる成分(A)のアルキルメチルタウリン塩は、特に限定されないが、具体的に例示するのであれば、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、パルミトイルメチルタウリンナトリウム、ステアロイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。……。
本発明において、成分(A)のアルキルメチルタウリン塩は、全組成中0.001?5質量%(以下、単に「%」と記す)であればよく、」(段落0007?0008)

(エ)「本発明の水中油型乳化化粧料においては上記必須成分に加え、一般に化粧料に配合される成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。例えば上述した以外のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコール、保湿剤、水溶性高分子、粉体、防腐剤、着色剤、安定化剤、アルコール類、薬剤、美容剤、香料等を適宜配合することができる。」(段落0019)

(オ)「実施例10:サンスクリーン乳液
(成分) (%)
(1)パルミトイルメチルタウリンナトリウム 0.2
(2)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.5
(3)セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
(4)カプリル・カプリン酸トリグリセリル 2.0
(5)メトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル 3.0
(6)セタノール 1.0
(7)オクチルトリアゾン 1.0
(8)4-t-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタン 0.5
(9)デカメチルシクロペンタシロキサン 1.0
(10)シリコーン処理酸化亜鉛 5.0
(11)香料 適量
(12)精製水 残量
(13)エタノール 5.0
(14)2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸ナトリウム 2.0
(15)キサンタンガム 0.1
(16)防腐剤 適量
(製造方法)
A:成分(1)?(11)を75℃に加熱溶解する。
B:成分(12)?(16)を75℃に加熱溶解後、Aに添加し乳化する。
C:Bを35℃まで冷却して、サンスクリーン乳液を得た。
実施例10のサンスクリーン乳液は、紫外線遮断効果、経時安定性、使用時のみずみずしさ、使用後のべたつき感のなさに優れたサンスクリーン乳液であった。」(段落0031?0033)

ウ 刊行物に記載された発明
引用刊行物には、「(A)アルキルメチルタウリン塩、(B)水溶性紫外線吸収剤、(C)油剤、及び(D)水を必須成分として含有する水中油型乳化化粧料」(摘示(ア)の請求項1)、及び、「(C)の油剤として油溶性紫外線吸収剤を含有する」(同請求項2)ことが記載されている。そして、該水中油型乳化化粧料は、「優れた紫外線防御効果、みずみずしく、べたつきのない良好な使用感、経時安定性に優れる」(摘示(イ))ものであることが記載されている。
また、摘示(オ)の実施例10のサンスクリーン乳液の処方中に「高級脂肪酸石鹸」に該当する成分は含まれていない。
なお、摘示アに記載された(A)成分の「アルキルメチルタウリン塩」は引用刊行物の摘示(ウ)の記載及び実施例(段落0021?0039)において具体的に「ステアロイルメチルタウリンナトリウム」(実施例1?9、11、12:摘示せず)や「パルミトイルメチルタウリンナトリウム」(実施例10:摘示(オ))が使用されていることからみて、「アシルメチルタウリン塩」の明らかな誤記と解される。

以上のことを踏まえると、引用刊行物には、特に摘示(オ)からみて、
「パルミトイルメチルタウリンナトリウム 0.2質量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.5質量%
セスキオレイン酸ソルビタン 0.5質量%
カプリル・カプリン酸トリグリセリル 2.0質量%
メトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル 3.0質量%
セタノール 1.0質量%
オクチルトリアゾン 1.0質量%
4-t-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタン 0.5質量%
デカメチルシクロペンタシロキサン 1.0質量%
シリコーン処理酸化亜鉛 5.0質量%
香料 適量
精製水 残量
エタノール 5.0質量%
2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸ナトリウム 2.0質量%
キサンタンガム 0.1質量%
防腐剤 適量
からなり、高級脂肪酸石鹸を含まない、サンスクリーン乳液」
の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると認められる。

なお、引用刊行物に記載された発明の認定は、特許請求の範囲の記載により特定される特許発明との対比に必要な限度において行えば足りるものであるから、当該刊行物に複数の発明が記載されている場合は、特定の発明を抽出することができることは、引用刊行物に記載された発明の認定手法としてすでに確立されていることである。
そして、上記刊行物には実施例10(摘示(オ))として特定のサンスクリーン乳液の処方が記載されていることは疑いようのない事実であるから、他の実施例にとらわれることなく、この実施例10として記載された処方に基づいて引用発明を認定することに何ら問題とすべき点はない。

エ 本件補正発明と刊行物発明との対比
本件補正発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「メトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル」、「オクチルトリアゾン」及び「4-t-ブチル-4'-メトキシベンゾイルメタン」は、いずれも本件補正発明の「(a)油溶性紫外線吸収剤」に相当し、刊行物発明の「2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸ナトリウム」は、本件補正発明の「(c)水溶性紫外線吸収剤」に相当し、刊行物発明の「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.)」は、本件補正発明の(d)成分の「水添ヒマシ油である親水性非イオン性界面活性剤」に相当し、刊行物発明の「セスキオレイン酸ソルビタン」は、本件補正発明の(e)成分の「HLB8以下のソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤」に相当する。そして、刊行物発明におけるこれらの各成分の配合量は本件補正発明で特定する範囲にそれぞれ含まれるものである。
刊行物発明中「カプリル・カプリン酸トリグリセリル」、「セタノール」及び「デカメチルシクロペンタシロキサン」は、引用刊行物の段落0012及び0014(摘示せず)の記載からみて、「水中油型の乳化剤型を構成する上で必須の成分」である「油剤」に、また、同じく「精製水」は、同段落0016(摘示せず)の記載からみて、「水中油型の乳化剤型を構成する上で必須の成分」である「水」に、さらに、同じく「シリコーン処理酸化亜鉛」、「香料」、「エタノール」及び「防腐剤」は引用刊行物の摘示(エ)の記載からみて、それぞれ、粉体、香料、アルコール類、防腐剤に該当するものである。そして、これらは、本願明細書段落0045?0046に、「適宜配合することができる」とされている「通常、乳化化粧料に配合され得る成分」である。
刊行物発明中「キサンタンガム」は水溶性増粘剤として当技術分野において周知の成分であり、引用刊行物においてキサンタンガムが増粘剤として認識されていることは段落0003(摘示せず)の記載から明らかであるし、本願明細書においても水溶性増粘剤として例示されている(段落0020?0021)とともに、実施例においても配合されている成分である(段落0062の表2の試料10?32)。
また、引用刊行物には、専ら、水中油型乳化化粧料の発明が記載されていることに鑑みれば、刊行物発明の「サンスクリーン乳液」は水中油型乳化化粧料であると解することが自然であるから、刊行物発明の「サンスクリーン乳液」は、本件補正発明の「水中油型乳化日焼け止め化粧料」に相当する。
してみると、両者は、
「(a)油溶性紫外線吸収剤を1?25質量%、(c)水溶性紫外線吸収剤を0.1?5質量%、(d)脂肪酸PEGグリセリル、水添ヒマシ油、PEG・PPGアルキルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤を0.1?1質量%、および(e)HLB8以下の、POEアルキルエーテルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤を0.05?0.5質量%含有し、乳化剤として高級脂肪酸石鹸を含まない、水中油型乳化日焼け止め化粧料。」
という点で一致し、下記の点において相違するということができる。

相違点1:
本件補正発明においては、「(b)ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上である水溶性増粘剤を0.05?5質量%」含有することが特定されているのに対し、刊行物発明においては、「キサンタンガム」以外の水溶性増粘剤成分を含んでいない点。
なお、刊行物発明が「キサンタンガム」を含んでいること自体は相違点ではない。

相違点2:
刊行物発明においては、「パルミトイルメチルタウリンナトリウム0.2質量%」を含有することが規定されているのに対し、本件補正発明においては、当該成分については特定されていない点。

オ 判断
(ア)相違点1について
引用刊行物には、発明の効果を損なわない範囲で(キサンタンガム以外の)水溶性高分子を配合することができる旨記載されている(摘示(エ))。
ところで、化粧料の技術分野における増粘剤として、ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドといった、アクリル系水溶性高分子は、汎用の成分であり、複数の異なる水溶性高分子を併用することも、周知慣用技術である。そして、増粘剤の配合量は、必要とする粘度に応じて当業者が適宜決定することであり、「0.05?5質量%」という配合割合は、そのために通常採用される範囲のものである。
してみると、刊行物発明において、化粧料の技術分野において汎用される「ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上である水溶性増粘剤」を0.05?5質量%配合することは、当業者が容易になし得ることである。

(イ)相違点2について
刊行物発明におけるパルミトイルメチルタウリンナトリウムはアミノ酸系界面活性剤の1種であり、化粧料の技術分野において汎用の成分である。
ところで、本願明細書には、「本発明の水中油型乳化日焼け止め化粧料には、さらに、通常、乳化化粧料に配合され得る成分を、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜配合することができる。このような成分としては、例えば……、界面活性剤((d)成分および(e)成分以外)、……が挙げられる。」(段落0045?0046)と記載されているように、(d)成分や(e)成分以外の界面活性剤を、それが高級脂肪酸石鹸でなければ、配合することが可能である旨示されている。
そして、パルミトイルメチルタウリンナトリウムは高級脂肪酸石鹸でないことは当業者に自明のことである。
そうすると、刊行物発明の「サンスクリーン乳液」がパルミトイルメチルタウリンナトリウムを0.2質量%含有していることは、本件補正発明の「水中油型乳化日焼け止め化粧料」が格別排除する事項ではなく、したがって、相違点2は実質的に相違点にはならない。

(ウ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、油溶性紫外線吸収剤を高配合することなく紫外線防御能(SPF)を飛躍的に向上させることができるとともに、安定性、塗膜均一性、肌への密着性に優れる水中油型乳化日焼け止め化粧料が提供されるというものである(本願明細書段落0001、0008?0010及び0064)。一方、引用刊行物には、「紫外線防御効果を有し、経時安定性に優れ、使用感の良好な」(摘示(イ)及び(オ)並びに段落0001及び0040)ものであることが示されており、本件補正発明と刊行物発明とは水中油型乳化日焼け止め化粧料として、ほぼ同様の効果を奏するものといえる。
そして、本件補正発明と刊行物発明との相違は実質的には相違点1の「水溶性増粘剤」の有無の点のみであり、水中油型乳化化粧料への水溶性増粘剤の配合は、通常行われていることであり(例えば、引用刊行物の段落0003(摘示せず)や本願明細書の段落0003参照)、刊行物発明の基礎となった実施例10にも水溶性増粘剤としてキサンタンガムが配合されていること(摘示(オ))に鑑みれば、本件補正発明の効果は、当業者が予測できる範囲のものといえる。
なお、本件補正発明において水溶性増粘剤は「ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上である」と特定されているが、本願明細書には、水溶性増粘剤としてはキサンタンガムを含む種々のものが挙げられており(段落0020?0024)、これらの水溶性増粘剤の中で「ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミド」を選択することにより他の水溶性増粘剤を使用した場合と比較してどのような効果が得られるのか具体的に示されていないことからみても、その効果は当業者の予測の範囲を出ないものと解される。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 原査定について
1 本願発明について
上記第2の〔補正の却下の決定の結論〕のとおり、平成24年12月7日付け手続補正書による補正は却下されたことから、この出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年12月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「(a)油溶性紫外線吸収剤を1?25質量%、(b)アクリル系水溶性高分子である水溶性増粘剤を0.05?5質量%、(c)水溶性紫外線吸収剤を0.1?5質量%、(d)脂肪酸PEGグリセリル、水添ヒマシ油、PEG・PPGアルキルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤を0.1?1質量%、および(e)HLB8以下の、POEアルキルエーテルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤を0.05?0.5質量%含有する、水中油型乳化日焼け止め化粧料。」

なお、請求項1には、「(d)……、水添ヒマシ油、…の中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤」と記載されている点については、上記第2の2(3)アで述べたとおり、「水添ヒマシ油」は、親水性非イオン性界面活性剤である「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」を意味するものとして、以下検討する。

2 原査定の拒絶の理由
この出願に係る原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2002-284638号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 刊行物の記載事項
引用文献2は上記第2の2(3)イにおける引用刊行物と同じものであるところ、引用文献2には、同所に摘示したとおりの記載がある。
そして、上記第2の2(3)ウにおいて指摘した点に鑑みれば、引用文献2には、
「パルミトイルメチルタウリンナトリウム 0.2質量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.5質量%
セスキオレイン酸ソルビタン 0.5質量%
カプリル・カプリン酸トリグリセリル 2.0質量%
メトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル 3.0質量%
セタノール 1.0質量%
オクチルトリアゾン 1.0質量%
4-t-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタン 0.5質量%
デカメチルシクロペンタシロキサン 1.0質量%
シリコーン処理酸化亜鉛 5.0質量%
香料 適量
精製水 残量
エタノール 5.0質量%
2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸ナトリウム 2.0質量%
キサンタンガム 0.1質量%
防腐剤 適量
からなる、サンスクリーン乳液」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
上記第2の2(3)エで述べた点を踏まえれば、両者は、
「(a)油溶性紫外線吸収剤を1?25質量%、(c)水溶性紫外線吸収剤を0.1?5質量%、(d)脂肪酸PEGグリセリル、水添ヒマシ油、PEG・PPGアルキルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上の親水性非イオン性界面活性剤を0.1?1質量%、および(e)HLB8以下の、POEアルキルエーテルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルである界面活性剤を0.05?0.5質量%含有する、水中油型乳化日焼け止め化粧料。」
という点で一致し、下記の点において相違するということができる。

相違点A:
本願発明においては、「(b)アクリル系水溶性高分子である水溶性増粘剤を0.05?5質量%」含有することが特定されているのに対し、引用発明においては、「キサンタンガム」以外の水溶性増粘剤成分を含んでいない点。
なお、引用発明が「キサンタンガム」を含んでいること自体は相違点ではない。

相違点B:
引用発明においては、「パルミトイルメチルタウリンナトリウム0.2質量%」を含有することが規定されているのに対し、本願発明においては、当該成分については特定されていない点。

5 判断
これらの相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
相違点Aは、上記第2の2(3)エの相違点1において、本件補正発明の「ポリアクリル酸、アルキル変性ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミドの中から選ばれる1種または2種以上」を「アクリル系水溶性高分子」という上位概念で表現したものに相当する。
そうすると、相違点Aについての判断は、上記第2の2(3)オ(ア)で述べたことがそのまま妥当する。
したがって、引用発明において、化粧料の技術分野において汎用される「アクリル系水溶性高分子である水溶性増粘剤」を0.05?5質量%配合することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点Bについて
相違点Bは上記第2の2(3)エの相違点2と同じである。
そうすると、相違点Bの判断については、上記第2の2(3)オ(イ)で述べたことがそのまま妥当する。
したがって、相違点Bは実質的に相違点にはならない。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果については、上記第2の2(3)オ(ウ)で述べたとおり、当業者が予測できる範囲のものである。

6 まとめ
よって、本願発明は、この出願前に頒布された引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、原査定のとおり拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-27 
結審通知日 2014-08-28 
審決日 2014-09-09 
出願番号 特願2006-353425(P2006-353425)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川島 明子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
発明の名称 水中油型乳化日焼け止め化粧料  
代理人 長谷川 洋子  

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