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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1293482
審判番号 不服2013-24768  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-17 
確定日 2014-10-27 
事件の表示 特願2007-277418「電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月14日出願公開、特開2009-106129〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年10月25日を出願日とする出願であって、平成23年11月9日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成23年11月15日)、これに対し、平成24年1月10日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成24年11月21日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年11月27日)、これに対し、平成25年1月15日付で意見書が提出されたが、平成25年9月27日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年10月1日)、これに対し、平成25年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。


2.平成25年12月17日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月17日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
多相ブラシレスモータの各相電流に対応する複数のアナログ信号の出力源にそれぞれ接続され、変換タイミング信号に同期して前記複数のアナログ信号を同時にデジタルデータに変換する複数のA/D変換手段を有し、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する変換手段と、
順次送信される前記複数のデジタルデータを受信するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行うマイクロコンピュータと、
を有することを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記変換手段は、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する送信手段を有し、
マイクロコンピュータは、順次送信される前記複数のデジタルデータを受信する受信手段と、前記複数のA/D変換手段に同一の変換タイミング信号を出力するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行う処理手段と、を有することを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記送信手段及び前記受信手段は、デジタルデータをシリアル送受信することを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記マイクロコンピュータは、各相電流に基づいて前記多相ブラシレスモータを制御するための処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項5】
前記処理手段は、各相電流に基づいて前記多相ブラシレスモータを制御するための処理を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の電子装置。
【請求項6】
前記多相ブラシレスモータは、車両においてステアリングホイールの操舵を補助するためのトルクを発生することを特徴とする請求項4又は5に記載の電子装置。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
多相ブラシレスモータの各相電流に対応する複数のアナログ信号の出力源にそれぞれ接続され、変換タイミング信号に同期して前記複数のアナログ信号を同時にデジタルデータに変換する複数のA/D変換手段と、前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するMOSFETを駆動するためのMOSFET駆動回路とを有し、ICとして構成され、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する変換手段と、
順次送信される前記複数のデジタルデータを受信するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行うマイクロコンピュータと、
を有することを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記変換手段は、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する送信手段を有し、
マイクロコンピュータは、順次送信される前記複数のデジタルデータを受信する受信手段と、前記複数のA/D変換手段に同一の変換タイミング信号を出力するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行う処理手段と、を有することを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記送信手段及び前記受信手段は、デジタルデータをシリアル送受信することを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記マイクロコンピュータは、各相電流に基づいて前記多相ブラシレスモータを制御するための処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項5】
前記処理手段は、各相電流に基づいて前記多相ブラシレスモータを制御するための処理を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の電子装置。
【請求項6】
前記多相ブラシレスモータは、車両においてステアリングホイールの操舵を補助するためのトルクを発生することを特徴とする請求項4又は5に記載の電子装置。」


(2)目的要件について
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正前後で請求項数は共に6であり、本件補正前の従属項である請求項2-6は本件補正後の従属項である請求項2-6と引用関係も含めて記載が全く同じであるから、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1が上記の対応関係に立つか検討する。

本件補正後の請求項1は、変換手段が、「前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するMOSFETを駆動するためのMOSFET駆動回路」を有し、且つ、複数のA/D変換手段と共に「ICとして構成され」ているが、本件補正前の請求項1は、「複数のA/D変換手段を有し、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する」のみであって、多相ブラシレスモータの検出信号を取り込む手段である複数のA/D変換手段を有していても、変換手段から信号を発する多相ブラシレスモータの駆動回路について特定されていない。また、本件補正前の請求項1の「複数のA/D変換手段を有し、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する変換手段」を限定しても、本件補正後の請求項1の「前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するMOSFETを駆動するためのMOSFET駆動回路」となることはなく、しかも、「前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するMOSFETを駆動するためのMOSFET駆動回路」を有し、且つ、複数のA/D変換手段と共に「ICとして構成され」ることにより、電子装置を大型化することなくA/D変換手段に変換タイミング信号を与えることができ、アナログ信号の出力源まで配線長を短くするという新たな課題も解決している(審判請求書3.(4))から、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項5に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-288198号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

a「直流電源にフィルタコンデンサを介して接続され、直流を3相の交流に変換する主回路と、該主回路の交流側に接続され、電気車を駆動する3相交流モータと、前記主回路より前記交流モータに出力される3相分の交流電流を夫々検出する電流検出手段と、該電流検出手段からの検出情報に基づいて前記主回路を制御する制御装置とを備えた電気車用電力変換装置において、
前記夫々の電流検出手段には、被検出部に取付けられたホール効果を利用して瞬時値電流をアナログ信号として検出する手段と、該検出したアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、該A/D変換手段で変換されたデジタル信号を時分割にシリアル出力するシリアルインタフェースが内蔵されてなり、該各電流検出手段のシリアルインタフェースと前記制御装置とはシリアル伝送ケーブルで接続され、前記電流検出手段から前記制御装置への検出情報がデジタル信号でシリアル伝送されることを特徴とする電気車用電力変換装置。」(【請求項1】)

b「以下、本発明の第1の実施例を第1図を用いて説明する。
第1図は、直流電力を交流電力に変換し、交流モータ6を駆動する電気車のインバータ装置における構成の概要をブロック図で示している。
インバータ装置は、直流電圧Vdを三相のモータ電流iu,iv,iwに変換するスイッチング素子(IGBT素子)等からなる主回路3と、主回路3の直流側に接続され、主回路3に直流電源を供給し、かつ平滑化するフィルタコンデンサ4と、運転台5からの運転指令,検出されたモータ電流,フィルタコンデンサ電圧に基づいて変調率を生成し、それをPWMパルス情報aに変換してゲートドライブ2に出力する制御装置1と、そのPWM情報aを主回路3内のスイッチング素子のゲート信号bに変換するゲートドライブ2から構成される。運転台5は、力行・回生指令,ノッチ信号,ブレーキ指令などの運転指令を出力する。この運転指令は、シリアル伝送ケーブル9Cによって制御装置1に伝送される。電気車を駆動する交流モータ6は、主回路3の交流側に接続されている。
なお、第1図では明示していないが、主回路3内にはUVWの各三相分×P・N側の2極=6個のIGBT素子が内蔵されている。このため、ゲートドライブ2から主回路3へ送るゲート信号bは6本、同様に制御装置1からゲートドライブ2へ送るPWMパルス情報aも6本の信号線で送られる。
主回路3の直流側には、フィルタコンデンサ4の端子電圧Vdを検出する直流電圧センサ(PT)7が設けられ、交流側には、モータ電流iu,iv,iwの瞬時値を検出するモータ電流センサユニット8が設けられる。各センサ7,8には、シリアル信号伝送用の接続端子として入力用と出力用とが設けられている。これにより、直流電圧センサ(PT)7の出力用接続端子とモータ電流センサユニット8の入力用接続端子はシリアル伝送ケーブル9Aで接続され、センサユニット8の出力用接続端子と制御装置1の入力用接続端子はシリアル伝送ケーブル9Bで接続される。このように、センサ7,8と制御装置1は、シリアル伝送ケーブル9A?9Bを介して直列に接続される。
なお、運転台5と直流電圧センサ(PT)7とをシリアル伝送ケーブルで接続しても良い。
なお、各センサ7,8は、検出したアナログ信号を内蔵のA/D変換機能によりデジタル信号に変換する機能と、(すべてのセンサが-続きのシリアル伝送ケーブルで接続されるため)センサの出力が衝突しないようシリアル信号線のアクセス権を調停しながら、A/D変換されたデジタル信号を時分割してシリアル出力するシリアルインタフェース機能を備えている。シリアル信号線のアクセス権の調停方法及びシリアルインタフェースの動作例に関しては第5図で説明する。
第2図は、第1図におけるモータ電流センサユニット8の詳細構成図である。
モータ電流センサユニット8は、モータ電流iu,iv,iwの瞬時値をそれぞれ検出する電流検出装置81a?81cと、A/D変換する際の前処理として周波数帯域を制限するためのフィルタ装置82a?82cと、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換装置83a?83cと、A/D変換されたデータを順次シリアルインタフェース85に送るため、データを一次待機させるバッファ84a?84cと、デジタル信号に変換されたモータ電流値をシリアル信号線のアクセス権を調停しながら時分割してシリアル出力する機能を備えたシリアルインタフェース85から構成される。なお、図示してはいないが、シリアルインタフェース85には、A/D変換装置83a?83cからの信号を一次待機させるバッファを有している。
電流検出装置81a?81cは、ホール効果を利用したもので、リング811a?811cの中に検出する電流iu,iv,iwをそれぞれ通して測定する。フィルタ装置82a?82cは、検出した信号の周波数帯域を、A/D変換装置83a?83cのサンプリング周波数の半分以下に制限するために設けている。
また、シリアル伝送ケーブル9A,9Bは、電源線91とアース線92と信号線93の3本構成とする。モータ電流センサユニット8にこのシリアル伝送ケーブル9A,9Bを接続して信号の配線のほか、必要な電源を供給できるものとする。なお、電源は制御装置1から供給するものとする。
またモータ電流センサユニット8は、検出したモータ電流の瞬時値をA/D変換して送るだけでなく、所定の演算(例えば、過電流検知や実効値演算など)を施した後のデータを送っても構わない。
直流電圧センサ(PT)7の詳細構成図は図示しないが、第2図の電流検出装置81a?81cが電圧検出装置に置き換わり、電圧検出装置,フィルタ装置,A/D変換器、バッファが1つとなるのみで、他の構成は変わらないものとする。」(【0008】-【0009】)

c「第4図は、第1図における制御装置1の詳細構成図である。
制御装置1は、シリアル伝送ケーブル9Cを介して運転台5から伝えられるシリアル信号の運転指令や各種保護信号を、パラレル信号の情報に変換するシリアルインタフェース101aと、シリアル伝送ケーブル9Bを介して各種センサ7,8から送られてくるフィルタコンデンサ電圧Vdおよびモータ電流iu,iv,iwの瞬時値のシリアル信号を、パラレル信号の制御情報に変換するシリアルインタフェース101bと、これらの制御情報に基づいて変調率演算を行う制御ユニット102と、この生成された変調率からPWMパルス情報aを生成するパルス出力装置103と、PWMパルス情報aをゲートドライブに出力するための電気・光変換素子(E/O)ユニット104から構成されている。
制御ユニット102は、シリアルインタフェース101a,101bによって変換されたパラレル信号の制御情報が書込まれる記憶装置105a,105bと、記憶装置105a,105bより任意のタイミングで制御情報を読み出して変調率演算処理を行うCPU106とから構成されている。なお、パルス出力装置103はデジタル信号を取り扱うデバイスである。」(【0011】)

上記記載及び図面を参照すると、A/D変換装置は3相の各相に設けられているから複数存在する。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「3相交流モータの3相分の交流電流の夫々の瞬時値電流を夫々のアナログ信号として検出し、検出した前記夫々のアナログ信号を夫々のデジタル信号に変換する複数のA/D変換装置と、変換した前記夫々のデジタル信号を時分割にシリアル出力するシリアルインタフェースと、
前記3相交流モータの主回路のスイッチング素子へゲート信号を送るゲートドライブと、
時分割にシリアル出力される前記夫々のデジタル信号をパラレル信号の制御情報に変換するとともに、前記制御情報に基づいて演算を行う制御装置と、
を有する電気車用電力変換装置。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「3相交流モータ」、「3相分の交流電流の夫々の瞬時値電流」、「夫々のアナログ信号」、「A/D変換装置」、「夫々のデジタル信号」、「時分割にシリアル出力する」、「演算を行う」、「電気車用電力変換装置」は、それぞれ本願補正発明の「多相ブラシレスモータ」、「各相電流」、「複数のアナログ信号」、「A/D変換手段」、「複数のデジタルデータ」、「順次送信する」、「処理を行う」、「電子装置」に相当する。

引用発明の「変換した前記夫々のデジタル信号を時分割にシリアル出力するシリアルインタフェース」は、夫々のデジタル信号をパラレル-シリアル変換を行っているから、本願補正発明の「変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する変換手段」に相当する。

引用発明の「3相分の交流電流の夫々の瞬時値電流を夫々のアナログ信号として検出」するものは、各相電流に対応する複数のアナログ信号の出力源であり、引用発明の「A/D変換装置」は、当該アナログ信号をA/D変換しているのでアナログ信号の出力源に接続されていることとなるから、引用発明の「3相交流モータの3相分の交流電流の夫々の瞬時値電流を夫々のアナログ信号として検出し、検出した前記夫々のアナログ信号を夫々のデジタル信号に変換する複数のA/D変換装置」と、本願補正発明の「多相ブラシレスモータの各相電流に対応する複数のアナログ信号の出力源にそれぞれ接続され、変換タイミング信号に同期して前記複数のアナログ信号を同時にデジタルデータに変換する複数のA/D変換手段」は、「多相ブラシレスモータの各相電流に対応する複数のアナログ信号の出力源にそれぞれ接続され、前記複数のアナログ信号をデジタルデータに変換する複数のA/D変換手段」の概念で一致する。
引用発明の「主回路のスイッチング素子」は、主回路に流れる各相電流を制御するためのものであり、「ゲート信号を送るゲートドライブ」は、主回路のスイッチング素子を駆動するための駆動回路であり、MOSFETはスイッチング素子の一種であるから、引用発明の「前記3相交流モータの主回路のスイッチング素子へゲート信号を送るゲートドライブ」と、本願補正発明の「前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するMOSFETを駆動するためのMOSFET駆動回路」は、「前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するスイッチング素子を駆動するためのスイッチング素子駆動回路」との概念で一致する。
引用発明において、「前記夫々のデジタル信号をパラレル信号の制御情報に変換する」には、制御装置が前記夫々のデジタル信号を受信しなければならず、「パラレル信号の制御情報」は、デジタル信号であって夫々のデジタル信号であり、又、制御装置とマイクロコンピュータは手段との概念で一致するから、引用発明の「時分割にシリアル出力される前記夫々のデジタル信号をパラレル信号の制御情報に変換するとともに、前記制御情報に基づいて演算を行う制御装置」と、本願補正発明の「順次送信される前記複数のデジタルデータを受信するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行うマイクロコンピュータ」は、「順次送信される前記複数のデジタルデータを受信するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行う手段」との概念で一致する。

したがって、両者は、
「多相ブラシレスモータの各相電流に対応する複数のアナログ信号の出力源にそれぞれ接続され、前記複数のアナログ信号をデジタルデータに変換する複数のA/D変換手段と、変換した前記複数のデジタルデータを順次送信する変換手段と、
前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するスイッチング素子を駆動するためのスイッチング素子駆動回路と、
順次送信される前記複数のデジタルデータを受信するとともに、受信した前記複数のデジタルデータに基づいて処理を行う手段と、
を有する電子装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
複数のA/D変換手段に関し、本願補正発明は、変換タイミング信号に同期して複数のアナログ信号を同時にデジタルデータに変換するのに対し、引用発明は、複数のアナログ信号をデジタルデータに変換するが、変換タイミング信号に同期して同時に行うとの限定がない点。
〔相違点2〕
スイッチング素子を駆動するためのスイッチング素子駆動回路に関し、本願補正発明は、スイッチング素子がMOSFETであるのに対し、引用発明は、スイッチング素子ではあるがそれ以上の特定がない点。
〔相違点3〕
変換した複数のデジタルデータを順次送信する変換手段に関し、本願補正発明は、複数のA/D変換手段とMOSFET駆動回路を有し、ICとして構成されるのに対し、引用発明は、複数のA/D変換手段とMOSFET駆動回路を有しておらず、ICとして構成されているか不明な点。
〔相違点4〕
処理を行う手段に関し、本願補正発明は、マイクロコンピュータであるのに対し、引用発明は、制御装置であるが、マイクロコンピュータであるか不明な点。


(3)判断
相違点1について
引用発明において、多相ブラシレスモータの各相電流を常にA/D変換しても、変換手段はデジタルデータをシリアル送信、即ち時分割しているから、全てのA/D変換されたデジタルデータを制御装置に送信できない。また、ブラシレスモータを制御するために電流を検出する場合、各相電流は同じタイミングで検出しなければ制御の際に誤差が出てしまうこととなる。
更に、原査定の拒絶の理由で示された特開2002-214256号公報(【0002】-【0008】、【図4】参照。)には、タイミング制御(本願補正発明の「変換タイミングに同期」が相当)して各相電流に対応するアナログ計測信号(本願補正発明の「複数のアナログ信号」が相当)を同時にデジタルデータに変換してマイクロコンピュータに送信する複数のA/D変換器(本願補正発明の「A/D変換手段」が相当)が示されている。
そうであれば、引用発明において、複数のアナログ信号をデジタルデータに変換する複数のA/D変換手段の変換を、変換タイミング信号に同期して同時に行うことは当業者が適宜なし得ることと認められる。

相違点2、3について
多相ブラシレスモータの主回路のスイッチング素子としてMOSFETを用いることは周知の事項(必要があれば特開2006-340472号公報参照)であるから、引用発明においても主回路のスイッチング素子をMOSFETとすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。
A/D変換手段と、MOSFET駆動回路とを有し、ICとして構成される点は、特開平11-69611号公報(特に、【0019】、【0021】、【0031】、【図1】参照。【0031】には、「メインCPU28は、ドライバ駆動&監視用IC30によってA/D変換された電流Iを示す値I_(AD)を取り込む」と記載されている。)に示されている。また、電気回路において、どの部分とどの部分を纏めて1つの回路とするか、及び、どの部分をIC化するかは、必要に応じて適宜なし得ることと認められる。
そうであれば、引用発明において、駆動回路をMOSFET駆動回路とし、変換手段に、複数のA/D変換手段と、特開平11-69611号公報記載のもののように、MOSFET駆動回路を設けて、ICとして構成することは当業者が容易に考えられることと認められる。

相違点4について
電子的な処理を行う手段としてマイクロコンピュータを用いることは周知の事項であるから、引用発明において、処理を行う手段をマイクロコンピュータとすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、上記した平成24年1月10日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び、その記載事項は、上記「2.[理由II](1)」に記載したとおりである。


(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、変換手段について、実質的に「前記多相ブラシレスモータの各相電流を制御するMOSFETを駆動するためのMOSFET駆動回路とを有し、ICとして構成され」との限定を省いたものであり、上記「2.[理由II](2)」の〔相違点2〕、〔相違点3〕が存在しないこととなる。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の記載を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.[理由II](3)」に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、上記「2.[理由II](3) 相違点2について」、「2.[理由II](3) 相違点3について」に記載した理由を除いた理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-25 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-09 
出願番号 特願2007-277418(P2007-277418)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02P)
P 1 8・ 121- Z (H02P)
P 1 8・ 572- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森山 拓哉  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 堀川 一郎
矢島 伸一
発明の名称 電子装置  
代理人 大川 宏  

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