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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1293384
審判番号 不服2013-17039  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-04 
確定日 2014-10-30 
事件の表示 特願2008- 44846「環境制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月10日出願公開、特開2009-204188〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年2月26日の出願であって、平成24年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月17日に意見書が提出され、同年12月27日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月11日に意見書が提出され、同年5月30日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年9月4日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月28日に意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1乃至3に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
それぞれに利用者が存在する複数の対象空間の環境を整える1乃至複数種類の環境調整機器と、各種類毎に複数の環境調整機器の動作状態を個別に制御する1乃至複数種類の環境制御装置と、環境調整機器が環境を整えるために消費する電力量を監視し、全ての対象空間で消費される電力量の合計が所定値を超えると予測される場合に少なくとも何れか1台の環境制御装置に対して消費電力量を減らすように環境調整機器を制御させるデマンド制御装置と、前記対象空間に存在する利用者が入力する当該対象空間の環境に対する要望情報を受け付ける入力装置と、入力装置で受け付けた要望情報を各対象空間毎に解析して環境の変更を要望する度合を求める解析装置とを備え、
デマンド制御装置は、システム全体で許容されている総電力量を、解析装置から取得する前記度合に応じて按分するとともに、当該按分結果から決定する各対象空間毎の許容電力量を超えないように各環境制御装置に環境調整機器を制御させることを特徴とする環境制御システム。
【請求項2】
対象空間の温度環境を整える空調機器、並びに対象空間の照明環境を整える照明機器の少なくとも2種類の前記環境調整機器を備え、
解析装置は、温度環境の変更を要望する度合と、照明環境の変更を要望する度合とを個別に求め、
デマンド制御装置は、解析装置から取得する解析結果に基づき、温度環境と照明環境のうちで前記度合が相対的に高い方の環境を整える環境調整機器を優先的に環境制御装置に制御させることを特徴とする請求項1記載の環境制御システム。
【請求項3】
前記対象空間に外部から光を取り込むための開口部が設けられており、デマンド制御装置は、当該外部の明るさを検出する明るさ検出手段を有し、明るさ検出手段で検出する明るさが所定の基準値以下であるときには、環境制御装置によって優先的に制御させる環境調整機器として照明機器を選択しないことを特徴とする請求項2記載の環境制御システム。」


第3 当審拒絶理由
当審で通知した拒絶理由は、
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
とするものであり、上記1、2の点を満たしていない理由として下記の事項が記載されている。

「請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとの対応が不明瞭であり、主に以下の点において発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、この出願の発明の詳細な説明は、主に以下の点において当業者が請求項1?3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1に記載の「入力装置で受け付けた要望情報を各対象空間毎に解析して環境の変更を要望する度合を求める解析装置」における「環境の変更を要望する度合」は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)請求項1に記載の「デマンド制御装置は,システム全体で許容されている総電力量を、解析装置から取得する前記度合に応じて按分するとともに、当該按分結果から決定する各対象空間毎の許容電力量を超えないように各環境制御装置に環境調整機器を制御させること」に関して、発明の詳細な説明では、「動作可能目標設定算出部72は、電力量按分処理部71で按分された各フロアF1?F4毎の電力量を超えない範囲で各フロアF1?F4の空調機器1に設定可能な目標温度(冷房運転時は最低温度、暖房運転時は最高温度)と照明機器2に設定可能な目標照度(最大照度)を算出する。」(段落0031)、及び「具体的な算出方法としては,例えば,シミュレーションによって利用可能電力量の範囲内で設定し得る空調機器1並びに照明機器2の設定条件(目標温度並びに目標照度の範囲)を決定し,さらに,当該設定条件を満足し且つ各フロアF1?F4毎の要望率の度合に従って,建物全体で変更したい平均温度から各フロアF1?F4毎の変更温度を算出すればよい。」(段落0035)と記載されている。そして、上記2か所の記載内容が整合していないことから、デマンド制御装置はどのように制御されるものであるのか明確かつ十分に記載されていない。また,後者の記載については、そもそも「要望率の度合」、「建物全体で変更したい平均温度」といった用語の意味内容が不明であり、相互の関係も不明であることから、結局、どのように算出するものであるのか明確かつ十分に記載されていない。
(3)請求項1?3に係る発明についての実施の形態として、明細書には,「さらに不満判断部61は,決定した合意内容、すなわち,『温度を上げてほしい』又は『温度を下げてほしい』という温度に関する要望、並びに『照明を明るくしてほしい』又は『照明を暗くしてほしい』という照明に関する要望の要望率並びに要望数、各要望を申告した利用者の数を各フロアF1?F4毎の不満情報としてデマンド制御装置7に伝送する。」(段落0030)と記載されているが,「要望の要望率」、「要望数」、「各要望を申告した利用者の数」といった値はどのように抽出ないし算出されるものであるのか明確に記載されていないので、これらの技術的意味が不明瞭であり、図9に記載の「申告数」,「申告者数×時間数」,「要望率」といった値との整合性についても明らかでない。特に、「合意内容」と「要望の要望率」との関連性が不明であり、「要望の要望率」の技術的意味が不明瞭である。
(4)請求項1?3に係る発明についての実施の形態として、明細書には、「不満判断部61が既に説明した合意形成ロジックによって温度及び照明に関する要望の要望率並びに要望数、各要望を申告した利用者数を含む不満情報を抽出する(ステップs2)。」(段落0033)と記載されているが、上記(3)と同様に、合意形成ロジックによって導かれる「合意内容」と「要望の要望率」との関連性が不明であり、「要望の要望率」の技術的意味が不明瞭である。
(5)請求項1?3に係る発明についての実施の形態として,明細書段落0034や図9に記載されているフロアごとの利用可能電力量がどのように算出されるのか具体的に記載されておらず、特に、「申告数」、「申告者数×時間数」、「要望率」といった値がどのように抽出ないし算出されるものであるのか明確に記載されていないので、これらの技術的意味が不明瞭である。
よって、請求項1?3に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」


第4 当審の判断

1 特許法第36条第6項第1号に関して(上記「第3 当審拒絶理由(1)」の指摘事項について)
請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において「本願の請求項1における「環境の変更を要望する度合」とは、本願明細書の段落0027?段落0030及び図5、図6に記載されていますように、「要望率の割合」を意味しております。従いまして、請求項1に係る発明の「環境の変更を要望する割合」は、出願当初の本願明細書における発明の詳細な説明に記載されております。」と主張する。
しかし、明細書の段落0027?段落0030及び図5、図6には、各フロアF1?F4の各フロアの合意内容を決定するために、各フロアの「要望率」を算出することは記載されているが、「要望率の割合」に関しては、「この図5(b)の解析用情報を用いて、不満判断部61は、「温度を上げたい」及び「温度を下げたい」の相反する申告情報の利用者総数に対する要望率を演算するとともに、その要望率の割合(変更を要望する度合)を求める処理を行う。」(段落0027)と記載されているのみで有り、「要望率の割合(変更を要望する度合)」を具体的にどのようにして求めるかについての説明はなく、実質的に、「要望率の割合(変更を要望する度合)」は記載されていない。

したがって、請求項1中の「環境の変更を要望する度合」は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

2 特許法第36条第4項第1号に関して
(1)「第3 当審拒絶理由(2)」の指摘事項について、請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において「出願当初の本願明細書の段落0035の「当該設定条件を満足し且つ各フロアF1?F4毎の要望率の度合に従って、建物全体で変更したい平均温度から各フロアF1?F4毎の変更温度を算出すればよい。」とは、消費電力を削減するため、建物全体で現在の設定温度から下げる(暖房の場合)又は上げる(冷房の場合)温度(各フロアF1?F4で異なるときは各フロアF1?F4毎の温度の平均値)を、各フロアF1?F4毎の要望率の度合に応じて按分した温度が「各フロアF1?F4毎の変更温度」であり、例えば、「平均温度」がプラス3℃である場合、各フロアF1?F4毎の要望率の度合が1:2:1:1であれば、各フロアF1?F4毎の変更温度は、それぞれ3℃×1/5=+0.6℃、3℃×2/5=+1.2℃、+0.6℃、+0.6℃となります。なお、上述のような事項は、当業者には自明な事項であると思料致します。」と主張する。
しかし、当審拒絶理由においても指摘したように、そもそも「建物全体で変更したい平均温度」といった用語の意味内容が不明であり、「各フロアF1?F4で異なるときは各フロアF1?F4毎の温度の平均値」と解する根拠もなく、自明であるともいえない。また、「具体的な算出方法としては,例えば,シミュレーションによって利用可能電力量の範囲内で設定し得る空調機器1並びに照明機器2の設定条件(目標温度並びに目標照度の範囲)を決定し,さらに,当該設定条件を満足し且つ各フロアF1?F4毎の要望率の度合に従って,建物全体で変更したい平均温度から各フロアF1?F4毎の変更温度を算出すればよい。」(段落0035)とは、設定条件や変更温度の技術的意義が不明であり、さらに、前記記載と,「動作可能目標設定算出部72は,電力量按分処理部71で按分された各フロアF1?F4毎の電力量を超えない範囲で各フロアF1?F4の空調機器1に設定可能な目標温度(冷房運転時は最低温度,暖房運転時は最高温度)と照明機器2に設定可能な目標照度(最大照度)を算出する。」(段落0031)との記載がどのように整合しているのかが不明であり、請求項1?3に係る発明の実施の形態である各環境制御装置で環境調整機器をどのように制御しているのか不明確である。
したがって、請求項1中の「デマンド制御装置は,システム全体で許容されている総電力量を,解析装置から取得する前記度合に応じて按分するとともに,当該按分結果から決定する各対象空間毎の許容電力量を超えないように各環境制御装置に環境調整機器を制御させること」に関して、発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)「第3 当審拒絶理由(3)」の指摘事項について、請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において「「要望数」や「各要望を申告した利用者の数」については、申告情報取得部60が入力装置5から受け取った利用者の申告に基づいて抽出あるいは算出可能です。」と主張するが、「要望数」や「各要望を申告した利用者の数」は、例えば、図5の例において、ある時刻での数であるのか、ある一定時間の延べ数であるのか等明確でなく、技術的意義が不明確である。
また、請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において「「申告数」は「要望数」と同義であり、「申告者数×時間数」は「各要望を申告した利用者の数」、すなわち、1時間を1単位としたとき、2時間の間に3人の利用者が申告(要望)した場合、3人×2=6というように算出できます。」と主張しているが、そもそも、上記のとおり「要望数」が不明確であるから「申告数」も不明確であり、「各要望を申告した利用者の数」として、時間単位を掛けたものを用いている技術的意義が不明であり、「申告者数×時間数」として求められるものも不明である。
したがって、図9の例において、「申告数」及び「申告者数×時間数」から求められる「要望率」の算出手法が不明確であり、「要望率」の技術的意味が不明瞭である。

(3)「第3 当審拒絶理由(4)、(5)」の指摘事項について、請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において「「要望の要望率」は「合意内容」そのものではなく、出願当初の本願明細書の段落0028?段落0030及び図6に記載されていますように、「要望率の割合」から「合意内容」、例えば、温度を上げる、あるいは温度を下げることが決定されます。
従いまして、本願の請求項1に記載の「要望の要望率」の技術的意味、「合意内容」と「要望の要望率」と関連性などは、いずれも出願当初の本願明細書に明確に記載されているものと思料致します。」と主張している。
しかし、請求人が主張するとおり「合意内容」が温度を上げる、あるいは温度を下げることであるとしても、段落0029及び図6には「変更無し」との合意内容が記載されており、その際の「要望の要望率」は、どのように定義されるものであるのか明確でなく、請求人の主張は採用できない。

(4)したがって、「要望の要望率」、「要望数」、「各要望を申告した利用者の数」といった値はどのように抽出ないし算出されるものであるのか明確に記載されていないので,これらの技術的意味が不明瞭であり,前記のとおり図9の例における「要望率」も不明確であるから、段落0030における「要望の要望率」と図9の例における「要望率」との整合性が明らかでなく、「要望の要望率」の技術的意味が不明瞭であり、請求項1?3に係る発明の実施の形態である「要望の要望率」、「要望数」、「各要望を申告した利用者の数」から求める請求項1中の「デマンド制御装置は,システム全体で許容されている総電力量を,解析装置から取得する前記度合に応じて按分するとともに,当該按分結果から決定する各対象空間毎の許容電力量を超えないように各環境制御装置に環境調整機器を制御させること」に関して、発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(5)小括
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

第5 むすび
以上のとおりであり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないから拒絶されるべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-29 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2008-44846(P2008-44846)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F24F)
P 1 8・ 536- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 佐々木 正章
山崎 勝司
発明の名称 環境制御システム  
代理人 坂口 武  
代理人 北出 英敏  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 西川 惠清  

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