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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L
管理番号 1293218
審判番号 不服2013-18890  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-30 
確定日 2014-10-22 
事件の表示 特願2011-506505号「多層化燃料管」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月5日国際公開、WO2009/135112、平成23年 6月23日国内公表、特表2011-518300号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成21年5月1日(パリ条約による優先権主張、2008年5月1日 米国、2009年4月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年9月30日に審判請求がなされた後、平成25年12月20日付けで当審において拒絶の理由が通知され、平成26年3月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであって、その請求項1?18に係る発明は、平成26年3月20日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「(a)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ポリマーまたはポリフッ化ビニリデンコポリマーの内部層と;(b)前記内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)中間層と;(c)前記中間層の外側表面上に管状に押出されこの表面と同一の広がりを有するポリ塩化ビニルポリマーと、を含む揮発性炭化水素の輸送のための非導電性可撓性管状燃料ホース。」

2.引用文献の記載事項
上記、当審における拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前である2008年1月10日に頒布された刊行物である国際公開第2008/005744号(以下、「引用文献1」という。)には、「FLEXIBLE MULTILAYER VINYLIDENE FLUORIDE TUBES」(柔軟性のある多層フッ化ビニリデンチューブ)に関する発明について、次の事項が記載されている。

(ア)「Surprisingly it has been found that a multi-layer tube having a thin layer of PVDF as the fluid contact layer having one or more layers of flexible polymer outside fulfill the requirements for a peristaltic pump application. Currently, there are no products in the market that can match the balance of properties of the tubes of the invention in terms of the contact layer purity, chemical resistance and barrier properties, combined with the flexibility and restitution (or spring back) of the overall structure.
(流体接触層として、外側に一つか二つ以上の柔軟性を有する層を有するPVDFの薄層を持つ多層チューブは、驚くべきことに、蠕動ポンプに必要な要件を満たすことができる。現在のところ、接触層の純度、化学耐性、及び、バリア特性に関して、全体構造の柔軟性及び回復力(又は跳ね返り)と合わせて、本発明のチューブの特性のバランスを有するような製品は商業的に利用することはできない。)」(2頁4行ないし10行。()内は、引用文献1のパテントファミリーである特表2009-542476号公報による訳文。以下、同様。)

(イ)「The PVDF contact layer provides excellent chemical and permeation resistance combined with extremely low or no extractables. PVDF is one of the purest commercially available polymers for extractables. It is also a semi-crystaline fiuoropolymer with excellent chemical resistance to a whole range of chemicals. In addition, it has excellent permeation resistance to H _(2)O , CO_(2) , O_(2 ), CO_(2) and hydrocarbon fuels, as well as many other compounds.
(PVDF接触層は、抽出物が出ないか非常に少ないことと併せて、優れた化学耐性及び透過抵抗を示す。PVDFは、抽出物のために純粋に商業的に利用可能なポリマーの一つである。又、半結晶フッ素化ポリマーも、広い範囲の化学物質に対して良好な化学耐性を示す。さらに、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)、CO及び炭化水素燃料、並びに、他の多くの化合物に対して良好な透過抵抗を示す。)」(2頁25行ないし30行)

(ウ)「Elastomeric polymers are those having the ability to return to their original shape when a load is removed. Elastomeric polymers most useful in the elastomeric layer(s) of the invention are those that can easily be melt-processible. The elastomeric layer could also be one that could be applied to the PVDF layer and then cured in a secondary operation. Examples of useful elastomers include, but are not limited to, elastomeric polyamide TPE (thermoplastic elastomer), such as PEBAX (Arkema Inc.); thermoplastic vulcanates (TPV) such as SANTOPRENE (polypropylene-EPDM TPV produced by Advanced Elastomer Systems); thermoplastic olefins (TPO) such as Engage (ethylene-propylene polyolefin elastomer produced by Dow Chemical); thermoplastic vulcanates (TPV) containing grafted or reacted functional groups including maleic anhydride or glycidal methacrylate, such as SANTOPRENE; thermoplastic vulcanates that are polyamide based (PA based) or thermoplastic polyester elastomer based (such as HYTREL produced by Dupont); Acrylate Rubbers such as SEBS (styrene-ethylene-butylene-styrene copolymer produced by Shell, thermoplastic polyurethanes (TPU based on polyesters or polyethers); polyester type TPE such as HYTREL; fluoroelastomers (VITON from Dupont, Kynar Ultraflex from Arkema Inc), silicones, Neoprene, nitrile rubber, butyl rubber, polyamides, polyolefins such as polyethylene and polypropylene, chlorinated vinyls, such as PVC and flexibilized PVC where the flexibililzed PVC is typically plasticized.
(弾性ポリマーは、負荷が無くなった時、その元の形に戻す能力を有するポリマーである。本発明のエラストマー層に最も有効な弾性ポリマーは、溶融加工が容易なポリマーである。弾性層としては、PVDF層に適用可能であり、第二の操作でキュアできるものであれば良い。使用できるエラストマーの例としては、これに限定されるわけではないが、PEBAX(アーケマ社(Arkema Inc.))などの弾性ポリアミドTPE(熱可塑性エラストマー);SANTOPRENE(Advanced Elastomer Systems製のポリプロピレン-EPDM TPV)などの熱可塑性硬質ゴム(TPV); Engage(ダウケミカル社(Dow Chemical)製のエチレンープロピレンのポリオレフィンエラストマー)などの熱可塑性ポリオレフィン(TPO);SANTOPRENEなどのグラフト化又は反応させた無水マレイン酸又はグリシダルメタクリル酸を含む官能基を含む熱可塑性硬質ゴム(TPV); ポリアミドベース(PAベース)又は熱可塑性ポリエステルエラストマーベース(例えば、デュポン製のHYTRELなど)の熱可塑性硬質ゴム;SEBS(Shell製のスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)などのアクリル酸ゴム;熱可塑性ポリウレタン(ポリエステル又はポリエーテルをベースとしたTPU);HYTRELなどのポリエステルタイプのTPE;フルオロエラストマー(デュポン製のVITON、アーケマ社製のKynar Ultraflex);シリコーン、ネオプレン、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリアミド類、ポリオレフィン(例えばポリエチレンとポリプロピレン)、塩化ビニル(例えば、PVC及び柔軟性を有する典型的には可塑化されたPVC)などである。)」(4頁26行ないし5頁11行)

(エ)「Some possible structures useful in the present are presented below. One of skilled in the art could imagime many similar structures, based on the list and the information provided. As listed, the first listed material (a PVDF) is the layer in contact with the biopharmaceutical or chemical reagent and can be a PVDF homopolymer, copolymer terpolymer, functionalized homopolymer or functionalized copolymer .

- PVDF/KYNAR ADX/tie layer/elastomer
・・・(中略)・・・
- KYNAR/TPU/PVC

- KYNAR/KYNAR ADX/ TPU+PVC

Structures with PVDF on both the inner and outer layer include, but are not limited to:
- PVDF/KYNAR ADX/LOTADER/ PEB AX/LOTADER/KYNAR ADX/PVDF
- PVDF/KYNAR ADX/LOTADER/TPO/LOTADER/KYNAR ADX/PVDF
(本発明において、他の可能な構造を以下に示す。以下のリストと情報を基礎として、当業者であれば多くの類似構造を想起可能である。リストにあるように、最初にリストされる物質(PVDF)は生物薬剤または化学物質と接触し、又、PVDFのホモポリマー、及び、コポリマー、ターポリマー、官能化されたホモポリマー、又は、官能化されたコポリマーであって良い。
-PVDF/KYNAR ADX/結合層/エラストマー
・・・(中略)・・・
-KYNAR/TPU/PVC
-KYNAR/KYNAR ADX/TPU+PVC

PVDFを内側、外側に両方に含んだ構造としては、例えば、以下の通りであるが、以下に限定されるわけではない。
-PVDF/KYNAR ADX/LOTADER/PEBAX/LOTADER/KYNAR ADX/PVDF
-PVDF/KYNAR ADX/LOTADER/TPO/LOTADER/KYNAR ADX/PVDF)」(6頁22行ないし8頁2行)

(オ)「The multi-layer structure of the invention can be formed by processes known in the art, such as by co-extrusion, or lamination. A preferred method is by a multi- extrusion process in which two to seven layers are extruded.
(本発明の多層構造体は、共押出成形やラミネート加工のような既知の手段で形成することができる。好ましい方法としては、2?7層を押出す方法である多層押出成形による方法である。)」(8頁10行ないし12行)

(カ)「Examples
Multi-layer tubes were formed by coextrusion then tested by running a series of peristaltic pump tests over a certain period of time to check the amount of cycles the tube can withstand.
(【実施例】 多層チューブは、共押出成形により形成し、チューブがどれくらいのサイクル抵抗力を有するのかチェックするために、一定時間、蠕動ポンプ試験により試験を行った。)」(9頁7行ないし10行)

上記引用文献1の記載事項(ア)?(カ)の内容から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「KYNARの内層と、KYNARの内層上に管状に押し出されたTPU中間層と、中間層の外側表面上に押出されこの表面上と同一の広がりを有するPVCとを含む炭化水素燃料に透過抵抗を示す柔軟性チューブ」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「KYNAR」は、Arkema社で生産されているPVDF(フッ化ビニリデンのホモポリマー および、そのコポリマー)の商品名であり、「TPU」は、熱可塑性ポリウレタンであり、「PVC」は、ポリ塩化ビニルポリマーであるから、それぞれ、本願発明1の「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ポリマーまたはポリフッ化ビニリデンコポリマー」、「熱可塑性ポリウレタン」、「ポリ塩化ビニルポリマー」に相当する。
また、引用発明の「柔軟性チューブ」は「可撓性管状ホース」に相当する。
さらに、PVDF、TPU、PVCの各ポリマーが、非導電性可撓性であることは自明であり、引用文献1には、これを否定する記載もなく、また、これらポリマーまたは引用発明のチューブを導電性とすることが示唆されているものでもない。
してみると、両者は次の点で一致している。

(一致点)
「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ポリマーまたはポリフッ化ビニリデンコポリマーの内部層と;前記内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)中間層と;前記中間層の外側表面上に管状に押出されこの表面と同一の広がりを有するポリ塩化ビニルポリマーと、を含む非導電性可撓性管状ホース。」

そして、両者は次の点で相違している。

(相違点)
本願発明1が、「揮発性炭化水素の輸送のための燃料ホース」との限定を有するのに対し、引用発明は、そのような限定を有しない点。

以下、上記相違点について検討する。
引用発明も、炭化水素燃料に透過抵抗を示すものであり、また、ガソリンや軽油等の炭化水素燃料が揮発性を有することは自明である。また、引用文献1の2頁25?30行には、引用発明が炭化水素燃料に透過抵抗を示すことが記載され、引用発明を炭化水素燃料の輸送用ホースとして使用することが示唆されているといえる。してみると、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明を「揮発性炭化水素の輸送のための燃料ホース」として採用し、相違点に係る本願発明の構成を容易に想到し得ることと認められる。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献1に記載の事項から当業者が容易に想到し得るものと認められる。
そして、本願発明1の効果は、引用発明及び引用文献1に記載の事項から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

請求人は、平成26年3月20日付け意見書において、引用文献1の熱可塑性ポリウレタンは、本願発明の「(b)前記内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)層」とは異なる旨主張する(意見書2頁9?41行)。
しかしながら、本願請求項1には、中間層については、「(b)前記内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)中間層と;(c)前記中間層の外側表面上に管状に押出されこの表面と同一の広がりを有するポリ塩化ビニルポリマー」とのみ記載されており、内部PVDF層とポリ塩化ビニルポリマーとの間に位置すること、内部PVDF層上に管状に押出されたことが特定されるのみで、この限りにおいて、引用発明と相違するところはない。また、本願発明の中間層の技術的意義について検討すると、本願明細書の段落【0010】の記載からみて、TPUは、バインダまたは結合層の代わりに層間のボンド/接着の層として機能することが記載されており、引用発明の熱可塑性ポリウレタン層と変わるところはない。
したがって、本願発明の熱可塑性ポリウレタン(TPU)中間層は、その構造も、技術的意義も引用発明の熱可塑性ポリウレタン層と差異はなく、請求人の上記主張は採用できない。
また、請求人は、本願発明の内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)中間層という構成要件と、引用刊行物に開示された結合層としてのTPUという構成要件とは異なることを前提として、「(b)内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)中間層と;(c)中間層の外側表面上に管状に押出されこの表面と同一の広がりを有するポリ塩化ビニルポリマーと」という構成要件は開示されていない旨、主張している(意見書2頁32?3頁2行)。
しかしながら、上記のように、引用発明の熱可塑性ポリウレタンは、本願発明の「(b)前記内部PVDF層上に管状に押出された熱可塑性ポリウレタン(TPU)層」に相当するものであるから、請求人の主張は、その前提において誤りであり、採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、本願の優先日前に頒布された、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?18に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-21 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-09 
出願番号 特願2011-506505(P2011-506505)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 幸弘渡邉 洋  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 小関 峰夫
大熊 雄治
発明の名称 多層化燃料管  
代理人 渡邉 一平  

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