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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66C
管理番号 1293391
審判番号 不服2013-25061  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-20 
確定日 2014-10-30 
事件の表示 特願2009- 81165「クレーンの荷重演算装置及びクレーン」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日出願公開、特開2010-228900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成21年3月30日の出願であって、平成25年6月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年7月29日に意見書が提出されたが、平成25年9月27日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成25年12月20日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、明細書及び特許請求の範囲についての手続補正書が提出され、平成26年1月28日に手続補正書(方式)が提出され、その後、平成26年6月4日に上申書が提出されたものである。

第2 平成25年12月20日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成25年12月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成25年12月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付された)下記の(a)に示す請求項1ないし5を下記の(b)に示す請求項1ないし5と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5

「【請求項1】
フックを吊るワイヤと前記ワイヤを掛けるシーブとを備えるクレーンの荷重演算装置であって、
前記ワイヤに作用する荷重を検出する荷重検出器と、検出された荷重を前記シーブの回転方向に基づいて補正する荷重補正手段と、を備えることを特徴とするクレーンの荷重演算装置。
【請求項2】
前記荷重補正手段は、ジブ又はブームの少なくともいずれか一方の姿勢変化に基づくワイヤ長さの幾何学変化量と、前記ワイヤを巻くウインチドラムの回転によるワイヤ長さの回転変化量と、を比較して前記シーブの回転方向を判定することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの荷重演算装置。
【請求項3】
前記シーブには回転方向検出器が取付けられており、前記荷重補正手段は前記回転方向検出器によって前記シーブの回転方向を検出することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの荷重演算装置。
【請求項4】
前記荷重補正手段は、前記シーブが正転している間に検出した荷重と逆転している間に検出した荷重の平均値によって、補正された前記荷重をさらに補正することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のクレーンの荷重演算装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のクレーンの荷重演算装置を備えることを特徴とするクレーン。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5

「【請求項1】
フックを吊るワイヤと前記ワイヤを掛けるシーブとを備えるクレーンの荷重演算装置であって、
前記ワイヤに作用する荷重を検出する荷重検出器と、検出された荷重を前記シーブの回転方向と、あらかじめ設定しておいた前記シーブの回転に伴う摩擦力とを用いて補正する荷重補正手段と、を備えることを特徴とするクレーンの荷重演算装置。
【請求項2】
前記荷重補正手段は、ジブ又はブームの少なくともいずれか一方の姿勢変化に基づくワイヤ長さの幾何学変化量と、前記ワイヤを巻くウインチドラムの回転によるワイヤ長さの回転変化量と、を比較して前記シーブの回転方向を判定することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの荷重演算装置。
【請求項3】
前記シーブには回転方向検出器が取付けられており、前記荷重補正手段は前記回転方向検出器によって前記シーブの回転方向を検出することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの荷重演算装置。
【請求項4】
前記荷重補正手段は、前記シーブが正転している間に検出した荷重と逆転している間に検出した荷重の平均値によって、補正された前記荷重をさらに補正することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のクレーンの荷重演算装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のクレーンの荷重演算装置を備えることを特徴とするクレーン。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正後の請求項1は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「検出された荷重を前記シーブの回転方向に基づいて補正する荷重補正手段」の記載を、「検出された荷重を前記シーブの回転方向と、あらかじめ設定しておいた前記シーブの回転に伴う摩擦力とを用いて補正する荷重補正手段」とするものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「荷重補正手段」の補正の内容について、「あらかじめ設定しておいた」「シーブの回転に伴う摩擦力とを用いて補正する」ことを追加して限定したものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2008-81264号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(審決注:「1.刊行物」において、下線は、理解の一助とするために当審で付したものである。)

a)「【0019】
図1に、本発明を実施するための最良の形態に係るラフィングジブの吊り荷重検出装置を搭載したオールテレーンクレーン50を示す。オールテレーンクレーン50はアウトリガ51を張出した車両部52に旋回台53を旋回自在に搭載している。・・・後略・・・」(段落【0019】)

b)「【0023】
75は前記旋回台53後部に配置された吊り荷用ウインチ74から繰出された吊り荷用ロープである。吊り荷用ロープ75は、前記第2マスト62、第1マスト61を経由して前記先端分割ジブ60先端に配置された2個のラフィングジブ本体先端ガイドシーブ76から吊下され、その先端が吊り荷用フック77に連結される。なお、図1には1本吊り用フック77が示されているが、吊り荷用フック77はシーブを内蔵する多数本掛けのものでもよくその場合は、前記吊り荷用ロープ75先端部は前記先端分割ジブ60先端部又は吊り荷用フック77に連結される。すなわち、ロープ掛け数は偶数でも奇数でも選択可能である。
【0024】
80は前記第1マスト61に配置された前記吊り荷用ロープ75をガイドする第1マストガイドシーブである。また、81は前記第2マスト62に配置された前記吊り荷用ロープ75をガイドする第2マストガイドシーブである。
【0025】
図2は図1に示した第1マスト61と第2マスト62の周辺を拡大して示したものである。第1マストガイドシーブ80によってガイドされる吊り荷用ロープ75の第1マスト61よりもジブ先端側部分75aとジブ基端側部分75bとによって形成される角度θは伸縮ブーム54の起伏角度に関係なく一定である。また、第1マストガイドシーブ80部分の吊り荷用ロープ75の角度θは、ラフィングジブ本体57の伸縮ブーム54に対する起伏角度に関係なく一定である。このことから、吊り荷用ロープ75によって第1マストガイドシーブ80に作用する力は、伸縮ブーム54起伏角度及びラフィングジブ本体57起伏角度に関係なく一定であることが判る。したがって、本願発明に係るラフィングジブの吊り荷重検出装置は、第1マストガイドシーブ80に作用する力を検出するようにしたので、吊り荷重の演算にあたってブーム54起伏角度もラフィングジブ起伏角度も用いる必要がないため、吊り荷重の演算が簡単になるのである。
【0026】
図3は図2のA矢視詳細図である。また、図4は図3のB-B断面詳細図である。さらに図5は図3のC-C断面詳細図である。以降は、図3から図5によって、第1マストガイドシーブ80に作用する力を検出するガイドシーブ作用力検出手段を説明する。図3に示すように第1マスト61は2本のマスト部材82aと82bがほぼ左右平行に配置されその先端部が先端部材83によって連結されて構成されている。
【0027】
図4に示す84は第1マストガイドシーブ80を回転自在に支持するシーブ支持サポートである。シーブ支持サポート84は第1マストガイドシーブ80を中心に接近して配置された2枚の縦長形状のプレートが組み合わされて構成されている。シーブ支持サポート84の中央部はピン85が貫通して配置されており、当該ピン85が第1ガイドシーブ80の支持軸となっている。図4に示すようにシーブ支持サポート84の片側の面には4個のローラ86が上下及び左右に対称となる位置にそれぞれ回転自在に配置されている。また、シーブ支持サポート84にはローラ86のさらに上方及び下方に2個のスライドプレート87が配置されている。図3に示されたように、上記ローラ86とスライドプレート87は、第1マストガイドシーブ80を中心として対称となるようスライドシーブ支持サポート84の反対側の面にも同様に配置されている。
【0028】
図4に示すようにスライドシーブ支持サポート84はその上部で、ロードセル88とピン89によって連結されている。ロードセル88は前記第1マスト61の先端部材83に対してピン90、クロスジョイント91及びピン92を介して連結されている。このように連結されることで、ロードセル88はシーブ支持サポート84と第1マスト61との間に介装され第1マストガイドシーブ80に作用する力を検出する。・・・後略・・・」(段落【0023】ないし【0028】)

c)「【0030】
上述したガイドシーブ作用力検出手段による検出は以下のようになされる。図1に示したようにラフィングジブ本体57先端に吊下した吊り荷95の荷重Wによって吊り荷用ロープ75には張力Tが発生する。その時の第1マストガイドシーブ80付近でも図4に示すように、ジブ先端側75a及びジブ基端側75bに向かって吊り荷用ロープ75には張力Tが発生している。ジブ先端側吊り荷用ロープ75aと第1ガイドシーブ80のスライド軸94とのなす角度をθ1、ジブ基端側吊り荷用ロープ75bと第1ガイドシーブ80のスライド軸94とのなす角度をθ2とし、第1マストガイドシーブ80に作用する力をFとすると以下の関係が成立する。
F=TCOSθ1+TCOSθ2
したがって、張力Tは上記作用力Fが測定されると以下の式により求めることができる。
T=F/(COSθ1+COSθ2)
なお、吊り荷用ロープ75がシーブを経由する際のシーブ効率を考慮するとより精度良く張力を求めることができる。」(段落【0030】)

d)「【0032】
図7は本願発明の実施の形態に係るラフィングジブの吊り荷重検出装置のブロック図を示したものである。100はガイドシーブ作用力検出手段であって、第1マストガイドシーブに作用する力を検出するものであり、具体的には既述のロードセル88が該当する。101はジブ本体長さ検出手段であって、前記ラフィングジブ本体59の長さを検出するものである。なお、ジブ本体長さ検出手段101に代えてラフィングジブ本体長さを手動入力するジブ本体長さ入力手段としてもよい。102は吊り荷重演算手段であって、その内部にはロープ張力演算部103と吊り荷重演算部104とを備えている。ロープ張力演算部103には前記ガイドシーブ作用力検出手段100からガイドシーブ作用力Fの信号が入力され、前記ジブ本体長さ検出手段101からはラフィングジブ本体長さ信号が入力される。ロープ張力演算部103は、既述したロープ張力Tとガイドシーブ作用力Fとの関係に基づきロープ張力Tを演算する。
【0033】
105はロープ掛け数検出手段であって、吊り荷用フック77のロープ掛け数を検出するものである。なお、ロープ掛け数検出手段105に代えてロープ掛け数を手動入力するロープ掛け数入力手段としてもよい。吊り荷重演算部104には前記ロープ張力演算部103からロープ張力信号が入力され、前記ロープ掛け数検出手段105からロープ掛け数信号が入力される。吊り荷重演算部104は両信号から吊り荷重Wを演算し、演算された吊り荷重Wの信号はオールテレーンクレーン50に備えられた過負荷防止装置本体106に入力され、過負荷防止制御に使用される。」(段落【0032】及び【0033】)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)a)及びb)並びに図1ないし5の記載によれば、オールテレーンクレーン50は、吊り荷用フック77を吊る吊り荷用ロープ75と吊り荷用ロープ75を掛けるシーブとを備えることが分かる。

ロ)上記(1)b)の「80は前記第1マスト61に配置された前記吊り荷用ロープ75をガイドする第1マストガイドシーブである。」、「したがって、本願発明に係るラフィングジブの吊り荷重検出装置は、第1マストガイドシーブ80に作用する力を検出するようにした」及び「ロードセル88はシーブ支持サポート84と第1マスト61との間に介装され第1マストガイドシーブ80に作用する力を検出する。」の記載、並びに、上記(1)c)及びd)の記載によれば、オールテレーンクレーン50の吊り荷重検出装置は、吊り荷用ロープ75に作用する荷重を検出するロードセル88を備えることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「吊り荷用フック77を吊る吊り荷用ロープ75と吊り荷用ロープ75を掛けるシーブとを備えるオールテレーンクレーン50の吊り荷重検出装置であって、
吊り荷用ロープ75に作用する荷重を検出するロードセル88を備えるオールテレーンクレーン50の吊り荷重検出装置。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2006-327815号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0018】
この様なクレーンの場合、起伏ロープ張力は、図9に示す通り、荷重検出器12を組み込んだガントリシーブ(起伏ロープ先端33aを起伏ウインチ34に導く際、その屈曲部に介在するシーブ)に作用する力として検出される。そして、これに張力検出用シーブ50a,51aの起伏ロープ掛数と、下部スプレッダ32全シーブ32a,50a,51aの起伏ロープ掛数の比から定まるロードファクターを考慮して、起伏ロープ張力を演算している。
【0019】
即ち、図8に示したワイヤリング構成例においては、荷重検出器用シーブ50a,51aの掛数6回に対し下部スプレッダ32の全シーブへの起伏ロープ掛数は18回であるから、ロードファクターは6/18=0.333ということになる。従って、起伏ロープ33に掛かっている荷重は、荷重検出器12の検出した張力を、このロードファクター0.333で除した値として演算される。
【0020】
この場合、同一のブーム角度で同一の吊荷を吊っていても、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくる。即ち、同一のブーム角度で同一の吊荷を吊った場合、図7に示すガイケーブル37には、ブーム巻上時とブーム巻下時とも同一の張力が発生する。しかしながら、起伏ロープ33に作用する張力は、前述したシーブ効率によりブーム巻上時の作用力より、ブーム巻下時の作用力の方が大きくなるのである。
【0021】
このため、吊荷重演算用のデータを、巻上用吊荷重データと巻下用吊荷重データとで切り替えて正確な吊荷重計算を行う必要があり、この場合、当該クレーンが、ブーム巻上側とブーム巻下側の何れの状態にあるかは、起伏レバーの操作状態を検出している。
【特許文献1】特開平8-59187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記従来例に係る移動式クレーンの過負荷防止装置における荷重演算方法およびその過負荷防止装置においては、起伏ロープに作用する張力状態と、起伏レバー操作の状態とが一致している場合は問題ないが、前記両者が一致していない場合は演算された荷重計算結果に誤差が生じる。
【0023】
前者は、起伏レバー操作をしてから充分時間が経過した時が該当し、後者は、起伏レバー操作後、ガントリシーブや上部スプレッダが動き始め定常状態になるまでの間や、起伏レバーを瞬間操作して、シーブが動き始めるか否かの内にこの起伏レバーを戻したときが該当する。
【0024】
例えば、起伏レバーを巻上方向に操作して充分時間が経過したときは、ガントリシーブや上部スプレッダのシーブ効率はブーム巻上側になっているため、起伏ロープの張力はブーム巻上側のものとなり、起伏レバー操作の状態と一致しているため問題は起こらない。
【0025】
ところが、ブーム巻上にて起伏停止後、起伏レバーを巻き下げ方向に瞬間操作したときは、起伏ウインチは巻き下げ方向に若干回転する(回転しかかる)ものの、ガントリシーブや上部スプレッダは充分回転しないため、これらのシーブ効率はブーム巻上側のままで、起伏ロープ張力もブーム巻上側のものとなる。
【0026】
しかし、起伏レバー操作がブーム巻下側のため、過負荷防止装置は前記起伏ロープ張力をブーム巻下側方向のものと判断する。結果として、同一のブーム角度で同一の荷重を吊っていても、ブーム巻下側の作用力の方がブーム巻上側の作用力より大きいため、計算される荷重は小さくなる。同様に、起伏レバー操作がブーム巻下側にて停止の後、起伏レバーを巻上方向に瞬間操作したときは、計算される吊荷重は大きくなり、何れも誤差を生ずる結果となる。
【0027】
従って、本発明の目的とする所は、起伏ロープの張力を検出し、起伏レバー操作位置により、予め記憶させた巻上用吊荷重データと巻下用吊荷重データとを切り替えて荷重計算する移動式クレーンの過負荷防止装置における吊荷重演算方法およびその過負荷防止装置において、シーブ効率の影響により起伏レバー操作と起伏ロープの動きが一致しない場合でも、前記起伏ロープ張力の作用方向を実際と一致させた吊荷重を演算する方法および装置を提供することにある。」(段落【0018】ないし【0027】)

b)「【0039】
次に、本発明の形態1に係る移動式クレーンの過負荷防止装置における吊荷重演算方法およびその過負荷防止装置について、その信号構成を示す図1およびフローチャートを示す図2を用いて以下に説明する。
先ず、図1の信号構成図について、従来のクローラクレーンの側面図である図7も用いながら説明する。符号1は過負荷防止装置であって、設定装置2、表示装置3、警報装置4、演算装置5を内蔵して構成されている。
【0040】
そして、この過負荷防止装置1へ入力される入力信号10は、ブーム36に取り付けられてブーム36の水平面からの傾斜角度を検出するブーム角検出器11により検出されるブーム角度信号11a、下部スプレッダ32に設置された荷重検出器12により検出される起伏ロープ荷重信号12a、フック41およびブーム36に設置されたリミットスイッチ13により検出されるリミットスイッチ信号13a、起伏操作レバー位置検出手段14により検出される起伏レバー操作位置信号14a、起伏ロープ動作判別手段15により検出される起伏ロープ動作信号15aの5種類から成る。
【0041】
上記入力信号10に関して更に補足すると、リミットスイッチ信号13aは、フック41やブーム36に設置されたリミットスイッチ13により、フック過巻上やブーム過巻上を検出する信号である。
【0042】
前記起伏レバー操作位置信号14aは、前記レバー操作位置が巻上、巻下、停止の何れの位置になっているかを検出する起伏レバー位置検出手段14によって検出される信号である。前記起伏レバー位置検出手段14は、近接スイッチやリミットスイッチにより、レバーが巻上、巻下、停止の位置に操作されたとき、その位置を検出して信号を送信するよう配置されて成る。
【0043】
また、起伏ロープ動作信号15aは、荷重検出器12近傍の起伏ロープ33の動きが、巻上、巻下、停止の何れの方向になっているかを検出する起伏ロープ動作判別手段15によって検出される信号である。前記起伏ロープ動作判別手段15の具体例としては、起伏ロープ移動方向検出器15bや、後述する本発明に係る形態2で説明する起伏シーブ回転方向検出器16を挙げることができる。
【0044】
前記起伏ロープ移動方向検出器15bは、例えば、近接スイッチが感知可能なマーカを当該ロープ33長手方向に複数個所取り付けておき、これを近接スイッチにて検出させる構成や、当該ロープ33に接触させた回転体の回転方向を、例えばエンコーダによって検出する構成等によって成る。これらの起伏ロープ移動方向検出器15bによって、起伏ロープ33が巻上、巻下、停止の何れの状態にあるかを検出し、起伏ロープ動作信号15aとして過負荷防止装置1に送信するように構成されて成る。
【0045】
そして、この過負荷防止装置1の演算装置5は、前記起伏レバーの記憶されている操作停止直前の位置信号および現時点の位置信号14aと、前記起伏ロープ動作判別手段からの信号15aとに基づいて、後述するフローチャートに基づく演算方法によって、予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択し、これに基づいて吊荷重を演算する吊荷重演算手段を備えて成るのである。
【0046】
そして、上記吊荷重の演算の結果、過負荷防止装置1からは、制御信号Xと警報信号Yから成る出力信号20が出力される。この制御信号Xは、演算の結果算出された吊荷重が、作業半径に対応して予め設定された定格荷重に達した時に、過負荷防止装置1を働かせ、通常、吊荷巻上、ブーム巻下という危険側のクレーン動作を停止させるような制御を指令する信号である。また、警報信号Yは、算出した前記吊荷重が定格吊荷重を上回るような場合、警告器に報知指令を出すような出力信号である。
【0047】
次に、本発明の形態1に係る移動式クレーンの過負荷防止装置1が内蔵する演算装置5における吊荷重演算方法を、そのフローチャートである図2を用いて以下に説明する。
先ず、演算開始とともに、起伏レバーの操作停止直前の状態が、巻上側か巻下側かをステップS1「停止直前レバー状態」で確認する。そして、この起伏レバーの操作停止直前の状態が巻上状態にあった場合は演算Aの演算を、また前記起伏レバーの操作停止直前の状態が巻下状態にあった場合は演算Bの演算を選択する。
【0048】
先ず、起伏レバーの操作停止直前の状態が巻上状態にあった場合の、演算Aの吊荷重演算方法について以下説明する。次ステップS2「起伏レバー操作位置」において、起伏レバーの現在の操作状況が巻上側か巻下側か停止かを、入力信号である起伏レバー操作位置信号14aから確認する。
【0049】
この起伏レバーの現在の操作状態が巻上側または停止状態であるときと、この起伏レバーの現在の操作状態が巻下側で、かつステップS3「起伏ロープの動き」で確認される入力信号の起伏ロープ動作信号15aが停止状態のときは、停止状態を挟んで起伏動作が巻上側のままで変化していないので、シーブ効率による作用力の変化はない。
【0050】
従って、この場合は、ステップS4「使用データ=巻上」にて巻上用吊荷重データを採用し、ステップS14「吊荷重計算?表示」において、吊荷重を演算処理し演算結果を表示装置3に表示する。また、ステップS2「起伏操作レバー操作位置」が巻下側で、かつステップS3「起伏ロープの動き」が巻下方向にあるときは、シーブ効率による作用力が変化するため、巻下用吊荷重データに切り替え(ステップS6)て演算表示する(ステップS14)。
【0051】
次に、前記ステップS1「停止直前レバー状態」が巻下側にあった場合(演算B)の演算方法について説明する。この場合は、次ステップS8「起伏レバー操作位置」で、この起伏レバーの現在の操作状態が巻下側または停止状態であるときと、この起伏レバーの現在の操作状態が巻上側で、かつステップS9「起伏ロープの動き」で判定される起伏ロープの動きが停止しているときは、停止状態を挟んで起伏動作が巻下側のままで変化していないので、シーブ効率による作用力の変化はない。
【0052】
従って、ステップS10において巻下用吊荷重データを用い、演算処理して結果を表示する(ステップS14)。また、ステップS8「起伏レバー操作位置」が巻上側で、かつステップS9「起伏ロープの動き」が巻上側のときは、巻上用吊荷重データに切り替え(ステップS12)て吊荷重を演算表示する(ステップS14)。」(段落【0039】ないし【0052】)

c)「【0054】
次に、本発明の形態2に係る移動式クレーンの過負荷防止装置における吊荷重演算方法およびその過負荷防止装置を、その信号構成を示す図3とフローチャート示す図4を用いて以下に説明する。
【0055】
先ず、図3の信号構成図について説明する。本発明の形態2に係る信号構成図3が、前記形態1に係る信号構成図1と相違する所は、起伏ロープ動作判別手段15によって検出される入力信号が、本発明の形態1では起伏ロープ移動方向検出器15bによって検出される起伏ロープ動作信号15aであったが、本発明の形態2では、起伏シーブ回転方向検出器16によって検出される起伏シーブ回転信号16aを採用した点に相違があり、その他は全く同構成であるから、この入力信号についての説明に止めるものとする。
【0056】
前記起伏シーブ回転信号16aは、起伏ロープ動作判別手段15の他の形態として、起伏ロープ荷重検出器12近傍のシーブの回転方向が、巻上側、巻下側、停止の何れの状態にあるかを、起伏シーブ回転方向検出器16によって検出するものである。
【0057】
この起伏シーブ回転方向検出器16は、例えば、前記シーブ側面に貼り付けられた複数のマーカを、近接スイッチにより検出させる構成から成る。このような起伏シーブ回転方向検出器16によって、起伏ロープが巻上、巻下、停止の何れの状態にあるかを検出し、起伏シーブ回転信号16aとして過負荷防止装置1に送信される。
【0058】
本発明の形態2に係る移動式クレーンの過負荷防止装置における吊荷重演算方法およびその過負荷防止装置は、前記起伏シーブ回転方向検出器16によって検出される起伏シーブ回転信号16aにより、前記形態1の起伏ロープ移動方向検出器15bによって検出される起伏ロープ動作信号15aと同等の機能を成すことができるから、前記形態1に係る移動式クレーンの過負荷防止装置における吊荷重演算方法およびその過負荷防止装置と同効である。
【0059】
次に、本発明の形態2に係る移動式クレーンの過負荷防止装置における吊荷重演算方法を、そのフローチャートである図4を用いて以下に説明する。
【0060】
本発明の実施の形態2に係るフローチャート図4が、前記形態1に係るフローチャート図2と相違するところは、ステップS3およびS9で確認される「起伏ロープの動き」の代わりに、図4において、ステップS16およびステップS17で確認される「起伏シーブの動き」を採用した点のみに相違があり、その他は全く同構成であるから、この入力信号についての説明に止めるものとする。」(段落【0054】ないし【0060】)

(5)上記(4)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)a)及びb)並びに図1及び2の記載によれば、刊行物2には、同一のブーム角度で同一の吊荷を吊っていても、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくることを前提として、ブーム巻上時とブーム巻下時とで、予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択し、これに基づいて吊荷重を演算する装置が開示されていることが分かる。

ロ)上記(4)c)並びに図3及び4の記載を上記イ)とあわせてみると、刊行物2において、「本発明の形態2」として説明される吊荷重を演算する装置は、シーブ効率の影響により起伏レバー操作と起伏ロープの動きが一致しない場合でも、起伏ロープ張力の作用方向を実際と一致させた吊荷重を演算するために、起伏シーブ回転方向検出器16によって検出するシーブの回転方向を用いて、吊荷重データを選択するものであることが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2に記載された発明>

「同一のブーム角度で同一の吊荷を吊っていても、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくることを前提として、ブーム巻上時とブーム巻下時とで、予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択し、これに基づいて吊荷重を演算する装置であって、シーブ効率の影響により起伏レバー操作と起伏ロープの動きが一致しない場合でも、起伏ロープ張力の作用方向を実際と一致させた吊荷重を演算するために、起伏シーブ回転方向検出器16によって検出するシーブの回転方向を用いて、吊荷重データを選択する、吊荷重を演算する装置。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「吊り荷用フック77」、「吊り荷用ロープ75」、「オールテレーンクレーン50」、「ロードセル88」及び「吊り荷重検出装置」は、それぞれ、本件補正発明における「フック」、「ワイヤ」、「クレーン」、「荷重検出器」及び「荷重演算装置」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「フックを吊るワイヤとワイヤを掛けるシーブとを備えるクレーンの荷重演算装置であって、
ワイヤに作用する荷重を検出する荷重検出器を備えるクレーンの荷重演算装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

本件補正発明においては、「検出された荷重をシーブの回転方向と、あらかじめ設定しておいたシーブの回転に伴う摩擦力とを用いて補正する荷重補正手段」を備えるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、そのような荷重補正手段を備えているか否か不明である点(以下、「相違点」という。)

上記相違点について検討する。

刊行物1の段落【0030】(上記1.(1)c)参照。)には、「なお、吊り荷用ロープ75がシーブを経由する際のシーブ効率を考慮するとより精度良く張力を求めることができる。」との記載があり、この記載によれば、刊行物1は、「シーブ効率」を考慮することにより、(荷重を求める際の基礎となる)張力を精度良く求め、その結果として吊荷重を精度良く求めるとの課題ないし技術を示唆していると解釈することが自然であるから、刊行物1に記載された発明においても、シーブ効率を考慮して吊荷重を精度良く求めるとの課題ないし技術を内在しているものといえる。
一方、刊行物2に記載された発明においては、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくることを前提として、吊荷重を演算するものであるから、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明は、ともに、「シーブ効率」を考慮して吊荷重を求める点で、軌を一にするものといえる。
また、クレーンの技術分野における荷重検出に関し、シーブに掛け回されたワイヤの張力を検出することによりワイヤに作用する荷重を検出する場合、ワイヤの巻上時と巻下時とでは検出される荷重が、シーブ効率(機械効率)に起因して異なって検出されてしまうとの課題は、技術常識(例えば、実願昭47-134105号(実開昭49-88762号)のマイクロフィルム[特に、明細書第1ページ下から4行ないし第2ページ第11行]、実願昭57-174874号(実開昭59-78384号)のマイクロフィルム[特に、明細書第2ページ下から2行ないし第3ページ第12行及び第2図]及び実公平1-44555号公報[特に、第1ページ左欄第25行ないし第2ページ左欄第37行]等参照。)であり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明においても当然に内在するものである。

そこで、刊行物2に記載された発明において、「シーブ効率」をどのように考慮しているかについて着目して、刊行物2に記載された発明を検討すると、まず、「予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択」することは、検出された荷重を補正することにほかならないから、刊行物2に記載された発明における「同一のブーム角度で同一の吊荷を吊っていても、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくることを前提として、ブーム巻上時とブーム巻下時とで、予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択し、これに基づいて吊荷重を演算する装置」は、検出された荷重をブーム巻上時とブーム巻下時とで補正する吊り荷重補正手段を備えるものといえる。
そうすると、刊行物2に記載された発明における「シーブ効率の影響により起伏レバー操作と起伏ロープの動きが一致しない場合でも、起伏ロープ張力の作用方向を実際と一致させた吊荷重を演算するために、起伏シーブ回転方向検出器16によって検出するシーブの回転方向を用いて、吊荷重データを選択する」とは、シーブの回転方向を用いて(シーブの回転方向に基づいて)、検出された荷重を補正することを意味するといえる。
これらを総合すると、刊行物2に記載された発明から、以下の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導き出すことができる。
<刊行物2に記載された技術>
「吊荷重を演算する装置において、シーブの回転方向を用いて(シーブの回転方向に基づいて)、吊荷重を補正する荷重補正手段を備える技術。」

ところで、あらかじめ設定しておいたシーブの回転に伴う摩擦力を用いて、検出された荷重を補正する荷重補正手段については、本件出願前周知の技術(例えば、実願昭47-134105号(実開昭49-88762号)のマイクロフィルム[特に、明細書第1ページ第17行ないし第7ページ第16行及び第1ないし4図]、及び、特公昭63-13916号公報[特に、第2ページ左欄第14ないし43行並びに第1及び2図]等参照。以下、「周知技術」という。)である。

してみると、刊行物1に記載された発明において、内在する課題ないし技術の下、刊行物2に記載された技術を付加する際に、周知技術を適用して、「検出された荷重をシーブの回転方向と、あらかじめ設定しておいたシーブの回転に伴う摩擦力とを用いて補正する荷重補正手段」を備えさせ、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成25年12月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開2008-81264号公報)及び刊行物2(特開2006-327815号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)及び(4)ないし(6)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「吊り荷用フック77」、「吊り荷用ロープ75」、「オールテレーンクレーン50」、「ロードセル88」及び「吊り荷重検出装置」は、それぞれ、本件発明における「フック」、「ワイヤ」、「クレーン」、「荷重検出器」及び「荷重演算装置」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「フックを吊るワイヤとワイヤを掛けるシーブとを備えるクレーンの荷重演算装置であって、
ワイヤに作用する荷重を検出する荷重検出器を備えるクレーンの荷重演算装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

本件発明においては、「検出された荷重をシーブの回転方向に基づいて補正する荷重補正手段」を備えるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、そのような荷重補正手段を備えているか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)

上記相違点1について検討する。

刊行物1の段落【0030】(上記1.(1)c)参照。)には、「なお、吊り荷用ロープ75がシーブを経由する際のシーブ効率を考慮するとより精度良く張力を求めることができる。」との記載があり、この記載によれば、刊行物1は、「シーブ効率」を考慮することにより、(荷重を求める際の基礎となる)張力を精度良く求め、その結果として吊荷重を精度良く求めるとの課題ないし技術を示唆していると解釈することが自然であるから、刊行物1に記載された発明においても、シーブ効率を考慮して吊荷重を精度良く求めるとの課題ないし技術を内在しているものといえる。
一方、刊行物2に記載された発明においては、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくることを前提として、吊荷重を演算するものであるから、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明は、ともに、「シーブ効率」を考慮して吊荷重を求める点で、軌を一にするものといえる。
また、クレーンの技術分野における荷重検出に関し、シーブに掛け回されたワイヤの張力を検出することによりワイヤに作用する荷重を検出する場合、ワイヤの巻上時と巻下時とでは検出される荷重が、シーブ効率(機械効率)に起因して異なって検出されてしまうとの課題は、技術常識(例えば、実願昭47-134105号(実開昭49-88762号)のマイクロフィルム[特に、明細書第1ページ下から4行ないし第2ページ第11行]、実願昭57-174874号(実開昭59-78384号)のマイクロフィルム[特に、明細書第2ページ下から2行ないし第3ページ第12行及び第2図]及び実公平1-44555号公報[特に、第1ページ左欄第25行ないし第2ページ左欄第37行]等参照。)であり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明においても当然に内在するものである。

そこで、刊行物2に記載された発明において、「シーブ効率」をどのように考慮しているかについて着目して、刊行物2に記載された発明を検討すると、まず、「予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択」することは、検出された荷重を補正することにほかならないから、刊行物2に記載された発明における「同一のブーム角度で同一の吊荷を吊っていても、シーブとその支持軸間の摩擦の作用によって決まるシーブ効率により、ブーム巻上時とブーム巻下時では起伏ロープ張力が異なってくることを前提として、ブーム巻上時とブーム巻下時とで、予め記憶された巻上用または巻下用の吊荷重データから適合する吊荷重データを選択し、これに基づいて吊荷重を演算する装置」は、検出された荷重をブーム巻上時とブーム巻下時とで補正する吊り荷重補正手段を備えるものといえる。
そうすると、刊行物2に記載された発明における「シーブ効率の影響により起伏レバー操作と起伏ロープの動きが一致しない場合でも、起伏ロープ張力の作用方向を実際と一致させた吊荷重を演算するために、起伏シーブ回転方向検出器16によって検出するシーブの回転方向を用いて、吊荷重データを選択する」とは、シーブの回転方向を用いて(シーブの回転方向に基づいて)、検出された荷重を補正することを意味するといえる。
これらを総合すると、刊行物2に記載された発明から、以下の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導き出すことができる。
<刊行物2に記載された技術>
「吊荷重を演算する装置において、シーブの回転方向を用いて(シーブの回転方向に基づいて)、吊荷重を補正する荷重補正手段を備える技術。」

してみると、刊行物1に記載された発明において、内在する課題ないし技術の下、刊行物2に記載された技術を付加して、「検出された荷重をシーブの回転方向に基づいて補正する荷重補正手段」を備えさせ、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-15 
結審通知日 2014-08-19 
審決日 2014-09-17 
出願番号 特願2009-81165(P2009-81165)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66C)
P 1 8・ 575- Z (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武井 健浩筑波 茂樹  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 伊藤 元人
槙原 進
発明の名称 クレーンの荷重演算装置及びクレーン  
代理人 西脇 民雄  

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