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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 F01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1293536
審判番号 不服2013-9290  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-21 
確定日 2014-11-06 
事件の表示 特願2006-350606「ターボマシンの回転子及びそのディスクホイール」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月19日出願公開、特開2007-182882〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第36条の2第1項の規定による平成18年12月26日(パリ条約による優先権主張 2005年12月28日、イタリア共和国)の出願であって、平成19年2月26日に明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年4月14日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年10月13日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年1月25日付けの拒絶理由通知に対し、平成24年7月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年1月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成25年5月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、さらに、当審において平成25年8月23日付けの書面による審尋がされたものである。

2.本件補正
平成25年5月21日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年7月23日提出の手続補正書により補正された)請求項1ないし10において、請求項5、6、8及び9を削除し、請求項7及び10の項番号を繰り上げて本件補正後の請求項5及び6としたものであって、特許法第17条の2第5項第1号に規定された請求項の削除を目的として、適法になされたものである。

3.本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲並びに平成19年2月26日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「 【請求項1】
ターボマシンの回転子(50)であって、
シャフト(20)と、
前記シャフト(20)上に干渉によって嵌合された中心環状部(14)と一体にされた一連のブレード(12)と、雄または雌タイプの対応する少なくとも1つの第2の挿入可能部(38)に結合されるよう構成された、前記中心環状部(14)の基端部に近接して配置された雌または雄タイプの少なくとも1つの第1の挿入可能部(18)と、を備えるディスクホイール(10)と、
前記少なくとも1つの対応する第2の挿入可能部(38)が上に配置されている少なくとも1つの対応するスペーサリング(30)と、
を備え、
前記少なくとも1つの対応するスペーサリング(30)が前記シャフト(20)に干渉によって取り付けられている
ことを特徴とする回転子(50)。」

4.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭58-24984号(実開昭59-146502号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

(ア)「1.考案の名称
ターボ機械の回転子の構造」(明細書第1ページ第2行及び第3行)

(イ)「 本考案は組立式回転子において高速回転に必要な高剛性が得られる構造に関するものである。」(明細書第1ページ第13行及び第14行)

(ウ)「 本考案の特徴は,各羽根車と通し軸とを焼ばめ又は冷やしばめ等による締りばめとし,各羽根車間には組立ての際油圧ジャッキ等の機械的装置を利用して締りばめによる軸方向摩擦力(=軸方向の圧縮力)を残し,羽根車通し軸が高速回転中でも一体構造となることを可能にしたものである。」(明細書第2ページ第11行ないし第16行)

(エ)「 第1図は本考案の回転子の例の軸心を含む一部断面図で多段双流型遠心ガス圧縮機用の例を示す。本回転子は中央にストッパとなるフランジ1aを有する通し軸1に羽根車群2を締り嵌めし,軸の両端に配置されたナット3によってさらに強力に締付ける構造となっている。
第2図(a)(b)は,第1図に示す回転子構造体の組立及び締付時に用いる油圧ジャッキの取付例を示す。この組立方法は第2図(a)に示すように,羽根車2を1枚もしくは複数枚軸に十分な締まりばめ状態で入れ,適当な長さの間隔ピース4を介して軸端に取付けたピストン5,高圧油6,シリンダー7で構成された油圧ジャッキで,羽根車2と軸の締り嵌めの軸方向摩擦力以上の力で中央のフランジ1aと羽根車あるいは羽根車群が軸心方向で密着するように押し込む。押し込んだ後油圧ジャッキをはずすが,各羽根車2と軸1との接触面には締まりばめの軸方向摩擦力が少なくとも残留していて,この軸方向の力は軸の張力となって羽根車同志あるいは羽根車とストッパとを密着状態に保つ。この操作を適当な油圧ジャッキ圧で1回もしくは数回繰り返し,最後の羽根車を組立てる時には第2図(b)に示す締付ナット3を入れピース4を油圧ジャッキで押し込み,ピース4の外周に設けた穴8を利用してナット3を締め,その後油圧ジャッキ,ピース4を取りはずせば軸と羽根車群は軸方向にも,半径方向にも隙間のない高剛性の軸が完成する。」(明細書第3ページ第3行ないし第4ページ第10行)

(オ)「 第3図(a)は本考案の他の構造を示す。第2図のものとの相違は,締付ナット3を省略し,軸の片側端にフランジ1a’を設け,羽根車群2の途中に間隔ピース9を入れたものであるが,組立て順序は第2図のものと同じである。またフランジ1a乃至1a’の代わりに第3図(b)のように数分割したシャーリングキー11をキーカバー10で固定した構造,あるいは同図(c)のように固定ナット3を用いること,さらにはフランジをピン等により固定すること等種々のストッパ構造の軸に対し,この羽根車群と軸とを締まりばめによる軸方向摩擦力を利用した構造を適用しうる。」(明細書第4ページ第11行ないし第5ページ第2行)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(オ)並びに第1図ないし第3図の記載から、以下の事項が分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(オ)並びに第1図ないし第3図の記載から、引用文献1には、通し軸1と、羽根車2と間隔ピース9とを備えるターボ機械の回転子が記載されていることが分かる。

(キ)第1図及び第3図から、羽根車2は、羽根と通し軸1に嵌合する環状部を有することが看取でき、上記(1)(ウ)ないし(オ)及び第1図及び第3図の記載から、引用文献1に記載されたターボ機械の回転子における羽根車2は、通し軸1上に締り嵌めされた環状部と一体にされた一連の羽根を備えるものであることが分かる。

(3)引用発明1
上記(1)及び(2)並びに第1図ないし第3図を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「ターボ機械の回転子であって、
通し軸1と、
通し軸1上に締り嵌めされた環状部と一体にされた一連の羽根を備える羽根車2と、
間隔ピース9とを備えるターボ機械の回転子。」

5.引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許第4477227号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

(ア)「In general, …stress corrosion cracking may occur.」(第1欄第29行ないし第2欄第3行)

〈当審仮訳〉
「 一般にホイールは、ホイールの穴と軸の表面に対応する溝を形成することにより、軸に対してキー止めされる。別体の金属片、即ちキーは、対応する溝に一直線になるように規定されたスペースにはめ込まれる。これによりホイールと軸はさらに固定される。この形状の問題は、キー溝周辺にとても高い応力を発生させることにある。締まりばめされたタービンホイールにおいて、ホイール全体を支えるために穴における応力は最大となる。従来のキー手段は、上述のように、ホイールの穴に設けられ、応力の大きなところに位置する。キー及びキー溝の形状に由来する表面の非連続性のために、応力が更に集中することが考えられる。その結果、いくつかのタービンホイールにおいて、キー溝周辺でクラックを発生させ、ホイールを破壊しタービンを停止させてしまうような応力腐蝕を起こしてきた。
従来のキー手段の別の問題は、キー溝はホイールの一方の側から無視できない熱勾配を有する他側に亘って設けられているという事実からもたらされる。これにより溝に蒸気が凝縮し、そこで液化することで、プロセスに関係するキャビテーションによるキー溝の腐蝕をもたらす。
従来使われていたタービンの締まりばめによるホイールのキー手段の欠点に対して、本発明の目的は、従来使われていたホイールのキー手段よりも、実質的に機械的応力のレベルを下げることにより改善されたキー手段を提供するとともに、蒸気の凝縮とキー手段の内部における水による浸食を防ぐため、キー手段が実質的に一定の作動温度にさらされるようにすることにある。
この発明の更なる目的は、特に浸食や応力腐蝕でクラックが発生する可能性があるような蒸気状態において、ホイール穴にキー及びキー溝を設けることなく、キー手段を用いてタービンホイールを軸に締まりばめする手段を提供する。」

(イ)「Referring again to FIG. 1 … by the interlocking keys and keyways.」(第3欄第43行ないし第54行)

〈当審仮訳〉
「 第3図に関連して第1図を再度参照すれば、一体的に円周状に形成されたフランジ14もキー溝を形成され(上側キー溝44のみを特に示す)、軸12上に取付けられた第1ホイール16の(キー40のような)キーを受ける。したがって、軸12上の最初のホイール16は一体のフランジ14にキー止めされる。そして、続いて取り付けられるホイール17ないし21は隣のホイ-ル又はホイール群にキー止めされる。その結果、ホイール16ないし21のいずれかと軸12の間の締まりばめが失われたときも、すべてのホイールはキー及びキー溝によって抑制され、キーとキー溝の係合によりホイールは軸12に対して回ることを防ぐ。」

(2)引用発明2
上記(1)並びに第1図及び第3図を参酌すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「ホイールと軸が締まりばめされたタービンホイールにおいて、隣り合うホイールの一方が環状部に凸部を備え、他方が環状部に上記凸部に対応する凹部を備えるタービンホイール。」

6.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ターボ機械」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「ターボマシン」に相当し、以下同様に「回転子」は「回転子」に、「通し軸1」は「シャフト」に、「締り嵌めされた」は「干渉によって嵌合された」に、「環状部」は「中心環状部」に、「羽根」は「ブレード」に、「羽根車2」は「ディスクホイール」に、「間隔ピース9」は「スペーサリング」に、それぞれ相当する。

したがって両者は、
「ターボマシンの回転子であって、
シャフトと、
前記シャフト上に干渉によって嵌合された中心環状部と一体にされた一連のブレードを備えるディスクホイールと、
前記少なくとも1つの対応する第2の挿入可能部が上に配置されている少なくとも1つの対応するスペーサリングと、
を備える回転子。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

〈相違点〉
(ア)本願発明においては、ディスクホイールが「雄または雌タイプの対応する少なくとも1つの第2の挿入可能部に結合されるよう構成された、前記中心環状部の基端部に近接して配置された雌または雄タイプの少なくとも1つの第1の挿入可能部」を備え、スペーサリングが「前記少なくとも1つの対応する第2の挿入可能部が上に配置されている」のに対し、引用発明1においては、羽根車2がそのような構成を有していない点(以下、「相違点1」という。)。

(イ)本願発明においては、スペーサリングがシャフトに干渉によって取り付けられているのに対し、引用発明1においては、間隔ピース9が軸1に締り嵌めによって取り付けられていない点(以下、「相違点2」という。)。

7.判断
まず、上記相違点1について検討する。
引用発明2と本願発明とを対比すると、引用発明2における「ホイール」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「ブレード」に相当し、以下同様に「軸」は「シャフト」に、「締まりばめされた」は「干渉によって嵌合」に、「タービンホイール」は「ディスクホイール」に、「環状部」は「中心環状部」に、「凸部」は「雄タイプの挿入可能部」に、「凹部」は「雌タイプの挿入可能部」に、それぞれ相当するから、引用発明2を本願発明の用語を用いて表現すると、
「ブレードとシャフトが干渉によって嵌合されたディスクホイールにおいて、隣り合うブレードの一方が中央環状部に雄タイプの挿入可能部を備え、他方が中央環状部に上記雄タイプの挿入可能部に対応する雌タイプの挿入可能部を備えるディスクホイール。」
であるといえる。
また、引用発明2において、従来、締まりばめされたタービンホイールについて、キー手段の応力腐蝕という課題を解決するために、キー手段を、ホイールの穴と軸の間でなく、軸上に設けられたフランジとホイールの間及び隣接するホイールの間に設けた(上記5.(1)参照)点は、本願発明において、応力をかけた腐蝕による破損という課題を解決するために、従来中心環状部と軸の間に設けられていたキーを、ブレードとスペーサリングの間に設けた点に対応している。
そして、引用発明1の通し軸1に羽根車群2を締まり嵌めしたターボ機械の回転子において、キー手段の応力腐蝕という引用文献2に示された公知の技術課題の解決のために、羽根車2と間隔ピース9に対して引用発明2の凸部及び凹部を適用することによって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、上記相違点2について検討すると、ターボマシンの回転子を組み立てるにあたり締まりばめを用いることは慣用的に行われていることであり、引用発明1において、羽根車2と同様に間隔ピース9も軸1に締まり嵌めすることによって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

なお、請求人は、審判請求書において、引用発明1に引用発明2のインターロッキング構造を適用したとしても、引用発明1は羽根車2のホイール同士の軸方向の堅固なパッキングが不可欠の要素であり、高速回転中でも熱及び遠心力の悪影響を受ける羽根車2、間隔ピース9及び通し軸1の一体的構造が保持されて熱及び遠心力の悪影響が不可避である旨を主張している。
しかし、引用発明1は、軸1に羽根車2を締まり嵌めしたターボ機械の回転子において、さらに剛性を高めることを目的としたものであるところ(上記4.(1)(エ)参照)、羽根車2をフランジあるいは羽根車群に圧縮する代わりに、引用発明2の凸部及び凹部からなるキー手段を適用することで剛性を高めるようにすることに、困難性があったとすることはできず、請求人の上記主張は採用することができない。

8.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-22 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-25 
出願番号 特願2006-350606(P2006-350606)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (F01D)
P 1 8・ 121- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 泰輔  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 金澤 俊郎
中村 達之
発明の名称 ターボマシンの回転子及びそのディスクホイール  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

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