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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1293585
審判番号 不服2013-19590  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-08 
確定日 2014-11-07 
事件の表示 特願2008-222457「電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア及び該樹脂充填型キャリアを用いた電子写真現像剤」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日出願公開、特開2010- 55014〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年8月29日の出願であって、平成25年5月16日に手続補正がなされ、同年6月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成25年5月16日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年5月16日に補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「多孔質フェライト芯材の空隙に樹脂を充填させて得られる電子写真現像剤用樹脂充填型キャリアであって、該多孔質フェライト芯材の細孔容積が0.04?0.16ml/g、ピーク細孔径が0.3?2.0μmであり、溶出法により測定されるCl濃度が10?280ppmであり、該樹脂がアミン系化合物を含有すること特徴とする電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-337579号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙率が10?60%であることを特徴とする樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項2】
連続空隙度が1.8?4.0である請求項1記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項3】
真密度が3.0?5.5g/cm^(3)である請求項1又は2記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項4】
見掛け密度が0.7?2.5g/cm^(3)である請求項1?3いずれかに記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項5】
平均粒径が15?80μmである請求項1?4いずれかの記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項6】
抵抗が10^(2)?10^(12)Ωである請求項1?5のいずれかに記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項7】
Mn、Mg、Ca、Sr、Li、Ti、Al、Si、Zr、Biから選ばれる少なくとも1種を含むフェライトよりなる請求項1?6のいずれかに記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項8】
残留磁化が15emu/g(A・m^(2)/kg)以下である請求項1?7のいずれかに記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項9】
焼結一次粒子径が0.2?10μmである請求項1?8記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項10】
焼結一次粒子径に対する体積平均粒径の比(体積平均粒径/焼結一次粒子径)が5?200である請求項1?9のいずれかに記載の樹脂充填型キャリア用フェライト芯材。
【請求項11】
請求項1?10のいずれかに記載のキャリア芯材に樹脂を充填してなる樹脂充填型キャリア。
・・・(以下略)・・・」

(2)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター等に用いられる二成分系電子写真現像剤に使用される樹脂充填型キャリア用フェライト芯材、樹脂充填型キャリア及び該キャリアを用いた電子写真現像剤に関し、詳しくは真密度が軽くなり長寿命化され、帯電量等の制御が容易で、高強度、かつ熱や衝撃による割れ、変形、溶融の少ない樹脂充填型キャリア用フェライト芯材、樹脂充填型キャリア及び該キャリアを用いた電子写真現像剤に関する。」

(3)「【0084】
本発明に係る樹脂充填型キャリアに用いられる樹脂は、組み合わせるトナー、使用される環境等によって適宜選択できる。充填樹脂は特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂、あるいはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変性シリコーン樹脂等が挙げられる。使用中の機械的ストレスによる樹脂の脱離を考慮すると、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。具体的な熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。
【0085】
また、上記充填樹脂中には、帯電制御剤を含有させることができる。帯電制御剤の例としては、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、各種シランカップリング剤が挙げられる。これは樹脂充填によって電気抵抗が比較的高くなった場合、帯電能力が低下することがあるが、各種の帯電制御剤やシランカップリング剤を添加することにより、コントロールできるためである。使用できる帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等が好ましい。」

(4)「【0150】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0151】
(実施例1a)
MnO:35mol%、MgO:14.5mol%、Fe_(2)O_(3):50mol%及びSrO:0.5mol%になるように原料を秤量し、水と混合した後、湿式のメディアミルで5時間粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥し、真球状の粒子を得た。空隙率ならびに連続空隙度を調整するために、MnO原料としては炭酸マンガンを、MgO原料としては水酸化マグネシウムを用いた。この粒子を粒度調整した後、950℃で2時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、空隙率を高めにしつつ適度な流動性を得るために、1/8インチ径のステンレスビーズを用いて湿式ボールミルで1時間粉砕したのち、さらに1/16インチ径のステンレスビーズを用いて4時間粉砕した。このスラリーに分散剤を適量添加し、また造粒される粒子の強度を確保し、空隙率ならびに連続空隙度を調整する目的で、バインダーとしてPVAを固形分に対して1重量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥し、電気炉にて、温度1100℃、酸素濃度0体積%で4時間保持し、本焼成を行った。その後、解砕し、さらに分級して粒度調整し、その後磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子の芯材を得た。このフェライト粒子の芯材の電子顕微鏡写真を図1に示す。
・・・(略)・・・
【実施例2】
【0161】
(実施例2a)
縮合架橋型シリコーン樹脂(SR-2411、東レ・ダウコーニング株式会社製)を固形分換算で20重量部、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン2重量部をトルエン1000重量部に溶解させ充填樹脂溶液を得た。実施例1aで得られたフェライト芯材100重量部を、一軸式間接加熱型の乾燥機に入れ、75℃に保持し撹拌ながら、上述の樹脂溶液を滴下した。トルエンが充分揮発したことを確認した後、撹拌を続けながら200℃まで昇温し、2時間保持した。その後、乾燥機から取り出し、凝集した粒子を解し、粒度調整を行った。その後磁力選鉱により低磁力品を分別し、樹脂充填型キャリア粒子を得た。」

(5)上記(1)ないし(4)の記載からみて、引用例には、
「空隙率が10?60%でありMn、Mg、Sr等から選ばれる少なくとも1種を含むフェライトよりなるフェライト芯材に樹脂を充填してなり、
複写機、プリンター等に用いられる二成分系電子写真現像剤に使用され、
真密度が軽く、
帯電量等の制御が容易である樹脂充填型キャリアであって、
前記樹脂充填型キャリアに用いられる樹脂は、使用中の機械的ストレスによる樹脂の脱離を考慮すると熱硬化性樹脂が好ましく、具体的な熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂等及びそれらを含有する樹脂が挙げられ、
樹脂充填によって電気抵抗が比較的高くなった場合、帯電能力が低下することがあるが、各種の帯電制御剤やシランカップリング剤を添加することにより帯電能力の低下をコントロールできるため、充填樹脂中には帯電制御剤やシランカップリング剤を含有させることができ、その際使用できる帯電制御剤やカップリング剤の種類は、アミノシランカップリング剤等が好ましいものであり、
具体的には、
MnO:35mol%、MgO:14.5mol%、Fe_(2)O_(3):50mol%及びSrO:0.5mol%になるように原料を秤量し、水と混合した後、湿式のメディアミルで5時間粉砕してスラリーを得、
得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥して真球状の粒子を得、この粒子を粒度調整した後、950℃で2時間加熱して仮焼成を行い、
次いで、1/8インチ径のステンレスビーズを用いて湿式ボールミルで1時間粉砕したのち、さらに1/16インチ径のステンレスビーズを用いて4時間粉砕し、このスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVAを固形分に対して1重量%添加し、
次いで、スプレードライヤーにより造粒、乾燥し、電気炉にて、温度1100℃、酸素濃度0体積%で4時間保持して本焼成を行い、
その後、解砕し、さらに分級して粒度調整し、その後磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子芯材を得、
縮合架橋型シリコーン樹脂(SR-2411、東レ・ダウコーニング株式会社製)固形分換算20重量部、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン2重量部をトルエン1000重量部に溶解させて充填樹脂溶液を得、
前記フェライト芯材100重量部を、一軸式間接加熱型の乾燥機に入れ、75℃に保持し撹拌しながら、前記充填樹脂溶液を滴下し、トルエンが充分揮発したことを確認した後、撹拌を続けながら200℃まで昇温し、2時間保持し、その後、乾燥機から取り出し、凝集した粒子を解し、粒度調整を行い、その後、磁力選鉱により低磁力品を分別して得た粒子である、
樹脂充填型キャリア。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「『空隙率が10?60%であ』る『フェライト芯材』」、「『樹脂』、『シリコーン樹脂等及びそれらを含有する樹脂』、『充填樹脂』、『縮合架橋型シリコーン樹脂(SR-2411、東レ・ダウコーニング株式会社製)』」、「『アミノシランカップリング剤』、『γ-アミノプロピルトリエトキシシラン』」及び「『二成分系電子写真現像剤に使用され』る『樹脂充填型キャリア』」は、それぞれ、本願発明の「多孔質フェライト芯材」、「樹脂」、「アミン系化合物」及び「電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア」に相当する。

(2)引用発明の樹脂充填型キャリアは、「多孔質フェライト芯材(空隙率が10?60%であ・・・るフェライト芯材)」に「樹脂(樹脂)」を充填してなり、複写機、プリンター等に用いられる「電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア(二成分系電子写真現像剤に使用される樹脂充填型キャリア)」であるから、本願発明の「電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア」と、「多孔質フェライト芯材の空隙に樹脂を充填させて得られ」る点で一致する。

(3)引用発明の「樹脂(充填樹脂)」中には、帯電制御剤やシランカップリング剤を含有させることができ、その際使用できる帯電制御剤やカップリング剤の種類は、アミノシランカップリング剤等が好ましいものであり、具体的には、「樹脂(縮合架橋型シリコーン樹脂(SR-2411、東レ・ダウコーニング株式会社製))」固形分換算20重量部、「アミン系化合物(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)」2重量部をトルエン1000重量部に溶解させて充填樹脂溶液を得ているから、引用発明の「樹脂」と、本願発明の「樹脂」とは、「アミン系化合物を含有す」る点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「多孔質フェライト芯材の空隙に樹脂を充填させて得られる電子写真現像剤用樹脂充填型キャリアであって、該樹脂がアミン系化合物を含有する電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記多孔質フェライト芯材の細孔容積及びピーク細孔径が、
本願発明では、「0.04?0.16ml/g」及び「0.3?2.0μm」であるのに対して、
引用発明では、細孔容積、ピーク細孔径とも不明である点。

相違点2:
前記多孔質フェライト芯材の溶出法により測定されるCl濃度が、
本願発明では、「10?280ppm」であるのに対して、
引用発明では、不明である点。

5 判断
(1)相違点1について
多孔質フェライトよりなるキャリア芯材を樹脂被覆した電子写真用キャリアにおいて、該キャリア芯材の水銀圧入法による細孔容積が0.03?0.15ml/g、ピーク細孔径が0.1?5μmであるものは本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例えば、特開2007-218955号(【請求項2】の「(MO)_(A)(Fe_(2)O_(3))_(100-A)、ただしM成分はMn、Mgの1種以上、A:0?50、で表される組成の磁性相・・・を有し、水銀圧入法による細孔分布において細孔の総容積が0.03?0.15ml/g・・・である磁性粉体で構成される電子写真用キャリア芯材」との記載、【請求項6】の「キャリア芯材を樹脂被覆した電子写真現像用キャリア粉」との記載、【0016】の「細孔の最大差分細孔容積値yは、横軸に細孔直径、縦軸に差分細孔容積をとった細孔分布曲線・・・において、前記xに対応する最も高いピーク位置より細孔直径が小さい領域における最も高いピークの差分細孔容積値である(この時の細孔直径を細孔径と言う)。このピークは通常、100?5000nmの範囲に見られる」旨の記載等を参照。)、特開平8-254856号公報(【請求項1】の「・・・ポリオレフィン樹脂被覆したキャリアにおいて、磁性芯材粒子の粒子表面に存在する細孔の全容積が0.015?0.150cm^(3)/gであり、・・・細孔分布曲線の最大ピーク細孔直径が0.8?5.0μmの範囲にあるコア粒子を使用した・・・静電潜像現像用樹脂被覆キャリア」との記載、【請求項3】の「磁性芯材粒子が・・・フェライト粒子である」旨の記載、【0019】の「測定装置は水銀圧入式細孔分布測定装置ポアサイザ9320(ポロシメーター:島津製作所(株)社製)を用いて・・・測定を行った」旨の記載、【0020】の「その結果、粒子内細孔容積が0.015?0.150cm^(3)/g、好ましくは0.020?0.100cm^(3)/gの範囲の細孔が有効なことが判明した。さらに・・・細孔分布曲線の最大ピーク細孔直径が0.8?5.0μmであるもの、さらに好ましいのは、1.0?3.0μmの範囲であることがわかった」旨の記載等を参照。)、特開2007-163673号公報(【請求項1】の「磁性酸化物の粉体であって、・・・粉体で構成される電子写真現像用キャリア芯材」との記載、【請求項2】の「磁性酸化物が、(MO)_(A)(Fe_(2)O_(3))_(100-A)、ただしM成分はMn、Mgの1種以上、A:0?50、で表される組成のソフトフェライトである請求項1に記載の電子写真現像用キャリア芯材」との記載、【請求項4】の「請求項1・・・に記載のキャリア芯材の粒子表面を樹脂被覆した電車写真現像用キャリア粉」との記載、【0014】の「1000nm付近の小さい方のピークはいわゆる粒子の細孔径に相当する」旨の記載等を参照。))。
引用発明において、多孔質フェライト芯材の細孔容積を0.04?0.16ml/gの範囲内の値となすとともに、ピーク細孔径を0.3?2.0μmの範囲内の値となすこと、すなわち、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。

(2)相違点2について
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-95309号公報は、α-Fe_(2)O_(3)を含有してなる静電荷像現像用キャリアについて記載しており、さらに、「本発明に用いるα-Fe_(2)O_(3)は、ソフトフェライトの原材料として用いられるようなJISK1462の2種以上に相当する。α-Fe_(2)O_(3)含有率が98.8%以上の純度の高いものが好ましい。一般に酸化鉄は不純物として、SiO_(2)、Ca、Mn、Na等や硫酸イオン、塩化物イオン等の陰イオン成分を含むが、これらは摩擦帯電特性の環境安定性を阻害する要因となるので極力除去することが好ましい」旨が記載されている(【0012】参照)。
イ 原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-182318号公報には、含有塩素量の少ないフェライト原料の製造法について記載しており、さらに、「フェライト用酸化鉄の品位は含有される不純物、粒径、粒度分布および含有される塩素分などにより差別されている。特に含有塩素はフェライト化反応時に腐食性ガスを発生したり、焼結時に粒径制御が困難になることなどから、酸化鉄メーカーに低塩素含有の酸化鉄が要求されている」旨が記載されている(1頁右下欄6?11行参照。)。
ウ 上記ア及びイからみて、本願出願前に、当業者が二成分系電子写真現像剤に使用されるキャリア用フェライト芯材を製造しようとする際、できるだけ塩素の含有量が少ない酸化鉄を使用しようとする動機付けがあったというべきである。
エ 本願出願前に、フェライト用の原料酸化鉄として、塩素含有量が50ppm以下のものや100ppm以下のものが存在していたと認められる(例えば、特開2007-51052号公報(【0031】の「フェライトを構成する原材料には、不純物として・・・塩素Cl・・・なとが含まれる場合がある。・・・電力損失の更なる低減のためには、不純物を減じ、・・・Clを100ppm以下・・・とするのが好ましい」旨の記載を参照。)、特開2005-272196号公報(【0027】の「P、B、SおよびClは、いずれも原料酸化鉄中に不可避に含まれる成分である。これらの含有量がごく微量であれば問題はないが、ある一定以上含まれる場合にはフェライトの異常粒成長を誘発し、得られるフェライトの諸特性に多大な悪影響を及ぼす。・・・従って、異常粒成長を抑制するために、P、B、SおよびClの含有量をそれぞれ50、20、30および50massppm未満に制限することが好ましい」旨の記載を参照。なお、本願明細書【0057】には、「工業的に使用される酸化鉄で、最もClが少ないものでも、200ppm程度含有される」との記載がある。))。
オ 上記ウ及びエからみて、引用発明において、フェライト芯材を製造する際、当業者が、原料Fe_(2)O_(3)として塩素含有量が50ppm以下のもの又は100ppm以下のものを採用することは容易であったと認められる。そして、フェライト芯材を製造するための原料Fe_(2)O_(3)として、塩素含有量が50ppm以下のもの又は100ppm以下のもの(280ppm以下のもの)を採用すれば、製造されたフェライト芯材の溶出法により測定されるCl濃度が少なくとも280ppm以下となることは明らかである。
カ 平成25年10月8日に提出した審判請求書の13頁において、請求人は、「引用文献5が述べていることは、あくまでキャリア原料の一部であるα-Fe_(2)O_(3)中の不純物の一つである陰イオン成分を『除去』することが好ましいと述べているに過ぎません。これに対し、補正後の本件請求項1に係る発明では、帯電特性の好適化という課題に対して、陰イオン成分を『除去』するという思想に依ることなく、本件発明の課題を達成したものです。すなわち、本件請求項1に係る発明は、粒子表面に存在するCl濃度を特定し、制御することが出来れば、フェライト原料又はフェライトからそもそも、Clを『除去』する必要がないことを見出し、本件発明の課題を克服したのです。すなわち、本件請求項1に係る発明は、いわば引用文献5とは逆の発想に基づき成されたものです。補正後の本件明細書の段落[0062]に示されるように、従来Clは粒子内部に存在する濃度を問題としていたのです。つまり、従来は粒子全体に含まれるClを問題としていたのです。これに対し、本件請求項1に係る発明は、同書の段落[0062]にある様に、粒子内部に存在するClとは無関係に、表面近傍に存在するCl濃度を制御することができれば、従来のように『除去』することなく帯電特性を好適化できることを見出し、その課題克服に成功したのです。その上、同書の段落[0062]に記載されているように、アミン系化合物とClは相互作用によって、帯電特性にさらなる悪影響を与えるところ、本件請求項1に係る発明ではアミン系化合物を含有する樹脂で多孔質フェライト芯材の空隙に充填しているにもかかわらず、好適な帯電特性を達成することに可能としているのです。以上のことは、キャリア芯材中のCl濃度を極小化する必要のあった従来技術とは全く異なる技術思想によってなされ、このことは当業者に容易に行い得るとすることはできず、その効果は格別のものであると思料します。」などと主張する。
しかし、本願の請求項1には、「粒子表面に存在するCl濃度を特定し、制御することが出来れば、フェライト原料又はフェライトからそもそも、Clを『除去』する必要がないこと」や、「粒子内部に存在するClとは無関係に、表面近傍に存在するCl濃度を制御すること」は記載されておらず、また、上記オに説示したとおり、フェライト芯材を製造するための原料Fe_(2)O_(3)として、塩素含有量が280ppm以下のものを採用すれば、製造されたフェライト芯材の溶出法により測定されるCl濃度が少なくとも280ppm以下となることは明らかであるから、上記請求人の主張を採用することはできない。
キ 上記オ及びカからみて、引用発明において、多孔質フェライト芯材の溶出法により測定されるCl濃度を10?280ppmとすること、すなわち、相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得た程度のことである。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-09 
結審通知日 2014-09-11 
審決日 2014-09-25 
出願番号 特願2008-222457(P2008-222457)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 健介  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
西村 仁志
発明の名称 電子写真現像剤用樹脂充填型キャリア及び該樹脂充填型キャリアを用いた電子写真現像剤  
代理人 吉村 勝博  

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