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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1293552 |
審判番号 | 不服2013-21614 |
総通号数 | 180 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-11-05 |
確定日 | 2014-11-06 |
事件の表示 | 特願2010- 76313「波長変換型太陽電池封止シート、及び太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日出願公開、特開2011-210891〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年3月29日の出願であって、平成24年11月30日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月4日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年2月18日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年4月30日付けで意見書が提出されたが、同年7月30日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成25年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 第2 本願発明について 1.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年2月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「太陽電池セルと、 前記太陽電池セルの受光面側に設けられた、 分散媒樹脂及び300?450nmに吸収波長ピークを有し、ユーロピウム錯体である蛍光物質を内包する樹脂粒子を含み、前記蛍光物質以外の紫外線吸収剤の含有率が分散媒樹脂100質量部に対し0.15質量部以下である波長変換型太陽電池封止シートと、 を有する太陽電池モジュール。」 2.引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2010/001703号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (a)「発明が解決しようとする課題 [0009] 特許文献2?14にある、発電に寄与しない光を発電に寄与しうる波長域の光に波長変換する提案で、波長変換フィルムには蛍光物質が含有されているが、この蛍光物質は一般的に形状が大きく、入射した太陽光が波長変換フィルムを通過する際に、散乱して太陽電池セルに十分届かず、発電に寄与しない割合が増加する。その結果、波長変換フィルムで紫外域の光を可視域の光に変換しても、入射した太陽光に対する発電される電力の割合(発電効率)があまり高くならないという課題がある。 [0010] また、蛍光物質は耐湿性及び耐熱性等がなく、劣化しやすい問題がある。さらに、分散媒樹脂中の蛍光物質の濃度を上げていくとある濃度以上だと濃度消光が起こるため、一定濃度以上では使用できないという問題がある。 [0011] 本発明は、上記のような問題を軽減しようとするもので、耐湿性、耐熱性に優れ、分散性が良く、濃度消光を抑制した蛍光物質を用いることにより、太陽電池モジュールにおける光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることを目的とする。たとえば、シリコン結晶系太陽電池では、太陽光のうち、400nmよりも短波長、1200nmよりも長波長の光が有効に利用されず、太陽光エネルギーのうち約56%が、このスペクトルミスマッチにより太陽光発電に寄与しない。本発明は、耐湿性、耐熱性に優れ、分散性が良く、濃度消光の起こらない蛍光物質を用い、波長変換し、効率よく且つ安定的に太陽光を利用することにより、スペクトルミスマッチを克服しようというものである。 [0012] 即ち、本発明の波長変換フィルムは、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く且つ濃度消光の起こらない蛍光物質を含有することを目的とする。また、本発明の波長変換フィルムは、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するのと同時に、その光を散乱なしに、太陽電池セルへ効率よく導入することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0013] 本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、蛍光物質粒子と、該蛍光物質粒子の周囲を覆った被覆層と、を有する被覆蛍光物質粒子を波長変換フィルムに用いることにより、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するのと同時に、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く且つ濃度消光の起こらない波長変換フィルムを提供できることを見出した。 [0014] また、波長変換フィルムの分散媒樹脂と、被覆蛍光物質粒子の被覆層との屈折率をある一定の範囲とすることにより、入射した太陽光を蛍光物質が散乱させることなく、太陽電池セルへ効率よく導入できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。 [0015](1)複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの光透過性層の一つとして用いられる、蛍光物質及び分散媒樹脂を含む波長変換フィルムにおいて、 前記蛍光物質は、蛍光物質粒子と、該蛍光物質粒子の周囲を覆った被覆層と、を有する被覆蛍光物質粒子である波長変換フィルム。」 (b)「[0022]<波長変換フィルム及びその製造方法> 本発明の波長変換フィルムは、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの、光透過性層の一つとして用いられ、蛍光物質及び分散媒樹脂を含み、前記蛍光物質は、蛍光物質粒子と、該蛍光物質粒子の周囲を覆った被覆層と、を有する被覆蛍光物質粒子であることを特徴とする。これにより、蛍光物質粒子の耐湿性及び耐熱性が向上し、分散性が良く且つ濃度消光を抑制することができる。」 (c)「[0038] 蛍光物質は一般的に酸素や水分によって劣化してしまい、波長変換効率が時間と共に劣化してしまうという問題がある。そのため、被覆層材料としてシリカガラスで蛍光物質粒子の周囲を覆うことで、シリカガラスが酸素や水分を遮断して、蛍光物質の波長変換効率が劣化するのを防ぐという効果が得られる。 [0039] 蛍光物質粒子をゾルゲル法によりシリカガラスで被覆する方法は、公知の方法で行えばよく特に制限はないが、蛍光物質粒子を、溶媒中、シリコンアルコキシドと処理して、加熱処理することにより行うことができる。」 (d)「[0057] なお、蛍光物質としてはユーロピウム錯体が好ましい。具体的には、中心元素のユーロピウム(Eu)の他、配位子となる分子が必要であるが、本発明では、配位子を制限するものではなく、ユーロピウムと錯体を形成する分子であれば何でもよい。このようなユーロピウム錯体からなる蛍光物質の一例としては、N.Kamata, D.Terunuma, R.Ishii, H.Satoh, S.Aihara, Y.Yaoita, S.Tonsyo, J. Organometallic Chem.,685,235,2003.に挙げられているEu(TTA)_(3)phen等が利用できる。Eu(TTA)_(3)Phenの製造法は、例えば、Masaya Mitsuishi, Shinji Kikuchi, Tokuji Miyashita, Yutaka Amano, J.Mater.Chem.2003, 13, 285-2879に開示されている方法を参照できる。 [0058] ユーロピウム錯体を用いることで、高い発電効率を有する太陽電池モジュールを実現できる。ユーロピウム錯体は、紫外線域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルで発電に寄与する。 被覆蛍光物質粒子の一次粒子径の測定方法は、例えば、電子顕微鏡等を用いて行える。 ゾルゲル法で得られる被覆蛍光物質粒子の一次粒子径を100nmとするには、ゾルゲル法における反応時間、温度、配合割合、溶媒の種類、触媒等を適宜調整すればよい。」 (e)「[0064] 本発明において、太陽電池モジュールは、反射防止膜、保護ガラス、封止材、波長変換フィルム、該波長変換フィルムの凹又は凸部形成の鋳型となる型フィルム、太陽電池セル、バックフィルム、セル電極、タブ線等の中の必要部材から構成される。これらの部材の中で、光透過性を有する光透過性層としては、反射防止膜、保護ガラス、封止材、本発明の波長変換フィルム、型フィルム、太陽電池のSiNx:H層(セル反射防止膜)及びSi層等が挙げられる。 [0065] 本発明において、上記で挙げられる光透過性層の積層順は、通常、太陽電池モジュールの受光面から順に、必要により形成される反射防止膜、保護ガラス、封止材、必要により形成される型フィルム、本発明の波長変換フィルム、太陽電池セルのSiNx:H層(セル反射防止膜)、Si層となる。 [0066] なお、本発明の波長変換フィルムは、太陽電池セルの受光面上に配置されることが好ましい。そうすることで、太陽電池セル受光表面の、セル電極等を含めた凹凸形状に隙間なく追従できる。」 (f)「[0104]<太陽電池モジュール及びその製造方法> 本発明は、上記波長変換フィルム又は型フィルム付き波長変換フィルムを用いた太陽モジュールも範囲とする。 本発明の波長変換フィルムは、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの、光透過性層の一つとして用いられる。 [0105] 本発明の波長変換フィルムに用いる蛍光物質にユーロピウム錯体を用いることで高い発電効率を有する太陽電池モジュールを実現出来る。ユーロピウム錯体は紫外域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルで発電に寄与する。 [0106] 本発明の波長変換フィルムとなる、フィルム状の樹脂組成物層を用いて、太陽電池セル上に波長変換フィルムを形成し、太陽電池モジュールを製造する一つの方法について、図2を用いて説明する。 [0107] 図2の(a)に示すように、基材であるPET等の基材フィルム304と、PP等のセパレータフィルム306に挟まれた半硬化状態の、被覆蛍光物質粒子を含有した半硬化状態の樹脂組成物層305を、太陽電池セルへ貼り付ける場合、まずセパレータフィルム306を剥がす。 次に、図2の(b)に示すように、真空ラミネータを用い、太陽電池セル100に半硬化状態のユーロピウム錯体からなる蛍光物質を含有した半硬化状態の樹脂組成物層305を、基材フィルム304をつけたまま貼り付ける。 [0108] その後、図2の(c)に示すように、前記基材フィルム304を剥がし、半硬化状態の樹脂組成物層305上に型フィルム301を載せ、図2の(d)に示すように、さらに真空ラミネータで、微細凹凸形状の転写を行い、波長変換フィルム300a(硬化前)を得る。 [0109] 硬化前の波長変換フィルム300aを得た後、さらに光又は熱で半硬化状態のユーロピウム錯体からなる蛍光物質を含有した、波長変換フィルム300aを硬化させ、波長変換フィルム300b(硬化後)を得る。硬化後は、このまま型フィルム301を残し、保護ガラス201、封止材202及びバックフィルム204に挟みモジュール化してもよい。 また、図2の(e)のように、(d)の状態から型フィルム301を剥がした後、図1に示すように、保護ガラス201、封止材202及びバックフィルム204に挟みモジュール化してもよい。」 (g)「実施例 [0113] 以下に、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。 [0114]<被覆蛍光物質粒子の作製> (被覆蛍光物質粒子A?Hの作製) まず、蛍光物質粒子を合成する。4,4,4-トリフルオロ-1-(チエニル)-1,3-ブタンジオン(TTA)200mgを7mlのエタノールに溶解し、ここへ1Mの水酸化ナトリウム1.1mlを加え混合した。7mlのエタノールに溶かした62mgの1,10-フェナントロリンを先の混合溶液に加え、1時間攪拌した後、EuCl_(3)・6H_(2)O 103mgの3.5ml水溶液を加え、沈殿物を得る。これをろ別し、エタノールで洗浄し、乾燥する。ヘキサン-エチルアセテートにより再結晶精製をし、蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phenを得た。なお、蛍光物質粒子の一次粒子径は10?50nmであった。 [0115] 上記で得られたEu(TTA)_(3)Phenを用い、表1に示す配合量でゾルゲル用溶液を作製した。ここで、表1中に記載されている数字はモル比を示している。なお、Eu(TTA)_(3)Phenの使用量はモル比で、TEOSに対して1/160モルである。また、TEOSはテトラエトキシシラン、DMFはジメチルホルムアミド、NH_(3)はアンモニアを示す。 [0116] 表1に記載された比率で作製した溶液中に、上記で得られた蛍光物質粒子(ユーロピウム錯体(Eu(TTA)_(3)phen))(一次粒子径:10?50nm)を混合し、10分間攪拌を行った。次に、ガラス基板上にキャスト法で塗布して、120℃、1時間の条件で加熱処理を行い、被覆蛍光物質粒子A?Hを作製した。 [0117] 得られた被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)の形状を電子顕微鏡で観察を行い、一次粒子径の測定を行った。その結果を表1に示す。 [0118][表1] (略) [0119](被覆蛍光物質粒子I?Lの作製) 表2に示す配合量でゾルゲル用溶液を作製した。ここで、表2中に記載されている数字はモル比を示している。また、TEOSはテトラエトキシシラン、THFはテトラヒドロフラン、NH_(3)はアンモニアを示す。 [0120] 表2に記載された比率で作製した溶液中に、上記で得られた蛍光物質粒子(ユーロピウム錯体(Eu(TTA)_(3)phen))(一次粒子径:10?50nm)を混合し、10分間攪拌を行った。次に、ガラス基板上にキャスト法で塗布して、120℃、1時間の条件で加熱処理を行い、被覆蛍光物質粒I?Nを作製した。 [0121] 得られた被覆蛍光物質粒子(Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子)の形状を走査型電子顕微鏡で観察を行い、一次粒子径の測定を行った。その結果も表2に記載している。 [0122][表2] [0123](実施例1) <太陽電池モジュールの作製> 太陽電池モジュールの作製方法は、いくつかのステップによって形成される。以下、波長変換フィルムの形成(貼り付け)方法を含めた太陽電池モジュールの作製方法に関して説明する。 [0124](1)型フィルム用の感光性樹脂組成物の調製 アクリルアクリレート(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタロイドHA7885)50質量部、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート(日立化成工業(株)製、商品名:ファンクリルFA-321M)50質量部及び光開始剤としての1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:IRGACURE184)3.0質量部を、有機溶媒のメチルエチルケトンに溶かしワニス(樹脂組成物)とした。このワニスをシリコンウエハ上に約5000Åとなるように膜を形成した。 [0125](2)型フィルムの作製 有効面積が155mm角であり、底辺20μm及び高さ10μmの四角錘が隙間なく形成されている金型上に、上記樹脂組成物を1?2滴、滴下し、50μm厚の両面易接着処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績(株)製、商品名:A-4300)をこの上に載せた。樹脂組成物とPETフィルムの間に気泡が入らないようにローラーで気泡を取り除き、PET側からUV光を照射した。金型からPETフィルムを剥がすことにより、凹形状の四角錘型フィルムを得た。屈折率は、基材及び感光性樹脂組成物層とも1.49だった。 なお、得られた型フィルムの四角錘寸法は、金型と同じである。 [0126](3)波長変換フィルム用の被覆蛍光物質粒子を含む樹脂組成物の調製 大阪ガスケミカル社製のエポキシ樹脂(商品名:オグソールEG)100質量部に対し、トルエンを66.67質量部加え、1昼夜攪拌した。これを試験用分散媒樹脂とした(ただし、この樹脂単独では硬化しない。本実施例では、あくまでもの分散媒樹脂として、硬化性は無視した)。さらに上記で合成した被覆蛍光物質粒子Nを0.3質量部加え樹脂組成物1とした。 [0127](4)波長変換フィルムの作製 上記で得られた型フィルム(感光性樹脂組成物層)の上に上記樹脂組成物1をギャップを7milとしたアプリケータにより塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し、波長変換フィルム1を得た。塗膜上には、セパレータフィルムとして、PPフィルムで半硬化状態の波長変換フィルムを保護した。なお、波長変換フィルム1は、底辺が20μm、高さが10μmの四角錘が隙間なく形成され、また台座部分の厚みは42μmであった。 [0128](5)波長変換フィルム付太陽電池モジュールの作製 タブ線接続され、あらかじめ太陽電池特性を測定してある太陽電池セル上に、上記波長変換フィルム1からセパレータフィルムを剥がしてから載せ、保護ガラスとしての強化硝子(旭硝子(株)製)、封止材としてのEVA樹脂((株)三井ファブロ製、商品名:ソラエバ)、波長変換フィルムを貼り付けた太陽電池セル(受光面を下に向ける)、前記EVA樹脂、バックフィルムとしてPETフィルム(東洋紡績(株)製、商品名:A-4300)を重ね、真空ラミネータを用いてラミネートして、波長変換フィルム付太陽電池モジュール1を得た。なお、太陽電池特性の測定は、以下に述べる太陽電池モジュール特性評価と装置、手法ともに同様である。 [0129] なお、各層の屈折率は以下の通りである。保護ガラス(1.50)、封止材(1.49)、型フィルム基材部分(PET)(1.49)、型フィルム微細凹凸部分(1.49)、波長変換フィルム1(1.61)、太陽電池セルのうちSiNx:H層(2.1)、Si層(3.4)。 各層の屈折率、層厚を表3に示す。 [0130](6)太陽電池モジュール特性 ワコム電創(株)製、ソーラーシミュレータ、WXS-155S-10、AM1.5G、英弘精機(株)製、I-Vカーブトレーサー、MP-160を用い、波長変換フィルム付太陽電池モジュール1の性能を評価した。その評価データを表4に示す。」 (h)「 」 上記記載事項(g)の「表2に記載された比率で作製した溶液」([0120])は、[表2]を参照すれば、テトラエトキシシラン、H_(2)O、エタノール、テトラヒドロフラン及びアンモニアからなる溶液であることは明らかである。 すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phenを、テトラエトキシシラン、H_(2)O、エタノール、テトラヒドロフラン及びアンモニアからなる溶液に混合し、10分間攪拌を行い、次に、ガラス基板上にキャスト法で塗布して、120℃、1時間の条件で加熱処理を行って、Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子である被覆蛍光物質粒子Nを作製し、 エポキシ樹脂100質量部に対し、トルエンを66.67質量部加え、1昼夜攪拌した試験用分散媒樹脂に、上記で合成した被覆蛍光物質粒子Nを0.3質量部加え樹脂組成物1とし、型フィルム(感光性樹脂組成物層)の上に上記樹脂組成物1をギャップを7milとしたアプリケータにより塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し、波長変換フィルム1を作成し、 太陽電池セル上に、上記波長変換フィルム1を載せ、保護ガラスとしての強化硝子、封止材としてのEVA樹脂、波長変換フィルムを貼り付けた太陽電池セル(受光面を下に向ける)、前記EVA樹脂、バックフィルムとしてPETフィルムを重ね、真空ラミネータを用いてラミネートして得られた、波長変換フィルム付太陽電池モジュール1。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-202243号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、太陽電池モジュールに係り、詳しくは、太陽光を効率よく電気エネルギーに変換することができる太陽電池モジュールに関する。 【0002】 【従来の技術】太陽電池は、太陽の光を直接電気エネルギーに変換するものであり、クリーン且つ無尽蔵なエネルギーの利用手段として注目され、各方面で研究・生産されている。 【0003】これらの太陽電池の性能は、一般に、変換効率で表される。これは、太陽電池モジュールに入射した光(太陽の光)が電気に変換された割合を示す。変換される光エネルギーは、太陽電池モジュール内部のセル(発電素子)例えば半導体に吸収された光のエネルギーであり、変換効率は、このセルがどれだけ吸収することができるかに大きく依存するため、用いられる半導体材料の種類によって大きく異なる。太陽電池としては、主として、シリコン太陽電池及び化合物半導体太陽電池が挙げられ、更に、シリコン太陽電池は、単結晶及び多結晶を含む結晶系とアモルファス(非晶質)系とがある。 【0004】しかし現状において、上記太陽電池の普及の足枷となっている問題点の1つは、変換効率が低く、発電コストが依然として高いことである。 【0005】これは、太陽光を有効に用いることが未だできないことに大きな理由がある。太陽光は、紫外光、可視光及び赤外光を含む広い波長領域を有しているが、これらの光が太陽電池モジュールに入射しても、セルが吸収できる領域の波長のみが変換されるにすぎない。即ち、吸収される波長域の光は、用いられているセル材料の特有の物性(バンドギャップ)により決定されるため、太陽光線の分光放射照度分布のピーク波長が500nm付近であるのに対して、例えば、シリコン系体陽電池セルの分光感度のピーク波長は、アモルファスシリコンで600nm付近、結晶シリコンでも600?1000nmにあり、太陽光を十分に吸収することができず、延いては効率よく電気エネルギーに変換することができない。特に、太陽光に相当量含まれる近紫外線に対して、シリコン系太陽電池は殆ど発電しないことが知られている。このため、シリコン系太陽電池セルを用いた太陽電池モジュールを屋外に設置し、発電を行った場合、太陽光の一部のみしか電力として変換していないこととなる。 【0006】上記の問題を解決するために開発されたものに、例えば、可視光を中心に感受性があるアモルファスシリコン系とより赤外側を中心に感受性がある結晶系シリコンとを組み合わせた太陽電池や、所謂マルチギャップアモルファスシリコン太陽電池のようなバンドギャップの異なるセルを組み合わせた太陽電池や、炭素やゲルマニウム等をアモルファスシリコンに配合して、そのままでは吸収されない波長の光の利用効率を高める試み等がなされているが、アモルファスシリコンが有する吸収可能な波長域は元々狭いため、広い波長域を全て網羅することは容易ではなく、また多層構造にすることは、単層に比べて製造時間がかかる。 【0007】このように、これらのセルの材料そのものや太陽電池モジュールの構造に対する改良においても満足できる変換効率即ち、満足できる発電コストを有する太陽電池は未だに得られていない。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、太陽電池モジュール、特に特定波長の光のみを吸収する太陽電池セルを有する太陽電池モジュールにおいて、照射された光を効率よく電気エネルギーに変換することができる太陽電池モジュールを提供することを目的とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】請求項1記載の太陽電池モジュールは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールにおいて、照射された光を吸収し、吸収した光を吸収した光の波長より長い波長の光に変換する波長変換層を有することを特徴とする。」 (b)「【0025】 【実施例】以下に、図に基づいて本発明を詳細に説明する。 【0026】図1には、第1実施例に係る太陽電池モジュールの概略構造が示されている。太陽電池モジュール10には、太陽光を受ける受光面側に板状のフロントカバー11が配設されている。このフロントカバー11の下側には、保護材としての封止材18aを介在させて光エネルギーを電気エネルギーに変換するセル14が配設されている。このセル14は、太陽電池モジュール10内に複数配置され、電気的にインターコネクタ16で接続されている。またセル14の下側には、封止材18bを介在させ基板としてのバックカバー12が配設されている。これらの積層物は、加熱圧着されて所望の太陽電池モジュール10を形成する。 【0027】本実施例では封止材18aが、250?850nmの範囲に属する波長を有する光を吸収して吸収した波長よりも長い波長の光に変換する波長変換層を構成している。ここで波長変換層とは、このような機能をその層構造の一部又は全部に有する層をいう。 【0028】前記波長変換層は、少なくとも太陽光がセル14に入射する間に存在していればよく、少なくともフロントカバー11の受光表面及びフロントカバー11とセル14との間のいずれかにあればよい。また、該波長変換層は、セル14に入射する光のみを吸収できればよいので、少なくともセル14への太陽光の入射部に変換された光を供給することができる位置に存在していればよく、太陽電池モジュール10の表面積と同じ面積で均一に存在していなくてもよい。 【0029】従って、波長変換層を構成する方法として、フロントカバー11や封止材18の材料に混合する方法、適当な溶媒に後述する変換剤を配合して所望の箇所例えばフロントカバー11の受光面側及びセル14の光入射面側に塗布する方法、並びに他の方法が考えられ、セル14における太陽光の吸収を妨げない又は該変換剤の機能を損なわない形態であれば、いずれの方法であってもよい。」 3.対比 (1)本願発明と引用発明との対比 引用発明の「Eu(TTA)_(3)phen」は、300?450nmに吸収波長ピークを有し、ユーロピウム錯体である蛍光物質であることは明らかであるから、引用発明の、「蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phenを、テトラエトキシシラン、H_(2)O、エタノール、テトラヒドロフラン及びアンモニアからなる溶液に混合し、10分間攪拌を行い、次に、ガラス基板上にキャスト法で塗布して、120℃、1時間の条件で加熱処理を行って、」「作製」された「Eu(TTA)_(3)phen蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子である被覆蛍光物質粒子N」と、本願発明の「300?450nmに吸収波長ピークを有し、ユーロピウム錯体である蛍光体物質を内包する樹脂粒子」とは、「300?450nmに吸収波長ピークを有し、ユーロピウム錯体である蛍光体物質を内包する粒子」で一致する。 また、引用発明の「エポキシ樹脂100質量部に対し、トルエンを66.67質量部加え、1昼夜撹拌した試験用分散媒樹脂」が、本願発明の「分散媒樹脂」に相当する。 また、引用発明では、「波長変換フィルム1」は、「エポキシ樹脂100質量部に対し、トルエンを66.67質量部加え、1昼夜撹拌した試験用分散媒樹脂に、上記で合成した被覆蛍光物質粒子Nを0.3質量部加え、樹脂組成物1とし、型フィルム(感光性樹脂組成物層)の上に上記樹脂組成物1をギャップを7milとしたアプリケータにより塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で、15分間かけて乾燥し」て「作成し」たものであり、また、上述のように、「被覆蛍光物質粒子」は、「蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phenを、テトラエトキシシラン、H_(2)O、エタノール、テトラヒドロフラン及びアンモニアからなる溶液に混合し、10分間攪拌を行い、次に、ガラス基板上にキャスト法で塗布して、120℃、1時間の条件で加熱処理を行って、」「作製」されたものであって、さらに、引用文献1には、波長変換フィルムを作製する樹脂組成物に「蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phen」以外の紫外線吸収剤を加えるという技術事項は全く記載されていないことも考慮すると、引用発明の「波長変換フィルム1」には、「蛍光物質粒子Eu(TTA)_(3)Phen」以外の紫外線吸収剤を含まないものが含まれると認められる。 また、引用発明は、「太陽電池セル上に、上記波長変換フィルム1を載せ、」「波長変換フィルムを貼り付けた太陽電池セル(受光面を下に向ける)」とするものであって、「波長変換フィルム1」とは別に「封止材としてのEVA樹脂」が設けられているから、「波長変換フィルム1」は、「太陽電池セル」の受光面側に設けられたものであるが、封止材ではないことは明らかである。 (2)一致点 以上のことから、本願発明と引用発明は、 「太陽電池セルと、 前記太陽電池セルの受光面側に設けられた、 分散媒樹脂及び300?450nmに吸収波長ピークを有し、ユーロピウム錯体である蛍光物質を内包する粒子を含み、前記蛍光物質以外の紫外線吸収剤の含有率が分散媒樹脂100質量部に対し0.15質量部以下である波長変換型シートと、 を有する太陽電池モジュール。」で一致し、次の各点で相違する。 (3)相違点 (イ)蛍光物質を内包する粒子が、本願発明では、「蛍光物質を内包する樹脂粒子」であるのに対して、引用発明では、「蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子」である点。 (ロ)波長変換型シートが、本願発明では、「波長変換型太陽電池封止シート」であるのに対して、引用発明では、「太陽電池セル上に、」「貼り付けた」「波長変換フィルム1」であって、封止材ではない点。 4.判断 (1)上記相違点(イ)について 水分等により蛍光物質の能力が低下あるいは失活してしまうことを防ぐために蛍光物質を樹脂で被覆することは、国際公開第2008/110567号(特に、第2頁第6?8行、第3頁第24?32行、第5頁第34行?第6頁第2行参照)、特開昭50-26782号公報(特に、第1頁右下欄第1?第2頁右上欄第20行参照)、特表2005-509518号公報(特に、段落【0037】、【0042】?【0044】参照)に示されるように周知技術である。 また、引用文献1(特に、[0009]?[0013]、[0022]、[0038](上記「2.」「(1)」の記載事項(a)?(c)参照))を参酌すると、引用発明は、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く且つ濃度消光の起こらない波長変換フィルムを提供するために、「蛍光物質粒子の周囲をシリカガラスで覆った粒子」としたものであるから、引用発明において、「シリカガラス」に換えて前記樹脂を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点(ロ)について 引用文献2には、太陽光を受ける受光面側に板状のフロントカバー11が配設され、このフロントカバー11の下側には、保護材としての封止材18aを介在させて光エネルギーを電気エネルギーに変換するセル14が配設された太陽電池モジュールにおいて、封止材18aが波長変換層を構成すること、また、波長変換層を設ける位置について、フロントカバー11とセル14との間のいずれかにあればよいことが記載されており、さらに、具体的な方法として、封止材18の材料に変換剤を混合する方法が記載されている。 すると、引用発明において、太陽電池セルの受光面側に配置され、太陽電池セルを封止する「封止材としてのEVA樹脂」に被覆蛍光物質粒子を混合して、波長変換型太陽電池封止シートとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3)効果について そして、本願発明が奏し得る効果は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 (4)結論 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-09-05 |
結審通知日 | 2014-09-09 |
審決日 | 2014-09-22 |
出願番号 | 特願2010-76313(P2010-76313) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 徹 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
伊藤 昌哉 土屋 知久 |
発明の名称 | 波長変換型太陽電池封止シート、及び太陽電池モジュール |
代理人 | 特許業務法人太陽国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人太陽国際特許事務所 |