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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1293517
審判番号 不服2013-19754  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-10 
確定日 2014-10-29 
事件の表示 特願2011-203303「内部A/D変換器を備えたマイクロホン」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日出願公開、特開2012- 19543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年6月8日(パリ条約による優先権主張2001年2月2日、米国)に出願した特願2001-174543号の一部を平成23年9月16日に新たな特許出願としたものであって、原審において平成23年10月7日付けで手続補正され、平成24年11月7日付けで拒絶理由が通知され、平成25年6月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月10日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年10月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成23年10月7日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「【請求項1】
導電性の材料にてなり、送話口を有するマイクロホンアッセンブリケーシングと、
上記送話口を介して音響波を受け、上記受けた音響波をアナログオーディオ信号に変換する変換器であって、上記マイクロホンアッセンブリケーシング内に設けられた変換器と、
上記マイクロホンアッセンブリケーシング内に設けられた電子回路であって、上記変換器からのアナログオーディオ信号を増幅するプリアンプと、ディジタルオーディオ信号を提供するシグマ-デルタ変調器との縦続接続によって定義される信号経路を備えた電子回路とを備えたマイクロホンアッセンブリであって、
上記マイクロホンアッセンブリは、
上記変換器と上記プリアンプとの間に設けられた高域通過フィルタであって、上記シグマ-デルタ変調器の入力における信号のDC成分又はゆっくりと変化する成分を除去する高域通過フィルタと、
上記プリアンプと上記シグマ-デルタ変調器との間に設けられ、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタと
をさらに備え、
上記プリアンプ、上記シグマ-デルタ変調器、上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、1つの集積回路に集積化され、
上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、上記プリアンプに組み込まれているマイクロホンアッセンブリ。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「【請求項1】
マイクロホンアッセンブリと、
上記マイクロホンアッセンブリに接続され、さらなる信号処理を行う純粋なディジタル信号プロセッサとを備えた携帯装置であって、
上記マイクロホンアッセンブリは、
導電性の材料にてなり、送話口を有するマイクロホンアッセンブリケーシングと、
上記送話口を介して音響波を受け、上記受けた音響波をアナログオーディオ信号に変換する変換器であって、上記マイクロホンアッセンブリケーシング内に設けられた変換器と、
上記マイクロホンアッセンブリケーシング内に設けられた電子回路であって、上記変換器からのアナログオーディオ信号を増幅するプリアンプと、ディジタルオーディオ信号を提供するシグマ-デルタ変調器との縦続接続によって定義される信号経路を備えた電子回路と、
上記変換器と上記プリアンプとの間に設けられた高域通過フィルタであって、上記シグマ-デルタ変調器の入力における信号のDC成分又はゆっくりと変化する成分を除去する高域通過フィルタと、
上記プリアンプと上記シグマ-デルタ変調器との間に設けられ、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタとを備え、
上記プリアンプ、上記シグマ-デルタ変調器、上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、1つの集積回路に集積化され、
上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、上記プリアンプに組み込まれ、
上記携帯装置は携帯電話機又はセルラー電話機である携帯装置。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「マイクロホンアッセンブリ」に関し、「上記マイクロホンアッセンブリに接続され、さらなる信号処理を行う純粋なディジタル信号プロセッサとを備えた携帯装置であって」と限定し、また、「上記携帯装置は携帯電話機又はセルラー電話機である携帯装置」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に適合するとともに、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明及び周知技術
A 原審の拒絶の理由に引用された米国特許第5796848号明細書(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「1. Field of the Invention
The present invention is directed to a hearing aid of the type having at least one microphone, a digital signal processing means including signal transducer, an amplifier and a filter stage, and an earphone.
2. Description of the Prior Art
A hearing aid of the above type is disclosed in German OS 27 16 336. In this hearing aid, a microphone is provided as an input signal source that is connected to an amplifier forming a low-pass filter. This amplifier is followed by an analog-to-digital converter that is connected to a computer stage having an output connected to a digital-to-analog converter, the latter being connected to an output amplifier to which an earphone is connected as an output transducer. The signal processing stage of the programmable hearing aid can include a microprocessor with memory and can be implemented as an integrated module. A number of input signals, for example from a microphone and from a pick-up induction coil, can thereby be correlated with one another in the processor.
In digital hearing aids of this type, the sound is picked up in analog form by the microphone. The analog microphone signal is then amplified and converted into digital signals in an analog-to-digital converter. After the signal processing, the digital signal is converted back into an analog signal that is then supplied to the earphone via an output amplifier. In particular, hearing aids to be worn on the head can come into the proximity of strong transmitters such as, for example, automobile telephones, mobile radio equipment or microwave irradiation means. The emitted electromagnetic waves often have a very high field strength in the proximity of such a transmitter. These high-frequency electromagnetic waves can, in particular, penetrate into the hearing aid through openings and have a disturbing influence on the amplifier circuit.
In order to suppress the penetration of high-frequency electromagnetic waves via seams and openings of the hearing aid housing, German OS 43 43 702 discloses forming the hearing aid housing of at least two electrically conductive parts connected to one another in electrically conductive fashion via a high-frequency seal.
SUMMARY OF THE INVENTION
Since the electromagnetic noise emission can disturbingly influence the operation of hearing aids and, particularly in hearing aids of the type initially described, the useful signals present in analog form, an object of the invention is to provide a digital hearing aid that is substantially insensitive to emission of electromagnetic waves (electro-smog).
In a hearing aid of the type initially described, this object is inventively achieved by integrating the analog-to-digital converter into the microphone housing. By accommodating the analog-to-digital converter in the housing of the microphone, the only thing still required is to communicate the digital signals, which are largely insensitive to noise, from the microphone housing to the signal-processing components (signal processing stage, output amplifier). Long signal lines are avoided due to the small spacing between the microphone and the A/D converter, and the infusion of noise signals into the analog microphone signal can be greatly reduced by the shielding of the microphone housing. In order to keep the number of terminals small, it is advantageous to transmit the digital data word in serial form over only a single signal line. A sigma-delta modulator is especially well-suited for this purpose, whereby the analog signal is converted in a fast serial bit stream. The conversion into a slower serial data stream and/or the conversion into parallel data words can ensue in a digital filter in the signal processor.
In an embodiment, a known semiconductor microphone (as disclosed, for example, in German Utility Model 8910743.8) is employed as the microphone. Such a semiconductor microphone can be arranged on a semiconductor component part monolithically integrated with a sigma-delta modulator. As a result, the connecting lines to be protected against noise emission are again shortened or entirely avoided, and the number of discrete components is reduced.
In order to prevent interference from proceeding into the microphone over the electrical supply line, it is provided that at least one capacitor can be connected between the supply lines in the proximity of the microphone.」(1欄3行?2欄19行)

訳文(イ.)「1.本発明の属する技術分野
本発明は 少なくとも1個のマイクロホンと、信号変換器、増幅器、フィルターステージ、イヤホン等のデジタル信号処理手段を有するタイプの補聴器を対象としている。
2.先行技術の説明
上記タイプの補聴器はGerman OS 27 16 336で開示されている。この補聴器には、低域フィルターを形成する増幅器に接続する入力信号源として、マイクロホンが備わっている。この増幅器の奥には、デジタル-アナログ変換器に接続する出力を備えた、コンピューターステージに接続するアナログ-デジタル変換器があり、この変換器はイヤホンを出力変換器として接続した出力増幅器に接続されている。プログラマブル補聴器における信号処理ステージは、メモリを有するマイクロプロセッサーを備え、統合モジュールとして実行することができる。したがって、マイクロホンや誘導ピックアップコイル等が発する多数の入力信号は、プロセッサーの中で互いに関連し合っている。
このタイプのデジタル補聴器において、マイクロホンは音をアナログ方式で拾う。次に、マイクロホンのアナログ信号が増幅され、アナログ-デジタル変換器によってデジタル信号に変換される。信号処理が完了すると、デジタル信号はアナログ信号に再変換され、出力増幅器を通してイヤホンに供給される。特に、頭部に装着するタイプの補聴器は、自動車電話、移動無線機器、マイクロ波照射手段等の強力な送信機の付近で使用できる。放射される電磁波は、多くの場合、前記送信機付近において非常に高い電界強度を有する。これらの高周波電磁波は、特に、開口部から補聴器に侵入し、増幅回路に憂慮すべき影響を与える。
補聴器筐体の継ぎ目や開口部から侵入する高周波電磁波を抑制するため、German OS 43 43 702は、導電方式で互いに接続する少なくとも2箇所の導電部における補聴器筐体の形成について開示している。
本発明の概要
電磁波ノイズ放出は補聴器の動作に憂慮すべき影響を与える可能性があり、最初に述べたタイプの補聴器においては特に、有益な信号がアナログで存在する。すなわち、電磁波放出(電子スモッグ)に実質的に反応しないデジタル補聴器を供給することが本発明の目的である。
最初に述べたタイプの補聴器において、この目的は、アナログ-デジタル変換器をマイクロホン筐体に組み込むことによって、発明的な方法で達成される。アナログ-デジタル変換器をマイクロホン筐体に収容し、ノイズにほぼ反応しないデジタル信号をマイクロホン筐体から信号処理コンポーネント(信号処理ステージおよび出力増幅器)に伝えるだけでよい。マイクロホンとアナログ-デジタル変換器の間に僅かな隙間があるため、長い信号線を要しない。また、ノイズ信号のアナログマイクロホン信号への注入は、マイクロホン筐体のシールドによって大幅に低減される。端子の数を少数に保つため、信号線1本のみを介してシリアル方式でデジタル・データワードを送信することが好ましい。シグマデルタ変調器は、この目的には特に適しており、それによってアナログ信号が高速シリアル・ビット・ストリームに変換される。続いて、信号プロセッサーのデジタルフィルター内における低速シリアル・データ・ストリームへの変換及び/又はパラレル・データワードへの変換が起こり得る。
実施態様では、既知の半導体マイクロホン(例えば、ドイツ実用新案8910743.8で開示されたように)は、マイクロホンとして採用されている。このような半導体マイクロホンは、シグマデルタ変調器とモノリシックに統合した1個の半導体部品上に配置することができる。この結果、ノイズ放射を遮蔽する接続線は、再び短縮されるかまたは完全に排除され、個別部品の数は減少する。
給電線を介したマイクロホンへの干渉の進行を防止するため、マイクロホン付近の給電線間に少なくとも1個のコンデンサーを接続できるものとする。」

ロ.「A microphone 1, followed by a signal conditioning stage 2 with an amplifier 3 and filters 4 and 4' and an earphone 5 are arranged in a hearing aid housing 14 that, for example, is composed of plastic shells. The audio signals proceed through a sound admission opening 15 to the microphone 1 which has a microphone housing 6 allocated to it. The processed audio signals emitted by the earphone 5 proceed through a sound outlet channel 16 and are supplied to the tympanic membrane.
In the digital hearing aid of FIG. 1, a microphone pre-amplifier 8 and an analog-to-digital converter 7 are arranged in the microphone housing 6 in addition to the microphone 1. The analog signal path is shortened due to the proximity of the A/D converter 7 to the microphone 1 and is shielded against noise signals by the microphone housing 6. Protection against emission from the microphone 1, the pre-amplifier 8 and the A/D converter 7 is improved further by a shielding 9 which shields against high-frequency electromagnetic waves allocated to the microphone housing 6. For example, the microphone housing 6 can be composed of electrically conductive housing parts. Alternatively, the microphone housing 6 may have an electrically conductive coating, for example of conductive lacquer or an electrical conductive foil coat. As shown in FIG. 1, the output of the A/D converter 7 supplies a digital bit stream 11 to the signal processing stage 2. In the exemplary embodiment, the signal conditioning stage 2 and a signal converter 10 are combined in a signal processor 13.
In a preferred embodiment, the signal converter 10 converts the useful output signals of the signal conditioning stage 2, encoded in digital data words, directly into further-processable pulse-time modulated signals 12, such as pulse-duration modulated or pulse-interval modulated signals, without reconversion into analog electrical signals, and the earphone 5 can be directly driven with these signals 12. A digital-to-analog conversion is superfluous according to the invention, so that saving in energy and space that are important given small hearing aids are achieved. The earphone 5 of the hearing aid is directly driven with the pulse-time modulated signals 12 in the invention. As a result, a D/A converter and a subsequent conversion of an analog signal into a pulse-duration modulated signal, for example using a delta signal that can only be produced in a complicated way, are eliminated.
In the embodiment of FIG. 2, a sigma-delta modulator 7' is provided as an A/D converter for the analog microphone signal 18, which converts the analog input signal 18 into a serial bit stream 11. As follows from the block circuit diagram of FIG. 3, the unit composed of the microphone 1, the microphone pre-amplifier 8 and sigma-delta modulator 7' and that supplies the bit stream 11, can be followed by a digital filter 19 that serves the purpose of reducing the data rate and/or serial-to-parallel conversion. In an advantageous development, a signal processor 13 for useful signal editing follows the decimation filter 19 in the inventive hearing aid, and an interpolation filter 20 is provided that converts the useful signals of the signal processor 13 into a fast serial bit stream 21 that is supplied to the earphone 5. In this embodiment as well, the earphone 5 can be directly driven by the pulse-time modulated bit stream 21 of the interpolation filter 20.」(2欄36行?3欄29行)

訳文(ロ.)「マイクロホン1に続き、増幅器3、フィルター4および4'、イヤホン5を含む信号調整ステージ2は、プラスチックシェル等で構成される補聴器筐体14内に配置される。音声信号は、音の入口15を通して、マイクロホン1に割り当てられたマイクロホン筐体6を有するマイクロホン1に向かって進む。イヤホン5が発した音声信号は、音の出口チャネル16を通り、鼓膜に伝わる。
図1のデジタル補聴器においては、マイクロホン1に加えマイクロホン前置増幅器8およびアナログ-デジタル変換器7が、マイクロホン筐体6内に配置される。アナログ信号経路は、アナログ-デジタル変換器7のマイクロホン1に対する近接性が原因で短縮され、マイクロホン筐体6によってノイズ信号を遮断する。マイクロホン1、マイクロホン前置増幅器8、およびアナログ-デジタル変換器7からの放出に対する保護は、マイクロホン筐体6に割り当てられる高周波電磁波を遮蔽するシールド9によって、強化される。例えば、マイクロホン筐体6は、導電性の筐体部分で構成され得る。別の方法として、マイクロホン筐体6は、ラッカーまたはホイルコート等の導電性コーティングが施され得る。図1に示すとおり、アナログ-デジタル変換器7からの出力は、デジタル・ビット・ストリーム11を信号処理ステージ2に供給する。例示的な実施態様では、信号調整ステージ2および信号変換器10は、信号プロセッサー13内で結合される。
好ましい実施態様では、信号変換器10は、信号調整ステージ2におけるデジタル・データワードで符号化された有益な出力信号を、アナログ電気信号に再変換することなく、パルス幅変調信号またはパルス間隔変調信号等の、よりプロセス可能なパルス時間変調信号12に直接変換する。また、イヤホン5は前記信号12と共に直接動作する。本発明によれば、デジタル-アナログ変換が不要であるため、小型補聴器にとって重要な省エネルギーおよび省スペースを実現できる。本発明において、この補聴器のイヤホン5は、パルス時間変調信号12と共に直接動作する。この結果、デジタル-アナログ変換器および、それに続くアナログ信号からパルス幅変調信号への変換は、複雑な方法でのみ生成されるデルタ信号等を使用しているため、除去される。
図2の実施態様では、シグマデルタ変調器7'は、アナログ-デジタル変換器としてアナログマイクロホン信号18に供給され、アナログ入力信号18をシリアル・ビット・ストリーム11に変換する。図3の回路ブロック図に示すとおり、このユニットは、マイクロホン1、マイクロホン前置増幅器8およびシグマデルタ変調器7'で構成され、ビット・ストリーム11を供給する。続いて、デジタルフィルター19がデータ速度低下及び/又はシリアル-パラレル変換の目的を果たす。1つの有利な開発において、有益な信号編集を行う信号プロセッサー13は、発明に関する補聴器の有するデシメーションフィルター19の奥にあり、信号プロセッサー13の有益な信号を、イヤホン5に供給される高速シリアル・ビット・ストリーム21に変換する、補間フィルター20を備えている。この実施態様でも同様に、イヤホン5は、補間フィルター20のパルス時間変調ビット・ストリーム21によって直接動作できる。」

上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.における「図1のデジタル補聴器においては、マイクロホン1に加えマイクロホン前置増幅器8およびアナログ-デジタル変換器7が、マイクロホン筐体6内に配置される。・・・マイクロホン1、マイクロホン前置増幅器8、およびアナログ-デジタル変換器7からの放出に対する保護は、マイクロホン筐体6に割り当てられる高周波電磁波を遮蔽するシールド9によって、強化される。例えば、マイクロホン筐体6は、導電性の筐体部分で構成され得る。」との記載、及び図1によれば、デジタル補聴器は、導電性の筐体部分で構成されたマイクロホン筐体(6)と、マイクロホン筐体(6)内に設けられたマイクロホン(1)と、マイクロホン前置増幅器(8)とアナログ-デジタル変換器(7)とを縦続接続した信号経路を備えた電子回路と、を備えている。
また、上記ロ.における「音声信号は、音の入口15を通して、マイクロホン1に割り当てられたマイクロホン筐体6を有するマイクロホン1に向かって進む。」との記載、及び図1によれば、前述のマイクロホン筐体(6)は、音の入口(15)を有している。また、前述のマイクロホン(1)は、前述の音の入口(15)を通して音声信号を受けている。ここで、マイクロホン(1)は、マイクロホン(音響系から電気系へ変換する電気音響変換器)である以上、前述の受けた音声信号をアナログオーディオ信号に変換していることは明らかである。
また、上記ロ.における「図2の実施態様では、シグマデルタ変調器7'は、アナログ-デジタル変換器としてアナログマイクロホン信号18に供給され、アナログ入力信号18をシリアル・ビット・ストリーム11に変換する。図3の回路ブロック図に示すとおり、このユニットは、マイクロホン1、マイクロホン前置増幅器8およびシグマデルタ変調器7'で構成され、ビット・ストリーム11を供給する。」との記載、図2及び図3によれば、前述の電子回路は、前述のマイクロホン前置増幅器(8)が、マイクロホン(1)からのアナログオーディオ信号を増幅しており、前述のアナログ-デジタル変換器(7)が、ディジタルオーディオ信号を出力している。そして、当該アナログ-デジタル変換器(7)を、シグマデルタ変調器(7')で構成する場合、前述の電子回路は、マイクロホン(1)からのアナログオーディオ信号を増幅するマイクロホン前置増幅器(8)と、ディジタルオーディオ信号を出力するシグマデルタ変調器(7')との縦続接続した信号経路を備えた電子回路ということができる。
ここで、前述のマイクロホン筐体(6)と、前述のマイクロホン(1)と、前述の電子回路とを備えた組み立て部品は、これらを纏めてマイクロホンアッセンブリと称することは任意である。

したがって、上記引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「マイクロホンアッセンブリを備えたデジタル補聴器であって、
上記マイクロホンアッセンブリは、
導電性の筐体部分で構成されてなり、音の入口(15)を有するマイクロホン筐体(6)と、
上記音の入口(15)を通して音声信号を受け、上記受けた音声信号をアナログオーディオ信号に変換するマイクロホン(1)であって、上記マイクロホン筐体(6)内に設けられたマイクロホン(1)と、
上記マイクロホン筐体(6)内に設けられた電子回路であって、上記マイクロホン(1)からのアナログオーディオ信号を増幅するマイクロホン前置増幅器(8)と、ディジタルオーディオ信号を出力するシグマデルタ変調器(7')との縦続接続した信号経路を備えた電子回路とを備えたデジタル補聴器。」

B 原審の拒絶の理由に引用された特許第2734265号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ハ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は2線式ECM用増幅回路に関し、特にオペアンプを用いた増幅回路に関する。」(1頁2欄)

ニ.「【0006】
【実施例】次に、本発明について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例の回路図であり、単一電源で動作される2線式ECM用増幅回路を示している。オペアンプ2の正相入力端子10に印加するバイアス電圧は、分圧抵抗4及び5と、交流バイアス用のコンデンサ6からなるバイアス回路8により生成される。このオペアンプ2の正相入力端子10に入力されるバイアス電圧V1は、通常オペアンプが最大に出力振幅を得られるように選択されるため、V1=Vcc/2となるように前記抵抗4,5の抵抗値が設定される。
【0007】そして、前記オペアンプ2の負相入力端子14に出力を入力させるECM3に電源を供給するために、バイアス回路8の出力端、即ちオペアンプ2の正相入力端子10とECM3とを抵抗7で接続し、この抵抗7と前記抵抗4及びコンデンサ6で電源供給回路9を構成している。この場合、抵抗7はECM3の負荷抵抗となり、コンデンサ6はECM3への電源に含まれるノイズを低減し、ECM3のS/N比を劣化させないために用いられる。尚、コンデンサ20は直流カット用のコンデンサ、抵抗21及び22はオペアンプ2の利得を設定する。1は出力端子である。」(2頁3?4欄)

また、原審の拒絶の理由に引用された特開昭61-257100号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ホ.「産業上の利用分野
本発明は、1.5V以下の低電圧でも動作し、電源の立ち上り時にプリアンプの出力より発生するクリック音を防止することのできるコンデンサマイクの電源回路に関するものである。」(1頁右下欄2?6行)

ヘ.「第1図は本発明のコンデンサマイクの電源回路の一実施例であり、第2図は各部の動作波形である。
第1図において、1はコンデンサマイク、2はプリアンプ、6は電源端子、7,9,10,11,12,13はトランジスタ、14,15,16,17,18,19,20は抵抗、21,22,23,24,25,26,27はコンデンサ、28,29は定電流源、30は録音イコライザである。コンデンサマイク1には、トランジスタ10のコレクタより抵抗14を介して電源電圧が供給されている。トランジスタ7,9のエミッタは互いに接続され定電流源28を介して接地し、トランジスタ9のコレクタはトランジスタ12のコレクタ及びトランジスタ10のベースに接続し、トランジスタ11のコレクタ、ベースは互いに接続し、トランジスタ12のベース及びトランジスタ7のコレクタに接続し、トランジスタ9のベースは電源との間に抵抗18、電源投入時のみオンするトランジスタ13のコレクタが接続され、アースとの間にコンデンサ26、抵抗27が接続されている。トランジスタ13のエミッタは電源に、ベースは電流制限用の抵抗19に接続し、抵抗19の他端は抵抗20を介して電源に、コンデンサ26を介して接地されている。コンデンサマイク1の出力は、コンデンサ21で直流カットしプリアンプ2の入力と接続し、プリアンプ2の出力は録音イコライザを介してバイアス発振回路3と録再ヘッド4に接続し、プリアンプ2には抵抗17とコンデンサ24のフィルタを通して電源が供給されている。」(2頁右下欄5行?3頁左上欄14行)

上記引用例2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ニ.の【0007】における「コンデンサ20は直流カット用のコンデンサ」との記載、及び上記引用例2の図1によれば、ECM(エレクトレット・コンデンサ・マイクロフォン)(3)とオペアンプ(2)との間にコンデンサ(20)を設けている。また、上記引用例3の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヘ.における「コンデンサマイク1の出力は、コンデンサ21で直流カットしプリアンプ2の入力と接続し」との記載、及び上記引用例3の第1図によれば、コンデンサマイク(1)とプリアンプ(2)との間にコンデンサ(21)を設けている。そして、これらコンデンサは、DC(直流)成分を除去し、高域通過フィルタといえるものである。

したがって、上記引用例2及び3には、「マイクとプリアンプとの間に設けられた高域通過フィルタであって、DC成分を除去する高域通過フィルタを設けること。」(以下、「周知技術1」という。)が記載されているものと認められる。

C 原審の拒絶の理由に引用された特開平5-160736号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ト.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一般に、オーバーサンプリング技術に関し、特に、オーバーサンプリングシグマ-デルタ変調器に関する。」(2頁1欄)

チ.「【0014】図1は、アナログ信号を、サンプルあたり16ビット、線形、毎秒128キロビット(KB/s)のデジタルデータ出力ストリームに、およびその逆に変換するための、符号器1および復号器2(通常、合わせてコーデックと呼ばれる)の例である。符号器1は、まず、周知のエイリアス除去フィルタ3によってアナログ信号をナイキスト周波数以下にバンド制限することにより、アナログ入力信号をデジタルデータストリームに変換する。
【0015】次に、アナログΣ-Δ変調器4が、以下で詳細に説明するように、バンド制限されたアナログ信号を、サンプルあたり1ビット、毎秒1メガビット(MB/s)のデータストリームに変換する。次に、デシメーションフィルタがサンプルあたり1ビットのデジタルストリームをサンプルあたり16ビット、128KB/sのデータストリームに変換する。次に、サンプルあたり16ビットのストリームは、ほぼ全部のDCエネルギーを除去するために高域フィルタ6でフィルタリングされる。」(3頁4欄)

また、原審の拒絶の理由に引用された特開平8-18457号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

リ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、デジタルオーディオ・マルチメディア等の分野において、オーディオまたは音声等のアナログ信号をデジタル信号に変換するためのAGC(自動利得制御)機能付きA/D変換器に関し、さらに詳しくは、アナログ信号の信号振幅レベルが変化しても、デジタル信号が所定の信号振幅レベルを維持するAGC機能付きデルタシグマ型A/D変換器に関する。」(2頁2欄)

ヌ.「【0033】実施例1
図3は、本発明をデジタルオーディオ用途に適用した一実施例を示す。
【0034】本実施例において、オーディオ入力信号は可変増幅器30で増幅され、折り返し防止フィルタ31に入力される。折り返し防止フィルタ31の出力は、4次のデルタシグマ変調器32により、最終的なサンプリング周波数(fs)=48kHzの64倍のオーバーサンプリング周波数(64fs)でサンプリングされ、1ビットの量子化データに変換される。
【0035】第1のデジタルフィルタ33は1ビットの量子化データを20kHzのパスバンドに帯域制限し、fsレートの16ビットデジタル出力(A/D出力)を発生する。第2のデジタルフィルタ34は、A/D出力のDC成分を除去するために、カットオフ周波数=10Hzのハイパス特性を有する。
【0036】ピーク検出器35は、第2のデジタルフィルタ34の出力のピークレベルを検出する。比較器36は、ピークレベルと基準デジタルデータを比較し、比較結果に応じて可変増幅器30の増幅率を制御する。
【0037】上記構成により、オーディオ入力を、20kHzパスバンドに帯域制限された48kHzサンプリングレートの16ビットA/D出力に変換する。また、AGCループはピーク検出器35の出力と基準デジタルデータが等しくなるように働くので、オーディオ入力の振幅レベルが変動してもA/D出力の振幅レベルが変動しない、AGC機能付きA/D変換器を実現することができる。
【0038】図3に示した本実施例と従来方式2との根本的な違いは、A/D変換器がナイキストサンプリング型ではなく、オーバーサンプリング型の一つであるデルタシグマ型A/D変換器であると言うことである。デルタシグマ型のA/D変換方式は、微細化プロセスを用いてCMOS LSI化する場合には、広いダイナミックレンジを安価なコストで達成する方式として、近年、デジタルオーディオ用途のA/D変換では主流となっている。
【0039】ここでは、16ビット分解能相当のダイナミックレンジを実現するために、4次ノイズシェイピング、64倍オーバーサンプリングのデルタシグマ変調器を用いている。また、回路はCMOSでの集積化が容易なスイッチトキャパシタ回路で実現している。
【0040】AGCループでは、ピーク検出器35および比較器36はデジタル回路で実現されるので、従来方式1とは違い、アナログ的なノイズやオフセットの影響を受けずに、正確にAGC出力レベルを保持することができる。
【0041】また、図3に示した本実施例と従来方式2との他の違いとして、可変増幅器30の後に折り返し防止フィルタ31を位置できることがある。デルタシグマ変調器32は64fsでオーバーサンプリングするので、折り返し防止フィルタ31はパスバンド周波数と(64fs-パスバンド周波数)との間、すなわち20kHzと3.052MHzとの間で減衰するローパス特性であれば良い。また、20kHz以上の必要のない周波数成分は第1のデジタルフィルタ33で除去されるので、カットオフ周波数はパスバンドから十分離すことが可能である。
【0042】従って、折り返し防止フィルタ31は、カットオフ周波数が50kHz程度の1次のフィルタで十分である。ここでは、最も簡単で回路規模の小さい、抵抗と容量の1次のRCフィルタを用いている。1次のRCフィルタにはパスバンドリップルが存在しないので、AGCループ内に位置しても、従来方式2で記述した歪の原因にはならない。
【0043】また、カットオフ周波数はパスバンドに比べて十分に高く、20kHz近傍の利得のドループがないので、AGC出力レベルのパスバンド内での周波数依存性を完全になくすことができる。
【0044】このように、デルタシグマ変調器32がオーバーサンプリングすることによって、リップル特性の良い利得のドループも問題とならない折り返し防止フィルタ31を、可変増幅器30とデルタシグマ変調器32の間に挿入することが可能となる。」(4頁6欄?5頁8欄)

上記引用例4の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記チ.の【0014】における「符号器1は、まず、周知のエイリアス除去フィルタ3によってアナログ信号をナイキスト周波数以下にバンド制限することにより、アナログ入力信号をデジタルデータストリームに変換する。」との記載、及び上記引用例4の図1によれば、アナログΣ-Δ変調器(4)の前段にエイリアス除去フィルタ(3)を設けている。また、上記引用例5の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヌ.の【0034】における「オーディオ入力信号は可変増幅器30で増幅され、折り返し防止フィルタ31に入力される。折り返し防止フィルタ31の出力は、4次のデルタシグマ変調器32により、・・・1ビットの量子化データに変換される。」との記載、及び上記引用例5の図3によれば、デルタシグマ変調器(32)の前段に折り返し防止フィルタ(31)を設けている。そして、これらフィルタは、エイリアシングの効果を除去する、低域通過フィルタといえるものである。

したがって、上記引用例4及び5には、「シグマ-デルタ変調器の前段に設けられ、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタを設けること。」(以下、「周知技術2」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「デジタル補聴器」は、後述する相違点を除いて、「携帯装置」に含まれる。
b.引用発明の「導電性の筐体部分で構成されてなり」は、「筐体部分」を構成するものは材料であり、これが導電性であるから、「導電性の材料にてなり」ということができる。
c.引用発明の「音の入口(15)を通して」は、引用発明の「音の入口(15)」が、補正後の発明の「送話口」に相当するから、「送話口を介して」ということができる。
d.引用発明の「音声信号」、「マイクロホン(1)」、「マイクロホン筐体(6)」、「マイクロホン前置増幅器(8)」及び「シグマデルタ変調器(7')」は、補正後の発明の「音響波」、「変換器」、「マイクロホンアッセンブリケーシング」、「プリアンプ」及び「シグマ-デルタ変調器」にそれぞれ相当する。
e.引用発明の「ディジタルオーディオ信号を出力する」は、「ディジタルオーディオ信号を提供する」ということができる。
f.引用発明の「縦続接続した信号経路」は、「マイクロホン前置増幅器(8)」及び「シグマデルタ変調器(7')」の縦続接続が、信号経路を構成(定義)しているから、「縦続接続によって定義される信号経路」ということができる。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「マイクロホンアッセンブリを備えた携帯装置であって、
上記マイクロホンアッセンブリは、
導電性の材料にてなり、送話口を有するマイクロホンアッセンブリケーシングと、
上記送話口を介して音響波を受け、上記受けた音響波をアナログオーディオ信号に変換する変換器であって、上記マイクロホンアッセンブリケーシング内に設けられた変換器と、
上記マイクロホンアッセンブリケーシング内に設けられた電子回路であって、上記変換器からのアナログオーディオ信号を増幅するプリアンプと、ディジタルオーディオ信号を提供するシグマ-デルタ変調器との縦続接続によって定義される信号経路を備えた電子回路とを備えた携帯装置。」

(相違点1)
「携帯装置」に関し、
補正後の発明は、マイクロホンアッセンブリと、「上記マイクロホンアッセンブリに接続され、さらなる信号処理を行う純粋なディジタル信号プロセッサと」を備えるものであるのに対し、引用発明は、マイクロホンアッセンブリを備えるものの、当該「上記マイクロホンアッセンブリに接続され、さらなる信号処理を行う純粋なディジタル信号プロセッサ」を備えない点。

(相違点2)
「電子回路」のフィルタに関し、
補正後の発明は、「上記変換器と上記プリアンプとの間に設けられた高域通過フィルタであって、上記シグマ-デルタ変調器の入力における信号のDC成分又はゆっくりと変化する成分を除去する高域通過フィルタ」を備えるのに対し、引用発明は、その様な構成を備えない点。

(相違点3)
「電子回路」のフィルタに関し、
補正後の発明は、「上記プリアンプと上記シグマ-デルタ変調器との間に設けられ、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタ」を備えるのに対し、引用発明は、その様な構成を備えない点。

(相違点4)
「電子回路」の態様に関し、
補正後の発明は、「上記プリアンプ、上記シグマ-デルタ変調器、上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、1つの集積回路に集積化され」ているのに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

(相違点5)
上記相違点2における「高域通過フィルタ」及び上記相違点3における「低域通過フィルタ」の態様に関し、
補正後の発明は、「上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、上記プリアンプに組み込まれ」ているのに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

(相違点6)
「携帯装置」の用途に関し、
補正後の発明は、「上記携帯装置は携帯電話機又はセルラー電話機である」のに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

そこで、まず、上記相違点2について検討する。
上記周知技術1は、「マイクとプリアンプとの間に設けられた高域通過フィルタであって、DC成分を除去する高域通過フィルタを設けること。」である。そして、DC成分を除去する高域通過フィルタは、マイクロホンとプリアンプとの間に設けて後段のシグマ-デルタ変調器の入力信号に対して所望の効果を奏するものである。
そうすると、上記周知技術1に接した当業者であれば、引用発明に上記周知技術1を採用して、補正後の発明のように、「上記変換器と上記プリアンプとの間に設けられた高域通過フィルタであって、上記シグマ-デルタ変調器の入力における信号のDC成分又はゆっくりと変化する成分を除去する高域通過フィルタ」を備えることに格別な困難性はない。

次に、上記相違点3について検討する。
上記周知技術2は、「シグマ-デルタ変調器の前段に設けられ、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタを設けること。」である。そして、上記引用例5の上記ヌ.の【0034】における「オーディオ入力信号は可変増幅器30で増幅され、折り返し防止フィルタ31に入力される。折り返し防止フィルタ31の出力は、4次のデルタシグマ変調器32により、・・・1ビットの量子化データに変換される。」との記載、及び上記引用例5の図3によれば、折り返し防止フィルタ(31)は、可変増幅器(30)とデルタシグマ変調器(32)との間に設けることが記載されている。すなわち、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタは、プリアンプとシグマ-デルタ変調器との間に設けることが好ましいものである。
そうすると、上記周知技術2に接した当業者であれば、引用発明に上記周知技術2を採用して、補正後の発明のように、「上記プリアンプと上記シグマ-デルタ変調器との間に設けられ、エイリアシングの効果を除去する低域通過フィルタ」を備えることに格別な困難性はない。

次に、上記相違点4及び5について検討する。
上記引用例1の上記イ.における「このような半導体マイクロホンは、シグマデルタ変調器とモノリシックに統合した1個の半導体部品上に配置することができる。この結果、ノイズ放射を遮蔽する接続線は、再び短縮されるかまたは完全に排除され、個別部品の数は減少する。」との記載によれば、シグマデルタ変調器のような電子回路とその他の電子部品を、1つの集積回路に集積することは普通に行われていることである。
そうすると、当業者であれば、補正後の発明のように、「上記プリアンプ、上記シグマ-デルタ変調器、上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、1つの集積回路に集積化され」ること(相違点4)は容易になし得ることである。その際、「上記高域通過フィルタ及び上記低域通過フィルタは、上記プリアンプに組み込まれ」ること(相違点5)は必要に応じ適宜なし得ることにすぎない。

次に、上記相違点1及び6について検討する。
携帯装置として、マイクロホンと、プリアンプ及びA/D変換器に接続され、さらなる信号処理を行うデジタル信号プロセッサとを備えた携帯電話機は、例えば、特開平6-284067号公報(段落【0016】、【0017】、図1)、特開平11-154998号公報(段落【0029】、図3)に開示されているように周知技術(以下、「周知技術3」という。)である。
また、上記引用例1の上記イ.には、「このタイプのデジタル補聴器において、マイクロホンは音をアナログ方式で拾う。次に、マイクロホンのアナログ信号が増幅され、アナログ-デジタル変換器によってデジタル信号に変換される。信号処理が完了すると、デジタル信号はアナログ信号に再変換され、出力増幅器を通してイヤホンに供給される。特に、頭部に装着するタイプの補聴器は、自動車電話、移動無線機器、マイクロ波照射手段等の強力な送信機の付近で使用できる。放射される電磁波は、多くの場合、前記送信機付近において非常に高い電界強度を有する。これらの高周波電磁波は、特に、開口部から補聴器に侵入し、増幅回路に憂慮すべき影響を与える。」との記載がある。すなわち、引用発明のデジタル補聴器は、マイクロホン、増幅器及びアナログ-デジタル変換器に至る電子回路が、移動体無線機器等の電磁波により悪影響を受けることを防止するという課題が有るものである。
したがって、上記周知技術3のような、携帯装置として、マイクロホンと、プリアンプ及びA/D変換器に至る電子回路を備える携帯電話機は、マイクロホン、プリアンプ及びA/D変換器に至る電子回路を有する以上、当該電子回路が、携帯電話機等の電磁波により悪影響を受けることを防止するという引用発明と同様の共通の課題を有することは明らかである。
そうすると、上記周知技術3に接した当業者であれば、引用発明に上記周知技術3を採用して、補正後の発明のように、「上記携帯装置は携帯電話機又はセルラー電話機とする」こと(相違点6)は容易になし得ることである。その際、携帯装置が、マイクロホンアッセンブリと、「上記マイクロホンアッセンブリに接続され、さらなる信号処理を行う純粋なディジタル信号プロセッサと」を備えるものとなること(相違点1)は自然である。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明及び上記周知技術1ないし3から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明及び上記周知技術1ないし3に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年10月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び上記周知技術1ないし3に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用発明及び上記周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-30 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-16 
出願番号 特願2011-203303(P2011-203303)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04R)
P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大野 弘  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 萩原 義則
井上 信一
発明の名称 内部A/D変換器を備えたマイクロホン  
代理人 田中 光雄  
代理人 川端 純市  
代理人 山田 卓二  

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