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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1293471
審判番号 不服2013-4914  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-13 
確定日 2014-10-28 
事件の表示 特願2008-543593「有機液体検出用センサー」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月 7日国際公開、WO2007/065163、平成21年 5月 7日国内公表、特表2009-518630〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年12月1日(優先権主張:平成17年12月3日 米国)を国際出願日として出願された国際出願であって、平成23年10月21日付けで拒絶理由が通知され、平成24年2月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年3月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。

第2 平成25年3月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年3月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、補正前の特許請求の範囲(平成24年2月13日付けの手続補正により補正されたもの。)の請求項1は、次のとおりの:
「【請求項1】
両側の第1及び第2の面を有する長い非導電性基板;
前記基板の前記第1の面の少なくとも一部分上に配置された第1のセンサー面及び前記基板の前記第2の面の少なくとも一部分上に配置された第2のセンサー面;
前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している橋絡用電極;及び
前記基板の前記第1の面上に配置されかつ前記第1のセンサー面と電気的に結合された第1の電極、及び前記基板の前記第2の面に配置されかつ前記第2のセンサー面と電気的に結合された第2の電極
を備え、
前記第1及び第2のセンサー面及び前記橋絡用電極が前記第1及び第2の電極間の導電経路を提供し、前記導電経路は、前記センサー面の少なくとも一方が有機液体と接触しているとき第1の抵抗を有しかつ前記センサー面が有機液体と接触していないとき第2の抵抗を有しており、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗との間の変化は、可逆的であるシステム。」
から、次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す。)
「【請求項1】
両側の第1及び第2の面を有する長い非導電性基板;
前記基板の前記第1の面の少なくとも一部分上に配置された第1のセンサー面及び前記基板の前記第2の面の少なくとも一部分上に配置された第2のセンサー面;
前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している橋絡用電極;及び
前記基板の前記第1の面上に配置されかつ前記第1のセンサー面と電気的に結合された第1の電極、及び前記基板の前記第2の面に配置されかつ前記第2のセンサー面と電気的に結合された第2の電極;
変換回路;
を備え、
前記第1及び第2のセンサー面及び前記橋絡用電極が前記第1及び第2の電極間の導電経路を提供し、前記導電経路は、前記センサー面の少なくとも一方が有機液体と接触しているとき第1のアナログ抵抗値を有し、かつ、前記センサー面が有機液体と接触していないとき第2のアナログ抵抗値を有しており、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗との間の変化は、可逆的であり、
前記変換回路は、第1のアナログ抵抗値を第1の2値出力に変換し、かつ、前記第2のアナログ抵抗値を第2の2値出力に変換する、システム。」

特許請求の範囲の請求項1についての上記の補正は、(i)補正前の「第1の抵抗」及び「第2の抵抗」が、それぞれ、「第1のアナログ抵抗値」及び「第2のアナログ抵抗値」であることを明りょうにする補正を行うとととも、(ii)補正前のシステムが、「変換回路」をさらに備え、かつ「前記変換回路は、第1のアナログ抵抗値を第1の2値出力に変換し、かつ、前記第2のアナログ抵抗値を第2の2値出力に変換する、」と限定することを含むものであるから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1(実願昭48-19540号(実開昭49-121595号)のマイクロフィルム
(1-1) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物1には、導電テープ型流体検知器に関して、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審で付したものである。)
(1-ア)実用新案登録請求の範囲
「端子部に絶縁材の支持体が取付けられ、該支持体に被検知流体と接して切断される導電性テープが保持され、該導電性テープの両端部が上記端子部の一対の端子に電気的に接続されてなる導電テープ型流体検知器。」
(1-イ)第1頁10行?15行
「この考案は被検知流体と接して切断される導電性テープを使用した流体検知器に関する。
例えば排液溝に有害流体が流出した場合に、その有害流体と接して溶解する導電性テープをその排液溝内の流体内に入れておくことにより、有害流体の有無を電気的に検出できる。」
(1-ウ)第2頁7行?13行
「導電性テープ2は例えばベンゼ、スチレンと接して溶解するポリスチレンフイルの如く被検出流体と接して溶解するフイルム上に導電ペイントの塗布、又はアルミニウムの蒸着などにより導電層が形成され、又は被検知流体と接して溶解するフイルムに導電性粒子が混入されたものが使用される。」
(1-エ)第5頁9行?第6頁8行
「更に第5図に示すように支持体1の一端面から2本の深い平行溝23,24が切込まれ、支持体1の側面に一半部が溝23,24に端面から出入自在のL字状レバー25,26が回動自在に取付けられる。よつて導電性テープ2の両端部はレバー25,26の回動によりその端部にて引掛けられて、溝23,24内に挿入される。一方端子部5に溝23内に挿入され、その外側部の支持体1を弾性的に挟持する導電性の一対の保持具27,28が取付けられ、また同様に溝24内に挿入され、その外側の支持体1の一部を弾性的に挟持する導電性保持具29,30が取付けられる。保持具27,28は端子6に、保持具29,30は端子7にそれぞれ接続される。なお保持具27,29にて溝23,24間の支持体1を挟持してもよい。導電性テープ2に対する案内がなされ、これが外れないように、支持体1の周面に浅い巾広の溝31を形成し、この溝31内にテープ2が配置されるようになし得る。レバー25,26を1つのレバーで構成することもできる。」
(1-オ)第6頁9行?12行
「以上説明したようにこの考案流体検知器によれば導電性テープ2と端子部5との接続及び連結が比較的簡単であり、かつ導電性テープの取替えが容易である。」
(1-カ;第5図)




(1-2)
第5図(1-カ)には、長く延びた板状の支持体1の図の上面側に存在する溝23と溝24の内部の一方から始まり他方で終わる状態、すなわち、浅い巾広の溝31の形の支持体の両側面と下面に支持体1の溝23から一方の側面上、下面上、他方の側面上、溝24へと連続した状態で、導電性テープが配置されている流体検知器が図示されているといえる。
これらの記載を勘案し、総合すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「長く延びた板状の絶縁材の支持体1の一端面から2本の深い平行溝23,24が切込まれ、導電性テープ2の両端部は溝23,24内に挿入され、一方端子部5に溝23内に挿入され、その外側部の支持体1を弾性的に挟持する導電性の一対の保持具27,28が取付けられ、また同様に溝24内に挿入され、その外側の支持体1の一部を弾性的に挟持する導電性保持具29,30が取り付けられ、保持具27,28は端子6に、保持具29,30は端子7にそれぞれ接続され、
導電性テープ2に対し、これが外れないように、支持体1の周面に浅い巾広の溝31を形成し、この溝31内にテープ2が、支持体1の溝23から一方の側面上、下面上、他方の側面上、溝24へと連続した状態で配置されるように導電性テープ2の案内がなされ、
導電性テープ2は例えばベンゼン、スチレンなどの被検知流体と接して溶解するフイルムに導電性粒子が混入されたものである流体検知器。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(2)刊行物2(実願平1-131605号(実開平3-70351号)のマイクロフィルム)
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2には、油検知センサーに関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(2-ア)第1頁下から6行?第2頁7行
「〔従来の技術〕
油検知センサーとしては、従来、例えば、第5図側面図及び第6図縦断面図に示すように、円筒状セラミックス母材01がカーボン入りシリコンゴム製薄膜の油検知部02で被覆されるとともに、油検知部02の先端部、基端部がそれぞれ導電性接着剤03によりセラミックス母材01に固着され、更に導電性接着剤03にそれぞれリード線04が接続されたものが知られている。
この種のセンサーでは、油05が付着した油検知部02が膨張して、その電気抵抗が増加することにより、油05を検出している。」
(2-イ;第6図)




(3)刊行物3(実願平3-84734号(実開平5-36357号)のCD-ROM)
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物3には、炭化水素検知センサーに関して、次の事項が記載されている。
(3-ア)実用新案登録請求の範囲
「【請求項1】 シリコン重合体中に分散させた導電性カーボンブラックから成る柔軟テープの導電率の変化を測定する手段を設けたものであって、上記テープが、カーボンブラック100g当たりフタル酸ジブチル約150ml以上の吸油量値を有し、約2%以下の揮発分である粒形サブミクロン単位の微粒子の高構造カーボンブラックを10?30重量%だけ有し、これによって液相の炭化水素だけを検知する炭化水素検知センサー。」
(3-イ)「【0010】
本考案に使用されるエラストマは、市販のシリコン重合体かゴム、あるいは液相炭化水素の存在下に膨張するものであればその他のエラストマであってもよい。液相の炭化水素が接触したとき本考案の合成重合体基質は膨張し、導電性充填剤の継続性が中断されるため合成テープの導電率を変化させる。センサーが反応する液相炭化水素は、ガソリン、灯油、ジーゼル燃料、ジェット燃料等C^(6)?C^(16)の市販燃料の原油分別品である。」
(3-ウ)「【0018】
本考案のセンサーは動作が完全にリバーシブルで、液相炭化水素に接触した後でも交換の必要がない。漏出を修理した後は、揮発性燃料はゴムセンサー合成体から蒸発してしまうので、テープの電気抵抗は元の乾燥値に戻る。」

3 補正発明と刊行物1発明との対比
ここで、補正発明と刊行物1発明を対比する。
(1)刊行物1発明の「一方の側面」及び「他方の側面」が、補正発明の「両側の第1及び第2の面」に相当し、刊行物1発明の「長く延びた板状の絶縁材の支持体1」が、補正発明の「長い非導電性基板」に相当するから、刊行物1発明の「テープ2が、支持体1の溝23から一方の側面上、下面上、他方の側面上、溝24へと連続した状態で配置される」「長く延びた板状の絶縁材の支持体1」が、補正発明の「両側の第1及び第2の面を有する長い非導電性基板」に相当する。

(2)刊行物1発明の「一方の側面上」に配置された部分の「導電性テープ2(の面)」が、補正発明の「前記基板の前記第1の面の少なくとも一部分上に配置された第1のセンサー面」に相当し、また、刊行物1発明の「他方の側面上」に配置された部分の「導電性テープ2(の面)」が、補正発明の「前記基板の前記第2の面の少なくとも一部分上に配置された第2のセンサー面」に相当する。

(3)刊行物1発明の「導電性テープ2」の「下面上」に配置された部分は、「導電性テープ2」の「一方の側面上」に配置された部分と「他方の側面上」に配置された部分とを電気的に連続させるものであるから、刊行物1発明の上記の「導電性テープ2」の「下面上」に配置された部分と、補正発明の「前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している橋絡用電極」とは、「前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している部材」である点で共通している。

(4)刊行物1発明の「導電性テープ2の両端部」は「溝23,24内に挿入され」、また、「導電性の一対の保持具27,28」及び「導電性保持具29,30」が、それぞれ、「溝23内」及び「溝24内」に挿入され、両者は電気的に接触するのであるから、上記の「導電性テープ2の両端部」は、「他部材」である「導電性の一対の保持具27,28」及び「導電性保持具29,30」との「電気的接触部」であるといえる。
したがって、刊行物1発明の上記の「導電性テープ2の両端部」と、補正発明の「前記基板の前記第1の面上に配置されかつ前記第1のセンサー面と電気的に結合された第1の電極、及び前記基板の前記第2の面に配置されかつ前記第2のセンサー面と電気的に結合された第2の電極」とは、「前記基板の前記第1の面上に配置されかつ前記第1のセンサー面と電気的に結合された一方側の他部材との電気的接触部材、及び前記基板の前記第2の面に配置されかつ前記第2のセンサー面と電気的に結合された他方側の他部材との電気的接触部材」である点で一致する。

(5)刊行物1発明の「導電性テープ2に対し、これが外れないように、支持体1の周面に浅い巾広の溝31を形成し、この溝31内にテープ2が、支持体1の溝23から一方の側面上、下面上、他方の側面上、溝24へと連続した状態で配置されるように導電性テープ2の案内がなされ」ることと、補正発明の「前記第1及び第2のセンサー面及び前記橋絡用電極が前記第1及び第2の電極間の導電経路を提供」することとは、「前記第1及び第2のセンサー面並びに両者を下面側で電気的に結合している部材が、前記第1センサー面との上面側での他部材との電気的接触部材と、第2のセンサー面との上面側での他部材との電気的接触部材との間の導電経路を提供」する点で共通する。

(6)刊行物1発明の「導電性テープ2は例えばベンゼン、スチレンなどの被検知流体と接して溶解するフイルムに導電性粒子が混入されたもの」であることから、刊行物1発明の「導電性テープ2」は「ベンゼン、スチレンなど(有機液体)の」「被検知流体と接して」「いるとき」と、上記液体と接して「いないとき」で異なる電気的抵抗値(補正発明の「アナログ抵抗値1」及び「アナログ抵抗値2」に相当)を示すことは明らかであるから、刊行物1発明の「導電性テープ2に対し、これが外れないように、支持体1の周面に浅い巾広の溝31を形成し、この溝31内にテープ2が、支持体1の溝23から一方の側面上、下面上、他方の側面上、溝24へと連続した状態で配置されるように導電性テープ2の案内がなされ」、「導電性テープ2は例えばベンゼン、スチレンなどの被検知流体と接して溶解するフイルムに導電性粒子が混入されたものである」ことが、補正発明の「前記導電経路は、前記センサー面の少なくとも一方が有機液体と接触しているとき第1のアナログ抵抗値を有し、かつ、前記センサー面が有機液体と接触していないとき第2のアナログ抵抗値を有して」いることに相当する。

4 一致点
そこで、補正発明と刊行物1発明とを対比すると、両者は、
「両側の第1及び第2の面を有する長い非導電性基板;
前記基板の前記第1の面の少なくとも一部分上に配置された第1のセンサー面及び前記基板の前記第2の面の少なくとも一部分上に配置された第2のセンサー面;
前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している部材;及び
前記基板の前記第1の面上に配置されかつ前記第1のセンサー面と電気的に結合された一方側の他部材との電気的接触部材、及び前記基板の前記第2の面に配置されかつ前記第2のセンサー面と電気的に結合された他方側の他部材との電気的接触部材;
を備え、
前記第1及び第2のセンサー面並びに両者を下面側で電気的に結合している部材が、前記第1センサー面との上面側での他部材との電気的接触部材と、第2のセンサー面との上面側での他部材との電気的接触部材との間の導電経路を提供し、前記導電経路は、前記センサー面の少なくとも一方が有機液体と接触しているとき第1のアナログ抵抗値を有し、かつ、前記センサー面が有機液体と接触していないとき第2のアナログ抵抗値を有しているシステム。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

5 相違点
(1)相違点1
前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している部材が、補正発明では「橋絡用電極」であるのに対し、刊行物1発明では、前記第1及び第2のセンサー面を構成する導電性テープに連続して前記基板(板状支持体)の下面上に配置された導電性テープである点。
(2)相違点2
前記基板の前記第1のセンサー面と電気的に結合された一方側の他部材との電気的接触部材、及び前記基板の前記第2のセンサー面と電気的に結合された他方側の他部材との電気的接触部材が、補正発明では、それぞれ、「第1の電極」及び「第2の電極」であるのに対し、刊行物1発明では、前記第1及び第2のセンサー面と連続した導電性テープの他部材との電気的接触部分である点。
(3)相違点3
「導電経路」における「前記センサー面の少なくとも一方が有機液体と接触しているとき」の「第1のアナログ抵抗値」と「前記センサー面が有機液体と接触していないとき」の「第2のアナログ抵抗値」について、補正発明では、「前記第1の抵抗と前記第2の抵抗との間の変化は、可逆的であ」るのに対し、刊行物1発明では、その変化が不可逆的といえる点。
(4)相違点4
システムが、補正発明では、「変換回路」を備え、「前記変換回路は、第1のアナログ抵抗値を第1の2値出力に変換し、かつ、前記第2のアナログ抵抗値を第2の2値出力に変換する」ものであるのに対し、刊行物1発明には、その点が特定されていない点。

6 当審の判断
(1)各相違点についての検討
ア 相違点1?3について
(ア)刊行物2には、「カーボン入りシリコンゴム製薄膜の油検知部02」を備えたセンサーが「油05が付着した油検知部02が膨張して、その電気抵抗が増加することにより、油05を検出している」ことが記載され、これは、油検知部に油(有機液体)が接したときと接しないときで電気抵抗値が(第1のアナログ抵抗値から第2のアナログ抵抗値に)変わることを利用して油(有機液体)を検知するものといえるから、導電性充填材であるカーボン入りのシリコンゴム製の支持体上に被覆された薄膜からなる油検知部に、油すなわち有機液体が接触することにより油検知部が膨張して、その電気抵抗が増加する、すなわち油検出面が油(有機液体)と接触しているとき第1のアナログ抵抗値を有し、かつ、前記油検出面が油(有機液体)と接触していないとき第2のアナログ抵抗値を有するものに変化することにより、有機液体を検出しているシステムは、本件出願の優先権主張日前から従来技術として公知の有機液体を検出するためのシステムにすぎない。
しかも、刊行物3には、「液相の炭化水素が接触したとき」「合成重合体基質は膨張」することを利用した「液相の炭化水素だけを検知する炭化水素検知センサー」が「動作が完全にリバーシブルで、液相炭化水素に接触した後でも交換の必要がない」ことが記載されており、上記刊行物3の記載を参酌すれば、上記の刊行物2に記載された被検体の接触による膨張を利用した検知装置においても、有機液体と接触しているときの第1のアナログ抵抗値と有機液体と接触していないときの第2のアナログ抵抗値の変化は可逆的であり、そのような材料からなる有機液体の検出面は有機液体に接触した後でも交換の必要性がないことがわかる。
物質検出用センサーにおいて、検出物質を検出する度に物質検出部を交換しなければならない不可逆的変化を利用するものよりも、検出物質の検出後にも物質検出部を交換する必要がない可逆的変化を利用する、繰り返し使用可能なセンサーの方が検出コスト等の面から好ましいことは、センサー技術における技術常識であり、そのような繰り返し検出可能なセンサーの提供も一般的な課題であるから、刊行物1発明における有機液体と接すると切断するため検出物質を検出する度に物質検出部を交換しなければならない導電性テープで構成されるセンサー面に代えて、刊行物2,3に記載の導電性充填材入りシリコンゴム等の導電性材料の基板(支持体)上の被覆層によるセンサー面を基板の両面に採用し、上記相違点3に係る補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得ることである。
(イ)そして、基板の両面に存在する導電性材料層を電気的に結合する手段として、橋絡用電極を設けることは、センサーの製造技術において普通に採用されている周知技術であり、上記(ア)で述べたように「導電性充填材入りシリコンゴム等の導電性材料の基板(支持体)上の被覆層によるセンサー面」を基板の両面に採用した際に、上記の周知技術を適用し、基板の両面の「導電性充填材入りシリコンゴム等の導電性材料の基板(支持体)上の被覆層によるセンサー面」を橋絡用電極で接続し、上記相違点1に係る補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得ることである。
(ウ)また、導電性材料を他部材と電気的に接触させる手段として電極を設けることは周知であり、上記(ア)で述べたように「導電性充填材入りシリコンゴム等の導電性材料の基板(支持体)上の被覆層によるセンサー面」を基板の両面に採用した際に、上記の周知技術を適用し、基板の両面それぞれの「導電性充填材入りシリコンゴム等の導電性材料の基板(支持体)上の被覆層によるセンサー面」の他部材との電気的接触部を、それぞれ、第1の電極、及び、第2の電極とし、上記相違点2に係る補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点4について
検出物質があるかないかの有無等、ある状態と別の状態の2つのいずれの状態にあるかを検出システムからの電気的出力信号の大きさにより判別するシステムにおいては、検出システムからの電気的出力信号を2つのいずれかの状態に振り分けなければならないので、検出システムからの電気的出力信号を所定のしきい値と比較して第1の2値出力と第2の2値出力のいずれかに変換することは、本件出願の優先権主張日前における周知技術にすぎない(必要ならば、例えば特開2003-35587号公報、特に段落【0002】、【0015】?【0019】、【0032】の記載、等参照)から、刊行物1発明にも、変換回路を備え、第1のアナログ抵抗値を第1の2値出力に変換し、かつ、前記第2のアナログ抵抗値を第2の2値出力に変換するように、システムを設計する程度のことは当業者が普通に行い得る範囲内の事項である。

(2)補正発明の奏する作用効果
そして、補正発明によってもたらされる効果は、刊行物1ないし3の記載事項及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ
以上のとおり、補正発明は、刊行物1発明、刊行物2及び3に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
したがって、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年3月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成24年2月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という)

「【請求項1】
両側の第1及び第2の面を有する長い非導電性基板;
前記基板の前記第1の面の少なくとも一部分上に配置された第1のセンサー面及び前記基板の前記第2の面の少なくとも一部分上に配置された第2のセンサー面;
前記第1及び第2のセンサー面を電気的に結合している橋絡用電極;及び
前記基板の前記第1の面上に配置されかつ前記第1のセンサー面と電気的に結合された第1の電極、及び前記基板の前記第2の面に配置されかつ前記第2のセンサー面と電気的に結合された第2の電極
を備え、
前記第1及び第2のセンサー面及び前記橋絡用電極が前記第1及び第2の電極間の導電経路を提供し、前記導電経路は、前記センサー面の少なくとも一方が有機液体と接触しているとき第1の抵抗を有しかつ前記センサー面が有機液体と接触していないとき第2の抵抗を有しており、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗との間の変化は、可逆的であるシステム。」

2 引用刊行物等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3の記載事項は、前記「第2」の「2」に記載したとおりである。

3 本願発明と刊行物1発明との対比・判断
本願発明は、前記「第2」の「3」で検討した補正発明において、(i)補正前の「第1の抵抗」及び「第2の抵抗」を、それぞれ、「第1のアナログ抵抗値」及び「第2のアナログ抵抗値」と補正する補正と、(ii)システムが「変換回路」をさらに備え、かつ「前記変換回路は、第1のアナログ抵抗値を第1の2値出力に変換し、かつ、前記第2のアナログ抵抗値を第2の2値出力に変換する、」と限定する補正がないものであるから、本願発明は、前記「第2」の「3」で検討した補正発明を包含する。
そうすると、補正発明と同様に、本願発明も刊行物1発明、刊行物2及び3に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2及び3に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-27 
結審通知日 2014-05-28 
審決日 2014-06-16 
出願番号 特願2008-543593(P2008-543593)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 渡戸 正義
森林 克郎
発明の名称 有機液体検出用センサー  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 松下 満  
代理人 井野 砂里  
代理人 山本 泰史  
代理人 辻居 幸一  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  

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