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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q |
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管理番号 | 1293264 |
審判番号 | 不服2010-26862 |
総通号数 | 180 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-29 |
確定日 | 2014-11-05 |
事件の表示 | 特願2001- 20371「ビル改修受注用情報処理装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 9日出願公開、特開2002-222235〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成13年1月29日の出願であって,平成22年4月16日付けの拒絶理由の通知に対し,平成22年6月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成22年8月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成22年11月29日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成24年5月8日付けで審尋がなされ,これに対して平成24年8月21日に回答書が提出され,平成25年1月25日付けで当審において拒絶理由が通知され,これに対し平成25年4月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 2 本願発明 本願の請求項1ないし12に係る発明は,平成25年4月19日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 「ビル全体を新築同様の状態へと改修する全体新築化改修依頼の情報であって,前記ビル全体の規模を含むビル改修依頼情報が入力される改修依頼入力部と, 単位規模あたりの改修価格が固定された定価制改修価格基準を示す単位改修価格情報であって,ビル全体を新築するための標準全体新築費用と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修費用との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築価格より小さく設定されており,前記ビル全体の規模に応じた複数の単位改修価格情報が記憶される記憶部と, 前記改修依頼入力部より前記ビル改修依頼情報が入力され,前記ビル全体の規模に対応する前記単位改修価格情報を前記記憶部から読み出し,前記ビル全体の規模と前記単位規模あたりの改修価格とに基づいて改修価格を算出する改修価格算出部と, 前記改修価格を含む改修引受情報を出力する引受情報出力部と, を含み, 前記記憶部には,単位規模あたりの改修工期が固定された固定制改修工期基準を示す単位改修工期情報であって,ビル全体を新築するための標準全体新築工期と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修工期との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築工期より小さく設定されており,前記ビル全体の規模に応じた複数の単位改修工期情報が記憶され, さらに,前記改修依頼入力部より前記ビル改修依頼情報が入力され,前記ビル全体の規模に対応する前記単位改修工期情報を前記記憶部から読み出し,前記ビル全体の規模と前記単位規模あたりの改修工期とに基づいて改修工期を算出する改修工期算出部を含み,前記引受情報出力部は,前記改修工期を含む改修引受情報を出力すること を特徴とするビル改修受注用情報処理装置。」 3 引用例 (1)引用例1 ア 当審の拒絶の理由に引用された,特開平7-91083号公報(平成7年4月4日出願公開。以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明はデータ評価システム,特に複数の要因から決定されるデータ群を統計処理して所望のデータ値を得る装置に関する。 【0002】 【従来の技術】建物の企画や既設建物の評価を行うときには,資料に基づき推定で建築工事費の試算が必ず行われる。特に企画の時には,具体的な図面や仕様の決まらない段階でこの試算が行われる。そして,この試算により以後の事業予算の大枠が決定されてしまうことがあるので,正確な試算を行うことは極めて重要である。 【0003】建築工事費は延べ面積や施工場所などの複数の要因によって決定されるため,試算時にはこれらの要因を的確に把握し,過去のデータから試算を行う必要がある。・・・」 「【0010】・・・請求項2記載のデータ評価システムは,延べ面積を含む要因から決定される複数の建築物工事費データを統計処理して所望の延べ面積を含む所望の要因を有する建築物の工事費を評価するデータ評価システムであって,前記複数の建築物の建築物工事費データを記憶する記憶手段と,延べ面積及び前記延べ面積以外の要因を所定のグレードで区分化して前記記憶手段に記憶された建築物工事費データを分類する区分化手段と,所望の延べ面積を含む所望の要因を入力する入力手段と,入力された所望の延べ面積に該当する特定区分の単位面積当たりの工事費の重み付き平均値,及び入力された延べ面積以外の要因に該当する特定区分の単位面積当たりの工事費の重み付き平均値と前記全データの単位面積当たりの工事費の重み付き平均値との比率に基づき前記所望の延べ面積を含む所望の要因に対応する工事費を評価する演算手段とを有することを特徴とする。」 「【0019】・・・請求項2記載のデータ評価システムは,特に建築物の概算工事費を評価するものであり,延べ面積や施工場所等の複数の要因から決定される概算工事費を所望の建物について評価するシステムである。概算工事費は単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)に延べ面積を乗じれば算出されるが,このm^(2)当たり単価を評価する際に前述の統計処理が用いられる。この場合,基本要因は延べ面積であり,環境要因は延べ面積以外に工事費に影響を与える要因,例えば地下の有無,施工場所,設計者等である。」 「【0026】第1実施例 図1には本実施例におけるシステム構成が示されている。システムは建築物データが格納される記憶装置(データベース)10,オペレータが検索等のコマンドを入力するキーボード等の入力・操作装置12,入力・操作装置12から入力されたコマンドに従ってデータベース10にアクセスし検索等の処理を行う演算処理装置CPU14,CPU14における演算処理のプログラムを格納する補助記憶装置16,CPU14での処理結果を表示するCRT18,及びCPU14での処理結果を印刷するプリント出力装置(プリンタ)20を含んで構成される。・・・」 「【0027】母集団検索システムは,入力・操作装置12から入力された検索条件(例えば建物用途,躯体構造の種別,竣工年等)に該当する物件をデータベース10から検索するシステムである。また,基本尺度システム並びに環境尺度システムは,本発明における基本概念である基本尺度及並びに環境尺度を設定するシステムであり,基本尺度としては建物の延べ面積が設定され,環境尺度としては地下階,施工場所,注文者,契約方法,設計者などの項目が設定される。すなわち,建物の概算工事費を試算する場合,種々の要因から工事費が決定されるが,工事費に全般的な影響を与える基本的な要因は延べ面積であり,従って基本尺度としては延べ面積が採用される。・・・設定された基本尺度及び環境尺度で区分化された・・・検索小母集団の各区分における重み付き平均を算出する。シミュレーションシステムは基本尺度・環境尺度とを組み合わせて概算工事費を試算するシステムである。本システムを起動すると,検索システム,尺度システム,シミュレーションシステムの順に順次起動され,最終的な試算工事費が出力される構成である。」 「【0030】面積尺度は延べ面積の単位を持ち,小母集団のデータを延べ面積のグレードで区分化する。延べ面積のグレードはオペレータが適宜選択するようになっている。・・・これにより,小母集団内の全てのデータがいずれかの区分に分類される。・・・そして,小母集団の区分化が行われた後,各区分内に含まれるデータの延べ面積当たりの工事費(いわゆるm^(2)当たり単価)が重み付き平均により算出される(S203)。・・・」 「【0036】オペレータが概算工事費算出を希望する物件の面積尺度及び環境尺度の指定が終了した後,各尺度データを出力する(S403)。ここで,尺度データとは,面積尺度のグレードのうち指定されたグレードの重み付き平均の値,及び環境尺度のグレードのうち指定されたグレードの重み付き平均の値を意味しており,単位面積当たり単価であるからその単位は千円/m^(2)である。・・・ 【0037】尺度データを出力した後,これらの尺度データをシミュレーション画面に転送し(S404),さらに試算建物の延べ面積を入力した後(S405),シミュレーションを行う(S406)。このシミュレーションは,面積尺度データに,環境尺度データを合計の重み付き平均データで除算して得られる比率を乗ずることにより行われる。すなわち,面積尺度データと環境尺度の地下尺度データ比率とが乗じられて概算工事単価が算出され,さらに入力された延べ面積と乗じて推定工事費が算出される。また,同様にして面積尺度データと環境尺度の施工場所尺度データ比率とが乗じられ,さらに入力された延べ面積と乗じて推定工事費が算出される。以下,同様にして,面積尺度データと環境尺度の各尺度データ比率に基づき推定工事費が算出され,これらの推定工事費のうちの最大値が最終的な概算工事費として算出される。・・・」 イ 上記記載から,引用例1に記載された技術は,建物の企画や既設建物の評価に当たって,建築工事費の試算を行うデータ評価システムに係るものであり(【0001】,【0002】),建築工事費は延べ面積などの要因によって決定されることから(【0003】),複数の建築物の建築物工事費データを延べ面積などの要因に基づいてグレードで区分化し,各区分における単位面積当たりの工事費を求め,所望の延べ面積に該当する区分の単位面積当たりの工事費に基づいて概算工事費を評価するものである(【0010】,【0019】)。 具体的には,上記要因として延べ面積(面積尺度)に注目すれば,上記システムは,建築物データが格納される記憶装置(データベース)10,オペレータが検索等のコマンドを入力する入力・操作装置12,演算処理装置CPU14,補助記憶装置16,CRT18,及びプリント出力装置(プリンタ)20を含んで構成され(【0026】),データベース10に複数の建築物の建築物工事費データを記憶し,これを延べ面積のグレードで区分化し,各区分における単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)を算出し(【0027】,【0030】),オペレータが希望する物件(試算建物)の延べ面積を指定すると,当該物件に対応するグレードの単位面積当たりの工事費に物件の延べ面積を乗じることにより,概算工事費を算出し,出力するようにしたものである(【0036】)。 すなわち,引用例1には,次の発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されている。 「建物の企画や既設建物の評価に当たって,建築工事費の試算を行うデータ評価システムであって, 記憶装置(データベース),入力・操作装置,演算処理装置,補助記憶装置,CRT及びプリント出力装置を含んで構成され, データベースに複数の建築物の建築物工事費データを記憶し,これを延べ面積のグレードで区分化し,各区分における単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)を算出し, オペレータが希望する物件(試算建物)の延べ面積を指定すると,当該物件に対応するグレードの単位面積当たりの工事費に物件の延べ面積を乗じることにより,概算工事費を算出し,出力する, データ評価システム。」 (2)引用例2 ア 同じく引用された,特開平7-334578号公報(平成7年12月22日出願公開。以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 「【0001】・・・本発明は,建物の概要や工事の概要,稼働日数の計算基礎データ等を入力して着工日から竣工日までの標準工期を算出しネットワーク工程表を作成する標準工期ネットワーク工程表作成システムに関する。」 「【0012】・・・本発明の標準工期ネットワーク工程表作成システムでは,各工事の日数計算を行う計算式や計算に必要なパラメータを格納する計算テーブルと,該計算テーブルを参照し入力された建物の概要や工事の概要等から各工事の日数の計算を行う計算処理手段と,各工事の作図に関するデータを格納する作図テーブルと,該作図テーブルを参照し入力された建物の概要や工事の概要等及び計算された各工事の日数に基づき各工事の作図を所定の順に行う作図処理手段と,作図した情報を出力する出力手段とを備えたので,建物の概要や工事の概要等の入力により,自動的に着工日から竣工日までの標準工期を算出しネットワーク工程表を作成することができる。」 「【0024】まず,全体としては,図2に示すように基本データとして建物や工事の概要等の入力(ステップS1)の処理を行い,続けて工程表より稼働日数の計算基礎データ等の入力(ステップS2)の処理,ネットワーク作図(ステップS3)の処理を行う。・・・ 【0025】基本データ入力では,図3(a)に示すように先に説明したような面積や階数等,建物の概要を入力し(ステップS11),さらに山留め,杭,乗入構台,構造等,工事の概要を入力することによって(ステップS12),データ入力処理部13により基本データファイル21に基本データを格納し,しかる後,計算処理部14により計算テーブル18を参照して上記〔数1〕,〔数2〕を用いて各工事の日数計算を行う(ステップS13)。」 「【0027】そして,ネットワーク作図では,図4及び図5に示すように上記入力した基本データ等及び計算データを使って順に準備,山留め,杭工事,切梁,乗入構台,土工事,基礎工事,地下鉄骨,地下躯体,基礎地下期間,鉄骨工事,節毎の鉄骨建方,地上躯体,塔屋,躯体工事期間,外構,屋上外壁仕上げ,パラレル,地下仕上げ工事,仮設昇降設備,地上仕上げ工事,仕上げ案分,揚重設備,全工期日数,予備日数について作図条件を判断し,作図を行う(ステップS31?S67)。」 イ 上記記載から,引用例2には, 「面積や階数等の建物の概要や工事の概要等を入力することによって,各工事の日数計算を行い,入力した基本データ等及び計算データに基づいて,着工日から竣工日までの標準工期を算出し,全工期日数を含むネットワーク工程表を作成する,標準工期ネットワーク工程表作成システム。」 の発明(以下,「引用例2発明」という。)が記載されている。 4 対比 (1)本願発明と引用例1発明とを対比する。 ア 引用例1発明は,「建物の企画や既設建物の評価に当たって,建築工事費の試算を行うデータ評価システム」に係る技術であり,本願発明の「ビル改修受注用情報処理装置」と同様,「ビル工事」受注に係る情報を処理するための装置であるから,両者は「ビル工事受注用情報処理装置」である点で共通する。 イ 引用例1発明は,「入力・操作装置」を備え,「概算工事費を算出」するにあたり,「オペレータが希望する物件(試算建物)の延べ面積を指定する」ものであり,本願発明の「ビル全体の規模を含むビル改修依頼情報が入力される改修依頼入力部」とは,「ビル全体の規模を含むビル工事依頼情報が入力される工事依頼入力部」である点で共通する。 ウ 引用例1発明は,「記憶装置(データベース),入力・操作装置,演算処理装置,補助記憶装置,CRT及びプリント出力装置」を備え,「データベースに複数の建築物の建築物工事費データを記憶し,これを延べ面積のグレードで区分化し,各区分における単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)を算出」するものであり,ここで,「単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)」は,本願発明の表現を用いれば,「単位規模あたりの価格が固定された定価制価格基準」ということができるとともに,本願発明における,「単位規模あたりの改修価格が固定された定価制改修価格基準を示す単位改修価格情報であって,ビル全体を新築するための標準全体新築費用と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修費用との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築価格より小さく設定されており,ビル全体の規模に応じた複数の単位改修価格情報」に対応する「単位工事価格情報」ということができる。 また,引用例1発明が,上記算出された「単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)」を記憶する手段を備えることは,技術常識というべき事項である。 したがって,本願発明と引用例1発明とは,「単位規模あたりの工事価格が固定された定価制工事価格基準を示す単位工事価格情報であって,ビル全体の規模に応じた複数の単位工事価格情報が記憶される記憶部」を備える点で共通する。 エ 引用例1発明は,「オペレータが希望する物件(試算建物)の延べ面積を指定すると,当該物件に対応するグレードの単位面積当たりの工事費に物件の延べ面積を乗じることにより,概算工事費を算出し,出力する」ものであり,その作用から,本願発明における「改修依頼入力部よりビル改修依頼情報が入力され,ビル全体の規模に対応する単位改修価格情報を記憶部から読み出し,ビル全体の規模と単位規模あたりの改修価格とに基づいて改修価格を算出する改修価格算出部と,改修価格を含む改修引受情報を出力する引受情報出力部」と対応するものである。ここで,引用例1発明は,「記憶装置(データベース),入力・操作装置,演算処理装置,補助記憶装置,CRT及びプリント出力装置」を備え,これらの構成が,本願発明の「改修価格算出部」及び「工事価格を含む工事引受情報を出力する引受情報出力部」に相当する構成を含むことは,自明である。 したがって,本願発明と引用例1発明とは,「工事依頼入力部よりビル工事依頼情報が入力され,ビル全体の規模に対応する単位工事価格情報を記憶部から読み出し,ビル全体の規模と単位規模あたりの工事価格とに基づいて工事価格を算出する工事価格算出部と,工事価格を含む工事引受情報を出力する引受情報出力部」を備える点で共通する。 オ なお,「改修工期」は,改修に係る「工事工期」にほかならない。 (2)以上のことから,本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 [一致点] 「ビル全体の規模を含むビル工事依頼情報が入力される工事依頼入力部と, 単位規模あたりの工事価格が固定された定価制工事価格基準を示す単位工事価格情報であって, ビル全体の規模に応じた複数の単位工事価格情報が記憶される記憶部と, 工事依頼入力部よりビル工事依頼情報が入力され,ビル全体の規模に対応する単位工事価格情報を記憶部から読み出し,ビル全体の規模と単位規模あたりの工事価格とに基づいて工事価格を算出する工事価格算出部と,工事価格を含む情報を出力する情報出力部と,を含む ビル工事受注用情報処理装置。」 [相違点1] 本願発明は,「記憶部には,単位規模あたりの工事工期が固定された固定制工事工期基準を示す単位工事工期情報であって,ビル全体の規模に応じた複数の単位工事工期情報が記憶され,さらに,工事依頼入力部よりビル工事依頼情報が入力され,ビル全体の規模に対応する単位工事工期情報を記憶部から読み出し,ビル全体の規模と単位規模あたりの工事工期とに基づいて工事工期を算出する工事工期算出部を含」む点。 [相違点2] 「情報出力部」が,本願発明は,工事価格と「工事工期」を含む「引受情報」を出力する「引受情報出力部」であるのに対し,引用例1発明は,「情報出力部」である点。 [相違点3] 本願発明の「ビル工事受注用情報処理装置」は,「ビル全体を新築同様の状態へと改修する全体新築化改修依頼」,すなわち,ビルの「改修工事」を対象とした「ビル改修受注用情報処理装置」であって,「単位改修価格情報」が,「ビル全体を新築するための標準全体新築費用と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修費用との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築価格より小さく設定」された価格の情報であり,また,「単位改修工期情報」が,「ビル全体を新築するための標準全体新築工期と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修工期との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築工期より小さく設定」された工期の情報であるのに対し,引用例1発明の「ビル工事受注用情報処理装置」は,「建物の企画や既設建物の評価に当たって,建築工事費の試算を行うデータ評価システム」であり,ビルの「改修工事」を対象とすることは明示されておらず,したがって,「単位改修価格情報」及び「単位改修工期情報」について特定されていない点。 [相違点4] 本願発明は,「ビル工事依頼情報」,「工事依頼入力部」,「工事価格」,「定価制工事価格基準」,「単位工事価格情報」及び「工事価格算出部」が,それぞれ「ビル改修依頼情報」,「改修依頼入力部」,「改修価格」,「定価制改修価格基準」,「単位改修価格情報」及び「改修価格算出部」であり,また,「工事工期」,「固定制工事工期基準」,「単位工事工期情報」及び「工事工期算出部」が,それぞれ「改修工期」,「固定制改修工期基準」,「単位改修工期情報」及び「改修工期算出部」であるのに対し,引用例1発明は,前記各発明特定事項の名称に「改修」の用語が用いられていない点。 5 判断 (1)相違点1,2について ア 一般に,新築工事であるか改修工事であるかにかかわらず,「工事」が所定の「工期」を伴うことは技術常識であり,建築工事などにおける顧客との受注契約に当たり,「工事工期」を算出し提示することは,例えば,前記引用例2発明からも明らかなように,商慣習として一般に行われていることであり,引用例1発明における「建物の企画や既設建物の評価」において,概算工事費に加え「工事工期」についても算出し提示していることは,記載されているに等しい事項ということができる。 引用例2には,再掲すれば,「面積や階数等の建物の概要や工事の概要等を入力することによって,各工事の日数計算を行い,入力した基本データ等及び計算データに基づいて,着工日から竣工日までの標準工期を算出し,全工期日数を含むネットワーク工程表を作成する,標準工期ネットワーク工程表作成システム」の発明(引用例2発明)が記載されており,「面積や階数等の建物の概要」,すなわち「建物の規模」に基づいて工事工期を算出することが開示されている。 概算工事費の算出に当たり,「データベースに複数の建築物の建築物工事費データを記憶し,これを延べ面積のグレードで区分化し,各区分における単位面積当たりの工事費(m^(2)当たり単価)を算出し,オペレータが希望する物件(試算建物)の延べ面積を指定すると,当該物件に対応するグレードの単位面積当たりの工事費に物件の延べ面積を乗じることにより,概算工事費を算出」する構成を採用していることからすれば,上記「工事工期」を算出する場合においても,同様に,データベースに複数の建築物の建築物工期データを記憶し,これを延べ面積のグレードで区分化し,各区分における単位面積当たりの工期を算出し,オペレータが希望する物件の延べ面積を指定すると,当該物件の延べ面積と物件に対応するグレードの単位面積当たりの工期に基づいて,工事工期を算出」する構成とすること,すなわち,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 イ 引用例1発明は,「CRT及びプリント出力装置」を備え,「概算工事費を算出し,出力する」ものであることからすれば,上記算出された「工事工期」を含む,受注契約に係る「引受情報」を出力する構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。相違点2は,格別のことではない。 (2)相違点3について ア(ア)引用例1発明は,「建物の企画や既設建物の評価に当たって,建築工事費の試算を行うデータ評価システム」であって,試算対象として,既設建物の「改修工事」を排除するものではないことは明かである。 また,ビルの新築工事に限らず,「改修工事」においても,顧客との受注契約に当たり,顧客に概算工事費等を提示することは,例えば,特開平8-77233号公報(以下,「周知例」という。)に,従来から,住宅のリフォームにおいて,新築用のCAD積算システムを利用して見積の作成が行われていたことが記載されているように,通常の商慣習と認められる。 上記周知例には,次のとおり記載されている。 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、例えば、住宅のリフォーム時の住宅設計を行う際に利用可能な、建物リフォーム支援システムに関するものである。 【0002】【従来の技術】近年、消費者のニーズの多様化により住宅に対する要求も多種多様となってきている。・・・ 【0003】・・・住宅においては、地価高騰のために住宅のリフォームに人気がある。そこで、従来の新築用のCAD積算システムの図面作成機能や見積作成機能のみを一部利用してリフォームプランに対応しているのが一般的であった。」 (イ)一方,「改修工事」の目的やその改修内容は,当業者が適宜決定できる事項であり,「ビル全体を新築同様の状態へと改修する全体新築化改修」を工事の目的とすることは,任意である。 (ウ)これらのことから,引用例1発明の「データ評価システム」(ビル工事受注用情報処理装置)を,「ビル全体を新築同様の状態へと改修する全体新築化改修依頼」に用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。 イ(ア)本願発明の「単位改修価格情報」及び「単位改修工期情報」に関連して,本願明細書を参照すれば,改修価格に関し,「しかしながら,上記のようなビル全体の改修工事はこれまで行われていない。その主な理由の一つは,改修価格が高いと一般に考えられていることにある。・・・ビル改修価格も部分的な改修価格の集積であり,高額に達する。場合によってはビルを新築した方が安上がりにもなり得る。」(同,段落【0004】)と記載されている一方,「仮に,ビル全体の改修価格が容易かつ明確に予測できれば,より好ましくはその改修価格が低ければ,ビル全体の改修工事を普及させることができると考えられ,そうして,ビル全体を新築状態にできるなどの利点をより多くのビル保有者およびビル使用者に提供できると考えられる。」(本願明細書,【0005】)と記載されており,また,工期に関し「ビル全体の改修が行われないもう一つの主な理由は,工期が長いことにある。部分的な改修が順次行われる結果,工期が長くなり,下手をすると,ビルを新築した方が工期が短くなることもあり得る。」(同,【0006】)と記載されている一方,「仮に,ビル全体の改修工期が容易かつ明確に予測できれば,より好ましくはその改修工期が短ければ,ビル全体の改修工事を普及させることができると考えられ,そうして,ビル全体を新築状態にできるなどの利点をより多くのビル保有者およびビル使用者に提供できると考えられる。」(同,段落【0007】)と記載されている。 これらの記載からすれば,本願発明の相違点3に係る構成において,場合によっては,ビルを新築した方が改修より安上がりになり,また,工期が短くなる場合があり得るにもかかわらず,「単位改修価格情報」を,「ビル全体を新築するための標準全体新築費用と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修費用との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築価格より小さく設定」し,「単位改修工期情報」を,「ビル全体を新築するための標準全体新築工期と,既存ビル全体を新築同様の状態へと改修するための標準全体改修工期との割合に応じて,新築ビルの単位規模あたりの新築工期より小さく設定」した点は,専ら,ビル全体の改修工事の方が新築の場合よりメリットがあることを顧客に説明し,契約を円滑に進めるための商業上の都合によるものであり,これらを特定した点に格別の技術的意義は認められない。 (イ)ここで,「単位改修価格情報」や「単位改修工期情報」の設定に当たり,標準全体新築費用あるいは標準全体改修工期に対する「割合」を用いることが特定されているところ,概算工事費等を,所定の標準値に対する「割合」により算出する構成とすることは常とう手段である。 例えば,引用例1には,再掲すれば,「入力された所望の延べ面積に該当する特定区分の単位面積当たりの工事費の重み付き平均値,及び入力された延べ面積以外の要因に該当する特定区分の単位面積当たりの工事費の重み付き平均値と前記全データの単位面積当たりの工事費の重み付き平均値との比率に基づき前記所望の延べ面積を含む所望の要因に対応する工事費を評価する演算手段」(段落【0010】)と記載されており,「比率」に基づき所望の要因に対応する工事費を評価すること,すなわち,概算に当たり「割合」を用いることが記載されている。 また,例えば,特開8-123861号公報には,「【目的】建物の構造,用途等所定の建築情報を入力して所定の操作を行うのみで実勢金額に極めて近似した建築費用を算出し得る建築費用算出支援装置を提供する。【構成】入力装置2から用途,構造,施工場所等の建築情報を入力すると,コストグレード表6から用途及び構造別に分類した工事科目単価が抽出され,施工場所等の項目が建築費用へ与える影響度合いを数値化した要因係数が要因別係数表7から抽出され,さらに,特定の時期及び主要都市別に建築費用を指数化した建築指数が建築指数表8から抽出される。続いて,上記工事科目単価を上記建築指数で調整したのち,さらに上記要因係数で調整を行い,その上で当該調整後の工事科目単価を合計し,換算施工延床面積を乗じて建築費用が算出される。」(【要約】欄参照)と記載されており,概算に当たり「要因係数」,すなわち「割合」を用いることが記載されている。 (ウ)これらのことから,引用例1発明を「ビル全体を新築同様の状態へと改修する全体新築化改修依頼」に適用するにあたり,「工事価格」(改修価格)及び「工事工期」(改修工期)を,所定の標準値との「割合」に応じて,「新築ビルの単位規模あたりの新築価格より小さく設定」し,あるいは「新築ビルの単位規模あたりの新築工期より小さく設定」することは,当業者が適宜なし得る設計事項である。 ウ 以上のとおりであるから,相違点3に係る構成は,引用例1発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。 (3)相違点4について 上記(1),(2)のとおり,相違点1ないし3に係る構成が想到容易である以上,その結果得られた「ビル改修受注用情報処理装置」において,「ビル工事依頼情報」,「工事依頼入力部」,「工事価格」,「定価制工事価格基準」,「単位工事価格情報」,「工事価格算出部」,「工事工期」,「固定制工事工期基準」,「単位工事工期情報」,「工事工期算出部」などを,その目的ないし用途に対応して,「ビル改修依頼情報」,「改修依頼入力部」,「改修価格」,「定価制改修価格基準」,「単位改修価格情報」,「改修価格算出部」,「改修工期」,「固定制改修工期基準」,「単位改修工期情報」,「改修工期算出部」などと呼称することは任意であり,その技術的意義に影響しない。 相違点4は,格別のことではない。 そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用例1発明,引用例2発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものということはできない。 したがって,本願発明は,引用例1発明,引用例2発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例1,引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-30 |
結審通知日 | 2013-11-26 |
審決日 | 2013-12-09 |
出願番号 | 特願2001-20371(P2001-20371) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 篠原 功一 |
特許庁審判長 |
西山 昇 |
特許庁審判官 |
手島 聖治 清田 健一 |
発明の名称 | ビル改修受注用情報処理装置および方法 |
代理人 | 田中 玲子 |
代理人 | 森田 耕司 |