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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H04J
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04J
審判 一部無効 特123条1項5号  H04J
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H04J
管理番号 1293396
審判番号 無効2013-800147  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-08-07 
確定日 2014-10-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第4213466号発明「適応クラスタ構成及び切替による多重キャリア通信」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第4213466号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

出願日 平成13年12月13日
(パリ条約による優先権主張 平成12年12月15日 米国,平成13年4月17日 米国。)
設定登録 平成20年11月 7日
本件無効審判請求 平成25年 8月 7日
答弁書 平成25年11月27日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成26年 4月 8日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成26年 4月 8日
口頭審理 平成26年 4月22日



第2 本件特許発明
特許第4213466号の請求項1?10に係る発明のうち,請求項1及び3に係る発明(以下,各請求項の番号に対応して,「本件特許発明1」,「本件特許発明3」という。)は,特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階と,
少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階と,
セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階から成ることを特徴とする方法。

【請求項3】
前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階は,前記1つのダイバーシティクラスタのサブキャリア全体に亘るチャネル符合化段階を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。」
([当審注]:【請求項3】の「チャネル符合化」は,「チャネル符号化」の誤記と認められる。)



第3 請求人の主張
請求人は,本件特許発明1及び3についての特許を無効とする,との審決を求め,次のような無効理由を主張している。
以下の無効理由1?4は,請求人の主張する無効理由を,無効理由の具体的な説明の内容に基づいて,当審において特許法の条文にそってまとめたものである。


1 無効理由1
(1)甲第2号証に基づく新規性違反(特許法第29条第1項第3号)
(審判請求書IV-2,IV-3 13頁1行?29頁14行)
本件特許発明1及び3は,甲第2号証に記載された発明と同一であるので,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1及び3に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(2)甲第2号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)
(審判請求書IV-2,IV-3 13頁1行?26頁末行,29頁15行?35頁3行)
本件特許発明1及び3は,甲第2号証に記載された発明と,甲第4号証等に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1及び3に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


2 無効理由2
甲第3号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)
(審判請求書IV-4,IV-5 36頁1行?64頁末行)
本件特許発明1及び3は,甲第3号証に記載された発明と,各甲号証に記載された発明及び周知技術とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1及び3に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


3 無効理由3
記載要件違反(特許法第36条第6項第1号及び同第2号)
(審判請求書IV-6 65頁1?10行)
本件特許発明1及び3は,発明の詳細な説明に記載されておらず,また,不明確であるので,特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしておらず,本件特許発明1及び3に係る特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。


4 無効理由4
原文新規事項(特許法第184条の18で読み替えた同法第123条第1項第5号)
(審判請求書IV-7 65頁11行?66頁14行)
本件特許の請求項1に記載されている事項は,国際出願日における本件国際出願の明細書,請求の範囲に記載した事項の範囲内にないので,本件特許発明1及び3に係る特許は,特許法第184条の18で読み替えた同法第123条第1項第5号に該当し,無効とすべきである。


また,請求人は,証拠方法として甲第1号証?甲第21号証を提出している。
甲第1号証:特許第4213466号公報
甲第2号証:Hermann Rohling and Rainer Grunheid([当審注]:表記上の理由で,「u」のウムラウトは省略して単に「u」と記載した。), "PERFORMANCE COMPARISON OF DIFFERENT MULTIPLE ACCESS SCHEMES FOR THE DOWNLINK OF AN OFDM COMMUNICATION SYSTEM", IEEE 47th Vehicular Technology Conference, Volume 3, 4 May 1997, pp 1365-1369
甲第2号証の抄訳
甲第3号証:特開平11-308153号公報
甲第4号証:Cheong Yui Wong, Roger S. Cheng, Khaled Ben Letaief and Ross D.Murch, "Multiuser OFDM with Adaptive Subcarrier, Bit, and Power Allocation", IEEE JOURNAL ON SELECTED AREAS IN COMMUNICATIONS, VOL.17, NO.10, OCTOBER 1999, pp.1747-1758
甲第4号証の抄訳
甲第5号証:Ye (Geoffrey) Li and Nelson R.Sollenberger, "Clustered OFDM with Channel Estimation for High Rate Wireless Data", Mobile Multimedia Communications 1999(MoMuc '99) IEEE International Workshop, 15 NOV 1999, pp.43-50
甲第5号証の抄訳
甲第6号証:特開平11-113049号公報
甲第7号証:特表平11-508417号公報
甲第8号証:特開平10-303849号公報
甲第9号証:特開2000-332724号公報
甲第10号証:特開平10-163994号公報
甲第11号証:特開2000-341247号公報
甲第12号証:特開平1-317035号公報
甲第13号証:Rainer Grunheid([当審注]:表記上の理由で,「u」のウムラウトは省略して単に「u」と記載した。) and Hermann Rohling, "Adaptive Modulation and Multiple Access for the OFDM Transmission Technique", Wireless Personal Communications, May 2000, Volume 13, Issue 1-2, pp 5-13
甲第13号証の抄訳
甲第14号証:2004年7月27日付けで米国特許商標局に提出された応答書"AMENDMENT AND RESPONSE TO OFFICE ACTION"
甲第14号証の抄訳
甲第15号証:国際公開第2002/049385号
甲第15号証の抄訳
甲第16号証:平成19年8月21日付け意見書
甲第17号証:甲第2号証の発行年月日を立証するIEEE Xplore Abstract
甲第17号証の抄訳
甲第18号証:甲第4号証の発行年月日を立証するIEEE Xplore Abstract
甲第18号証の抄訳
甲第19号証:甲第5号証の発行年月日を立証するIEEE Xplore Abstract
甲第19号証の抄訳
甲第20号証:H.Sari Y.Levy and G.Karam, "AN ANALYSIS OF ORTHOGONAL FREQUENCY-DIVISION MULTIPLE ACCESS", IEEE Global Telecommunications Conference (GLOBECOM '97) Volume.3, 3 NOV 1997, pp.1635-1639
甲第20号証の抄訳
甲第21号証:甲第20号証の発行年月日を立証するIEEE Xplore Abstract
甲第21号証の抄訳

なお,甲第2,第4,第5,第13,第20号証の各表示名は,請求人の提出した書証に基づき,当審が修正した。



第4 被請求人の主張
これに対し,被請求人は,平成25年11月27日付け答弁書において,概略以下のとおり主張している。
以下は,被請求人の主張を,その具体的な説明の内容に基づいて,当審において特許法の条文にそってまとめたものである。

本件特許発明1及び3は,甲第2号証に記載された発明と同一発明とはいえないから,特許法第29条第1項第3号に該当せず,また,甲第2号証並びに甲第4号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないから,特許法第29条第2項には該当しない。したがって,本件特許発明1及び3についての特許は,無効理由1によっては無効とすることはできない。
本件特許発明1及び3は,甲第3号証並びに甲第7号証?甲第9号証並びに甲第2号証,甲第4号証?甲第6号証及び甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないから,特許法第29条第2項には該当しない。したがって,本件特許発明1及び3についての特許は,無効理由2によっては無効とすることはできない。
「人口が変化」,「クラスタ分類を再構成」なる用語は明確であるから,特許法第36条第6項第1号及び同第2号の規定に違反しない。したがって,本件特許発明1及び3についての特許は,無効理由3によっては無効とすることはできない。
「mobile and fixed subscribers」を「移動加入者と静止加入者」と和訳することは正確であるから,特許法第184条の18で読み替える同法第123条第1項第5号には該当しない。したがって,本件特許発明1及び3についての特許は,無効理由4によっては無効とすることはできない。
よって,本件特許は特許法第123条第1項各号のいずれにも該当しないから,本件審判の請求は成り立たない。



第5 当審の判断
無効理由3及び4は本件特許発明1及び3の認定に影響することから,無効理由3,4を判断してから,無効理由1,2について判断を行う。

1 無効理由3(特許法第36条第6項第1号及び同第2号)について
(1)当事者の主張
請求人は,審判請求書(65頁の「IV-6」。)にて,請求項1に記載されている「人口が変化」及び「クラスタ分類を再構成する」なる用語は,本件特許明細書中において記載も定義もされていないので,その意味が著しく不明確であり,結局,どのようなときに何をするのかが不明である旨主張している。

これに対し,被請求人は,答弁書(28?33頁の「7-12」。)にて,本件特許明細書の【0024】?【0033】,【0062】の記載に基づいてダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタの割り当て方法を説明し,【0068】?【0070】の記載に基づいてグループベースのクラスタ割当を説明した上で,受信環境が安定している静止している加入者にコヒーレンスクラスタを割り当て,加入者が高速で移動するような場合には加入者からのフィードバック情報に基づかずにダイバーシティクラスタを割り当てる旨主張している。また,クラスタが割り当てられた後,セル内の全加入者における静止状態と移動状態に変化が生じると各チャネル品質とチャネル品質の安定性が変化することになる結果,コヒーレンスクラスタが割り当てられる加入者とコヒーレンスクラスタが割り当てられる加入者の数が変化することになり,換言するとセル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化したときには,クラスタを再構成することになる旨主張している。

(2)判断
「人口が変化」及び「クラスタ分類を再構成」なる記載について特許法第36条第6項第1号及び同第2号の要件を検討するに当たっては,当該記載のみならず,当該記載を含む段階である「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」全体の内容を検討する必要があり,そのためには,「クラスタ」,「クラスタ分類」,「再構成」なる用語の意義も確認する必要があることはいうまでもない。そして,用語の意義を明らかにするために明細書を参酌することは,当然に許容されることである。

ア 「クラスタ」について
本件特許明細書(甲第1号証)には,
「【0023】クラスタ102のようなクラスタは,図1Aに示すように,少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニットとして定義される。クラスタは,連続した又はばらばらのサブキャリアを保有することができる。クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。後者の場合,基地局は,加入者に何時クラスタが再定義されるかを通知する。或る実施形態では,周波数スペクトルは512個のサブキャリアを含んでいて,各クラスタは4個の連続したサブキャリアを含んでおり,結果的に128個のクラスタとなる。」,
「【0087】コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの間の知的切換
或る実施形態では,クラスタには2つのカテゴリ,即ち互いに接近している複数のサブキャリアを保有するコヒーレンスクラスタと,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するダイバーシティクラスタがある。コヒーレンスクラスタ内の複数のサブキャリアの接近度は,チャネルコヒーレンス帯域幅内,即ち,チャネル応答が概ね同じ帯域幅内,具体的には,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内,であるのが望ましい。これに対し,ダイバーシティクラスタ内のサブキャリアの拡散は,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内であるチャネルコヒーレンス帯域幅よりも広いのが望ましい。従って,このような場合の一般的な目標は拡散を最大化することである。」,
「【0103】セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」
との記載があり,これらの記載及び図9,図12によれば,

「クラスタ」は,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」と定義され,連続した又はばらばらのサブキャリアを保有することができるものであり,互いに接近している複数のサブキャリアを保有するコヒーレンスクラスタと,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するダイバーシティクラスタとの2つのカテゴリがあるものと理解できる。そして,予め帯域内の全てのサブキャリアと各クラスタとの間のマッピングがなされて,図9又は図12のクラスタ構成が定義されていると理解できる。
「ダイバーシティクラスタ」は,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するクラスタであり,ダイバーシティクラスタ内のサブキャリアの拡散は,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内であるチャネルコヒーレンス帯域幅よりも広いのが望ましいものと理解できる。
「コヒーレンスクラスタ」は,互いに接近している複数のサブキャリアを保有するクラスタであり,コヒーレンスクラスタ内の複数のサブキャリアの接近度は,チャネルコヒーレンス帯域幅内,即ち,チャネル応答が概ね同じ帯域幅内,具体的には,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内であるのが望ましいものと理解できる。

イ 「クラスタ分類を再構成する」について
本件特許明細書には,「クラスタ分類」なる記載は,上記【0103】の「図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」との記載及び【図面の簡単な説明】に係る【0105】の「【図12】クラスタ分類の再構成の或る実施形態を示す。」との記載にしか存在しない。しかしながら,上記【0087】の「クラスタには2つのカテゴリ,即ち・・・コヒーレンスクラスタと,・・・ダイバーシティクラスタがある。」,上記【0023】の「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。」,【0088】の「例えば,1-8のラベルが付いた周波数はダイバーシティクラスタであり,9-16のラベルが付いたクラスタはコヒーレンスクラスタである。例えば,セル内のラベル1が付いた全ての周波数は,或るダーバーシティクラスタの一部であり,セル内のラベル2が付いた全ての周波数は,別のダイバーシティクラスタの一部であるが,一方ラベル9が付いた周波数のグループは1つのコヒーレンスクラスタであり,ラベル10が付いた周波数のグループは別のコヒーレンスクラスタである,等となっている。」との記載に照らせば,

「クラスタ分類」とは,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」に対して,コヒーレンスクラスタ,ダイバーシティクラスタとのカテゴリー分けがなされることであり,当該カテゴリー分けはクラスタとそのサブキャリアの間のマッピングがどのように定義されているかによることは明らかである。
そして,【0103】の「図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」との記載及び図9,図12に照らせば,例えば,クラスタインデクス(ラベル)9のクラスタは,図9においては,左から9?12番目の4つのサブキャリアを構成要素とするコヒーレンスクラスタであったものが,クラスタ分類の再構成がなされた図12においては,左から9,25,41,57番目の4つのサブキャリアを構成要素とするダイバーシティクラスタになっているから,「クラスタ分類を再構成する」は,クラスタとそのサブキャリアの間のマッピング(どのサブキャリアをどのクラスタの構成要素とするかということ)を構成し直すことに伴い,当該クラスタのカテゴリー分けが変更されることと理解できる。

ウ 「人口が変化した時」について
上記【0103】の「セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。」の記載によれば,セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当,すなわち,例えば上記【0023】の例に照らせば,予め定義される,512個のサブキャリアからなる全帯域幅における128個のクラスタのうち,何個をコヒーレンスクラスタとし,何個をダイバーシティクラスタとするかという,両クラスタの数の比率/割当(例えば,図9のクラスタ構成における,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の割当。)は,セル内のコヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者とダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者数の人数の比によって設計されているものと理解できる。
そして,上記【0103】の「システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」の記載によれば,セル内の加入者の人数が変わると,コヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者とダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者数の人数の比も変わる可能性があることから,セル内の加入者の人数が変わったときに,セル内の帯域内の全てのサブキャリアに対して予めマッピングされたコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当を見直すことと理解できる。
すなわち,ダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い移動加入者数の人数が増えた場合,コヒーレンスクラスタに係るサブキャリアは余っているのに,ダイバーシティクラスタに係るサブキャリアが足りなくなり,新たにダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性がある移動加入者にサブキャリアの割り当てができないという不都合が頻繁に発生することを防ぎ,ダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性があるより多くの移動加入者をサポートできるよう,例えば図9のようにダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタの数が等しい(すなわち,比率/割当が1:1。)ものから,図12のようにダイバーシティクラスタの数がコヒーレンスクラスタの数の倍である(すなわち,比率/割当が2:1。)ものとなるように,クラスタとサブキャリアとの間のマッピングを構成し直すことと理解できる。

ここで,【0103】には「移動加入者と静止加入者の人数」,「システムの展開に伴い人数が変わると」と記載しており,「人口」についての記載は無い。しかしながら,上述のとおりであるから,【0103】の開示に接した当業者であれば,請求項1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」は,システムの展開に伴い移動加入者と静止加入者の人数が変わったときを意味することは明らかである。

なお,請求項1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」は,国際出願時の請求項9に対応するところ,請求項9の原文は「The method defined in Claim 1 further comprising reconfiguring cluster classification when population of mobile and fixed subscribers in a cell changes.」(下線は当審で付与した。以下,同様。)であり,【0103】の原文である「The ratio/allocation of the numbers of coherence and diversity clusters in a cell depends on the ratio of the population of mobile and fixed subscribers. When the population changes as the system evolves, the allocation of coherence and diversity clusters can be reconfigured to accommodate the new system needs.」の記載に照らせば,訳語の差異はあるものの原文の表記はほぼ一致していることが明らかである。
ここで,【0103】は「population」を「人口」ではなく「人数」と訳しているが,「人口」には「一国または一定地域に居住する人の総数。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)の意味があるところ,「ひとかず。人員。人数」(株式会社大修館書店 広漢和辞典上巻 初版)との意味もあり,「population」には「(国・都市・一定区域の)人口,住民数」の他に「(特定の階層・民族などに属する)人々;(その)人数,人口」(株式会社小学館 ランダムハウス英和大辞典第2版)等の意味もあることから,「・・・加入者の人口」と「・・・加入者の人数」とはほぼ同じ意味と解することができる。

したがって,請求項1及び3の記載は,特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(3)留意事項
なお,被請求人は,答弁書及び被請求人の口頭審理陳述要領書にて,本件特許発明1及び3の構成及び本件特許明細書の開示内容について説明,主張をしているので,これらに対する合議体の考えを以下に記す。

ア 被請求人は,答弁書の33頁2?5行において「加入者からのフィードバック情報に基づかずに・・・ダイバーシティクラスを割り当てるのである。」と主張し,また,被請求人の口頭審理陳述要領書4頁下から3行?5頁1行,14?15頁の「6-3(9)」において,本件特許明細書の【0094】の記載を根拠として,周波数依存スケジューリングはコヒーレンスクラスタ割り当てに関するものであって,頻繁な再割り当てによるオーバーヘッドやチャネル品質情報のフィードバックが必要であるなどの問題を有するものであり,ダイバーシティクラスタの割り当ては周波数依存スケジューリングに代わるものである旨主張している。
しかし,「周波数依存スケジューリング」なる用語は本件特許明細書にはなく,その概念が不明確であると共に,【0094】には,フィードバックを用いた割り当てに関する「選択的クラスタ割当」はコヒーレンスクラスとダイバーシティクラスタの両方について行うことが記載されていることからしても,コヒーレンスクラスの割り当てとダイバーシティクラスタの割り当てとは必ずしも代替的な関係にあるものではないから,当該主張の根拠が不明である。
そして,本件特許明細書の【0006】,【0007】,【0009】の記載によれば,本件特許発明1は,サブキャリア割当の際の加入者情報を更新するための帯域幅コスト及び計算費用が非現実的なものであることを課題として,この課題を解決するために,統合最適化によりサブキャリアを割り当てることに代えて,少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニットとして定義される「クラスタ」を漸進的に割り当てるものであると認められる。そして,【0010】?【0093】の開示によれば,フィードバックを用いた割り当てに関する「選択的クラスタ割当」は当該課題を解決するための手段であることは明らかである。すなわち,「周波数依存スケジューリング」に代えてダイバーシティクラスタを割り当てなければ当該課題を解決できないわけではない。
また,本件特許明細書の【0011】,【0014】,【0029】の記載によれば,基地局は,追加情報を利用してフィードバック情報に基づく候補の中から更に選択して,クラスタによるサブキャリア割当の最終決定を行なうものであり,【0094】をみてもフィードバック情報に基づかずにダイバーシティクラスタを割り当てることは記載も示唆もされていない。そして,【0024】?【0033】,図1B,【0094】,【0095】の記載によれば,移動中の加入者はフェージングの影響を受けやすいために,結果的にSINRの高いコヒーレンスクラスタを要求する可能性は低いと推察され,また,【0095】には加入者がチャネル/干渉変動検出器を実装してダイバーシティクラスタを知的に選択することも記載されているので,加入者がダイバーシティクラスタを要求するフィードバックを為すことも当然に予測されることである。したがって,仮に「周波数依存スケジューリング」がフィードバックに基づいてコヒーレンスクラスタを割り当てることであるとしても,ダイバーシティクラスタの割り当てが周波数依存スケジューリングに代わるものであるとする合理的な理由は見出せない。
したがって,被請求人の上記主張は,本件特許明細書の開示内容に基づかないものであるから,認めることはできない。

なお,更にいえば,【0094】に「従って,クラスタ割当は高速で更新しなければならず,制御オーバーヘッドが膨大になってしまう。この場合,ダイバーシティクラスタを使用すれば,強さを補強し,頻繁なクラスタ再割当のオーバーヘッドを軽減することができる。」と記載されており,出願人の主張は当該記載を根拠とするものであるが,以下のとおり,当該記載自体,本件特許明細書全体の開示内容に照らして整合していない点があるため,当該記載のみを根拠とする主張は採用できない。
すなわち,【0013】の記載によれば,フィードバックは各10ミリ秒タイムスロット毎に周期的に為され,【0029】,【0030】の記載によれば,当該フィードバックに基づいて基地局は加入者に割り当てるクラスタを選択し,最終的に決定したクラスタ割当を加入者に通知するものであり,前回と同じクラスタ(ダイバーシティクラスタ及びコヒーレンスクラスタ)が割り当てられたとしてもクラスタ割当の通知は為されると理解される。ここで,【0033】の「再教育は,チャネル劣化が見られた場合には加入者側からも開始できる。」との記載を考慮しても,請求項1には再教育はチャネル劣化が見られた場合に加入者側から開始するとの構成は特定されておらず,そのように限定的に解釈することはできないし,【0094】の記載が当該事項を前提とすることは明らかにされていない。そして,【0094】の「或る実施形態では,クラスタ割当は,しばしばチャネルドップラー速度(Hz)で計測されるチャネル変更速度,即ち,チャネルが1サイクル後には完全に異なる場合,チャネルが毎秒何サイクルで変更されるか,よりも高速で行なわれる。」との記載によれば,その文脈からして「この場合,ダイバーシティクラスタを使用すれば,強さを補強し,頻繁なクラスタ再割当のオーバーヘッドを軽減することができる。」に関する実施例と解するのが自然であるところ,各10ミリ秒タイムスロット毎のフィードバックに基づくクラスタ割当はチャネル変更速度よりも短い間隔で為されているはずなので,クラスタ割当を更に高速で更新する必要性は見当たらない。

イ 被請求人の口頭審理陳述要領書8?9頁の「6-3(2)」の説明によれば,加入者がフィードバックする時のクラスタ構成と基地局が割り当てた時のクラスタ構成とは異なることがあり得ると説明していると理解される。しかし,そのようなことは本件特許明細書に記載も示唆もされていない。
そして,本件特許明細書の【0023】?【0033】の記載及び図1Bによると,サブキャリアの割り当てはクラスタ単位で為されるものであるところ,クラスタインデックスによりフィードバック(すなわち,クラスタ要求。)及びクラスタ割当の通知を行うものを含み,基地局はフィードバック情報に基づくクラスタ候補の中から更に選択して最終的に割り当てるクラスタを決定するのであり,クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングが再構成可能である場合には基地局は加入者に何時クラスタが再定義されるかを通知するのであるから,基地局及び全加入者は共通のクラスタ構成(すなわち,クラスタとそのサブキャリアの間のマッピング。)を前提に要求及び割り当てを行っていることは明らかである。したがって,要求と異なるクラスタが割り当てられることはあるにせよ,加入者がフィードバックする時のクラスタ構成と基地局が割り当てた時のクラスタ構成とが異なることは不自然である。
また,被請求人の口頭審理陳述要領書11?12頁の「6-3(5)」では,フィードバック用に構成したクラスタと基地局が割り当てるクラスタとは一致しないことがあるとして,図10をあげて説明されているが,図10は,セル間でクラスタ構成を異なるものとすることによりセル間干渉を抑制する図9の例における【0089】の効果を更に増強するものと理解される。そして,【0091】の記載によれば,ホッピングはタイムスロット毎に為され,【0023】の記載によれば加入者はホッピングによりクラスタとサブキャリア間のマッピングが変わる時を通知されており,【0013】の記載によればタイムスロット毎にフィードバックが為されるから,加入者はホッピングされたクラスタ構成に基づいてフィードバックを行い,フィードバック時と同じクラスタ構成に基づいてクラスタの割り当てがなされると理解される。このため,図10の例においても,フィードバック用に構成したクラスタと基地局が割り当てるクラスタとは同じクラスタ構成に基づくものと推察される。
したがって,被請求人の上記主張は,本件特許明細書の開示内容に基づかないものであるから,認めることはできない。

なお,更にいえば,仮にもし加入者がフィードバック(クラスタ要求)する時のクラスタ構成と基地局が割り当てた時のクラスタ構成とが異なることがあり得るのであれば,本件特許明細書の【0026】,【0027】に記載のごとくクラスタ内の各サブキャリアのSINR値の平均や加重平均あるいはクラスタ内のサブキャリアのSINR値中最悪のSINRによりクラスタのSINRを求めてフィードバックすることの意義が見出せない。また,基地局が勝手にクラスタ構成を変えてサブキャリアを割り当てるのであるから,ユーザーから見れば結果的に割り当てられたサブキャリアが連続するものであったり又は不連続であるにすぎず,「クラスタ」はもはや単に複数のサブキャリアを特定するための情報量を低減するための手段にすぎないことになり,そのようなものはいわゆる情報源符号化の一般的概念に過ぎないから,以下で検討する甲2発明との特段の差異がないことになってしまう。

ウ 被請求人の口頭審理陳述要領書の12頁下から10?9行,13頁1?3行及び8?11行,14頁10?15行,15頁下から8行?末行,16頁下から3行?末行の説明によると,再教育はクラスタの再構成の手段であるとして,図9及び図12のクラスタ構成は再教育に基づく割り当て結果である旨主張されていると理解される。しかしながら,本件特許明細書には,再教育がクラスタの再構成の手段であることも,図9及び図12のクラスタ構成は再教育に基づく割り当ての結果であることも,いずれも記載も示唆もされていない。
本件特許明細書の【0023】?【0033】,図1Bの記載によれば,割り当て前に図9又は図12のクラスタ構成(cluster formats)が予め定義されているからこそ,加入者はクラスタのSINRを計算でき,クラスタインデクスによりフィードバックできるのであり,また,【0074】にパイロットシーケンスにより利用可能なクラスタであるか否かを加入者が区別可能とすることが示されていることからも,図9又は図12のクラスタ構成は,割り当ての結果ではなく,割り当ての前提であることは明らかである。
また,本件特許明細書の【0033】の記載によれば,再教育は,例えば図9に示されるクラスタとサブキャリアとの間のマッピングを前提とした【0024】?【0032】及び図1Bに記載された加入者に対するクラスタの割り当てのプロセスを周期的に繰り返すことであると理解され,クラスタとサブキャリアとの間のマッピングを図9のものから図12にものに構成し直すことと再教育との関連性は認められない。また,本件特許明細書の【0087】?【0102】の記載によれば,「知的切換」も,図9のクラスタとサブキャリアとの間のマッピングを前提とした,加入者に対するクラスタの割り当てに関するものであり,クラスタとサブキャリアとの間のマッピングを図9のものから図12にものに構成し直すことと「知的切換」との関連性は認められない。
更に,【0103】の「セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。」の「割当」は,加入者に対するクラスタの割り当ての意味ではなく,全帯域幅のサブキャリアに対して予め定義される全クラスタのうち,何個をコヒーレンスクラスタとし,何個をダイバーシティクラスタとするかという,両クラスタの数の比率/割当(例えば,図9のクラスタ構成における,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の割当。)である。そして,図9のクラスタ構成(cluster formats)を前提としたクラスタ割当をした結果,ダイバーシティクラスタの不足が頻繁に生じるようであれば,ダイバーシティクラスタを要求する可能性の高い加入者をサポートするように,図12のクラスタ構成(cluster formats)に定義し直すことはあると考えられる。しかし,周期的な再教育による加入者に対するクラスタの再割り当て処理において,移動中の加入者が多いことによりダイバーシティクラスタに分類されたサブキャリアの多くが割り当てられるとしても,それは一時的なものにすぎず,必ずしも常にダイバーシティクラスタ用のサブキャリアが不足しているとはいえない。すなわち,図9のクラスタ構成に基づいて,例えば移動中の加入者が増えた場合にはダイバーシティクラスタに分類されるサブキャリアがより多く割り当てられ,また静止している加入者が増えた場合にはコヒーレンスクラスタに分類されるサブキャリアがより多く割り当てられるにすぎない。そして,たとい一時的にダイバーシティクラスタが不足したとしても,次の再割り当て時には加入者の移動度の変化により不足しないことも当然にあり得るから,多少人数の増減があったとしても再教育の都度図12のクラスタ構成に変更しなければならない必要性は見当たらない。
以上のとおりであるから,ユーザへのクラスタに基づくサブキャリア割り当てと,クラスタ分類の再構成(すなわち,クラスタフォーマットの再定義。)とを混同した被請求人の主張は認められない。

エ 被請求人の口頭審理陳述要領書の15頁下から7?5行に「時間の経過(すなわち,システムの展開)に伴い状況が変化した場合(たとえば,加入者が静止状態から移動状態に変化した場合,またその逆の場合)」と記載しており,これは,本件特許明細書の【0103】の「システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。」の「システムの展開」は「時間の経過」を意味すると説明しているものと理解される。
しかし,システムは不変でも時間は経過するから,「時間の経過」と「システムの展開」とは特段の関連を有するものではない。また,「展開」には「発展させ,繰りひろげること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)との意味があり,「evolve」には「徐々に現れる,生成する;発展[進化]する」(株式会社小学館 ランダムハウス英和大辞典第2版)の意味があるところ,「時間の経過」を意味することが一般的であると認めるに足る証拠は明らかにされていない。
また,本件特許明細書の【0038】の記載及び図2によれば,パイロットが基地局から周期的に送信され,【0013】の記載によれば,当該パイロットに基づく加入者から基地局へのフィードバックは10ミリ秒タイムスロット毎になされるから,システム自体は不変でもシステムの通常の動作の一環として,再教育に基づくクラスタの再割り当てが当該フィードバックに対応して周期的になされるものと解するのが自然である。このような単なる時間の流れに沿ったシステムの通常動作を「システムの展開」(the system evolves)と解することは,「展開」(evolve)の通常の用法からみて困難である。
したがって,被請求人の上記説明を採用することはできない。

なお,システムの構築に際しては,予想されるダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性がある人数(人口)とコヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性がある人数(人口)との比率に基づいて,両クラスタの数の比率を最適設計することは当業者が当然に考慮すべきことであるから,システムの展開は,例えばシステム自体の改変(例えば,基地局の増設等。)によりセルのカバー範囲が変わる等の事情で,上記人数(人口)の比率が変わる可能性が出てきた場合等に,新たなシステムにおけるセル内での上記人数(人口)の比率に応じてクラスタ分類を再構成することと理解することは可能であると考えられる。

(4)まとめ
上記(2)のとおり,請求項1及び3の記載は,特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

ただし,上記(3)のとおり,無効理由1ないし4を判断する上で,被請求人の説明・主張の全てが認められるわけではないことに留意すべきである。


2 無効理由4(特許法第184条の18で読み替えた同法第123条第1項第5号)
について
(1)当事者の主張
請求人は,審判請求書(65?66頁の「IV-7」。)にて,本件国際出願の国際出願日における国際出願の明細書28頁19行や請求項9([当審注]:国際出願時の請求項9は,平成16年12月10付けの手続補正により請求項6に繰り上がり,平成19年8月21付けの手続補正により請求項5に繰り上がり,平成20年7月28付けの手続補正により請求項1に繰り上げられた。)等の「mobile and fixed subscribers」が「移動加入者と静止加入者」(【0103】等),「移動中の加入者と静止している加入者」(請求項1)と和訳されたが,当該技術分野においては「a mobile station」,「a fixed station」がそれぞれ移動可能な無線局のことである「移動局」,移動が予定されておらず位置が固定されている「固定局」と定訳されることが常識であるところ,移動可能である「移動加入者」と実際に移動している「移動中の加入者」とは意味が相違し,また,移動できるが移動していない「静止している加入者」と固定されており移動できない「固定加入者」とは意味が相違するから,原文新規事項に該当する旨主張している。
一方,被請求人は,答弁書(33?34頁の「7-13」。)にて,加入者は無線通信をする端末無線局であるから,移動していても静止したり,静止していても移動を始めたりするから,「移動加入者と静止加入者」と和訳することは正確である旨主張している。

これに対し,請求人は,請求人の口頭審理陳述要領書(31?32頁の「第II部第4」。)にて,本件特許明細書の【0094】には「固定無線アクセスのような静止している加入者の場合,・・・」との記載があり,加入者が固定されている(fixed)場合と加入者が移動する(mobile)場合との二通りが説明されている旨主張している。
そして,被請求人は,被請求人の口頭審理陳述要領書(17?18頁の「6-4」。)にて,本件特許明細書の【0098】には「加入者が移動しているのか静止しているのかを判断する」(原文では「whether a subscriber is mobile or fixed」)と記載されており,その具体的な方法を例示する【0099】?【0101】の記載によれば,閾値で判断することから,実際には移動しているものの変化速度が僅かであるような場合は「fixed」と判断されるため,「移動しない」という意義を有する「固定」よりも,「移動可能なものであるが偶々移動していない」という「静止」と訳すのがより適切である旨主張している。

(2)判断
ア 「mobile」,「fixed」の一般的な用法について
まず,「mobile」,「fixed」なる用語の有する普通の意味について,辞書等の説明を参酌して確認する。

「mobile」には「移動しやすい,動きやすい,可動[移動]性の」(株式会社小学館 ランダムハウス英和大辞典第2版)との意味があり,また,日本語として慣用されている「モバイル【mobile】」には「「動かしやすい」「移動できる」の意。軽量化や無線通信機能の装備によって機器を自由な場所で利用できること。「?‐コミュニケーション」」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)との意味があり,これらによれば「mobile subscribers」は「移動可能な加入者」との意味にも理解できるものである。また,通信技術分野では,通信機器を使用する加入者(subscriber)は局(station)とみなされることがあることは技術常識であるところ,「移動局 mobile station」には「航空機局,船舶局,陸上移動局,携帯局等,移動中または特定しない地点に停止中に運用する無線局の総称。ただし,宇宙局,人口衛生局は含まれない。」(コロナ社 電子情報通信学会編 電子通信用語辞典初版)の意味があり,これによると「移動局 mobile station」は「移動可能な局」との意味であって,移動中のみならず偶々静止していても「移動局 mobile station」に含まれ得ることが認められる。そして,「mobile」が「移動中」のものしか意味しないことが一般的であると認めるに足る証拠は明らかにされていない。
また,「fixed」には「<物などが>固定した,(動かないように)取りつけてある,据えつけてある」(株式会社小学館 ランダムハウス英和大辞典第2版)との意味があり,これによれば「fixed subscribers」は「動かないことが前提である固定された加入者」との意味にも理解できるものである。また,「固定局 fixed station」には「固定業務を行う無線局」(コロナ社 電子情報通信学会編 電子通信用語辞典初版)との意味があるところ,「固定業務」には「一定の固定した地点間のみだけで無線通信を行う業務」との意味がある(コロナ社 電子情報通信学会編 電子通信用語辞典初版)から,特定しない地点に偶々停止して運用することがある携帯無線端末等の無線局は「固定局」に含まれないと推察される。そして,「fixed」が「移動することが前提であるが偶々静止している」との意味に使用されることが一般的であると認めるに足る証拠は明らかにされていない。

したがって,「mobile」,「fixed」の通常の意味からみれば,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」(及び同様の意味での「移動する加入者」,「移動加入者」。),「静止している加入者」(及び同様の意味での「静止加入者」。)と訳すことは必ずしも一般的であるとはいえない。
しかしながら,本件特許明細書内に定義がある場合等はこれに従うこととなるので,本件特許明細書の開示内容について以下に検討する。

イ 本件特許明細書の開示に基づく検討
次に,本件特許明細書(国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面)の開示内容に基づいて,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」(及び同様の意味での「移動する加入者」,「移動加入者」。),「静止している加入者」(及び同様の意味での「静止加入者」。)と訳すことが適切であったか否かについて検討する。

本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0009】
(中略)各セル内では,個々の加入者(例えば,携帯電話など)に対する割当についても,割当毎にセル内の全加入者を考慮に入れて割当決定が行われる各セル内の加入者に対する統合割当とは反対に,新しい加入者がシステムに追加される度に漸進的に行なわれる。」,
「【0022】
サブキャリア・クラスタリング
ここに説明する技術は,データトラフィックチャネル用のサブキャリア割当に着眼している。セルラーシステムには,通常,制御情報の交換及び他の目的のために事前に割り当てられた別のチャネルがある。これらのチャネルは,ダウンリンク及びアップリンク制御チャネル,アップリンクアクセスチャネル,及び時間・周波数同期チャネルを含んでいることが多い。」,
「【0094】
固定無線アクセスのような静止している加入者の場合,時間経過と共にチャネルが変わることは殆どない。コヒーレンスクラスタを使った選択的クラスタ割当は,良好な性能を実現する。一方,移動する加入者の場合,チャネル時間変動(時間経過に伴うチャネルの変化による変動)は非常に大きいこともある。ある時間に高ゲインのクラスタでも,別の時間には激しいフェージングに陥ることもありうる。従って,クラスタ割当は高速で更新しなければならず,制御オーバーヘッドが膨大になってしまう。この場合,ダイバーシティクラスタを使用すれば,強さを補強し,頻繁なクラスタ再割当のオーバーヘッドを軽減することができる。或る実施形態では,クラスタ割当は,しばしばチャネルドップラー速度(Hz)で計測されるチャネル変更速度,即ち,チャネルが1サイクル後には完全に異なる場合,チャネルが毎秒何サイクルで変更されるか,よりも高速で行なわれる。なお,選択的クラスタ割当は,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの両方について行なうことができる。
【0095】
或る実施形態では,移動する加入者と静止している加入者が入り混じっているセルの場合,加入者又は基地局,或いは両方に,チャネル/干渉変動検出器を実装することができる。検出結果を使って,加入者及び基地局は,セル境界線上の移動加入者又は静止加入者に対してはダイバーシティクラスタを,基地局に近い静止加入者に対してはコヒーレンスクラスタを,知的に選択する。チャネル/干渉変動検出器は,クラスタ毎に時々にチャネル(SINR)変動を測定する。例えば,或る実施形態では,チャネル/干渉検出器は,各クラスタのパイロット記号の間のパワー差を測定し,移動ウインドウに亘る差を平均する(例えば,4つのタイムスロット)。差が大きければ,チャネル/干渉が頻繁に変化し,サブキャリア割当は信頼性が低いことを示している。そのような場合,その加入者にはダイバーシティクラスタがより望ましいことになる。
【0096】
図11は,加入者の移動に基づいてダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタの間で知的選択を行うためのプロセスの或る実施形態のフロー図である。プロセスは,ハードウェア(例えば,回路,専用論理など),ソフトウェア(例えば,汎用コンピュータシステム又は専用機械上で実行されるものなど),又はその組合わせから成る処理論理によって行なわれる。
【0097】
図11に示すように,基地局の処理論理は,チャネル/干渉変動検出を行う(処理ブロック1101)。処理論理は,次に,チャネル/干渉変動検出の結果が,ユーザーが移動しているか又はセルの縁に近い静止位置にあることを示しているか否かをテストする(処理ブロック1102)。ユーザーが,移動していないか,セルの縁に近い静止位置にもいない場合,プロセスは処理ブロック1103に移り,そこで基地局の論理はコヒーレンスクラスタを選択し,それ以外の場合は,プロセスは処理ブロック1104に移り,そこで基地局の処理論理はダイバーシティクラスタを選択する。
【0098】
或る実施形態では,基地局は,パイロット信号の変化速度,即ち正規化されたチャネル変動を検出し,その変化速度が事前に設定された閾値よりも大きいことを判定することによって,加入者が移動しているのか静止しているのかを判断する。チャネル間の正規化された瞬間差は以下のように表される。
【0099】
【数3】 (数式は省略。)
【0100】
ここに,Hiはチャネルを表し,iは個々のチャネルを表すインデクスである。
【0101】
閾値はシステムによって異なる。例えば,変化速度が(何パーセント(例えば20%)でもよいが)10%より大きければ,基地局は,加入者が移動中であると結論付ける。或る実施形態では,信号送信における不変期間が,往復移動遅延の何倍か(例えば,往復移動遅延の5倍)より大きくない場合,基地局は,加入者が移動中であると判定してダイバーシティクラスタを割り当て,そうでなければ,基地局は,コヒーレンスクラスタを割り当てる。
【0102】
選択は,再教育の間に更新し知的に切り替えることができる。
【0103】
セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」
上記翻訳文に対応する国際出願時の原文の記載は以下のとおりである。
「 [0025] (中略) In one embodiment, subcarrier allocation is performed in each cell separately. Within each cell, the allocation for individual subscribers (e.g., mobiles) is also made progressively as each new subscriber is added to the system as opposed to joint allocation for subscribers within each cell in which allocation decisions are made taking into account all subscribers in a cell for each allocation.」,
「 [0038] The techniques described herein are directed to subcarrier allocation for data traffic channels. In a cellular system, there are typically other channels, pre- allocated for the exchange of control information and other purposes. These channels often include down link and up link control channels, uplink access channels, and time and frequency synchronization channels.」,
「[0106] For static subscribers, such as in fixed wireless access, the channels change very little over time. Selective cluster allocation using the coherence clusters achieves good performance. On the other hand, for mobile subscribers, the channel time variance (the variance due to changes in the channel over time) can be very large. A high-gain cluster at one time can be in deep fade at another. Therefore, cluster allocation needs to be updated at a rapid rate, causing significant control overhead. In this case, diversity clusters can be used to provide extra robustness and to alleviate the overhead of frequent cluster reallocation. In one embodiment, cluster allocation is performed faster than the channel changing rate, which is often measured by the channel Doppler rate (in Hz), i.e. how many cycles the channel changes per second where the channel is completely different after one cycle. Note that selective cluster allocation can be performed on both coherence and diversity clusters.
[0107] In one embodiment, for cells containing mixed mobile and fixed subscribers, a channel/interference variation detector can be implemented at either the subscriber or the base station, or both. Using the detection results, the subscriber and the base station intelligently selects diversity clusters to mobile subscribers or fixed subscribers at cell boundaries, and coherence clusters to fixed subscribers close to the base station. The char el/interference variation detector measures the channel (SINR) variation from time to time for each cluster. For example, in one embodiment, the channel/ interference detector measures the power difference between pilot symbols for each cluster and averages the difference over a moving window (e.g., 4 time slots). A large difference indicates that channel/interference changes frequently and subcarrier allocation may be not reliable. In such a case, diversity clusters are more desirable for the subscriber. [0108] Figure 11 is a flow diagram of one embodiment of a process for intelligent selection between diversity clusters and coherence clusters depending on subscribers mobility. The process is performed by processing logic that may comprise hardware (e.g., circuitry, dedicated logic, etc.), software (such as that which runs on, for example, a general purpose computer system or dedicated machine), or a combination of both.
[0109] Referring to Figure 11, processing logic in the base station performs channel/ interference variation detection (processing block 1101). Processing logic then tests whether the results of the channel/interference variation detection indicate that the user is mobile or in a fixed position close to the edge of the cell (processing block 1102). If the user is not mobile or is not in a fixed position close to the edge of the cell, processing transitions to processing block 1103 where processing logic in the base station selects coherence clusters; otherwise, processing transitions to processing block 1104 in which processing logic in the base station selects diversity clusters.
[0110] In one embodiment, the base station determines whether a subscriber is mobile or fixed by detecting a rate of change of pilot signals, or the normalized channel variation, and determining that the rate of change is greater than a predetermined threshold. The normalized instantaneous difference between channels may be represented as (数式省略。)where Hi represents the channel and i is the index to represent the individual channels.
[0111] The threshold is system dependent. For example, the rate of change is greater than 10% (although any precentage (e.g., 20%) could be used), then the base station concludes that the subscriber is mobile. In one embodiment, if the constant period in signaling is not greater than a multiple of the round trip delay (e.g., 5 times the round trip delay), then the base station determines that the subscriber is mobile and allocates diversity clusters; otherwise, the base station allocates coherence clusters.
[0112] The selection can be updated and intelligently switched during retraining.
[0113] The ratio/allocation of the numbers of coherence and diversity clusters in a cell depends on the ratio of the population of mobile and fixed subscribers. When the population changes as the system evolves, the allocation of coherence and diversity clusters can be reconfigured to accommodate the new system needs. Figure 12 illustrates a reconfiguration of cluster classification which can support more mobile subscribers than that in Figure 9. 」

これらの記載及びこの分野の技術常識によれば,以下の(ア)?(ウ)の事項が認められる。
(ア)加入者に関して
本件特許明細書の【0009】,【0022】(国際出願日における国際出願の明細書の[0025],[0038]。以下,単に段落番号のみを示す。)の記載から,加入者にはセルラーシステムの「個々の加入者(例えば,携帯電話など)」(individual subscribers (e.g., mobiles))が含まれると認められる。ここで,「mobiles」は「携帯電話など」であって,移動中のものばかりでなく,偶々静止しているものも含まれることは明らかである。
また,【0094】([0106])には,「固定無線アクセスのような静止している加入者の場合,時間経過と共にチャネルが変わることは殆どない。」との記載がある。ここで,ITUの勧告は当業者にその内容が当然に把握され技術常識として共有されるものであるところ,固定無線アクセスに関するITUの勧告(Rec.ITU-R F.1490 「GENERIC REQUIREMENT FOR FIXED WIRELESS ACCESS SYSTEMS」(2000)の「4.1 FWA supported from a mobile network」参照。)を参酌すれば,モバイルネットワークを利用して固定無線アクセスを行い得ることは明らかであるから,加入者には固定無線アクセスのような静止している加入者,すなわち,静止していることが前提の加入者も含まれると認められる。更に,上記勧告(Rec.ITU-R F.1490 「GENERIC REQUIREMENT FOR FIXED WIRELESS ACCESS SYSTEMS」(2000)の「3.2 FMC system」,「5 Mobility of FWA terminals」参照。)を参酌すれば,固定無線アクセスにおける固定無線アクセス端末は,固定されたものの他に,オプションとして制限された移動性がサポートされたものもあり得ると解する余地がある。
以上のことから,本件特許発明における「加入者」には,移動可能であって移動中の者,移動可能であるが偶々静止している者,静止していることが前提の固定された者,静止していることが前提であるが限られた移動度を有する者が含まれ得ると認められる。

一方,本件特許明細書の【0095】([0107])の記載によれば,「知的切換」においては,加入局及び基地局は,チャネル/干渉変動検出器の検出結果を使って,セル境界線上の移動加入者又は静止加入者(mobile subscribers or fixed subscribers at cell boundaries)に対してはダイバーシティクラスタを,基地局に近い静止加入者(fixed subscribers close to the base station)に対してはコヒーレンスクラスタを,知的に選択するものであり,【0097】([0109])の記載によれば,チャネル/干渉変動検出の結果が,ユーザーが移動しているか又はセルの縁に近い静止位置にあること(the user is mobile or in a fixed position close to the edge of the cell)を示しているか否かをテストして,ユーザーが,移動していないか,セルの縁に近い静止位置にもいない場合(the user is not mobile or is not in a fixed position close to the edge of the cell)はコヒーレンスクラスタを選択し,それ以外の場合はダイバーシティクラスタを選択するものである。
更に,【0098】([0110])の記載によれば,ある実施例では,基地局は,パイロット信号の変化速度,即ち正規化されたチャネル変動を検出し,その変化速度が事前に設定された閾値よりも大きいことを判定することによって,加入者が移動しているのか静止しているのかを判断するものであり,【0101】([0111])の記載によれば,チャネル変動の変化速度が閾値より大きければ,基地局は,加入者が移動中である(the subscriber is mobile)と結論付け,或る実施形態では,信号送信における不変期間が,例えば往復移動遅延(the round trip delay)の5倍より大きくない場合,基地局は,加入者が移動中である(subscriber is mobile)と判定してダイバーシティクラスタを割り当て,そうでなければ,基地局は,コヒーレンスクラスタを割り当てるものである。
そして,技術常識に照らせば,加入者が移動している場合は,周波数選択的にSINR変動が大きく,一方,加入者が基地局の近くに静止している場合はSINRが安定的に高く,加入者がセル境界に静止している場合は,セル間干渉により周波数選択的にSINRが劣化することは当業者に自明である。ここで,例えば加入者がセル境界に静止していても干渉源が隣接セル内で移動している場合はSINRが変動する可能性があるが,セル境界ではSINRがそもそも劣化していることに鑑みれば,チャネル変動の変化速度が閾値より大きくなるのは加入者が移動している場合が大勢を占めると推察される。
ここで,当該実施例によれば,実際には移動しているもののチャネル変動の変化速度が閾値より大きくなければ加入者が移動中である(subscriber is mobile)と判断されず,また,実際には固定されていてもセル間干渉等により,チャネル変動の変化速度が閾値より大きければ加入者が移動中である(subscriber is mobile)と判断されることになり,厳密に移動中又は静止していることを反映しているわけではない。しかしながら,ダイバーシティクラスタ又はコヒーレンクラスタの割り当てにおいては,厳密に移動中又は静止していることを判別する必要性はないから,チャネル変動の変化速度が閾値より大きい加入者を移動加入者(mobile subscribers),それ以外,すなわちチャネル変動の変化速度が閾値より大きくない加入者を静止加入者(fixed subscribers)と定義することは可能であると考えられる。

したがって,移動可能であって移動中の者,移動可能であるが偶々静止している者,静止していることが前提の固定された者,静止していることが前提であるが限られた移動度を有する者について,チャネル変動の変化速度が閾値より大きい加入者を「移動中の加入者」とし,チャネル変動の変化速度が閾値より大きくない加入者を「静止している加入者」とすることは,本件特許明細書(国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面)に記載した事項の範囲内のものといえる。

(イ)クラスタ分類の再構成
請求項1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」との記載によれば,当該段階は加入者に対するクラスタの割り当てではなく,クラスタ分類の再構成に関する事項であることは明らかである。
一方,本件特許明細書の【0008】?【0102】([0024]?[0112])の記載は主に加入者に対するクラスタの割り当てに関する記載であり,クラスタ分類の再構成に関しては【0023】と【0103】([0039],[0113])に記載されるのみであるところ,上記1(2)イ及びウ,上記1(3)ウのとおり,「加入者に対するクラスタの割り当て」と「クラスタ分類の再構成」とは異なる概念である。
しかしながら,クラスタ分類の再構成は,セル内のコヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者とダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者数の人数が変わり,例えばダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者の割合が増えた場合に,クラスタ割当に際して当該加入者をサポートできるように全クラスタの数に対するダイバーシティクラスタの数の割合を増やすものといえる。してみれば,ダイバーシティクラスタを割り当てるのか否かがチャネル変動の変化速度が閾値より大きいか否かで決定されるのであれば,予め用意しておくダイバーシティクラスタの数の割当てについても,同じくチャネル変動の変化速度が閾値より大きい者の数(の比率)に基づいて設計されることは自然なことである。
したがって,クラスタ割当に係る【0094】?【0101】([0106]?[0111])の記載におけるmobile subscribers/fixed subscribers の定義は,クラスタ分類の再構成においても採用され得るものと考えられる。

(ウ)クラスタを再構成する時
国際出願時の請求項9は「reconfiguring cluster classification when population of mobile and fixed subscribers in a cell changes」と記載されており,上記(イ)のとおりクラスタ分類の再構成においても採用され得るクラスタ割当に係るmobile subscribers/fixed subscribers の定義に従って翻訳したものが,本件特許発明1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する」であるから,当該翻訳は国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
また,本件特許明細書の【0103】([0113])に「システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。」(When the population changes as the system evolves, the allocation of coherence and diversity clusters can be reconfigured to accommodate the new system needs.)と記載されているように,ダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性があると予想される人数(人口)とコヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性があると予想される人数(人口)との比率が大きく変化して,何れかのクラスタが常に不足することにより加入者を十分にサポートできなくなるような時には,クラスタ構成を見直してダイバーシティクラスタの数とコヒーレンスクラスタの数の比率を変更することは自然なことである。
ここで,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」を把握するには,加入者が移動しているか否かを判別する必要があるが,【0103】([0113])には移動加入者と静止加入者の人数が変わることをどのようにして把握するのか明らかにされていない。しかしながら,【0098】?【0101】([0110]?[0111])に記載された実施例においては,チャネル変動の変化速度が閾値より大きいか否かで加入者が移動しているか静止しているのかを判別しており,上記(イ)のとおり,ダイバーシティクラスタを割り当てるのか否かがチャネル変動の変化速度が閾値より大きいか否かで決定されるのであれば,予め用意しておくダイバーシティクラスタの数の割当ても,チャネル変動の変化速度が閾値より大きい者の数(の比率)に基づいて設計されることは自然なことであるから,クラスタ分類の再構成にあたり人数の変化を把握するために加入者が移動しているか否かを判別することは,本件特許明細書全体の記載からみて普通に理解できることである。

以上の(ア)?(ウ)のとおり,本件特許明細書の開示内容に照らせば,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」(及び同様の意味での「移動する加入者」,「移動加入者」。),「静止している加入者」(及び同様の意味での「静止加入者」。)と訳すことは,【0098】([0110])等の実施例に整合するものであり,本件特許明細書(国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面)に記載し事項の範囲内であるといえるから,適切なものである。

ウ 「mobile subscribers」を「移動加入者」,「移動中の加入者」と訳し,「fixed subscribers」を「静止加入者」,「静止している加入者」と訳すことの影響について
上記アのとおり,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」,「静止している加入者」と翻訳することは必ずしも一般的であるとはいえず,また,移動可能であるが偶々静止している者は,「mobile subscribers」ではなく「fixed subscribers」に含まれることになる。
しかしながら,上記イ(ア)のとおり,【0098】?【0101】([0110]?[0111])の実施例では,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」,「静止している加入者」と定義していることが読み取れ,本件特許発明1は「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する」ことを構成要件としているから,当該実施例に限定されたものと理解することができる。そして,当該構成要件に鑑みれば,本件特許発明1の技術的範囲は明確であり,また,上記イ(イ),(ウ)のとおり,本件特許明細書(国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面)に記載した事項の範囲内であるといえる。
したがって,一般的な訳語(定訳)と異なるとの理由によっては,原文新規事項に該当するとはいえない。

なお,本件特許発明1は,どのようにしてダイバーシティクラスタ又コヒーレンスクラスタの割り当てを行っているのか特定していないことから,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」を「移動加入者」,「固定加入者」と翻訳した場合は,【0095】?【0102】([0107]?[0112])のチャネル/干渉変動検出器を利用した「知的選択」を行う実施例に限定されるものではない。しかしながら,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」(及び同様の意味での「移動加入者」。),「静止している加入者」(及び同様の意味での「静止加入者」。)と訳した場合に相当する【0098】?【0101】([0110]?[0111])の実施例が存在する以上,単に特許発明の技術的範囲が減縮されているにすぎず,当該発明に係る特許を無効にするまでの理由はないというべきである。

以上のとおり,「mobile subscribers」,「fixed subscribers」をそれぞれ「移動中の加入者」(及び同様の意味での「移動加入者」。),「静止している加入者」(及び同様の意味での「静止加入者」。)と訳すことは,原文新規事項に該当しない。

(3)まとめ
上記(2)のとおりであるから,本件特許の請求項1及び3に係る発明は,国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないとはいえず,特許法第184条の18で読み替えた同法第123条第1項第5号には該当しない。


3 無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1
上記「第2」の項で本件特許発明1として認めたとおりである。

ここで,無効理由1及び無効理由2の検討では,便宜上,請求人が採用した以下の分説を採用する。
「【請求項1】
1A OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
1B 少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階と,
1C 少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階と,
1D セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階
1E から成ることを特徴とする方法。

【請求項3】
3A 前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階は,前記1つのダイバーシティクラスタのサブキャリア全体に亘るチャネル符合化段階を含んでいる
3B ことを特徴とする請求項1に記載の方法。」

(2)引用発明
ア 甲第2号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(Hermann Rohling and Rainer Grunheid, "PERFORMANCE COMPARISON OF DIFFERENT MULTIPLE ACCESS SCHEMES FOR THE DOWNLINK OF AN OFDM COMMUNICATION SYSTEM"(仮訳)「OFDM通信システムの下りリンクのための異なるマルチプルアクセス方式のパフォーマンスの比較」, IEEE 47th Vehicular Technology Conference, Volume 3, 4 May 1997, pp 1365-1369)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「I. INTRODUCTION
In recent years, the well-known multicarrier transmission technique (OFDM) has not only been applied to broadcast systems like digital terrestrial television and radio (DTVB,DAB), but has also been discussed for use in mobile communications. Since the performance of a multi-user system highly depends on a suitable multiple access technique, the question arises as to concepts for an efficient multiple access scheme specific for the OFDM transmission technique.」(1365頁左欄10?18行)
(仮訳)
「I. 緒言
近年,その良く知られたマルチキャリア伝送技術(OFDM)は,デジタル地上テレビ及びラジオ(DTVB,DAB)のような放送システムに適用されているばかりでなく,移動通信での使用について議論されている。マルチユーザーシステムのパフォーマンスは適切なマルチプルアクセス方式に高く依存するので,OFDM伝送技術の固有の効率的なマルチプルアクセス方式に対するコンセプトについて問題が生じる。」

(イ)「II. SYSTEM PARAMETERS AND RADIO CHANNEL MODEL
In the OFDM communication system considered throughout this paper, a frame structure according to Fig.1 is assumed. The total frame consists of 128OFDM symbols, where symbols for up- and downlink are arranged in a time division duplex (TDD) structure. In the uplink, a TDMA approach is applied, and reference symbols are needed for each user due to incoherent demodulation (see below). In contrast, three different multiple access schemes are considered for the downlink, as already mentioned.」(1365頁左欄下から4行?同頁右欄7行)
(仮訳)
「II. システムパラメータ及び無線チャネルモデル
本論文をとおして検討されるOFDM通信システムにおいて,図1に従ったフレーム構造が想定される。全フレームは128OFDMシンボルからなり,上り及び下りリンクのシンボルは,時分割複信(TDD)構造で配置される。上りリンクにおいてはTDMAアプローチが適用され,非コヒーレント復調のため各ユーザーに対して参照シンボルが必要になる(下記参照)。それに対し,既に述べたように,下りリンクについては,3つの異なるマルチプルアクセス方式が検討される。」

(ウ)「Forward error correction is realized in the form of punctured convolutional codes with soft decision.」(1365頁右欄18?19行)
(仮訳)
「軟判定によるパンクチャード畳み込み符号の形で前方誤り訂正が実現される。」

(エ)「In the considered system, a mobile receiver is assumed in a cellular environment (cell radius ≒ 250m). The radio channel is chosen to be frequency-selective and time-variant. The power delay profile, which has been derived from measurements, is exponentially decreasing, with a maximum delay of 5 μs. As for the Doppler power spectrum, a Jakes distribution with a maximum doppler frequency of f_(Dmax)=70 Hz is taken into account (f_(0)=2.5 GHz).」(1365頁右欄下から5行?1366頁左欄3行)
(仮訳)
「検討したシステムにおいて,セルラー環境(セル半径≒250m)における移動受信機が想定される。その無線チャネルは,周波数選択性かつ時変のものが選択される。測定から導かれた電力遅延プロファイルは,最大遅延5マイクロ秒であり,指数関数的に減少する。ドップラー電力スペクトラムについて,最大ドップラー周波数がf_(Dmax)=70HzのJakes分布が考慮される(f_(0)=2.5GHz)。」

(オ)「III. ACCESS SCHEMES FOR OFDM
This section concisely outlines the multiple access schemes OFDM-FDMA, OFDM-TDMA, and OFDM-CDMA, before comparisons are drawn with respect to flexibility and computation complexity. Furthermore, simulation results concerning the BER performance are presented and discussed.」(1366頁左欄4?9行)
(仮訳)
「III. OFDMのためのアクセス方式
柔軟性及び計算複雑性についての比較を行う前に,このセクションは,マルチプルアクセス方式であるOFDM-FDMA,OFDM-TDMA,及びOFDM-CDMAを簡潔に概説する。更に,BERパフォーマンスについてのシミュレーション結果が提示され,議論される。」

(カ)「A. Description
A general schematic overview of the considered multiple access schemes is shown in Fig.2, where the time-frequency plane is dipicted, and each square represents one subcarrier in a specific OFDM symbol. The allocation of subcarriers to the users is visualized by different shades of gray.
An FDMA approach for OFDM implies that an unambiguous subset of all carriers is assigned to each user (Fig.2, top). This allocation represents a purely digital subcarrier management, and it is not fixed, but can be adapted, e.g. for each downlink frame. Aspects concerning an "intelligent" adaptive subcarrier management are addressed in section III.B.」(1366頁左欄10行?同頁右欄3行)
(仮訳)
「A. 詳細な説明
検討されるマルチプルアクセス方式の概要模式図が図2に示される。図2では,時間-周波数平面が描かれ,各四角は特定のOFDMシンボルにおける1つのサブキャリアを表す。ユーザーに対するサブキャリアの割り当ては,異なる濃淡により可視化される。
OFDMに対するFDMAのアプローチは,全てのキャリアの明確なサブセットが各ユーザーに割り当てられることを含む(図2上)。この割り当ては,純粋なデジタルサブキャリア管理を表し,また,それは固定的ではなく,例えば各下りリンクフレーム毎に,適応され得る。“知的な”適応的サブキャリア管理に関する側面は,セクションIII.Bで扱われる。」

(キ)「B. Flexibility
An efficient multiple access scheme should grant a high flexibility when it comes to the allocation of time-bandwidth ressources. On the one hand, the behaviour of the frequency-selective radio channel should be taken into account, while on the other hand the user requirements for different and/or changing data rates have to be met.
In OFDM-FDMA, this flexibility can be accomplished by suitably choosing the subcarriers associated with each user. Here, the fact that each user experiences a different radio channel can be exploited by allocating only "good" subcarriers with high SNR to each user. Furthermore, the number of subchannels for a specific user can be varied, according to the required data rate.
Since the OFDM-TDMA concept allocates the total bandwidth to a single user, a reaction to different subcarrier attenuations could consist of leaving out highly distorted subcarriers, see [1]. Concerning different/varying data rates, the number of OFDM symbols per user in each frame can be adapted accordingly.」(1366頁右欄15?34行)
(仮訳)
「B. 柔軟性
時間-帯域幅リソースの割り当てに関して言えば,効率的なマルチプルアクセス方式は,高い柔軟性を与えるべきである。他方では,周波数選択性無線チャネルの挙動が考慮に入れられなければならず,それに対して,異なる及び/又は変化するデータレートに対するユーザー要求が満たされなければならない。
OFDM-FDMAにおいて,この柔軟性は各ユーザーに関連付けられるサブキャリアを適切に選択することにより達成できる。ここで,各ユーザーが異なる無線チャネルを経験するという事実は,高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当てることにより利用されている。更に,特定のユーザーに対するサブチャネルの数は,必要なデータレートに従って変り得る。
OFDM-TDMAのコンセプトは,全体帯域幅を1ユーザーに割り当てるものであるため,サブキャリアの異なる減衰への対応として,非常に歪んだサブキャリアを除外することがあり得,[1]を参照されたい。異なる/変化するデータレートに関して,各フレームにおけるユーザーあたりのOFDMシンボルの数はそれに応じて適応される。」

(ク)「C. Computation Complexity and Signalling
The complexity which is associated with the different multiple access algorithms highly depends on the adaptive methods that are applied in each system. Generally, some sort of signalling infornation (see Fig.1) about the subcarrier/code allocation has to be created at the base station and to be processed at the mobile receivers.」(1366頁右欄下から3行?1367頁左欄4行)
(仮訳)
「C. 計算複雑性とシグナリング
異なるマルチプルアクセスアルゴリズムと関連付けられた複雑性は,各システムに適用される適応方法に大きく依存する。一般に,サブキャリア/符号割り当てに関する何らかのシグナリング情報(図1参照)が基地局において作成され,移動受信機において処理されなければならない。」

(ケ)「Hence, for K=256 subcarriers and user numbers of U=8, 16, and 32, furthermore considering DQPSK modulation and a code rate of 1/3 for FEC, the following overhead (relative to the frame length of 128) has to be used for the above mentioned signalling information:
Access Scheme 8users 16users 32users
OFDM-TDMA 6.4% 6.9% 7.9%
OFDM-FDMA 1.0% 2.1% 4.1%
OFDM-CDMA 6.4% 6.9% 7.9%
Thus, it can be seen that the required overhead is higher for FDMA and CDMA because a user number (5 bit) has to be transmitted for each subcarrier (FDMA) / code (CDMA). The maximum overhead is below 8% in all cases.」(1367頁左欄19?27行)
(仮訳)
「したがって,K=256のサブキャリア,及びユーザー数がU=8,16及び32について,更に,DQPSK変調,及びFECの符号化率1/3を考えた場合,以下のオーバーヘッド(フレーム長128との比較)が,上述したシグナリング情報のために使用されなければならない。
アクセス方式 8ユーザー 16ユーザー 32ユーザー
OFDM-TDMA 6.4% 6.9% 7.9%
OFDM-FDMA 1.0% 2.1% 4.1%
OFDM-CDMA 6.4% 6.9% 7.9%
したがって,必要なオーバーヘッドは,FDMAもしくはCDMAで高いことがわかる。なぜならば,ユーザー番号(5ビット)が各サブキャリア(FDMA)/符号(CDMA)に対して送信されなければならないからである。全ての場合で,最大オーバーヘッドは8%未満である。」

(コ)「D. Comparison of BER Performance
(中略)
A number of U=8 users is chosen as an example, where each user transmits the same data rate in the downlink. For TDMA, this implies as equal number of OFDM symbols in each downlink frame (all subcarriers used). In the case of FDMA, the total bandwidth is divided into 8 groups of 32 subcarriers. It is assumed that each user can be allocated the most suitable subcarriers, i.e. with highest SNR (optimal subcarrier allocation withiout "collisions" between users). To gain access to information about the radio channel for different users, the OFDM symbols received in the uplink frame within the TDD structure can be analysed.」(1367頁左欄下から5行,同頁右欄1?11行)
(仮訳)
「D. BERパフォーマンスの比較
(中略)
U=8人のユーザーが例として選択される。各ユーザーは下りリンクで同じデータレートで送信する。TDMAについて,このことは各下りリンクフレーム(全てのサブキャリアが使用される)においてOFDMシンボル数が同じであることを意味する。FDMAの場合,全体帯域幅は,32サブキャリアの8グループに分けられる。各ユーザーには最も適切なサブキャリア,すなわち最も高いSNRを有するサブキャリアを割り当てることができることが想定される(ユーザー間での“衝突”なしの最適サブキャリア割り当て)。異なるユーザーの無線チャネルに関する情報へのアクセスを得るために,TDD構造の中の上りリンクフレームにおいて受信したOFDMシンボルが解析され得る。」

(サ)「In Fig.3, Fig.4, and Fig.5, the performance of OFDM-TDMA, CDMA, and FDMA is plotted when using convolutional codes (memory length 6) with different code rates. It can clearly be seen that OFDM-CDMA leads to a better performance than OFDM-TDMA, due to different demodulation schemes and an additional diversity gain for CDMA. A difference of about 4 dB is observed at a BER of 10^(-3).」(1367頁右欄下から19?13行)
(仮訳)
「図3,図4,及び図5に,異なる符号化率の畳み込み符号(メモリ長6)を使用した場合におけるOFDM-TDMA,CDMA,及びFDMAのパフォーマンスがプロットされる。異なる復調方式及びCDMAについての付加的ダイバーシティゲインによりOFDM-CDMAは,OFDM-TDMAよりも良いパフォーマンスになっていることが明確にわかる。BER10^(-3)において約4dBの違いが観察される。」

(シ)「A coherent demodulation implies that pilot symbols are inserted in an OFDM symbol. This redundancy can, on the other hand, be used for a more powerful channel coding in the case of incoherent demodulation because no channel estimation is required here. Thus, a comparison at the same data rate leads to different code rates for FDMA/TDMA (incoherent) and CDMA (coherent).
Clearly, the amount of pilot symbols needed for channel estimation depends on the characteristics of the radio channel (maximum delay, doppler frequency). If approx. 11% redundancy in the form of pilot symbols is considered as an example, a code rate of 2/3 can be used for incoherent demodulation (FDMA, TDMA) and of 3/4 for OFDM-CDMA. The corresponding results for a fixed user data rate are summarized in Fig.6.」(1368頁右欄1?15行)
(仮訳)
「コヒーレント復調は,パイロットシンボルがOFDMシンボルの中に挿入されることを意味する。他方,この冗長性は,非コヒーレント復調の場合におけるより強力なチャネル符号化のために使用することができる。ここではチャネル推定が不要だからである。したがって,同じデータレートの比較は,FDMA/TDMA(非コヒーレント)及びCDMA(コヒーレント)に対する異なる符号化率ということになる。
明らかに,チャネル推定に必要なパイロットシンボルの量は,無線チャネルの特性(最大遅延,ドップラー周波数)に依存する。例として,パイロットシンボルの形で約11%の冗長性を考えた場合,非コヒーレント復調(FDMA,TDMA)に2/3の符号化率を使用でき,OFDM-CDMAに3/4の符号化率を使用できる。固定したユーザーデータレートに対する対応する結果は図6に要約されている。」

(ス)「As a result from this comparison, it can be observed that OFDM-FDMA leads to the best performance for the considered system because information about the radio channel is taken into account, allocating only suitable subcarriers with high SNR to each user. Clearly, the advantage of FDMA vs. CDMA depends on the system parameters and the channel characteristics, e.g. the possibility of an adaptation in a time-variant channel (frame length vs. coherence time of the channel). Moreover, an adaptation to the radio channel for CDMA is also conceivable by adaptively choosing ths subset of carriers over which the modulation symbols are spread for each user. This is subject to further investigation.」(1368頁右欄下から12?末行)
(仮訳)
「この比較の結果により,検討しているシステムにおいてOFDM-FDMAが最良のパフォーマンスになることがわかる。なぜならば,無線チャネルに関する情報が考慮され,各ユーザーに高いSNRの適したサブキャリアのみが割り当てられるからである。明らかに,CDMAに対するFDMAの利点は,例えば時変チャネルにおける適応の可能性(フレーム長対チャネルのコヒーレンス時間)である,システムパラメータとチャネル特性に依存する。更に,各ユーザーに対して変調シンボルが拡散されたキャリアのサブセットを適応的に選択することにより,CDMAにおける無線チャネルに対する適応もまた考えられる。」

(セ)「IV. CONCLUSION
In this paper, the performance of different multiple access schemes for the downlink of an OFDM transmission system has been studied. The characteristics of the access methods OFDM-TDMA, OFDM-FDMA, and OFDM-CDMA have been outlined. Some remarks about computation complexity and flexibility with regard to data rate and radio channel adaptation have been made, before the BER performance in a frequency-selective and time-variant radio channel has been compared in the coded case (convolutional codes with soft decision). As a result, OFDM-FDMA, with an adaptation to the user-specific radio channels, leads to the best performance for the given parameters, if an optimal subcarrier allocation is assumed, followed by OFDM-CDMA and OFDM-TDMA. With a fixed user data rate, a gain of about 4 dB of FDMA vs. CDMA at a BER of 10^(-3) is observed, while OFDM-TDMA performs approx. 3 dB worse. If a loss due to real channel estimation is considered, the difference to OFDM-CDMA can be expected to shift in favour of OFDM-TDMA and FDMA. Finally, it should be emphasized that the analysed TDMA and FDMA approach with incoherent demodulation can do without a channel estimation procedure, thus reducing the computation complexity in each mobile receiver.」(1369頁左欄1?23行)
(仮訳)
「IV. 結論
この論文では,OFDM伝送システムの下りリンクにおける異なるマルチプルアクセス方式のパフォーマンスが検討された。OFDM-TDMA,OFDM-FDMA,及びOFDM-CDMAのアクセス方法の特性が概説された。符号化されたケース(軟判定の畳み込み符号)において,周波数選択的及び時変の無線チャネルにおけるBERパフォーマンスが比較される前に,データレート及び無線チャネル適応についての計算複雑性及び柔軟性についていくつかの見解が述べられた。その結果,最適なサブキャリア割り当てが想定される場合に,与えられたパラメータにおいてユーザー固有無線チャネルへの適応を備えたOFDM-FDMAが最良のパフォーマンスとなり,OFDM-CDMAとOFDM-TDMAがそれに続いた。固定ユーザーデータレート,BERが10^(-3)において,CDMAに対しFDMAは約4dBのゲインが観測され,一方,OFDM-TDMAのパフォーマンスは約3dB劣る。もしも実際のチャネル推定による損失を考慮したとすると,OFDM-CDMAに対する差分は,OFDM-TDMAとFDMAに有利なようにシフトすることが期待される。最後に,非コヒーレント復調を伴う分析されたTDMAとFDMAのアプローチはチャネル推定手順なしで行うことができ,そのために,各移動受信機の計算複雑度を減少させる,ということは強調されるべきである。」

そして,図2には,「Figure 2. Overview of different multiple access for OFDM: FDMA(top), TDMA(middle), CDMA(bottom) 」(仮訳)「図2.OFDMのための異なるマルチプルアクセスの概観:FDMA(上),TDMA(中),CDMA(下)」として,
時間方向に1?9番目のマス目については,周波数方向に1,2,5,6,15,16番目のマス目は濃いグレーとされ,周波数方向に3,4,12?14番目のマス目はグレーとされ,周波数方向に7?11番目のマス目は薄いグレーとされ,
時間方向に10?13番目のマス目については,周波数方向に1,2,5,6番目のマス目は濃いグレーとされ,周波数方向に3,4,10?16番目のマス目はグレーとされ,周波数方向に7?9番目のマス目は薄いグレーとされ,
時間方向に14?20番目のマス目については,周波数方向に5?9番目のマス目は濃いグレーとされ,周波数方向に10?16番目のマス目はグレーとされ,周波数方向に1?4番目のマス目は薄いグレーとされている。

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると,

a 上記(ア),(イ),(オ)?(キ),(コ)及び図2の記載によれば,甲第2号証には,OFDM-FDMAにおいて複数のユーザにサブキャリアの割り当てを行うことが記載されているといえる。

b 上記(カ),(キ),(コ)の記載によれば,OFDM-FDMAにおいてサブキャリアの割り当てを行う際に,“知的な”適応的サブキャリア管理を行うものであり,周波数選択性無線チャネルの挙動が考慮されるものといえる。そして,各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当てることにより,各ユーザーに関連付けられるサブキャリアを適切に選択することとなり,柔軟性が達成できるものである。また,ユーザーに割り当てられるサブキャリアの数は,当該ユーザーが必要とするデータレートに従って変わり得るものである。

c 図2の記載によれば,上記手順を行った結果,t1?t9(便宜上,時間方向のマス目をt1?t20と表記する。)では,濃いグレーのユーザにはf1,f2,f5,f6,f15,f16(便宜上,周波数方向のマス目をf1?f16と表記する。)のサブキャリアが割り当てられ,グレーのユーザにはf3,f4,f12?f14のサブキャリアが割り当てられ,薄いグレーのユーザにはf7?f11のサブキャリアが割り当てられ,t10?t13では,濃いグレーのユーザにはf1,f2,f5,f6のサブキャリアが割り当てられ,グレーのユーザにはf3,f4,f10?f16のサブキャリアが割り当てられ,薄いグレーのユーザにはf7?f9のサブキャリアが割り当てられ,t14?t20では,濃いグレーのユーザにはf5?f9のサブキャリアが割り当てられ,グレーのユーザにはf10?f16のサブキャリアが割り当てられ,薄いグレーのユーザにはf1?f4のサブキャリアが割り当てられることが例示されていると認められる。
そして,OFDM-FDMAは複数のサブキャリアを分割して多元接続するものであるから,各ユーザがそれぞれに割り当てられたサブキャリアを同時に使用して,複数のユーザとの通信が生じることは明らかである。

以上を総合すると,甲第2号証には以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「OFDM-FDMAにおいて複数のユーザに“知的な”適応的サブキャリア管理によりサブキャリアの割り当てを行う際に使用する方法において,
周波数選択性無線チャネルの挙動を考慮して,各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当て,
それぞれ割り当てられたサブキャリアを同時に使用して複数のユーザとの通信が生じる,
方法。」

イ 甲第3号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平11-308153号公報)には,「周波数ホッピング方式」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,周期的に周波数が切り替えられる周波数ホッピングが行われる周波数ホッピング方式に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来技術の説明をする。図12は従来の周波数ホッピングのシステムを示す図である。図12において10は移動局である,20は基地局であり,移動局10との間でデータが送受信される。30は基地局20によって形成される無線セルであり,基地局20と移動局10との間でデータの送受信が行われる範囲を示す。図は7セル繰り返しの構成を表しており,7つの周波数群により全サービスエリアを覆えることを示している。図12中の斜線の部分が繰り返しエリアであり,この繰り返しの単位となるセル数を繰り返しセル数という。
【0003】次に図12に示す従来の周波数ホッピングのシステムについて説明する。図12において繰り返しエリア内全ての移動局10及び各基地局20を管理する集中制御局(図示せず)があらかじめ定めた周波数ホッピング系列を基地局に指定し,その情報を受けた基地局が移動局に対して周波数を指定し一定のホッピング周期で周波数ホッピングを行うことによって,繰り返しエリア内の全ての移動局に対して同一周波数干渉電力の分散化を図る。
【0004】図13はあるセルに対して周波数f1,f2,f3が与えられた場合に考えられるホッピング系列c1,c2,c3,c4,c5,c6を表したものである。例えば図12においてセルA内で周波数f1,f2,f3が与えられ,セルB内でも周波数f1,f2,f3を与えられたとする。セルA内では一定のホッピング周期でホッピング系列c1,c2,c3にしたがって移動局m1,m2,m3はそれぞれ周波数ホッピングを行う。セルBではホッピング系列c4,c5,c6にしたがって,移動局m4,m5,m6はそれぞれ周波数ホッピングを行う。
【0005】図14にセルA内の移動局m1,m2,m3が周波数ホッピングを行う様子を時間軸上に表す。移動局m1はバーストB1,B2,B3を出力する時,それぞれ周波数f1,f2,f3を使用し,移動局m2はバーストB1,B2,B3を出力する時,それぞれ周波数f2,f3,f1を使用し,移動局m3はバーストB1,B2,B3を出力する時,それぞれ周波数f3,f1,f2を使用する。なお,バーストB1,B2,B3とは,音声等の原データを分割して,ヘッダ等を付加したものである。すなわちセルA内の移動局m1,m2,m3が使用する周波数ホッピング系列c1,c2,c3は同一時間において互いに同じ周波数が割り当てられることはない。このことはセルB内で移動局m4,m5,m6が使用する周波数ホッピング系列c4,c5,c6についても同様である。これにより,セルA内の移動局m1,m2,m3それぞれがセルB内の移動局m4,m5,m6から影響を受ける同一周波数干渉電力は3バーストに一度となる。このように干渉の影響を強く受けている移動局は周波数ダイバーシチ効果により所要希望波対同一周波数干渉電力比を低減することができる。このように動作するシステムとしては文献「特開平5-110499 移動通信方式」または文献「特開平6-334630 スペクトル拡散通信方法」に示されている。」(2頁1?2欄)

(イ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記のような従来の周波数ホッピング方式では,周波数ホッピングを行いながら高速移動通信を行う移動局は,周波数ホッピングを行いながら低速移動通信を行う移動局と比較して,スローフェージングの影響を強く受けているために,周波数ホッピングを行っても,周波数ダイバーシチの効果が得られないという問題があった。また周波数ホッピングを行う移動局が高速移動を行いながら,セル間を移動する場合,ハンドオフ時に必要とされる処理が多くなるという問題があった。また,移動局が1フレーム中に複数バーストを使用する場合,干渉等の影響を受ける時,1フレーム中に単一バーストを使用する場合と比較して,通信品質が劣化するという問題があった。また,移動局の受信状況に関係なく,一つの周波数ホッピング系列を使用し周波数ホッピングが行われるために,受信状況の悪いホッピング周波数を使用しているバーストが周波数ホッピングの周期毎に存在するという問題があった。
【0009】本発明は,この問題に鑑みてなされたものであり,移動局と基地局との間での通信が行われる時,移動局の移動速度に基づき周波数ホッピングを行い,高速移動する移動局に対して,ハンドオフ時に必要とされる情報を軽減する周波数ホッピング方式を提供することを目的とする。また,本発明は,移動局が1フレーム中に複数バーストを使用している場合と単一バーストを使用している場合で周波数ホッピングの周期を変更し,優れた通信品質の周波数ホッピング方式を提供することを目的とする。また,本発明は,受信状況に基づいて周波数ホッピングの周期をずらし,優れた通信品質の周波数ホッピング方式を提供することを目的とする。」(3頁4欄)

(ウ)「【0014】
【発明の実施の形態】実施の形態1.本発明による周波数ホッピング方式の一実施の形態を,図1を用いて説明する。この図1は実施の形態1の周波数ホッピング方式を示す概念図である。図1において,図12に示す従来例と同一又は相当の部分には,同一符号を付してその説明を省略し,図12と相違する部分について説明した。
【0015】次に図1に示す周波数ホッピング方式の動作について説明する。図1には無線セル30の配置が示されており,各無線セル30は対応する基地局20を中心として,基地局20と移動局10との間でデータの送受信が行われる範囲を示す。図1において,移動局10が高速で移動している場合には移動局10と基地局20との間で周波数ホッピングは行われず,移動局10が低速で移動若しくは静止している場合には移動局10と基地局20との間で周波数ホッピングが行われる。つまり,この実施の形態1の周波数ホッピング方式では,移動局10の移動速度に基づき,移動局10と基地局20との間で周波数ホッピングを行うか否かが区別される。
【0016】例えばセルAに周波数F1,F2,F3,F4が与えられた場合の,そのセルAに与えられる周波数ホッピング系列z1?z7について,図2を用いて説明する。なお,セルAのうちには移動局M1,M2,M3,M4がいるものとする。また,横軸は時間軸である。さらに,周波数ホッピング系列z1?z7は順番に,第一の周波数ホッピング系列,第二の周波数ホッピング系列,第三の周波数ホッピング系列,第四の周波数ホッピング系列,第五の周波数ホッピング系列,第六の周波数ホッピング系列,第七の周波数ホッピング系列とする。
【0017】また,移動局M1?M4は順番に,第一の移動局,第二の移動局,第三の移動局,第四の移動局とする。まず,移動局M1には周波数ホッピング系列z1が割り当てられ,移動局M2には周波数ホッピング系列z2が割り当てられ,移動局M3には周波数ホッピング系列z3が割り当てられ,移動局M4には周波数ホッピング系列z4が割り当てられるものとする。そして,まず,基地局20から出力されたデータがバーストB1のタイミングで各移動局M1?M4に受信された時を考える。この時,例えば移動局M1が高速で移動している場合には,次なるバーストB2のタイミングでも移動局M1は引き続き周波数F1を使用する。
【0018】一方,例えば移動局M2が低速で移動若しくは静止している場合には,次なるバーストB2のタイミングでは移動局M2が使用する周波数は周波数F3に切り替えられる。なお,移動局M3?M4も移動局M2と同様に,低速で移動若しくは静止している場合,移動局M3は周波数F3からF4に,移動局M4は周波数F4からF2に切り替えられる。但し,移動局M1が高速で移動し,周波数ホッピングが行われなかったことから,基地局20は移動局M1で周波数ホッピングが行われなかった旨を集中制御局に通知される。この通知を受信した集中制御局は基地局20を介し各移動局M2?M4に,移動局M1が使用する周波数F1を含まない新しいホッピング系列z5?z7を各移動局M2?M4に割り当て周波数ホッピングを行わせる。
【0019】仮に,移動局M2には周波数ホッピング系列z5が割り当てられ,移動局M3には周波数ホッピング系列z6が割り当てられ,移動局M4には周波数ホッピング系列z7が割り当てられるものとする。各移動局M2?M4は,移動局M1の移動速度が所定の速度を下回らない限り,若しくは各移動局M2?M4のいずれかの移動速度が所定の速度を上回らない限り,一定の周波数ホッピング周期でそれぞれ割り当てられた周波数ホッピング系列z5?z7に基づき,周波数をホップさせる。また,周波数ホッピング系列z1?z7は,各移動局M1?M4で同一時間に同一周波数が使用されることのないように作成される。
【0020】次に,この実施の形態1の周波数ホッピング方式を構成する移動局10について,図3を用いて説明する。図3は,この実施の形態1の周波数ホッピング方式を構成する移動局10の構成図である。図3において,6は移動速度検出部であり,受信部3及び制御部9に接続される。6rは移動速度情報であり,受信部3から出力され,移動速度検出部6に入力される。6tは移動速度検出データであり,移動速度検出部6から出力され,制御部9に入力される。なお,移動速度検出部6は,入力された移動速度情報6rに基づき,移動機の移動速度を検出する。そして,この移動速度検出部6は,検出された移動速度に基づく移動速度検出データ6tを出力する。また,図3において,図15に示す従来例と同一又は相当の部分には,同一符号を付してその説明を省略し,図15と相違する部分について説明した。」(4頁5?6欄)

(エ)「【0026】このように,本実施の形態の周波数ホッピング方式は,移動局10又は基地局20が移動機の移動速度に基づき,移動局10及び基地局20との間で周波数ホッピングを行うか否かを判断し,移動局10の移動速度が遅い場合には周波数ホッピングを行い,移動局10の移動速度が速い場合には周波数ホッピングを行わないため,遅い移動速度の移動局10に対しては,周波数ホッピングが行われ,移動局10で使用される周波数が切り替えられ,より高い品質の通信が行われやすくなり,速い移動速度の移動局10に対しては,高速移動時に必要とされるハンドオフの処理を軽減できる。また,本実施の形態の周波数ホッピング方式では,移動速度の遅い移動局10に対して,周波数ホッピングが行われるため,周波数ダイバーシチ効果を得られ,所要希望波対同一周波数干渉電力比を向上させ,より高い受信レベルでの通信が行われやすくなり,品質及び信頼性の高い通信を行うことができる。」(5頁8欄)

上記(ア)?(エ)の記載及びこの技術分野の技術常識を考慮すると,甲第3号証には,
「移動局に周波数を割り当てる際に使用する方法において,
移動局の移動速度が遅い場合には周波数ホッピングを行い,移動局の移動速度が速い場合には周波数ホッピングを行わない。」という発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

ウ 甲第4?13号証に記載された周知技術について
(ア)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(Cheong Yui Wong, Roger S. Cheng, Khaled Ben Letaief and Ross D.Murch, "Multiuser OFDM with Adaptive Subcarrier, Bit, and Power Allocation"(仮訳)「適応的サブキャリア,ビット,電力割り当てを伴うマルチユーザーOFDM」, IEEE JOURNAL ON SELECTED AREAS IN COMMUNICATIONS, VOL.17, NO.10, OCTOBER 1999, pp.1747-1758)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「In a frequency selective fading channel, there is a high correlation between the channel gains of adjacent subcarriers. In order to avoid the situation where all subcarriers of a user are in deep fade, we propose an enhanced version of OFDM-FDMA, which we shall refer to as OFDM Interleaved-FDMA
・ OFDM Interleaved-FDMA: this is the same as OFDM-FDMA except that subcarriers assigned to a user are interlaced with other users' subcarriers in the frequency domain.」(1752頁右欄28?37行)
(仮訳)
「周波数選択性フェージングチャネルにおいて,隣接サブキャリア間のチャネルゲインには高い相関がある。あるユーザーの全てのサブキャリアが大きく減衰する状況を回避するために,我々はOFDM Interleaved-FDMAと呼ぶOFDM-FDMAの強化版を提案する。
・OFDM Interleaved-FDMA:これは,あるユーザーに割り当てられたサブキャリアが周波数領域において他のユーザーのサブキャリアとインターレースされることを除いて,OFDM-FDMAと同じである。」

(イ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証(Ye (Geoffrey) Li and Nelson R.Sollenberger, "Clustered OFDM with Channel Estimation for High Rate Wireless Data"(仮訳)「高レート無線データのためのチャネル推定を伴うクラスタ化されたOFDM」, Mobile Multimedia Communications 1999(MoMuc '99) IEEE International Workshop, 15 NOV 1999, pp.43-50)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「For clustered OFDM in high-rate wireless data systems, each user access several OFDM clusters located at different frequencies. Then, an error correction code, such as a Reed-Solomon code, or a convolutional code, is used to obtain frequency diversity.」(43頁左欄26?30行)
(仮訳)
「高レート無線データシステムにおけるクラスタ化されたOFDMのために,各ユーザーは異なる周波数に配置された複数のOFDMクラスタにアクセスする。それから,周波数ダイバーシティ効果を得るために,リードソロモン符号や畳み込み符号等の誤り訂正符号が用いられる。」,
「However, since there may be over a hundred contiguous tones for classical OFDM systems,(後略)」(43頁右欄6?8行)
(仮訳)
「しかしながら,古典的なOFDMシステムのためには百個の連続したトーンが存在しうるので,(後略)」,
「A. Clustered OFDM for High Rate Data Access
The concept of clustered OFDM for wideband channels can be shown as in Fig.1. A wideband OFDM signal is divided into many non-overlapped clusters of tones in frequency, and each user accesses several clusters of tones. For example, the OFDM signal in Fig.1 is divided into 16 clusters. User 1 utilizes the 1st, 5th, 9th, and 13th clusters and User 2, 3, and 4 use other clusters.」(43頁右欄下から8?末行)
(仮訳)
「A.高レートデータアクセスのためのクラスタ化されたOFDM
広帯域チャネルのためのクラスタードOFDMの概念がFig.1に示されている。広帯域OFDM信号を,周波数軸上において,多数のオーバーラップしないクラスタトーンに分割し,各ユーザーはいくつかのクラスタトーンにアクセスする。例えば,Fig.1のOFDM信号を16個のクラスタに分割する。ユーザー1は,1番目,5番目,9番目及び13番目のクラスタを利用し,ユーザー2,3及び4は他のクラスタを用いる。」,

そして,44頁左欄には,「Fig.1 Concept of clusterd OFDM」(仮訳)「図1 クラスタ化されたOFDMの概念」として,上記内容が図示されている。

(ウ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平11-113049号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「【0003】(中略)各基地局からの信号が到達するエリアであるセルには,通信のために使用可能な複数のキャリアが割り当てられており,このセル内に位置する各移動機は基地局によって割り当てられた1つのキャリアを通信チャネルとして用いて通信を行う。これら無線通信システムは,このような通信のために周波数多重方式を採用する。つまり,1つのセルに割り当てられた複数のキャリアは,互いに重複することなく,かつ所定の間隔(ガードバンド)で周波数軸上に配置される。(中略)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】(中略)また,移動機は,通信のために1つのキャリアしか用いることができないので,伝送路で生じる動的な反射や干渉の影響によっては,ビット誤り率が極度に悪くなるという問題があった。(中略)
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の効果】上記目的を達成するため,本発明は以下の局面を備えており,さらに各局面は以下の効果を奏する。本発明に係る第1の局面は,基地局が形成するセルを複数敷き詰めることでサービスエリアがカバーされており,あるセル内に位置する1つの移動機と,当該セルを形成する基地局との間の通信が,当該サービスエリア内で使用可能な全通信チャネルの中から選ばれた1つの通信チャネルを用いて行われるような無線通信システムであって,サービスエリア内で使用可能な全通信チャネルのために,所定の周波数帯域内において互いに異なる周波数を有するn個(nは2以上の自然数)のキャリアが予め割り当てられており,基地局および移動機は,n個のキャリアの中から,周波数軸上において離散的に配置されかつ他の通信チャネルと互いに重複しないm個(mは,2≦m≦nを満たす自然数)のキャリアを選択し,当該選択したm個のキャリアで構成される通信チャネルを使用して通信を行うことを特徴とする。
【0007】上述の第1の局面によれば,1つの通信チャネル内のm個のキャリアは,周波数軸上において離散的に配置されているので,互いに相関の低い伝送路特性を有する。このような通信チャネルを用いることによって周波数ダイバーシチの効果が得られ,これによって,伝送路における反射や干渉の影響がm個のキャリアに分散化され,従来と比較してビット誤り率を向上できる。
【0008】本発明の第2の局面は,第1の局面において,基地局および移動機は,直交周波数分割多重方式を用いて通信を行うことを特徴とする。」(2頁2?3頁3欄),
「【0015】次に,上述の通信チャネルについて,図2を参照して説明する。図2(a)は,本システムで使用可能な複数のキャリアの周波数配置を示している。本システムでは,基地局bsと移動機msとの通信には,直交周波数分割多重方式が採用されており,その一例として図示した所定の周波数帯域内において互いに異なる32個のキャリアf1?f32が予め割り当てられる。
(中略)
【0016】また,図2(b)は,本システムで通信に用いられる1つの通信チャネルを示している。図2(b)において,通信チャネルは,図2(a)に示す32個のキャリアf1?f32の中から,周波数軸上に離散的に配置されており,かつ他の通信チャネルと互いに重複しない4個のキャリアで構成される。このような4個のキャリアは伝送路特性における相関が互いに低くなるので,当該4個のキャリアを用いて通信が行われると周波数ダイバーシチの効果が得ることができ,従来のシステムと比較してビット誤り率を向上できる。本実施形態では上述からも明らかなように,8個の通信チャネルを得ることができる。例えば,図2(c)に示した通信チャネル1には,離散的に選ばれた4個のキャリアf1,f9,f17及びf25が割り当てられ,以下,通信チャネル2?8には,図2(c)に示したような周波数が割り当てられる。」(4頁5欄),
「【0021】(中略)フレーム構成装置611は,入力した送信データdfl1?dfl8に直並列変換を実行する。ここで,並列度は1個の通信チャネルを構成するキャリアの数に対応する。フレーム構成装置611は,例えば,上述の並列化された送信データdfl1を誤り訂正符号化した後,上述のプリアンブル,当該送信データを送信すべき移動機ms1のアドレス情報,後述するスロット処理装置618から入力される移動機ms1用の第1の制御情報及び第2の制御情報を,当該誤り訂正符号化後の送信データdfl1に付加する。」(5頁7欄)

(エ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証(特表平11-508417号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「本発明により,直交周波数分割多重(OFDM)システムにおけるアダプティブチャネル割当て(ACA)方法およびシステムが提供される。」(13頁28?29行),
「本発明のACAでは,移動局と基地局間の各上り/下りリンクに対して,システムはいくつか(N)の副搬送波のセットからいくつか(M)の副搬送波のサブセットを選択する。」(18頁14?16行),
「セル内の各リンク206,208,210および212はM副搬送波の別々のサブセットを使用する。」(18頁28行?19頁1行)

(オ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開平10-303849号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,通信システムに関するものであり,とりわけ幅広い物理的環境において広範な情報転送速度を提供するのに適している直交周波数分割多重化(OFDM)変調方式に関するものである。
【0002】
【従来の技術】直交周波数分割多重化(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)とは,N個のデータシンボルを1/Tの距離で分離されたN個の直交する搬送波へと配置する,ブロックを基本とした(ブロック指向の)変調方式のことである。ここでTはブロック時間である。このように,多重搬送波伝送システムでは,複数の隣接する搬送波(またはトーンあるいはビンと呼ばれている)を介して並列にデータビットを送信するため直交周波数分割多重化(OFDM)変調を用いている。」(2頁2欄),
「【0010】(中略)例えば,基地局は同時にすべての搬送波で伝送を行う一方で,モバイルユニットそれぞれに対しては,全体の搬送波数の何分の一かのみを割り当てるようにすることで,モバイルユニットは基地局よりも低いデータ速度をもつことができるのである。」(3頁3?4欄)

(カ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開2000-332724号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「【0004】図6は,OFDM/CDMA変調方式における送信信号の一例を示す図である。なお,ここでは,周波数軸上において8個のサブキャリアを想定しており,異なる2ユーザに対する送信信号が多重化されて送信されている状態を示している。」(2頁2欄),
「【0052】実施の形態5.本実施の形態では,実施の形態1?4におけるS/P変換部4の機能をすべて備え,その中から,伝送路状態に応じたOFDM/CDMA信号を選択的に送信する。さらに,伝送路状態に応じて,周波数軸上および時間軸上に割り当てる拡散チップ比率を可変とすることにより,周波数選択性フェージング伝送路の影響を受ける伝送路や,時間変動の大きい伝送路等に,容易に適応する。」(6頁10欄)

(キ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証(特開平10-163994号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「【0019】本発明によれば,同一のFMバンドを用いてデジタルデータも伝送する。伝送されるべきデジタルデータは,従来の方法によりインタリーブされ,かつチャネル符号化されてチャネルノイズに対しより耐性を有するようになる。このプロセスにおいて,データシンボルのシーケンスを用いてデジタルデータを表す。このデータシンボルに応答して,デジタル変調器305は例えば従来の直交周波数分割多重化(orthogonal frequency division multiplexing(OFDM))のマルチキャリア系,あるいはシングルキャリア系,あるいはスペクトル拡散直交信号系によりデジタル変調信号を生成する。」(5頁8欄)

(ク)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証(特開2000-341247号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「【0043】図4の方式1は,OFDM変調による2つの側波帯にわたる単一ストリーム伝送構成において96kb/secオーディオ符号化を使用するベースライン方式である。ディジタルオーディオのための2つの周波数側波帯が,ホストアナログFM信号の両側で伝送される。一様なパワープロファイル,すなわち,図5のプロファイルaが使用される。チャネル符号化は,各側波帯でレート4/5,メモリ6で,全体でレート2/5,メモリ6の,両側波帯の相補的パンクチャドペア畳込み(CPPC:complementary punctured pair convolutional)チャネル符号化構成である。」(10頁17欄)

(ケ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開平1-317035号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「v) スペース・ダイバーシティ,周波数ダイバーシティ等,各種のダイバーシティ技術を導入する。
以上の各技術をまとめて,高速移動モ一ド用制御信号送出方法と呼ぶことにする。」(44頁右上欄7?11行),
「ところが高速移動モードになると,1つの無線基地局30(B,C,D,E)に具備されている複数の送受信機(あるいは複数の送受信機と同一の機能を有する1個の送受信機)から複数の制御チャネルで同一の信号が同時または順次に送出される。周辺にある無線基地局30(B,C,D,E)においても同様の動作が実行される。ただし電波干渉を避けるため関門交換機20より送信タイミング情報が各無線基地局30(B,C,D,E)へ送られている。一方,移動無線機50(B,C,D)では,移動無線機50(B,C,D)の有する全受信機が複数の制御チャネルのそれぞれを受信するように待機状態になっており,送受信ダイバーシティ効果が得られることとなる。」(45頁右上欄11行?同頁左下欄4行),
「以上説明したように高速移動モードでは,制御信号送受信に対してダイバーシティ効果が得られることが明らかになったが,これを通常の移動無線機50(B,C,D)の状態てある低速移動モ一ドで使用しないのはつぎの理由による。」(45頁左下欄13?17行),

(コ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証(Rainer Grunheid and Hermann Rohling, "Adaptive Modulation and Multiple Access for the OFDM Transmission Technique"(仮訳)「OFDM送信技術のための適応変調及び多元接続」, Wireless Personal Communications, May 2000, Volume 13, Issue 1-2, pp 5-13)には,6頁の左上において,甲2号証の図2と同様の図が示されており,3人のユーザーのうちの一人のユーザーに連続したサブキャリアを割り当て,二人にユーザーに連続しないサブキャリアを割り当てる様子が描かれている。

(サ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第20号証(H.Sari Y.Levy and G.Karam, "AN ANALYSIS OF ORTHOGONAL FREQUENCY-DIVISION MULTIPLE ACCESS"(仮訳)「直交周波数分割多元接続の解析」, IEEE Global Telecommunications Conference (GLOBECOM '97) Volume.3, 3 NOV 1997, pp.1635-1639)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

「PERFORMANCE ANALYSIS
In this section, we will analyze the performance of OFDMA in the presence of narrowband interference, impulse noise, and signal distortions that are typical of HFC-type CATV networks. The well-known TDMA technique will be used as reference in this analysis. It should be pointed out here that conventional TDMA, CDMA and FDMA were previously investigated in [5].」(1637頁左欄22?29行)
(仮訳)
「本セクションでは,HFC型CATVネットワークに典型的な,狭帯域干渉,インパルス雑音及び信号歪みの存在下におけるOFDMAの性能を解析する。よく知られているTDMA技術が,この分析の参照として用いられる。ここで,在来のTDMA,CDMA及びFDMAについては,文献[5]において以前調査済みであることを指摘したい。」

上記(ア)及び甲第4号証の図2の「OFDM Interleaved-FDMA」,上記(イ)及び甲第5号証の図1,上記(ウ)及び甲第6号証の図2によれば,所定周波数間隔毎のサブキャリアの組をそれぞれのユーザーに割り当てているから,割り当て単位のサブキャリアの組は論理ユニット(すなわち,「クラスタ」。)とみることができるので,予め定義した数個のサブキャリアおきの複数のサブキャリア群(クラスタ)をユーザーに割り当てることは周知であるといえる(以下,「周知事項1」という。)。
上記(ウ)?(カ)によると,OFDMAシステム内で加入者にサブキャリアを割り当てることは周知であるといえる。
上記(イ),(ウ),(キ),(ク)によれば,信頼性を高めるためのチャネル符号化はOFDM(A)において一般的に用いられている技術であるといえる。
上記(ケ)によると,移動無線機の移動速度に応じて周波数ダイバーシティ技術適用の是非を決定することは公知といえる(以下,「公知事項1」という。)。
上記ア及び上記(コ),(サ)によると,OFDMAに関し,TDMA,CDMA,FDMAを比較検討することは普通に考慮されることといえる。

(3)対比・判断
ア 甲第2号証に基づく新規性違反の有無について
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると,

(ア)甲2発明の「OFDM-FDMA」は「OFDMAシステム」に含まれるから,甲2発明の「OFDM-FDMAにおいて複数のユーザに“知的な”適応的サブキャリア管理によりサブキャリアの割り当てを行う際に使用する方法」は,「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法」といえる。

(イ)上記1(2)アのとおり,本件特許発明1では,予め帯域内の全てのサブキャリアと各クラスタとのマッピングがされており,「ダイバーシティクラスタ」は,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有する論理ユニットであり,「コヒーレンスクラスタ」は,互いに接近している複数のサブキャリアを保有する論理ユニットである。
したがって,本件特許発明1の「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」は,ダイバーシティクラスタを割り当てることにより,結果的に,第1の加入者に少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアが割り当てられることになり,また,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」は,コヒーレンスクラスタを割り当てることにより,結果的に,第2の加入者に互いに接近している複数のサブキャリアが割り当てられることになることは明らかである。
一方,甲2発明は,「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」なる概念は明らかにされていないが,サブキャリアの割り当て手順が行われることにより,甲第2号証の図1に示されるように,結果的に,f1,f2,f5,f6,f15,f16といった少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアが濃いグレーのユーザに割り当てられ,f7?f11といった互いに接近している複数のサブキャリアが薄いグレーのユーザに割り当てられる場合があり,OFDM-FDMAであることに鑑みれば,これらのサブキャリアをそれぞれ同時に使用することによって濃いグレーのユーザ及び薄いグレーのユーザとの通信が生じ得ることは明らかである。

以上のことから,本件特許発明1と甲2発明とでは,「結果的に,少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアがある加入者に割り当てられる段階と,結果的に,少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアが別の加入者に割り当てられる段階であって,前記少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアと前記少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアをそれぞれ同時に使用することによって前記ある加入者及び別の加入者との通信が生じ得る前記段階」を備える点で一致しているといえるものの,以下の相違点1,2の点で相違する。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
結果的に,少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアがある加入者に割り当てられる段階と,
結果的に,少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアが別の加入者に割り当てられる段階であって,前記少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアと前記少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアをそれぞれ同時に使用することによって前記ある加入者及び別の加入者との通信が生じ得る前記段階と,
を備える,方法。」

(相違点1)
本件特許発明1は,「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」を備え,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」としてサブキャリアを割り当てるのに対して,甲2発明には「クラスタ」の概念は明らかにされていなく,周波数選択性無線チャネルの挙動を考慮して,各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当てている点。

(相違点2)
本件特許発明1は,更に「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」から成るのに対し,甲2発明は当該構成を有していない点。

(相違点1についての検討)
請求人は,請求人の口頭審理陳述要領書3?9頁(第I部3.(1)?(3))において,本件特許明細書には,ダイバーシティクラスタやコヒーレンスクラスタについて複数の説明があることから,知財高裁平成17年(行ケ)第10564号の判決を引用して,特許請求の範囲に記載された用語が広義にも狭義にも解釈できる場合においては広義に解釈されるから,本件特許発明における「ダイバーシティクラスタ」や「コヒーレンスクラスタ」の意味は【0023】及び【0087】における定義に従うことに問題はない旨主張している。
また,請求人は,審判請求書19頁下から7行?23頁8行の「IV-2. 2.(2),(3)」にて,甲第2号証の図1のt1?t9(審判請求書21頁の参考図の「X」。)において濃いグレーのユーザに割り当てられたf1及びf2,f5及びf6,f15及びf16(審判請求書21頁の参考図の「1A」,「1B」,「1C」。)に配置された3種類のサブキャリアはスペクトル全体において遙かに拡散しているからダイバーシティクラスタを相当し,また,同図の薄いグレーのユーザに割り当てられたはf7?f11(審判請求書21頁の参考図の「2」。)に配置されたサブキャリアは互いに接近しているからコヒーレンスクラスタに相当しているので,第1のユーザに対してダイバーシティクラスタを割り当てること及び第2のユーザに対してコヒーレンスクラスタを割り当てることが開示されている旨主張している。
このため,上記主張も併せて検討する。

a まず,ある事物を様々な側面からの複数の説明により特定しようとすることは普通に行われていることであり,本件特許明細書における「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」に対する複数の説明も様々な側面から特定しようするものにすぎないから,複数の説明があるからといって直ちに一義的に明確に理解することができないとはいえない。そして,上記1(2)アのとおり,本件特許明細書の開示によれば,「クラスタ」,「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」の用語の意義は明確であって,広義にも狭義にも解釈できる場合に当たらないことは明らかである。したがって,上記請求人の主張は採用できない。

そして,本件特許明細書の
「【0026】次に,各加入者は,継続的にパイロット記号の受信をモニターし,セル間干渉及びセル内トラフィックを含め,各クラスタのSINR及び/又は他のパラメータを測定する(処理ブロック102)。この情報に基づいて,各加入者は,相対的に性能が良好な(例えば,高SINR低トラフィックローディングの)1つ又は複数のクラスタを選択して,これらの候補クラスタに関する情報を所定のアップリンクアクセスチャネルを通して基地局にフィードバックする(処理ブロック103)。例えば,10dBより高いSINR値は,性能が良好であることを表す。同様に,クラスタ利用率50%未満も,良好な性能を表している。各加入者は,他よりも相対的に性能が良好なクラスタを選択する。この選択により,各加入者は測定されたパラメータに基づいて使用が望ましいと思われるクラスタを選択することになる。
【0027】或る実施形態では,各加入者は各サブキャリアクラスタのSINRを測定して,それらSINR測定値をアクセスチャネルを通して基地局に報告する。SINR値は,クラスタ内の各サブキャリアのSINR値の平均を含んでいる。代わりに,クラスタのSINR値は,クラスタ内のサブキャリアのSINR値中最悪のSINRであってもよい。更に別の実施形態では,クラスタ内のサブキャリアのSINR値の加重平均を使用して,クラスタに関するSINRを生成している。これは,サブキャリアに適用される重み付けが異なるダイバーシティクラスタで特に有用である。」,
「【0029】加入者からフィードバックを受信すると,基地局は,次に,候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する(処理ブロック104)。基地局は,基地局で入手可能な追加情報,例えば,各サブキャリアに関するトラフィックロード情報,各周波数帯域について基地局で待機中のトラフィックリクエストの量,周波数帯域が過剰使用されていないか,情報送信のためにどれほどの間加入者が待っているか,等の情報を利用する。隣接するセルのサブキャリアローディング情報も,基地局間で交換することができる。基地局は,この情報をサブキャリア割当に使用して,セル間干渉を低減する。
【0030】クラスタ選択の後,基地局は,ダウンリンク共通制御チャネルを通して,又は加入者への接続が既に設定されている場合には専用のダウンリンクトラフィックチャネルを通して,クラスタ割当について加入者に通知する(処理ブロック105)。」,
「【0062】ダウンリンククラスタ割当のためのフィードバックフォーマット
或る実施形態では,ダウンリンクの場合,フィードバックは,選択されたクラスタのインデクスとそのSINRの両方を保有している。任意のクラスタフィードバックの代表的なフォーマットを図5に示す。図5に示すように,加入者は,クラスタとその付帯するSINR値を示すため,クラスタインデクス(ID)を提供する。例えば,フィードバックでは,加入者は,クラスタID1(501)及び当該クラスタのSINRであるSINR1(502),クラスタID2(503)及び当該クラスタのSINRであるSINR2(504),及びクラスタID3(505)及び当該クラスタのSINRであるSINR3(506)などを提供する。クラスタのSINRは,サブキャリアのSINRの平均を使って作ることができる。こうして,複数の任意のクラスタを候補として選択することができる。上記のように,選択されたクラスタは,優先順位を示すためにフィードバック内で順序付けることもできる。或る実施形態では,加入者は,クラスタの優先順位リストを作成し,SINR情報を優先順位の降順で返信する。」
の記載によれば,

上記1(3)イで述べたとおり,図9又は図12のように,予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタがマッピングされており,予め定義されたクラスタインデクスに基づいて各加入者は使用が望ましいと思われるクラスタを選択して基地局にフィードバックし,基地局は当該フィードバックに基づいて加入者に割り当てるクラスタを選択し,最終的に決定したクラスタ割当を加入者に通知するものと理解できる。
すなわち,加入者に対するサブキャリアの割当は,予め定義され各加入者及び基地局に共通に認識されている「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」に基づいて,クラスタ単位になされるものであり,サブキャリア単位になされるものではなく,図9又は図12のクラスタとのマッピングを無視して任意のサブキャリアの集合が各加入者に割り当てられることはあり得ないと理解できる。

一方,甲2発明は,予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタをマッピングしておらず,ユーザに対するサブキャリアの割当を予め定義された「クラスタ」に基づいてクラスタ単位に行うものではない。

したがって,甲2発明には,予め定義された割り当て単位としての「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」の概念は存在しない。
このため,甲2発明には本件特許発明1の「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階」なる構成要件は存在しない。

b 本件特許明細書の
「【0095】或る実施形態では,移動する加入者と静止している加入者が入り混じっているセルの場合,加入者又は基地局,或いは両方に,チャネル/干渉変動検出器を実装することができる。検出結果を使って,加入者及び基地局は,セル境界線上の移動加入者又は静止加入者に対してはダイバーシティクラスタを,基地局に近い静止加入者に対してはコヒーレンスクラスタを,知的に選択する。チャネル/干渉変動検出器は,クラスタ毎に時々にチャネル(SINR)変動を測定する。例えば,或る実施形態では,チャネル/干渉検出器は,各クラスタのパイロット記号の間のパワー差を測定し,移動ウインドウに亘る差を平均する(例えば,4つのタイムスロット)。差が大きければ,チャネル/干渉が頻繁に変化し,サブキャリア割当は信頼性が低いことを示している。そのような場合,その加入者にはダイバーシティクラスタがより望ましいことになる。」,
「【0097】図11に示すように,基地局の処理論理は,チャネル/干渉変動検出を行う(処理ブロック1101)。処理論理は,次に,チャネル/干渉変動検出の結果が,ユーザーが移動しているか又はセルの縁に近い静止位置にあることを示しているか否かをテストする(処理ブロック1102)。ユーザーが,移動していないか,セルの縁に近い静止位置にもいない場合,プロセスは処理ブロック1103に移り,そこで基地局の論理はコヒーレンスクラスタを選択し,それ以外の場合は,プロセスは処理ブロック1104に移り,そこで基地局の処理論理はダイバーシティクラスタを選択する。」
の記載によれば,

「ダイバーシティクラスタ」は,移動している加入者,セルの縁に近い加入者に割り当てられる蓋然性が高く,「コヒーレンスクラスタ」は,セルの縁に近い位置にいない静止している加入者に割り当てられる蓋然性が高いことが理解できる。すなわち,本件特許発明1の「第1の加入者」には,移動している加入者,セルの縁に近い加入者が該当し,「第2の加入者」には,セルの縁に近い位置にいない静止している加入者が該当すると推察される。

一方,甲2発明は,周波数選択性無線チャネルの挙動を考慮して,各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当てるものであるから,各ユーザーにとって高いSNRを有するサブキャリアがどれであったかにより,結果的にあるユーザにたまたま非連続なサブキャリアが割り当てられているにすぎないといえる。

したがって,甲2発明には本件特許発明1の「ダイバーシティクラスを第1の加入者に割り当てる」,「コヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる」との概念は存在しないことは明らかである。

c 次に,発明が解決しようとする課題及び作用効果の面から検討してみると,
本件特許明細書には
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】OFDMAに関してサブキャリア割当を行うという1つのアプローチは,統合最適化オペレーションであるが,これは,全セル内の全加入者の行動とチャネルに関する知識が必要なばかりでなく,現在の加入者がネットワークを抜けたり新しい加入者がネットワークに加わったりした場合,その度毎に周波数の再調整が必要になる。これは,主に,加入者情報を更新するための帯域幅コストと統合最適化のための計算費用のせいで,実際の無線システムでは非実用的である場合が多い。」,
「【0068】グループベースのクラスタ割当
(中略)グループベースのクラスタ割当の目的には,クラスタ指標付けのデータビットを減じ,これにより,クラスタ割当用のフィードバックチャネル(情報)と制御チャネル(情報)の帯域幅要件を緩和することである。グループベースのクラスタ割当は,セル間干渉を低減するためにも使用される。」,
「【0094】(中略)一方,移動する加入者の場合,チャネル時間変動(時間経過に伴うチャネルの変化による変動)は非常に大きいこともある。ある時間に高ゲインのクラスタでも,別の時間には激しいフェージングに陥ることもありうる。従って,クラスタ割当は高速で更新しなければならず,制御オーバーヘッドが膨大になってしまう。この場合,ダイバーシティクラスタを使用すれば,強さを補強し,頻繁なクラスタ再割当のオーバーヘッドを軽減することができる。」
との記載がある。

そして,複数のサブキャリアを割り当てる場合に,各サブキャリアを一つ一つ指定するよりもクラスタとして指定する方が情報量が少ないことは自明であることにも鑑みれば,加入者に「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」を割り当てることは,サブキャリア割当にかかる帯域幅コストを削減する効果が期待できるものと推察される。

一方,甲2発明はサブキャリアそのものを割り当てるのであるから,上述の効果は望み得ないことは明らかである。

したがって,両者は,発明が解決しようとする課題も作用効果も異なるものである。

上記a?cのとおりであり,本件特許発明1の「ダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる」,「コヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる」ことと,甲2発明の「周波数選択性無線チャネルの挙動を考慮して,各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当て」ることにより,結果的に,連続したあるいは非連続なサブキャリアが割り当てられることとは,技術的意義が全く異なるというべきである。

したがって,請求人の主張は採用できず,本件特許発明1と甲2発明とは相違点1で相違する。

(相違点2についての検討)
請求人は,審判請求書23頁9行?25頁8行の「IV-2. 2.(4)」にて,甲第2号証の図2によればt1?t9(審判請求書21頁の参考図の「X」。)においては第1の加入者にはf1及びf2,f5及びf6,f15及びf16(審判請求書21頁の参考図の「1A」,「1B」,「1C」。)で示すサブキャリア群である「ダイバーシティクラスタ」が割り当てられ,t14?t20(審判請求書21頁の参考図の「Z」。)においては第1の加入者には互いに接近している複数のサブキャリアである「コヒーレンスクラスタ」が割り当てられているから,これは「クラスタ分類」を再構成することに相当し,甲2発明が前提とする,無線チャネルが周波数選択性かつ時変であるセルラー環境は「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化」する状況を当然に含み,また,甲第2号証にはユーザー数の変化に伴うシグナリング情報のためのオーバーヘッド量の変化が記載されており,セルラー環境においてユーザー数が変化することは,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化」と実質的に同じであり,その場合にサブキャリアの状態(SNR)は当然に変化するから,甲第2号証は構成1Dを実質的に開示している旨主張している。
また,請求人は,審判請求書31頁下から9行?32頁5行,請求人の口頭審理陳述要領書22頁1行?23頁1行(第II部第1 2(2))において,甲第2号証の1367頁左欄の表はユーザーの数の変化に伴う,シグナリング情報のためのオーバーヘッド上の変化が記載されているおり,セルラー環境においてユーザー数が本化する状況には,移動中の加入者がセルに入出する場合や静止中の加入者が電源を入/切する場合等が当然に含まれるから,甲第2号証には「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化」することが記載されているといえる旨主張している。
更に,請求人は,請求人の口頭審理陳述要領書2?3頁(第I部2.)にて,ユーザー数が増加すればユーザーが送受信する信号が他のユーザーに対して干渉する可能性が高くなり,当該干渉を受けたユーザーのサブキャリアの状態に変化が生じ,また,シグナリングのオーバーヘッド量が増加するとデータ通信のために割り当てることができる無線リソースが減少するため,周波数誤差やタイミングにずれ等により隣接するサブキャリアを使用するユーザー間で干渉が生じる可能性がある旨主張している。
このため,上記主張も併せて検討する。

a まず,上記「(相違点1についての検討)」で述べたとおり,甲2発明には「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」の概念は認められない。そして,上記1(2)イで述べたとおり,「クラスタ分類を再構成する」とは,「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピング(どのサブキャリアをどのクラスタの構成要素とするかということ)を構成し直すことに伴い,当該クラスタのカテゴリー分けが変更されること」と理解され,上記1(3)ウのとおり,例えば本件特許の図9のクラスタ構成を前提とした周期的なクラスタの割り当て(再教育)とは全く異なった概念である。したがって,本件特許の図9又は図12のように予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタがマッピングされているものではない甲2発明には,「クラスタ分類を再構成する」なる概念が存在し得ないことは明らかである。

b また,甲第2号証には甲2発明の「周波数選択性無線チャネルの挙動」が何により生じるのかは明らかにされておらず,甲第2号証の図2のt1?t9とt10?t13(審判請求書21頁の参考図の「X」,「Y」。)では,連続しないサブキャリアが割り当てられるユーザーの数(濃いグレーとグレーの2人)と連続するサブキャリアが割り当てられるユーザーの数(薄いグレーの1人)は不変であるものの,割り当てられるサブキャリアは変更されているから,当該変更と移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化との因果関係は不明である。

c 甲第2号証の1367頁左欄の表は,単にユーザーの数を8人,16人,32人とした各場合のオーバーヘッド量の比較を示しているにすぎず(上記(2)ア(ケ),(コ)参照。),甲第2号証にはユーザーの人数の遷移については記載も示唆もされていない。また,甲第2号証は,周波数選択性かつ時変の無線チャネルを前提としており(上記(2)ア(エ)参照。),特定のユーザーに対するサブチャネルの数は必要なデータレートに従って変わり得るものの(上記(2)ア(キ)参照。),ユーザーが移動中であるか静止しているかについては何ら考慮しておらず,上記bのとおり図2の内容とユーザーが移動中であるか静止しているかとの関係は不明である。
したがって,甲第2号証に「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」が記載されていると同然ということはできない。

d OFDMにおいては各サブキャリアは直交しているため,セル内の加入者が増加してもセル内干渉は生じない。また,セル間干渉による自セル内の加入者が受けるチャネル状態の劣化は,隣接セルの加入者に増加によるものであって,自セル内の加入者の増加とは無関係である。更に,本件特許明細書の【0030】,【0031】によれば,フィードバックや割当通知は専用のトラフィックチャネルを使って送信されるから,データ通信のリソースが減少することはないはずである。したがって,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」と「サブキャリアの状態の変化」との関連性は認められない。

したがって,請求人の主張は採用できず,本件特許発明1と甲2発明とは相違点2で相違する。

以上のとおり,本件特許発明1と甲2発明との間には,相違点1,2が存在するから,本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,本件特許発明3は甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

イ 甲第2号証に基づく進歩性違反の有無について
まず,上記(相違点1)について検討する。

a 上記(2)ウにて周知事項1として認定したとおり,甲第4号証を含め,予め定義した数個のサブキャリアおきの複数のサブキャリア群(クラスタ)をユーザーに割り当てることは周知であるといえる。
しかしながら,甲2発明は,周波数選択性無線チャネルの挙動を考慮して,各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当てた結果,たまたまあるユーザーに連続したサブキャリアが割り当てられたり,あるユーザーに連続しないサブキャリアが割り当てられることがあるだけであって,予め定義したサブキャリア群(クラスタ)は存在しないから,あくまで個々のサブキャリアを割り当てているだけであって,クラスタを割り当てるものではない。
そして,クラスタを予め定義したとすると,当該クラスタに含まれるサブキャリアには「高いSNRを有する“良い”サブキャリア」ばかりではなく,SNRが低いサブキャリアも含まれ得ることは明らかであるから,「予め定義した数個のサブキャリアおきの複数のサブキャリア群(クラスタ)をユーザーに割り当てること」が周知であるとしても,「各ユーザーにとって高いSNRを有する“良い”サブキャリアのみを各ユーザーに割り当て」る甲2発明に当該周知事項を適用することには阻害要因があるといえる。

b 上記aのとおり予め定義した数個のサブキャリアおきの複数のサブキャリア群(クラスタ)をユーザーに割り当てることは周知であり,また,上記(2)ウにて公知事項1として認定したとおり,移動無線機の移動速度に応じて周波数ダイバーシティ技術適用の是非を決定することは公知であるとしても,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するクラスタである「ダイバーシティクラスタ」と,互いに接近している複数のサブキャリアを保有するクラスタである「コヒーレンスクラスタ」の双方を予め定義し,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタを加入者に割り当て,両クラスタを同時に使用することが周知であるとはいえない。
このため,「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」と「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」との双方を備えることを,甲2発明及び周知技術から導出することはできない。

したがって,上記(相違点1)は,甲2発明及び周知技術によっても甲2発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
クラスタ分類の再構成は,本件特許の図9のように,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとが予め用意されていることが前提であるところ,(相違点1)についての検討で述べたように,甲2発明には「クラスタ」なる概念は認められない上,「クラスタ」なる概念を適用することに阻害要因があり,またダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとの両方を予め用意して同時に使用することは周知ではないから,「クラスタ分類の再構成」なる概念を導出し得ないことは明らかである。
したがって,上記(相違点2)は当業者が容易に想到し得るものでない。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明1及び3についての特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。また,本件特許発明1及び3についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。


4.無効理由2(特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1
上記「第2」の項で本件特許発明1として認めたとおりである。

(2)引用発明
甲第3号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」の項の「(2)引用発明」の項の「イ 甲第3号証に記載された発明について」の項にて甲3発明として認定したとおりである。

(3)対比・判断
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると,
本件特許明細書の図8及び甲第3号証の図1,図12を参酌すると,本件特許発明1も甲3発明も,セルラー通信システム含む通信システム内で加入者に周波数を割り当てる際に使用する方法に係る発明である点では一致しているということができる。
しかしながら,本件特許発明1は「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法」に関するものであって,1ユーザーに同時に複数の周波数のサブキャリアを割り当てる際に,当該複数のサブキャリアの相互関係がいかなるサブキャリア群(すなわち,即ち互いに接近している複数のサブキャリアを保有するコヒーレンスクラスタと,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するダイバーシティクラスタ。)を割り当てるかに関するものであるのに対し,甲3発明はOFDMAシステムではなく,1ユーザーに同時に複数のサブキャリア周波数を割り当てることのないものである。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「セルラー通信システム含む通信システム内で加入者に周波数を割り当てる際に使用する方法。」

(相違点1)
本件特許発明1は,「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法」に係る発明であるのに対し,甲3発明は周波数ホッピングに係る発明であって,OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用するものではない点。

(相違点2)
本件特許発明1は,「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階」,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」なる構成を有しているのに対し,甲3発明はこれらの構成を有していない点。

(相違点1についての検討)
本件特許発明1の方法は「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する」のであるから,OFDMA特有の技術であることは明らかである。一方,甲3発明は周波数ホッピングに係る発明であって,あるタイミングにおいてユーザーにはただ1つの周波数を割り当てるだけであるから,「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する」ことはあり得ないものである。
そして,OFDMAシステム自体は周知であるが,甲3発明をOFDMA特有の技術とする動機付けは見いだせないから,相違点1を容易になし得るとすることはできない。

なお,請求人は,審判請求書57?59頁の「5.(1)まる2」([当審注]:表記上の理由で,丸囲いの2を「まる2」と記載する。),請求人の口頭審理陳述要領書26?27頁(第II部 第2 1(3))にて,甲第6,4,8,20号証をあげて,FDMAにOFDMAを適用することは容易である旨主張しているが,これらの文献からは,マルチプルアクセス方式として,TDMA,FDMA,OFDMA,CDMA及びこれらの任意の組み合わせが周知であることが読み取れるにすぎず,甲3発明においてFDMAに代えてOFDMAを採用することの動機付けは何ら見出すことはできない。

(相違点2についての検討)
甲3発明は周波数ホッピングに係る発明であって,1ユーザーに同時に複数の周波数を割り当てることのないものであるから,「互いに接近している複数のサブキャリアを保有するコヒーレンスクラスタ」と「少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するダイバーシティクラスタ」なる概念が存在し得ないことは明らかである。
このため,甲3発明を出発点として,「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階」,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」を導出することは不可能である。したがって,相違点2を容易になし得るとすることはできない。

更にいえば,本件特許明細書の【0006】,【0007】,【0009】の記載によれば,本件特許発明1は,サブキャリア割当の際の加入者情報を更新するための帯域幅コスト及び計算費用を現実的なものとするために,漸進的にクラスタを割り当てるものと認められる。そして,【0094】?【0097】の記載によれば,移動する加入者はチャネル時間変動が大きいことからダイバーシティクラスタを割り当て,セル境界を除いて静止している加入者にはコヒーレンスクラスタを割り当てるものである。すなわち,移動中の加入者にはダイバーシティ効果を期待するものである。
一方,甲3発明は,甲第3号証の【0008】?【0010】(上記3(2)イ参照。)の記載によれば,周波数ホッピングを行いながら高速移動通信を行う移動局は,低速移動通信を行う移動局と比較してスローフェージングの影響を強く受けているために周波数ホッピングを行っても周波数ダイバーシチの効果が得られず,セル間を移動する場合にハンドオフ時に必要とされる処理が多くなるという問題を解決するために,移動局が所定の移動速度以上で通信する場合は周波数ホッピングを使用せず,所定の移動速度以下で通信する場合は周波数ホッピングを使用するものである。すなわち,高速移動する加入者にはダイバーシチ効果を期待しないものである。
したがって,本件特許発明1と甲3発明とは,発明が解決しようとする課題も,解決手段も全く異なるものであるから,技術的思想として共通点はないというべきである。

ここで,請求人は,請求人の口頭審理陳述要領書の28頁6?11行(第II部第2 2(1))等において,本件特許発明1にはダイバーシティクラスタには同時刻において離れて拡散している複数のサブキャリアを有するという限定はないから,仮に異なる時刻であっても離れて拡散している搬送波を保有すればダイバーシティクラスタに相当する旨主張している。しかしながら,本件特許発明1には「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において」との限定がなされており,また,「移動中の加入者」が存在する環境では,当該加入者は時変の周波数選択性フェージングの影響を受け易いことは技術常識であって,そのためにサブキャリアの割り当ては所定期間毎に繰り返し行われる(すなわち,本件特許明細書の【0033】,図1Bの「再教育」。)ことは当然に予測されることであるから,本件特許発明1における「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」は,あるタイミングにおいて1ユーザーに同時に割り当てられる少なくとも1つのサブキャリアからなる論理ユニットに係る概念であって,異なる時刻におけるサブキャリアに係る概念ではないことは明らかである。
更にいえば,仮に「異なる時刻であっても離れて拡散している搬送波を保有すればダイバーシティクラスタに相当する」とすると,甲第2号証の図2の例ではユーザーM2?M4には(F2,F3,F4)の周波数の組からなる同一の「クラスタ」が同時に割り当てられることになり,ホッピング系列によってこれを区別するものであるから,ホッピング系列が必要不可欠であることは明らかである。しかしながら,本件特許発明1はホッピング系列なる概念を有するものではないから,「異なる時刻であっても離れて拡散している搬送波を保有すればダイバーシティクラスタに相当する」ということはあり得ないことは明らかである。
したがって,請求人の主張は,技術的にみて当を得ない主張であるから,採用できない。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明1及び3についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。



第6 むすび
以上のとおり,請求人が主張する無効理由1ないし4によっては,本件特許発明1及び3についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-29 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-17 
出願番号 特願2002-550747(P2002-550747)
審決分類 P 1 123・ 113- Y (H04J)
P 1 123・ 537- Y (H04J)
P 1 123・ 54- Y (H04J)
P 1 123・ 121- Y (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 新川 圭二
藤井 浩
登録日 2008-11-07 
登録番号 特許第4213466号(P4213466)
発明の名称 適応クラスタ構成及び切替による多重キャリア通信  
代理人 森山 航洋  
代理人 黒田 博道  
代理人 小野寺 良文  
代理人 桑原 秀明  
代理人 伊東 忠重  
代理人 北口 智英  
代理人 石原 隆治  
代理人 隈部 泰正  
代理人 三好 豊  
代理人 大貫 進介  
代理人 山口 正博  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 増田 雅史  
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