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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01T
管理番号 1293208
審判番号 不服2013-10465  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-05 
確定日 2014-10-22 
事件の表示 特願2009-516669「リムを有する半球形スパークチップを備えた、小径/ロングリーチスパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月27日国際公開、WO2007/149839、平成21年11月26日国内公表、特表2009-541943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年6月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年6月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月30日付けで拒絶査定(発送日:同年2月5日)がされ、これに対し、同年6月5日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。なお、平成24年11月20日付け手続補正は、原審において、平成25年1月30日付けで決定をもって却下された。

第2 平成25年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年6月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成24年5月11日付け手続補正書)の
「スパーク点火される燃焼事象のためのスパークプラグであって、前記スパークプラグは、
概して筒状のセラミック絶縁体と、
前記セラミック絶縁体の少なくとも一部を囲む導電シェルとを含み、前記シェルは少なくとも1つの接地電極を含み、さらに
前記セラミック絶縁体に配置された中心電極を含み、前記中心電極は前記接地電極と対向する関係にある下部スパーク端部を有し、スパークギャップがその間の空間を規定し、さらに
前記接地電極は前記シェルに隣接した固定端部から前記スパークギャップに隣接した遠位端まで延在し、さらに
前記接地電極の前記遠位端に取付けられた金属スパークチップを含み、前記スパークチップは凸面ドームおよび前記ドームを囲むリムを有し、前記リムは前記接地電極と表面同士で接触して配置され、
前記凸面ドームと前記リムとは、同一の材料からなる、スパークプラグ。
」を、

「スパーク点火される燃焼事象のためのスパークプラグであって、前記スパークプラグは、
概して筒状のセラミック絶縁体と、
前記セラミック絶縁体の少なくとも一部を囲む導電シェルとを含み、前記シェルは少なくとも1つの接地電極を含み、さらに
前記セラミック絶縁体に配置された中心電極を含み、前記中心電極は前記接地電極と対向する関係にある下部スパーク端部を有し、スパークギャップがその間の空間を規定し、さらに
前記接地電極は前記シェルに隣接した固定端部から前記スパークギャップに隣接した遠位端まで延在し、さらに
前記接地電極の前記遠位端に取付けられた金属スパークチップを含み、前記スパークチップは凸面ドームおよび前記ドームを囲むリムを有し、前記リムは前記接地電極と表面同士で接触して配置され、
前記凸面ドームと前記リムとは、同一の材料からなり、
前記セラミック絶縁体は、前記下部スパーク端部から遠い側の直径を減じる第1のショルダ部と、前記第1のショルダ部よりも前記下部スパーク端部寄りにあって前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる第2のショルダ部と、前記第1のショルダ部と前記第2のショルダ部との間に位置して前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる錐台状の遷移表面とを有し、
前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する、スパークプラグ。」と補正することを含むものである(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。

2 本件補正の適否について
本件補正の目的について検討する。
本件補正後の請求項1は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「セラミック絶縁体」について、「前記下部スパーク端部から遠い側の直径を減じる第1のショルダ部と、前記第1のショルダ部よりも前記下部スパーク端部寄りにあって前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる第2のショルダ部と、前記第1のショルダ部と前記第2のショルダ部との間に位置して前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる錐台状の遷移表面とを有」するとともに「前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」との限定を付加するものである。また、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

3 刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開2004-127916号公報(以下「刊行物1」という。)には、「スパークプラグ」に関して、図面と共に、次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】
近年、自動車用ガソリンエンジンを始めとする内燃機関は、高性能化の要求が高まりつつあり、点火用のスパークプラグにも着火性の向上と放電電圧の低減とが求められている。着火性の向上及び放電電圧の低減には、中心電極側の発火部を細径化することが有効であり、縮径した電極の先端に貴金属チップを接合して発火部を形成した構造が多く採用されている。しかし、最近は燃費向上や排ガス規制の強化に対応するため混合気の希薄化(リーンバーン化)が進んでおり、着火条件はさらに厳しさを増している。そこで、燃焼室のより奥側に位置する接地電極側についても、貴金属チップの接合により、接地電極側面から中心電極先端面側に突出した発火部を形成し、かつその先端部を細径化する試みがなされている。」

イ 「【0006】
ここで、接地電極4側の発火部32を細径化したとき、次のような現象が起こりやすくなることに留意する必要がある。すなわち、近年は、内燃機関の高効率化とリーンバーン化を図るために、燃料の噴射圧力が高められ、また、燃焼室へ燃料を直接噴射する直噴式エンジンの採用も進んでいるため、燃焼室内のガス流は格段に大きく激しいものとなっている。そして、着火性向上等のために発火部32が細径化されると、当然、火花が飛ぶ発火部先端面の面積も小さくなる。そして、図15に示すように、飛火中に上記のような強いガス流を横方向から受けると、火花SPが流されて発火部32の先端面から外れ、その突出基端部を取り囲む周囲電極面との間で飛火が生じやすくなる。このとき、図13あるいは図14に示すように、発火部32より融点の低い電極母材や溶接ビードWBにより周囲電極面が構成されていると、図15に示すように、当該部分が火花消耗によりえぐられて偏消耗を生じ、接地電極4の寿命が早期に尽きてしまう問題を生ずるのである。」

ウ 「【0008】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記の課題を解決するために、本発明のスパークプラグは、
中心電極の先端に固着された貴金属製の中心電極側発火部に、接地電極の側面に固着された貴金属製の接地電極側発火部を対向させることにより、それら中心電極側発火部と接地電極側発火部との間に火花放電ギャップが形成されてなり、前記接地電極発火部はPtを主成分とする貴金属からなり、前記接地電極に対し、両部の構成金属成分同士が合金化した厚さ0.5μm以上100μm以下の合金化層を介して接合されており、
また、前記接地電極側発火部は前記火花放電ギャップに臨む先端面が、前記接地電極に固着された底面よりも径小とされ、かつ、前記先端面が前記接地電極の前記側面よりも中心電極先端側に突出するものとされ、さらに、前記先端面側から前記接地電極側発火部を平面視したとき、該先端面の周囲を取り囲むように、前記接地電極側発火部の表面の一部が前記接地電極の側面に露出した周囲露出領域面として視認される。
なお、本明細書において「主成分」とは、着目している材料中にて最も含有率の高い成分のことをいう。
【0009】
上記本発明のスパークプラグにおいては、接地電極側発火部は先端面が接地電極の側面よりも中心電極先端面側に突出し、かつ先端面が底面よりも縮径された形状を有するので、着火性向上及び放電電圧低減に寄与する。また、接地電極側発火部の先端面の周囲領域をなす、周囲露出領域面が貴金属面となっているので、火花がガス流により流され、接地電極側発火部の先端面外側に外れて飛火した場合でも、貴金属からなる周囲露出領域面にて火花を受けることで電極の偏消耗を防止することができる。」

エ 「【0023】
図2に示すように、中心電極3の軸線Oの方向において、周囲露出領域面32pの外周縁32eを基準位置とすれば、上記寸法Lは、接地電極側発火部32の先端面32tの、該基準位置からの突出高さtと、周囲露出領域面32pの幅Aとによって定まる。従って、たとえAが限りなくゼロに近い値であっても、先端面32tの突出高さtを適当に設定すれば、Lを火花放電ギャップgのギャップ長に相当する寸法Gの1.3倍以上に設定することができる。しかし、これでは火花が流されて先端面32tから外れた途端に周囲露出領域面32pの外に落ちることになり、接地電極4の偏消耗を防止する効果は全く得られない。
【0024】
そこで、本発明者らが実験により検討した結果、火花がガス流により流されたとき、周囲露出領域面で火花を受けて電極の偏消耗を防止する効果は、周囲露出領域面の幅Aが0.15mm以上であることと、上記定義したGとLとが1.3G≦Lを満たすことの双方を充足したときに、特に顕著となることが判明した。」

オ 「【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の製造方法の適用対象となるスパークプラグの実施形態1を示すものであり、図2はその要部の拡大図である。スパークプラグ100は、筒状の主体金具1、先端部21が突出するようにその主体金具1の内側に嵌め込まれた絶縁体2、先端を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3、及び主体金具1に一端が溶接等により結合されるとともに他端側が側方に曲げ返されて、その側面が中心電極3の先端部(ここでは、先端面)と対向するように配置された接地電極4等を備えている。接地電極4の側面4sには、Pt系金属からなる貴金属チップを抵抗溶接することにより、接地電極側発火部32が設けられている。また、中心電極3の先端には、Ir系金属よりなる貴金属チップをレーザー溶接することにより、中心電極側発火部31が設けられている。そして、それら接地電極側発火部32と中心電極側発火部31との間に火花放電ギャップgが形成されている。」

カ 「【0037】
絶縁体2は、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウム等のセラミック焼結体により構成され、その内部には自身の軸方向に沿って中心電極3を嵌め込むための孔部6を有している。また、主体金具1は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成するとともに、その外周面には、プラグ100を図示しないエンジンブロックに取り付けるためのねじ部7が形成されている。」

キ 「【0041】
実施形態1においては、接地電極側発火部32は、底面32uを有する本体部32bと、その本体部32bの頂面32pと、該頂面32pの中央部から突出する突出部32aとを有する。そして、突出部32aの先端面32tが、中心電極側発火部31の先端面31tと対向して火花放電ギャップgを形成している。図5に示すように、本体部32bと突出部32aとは、同心的に配置された円状の平面形態を有し、頂面32pの外周縁32eと先端面32tの外周縁32kとの間に視認される円環状の領域が周囲露出領域面をなす。また、突出部32a及び本体部32bの外周面は、いずれも円筒状面である。」

ク 「【0046】
以下、実施形態1のスパークプラグ100の製造工程について説明する。図3は接地電極側発火部32の形成方法を示すものである。すなわち、工程1に示すように、接地電極側発火部32を形成するための円板状の貴金属チップ32cを、Ptを主成分とする貴金属素材、例えば貴金属線材NWの切断(あるいは板材の打抜)により用意する。そして、接地電極4への接合に先立って、工程2に示すように、上記円板状の貴金属チップ32cに対し、金型Pを用いた周知のヘッダ加工を施し、最終的な接合に用いる貴金属チップ32´(本体部32bと突出部32aとを有するもの)とする。
【0047】
上記のようにして得られた貴金属チップ32´を、工程3に示すように、底面32u側にて接地電極4(電極母材4m)の側面4sに重ね合わせる。そして、工程4に示すように、この状態で電極50,51間に挟み付けて加圧しつつ、通電発熱する。これにより、貴金属チップ32´と電極母材4mとの間で発熱し、該貴金属チップ32´が電極母材4mに食い込みつつ、電極母材4mとの間に、発熱による合金化層40が形成され、接地電極側発火部32となる。」

ケ 上記「カ」の「絶縁体2は、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウム等のセラミック焼結体により構成され、その内部には自身の軸方向に沿って中心電極3を嵌め込むための孔部6を有している。」との記載及び図1からみて、絶縁体2は、筒状のセラミック絶縁体であるといえる。

コ 上記「キ」の「図5に示すように、本体部32bと突出部32aとは、同心的に配置された円状の平面形態を有し、頂面32pの外周縁32eと先端面32tの外周縁32kとの間に視認される円環状の領域が周囲露出領域面をなす。また、突出部32a及び本体部32bの外周面は、いずれも円筒状面である。」との記載及び図5からみて、接地電極側発火部32は、円柱状の突出部32aおよび前記円柱状の突出部32aを囲む円柱状の本体部32bから構成されているといえる。

サ 図1には、筒状のセラミック絶縁体2は、中心電極側発火部31側の下方端部から上方に向かって、直径が漸増する第1の部位、直径が急増する第2の部位、直径が略一定の第3の部位、直径が再び急増する第4の部位、直径が略一定の第5の部位、直径が急減する第6の部位、直径が略一定の第7の部位、を有することが示されている。
そして、第6の部位は中心電極側発火部31から遠い側の直径を減じるものであり、第2の部位は第6の部位よりも中心電極側発火部31寄りにあって中心電極側発火部31に近い側の直径を減じるものであり、第4の部位は第6の部位と第2の部位との間に位置して中心電極側発火部31に近い側の直径を減じるものである。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「スパーク点火される燃焼事象のためのスパークプラグ100であって、前記スパークプラグ100は、
筒状のセラミック絶縁体2と、
前記セラミック絶縁体2の少なくとも一部を囲む主体金具1とを含み、前記主体金具1は少なくとも1つの接地電極4を含み、さらに
前記セラミック絶縁体2に配置された中心電極3を含み、前記中心電極3は前記接地電極4と対向する関係にある中心電極側発火部31を有し、火花放電ギャップgがその間の空間を規定し、さらに
前記接地電極4は前記主体金具1に隣接した固定端部から前記火花放電ギャップgに隣接した遠位端まで延在し、さらに
前記接地電極4の前記遠位端に取付けられた接地電極側発火部32を含み、前記接地電極側発火部32は円柱状の突出部32aおよび前記円柱状の突出部32aを囲む円柱状の本体部32bを有し、前記円柱状の本体部32bは前記接地電極4と表面同士で接触して配置され、
前記円柱状の本体部32bと前記円柱状の突出部32aとは、同一の材料からなり、
前記セラミック絶縁体2は、前記中心電極側発火部31から遠い側の直径を減じる第6の部位と、前記第6の部位よりも前記中心電極側発火部31寄りにあって前記中心電極側発火部31に近い側の直径を減じる第2の部位と、前記第6の部位と前記第2の部位との間に位置して前記中心電極側発火部31に近い側の直径を減じる第4の部位とを有する、スパークプラグ100。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開2002-184551号公報(以下「刊行物2」という。)には、「スパークプラグ」に関して、図面と共に、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スパークプラグ及びそれを用いた点火装置に関する。」

イ 「【0126】なお、第15?第18実施形態では、円柱形状の中心電極側チップ32を用いたが、図31に示す第19実施形態のように、中心電極側チップ32を、曲率半径が0.2mmよりも十分大きな略球状にしてもよい。
【0127】この場合、中心電極30側と接地電極40側との電界強度の差が大きくなるので、放電エネルギをより確実に接地電極40側に集中させることができる。また、中心電極30側は電極の体積に対して表面積が小さくなるので、中心電極30での冷炎作用(火炎の熱が電極に奪われること)が抑制される。
【0128】図32に示す第20実施形態では、接地電極側チップ42は、曲率半径が0.2mm以下の略球状にしている。この場合、接地電極側チップ42の曲率半径が0.2mm以下であるため、電界強度を局所的に大きくすることができる。また、接地電極40側の表面積も小さくなるので、接地電極40での冷炎作用を抑制することができる。」

ウ 図32には、接地電極側チップ42の先端部が、略半球状であることが示されている。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2に記載された事項」という。)が記載されている。

「スパークプラグに関し、電界強度を局所的に大きくし、冷炎作用を抑制するため、接地電極側チップ42の先端部を略半球状とすること。」

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「スパークプラグ100」は前者の「スパークプラグ」に相当し、以下同様に、「筒状のセラミック絶縁体2」は「概して筒状のセラミック絶縁体」に、「主体金具1」は「導電シェル」に、「接地電極4」は「接地電極」に、「中心電極3」は「中心電極」に、「中心電極側発火部31」は「下部スパーク端部」に、「火花放電ギャップg」は「スパークギャップ」に、「接地電極側発火部32」は「金属スパークチップ」に、「中心電極側発火部31から遠い側の直径を減じる第6の部位」は「前記下部スパーク端部から遠い側の直径を減じる第1のショルダ部」に、「第6の部位よりも中心電極側発火部31寄りにあって中心電極側発火部31に近い側の直径を減じる第2の部位」は「第1のショルダ部よりも下部スパーク端部寄りにあって下部スパーク端部に近い側の直径を減じる第2のショルダ部」にそれぞれ相当する。
また、後者の「第6の部位と第2の部位との間に位置して中心電極側発火部31に近い側の直径を減じる第4の部位」と前者の「第1のショルダ部と第2のショルダ部との間に位置して下部スパーク端部に近い側の直径を減じる錐台状の遷移表面」とは、「第1のショルダ部と第2のショルダ部との間に位置して下部スパーク端部に近い側の直径を減じる遷移表面」の限りで共通する。
また、後者の「円柱状の突出部32a」と前者の「凸面ドーム」とは、突出部という限りで共通するから、後者の「円柱状の突出部32aおよび前記円柱状の突出部32aを囲む円柱状の本体部32b」と前者の「凸面ドームおよび前記ドームを囲むリム」とは、「突出部および前記突出部を囲むリム」の限りで共通する。

したがって、両者は、
「スパーク点火される燃焼事象のためのスパークプラグであって、前記スパークプラグは、
概して筒状のセラミック絶縁体と、
前記セラミック絶縁体の少なくとも一部を囲む導電シェルとを含み、前記シェルは少なくとも1つの接地電極を含み、さらに
前記セラミック絶縁体に配置された中心電極を含み、前記中心電極は前記接地電極と対向する関係にある下部スパーク端部を有し、スパークギャップがその間の空間を規定し、さらに
前記接地電極は前記シェルに隣接した固定端部から前記スパークギャップに隣接した遠位端まで延在し、さらに
前記接地電極の前記遠位端に取付けられた金属スパークチップを含み、前記スパークチップは突出部および前記突出部を囲むリムを有し、前記リムは前記接地電極と表面同士で接触して配置され、
前記突出部と前記リムとは、同一の材料からなり、
前記セラミック絶縁体は、前記下部スパーク端部から遠い側の直径を減じる第1のショルダ部と、前記第1のショルダ部よりも前記下部スパーク端部寄りにあって前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる第2のショルダ部と、前記第1のショルダ部と前記第2のショルダ部との間に位置して前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる遷移表面とを有する、スパークプラグ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

「相違点1]
金属スパークチップの突出部について、本願補正発明では、「凸面ドーム」であるのに対し、
引用発明では、「円柱状」である点。

[相違点2]
セラミック絶縁体の下部スパーク端部に近い側の直径を減じる遷移表面について、本願補正発明では、「錐台状」であると共に、「前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」のに対し、
引用発明では、直径を減じる遷移表面の形状が明らかでないと共に、どの程度の割合で直径を減じるかが明らかでない点。

5 当審の判断
上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
刊行物2に記載された事項の接地電極側チップ42の先端部は略半球状であるから、本願補正発明の「凸面ドーム」に相当する。
また、刊行物2には、前記「3」の「(2)イ」の記載からみて、円柱形状のチップに代えて略球状のチップを用いた場合、電界強度の差が大きくなり、冷炎作用が抑制されることが示唆されている。
そうすると、引用発明の「円柱状の突出部32aおよび前記円柱状の突出部32aを囲む円柱状の本体部32bを有」する「接地電極側発火部32」に刊行物2に記載された事項を適用することは当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、刊行物1の段落【0009】の「接地電極側発火部の先端面の周囲領域をなす、周囲露出領域面が貴金属面となっているので、火花がガス流により流され、接地電極側発火部の先端面外側に外れて飛火した場合でも、貴金属からなる周囲露出領域面にて火花を受けることで電極の偏消耗を防止することができる。」との記載によれば、引用発明の「本体部32b」は、ガス流により外側に外れた火花を受ける機能を有するものである。そうすると、上記適用にあたって、「本体部32b」が有する前記機能を生かすために、「接地電極側発火部32」の「突出部32a」に刊行物2に記載された事項を適用して、「凸面ドーム」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
ア 「錐台状」について
本願の優先権主張の日前において、スパークプラグの絶縁体の直径を減じる遷移表面を錐台状とすることは周知の技術事項(例えば、特開昭61-93575号公報の第5図、実願昭59-144341号(実開昭61-61781号)のマイクロフィルムの第1図の段部3参照)である。
そうすると、引用発明において、前記周知の技術事項を適用して、「中心電極側発火部31に近い側の直径を減じる第4の部位」を「錐台状」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 「0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」について
本願の優先権主張日前において、スパークプラグの導電シェルの上端部をカシメ加工することで絶縁体を固定することは常套手段(例えば、特開昭61-93575号公報の第2頁右上欄1ないし7行及び第5図、実願昭59-144341号(実開昭61-61781号)のマイクロフィルムの第3頁12ないし17行及び第1図)であるから、当該常套手段を踏まえて刊行物1の図1をみると、引用発明においても主体金具1の上端部をカシメ加工することでセラミック絶縁体2を固定しているといえる。
そして、主体金具1の上端部のカシメ加工に伴ってセラミック絶縁体2に作用する圧縮応力及びせん断応力は、当業者であれば当然に考慮すべき事項である。
また、本願補正発明の「前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」について、本願明細書の段落【0032】には「組立て中および動作中、また絶縁体12の形成および発火ステップ中の絶縁体12のハンドリングにおいてスパークプラグ10に与えられる圧縮応力に耐えるために、主題の絶縁体12に著しく頑丈な機械的強度を与える、特に有利な空間的関係が特定されている。特に、この関係は、Dl、D2および遷移長さL(遷移)の間に築かれる。好ましくはこの関係は以下の公式によって表現される」(「Dl」は「D1」の誤記と認める。)との記載があるが、この記載によっても、本願補正発明の「0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5」が臨界的意義を有することは確認できない。
そうすると、引用発明の「中心電極側発火部31に近い側の直径を減じる第4の部位」を「錐台状」としたものにおいて、「セラミック絶縁体2」に作用する圧縮応力及びせん断応力を考慮した結果、「前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」ようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ まとめ
上記ア及びイのとおりであるから、引用発明において、「錐台状」であると共に「前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」ようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、刊行物2に記載された事項及び前記周知の技術事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものではない

したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項及び前記周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年5月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲1ないし6に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物1及び2に記載された事項並びに引用発明及び刊行物2に記載された事項は、前記「第2[理由]3(1)及び(2)」に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、前記「第2[理由]」で検討した本願補正発明において、「セラミック絶縁体」について、「前記下部スパーク端部から遠い側の直径を減じる第1のショルダ部と、前記第1のショルダ部よりも前記下部スパーク端部寄りにあって前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる第2のショルダ部と、前記第1のショルダ部と前記第2のショルダ部との間に位置して前記下部スパーク端部に近い側の直径を減じる錐台状の遷移表面とを有」するとともに「前記第1のショルダ部の前記下部スパーク端部側に隣接する部分における前記セラミック絶縁体の外径をD2とし、前記第2のショルダ部の前記第1のショルダ部側に続く部分における前記セラミック絶縁体の外径をD1とし、前記遷移表面の長手方向の距離をL(遷移)としたとき、0.5≦(D2-D1)/L(遷移)≦3.5が成立する」との限定を省いたものである。

そうしてみると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]4及び5」に記載したとおり、引用発明、刊行物2に記載された事項及び前記周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-20 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-09 
出願番号 特願2009-516669(P2009-516669)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01T)
P 1 8・ 121- Z (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 学  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 小関 峰夫
稲葉 大紀
発明の名称 リムを有する半球形スパークチップを備えた、小径/ロングリーチスパークプラグ  
代理人 仲村 義平  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 堀井 豊  
代理人 森田 俊雄  
代理人 野田 久登  
代理人 深見 久郎  

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