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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1293545
審判番号 不服2013-16365  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-23 
確定日 2014-11-06 
事件の表示 特願2008-108417「超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月 5日出願公開、特開2009-259658〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成20年4月18日の出願であって、平成25年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年5月17日に拒絶査定がされ、同年8月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後同年10月15日付けで特許法第134条第4項の規定に基づく審尋がされ、期間内に回答書が提出されなかったものである。

第2 平成25年8月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年8月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成25年8月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、出願当初の特許請求の範囲である、
「【請求項1】
超弾性合金線をケーブルの構成材の一部として、少なく共2本以上、ケーブルの長手方向に縦添えに配置したことを特徴とする超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル。
【請求項2】
平型構造ケーブルを一定の軌道上を移動する動作をさせたときに、平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能な超弾性合金線を用いたことを特徴とする請求項1に記載の超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル。
【請求項3】
超弾性合金線がNi-Ti合金線、Ni-Ti-X三元合金線の中から選ばれた1種であることを特徴とする請求項1から2の内いずれかに記載の超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル。
【請求項4】
Ni含有量が48?52原子%、Ti含有量が48?52原子%、NiとTiの合計含有量が96原子%?100原子%である合金組成を有するNi-Ti系合金を用いることを特徴とする請求項1から3の内いずれかに記載の超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル。」
を、
「【請求項1】
超弾性合金線をケーブルの構成材の一部として、少なくとも2本以上、ケーブルの長手方向に縦添えに配置し、
上記超弾性合金線は、当該超弾性合金線入り平型構造ケーブルを、U字型の軌道上を移動する動作をさせたときに、当該平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能となる特性を有する
ことを特徴とするケーブル支持部材不要の超弾性合金線入り平型構造ケーブル。
【請求項2】
超弾性合金線がNi-Ti合金線、Ni-Ti-X三元合金線の中から選ばれた1種であることを特徴とする請求項1に記載のケーブル支持部材不要の超弾性合金線入り平型構造ケーブル。
【請求項3】
Ni含有量が48?52原子%、Ti含有量が48?52原子%、NiとTiの合計含有量が96原子%?100原子%である合金組成を有するNi-Ti系合金を上記超弾性合金線の素材に用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のケーブル支持部材不要の超弾性合金線入り平型構造ケーブル。」
と補正するものである。

2 補正の目的
上記補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2の発明を特定するために必要な事項である「平型構造ケーブルを一定の軌道上を移動する動作をさせたときに、平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能な超弾性合金線を用いたこと」を「上記超弾性合金線は、当該超弾性合金線入り平型構造ケーブルを、U字型の軌道上を移動する動作をさせたときに、当該平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能となる特性を有する」に限定し、明りょうでない記載の釈明を目的として補正前の請求項2の「少なく共」を「少なくとも」に補正し、明りょうでない記載の釈明を目的として補正前の請求項2乃至4の「超弾性合金線入りケーブルベアレス」を「ケーブル支持部材不要の超弾性合金線入り」に補正し、明りょうでない記載の釈明を目的として補正前の請求項4の「Ni-Ti系合金を用いること」を「Ni-Ti系合金を上記超弾性合金線の素材に用いること」に補正する補正事項を含むものであって、補正前の請求項2乃至4に記載された発明と補正後の請求項1乃至3に記載された発明(以下、「本件補正発明1」乃至「本件補正発明3」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められる。
そうすると、上記補正は、特許法第17条の2第4項第1号、第2号及び第4号に規定する事項を目的とするものである。

3 本件補正発明1の独立特許要件
そこで、本件補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(上記補正が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか否か)を検討する。

(1)引用刊行物
実願昭58-119565号(実開昭60-26131号公報)のマイクロフィルム(原査定の拒絶理由の引用文献1、以下、「刊行物1」という。)
特開平4-370606号公報(原査定の拒絶理由の引用文献2、以下、「刊行物2」という。)
特開平5-347109号公報(原査定の拒絶理由の引用文献3、以下、「刊行物3」という。)

(2)刊行物1乃至刊行物3に記載された技術事項
この出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物1乃至刊行物3には、以下の事項が記載されている。
ア 刊行物1
1a「(1) 複数本の撚線によって構成された複数本の導線芯材を絶縁被覆材で絶縁して平坦に一体配設したフラットケーブルにおいて、前記複数本の導線芯材に直線状の復元力を有する弾性体を平坦に一体配設したことを特徴とするフラットケーブル。
(2) 前記直線状の復元力を有する弾性体を、ピアノ線で構成するとともに、前記複数本の導線芯材の両側部に配設した実用新案登録請求の範囲第1項記載のフラットケーブル。」(実用新案登録請求の範囲)
1b「<従来技術>
動作時に光学系の一部が移動する方式の複写機は、スリット状の光線を原稿の一端部から他端部に走査して原稿複写面の反射光を感光体に露光させる。このため、照射用ランプへの電源供給は、最長移動距離に略等しいコードを複写機本体から引き出して固定し、照射用ランプが複写機本体のコード固定部に移動によって接近するときはコードを弛ませていた。ところが照明用ランプとともにミラーも移動する方式の複写機では、弛んだコードが複写機本体に少しでも引っ掛ると移動する光学系に負荷がかかって複写画質の低下を来しりコードの断線によって複写不能となる不都合があった。
そこでこの不都合を解消するため、例えば特公昭56-30550号において、複写機本体である固定部材と光学系の一部である移動部材間を、断面が円弧状に湾曲していて自由状態で直線に自己復元する性質を有する弾性体である帯状の支持部材で連結して、照明用ランプへの給電を行う装置が提案されている。この装置は電源コードを挿通させた多数の取付具をコード支持部材と追従動作が容易な間隔で複数個コード支持部材にビス等で固着して、電源コードを弛ませることなく給電を行うものである。
しかしながら、コード支持部材に電源コードを沿わせる以上のような給電装置では、部品点数が多くなるとともに給電機構全体の重量が大きくなる欠点があった。
<考案の目的>
この考案は上記の実情に鑑みなされたもので、フラットケーブル自身に自由状態で直線に自己復元する性質を備えさせて、固定部材から移動部材への給電がケーブルを弛ませることなく容易に行えるようにすることを目的とする。」(第2頁第17行?第4頁第11行)
1c「<実施例>
第1図はこの考案の第1の実施例であるフラットケーブルの断面図である。複数本の撚線によって構成された略円形断面を有する平行に配置された2本の導線芯材1は、それぞれ絶縁被覆材2で円柱状に絶縁されるとともに、その両側部には直線状の復元力を有する弾性体であるピアノ線3が絶縁被覆材2によって平坦に一体配設されている。このフラットケーブルは、導線芯材1自身は複数本の撚線で構成されているので復帰力の弱い可撓性の性質を有するが、第2図の二点鎖線で示すように外力によって直径Dの曲率で屈曲してもピアノ線3が両側部で一体配設されているため、全体として自由状態で直線に自己復元する弾性体としての機能を有する。外力によって屈曲する曲率の最小弾性曲げ率(直径D)は、円形断面の棒体に形成されたピアノ線3の直径によって形成される。」(第4頁第16行?第5頁第13行)

イ 刊行物2
2a「【特許請求の範囲】
【請求項1】 超弾性ワイヤーと導電線を組合わせ絶縁層で被覆してなる複合電線。
【請求項2】 前記超弾性ワイヤーは、Ni50.5?52.0at%残Tiの合金あるいは、これにCr、V、Fe、Al、Coのうち1種、又は2種以上を1at%以下含む合金であることを特徴とする請求項1記載の複合電線。」
2b「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、超弾性ワイヤーと導電線を組合わせ絶縁層で被覆してなる複合電線を請求項1とし、前記超弾性ワイヤーは、Ni50.5?52.0at%残Tiの合金あるいは、これにCr、V、Fe、Al、Coのうち1種、又は2種以上を1at%以下含む合金であることを特徴とする請求項1記載の複合電線を請求項2とし、また前記超弾性ワイヤーは、単線または、より線を単数あるいは複数本組合わせることを特徴とする請求項1記載の複合電線を請求項3とし、前記導電線は、単線またはより線を単数あるいは複数本組合わせることを特徴とする請求項1記載の複合電線を請求項4とし、さらに上記絶縁層は、ポリオレフィン、例えばポリエチレン等であることを特徴とする請求項1記載の複合電線を請求項5とするものである。すなわち本発明は、例えば図1の断面図に示すように銅線、アルミニウム線またはアルミニウム合金線などからなる単線の導電線(1) とNi-Ti系合金からなる単線の超弾性ワイヤー(2) を組合わせ、これらをポリエチレンなどからなる絶縁層(3) で被覆して複合電線としたものである。また図2に示すように導電線(1) は複数本のより線とし、超弾性ワイヤー(2)を単線として複数本組合わせ絶縁層(3) で被覆してもよい。そして図3に示すように導電線(1) を複数本のより線とし、超弾性ワイヤー(2) も複数本のより線としこれを複数本組合わせ絶縁層(3) で被覆してもよい。さらに図4に示すように導電線(1) を複数本のより線とし、これを複数本配置し、超弾性ワイヤー(2) も複数本のより線とし複数本組合わせ絶縁層(3) で被覆したものでもよい。前記の導電線および超弾性ワイヤーは単線またはより線のいずれでもよく、またその組合わせも単数または複数を複合電線の用途、サイズにより、前記以外の種々の組合わせとすることができる。
【0005】
【作用】しかして本発明の複合電線は、導電線と超弾性ワイヤーが組合せて複合電線となっているので、超弾性合金の持つ弾性と回復性により配管の曲り部分においては柔軟に湾曲して通過し直線部分においては直線に回復して直線的に進むため、従来のような敷設用ワイヤーを使うことなく、曲り部分の多い配管にも容易に敷設できるものである。なお本発明において用いる超弾性ワイヤーは前記のNi-Ti系合金の他、Cu-Al-Ni、Cu-Zn-Al、Al-Cd、In-Ti合金なども使用できる。」

ウ 刊行物3
3a「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、音響機器等に使用されるイヤホ-ンやヘッドホ-ン等のコ-ドに関するものであり、特に外力に対して永久変形が残り難く、かつ弾性に優れたコ-ドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】音響機器等で使用するヘッドホ-ンやイヤホ-ンは、その音源部分と人の耳に固定する部分に必ずコ-ド電線を有している。この電線が断線すると当然聴くことができなくなる。特に、携帯用カセットテ-プレコ-ダのように持ち運びを特徴とするような機器においては、電線部分を本体に巻き付けて鞄のなかに押し込んだり、無理やり電線部分を引っ張ったりし易いなど、使用条件が厳しく、従来のイヤホ-ンでは電線の永久変形による曲がりが多数個所で発生し、使用するときに装着しにくくなる問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前述の問題について検討の結果、外力に対して永久変形が残り難く、かつ弾性に優れたイヤホ-ン及びヘッドホ-ン用コ-ドを開発したものである。」
3b「【0005】
【作用】Ni-Ti合金は代表的な形状記憶合金として良く知られている。この合金は高温相の母相状態で立方晶構造をとり、これをマルテンサイト変態温度に冷却すると単斜晶構造のマルテンサイト相となる。この合金を再度加熱すると逆変態温度を介して逆変態し母相に戻る。この結晶構造の変化を利用して形状記憶効果を出現させる。環境温度がマルテンサイト変態温度より高い場合、ゴムのような弾性域を持つ超弾性効果を表す。これは、6?8%の変形を加えても元の形状に戻る現象である。本発明は、このような超弾性合金線を、イヤホ-ンやヘッドホ-ン等のコ-ドに組み込むことにより、外力に対して曲がり難く、かつ弾性に富んだコ-ドにしたものである。本発明をイヤホ-ンに適用する場合について説明すると、図1に示すように耳挿入部1とコ-ド2とプラグ3からなるイヤホ-ンのコ-ド2の部分は、図2の断面図で示すように、銅線等の導電線4に沿わせて直線状の超弾性合金線5を設け、これらをまとめて軟質塩化ビニル等の絶縁層6で被覆する。また、図3に示すように、導電線4を中心としてその外周に沿うようにコイル状の超弾性合金線7を設け、これらを絶縁層6で被覆してもよい。前記の超弾性合金線は、一本のコ-ドに対して複数本設けてもよい。」

(3)刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1には、「複数本の撚線によって構成された複数本の導線芯材を絶縁被覆材で絶縁して平坦に一体配設したフラットケーブルにおいて、前記複数本の導線芯材に直線状の復元力を有する弾性体を平坦に一体配設したことを特徴とするフラットケーブル。」であって、該「直線状の復元力を有する弾性体」として「直線状の復元力を有する弾性体を、ピアノ線で構成するとともに、前記複数本の導線芯材の両側に配設した」こと(記載事項1a)が記載されている。
そして、「フラットケーブル自身に自由状態で直線に自己復元する性質を備えさせて、固定部材から移動部材への給電がケーブルを弛ませることなく容易に行えるようにすること」(記載事項1b)が記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「複数本の撚線によって構成された複数本の導線芯材を絶縁被覆材で絶縁して平坦に一体配設したフラットケーブルにおいて、前記複数本の導線芯材に直線状の復元力を有するピアノ線で構成するとともに、前記複数本の導線芯材の両側に配設した弾性体を平坦に一体配設したことを特徴とするフラットケーブル自身に自由状態で直線に自己復元する性質を備えさせて、固定部材から移動部材への給電がケーブルを弛ませることなく容易に行えるようにするフラットケーブル。」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(4)本件補正発明1と引用発明1との対比
本件補正発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「フラットケーブル」は、本件補正発明1の「平型構造ケーブル」に相当することは明らかである。
そして、引用発明1の「ピアノ線」は、「(もともとピアノ用に作られたので)炭素分の極めて多い炭素鋼でできた鋼線。引張り強さが大きく、バネなどに使用」(広辞苑第五版)されるので、本願補正発明1の「超弾性合金線」と「弾性合金線」で共通するから、引用発明1の「複数本の撚線によって構成された複数本の導線芯材を絶縁被覆材で絶縁して平坦に一体配設したフラットケーブルにおいて、前記複数本の導線芯材に直線状の復元力を有するピアノ線で構成するとともに、前記複数本の導線芯材の両側に配設した弾性体を平坦に一体配設したこと」は、本件補正発明1の「超弾性合金線をケーブルの構成材の一部として、少なくとも2本以上、ケーブルの長手方向に縦添えに配置したこと」と「弾性合金線をケーブルの構成材の一部として、少なくとも2本以上、ケーブルの長手方向に縦添えに配置したこと」で共通するということができる。
さらに、引用発明1の「フラットケーブル自身に自由状態で直線に自己復元する性質を備えさせて、固定部材から移動部材への給電がケーブルを弛ませることなく容易に行えるようにする」ことは、本願補正発明1の「ケーブル支持部材不要」に相当する。
そうすると、本件補正発明1と引用発明1とは、
「弾性合金線をケーブルの構成材の一部として、少なくとも2本以上、ケーブルの長手方向に縦添えに配置した
ことを特徴とするケーブル支持部材不要の弾性合金線入り平型構造ケーブル。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
ア 弾性合金線が、本件補正発明1は、「超弾性」合金からなるのに対して、引用発明1は、「ピアノ」線である点(以下「相違点a」という。)、
イ 弾性合金線が、本件補正発明1は、「当該超弾性合金線入り平型構造ケーブルを、U字型の軌道上を移動する動作をさせたときに、当該平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能となる特性を有する」のに対して、引用発明1は、「ピアノ」線の曲げ歪量に関する特定のない点(以下「相違点b」という。)。

(5)相違点についての判断
ア 相違点aについて
本願補正発明1における「超弾性合金線」の技術的意義については、本願当初明細書に「【0004】
本発明は、上述した技術的な問題点を解決するために、平型構造ケーブルの構成の一部として、超弾性合金線をケーブルの長さ方向に配置した構造のケーブルである。超弾性合金線とはNi-Ti合金等の材質であり、外径はφ0.5?φ1.5mmの線径が適当である。図2に示すように通常の金属材料は、弾性領域を超える大きな変形ひずみ(約0.5%以上)を与えると、応力を除いても弾性変形分しかひずみは戻らず永久ひずみが残るが、超弾性合金はフックの法則を超える大きな変形ひずみ(約8%)を与えても応力を除くと直ちにひずみが消えて元の形状に戻る。また、超弾性合金は降伏状態ではほとんど応力が一定であるため、平型構造ケーブルの曲げR部にかかる応力はほとんど変化しない。また、繰り返しの応力が降伏値以下であれば繰り返し変形に対する耐久性に優れている。従って、動作時の平型構造ケーブルにかかる張力、曲げ半径、平型構造ケーブルの重量に留意し、平型構造ケーブルに合った超弾性合金線の材質、太さなどの組み合わせを適宜選定し、前記超弾性合金線をケーブルの構成材の一部としてケーブルの長手方向に縦添えすることによって水平な一定の軌道上を移動する平型構造ケーブルが可能となる。また、可動時の曲げに伴う応力を均一に分散できることによって、応力の集中点の発生を防げることにより屈曲寿命を最大限に生かすことができる。」とされ、比較例として超弾性合金線を取り除いた平型構造ケーブルに対する評価があるだけである。
一方、刊行物2に記載されているとおり、「弾性ワイヤーと導電線を組合わせ絶縁層で被覆してなる複合電線。」(記載事項2a)と記載され、「例えば図1の断面図に示すように銅線、アルミニウム線またはアルミニウム合金線などからなる単線の導電線(1)とNi-Ti系合金からなる単線の超弾性ワイヤー(2)を組合わせ、これらをポリエチレンなどからなる絶縁層(3)で被覆して複合電線としたもの」(記載事項2b)が「導電線と超弾性ワイヤーが組合せて複合電線となっているので、超弾性合金の持つ弾性と回復性により配管の曲り部分においては柔軟に湾曲して通過し直線部分においては直線に回復して直線的に進む」(記載事項2b)と記載されるように、複合電線を柔軟に湾曲し、直線に回復するための構成材として「Ni-Ti系合金からなる」「超弾性ワイヤー」や、刊行物3に記載されているように「Ni-Ti合金」からなる「超弾性合金線」を、「複数本」「コ-ドに組み込むことにより、外力に対して曲がり難く、かつ弾性に富んだコ-ドにしたもの」(記載事項3c)は、当業者に周知であり、鋼合金を「Ni-Ti合金」とすることは経済性等からも通常の技術傾向である。
そうすると、「弾性合金線」に関して引用発明1における「ピアノ」線に換えて「超」弾性合金線とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
イ 相違点bについて
引用文献1には、「このフラットケーブルは、導線芯材1自身は複数本の撚線で構成されているので復帰力の弱い可撓線の性質を有するが、第2図の二点鎖線で示すように外力によって直径Dの曲率で屈曲してもピアノ線3が両側部で一体配設されているため、全体として自由状態で直線に自己復元する弾性体としての機能を有する。外力によって屈曲する曲率の最小弾性曲げ率(直径D)は、円形断面の棒体に形成されたピアノ線3の直径によって形成される。」(記載事項1c)との記載があり、フラットケーブルの許容される最大の曲げ歪量はピアノ線の最大の曲げ歪量以下となることは明らかである。
そうすると、「弾性合金線」に関して本願補正発明1のように「当該超弾性合金線入り平型構造ケーブルを、U字型の軌道上を移動する動作をさせたときに、当該平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能となる特性を有する」と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明1が相違点a、bに係る特定事項を採用したことにより、刊行物1乃至3に記載された技術事項からは予期し得ない格別の効果を奏するものとすることもできない。

(6)まとめ
以上によれば、本件補正発明1は、その出願日前に頒布された刊行物1に記載された発明並びに刊行物2及び3に記載された技術事項に基いて、この出願の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、この出願の特許を受けようとする発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」という。)。

「【請求項1】
超弾性合金線をケーブルの構成材の一部として、少なく共2本以上、ケーブルの長手方向に縦添えに配置したことを特徴とする超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル。」

第4 原審において通知した拒絶の理由
拒絶査定における拒絶の理由は、請求項1に係る発明は、引用文献1、すなわち、実願昭58-119565号(実開昭60-26131号公報)のマイクロフィルムに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第5 刊行物1乃至3に記載された技術事項及び刊行物1に記載された発明
刊行物1乃至刊行物3に記載された技術事項及び刊行物1に記載された発明は、それぞれ、上記第2の3の項(1)、(2)、(3)に記載されたとおりである。

第6 対比・判断
本願発明1は、本願補正発明1の「上記超弾性合金線は、当該超弾性合金線入り平型構造ケーブルを、U字型の軌道上を移動する動作をさせたときに、当該平型構造ケーブルに生じる曲げ歪量よりも大きな曲げ歪量で繰り返し伸縮が可能となる特性を有する」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明1は、引用発明1との対比において弾性合金線が、本願発明1は、「超弾性」合金からなるのに対して、引用発明1は、「ピアノ」線である点において相違し、その余の点で一致していると認められる。
しかしながら、この相違点は、上記第2の3の(4)で示した相違点aであり、同(5)で検討したように、引用発明1における「ピアノ」線に換えて「超弾性」合金とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物2及び3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに刊行物2及び3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-03 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-24 
出願番号 特願2008-108417(P2008-108417)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01B)
P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 慎也  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 松本 貢
飯田 清司
発明の名称 超弾性合金線入りケーブルベアレス平型構造ケーブル  
代理人 吉田 倫太郎  
代理人 工藤 宣幸  
代理人 若林 裕介  

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